説明

電動ブレーキ装置

【課題】モータや減速機構に不具合が生じて押し付け力が解除不能となった場合においても、簡易にその押し付け力を解除可能な電動ブレーキ装置を提供する。
【解決手段】電動ブレーキ装置において、ピストンユニット12は、シリンダ14のシリンダ室内に摺動可能に収容され、制動ボルト22の回転駆動により生じるねじの推力によってシリンダ室内を摺動してパッドをディスクロータに押し付ける。固定プレート52は、シリンダ14に固定される。ストッパ56は、制動ボルト22に固定され、他の部材を介して固定プレート52に当接することにより所定位置から戻り方向への制動ボルト22の移動を阻止する。軸方向移動許容部は、固定プレート52とストッパ56との間に取り外し可能に配置されるロックピン34を有し、ロックピン34が取り外されることで所定位置から戻り方向への制動ボルト22の移動を許容する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動ブレーキ装置に関し、特に、モータによってピストンを摺動させ、パッドをディスクロータに押し付ける電動ブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電動パーキングブレーキなどの電動ブレーキ装置の開発が進められている。このような電動ブレーキ装置は、モータなどの電動アクチュエータを用いてピストンを摺動させ、ディスクロータにパッドを押し付けるなどして制動力を発生させる。このような電動ブレーキ装置では、モータの故障などによってピストンによる押し付け力を解除できない事態が生じる虞がある。このため、このような場合に押し付け力を解除できるよう、作業者が六角レンチを用いて手動でボルトを回転させるための六角穴をボルトに設けた電動式ブレーキ装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、太陽歯車の固定部材による固定を解除して太陽歯車を回動可能とし、減速ギヤ機構を手動で操作してパッドによるディスクロータへの押圧を解除する電動式ディスクブレーキが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−89086号公報
【特許文献2】特開2003−343620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の特許文献1に記載された電動式ブレーキ装置では、ギヤを含む減速機構を介したモータとの接続を解除することなく、六角レンチを用いてボルトを回転することが可能とされている。また、この電動式ブレーキ装置では、六角レンチを用いてボルトを回転させるときに減速機構およびモータも一緒に回転する。しかしながら、たとえばモータまたは減速機構が何かしらの不具合により回転不能となった場合、六角レンチを用いてボルトを回転させようとしても回転させることが困難となる虞がある。上述の特許文献2に記載された電動式ブレーキ装置では、太陽歯車の固定を解除する技術が記載されているが、装置の多くの部品を分解するなどして押し付け力を解除しなければならず、ブレーキ液が装置外に漏れ出る虞も生じ、作業性の点で改善の余地があった。
【0005】
そこで、本発明は上述した課題を解決するためになされたものであり、その目的は、モータや減速機構に不具合が生じて押し付け力が解除不能となった場合においても、簡易にその押し付け力を解除可能な電動ブレーキ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の電動ブレーキ装置は、減速機構を介してモータに接続され、前記モータの作動によって回転駆動されるボルトと、シリンダのシリンダ室内に摺動可能に収容され、前記ボルトの回転駆動により生じるねじの推力によって前記シリンダ室内を摺動してパッドをディスクロータに押し付けるピストンと、前記シリンダの底面に対するボルト軸方向への前記ボルトの移動を許容する軸方向移動許容部と、を備える。
【0007】
この態様によれば、アクチュエータや減速機構に不具合が生じた場合においても、ボルトを軸方向へ移動させることにより、ピストンを移動させてパッドへの押し付け力を解除する、または減速機構との接続を解除してボルトの回転を可能にすることが可能となる。このため、アクチュエータや減速機構に不具合が生じた場合においてもパッドへの押し付け力を適切に解除することができる。また、ブレーキ液をブレーキ装置外に漏らすことなく押し付け力を手動で適切に解除することができる。
【0008】
前記押し付け力を解除させるときに前記ピストンが摺動する戻り方向への前記ボルトの所定位置からの移動を阻止する移動阻止機構をさらに備えてもよい。前記移動阻止機構は、前記シリンダに固定された固定部材と、前記ボルトに固定され、前記固定部材に当接することにより前記所定位置から前記戻り方向への前記ボルトの移動を阻止するストッパと、を有してもよい。前記軸方向移動許容部は、前記固定部材と前記ストッパとの間に取り外し可能に配置されるスペーサを有し、前記スペーサが取り外されることで前記所定位置から前記戻り方向への前記ボルトの移動を許容してもよい。
【0009】
この態様によれば、スペーサを取り外すという簡易な工程によって、パッドへの押し付け力を容易に解除することができる。このため、作業者の負担も低減させることができる。
【0010】
前記ボルトは、前記ピストンと螺合するボルト本体と、ボルト軸方向へ移動されることにより前記減速機構との接続が解除可能に前記減速機構と接続されたシャフトと、を有してもよい。前記軸方向移動許容部は、ボルト軸方向への前記ボルトとの相対移動が可能となるよう前記ボルト本体に前記シャフトをスプライン嵌合させることにより構成されてもよい。この態様によれば、シャフトを移動させるという簡易な工程によって、ボルトとシャフトとの接続を解除することができる。このため、アクチュエータや減速機構に不具合が生じた場合であっても、パッドへの押し付け力を簡易に解除することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、モータや減速機構に不具合が生じて押し付け力が解除不能となった場合においても、簡易にその押し付け力を解除可能な電動ブレーキ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】第1の実施形態に係る電動ブレーキ装置の断面図である。
【図2】第1の実施形態に係るロックピンの形状を示す図である。
【図3】第2の実施形態に係る電動ブレーキ装置の断面図である。
【図4】参考例に係る電動ブレーキ装置の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態(以下、「実施形態」という。)について詳細に説明する。
【0014】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る電動ブレーキ装置10の断面図である。電動ブレーキ装置10は、パーキングブレーキとして用いられる。なお、電動ブレーキ装置10の用途がこれに限定されないことは勿論であり、例えば電動ブレーキ装置10をいわゆるサービスブレーキに用いてもよい。
【0015】
電動ブレーキ装置10は、ピストンユニット12、シリンダ14、ブレーキパッド20、制動ボルト22、台座ユニット24、固定ユニット26、減速機構30、モータ32、およびロックピン34を有する。シリンダ14は円筒状に形成されており、内部に円柱状の空間であるシリンダ室14aが形成されている。
【0016】
ピストンユニット12は、ピストン15、ナット16、およびカラー18を有する。ピストン15は、有底の円筒状に形成されている。ナット16もまた有底の円筒状に形成されており、開口部の内面に雌ネジ部16aが設けられている。カラー18は、ピストン15の内周と略同一の外周を有する円環状に形成される。カラー18は、底部15aに当接するまでピストン15の内部に挿入される。ナット16は、底面がピストン15の底部15aに対向してカラー18に当接するようピストン15の内部に嵌め入れられる。こうして、ピストン15、ナット16、およびカラー18は、ピストンユニット12として一体的に構成される。
【0017】
ピストンユニット12は、ピストン15の底面がシリンダ室14aの一方の開口部から突出するようシリンダ室14aに挿入される。ピストン15の外径はシリンダ室14aの内径よりもわずかに小さい。このためピストンユニット12は、シリンダ14のシリンダ室14a内に摺動可能に収容される。
【0018】
ブレーキパッド20は、裏金40およびパッド42を有する。裏金40は平板状に形成され、これに厚い板状のパッド42の一方の面が張り合わされてブレーキパッド20が構成されている。ブレーキパッド20は、パッド42がディスクロータ(図示せず)に対向するようブレーキキャリパ(図示せず)に配置される。電動ブレーキ装置10は、シリンダ室14aから突出するピストン15の底部がブレーキパッド20の裏金40の裏面に対向するよう、ブレーキキャリパに取り付けられる。
【0019】
制動ボルト22は細長い円柱状に形成され、先端から全長の半分程度まで雄ネジ部22aが設けられている。この雄ネジ部22aがナット16の雌ネジ部16aに螺合される。制動ボルト22にはストッパ56が固定されている。ストッパ56は円環状に形成され、制動ボルト22の先端から全長の約半分の位置まで圧入され制動ボルト22に固定される。
【0020】
制動ボルト22には、さらに台座ユニット24が嵌め込まれる。台座ユニット24は、台座57、第1環状部材58、および第2環状部材59を有する。台座57、第1環状部材58、および第2環状部材59はそれぞれ円環状に形成される。台座57の外径はシリンダ室14aの内径と略同一となっているが、第1環状部材58および第2環状部材59のそれぞれの外径はシリンダ室14aの内径よりも小さくなっている。台座57は、後方に突出する突出部57aを有する。台座57、第1環状部材58、および第2環状部材59は、ストッパ56に向けて、第2環状部材59、第1環状部材58、台座57の順にそれぞれの開口部が制動ボルト22に嵌め込まれ、シリンダ室14a内に収容される。
【0021】
固定ユニット26は、固定プレート52、および筒状部材55を有する。筒状部材55は、断面が六角形などの非円形の外面を有する。筒状部材55の内径は、制動ボルト22の外径よりもわずかに大きくなっている。固定部材である固定プレート52は環状に形成され、筒状部材55の外径と同様の形状を有する開口部が設けられている。固定プレート52は、開口部に筒状部材55が圧入され、固定ユニット26がシリンダ14に固定される。なお、固定プレート52はシリンダ14の開口部にねじ止めなどの他の固定方法で固定されてもよい。この固定プレート52の内面が、シリンダ底部となる。
【0022】
以下、パッド42をディスクロータに押し付けるときのピストンユニット12の摺動方向を「押し付け方向」という。また、パッド42のディスクロータへの押し付け力を解除させるときのピストンユニット12の摺動方向を「戻り方向」という。ストッパ56および台座ユニット24は、戻り方向への制動ボルト22の所定位置からの移動を阻止する。したがってストッパ56および台座ユニット24は、制動ボルト22の所定位置からの移動を阻止する移動阻止機構として機能する。
【0023】
制動ボルト22は、減速機構30を介してモータ32に接続され、モータ32の作動によって回転駆動される。具体的には、減速機構30は第1ギヤ60、第2ギヤ62、第3ギヤ64、および第4ギヤ66を有する。第1ギヤ60は、モータ32の回転軸に取り付けられている。第2ギヤ62と第3ギヤ64とは互いに同軸となるよう一体的に形成されている。第4ギヤ66は、制動ボルト22の後端部に固定されている。第1ギヤ60は、第2ギヤ62に噛み合いし、第3ギヤ64は第4ギヤ66に噛合している。
【0024】
以上の構成により、モータ32が作動すると、減速機構30を介してまず制動ボルト22が回転駆動される。この制動ボルト22の回転駆動により生じるねじの推力によってナット16が押し付け方向に移動し、これに伴いピストンユニット12全体がシリンダ14内を押し付け方向に摺動する。こうしてピストンユニット12は、パッド42をディスクロータに押し付け、車輪に制動力を与える。
【0025】
ここで、減速機構30やモータ32にも不具合が生じる場合がある。このときに、ピストンユニット12によってパッド42がディスクロータに押し付けられたままその押し付け力の解除が不能となる虞がある。このため第1の実施形態では、ロックピン34を備える。ロックピン34は、シリンダ14の底面に対するボルト軸方向への制動ボルト22の移動を許容する軸方向移動許容部として機能する。
【0026】
図2は、第1の実施形態に係るロックピン34の形状を示す図である。ロックピン34は、2つのスペーサ部34aを有する。ロックピン34はU字状に形成され、2つの直線部分の各々がスペーサ部34aとなる。ロックピン34は、均一の厚さの板状部材によって形成される。なお、ロックピン34が板状部材に限られないことは勿論である。
【0027】
図1に戻る。スペーサ部34aは、台座57と固定ボルト258との間に配置される。台座ユニット224は、スペーサ部34aを介してこの固定プレート52によって戻り方向へ移動が阻止されるようシリンダ14に取り付けられている。ストッパ56は、制動ボルト22に固定され、台座ユニット224に当接することにより所定位置から戻り方向への制動ボルト22の移動を阻止する。
【0028】
ロックピン34は、取り外し可能にとなっている。具体的には、シリンダ14には、2つのスペーサ部34aを挿抜するための孔(図示せず)が設けられている。ユーザによってロックピン34が外側に引っ張られることで、2つのスペーサ部34aが台座57と固定プレート52との間から抜き取られる。このように2つのスペーサ部34aが取り外されることで台座ユニット224全体が戻り方向に移動可能となり、所定位置から戻り方向への制動ボルト22の移動を解除させる。これにより、押し付け力が発生しているときは制動ボルト122とともにピストンユニット12が戻り方向に移動し、押し付け力が解除される。したがってロックピン34は、押し付け力解除機構として機能する。
【0029】
こうしてピストンユニット12によってパッド42がディスクロータに押し付けられたままその押し付け力の解除が不能となったときにおいても、ユーザがロックピン34を引き抜くという簡易な工程を実行することで、減速機構30を介したモータ32と制動ボルト22との接続を維持したままモータ32の回転軸および減速機構30を回転させることなく押し付け力を解除させることができる。また、ブレーキ液をブレーキ装置外に漏らすことなく押し付け力を手動で適切に解除することができる。
【0030】
(第2の実施形態)
図3は、第2の実施形態に係る電動ブレーキ装置100の断面図である。以下、第1の実施形態と同様の個所は同一の符号を付して説明を省略する。電動ブレーキ装置100は、ピストンユニット12、シリンダ114、ブレーキパッド20、制動ボルト122、シャフト130、コイルスプリング132、減速機構30、およびモータ32を有する。シリンダ114は有底の円筒状に形成されており、内部に円柱状の空間であるシリンダ室114aが形成されている。ピストンユニット12は、シリンダ114の開口部から、ピストン15の底面が突出するようシリンダ室114aに挿入される。
【0031】
制動ボルト122は、後端部から全長の約半分まで伸びる、中心軸と同軸の挿入孔122bが設けられている。それ以外は第1の実施形態の制動ボルト22と同様である。シリンダ114の底部114bには、制動ボルト122の外径よりもわずかに大きい内径を有する挿入孔114cが設けられている。制動ボルト122は、後端部がこの挿入孔114cに挿入される。
【0032】
制動ボルト122にはストッパ56が固定されている。ストッパ56は円環状に形成され、制動ボルト122の先端から全長の約半分の位置まで圧入され制動ボルト122に固定される。シリンダ114の底部114b上には第1環状部材58および第2環状部材59が配置され、ストッパ56が第2環状部材59に当接するよう制動ボルト122が第2環状部材59、第1環状部材58、および挿入孔114cに挿入される。こうして、パッド42をディスクロータに押し付ける押し付け力を発生させるときに制動ボルト122の戻り方向への移動が阻止される。
【0033】
第2の実施形態では、モータ32の回転軸および減速機構30の回転を回避して押し付け力を解除させるために、制動ボルト122と減速機構30との間に介在するシャフト130が設けられている。ピストンユニット12に螺合する制動ボルト122には、挿入孔122bが設けられている。シャフト130は、この挿入孔122bにスプライン嵌合して挿入される。このとき、挿入孔122bの底部とシャフト130の先端部との間にコイルスプリング132が配置される。シャフト130の後端部は、第4ギヤ66の中心に固定される。こうしてシャフト130は、ボルト軸方向へ移動されることにより減速機構30との接続が解除可能に減速機構30と接続されている。第2の実施形態では、軸方向移動許容部は、ボルト軸方向への制動ボルト122との相対移動が可能となるよう制動ボルト122にシャフト130をスプライン嵌合させることにより構成される。
【0034】
こうして、シャフト130を制動ボルト122に対しボルト軸方向に相対移動させることによってシャフト130とともに第4ギヤ66を移動させることができる。一方、シャフト130と制動ボルト122とがスプライン嵌合していることから、シャフト130を移動させても、シャフト130を回転させることにより、制動ボルト122を一体的に回転させることができる。シャフト130の端部には、工具取り付け部134が固定されている。工具取り付け部134の外径は、六角レンチやモンキーレンチによって把持できるよう六角形に形成されている。工具取り付け部254にこれらの工具が取り付けられ回転されることにより、シャフト130と共に制動ボルト122を回転させることができる。なお、シャフト130の回転方法がこれに限られないことは勿論であり、例えばシャフト130の端部にドライバーの先端が噛み合うプラスまたはマイナスの凹部が設けられていてもよい。これにより、ドライバーでシャフト130を押しながらシャフト130を回転させることができる。
【0035】
以上より、シャフト130を制動ボルト122に対し押し付け方向に相対移動させることで、シャフト130と共に第4ギヤ66を移動させ、第4ギヤ66と第3ギヤ64との噛合状態を解除することができる。このため、減速機構30やモータ32に不具合が生じて第3ギヤ64を回転させることが困難な場合においても、シャフト130を回転させることで制動ボルト122を回転させることが可能となる。なお、シャフト130の移動方向は押し付け方向に限られず、例えば戻り方向などピストンユニット12の摺動方向と平行に移動させることにより、第4ギヤ66と第3ギヤ64との噛合状態を解除してもよい。
【0036】
(参考例)
図4は、参考例に係る電動ブレーキ装置200の構成を示す断面図である。以下、上述の実施形態と同様の個所は同一の符号を付して説明を省略する。参考例は、固定プレート52に代えて固定ユニット226が設けられ、台座ユニット24に代えて台座ユニット224が設けられ、さらにロックピン34が削除された以外は、第1の実施形態に係る電動ブレーキ装置10と同様に構成される。
【0037】
台座ユニット224は、台座57に代えて台座257が設けられた以外は、第1の実施形態に係る台座ユニット24と同様に構成される。台座257は、後方に突出する突出部が削除された以外は第1の実施形態に係る台座57と同様に形成される。固定ボルト258は、外周に雄ネジ部が設けられた以外は第1の実施形態に係る固定プレート52と同様に構成される。
【0038】
固定ユニット226は、固定ボルト258、工具取り付け部254、および筒状部材55を有する。固定ボルト258および工具取り付け部254はそれぞれ環状に形成され、筒状部材55の外径と同様の形状を有する開口部が設けられている。固定ボルト258および工具取り付け部254は、それぞれの開口部に筒状部材55が圧入される。
【0039】
制動ボルト22が筒状部材55に挿入され、固定ユニット226が制動ボルト22に嵌め込まれる。固定ボルト258の外周には雄ネジ部が設けられている。一方、シリンダ14のシリンダ室14aの開口部のうち、ピストン15が突出する側とは反対側の開口部の内周には雌ネジ部が設けられている。固定ボルト258の雄ネジ部がシリンダ室14aの雌ネジ部に螺合され、固定ユニット226がシリンダ14に固定される。
【0040】
工具取り付け部254の外径は、六角レンチやモンキーレンチによって把持できるよう六角形に形成されている。工具取り付け部254にこれらの工具が取り付けられ回転されることにより、固定ボルト258の雄ネジ部がシリンダ室14aの雌ネジ部に螺合される。
【0041】
減速機構30やモータ32にも不具合が生じる場合があるため、参考例では、固定ユニット226は、このようなときに、減速機構30を介したモータ32と制動ボルト22との接続を維持したままモータ32の回転軸および減速機構30の回転を回避して押し付け力を解除させる。したがって固定ユニット226は、押し付け力解除機構として機能する。
【0042】
具体的には、固定ユニット226は、ユーザによってレンチなどで工具取り付け部254が回転されて戻り方向へ移動することにより、台座ユニット224を戻り方向へ移動させる。こうして固定ユニット226は、所定位置から戻り方向への制動ボルト22の移動阻止を解除することにより押し付け力を解除させる。
【0043】
このように減速機構30を介したモータ32と制動ボルト22との接続を維持したままモータ32の回転軸および減速機構30を回転させることなく押し付け力を解除させることにより、押し付け力の解除のために減速機構30と制動ボルト22、またはブレーキパッド20とモータ32との間の接続の解除を回避できる。このため、これらの接続解除のための手間を回避できる。また、減速機構30またはモータ32に不具合が生じていた場合においても、工具を用いて押し付け力を容易に解除することができ、作業者の工数を低減させることができる。
【0044】
本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本実施形態の各要素を適宜組み合わせたものも、本発明の実施形態として有効である。また、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を本実施形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施形態も本発明の範囲に含まれうる。
【符号の説明】
【0045】
10 電動ブレーキ装置、 12 ピストンユニット、 14 シリンダ、 14a シリンダ室、 15 ピストン、 16 ナット、 20 ブレーキパッド、 22 制動ボルト、 22a 雄ネジ部、 24 台座ユニット、 30 減速機構、 32 モータ、 34 ロックピン、 34a スペーサ部、 42 パッド、 56 ストッパ、 60 第1ギヤ、 62 第2ギヤ、 64 第3ギヤ、 66 第4ギヤ、 100 電動ブレーキ装置、 114 シリンダ、 114a シリンダ室、 130 シャフト、 200 電動ブレーキ装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
減速機構を介してモータに接続され、前記モータの作動によって回転駆動されるボルトと、
シリンダのシリンダ室内に摺動可能に収容され、前記ボルトの回転駆動により生じるねじの推力によって前記シリンダ室内を摺動してパッドをディスクロータに押し付けるピストンと、
前記シリンダの底面に対するボルト軸方向への前記ボルトの移動を許容する軸方向移動許容部と、
を備えることを特徴とする電動ブレーキ装置。
【請求項2】
前記押し付け力を解除させるときに前記ピストンが摺動する戻り方向への前記ボルトの所定位置からの移動を阻止する移動阻止機構をさらに備え、
前記移動阻止機構は、
前記シリンダに固定された固定部材と、
前記ボルトに固定され、前記固定部材に当接することにより前記所定位置から前記戻り方向への前記ボルトの移動を阻止するストッパと、
を有し、
前記軸方向移動許容部は、前記固定部材と前記ストッパとの間に取り外し可能に配置されるスペーサを有し、前記スペーサが取り外されることで前記所定位置から前記戻り方向への前記ボルトの移動を許容することを特徴とする請求項1に記載の電動ブレーキ装置。
【請求項3】
前記ボルトは、
前記ピストンと螺合するボルト本体と、
ボルト軸方向へ移動されることにより前記減速機構との接続が解除可能に前記減速機構と接続されたシャフトと、
を有し、
前記軸方向移動許容部は、ボルト軸方向への前記ボルトとの相対移動が可能となるよう前記ボルト本体に前記シャフトをスプライン嵌合させることにより構成されることを特徴とする請求項1に記載の電動ブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−219880(P2012−219880A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−84876(P2011−84876)
【出願日】平成23年4月6日(2011.4.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】