説明

車両用操舵装置

【課題】多回転操作される操舵部材の回転角を規制可能な小型の車両用操舵装置を提供。
【解決手段】回転規制機構21は、操舵軸9の出力軸24と同軸的に一体回転可能な回転可能要素(ロータコア63の第2部分66)と、回転不能要素(ハウジングの端壁32)との間に、出力軸24によって同軸的に支持され出力軸24に対して回転可能で且つ軸方向X1に移動可能な複数の板要素71〜75を備える。隣接する要素間の相対回転量を突起81と係合溝82,83の両端の規制部とによって規制する。出力軸24の中心軸線L1に対する板要素71〜75の中心軸線の傾きを抑制するように、板要素71〜75の軸方向X1の移動量を所定量以下に規制する軸方向移動規制要素701を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1のように、操舵部材(ステアリングホイール)と転舵輪とが機械的に連結された車両用操舵装置では、転舵機構の転舵軸の軸方向移動量がラックストッパによって規制されると、操舵部材が、上記規制による制約を受ける。したがって、操舵部材が、転舵機構の動作限界を超えて、操作されることがない。
一方、ステアバイワイヤ式の車両用操舵装置では、操舵部材(ハンドル。ステアリングホイール)と転舵輪との機械的な連結が解かれており、操舵部材の操作(ハンドル操作)に応じて転舵機構を駆動して転舵輪の向きを変える転舵モータが備えられている。
【0003】
この種の車両用操舵装置では、転舵機構からの制約を受けない操舵部材が、転舵機構の動作限界を超えて操作されることがないように、操舵部材の操作量を前記動作限界に対応する操作範囲内に規制する規制機構が設けられている。
例えば、特許文献2では、操舵部材の回転軸と一体回転する小径の第1ギヤに、回転軸とは異なる軸回りに回転する大径の第2ギヤを噛合させ、その第2ギヤの回転量を規制することにより、操舵部材の回転量を所定角度以内に規制する車両用操舵装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−56038号公報
【特許文献2】特開2004−189037号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
操舵部材の回転量を規制するための第1ギヤおよび第2ギヤが、互いに異なる軸によって支持されるので、構造が大型化する。
また、通例、操舵部材は1回転以上の多回転で回転操作されるため、第1ギヤに対して第2ギヤが大型化し、この点からも構造が大型化する。
本発明は、かかる背景のもとでなされたもので、多回転操作される操舵部材の回転角を規制することができる小型の車両用操舵装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため、請求項1の発明は、操舵のために多回転操作される操舵部材(2)の回転量を所定角度以下に規制する回転規制機構(21;21A)を備え、前記回転規制機構は、前記操舵部材の回転軸(24)と同軸的に一体回転可能な回転可能要素(66)と、前記回転可能要素と前記回転軸の軸方向(X1)に対向する回転不能要素(32)と、前記回転可能要素および前記回転不能要素間に介在し前記回転軸によって同軸的に支持され前記回転軸に対して回転可能で且つ軸方向に移動可能な複数の環状の板要素(71〜75)と、前記回転不能要素、前記複数の板要素および前記回転可能要素のうちの隣接する要素間の相対回転量を規制するように前記隣接する要素間を連結する連結要素(80)と、前記回転軸の軸線(L1)に対する前記板要素の軸線(L2)の傾きを抑制するように、前記板要素の軸方向の移動量を所定量以下に規制する軸方向移動規制要素(701;321)と、を含み、前記連結要素は、前記隣接する要素の一方に設けられた規制部(82a,83a)と、他方に設けられ前記規制部に係合する突起(81)と、を含む車両用操舵装置(1)を提供する。
【0007】
なお、括弧内の英数字は、後述する実施形態における対応構成要素等を表すが、このことは、むろん、本発明がそれらの実施形態に限定されるべきことを意味するものではない。以下、この項において同じ。
また、請求項2のように、前記回転規制機構は、前記回転不能要素と前記板要素との間に介在する押圧板(70)と、前記押圧板を介して前記板要素を軸方向の一方側へ付勢する付勢部材(69)と、を含んでいてもよい。
【0008】
また、請求項3のように、前記押圧板および前記回転不能要素の何れか一方に、前記軸方向移動規制要素としての凸部(701;321)が設けられ、前記凸部と、前記押圧板および前記回転不能要素の他方との間に、前記所定量に相当する量(S1)の隙間(S)が形成されていてもよい。
また、請求項4のように、前記凸部は、前記押圧板に設けられていてもよい。
【0009】
また、請求項5のように、前記操舵部材と転舵輪(3)との機械的な連結が解除されており、前記回転軸と一体回転するロータ(61)を含み前記操舵部材に操舵反力を付与する反力モータ(10)を備え、前記反力モータおよび前記回転規制機構が、同一のハウジング(11)内に収容されていてもよい。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明によれば、回転不能要素、板要素および回転可能要素のうちの隣接要素間の相対回転量をそれぞれ規制することによって、回転軸の回転量、ひいては操舵部材の回転量を規制することができる。また、回転軸によって同軸的に支持された板要素の軸方向の両側に、回転不能要素および回転可能要素を配置するので、回転規制機構の要素をコンパクトに配置することができ、小型化を達成することができる。また、回転規制に伴って、板要素が突起または規制部を介して、当該板要素の中心軸線を回転軸の中心軸線に対して傾かせようとする力を受けたときに、軸方向移動規制要素によって、板要素の軸方向の移動量が規制される。これにより、回転軸の中心軸線に対する板要素の中心軸線の傾きを抑制することができるので、板要素がこれを支持する部材に対して、こじれを生じ難く、寿命を長くすることができる。
【0011】
なお、板要素は、回転軸によって直接支持されていてもよいし、また、回転軸の外周に嵌合された筒状部材を介して回転軸によって間接的に支持されていてもよい。
また、請求項2の発明によれば、付勢部材によって押圧板を介して板要素を軸方向の一方側へ付勢するので、板要素のこじれの発生を抑制することができる。
また、請求項3の発明によれば、凸部の高さの設定によって、隙間の量、ひいては板要素の軸方向の移動量を精度良く設定することができるので、板要素のこじれの発生を確実に防止することができる。
【0012】
また、請求項4の発明によれば、凸部を押圧板に設けることにより、構造を簡素化することができる。
また、請求項5の発明によれば、反力モータおよび回転規制機構を同一のハウジング内に収容するので、ステアバイワイヤ式の車両用操舵装置において、構造の簡素化、小型化を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態の車両用操舵装置の概略構成を示す模式図である。
【図2】操舵部材の回転量を規制する回転規制機構および反力モータ等を収容したハウジングの断面図である。
【図3】図2の一部を拡大した、回転機構機構周辺の断面図である。
【図4】回転規制機構の分解斜視図である。
【図5】回転規制機構の板要素の断面図である。
【図6】(a)は板要素の係合溝に係合する突起の可動範囲を説明する概略図であり、(b)は回転不能要素としての端壁の係合溝に係合する突起の可動範囲を説明する概略図である。
【図7】回転軸としての、操舵軸の出力軸に対する板要素の倒れを説明する模式図である。
【図8】本発明の別の実施の形態の回転規制機構の要部の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の好ましい実施形態を添付図面を参照しつつ説明する。
図1は本発明の一実施形態の車両用操舵装置の概略構成を示す模式図である。図1を参照して、本車両用操舵装置1は、ステアリングホイール等の操舵部材2と転舵輪3との機械的な連結が解除された、いわゆるステアバイワイヤシステムを構成している。
車両用操舵装置1では、操舵部材2の回転操作に応じて駆動される転舵アクチュエータ4の動作を、ハウジング5に支持された転舵軸6の車幅方向の直線運動に変換するようになっている。この転舵軸6の直線運動は、転舵用の左右の転舵輪3の転舵運動に変換され、これにより車両の転舵が達成される。車両が直進しているときの転舵輪3の位置に対応する操舵部材2の位置が、操舵中立位置として設定されている。
【0015】
転舵アクチュエータ4は、例えば、電動モータを含んでいる。この電動モータの駆動力(出力軸の回転力)は、転舵軸6に関連して設けられた運動変換機構(ボールねじ装置)により、転舵軸6の軸方向の直線運動に変換される。この転舵軸6の直線運動は、転舵軸6の両端に連結されたタイロッド7に伝達され、ナックルアーム8の回動を引き起こす。これにより、ナックルアーム8に支持された転舵輪3の操向が達成される。
【0016】
転舵軸6、タイロッド7およびナックルアーム8により、転舵輪3を転舵するための転舵機構Aが構成されている。転舵軸6を支持するハウジング5は、車体Bに固定されている。
操舵部材2は、車体Bに回転可能に支持された操舵軸9に連結されている。操舵軸9には、路面等から転舵輪3に伝わる反力を操舵反力として操舵部材2に与えるための反力モータ10が取り付けられている。反力モータ10は、ブラシレスモータ等の電動モータを含む。反力モータ10は、車体Bに固定されたハウジング11内に収容されている。
【0017】
車両用操舵装置1には、操舵軸9に関連して、操舵部材2の操舵角θh を検出するための操舵角センサ12が設けられている。また、操舵軸9には、操舵部材2に加えられた操舵トルクTを検出するためのトルクセンサ13が設けられている。操舵角センサ12およびトルクセンサ13は、ハウジング11内に収容されている。
一方、車両用操舵装置1には、転舵軸6に関連して、転舵輪3の転舵角θw (タイヤ角)を検出するための転舵角センサ14が設けられている。
【0018】
これらのセンサの他にも、車速Vを検出する車速センサ15と、車体Bの上下加速度Gzを検出する悪路状態検出センサとしての上下加速度センサ16と、車両の横加速度Gyを検出する横加速度センサ17と、車両のヨーレートγを検出するヨーレートセンサ18とが設けられている。
前記のセンサ類12〜18の各検出信号は、マイクロコンピュータを含む構成の電子制御ユニットである制御装置としてのECU19に入力されるようになっている。
【0019】
ECU19は、操舵角センサ12によって検出された操舵角θh および車速センサ15によって検出された車速Vに基づいて、目標転舵角を設定する。そして、この目標転舵角と、転舵角センサ14によって検出された転舵角θw との偏差に基づいて、駆動回路20Aを介し、転舵用アクチュエータ4を駆動制御(転舵制御)する。
一方、ECU19は、センサ類12〜18が出力する検出信号に基づいて、操舵部材2が操舵された方向と逆方向を向く適当な反力が操舵部材2に付与されるように、駆動回路20Bを介して、反力モータ10を駆動制御(反力制御)する。
【0020】
図2を参照して、操舵軸9は、筒状のハウジング11によって回転可能に支持されている。ハウジング11から操舵軸9の一端が突出しており、前記一端に、操舵部材2が一体回転可能に連結されている。ハウジング11内には、前記の操舵角センサ12、トルクセンサ13および反力モータ10が収容されている。
また、ハウジング11内には、回転規制機構21が収容されている。回転規制機構21は、操舵のために多回転操作される操舵部材2の回転軸としての、操舵軸9の出力軸24の回転角を所定角度以下に規制する機能を果たす。本実施の形態のようにステアバイワイヤ式の車両用操舵装置1では、操舵部材2が、転舵機構Aからの制約を受けない。そこで、操舵部材2が、転舵機構Aの動作限界を超えて操作されることがないように、回転規制機構21によって、操舵部材2の回転角を、前記動作限界に対応する前記所定角度内に規制する。
【0021】
操舵軸9は、一端22a(操舵軸9の前記一端に相当)に操舵部材2が一体回転可能に連結された入力軸22と、入力軸22とトーションバー23を介して同軸上にトルク伝達可能に連結された出力軸24とを備えている。トーションバー23の一端23aは、入力軸22と一体回転可能に連結されており、トーションバー23の他端23bは、出力軸24と一体回転可能に連結されている。
【0022】
操舵軸9は、ハウジング11に保持された第1軸受25、第2軸受26および第3軸受27によって回転可能に支持されている。第1軸受25、第2軸受26および第3軸受27は、例えば玉軸受等の転がり軸受からなる。
第1軸受25は、入力軸22の軸方向の中間部を回転可能に支持している。第2軸受26および第3軸受27は、出力軸24を回転可能に支持している。具体的には、第2軸受26は、出力軸24の一端24a付近を回転可能に支持しており、第3軸受27は、出力軸24の他端24bを回転可能に支持している。
【0023】
また、入力軸22の他端22bは、出力軸24に設けられた支持孔28内に挿入されている。入力軸22の他端22bは、支持孔28の内周に、例えば針状ころ軸受等の第4軸受30を介して回転可能に支持されている。
ハウジング11は、ハウジング本体31と端壁32とを組み合わせて構成されている。ハウジング本体31は、筒状をなし、一端31aおよび他端31bを有している。ハウジング11の一部としての端壁32は、概ね板状をなし、ハウジング本体31の他端31bを閉塞している。
【0024】
具体的には、端壁32は、その外径部付近から軸方向に突出する筒状部33を有しており、その筒状部33は、ハウジング本体31の他端31bの内周に嵌合されている。筒状部33の外周に設けられた収容溝に、例えばOリング等の封止部材34が収容されており、封止部材34によって、ハウジング31本体および筒状部33の嵌合部における密封性が確保されている。また、端壁32は、固定ねじ35等を用いてハウジング本体31の他端31bに固定されている。
【0025】
ハウジング11の一部としての端壁32と、この端壁32によって後述する付勢部材69を介して回転を規制された後述する押圧板70とが、回転規制機構21の後述する回転不能要素を構成している。
ハウジング本体31の一端31aの内周と、操舵軸9の入力軸22の外周との間には、両者間を封止する例えばオイルシールからなる環状の封止部材36が介在している。また、前記第1軸受25は、ハウジング本体31の一端31aの内周に設けられた軸受保持部37に保持されている。
【0026】
第2軸受26は、ハウジング本体31の軸方向の中間部に設けられた軸受保持部38に保持され、出力軸24の一端24a付近の外周を回転可能に支持している。第2の軸受26は、軸受保持部38に嵌合固定された外輪39と、出力軸24の外周に一体回転可能に嵌合された内輪40とを備えている。
第2軸受26の外輪39の一端面が、ハウジング本体31の軸受保持部38の一端に形成された位置決め段部41に当接することによって、外輪39が、出力軸24の軸方向X1の一方側(第1軸受25側)へ移動することが規制されている。また、第2軸受26の内輪40の一端面が、出力軸24の外周に形成された位置決め段部42に当接することによって、内輪40が、出力軸24の軸方向X1の他方側(第3軸受27側)へ移動することが規制されている。
【0027】
端壁32の内壁面32aには、第1凹部としての円形の中心凹部43と、中心凹部43を取り囲む第2凹部としての環状凹部44とが設けられている。中心凹部43の深さは、環状凹部44の深さよりも深くされている。出力軸24の他端24bは、中心凹部43内に挿入されている。第3軸受27は、中心凹部43の内周に保持され、出力軸24の他端24bを回転可能に支持している。
【0028】
第3軸受27は、中心凹部43の内周に回転不能で且つ軸方向移動可能なようにルーズフィットで嵌合された外輪46と、出力軸24の他端24bの外周に一体回転可能に嵌合された内輪47とを備えている。第3軸受27の内輪47の一端面が、出力軸24の外周に形成された位置決め段部48に当接することにより、内輪47が、出力軸24の軸方向X1の前記一方側(第2軸受26側)へ移動することが規制されている。
【0029】
また、中心凹部43内には、第2軸受26および第3軸受27に一括して軸方向の予圧を与える例えば波板ばねからなる弾性部材49と、弾性部材49と第3軸受27との間に介在した予圧付与部材としてのスペーサ50とが収容されている。
スペーサ50は、図2に示すような円形板または環状板からなる。スペーサ50は、出力軸24の他端24bの端面や第3軸受27の内輪47の端面とは接触しないで、外輪46の端面のみに接触するように、環状突起51を設けている。弾性部材49は、スペーサ50の環状突起51を介して、第3軸受27の外輪46を出力軸24の軸方向X1の前記一方側へ付勢する。
【0030】
この付勢力は、第3軸受27の外輪46、第3軸受の内輪47、出力軸24の位置決め段部48、出力軸24の位置決め段部42、第2軸受26の内輪40、および第2軸受26の外輪39を介して、ハウジング本体31の位置決め段部41によって受けられる。したがって、第2軸受26および第3軸受27に、一括して軸方向の予圧を付与することができる。
【0031】
トルクセンサ13は、ハウジング11内において、第1軸受25と第2軸受26との間に配置されている。トルクセンサ13としては、例えばホールIC(磁気センサ)を用いたトルクセンサを用いてもよい。ECU19は、トルクセンサ13からの信号に基づいて、操舵軸9に入力された操舵トルクを算出する構成となっている。
反力モータ10は、出力軸24と一体回転可能に連結されたロータ61と、ロータ61を同心に取り囲み、ハウジング本体31の内周に固定されたステータ62とを備えている。ロータ61は、出力軸24と一体回転可能なロータコア63と、ロータコア63に一体回転可能に連結された永久磁石64とを備えている。
【0032】
ロータコア63は、出力軸24を同心に取り囲む筒状の第1部分65と、第1部分65の一端65aを出力軸24に一体回転可能に連結した第2部分66とを有している。永久磁石64は、第1部分65の外周に一体回転可能に連結されている。第2部分66は、回転規制機構21の後述する回転可能要素を構成している。
本実施の形態では、第1部分65および第2部分66を含むロータコア63が、出力軸24と単一の材料で一体に形成されている例に則して説明するが、出力軸24とは別体に形成されたロータコアが出力軸24に一体に連結されていてもよい。
【0033】
ハウジング11内において、第2部分66と第2軸受26との間に、操舵角センサ12が配置されている。操舵角センサ12は、例えばレゾルバを用いて構成されている。具体的には、操舵角センサ12は、出力軸24と一体回転可能に連結されたレゾルバロータ67と、ハウジング本体31の内周に固定され、レゾルバロータ67を取り囲むレゾルバステータ68とを備えている。
【0034】
拡大図である図3に示すように、回転機構機構21の大部分の要素は、ロータ61のロータコア63の第1部分65の径方向内方の空間に配置されている。図3および分解斜視図である図4を参照して、回転規制機構21は、回転不能要素としての、ハウジング11の端壁32と、操舵部材2の回転軸としての、操舵軸9の出力軸24によって同軸的に支持され出力軸24に対して回転可能で且つ軸方向X1に移動可能な複数の板要素71〜75と、回転可能要素としての、ロータコア63の第2部分66とを備えている。回転不能要素としての端壁32と回転可能要素としての第2部分66は、板要素71〜75の軸方向X1の両側に配置されている。
【0035】
また、回転規制機構21は、回転不能要素(端壁32)、複数の板要素71〜75および回転可能要素(第2部分66)のうちの、それぞれ対応する隣接する要素間の相対回転量を規制するように前記隣接する要素間をそれぞれ連結する複数の連結要素80を備えている。また、回転規制機構21は、前記隣接する要素間の相対回転にそれぞれ摩擦抵抗を付与する複数の摩擦付与要素としての摩擦板91〜96と、板要素71〜75の倒れを規制するように、板要素71〜75の軸方向X1の移動量を所定量に規制する軸方向移動規制要素としての凸部701とを備えている。
【0036】
板要素71〜75の倒れとは、例えば、図7に示すように、出力軸24の中心軸線L1に対して、板要素71〜75の中心軸線L2が傾くことである。図7では、一部の板要素73〜75を模式的に示し、板要素73の中心軸線L2が、出力軸24の中心軸線L1に対して傾くことを模式的に示している。図7では、説明のために、傾き角Pを模式的に大きく示してあるが、本実施の形態において、生ずるおそれのある傾き角Pは実質的にゼロに近いレベル(例えば、0.5度以下)である。
【0037】
図3および図4に示すように、各連結要素80は、それぞれ対応する隣接要素の一方に設けられ軸方向X1に突出したピン状の突起81と、突起81が係合するようにそれぞれ対応する隣接要素の他方に設けられ、回転方向C1に延びる有端の係合溝82,83とにより構成されている。
図6(a),(b)に示すように、各突起81が、対応する係合溝82,83の両端である規制部82a,83aに係合することにより、隣接する要素間の相対回転量が規制される。
【0038】
図3および図4を参照して、板要素71〜75は共通の環状板からなり、第1部分65と出力軸24との間に配置されている。板要素71〜75は、出力軸24の外周に一体回転可能に嵌合された筒状部材85(例えばメタルブッシュ等の滑り軸受)の外周85aに回転可能に且つ軸方向移動可能に支持されている。板要素71〜75は、出力軸24および第1部分65に対して相対回転可能である。
【0039】
各板要素71〜75は、その一方の端面に突起81を突出形成し、突起81を避けた残りの領域に、回転方向C1に延びるように係合溝82を形成している。また、ハウジング11の端壁32(回転不能要素)は、回転方向C1に延びる有端の係合溝83を形成している。
各突起81は、図5に示すように、対応する板要素71〜75と別体で設けられ、対応する板要素71〜75の固定孔86に一部が挿入されて一体に固定されていてもよい。また、図示していないが、各突起81は、対応する板要素71〜75と単一の材料で一体に形成されていてもよい。各板要素71〜75の少なくとも一方の端面には(本実施の形態では、突起81が突出する側の端面)に、環状の受け凹部87が設けられている。
【0040】
図4に示すように、各受け凹部87は、対応する摩擦板92〜96を受ける。また、各摩擦板92〜96の外周が、対応する受け凹部87の周壁面によって回転可能に支持される。一方、ロータ31のロータコア63の第2部分66には、環状の受け凹部88が設けられている。摩擦板91の外周が、受け凹部88の周壁面によって回転可能に支持される。
【0041】
図3および図4に示すように、第2部分66(回転可能要素)に設けられた突起81が、板要素71に設けられた回転方向C1に有端の係合溝82にスライド可能に嵌合する。また、各板要素71〜74に設けられた突起81が、それぞれ隣接する板要素72〜75に設けられた係合溝82にスライド可能に嵌合する。また、板要素75に設けられた突起81が、ハウジング11の端壁32(回転不能要素)に設けられた係合溝83にスライド可能に嵌合する。
【0042】
図6(a)に示すように、各板要素71〜75の係合溝82に係合する突起81の可動範囲(突起81が係合溝82の両端の規制部82a間を可動する範囲)が、隣接要素間の相対回転角がδ1となるように、回転方向C1に関する係合溝82の配置範囲を設定してもよい。また、図6(b)に示すように、端壁32(回転不能要素)の係合溝83に係合する突起81の可動範囲(突起81が係合溝83の両端の規制部83a間を可動する範囲)を、隣接要素間の相対回転角がδ2となるように、回転方向C1に関する係合溝83の配置範囲を設定してもよい。
【0043】
この場合、操舵軸9の最大回転角δmax は、
δmax =δ1×4+δ2
となるので、操舵軸9の回転量を、所望の多回転範囲に規制することが可能となる。例えばδ1が306°でδ2が90°の場合、操舵軸9の回転量が1620°(所定角度)内に規制される。
【0044】
板要素71〜75としては共通のものを用い、端壁32の係合溝83の配置範囲を、板要素71〜75の係合溝82の配置範囲と異ならせることで、コストダウンを図りつつ、操舵軸9の回転量の規制範囲を容易に設定することができる。ただし、δ1=δ2であってもよい。
図3および図4に示すように、各摩擦板91〜96は、それぞれ対応する隣接要素間の相対回転に抗する摩擦抵抗をそれぞれ対応する隣接要素に付与するように、それぞれ対応する隣接要素間に介在している。
【0045】
例えば、摩擦板91は、第2部分66(回転可能要素)と板要素71との間に介在し、両者66,71の相対回転に抗する摩擦抵抗を両者66,71に与える。各摩擦板92〜95は、それぞれ隣接する板要素71,72;72,73;73,74;74,75間に介在し、各隣接する板要素71〜75の相対回転に抗する摩擦抵抗を各隣接する板要素71〜75に付与する。また、摩擦板96は、板要素75と押圧板70との間に介在し、板要素75および押圧板70の相対回転に抗する摩擦抵抗を、板要素75および押圧板70に付与する。
【0046】
図3に示すように、付勢部材69および押圧板70は、ハウジング11の端壁32の内壁面32aの環状凹部44内に収容され、保持されている。付勢部材69および押圧板70は環状をなし、出力軸24の周囲を取り囲んでいる。付勢部材69には、例えば波板ばねが用いられる。付勢部材69は、環状凹部44の底44aと押圧板70との間に介在している。
【0047】
押圧板70は、その外周から軸方向に突出する軸方向移動規制要素としての例えば環状の凸部701を単一の材料で一体に形成している。環状の凸部701の外周は、環状凹部44の周壁面44bによって、軸方向X1に移動可能に支持されている。環状の凸部701は、波板ばねからなる付勢部材69を取り囲んでいる。
付勢部材69は、押圧板70を摩擦板96側へ弾性的に付勢することにより、当該押圧板70(回転不能要素)とロータ61の第2部分66(回転可能要素)との間に、板要素71〜75および摩擦抵抗付与要素としての摩擦板91〜96を含む積層ユニットを弾性的に挟持する。すなわち、付勢部材69は、積層ユニットの板要素71〜75、摩擦板91〜96に一括して軸方向の予圧を与える。これにより、各摩擦板91〜96がこれに接する部材に対して、所要の大きさの摩擦抵抗を付与できるように設定されている。
【0048】
また、板要素71〜75および摩擦抵抗付与要素としての摩擦板91〜96を含む積層ユニットが、ロータ61の第2部分66側へ押圧された状態で、凸部701と端壁32(具体的には環状凹部44の底44a)との間に、隙間Sが形成されている。その隙間Sの量は、所定量S1(例えばS1=0.1mm)に設定されている。
本実施の形態によれば、回転不能要素(ハウジング11の端壁32)、回転可能要素(ロータコア63の第2部分66)および板要素71〜75のうちの隣接要素間の相対回転量をそれぞれ規制することによって、操舵部材2が、転舵機構Aの動作限界を超えて回転操作されることを防止することができる。
【0049】
操舵部材2の回転軸(出力軸24)によって同軸的に支持された板要素71〜75の軸方向X1の両側に、回転不能要素(端壁32)および回転可能要素(第2部分66)を配置するので、回転規制機構21の要素をコンパクトに配置することができ、小型化を達成することができる。
また、回転規制機構21による出力軸24の回転規制に伴って、板要素71〜75が突起81または係合溝82,83を介して倒れ力(板要素71〜75の中心軸線L2を出力軸24の中心軸線L1に対して傾かせようとする力)を受けたときに、軸方向移動規制要素としての凸部701が端壁32(環状凹部44の底44a)に当接することにより、板要素71〜75の軸方向X1の移動量が規制される。
【0050】
これにより、模式図である図7に示すように、回転軸としての出力軸24の軸線L1に対する、板要素71〜75の軸線L2の傾きを抑制することができるので、板要素71〜75が回転軸(出力軸24)に対して、具体的には、出力軸24に嵌合された筒状部材85に対して、こじれを生じ難い。したがって、板要素71〜75や筒状部材85にかかる負荷を低減して、これらの部品の寿命を長くすることができる。ひいては車両用操舵装置1の寿命を長くすることができる。
【0051】
また、付勢部材69によって押圧板70を介して板要素71〜75を軸方向X1の一方側へ付勢しているので、この点からも、板要素71〜75のこじれの発生を抑制することができる。
また、押圧板70に設けられた凸部701の高さの設定によって、隙間Sの量、ひいては板要素71〜75の軸方向X1の移動量を精度良く設定することができるので、板要素71〜75のこじれの発生を確実に防止することができる。
【0052】
また、軸方向移動規制要素としての凸部701を押圧板70に設けているので、構造を簡素化することができる。
また、操舵部材2に操舵反力を付与する反力モータ10と回転規制機構21を同一のハウジング11内に収容することにより、ステアバイワイヤ式の車両用操舵装置1において、構造の簡素化、小型化を達成することができる。
【0053】
なお、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、例えば、前記実施の形態では、板要素71〜75の内周を、操舵軸9(出力軸24)の外周に嵌合された筒状部材85の外周によって支持したが、これに代えて、操舵軸9(出力軸24)によって板要素71〜75の内周を直接支持してもよい(図示せず)。
また、前記実施の形態では、軸方向移動規制要素としての凸部701を押圧板70に設けていたが、これに代えて、図8に示す回転規制機構21Aのように、ハウジング11の端壁32に凸部321を設けてもよい。凸部321は、例えば、環状凹部44の底44aから内周壁44bに沿って、押圧板70側へ突出する環状の凸部であってもよい。凸部321と押圧板70との間に形成される隙間Sの量によって、板要素71〜75の移動量が規制される。
【0054】
摩擦抵抗付与要素として、隣接要素間の対向面の少なくとも一方に被覆された摩擦層(図示せず)を用いてもよい。
また、付勢部材69および押圧板70が、回転可能要素としての第2部分66と板要素71との間に介在していてもよい(図示せず)。
また、板要素71〜75をロータ61の第1部分65の内周に保持された滑り軸受(図示せず)によって保持してもよい。
【0055】
その他、請求項記載の範囲で種々の変更を施すことができる。
【符号の説明】
【0056】
1…車両用操舵装置、2…操舵部材、3…転舵輪、10…反力モータ、11…ハウジング、21;21A…回転規制機構、22…入力軸、23…トーションバー、24…出力軸、31…ハウジング本体、32…端壁(回転不能要素)、321…凸部(軸方向移動規制要素)、61…ロータ、62…ステータ、63…ロータコア、65…第1部分、65a…一端、66…第2部分(回転可能要素)、69…付勢部材、70…押圧板、701…凸部(軸方向移動規制要素)、71〜75…板要素、80…連結要素、81…突起、82,83…係合溝、82a,83a…規制部、91〜96…摩擦板、X1…軸方向、C1…回転方向、S…隙間、S1…所定量、L1…(回転軸としての出力軸の)中心軸線、L2…(板要素の)中心軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
操舵のために多回転操作される操舵部材の回転量を所定角度以下に規制する回転規制機構を備え、
前記回転規制機構は、前記操舵部材の回転軸と同軸的に一体回転可能な回転可能要素と、前記回転可能要素と前記回転軸の軸方向に対向する回転不能要素と、前記回転可能要素および前記回転不能要素間に介在し前記回転軸によって同軸的に支持され前記回転軸に対して回転可能で且つ軸方向に移動可能な複数の環状の板要素と、前記回転不能要素、前記複数の板要素および前記回転可能要素のうちの隣接する要素間の相対回転量を規制するように前記隣接する要素間を連結する連結要素と、前記回転軸の中心軸線に対する前記板要素の中心軸線の傾きを抑制するように、前記板要素の軸方向の移動量を所定量以下に規制する軸方向移動規制要素と、を含み、
前記連結要素は、前記隣接する要素の一方に設けられた規制部と、他方に設けられ前記規制部に係合する突起と、を含む車両用操舵装置。
【請求項2】
請求項1において、前記回転規制機構は、前記回転不能要素と前記板要素との間に介在する押圧板と、前記押圧板を介して前記板要素を軸方向の一方側へ付勢する付勢部材と、を含む車両用操舵装置。
【請求項3】
請求項2において、前記押圧板および前記回転不能要素の何れか一方に、前記軸方向移動規制要素としての凸部が設けられ、
前記凸部と、前記押圧板および前記回転不能要素の他方との間に、前記所定量に相当する量の隙間が形成されている車両用操舵装置。
【請求項4】
請求項3において、前記凸部は、前記押圧板に設けられている車両用操舵装置。
【請求項5】
請求項1から4の何れか1項において、前記操舵部材と転舵輪との機械的な連結が解除されており、
前記回転軸と一体回転するロータを含み前記操舵部材に操舵反力を付与する反力モータを備え、
前記反力モータおよび前記回転規制機構が、同一のハウジング内に収容されている車両用操舵装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−14243(P2013−14243A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−148953(P2011−148953)
【出願日】平成23年7月5日(2011.7.5)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】