説明

軸受装置用のブッシュ

【課題】 ブッシュの空孔側に潤滑剤保持層を設けることにより、潤滑剤の含浸作業を簡略化でき、信頼性や寿命を向上することができるようにする。
【解決手段】 ブッシュ20を構成する筒状体21は、例えば3〜30重量%、好ましくは10〜20重量%の銅を不可避成分として含有した鉄系焼結合金材料により連続した空孔22を有する多孔質構造に形成し、その気孔率を5〜30%に設定する。そして、ブッシュ20のピン挿嵌穴20Aには、その表面側に高硬度処理を施した状態で、例えばリン酸マンガン皮膜処理を代表とするリン酸塩浴化成処理を行うことにより、表面改質処理された化成層からなる潤滑剤保持層23を形成する。ブッシュ20には、その深さ方向を含めた3次元で互いに連続した空孔22の表面全体にわたって潤滑剤保持層23を形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば油圧ショベル等の建設機械に装備される作業装置のピン結合部等に滑り軸受として好適に用いられる軸受装置用のブッシュに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、油圧ショベル等の建設機械は、例えば土砂等の掘削作業を行う作業装置を備え、この作業装置を構成するブーム、アームおよびバケット等を互いに回動可能に連結するために軸受装置を設ける構成としている。
【0003】
この種の従来技術による軸受装置は、前記ブーム、アームおよびバケットのうち一方の部材に設けられ内周側にブッシュが嵌着されたボス部材と、このボス部材の左,右両側に配置された相手方部材となる一対のブラケットと、これら各ブラケット間にボス部材を回動可能に連結する連結ピンとにより構成されている。
【0004】
そして、このような従来技術にあっては、ボス部材とブラケットとを連結ピンを介して円滑に回動(相対回転)させるため、油圧ショベルの稼動時間が一定時間を経過する毎に、ブッシュと連結ピンとの間に外部から潤滑油を給脂し、両者の間を常に潤滑状態に保持するようにしている。
【0005】
一方、このような潤滑油の給脂間隔を可能な限り延ばして、実質的に無給脂とするために、ブッシュを多孔質な鉄系焼結金属材料により形成し、このブッシュの空孔内に高い粘度を有する潤滑油を含浸させる構成とした軸受装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
この場合、ブッシュの空孔内に含浸した高粘度の潤滑油は、ブッシュのピン挿嵌穴内で連結ピンが摺動(回動)するときの摩擦熱等により粘度が下がり、空孔内からブッシュと連結ピンとの摺動面間に滲み出すようになり、この状態で連結ピンとブッシュとの摺動面に潤滑用の油膜を形成するものである。
【0007】
【特許文献1】特許第2832800号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上述した従来技術による軸受装置では、多孔質な鉄系焼結材料を用いて形成したブッシュの各空孔内に対し、これらの空孔による毛細管現象を利用して高粘度の潤滑油を含浸させるものである。このため、例えば潤滑油を加熱するための加熱機器を有した真空チャンバ装置等を用いる必要が生じており、この真空チャンバ装置によって全体設備が複雑化し、油の含浸作業も煩雑化するという問題がある。
【0009】
また、この場合の空孔は、潤滑油の含浸量を増やすために空孔を大きくしようとすると、毛細管現象による油液の吸い上げ力が小さくなり、結果的に十分な液量の潤滑油を空孔内に保持することができない。逆に、空孔を小さくすると、これに伴って潤滑油の含浸量が減少してしまうという問題がある。
【0010】
さらに、ブッシュの空孔内に含浸させた高粘度の潤滑油は、ブッシュ内で連結ピンが摺動(回動)するときの摩擦熱により粘度がある程度下がった状態で、空孔内からブッシュと連結ピンとの間の摺動面に滲み出すようになる。しかし、軸受装置の作動開始直後で未だ摩擦熱が十分に発生する前の段階では、空孔内の潤滑油は粘度が高く、摺動面への滲出しも遅れてしまう。
【0011】
このため、軸受装置の作動開始直後には、ブッシュと連結ピンとの間の摺動面に潤滑油が滲出すまでに時間遅れ(タイムラグ)が発生し、このタイムラグ中に摺動が終了するようなフレッチング現象においては、連結ピンとブッシュとの摺動面に潤滑用の油膜を形成することができず、異常摩耗や異音が発生し易くなるという問題がある。
【0012】
本発明は上述した従来技術の問題に鑑みなされたもので、本発明の目的は、軸受装置の作動開始直後にも連結ピンとの摺動面に潤滑剤を迅速に供給することができ、異常摩耗や異音の発生を防止できると共に、潤滑剤の含浸作業を簡略化することができ、信頼性や寿命を向上することができるようにした軸受装置用のブッシュを提供することにある。
【0013】
また、本発明の他の目的は、潤滑剤保持層を設けることによって、空孔による毛細管現象よりも潤滑剤の浸透保持性能を高めることができ、数年間以上の長期間にわたって潤滑剤を保持し続け、潤滑性能を向上することができるようにした軸受装置用のブッシュを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述した課題を解決するため、本発明は、高荷重下で低速駆動される軸受装置に用いるため、鉄系焼結金属材料により筒状体として形成され内周側に連結ピンが摺動可能に挿嵌されるピン挿嵌穴を有してなる軸受装置用のブッシュに適用される。
【0015】
そして、請求項1の発明が採用する構成の特徴は、前記筒状体は、不可避成分の銅を少なくとも3重量%以上含有した鉄系焼結合金材料を用いて、気孔率が5〜30%の連続した空孔を有する構成とし、前記ピン挿嵌穴の表面側には、高硬度処理を施した状態で、皮膜処理法による表面改質処理が行われた化成層からなる潤滑剤保持層を設ける構成としたことにある。
【0016】
また、請求項2の発明によると、前記高硬度処理には、高周波焼入れ処理、浸炭焼入れ処理、ガス軟窒化処理または各種の窒化処理を用いる構成としている。
【0017】
また、請求項3の発明によると、前記表面改質処理は、塩浴化成処理による皮膜処理法を用いる構成としている。
【0018】
さらに、請求項4の発明によると、前記潤滑剤保持層により前記空孔内に含浸される潤滑剤は、潤滑油またはワックス中に自己潤滑性をもった固体潤滑剤の微粒子を2〜10重量%だけ分散した状態で配合する構成としている。
【発明の効果】
【0019】
上述の如く、請求項1に記載の発明によれば、ブッシュを構成する筒状体は、少なくとも3重量%以上の銅を不可避成分として含有した鉄系焼結合金材料により連続した空孔を有する多孔質構造に形成され、その気孔率が5〜30%となっている。そして、その内周側のピン挿嵌穴には、その表面側に高硬度処理を施した状態で皮膜処理法により表面改質処理された化成層からなる潤滑剤保持層を設ける構成としている。このため、ブッシュを構成する筒状体の材料表面(空孔の表面を含む)には、化成層からなる潤滑剤保持層を微小な3次元の凹凸構造をなして形成でき、この潤滑剤保持層を材料の内部まで、連続した空孔の全体にわたって形成することができる。そして、このような潤滑剤保持層は、空孔による毛細管現象よりも潤滑剤の浸透保持性能を高めることができ、手間のかかる真空含浸でなくとも例えば刷毛塗り、ディッピング等の手段を用いても内部に潤滑剤を容易に含浸させ保持することができる。
【0020】
また、ブッシュには、その深さ方向または径方向で連続した空孔の表面全体にわたって潤滑剤保持層が形成されているので、ピン挿嵌穴の表面側で連結ピンとの摺動により仮に摩耗が生じても、前記連結ピンとの摺動面には必ず空孔が存在し、該空孔の表面には潤滑剤保持層を介在させることができ、この潤滑剤保持層によって空孔内に潤滑剤を保持し続けることができる。これにより、ブッシュ全体の潤滑剤保持能力を高めることができ、ブッシュとしての耐久性、寿命をいままで以上に向上することができる。
【0021】
従って、ブッシュ内で互いに連続する空孔の表面側に潤滑剤保持層を形成することにより、数年間以上の長期間にわたってブッシュ内に潤滑剤を保持し続け、その潤滑性能を向上することができる。そして、連結ピンとブッシュとの間の摺動面における低速・高面圧下の摺動特性を向上することができる。また、軸受装置の作動開始直後にも、連結ピンとブッシュとの摺動面に潤滑剤を迅速に供給することができ、異常摩耗や異音の発生を防止することができる。しかも、潤滑剤保持層によりブッシュ内への潤滑剤の含浸作業を簡略化することができ、含浸処理の労力を確実に軽減し、信頼性や寿命を向上することができる。
【0022】
また、請求項2に記載の発明は、ブッシュの内周側(ピン挿嵌穴)に表面側から行う高硬度処理を、例えば高周波焼入れ処理、浸炭焼入れ処理、ガス軟窒化処理または各種の窒化処理により実施することにより、連結ピンとの摺動面となるピン挿嵌穴表面側の硬度を高め、耐摩耗性を向上することができる。
【0023】
また、請求項3に記載の発明は、塩浴化成処理による皮膜処理法を用いて表面改質処理を行うことにより、化成層からなる潤滑剤保持層を形成しているので、ブッシュを構成する材料の表面側には空孔の表面を含めて潤滑剤保持層を微小な3次元の凹凸構造をなして形成でき、空孔内での潤滑剤の保持能力を高めることができる。
【0024】
さらに、請求項4に記載の発明によると、潤滑剤保持層により空孔内に含浸させる潤滑油またはワックスからなる潤滑剤中には、自己潤滑性をもった固体潤滑剤の微粒子を2〜10重量%だけ分散した状態で配合する構成としているので、軸受装置の適用対象である建設機械の作業装置等を、例えば寒冷地で使用する場合でも、その潤滑性能を維持することができ、ブッシュとしての摺動特性を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態による軸受装置用のブッシュを、油圧ショベルのアームとバケットとのピン結合部に適用した場合を例に挙げ、添付図面に従って詳細に説明する。
【0026】
ここで、図1ないし図7は本発明の第1の実施の形態を示している。図中、1は油圧ショベルの下部走行体、2は該下部走行体1上に旋回可能に搭載された上部旋回体で、該上部旋回体2は、旋回フレーム3を有し、該旋回フレーム3上には、キャブ4、建屋カバー5およびカウンタウエイト6等が設けられている。
【0027】
7は上部旋回体2の前部側に俯仰動可能に設けられた作業装置で、該作業装置7は、旋回フレーム3の前部側に基端側が回動可能に連結(ピン結合)されたブーム8と、該ブーム8の先端側に回動可能に連結されたアーム9と、該アーム9の先端側に回動可能に連結されたバケット10とにより大略構成されている。
【0028】
そして、作業装置7は、ブーム8がブームシリンダ8Aによって上,下に俯仰動され、アーム9はアームシリンダ9Aによりブーム8に対して俯仰動される。また、バケット10はバケットシリンダ10Aによりリンク等を介して回動される。これにより、作業装置7は、例えばバケット10の先端側で土砂等の掘削作業を行うものである。
【0029】
ここで、作業装置7のうち例えばアーム9とバケット10との間のピン結合部には、図2に示す軸受装置11が装備されている。そして、該軸受装置11は、後述のボス12、ブラケット13,14、連結ピン15およびブッシュ20等により構成されるものである。
【0030】
12はアーム9の先端側に一体に設けられたボス部材となる筒状のボスで、該ボス12は、例えば鋳鉄、鋼鉄等の剛性材料を用いて円筒状に形成され、その内周側には、後述のブッシュ20が嵌着して設けられるものである。
【0031】
13,14はバケット10に一体に設けられた一側,他側のブラケットで、該ブラケット13,14は、ボス12を左,右両側から挟むように配設され、後述の連結ピン15によりボス12に対して回動(相対回転)可能に連結されるものである。そして、ブラケット13,14には、後述するブッシュ20のピン挿嵌穴20Aと対応する位置にピン穴13A,14Aが穿設されている。
【0032】
15はボス12をブラケット13,14間に連結する連結ピンで、該連結ピン15は、長さ方向中間部が後述するブッシュ20のピン挿嵌穴20A内に摺動可能に挿嵌されている。そして、連結ピン15は、その両端側がブラケット13,14のピン穴13A,14A内に挿通され、後述の固定ボルト16により固定されている。
【0033】
16は連結ピン15の固定部材となる固定ボルトで、該固定ボルト16は、例えばブラケット14側に連結ピン15を径方向に貫通して設けられている。そして、固定ボルト16は、ブラケット14に対して連結ピン15を固定することにより、連結ピン15をブラケット13,14に対して抜止め、廻止め状態に保持するものである。
【0034】
17,17はボス12の両端とブラケット13,14との隙間内に設けられた左,右一対のシム板で、該各シム板17は、その内周側に連結ピン15が挿通された状態で前記隙間内に配置されている。そして、シム板17は、ボス12とブラケット13,14との間の隙間調整を行い、ボス12がブラケット13,14に対して相対回転するときに、両者が直接摺動するのを防止するものである。
【0035】
18,18はボス12の両端とブラケット13,14との外周側に装着されたシール部材としてのOリングで、該各Oリング18は、各シム板17の径方向外側となる位置に配置され、ボス12の両端とブラケット13,14との間の隙間内に外部からダスト等が侵入するのを防ぐものである。
【0036】
19,19はボス12と連結ピン15との間に設けられた左,右一対のシールリングで、これらのシールリング19は、例えばリップシール等を用いて構成され、後述するブッシュ20の軸方向両側に配置されている。そして、シールリング19は、連結ピン15とブッシュ20との摺動面に外部からダスト等が侵入するのを抑えると共に、例えばブッシュ20内に含浸させた潤滑剤が外部に漏洩するのを防ぐものである。
【0037】
20はボス12の内周側に嵌着して設けられ滑り軸受を構成するブッシュで、該ブッシュ20は、後述の鉄系焼結合金材料を用いて多孔質構造をなす筒状体21として形成され、その内周側は連結ピン15が摺動可能に挿嵌されるピン挿嵌穴20Aとなっている。ここで、筒状体21の素材となる鉄系焼結合金材料は、不可避成分として銅を少なくとも3重量%以上(例えば、3〜30重量%)、好ましくは10〜20重量%含有したもので、このような重量比の銅粉を鉄粉中に均一に混合してなる複合焼結合金として構成されるものである。
【0038】
そして、このような複合焼結合金からなる筒状体21には、互いに連続した3次元の多孔質構造をなす空孔22,22,…が図3、図4に示す如く形成され、その気孔率は、5〜30%程度に設定されている。これにより、ブッシュ20内には、後述の潤滑油26を十分に含浸させることができ、ブッシュ20の機械的強度も確保できるものである。
【0039】
この場合、前記焼結合金(筒状体21)の気孔率が5%未満のときには、空孔が材料の表面側に存在しても、これが内部の空孔とは連通しない可能性が高くなり、ブッシュ20内には後述の潤滑剤保持層23を適正に形成することが難しくなる。一方、気孔率が30%を越えると、ブッシュ20の機械的強度が弱くなってしまい、耐久性、寿命が低下する原因になってしまうものである。
【0040】
23はブッシュ20の素材となる筒状体21に形成した潤滑剤保持層で、この潤滑剤保持層23は、例えばピン挿嵌穴20Aの表面側から後述の高硬度処理を施した後に、リン酸マンガン皮膜処理を代表とするリン酸塩浴化成処理を行うことにより形成され、これにより各空孔22の表面側には、表面改質処理された化成層からなる潤滑剤保持層23が設けられるものである。
【0041】
この場合、ピン挿嵌穴20Aの表面側に施す高硬度処理としては、例えば高周波焼入れ処理、浸炭焼入れ処理、窒化処理、ガス軟窒化処理、化合物層を形成せず拡散層のみを形成できるラジカル窒化や、プラズマ窒化、特許第3396336号公報に開示されているフッ素前処理を行う窒化等が用いられるものである。また、前記表面改質処理としては、浸硫窒化である塩浴処理以外に、例えば陽極酸化処理等を用いることができる。
【0042】
そして、表面改質処理された化成層からなる潤滑剤保持層23は、図4にも示すように各空孔22の表面側にわたり微小な3次元の凹凸構造をなして形成される。また、潤滑剤保持層23は、互いに連続した空孔22の全体にわたり材料(ブッシュ20)の内部まで浸透した状態で形成されるものである。
【0043】
そして、このような潤滑剤保持層23は、空孔22による毛細管現象よりも潤滑油26の浸透保持性能を高めることができ、例えば刷毛塗り、ディッピング等の手段を用いても各空孔22の内部に潤滑油26を容易に含浸させ保持できるものである。
【0044】
ここで、潤滑剤保持層23は、図4にも示すように鉄合金層24と銅合金層25とに囲まれた空孔22の表面に皮膜を形成するかたちで成膜され、微小な3次元の凹凸構造をなしている。そして、潤滑剤保持層23は、微細な多孔質結晶により構成されるため、空孔22内における潤滑油26の吸収性能、保持性能も高める機能を有するものである。
【0045】
26はブッシュ20の各空孔22内に含浸された潤滑剤としての高粘度潤滑油で、この潤滑油26は、例えば460cSt(センチストークス)程度の高粘度油からなり、この潤滑油26中には、自己潤滑性をもった固体潤滑剤の微粒子が2〜10重量%だけ分散した状態で配合されている。
【0046】
そして、この場合の固体潤滑剤としては、例えば黒鉛、二硫化モリブデン(MoS)、二硫化タングステン(WS)、硫化マンガン(MnS)、フッ化カルシウム(CaF)等が用いられるものである。
【0047】
なお、潤滑油26は、460cStの高粘度油に限るものではなく、例えば240〜1500cStの範囲内で適宜に選択できるものである。また、潤滑油以外の潤滑剤(例えば、ワックス等)を空孔22内に含浸させる場合にも、前述した固体潤滑剤の微粒子を2〜10重量%だけ分散した状態で配合する構成としてもよいものである。
【0048】
本実施の形態による油圧ショベルの軸受装置11は上述の如き構成を有するもので、次に、その作動について説明する。
【0049】
まず、作業装置7による土砂等の掘削作業時には、ブームシリンダ8Aによりブーム8を上,下に俯仰動させ、アームシリンダ9Aによりアーム9を俯仰動しつつ、アーム9の先端側ではバケット10がバケットシリンダ10Aにより、軸受装置11の連結ピン15を中心として回動される。そして、軸受装置11の連結ピン15には、掘削対象の土砂重量、バケット10の重量等が負荷されることになる。
【0050】
これにより、バケット10の回動時には軸受装置11(連結ピン15とブッシュ20との摺動面)には、例えば60MPs(メガパスカル)以上の高い面圧が作用し、連結ピン15とブッシュ20との相対回転に伴う摺動速度は、例えば2〜5cm/秒程度の遅い速度となる。
【0051】
このように、バケット10の回動時には軸受装置11が、例えば60MPs以上の高い面圧(高荷重)を受けながら、2〜5cm/秒の範囲で低速駆動され、ブッシュ20と連結ピン15との間の摺動面には、両者の摺動摩擦に伴う発熱(摩擦熱)等が生じる。
【0052】
そして、ブッシュ20の空孔22内に含浸した潤滑油26は、このときの熱影響等で粘度が下がるため、ブッシュ20の空孔22内から連結ピン15との摺動面に向けて徐々に滲出すようになり、この状態でブッシュ20と連結ピン15との摺動面に油膜を形成でき、両者の摺動面を潤滑状態に保つことができる。
【0053】
次に、本実施の形態で採用したブッシュ20の製造方法について、図6を参照して説明する。
【0054】
まず、第1工程(混合工程)では、ブッシュ20(筒状体21)の素材となる鉄系焼結合金材料を製作するために、不可避成分としての銅粉(例えば、3〜30重量%、好ましくは10〜20重量%)を、鉄粉中に均一に混合して混合物を調製する。
【0055】
そして、第2工程(成形工程)では、前記混合物を成形型(図示せず)内に充填して成形作業を行い、次なる第3工程(焼成工程)では、前記混合物の成形品を加熱炉等を用いて焼結させ、鉄系焼結合金からなる筒状体21を焼成する。
【0056】
次に、第4工程(焼入れ工程)では、前述の如く焼成した筒状体21の内周側に、例えば浸炭焼入れ処理等による高硬度処理(表面硬化処理)を行い、筒状体21の内周面(ピン挿嵌穴20Aの表面)の硬度を高めるようにする。
【0057】
次に、第5工程(化成処理工程)では、高硬度処理された筒状体21の内周面側から、例えばリン酸マンガン皮膜処理を代表とするリン酸塩浴化成処理を行うことにより、表面改質処理された化成層からなる潤滑剤保持層23を図4に示す如く形成する。
【0058】
そして、この潤滑剤保持層23は、互いに連通(連続)した各空孔22の表面全体にわたって成膜されるものである。この場合、図4に示す如く表面改質処理された化成層からなる潤滑剤保持層23を形成する前の状態では、図5に示す如き組織構造を呈し、鉄合金層24と銅合金層25とに囲まれるかたちで連続した多孔質構造の空孔22が存在するものである。
【0059】
また、リン酸マンガン皮膜処理を代表とするリン酸塩浴化成処理の場合、耐摩耗特性が低下する可能性がある。このため、化成処理としての表面改質処理を行う前に、例えば高周波焼入れ処理、浸炭焼入れ処理、窒化または浸硫処理法等による表面硬化処理を行うものである。
【0060】
次に、第6工程(含油処理工程)では、例えば真空チャンバ装置(図示せず)等を用いて高粘度油からなる潤滑油26を、ブッシュ20の各空孔22内に含浸させる。なお、この含油処理は、必ずしも真空チャンバ装置等を用いる必要はない。即ち、潤滑剤保持層23により空孔22に対する潤滑油26の浸透保持性能を高めているので、例えば刷毛塗り、ディッピング等の手段を用いても各空孔22の内部に潤滑油26を含浸させてもよいものである。
【0061】
そして、第7工程(仕上げ工程)では、ブッシュ20の内,外周面等に仕上げ加工(例えば、研磨等の機械加工)を行い、ブッシュ20を製品として完成させるものである。
【0062】
次に、このようにブッシュ20を製作した後には、筒状のボス12内にブッシュ20を圧入または焼き嵌め等の手段を用いて嵌着する。そして、ブッシュ20のピン挿嵌穴20A内には連結ピン15を摺動可能に挿嵌し、これにより軸受装置11を図2に示す如く組立てる。この場合、連結ピン15の外周面とブッシュ20の内周面との少なくともいずれか一方に、予めグリース等の潤滑油を塗布しておくことにより、連結ピン15の挿嵌作業を円滑に行うことができる。
【0063】
かくして、本実施の形態によれば、ブッシュ20を構成する筒状体21は、例えば3〜30重量%、好ましくは10〜20重量%の銅を不可避成分として含有した鉄系焼結合金材料により連続した空孔22を有する多孔質構造に形成され、その気孔率が5〜30%となっている。そして、ブッシュ20のピン挿嵌穴20Aには、その表面側に高硬度処理を施した状態で皮膜処理法により表面改質処理された化成層からなる潤滑剤保持層23を設ける構成としている。
【0064】
このため、ブッシュ20を構成する筒状体21の材料表面(空孔22の表面を含む)には、表面改質処理された化成層からなる潤滑剤保持層23を微小な3次元の凹凸構造をなして形成でき、この潤滑剤保持層23を材料の内部まで、連続した多孔質構造をなす空孔22の表面側全体にわたって形成することができる。
【0065】
そして、このような潤滑剤保持層23は、空孔22による毛細管現象よりも潤滑油26の浸透保持性能を高めることができ、例えば刷毛塗り、ディッピング等の手段を用いてもブッシュ20の内部に、即ち連続した多孔質構造をなす空孔22の表面側全体にわたって潤滑油26を容易に含浸させ、長期にわたって保持することができる。
【0066】
また、ブッシュ20には、その深さ方向(径方向)を含めた3次元で互いに連続した空孔22の表面全体にわたって潤滑剤保持層23が形成されているので、ピン挿嵌穴20Aの表面側で連結ピン15との摺動により仮に摩耗が生じても、連結ピン15との摺動面には必ず空孔22が存在し、該空孔22の表面側には潤滑剤保持層23が形成されている。
【0067】
そして、この潤滑剤保持層23によって空孔22内に潤滑油26を保持し続けることができるため、連結ピン15とブッシュ20との間の摺動面側には潤滑油26による油膜を形成し続けることができると共に、ブッシュ20全体の潤滑剤保持能力を高めることができ、ブッシュ20としての耐久性、寿命をいままで以上に向上することができる。
【0068】
ここで、本実施の形態によるブッシュ20を、所定温度(例えば、200℃で湿度は一定)に保たれたオーブン恒温槽(図示せず)内に入れ、その重量変化を5分ごとに測定し、ブッシュ20に含浸させた潤滑油26の消耗率(消失具合)を調べる試験を行った。
【0069】
この結果、本実施の形態によるブッシュ20では、図7中に実線で示す特性線27の如く、試験を開始して20分(min)後に潤滑油26が約7.5%分だけ消耗され、40分後には約12%となり、60分の経過後にも約12%に留まることが確認された。
【0070】
一方、リン酸塩浴化成処理(化成処理)を行っていない比較例のブッシュ(例えば、潤滑剤保持層23が存在しない図5に示す筒状体21)についても、前記真空チャンバ装置を用いて潤滑油26の含浸処理を行った後、同様にオーブン恒温槽内に入れ、その重量変化を5分ごとに測定し、潤滑油26の消耗具合を調べてみた。
【0071】
しかし、比較例によるブッシュでは、図7中に一点鎖線で示す特性線28の如く、試験開始後の20分で約11.7%分の潤滑油26が消耗され、40分後には約14%となり、60分の経過後には約15%以上の潤滑油26が消耗されることが確認された。
【0072】
この結果、本実施の形態では、例えば図6に示す第5工程でリン酸塩浴化成処理等の化成処理を行って空孔22の表面側に潤滑剤保持層23を形成することにより、ブッシュ20に含浸させた潤滑油26の浸透保持性能を向上することができ、潤滑油26が早期に消耗される等の不具合を解消できることが確認された。
【0073】
従って、本実施の形態によれば、ブッシュ20内で互いに連続する各空孔22の表面側に潤滑剤保持層23を形成することにより、数年間以上の長期間にわたってブッシュ20内に潤滑油26を保持し続けることができ、その潤滑性能を向上することができる。そして、連結ピン15とブッシュ20との間の摺動面における低速・高面圧下の摺動特性を向上することができる。
【0074】
また、軸受装置11の作動開始直後にも、連結ピン15とブッシュ20との摺動面に潤滑油26を迅速に供給することができ、異常摩耗や異音の発生を防止することができる。しかも、潤滑剤保持層23によりブッシュ20内への潤滑油26の含浸作業を簡略化することができ、含浸処理の労力を確実に軽減し、信頼性や寿命を向上することができる。
【0075】
さらに、ブッシュ20の空孔22内に潤滑剤保持層23により含浸させる潤滑油26(またはワックス)中には、自己潤滑性をもった固体潤滑剤の微粒子を2〜10重量%だけ分散した状態で配合する構成としているので、軸受装置11の適用対象である油圧ショベルの作業装置7等を、例えば寒冷地で使用する場合でも、その潤滑性能を維持することができ、ブッシュ20としての摺動特性を向上することができる。
【0076】
なお、前記実施の形態は、油圧ショベルの作業装置7を構成するアーム9とバケット10との間に設けた軸受装置11を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えば上部旋回体2の旋回フレーム3とブーム8との間に設ける軸受装置に適用してもよく、ブーム8とアーム9との間に設ける軸受装置等に適用してもよい。また、ブームシリンダ8A、アームシリンダ9Aまたはバケットシリンダ10Aの両端側に設ける軸受装置等にも適用できるものである。
【0077】
さらに、本発明は、油圧ショベルに限らず、例えば油圧クレーン等の各種の建設機械に設ける軸受装置にも適用でき、建設機械以外の用途であっても、高荷重下で低速駆動される連結ピンを回動可能に支持するためのブッシュには好適に使用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明の実施の形態による軸受装置が適用される油圧ショベルを示す全体図である。
【図2】アームとバケットとの間に設けた軸受装置を図1中の矢示II−II方向からみた断面図である。
【図3】ボス内に設けたブッシュを図2中の矢示III−III方向からみた断面図である。
【図4】図3中の矢示IV部分を拡大して示すブッシュの組織構造図である。
【図5】図4中のブッシュに潤滑剤保持層を形成する前の状態を示す組織構造図である。
【図6】ブッシュの製造工程を示す工程説明図である。
【図7】ブッシュに含浸させた潤滑油の消耗試験データを示す特性線図である。
【符号の説明】
【0079】
11 軸受装置
12 ボス
13,14 ブラケット
15 連結ピン
20 ブッシュ
20A ピン挿嵌穴
21 筒状体
22 空孔
23 潤滑剤保持層
24 鉄合金層
25 銅合金層
26 潤滑油(潤滑剤)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高荷重下で低速駆動される軸受装置に用いるため、鉄系焼結金属材料により筒状体として形成され内周側に連結ピンが摺動可能に挿嵌されるピン挿嵌穴を有してなる軸受装置用のブッシュにおいて、
前記筒状体は、不可避成分の銅を少なくとも3重量%以上含有した鉄系焼結合金材料を用いて、気孔率が5〜30%の連続した空孔を有する構成とし、
前記ピン挿嵌穴の表面側には、高硬度処理を施した状態で、皮膜処理法による表面改質処理が行われた化成層からなる潤滑剤保持層を設ける構成としたことを特徴とする軸受装置用のブッシュ。
【請求項2】
前記高硬度処理には、高周波焼入れ処理、浸炭焼入れ処理、ガス軟窒化処理または各種の窒化処理を用いる構成としてなる請求項1に記載の軸受装置用のブッシュ。
【請求項3】
前記表面改質処理は、塩浴化成処理による皮膜処理法を用いる構成としてなる請求項1または2に記載の軸受装置用のブッシュ。
【請求項4】
前記潤滑剤保持層により前記空孔内に含浸される潤滑剤は、潤滑油またはワックス中に自己潤滑性をもった固体潤滑剤の微粒子を2〜10重量%だけ分散した状態で配合する構成としてなる請求項1,2または3に記載の軸受装置用のブッシュ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−57626(P2008−57626A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−234101(P2006−234101)
【出願日】平成18年8月30日(2006.8.30)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】