説明

電動車

【課題】 本発明は、上記事情に鑑み、懸架した左右一対の補助輪等の上下動を確実に固定することにより、安定性が高く安全な電動車を提供しようとするものである。
【解決手段】弾性的に懸架されて上下動可能となった左右一対の補助輪10、10を備えた電動車において、この補助輪10に、当該補助輪10に伴って上下動するロック用板材14とロック用キャリパ15とがそれぞれ設けられると共に、ロック用板材14には上下動の方向に沿って複数の被係合孔14aが設けられ、ロック用キャリパ15には、操作等によりロック用板材14に対して接近と離反を行い、接近した場合には一部の被係合孔14aに係合し、離反した場合にはこの被係合孔14aとの係合を解除する1以上の係合突起が設けられた構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性的に懸架されて上下動可能となった左右一対の車輪を備えた電動車に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自転車は、操舵輪である前輪と駆動輪である後輪の二輪だけでなく、この後輪の左右に一対の補助輪を配置した四輪のものもある。この補助輪の役割は、停車時に車体が倒れないようにするだけでなく、荷物を積んでも倒れないようにすること、走行時には荷物を積んだ時のふらつきを抑えて、バランスをとるのが苦手な人でも乗りやすくすることにあり、また、スリップ等のようにタイヤが滑ることによる転倒を抑制することもできる。
【0003】
このような補助輪を備えた自転車は、左右で異なる凹凸のある路面を走行する場合や、旋回時に車体が傾いた場合の安定性を高めるために、揺動自在なアームの先端部に左右の補助輪を取り付けると共に、このアームをばねによって下方に付勢することにより、それぞれ独立に弾性的に懸架して上下動可能にすることがある。しかも、停車時の車体の自立性を高めるために、アームと共に揺動するディスクロータや扇形の板材をブレーキ用キャリパのブレーキパッドで挟持押圧して補助輪の上下動を固定できるようにすることもある(例えば、特許文献1参照。)。なお、補助輪の上下動を固定した状態で走行するのは安全上好ましくないので、走行時にはこの補助輪の固定は解除する。
【0004】
また、上記補助輪を備えた自転車と同様の構成であって、ペダルを足で漕いだときの回転力をチェーンを介して後輪に伝え駆動するのではなく、電動モータにより後輪を駆動するようにした電動車も開発されている。しかも、高齢者や身体障害者等のための電動車では、ペダルを足で漕いだときの回転速度を検出し、この回転速度に応じて電動モータの駆動を制御するようにしたものもある。
【特許文献1】特開2007−145318号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、電動車は、電動モータや蓄電池によって車体質量が重くなることと、自転車よりも重い荷物を運搬することが多いので、この荷物の荷台への積み下ろしの際に車体に左右方向の非常に大きな力が加わることがあり、ディスクロータや扇形の板材をブレーキキャリパのブレーキパッドで挟持押圧しただけでは、ブレーキパッドによる挟持部に滑りが生じて補助輪の上下動を確実に固定することができず、車体が急に傾く等して不安定になりやすいという問題があった。
【0006】
また、高齢者や身体障害者等のための電動車の場合も、乗り降りの際に運転者が車体にすがることがあり、左右方向に非常に大きな力が加わることがあるため、同様に車体が急に傾く等して不安定になりやすいという問題があった。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑み、懸架した左右一対の補助輪等の上下動を確実に固定することにより、安定性が高く安全で便利な電動車を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明は、弾性的に懸架されて上下動可能となった左右一対の車輪を備えた電動車において、前記左右一対の車輪に、当該車輪に伴って上下動するロック用被係合部材と、このロック用被係合部材の上下動の経路上の特定の高さ位置に配置されたロック用係合装置とがそれぞれ設けられると共に、前記ロック用被係合部材には、上下動の方向に沿って複数の被係合部が設けられ、前記ロック用係合装置には、操作により又は自動的にロック用被係合部材に対して接近と離反を行い、接近した場合にはロック用被係合部材の一部の被係合部に係合し、離反した場合にはロック用被係合部材の被係合部との係合を解除する1以上の係合部が設けられたことを特徴とする。
【0009】
請求項2の発明は、弾性的に懸架されて上下動可能となった左右一対の車輪を備えた電動車において、前記左右一対の車輪に、当該車輪に伴って上下動するロック用係合装置と、このロック用係合装置の上下動の経路に沿った特定の高さ位置に配置されたロック用被係合部材とがそれぞれ設けられると共に、前記ロック用被係合部材には、ロック用係合装置の上下動の方向に沿って複数の被係合部が設けられ、前記ロック用係合装置には、操作により又は自動的にロック用被係合部材に対して接近と離反を行い、接近した場合にはロック用被係合部材の一部の被係合部に係合し、離反した場合にはロック用被係合部材の被係合部との係合を解除する1以上の係合部が設けられたことを特徴とする。
【0010】
請求項3の発明は、前記ロック用被係合部材が、左右一対の車輪の上下動の方向に沿った板面を有するロック用板材であり、前記被係合部が、この上下動の方向に沿って1列以上にわたり隙間をあけて同一ピッチで穿設された複数の被係合孔であることを特徴とする。
【0011】
請求項4の発明は、前記ロック用係合装置が、前記ロック用板材の端縁部の両側に一対の係合パッドを配置し、操作により又は自動的にこれら一対の係合パッドでロック用板材の端縁部を挟み込んだり引き離すことにより接近と離反を行うロック用キャリパであり、前記係合部が、これら一対の係合パッドにおける少なくとも一方の向かい合う面から突設した1以上の係合突起であることを特徴とする。
【0012】
請求項5の発明は、前記係合パッドの係合突起が、先端ほど細くなったテーパ状又は半球状の突起であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明によれば、操作により又は自動的にロック用係合装置をロック用被係合部材に接近させると、1以上の係合部が一部の被係合部に係合するので、ロック用被係合部材がそのときの高さ位置に固定され、これに伴って左右一対の車輪も上下動が固定される。しかも、このロック用被係合部材は、係合部が被係合部に係合することにより固定されるので、大きな力が加わっても滑り等によって固定位置が移動したり固定が解除されるようなことが生じない。従って、重い荷物の積み下ろしの際や運転者の乗り降りの際等に車体が傾くのを確実に防ぐことができ、電動車の安定性と安全性を向上させることができる。
【0014】
請求項2の発明によれば、操作により又は自動的にロック用係合装置をロック用被係合部材に接近させると、1以上の係合部が一部の被係合部に係合するので、ロック用係合装置がそのときの高さ位置に固定され、これに伴って左右一対の車輪も上下動がロックされる。しかも、このロック用係合装置は、係合部が被係合部に係合することにより固定されるので、大きな力が加わっても滑り等によって固定位置が移動したり固定が解除されるようなことが生じない。従って、運転者の乗り降りの際や重い荷物の積み下ろしの際に車体が傾くのを確実に防ぐことができ、電動車の安定性と安全性を向上させることができる。
【0015】
なお、上記請求項1又は請求項2の発明は、左右一対の車輪が左右独立に弾性的に懸架されて上下動可能となっていてもよく、左右が一体的に弾性的に懸架されて上下動可能となっていてもよい。左右独立に懸架されている場合には、左右で異なる凹凸のある路面を走行する場合や、旋回時に車体が傾いた場合の安定性を高めることができる。
【0016】
また、上記請求項1又は請求項2の発明は、前記電動車が、足で踏んで回転させるペダルを備え、このペダルの回転速度に応じて電動モータにより駆動輪を駆動するものであってもよい。このようにすれば、ペダルの回転速度に応じて駆動されるので、高齢者や身体障害者等であっても安心して運転を行うことができる電動車について、安定性と安全性を向上させることができる。
【0017】
また、上記請求項1又は請求項2の発明は、前記電動車が、操舵輪である一輪の前輪と駆動輪である一輪の後輪を備えると共に、前記左右一対の車輪が、後輪の左右に配置された補助輪であってもよい。このようにすれば、二輪車の後輪の左右に補助輪が設けられるので、高齢者や身体障害者等であっても安心して運転を行うことができる電動車について、安定性と安全性を向上させることができる。
【0018】
また、上記請求項1又は請求項2の発明は、前記左右一対の車輪が、前記電動車の車体に揺動自在に取り付けられると共に、水平位置付近で付勢手段により下方に付勢されたアームの先端部に回転自在に取り付けられることにより、弾性的に懸架されて円弧状に上下動可能となったものであってもよい。このようにすれば、揺動するアームとばね等の付勢手段とによる簡単な懸架構造により、左右一対の車輪を独立に又は一体的に弾性的に懸架して上下動可能にすることができる。
【0019】
請求項3の発明によれば、ロック用板材に被係合孔を穿設するだけの簡単な構造でロック用被係合部材を構成することができる。
【0020】
請求項4の発明によれば、ディスクブレーキ等に用いるブレーキキャリパと同様の既存の構造のロック用キャリパに、係合突起を設けた係合パッドを組み合わせるだけでロック用係合装置を構成することができる。
【0021】
請求項5の発明によれば、ロック用キャリパに配置した係合パッドの係合突起の先端が細くなっているので、ロック用板材の被係合孔の位置が多少ずれていてもスムーズに入り込んで係合できるだけでなく、この係合突起が被係合孔に噛み込むようなことがなくなるので、係合の解除も容易かつ確実に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の最良の実施形態について図1〜図7を参照して説明する。
【0023】
本実施形態は、図1及び図2に示すような電動車について説明する。この電動車は、自転車と同様に、操舵輪である一輪の前輪1と駆動輪である一輪の後輪2とを備え、運転者はサドル3に跨がってハンドル4を両手で握ることにより前輪1の操舵を行いながらペダル5を足で踏んで回転させるようになっている。
【0024】
ただし、この電動車は、後輪2にインホイール・モータ6を備え、荷台7の下に収納された蓄電池8によってこのインホイール・モータ6を回転させて後輪2を駆動するようになっている。また、ペダル5を足で漕いだときの回転力を直接後輪2に伝えて駆動するのではなく、このペダル5の回転速度(単位時間あたりの回転回数)を回転検出器9で検出し、この回転検出器9が検出した回転速度に応じてインホイール・モータ6の速度制御を行うようになっている。
【0025】
従って、この電動車は、オートバイのアクセルグリップのように手で握って回したときの回転角度でエンジンのスロットルバルブを制御したり、自動車のアクセルペダルのように足で踏み込んだときの傾斜角度でエンジンのスロットルバルブを制御するのではなく、ペダル5の回転速度によってインホイール・モータ6の回転速度を制御するので、誤って急激なアクセル操作を行うのを防止することができ、また、ペダル5を高速で回転させない限り高速走行を行うことができないようになる。しかも、ペダル5は、回転検出器9によって回転速度を検出するだけなので、足で踏んだときの負荷を十分に軽くすることができ、楽に回転させることができる。そして、特に高齢者や身体障害者等にとっては、扱いやすく安全な電動車となる。
【0026】
また、この電動車は、後輪2の左右に一対の補助輪10、10が配置されている。各補助輪10は、後輪2よりも少し径の小さい車輪であり、電動車のフレーム11に揺動自在に取り付けられたアーム12の先端部に回転自在に取り付けられている。アーム12は、前方端部がフレーム11の後部に揺動自在に取り付けられ、後方の先端部に取り付けられた補助輪10が後輪2と同じ高さの路面に接地している場合に、揺動の水平位置付近(本実施形態では後方が少し下がった水平位置付近)となるようにしている。しかも、この水平位置付近のアーム12は、フレーム11によって支持された圧縮コイルばね13により下方に付勢されている。従って、各補助輪10は、左右独立に圧縮コイルばね13により弾性的に懸架されて、アーム12の揺動により円弧状に上下動可能となる。
【0027】
上記アーム12の先端部には、ロック用板材14が固定され、補助輪10に伴って上下動するようになっている。ロック用板材14は、板面が上下方向に沿って左右を向くように配置されたステンレス鋼板であり、図3に示すように、後方の端縁辺がアーム12の揺動軸を中心とした円弧形状になったほぼ扇形を成している。また、このロック用板材14の後方の端縁部には、アーム12の揺動軸を中心とした円弧状の上下方向に沿って多数の被係合孔14aが穿設されている。被係合孔14aは、アーム12の揺動軸を中心とした半径方向に長い長孔であり、隙間をあけて同一の角度ピッチで1列に並んで上下方向に多数形成されている。
【0028】
上記ロック用板材14の端縁部には、図1〜図3に示すように、板面を両側から隙間をあけて挟むようにロック用キャリパ15が配置されている。ロック用キャリパ15は、電動車のフレーム11に図示しない取付材を介して固定することにより、ロック用板材14の上下動の経路上の特定の高さ位置に配置されている。また、このロック用キャリパ15は、図示しないワイヤを介してハンドル4の左側に配置したロックレバー4aに接続され、このロックレバー4aの操作によって動作するようになっている。従って、このロックレバー4aからは2本のワイヤが引き出されて左右の補助輪10、10のロック用キャリパ15、15にそれぞれ接続され、ロックレバー4aの操作により左右のロック用キャリパ15、15が同時に動作することになる。
【0029】
上記ロック用キャリパ15は、図4に示すように、ロック用板材14の端縁部を挟むための隙間を介して向かい合う対向部15a、15bに、図5に示す係合パッド16、17を取り付けたものである。そして、ロックレバー4aを引くと、係合パッド16、17を互いに向かい合う方向に進出させてロック用板材14の端縁部の板面に接近させ、ロックレバー4aを戻すと、これらの係合パッド16、17を引き戻すように動作する。また、ロックレバー4aには、ロックボタン4bが設けられていて(図1にのみ図示))、このロックレバー4aを引いた状態でロックボタン4bを押し込むとロックレバー4aから手を放しても引いた状態が維持され、再度ロックボタン4bを押すとロックレバー4aを引いた状態が解除されるようになっている。
【0030】
上記係合パッド16、17は、いずれもステンレス鋼製のパッドであり、図5に示すように、一方の係合パッド16における他方の係合パッド17と向かい合う面には、この係合パッド17側に向けて突出する係合突起16a、16aが上下2箇所に突設されていて、他方の係合パッド17の向かい合う面は摺動性を有する平坦面に形成されている。係合突起16a、16aは、いずれも上記ロック用板材14の被係合孔14aに嵌まり込む大きさの円柱形をさらに先端ほど細くなるテーパ状にした形状、即ち截頭円錐形であり、隣り合う2箇所の被係合孔14aと同じピッチで上下2箇所に突設されている。
【0031】
なお、ハンドル4の右側に配置したブレーキレバー4c(図2にのみ図示)は、図示しないワイヤを介して、前輪1のディスクロータ1aに配置したブレーキ用キャリパ1b(図1にのみ図示)と、後輪2のディスクロータ2aに配置したブレーキ用キャリパ2b(図2にのみ図示)に接続され、このブレーキレバー4cを引くことにより前輪1と後輪2に同時にブレーキがかかるようになっている。
【0032】
上記構成の電動車は、左手でロックレバー4aを引くことにより、左右一対の各補助輪10のロック用キャリパ15の係合パッド16、17をロック用板材14の端縁部に両側から挟み込むように接近させるので、係合パッド16の係合突起16a、16aをこのロック用板材14の複数の被係合孔14aのうちの最寄りの2箇所の被係合孔14a、14aに嵌め込んで係合させると共に、係合パッド17で反対側から押圧してこの係合が外れるのを阻止することができる。すると、アーム12の揺動に伴って上下動するロック用板材14は、係合突起16a、16aと被係合孔14a、14aの係合によってこの上下動を固定されるので、各補助輪10の上下動も固定されることになる。しかも、係合突起16a、16aは、被係合孔14a、14aに嵌まり込んで係合するので、各補助輪10に上下方向の強い力が加わっても、この係合が容易に解除されることがなくなり、各補助輪10の固定を確実なものにすることができる。
【0033】
また、ロックレバー4aを引いた際に、係合パッド16の係合突起16a、16aが複数の被係合孔14aの中間の位置にあったとしても、電動車の車体の僅かな左右の揺れによって容易に最も近くなった2箇所の被係合孔14a、14aに嵌まり込んで係合することができ、係合突起16a、16aの細い先端部が少しでも被係合孔14a、14aに嵌まり込めば、テーパ状の側面にガイドされて直ちに係合突起16a、16aの全体が嵌まり込むようになる。
【0034】
このようにして左右一対の補助輪10、10の上下動が固定されると、ロックレバー4aのロックボタン4bを押し込むことにより、この固定状態を維持することができる。この際、例えば図6(a)に示すように、左側の補助輪10の接地する路面が後輪2の接地する路面よりも窪んでいたとしても、アーム12の揺動によりこの補助輪10がロック用板材14と共に下方に移動しているので、ロック用キャリパ15の係合突起16a、16a(図6では隠れて見えない)は、複数の被係合孔14aのうちでより上方の位置にある被係合孔14a、14aに係合し、この補助輪10が下方に移動した状態で上下動を固定するので、電動車の車体が左側に傾くことなく安定する。また、例えば図6(b)に示すように、左側の補助輪10の接地する路面が後輪2の接地する路面よりも盛り上がっていたとしても、この補助輪10がロック用板材14と共に上方に移動しているので、係合突起16a、16aは、複数の被係合孔14aのうちでより下方の位置にある被係合孔14a、14aに係合し、この補助輪10が上方に移動した状態で上下動を固定するので、電動車の車体が右側に傾くことなく安定する。
【0035】
ここで、再度ロックボタン4bを押すと、ロックレバー4aを引いた状態が解除される。すると、ロック用キャリパ15が係合パッド16、17をロック用板材14の端縁部から両側に引き戻して離反させるので、係合パッド16の係合突起16a、16aが被係合孔14a、14aから抜け出して係合が解除され、ロック用板材14がアーム12と共に揺動できるようになって、各補助輪10も上下動が可能な状態に復帰する。しかも、係合突起16a、16aは、先端ほど細くなったテーパ状であるため、被係合孔14a、14aに嵌まり込んだ際にも噛み込むようなことがなく、確実に係合を解除することができる。
【0036】
従って、本実施形態の電動車は、運転者が降車のために停車させたときに、ロックレバー4aを引いてロックボタン4bを押し込んでおけば、左右一対の補助輪10、10の上下動を固定して車体を安定させることができる。そして、この運転者が電動車から降りようとしてふらついたとしても、車体が左右に傾くようなことがなく、安全に降車することができる。また、停車中に重い荷物を荷台7に積み下ろしする場合にも、車体が左右に傾くようなことがないので、安全に積み下ろし作業を行うことができる。さらに、この運転者が電動車に乗車する場合にも、左右一対の補助輪10、10の上下動が固定されて車体が安定しているので、運転車がこの車体にすがったとしても、車体が左右に傾くようなことがなく、安全に乗車することができる。
【0037】
なお、上記実施形態では、係合パッド16に2箇所の係合突起16a、16aを設ける場合を示したが、係合突起16aは1箇所だけでもよく、3箇所以上設けてもよい。また、上記実施形態では、一方の係合パッド16にのみ係合突起16aが設けられる場合を示したが、双方の係合パッド16、17に係合突起を設けるようにして、これらの係合突起が被係合孔14aに両側から嵌まり込むようにしたり、異なる被係合孔14aに嵌まり込むようにしてもよい。
【0038】
ただし、係合パッド16、17の組み合わせは、好ましくは、上記実施形態のように、一方の係合パッド16が係合突起16aを有し、もう一方の係合パッド17は摺動性を有する平坦面に形成されている方がよい。なぜなら、位置合わせの融通性をもたせるためにはロック用板材14に撓み性を持たせて、係合パッド16、17のどちらか一方が先に当接しても、ロック用板材14が撓んで他方に押さえ付けられる構造にするほうがよいからであり、このような構造にするためには2枚の係合パッド16、17で挟む構造が最適だからである。また、係合突起16aを設けるのは片方の係合パッド16だけにした方が、この係合突起16aを被係合孔14aに深く係合させることが可能になり、固定を確実に行うことができるようになる。係合突起16aの被係合孔14aへの係合には、深さ方向に多少のあそびを持たせた方がよいので、係合パッド16、17の双方に係合突起を設けた場合には、係合深さが浅くなり固定が不十分になるおそれが生じるからである。
【0039】
また、上記実施形態でロック用キャリパ15を配置する特定の高さ位置とは、電動車の車体、特にこの車体における補助輪10、10の上下動の懸架を支持する部位に対して特定の高さを維持する位置をいい、ロック用キャリパ15が接近と離反の動作の際にある程度の上下移動を伴う場合には、これらの上下移動の範囲も含む。そして、ロック用キャリパ15は、このような特定の高さ位置に配置するのであれば、フレーム11に取付材を介して固定する場合に限らず、電動車への取り付け手段は任意である。
【0040】
また、上記実施形態では、ハンドル4の左側のロックレバー4aの操作により左右一対の補助輪10、10のロック用キャリパ15、15が同時に動作する場合を示したが、これらのロック用キャリパ15、15は、別個の操作によって独立に動作するようにしてもよい。ただし、これらのロック用キャリパ15、15は、同時に動作させるのが一般的であるため、一つの操作で同時に動作させる方が便利である。
【0041】
また、上記実施形態では、ロックレバー4aの操作によりロック用キャリパ15を動作させる場合を示したが、この操作手段は任意であり、例えばハンドル等を用いたり、足踏み方式によるレバー等を用いることもできる。さらに、ロック用キャリパ15の動作は、油圧を用いたり、ソレノイド等による電動で行うこともでき、電動の場合には、押しボタンスイッチ等によって操作することができる。ここで、ロック用キャリパ15の動作を油圧や電動等で行う場合、省電力とフェールセーフのために、電源遮断時には補助輪10、10の上下動が固定されるようにロック用キャリパ15を動作させることが好ましく、電源遮断時に直前の状態を維持できる自己保持型ソレノイド等も好適に使用できる。
【0042】
また、上記実施形態では、操作によってロック用キャリパ15を動作させる場合を示したが、例えば電動車の電源キーを抜いたときに、制御装置がこれを検出して補助輪10、10の上下動を固定し、この電源キーを再度挿入したときに、制御装置がこれを検出して補助輪10、10の上下動の固定を解除させる、というようにロック用キャリパ15の動作を自動化することも可能である。そして、このような自動化による動作と操作による動作を組み合わせてもよい。
【0043】
また、上記実施形態では、係合突起16aが截頭円錐形である場合を示したが、ロック用板材14の被係合孔14aに嵌まり込んで確実に係合できるものであれば形状は任意であり、例えば截頭多角錐形、半球状の突起であってもよい。しかも、被係合孔14aに円滑に嵌まり込んで抜け出すことができるのであれば、円柱形や多角柱形の突起であってもよい。さらに、上記実施形態では、係合突起16aの消耗による部品交換を容易にするために、この係合突起16aを係合パッド16に設ける場合を示したが、必ずしも係合パッド16は用いる必要はなく、ロック用キャリパ15の適宜の可動部に直接係合突起を設けてもよい。
【0044】
また、上記実施形態では、ロック用係合装置としてロック用キャリパ15を用いる場合を示したが、係合突起をロック用板材14に接近させたり離反させ、この係合突起が接近した場合には被係合孔14aに係合させ、この係合突起が離反した場合には被係合孔14aとの係合を解除させるものであれば、ロック用キャリパ15に限らず、任意の構造のロック用係合装置を用いることができる。例えば、上記実施形態では、ロック用キャリパ15により2枚の係合パッド16、17をロック用板材14の端縁部に挟み込むようにして接近させたり離反させる場合を示したが、係合突起16aを設けた係合パッド16だけをロック用板材14に接近させたり離反させるようなロック用係合装置を用いることもできる。ただし、この場合には、係合パッド16が接近したときにロック用板材14が撓んで逃げる等して係合突起16aの係合が不確実になることがないようにする必要がある。
【0045】
また、上記実施形態では、ロック用板材14の被係合孔14aを1列だけ形成する場合を示したが、2列以上形成してもよい。図7に被係合孔14aを左右(円弧状の内周側と外周側)に2列、千鳥状に形成したロック用板材14の例を示す。この場合、ロック用キャリパ15の係合突起16aも左右の各列ごとに突設する(図では2箇所ずつ)。ただし、このロック用キャリパ15は、係合突起16aをロック用板材14に接近させる際に、左右いずれかの係合突起16a、16aが被係合孔14a、14aに係合しなくても、他方の係合突起16a、16aは他方の列の被係合孔14a、14aに係合することができるように、左右それぞれ独立に移動させることができるようになっている。従って、図7に示す場合には、左側の係合突起16a、16aのみが左側の列の被係合孔14a、14aに係合し、右側の係合突起16a、16aは右側の列の被係合孔14a、14aの中間に位置するために係合しない状態となる。しかしながら、ロック用板材14が被係合孔14aの半ピッチ分だけ上下動していたとすると、逆に右側の係合突起16a、16aのみが係合するので、係合突起16aの係合により補助輪10の上下動を固定できる上下位置の段階を倍に増やすことができるようになる。
【0046】
また、上記実施形態では、ロック用キャリパ15の配置位置ずれ等に対応するために、被係合孔14aを長孔にする場合を示したが、このような位置ずれが生じないのであれば、係合突起16aが嵌合するような例えば丸孔とすることもでき、この被係合孔14aの孔形状は限定されない。さらに、このような被係合孔14aに代えて、スリット状等の被係合部を形成することもできる。
【0047】
また、上記実施形態では、補助輪10やロック用板材14がアーム12の揺動により円弧状に上下動する場合を示したが、これらは上下方向成分の移動ができればよいので、円弧状には限定されず、例えば真っ直ぐ上下動してもよい。さらに、上記実施形態では、上下動可能な補助輪10を圧縮コイルばね13によって下方に付勢することにより弾性的に懸架する場合を示したが、このような圧縮コイルばね13だけでなく、ショックアブソーバ(ダンパ)も組み合わせた懸架方式であってもよい。しかも、圧縮コイルばね13には限定されず、例えば板ばね等の他の付勢手段を用いることもできる。さらに、上記実施形態では、アーム12の揺動をフレーム11で軸支する場合を示したが、このようなフレーム11に限らず電動車の車体の適宜の部位で補助輪10の懸架を支持することができる。
【0048】
また、上記実施形態では、扇形のロック用板材14を示したが、このロック用板材14の形状は任意であり、例えばアーム12の軸支部にこのアーム12に固定されて取り付けられた円板状のディスクロータを用いることもできる。しかも、このロック用板材14が補助輪10と共に真っ直ぐ上下動する場合には、ロック用板材14に代えて棒状や柱状、筒状等のロック用被係合部材を用いることもできる。そして、このようなロック用被係合部材の被係合部も、上記孔やスリット等のほか、溝等を用いることができる。
【0049】
また、上記実施形態では、ロック用キャリパ15等のロック用係合装置に係合突起を用い、ロック用板材14等のロック用被係合部材の被係合部が孔やスリット、溝等である場合を示したが、ロック用係合装置の係合部を、係合突起に代えて孔やスリット、溝等とし、ロック用被係合部材の被係合部を突起等とすることもできる。しかも、ロック用係合装置の係合部とロック用被係合部材の被係合部を共にスリットや溝等として、これらのスリットや溝等同士を噛み合わせるようにして係合させることもできる。
【0050】
また、上記実施形態では、ロック用キャリパ15等のロック用係合装置がフレーム11等の車体に固定され、ロック用板材14等のロック用被係合部材が補助輪10と共に上下動する場合を示したが、逆にロック用板材14等のロック用被係合部材を車体に固定し、ロック用キャリパ15等のロック用係合装置が補助輪10と共に上下動するようにしてもよい。
【0051】
また、上記実施形態で示した電動車におけるその他の構成は一例であり、例えば回転検出器9で検出したペダル5の回転速度に応じたインホイール・モータ6の速度制御に代えてトルク制御等の任意の駆動制御を行うこともでき、このようなインホイール・モータ6以外の電動モータにより伝動装置を介して後輪2を駆動することもできる。しかも、回転検出器9の構成も任意であり、ダイナモの発電電圧を検出出力としたり、ペダル5と共に回転する歯車状の突起を接近を磁気センサ等で検出する検出器等を用いることもできる。さらに、このようなペダル5の回転速度に応じて電動モータの駆動制御を行う電動車には限定されず、アクセルグリップやアクセルペダル等によって電動モータの駆動制御を行う電動車やその他の任意の電動車に本発明を実施することも可能である。
【0052】
また、上記実施形態では、左右一対の補助輪10、10を独立に懸架する場合を示したが、左右一対の補助輪10、10が一体的に弾性的に懸架されて同時に上下動可能となる場合であってもよい。この場合、ロック用被係合部材やロック用係合装置は、左右一対の補助輪10、10のうちのいずれか一方にのみ設けることもできる。このような場合であっても、停車時の荷物の積み下ろし等の際の車体の転倒防止や走行時の荷物積載によるふらつき防止、スリップ時の転倒防止等の効果は得ることができる。
【0053】
また、上記実施形態では、補助輪10、10に本発明を実施する場合を示したが、電動車の左右一対の車輪であれば、このような補助輪10、10には限定されない。ここで、電動車とは、電動モータによって駆動輪が駆動される車両をいい、本発明は左右一対の車輪を備えることから、ここでは二輪以上、通常は三輪以上の車両をいう。さらに、左右一対の車輪は、これらが駆動輪であってもよい。さらに、この電動車には、左右一対の車輪が2組以上あってもよく、少なくともそのうちの1組の車輪に本発明を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の一実施形態を示すものであって、電動車の構成を示す全体側面図である。
【図2】本発明の一実施形態を示すものであって、電動車の構成を示す全体背面図である。
【図3】本発明の一実施形態を示すものであって、ロック用板材の部分拡大側面図である。
【図4】本発明の一実施形態を示すものであって、ロック用キャリパの拡大斜視図である。
【図5】本発明の一実施形態を示すものであって、係合パッドの拡大斜視図である。
【図6】本発明の一実施形態を示すものであって、路面が平坦ではない場合のロック用板材とロック用キャリパとの位置関係を示すための部分拡大側面図である。
【図7】本発明の一実施形態を示すものであって、被係合孔を2列形成したロック用板材の拡大側面図である。
【符号の説明】
【0055】
1 前輪
1a ディスクロータ
1b ブレーキ用キャリパ
2 後輪
2a ディスクロータ
2b ブレーキ用キャリパ
3 サドル
4 ハンドル
4a ロックレバー
4b ロックボタン
4c ブレーキレバー
5 ペダル
6 インホイール・モータ
7 荷台
8 蓄電池
9 回転検出器
10 補助輪
11 フレーム
12 アーム
13 圧縮コイルばね
14 ロック用板材
14a 被係合孔
15 ロック用キャリパ
15a 対向部
16 係合パッド
16a 係合突起
17 係合パッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性的に懸架されて上下動可能となった左右一対の車輪を備えた電動車において、
前記左右一対の車輪に、当該車輪に伴って上下動するロック用被係合部材と、このロック用被係合部材の上下動の経路上の特定の高さ位置に配置されたロック用係合装置とがそれぞれ設けられると共に、
前記ロック用被係合部材には、上下動の方向に沿って複数の被係合部が設けられ、
前記ロック用係合装置には、操作により又は自動的にロック用被係合部材に対して接近と離反を行い、接近した場合にはロック用被係合部材の一部の被係合部に係合し、離反した場合にはロック用被係合部材の被係合部との係合を解除する1以上の係合部が設けられたことを特徴とする電動車。
【請求項2】
弾性的に懸架されて上下動可能となった左右一対の車輪を備えた電動車において、
前記左右一対の車輪に、当該車輪に伴って上下動するロック用係合装置と、このロック用係合装置の上下動の経路に沿った特定の高さ位置に配置されたロック用被係合部材とがそれぞれ設けられると共に、
前記ロック用被係合部材には、ロック用係合装置の上下動の方向に沿って複数の被係合部が設けられ、
前記ロック用係合装置には、操作により又は自動的にロック用被係合部材に対して接近と離反を行い、接近した場合にはロック用被係合部材の一部の被係合部に係合し、離反した場合にはロック用被係合部材の被係合部との係合を解除する1以上の係合部が設けられたことを特徴とする電動車。
【請求項3】
前記ロック用被係合部材が、左右一対の車輪の上下動の方向に沿った板面を有するロック用板材であり、前記被係合部が、この上下動の方向に沿って1列以上にわたり隙間をあけて同一ピッチで穿設された複数の被係合孔であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の電動車。
【請求項4】
前記ロック用係合装置が、前記ロック用板材の端縁部の両側に一対の係合パッドを配置し、操作により又は自動的にこれら一対の係合パッドでロック用板材の端縁部を挟み込んだり引き離すことにより接近と離反を行うロック用キャリパであり、前記係合部が、これら一対の係合パッドにおける少なくとも一方の向かい合う面から突設した1以上の係合突起であることを特徴とする請求項3に記載の電動車。
【請求項5】
前記係合パッドの係合突起が、先端ほど細くなったテーパ状又は半球状の突起であることを特徴とする請求項4に記載の電動車。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2010−111332(P2010−111332A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−287188(P2008−287188)
【出願日】平成20年11月7日(2008.11.7)
【出願人】(304021440)株式会社ジーエス・ユアサコーポレーション (461)
【Fターム(参考)】