説明

車両

【課題】ピストン部の移動速度に応じて、バネ部材の付勢力を調節することが可能な懸架装置を備えた車両を提供する。
【解決手段】この自動二輪車1(車両)は、後輪16とメインフレーム3との間に設けられるとともに、後輪16とメインフレーム3とが相対的に移動するときの伸縮する力を減衰させる機能を有するリヤサスペンション18とを備えている。そして、リヤサスペンション18は、リヤサスペンション18を伸長する方向に付勢するスプリング31と、オイルが充填されるオイル室23を有するシリンダ部22と、シリンダ部22のオイル室23の内部に配置されるピストン部24と、シリンダ部22のオイル室23からのオイルが流入するオイル室33bを有するサブタンク部33と、ピストン部24の移動速度に応じて、スプリング31の端部を付勢力が増加する方向に移動させるスプリング移動機構35とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両に関し、特に、バネ部材とピストン部とを含む懸架装置を備えた車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両などに搭載される油圧緩衝器(懸架装置)が知られている(たとえば、特許文献1参照)。上記特許文献1には、オイルが充填されるシリンダと、シリンダ内部に設けられたピストン(ピストン部)と、シリンダの外周側に設けられた懸架ばね(バネ部材)と、懸架ばねを一方方向から支持するばねシートと、懸架ばねを圧縮する方向(付勢力が増加する方向)にばねシートを移動させる油圧ジャッキとを備える油圧緩衝器が開示されている。そして、油圧ジャッキは、シリンダからのオイルが流れ込む油室の中を摺動するように構成されている。また、シリンダと油室との間には、シリンダから油室に流れ込むオイルの量を調節するための切換弁が設けられている。この特許文献1では、油圧緩衝器が圧縮する方向にピストンが移動した際に、油室に流れ込むオイルの量を切換弁により調節することによって油圧ジャッキの移動量が調節される。
【0003】
【特許文献1】実用新案登録第2573071号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に開示された油圧緩衝器(懸架装置)では、油圧緩衝器が圧縮する方向にピストン(ピストン部)が移動した際に、油室に流れ込むオイルの量を切換弁により調節することによって油圧ジャッキの移動量が所定の量に調節されるので、ピストンの移動速度に関わらず、油圧ジャッキが移動する量は同じであると考えられる。このため、ピストンの移動速度に応じて、懸架ばね(バネ部材)の荷重(付勢力)を調節することが困難であるという問題点がある。
【0005】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、ピストン部の移動速度に応じて、バネ部材の付勢力を調節することが可能な懸架装置を備えた車両を提供することである。
【課題を解決するための手段および発明の効果】
【0006】
この発明の一の局面による車両は、車輪と、車体と、車輪と車体との間に設けられるとともに、車輪と車体とが相対的に移動するときの伸縮する力を減衰させる機能を有する懸架装置とを備え、懸架装置は、懸架装置を伸長する方向に付勢するバネ部材と、オイルが充填される第1液室を有する第1シリンダ部と、第1シリンダ部の第1液室の内部に配置されるピストン部と、第1シリンダ部の第1液室からのオイルが流入する第2液室を有する第2シリンダ部と、ピストン部の移動速度に応じて、バネ部材の端部を付勢力が増加する方向に移動させるバネ移動機構部とを含む。
【0007】
この一の局面による車両では、上記のように、車輪と車体とが相対的に移動するときの伸縮する力を減衰させる機能を有する懸架装置に、懸架装置を伸長する方向に付勢するバネ部材と、ピストン部の移動速度に応じて、バネ部材の端部を付勢力が増加する方向に移動させるバネ移動機構部とを設けることによって、ピストン部の移動速度に応じて、バネ部材の付勢力を調節することができる。これにより、懸架装置を、ピストン部の移動速度が大きくなるにつれてバネ部材の付勢力が増加するように調節すれば、懸架装置が大きい速度で急激に圧縮される際には、バネ部材の増加された付勢力により、懸架装置が吸収可能なエネルギーを向上させることができる。その結果、ピストン部が高速で移動することに起因する懸架装置内の部品の衝突(底付き現象)を有効に抑制することができる。また、懸架装置がゆっくりと小さい速度で圧縮される際には、バネ部材の付勢力を増加しないように調節すれば、運転者に加わる衝撃をバネ部材によって十分に吸収することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0009】
図1は、本発明の一実施形態による自動二輪車の全体構造を示した側面図である。図2は、図1に示した一実施形態による自動二輪車のリヤサスペンションの構造を詳細に説明するための断面図である。なお、本実施形態では、本発明の車両の一例として、オフロード仕様の自動二輪車について説明する。図中、矢印FWDは、自動二輪車の走行方向の前方を示している。以下、図1および図2を参照して、本発明の一実施形態による自動二輪車1の構造について詳細に説明する。
【0010】
本発明の一実施形態による自動二輪車1では、図1に示すように、ヘッドパイプ2の後方には、前後方向に延びるメインフレーム3が配置されている。また、メインフレーム3は、上方から後方に延びる上側フレーム部3aと、下側から後方に延びる下側フレーム部3bとを有している。また上側フレーム部3aには、後方に向かって延びるシートレール4が取り付けられている。また、上側フレーム部3aとシートレール4の後端部との間には、バックステー5が接続されている。これらのヘッドパイプ2、メインフレーム3、シートレール4およびバックステー5によって、車体フレームが構成されている。なお、ヘッドパイプ2およびメインフレーム3は、本発明の「車体」の一例である。
【0011】
また、ヘッドパイプ2の下方には、上下方向の衝撃を吸収するためのサスペンションを有する一対のフロントフォーク6が配置されている。この一対のフロントフォーク6の下端には、前輪7が回転可能に取り付けられている。また、前輪7の上方には、フロントフェンダ8が配置されている。また、ヘッドパイプ2の上部には、ハンドル9が回動可能に取り付けられている。
【0012】
また、メインフレーム3の上側フレーム部3aの下方には、エンジン10が取り付けられている。このエンジン10は、シリンダ部10aと、シリンダヘッド部10bと、シリンダヘッドカバー部10cと、クランクケース10dとを含んでいる。また、エンジン10には、排気管11が取り付けられている。この排気管11は、後方へ向かうとともに、マフラー12に連結されている。
【0013】
また、ヘッドパイプ2の後方には、メインフレーム3の一部を覆うようにサイドカバー13が配置されている。また、サイドカバー13の後方斜め上側には、座席シート14が配置されている。この座席シート14は、サイドカバー13の後方に延びるように形成されている。
【0014】
また、上側フレーム部3aには、ピボット軸3cが設けられている。このピボット軸3cにより、リヤアーム15の前端部が上下に揺動可能に支持されている。このリヤアーム15の後端部には、後輪16が回転可能に取り付けられている。なお、後輪16は、本発明の「車輪」の一例である。
【0015】
また、本実施形態では、リヤアーム15には、図1に示すように、連結部材17が取り付けられている。この連結部材17には、リヤサスペンション18の下部取付部19が取り付けられている。また、リヤサスペンション18の下部取付部19は、下側フレーム部3bの後部の下側に設けられた支持部3dを中心として揺動可能に設けられた揺動部材20に取り付けられている。この揺動部材20の下部は、連結部材17に接続されている。また、上側フレーム部3aの後部の上側には、支持部3eが設けられている。この支持部3eには、リヤサスペンション18のシリンダヘッド部21に設けられた上部取付部21aが取り付けられている。これにより、後輪16およびリヤアーム15が上下に揺動するのに伴って、揺動部材20がメインフレーム3の支持部3dを中心として揺動するとともに、リヤサスペンション18を伸縮させることが可能となる。なお、リヤサスペンション18は、本発明の「懸架装置」の一例である。また、リヤサスペンション18は、座席シート14の直下に1つのみ設けられている。
【0016】
また、リヤサスペンション18には、図2に示すように、上部取付部21aの下方には、円筒形状のシリンダ部22が配置されている。このシリンダ部22の内部には、上部オイル室23aと下部オイル室23bとからなるオイル室23が設けられている。なお、シリンダ部22は、本発明の「第1シリンダ部」の一例であり、オイル室23は、本発明の「第1液室」の一例である。また、シリンダ部22の上側には、後述するオイル室34およびサブタンク部33にオイル室23のオイルを流出し、かつ、オイル室34およびサブタンク部33からのオイルを流入させるためのオイル通路22aが設けられている。また、上部オイル室23aと下部オイル室23bとは、シリンダ部22の内部に配置されるピストン部24によって仕切られている。このピストン部24には、オイルを通過させるための複数のオリフィス24aおよび24bが形成されている。この複数のオリフィス24aは、ピストン部24よりも上側の上部オイル室23aのオイルを下側の下部オイル室23bに通過させるように構成されている。また、複数のオリフィス24bは、ピストン部24よりも下側の下部オイル室23bのオイルを上側の上部オイル室23aに通過させるように構成されている。また、複数のオリフィス24aの下側には、オリフィス24aの下面を塞ぐとともに、オリフィス24aの下面が開かれるよう構成するための板状のワッシャ24cが配置されている。また、複数のオリフィス24bの上側には、オリフィス24bの上面を塞ぐとともに、上面が開かれるように構成するための板状のワッシャ24dが配置されている。
【0017】
また、ピストン部24の挿入穴24eには、ロッド部25が挿入されて固定されている。なお、シリンダ部22、ピストン部24およびロッド部25によって、リヤサスペンション18の減衰機構が構成されている。また、シリンダ部22のピストン部24の下方には、ロッド部25を覆うようにロッドガイド26が配置される。また、ロッドガイド26の上端部には、ピストン部24の下端部が当接するゴムなどからなるクッション部材27が設けられている。このクッション部材27の下方には、オイルシール36が設けられている。また、ロッドガイド26の下方には、シリンダ部22の蓋として機能する蓋部28が取り付けられている。この蓋部28とロッドガイド26との間には、オイル室23に外部からの塵や埃などが混入することを防止するためのダストシール29が配置されている。なお、蓋部28は、本発明の「第2当接部」の一例である。また、ロッド部25の下側には、ゴム部材30が設けられている。このゴム部材30は、ロッド部25が上方に移動して、シリンダ部22の蓋部28と衝突するいわゆる底付きの際の衝撃を緩和するために設けられている。なお、ゴム部材30は、本発明の「緩衝部材」の一例である。
【0018】
また、シリンダ部22の外周側には、圧縮コイルバネからなるスプリング31が配置されている。なお、スプリング31は、本発明の「バネ部材」の一例である。このスプリング31は、ロッド部25を下方に付勢することにより、リヤサスペンション18を常に伸長する方向に付勢するために設けられている。また、スプリング31の下方には、スプリング31を下方から支持する鍔部32が配置されている。
【0019】
また、シリンダヘッド部21には、サブタンク部33が一体的に設けられている。このサブタンク部33は、ピストン部33aを内部に有する。このピストン部33aは、上側に配置されるオイル室33bと下側に配置されるガス室33cとを仕切る機能を有している。また、ピストン部33aの外周面とサブタンク部33の内周面との間には、ゴム製のオーリング33dが設けられている。また、サブタンク部33の下方には、蓋部33eが設けられており、この蓋部33eの外周面とサブタンク部33の内周面との間にも、ゴム製のオーリング33fが設けられている。なお、サブタンク部33は、本発明の「第2シリンダ部」の一例であり、オイル室33bは、本発明の「第2液室」の一例である。また、サブタンク部33は、シリンダ部22のオイル室23からのオイルを流入させるとともに、オイル室23にオイルを流出するためのオイル通路33gを有している。このサブタンク部33は、ピストン部24およびロッド部25が上方に移動してリヤサスペンション18が圧縮された際に、ロッド部25の体積分のオイルをオイル通路33gを介してオイル室33bに流入させるように構成されている。これにより、リヤサスペンション18が圧縮された際に、シリンダ部22のオイル室23の内部の圧力が過剰に上昇するのを抑制することが可能となる。また、ピストン部24がシリンダ部22内を下方に移動してリヤサスペンション18が伸長された際に、サブタンク33のオイル室33bのオイルは、シリンダ部22のオイル室23に流入するように構成されている。
【0020】
ここで、本実施形態では、図2に示すように、シリンダ部22のオイル通路22aとサブタンク部33のオイル通路33gとの間には、シリンダ部22の外周面を覆うように形成されるオイル室34が設けられている。なお、オイル室34は、本発明の「第3液室」の一例である。また、シリンダ部22の外側には、シリンダ部22の外周面を覆うように形成されるとともに、シリンダ部22に対して摺動する円筒形状のスプリング移動機構35が配置されている。なお、スプリング移動機構35は、本発明の「バネ移動機構部」の一例である。このスプリング移動機構35は、オイル室34内に配置され、オイル室34内を摺動する可動部35aを有する。また、スプリング移動機構35は、オイル室34外に配置され、スプリング31を上方から支持するとともに、スプリング31を押圧して圧縮させるための押圧部35bを有する。また、可動部35aは、オイル室34に流入するオイルを通過させるためのオリフィス35cを有している。なお、オリフィス35cは、本発明の「オイル通路」の一例である。また、可動部35aは、押圧部35bに当接する当接部35dを有している。なお、当接部35dは、本発明の「第1当接部」の一例である。また、スプリング移動機構35は、可動部35aと押圧部35bとから一体的に形成されている。また、スプリング移動機構35の可動部35aの外周面とオイル室34の内壁面との間には、ゴム製のオーリング35eが設けられている。また、スプリング移動機構35の可動部35aの内周面とシリンダ部22の外周面との間にも、ゴム製のオーリング35fが設けられている。なお、オーリング35eは、本発明の「第2シール部材」であり、オーリング35fは、本発明の「第1シール部材」の一例である。また、オイル通路34には、下方に移動するスプリング移動機構35の可動部35aと当接するように構成されたストッパ部34aが設けられている。このストッパ部34aの外周面とオイル通路34の内周面との間には、ゴム製のオーリング34bが設けられている。また、ストッパ部34aの内周面と可動部35aの内周面との間にも、オーリング34cが配置されている。
【0021】
また、本実施形態では、スプリング移動機構35は、ピストン部24がシリンダ部22内を上方に移動する移動速度に応じて、スプリング31を下方に押圧して圧縮することにより、スプリング31の付勢力を増加させるように構成されている。具体的には、スプリング移動機構35のオリフィス35cは、ピストン部24の上方に移動する移動速度が第1の速度を超えたときに、シリンダ部22のオイル通路22aからのオイルがオイル室34に流れ込んで、オリフィス35cを通過する際に、オイルの流速により、流動抵抗が生じるような径に設計されている。これにより、ピストン部24の上方に移動する速度が第1の速度以下の低速では、可動部35bは、移動しない一方、ピストン部24の上方に移動する速度が第1の速度を超える高速では、オリフィス35cの流動抵抗により、可動部35a(押圧部35b)は下方に移動するように構成されている。すなわち、スプリング移動機構35は、シリンダ部22のオイル通路22aからのオイルの流入速度によって移動量が変化して、スプリング31の圧縮量を変化させるように構成されている。
【0022】
また、スプリング移動機構35は、ピストン部24が下方に移動してリヤサスペンション18が伸長する際には、スプリング31の伸長方向への付勢力によって、押圧部35bは、上方向に押圧されることにより、スプリング移動機構35は、上方に移動される。
【0023】
また、本実施形態では、ピストン部24が上方に移動する移動速度が第2の速度を超える高速の場合には、スプリング移動機構35は、図5に示すような位置まで移動するように構成されている。この点については、後述する動作説明において詳細に説明する。
【0024】
次に、図2〜図6を参照して、本発明の一実施形態による自動二輪車1のリヤサスペンション18の動作について説明する。
【0025】
まず、リヤサスペンション18(図2参照)に圧縮する方向の力が作用した場合について説明する。リヤサスペンション18に圧縮する方向の力が作用すると、ピストン部24が上方向に移動することにより、オイルがオリフィス24aを通過する。これにより、減衰力が発生する。
【0026】
具体的には、図2に示すように、リヤサスペンション18に圧縮する方向の力が作用することにより、シリンダ部22に対してピストン部24およびロッド部25が上昇されると、上部オイル室23aの油圧が上昇し、ピストン部24のワッシャ24cが開かれる。そして、上部オイル室23a内のオイルが、ピストン部24のオリフィス24aを介してB方向に流れて、下部オイル室23b内に流入する。このとき、オイルがピストン部24のオリフィス24aを流れる際の流動抵抗により減衰力が生じる。
【0027】
ここで、本実施形態では、上部オイル室23aの油圧が上昇すると、上部オイル室23a内のオイルが、オイル通路22aを介してオイル室34に流入する。このとき、ピストン部24が、図3に示すリヤサスペンション18が伸びきり状態(最大伸長状態)の場合と比較して、長さL1だけ移動する移動速度が第1の速度V1(図6参照)未満の低速であれば、スプリング移動機構35のオリフィス35cにオイルが流入する際に、流動抵抗が発生しないので、図2に示すように、可動部35aは移動しない。また、ピストン部24が長さL1だけ移動する移動速度が第1の速度V1以上第2の速度V2(図6参照)未満の高速であれば、スプリング移動機構35のオリフィス35cにオイルが流入する際に、オイルの流動速度に応じた流動抵抗が発生するので、図4に示すように、可動部35aは、下方に押し下げられる。これにより、スプリング移動機構35は、下方に移動するので、押圧部35bにより、オイルの流動速度に応じた量だけスプリング31が圧縮される。
【0028】
また、ピストン部24が長さL1だけ移動する移動速度が第2の速度V2以上のさらなる高速になった場合には、スプリング移動機構35のオリフィス35cにオイルが流入する際のオイルの流動速度は、ピストン部24の移動速度が第1の速度V1以上第2の速度V2未満の場合よりも速い。これにより、スプリング移動機構35のオリフィス35cにオイルが流入する際の流動抵抗は、ピストン部24の移動速度が第1の速度V1以上第2の速度V2未満の場合より大きくなるので、可動部35aは、図5に示すようなオイル通路33gよりも下方の位置まで押し下げられる。その結果、押圧部35bは、長さL2だけ移動して、スプリング31はさらに圧縮されるとともに、オイルは、オイル通路33gからオイル室33bに直接流入する。
【0029】
このように、ピストン部24(図2参照)が長さL1だけ移動する場合でも、ピストン部24の移動速度が大きくなれば、スプリング移動機構35の移動量が大きくなるので、スプリング31(図2参照)は、圧縮する量が大きくなり、その分付勢力(荷重)も増大する。
【0030】
具体的には、図2および図6に示すように、ピストン部24(図2参照)の移動速度が第1の速度V1未満の低速のときには、スプリング移動機構35(図2参照)は、移動しないので、スプリング31(図2参照)は圧縮されず、付勢力(荷重)はピストン部24の移動速度が増加しても一定である。そして、図4および図6に示すように、ピストン部24(図4参照)の移動速度が第1の速度V1以上第2の速度V2未満の高速のときには、ピストン部24の移動速度に応じた移動量だけスプリング移動機構35(図4参照)が移動するので、スプリング31(図4参照)は、スプリング移動機構35の移動量と長さL1とを合計した分だけ圧縮されて、付勢力(荷重)は、スプリング移動機構35が移動しないときと比較して、ピストン部24の移動速度の増加分だけ増加する。さらに、図5および図6に示すように、ピストン部24(図5参照)の移動速度が第2の速度V2以上のさらなる高速のときには、スプリング移動機構35(図5参照)は、長さL2だけ移動するので、スプリング31(図5参照)は、長さL1と長さL2とを合計した分だけ圧縮されて、付勢力(荷重)は、スプリング移動機構35が移動しないときと比較して、スプリング31が圧縮する長さL2の分だけ増加する。このとき、スプリング移動機構35は、長さL2だけ移動した後には、可動部35aがストッパ部34aに当接することにより、下方に移動しないように構成されているので、スプリング移動機構35の付勢力(荷重)は増加しない。
【0031】
次に、リヤサスペンション18に伸長する方向の力が作用した場合について説明する。リヤサスペンション18に伸長する方向の力が作用すると、リヤサスペンション18が伸長されて、ピストン部24が下方に移動することにより、オイルがオリフィス24bを通過する。これにより、減衰力が発生する。
【0032】
具体的には、図2に示すように、リヤサスペンション18に伸長する方向の力が作用することにより、シリンダ部22に対してピストン部24およびロッド部25が下方に移動されると、下部オイル室23bの油圧が上昇し、ピストン部24のワッシャ24dが開かれる。そして、下部オイル室23b内のオイルが、ピストン部24のオリフィス24bを介してA方向に流れて、上部オイル室23a内に流入する。この際、上部オイル室23aの体積が拡大するため、サブタンク部33内のオイルが、オイル通路33gおよび22aを介して上部オイル室23aに流入する。この場合、オイルがピストン部24のオリフィス24bを流れる際の流動抵抗により、減衰力が発生する。
【0033】
また、リヤサスペンション18が伸長する際には、スプリング31は、スプリング移動機構35の押圧部35bを伸長方向に付勢するので、この付勢力によって、スプリング移動機構35が下方に移動されている場合には、上方に移動される。
【0034】
本実施形態では、後輪16とメインフレーム3とが相対的に移動するときの伸縮する力を減衰させる機能を有するリヤサスペンション18に、リヤサスペンション18を伸長する方向に付勢するスプリング31と、ピストン部24の移動速度に応じて、スプリング31の端部を付勢力(荷重)が増加する方向に移動させるスプリング移動機構35とを設けることによって、ピストン部24の移動速度に応じて、スプリング31の付勢力(荷重)を調節することができる。これにより、リヤサスペンション18を、ピストン部24の移動速度が大きくなるにつれてスプリング31の付勢力(荷重)が増加するように調節すれば、リヤサスペンション18が大きい速度で急激に圧縮される際には、スプリング31の増加された付勢力により、リヤサスペンション18が吸収可能なエネルギーを向上させることができる。その結果、ピストン部24が素早く移動することに起因するリヤサスペンション18内の部品の衝突(底付き現象)を有効に抑制することができる。また、リヤサスペンション18がゆっくりと圧縮する際には、スプリング31の付勢力を増加しないように調整すれば、運転者に加わる衝撃はスプリング31によって十分に吸収することができる。
【0035】
また、本実施形態では、シリンダ部22とサブタンク部33との間を連通し、シリンダ部22からのオイルをサブタンク部33へ流入させるためのオリフィス35cを設けるとともに、オリフィス35cに流入するオイルの流入速度によりスプリング31を圧縮させる量を変化させるように構成する。これによって、オリフィス35cの孔径をオイルが流れ込むことによって流動抵抗が発生するように設計すれば、スプリング移動機構35を、シリンダ部22からオリフィス35cに流れ込む際に発生する流動抵抗により移動させるように構成することができる。これにより、スプリング移動機構35に、シリンダ部22とサブタンク部33との間にオリフィス35cを設ける構成のみにより、スプリング移動機構35を移動させることができる。その結果、シリンダ部22からオリフィス35cに流れ込むオイルの流入速度に応じて、スプリング移動機構35をスプリング31が圧縮する方向に移動させることができる。
【0036】
また、本実施形態では、リヤサスペンション18のスプリング移動機構35を、オリフィス35cが連通する可動部35aと、可動部35aの移動に伴ってスプリング31の端部を押圧する押圧部35bとから構成する。これによって、容易に、スプリング移動機構35を移動させることにより、スプリング31を圧縮させて付勢力(荷重)を増加させるように構成することができる。
【0037】
また、本実施形態では、スプリング移動機構部35の可動部35aに押圧部35bに当接する当接部35dを設けることによって、可動部35aが移動することにより、押圧部35bを容易に移動させるように構成することできる。
【0038】
また、本実施形態では、スプリング移動機構35の可動部35aと押圧部35bとを一体的に形成することによって、スプリング移動機構35の部品点数が増加するのを抑制することができる。
【0039】
また、本実施形態では、スプリング移動機構35を、ピストン部24がリヤサスペンション18を圧縮させる方向に移動する速度が第1の速度V1を超えたときに、スプリング31を付勢力(荷重)が増加する方向に移動させるように構成する。これによって、ピストン部24が第1の速度V1を超える高速で移動してリヤサスペンション18が急激に圧縮される際には、スプリング移動機構35を下方に移動させることにより、スプリング31の付勢力が増加するように構成することができる。また、ピストン部24が第1の速度V1未満の低速で移動してリヤサスペンション18が圧縮する際には、スプリング移動機構35を移動させないように構成することにより、スプリング31の付勢力が増加しないように構成することができる。
【0040】
また、本実施形態では、リヤサスペンション18を、ピストン部24がリヤサスペンション18を圧縮する方向に移動する速度が第2の速度V2を超えたさらなる高速のときに、可動部35aが、サブタンク部33のオイル室33bに直接流入するような位置まで移動するように構成する。これにより、シリンダ部24の移動速度が大きくなることに起因してオリフィス35cの流動抵抗が大きくなることにより、オリフィス35cをオイルが通過しにくくなる場合にも、オイル通路33gから直接サブタンク部33のオイル室33bに流入させることができる。これにより、ピストン部24が上方向に移動することによりシリンダ部22の上部オイル室23a内の圧力が上昇することに起因してシリンダ部22が破損するのを抑制することができる。
【0041】
また、本実施形態では、リヤサスペンション18に、シリンダ部22のオイル室23とサブタンク部33のオイル室33bとの間に連通されるオイル室34を設け、スプリング移動機構35の可動部35aを、オイル室34内を摺動するように構成する。これによって、オイルがシリンダ部22のオイル室23からオイル通路34を介してサブタンク部33のオイル室33bに流れ込む際に、容易に、スプリング移動機構35を移動させることができる。
【0042】
また、本実施形態では、スプリング移動機構35の可動部35aを、シリンダ部22を取り囲むように円筒状に形成するとともに、シリンダ部22の外周面と可動部35aの内周面との間にオーリング35fを設けることによって、容易に、リヤサスペンション18の外部にオイルが流出することを抑制することができる。
【0043】
また、本実施形態では、オイル室34の内壁面と、可動部35aの外周面との間にオーリング35eを設けることによって、オイルがオイル室34の内壁面と可動部35aの外周面との間からオイル室34に流れ込むことを抑制することができる。
【0044】
また、本実施形態では、リヤサスペンション18に、上端部にピストン部24が取り付けられるロッド部25と、ロッド部25の下部に取り付けられるゴム部材30とをさらに設け、シリンダ部22の下端部に、ゴム部材30と当接する蓋部28を設ける。これにより、リヤサスペンション18が急激に大きく圧縮されることにより、ピストン部24およびロッド部25が上方向に移動して、図7に示すような蓋部28にゴム部材30が衝突する底付き現象が起きた際に、蓋部28が破損することをゴム部材30により抑制することができる。
【0045】
また、オフロード仕様の自動二輪車1に本実施形態のリヤサスペンション18を設けることによって、凹凸の大きい悪路を走行する機会が多いオフロード仕様の自動二輪車1において、底付き現象を有効に抑制することができる。
【0046】
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0047】
たとえば、上記実施形態では、懸架装置を備えた車両の一例としてオフロード仕様の自動二輪車を示したが、本発明はこれに限らず、懸架装置を備えた車両であれば、オフロード仕様以外の自動二輪車、自転車、三輪車、ATV(All Terrain Vehicle;不整地走行車両)などの他の車両にも適用可能である。
【0048】
また、上記実施形態では、減衰機構を有する懸架装置の一例としてのリヤサスペンションに本発明を適用した例について示したが、本発明はこれに限らず、リヤサスペンション以外の懸架装置にも本発明を適用可能である。
【0049】
また、上記実施形態では、オイルがオリフィスに流れ込むことよって流動抵抗が発生する例を示したが、本発明はこれに限らず、流動抵抗が発生する構成であれば、オリフィス以外の構成を適用してもよい。
【0050】
また、上記実施形態では、スプリング移動機構の可動部と押圧部とを一体的に形成する例を示したが、本発明はこれに限らず、可動部と押圧部とを別部材としてスプリング移動機構を構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の一実施形態による自動二輪車の全体構造を示した側面図である。
【図2】本発明の一実施形態による自動二輪車のリヤサスペンションの構造を説明するための断面図である。
【図3】本発明の一実施形態による自動二輪車のリヤサスペンションの構造を説明するための断面図である。
【図4】本発明の一実施形態による自動二輪車のリヤサスペンションの構造を説明するための断面図である。
【図5】本発明の一実施形態による自動二輪車のリヤサスペンションの構造を説明するための断面図である。
【図6】本発明の一実施形態による自動二輪車のリヤサスペンションのピストン部の移動速度とスプリングの付勢力との関係を説明するための図である。
【図7】本発明の一実施形態による自動二輪車のリヤサスペンションの構造を説明するための断面図である。
【符号の説明】
【0052】
1 自動二輪車(車両)
2 ヘッドパイプ(車体)
3 メインフレーム(車体)
4 シートレール(車体)
16 後輪(車輪)
18 リヤサスペンション(懸架装置)
22 シリンダ部(第1シリンダ部)
23 オイル室(第1液室)
24 ピストン部
25 ロッド部
28 蓋部(第2当接部)
30 ゴム部材(緩衝部材)
31 スプリング(バネ部材)
33 サブタンク部(第2シリンダ部)
33b オイル室(第2液室)
34 オイル室(第3液室)
35 スプリング移動機構(バネ移動機構部)
35a 可動部
35b 押圧部
35c オリフィス(オイル通路)
35d 当接部(第1当接部)
35e オーリング(第2シール部材)
35f オーリング(第1シール部材)
V1 第1の速度
V2 第2の速度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪と、
車体と、
前記車輪と前記車体との間に設けられるとともに、前記車輪と前記車体とが相対的に移動するときの伸縮する力を減衰させる機能を有する懸架装置とを備え、
前記懸架装置は、
前記懸架装置を伸長する方向に付勢するバネ部材と、
オイルが充填される第1液室を有する第1シリンダ部と、
前記第1シリンダ部の第1液室の内部に配置されるピストン部と、
前記第1シリンダ部の第1液室からのオイルが流入する第2液室を有する第2シリンダ部と、
前記ピストン部の移動速度に応じて、前記バネ部材の端部を付勢力が増加する方向に移動させるバネ移動機構部とを含む、車両。
【請求項2】
前記懸架装置のバネ移動機構部は、前記第1シリンダ部と前記第2シリンダとの間を連通し、前記第1シリンダ部からのオイルを前記第2シリンダ部へ流入させるためのオイル通路を有するとともに、前記オイル通路に流入するオイルの流入速度により前記バネ部材の端部を移動させる量を変化させるように構成されている、請求項1に記載の車両。
【請求項3】
前記懸架装置のバネ移動機構部は、前記第1シリンダからのオイルが前記オイル通路に流れ込む際に発生する流動抵抗によって前記バネ部材の端部を移動させるように構成されている、請求項2に記載の車両。
【請求項4】
前記懸架装置のバネ移動機構部は、前記オイル通路が設けられる可動部と、前記可動部の移動に伴って前記バネ部材の端部を押圧する押圧部とを有する、請求項2に記載の車両。
【請求項5】
前記バネ移動機構部の可動部は、前記押圧部に当接する第1当接部を有する、請求項4に記載の車両。
【請求項6】
前記懸架装置の可動部と押圧部とは、一体的に形成されている、請求項4に記載の車両。
【請求項7】
前記懸架装置のバネ移動機構部は、前記ピストン部が前記懸架装置を圧縮させる方向に移動する速度が第1の速度を超えたときに、前記バネ部材を付勢力が増加する方向に移動させるように構成されている、請求項1に記載の車両。
【請求項8】
前記懸架装置のバネ移動機構部は、前記第1シリンダ部と前記第2シリンダとの間を連通し、前記第1シリンダ部からのオイルを前記第2シリンダ部へ流入させるためのオイル通路と、前記オイル通路が設けられる可動部とを有し、
前記懸架装置は、前記ピストン部が前記懸架装置を圧縮させる方向に移動する速度が前記第1の速度よりも大きい第2の速度を超えたときに、前記可動部が、オイルが前記第2シリンダ部の第2液室に直接流入するような位置まで移動するように構成されている、請求項7に記載の車両。
【請求項9】
前記懸架装置は、前記第1シリンダ部の第1液室と前記第2シリンダ部の第2液室との間に連通される第3液室をさらに含み、
前記バネ移動機構部の可動部は、前記第3液室を摺動するように構成されている、請求項4に記載の車両。
【請求項10】
前記バネ移動機構部の可動部は、前記第1シリンダ部を取り囲むように筒状に形成されるとともに、少なくとも前記第1シリンダ部の外周面と前記可動部の内周面との間に第1シール部材を有している、請求項4に記載の車両。
【請求項11】
前記懸架装置は、前記第1シリンダ部の第1液室と前記第2シリンダ部の第2液室との間に第3液室をさらに含み、
前記可動部は、前記第3液室の内壁面と、前記可動部の外周面との間に第2シール部材を有している、請求項10に記載の車両。
【請求項12】
前記懸架装置は、一方端に前記ピストン部が取り付けられるロッド部と、
前記ロッド部の他方端側に取り付けられる緩衝部材とをさらに含み、
前記第1シリンダ部は、前記緩衝部材と当接する第2当接部を有している、請求項1に記載の車両。
【請求項13】
前記懸架装置は、リヤサスペンションである、請求項1に記載の車両。
【請求項14】
オフロード仕様の自動二輪車からなる、請求項1〜13のいずれか1項に記載の車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−101863(P2009−101863A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−275584(P2007−275584)
【出願日】平成19年10月23日(2007.10.23)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)
【Fターム(参考)】