説明

車両用ディスクブレーキ

【課題】摩擦パッド収容部を簡単な構造にすることができ、加工コストの削減化を図ることができる車両用ディスクブレーキを提供する。
【解決手段】キャリパボディ3の作用部3aに摩擦パッド収容部9を設ける。摩擦パッド収容部9は、天井開口部3cと、ディスク半径方向内側に形成した開口部3dとを備え、天井開口部3cのディスク回入側端部3eとディスク回出側端部3fとの間の距離L1を、開口部3dのディスク回入側端部3gとディスク回出側端部3hとの間の距離L2より長く形成すると共に、ディスク回入側端部3e,3g同士、ディスク回出側端部3f,3h同士を接続した一対の摩擦パッド保持面9aを備え、該摩擦パッド保持面9aの一部をトルク受け面9bとする。摩擦パッド7のディスク周方向両側部に、トルク受け面9bの位置及び形状に対応するトルク伝達面7cを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスクロータを挟んで対向配置する一対の作用部をディスクロータの外周を跨ぐブリッジ部で連結したピストン対向型の車両用ディスクブレーキに係り、詳しくは、キャリパボディの作用部に摩擦パッドを収容する摩擦パッド収容部を備えた車両用ディスクブレーキに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ピストン対向型の車両用ディスクブレーキでは、キャリパボディに設けた一対の作用部に、ディスクロータの両側部に配置された摩擦パッドを収容する摩擦パッド収容部を備えている。また、この摩擦パッド収容部のディスク周方向両側部には、摩擦パッドからの制動トルクを支承するトルク受け面と、摩擦パッドを支持するパッド受け面とを設けたものがあり、パッド受け面は、トルク受け面と直交する方向に突設され、摩擦パッドのディスク半径方向内側を支持している(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−159819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述の特許文献のものでは、パッド受け面をトルク受け面と直交する方向に設けていることから、パッド受け面とトルク受け面とをそれぞれ別工程で切削加工しなくてはならず、摩擦パッド収容部を切削加工する工程が多くなっていた。さらに、パッド受け面とトルク受け面とが連続する角部の切削加工に手間が掛かることから加工コストが嵩んでいた。
【0005】
そこで本発明は、摩擦パッド収容部を簡単な構造にすることができ、加工コストの削減化を図ることができる車両用ディスクブレーキを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の車両用ディスクブレーキは、ディスクロータを挟んで対向配置される一対の作用部をディスクロータの外周を跨ぐブリッジ部で連結してキャリパボディを形成し、前記各作用部に前記ディスクロータの両側部に配置される摩擦パッドを収容する摩擦パッド収容部をそれぞれ形成した車両用ディスクブレーキにおいて、前記摩擦パッド収容部は、ディスク半径方向外側及びディスク半径方向内側に開口部をそれぞれ備え、ディスク半径方向外側又はディスク半径方向内側の何れか一方の前記開口部のディスク周方向両端部間の距離を他方の前記開口部のディスク周方向両端部間の距離より長く形成し、該ディスク周方向両端部間の距離を長く形成した前記開口部を摩擦パッド挿入用の開口部とし、前記摩擦パッド収容部のディスク周方向両端に前記開口部のディスク周方向一端同士、他端同士をディスク半径方向に接続した摩擦パッド保持面をそれぞれ形成し、該摩擦パッド保持面の一部をトルク受け面とし、前記摩擦パッドのディスク周方向両側部に、前記トルク受け面の位置及び形状に対応するトルク伝達面をそれぞれ形成したことを特徴としている。
【0007】
また、前記摩擦パッド挿入用の開口部は、前記摩擦パッド収容部のディスク半径方向外側に設けられた天井開口部でも良い。さらに、前記摩擦パッド保持面を平面からなるテーパー面で形成しても良く、前記一対の摩擦パッド保持面のディスク半径方向内側への延長線が、ディスクロータの中心よりも反キャリパボディ側で交わると好適である。さらに、前記トルク受け面は、制動時に前記摩擦パッドに作用する押圧力の中心よりもディスク半径方向内側に形成されていると良い。また、前記摩擦パッド挿入用の開口部に、前記摩擦パッドを前記摩擦パッド収容部内に保持する摩擦パッド保持部材を着脱可能に設けると好適である。さらに、前記キャリパボディは、一対の前記作用部と前記ブリッジ部とを一体に形成したモノコック構造であって、前記摩擦パッド保持面は、切削による通し加工にて形成すると良い。
【発明の効果】
【0008】
本発明の車両用ディスクブレーキによれば、キャリパボディの一対の作用部に摩擦パッド収容部をそれぞれ形成し、前記摩擦パッド収容部は、ディスク半径方向外側及びディスク半径方向内側に開口部をそれぞれ備え、ディスク半径方向外側又はディスク半径方向内側の何れか一方の開口部のディスク周方向両端部間の距離を他方の開口部のディスク周方向両端部間の距離より長く形成し、該ディスク周方向両端部間の距離を長く形成した開口部を摩擦パッド挿入用の開口部とし、前記摩擦パッド収容部のディスク周方向両端に開口部のディスク周方向一端同士、他端同士をディスク半径方向に接続した摩擦パッド保持面をそれぞれ形成し、該摩擦パッド保持面の一部をトルク受け面としたことにより、従来のように、摩擦パッド収容部に角部を形成することなく、摩擦パッドを支持することができることから、切削加工の工程を減少させることができ、製造コストの低減化を図ることができる。
【0009】
また、摩擦パッド挿入用の開口部を摩擦パッド収容部のディスク半径方向外側に設けたことにより、摩擦パッド保持面のディスク半径方向内側がトルク受け面となり、該トルク受け面で、摩擦パッドからの制動トルクを良好に支承することができる。また、摩擦パッドをキャリパボディに組み付けたり取り外したりする際に、キャリパボディを車体に取り付けた状態のまま、摩擦パッドの組み付け作業や取り外し作業を行うことができ、作業性の向上を図ることができる。
【0010】
さらに、摩擦パッド保持面を平面からなるテーパー面で形成することにより、摩擦パッド保持面を簡易な形状で形成することができる。また、摩擦パッド保持面をテーパー面で形成し、摩擦パッド挿入用の開口部を摩擦パッド収容部のディスク半径方向外側に設けることにより、車両前進時における制動時に、摩擦パッドのディスク回出側のトルク伝達面がトルク受け面に押圧されることにより、摩擦パッドのディスク回出側がディスク半径方向内側に沈み込もうとする力が発生し、この沈み込もうとする力と、摩擦パッドのディスク回出側が摩擦パッド保持面の傾斜に沿って抜け出ようとする力とがバランスし、制動時に摩擦パッドを安定して支承することができる。
【0011】
また、テーパー面で形成した一対の摩擦パッド保持面は、そのディスク半径方向内側への延長線がディスクロータの中心よりも反キャリパボディ側で交わるように形成され、即ち、前記延長線の交点が、ディスクロータの中心とキャリパボディとの間には配置されず、ディスクロータの中心から離れた遠い位置に配置されることにより、制動時に摩擦パッドが摩擦パッド保持面の傾斜に沿ってディスク半径方向外側に抜け出ようとする力を極力抑えることができるとともに、キャリパボディのディスク周方向の大型化を抑制することができる。
【0012】
さらに、トルク受け面を、制動時に摩擦パッドに作用する押圧力の中心よりもディスク半径方向内側に形成することにより、車両前進時における制動時に、摩擦パッドのディスク回出側がディスク半径方向内側に沈み込み、ディスク回入側がディスク半径方向外側に浮き上がる方向の回転モーメントが摩擦パッドに発生し、摩擦パッドのトルク伝達面をトルク受け面に強く押圧させることができる。これにより、特に弱い制動の際に摩擦パッドの姿勢を安定させることができ、ブレーキ鳴きの発生を抑制することができる。
【0013】
また、摩擦パッド挿入用の開口部に摩擦パッド保持部材を装着したことにより、開口部の剛性を向上させることができると共に、摩擦パッドが制動時に摩擦パッド保持面の傾斜に沿ってディスク半径方向外側に抜け出る方向に挙動することを確実に抑制することができる。さらに、トルク受け面が、制動時に摩擦パッドに作用する押圧力の中心よりもディスク半径方向内側に形成されたものでは、制動時に摩擦パッドに発生する回転モーメントにより、摩擦パッドのトルク伝達面をトルク受け面に強く押圧させると共に、摩擦パッドのディスク半径方向外側面が摩擦パッド保持部材に押し付けられることから、制動時に摩擦パッドが振動することを抑制でき、ブレーキ鳴きの発生を抑制することができる。
【0014】
さらに、キャリパボディを、一対の作用部とブリッジ部とを一体に備えたモノコック構造とし、摩擦パッド保持面を、開口部からディスク半径方向内外に向けた切削による通し加工にて形成することにより、加工工数を減少させることができる。特に、モノコック構造のキャリパボディの場合、アングルヘッドによるエンドミルでの切削加工が容易になり製造コストの削減化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1形態例を示す車両用ディスクブレーキの断面正面図である。
【図2】同じく摩擦パッドを摩擦パッド収容部に組み付ける際の説明図である。
【図3】同じく車両用ディスクブレーキの要部拡大断面正面図である。
【図4】同じく車両用ディスクブレーキの平面図である。
【図5】同じく車両用ディスクブレーキの正面図である。
【図6】図5のVI−VI断面図である。
【図7】同じく車両用ディスクブレーキを組み付けた状態の説明図である。
【図8】同じくリテーナの斜視図である。
【図9】同じく摩擦パッド収容部を切削加工する状態を示す説明図である。
【図10】本発明の第2形態例を示す車両用ディスクブレーキの要部拡大断面正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1乃至図9は本発明の車両用ディスクブレーキの第1形態例を示す図で、矢印Aは車両前進時に車輪と一体に回転するディスクロータの回転方向であり、以下で述べるディスク回出側及びディスク回入側とは車両前進時におけるものとする。
【0017】
この車両用ディスクブレーキ1は、4ポットピストン対向型のディスクブレーキであって、車両前進時に車輪と共に矢印A方向に回転するディスクロータ2を挟んで対向配置される一対の作用部3a,3aと、ディスクロータ2の外周側を跨いで、前記一対の作用部3a,3aのディスクロータ周方向両側部分を連結する一対のブリッジ部3b,3bとを一体形成したモノコック構造のキャリパボディ3を有しており、キャリパボディ3のディスクロータ外周側には、作用部3a,3a及びブリッジ部3b,3bに囲まれた天井開口部3cが設けられている。
【0018】
各作用部3a,3aにおけるディスク回出側には大径ピストン4を収容する大径シリンダ孔4aが、ディスク回入側には、小径ピストン5を収容する小径シリンダ孔5aがディスクロータ側を開口させて2個ずつ対向するようにディスク周方向にそれぞれ並設され、大径ピストン4と大径シリンダ孔4aの底部との間、及び、小径ピストン5と小径シリンダ孔5aの底部との間には、液圧室6がそれぞれ画成されている。また、隣接する大径シリンダ孔4aと小径シリンダ孔5aとの間には、隣接する液圧室6,6同士を連結する液通孔6a,6aがそれぞれ設けられ、ディスク回出側に対向する2つの液圧室6,6には、作用部3a,3aのディスク回出側からポート(図示せず)が穿設され、両ポートは、ディスクロータ2の外側を跨いで作用部3a,3aのディスク回出側面に沿って配設される液通管6bによって連結されている。
【0019】
天井開口部3cは、摩擦パッド7をリテーナ8を介して摩擦パッド収容部9,9に挿入するための開口部となるもので、摩擦パッド7,7をディスクロータ2の両側部に差し込み可能な大きさの矩形に形成されている。また、天井開口部3cには、摩擦パッド7に当接して摩擦パッド7を保持すると共に、摩擦パッド7の抜け止めと天井開口部3cの補強とを図る摩擦パッド保持部材としての剛性メンバー10がディスク軸方向に懸架され、該剛性メンバー10は、一方の作用部3aから他方の作用部3aにディスク軸方向に締結される一対の取付ボルト11,11によって天井開口部3cに取り付けられる。
【0020】
摩擦パッド収容部9は、ディスク半径方向外側に形成した前記天井開口部3cと、ディスク半径方向内側に形成した開口部3dとを備え、天井開口部3cのディスク回入側端部3eとディスク回出側端部3fとの間の距離L1を、開口部3dのディスク回入側端部3gとディスク回出側端部3hとの間の距離L2より長く形成すると共に、ディスク回入側端部3e,3g同士、ディスク回出側端部3f,3h同士をそれぞれ接続した一対の摩擦パッド保持面9a,9aを備えている。摩擦パッド保持面9aは、ディスク回入側端部3e,3g同士、ディスク回出側端部3f,3h同士をそれぞれ接続し、ディスク半径方向内側に向けて摩擦パッド収容部内側方向に傾斜する平面からなるテーパー面で形成され、ディスク半径方向内側を、摩擦パッド7からの制動トルクを支承するトルク受け面9bとしている。また、対向する双方の摩擦パッド保持面9a,9aのテーパー角度は、図7に示されるように、双方の摩擦パッド保持面9a,9aの延長線12,12が交わる交点12aが、ディスクロータ2の中心2aよりも遠い、反キャリパ側に配置されるように設定している。
【0021】
さらに、摩擦パッド保持面9aのディスク半径方向外側は、リテーナ8を取り付けるリテーナ取付部9cとなっており、該リテーナ取付部9cには、ビス13のビス孔9dが形成されている。該ビス孔9dは、軸線の延長線14が天井開口部3cよりも外側に延出するように傾斜して形成されている。
【0022】
摩擦パッド7は、ディスクロータ2の側面に摺接するライニング7aを金属製の裏板7bに貼着して形成される。裏板7bは、天井開口部3cを通して摩擦パッド収容部9に挿入可能な大きさに形成され、ディスク回転方向両側部のディスク半径方向内側には、前記トルク受け面9bに対応するテーパー面で形成されたトルク伝達面7cが形成され、さらに、ディスク半径方向外側面の2箇所に、前記剛性メンバー10の内面に当接する剛性メンバー当接部7d,7dが形成されている。また、裏板7bのディスク回転方向両側部のディスク半径方向外側には、ディスク周方向両側方にそれぞれ突出するリテーナ当接片7eが形成され、該リテーナ当接片7eのディスク半径方向内側面7fは、ディスク半径方向外側からディスク半径方向内側に向けて、摩擦パッド収容部内側方向に傾斜して形成されている。また、リテーナ当接片7eのディスク半径方向内側端7gと、トルク伝達面7cのディスク半径方向外側端7hとの間のディスク周方向両側面は、トルク伝達面7cのディスク半径方向外側端7h,7h間の距離L3が、リテーナ当接片7eのディスク半径方向内側端7g,7g間の距離L4よりも長くなるように互いに平面状に形成された平面部7iとなっている。
【0023】
リテーナ8は、ディスクロータ2の両側の摩擦パッド収容部9,9の摩擦パッド保持面9a,9aにそれぞれ配置される一対のリテーナ片8a,8aと、該一対のリテーナ片8a,8aのディスク半径方向外側を繋ぐ連結片8bとを備えている。連結片8bは、摩擦パッド収容部9のリテーナ取付部9cにリテーナ8を固着する2本のビス13,13をそれぞれ挿通させる2つのボルト挿通孔8c,8cを有している。リテーナ片8aは、連結片8bから、頸部8dを介してディスク半径方向内側に延出する帯片で形成され、頸部8dに連続する弾発部8eと、該弾発部8eのディスク半径方向内側端から、ディスク半径方向内側に向けて平面状に延出するリテーナ部8fとを備え、頸部8dの幅寸法は、弾発部8e及びリテーナ部8fの幅寸法より狭く形成されている。
【0024】
弾発部8eは、摩擦パッド収容部内側に向けて、帯片を断面く字状に折曲して突出形成され、突出端8gから前記連結片8bに向けて傾斜して延出する弾性変形部8hと、該弾性変形部8hの前記突出端側に設けられ、摩擦パッド7の裏板7bに形成されるリテーナ当接片7eのディスク半径方向内側面7fに当接する当接部8iと、突出端8gから、ディスク半径方向内周側に向けて漸次摩擦パッド保持面側に傾斜して、リテーナ部8f側の先端が摩擦パッド保持面9aに当接可能な支持部8kとを備えている。また、弾性変形部8hの、後述する摩擦パッド7のディスク回入側とディスク回出側とを二等分する分割線SL1に対する傾斜角度は、摩擦パッド7の裏板7bに形成されるリテーナ当接片7eのディスク半径方向内側面7fの傾斜角度よりも大きく設定されている。
【0025】
上述のように形成された摩擦パッド7の組み付けは、図2及び図3に示されるように、まず、ディスクロータ2の両側の摩擦パッド収容部9,9のリテーナ取付部9cに、リテーナ8の連結片8bを配置し、ビス孔9dとボルト挿通孔8cとの位置を合わせ、ビス13をビス孔9dに締結してリテーナ8を摩擦パッド収容部9のリテーナ取付部9cにそれぞれ取り付ける。この取り付けにより、リテーナ8は、連結片8bよりもディスク半径方向内側のリテーナ片8aが、摩擦パッド収容部内側に傾いて先端側が摩擦パッド保持面9aから離れた状態で配置される。次いで、摩擦パッド7を天井開口部3cから摩擦パッド収容部内に挿入する。摩擦パッド挿入時に、リテーナ8の弾発部8eの突出端8gに、摩擦パッド7のトルク伝達面7cと平面部7iとが順次当接して、弾発部8eとリテーナ片8aとを徐々に摩擦パッド保持面9a側に押圧する。そして、トルク伝達面7cがリテーナ部8fを介してトルク受け面9bと対応する位置に配置された状態で、弾発部8eの当接部8iと摩擦パッド7のリテーナ当接片7eとが当接する。次いで、図1に示されるように、天井開口部3cに剛性メンバー10が、一対の取付ボルト11,11によって取り付けられ、摩擦パッド7の剛性メンバー当接部7d,7dと剛性メンバー10とが当接する。
【0026】
摩擦パッド7をリテーナ8を介して摩擦パッド収容部9に組み付けた状態では、トルク伝達面7cのディスク半径方向外端部7hが、弾発部8eの突出端8gよりも、摩擦パッド保持面側に位置している。また、図7に示されるように、トルク受け面9bとトルク伝達面7cとは、制動時に摩擦パッド7に作用する押圧力の中心C1、即ち、ディスクロータ2の中心2aを中心として、大径シリンダ孔4aの中心軸C2と小径シリンダ孔5aの中心軸C3とを通る円弧R1(シリンダの有効径)と、摩擦パッド7のディスク回入側とディスク回出側とを二等分する分割線SL1との交点(C1)よりもディスク半径方向内側に配置される。
【0027】
上述のように形成された車両用ディスクブレーキ1では、天井開口部3cのディスク回入側端部3eとディスク回出側端部3fとの間の距離L1を、開口部3dのディスク回入側端部3gとディスク回出側端部3hとの間の距離L2より長く形成すると共に、ディスク回入側端部3e,3g同士、ディスク回出側端部3f,3h同士をそれぞれ接続したテーパー面から成る一対の摩擦パッド保持面9aを形成し、該摩擦パッド保持面9aのディスク半径方向内側がトルク受け面9bとなる。これにより、摩擦パッド保持面9a上にトルク受け面9bとリテーナ取付部9cとが形成され、構造がシンプルになることから、製造工程の減少化を図ることができる。また、従来のように、摩擦パッド収容部に角部を形成する必要がなくなり、摩擦パッド保持面9aとトルク受け面9bとリテーナ取付部9cの加工は、図9に示されるように、アングルヘッドによるエンドミル15で、容易に切削による通し加工を行うことができ、切削加工工程を削減させることができる。
【0028】
また、摩擦パッド7を摩擦パッド収容部9に組み付けたり取り外したりする際に、キャリパボディ3を車体に取り付けた状態のまま、取付ボルト11,11を取り外し、天井開口部3cから剛性メンバー10を取り外すことにより、摩擦パッド7の組み付け作業や取り外し作業を容易に行うことができ、作業性の向上を図ることができる。さらに、一対の摩擦パッド保持面9a,9aは、その延長線12,12がディスクロータ2の中心2aよりも反キャリパボディ側で交わるテーパー面で形成したことにより、制動時に摩擦パッド7が摩擦パッド保持面9aの傾斜に沿ってディスク半径方向外側に抜け出ようとする力を極力抑えることができる。また、車両前進時における制動時に、摩擦パッド7のディスク回出側のトルク伝達面7cがトルク受け面9bに押圧されることにより、摩擦パッド7のディスク回出側がディスク半径方向内側に沈み込もうとする力と、制動時に摩擦パッド7が摩擦パッド保持面9aの傾斜に沿ってディスク半径方向外側に抜け出ようとする力とがバランスし、摩擦パッド7を安定した状態で保持することができる。さらに、天井開口部3cに剛性メンバー10を装着したことにより、天井開口部3cの剛性を向上させることができると共に、摩擦パッド7を摩擦パッド収容部9に確実の保持させることができる。
【0029】
また、トルク受け面9bは、制動時に摩擦パッド7に作用する押圧力の中心C1よりもディスク半径方向内側に形成されていることにより、車両前進時における制動時に、摩擦パッド7のディスク回出側がディスク半径方向内側に沈み込み、ディスク回入側がディスク半径方向外側に浮き上がる方向の回転モーメントが摩擦パッド7に発生し、摩擦パッド7のトルク伝達面7cがトルク受け面9bに、摩擦パッド7の剛性メンバー当接部7d,7dが剛性メンバー10にそれぞれ強く押圧される。これにより、制動時に摩擦パッド7が振動することを抑制でき、特に、弱い制動の際に、摩擦パッドの振動を良好に抑制でき、ブレーキ鳴きの発生を抑制することができる。
【0030】
さらに、摩擦パッド7は、リテーナ8を介して摩擦パッド収容部9に組み付けられることにより、リテーナ8のリテーナ片8a,8aによってディスク軸方向の移動を円滑にガイドできる。また、リテーナ8の当接部8iが、摩擦パッド7のリテーナ当接片7eのディスク半径方向内側面7fに当接し、剛性メンバー10にて摩擦パッド7をディスク半径方向内側に押圧することにより、リテーナ8の弾性変形部8hが変形し、その反力により、リテーナ当接片7eを剛性メンバー方向及び摩擦パッド収容部内側方向に付勢し、摩擦パッド7を摩擦パッド収容部9と剛性メンバー10との間で、ガタつきなく支持させることができることから、走行中に打音が発生することを防止することができる。
【0031】
さらに、摩擦パッド7を摩擦パッド保持面9aに組み付ける際には、摩擦パッド7のトルク伝達面7cや平面部7iによってリテーナ8の弾発部8eを変形させながら、天井開口部3cから摩擦パッド収容部内に挿入するだけで、摩擦パッド収容部9に簡単に組み付けることができる。また、摩擦パッド7を摩擦パッド収容部9に組み付けた状態で、トルク伝達面7cのディスク半径方向外端部7hが、弾発部8eの突出端8gよりも、摩擦パッド収容部側に位置していることから、組付性の向上を図ることができる。また、リテーナ8の弾性変形部8hの摩擦パッド7のディスク回入側とディスク回出側とを二等分する分割線SL1に対する傾斜角度が、摩擦パッド7のリテーナ当接片7eのディスク半径方向内側面の傾斜角度よりも大きく設定されていることから、当接部8iとディスク半径方向内側面7fとが良好に当接し、さらに、リテーナ8の突出端8gから、ディスク半径方向内周側に向けて漸次摩擦パッド保持面側に傾斜して、摩擦パッド保持面9aに当接する支持部8kによって、弾発部8eが良好に支持されることから、弾発部8eの剛性やスプリング力を確保することができ、摩擦パッド7を確実に付勢することができる。
【0032】
また、摩擦パッド7は、リテーナ当接片7eのディスク半径方向内側端7gと、トルク伝達面7cのディスク半径方向外側端7hとの間に形成された平面部7iは、トルク伝達面7cのディスク半径方向外側端7h,7h間の距離L3がリテーナ当接片7eのディスク半径方向内側端7g,7g間の距離L4よりも長くなるように互いに平面状に形成されていることから、摩擦パッド7を摩擦パッド収容部9から取り外す際のガイドとなり、摩擦パッド7を良好に取り外すことができる。さらに、リテーナ8は、一対の帯状のリテーナ片8a,8aと、該一対のリテーナ片8a,8aのディスク半径方向外側を繋ぐ連結片8bとで構成された簡単な構造であり、従来のリテーナのように、リテーナを固定するための舌片や掛止板部や掛止突起等を形成する必要がないので、コストの削減化を図ることができる。また、リテーナ8の頸部8dの幅寸法を、弾発部8e及びリテーナ部8fの幅寸法より狭く形成することにより、弾発部8eに良好な弾発力を付与することができる。
【0033】
また、リテーナ取付部9cを、摩擦パッド保持面9aのディスク半径方向外側に形成したことにより、摩擦パッド7と干渉しない位置で、ビス13によってリテーナ8を簡単に取り付けることができ、リテーナ8の組付性の向上を図ることができる。さらに、リテーナ取付部9cに形成するビス13のビス孔9dの軸線の延長線14が天井開口部3cよりも外側に延出するように形成したことにより、ビス孔9dの下穴やビス孔9dを容易に加工できると共に、ビス孔9dのネジ加工を容易に行うことができると共に、ビス13を良好に締結させることができる。
【0034】
図10は、本発明の第2形態例を示すもので、第1形態例と同様の構成要素を示すものには、同一の符号をそれぞれ付して、その詳細な説明は省略する。
【0035】
本形態例の摩擦パッド保持面9eは、天井開口部3cから、ディスク半径方向内側の略2/3の位置までをテーパー面9fとし、該テーパー面よりもディスク半径方向内側を、前記分割線SL1と平行な平行面9gとし、該平行面9gをトルク受け面としている。また、摩擦パッド7は、ディスク回転方向両側部のディスク半径方向内側に、前記平行面9g(トルク受け面)に対応する分割線SL1と平行なトルク伝達面7cが形成され、リテーナ当接片7eのディスク半径方向内側端7gと、トルク伝達面7cのディスク半径方向外側端7hとの間のディスク周方向両側面は、第1形態例と同様に、トルク伝達面7cのディスク半径方向外側端7h,7h間の距離L3がリテーナ当接片7eのディスク半径方向内側端7g,7g間の距離L4よりも長くなるように互いに平面状に形成された平面部7jとなっている。
【0036】
尚、本発明の車両用ディスクブレーキは、上述の形態例に限らず、摩擦パッド保持面は、ディスク半径方向内側の開口部のディスク周方向両端部間の距離を、ディスク半径方向外側の開口部のディスク周方向両端部間の距離より長く形成したものでも良く、ディスク半径方向内側の開口部を、摩擦パッド挿入用の開口部とすることもできる。また、摩擦パッド保持面を曲面状に形成して、摩擦パッドを受けるようにすることもできる。さらに、ディスク回出側又は回入側の何れか一方の摩擦パッド保持面のみをテーパー面に形成し、他方の摩擦パッド保持面を、ディスクロータの中心と摩擦パッドに作用する押圧力の中心とを通る中心線に平行な平行面とすることもできる。さらに、リテーナの形状や、リテーナの取付構造は任意で、上述に形態例に限るものではない。また、本発明の車両用ディスクブレーキは、4ポットピストン対向型に限るものではなく、2ポットピストン対向型のものでも、6ポット以上のピストン対向型のものでも差し支えなく、また、モノコック構造のキャリパボディに限らず、分割タイプのピストン対向型のキャリパボディにも適用することができる。
【符号の説明】
【0037】
1…車両用ディスクブレーキ、2…ディスクロータ、2a…中心、3…キャリパボディ、3a…作用部、3b…ブリッジ部、3c…天井開口部、3d…開口部、3e,3g…ディスク回入側端部、3f,3h…ディスク回出側端部、4…大径ピストン、4a…大径シリンダ孔、5…小径ピストン、5a…小径シリンダ孔、6…液圧室、6a…液通孔、6b…液通管、7…摩擦パッド、7a…ライニング、7b…裏板、7c…トルク伝達面、7d…剛性メンバー当接部、7e…リテーナ当接片、7f…ディスク半径方向内側面、7g…ディスク半径方向内側端、7h…ディスク半径方向外側端、7i…平面部、8…リテーナ、8a…リテーナ片、8b…連結片、8c…ボルト挿通孔、8d…頸部、8e…弾発部、8f…リテーナ部、8g…突出端、8h…弾性変形部、8i…当接部、8k…支持部、9…摩擦パッド収容部、9a…摩擦パッド保持面、9b…トルク受け面、9c…リテーナ取付部、9d…ビス孔、10…剛性メンバー、11…取付ボルト、12…延長線、12a…交点、13…ビス、14…延長線、15…エンドミル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスクロータを挟んで対向配置される一対の作用部をディスクロータの外周を跨ぐブリッジ部で連結してキャリパボディを形成し、前記各作用部に前記ディスクロータの両側部に配置される摩擦パッドを収容する摩擦パッド収容部をそれぞれ形成した車両用ディスクブレーキにおいて、前記摩擦パッド収容部は、ディスク半径方向外側及びディスク半径方向内側に開口部をそれぞれ備え、ディスク半径方向外側又はディスク半径方向内側の何れか一方の前記開口部のディスク周方向両端部間の距離を他方の前記開口部のディスク周方向両端部間の距離より長く形成し、該ディスク周方向両端部間の距離を長く形成した前記開口部を摩擦パッド挿入用の開口部とし、前記摩擦パッド収容部のディスク周方向両端に前記開口部のディスク周方向一端同士、他端同士をディスク半径方向に接続した摩擦パッド保持面をそれぞれ形成し、該摩擦パッド保持面の一部をトルク受け面とし、前記摩擦パッドのディスク周方向両側部に、前記トルク受け面の位置及び形状に対応するトルク伝達面をそれぞれ形成したことを特徴とする車両用ディスクブレーキ。
【請求項2】
前記摩擦パッド挿入用の開口部は、前記摩擦パッド収容部のディスク半径方向外側に設けられた天井開口部であることを特徴とする請求項1記載の車両用ディスクブレーキ。
【請求項3】
前記摩擦パッド保持面を平面からなるテーパー面で形成したことを特徴とする請求項2記載の車両用ディスクブレーキ。
【請求項4】
前記一対の摩擦パッド保持面のディスク半径方向内側への延長線は、ディスクロータの中心よりも反キャリパボディ側で交わることを特徴とする請求項3記載の車両用ディスクブレーキ。
【請求項5】
前記トルク受け面は、制動時に前記摩擦パッドに作用する押圧力の中心よりもディスク半径方向内側に形成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の車両用ディスクブレーキ。
【請求項6】
前記摩擦パッド挿入用の開口部に、前記摩擦パッドを前記摩擦パッド収容部内に保持する摩擦パッド保持部材を着脱可能に設けたことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載の車両用ディスクブレーキ。
【請求項7】
前記キャリパボディは、一対の前記作用部と前記ブリッジ部とを一体に形成したモノコック構造であって、前記摩擦パッド保持面は、切削による通し加工にて形成されることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項記載の車両用ディスクブレーキ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−237373(P2012−237373A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−106578(P2011−106578)
【出願日】平成23年5月11日(2011.5.11)
【出願人】(000226677)日信工業株式会社 (840)
【Fターム(参考)】