説明

車両用前照灯

【課題】 車両の走行状況等に応じて自動的に配光を変化させると共に、アクチュエータの故障時にも自動でロービーム照射に戻すことができる車両用前照灯を提供する。
【解決手段】 リフレクタ13からの反射光の一部を遮蔽するシェード機構15を、光軸Axの下方近傍において該光軸Axと略垂直な平面に沿って併設され、カットオフラインを形成するための形状が相違する4枚のシェード21,23,25,27と、各シェードシェード21,23,25,27を遮蔽方向へ付勢する付勢部材44と、弾性部材43を介して制御時に各シェード21,23,25,27を付勢部材44の付勢力に抗して退避方向へ移動させるソレノイド40と、複数駆動位置において各シェード21,23,25,27の退避方向への移動ストロークを個別に規制するストローク調整機構29と、ストローク調整機構29の駆動位置を変更する回転モータ30と、を備えた構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用前照灯に関し、特に車両の走行状況等に応じて前照灯の配光を変化させることができる可変配光機能を備えたプロジェクタ型の車両用前照灯に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両前後方向に延びる光軸上に配置された光源バルブからの光をリフレクタにより前方へ向けて光軸寄りに集光反射させ、この反射光をリフレクタの前方に設けられた投影レンズを介して灯具前方へ照射するように構成されたプロジェクタ型の灯具ユニットを備えた車両用前照灯が知られている。
【0003】
この様なプロジェクタ型の灯具ユニットを使用する場合、投影レンズとリフレクタとの間にリフレクタからの反射光の一部を遮蔽可能なシェードを設けて、例えばすれ違い配光パターン等の要求される配光パターンに合わせて不要部分を遮蔽することで、所望の配光パターンの上端部にカットオフラインを形成することができる。
ところが、単一のシェードを固定した構成では、形成できる配光パターンが単一となり、例えばシェードをすれ違い配光パターン(ロービーム用配光パターン)に設定したときには、この灯具ユニットはすれ違いビーム専用としてのみ使用可能なものとなり、走行ビーム(ハイビーム用配光パターン)との切換え使用が不可能であった。
【0004】
そこで、図9に示すように、光源バルブ181から出射された光を投影レンズ182に向けて反射するリフレクタ183の前方で、投影レンズ182の後方側焦点F付近に、上端縁形状が相違する2枚のシェード185,186相互を略重ね合わせた状態で、且つ、個別に上下動可能にして、いずれか一方のシェードを所定高さまで上昇させて、そのシェードの上端縁によって配光パターンのカットオフラインを形成する構成の灯具ユニット188が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
図9に例示の灯具ユニット188の場合は、2枚のシェード185,186はその一端側が枢軸190により回動自在に支持され、各シェード185,186の自由端側には、これらのシェード185,186を択一的に上下動させるカム機構192が装備された構成となっており、モータ187で駆動されるカム機構192により上方の所定位置に押し上げるシェードを切り換えることで、カットオフラインの形状を切り換えることができる。
【0006】
従って、例えば、シェード186はすれ違い配光パターン用、シェード185は高速走行時の配光パターン用とすることで、走行状態に応じた配光パターンに切り換えて使用することができる。
また、重ねて装備するシェードの数を増やすことで、より多種の配光パターンを切り換え使用することが可能になり、多様な走行状態で視認性の向上を図ることが可能になる。
【0007】
【特許文献1】欧州特許 EP 1070911 A2
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上記特許文献1に開示された灯具ユニットでは、各シェード185,186を択一的に上下動させるカム機構192の駆動制御を車両走行状況に応じて自動的に行う場合、アクチュエータであるモータ187で選択的に駆動させなければならない。
そこで、モータ187自体や制御回路等に故障が発生してモータ187を駆動することができなくなった際には、各シェード185,186の上下動を行うことができなくなる可能性がある。特に、走行中のハイビーム照射時にモータ187が故障した場合には、自動でロービーム照射に戻せないので、対向車へのグレアとなる虞があった。
【0009】
従って、本発明の目的は上記課題を解消すること係り、車両の走行状況等に応じて自動的に配光を変化させることができるとともに、アクチュエータの故障時にも自動でロービーム照射に戻すことで対向車へのグレアを防止することができる車両用前照灯を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の上記目的は、ランプボディとカバーで形成された灯室内に、車両前後方向に延びる光軸上に配置された投影レンズと、前記投影レンズの後方側に配置された光源と、前記光源からの光を前方に向けて前記光軸寄りに反射するリフレクタと、前記投影レンズと前記光源との間に配置されて前記リフレクタからの反射光の一部及び前記光源からの直接光の一部を遮蔽して配光パターンのカットオフラインを形成するシェード機構と、を備えた車両用前照灯であって、
前記シェード機構は、
前記光軸の下方近傍において該光軸と略垂直な平面に沿って併設され、前記カットオフラインを形成するための形状が相違する複数枚のシェードと、
前記各シェードを遮蔽方向へ付勢する付勢部材と、
弾性部材を介して制御時に前記各シェードを前記付勢部材の付勢力に抗して退避方向へ移動させる第1アクチュエータと、
複数駆動位置において前記各シェードの退避方向への移動ストロークを個別に規制するストローク調整機構と、
前記ストローク調整機構の駆動位置を変更する第2アクチュエータと、
を備えることを特徴とする車両用前照灯により達成される。
【0011】
上記構成の車両用前照灯によれば、付勢部材により遮蔽方向へ付勢された各シェードは、第1アクチュエータが弾性部材を介して各シェードを退避方向へ移動させると、第2アクチュエータにより駆動位置が変更されたストローク調整機構により個別に規制された移動ストロークに応じて、それぞれ退避方向へ移動する。
【0012】
そこで、ストローク調整機構を制御し、少なくとも一つのシェードを遮蔽位置に位置させることにより、そのシェードの上端縁によって複数のロービーム用配光パターンのカットオフラインを形成することができ、全てのシェードを退避位置に位置させることにより、ハイビーム用配光パターンを生成することができる。
更に、走行中のハイビーム照射時に第1アクチュエータへの電力供給が途絶える等の故障が発生した場合、付勢部材により遮蔽方向へ付勢されている各シェードが遮蔽位置に移動するので、自動でロービーム照射に戻すことができる。
【0013】
尚、上記構成の車両用前照灯において、前記第1アクチュエータが、前記第2アクチュエータの駆動時に非制御とされることが望ましい。
この様な構成の車両用前照灯によれば、ある配光パターンから他の配光パターンに切換える場合には、第1アクチュエータを一旦非制御状態として各シェードを遮蔽位置に移動させた後、第2アクチュエータを駆動してストローク調整機構の駆動位置を変更してから、再び第1アクチュエータを制御状態とする。
そこで、シェード機構による配光パターンの切換え中には、各シェードが遮蔽位置に一旦移動するので、切換え中のグレアの発生を防止することができる。
【0014】
また、上記構成の車両用前照灯において、前記ストローク調整機構が、複数駆動位置における前記各シェードの移動ストロークに対応して前記各シェードに形成されたストッパ部と、複数駆動位置において前記ストッパ部に当接するストッパ部材と、を備えることが望ましい。
この様な構成の車両用前照灯によれば、各シェードの移動ストロークに応じたストッパ部をそれぞれ各シェードに一体成形することができると共に、単一のストッパ部材により各シェードの退避方向への移動ストロークを個別に規制することができる。
そこで、最小限の部品点数でストローク調整機構を構成することができる。
【0015】
また、上記構成の車両用前照灯において、前記第1アクチュエータがソレノイド、前記第2アクチュエータが回転モータであることが望ましい。
この様な構成の車両用前照灯によれば、切り換え時間を短くしたいハイ/ロービーム用配光パターンの切り換えはソレノイドで行うことができ、ストローク調整機構の駆動位置を変更する回転モータは動作を遅くすることができる。そこで、第2アクチュエータはストローク調整機構による各駆動位置の精度向上が可能となる。
【発明の効果】
【0016】
以上に説明した本発明の車両用前照灯によれば、車両の走行状況等に応じて自動的に配光を変化させることができるとともに、アクチュエータの故障時にも自動でロービーム照射に戻すことで対向車へのグレアを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、添付図面に基づいて本発明の一実施形態に係る車両用前照灯を詳細に説明する。
図1乃至図4は本発明の一実施形態に係る車両用前照灯を示したもので、図1は本発明の一実施形態に係る車両用前照灯の概略縦断面図、図2は図1の車両用前照灯における灯具ユニットのA−A線に沿う断面図、図3及び図4は図2に示したシェード機構の要部分解斜視図及び概略正面図である。
【0018】
本実施形態の車両用前照灯1は、素通し状の透明カバー(カバー)2とランプボディ3とで区画形成された灯室4内に、灯具ユニット5が収容されている。
灯具ユニット5は、エイミングスクリュウ6a及びエイミングナット6bとで構成されるエイミング機構6を介して、ランプボディ3に支持されている。エイミング機構6は、エイミングナット6bによる締め付けを調整することで灯具ユニット5の取付位置及び取付角度を微調整するための機構で、エイミング調整した段階では、灯具ユニット5の光軸Axは、車両前後方向に対して0.5〜0.6度程度下向きの方向に延びるようになっている。
【0019】
灯具ユニット5は、プロジェクタ型の灯具ユニットであり、車両前後方向に延びる光軸Ax上に配置された投影レンズ8と、バルブ軸を光軸Axに一致させて投影レンズ8の後方側焦点Fよりも後方に配置された放電バルブやハロゲンバルブ等の光源バルブ(光源)10と、この光源バルブ10が挿入固定されて光源バルブ10から放射された光L1,L2を前方に向けて光軸Ax寄りに反射させるリフレクタ13と、後方側焦点F近傍において光軸Ax近傍に上端縁が位置するように配置されてリフレクタ13からの反射光の一部及び光源バルブ10からの直接光の一部を遮蔽して配光パターンのカットオフラインを形成するシェード機構15と、投影レンズ8とリフレクタ13の前端開口縁との間に介在して両者の連結手段となる略円筒状のホルダ17とを備えている。
【0020】
本実施形態において、ホルダ17には、補助シェード37が一体形成されている。この補助シェード37は、ホルダ内空間の上部に位置する上部補助シェード37aと、ホルダ内空間の下部側で、光軸Axよりも低い位置に設けられた下部補助シェード37bとで構成されている。
この補助シェード37は、シェード機構15の下方を通過しようとするリフレクタ反射光を遮蔽するとともに、投影レンズ8に入射しようとする迷走光を遮蔽するようになっている。
【0021】
投影レンズ8は、前方側表面が凸面で後方側表面が平面の平凸レンズからなり、その後方側焦点Fを含む焦点面上の像を反転像として前方へ投影するようになっている。
【0022】
本実施形態の場合、光源バルブ10は、放電により発光する発光部10aをバルブ軸(中心軸)上に有するメタルハライドバルブであって、バルブ軸を前記光軸Axに一致させた状態で、光軸Axの後方から前記リフレクタ13に挿入固定されている。
【0023】
リフレクタ13は、図2に示すように、発光部10aを通る光軸Axを中心軸とする略楕円球面状の反射面13aを有している。
この反射面13aは、光軸Axを含む断面形状が発光部10aの中心位置を第1焦点(F1)とすると共に投影レンズ8の後方側焦点F近傍を第2焦点とする略楕円形に設定されており、発光部10aからの光を前方へ向けて光軸Ax寄りに集光反射させるようになっている。また、この反射面13aの離心率は、鉛直断面から水平断面へ向けて徐々に大きくなるように設定されている。
【0024】
本実施形態のシェード機構15は、図3及び図4に示すように、光軸Axの下方近傍において該光軸Axと略垂直な平面に沿って併設され、カットオフラインを形成するための形状が相違する複数枚(本実施形態では4枚)のシェード21,23,25,27と、各シェード21,23,25,27を遮蔽方向へ付勢する付勢部材44と、弾性部材43を介して制御時に各シェード21,23,25,27を付勢部材44の付勢力に抗して退避方向へ移動させる第1アクチュエータとしてのソレノイド40と、複数駆動位置(本実施形態では5つの位置)において各シェード21,23,25,27の退避方向への移動ストロークを個別に規制するストローク調整機構29と、ストローク調整機構29の駆動位置を変更する第2アクチュエータとしての回転モータ30と、を備える。
【0025】
本実施形態のシェード21,23,25,27は、光軸Axと略垂直な平面に沿って重なるように併設された略矩形の板状部材からなる。
図5(a)に示したシェード21は、主に左配光のモータウェイ用配光パターンのカットオフラインを得るように上端縁21aの形状が設定されている。
図5(b)に示したシェード23は、主に左配光のハイウェイ用配光パターンのカットオフラインを得るように上端縁23aの形状が設定されており、図5(d)に示したシェード27と組み合わせて用いることで、左配光のロービーム用配光パターンのカットオフラインを形成できるように構成されている。
【0026】
図5(c)に示したシェード25は、図5(d)に示したシェード27と組み合わせて用いることで、右配光のロービーム用配光パターンのカットオフラインを得るように上端縁25aの形状が設定されている。
図5(d)に示したシェード27は、シェード23又はシェード25と組み合わせて用いることで、左配光のロービーム用配光パターン又は右配光のロービーム用配光パターンのカットオフラインを得るように上端縁27aの形状が設定されている。
【0027】
そして、図3及び図4に示したように、各シェード21,23,25,27の一端側には、光軸Axと平行な支軸45に貫通されて回動自在に軸支される軸穴20aと、付勢部材44及び弾性部材43の一端がそれぞれ掛止される掛止孔20b,20cと、が形成されている。
また、各シェード21,23,25,27の下端縁には、後述するストローク調整機構29の5つの駆動位置において各シェード21,23,25,27の移動ストロークを個別に規制するためのストッパ部22,24,26,28が設けられている。
【0028】
本実施形態のストローク調整機構29は、各シェード21,23,25,27の下端縁に形成されたストッパ部22,24,26,28と、5つの駆動位置においてストッパ部22,24,26,28に当接するストッパ部材34と、を備える。
【0029】
ストッパ部材34は、一端が減速ギア機構100の大ギア33に固定されて他端が大ギア33の半径方向外方に延びるアーム部35と、アーム部35の他端に垂設された円柱状の係合部36と、を備えている。そして、回転モータ30が減速ギア機構100を介してストッパ部材34の回転を制御し、5つの駆動位置においてストッパ部材34をそれぞれ停止させる。
【0030】
そこで、シェード21,23,25,27の下端縁と交差する係合部36が、5つの駆動位置においてストッパ部22,24,26,28の対応部分とそれぞれ当接する。
これらストッパ部22,24,26,28は、各駆動位置において係合部36と当接する対応部分の位置がそれぞれの移動ストロークに対応した形状に形成されている。
【0031】
即ち、ストッパ部22,24,26,28は、図4及び図5に示すように、各シェード21,23,25,27が遮蔽位置において係合部36に当接する対応部分22a,24a,26a,28aと、退避位置において係合部36に当接する対応部分22b,24b,26b,28bと、を備えている。
【0032】
減速ギア機構100は、回転モータ30の駆動軸に固定された小ギア31と、支軸を介してホルダ17に回転自在に支持されて小ギア31に歯合する大ギア33とを備える。大ギア33の中心には、ストッパ部材34の一端が固定されており、ストッパ部材34を一体に回転させる。
【0033】
本実施形態の付勢部材44は、一端が各シェード21,23,25,27の掛止孔20bに掛止され、他端が固定部46に掛止された引張りコイルばねであり、各シェード21,23,25,27を遮蔽方向(図3中、時計回り方向)へ回転付勢している。尚、各シェード21,23,25,27は、遮蔽位置において上端縁に当接するストッパ38によって、遮蔽位置に位置決めされる。
【0034】
本実施形態の弾性部材43は、一端が各シェード21,23,25,27の掛止孔20cに掛止され、他端がソレノイド40の可動鉄心41に掛止された引張りコイルばねである。また、弾性部材43は、ソレノイド40のON時(制御時)に各シェード21,23,25,27を付勢部材44の付勢力に抗して退避方向へ移動させることができる十分なバネ力を有している。尚、これら弾性部材43及び付勢部材44は、引張りコイルばねに限定されるものではなく、種々のバネや弾性ゴムなどの弾性体を用いることができる。
【0035】
本実施形態の第1アクチュエータは、ソレノイド40であり、弾性部材43を介して各シェード21,23,25,27を退避方向へ回転駆動する。本実施形態の第2アクチュエータは、ステップモータ等の回転モータ30から成り、ストローク調整機構29の減速ギア機構100を介してストッパ部材34を回動させる。
そして、これら回転モータ30及びソレノイド40は、図示しないコントロールユニットにより車両走行状況或いはビーム切換えスイッチ操作に応じて駆動制御されるようになっている。
【0036】
そして、回転モータ30は、減速ギア機構100を介してストッパ部材34の回転を制御し、所定の駆動位置においてストッパ部材34を停止させる。一方、ソレノイド40は、ON時に弾性部材43を介して各シェード21,23,25,27を退避方向へ回動させる。すると、ストッパ部材34の係合部36がストッパ部22,24,26,28にそれぞれ当接するので、各シェード21,23,25,27は退避方向への移動ストロークが個別に規制される。
【0037】
そこで、回転モータ30によりストッパ部材34の回転を制御して5つの駆動位置を変更し、各シェード21,23,25,27の退避方向への移動ストロークを個別に規制することによって、遮蔽位置に位置させられるシェード21,23,25,27を適宜選択し、そのシェードの上端縁によって複数のロービーム用配光パターンのカットオフラインを形成することができる。
【0038】
従って、ストローク調整機構29によりストッパ部材34の駆動位置を切換え、いずれかのシェード21,23,25,27を遮蔽位置に位置させることにより、その上端縁21a,23a,25a,27aを選択的に光軸Ax近傍に配置すれば、そのリフレクタ反射光遮蔽作用により生成されたロービーム用配光パターンを切り換えることができる。また、全てのシェード21,23,25,27を退避位置に位置させることにより、その上端縁21a,23a,25a,27aを光軸Axから離して配置すれば、そのリフレクタ反射光遮蔽作用の解除によりハイビーム用配光パターンを生成することができる。
【0039】
例えば、図5及び図6(a)に示すように、左配光のモータウェイ用配光パターンの駆動位置D1にストッパ部材34の係合部36が位置するように回転モータ30の回動制御が行われると、投影レンズ8の後方側焦点Fの焦平面にシェード23の上端縁23aの一部及びシェード25の上端縁25aの一部が配置される。すると、リフレクタ13の反射面13aからの反射光の一部が遮蔽され、投影レンズ8から前方へ出射する上向き光の大半が除去されることとなる。
【0040】
図7(a)に示すように、この配光パターンは、上端部にカットオフラインCPLを有する左配光のロービーム用配光パターンPLであって、対向車線側に対して自車線側が一段高くなってH−H線に沿う段違い水平カットオフラインとして形成されている。
【0041】
また、図6(b)に示すように、左配光のモータウェイ用配光パターンの駆動位置D2にストッパ部材34の係合部36が位置するように回転モータ30の回動制御が行われると、投影レンズ8の後方側焦点Fの焦平面にシェード21の上端縁21aが配置される。すると、リフレクタ13の反射面13aからの反射光の一部が遮蔽され、投影レンズ8から前方へ出射する上向き光の大半が除去されることとなる。
【0042】
図7(b)に示すように、この配光パターンは、上端部にカットオフラインCMLを有する左配光のモータウェイ用配光パターンPMLであって、対向車線側に対して自車線側が一段高くなってH−H線よりもやや上方において水平方向に延びる段違い水平カットオフラインとして形成されている。
【0043】
また、図6(c)に示すように、右配光のロービーム用配光パターンの駆動位置D3にストッパ部材34の係合部36が位置するように回転モータ30の回動制御が行われると、投影レンズ8の後方側焦点Fの焦平面にシェード25の上端縁25aの一部及びシェード27の上端縁27aの一部が配置される。すると、リフレクタ13の反射面13aからの反射光の一部が遮蔽され、投影レンズ8から前方へ出射する上向き光の大半が除去されることとなる。
【0044】
図7(c)に示すように、この配光パターンは、上端部にカットオフラインCPRを有する右配光のロービーム用配光パターンPRであって、対向車線側に対して自車線側が一段高くなってH−H線に沿う段違い水平カットオフラインとして形成されている。
【0045】
また、図6(d)に示すように、左配光のハイウェイ用配光パターンの駆動位置D4にストッパ部材34の係合部36が位置するように回転モータ30の回動制御が行われると、投影レンズ8の後方側焦点Fの焦平面にシェード23の上端縁23aが配置される。すると、リフレクタ13の反射面13aからの反射光の一部が遮蔽され、投影レンズ8から前方へ出射する上向き光の大半が除去されることとなる。
【0046】
図7(d)に示すように、この配光パターンは、自車線側のH−H線の上方に大きく広がる左配光のハイウェイ用配光パターンPHLである。
【0047】
また、ハイビーム用配光パターンの駆動位置D5にストッパ部材34の係合部36が位置するように回転モータ30の回動制御が行われると、全てのシェード21,23,25,27が退避位置に位置させられる。すると、リフレクタ13の反射面13aからの反射光は、シェード21,23,25,27によってほとんど遮蔽されることなく投影レンズ8に入射することとなる。
図7(e)に示すように、この配光パターンは、H−H線の上方にも大きく広がるハイビーム用配光パターンPHである。
【0048】
この様に、本実施形態の車両用前照灯1によれば、図示しないコントロールユニットにより車両走行状況或いはビーム切換えスイッチ操作に応じて回転モータ30及びソレノイド40を駆動制御し、シェード21,23,25,27を遮蔽位置に選択的に位置させることにより、灯具ユニット5からの光照射によって形成される配光パターンを変化させ、視認性の向上を図ることができる。
【0049】
また、本実施形態のシェード機構15は、走行中のハイビーム照射時にソレノイド40への電力供給が途絶える等の故障が発生した場合、付勢部材44により遮蔽方向へ付勢されている各シェード21,23,25,27が遮蔽位置に移動するので、自動でロービーム照射に戻すことができる。
従って、車両用前照灯1は、車両の走行状況に応じて自動的に配光を変化させることができるとともに、ソレノイド40の故障時にも自動でロービーム照射に戻すことで対向車へのグレアを防止することができる。
【0050】
更に、本実施形態のシェード機構15においては、ソレノイド40が、回転モータ30の駆動時にOFF(非制御)となるように駆動制御される。
そこで、ある配光パターンから他の配光パターンに切換える場合には、ソレノイド40を一旦OFF状態として付勢部材44の付勢力により各シェード21,23,25,27を遮蔽位置に移動させた後、回転モータ30を駆動してストローク調整機構29の駆動位置を変更してから、再びソレノイド40をON状態とする。
従って、シェード機構15による配光パターンの切換え中には、各シェード21,23,25,27が遮蔽位置に一旦移動するので、切換え中のグレアの発生を防止することができる。
【0051】
更に、本実施形態の車両用前照灯1は、第1アクチュエータがソレノイド40、第2アクチュエータが回転モータ30で構成されている。
そこで、切り換え時間を短くしたいハイ/ロービーム用配光パターンの切り換えはソレノイド40で行うことができ、ストローク調整機構29の駆動位置を変更する回転モータ30は動作を遅くすることができる。従って、第2アクチュエータである回転モータ30はストローク調整機構29による各駆動位置の精度向上が可能となる。
【0052】
図8は本発明の車両用前照灯に係るストローク調整機構の変形例を示したものであり、ストローク調整機構の動作を説明するための概略正面図である。尚、本実施形態のストローク調整機構50は、上記実施形態のストローク調整機構29におけるストッパ部材34に代えて回転ストッパ部材51,53,55,57を用いた以外は、略同様の構成であるので、他の構成部分については詳細な説明を省略する。また、ストローク調整機構50についても、ストローク調整機構29と略同様の構成部材については同符号を付して詳細な説明を省略する。
【0053】
本実施形態のストローク調整機構50は、図8に示すように、複数駆動位置(本実施形態では4つの位置)における各シェードシェード21,23,25,27の移動ストロークに応じた4つのストッパ位置S1,S2,S3,S4を有する回転ストッパ部材51,53,55,57を備える。これら回転ストッパ部材51,53,55,57は、減速ギア機構100の大ギア33と一体回転可能に固定される。
【0054】
各シェード21,23,25,27の下端縁には、対応する回転ストッパ部材51,53,55,57の外周端と当接する突起21b,23b,25b,27bが形成されている。そして、回転モータ30が減速ギア機構100を介して回転ストッパ部材51,53,55,57の回転を制御し、4つの駆動位置において回転ストッパ部材51,53,55,57を停止させる。
【0055】
そこで、回転ストッパ部材51,53,55,57の外周端が、4つの駆動位置の対応部分においてシェード21,23,25,27の突起21b,23b,25b,27bとそれぞれ当接する。
これら回転ストッパ部材51,53,55,57の外周端は、各駆動位置において突起21b,23b,25b,27bと当接する対応部分が各シェード21,23,25,27の移動ストロークに対応した形状に形成されている。
【0056】
即ち、回転ストッパ部材51,53,55,57は、各シェード21,23,25,27の突起21b,23b,25b,27bが遮蔽位置において外周端に当接する対応部分51a,53a,55a,57aと、退避位置において外周端に当接する対応部分51b,53b,55b,57bと、を備えている。
【0057】
そして、回転モータ30は、減速ギア機構100を介して回転ストッパ部材51,53,55,57の回転を制御し、所定の駆動位置において回転ストッパ部材51,53,55,57を停止させる。一方、ソレノイド40は、ON時に弾性部材43を介して各シェード21,23,25,27を退避方向へ回動させる。すると、突起21b,23b,25b,27bが回転ストッパ部材51,53,55,57の外周端にそれぞれ当接するので、各シェード21,23,25,27は退避方向への移動ストロークが個別に規制される。
【0058】
尚、本実施形態のシェード機構50においても、上記実施形態のシェード機構15と同様に、ソレノイド40が、回転モータ30の駆動時にOFFとなるように駆動制御される。ここで、回転ストッパ部材51,53,55,57の外周端形状を連続して変化するカム状に形成し、ソレノイド40がON状態のままで回転ストッパ部材51,53,55,57を回転させて各シェード21,23,25,27を移動させることもできる。
【0059】
そこで、回転モータ30により回転ストッパ部材51,53,55,57の回転を制御して4つの駆動位置を変更し、各シェード21,23,25,27の退避方向への移動ストロークを個別に規制することによって、遮蔽位置に位置させられるシェード21,23,25,27を適宜選択し、そのシェードの上端縁によって複数のロービーム用配光パターンのカットオフラインを形成することができる。
【0060】
従って、ストローク調整機構50により回転ストッパ部材51,53,55,57の駆動位置を切換え、いずれかのシェード21,23,25,27を遮蔽位置に位置させることにより、その上端縁21a,23a,25a,27aを選択的に光軸Ax近傍に配置すれば、そのリフレクタ反射光遮蔽作用により生成されたロービーム用配光パターンを切り換えることができる。
【0061】
なお、本発明の前照灯を装備する車両の用途、走行環境等を考慮して、要求される配光パターン種に応じたシェードの枚数を設定すれば良いことは云うまでもない。
また、上記各実施形態におけるシェード、付勢部材、弾性部材、第1及び第2アクチュエータ、ストローク調整機構並びにシェード機構などの具体的な構成も、上記実施形態に限定するものではない。
【0062】
例えば、ストローク調整機構が、複数駆動位置における各シェードの移動ストロークに対応したそれぞれの厚さを有するスペーサ部材を備え、複数駆動位置においてこのスペーサ部材の厚さを切換えることによって、各シェードの移動ストロークを個別に規制するように構成しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の一実施形態に係る車両用前照灯の概略縦断面図である。
【図2】図1の車両用前照灯における灯具ユニットのA−A線に沿う断面図である。
【図3】図2に示したシェード機構の要部分解斜視図である。
【図4】図2に示したシェード機構の動作を説明するための概略正面図である。
【図5】図3に示した各シェードの動作を説明するための説明図である。
【図6】図4に示したシェード機構の動作を説明するための概略正面図である。
【図7】車両用前照灯から前方へ照射される光により、路面上に形成される配光パターン例を示す図と、灯具前方25mの位置に配置された仮想鉛直スクリーン上に形成される配光パターン例を透視的に示す図である。
【図8】本発明の車両用前照灯に係るストローク調整機構の変形例を示したものであり、ストローク調整機構の動作を説明するための説明図である。
【図9】従来の車両用前照灯の要部の斜視図である。
【符号の説明】
【0064】
1 車両用前照灯
2 透明カバー(カバー)
3 ランプボディ
5 灯具ユニット
8 投影レンズ
10 光源バルブ(光源)
10a 発光部
13 リフレクタ
15 シェード機構
17 ホルダ
21,23,25,27 シェード
21a,23a,25a,27a 上端縁
22,24,26,28 ストッパ部
29 ストローク調整機構
30 回転モータ(第2アクチュエータ)
31 小ギア
33 大ギア
34 ストッパ部材
36 係合部
40 ソレノイド(第1アクチュエータ)
43 弾性部材
44 付勢部材
Ax 光軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ランプボディとカバーで形成された灯室内に、車両前後方向に延びる光軸上に配置された投影レンズと、前記投影レンズの後方側に配置された光源と、前記光源からの光を前方に向けて前記光軸寄りに反射するリフレクタと、前記投影レンズと前記光源との間に配置されて前記リフレクタからの反射光の一部及び前記光源からの直接光の一部を遮蔽して配光パターンのカットオフラインを形成するシェード機構と、を備えた車両用前照灯であって、
前記シェード機構は、
前記光軸の下方近傍において該光軸と略垂直な平面に沿って併設され、前記カットオフラインを形成するための形状が相違する複数枚のシェードと、
前記各シェードを遮蔽方向へ付勢する付勢部材と、
弾性部材を介して制御時に前記各シェードを前記付勢部材の付勢力に抗して退避方向へ移動させる第1アクチュエータと、
複数駆動位置において前記各シェードの退避方向への移動ストロークを個別に規制するストローク調整機構と、
前記ストローク調整機構の駆動位置を変更する第2アクチュエータと、
を備えることを特徴とする車両用前照灯。
【請求項2】
前記第1アクチュエータが、前記第2アクチュエータの駆動時に非制御とされることを特徴とする請求項1に記載の車両用前照灯。
【請求項3】
前記ストローク調整機構が、複数駆動位置における前記各シェードの移動ストロークに対応して前記各シェードに形成されたストッパ部と、複数駆動位置において前記ストッパ部に当接するストッパ部材と、を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用前照灯。
【請求項4】
前記第1アクチュエータがソレノイド、前記第2アクチュエータが回転モータであることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の車両用前照灯。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−61985(P2010−61985A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−226394(P2008−226394)
【出願日】平成20年9月3日(2008.9.3)
【出願人】(000001133)株式会社小糸製作所 (1,575)
【Fターム(参考)】