説明

鋼素材研削装置

【課題】鋼素材、特にスラブなどの研削作業に伴って発生する高温の研削屑の処理を、特段の動力源を使用せず、かつ、長期間に亘って使用し得る鋼素材研削装置を提供する。
【解決手段】鋼素材Sの表面SAを研削可能に構成してなる鋼材研削装置本体20の走行通路11に沿って延在し、該鋼素材研削装置本体による研削作業に伴って発生する研削屑を落とし込む研削屑落し込み溝30内に、鋼素材研削装置本体の後退時においてのみ、前記落し込み溝内に堆積した研削屑を移動可能とする研削屑移動用スクレーパ50を配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼素材研削装置に係り、特に、スラブなどの圧延素材をグラインダーなどによって手入れするための鋼素材研削装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼材、たとえば、薄鋼板や厚鋼板、鋼管、あるいは形鋼等の鋼材を製造するための鋼素材としては、溶鋼から直接連続鋳造によって製造したスラブや、これらを粗圧延したビレット等が利用される。これらの鋼素材に表面欠陥やガス切断時の熱影響による割れ、あるいはガスカット時のトーチスラグが付着していると、製品欠陥の基となるので、一般に圧延に先立ちグラインダー研削による手入れが行われる。特許文献1、2には、グラインダー手入れとその際発生する研削屑の処理を効率的行うための手段が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開平7-290360号公報
【特許文献2】特開平10-94963号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1、2に記載の手段はいずれも研削屑の処理のためにコンベヤやコンベヤ運転用の動力源を準備しなければならず、設備費や保守点検費用が掛かるという問題がある。また、研削屑が高温のため、コンベヤの寿命が短いという問題もある。
【0005】
本発明は、これら従来の先行技術に係る問題を解決することを目的とし、鋼素材、特にスラブなどの研削作業に伴って発生する高温の研削屑の処理を、特段の動力源を使用せず、かつ、長期間に亘って使用し得る鋼素材研削装置を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る鋼素材研削装置は、鋼素材搬送方向に対して直交する方向に走行可能な移動台車と、前記移動台車上に載置され鋼素材表面を研削可能に構成してなる鋼材研削装置本体と、前記移動台車の走行通路に沿って延在し、前記鋼素材研削装置本体による研削作業に伴って発生する研削屑を落とし込む研削屑落し込み溝と、前記研削屑落し込み溝の末端に設けられた研削屑回収ボックス収納部と、前記鋼素材研削装置本体から前記研削屑落し込み溝に吊下された研削屑移動用スクレーパとを備えてなる鋼素材研削装置であって、
前記研削屑移動用スクレーパは、前記移動台車の後端部近傍に前後一対備えられ、かつ、前記研削屑移動用スクレーパは、前記移動台車の後退時においてのみ、前記落し込み溝内に堆積した研削屑を前記研削屑回収ボックス収納部内に排出可能としてなるものである。
【0007】
本発明に係る鋼素材研削装置は、その鋼素材研削装置本体にさらに研削部を覆う研削ダスト吸引部を備えてなるものとすることができる。
【0008】
また、本発明に係る鋼素材研削装置は、前記鋼素材研削装置本体をスラブ端面研削装置として構成することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の鋼素材研削装置は、鋼素材、特にスラブなどの研削作業に伴って発生する高温の研削屑の処理を、特段の動力源を使用せず、かつ、長期間に亘って使用し得る。また、本発明の研削屑の搬出装置は、特段の動力源を有せず、その構成が簡素であって保守点検が極めて容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1は、本発明をその代表的な形態であるスラブの端面の研削装置として実施する場合の全体構成図であり、図2、3は、それぞれその研削装置本体20の正面図及び側面図である。図1〜3に示されているように、本発明に係るスラブの端面の研削装置は、スラブSの搬送方向に対して直交する方向に走行可能な移動台車10と、移動台車10上に載置され、スラブ端面SAを研削可能に構成してなるスラブ研削装置本体20と、移動台車10の走行通路に沿って延在し、スラブ研削装置本体20による研削作業に伴って発生する研削屑を落とし込む研削屑落し込み溝30と、研削屑落し込み溝30の末端に設けられた研削屑回収ボックス収納部40と、スラブ研削装置本体から研削屑落し込み溝30に吊下された研削屑移動用スクレーパ50とを備えている。そして、研削屑移動用スクレーパ50は、鋼素材研削装置本体20の後端部近傍に前後一対備えられ、かつ、鋼素材研削装置本体20の後退時においてのみ、落し込み溝30内に堆積した研削屑を前記研削屑回収ボックス収納部40内に排出可能としている。
【0011】
移動台車10は、図2に矢印で示すスラブSの搬送方向に直交して敷設された一対のレール11, 11上を走行するものであって、スラブ研削装置本体20が載置できるようにプラットホーム12を備えている。
【0012】
スラブ研削装置本体20は、前記移動台車10のプラットホーム12上に固定して載置されている。本例においては、プラットホーム12上にポスト21が立設されており、その頂部に回動可能に支持台22が取り付けられ、その上に固定・載置されたモータ23によりグラインダー24が駆動されるようになっている。前記支持台22はポスト21の下端部近傍から伸びるシリンダー25により支点27を中心として回動自在となっている。また、グラインダー24はポスト21の下端部近傍から伸びるシリンダー26によりスラブSに対する押し付け力を調節できるようになっている。また、グラインダー24の下方には、研削による発生する研削屑を研削溝落し込み溝30にガイドするシュート27が付設されている。
【0013】
研削屑落し込み溝30は、図2に示すように、前記移動台車10を走行させる一対のレール11, 11の内側に延在している。その存在範囲は後にスクレーパ50の作動説明とともに明らかにするが、スクレーパ50の移動領域をカバーできるようにする必要がある。およその目安としては、研削時の移動台車の移動方向を前としたとき、前方向では前記シュート27により研削屑が落とし込まれる範囲まで、後方向では、研削屑落し込み溝30に存在する研削屑をスクレーパ50の作動により研削屑回収ボックス収納部40内に落とし込める範囲とする。なお、研削屑落し込み溝30の上面側は開口部となっており、ここに前記シュート27の下端が臨んでいる。
【0014】
研削屑回収ボックス収納部40は、前記研削屑落し込み溝30からスクレーパ50により掻き寄せられた研削屑を最終的に回収する箇所であって、前記研削屑落し込み溝30の前端部に設けられた深いピット41により構成され、スクレーパ50の動作によりその中に設置した研削屑回収バッグ42内にスクレーパ50の動作により研削屑を落とし込めるようになっている。なお、研削屑回収バッグ42は図示しないクレーンなどにより吊り上げ、吊下ろし自在に構成されている。
【0015】
研削屑移動用スクレーパ50は、前記移動台車10の後端部下面近傍に前後2枚のスクレーパ羽根51, 52を一対として設けられている。このスクレーパ羽根51, 52は、その幅がほぼ研削屑落し溝30の内法に一致し、その長さが、後に説明する吊下時において、研削屑落し溝30の底面を擦る程度に調整されている。前述の定義に従い、移動台車10の前方に位置するスクレーパ羽根52と後方に位置するスクレーパ羽根51の離間距離は、これらスクレーパ羽根が互いに干渉せず、かつ、後に説明する堆積研削屑の掻き集め・排出処理を円滑に行うことができるように研削屑の堆積範囲長さをほぼカバーする値に設定すればよい。
【0016】
上記スクレーパ羽根51(52)は、図5に示すように、台車10のプラットホーム12の下面に膨出部53を設け、これにスクレーパ羽根51に基部を軸支することによって移動台車10の後端部下面近傍に取り付けられる。この取り付けに当たっては、下垂位置停止機構付軸支体54を用い、台車20が前進するときは、研削屑落し込み溝30内に堆積した研削屑の抵抗を受けて後方に退避するが、台車20が後退するときは、たとえばその下垂した位置を時計の6時としたとき、ほぼ5時から6時の位置で停止するようにする。このような機構は、たとえば、適当なラチェット機構を内在させることによって実現できる。
【0017】
以下、上記のように構成されたスラブ端面の研削装置の作動について説明する。まず、スラブSが、ローラテーブル13上を搬送され、その研削端面SAが、研削位置、すなわち、グラインダー24の研削砥石の研削面と一致した位置で停止し、スラブSがクランプされる(図2参照)。この状態でスラブSは、移動台車10及びその上に載置されているスラブ研削装置本体20の移動を妨げない位置にある。また、移動台車10は、その上に載置されているスラブ研削装置本体20とともに、後退位置にあって、グラインダー24はスラブ側面SBから離れた位置にある。
【0018】
前記状態からスラブ研削装置本体20のモータ23を起動し、グラインダーを研削状態におくとともに移動台車20を前進させて、グラインダー24の研削砥石をスラブ側面SBの接する位置におき、次いでシリンダー26によりスラブSに対する押し付け力を調節しながらさらに移動台車20を前進させて、スラブ端面SAの研削を進行させる。
【0019】
この研削に当たって発生する研削屑は、シュート27により導かれて研削屑落し込み溝30内に堆積するとともに、図4に基づいて説明するスクレーパ羽根51, 52の作動により集積された上、研削屑回収部40内に設置した研削屑回収ボックス42内に落とし込まれる。図4は、研削の進行に伴うスクレーパ羽根51, 52の作動の模式的説明図である。以下、図4を用いて、このの作動について説明する。
【0020】
図4(A)は、研削開始直後の状態を示す。この状態では、移動台車10は前進しているが、スクレーパ羽根51, 52は未だ研削屑Dの落下位置に到達しておらず、したがって下垂位置停止機構付軸支体54によって軸支されているにも拘らず、スクレーパ羽根51, 52は、時計位置で6時の位置にある。
【0021】
図4(B)は、研削が進行した状態を示す。この状態では、研削の進行とともに研削屑Dが研削屑落し込み溝30内に堆積している。その結果、前方に位置するスクレーパ羽根52は、移動台車10の前進に伴い、下垂位置停止機構付軸支体54の作用により、ほぼ4時の時計位置で研削屑D上を擦り過ぎることになる。なお、後方に位置するスクレーパ羽根51は、未だ研削屑Dの落下位置に到達していないので、6時の位置にある。
【0022】
図4(C)は、研削工程が終了した状態を示す。この状態での研削屑の堆積状態及びスクレーパ羽根の状態は前記図4(B)の場合とほぼ同様である。
【0023】
本発明の鋼素材研削装置の操作に当たっては、上記の研削工程が終了してもなお、移動台車10を前進させる。すなわち、図4(D)に示す位置、いい換えれば、前方に位置するスクレーパ羽根52の先端部が研削屑落し込み溝30内に堆積している研削屑Dを超える位置まで前進させ、この位置で停止させ、次いで、移動台車10を後退させるのである(図4(E))。
【0024】
図4(E)は、移動台車10の後退開始の状態を示す。この後退状態においては、スクレーパ羽根51, 52は、下垂位置停止機構付軸支体54の作用により6時の位置で停止し、それにより研削屑落し込み溝30内に堆積している研削ダストDを移動台車10の後方に送り出す。先に述べたように、スクレーパ羽根51, 52の離間距離は、研削屑の堆積範囲長さをほぼカバーする値に設定されているので、上記後退状態においては研削屑のほぼ全量をスクレーパ羽根51, 52の間に保持して送り出すことができる。図4(F)は後退終了の状態を示している。
【0025】
次いで、図4(G)に示すように、再び移動台車10を前進させる。その移動距離は、前方に位置するスクレーパ羽根52は、研削屑の山を離れ後方に位置するスクレーパ羽根51が研削屑の山を超えるまでとする。かかる再前進の終了状態が停止状態として図4(H)に示されている。この状態では、後方に位置するスクレーパ羽根51のさらに後方に研削屑Dの山が存在する。
【0026】
図4(I)は、研削屑Dを最終的に研削屑回収部40内に設置した研削屑回収ボックス42内に落とし込む工程を示している。すなわち、移動台車10を再び後退させて、後方のスクレーパ羽根51により研削屑Dの山を研削屑回収ボックス42側に押出すのである。この際、前方のスクレーパ羽根52と後方のスクレーパ羽根51との間には離間距離Lがあるので、移動台車10の最終的な後退距離は、後方のスクレーパ羽根51と研削屑回収ボックス42までの距離で足りることになる。
【0027】
上記スクレーパ羽根51, 52の動作説明から研削屑落し込み溝30の存在範囲等本鋼素材研削装置の必要条件が明確になる。たとえば研削屑落し込み溝30の先端位置は、グラインダー24がスラブSの端面を研削終了する際の研削屑排出位置をやや超える位置にあることが必要である。それにより、レール11の車止めの位置を研削台車のサイズを考慮して定めることができる。一方、研削屑落し込み溝30の後端位置、すなわち、研削屑回収部40のピット41の始端位置は、自走台車10の最大後退位置を基準に、そこまで自走台車10が後退したとき後方スクレーパ羽根51がピット41内に臨むように定めることができる。
【0028】
上記のように本発明では、スラブ端面研削の際に発生する研削屑を移動台車の前後への動きによって回収することができるのであるが、本発明の適用範囲は、スラブ端面の研削屑の回収に留まるものではない。たとえば、特許文献1、2に記載されているようなスラブ表面の研削屑回収のためにも適用することができる。なお、その場合において、グラインダーなど鋼素材研削装置本体の構成を変更して、スラブ等の表面が研削されるとともに研削屑が移動台車に沿った研削屑落し込み溝に落とし込めるようにする必要があることは当然である。
【0029】
なお、本発明の実施に当たり、図1に示すように、研削装置本体の研削部を覆うフード60を設け、該フードから研削ダストを吸引するようにすれば、作業環境の一層の改善を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明をスラブの端面の研削装置として実施する場合の全体構成図である。
【図2】図1に示す研削装置を構成する研削装置本体の正面図である。
【図3】図1に示す研削装置を構成する研削装置本体の側面図である。
【図4】研削の進行に伴うスクレーパ羽根51, 52の作動の模式的説明図である。
【図5】スクレーパ羽根の台車下面への取り付け状態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0031】
10:移動台車
12:プラットホーム
13:テーブルローラ
20:研削装置本体
21:ポスト
22:支持台
23:モータ
24:グラインダー
25:シリンダー
26:シリンダー
27:シュート
30:研削屑落し込み溝
40:研削屑回収部
41:ピット
42:回収バッグ
50:スクレーパ
51:後方のスクレーパ羽根
52:前方のスクレーパ羽根
60:フード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼素材搬送方向に対して直交する方向に走行可能な移動台車と、
前記移動台車上に載置され鋼素材表面を研削可能に構成してなる鋼材研削装置本体と、
前記移動台車の走行通路に沿って延在し、前記鋼素材研削装置本体による研削作業に伴って発生する研削屑を落とし込む研削屑落し込み溝と、
前記研削屑落し込み溝の末端に設けられた研削屑回収ボックス収納部と、
前記鋼素材研削装置本体から前記研削屑落し込み溝に吊下された研削屑移動用スクレーパとを備えてなる鋼素材研削装置であって、
前記研削屑移動用スクレーパは、前記移動台車の後端部近傍に前後一対備えられ、かつ、
前記研削屑移動用スクレーパは、前記移動台車の後退時においてのみ、前記落し込み溝内に堆積した研削屑を前記研削屑回収ボックス収納部内に排出可能としてなることを特徴とする鋼素材研削装置。
【請求項2】
鋼素材研削装置本体は、さらに研削部を覆う研削ダスト吸引部を備えてなることを特徴とする請求項1記載の鋼素材研削装置。
【請求項3】
鋼素材研削装置本体がスラブ端面研削装置であることを特徴とする請求項1又は2記載のスラブ研削装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−268669(P2007−268669A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−98689(P2006−98689)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】