説明

電動式パーキング機構付ディスクブレーキ

【課題】必要なストロークを確保でき、しかも、大きな増力比を得られる構造を得て、小型で、しかも、パーキングブレーキ作動時に大きな制動力を得られ、且つ、制動解除後の引き摺りを防止できる構造を実現する。
【解決手段】ロータの側面と、インナ、アウタ両パッド2a、3aとの隙間を塞ぐ際には、アジャスタスクリュー16とインプットスクリュー17とを、同期してアウタ側に変位させる。前記隙間を解消した後は、前記アジャスタスクリュー16を停止させ、前記インプットスクリュー17のみをアウタ側に変位させる。そして、複数個の分配レバー19、19を備えた、梃子式の増力機構37により、ピストン7aをアウタ側に強く押し付ける。この構成により、前記課題を解決できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、走行時の制動である所謂サービスブレーキを油圧式に行い、駐車時の制動であるパーキングブレーキを電動式に行う、電動式パーキング機構付ディスクブレーキの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
サービスブレーキを油圧式に行い、パーキングブレーキを電動式に行う、電動式パーキング機構付ディスクブレーキは、ケーブルの配設が不要になってコスト低減を図れる、スイッチのON、OFF操作により制動及びその解除を行えて操作性が向上する、発進時に自動的に解除する為の制御が容易になる等の利点がある為、近年普及し始めている。この様な電動式パーキング機構付ディスクブレーキとして、例えば特許文献1、2に記載されたものが知られている。図8は、このうちの特許文献2に記載された従来構造の1例を示している。
【0003】
この電動式パーキング機構付ディスクブレーキも、従来から広く知られている油圧式のディスクブレーキと同様に、車輪と共に回転するロータ(図示省略)に隣接する状態で車体に支持されるサポート1にインナ、アウタ両パッド2、3を、このロータを軸方向両側から挟む状態で、軸方向の変位を可能に支持している。尚、本明細書及び特許請求の範囲で、アウタとは、車体に支持した状態でこの車体の幅方向外側を、インナとは、同じく幅方向中央側を、軸方向とは、特に断らない限り、前記ロータの軸方向を言う。又、前記サポート1にキャリパ4を、軸方向の変位を可能に支持している。このキャリパ4は、アウタ側端部に前記アウタパッド3のアウタ側面に対向するキャリパ爪5を、インナ側端部に油圧シリンダ6を、それぞれ設けている。又、この油圧シリンダ6内にピストン7を、油密に、且つ、軸方向の変位を可能に装着している。そして、サービスブレーキの作動時には、前記油圧シリンダ6内への油圧の導入に伴って前記ピストン7をアウタ側に押し出し、前記インナパッド2を前記ロータのインナ側面に押し付ける。すると、前記キャリパ4が前記サポート1に対しインナ側に変位し、前記キャリパ爪5により前記アウタパッド3を、前記ロータのアウタ側面に押し付ける。この結果このロータが、インナ、アウタ両側面から強く挟持されて、制動が行われる。
【0004】
又、前記シリンダ6よりも更にインナ側に結合固定したアクチュエータケース8内に、カムローラ式の動力変換装置9を組み込んでいる。この動力変換装置9は、図示しない電動モータの回転駆動力を軸方向の推力に変換してから、この推力を、間隙調整装置10を介して、前記ピストン7に伝達する。パーキングブレーキ作動時には、前記動力伝達装置9により回転駆動力から変換された推力が、上記間隙調整装置10を介して前記ピストン7に伝達され、上述したサービスブレーキ作動時と同様にして、制動が行われる。
【0005】
更に、図示は省略するが、前記特許文献1には、有底円筒状のピストンの底部と油圧シリンダの底部との間に、電動モータの回転駆動力に基づいて伸長するボール・ランプ式の推力発生装置を設けた構造が記載されている。パーキングブレーキ作動時には、前記電動モータにより前記推力発生装置を伸長させ、前記ピストンをロータのインナ側面に押し付けて、制動を行う。
【0006】
特許文献1、2の何れに記載された電動式パーキング機構付ディスクブレーキに就いても、パーキングブレーキ作動時に大きな制動力を発揮させる為には、駆動源となる電動モータとして、大きな出力を得られる大型のものを使用するか、回転駆動力を軸方向の推力に変換する為の推力発生装置として、増力比(出力の大きさ/入力の大きさ)の大きなものを使用する必要がある。大型の電動モータを使用する事は、電動式パーキング機構付ディスクブレーキの大型化、コスト上昇の原因となる為、好ましくない。又、単に増力比の大きな推力発生装置を使用すると、この推力発生装置のストロークを確保できなくなり、十分な制動力を得られなかったり、或いは、制動解除後にも両パッドとロータの両側面とが擦れ合う、所謂引き摺りを発生する原因となる。
【0007】
【特許文献1】特開2003−65366号公報
【特許文献2】特開2008−45703号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述の様な事情に鑑み、必要なストロークを確保でき、しかも、大きな増力比を得られる構造を得て、小型で、しかも、パーキングブレーキ作動時に大きな制動力を得られ、且つ、制動解除後の引き摺りを防止できる電動式パーキング機構付ディスクブレーキを実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の電動式パーキング機構付ディスクブレーキは、従来から知られている電動式パーキング機構付ディスクブレーキと同様に、ロータと、サポートと、インナ、アウタ両パッドと、キャリパと、ピストンと、推力発生装置とを備える。
このうちのロータは、車輪と共に回転する。
又、前記サポートは、前記ロータに隣接する状態で車体(懸架装置を構成するナックル)に支持される。
又、前記インナ、アウタ両パッドは、前記ロータを軸方向両側から挟む状態で前記サポートに、軸方向の変位を可能に支持されている。
又、前記キャリパは、アウタ側端部に前記アウタパッドのアウタ側面に対向するキャリパ爪を、インナ側端部に油圧シリンダを、それぞれ設けたもので、前記サポートに対し軸方向の変位を可能に支持されている。
又、前記ピストンは、アウタ側を変位側底部としインナ側を開口部とした有底円筒状のもので、前記油圧シリンダ内に、軸方向の変位を可能に装着されており、この油圧シリンダ内への油圧の導入に伴って前記インナパッドを、前記ロータのインナ側面に押し付ける。
更に、前記推力発生装置は、電動モータを駆動源として軸方向の推力を発生させる電動式のものであって、前記ピストンの変位側底部と、前記油圧シリンダのインナ側奥部である固定側底部との間に設けられている。そして、前記電動モータの回転駆動力に基づいて伸長する事により、前記ピストンを前記ロータのインナ側面に向けて移動させる。
【0010】
特に、本発明の電動式パーキング機構付ディスクブレーキに於いては、前記推力発生装置は、アジャスタプラグと、アジャスタスクリューと、インプットスクリューと、プリセットスプリングと、複数個の分配レバーとを備える。
このうちのアジャスタプラグは、内周面に外径側雌ねじ部を設け、前記油圧シリンダ内に、回転を阻止された状態で支持されている。
又、前記アジャスタスクリューは、基部外周面に外径側雄ねじ部を、内周面に内径側雌ねじ部を、それぞれ設けており、このうちの外径側雄ねじ部と前記外径側雌ねじ部とを螺合させた状態で、前記アジャスタプラグの内径側に設置されている。
又、前記インプットスクリューは、外周面に設けた内径側雄ねじ部と前記内径側雌ねじ部とを螺合させた状態で、前記アジャスタスクリューの内径側に設置されている。 又、前記プリセットスプリングは、これらアジャスタスクリューとインプットスクリューとの間に設けられ、このインプットスクリューに対し、前記内径側雄ねじ部と前記内径側雌ねじ部との螺合に基づいてインナ側に変位する方向の弾力を付与する。
更に、前記各分配レバーは、前記ピストンの変位側底部内面と前記アジャスタスクリューの先端面及び前記インプットスクリューの先端面との間に、円周方向に関して複数個に分割された状態で設けられている。
そして、前記各分配レバーのインナ側面のうちの外径側端部を前記アジャスタスクリューの先端面に、同じくインナ側面のうちの内径側端部を前記インプットスクリューの先端面に、同じくアウタ側面のうちの径方向中間部を前記ピストンの変位側底部内面に、直接又は他の部材を介して突き当てている。
【0011】
上述の様な本発明の電動式パーキング機構付ディスクブレーキを実施する場合に好ましくは、請求項2に記載した発明の様に、前記各分配レバーのアウタ側面の径方向中間部を前記ピストンの変位側底部内面に、円環状若しくは円板状のプラグ板を介して突き当てる。そして、このプラグ板と前記アジャスタスクリューの先端部に形成した外向鍔部とを、ホルダスプリングにより、互いに近づく方向の弾力を付与した状態で、前記各分配レバーと共に束ねる。
【発明の効果】
【0012】
上述の様に構成する本発明の電動式パーキング機構付ディスクブレーキによれば、必要なストロークを確保でき、しかも、大きな増力比を得られる構造を得て、小型で、しかも、パーキングブレーキ作動時に大きな制動力を得られ、且つ、制動解除後の引き摺りを防止できる。
先ず、必要なストロークの確保は、インナ、アウタ両パッドとロータの側面との間の隙間を塞ぐべく、これら両パッドをこのロータの側面に近づける行程を、単に外径側雌ねじ部と外径側雄ねじ部との螺合のみで行う事により図れる。大きな増力比に基づいて大きな推力を発生させるべく、各分配レバーを揺動変位させるのは、前記隙間が消滅して、前記両パッドを前記ロータの側面に押し付ける段階からである。この段階からのストロークは短くて済む為、前記各分配レバーによる増力比を大きくする代わりに、これら各分配レバーにより構成する増力機構のストロークが短くなっても、前記両パッドを前記ロータの側面に、確実に、且つ、十分に大きな力で押し付けられる。又、前記増力比を大きくできる為、小型で軽量な電動モータを使用しても、十分な制動力を得られる。更に、制動解除後には、前記外径側雌ねじ部と前記外径側雄ねじ部との螺合に基づき、前記両パッドを前記ロータの側面から十分に離す事ができて、前記引き摺りを十分に防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1〜6は、本発明の実施の形態の1例を示している。本例の電動式パーキング機構付ディスクブレーキは、サポート1aに対してキャリパ4aを、軸方向の変位を可能に組み付けている。この部分の構造に就いては、従来から広く知られている油圧式のフローティングキャリパ型ディスクブレーキ(ガイドピン型ディスクブレーキ)と同様であるから、詳しい説明は省略する。前記サポート1aは、車輪と共に回転する図示しないロータに隣接する状態で車体に支持されるもので、このロータを軸方向両側から挟む状態で、インナ、アウタ両パッド2a、3aを、軸方向の変位を可能に支持している。
【0014】
前記キャリパ4aのアウタ側端部にはキャリパ爪5aを、インナ側端部には油圧シリンダ6aを、それぞれ設けている。そして、この油圧シリンダ6a内にピストン7aを、油密に、且つ、軸方向の変位を可能に組み込んでいる。サービスブレーキの作動時には、前記油圧シリンダ6a内に油圧を導入して前記ピストン7aを、アウタ側に変位させる。そして、このピストン7aにより前記インナパッド2aを前記ロータのインナ側面に押し付けると共に、前記キャリパ爪5aにより前記アウタパッド3aを前記ロータのアウタ側面に押し付ける。そして、このロータを前記両パッド2、3により、軸方向両側から強く挟持して、制動を行う。以上の説明は、一般的な油圧式のフローティングキャリパ型ディスクブレーキと同様である。
【0015】
特に、本例の電動式パーキング機構付ディスクブレーキは、前記ピストン7aを、アウタ側を変位側底部13としインナ側を開口部とした有底円筒状のものとし、このピストン7aの内側に、機械式の推力発生装置11を組み込んでいる。この推力発生装置11は、前記キャリパ4aの外側に固定した電動モータ12を駆動源として作動し、回転方向の動力を軸方向の推力に変換し、前記ピストン7aをアウタ側に変位させる。即ち、前記推力発生装置11は、前記ピストン7aの変位側底部13と、前記油圧シリンダ6aのインナ側奥部である固定側底部14との間に設けられ、前記電動モータ12の回転駆動力に基づいて伸長する事により、前記ピストン7aを前記ロータのインナ側面に向けて移動させる。
【0016】
特に、本例の電動式パーキング機構付ディスクブレーキの場合には、前記推力発生装置11は、アジャスタプラグ15と、アジャスタスクリュー16と、インプットスクリュー17と、プリセットスプリング18と、複数個の分配レバー19、19とを組み合わせて成る。そして、これら各部材15〜19を、前記変位側底部13と前記固定側底部14との間に組み付けている。
【0017】
このうちのアジャスタプラグ15は、インナ側の基端部に内向鍔部20を形成したもので、前記固定側底部14のアウタ側面に形成した凹部43に、その基端部を内嵌している。そして、この状態で、前記内向鍔部20と前記固定側底部14との間にピン21を掛け渡して、前記キャリパ4aに対し前記アジャスタプラグ15が回転する事を防止している。この様なアジャスタプラグ15の内周面には、外径側雌ねじ部22を設けている。
【0018】
又、前記アジャスタスクリュー16は、全体を円筒状に形成されており、基部であるインナ側の外周面に外径側雄ねじ部23を、先半部であるアウタ側半部の内周面に内径側雌ねじ部24を、それぞれ設けている。更に、前記アジャスタスクリュー16の先端部であるアウタ側端部で、前記アジャスタプラグ15の先端開口(アウタ側開口)よりもアウタ側に突出した部分に、外径側外向鍔部25を形成している。尚、前記アジャスタスクリュー16のうち、前記内径側雌ねじ部24を設けたアウタ側半部の内径は、残りの部分の内径よりも小さくしている。この様なアジャスタスクリュー16は、前記外径側雄ねじ部23と前記外径側雌ねじ部22とを螺合させた状態で、前記アジャスタプラグ15の内径側に設置されている。これら両ねじ部23、22のピッチは特に粗くはなく、従って、これら両ねじ部23、22同士の螺合状態は、不可逆的である。
【0019】
又、前記インプットスクリュー17は、駆動杆26と組み合わせてインプットユニット27を構成している。即ち、この駆動杆26の先端部であるアウタ側端部に前記インプットスクリュー17を外嵌すると共に、この駆動杆26の先端部に直径方向に係止したピン28の両端部を、このインプットスクリュー17の内周面の直径方向反対側2箇所位置に形成した係合溝42、42(図5)に、軸方向の摺動可能に係合させている。そして、前記駆動杆26とインプットスクリュー17とを、トルク伝達を可能に、且つ、軸方向の相対変位を可能に組み合わせている。尚、この組み合わせ部は、一般的なスプライン係合にしても良い。この様なインプットスクリュー17は、外周面に設けた内径側雄ねじ部29と、前記アジャスタスクリュー16側の内径側雌ねじ部24とを螺合させた状態で、このアジャスタスクリュー16の内径側に設置している。これら両ねじ部29、24のピッチに関しても、特に粗くはなく、従って、これら両ねじ部29、24同士の螺合状態は、不可逆的である。又、前記駆動杆26の基端部であるインナ側端部は、前記アジャスタプラグ15の内向鍔部20の内径側及び前記油圧シリンダ6aの奥端部に設けた中心孔30を油密に挿通して、前記キャリパ4aのインナ側面から突出させている。そして、前記駆動杆26の基端部を、歯車式の減速機31の出力軸32に、トルク伝達を可能に結合している。この減速機31は、前記キャリパ4aのインナ側端部に結合した減速機ケース33内に収納されており、前記電動モータ12の回転を減速しつつ(トルクを増大しつつ)、前記出力軸32に伝達する。従って前記インプットスクリュー17は、前記電動モータ12により、前記駆動杆26を介して、大きなトルクで回転駆動される。
【0020】
この様なインプットスクリュー17と前記アジャスタスクリュー16との間には、前記プリセットスプリング18を設けている。このプリセットスプリング18は、捩りコイルばねであり、前記インプットスクリュー17に対し、回転方向の弾力を付与している。この弾力の方向は、前記内径側雄ねじ部29と前記内径側雌ねじ部24との螺合に基づいて、このインプットスクリュー17を構成する前記インプットスクリュー17をインナ側に変位させる方向としている。従って、このインプットスクリュー17は、前記プリセットスプリング18の弾力の作用方向と反対方向に、この弾力よりも大きな力が加わらない限り、前記アジャスタスクリュー16の内側に引き込まれる。そして、前記インプットスクリュー17の先端部に設けた内径側外向鍔部34のインナ側面が、前記アジャスタスクリュー16の先端面(アウタ側面)に突き当たる。このアジャスタスクリューの先端面内径寄り部分は軸方向に凹ませており、この突き当たり状態で、前記内径側鍔部34のアウタ側面と前記外径側鍔部25のアウタ側面とは、同一平面上に位置する。尚、前記プリセットスプリング18の両端部に形成した係止部35a、35bのうち、インナ側端部から外径側に突出した係止部35aは、前記アジャスタスクリュー16の基端部に形成した係止切り欠き36aに係止している。これに対して、アウタ側端部から内径側に突出した係止部35bは、前記インプットスクリュー17の基端部乃至中間部に形成した係止切り欠き36bに係止している。従って、このインプットスクリュー17の軸方向変位に拘らず、前記プリセットスプリング18の弾力が、このインプットスクリュー17に加わり続ける。
【0021】
更に、前記外径側、内径側両外向鍔部25、34と、前記ピストン7aのアウタ端部である変位側底部13との間に、梃子式の増力機構37を設けている。この増力機構37は、前記両外向鍔部25、34に加えて、前記複数個(例えば3〜4個)の分配レバー19、19と、円環状のプラグ部材38と、ホルダスプリング39とを備える。これら各分配レバー19、19は、前記外径側、内径側両外向鍔部25、34の先端面(アウタ側面)と、前記変位側底部13のインナ側面に突き当てた、前記プラグ部材38のインナ側面との間に設けている。前記各分配レバー19、19のインナ側面のうち、前記ピストン7aの径方向に関して内外両端部、及び、これら各分配レバー19、19のアウタ側面のうち、前記ピストン部材7aの径方向に関して中間部は、それぞれ部分円筒状の凸曲面としている。そして、前記各分配レバー19、19のインナ側面の内径側部分を前記内径側外向鍔部34のアウタ側面に、同じくインナ側面の外径側部分を前記外径側外向鍔部25のアウタ側面に、それぞれ揺動変位を可能に突き当てている。又、前記各分配レバー19、19のアウタ側面の径方向中間部を、前記プラグ部材38のインナ側面に、それぞれ揺動変位を可能にして突き当てている。特に、このプラグ部材38のインナ側面に関しては、円周方向複数箇所に断面円弧状の凹部40、40を形成し、これら各凹部40、40と前記各分配レバー19、19のアウタ側面の径方向中間部とを、十分な面積で当接させている。尚、これら各分配レバー19、19の揺動変位が円滑に行われる様にすべく、これら各分配レバー19、19を軸方向に見た形状は、図6から分かる様に、円弧形ではなく直線状としている。
【0022】
更に、本例の場合には、板ばね状の前記ホルダスプリング39により、前記プラグ部材38と前記外径側外向鍔部25との間に、軸方向に関して互いに近付く方向の弾力を付与している。そして、前記増力機構37の組立作業の容易化を図ると共に、パーキングブレーキの解除時、前記電動モータ12により前記アジャスタスクリュー16をインナ側に戻す際に、前記各分配レバー19、19が、前記外径側、内径側両外向鍔部25、34のアウタ側面と前記プラグ部材38のインナ側面との間から外れる事を防止している。
【0023】
上述の様に構成する本例の電動式パーキング機構付ディスクブレーキの、パーキングブレーキ作動時の作用は、次の通りである。
パーキングブレーキ作動時には、前記電動モータ12により前記インプットスクリュー17を、前記駆動杆26を介して回転駆動する。作動開始直後の初期段階では、前記インナ、アウタ両パッド2a、3aと前記ロータの両側面との間には隙間が存在し、これら両パッド2a、3aをこのロータに向けて移動させる為に要する力は小さくて済む。この為、前記初期段階では、前記インプットスクリュー17の回転に伴って前記アジャスタスクリュー16も、前記プリセットスプリング18に引っ張られる様にして、前記インプットスクリュー17と同期して回転する。そして、前記外径側雌ねじ部22と前記外径側雄ねじ部23との螺合に基づいて、前記アジャスタスクリュー16が、前記ロータに向けてアウタ側に変位し、前記両パッド2a、3aと前記ロータの両側面との間の隙間を解消する。
【0024】
この様にして前記両パッド2a、3aと前記ロータの両側面との間の隙間が解消されると、前記アジャスタスクリュー16をロータに向けて移動させる為に要する力(このアジャスタスクリュー16の回転抵抗)が、前記プリセットスプリング18によりこのアジャスタスクリュー16に付与されている弾力よりも大きくなる。この結果、このアジャスタスクリュー16がそれ以上回転しなくなり、このアジャスタスクリュー16が停止する。この状態から更に前記インプットスクリュー17を、前記プリセットスプリング18の弾力に抗して回転させると、前記内径側雌ねじ部24と前記内径側雄ねじ部29との螺合に基づき、前記インプットスクリュー17のみが、前記ロータに向け、アウタ側に変位する。
【0025】
この様なインプットスクリュー17の変位に基づいて、前記各分配レバー19、19が、このインプットスクリュー17の先端部に設けた前記内径側外向鍔部34のアウタ面との当接部を力点とし、前記外径側外向鍔部25のアウタ側面との当接部を支点とし、前記プラグ部材38との当接部を作用点として揺動変位する。このプラグ部材38の径方向に関して、この作用点は前記力点と支点との間に存在するので、このプラグ部材38を介して前記ピストン7aを変位させる力は、(図示の例では3倍程度に)増力されて、このピストン7aを前記ロータに向け、大きな力で押し付ける。この結果、前記両パッド2a、3aが前記ロータの両側面に強く押圧される。前記各ねじ部22、23同士、前記各ねじ部24、29同士は、不可逆的に螺合しているので、前記電動モータ12への通電を停止すれば、特に保持動作をせずに、必要な制動力を保持できる。
【0026】
本例の場合、前記隙間を解消する過程では、前記増力機構37が作動する必要はなく、この隙間解消の為にこの増力機構37のストロークが消費される事はない。従って、この増力機構37として、ストロークが短い代わりに増力比が大きな構造を採用できて、前記ピストン部材7aを前記ロータに向けて押し付ける力を、特に大きくできる。
【0027】
制動解除の際には、従来から提案されている電動式ディスクブレーキと同様に、前記電動モータ12を逆方向に回転させて、前記ピストン部材7aを前記ロータから退避させる。この際、前記両パッド2a、3aが前記ロータの両側面から離隔する瞬間の後、前記電動モータ12を所定角度だけ逆方向に回転させ続けて、前記両パッド2a、3aと前記ロータの両側面との間に適正厚さの隙間を確保する。この適正隙間の確保は、前記アジャスタスクリュー16を前記アジャスタプラグ15に対し、前記両ねじ部22、23の螺合により、インナ側に適正量変位させる事により行う。即ち、本例の場合には、前記アジャスタプラグ15を設ける事により、前記両パッド2a、3aの摩耗に拘らず、前記隙間を常に適正厚さに保てる様にしている。
【0028】
上述の様に本例の電動式パーキング機構付ディスクブレーキによれば、必要なストロークの確保は、前記インナ、アウタ両パッド2a、3aと前記ロータの側面との間の隙間を塞ぐべく、これら両パッド2a、3aをこのロータの側面に近づける行程を、単に外径側雌ねじ部22と外径側雄ねじ部23との螺合のみで行う事により図れる。大きな増力比に基づいて大きな推力を発生させるべく、各分配レバー19、19を揺動変位させるのは、前記隙間が消滅して、前記両パッド2a、3aを前記ロータの側面に押し付ける段階からである。この段階からのストロークは短くて済む為、前記各分配レバー19、19による増力比を大きくする代わりに、これら各分配レバー19、19により構成する増力機構37のストロークが短くなっても、前記両パッド2a、3aを前記ロータの側面に、確実に、且つ、十分に大きな力で押し付けられる。又、前記増力比を大きくできる為、小型で軽量な電動モータ12を使用しても、十分な制動力を得られる。更に、制動解除後には、前記外径側雌ねじ部22と前記外径側雄ねじ部23との螺合に基づき、前記両パッド2a、3aを前記ロータの側面から十分に離す事ができて、引き摺りを十分に防止できる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
尚、本例を実施する場合に、上述の様な、分配レバー19、19を使用した梃子式の増力機構37の代わりに、図7に示す様な、リアクションディスク式の増力機構37aを採用する事もできる。この場合には、ピストン7bの変位側底部13aの内面と、アジャスタスクリュー16aの先端面及びインプットスクリュー17aの先端面との間に、リアクションディスク41を挟持する。ピストン7bの奥端部のプラグ部材38aは省略するか、設ける場合でもインナ側面全体が平坦な円板状とする事もできる。又、インプットスクリュー17aの先端開口部を塞ぎ(有底とし)押圧板44を省略する事もできる。前記リアクションディスク41は、ゴム、ビニルの如きエラストマー等の、耐油性を有する弾性材製で、前記ピストン7bの変位側底部13aの内面と、前記アジャスタスクリュー16aの先端面及び前記インプットスクリュー17aの先端面との間で、実質的に隙間なく挟持している。そして、このインプットスクリュー17aの先端面(アウタ側面)を、前記リアクションディスク41のインナ側面中央部に突き当てている。この為に、前記インプットスクリュー17aを、アウタ側が塞がれた有底形状としている。
【0030】
パーキングブレーキの作動時には、インプットユニット27aを構成する前記インプットスクリュー17aがアウタ側に変位し、このインプットスクリュー17aのアウタ側面が前記リアクションディスク41のインナ側面中央部を強く押圧する。この結果、このリアクションディスク41が弾性変形する。このリアクションディスク41は、一種の非圧縮性流体の如き挙動により、このリアクションディスク41を囲んでいる相手面を押圧する。このリアクションディスク41がこの相手面を押圧する単位面積当たりの圧力は、前記インプットスクリュー17aのアウタ側面による押圧部の単位面積当たりの圧力と同じになる。リアクションディスク41と相手面との当接面積を軸方向に関して見た場合、前記ピストン7bの変位側底部13aの内面との当接面積S1 が、前記インプットスクリュー17aのアウタ側面との当接面積S2 よりも十分に広い(S1 ≫S2 )。従って、ピストン部材7bは、前記インプットスクリュー17aに加えられた推力よりも、前記当接面積の比分(S1 /S2 )だけ増力されて、ロータに向け押圧される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施の形態の1例の全体構成を、アウタ側且つ径方向外側から見た状態で示す斜視図。
【図2】同じく、インナ側且つ径方向内側から見た状態で示す斜視図。
【図3】図1のA−A断面図。
【図4】ピストン及び推力発生装置である、図3の中央部を取り出して示す拡大断面図。
【図5】図4の構造から一部の部品を取り出して示す、分解斜視図。
【図6】図5の左端部の部品を逆方向から見た斜視図。
【図7】本発明の実施の形態の別例を示す、図4と同様の図。
【図8】従来構造の1例を示す、図3と同様の図。
【符号の説明】
【0032】
1、1a サポート
2、2a インナパッド
3、3a アウタパッド
4、4a キャリパ
5、5a キャリパ爪
6、6a 油圧シリンダ
7、7a、7b ピストン
8 アクチュエータケース
9 動力変換装置
10 間隙調整装置
11 推力発生装置
12 電動モータ
13、13a 変位側底部
14 固定側底部
15 アジャスタプラグ
16、16a アジャスタスクリュー
17、17a インプットスクリュー
18 プリセットスプリング
19 分配レバー
20 内向鍔部
21 ピン
22 外径側雌ねじ部
23 外径側雄ねじ部
24 内径側雌ねじ部
25 外径側外向鍔部
26 駆動杆
27、27a インプットユニット
28 ピン
29 内径側雄ねじ部
30 中心孔
31 減速機
32 出力軸
33 減速機ケース
34 内径側外向鍔部
35a、35b 係止部
36a、36b 係止切り欠き
37、37a 増力機構
38、38a プラグ部材
39 ホルダスプリング
40 凹部
41 リアクションディスク
42 係合溝
43 凹部
44 押圧板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪と共に回転するロータと、このロータに隣接する状態で車体に支持されるサポートと、このロータを軸方向両側から挟む状態で、軸方向の変位を可能にこのサポートに支持された、インナ、アウタ両パッドと、このサポートに対し軸方向の変位を可能に支持された、アウタ側端部に前記アウタパッドのアウタ側面に対向するキャリパ爪を、インナ側端部に油圧シリンダを、それぞれ設けたキャリパと、この油圧シリンダ内に、軸方向の変位を可能に装着されて、この油圧シリンダ内への油圧の導入に伴って前記インナパッドを前記ロータのインナ側面に押し付ける、アウタ側を変位側底部としインナ側を開口部とした有底円筒状のピストンと、このピストンの変位側底部と前記油圧シリンダのインナ側奥部である固定側底部との間に設けられ、電動モータの回転駆動力に基づいて伸長する事により前記ピストンを前記ロータのインナ側面に向けて移動させる推力発生装置とを備えた電動式パーキング機構付ディスクブレーキに於いて、この推力発生装置は、内周面に外径側雌ねじ部を設け、前記油圧シリンダ内に回転を阻止された状態で支持されたアジャスタプラグと、基部外周面に設けた外径側雄ねじ部と前記外径側雌ねじ部とを螺合させた状態で、このアジャスタプラグの内径側に設置された、内周面に内径側雌ねじ部を設けたアジャスタスクリューと、外周面に設けた内径側雄ねじ部とこの内径側雌ねじ部とを螺合させた状態で、前記アジャスタスクリューの内径側に設置されたインプットスクリューと、これらアジャスタスクリューとインプットスクリューとの間に設けられ、このインプットスクリューに対し、前記内径側雄ねじ部と前記内径側雌ねじ部との螺合に基づいてインナ側に変位する方向の弾力を付与するプリセットスプリングと、前記ピストンの変位側底部内面と前記アジャスタスクリューの先端面及び前記インプットスクリューの先端面との間に、円周方向に関して複数個に分割された状態で設けられた分配レバーとを備え、これら各分配レバーのインナ側面のうちの外径側端部を前記アジャスタスクリューの先端面に、同じくインナ側面のうちの内径側端部を前記インプットスクリューの先端面に、同じくアウタ側面のうちの径方向中間部を前記ピストンの変位側底部内面に、直接又は他の部材を介して突き当てている事を特徴とする電動式パーキング機構付ディスクブレーキ。
【請求項2】
前記各分配レバーのアウタ側面の径方向中間部を前記ピストンの変位側底部内面に、円環状若しくは円板状のプラグ板を介して突き当てており、このプラグ板と前記アジャスタスクリューの先端部に形成した外向鍔部とを、ホルダスプリングにより、互いに近づく方向の弾力を付与した状態で、前記各分配レバーと共に束ねている、請求項1に記載した電動式パーキング機構付ディスクブレーキ。
【請求項3】
前記ピストンの変位側底部内面と前記アジャスタスクリューの先端面及び前記インプットスクリューの先端面との間の分配レバーを省略し、代わりに、前記ピストンの変位側底部内面と前記アジャスタスクリューの先端面及び前記インプットスクリューの先端面との間に、弾性材製のリアクションディスクを挟持し、このリアクションディスクのインナ側面の中央部に前記インプットスクリューの先端面を突き当てた、請求項1に記載した電動式パーキング機構付ディスクブレーキ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−190348(P2010−190348A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−36638(P2009−36638)
【出願日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】