説明

鉄道車両の制振用ダンパ

【課題】フルアクティブとの機能を備えたコンパクトな鉄道車両の制振用ダンパを提供すること。
【解決手段】シリンダ10とオイルタンク18との間に、シリンダ10の伸縮に伴って流れる作動油の抵抗を大きくするオンロード制御および、作動油の抵抗を小さくするアンロード制御の切り替えが可能な油圧回路とを有し、油圧回路は、シリンダの伸長作動に対し弁の開度調整によりオンロード制御を行う第1比例リリーフ弁21および、シリンダの収縮作動に対し弁の開度調整によりオンロード制御を行う第2比例リリーフ弁23とを備えたセミアクティブ回路部と、セミアクティブ回路部へオイルタンク18からの作動油を供給するポンプ31および、ポンプ31からの供給側圧力が所定値を超えた場合に作動油をオイルタンクへ18と戻すための戻り流路46とを有するフルアクティブ回路部とを備えた鉄道車両の制振用ダンパ5。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両の走行中に発生する車体の揺れを抑えて乗り心地を向上させるための制振用ダンパに関する。
【背景技術】
【0002】
下許文献1には、セミアクティブの機能に加えフルアクティブの機能をも備えた制振用ダンパが開示されている。この制振用ダンパは、アキュムレータがオンロード制御時に蓄圧し、その圧力を利用してアクティブダンパとして機能させることができるようにしたものである。更に別の制振用ダンパとして、油圧回路にポンプを設け、常時アキュムレータを蓄圧可能にした完全なフルアクティブダンパも開示されいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−296936号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述した完全なフルアクティブの制振用ダンパは、アキュムレータとポンプを併用することにより構成が複雑になる他、装置として大きくなってしまうため、よりコンパクトなものが望まれている。そこで、ポンプによって作動油を送り込んで直接フルアクティブ機能を発揮させることも考えられる。しかし、制振用ダンパを構成するシリンダの伸長を適切に制御するには、シリンダの荷重方向の検出やモータの回転数制御などが必要になり、構成が複雑になるなどの問題がある。
【0005】
本発明は、かかる課題を解決すべく、フルアクティブとの機能を備えたコンパクトな鉄道車両の制振用ダンパを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る鉄道車両の制振用ダンパは、シリンダとオイルタンクとの間に、前記シリンダの伸縮に伴って流れる作動油の抵抗を大きくするオンロード制御および該作動油の抵抗を小さくするアンロード制御の切り替えが可能な油圧回路とを有し、前記油圧回路は、前記シリンダの伸長作動に対し弁の開度調整によりオンロード制御を行う第1比例リリーフ弁および、前記シリンダの収縮作動に対し弁の開度調整によりオンロード制御を行う第2比例リリーフ弁とを備えたセミアクティブ回路部と、前記セミアクティブ回路部へオイルタンクからの作動油を供給するポンプおよび、前記ポンプからの供給側圧力が所定値を超えた場合に作動油を前記オイルタンクへと戻すための戻り流路とを有するフルアクティブ回路部とを備えたものであることを特徴とする。
【0007】
また、本発明に係る鉄道車両の制振用ダンパは、前記フルアクティブ回路部が、前記戻り流路にフルアクティブ作動時の制振荷重を調整するための比例リリーフ弁が設けられたものであることが好ましい。
また、本発明に係る鉄道車両の制振用ダンパは、前記フルアクティブ回路部が、前記戻り流路に設定圧が一定のリリーフ弁が設けられたものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、オンロード制御からアンロード制御へのスムーズな切り替えを、第1及び第2比例リリーフ弁などによるセミアクティブ回路部の簡易な構成によって可能とすることができ、フルアクティブ回路部では、比例リリーフ弁などを設けた戻り流路を有することで、ポンプやモータに小型のものを使用することができ、そのため制振用ダンパ全体として部品点数を少なくしたり構成部品を小型化することによってコンパクトにすることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】鉄道車両に設けられた制振装置を概念的に示した図であり、車体長手方向に見た図である。
【図2】第1実施形態の制振用ダンパを示した回路図である。
【図3】第1実施形態の制振用ダンパについて伸びオンロードの場合の作動油の流れを示した回路図である。
【図4】第1実施形態の制振用ダンパについて縮みオンロードの場合の作動油の流れを示した回路図である。
【図5】ダンパの伸縮方向と伸縮速度を一定にした場合の荷重指令と制振用ダンパによる制振荷重を示したグラフである。
【図6】第2実施形態の制振用ダンパを示した回路図である。
【図7】第2実施形態の制振用ダンパについて伸びオンロードの場合の作動油の流れを示した回路図である。
【図8】第2実施形態の制振用ダンパについて縮みオンロードの場合の作動油の流れを示した回路図である。
【図9】第3実施形態の制振用ダンパを示した回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本発明に係る鉄道車両の制振用ダンパの一実施形態について、図面を参照しながら以下に説明する。図1は、鉄道車両に設けられた制振装置を概念的に示した図であり、車体長手方向に見た図である。鉄道車両1は、前後2台の台車3に空気バネ4を介して車体2が載せられ、車体2の横揺れを防止するための制振装置8が設けられている。制振装置8には、車体2と台車3との間に制振用ダンパ5が連結され、車体2の横揺れに応じて制振用ダンパ5の制振荷重を変化させ、制振度合いの調節を可能にしている。
【0011】
制振用ダンパ5は、シリンダ10の作動油を制御する比例リリーフ弁等を備えた油圧回路によって構成され、制振装置8には、その比例リリーフ弁等の作動を制御する制振コントローラ6が設けられている。また、鉄道車両1には、車体2の左右方向の振動を検出する加速度センサ7が設けられ、それに制振コントローラ6が接続されている。
【0012】
(第1実施形態)
図2は、第1実施形態の制振用ダンパ5を示した回路図である。シリンダ10は、ピストン15がヘッド側室13とロッド側室14とにシリンダチューブ11内を仕切り、そのピストン15には、ヘッド側室13からロッド側室14の方向にのみ作動油が流れるようにチェック弁16を備えた連通路が形成されている。ヘッド側室13の断面積はピストンロッド12の断面積の2倍に設定され、伸縮のいずれの場合にでも、シリンダチューブ11から吐出される作動油の量が同じになるように構成されている。
【0013】
シリンダ10には、ヘッド側室13にチェック弁25を介してオイルタンク18が接続されている。一方、ロッド側室14には流路41が接続され、その流路41から流路42が分岐し、そこに第1比例リリーフ弁21が設けられている。第1比例リリーフ弁21の二次側には、流路42から分岐した流路43がオイルタンク18へ接続されている。流路43には、パッシブ用の低圧リリーフ弁22と第2比例リリーフ弁23が直列に設けられている。
【0014】
第1比例リリーフ弁21及び第2比例リリーフ弁23は、ノーマルオープンタイプの電磁比例リリーフ弁であり、図1に示すコントローラ6からの荷重制御信号に従い、リリーフ圧を調整したオンロード制御が行われ、通常の全開状態でアンロード制御を可能にしたものである。制振用ダンパ5には更に、各弁による作動油の流れが遮断したフェイル時にでもオイルを還流させることができるようにするため、ロッド側室14とオイルタンク18との間に、オリフィス26とリリーフ弁27とが設けられている。
【0015】
シリンダ10のヘッド側室13に接続された流路44は、低圧リリーフ弁22と第2比例リリーフ弁23との間で流路43に接続され、その流路44には第1比例リリーフ弁21を設けた流路42が接続され、ロッド側室14側に連通している。流路42,44には、それぞれ開閉弁28,29が設けられている。開閉弁28,29は、両方向への作動油の流れを可能とする開弁状態と、一方向の流れのみを遮断する閉弁状態とが切り替えられるものである。ただし、閉弁状態での作動油の遮断方向は、ヘッド側室13に対して逆向きになるように構成されている。
【0016】
制振用ダンパ5は、このように第1比例リリーフ弁21や第2比例リリーフ弁23などを備えた流路41,42,43,44によってセミアクティブ回路部が構成されている。そして、更に制振用ダンパ5には、モータ32によって駆動するポンプ31が接続され、シリンダ10へ積極的に作動油を供給するフルアクティブ回路部が構成されている。フルアクティブ回路部は、ポンプ31が接続された流路45と、第3比例リリーフ弁33が接続された戻り流路46によって構成されている。
【0017】
ポンプ31は、流路45によってオイルタンク18に接続され、そのオイルタンク18の作動油をシリンダ10側へ供給するようにしたものであり、チェック弁34を介して流路41,42に接続されている。ポンプ31の二次側では戻り流路46が分岐し、オイルタンク18に接続されている。第3比例リリーフ弁33は、ノーマルオープンタイプの電磁比例リリーフ弁であり、フルアクティブ作動時の制振荷重を調整するためのものである。コントローラ6からの荷重制御信号に従いリリーフ圧が調整される。
【0018】
次に、図3及び図4は、制振用ダンパ5の制振時における作動油の流れを示した回路図である。図面上、セミアクティブ作動における作動油の流れを太線で示し、ポンプ31から送られるフルアクティブ作動における作動油の流れを破線で示している。また、セミアクティブ作動の制振用ダンパ5は、シリンダ10が伸び又は縮みの際に制振荷重を発生させるオンロード(以下、それぞれを「伸びオンロード」又は「縮みオンロード」とする)と、逆の縮み方向や伸び方向に抵抗を与えないようにするアンロード(以下、それぞれを「縮みアンロード」又は「伸びアンロード」とする)とが切り替えられる。例えば、伸びオンロードは、図1に示す車体2が左側に揺れるのを抑えるため、シリンダ10が伸びに対して制振荷重を発生させる。
【0019】
制振用ダンパ5は、図1に示す加速度センサ7からの検出信号に基づき、制御コントローラ6が車体横方向の揺れを判断し、第1比例リリーフ弁21及び第2比例リリーフ弁23の制御が行われる。また、制振時には両方向に作動油が流れるように開閉弁28,29が切り替えられる。そこで、図3の伸びオンロードの場合には、コントローラ6により第1比例リリーフ弁21及び第3比例リリーフ弁33のリリーフ圧が設定され、第2比例リリーフ弁23が全開状態に切り替えられる。
【0020】
図3(a)に示す伸びオンロード時には、シリンダ10の伸長によりロッド側室14内の作動油が流路41へ押し出され、流路42の第1比例リリーフ弁21及び開閉弁28を通り、流路44を流れてヘッド側室13へと戻る。このときは、第1比例リリーフ弁21のリリーフ圧によって制振荷重が発生する。
【0021】
一方、この伸びオンロード時に、軌道狂いなどにより台車3が車体2と同方向に振れる場合がある。このとき、台車3の振れが速いと、シリンダ10が収縮してヘッド側室13内の圧力が高くなる。ヘッド側室13内の作動油は、図3(b)に示すように流路44に押し出され、開閉弁29を通って流路43へと流れ、更に全開状態の第2比例リリーフ弁23を通ってオイルタンク18へと流れる。こうして制振用ダンパ5は縮みアンロードに切り替わり、台車3の振れによって車体2の揺れが大きくなることを防止している。
【0022】
次に、図4の縮みオンロードの場合、制振用ダンパ5は、図1に示す車体2が右側に揺れてシリンダ10が収縮し、その収縮作動に対して制振荷重を発生させる。このとき、第2比例リリーフ弁23のリリーフ圧が設定され、第1比例リリーフ弁21は全開状態に切り替えられる。制振用ダンパ5は、シリンダ10が収縮することにより、図4(a)に示すように、ヘッド側室13内の作動油が流路44へ押し出され、負圧になったロッド側室14へチェック弁16を介して一部が流れる。
【0023】
このとき第1比例リリーフ弁21が全開状態であるため、流路41,42,44が等圧になっている。流路44へ押し出された作動油は開閉弁29を通り、第2比例リリーフ弁23を介してオイルタンク18へと流れる。従って、第2比例リリーフ弁23のリリーフ圧によって制振荷重が発生する。
【0024】
一方、こうした縮みオンロード時に、軌道狂いなどにより台車3が車体2と同方向に振れた場合、台車3の方が速いと、シリンダ10が伸びてロッド側室14内の圧力が高くなる。ロッド側室14内の作動油は、図4(b)に示すように流路41に押し出され、全開状態の第1比例リリーフ弁21を通り、開閉弁28を通ってヘッド側室13へ流れる。また、容積の大きいヘッド側室13には、負圧によってオイルタンク18からの作動油も流れ込む。従って、この時には制振用ダンパ5が伸びアンロードに切り替わり、台車3の振れによって車体2の揺れが大きくなることを防止している。
【0025】
ところで、制振用ダンパ5は、こうしたセミアクティブ作動によって制振を実行している場合に、ポンプ31から作動油がシリンダ10側へ送り出されている。従って、制振用ダンパ5では、前述したようにセミアクティブダンパとして機能するが、更にポンプ31から送り出される作動油によって能動的な制振が行われる。特に、本実施形態ではポンプ31を常時駆動し、作動油が油圧回路を流れるようになっている。これは、制振に対する応答性を良くし、それによってポンプ31やモータ32の小型化を図るためである。そして、ポンプ31の常時駆動を可能にするため、本実施形態では、第3比例リリーフ弁33を有する戻り流路46を設けた構成となっている。
【0026】
仮に、この戻り流路46が存在しないとすると、ポンプ31から供給され続ける作動油によってヘッド側室13やロッド側室14内の圧力が過剰に高くなり、却って制振機能を損なうことになる。例えば、図3(a)に示す伸びオンロードの場合、ヘッド側室13側に過剰な圧力が作用することになり車体2の揺れを大きくしてしまうからである。こうした課題を解消するには、セミアクティブダンパとしてシリンダ10が受ける荷重方向を検出し、ポンプ31の回転数をその都度制御することが考えられる。しかし、それにはシリンダ10の伸縮速度を測定する必要が生じ、そのための構成が複雑になって制振用ダンパのコストを上げてしまうことになる。
【0027】
また、モータ32をその都度制御する構成では、ポンプ31やモータ32の応答性が良くない点にも問題がある。すなわち、制振応答が高ければ、車体2の揺れを初期段階で防止するため、制振荷重も小さくすることができ、それに応じてポンプ31やモータ32を小型化することができる。しかし、シリンダ10の伸縮状態を検出しながら作動油の供給を制御したのでは、制振応答が遅れる分だけ必要な制振荷重が大きくなり、それに比例してポンプ31やモータ32を大型にしなければならない。それでも小型のものを使用すれば、ポンプ31やモータ32が最大トルクで使用される頻度が高くなり、次に制振用ダンパ5について耐久性が問題になる。
【0028】
そこで、本実施形態では、こうした様々な問題を考慮し、ポンプ31の二次側に第3比例リリーフ弁33を設けた戻り流路46をオイルタンク18に接続し、常にポンプ31からシリンダ10側へ作動油を供給できるようにした。そのため、制振用ダンパ5では、必要に応じて作動油がシリンダ10へ送り込まれ、シリンダ10に対し車体2の揺れに対応した応答性の良い制振が行われる。その一方で過剰な圧力を与えないように圧力調整が行われる。そして、応答性が良いことから、制振荷重が大きくなる前に車体2の揺れを抑えるため、ポンプ31及びモータ32を小型のもので構成することが可能となる。
【0029】
続いて、フルアクティブ回路部を含めた制振用ダンパ5の制振について、図3及び図4を参照して説明する。先ず、前述した図3(a)に示す伸びオンロードの場合、制振開始後の初期段階でシリンダ10の伸縮速度が遅ければ、第1比例リリーフ弁21の設定圧に達するのに時間を要する。そうした場合でも、ポンプ31からの作動油が流路41側へ送り出され、流路41及びロッド側室14内の圧力が設定圧に高められることにより、短時間で第1比例リリーフ弁21による制振荷重を発生させ、車体2に対する制振状態とすることができる。なお、ポンプ31から第1比例リリーフ弁21を通った作動油は、流路42の開閉弁28を通り、流路44からヘッド側室13へ送られる。
【0030】
第3比例リリーフ弁33は、フルアクティブ作動時の制振荷重に設定されており、流路41の流体圧がその設定圧に達すると、ポンプ31からの作動油は第3比例リリーフ弁33側へ流れが切り替わり、戻り流路46を流れてオイルタンク18へ送り込まれる。その間、ロッド側室14から送り出された作動油は、前述したように流路41,42,44を通ってヘッド側室13へ流れ、第1比例リリーフ弁21によって制振荷重を発生させた伸びオンロードが実行される。
【0031】
図3(a)の伸びオンロード時に、図3(b)の縮みアンロードに切り替わった場合には、ポンプ31からの作動油は負圧になったシリンダ10のロッド側室14へ流れ込む。これにより、縮みアンロード時にでもロッド側室14側の圧力を高め、シリンダ10の伸び方向(図面左側)に対する制振荷重を発生させて車体2の制振が可能になる。そして、ロッド側室14内の圧力が高くなれば、ポンプ31からの作動油は流路42から流路44,43を通ってオイルタンク18へと送られる。更に圧力が高まった場合には、第3比例リリーフ弁33が開き、ポンプ31による作動油の流れは戻り流路46に切り替わる。
【0032】
次に、図4(a)に示す縮みオンロードの場合、ポンプ31からの作動油は負圧になったロッド側室14へ流れる。その後、第1比例リリーフ弁21の設定圧が低いため、作動油の流れが流路42へ切り替わり、流路44,43を通ってオイルタンク18へ流れる。更に太線で示す流れの圧力が高くなることで第3比例リリーフ弁33が開き、ポンプ31からの作動油は戻り流路46に流れ、オイルタンク18へと送られる。その間、ヘッド側室13から送り出された作動油は、前述したように流路44,43を通ってオイルタンク18へ流れ、第2比例リリーフ弁23によって制振荷重を発生させた縮みオンロードが実行される。
【0033】
縮みオンロードに切り替わった際、制振開始後の初期段階でシリンダ10の伸縮速度が遅ければ、流路41,42側の圧力が低くヘッド側室13からの作動油が第2比例リリーフ弁23の設定圧に達しないため、制振荷重を発生させるのに時間を要する。この点、ポンプ31から作動油が供給され、流路41,42及び流路44を第2比例リリーフ弁23の設定圧にすることにより、短時間で制振荷重を発生させて車体2に対する制振が可能となる。
【0034】
図4(a)の縮みオンロード時に、図4(b)の伸びアンロードに切り替わった場合には、ポンプ31からの作動油は負圧になったヘッド側室13へ流れ込む。これにより、伸びアンロード時にでもヘッド側室13側の圧力を高め、シリンダ10の縮み方向(図面右側)に対する制振荷重を発生させ、車体2の制振が可能になる。そして、ヘッド側室13内の圧力が高くなれば、第3比例リリーフ弁33が開き、ポンプ31からの作動油は戻り流路46からオイルタンク18へ流れ、また、流路44へ流れた作動油は、ヘッド側室13の流れが制限された後は、流路43の第2比例リリーフ弁23を通ってオイルタンク18へ流れる。
【0035】
このような制振用ダンパ5によれば、伸び又は縮みオンロードの際に生じるアンロードへの切り替えを、第1及び第2比例リリーフ弁21,23などによるセミアクティブ回路部の簡易な構成によって可能とすることができた。更に、フルアクティブ回路部では、第3比例リリーフ弁33を設けることで、ポンプ31やモータ32に小型のものを使用することを可能にした。そのため、部品点数を少なくしたり構成部品を小型化することによって制振用ダンパ5をコンパクトにして設置スペースを小さくすることを可能にし、また、コストの低下やメンテナンス作業の軽減も可能になった。
【0036】
ここで、図5は、ダンパの伸縮方向と伸縮速度を一定にした場合の荷重指令(a)と、従来の制振用ダンパによる制振荷重(b)と、制振用ダンパ5による制振荷重(c)を示したグラフである。各制振用ダンパは、図5(a)の荷重指令に従ったオンロード制御が行われ、指令値が負となるT1〜T2の間でアンロード制御が行われる。従来の制振用ダンパでは、図5(b)に示すようにアンロードとオンロードとの切り換え時に大きな荷重変化(衝撃加速度)が生じてしまい、乗心地を悪くするという問題があった。しかし、本実施形態の制振用ダンパ5では、第1及び第2比例リリーフ弁21,23のそれぞれ一によってオンロードとアンロードとが切り替えられるため、T1,T2の切り換え時に荷重変化がなくなり、乗心地を向上させることが可能になった。
【0037】
また、制振用ダンパ5は、T1,T2時の前後で制振荷重が最小値P3となっている。これは、前述したように第1、第2比例リリーフ弁21,23が全開状態になっているからである。この点、制振用ダンパ5によれば、第1、第2比例リリーフ弁21,23によりアンロード時の制振荷重が調整可能なので、横揺れが大きくストッパ当りが懸念されるような場合には、敢えてアンロード時の制振荷重を高くし、ストッパに勢いよく当たらないようにして衝撃による乗心地悪化を防止することができる。また、制振用ダンパ5では、第1、第2比例リリーフ弁21,23の切替音による騒音を発生させないものとすることができた。
【0038】
(第2実施形態)
次に、制振用ダンパの第2実施形態について説明する。図6は、第2実施形態の制振用ダンパを示した回路図である。この制振用ダンパ50は、第1実施形態の制振用ダンパ5においてセミアクティブ回路部の構成を変更したものであり、シリンダ10やフルアクティブ回路部の構成は共通である。そうした共通する構成に関しては同じ符号を付して説明する。また、制振用ダンパ50は、図1において制振用ダンパ5と置き替えられるものである。
【0039】
制振用ダンパ50は、ロッド側室14とポンプ31を結ぶ流路51から分岐した流路52に第1比例リリーフ弁55と第2比例リリーフ弁56とが直列に設けられ、オイルタンク18に接続されている。流路52は、第1比例リリーフ弁55と第2比例リリーフ弁56との間で流路53が分岐し、その流路53がヘッド側室13に接続されている。第1比例リリーフ弁55及び第2比例リリーフ弁56は、ノーマルクローズタイプの電磁比例リリーフ弁であり、コントローラ6からの荷重制御信号に従いリリーフ圧を開度調整によって変化させたオンロード制御が行われ、全開状態にすることでアンロード状態にするようにしている。
【0040】
制振用ダンパ50には、無通電状態などのフェイル時にでも作動油をロッド側室14からオイルタンク18へ流せるようにパッシブ回路が構成されている。流路52から流路54が分岐してオイルタンク18へ接続され、そこにフェイルセーフ弁57とオリフィス58が設けられ、更にオリフィス58と並列にリリーフ弁59が接続されている。フェイルセーフ弁57は、ノーマルオープンの電磁開閉弁であって、フェイル時にはオリフィス58を介してシリンダ10のロッド室14とオイルタンク18とが連通するようになっている。ロッド側室14からの吐出流量が大きい場合には、リリーフ弁59が作動することとなる。
【0041】
こうした制振用ダンパ50は、鉄道車両の走行時にフェイルセーフ弁57が閉じられ、加速度センサ7からの検出信号に基づいて制御コントローラ6が左右方向の振動を判断し、第1比例リリーフ弁55、第2比例リリーフ弁56及び第3比例リリーフ弁33の制御が行われる。ここで、図7及び図8は、制振用ダンパ50における制振時の作動油の流れを示した回路図であり、図面上、セミアクティブ作動における作動油の流れを太線で示し、ポンプ31から送られるフルアクティブ作動における作動油の流れを破線で示している。
【0042】
図7(a)に示す伸びオンロードの場合、ロッド側室14内の作動油が流路51へ押し出され、第1比例リリーフ弁55を通り、更に流路53からヘッド側室13へと戻る。従って、第1比例リリーフ弁55のリリーフ圧によってシリンダ10に制振荷重が発生する。一方で、ポンプ31からの作動油は、チェック弁34を通って流路52へ流れ、更に流路53からヘッド側室13へと流れる。これにより、シリンダ10の伸縮速度が遅くても、ポンプ31からの作動油によって第1比例リリーフ弁55の設定圧に達し、短時間で制振荷重を発生させることができる。その後、第3比例リリーフ弁33の設定圧に達すると、ポンプ31からの作動油は流れが切り替わり、戻り流路46を流れてオイルタンク18へ送り込まれる。
【0043】
そして、伸びオンロード時に図7(b)に示す縮みアンロードに切り替わると、ヘッド側室13内の作動油が流路53に押し出され、また負圧になったロッド側室14へと一部が流れる。流路53に押し出された作動油は、全開の第2比例リリーフ弁56を通ってオイルタンク18へと流れる。このとき、ポンプ31からの作動油は負圧になったロッド側室14へ流れ込み、縮みアンロード時にでもロッド側室14側の圧力を高め、シリンダ10の伸び方向(図面左側)に対する制振荷重を発生させることにより、車体2の制振が可能になる。そして、ロッド側室14内の圧力が高くなれば、ポンプ31からの作動油は流路52を通ってオイルタンク18へと送られる。更に圧力が高まった場合には、第3比例リリーフ弁33が開き、ポンプ31による作動油の流れは戻り流路46に切り替わる。
【0044】
次に、図8(a)に示す縮みオンロードの場合には、ヘッド側室13内の作動油が流路53へ押し出され、第2比例リリーフ弁56を通ってオイルタンク18へ流れる。従って、第2比例リリーフ弁56のリリーフ圧によってシリンダ10に制振荷重が発生する。一方、ポンプ31からの作動油は、先ず負圧になったロッド側室14へ流れ、その後は第1比例リリーフ弁55の設定圧が低いため、作動油の流れが流路52へ切り替わりオイルタンク18へ流れる。更に太線で示す流れの圧力が高くなることで第3比例リリーフ弁33が開き、ポンプ31からの作動油は戻り流路46に流れ、オイルタンク18へと送られる。
【0045】
そして、縮みオンロード時に図8(b)に示す伸びアンロードに切り替わると、ロッド側室14内の作動油が流路51へ押し出され、流路52の第1比例リリーフ弁55を通り、流路53からヘッド側室13へと流れる。また、ヘッド側室13には、負圧によってオイルタンク18からの作動油も流れ込む。このとき、ポンプ31からの作動油は、第1比例リリーフ弁55を介して流路53を流れ、負圧になったヘッド側室13へ送られる。これにより、伸びアンロード時にでもヘッド側室13側の圧力を高め、シリンダ10の縮み方向(図面左側)に対する制振荷重を発生させることにより、車体2の制振が可能になる。そして、ヘッド側室13内の圧力が高くなれば、第3比例リリーフ弁33が開き、ポンプ31からの作動油は戻り流路46からオイルタンク18へ流れ、また、流路52へ流れた作動油はヘッド側室13の流れが制限された後は、第2比例リリーフ弁56を通ってオイルタンク18へ流れる。
【0046】
このような制振用ダンパ50によれば、第1実施形態の制振用ダンパ5と同様に、部品点数を少なくしたり構成部品を小型化することによりコンパクトにし、よって設置スペースを小さくすることを可能にし、また、コストの低下やメンテナンス作業の軽減も可能になった。また、第1及び第2比例リリーフ弁55,56のそれぞれ一によってオンロードとアンロードとを切り替えるため、その切り換え時における荷重変化がなくなり、乗心地を向上させることが可能になった。また、第1、第2比例リリーフ弁55,56によりアンロード荷重も制御可能であるので、横揺れが大きくストッパ当りが懸念される場合には敢えてアンロード荷重を高くし、ストッパに勢いよく当たらないようにして衝撃による乗心地悪化を防止することができる。更に、制振用ダンパ50では、第1、第2比例リリーフ弁55,56の切替音による騒音を発生させないものとすることができた。
【0047】
(第3実施形態)
次に、制振用ダンパの第3実施形態について説明する。図9は、第3実施形態の制振用ダンパを示した回路図である。この制振用ダンパ60は、第1実施形態の制振用ダンパ5についてフルアクティブ回路部の構成を変更したものである。その他の共通する構成に関しては同じ符号を付して説明する。また、制振用ダンパ60は、図1において制振用ダンパ5と置き替えられるものである。
【0048】
制振用ダンパ60の戻り流路46には、第3比例リリーフ弁33の代わりにリリーフ圧の設定値が小さいリリーフ弁65を設け、それに応じてトルクを小さくしたポンプ66及びモータ67によって構成したものである。従って、本実施形態の制振用ダンパ60によれば、ポンプ66のトルクは小さいが、それでも図3(b)の縮みアンロードや図4(b)の伸びアンロードのような場合に、負圧になったシリンダ10のロッド側室14やヘッド側室13へ作動油を充填することができる。これにより、第1及び第2実施形態のように、シリンダ10に対して積極的に制振荷重を発生させることはできないが、図3に示す場合には伸びに対して、図4に示す場合には縮みに対してそれぞれ制振荷重を作用させることができる。
【0049】
以上、本発明に係る鉄道車両の制振用ダンパについて実施形態を説明したが、本発明はこれらに限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
例えば、セミアクティブ回路部については、図2及び図6の例を挙げて説明したが、その他の回路構成であってもよい。
【符号の説明】
【0050】
1 鉄道車両
2 車体
3 台車
5 制振用ダンパ
10 シリンダ
11 シリンダチューブ
13 ヘッド側室
14 ロッド側室
18 オイルタンク
21 第1比例リリーフ弁
23 第2比例リリーフ弁
31 ポンプ
32 モータ
33 第3比例リリーフ弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダとオイルタンクとの間に、前記シリンダの伸縮に伴って流れる作動油の抵抗を大きくするオンロード制御および該作動油の抵抗を小さくするアンロード制御の切り替えが可能な油圧回路とを有し、
前記油圧回路は、
前記シリンダの伸長作動に対し弁の開度調整によりオンロード制御を行う第1比例リリーフ弁および、前記シリンダの収縮作動に対し弁の開度調整によりオンロード制御を行う第2比例リリーフ弁とを備えたセミアクティブ回路部と、
前記セミアクティブ回路部へオイルタンクからの作動油を供給するポンプおよび、前記ポンプからの供給側圧力が所定値を超えた場合に作動油を前記オイルタンクへと戻すための戻り流路とを有するフルアクティブ回路部と
を備えたものであることを特徴とする鉄道車両の制振用ダンパ。
【請求項2】
請求項1に記載する鉄道車両の制振用ダンパにおいて、
前記フルアクティブ回路部は、前記戻り流路にフルアクティブ作動時の制振荷重を調整するための比例リリーフ弁が設けられたものであることを特徴とする鉄道車両の制振用ダンパ。
【請求項3】
請求項1に記載する鉄道車両の制振用ダンパにおいて、
前記フルアクティブ回路部は、前記戻り流路に設定圧が一定のリリーフ弁が設けられたものであることを特徴とする鉄道車両の制振用ダンパ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−76668(P2012−76668A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−225543(P2010−225543)
【出願日】平成22年10月5日(2010.10.5)
【出願人】(000004617)日本車輌製造株式会社 (722)
【出願人】(390021577)東海旅客鉄道株式会社 (413)
【Fターム(参考)】