説明

載置台構造及びプラズマ成膜装置

【課題】プラズマ側にバイアス用の高周波電力を安定的に投入することによりプラズマ処理の再現性を高く維持することができる載置台構造を提供する。
【解決手段】金属膜を形成する被処理体Wを載置し、隙間94を隔ててグランド側に接続された保護カバー部材92により囲まれた載置台構造において、被処理体を載置する電極としての載置台本体48と、載置台本体の下方に配置されて絶縁状態で設けられたベース台50と、ベース台を支持してグランド側に接続された支柱46と、載置台本体に接続されてバイアス用の高周波電力を供給する高周波給電ライン70と、高周波電力が印加されるホット側とグランド側との間に形成された電力安定用コンデンサ部120とを備え、電力安定用コンデンサ部の静電容量は、載置台本体と保護カバー部材との間で形成される浮遊容量の静電容量よりも大きく設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエハ等の被処理体にプラズマスパッタにより金属膜を形成するプラズマ成膜装置及びこれに用いる載置台構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、半導体デバイスを製造するには、半導体ウエハに成膜処理やパターンエッチング処理等の各種の処理を繰り返し行って所望のデバイスを製造する。そして、上記薄膜として、半導体ウエハ上の凹部の埋め込みや配線パターンとしてTi、Ta、Cu、Al等よりなる金属膜を形成する場合がある。この場合、半導体ウエハ上に前工程ですでに形成されている下層構造に対して熱的ダメージを与えることを抑制するために、低温でも上記金属膜を比較的良好な特性で形成することができることから、プラズマスパッタ法が多用されている。
【0003】
このようなプラズマスパッタ法を行う成膜装置は、例えば特許文献1等において示されている。図5は上記プラズマスパッタ法を行う成膜装置の一例を示す概略構成図である。図5に示すように、真空排気が可能になされた処理容器2内の天井部の側部には、成膜する金属膜の原料となる金属ターゲット4が設けられており、半導体ウエハWを載置する中央部には載置台構造6が設けられている。この載置台構造6は、その上面側に半導体ウエハWを直流高電圧により吸着する静電チャック8が設けられた載置台9を有している。この静電チャック8は電極10を兼用するものであり、この電極10にはプラズマによりイオン化された金属イオンを引き込むためのバイアス用の高周波電源12が接続されている。また処理容器2の天井部には、高周波を透過する、例えば石英等よりなる透過板14が設けられ、この外側には高周波電源16に接続された誘導コイル部18が設けられる。
【0004】
そして、上記誘導コイル部18からは上記透過板14を透過して処理容器2内へ高周波電力が投入され、処理容器2内へ導入されたAr等のガスをプラズマ化してプラズマPを発生するようになっている。そして、このプラズマが金属ターゲットを叩いて金属粒子を放出させ、この金属粒子がプラズマによりイオン化されて載置台9側に引き込まれることによって半導体ウエハW上に金属膜を堆積させるようになっている。
【0005】
この場合、上記金属膜は、上記半導体ウエハWの表面のみならず、処理容器2の内壁面や処理容器2内の構造物の表面にも堆積してしまうので、これを防止するために、上記載置台9の外周側及びプラズマPが形成される処理空間を略囲むようにして保護カバー部材20が設けられている。この保護カバー部材20と載置台9の外周との間には、僅かな幅の絶縁用の隙間22が形成されている。そして、この保護カバー部材20は例えばSUSやアルミニウム板等の導電性材料よりなり、これはグランド側に接続されて不要な金属膜をこの保護カバー部材20の表面で受けるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−148075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述したようなプラズマスパッタによる成膜装置にあっては、上記したように金属膜は半導体ウエハWの表面のみならず、半導体ウエハWにカバーされていない載置台9の上面の周辺及び載置台9の周囲を囲むようにして設けた保護カバー部材20の上面側にも不要な金属膜24として少しずつ堆積することになる。
【0008】
この場合、不要な金属膜24の厚さが僅かな場合には、特に問題は生じないが、この膜厚が次第に大きくなると、例えば1.5mm程度に設定されている上記絶縁用の隙間22の幅が実質的に狭くなってしまう。すると、この部分に存在していた浮遊容量26(図6参照)の静電容量が無視し得ない程にかなり大きくなり、この浮遊容量を通ってグランド側に抜けてしまうバイアス用の高周波電力が次第に増加してプラズマ側に投入する高周波電力が変化してしまう。この結果、半導体ウエハWに対する成膜処理の均一性が劣化してしまい、プラズマ処理が経時的に変化してゆく、といった問題があった。
【0009】
この点について詳しく説明すると、図6は図5に示すプラズマ成膜装置のバイアス用の高周波電源側を示す等価回路である。ここでプラズマはコンデンサCと抵抗Rとの並列接続として表されている。上述のように、高周波電力が印加される電極10(8)等のホット側とグランド側の保護カバー部材20との間に浮遊容量26が存在するが、不要な金属膜の堆積に従って、上記浮遊容量26の静電容量が変化してしまう。この結果、この浮遊容量26を介してグランド側へ洩れるバイアス用の高周波電力が多くなるように変化するので、プラズマP側に投入されるバイアス用の高周波電力が変動してしまい、この結果、半導体ウエハWに対するプラズマ処理の均一性が低下し、プラズマ処理が経時的に変化してしまった。
【0010】
本発明は、以上のような問題点に着目し、これを有効に解決すべく創案されたものである。本発明は、プラズマ側にバイアス用の高周波電力を安定的に投入することによりプラズマ処理の再現性を高く維持することができる載置台構造及びプラズマ成膜装置である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に係る発明は、プラズマスパッタにより金属膜を形成するための被処理体を載置し、外周側が絶縁用の隙間を隔ててグランド側に接続された保護カバー部材により囲まれた載置台構造において、導電性材料よりなり、前記被処理体をその上面側に載置すると共に電極として兼用される載置台本体と、前記載置台本体の下方に離間されて配置されると共に前記載置台本体に対して絶縁状態で設けられた導電性材料よりなるベース台と、前記ベース台を支持すると共にグランド側に接続された支柱と、前記載置台本体に接続されてバイアス用の高周波電力を供給する高周波給電ラインと、前記高周波電力が印加されるホット側とグランド側との間に形成された電力安定用コンデンサ部とを備え、前記電力安定用コンデンサ部の静電容量は、前記載置台本体と前記保護カバー部材との間で形成される浮遊容量の静電容量よりも大きく設定されていることを特徴とする載置台構造である。
【0012】
このように、プラズマスパッタにより金属膜を形成するための被処理体を載置し、外周側が絶縁用の隙間を隔ててグランド側に接続された保護カバー部材により囲まれた載置台構造において、被処理体をその上面側に載置する載置台本体を電極と兼用させて設けると共に、この載置台本体に高周波電力を供給するようにし、この載置台本体の下方に離間させて絶縁状態で導電性材料よりなるベース台をグランド状態で設け、高周波電力が印加されるホット側とグランド側との間に電力安定用コンデンサ部を設け、この電力安定用コンデンサ部の静電容量を、載置台本体と保護カバー部材との間で形成される浮遊容量の静電容量よりも大きくなるように設定している。
【0013】
その結果、保護カバー部材と載置台本体の表面に不要な金属膜が堆積して絶縁用の隙間が実質的に狭くなってこの保護カバー部材と載置台本体との間の浮遊容量の静電容量が変化しても、静電容量の大きな電力安定用コンデンサ部が浮遊容量の静電容量の変動量を吸収してしまうので、処理空間に発生しているプラズマに投入されるバイアス用の高周波電力の変動を抑制することが可能となる。従って、プラズマ側にバイアス用の高周波電力を安定的に投入することによりプラズマ処理が経時的に変化することが抑制されてプラズマ処理の再現性を高く維持することが可能となる。
【0014】
請求項7に係る発明は、プラズマスパッタにより金属膜を被処理体の表面に形成するプラズマ成膜装置において、真空引き可能になされた処理容器と、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の載置台構造と、前記載置台構造の外周側に絶縁用の隙間を隔てて設けられると共にグランド側に接続された保護カバー部材と、前記処理容器内へ所定のガスを導入するガス導入手段と、前記処理容器内へプラズマを発生させるためのプラズマ発生源と、前記金属膜の材料となる金属ターゲットと、前記金属ターゲットへ前記ガスのイオンを引きつけるための電圧を供給するターゲット用の電源と、前記載置台構造に対してバイアス用の高周波電力を供給するバイアス用高周波電源と、とを備えたことを特徴とするプラズマ成膜装置である。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る載置台構造及びプラズマ成膜装置によれば、次のように優れた作用効果を発揮することができる。
プラズマスパッタにより金属膜を形成するための被処理体を載置し、外周側が絶縁用の隙間を隔ててグランド側に接続された保護カバー部材により囲まれた載置台構造において、被処理体をその上面側に載置する載置台本体を電極と兼用させて設けると共に、この載置台本体に高周波電力を供給するようにし、この載置台本体の下方に離間させて絶縁状態で導電性材料よりなるベース台をグランド状態で設け、高周波電力が印加されるホット側とグランド側との間に電力安定用コンデンサ部を設け、この電力安定用コンデンサ部の静電容量を、載置台本体と保護カバー部材との間で形成される浮遊容量の静電容量よりも大きくなるように設定している。
【0016】
その結果、保護カバー部材と載置台本体の表面に不要な金属膜が堆積して絶縁用の隙間が実質的に狭くなってこの保護カバー部材と載置台本体との間の浮遊容量の静電容量が変化しても、静電容量の大きな電力安定用コンデンサ部が浮遊容量の静電容量の変動量を吸収してしまうので、処理空間に発生しているプラズマに投入されるバイアス用の高周波電力の変動を抑制することが可能となる。従って、プラズマ側にバイアス用の高周波電力を安定的に投入することが可能となりプラズマ処理が経時的に変化することが抑制されてプラズマ処理の再現性を高く維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る載置台構造を用いたプラズマ成膜装置の一例を示す断面図である。
【図2】載置台構造の一部を示す部分拡大図である。
【図3】プラズマ成膜装置のバイアス用の高周波電源側を示す等価回路である。
【図4】載置台構造の載置台の表面側に不要な金属膜が堆積した時の状況を示す部分拡大断面図である。
【図5】プラズマスパッタ法を行う成膜装置の一例を示す概略構成図である。
【図6】図5に示すプラズマ成膜装置のバイアス用の高周波電源側を示す等価回路である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明に係る載置台構造及びプラズマ成膜装置の一実施例を添付図面に基づいて詳述する。図1は本発明に係る載置台構造を用いたプラズマ成膜装置の一例を示す断面図、図2は載置台構造の一部を示す部分拡大図、図3はプラズマ成膜装置のバイアス用の高周波電源側を示す等価回路である。ここではプラズマ成膜装置としてICP(Inductively Coupled Plasma)型プラズマスパッタ装置を例にとって説明する。
【0019】
図1に示すように、このプラズマ成膜装置30は、例えばアルミニウム等により筒体状に成形された処理容器32を有している。この処理容器32は接地され、この底部34には排気口36が設けられて、圧力調整を行うスロットルバルブ38を介して真空ポンプ40により真空引き可能になされている。また処理容器32の底部34には、この処理容器32内へ必要とされる所定のガスを導入するガス導入手段として例えばガス導入口39が設けられる。このガス導入口39からは、プラズマ励起用ガスとして例えばArガスや他の必要なガス例えばN ガス等が、ガス流量制御器、バルブ等よりなるガス制御部41を通して供給される。
【0020】
この処理容器32内には、被処理体である半導体ウエハWを載置するための本発明に係る載置台構造42が設けられる。この載置台構造42は、円板状に成形された載置台44と、この載置台44を支持すると共にグランド側に接続された、すなわち接地された中空筒体状の支柱46とにより主に構成されている。この載置台44は、例えばアルミニウム合金等の導電性材料よりなる載置台本体48と、この載置台本体48を絶縁された状態で支持するベース台50とより主に構成されている。この載置台本体48には、後述するようにバイアス用の高周波電力が印加されるので、電極として機能することになる。上記ベース台50は、例えばアルミニウム合金等の導電性材料よりなり、このベース台50の下面の中心部に上記支柱46の上端部を接続している。従って、上記ベース台50も接地された状態となっている。
【0021】
また上記載置台本体48の上面側には、内部にチャック用電極52Aを有する例えばアルミナ等のセラミック材よりなる薄い円板状の静電チャック52が設けられており、半導体ウエハWを静電力により吸着保持できるようになっている。ここで上記載置台本体48とベース台50との接続支持構造については後述する。
【0022】
また、上記支柱46の下部は、上記処理容器32の底部34の中心部に形成した挿通孔54を貫通して下方へ延びている。そして、この支柱46は、図示しない昇降機構により上下移動可能になされており、上記載置台構造48の全体を昇降できるようにしている。
【0023】
上記支柱46を囲むようにして伸縮可能になされた蛇腹状の金属ベローズ56が設けられており、この金属ベローズ56は、その上端が上記載置台44のベース台50の下面に気密に接合され、また下端が上記底部34の上面に気密に接合されており、処理容器32内の気密性を維持しつつ上記載置台構造42の昇降移動を許容できるようになっている。
【0024】
また底部34には、これより上方に向けて例えば3本(図示例では2本のみ記す)の支持ピン58が起立させて設けられており、また、この支持ピン58に対応させて上記載置台44にピン挿通孔60が形成されている。従って、上記載置台44を降下させた際に、上記ピン挿通孔60を貫通した支持ピン58の上端部で半導体ウエハWを受けて、この半導体ウエハWを外部より侵入する搬送アーム(図示せず)との間で移載ができるようになっている。このため、処理容器32の下部側壁には、上記搬送アームを侵入させるために搬出入口62が設けられ、この搬出入口62には、開閉可能になされたゲートバルブGが設けられている。このゲートバルブGの反対側には、例えば真空搬送室64が設けられる。
【0025】
またこの載置台本体48上に設けた上記静電チャック52のチャック用電極52Aには、配線66を介してチャック用電源68が接続されており、半導体ウエハWを静電力により吸着保持するようになっている。また上記載置台本体48には、高周波給電ライン70が接続されており、この高周波給電ライン70を介してバイアス用高周波電源72からバイアス用の高周波電力を供給するようになっている。
【0026】
一方、上記処理容器32の天井部には、例えば酸化アルミニウム等の誘電体よりなる高周波に対して透過性のある透過板74がOリング等のシール部材76を介して気密に設けられている。そして、この透過板74の上部に、処理容器32内の処理空間Sに例えばプラズマ励起用ガスとしてのArガスをプラズマ化してプラズマを発生するためのプラズマ発生源78が設けられる。
【0027】
尚、このプラズマ励起用ガスとして、Arに代えて他の不活性ガス、例えばHe、Ne等の希ガスを用いてもよい。具体的には、上記プラズマ発生源78は、上記透過板74に対応させて設けた誘導コイル部80を有しており、この誘導コイル部80には、プラズマ発生用の例えば13.56MHzの高周波電源82が接続されて、上記透過板74を介して処理空間Sに高周波を導入できるようになっている。
【0028】
また上記透過板74の直下には、導入される高周波を拡散させる例えばアルミニウムよりなるバッフルプレート84が設けられる。そして、このバッフルプレート84の下部には、上記処理空間Sの上部側方を囲むようにして例えば断面が内側に向けて傾斜されて環状(截頭円錐殻状)になされた金属ターゲット86が設けられており、この金属ターゲット86にはArイオンを引きつけるための電圧を供給するターゲット用の可変になされた直流電源88が接続されている。尚、この直流電源に代えて交流電源を用いてもよい。
【0029】
また、金属ターゲット86の外周側には、これに磁界を付与するための磁石90が設けられている。ここでは金属ターゲット86として例えばTi(チタン)が用いられ、このTiはプラズマ中のArイオンにより金属原子、或いは金属原子団としてスパッタされると共に、プラズマ中を通過する際に多くはイオン化される。尚、上記金属ターゲット86としては、Ti、Zr(ジルコニウム)、Hf(ハフニウム)、Nb(ニオブ)、Mn(マンガン)、Cu(銅)、Ta(タンタル)よりなる群より選択される1以上の材料を用いることができる。
【0030】
またこの金属ターゲット86の下部には、上記処理空間Sを囲むようにして例えばアルミニウムや銅よりなる円筒状の保護カバー部材92が設けられている。この保護カバー部材92はグランド側に接続されて接地されると共に、この下部は内側へ屈曲されて上記載置台44の側部近傍に位置されている。
【0031】
この場合、この保護カバー部材92の内側の端部は、上記載置台44の載置台本体48の外周側を囲むようにして設けられており、この載置台本体48と上記保護カバー部材92の内側の端部との間は、図2にも示すように、僅かな幅の絶縁用の隙間94を隔てて離間されている。この隙間94の幅H1は、例えば1.5mm程度である。そして、この保護カバー部材92の表面に不要な金属膜を堆積させることで、処理容器32の内面や内部構造物の表面に不要な金属膜が堆積することを防止している。
【0032】
ここで上記載置台44における載置台本体48とベース台50との接続支持構造について図2も参照して説明する。前述したように、上記載置台本体48は、上記ベース台50上に絶縁された状態で支持されている。具体的には、図2に示すように、上記載置台本体48の周縁部であって静電チャック52の外周側は、段部状に低く設定されて段部100が形成されており、この段部100に例えばステンレススチール等の導電性材料よりなる円形リング状のバイアスリング96が配置されている。このバイアスリング96により半導体ウエハWの外周側においても載置台44の中心側と同様に金属イオンを均等に引き込むようになっている。
【0033】
そして、このバイアスリング96の外周端が階段状に形成されると共に、この外周端に対向する上記保護カバー部材92の内周端も階段状に形成されており、両者間の隙間が上記絶縁用の隙間94となっている。そして、上記ベース台50と上記載置台本体48との間には、本発明の特徴とする電力安定用コンデンサ部120が介在されて設けられている。ここで、載置台本体48は、高周波電力が印加されるのでホット側となり、ベース台50側は接地されているのでグランド側となる。具体的には、上記ベース台50と上記載置台本体48との間は、所定の間隔102だけ離間されて両者は絶縁状態で設けられる。そして、上記電力安定用コンデンサ部120は、上記ベース台50と上記載置台本体48とを絶縁状態で連結する複数本の支持ロッド部材104により構成されている。
【0034】
この支持ロッド部材104は、載置台本体48の周縁部の段部100に設けられており、載置台本体48の周方向に沿って等ピッチで複数本、例えば12本配置されている(図1では2本のみ示す)。そして、この支持ロッド部材104による連結部には、この支持ロッド部材104の周囲全体を囲むようにして絶縁部材108が設けられている。具体的には、この支持ロッド部材104は、例えばステンレススチール等の導電性材料よりなる細長いネジ部材106よりなっている。
【0035】
そして、上記載置台本体48の段部100に上記ネジ部材106の直径よりもかなり内径が大きくなされたネジ用の貫通孔110を形成し、このネジ用の貫通孔110内の下方に上記絶縁部材108として例えば絶縁性樹脂112を埋め込むようにして強固に取り付けている。そして、上記絶縁性樹脂112の上方より上記ネジ部材106をねじ込むようにしてこれを貫通させ、このネジ部材106の下端部を上記ベース台50にねじ込んで両者を固定している。
【0036】
そして、上記ネジ部材106のネジ頭106Aを覆うようにして上記貫通孔110内には例えばアルミナ等のセラミック材よりなる絶縁性キャップ114を装着している。このようにして、上記載置台本体48とベース台50とが絶縁状態で連結されることになる。ここで上述したように、電極として機能する上記載置台本体48は、高周波電力が供給されるホット側となり、これに対して、ベース台50及びネジ部材106は接地されてグランド側となっており、上記導電性材料よりなるネジ部材106と載置台本体48との間で浮遊容量が発生し、この浮遊容量は12個のネジ部材106の全てにおいて発生することになる。
【0037】
この場合、上記ネジ部材106と貫通孔110の内面との間の距離H2は、略2〜4mm程度である。そして、上記12個のネジ部材106の連結部の全てにおける浮遊容量で電力安定用コンデンサ部120を形成している。そして、ここではこの電力安定用コンデンサ部120の静電容量が、上記載置台本体48と保護カバー部材92との間で形成される浮遊容量126(図3参照)の静電容量よりも大きな静電容量となるように設定している。
【0038】
具体的には、上記浮遊容量126は、載置台本体48と保護カバー部材92との間の浮遊容量を示しており、上記電力安定用コンデンサ部120の静電容量C2(図3参照)の大きさは、載置台本体48と保護カバー部材92との間の浮遊容量126の静電容量C1(図3参照)の2〜4倍の範囲内、好ましくは2〜3倍の範囲内の大きさに設定されている。上記静電容量C2の大きさが、2倍よりも小さい場合には、静電容量C1が変動した場合にこの変動量を十分に吸収することができずにプラズマ側に投入されるバイアス用の高周波電力が大きく変動してしまって、この電力安定用コンデンサ部120を設けた効果を十分に発揮できない。逆に、4倍よりも大きい場合には、この電力安定用コンデンサ部120を通ってグランド側に漏れ出るバイアス用の高周波電力が過度に大きくなって好ましくない。
【0039】
換言すれば、本発明の特徴とする電力安定用コンデンサ部120として上記導電性材料よりなる支持ロッド部材104を設けることにより、この部分の浮遊容量の静電容量を、上述のようにかなり大きく設定している。これにより、金属膜の成膜時に保護カバー部材92やバイアスリング96の各表面に不要な金属膜が堆積して絶縁用の隙間94(図2参照)が狭くなることによって、この部分の浮遊容量の静電容量が変動して大きくなっても、これよりも大きな静電容量を有する上記電力安定用コンデンサ部120、すなわち支持ロッド部材104と絶縁部材108とよりなる浮遊容量が上記静電容量の変動分を吸収することが可能になっている。この結果、プラズマにバイアス用の高周波電力を安定的に導入することができるようになっている。
【0040】
この時の載置台構造の等価回路は図3に示されており、発生したプラズマはコンデンサCと抵抗Rとの並列回路で表されている。上述のように、高周波電力が印加されるホット側の電極である載置台本体48とグランド側である保護カバー部材92との間に、浮遊容量126が存在し、また、載置台本体48とグランド側との間に、本発明で設けた新たな浮遊容量である電力安定用コンデンサ部120が形成されている。
【0041】
図1に戻って、ここでプラズマ成膜装置30の各構成部は、例えばコンピュータ等よりなる装置制御部122に接続されて制御される構成となっている。具体的には装置制御部122は、バイアス用高周波電源72、プラズマ発生用の高周波電源82、可変直流電源88、ガス制御部41、スロットルバルブ38、真空ポンプ40等の動作を制御する。また上記装置制御部122で制御を行うコンピュータに読み取り可能なプログラムを記憶する記憶媒体124を有している。この記憶媒体は、例えばフレキシブルディスク、CD(Compact Disc)、ハードディスク、フラッシュメモリ或いはDVD等よりなる。
【0042】
<動作説明>
次に、以上のように構成されたプラズマ成膜装置の動作について図4も参照して説明する。図4は載置台構造の載置台の表面側に不要な金属膜が堆積した時の状況を示す部分拡大断面図である。
【0043】
まず装置制御部122の支配下で、真空ポンプ40を動作させることにより真空にされた処理容器32内に、ガス制御部41を動作させてArガスを流しつつスロットルバルブ38を制御して処理容器32内を所定の真空度に維持する。その後、可変直流電源88を介して直流電力を金属ターゲット86に印加し、更にプラズマ発生源78の高周波電源82から誘導コイル部80に高周波電力(プラズマ電力)を印加する。
【0044】
一方、装置制御部122はバイアス用高周波電源72にも指令を出し、載置台構造42の電極である載置台本体48に対して所定のバイアス用の高周波電力を印加する。このように制御された処理容器32内においては、誘導コイル部80に印加されたプラズマ電力によりアルゴンプラズマが形成されてアルゴンイオンが生成され、これらイオンは金属ターゲット86に印加された電圧に引き寄せられて金属ターゲット86に衝突し、この金属ターゲット86がスパッタされて金属粒子が放出される。
【0045】
また、スパッタされた金属ターゲット86からの金属粒子である金属原子、金属原子団はプラズマ中を通る際に多くはイオン化される。ここで金属粒子は、イオン化された金属イオンと電気的に中性な中性金属原子とが混在する状態となって下方向へ飛散して行く。特に、この処理容器32内の圧力は、例えば5mTorr程度になされており、これによりプラズマ密度を高めて、金属粒子を高効率でイオン化できるようになっている。
【0046】
そして、金属イオンは、電極である載置台本体48に印加されたバイアス用の高周波電力により発生した半導体ウエハ面上の厚さ数mm程度のイオンシースの領域に入ると、強い指向性をもって半導体ウエハW側に加速するように引き付けられて半導体ウエハWに堆積して金属膜が形成される。
【0047】
このような金属膜の成膜処理を繰り返し行って行くと、載置台44の上面に載置されている半導体ウエハWの表面のみならず、図4に示すようにこの半導体ウエハWの外周側に位置するバイアスリング96や保護カバー部材92の表面にも僅かずつであるが不要な金属膜128が堆積して行くことになる。この結果、ここに形成されている絶縁用の隙間94の幅H1が実質的に次第に狭くなってこの部分の浮遊容量が大きくなり、高周波電力が印加されているホット側である載置台本体48とグランド側である保護カバー部材92との間の浮遊容量の静電容量が次第に大きくなる。この結果、この絶縁用の隙間94を洩れ出る高周波電力が多くなってプラズマ側へ投入されるバイアス用の高周波電力が大きく変動することが危惧される。
【0048】
しかし、本発明においては上述のように載置台本体48とベース台50とを支持する複数箇所の支持ロッド部材104に、ネジ部材106と絶縁部材108とを用いて電力安定用コンデンサ部120を設けたので、プラズマ側へ投入されるバイアス用の高周波電力の変動を抑制することができる。
【0049】
すなわち、図3に示す等価回路において、上記不要な金属膜128(図4参照)の堆積に伴って、浮遊容量126の静電容量が変動しても、本発明の特徴とする電力安定用コンデンサ部120の静電容量(12個の支持ロッド部材104における静電容量の総和)を上記浮遊容量126の静電容量よりもかなり大きくなるように、すなわち2〜4倍の範囲内になるように設定しているので、上記電力安定用コンデンサ部120を介して洩れ出るバイアス用の高周波電力が上記浮遊容量126を介して洩れ出るバイアス用の高周波電力よりも多くなっている。
【0050】
この結果、この浮遊容量126を介して洩れ出るバイアス用の高周波電力が変動しても、この変動量を上記電力安定用コンデンサ部120を介して洩れ出るバイアス用の高周波電力が吸収してしまい、結果的に、プラズマ側にはバイアス用の高周波電力を安定的に供給することができる。
【0051】
換言すれば、静電容量の大きな電力安定用コンデンサ部120を設けて外部に洩れ出るバイアス用の高周波電力を予め大きく設定しておくことにより、浮遊容量126の静電容量が成膜に伴って変動しても、プラズマに投入されるバイアス用の高周波電力の変動を抑制して高周波電力を安定的に投入することができる。これにより、半導体ウエハWに対するプラズマ処理の再現性を高く維持することができる。
【0052】
この場合、上記載置台本体48と保護カバー部材92との間の浮遊容量126の静電容量を”C1”とし、12個のネジ部106の全体の電力安定用コンデンサ部120の静電容量を”C2”とすると、”C1”の変動量は、積算した成膜時間にもよるが、例えば2〜3万枚のウエハを処理して30%程度である。そして、静電容量C2は、前述のように静電容量C1の2〜4倍の範囲内に設定されている。この場合、上記電力安定用コンデンサ部120の静電容量を調整するには、図2において、例えば絶縁性樹脂112の比誘電率を調整したり、或いは貫通孔110の半径を調整したりすればよい。
【0053】
ここで、実際に本発明の載置台構造について実験により検証したところ、載置台本体48の直径が350mm(直径300mm半導体ウエハ対応)で、載置台本体48と保護カバー部材92との間の浮遊容量126の静電容量が2050pFであった。これに対して、導電性材料よりなる金属製のネジ部材106よりなる支持ロッド部材104を12本設け、絶縁性樹脂112として比誘電率が3.6のポリイミドを用いた。この時のネジ部材106の1本に対応する浮遊容量の静電容量は433pFであった。従って、12本の総てのネジ部材106における電力安定用コンデンサ部120の静電容量C2は”433pF×12≒5200pFであった。この場合、静電容量C2は、静電容量C1の約2.5倍である。
【0054】
このような数値例の載置台構造で実際に金属膜の成膜処理を積算して1000KWhの積算電力に達するまで行ったところ(2〜3万枚のウエハに対する処理に相当)、静電容量C1の変動量ΔC1は640pFであった。従って、変動率ΔC1の影響度は、静電容量C2がない場合には、”640/2050=31%”になるが、静電容量C2を設けた本発明の場合には、”640/(2050+5200)=9%”程度であり、本発明の場合は良好な結果を得ることができた。実際の装置例では、上記変動量C1を10%以内に抑制すれば、実際のプラズマスパッタによる成膜において再現性の変動を2〜3%以内にすることができるので、上記結果により本発明の効果を十分に検証することができた。
【0055】
このように、本発明によれば、プラズマスパッタにより金属膜を形成するための被処理体、例えば半導体ウエハを載置し、外周側が絶縁用の隙間を隔ててグランド側に接続された保護カバー部材92により囲まれた載置台構造において、被処理体をその上面側に載置する載置台本体48を電極と兼用させて設けると共に、この載置台本体に高周波電力を供給するようにし、この載置台本体の下方に離間させて絶縁状態で導電性材料よりなるベース台50をグランド状態で設け、高周波電力が印加されるホット側とグランド側との間に電力安定用コンデンサ部120を設け、この電力安定用コンデンサ部の静電容量を、載置台本体48と保護カバー部材92との間で形成される浮遊容量の静電容量よりも大きくなるように設定している。
【0056】
その結果、保護カバー部材92と載置台本体48の表面に不要な金属膜が堆積して絶縁用の隙間が実質的に狭くなってこの保護カバー部材92と載置台本体48との間の浮遊容量の静電容量が変化しても、静電容量の大きな電力安定用コンデンサ部120が浮遊容量の静電容量の変動量を吸収してしまうので、処理空間Sに発生しているプラズマに投入されるバイアス用の高周波電力の変動を抑制することが可能となる。従って、プラズマ側にバイアス用の高周波電力を安定的に投入することが可能となりプラズマ処理が経時的に変化することが抑制されてプラズマ処理の再現性を高く維持することができる。
【0057】
尚、上記実施例において、支持ロッド部材104を12個設けたが、この数値には限定されないのは勿論である。また上記実施例では、電力安定用コンデンサ部120を載置台本体48とベース台50との連結部に設けるようにしたが、これに限定されず、バイアス用の高周波電力が印加されるホット側とグランド側との間ならば、どこの部分に設けてもよい。
【0058】
また、ここでは被処理体として半導体ウエハを例にとって説明したが、この半導体ウエハにはシリコン基板やGaAs、SiC、GaNなどの化合物半導体基板も含まれ、更にはこれらの基板に限定されず、液晶表示装置に用いるガラス基板やセラミック基板等にも本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0059】
30 プラズマ成膜装置
32 処理容器
42 載置台構造
44 載置台
46 支柱
48 載置台本体(電極)
50 ベース台
52 静電チャック
70 高周波給電ライン
72 バイアス用高周波電源
78 プラズマ発生源
86 金属ターゲット
92 保護カバー部材
94 絶縁用の隙間
108 絶縁部材
120 電力安定用コンデンサ部
126 浮遊容量
128 不要な金属膜
W 半導体ウエハ(被処理体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマスパッタにより金属膜を形成するための被処理体を載置し、外周側が絶縁用の隙間を隔ててグランド側に接続された保護カバー部材により囲まれた載置台構造において、
導電性材料よりなり、前記被処理体をその上面側に載置すると共に電極として兼用される載置台本体と、
前記載置台本体の下方に離間されて配置されると共に前記載置台本体に対して絶縁状態で設けられた導電性材料よりなるベース台と、
前記ベース台を支持すると共にグランド側に接続された支柱と、
前記載置台本体に接続されてバイアス用の高周波電力を供給する高周波給電ラインと、
前記高周波電力が印加されるホット側とグランド側との間に形成された電力安定用コンデンサ部とを備え、
前記電力安定用コンデンサ部の静電容量は、前記載置台本体と前記保護カバー部材との間で形成される浮遊容量の静電容量よりも大きく設定されていることを特徴とする載置台構造。
【請求項2】
前記電力安定用コンデンサ部は、前記ベース台と前記載置台本体とを絶縁状態で連結して支持している複数本の支持ロッド部材により構成されていることを特徴とする請求項1記載の載置台構造。
【請求項3】
前記支持ロッド部材が連結される各部分には、それぞれ絶縁部材が介在されていることを特徴とする請求項2記載の載置台構造。
【請求項4】
前記支持ロッド部材は、導電性材料よりなる細長いネジ部材により形成されていることを特徴とする請求項2又は3記載の載置台構造。
【請求項5】
前記電力安定用コンデンサ部の静電容量は、前記載置台本体と前記保護カバー部材との間に形成される前記浮遊容量の静電容量の2〜4倍の範囲内の大きさに設定されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の載置台構造。
【請求項6】
前記載置台本体の上面には、前記被処理体を吸着するための静電チャックが設けられていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の載置台構造。
【請求項7】
プラズマスパッタにより金属膜を被処理体の表面に形成するプラズマ成膜装置において、
真空引き可能になされた処理容器と、
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の載置台構造と、
前記載置台構造の外周側に絶縁用の隙間を隔てて設けられると共にグランド側に接続された保護カバー部材と、
前記処理容器内へ所定のガスを導入するガス導入手段と、
前記処理容器内へプラズマを発生させるためのプラズマ発生源と、
前記金属膜の材料となる金属ターゲットと、
前記金属ターゲットへ前記ガスのイオンを引きつけるための電圧を供給するターゲット用の電源と、
前記載置台構造に対してバイアス用の高周波電力を供給するバイアス用高周波電源と、
を備えたことを特徴とするプラズマ成膜装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−68918(P2011−68918A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−218381(P2009−218381)
【出願日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】