説明

車両用制動装置

【課題】 車両を適切に制動するとともに、制動に伴って発生する熱エネルギーの回収と熱エネルギーから変換された電気エネルギーの利用とを効率よく行う車両用制動装置を提供すること。
【解決手段】 制動部10は、内周面に断熱材11bを介して固着されたライニング11aを有するブレーキドラム11とライニング11aと摩擦係合する金属製の摺動部材12aを有するブレーキシュー12とを備えている。熱回収部20は、摺動部材12aとこの部材12aを支持する金属製のプレート部材12bとの間に挟持された熱電変換部21を備えている。また、熱回収部20は、プレート部材12bの熱をバックプレートBPよりも外側に熱輸送する複数のヒートパイプ22を備えている。これにより、熱電変換部21は、摺動部材12aに接触する一面側21aとプレート部材12bに接触する他面側21bとの温度差に応じて熱エネルギーを電気エネルギーとして回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両用制動装置に関し、特に、車輪の回転に対して制動力を付与するとともにこの制動力の付与に伴って発生する熱エネルギーを回収する車両用制動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両の熱源から熱エネルギーを回収し、この回収した熱エネルギーを、例えば、電気エネルギーに変換して利用することが盛んに研究されている。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、回転部にブレーキパッドを圧着してブレーキをかけるブレーキキャリパと、ブレーキキャリパに接続するヒートパイプと、ヒートパイプの放熱側端に接続する熱電変換素子と、熱電変換素子の冷却側面に接続する放熱器と、熱電変換素子に接続する蓄電池とを備えた回生ブレーキ装置が示されている。この回生ブレーキ装置においては、制動によりブレーキキャリパのブレーキパッドに生じた摩擦熱がヒートパイプを介して熱電変換素子の加熱面に伝達される一方で熱電変換素子の冷却面が放熱器によって冷却されるため、熱電変換素子は加熱面側と冷却面側との間の温度差により電力を発生することができる。したがって、制動により運動エネルギーを熱エネルギー(摩擦熱)として回収して電気エネルギーに変換できるようになっている。
【0004】
また、下記特許文献2には、ブレーキドラムおよびブレーキシューの双方の、一部または全体を焼結金属摩擦材により形成することができる車両用ブレーキが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−220804号公報
【特許文献2】特開平9−126252号公報
【発明の概要】
【0006】
ところで、車両用制動装置としては、上記特許文献1に示された従来の装置のように、ブレーキディスクとブレーキキャリパを備えたディスクブレーキユニットの他に、特許文献2に示されたブレーキドラムとブレーキシューを備えたドラムブレーキユニットが存在し、広く採用されている。そして、このようなドラムブレーキユニットを採用し、制動により発生する熱エネルギーを回収して電気エネルギーに変換する場合には、摩擦熱の回収効率および電気への変換効率の観点から、ブレーキドラムとブレーキシューとが摩擦熱を発生させる摺動部位の近傍に熱電変換素子をできる限り近づけて配置することが望ましい。
【0007】
ところが、一般的に、ドラムブレーキユニットにおいては、ブレーキシューが車輪と一体的に回転するブレーキドラム内に収容されるとともに車体側に固定され、ブレーキドラムの内周面にブレーキシューを圧着させる構造が採用される。このため、例えば、ブレーキシューに熱電変換素子を組み付けた場合には、特に適切な冷却が難しく、熱電変換素子の加熱面側と冷却面側との間に温度差を生じさせることが困難となる。また、ブレーキドラムの内周面に対してブレーキシューが圧着されるため、機械的な強度に劣る熱電変換素子を、例えば、ブレーキシューの圧着に伴って発生するせん断力から保護する必要がある。
【0008】
本発明は、上記した問題に対処するためになされたものであり、その目的は、車両を適切に制動するとともに、制動に伴って発生する熱エネルギーの回収と熱エネルギーから変換された電気エネルギーの利用とを効率よく行う車両用制動装置を提供することにある。
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の特徴は、車輪の回転に対して制動力を付与するとともにこの制動力の付与に伴って発生する熱エネルギーを回収する車両用制動装置において、前記車輪と一体的に回転するブレーキドラムの内周面に断熱材を介して摩擦部材を設けるとともに前記ブレーキドラムに収容されるブレーキシューに前記摩擦部材と摩擦係合する金属製の摺動部材を設けて、前記車輪の回転に対して摩擦による制動力を付与する制動力付与手段と、前記ブレーキシューの摺動部材を支持する金属製のプレート部材と前記摺動部材との間に配置されて、前記摩擦によって発生する熱エネルギーを回収して電気エネルギーに変換する熱電変換手段とを備えたことにある。この場合、さらに、前記熱電変換手段によって変換された電気エネルギーを蓄電する蓄電手段を備えるとよい。
【0010】
また、この場合、前記熱電変換手段のうち、前記プレート部材と接触する側を冷却する冷却手段を備えるとよい。この場合、前記冷却手段が、例えば、前記プレート部材の熱を前記制動力付与手段の外部に熱輸送する伝熱手段を備えるとよい。また、この場合、前記冷却手段が、さらに、前記伝熱手段によって前記制動力付与手段の外部まで熱輸送された熱を放熱する放熱手段を備えるとよい。
【0011】
これらによれば、ブレーキドラムの内周面に断熱材を介して摩擦部材(ライニング)を設け、ブレーキシューに摩擦部材と摩擦係合する摺動部材を設けるとともに摺動部材とプレート部材との間に熱電変換手段を配置することができる。これにより、制動時において、ブレーキドラムの摩擦部材とブレーキシューの摺動部材とが摩擦係合して摩擦熱(熱エネルギー)が生じると、摺動部材に接触(密着)する熱電変換手段の加熱側が加熱されるとともにブレーキシューのプレート部材に接触(密着)する熱電変換手段の冷却側が冷却される。したがって、熱電変換手段の加熱側と冷却側との間に温度差を適切に生じさせることができるため、例えば、周知のゼーベック効果によって発生した熱エネルギーを電気エネルギーに効率よく変換することができて電力を回収することができる。
【0012】
ここで、ブレーキドラムとブレーキシューとを備える、所謂、ドラムブレーキユニットにおいては、制動により発生した摩擦熱(熱エネルギー)がブレーキドラムの内部に籠りやすい。また、ブレーキドラムの摩擦部材は断熱材を介して設けられているため、摩擦係合によって発生した摩擦熱(熱エネルギー)がブレーキドラムに向けて伝熱することが効果的に抑制される。これにより、摩擦部材に発生した摩擦熱(熱エネルギー)を優先的に摩擦係合する摺動部材に伝熱させることができる。したがって、熱電変換手段の加熱側を効率よく高温状態に維持することができる。また、熱電変換手段の冷却側を冷却手段(例えば、冷却水、ヒートパイプやカーボンナノチューブなどプレート部材の熱を熱輸送する伝熱手段および伝熱手段によって熱輸送された熱を放熱する放熱手段)によって常に冷却することができる。このため、熱電変換手段は、効率よく熱エネルギーを電気エネルギーとして回収することができる。
【0013】
また、熱電変換手段は、ブレーキシューの摺動部材とプレート部材との間に配置することができる。これにより、制動に伴ってブレーキシューの摺動部材がブレーキドラムの摩擦部材と摩擦係合した場合であっても、熱電変換手段は摺動部材によって保護されているため、例えば、摩擦係合に伴うせん断力によって熱電変換手段が破損することを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態に係る車両用制動装置の構成を概略的に示す概略構成図である。
【図2】図1の制動部および熱回収部の構成を詳細に示す概略図である。
【図3】図2の熱回収部を説明するための図である。
【図4】図1の放熱フィンの構成を具体的に示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態に係る車両用制動装置について、図面を用いて詳細に説明する。図1は、本実施形態に係る車両用制動装置Sのシステム構成を概略的に示している。この車両用制動装置Sは、車両を制動することに加えて、制動に伴って発生する運動エネルギーを熱エネルギーとして回収し、さらに、この回収した熱エネルギーを電気エネルギーに変換して蓄電するものである。
【0016】
このため、車両用制動装置Sは、図1に示すように、車輪Wに対して制動力を付与する制動部10と、この制動部10による制動に伴って発生する熱エネルギーを回収するとともに回収された熱エネルギーを電気エネルギーに変換して蓄電する熱回収部20とを備えている。なお、図1においては、1輪に車両用制動装置Sを設けた場合を図示するが、例えば、車両の左右前輪側に車両用制動装置Sを設けたり、車両の左右後輪側や全輪に車両用制動装置Sを設けて実施可能であることはいうまでもない。
【0017】
制動力付与手段としての制動部10は、ブレーキドラム11と2個一対のブレーキシュー12とを備えたドラムブレーキユニットである。ブレーキドラム11は、図示しないサスペンション装置を構成するナックルNに組み付けられたハブベアリングBに回転可能に支持されたハブHに対してナットにより組み付けられていて、車輪Wと一体的に回転するものである。そして、ブレーキドラム11の内周面には、図1および図2に示すように、断熱材11bを介して摩擦部材としてのライニング11aが固着されている。
【0018】
ブレーキシュー12は、ブレーキドラム11内に収容されており、車体側に回転不能に固定されるバックプレートBPに対して組み付けられている。そして、ブレーキシュー12は、ホイールシリンダWSの作動により、金属製の摺動部材12aがブレーキドラム11の内周面に固着されたライニング11aに対して摩擦係合するようになっている。なお、ドラムブレーキユニットの作動については、周知のドラムブレーキユニットと同様であり、また、本発明に直接関係しないため、その説明を省略する。
【0019】
このように構成された制動部10においては、運転者によって図示しないブレーキペダルが操作されると、ホイールシリンダWSにブレーキ液圧が供給される。これにより、ブレーキシュー12は、供給されるブレーキ液圧の増圧に伴って、摺動部材12aをブレーキドラム11に固着されたライニング11aに対して圧着させて摩擦係合させる。そして、車輪Wと一体的に回転するブレーキドラム11(より詳しくは、ライニング11a)に対して摺動部材12aを摩擦係合させることによって摩擦力が発生し、この摩擦力が車輪Wの回転を制動する制動力として付与される。
【0020】
また、車輪Wの回転に対して制動力すなわち摩擦力を付与することに伴い、ライニング11aおよび摺動部材12aには摩擦熱(熱エネルギー)が発生する。したがって、制動部10は、車両の制動に伴って運動エネルギーを摩擦によって熱エネルギー(摩擦熱)に変換することにより、回転する車輪Wを制動する。ここで、ライニング11aに発生した摩擦熱(熱エネルギー)は、断熱材11bによってブレーキドラム11から外気に向けての伝熱(放熱)が妨げられるようになっている。一方、摺動部材12aに発生した摩擦熱(熱エネルギー)は、後述するように摺動部材12aによって挟持される熱電変換部21に向けて伝熱するようになっている。
【0021】
熱回収部20は、図1から図3に概略的に示すように、断面略コの字状に成形された摺動部材12aとこの摺動部材12aを支持する金属製のプレート部材12bとの間に挟持された熱電変換手段としての熱電変換部21を備えている。熱電変換部21は、物質(具体的には、半導体)が有する周知のゼーベック効果を利用して、付与された熱エネルギーを電気エネルギーに変換するものである。この熱電変換部21は、図2および図3に示すように、一面側21aが制動部10の発熱部分である摺動部材12aに接触し、他面側21bがブレーキシュー12のプレート部材12bに接触するように組み付けられている。
【0022】
ここで、摺動部材12aは、内部に熱電変換部21を収容した状態で、例えば、リベット締結やかしめ締結、ボルト締結などによって、プレート部材12bに一体的に固着される。これにより、制動に伴って摺動部材12aがライニング11aに摩擦係合する状態においても、摺動部材12aがプレート部材12bに対して相対的に変位することがなく、その結果、挟持された熱電変換部21に対するせん断力が作用しないようになっている。
【0023】
このように、熱電変換部21が組み付けられることにより、熱電変換部21は、後述するように、周知にゼーベック効果によって一面側21a(加熱側)と他面側21b(冷却側)との間の温度差に応じた起電力(電気エネルギー)を発電することができる。なお、以下の説明においては、熱電変換部21によって発電された起電力を回生電力(電気エネルギー)という。
【0024】
また、熱回収部20は、図1から図3に示すように、伝熱手段として優れた伝熱特性を有する複数のヒートパイプ22(本実施形態においては各ブレーキシュー12に対して4本ずつ計8本)を備えている。ヒートパイプ22は、よく知られているように、高温部から低温部に向けて熱輸送(伝熱)するものである。このため、ヒートパイプ22の高温部は、熱電変換部21の他面側21bから熱を吸熱してこの他面側21b(冷却側)を冷却するために、ブレーキシュー12のプレート部材12bに接触して設けられた伝熱性に優れたヒートパイプベース23に接続されている。一方、ヒートパイプ22の低温部は、バックプレートBPから突出しており、高温部からの熱輸送効率を向上させるために、放熱フィン24が組み付けられている。放熱フィン24は、例えば、車両の走行に伴ってバックプレートBP近傍に発生する走行風により、熱輸送によって伝熱された熱を放熱するものである。なお、ヒートパイプ22、ヒートパイプベース23および放熱フィン24が本発明の冷却手段を構成する。
【0025】
ここで、放熱フィン24は、図4に示すように、各ブレーキシュー12に対応して設けられた4本ずつのヒートパイプ22を一体的に接続するものである。このように、各ブレーキシュー12に対応して放熱フィン24を設けることにより、制動時におけるブレーキシュー12の作動を阻害することない。
【0026】
さらに、熱回収部20は、図1および図3に示すように、変圧回路25とバッテリ26とを備えている。変圧回路25は、例えば、DC−DCコンバータやコンデンサなどを主要構成部品として熱電変換部21とバッテリ25とを電気的に接続する電気回路である。そして、変圧回路25は、熱電変換部21によって発電された回生電力を変圧してバッテリ26に出力する。バッテリ26は、変圧回路25から出力された回生電力を蓄電するものである。ここで、熱電変換部21と変圧回路25との電気的な接続(具体的には電気配線)は、ブレーキドラム11に組み付けたライニング11aの磨耗状態を点検するためにバックプレートBPに設けられた点検口を閉じておくグロメットを貫通して行われる。これにより、別途、電気的な接続を行うための孔を形成する必要がなく、好適である。
【0027】
このように構成された熱回収部20においては、熱電変換部21の一面側21a(加熱側)は、摺動部材12aに密着しているため、ブレーキドラム11のライニング11aと摺動部材12aとの摩擦係合により発生する摩擦熱(熱エネルギー)によって加熱される。ここで、ブレーキドラム11のライニング11aは断熱材11bを介して組み付けられている。このため、発生した摩擦熱(熱エネルギー)はライニング11aからブレーキドラム11に伝熱することが効果的に抑制される。これにより、摩擦係合により発生した摩擦熱(熱エネルギー)は、優先的にブレーキシュー12の摺動部材12aに伝熱され、その結果、熱電変換部21の一面側21a(加熱側)は効率よく加熱される。
【0028】
一方、熱電変換部21の他面側21b(冷却側)は、ブレーキシュー12のプレート部材12bに接触しており、プレート部材12bはヒートパイプベース23を介してヒートパイプ22に接続されている。そして、ヒートパイプ22は、ヒートパイプベース23(すなわちプレート部材12bおよび熱電変換部21の他面側21b)を高温部とし、放熱フィン24の組み付けられた低温部に向けて熱輸送する。これにより、制動部10が回転している車輪Wに制動力を付与している状況においては、熱電変換部21の一面側21a(加熱側)と他面側21b(冷却側)との間に温度差が生じるため、熱電変換部21は、発生した温度差に応じた回生電力(電気エネルギー)を周知のゼーベック効果により発電することができる。
【0029】
そして、熱電変換部21によって発電された回生電力は、変圧回路25によって変圧されてバッテリ26に出力される。そして、バッテリ26は、出力された回生電力を蓄電し、蓄電された回生電力は、例えば、車両に搭載された各種機器の駆動に利用される。
【0030】
以上の説明からも理解できるように、本実施形態によれば、ドラムブレーキユニットにおいて、ブレーキドラム11の内周面に断熱材11bを介してライニング11aを設け、ブレーキシュー12にライニング11aと摩擦係合する金属製の摺動部材12aを設けるとともに摺動部材12aとプレート部材12bとによって挟持されるように熱電変換部21を設けることができる。これにより、制動時において、ブレーキドラム11のライニング11aとブレーキシュー12の摺動部材12aとが摩擦係合して摩擦熱(熱エネルギー)が生じると、摺動部材12aに密着する熱電変換部21の一面側21aが加熱されるとともにブレーキシュー12のプレート部材12bに密着する熱電変換部21の他面側21bが冷却される。したがって、熱電変換部21の一面側21a(加熱側)と他面側21b(冷却側)との間に温度差を適切に生じさせることができるため、例えば、周知のゼーベック効果によって発生した熱エネルギーを電気エネルギーに効率よく変換することができて電力を回収することができる。
【0031】
ここで、ブレーキドラム11のライニング11aは断熱材11bを介して組み付けられているため、摩擦係合によって発生した摩擦熱(熱エネルギー)がドラムブレーキ11から外気に向けて伝熱する(放熱される)ことが効果的に抑制される。また、ドラムブレーキユニットにおいては、ブレーキドラム11の開口側(車体側)がバックプレートBPによって塞がれる構造であるため、制動により発生した摩擦熱(熱エネルギー)がブレーキドラム11の内部に籠りやすい。したがって、熱電変換部21の一面側21a(加熱側)は比較的長い時間にわたり高温状態が維持される一方で、熱電変換部21の他面側21b(冷却側)はヒートパイプ22、ヒートパイプベース23および放熱フィン24によって常に冷却される。このため、熱電変換部21は、長時間にわたって継続して摩擦熱(熱エネルギー)を回生電力(電気エネルギー)に変換することができるため、効率よく電力を回収することができる。
【0032】
また、熱電変換部21は、ブレーキシュー12のプレート部材12bに対して相対変位不能に組み付けられた摺動部材12aによってプレート部材12bに密着して組み付けることができる。これにより、制動に伴ってブレーキシュー12の摺動部材12aがブレーキドラム11のライニング11aと摩擦係合した場合であっても、熱電変換部21は摺動部材12aによって保護されているため、例えば、摩擦係合に伴うせん断力によって熱電変換部21が破損することを防止することができる。
【0033】
上記実施形態においては、熱電変換部21の他面側21bを冷却する冷却手段として優れた伝熱特性を有するヒートパイプ22を用いて実施した。この場合、他の伝熱手段として、例えば、カーボンナノチューブを用いて形成した伝熱素子を用いて実施することも可能である。このように、カーボンナノチューブを用いる場合には、微細なカーボンナノチューブを、例えば、伝熱性を有する基材に分散させて固化させて伝熱素子を形成しておき、この伝熱素子の高温部を、上記実施形態と同様に、ブレーキシュー12のプレート部材12b(すなわち熱電変換素子21の他面側21b)に接触させるとともに、低温部をバックプレートBPから外側に配置させるとよい。さらに、低温部に、上記実施形態と同様に、放熱フィン24を組み付けるとよい。これらの場合であっても、上記実施形態と同様の効果が得られる。
【0034】
また、上記実施形態においては、冷却手段として、ヒートパイプ22の低温部に放熱フィン24を組み付け、例えば、走行風によって熱輸送された熱を放熱するように実施した。この場合、ヒートパイプ22の低温部を空冷することに代えて、例えば、冷却水によって水冷するように実施することも可能である。この場合であっても、ヒートパイプ22の低温部を常に冷却することができるため、ヒートパイプ22による熱輸送効率を良好に維持することができ、その結果、熱電変換部21の他面側21b(冷却側)を効率よく冷却することができる。したがって、上記実施形態と同様の効果が得られる。
【0035】
さらに、上記実施形態においては、熱電変換部21の他面側21bを冷却する冷却手段として優れた伝熱特性を有するヒートパイプ22を用いて実施した。この場合、冷却手段として、ブレーキシュー12のプレート部材12bを直接的に冷却する冷却水路を形成して実施することも可能である。この場合においても、ブレーキシュー12のプレート部材12bを常に低温に維持することができるため、熱電変換部21の他面側21b(冷却側)を効率よく冷却することができる。したがって、上記実施形態と同様の効果が期待できる。
【0036】
本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。
【0037】
例えば、上記実施形態においては、熱電変換部21を板状に形成しておき、ブレーキシュー12のプレート部材12bの大部分に接触するように実施した。この場合、摺動部材12aが伝熱性に優れた金属材料から形成されるため、例えば、熱電変換部21をブレーキシュー12のプレート部材12bに対して間隔を有して複数配置して実施することも可能である。この場合であっても、上記実施形態と同様の効果が期待できる。
【0038】
また、上記実施形態においては、図4に示したように、放熱フィン24の大きさをバックプレートBPの外径形状から突出しないように実施した。この場合、放熱フィン24の大きさに関しては、これに限定されるものではなく、車両の搭載要件を満たせば放熱フィン24をより大きくすることも可能である。この場合には、より冷却効率を向上させることができて、上記実施形態と同様の効果が期待できる。
【0039】
さらに、上記実施形態においては、ヒートパイプ22の低温部を冷却する放熱フィン24を設けて実施した。この場合、車両の搭載要件によっては、若干冷却効率が悪化するものの、放熱フィン24を設けることなく実施することも可能である。
【符号の説明】
【0040】
10…制動部、11…ブレーキドラム、11a…ライニング、11b…断熱材、12…ブレーキシュー、12a…摺動部材、12b…プレート部材、20…熱回収部、21…熱電変換部、21a…一面側(加熱側)、21b…他面側(冷却側)、22…ヒートパイプ、23…ヒートパイプベース、24…放熱フィン、25…変圧回路、26…バッテリ、S…車両用制動装置、W…車輪、H…ハブ、B…ハブナット、N…ナックル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪の回転に対して制動力を付与するとともにこの制動力の付与に伴って発生する熱エネルギーを回収する車両用制動装置において、
前記車輪と一体的に回転するブレーキドラムの内周面に断熱材を介して摩擦部材を設けるとともに前記ブレーキドラムに収容されるブレーキシューに前記摩擦部材と摩擦係合する金属製の摺動部材を設けて、前記車輪の回転に対して摩擦による制動力を付与する制動力付与手段と、
前記ブレーキシューの摺動部材を支持する金属製のプレート部材と前記摺動部材との間に配置されて、前記摩擦によって発生する熱エネルギーを回収して電気エネルギーに変換する熱電変換手段とを備えたことを特徴とする車両用制動装置。
【請求項2】
請求項1に記載した車両用制動装置において、
前記熱電変換手段のうち、前記プレート部材と接触する側を冷却する冷却手段を備えたことを特徴とする車両用制動装置。
【請求項3】
請求項2に記載した車両用制動装置において、
前記冷却手段が、
前記プレート部材の熱を前記制動力付与手段の外部に熱輸送する伝熱手段を備えることを特徴とする車両用制動装置。
【請求項4】
請求項3に記載した車両用制動装置において、
前記冷却手段が、さらに、
前記伝熱手段によって前記制動力付与手段の外部まで熱輸送された熱を放熱する放熱手段を備えることを特徴とする車両用制動装置。
【請求項5】
請求項1に記載した車両用制動装置において、さらに、
前記熱電変換手段によって変換された電気エネルギーを蓄電する蓄電手段を備えたことを特徴とする車両用制動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−131797(P2011−131797A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−294396(P2009−294396)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】