説明

車室内無線通信装置

【課題】周波数リソースを無駄無く有効に使用し、チャネル全体の通信効率を高める。
【解決手段】複数のサブキャリアの個々について水平偏波アンテナである第1のアンテナ4dでの伝搬特性の良否を判定し、複数のサブキャリアのうち第1のアンテナ4dでの伝搬特性が良好であると判定したサブキャリアに送信データを割当てることで送信データを含む送信信号を第1のアンテナ4dから送信する一方で、複数のサブキャリアのうち第1のアンテナ4dでの伝搬特性が良好でないと判定したサブキャリアにも送信データを割当てることで送信データを含む送信信号を水平偏波アンテナである第2のアンテナ5dや垂直偏波アンテナである第3のアンテナ6dから送信する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材料からなる平坦な天井面を有する車室内に搭載され、超広帯域通信を行う車室内無線通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車室内における近距離無線通信としては車室内に持込まれた携帯電話機と車室内に設置されている車載ハンズフリー装置との間で行うBluetooth(登録商標)通信によるハンズフリー通話等が挙げられるが、近年では例えば車室内の前方に設置されている再生装置から車室内の後方に設置されている表示装置への動画データの転送等を目的とした超広帯域通信(UWB:Ultra Wide Band)の開発が進められている。超広帯域通信は1チャネルで528[MHz]の周波数帯域を使用し、1チャネルを128のサブキャリアに分割して直交多重する通信方式である。
【0003】
ところで、車室内の伝搬環境は周囲を金属ボデーに囲まれているマルチパス環境であり、サブキャリア毎に伝搬特性が異なるので、あるサブキャリアでは他のサブキャリアよりも受信電力が著しく低下し(所謂ディップが発生し)、同一のチャネル内でも伝搬特性が良好であるサブキャリアと良好でない(劣悪な)サブキャリアとが混在する場合がある。そこで、サブキャリア毎の伝搬特性に応じて送信データを割当てる構成(例えば特許文献1参照)や、送信データを割当てたサブキャリア毎に空間ダイバーシティを行うことで通信効率を高める構成が開示されている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−301006号公報
【特許文献2】特表2007−502072号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、伝搬特性が良好であるサブキャリアに送信データを割当てる一方で伝搬特性が良好でないサブキャリアに送信データを割当てない構成では、送信データを割当てないサブキャリアの分だけ周波数リソースが無駄になり、チャネル全体の通信効率が低下するという問題がある。又、送信データを割当てたサブキャリア毎に空間ダイバーシティを行うだけでは十分な効果を得ることができないという問題もある。
【0006】
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、周波数リソースを無駄無く有効に使用することができ、チャネル全体の通信効率を適切に高めることができる車室内無線通信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載した発明によれば、伝搬特性判定手段は、複数のサブキャリアの個々について一の水平偏波アンテナでの伝搬特性の良否を判定し、信号送信手段は、複数のサブキャリアのうち一の水平偏波アンテナでの伝搬特性が良好であると伝搬特性判定手段により判定されたサブキャリアに送信データを割当てることで送信データを含む送信信号を一の水平偏波アンテナから送信し、その一方で、複数のサブキャリアのうち一の水平偏波アンテナでの伝搬特性が良好でないと伝搬特性判定手段により判定されたサブキャリアにも送信データを割当てることで送信データを含む送信信号を他の水平偏波アンテナ及び垂直偏波アンテナの何れから送信し、一の水平偏波アンテナと他の水平偏波アンテナ及び垂直偏波アンテナの何れかとによりダイバーシティを行う。
【0008】
これにより、一の水平偏波アンテナでの伝搬特性が良好であるサブキャリアと良好でないサブキャリアとが混在する場合であっても、一の水平偏波アンテナでの伝搬特性が良好であると判定されたサブキャリアに送信データを割当てることで送信データを含む送信信号を一の水平偏波アンテナから送信するだけでなく、一の水平偏波アンテナでの伝搬特性が良好でないと判定されたサブキャリアにも送信データを割当てることで送信データを含む送信信号を他の水平偏波アンテナ及び垂直偏波アンテナの何れから送信し、即ち、送信データを割当てないサブキャリアを発生することなく、一の水平偏波アンテナと他の水平偏波アンテナ及び垂直偏波アンテナの何れかとによりダイバーシティを行うことにより、周波数リソースを無駄無く有効に使用することができ、チャネル全体の通信効率を適切に高めることができる。
【0009】
即ち、請求項1に記載した発明は、車室内の伝搬環境が周囲を金属ボデーに囲まれているマルチパス環境であり、特に平坦な天井面は反射波の伝搬経路として有効であり、又、超広帯域通信では空間での伝送損失が大きく、複数回の反射を行う反射波は伝搬経路長が大きくなって殆ど減衰して到達しないという事情から、車室内では直接波と平坦な天井面での(1回の反射を行う)反射波とが支配的であり、送受信間で偏波面が変化することがない点、水平偏波アンテナが一般的に仰角方向に無指向性を有して天井方向への反射経路を利用し易い点に着目し、基本的には一の水平偏波アンテナから送信信号を送信し、一の水平偏波アンテナでの伝搬特性が良好でないと判定されたサブキャリアにも送信データを割当てることで他の水平偏波アンテナ及び垂直偏波アンテナの何れかから送信信号を送信することにより、チャネル全体の通信効率を高めるものである。
【0010】
請求項2に記載した発明によれば、伝搬特性判定手段は、複数のサブキャリアのうち一の水平偏波アンテナでの伝搬特性が良好でないと伝搬特性判定手段により判定されたサブキャリアの個々について他の水平偏波アンテナでの伝搬特性の良否を判定し、信号送信手段は、複数のサブキャリアのうち一の水平偏波アンテナでの伝搬特性が良好でないと伝搬特性判定手段により判定されたサブキャリアのうち他の水平偏波アンテナでの伝搬特性が良好であると伝搬特性判定手段により判定されたサブキャリアにも送信データを割当てることで送信データを含む送信信号を他の水平偏波アンテナから送信し、一の水平偏波アンテナと他の水平偏波アンテナとにより空間ダイバーシティを行う。これにより、空間ダイバーシティを行うことにより、周波数リソースを無駄無く有効に使用することができ、チャネル全体の通信効率を適切に高めることができる。
【0011】
請求項3に記載した発明によれば、信号送信手段は、複数のサブキャリアのうち一の水平偏波アンテナでの伝搬特性が良好でないと伝搬特性判定手段により判定されたサブキャリアのうち他の水平偏波アンテナでの伝搬特性が良好でないと伝搬特性判定手段により判定されたサブキャリアにも送信データを割当てることで送信データを含む送信信号を垂直偏波アンテナから送信し、一の水平偏波アンテナと他の水平偏波アンテナとにより空間ダイバーシティを行うと共に、一の水平偏波アンテナ及び他の水平偏波アンテナと垂直偏波アンテナとにより偏波ダイバーシティを行う。これにより、空間ダイバーシティと偏波ダイバーシティとを行う(併用する)ことにより、周波数リソースを無駄無く有効に使用することができ、チャネル全体の通信効率を適切に高めることができる。即ち、通信相手である通信機器が車室内に持込まれた携帯通信機器(モバイル機器)である場合には、使用場所や向きを特定困難であり、垂直偏波アンテナである場合も想定されるという事情から、そのような場合であっても偏波ダイバーシティを行うことでチャネル全体の通信効率を適切に高めることができる。
【0012】
請求項4に記載した発明によれば、伝搬特性判定手段は、複数のサブキャリアのうち一の水平偏波アンテナでの伝搬特性が良好でないと伝搬特性判定手段により判定されたサブキャリアの個々について垂直偏波アンテナでの伝搬特性の良否を判定し、信号送信手段は、複数のサブキャリアのうち一の水平偏波アンテナでの伝搬特性が良好でないと伝搬特性判定手段により判定されたサブキャリアのうち垂直偏波アンテナでの伝搬特性が良好であると伝搬特性判定手段により判定されたサブキャリアにも送信データを割当てることで送信データを含む送信信号を垂直偏波アンテナから送信し、一の水平偏波アンテナと垂直偏波アンテナとにより偏波ダイバーシティを行う。これにより、偏波ダイバーシティを行うことにより、周波数リソースを無駄無く有効に使用することができ、チャネル全体の通信効率を適切に高めることができる。即ち、通信相手である通信機器が車室内に持込まれた携帯通信機器である場合には、使用場所や向きを特定困難であり、垂直偏波アンテナである場合も想定されるという事情から、そのような場合であっても偏波ダイバーシティを行うことでチャネル全体の通信効率を適切に高めることができる。
【0013】
請求項5に記載した発明によれば、信号送信手段は、複数のサブキャリアのうち一の水平偏波アンテナでの伝搬特性が良好でないと伝搬特性判定手段により判定されたサブキャリアのうち垂直偏波アンテナでの伝搬特性が良好でないと伝搬特性判定手段により判定されたサブキャリアにも送信データを割当てることで送信データを含む送信信号を他の水平偏波アンテナから送信し、一の水平偏波アンテナ及び他の水平偏波アンテナと垂直偏波アンテナとにより偏波ダイバーシティを行うと共に、一の水平偏波アンテナと他の水平偏波アンテナとにより空間ダイバーシティを行う。これにより、偏波ダイバーシティと空間ダイバーシティとを行うことにより、周波数リソースを無駄無く有効に使用することができ、チャネル全体の通信効率を適切に高めることができる。
【0014】
請求項6に記載した発明によれば、一の水平偏波アンテナ、他の水平偏波アンテナ及び垂直偏波アンテナは、車両の天井方向への指向性を有する。これにより、車両の天井面と車室内に乗込んでいる乗員との隙間を伝搬経路とすることができ、乗員が要因となる損失を回避することで伝搬特性をより一層高めることができる。又、車両の天井面で反射させることで伝搬経路長を長くすることができ、通信範囲を広げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態を示す機能ブロック図
【図2】フローチャート
【図3】測定環境を示す図
【図4】測定結果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明一実施形態について、図面を参照して説明する。図1は車室内無線通信装置における本発明に関連する部分を機能ブロック図により示している。車室内無線通信装置1は、エンコーダ2と、インターリーバ3と、第1の信号送信部4(本発明でいう信号送信手段)と、第2の信号送信部5(本発明でいう信号送信手段)と、第3の信号送信部6(本発明でいう信号送信手段)と、伝搬特性判定部7(本発明でいう伝搬特性判定手段)と、ダイバーシティ制御部8とを備えて構成されている。尚、車室内無線通信装置1は、上記した機能ブロックの他に、車両の現在位置を特定する機能、目的地を設定する機能、地図データを読出す機能、車両の現在位置を地図データ上にマップマッチングする機能、車両の現在位置から目的地までの経路を探索する機能、探索した経路を案内する機能等を有する車載ナビゲーション装置から構成されていても良い。
【0017】
車室内無線通信装置1は、1チャネルで528[MHz]の周波数帯域を使用し、1チャネルを128のサブキャリアに分割して直交多重する超広帯域通信を行う。エンコーダ2は、外部から入力した送信データを所定のアルゴリズムにしたがって符号化して出力する。インターリーバ3は、エンコーダから入力した送信データを第1の信号送信部4乃至第3の信号送信部6の何れかに選択的に出力する(分配する)。
【0018】
第1の信号送信部4は、インターリーバ3から入力した送信データを変調処理して出力する第1の変調部4aと、第1の変調部4aから入力した変調処理後の送信データを逆高速変換処理して出力する第1のIFFT(逆高速変換)部4bと、第1のIFFT部4bから入力した逆高速変換処理後の送信データをRF処理して送信信号を生成する第1のRF部4cとを備え、水平偏波アンテナからなる第1のアンテナ4d(本発明でいう一の水平偏波アンテナ)から送信信号を送信する。又、第1のRF部4cは、第1のアンテナ4dが外部から受信した受信信号の受信電力を伝搬特性判定部7に出力する。
【0019】
第2の信号送信部5は、第1の信号送信部4と同様の構成であり、インターリーバ3から入力した送信データを変調処理して出力する第2の変調部5aと、第2の変調部5aから入力した変調処理後の送信データを逆高速変換処理して出力する第2のIFFT部5bと、第2のIFFT部5bから入力した逆高速変換処理後の送信データをRF処理して送信信号を生成する第2のRF部5cとを備え、上記した第1のアンテナ4dと同じく水平偏波アンテナからなる第2のアンテナ5d(本発明でいう他の水平偏波アンテナ)から送信信号を送信する。又、第2のRF部5cは、第2のアンテナ5dが外部から受信した受信信号の受信電力を伝搬特性判定部7に出力する。
【0020】
第3の信号送信部6は、アンテナの偏波特性以外は第1の信号送信部4及び第2の信号送信部5と同様の構成であり、インターリーバ3から入力した送信データを変調処理して出力する第3の変調部6aと、第3の変調部6aから入力した変調処理後の送信データを逆高速変換処理して出力する第3のIFFT部6bと、第3のIFFT部6bから入力した逆高速変換処理後の送信データをRF処理して送信信号を生成する第3のRF部6cとを備え、垂直偏波アンテナからなる第3のアンテナ6d(本発明でいう垂直偏波アンテナ)から送信信号を送信する。又、第3のRF部6cは、第3のアンテナ6dが外部から受信した受信信号の受信電力を伝搬特性判定部7に出力する。
【0021】
上記した第1のアンテナ4d、第2のアンテナ5d及び第3のアンテナ6dは、車室内無線通信装置1の筐体内部に組込まれており(内蔵されており)、何れも車両の天井方向への指向性を有するように設置されている。
【0022】
伝搬特性判定部7は、第1のRF部4cから入力した受信電力を予め設定している第1の基準値(第1の閾値)と比較判定することで第1のアンテナ4dが外部から受信した受信信号の伝搬特性の良否を判定し、第2のRF部5cから入力した受信電力を予め設定している第2の基準値(第2の閾値)と比較判定することで第2のアンテナ5dが外部から受信した受信信号の伝搬特性の良否を判定し、第3のRF部6cから入力した受信電力を予め設定している第3の基準値(第3の閾値)と比較判定することで第3のアンテナ6dが外部から受信した受信信号の伝搬特性の良否を判定し、それらの判定結果をダイバーシティ制御部8に出力する。尚、この場合、第1の基準値、第2の基準値及び第3の基準値は、同じ値であっても良いし異なる値であっても良い。
【0023】
ダイバーシティ制御部8は、伝搬特性判定部7から入力した判定結果に基づいて送信データのサブキャリアへの割当てを決定して割当指令をインターリーバ3に出力し、インターリーバ3は、ダイバーシティ制御部8から入力した割当指令に基づいて第1の信号送信部4乃至第3の信号送信部6の何れかを選択し、エンコーダ2から入力した送信データを第1の信号送信部4乃至第3の信号送信部6のうち選択した何れかに出力する。
【0024】
次に、上記した構成の作用について、図2乃至図4を参照して説明する。
車室内無線通信装置1は、本発明に関連する処理として以下に説明する処理を行う。即ち、車室内無線通信装置1は、水平偏波アンテナである第1のアンテナ4dで受信した受信信号における例えば最も低周波側のサブキャリアを判定対象として選択し(ステップS1)、その判定対象として選択したサブキャリアの第1のアンテナ4dでの受信電力を第1のRF部4cにてモニタする(ステップS2)。そして、車室内無線通信装置1は、モニタしたサブキャリアの受信電力を伝搬特性判定部7にて第1の基準値と比較判定し、その判定対象としたサブキャリアの第1のアンテナ4dでの伝搬特性が良好であるか否かを判定する(ステップS3)。
【0025】
ここで、車室内無線通信装置1は、判定対象としたサブキャリアの受信電力が第1の基準値以上であり、その判定対象としたサブキャリアの第1のアンテナ4dでの伝搬特性が良好であると判定すると(ステップS3にて「YES」)、送信データが第1の信号送信部4に出力されるようにダイバーシティ制御部8にて送信データを割当てることにより、その伝搬特性が良好であると判定したサブキャリアに第1の信号送信部4において送信データを割当て(ステップS4)、判定対象としたサブキャリアの例えば高周波側に隣接するサブキャリアが有るか否かを判定し、次の判定対象が有るか否かを判定する(ステップS5)。
【0026】
次いで、車室内無線通信装置1は、判定対象としたサブキャリアの例えば高周波側に隣接するサブキャリが有ると判定し、次の判定対象が有ると判定すると(ステップS5にて「YES」)、例えば高周波側に隣接するサブキャリアを次の判定対象として選択し(ステップS6)、上記したステップS2以降の処理を繰返して行う。即ち、車室内無線通信装置1は、複数のサブキャリアの個々について第1のアンテナ4dでの伝搬特性が良好であるか否かを判定し、伝搬特性が良好であると判定したサブキャリアに第1の信号送信部4において送信データを割当てる一方で、伝搬特性が良好でないと判定したサブキャリアに第1の信号送信部4において送信データを割当てることなく後段の処理を行う。
【0027】
一方、車室内無線通信装置1は、判定対象としたサブキャリアの受信電力が第1の基準値以上でなく、その判定対象としたサブキャリアの第1のアンテナ4dでの伝搬特性が良好でないと判定すると(ステップS3にて「NO」)、その判定対象として選択したサブキャリアの第2のアンテナ5dでの受信電力を第2のRF部5cにてモニタする(ステップS7)。そして、車室内無線通信装置1は、モニタしたサブキャリアの受信電力を伝搬特性判定部7にて第2の基準値と比較判定し、その判定対象としたサブキャリアの第2のアンテナ5dでの伝搬特性が良好であるか否かを判定する(ステップS8)。
【0028】
ここで、車室内無線通信装置1は、判定対象としたサブキャリアの受信電力が第2の基準値以上であり、その判定対象としたサブキャリアの第2のアンテナ5dでの伝搬特性が良好であると判定すると(ステップS8にて「YES」)、送信データが第2の信号送信部5に出力されるようにダイバーシティ制御部8にて送信データを割当てることにより、その伝搬特性が良好であると判定したサブキャリアに第2の信号送信部5において送信データを割当てる(ステップS9)。一方、車室内無線通信装置1は、判定対象としたサブキャリアの受信電力が第2の基準値以上でなく、その判定対象としたサブキャリアの第2のアンテナ5dでの伝搬特性が良好でないと判定すると(ステップS8にて「NO」)、送信データが第3の信号送信部6に出力されるようにダイバーシティ制御部8にて送信データを割当てることにより、その伝搬特性が良好でないと判定したサブキャリアに第3の信号送信部6において送信データを割当てる(ステップS10)。
【0029】
そして、車室内無線通信装置1は、このようにして全てのサブキャリアに第1の信号送信部4、第2の信号送信部5及び第3の信号送信部6の何れかにおいて送信データを割当てた後に、その送信データを含む送信信号を第1のアンテナ4d、第2のアンテナ5d及び第3のアンテナ6dの何れかから送信する(ステップS11)。
【0030】
このように車室内無線通信装置1は、水平偏波アンテナである第1のアンテナ4dから送信する送信信号のサブキャリア、水平偏波アンテナである第2のアンテナ5dから送信する送信信号のサブキャリア、垂直偏波アンテナである第3のアンテナ6dから送信する送信信号のサブキャリアの何れかに送信データを割当てることで、第1のアンテナ4dと第2のアンテナ5dとにより空間ダイバーシティを行い、第1のアンテナ4d及び第2のアンテナ5dと垂直偏波アンテナ6dとにより偏波ダイバーシティを行う。
【0031】
即ち、本実施形態は、車室内の伝搬環境が周囲を金属ボデーに囲まれているマルチパス環境であり、特に平坦な天井面は反射波の伝搬経路として有効であり、又、超広帯域通信では空間での伝送損失が大きく、複数回の反射を行う反射波は伝搬経路長が大きくなって殆ど減衰して到達しないという事情から、車室内では直接波と平坦な天井面での反射波とが支配的であり、送受信間で偏波面が変化することがない点、水平偏波アンテナが一般的に仰角方向に無指向性を有し、天井方向への反射経路を利用し易い点に着目し、基本的には水平偏波アンテナである第1のアンテナ4dから送信信号を送信し、第1のアンテナ4dでの伝搬特性が良好でないと判定したサブキャリアにも送信データを割当てることで水平偏波アンテナである第2のアンテナ5dや垂直偏波アンテナである第3のアンテナ6dから送信信号を送信し、チャネル全体の通信効率を高めようとする技術思想である。
【0032】
さて、発明者は上記した本実施形態の構成を採用することで通信効率がどの程度改善されるかを測定した。図3は測定環境を示し、図4は測定結果を示している。即ち、前列シート11と中列シート12と後列シート13とを有する所謂3列シートの車両の車室内を測定環境の対象とし、上記した車室内無線通信装置1(第1のアンテナ4d、第2のアンテナ5d、第3のアンテナ6d)が前列シート11よりも車両前側のダッシュボード付近に設置され、通信相手となる通信機器が後列シート13に置かれた環境を想定し、車室内無線通信装置1から測定範囲(ハッチングにて示す範囲)中心までの距離が約200[cm]、車両方向の幅が約48[cm]、車幅方向の幅が約100[cm]、車室内床面からの高さが約75[cm]の範囲を測定範囲として受信電力を測定し、全面積に対する基準値以上の受信電力が得られなかった面積を計算することで受信感度以下の面積の割合を測定した。
【0033】
図4における「ダイバーシティ無し」は第1のアンテナ4dだけから送信信号を送信した場合(空間ダイバーシティ及び偏波ダイバーシティ無し)を示し、「空間ダイバーシティ」は、第1のアンテナ4dと第2のアンテナ5dとから送信信号を空間ダイバーシティを行って送信した場合を示し、「偏波ダイバーシティ」は、第1のアンテナ4dと第3のアンテナ6dとから送信信号を偏波ダイバーシティを行って送信した場合を示している。図4から明らかなように、空間ダイバーシティを行う構成ではダイバーシティを行わない構成よりも受信感度以下の面積の割合が著しく低下しており、又、偏波ダイバーシティを行う構成ではダイバーシティを行わない構成よりも受信感度以下の面積の割合が更に著しく低下しており、本実施形態の構成を採用することで通信効率が改善されると結論付けることができる。
【0034】
ところで、上記した構成では、第1のアンテナ4dと第2のアンテナ5dとの2本の水平偏波アンテナ及び第3のアンテナ6dの1本の垂直偏波アンテナを有する構成を説明したが、3本以上の水平偏波アンテナを有する構成であっても良いし、2本以上の垂直偏波アンテナを有する構成であっても良く、3本以上の水平偏波アンテナと2本以上の垂直偏波アンテナとをどのように組み合わせても良い。又、上記した構成では、判定対象としたサブキャリアの第1のアンテナ4dでの伝搬特性が良好でないと判定した場合に、その直後に、判定対象としたサブキャリアの水平偏波アンテナである第2のアンテナ5dでの伝搬特性が良好であるか否かを判定する、即ち、水平偏波アンテナである第2のアンテナ5dを優先して伝搬特性を判定するようにしたが、判定対象としたサブキャリアの垂直偏波アンテナである第3のアンテナ6dでの伝搬特性が良好であるか否かを判定する、即ち、垂直偏波アンテナである第3のアンテナ6dを優先して伝搬特性を判定するようにしても良い。
【0035】
以上に説明したように本実施形態によれば、車室内無線通信装置1において、複数のサブキャリアの個々について水平偏波アンテナである第1のアンテナ4dでの伝搬特性の良否を判定し、複数のサブキャリアのうち第1のアンテナ4dでの伝搬特性が良好であると判定したサブキャリアに送信データを割当てることで送信データを含む送信信号を第1のアンテナ4dから送信し、その一方で、複数のサブキャリアのうち第1のアンテナ4dでの伝搬特性が良好でないと判定したサブキャリアにも送信データを割当てることで送信データを含む送信信号を水平偏波アンテナである第2のアンテナ5dや垂直偏波アンテナである第3のアンテナ6dから送信し、第1のアンテナ4dと第2のアンテナ5dとにより空間ダイバーシティを行い、第1のアンテナ4dや第2のアンテナ5dと第3のアンテナ6dとにより偏波ダイバーシティを行うように構成した。これにより、送信データを割当てないサブキャリアを発生することなく、空間ダイバーシティや偏波ダイバーシティを行うことにより、周波数リソースを無駄無く有効に使用することができ、チャネル全体の通信効率を適切に高めることができる。
【0036】
又、偏波ダイバーシティを行うことにより、通信相手である通信機器が車室内に持込まれた携帯通信機器である場合には、使用場所や向きを特定困難であり、垂直偏波アンテナである場合も想定されるという事情から、そのような場合であっても偏波ダイバーシティを行うことでチャネル全体の通信効率を適切に高めることができる。
【0037】
更に、第1のアンテナ4d、第2のアンテナ5d及び第3のアンテナ6dが車両の天井方向への指向性を有することにより、車両の天井面と車室内に乗込んでいる乗員との隙間を伝搬経路とすることができ、乗員が要因となる損失を回避することで伝搬特性をより一層高めることができ、又、車両の天井面で反射させることで伝搬経路長を長くすることができ、通信範囲を広げることができる。
【0038】
本発明は、上記した実施形態にのみ限定されるものではなく、以下のように変形又は拡張することができる。
車室内無線通信装置は、ナビゲーション機能を有する車載ナビゲーション装置に限らず、ハンズフリー機能を有する車載ハンズフリー装置であっても良いし、ハンズフリー機能及びナビゲーション機能を有するハンズフリー機能付き車載ハンズフリー装置等であっても良い。
【符号の説明】
【0039】
図面中、1は車室内無線通信装置、4は第1の信号送信部(信号送信手段)、4dは第1のアンテナ(一の水平偏波アンテナ)、5は第2の信号送信部(信号送信手段)、5dは第2のアンテナ(他の水平偏波アンテナ)、6は第3の信号送信部(信号送信手段)、
6dは第3のアンテナ(垂直偏波アンテナ)、7は伝搬特性判定部(伝搬特性判定手段)
である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料からなる平坦な天井面を有する車室内に搭載され、超広帯域通信を行う車室内無線通信装置であって、
一の水平偏波アンテナと他の水平偏波アンテナとの2つ以上の水平偏波アンテナと、
1つ以上の垂直偏波アンテナと、
超広帯域の1チャネルを構成する複数のサブキャリアの個々の伝搬特性の良否を判定する伝搬特性判定手段と、
サブキャリアに送信データを割当てることで当該送信データを含む送信信号を何れかのアンテナから送信する信号送信手段とを備え、
前記伝搬特性判定手段は、複数のサブキャリアの個々について前記一の水平偏波アンテナでの伝搬特性の良否を判定し、
前記信号送信手段は、複数のサブキャリアのうち当該一の水平偏波アンテナでの伝搬特性が良好であると前記伝搬特性判定手段により判定されたサブキャリアに送信データを割当てることで当該送信データを含む送信信号を当該一の水平偏波アンテナから送信する一方で、複数のサブキャリアのうち当該一の水平偏波アンテナでの伝搬特性が良好でないと前記伝搬特性判定手段により判定されたサブキャリアにも送信データを割当てることで当該送信データを含む送信信号を他の水平偏波アンテナ及び垂直偏波アンテナの何れから送信し、当該一の水平偏波アンテナと当該他の水平偏波アンテナ及び当該垂直偏波アンテナの何れかとによりダイバーシティを行うことを特徴とする車室内無線通信装置。
【請求項2】
請求項1に記載した車室内無線通信装置において、
前記伝搬特性判定手段は、複数のサブキャリアのうち当該一の水平偏波アンテナでの伝搬特性が良好でないと前記伝搬特性判定手段により判定されたサブキャリアの個々について前記他の水平偏波アンテナでの伝搬特性の良否を判定し、
前記信号送信手段は、複数のサブキャリアのうち当該一の水平偏波アンテナでの伝搬特性が良好でないと前記伝搬特性判定手段により判定されたサブキャリアのうち当該他の水平偏波アンテナでの伝搬特性が良好であると前記伝搬特性判定手段により判定されたサブキャリアにも送信データを割当てることで当該送信データを含む送信信号を当該他の水平偏波アンテナから送信し、当該一の水平偏波アンテナと当該他の水平偏波アンテナとにより空間ダイバーシティを行うことを特徴とする車室内無線通信装置。
【請求項3】
請求項2に記載した車室内無線通信装置において、
前記信号送信手段は、複数のサブキャリアのうち当該一の水平偏波アンテナでの伝搬特性が良好でないと前記伝搬特性判定手段により判定されたサブキャリアのうち当該他の水平偏波アンテナでの伝搬特性が良好でないと前記伝搬特性判定手段により判定されたサブキャリアにも送信データを割当てることで当該送信データを含む送信信号を垂直偏波アンテナから送信し、当該一の水平偏波アンテナと当該他の水平偏波アンテナとにより空間ダイバーシティを行うと共に、当該一の水平偏波アンテナ及び当該他の水平偏波アンテナと当該垂直偏波アンテナとにより偏波ダイバーシティを行うことを特徴とする車室内無線通信装置。
【請求項4】
請求項1に記載した車室内無線通信装置において、
前記伝搬特性判定手段は、複数のサブキャリアのうち当該一の水平偏波アンテナでの伝搬特性が良好でないと前記伝搬特性判定手段により判定されたサブキャリアの個々について前記垂直偏波アンテナでの伝搬特性の良否を判定し、
前記信号送信手段は、複数のサブキャリアのうち当該一の水平偏波アンテナでの伝搬特性が良好でないと前記伝搬特性判定手段により判定されたサブキャリアのうち当該垂直偏波アンテナでの伝搬特性が良好であると前記伝搬特性判定手段により判定されたサブキャリアにも送信データを割当てることで当該送信データを含む送信信号を当該垂直偏波アンテナから送信し、当該一の水平偏波アンテナと当該垂直偏波アンテナとにより偏波ダイバーシティを行うことを特徴とする車室内無線通信装置。
【請求項5】
請求項4に記載した車室内無線通信装置において、
前記信号送信手段は、複数のサブキャリアのうち当該一の水平偏波アンテナでの伝搬特性が良好でないと前記伝搬特性判定手段により判定されたサブキャリアのうち当該垂直偏波アンテナでの伝搬特性が良好でないと前記伝搬特性判定手段により判定されたサブキャリアにも送信データを割当てることで当該送信データを含む送信信号を他の水平偏波アンテナから送信し、当該一の水平偏波アンテナ及び当該他の水平偏波アンテナと当該垂直偏波アンテナとにより偏波ダイバーシティを行うと共に、当該一の水平偏波アンテナと当該他の水平偏波アンテナとにより空間ダイバーシティを行うことを特徴とする車室内無線通信装置。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか1項に記載した車室内無線通信装置において、
前記一の水平偏波アンテナ、前記他の水平偏波アンテナ及び前記垂直偏波アンテナは、車両の天井方向への指向性を有することを特徴とする車室内無線通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−278520(P2010−278520A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−126414(P2009−126414)
【出願日】平成21年5月26日(2009.5.26)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】