説明

電気化学デバイス

【課題】生産性の向上、サイクル特性の向上及び抵抗の低減を図ることのできる電気化学デバイスを提供する。
【解決手段】リチウムイオンキャパシタは、負極20が第1の層21と第2の層22を有し、第1の層21と第2の層22とが積層され、第1の層21と第2の層22との間にリチウム金属シート60が配置されているので、リチウム金属シート60の厚さ方向一方の面が第1の層21に接触し、厚さ方向他方の面が第2の層22に接触することになる。リチウム金属シート60のリチウムは接触部の近傍において活物質にドープされ易いので、リチウム金属シート60の厚さ方向の両面が活物質に接触していることにより、プレドープが効率的に行われ、生産性の向上を図ることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極とセパレータと負極とを積層して成る蓄電素子と、電解液と、蓄電素子を収容する凹部を備えるケースと、ケースの凹部を閉鎖してケース内に蓄電素子と電解液とを封入する蓋とを備え、負極にリチウムイオンがプレドープされる電気化学デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、繰返し充放電を行うことのできる電気化学デバイスとして、様々な構造、形状、大きさのものが提案されている。その中には、正極にリチウム含有金属酸化物を用い、負極活物質にリチウムイオンを吸蔵及び脱離可能な黒鉛又は易黒鉛化炭素材料を用い、充電することにより正極から負極にリチウムイオンが供給され、放電時には負極から正極にリチウムイオンが戻るロッキングチェア型のリチウムイオン二次電池がある(例えば、特許文献1参照。)。このようなリチウムイオン二次電池は、正極のリチウム含有金属酸化物及び負極の黒鉛又は易黒鉛化炭素材料がリチウムイオンを吸蔵する際に膨張し、リチウムを放出することにより収縮するので、サイクル寿命が比較的短い。また、負極の黒鉛や易黒鉛化炭素材料の面間隔がリチウムイオンの大きさに対して小さいので、急速な充放電に対して負極のリチウムイオンの吸蔵及び脱離が追随せず、エネルギー密度の向上やデンドライトの析出防止の観点からは好ましくない。
【0003】
これらの点を改善するために、負極活物質にポリアセン(PAS)を用いたものが開発されている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、ポリアセンは黒鉛や易黒鉛化炭素材料に比べて充放電効率が悪いので、ケース内に蓄電素子と電解液を封入する際に負極の近傍にリチウム金属を配置し、該リチウム金属から電解液内に溶解したリチウムイオンを負極の活物質に充電前状態で吸蔵(以下、「プレドープ」とも言う。)させることにより、負極活物質にポリアセンを用いたリチウムイオン二次電池の高容量化が図られている。
【0004】
一方、リチウムイオン二次電池よりもサイクル寿命と出力特性において優れている電気二重層キャパシタも近年注目されている。電気二重層キャパシタは、正極及び負極の活物質の比表面積の向上及び充電電圧の向上によってエネルギー密度を高めることができる。しかしながら、電気二重層キャパシタに非水電解液を用いた場合であっても、その充電電圧を3V以上にすると非水電解液の非水溶媒が酸化分解するので、充電電圧に上限がある。
【0005】
そこで、負極の活物質としてポリアセン、天然黒鉛、人造黒鉛、コークス、難黒鉛化炭素材料、易黒鉛化炭素材料等を使用するとともに、電池ケース内に蓄電素子と電解液を封入する際に負極の近傍にリチウム金属を配置し、該リチウム金属から電解液内に溶解したリチウムイオンを負極の活物質にプレドープさせるリチウムイオンキャパシタが開発されている(例えば、特許文献1参照。)リチウムイオンキャパシタは、負極の活物質に充電前状態でリチウムイオンを吸蔵させることにより、充電前状態における負極の電位を正極の電位に対して低くし、これにより充電電圧を高くしてエネルギー密度の向上を図っている。
【0006】
ここで、リチウムイオンキャパシタの負極活物質もリチウムイオン二次電池と同様にリチウムイオンを吸蔵及び放出する。このため、負極の高容量化のためには活物質として黒鉛又は易黒鉛化炭素材料が適しているが、黒鉛又は易黒鉛化炭素材料はリチウムイオンを吸蔵する際に膨張し、リチウムを放出することにより収縮するので、サイクル寿命が比較的短い。また、黒鉛や易黒鉛化炭素材料の面間隔がリチウムイオンの大きさに対して小さいので、急速な充放電に対して負極のリチウムイオンの吸蔵及び脱離が追随せず、エネルギー密度の向上やデンドライトの析出防止の観点からは好ましくない。
【0007】
一方、活物質に難黒鉛化炭素材料を用いる場合、面間隔が黒鉛や易黒鉛化炭素材料に比べて大きいので、リチウムイオンの吸蔵及び放出に伴う膨張及び収縮が小さく、黒鉛や易黒鉛化炭素材料と比較してサイクル寿命を延ばすことが可能となる。しかしながら、難黒鉛化炭素材料は黒鉛や易黒鉛化炭素材料に比べてリチウムの充填密度が低くなる傾向があり、また、黒鉛や易黒鉛化炭素材料に比べて放電電位が変化し易い傾向がある。
【0008】
そこで、前述の黒鉛の利点及び難黒鉛化炭素材料の利点の両方の活用を目的として、黒鉛の粉末と難黒鉛化炭素材料の粉末を混合し、その混合粉末をバインダー及び導電助剤と混合した負極電極の形成が試みられている(例えば、特許文献2参照。)。
【0009】
ところで、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ、電気二重層キャパシタには様々なタイプがあり、例えばラミネートフィルムで蓄電素子及び電解液を封入するフィルムパッケージタイプのものや(例えば、特許文献3参照。)、金属缶で蓄電素子及び電解液を封入する金属缶タイプのものや(例えば、特許文献4参照。)、蓄電素子を収容する凹部を備えるケースと、ケースの凹部を閉鎖してケース内に蓄電素子と電解液とを封入する蓋とを備え、蓄電素子の正極又は負極が蓋の厚さ方向一方の面に接触しているコイン型やボタン型のものが知られている(例えば、特許文献5参照。)。
【0010】
ここで、コイン型やボタン型のリチウムイオンキャパシタやリチウムイオン二次電池は、蓄電素子の積層方向一方の面がケースの凹部底面に接触し、蓄電素子の積層方向他方の面が蓋の厚さ方向一方の面に接触するようになっており、蓄電素子がケースの凹部の底面と蓋の厚さ方向一方の面との間に挟持されている。また、蓄電素子の厚さは1〜2mm程度のものが多く、正極と負極との間のセパレータの厚さも数百μm程度の場合が多い。このため、コイン型やボタン型のリチウムイオンキャパシタやリチウムイオン二次電池の負極の活物質として黒鉛や易黒鉛化炭素材料を用いると、前述のようにリチウムイオンの吸蔵及び放出時の膨張及び収縮の影響が大きく出る可能性があるので、負極の活物質としては黒鉛や易黒鉛化炭素材料よりも難黒鉛化炭素材料の方が適していると考えられている。
【0011】
また、正極とセパレータと負極とが積層された蓄電素子を有するリチウムイオンキャパシタは、蓄電素子及び電解液をケース内に封入する際にプレドープ用のリチウム金属シートが蓄電素子の厚さ方向一方の面に貼付けられる(例えば、特許文献6参照。)。ここで、蓄電素子の厚さ方向一方の面が負極であって、リチウム金属シートと負極の活物質とが直接接触している方が、プレドープに要する時間が短くなり、生産性を向上する上で好ましい。また、難黒鉛化炭素材料は黒鉛や易黒鉛化炭素材料よりも面間隔が大きいので、プレドープに要する時間を短くする上でも、黒鉛や易黒鉛化炭素材料よりも難黒鉛化炭素材料の方が適していると考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開第WO2003/003395号パンフレット
【特許文献2】特開2009−070598号公報
【特許文献3】特開2009−267026号公報
【特許文献4】特開平07−192724号公報
【特許文献5】特開2007−221008号公報
【特許文献6】特開2006−286919号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的とするところは、生産性の向上、サイクル特性の向上及び抵抗の低減を図ることのできる電気化学デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の電気化学デバイスは前記目的を達成するために、正極とセパレータと負極とを所定方向に積層して成る蓄電素子と、蓄電素子を収容する凹部を有するケースと、ケースの凹部を閉鎖してケース内に蓄電素子と電解液とを封入する蓋とを備え、蓄電素子の積層方向一方の面が蓋の厚さ方向一方の面に接触している電気化学デバイスであって、前記負極が、活物質として難黒鉛化炭素材料を含有する第1の層と、活物質として黒鉛及び/又は易黒鉛化炭素材料を含有する第2の層とを有し、第2の層がその全活物質に対して黒鉛又は易黒鉛化炭素材料を90重量%以上含有しており、第1の層と第2の層とがその間にリチウム金属シートが配置されるように前記所定方向に積層されている。
【0015】
また、本発明は、正極とセパレータと負極とを所定方向に積層して成る蓄電素子と、蓄電素子を収容する凹部を有するケースと、ケースの凹部を閉鎖してケース内に蓄電素子と電解液とを封入する蓋とを備え、蓄電素子の積層方向一方の面が蓋の厚さ方向一方の面に接触し、蓄電素子の積層方向他方の面がケースの凹部底面に接触している電気化学デバイスであって、前記負極が、活物質として難黒鉛化炭素材料を含有する第1の層と、活物質として黒鉛及び/又は易黒鉛化炭素材料を含有する第2の層とを有し、第2の層がその全活物質に対して黒鉛又は易黒鉛化炭素材料を90重量%以上含有しており、第1の層と第2の層とが前記所定方向に積層され、第1の層と第2の層との間にリチウム金属シートが存在していた痕跡を有する。
【0016】
このように、負極が第1の層と第2の層を有し、第1の層と第2の層とが積層され、第1の層と第2の層との間にリチウム金属シートが配置されているので、リチウム金属シートの厚さ方向一方の面が負極における第1の層に接触し、厚さ方向他方の面が負極における第2の層に接触することになる。リチウム金属シートのリチウムは接触部の近傍において活物質に吸蔵(以下、「ドープ」とも言う。)され易いので、リチウム金属シートの厚さ方向の両面が活物質に接触していることにより、プレドープが効率的に行われ、生産性の向上を図ることが可能となる。
【0017】
また、第1の層が活物質として難黒鉛化炭素材料を含有し、第2の層が活物質として黒鉛又は易黒鉛化材料を含有し、第2の層がその全活物質に対して黒鉛又は易黒鉛化炭素材料を90重量%以上含有しているので、リチウムイオンが第2の層に吸蔵されることにより第2の層の厚さ寸法が大きくなる。ここで、蓄電素子の積層方向一方の面が蓋の厚さ方向一方の面に接触し、蓄電素子の積層方向他方の面がケースの凹部底面に接触しているので、第2の層の厚さ寸法が大きくなる分だけ蓄電素子と蓋との接触圧が高くなるとともに蓄電素子とケースの凹部底面との接触圧が高くなる。したがって、例えば蓄電素子の厚さ方向一方の面が負極又は正極であり、蓋が導電性材料から成るとともに電気化学デバイスの一方の極を構成している場合は、第2の層の厚さ寸法が大きく分だけ蓋と蓄電素子の厚さ方向一方の面との接触圧が高くなることにより、電気化学デバイスの内部抵抗が低下する。尚、このように接触圧が高くなることにより内部抵抗が低下することを、発明者は経験によって得ることができた。
【0018】
また、第1の層が活物質として難黒鉛化炭素材料を含有しており、第2の層がその全活物質に対して黒鉛又は易黒鉛化炭素材料を90重量%以上含有している。難黒鉛化炭素材料は黒鉛又は易黒鉛化炭素材料に比べてリチウムイオンの吸蔵及び放出が高効率で行われるので、充電及び放電の際は第2の層よりも第1の層においてリチウムイオンの吸蔵及び放出が行われる。このため、高出力化にも対応可能であり、また、第2の層の黒鉛又は易黒鉛化炭素材料がリチウムイオンの吸蔵及び放出を繰返すことによる劣化が抑制され、サイクル特性の向上を図ることも可能となる。
【発明の効果】
【0019】
このように、本発明の電気化学デバイスは、生産性の向上、サイクル特性の向上及び抵抗の低減を図ることができる。
【0020】
本発明の前記目的と、それ以外の目的と、構成特徴と、作用効果は、以下の説明と添付図面によって明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態の電気化学デバイスの断面図
【図2】蓋をケースに取付ける前の電気化学デバイスの断面図
【図3】ケースをかしめる際の電気化学デバイスの断面図
【図4】本実施形態の変形例を示す電気化学デバイスの断面図
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を引用して発明を実施するための形態を説明する。
【0023】
図1〜3は本発明の一実施形態を示すボタン型又はコイン型のリチウムイオンキャパシタである。このリチウムイオンキャパシタは、正極10とセパレータ30と負極20とを積層して成る蓄電素子Bと、蓄電素子Bを収容する凹部40aを有するケース40と、ケース40の側壁40bの内周面に接触するリング状のガスケット50aと、ガスケット50aを介してケース40の凹部40aを閉鎖してケース40内に蓄電素子B及び非水電解液を封入する蓋50とを備えている。ケース40及び蓋50は導電体であればよく、例えばステンレス鋼、アルミニウム、ニッケル、銅、チタン等から成る。ガスケット50aは電気的な絶縁性が高く、非水電解液や水の透過性が低い材料であることが好ましく、例えばポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエーテルエーテルケトン等から成る。
【0024】
正極10は、例えばポリアセン(PAS)、ポリアニリン(PAN)、活性炭等の活物質を含有し、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)やポリフッ化ビニリデン(PVDF)やスチレンブタジエンゴム(SBR)等のバインダーも含有しており、カーボンブラックや黒鉛や金属粉末等の導電助剤、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)やポリフッ化ビニリデン(PVDF)やスチレンブタジエンゴム(SBR)等のバインダーも必要に応じて含有している。活性炭としては、やしがら等の天然材料を原料とする炭化物、コークス、タール、ピッチ、黒鉛等の化石燃料を原料とするもの、合成樹脂を炭化したもの等を使用可能である。
【0025】
例えば本実施形態の正極10は次のように作製される。先ず、フェノール樹脂を原料とする活性炭の粉末、粒、又は短繊維と、活性炭100重量部に対して導電助剤としてのカーボンブラック5重量部と、バインダーとしてのPTFE粉末10重量部とを溶媒を用いて混合した後、それを圧延・乾燥によってシート材とする。本実施形態ではシート材の厚さは0.7mm程度としている。続いて、該シート材から直径略20mmの円形シートを打抜くことにより正極10が作製される。
【0026】
負極20は、活物質として難黒鉛化炭素材料を含有する第1の層21と、活物質として黒鉛及び/又は易黒鉛化炭素材料を含有する第2の層22とを有する。
【0027】
第1の層21は、その全活物質のうち70重量%以上がポリアセン(PAS)又は難黒鉛化炭素材料から成る。また、第1の層21はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)やポリフッ化ビニリデン(PVDF)やスチレンブタジエンゴム(SBR)等のバインダーを含有しており、金属粉末等の導電助剤も必要に応じて含有している。第1の層21の全活物質のうち70重量%以上を占めるポリアセン又は難黒鉛化炭素材料は、X線解析法で求められる(002)面の面間隔が0.37nm以上であることが好ましい。
【0028】
難黒鉛化炭素材料は、例えば、以下の出発原料を窒素等の不活性ガス気流中にて300〜700℃で炭化した後、1〜100℃/分の速度で900〜1500℃まで昇温して、到達温度にて0〜30時間保持することによって得られる。尚、炭化処理を省略することも可能である。出発原料としては、フルフリルアルコール樹脂、フルフラール樹脂、フラン樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂、ハロゲン化ビニル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセチレン、ポリ(P−フェニレン)等の共役系樹脂、セルロースおよびその誘導体等の有機高分子系化合物を使用可能である。また、特定のH/C原子比を有する石油ピッチに酸素を含む官能基を導入したものも、炭素化の過程で溶融することなく、固相炭素化して難黒鉛化性炭素材料となる。前記石油ピッチは、コールタール、エチレンボトム油、原油等の高温熱分解で得られるタール類、アスファルトなどより蒸留(真空蒸留、常圧蒸留、スチーム蒸留)、熱重縮合、抽出、化学重縮合等の操作によって得られる。難黒鉛化性炭素材料を得るためには、石油ピッチのH/C原子比が重要で、0.6〜0.8とする必要がある。
【0029】
例えば本実施形態の第1の層21は次のように作製される。先ず、活物質としてフェノール樹脂を原料とする難黒鉛化炭素材料の粉末、粒、又は短繊維と、難黒鉛化炭素材料100重量部に対して導電助剤としての金属粉末を5重量部と、バインダーとしてのPTFE粉末10重量部とを溶媒を用いて混合した後、それを圧延・乾燥によってシート材とする。本実施形態ではシート材の厚さは0.6mm程度としている。続いて、該シート材から直径略20mmの円形シートを打抜くことにより第1の層21が作製される。尚、第1の層21は、その全活物質のうち70重量%以上がポリアセン(PAS)又は難黒鉛化炭素材料であればよいので、例えば、活物質として、フェノール樹脂を原料とする難黒鉛化炭素材料の粉末、粒、又は短繊維と、天然黒鉛の粉末、粒、又は短繊維を用い、難黒鉛化炭素材料と天然黒鉛との重量比を7:3とすることも可能である。
【0030】
第2の層22は、その全活物質のうち90重量%以上が黒鉛及び/又は易黒鉛化炭素材料である。また、第2の層22はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)やポリフッ化ビニリデン(PVDF)やスチレンブタジエンゴム(SBR)等のバインダーを含有しており、金属粉末等の導電助剤も必要に応じて含有している。第2の層22の全活物質のうち90重量%以上を占める黒鉛及び/又は易黒鉛化炭素材料は、X線解析法で求められる(002)面の面間隔が0.34nm未満であることが好ましい。尚、第2の層22はその全重量のうち75重量%以上を黒鉛及び/又は易黒鉛化炭素材料が占めていることが好ましい。
【0031】
黒鉛としては、天然黒鉛、人造黒鉛等を使用可能である。人造黒鉛として、例えば、有機材料を炭化して高温熱処理を行い、粉砕・分級することにより得られるものを用いることが可能である。高温熱処理は、例えば、必要に応じて窒素などの不活性ガス気流中において300℃〜700℃で炭化し、毎分1℃〜100℃の速度で900℃〜1500℃まで昇温してこの温度を0時間〜30時間程度保持し仮焼すると共に、2000℃以上、好ましくは2500℃以上に加熱し、この温度を適宜の時間保持することにより行う。出発原料となる有機材料としては、石炭あるいはピッチを用いることができる。ピッチには、例えば、コールタール,エチレンボトム油あるいは原油などを高温で熱分解することにより得られるタール類、アスファルトなどを蒸留,熱重縮合,抽出,化学重縮合することにより得られるもの、木材還流時に生成されるもの、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリビニルアセテート、ポリビニルブチラートまたは3,5−ジメチルフェノール樹脂がある。
【0032】
易黒鉛化炭素材料は、例えば、以下の出発原料を窒素等の不活性ガス中にて300〜700℃で炭化した後、1〜100℃/分の速度で900〜1500℃まで昇温して、到達温度にて0〜30時間保持することによって得られる。尚、炭化処理を省略することも可能である。出発原料としては、ピッチや石炭が代表的である。ピッチとしては、コールタール、エチレンボトム油、原油等の高温熱分解で得られるタール類、アスファルトなどより蒸留(真空蒸留、常圧蒸留、スチーム蒸留)、熱重縮合、抽出、化学重縮合等の操作によって得られるものや、木材乾留時に生成するものなどが挙げられる。ポリ塩化ビニル樹脂、ポリビニルアセテート、ポリビニルブチラート、3,5−ジメチルフェノール樹脂等の高分子化合物を出発原料とすることも可能である。その他、ナフタレン、フェナントレン、アントラセン、トリフェニレン、ピレン、ペリレン、ペンタフェン、ペンタセン等の縮合多環炭化水素化合物、その他誘導体(例えばこれらのカルボン酸、カルボン酸無水物、カルボン酸イミド等)、あるいは混合物、アセナフチレン、インドール、イソインドール、キノリン、イソキノリン、キノキサリン、フタラジン、カルバゾール、アクリジン、フェナジン、フェナントリジン等の縮合複素環化合物、さらにはその誘導体も原料として使用可能である。
【0033】
例えば本実施形態の第2の層22は次のように作製される。先ず、活物質としてポリ塩化ビニル樹脂を原料とする易黒鉛化炭素材料の粉末、粒、又は短繊維と、易黒鉛化炭素材料100重量部に対して導電助剤としての金属粉末を5重量部と、バインダーとしてのPTFE粉末10重量部とを溶媒を用いて混合した後、それを圧延・乾燥によってシート材とする。本実施形態ではシート材の厚さは0.3mm程度としている。続いて、該シート材から直径略20mmの円形シートを打抜くことにより第2の層22が作製される。尚、第2の層22は、その全活物質のうち90重量%以上が黒鉛及び/又は易黒鉛化炭素材料であればよいので、例えば、活物質として、ポリ塩化ビニル樹脂を原料とする易黒鉛化炭素材料の粉末、粒、又は短繊維と、天然黒鉛の粉末、粒、又は短繊維と、フェノール樹脂を原料とする難黒鉛化炭素材料の粉末、粒、又は短繊維とを用い、易黒鉛化炭素材料と天然黒鉛と難黒鉛化炭素材料との重量比を4:5:1とすることも可能である。尚、第2の層22の蓄電素子Bの積層方向における厚さは第1の層21の積層方向における厚さに対して1/4倍以上1倍以下であることが好ましい。
【0034】
セパレータ30は、正極10と負極20とを絶縁でき、非水電解液が浸透し、イオンが透過できるものであればよく、多孔性フィルム、不織布、織物の構造を使用可能であり、材料としては天然セルロース、セルロースの誘導体、ポリオレフィン等を使用可能である。例えば本実施形態では、セパレータ30は天然セルロースから成る多孔性フィルムであり、厚さが0.5mm程度で直径が30mm程度の円形シート状に形成されている。
【0035】
本実施形態の非水電解液は、非プロトン性の非水溶媒に電解質が溶解して成る。非水溶媒は、環状炭酸エステル、鎖状炭酸エステル、環状エステル、鎖状エステル、環状エーテル、鎖状エーテル、ニトリル類、及び含イオウ化合物の何れかに含まれる溶媒の1種又は複数種の混合溶媒を含有している。
【0036】
環状炭酸エステルの例としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等が挙げられ、鎖状炭酸エステルの例としては、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネート等が挙げられ、環状エステルの例としては、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、3−メチル−γ−ブチロラクトン、2−メチル−γ−ブチロラクトン等が挙げられ、鎖状エステルの例としては、蟻酸メチル、蟻酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル、酪酸メチル、吉草酸メチル等が挙げられ、環状エーテルの例としては、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、3-メチル-1,3-ジオキソラン、2-メチル-1,3-ジオキソラン等が挙げられ、鎖状エーテルの例としては、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、ジメチル 2,5−ジオキサヘキサンジオエート、ジプロピルエーテル等が挙げられ、ニトリル類の例としては、アセトニトリル、プロパンニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、メトキシアセトニトリル、3−メトキシプロピオニトリル等が挙げられ、含イオウ化合物の例としてはスルホラン、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、エチルメチルスルホン)、エチルプロピルスルホン、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。上記の例に限られず、その他リチウムイオンキャパシタの非水溶媒として用いられる公知の溶媒を用いることも可能である。
【0037】
電解質としては、非水電解液に電解質カチオン成分としてLi+を提供可能であり、PF6+やBF4-等の電解質アニオン成分を提供可能な電解質を使用可能であり、例えばLiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiCLO4、LiI等を使用可能である。また、電解質カチオン成分としてリチウムイオンを提供可能な公知のイオン性液体を使用することも可能である。
【0038】
ケース40内に蓄電素子B及び非水電解液を封入する方法の一例を以下に示す。先ず、図2に示すように、ケース40の凹部40aの底面40cに正極10を載置し、その上にセパレータ30を載置し、その上に負極20の第1の層21を載置し、その上にリチウム金属シート60を載置する一方、蓋50の厚さ方向一方の面に負極20の第2の層22を周知の導電性接着剤によって固定する。ここで、リチウム金属シート60は厚さが0.1mm程度となるように形成されている。一般的に、リチウム金属シート60の重量は負極20の第1及び第2の層21,22の活物質の重量の1/5〜1/10程度であることが好ましい。続いて、ケース40内に非水電解液を注入した後、蓋50の第2の層22を前記リチウム金属シートの上に載置する。続いて、図3に示すように、蓋50に下方に向かう力Fを加えながら、ケース40の側壁40bの上端側を径方向内側に向かってかしめることにより、ケース40の凹部40aがガスケット50aを介して蓋50によって閉鎖される。
【0039】
この時、本実施形態では、ケース40の凹部40aの底面40cと蓋50の厚さ方向一方の面との間の距離Lが2mm程度となるように設定されている。一方、正極10、セパレータ30、第1の層21、リチウム金属シート60及び第2の層22が積層されて成る蓄電素子Bの厚さ寸法は、正極10の厚さが0.7mm程度、セパレータ30の厚さが0.5mm程度、第1の層21の厚さが0.6mm程度、リチウム金属シートの厚さが0.1mm程度、第2の層22の厚さが0.3mm程度であることから、これらを加算した2.2mm程度となるが、各構成素材が少しずつ積層方向に撓むことにより、ケース40内で蓄電素子Bの積層方向寸法が2mmに圧縮されている。
【0040】
このように蓋50によってケース40の凹部40a内に蓄電素子B及び非水電解液が封入されると、負極20の第1の層21及び第2の層22とリチウム金属シート60とが電気科学的に接触し、リチウム金属シート60から非水電解液中に溶解したリチウムイオンが第1の層21及び第2の層22の活物質に充電前の状態において吸蔵(プレドープ)される。尚、リチウム金属シート60の大きさにもよるが、一般にプレドープは数時間から数十日かかるものであり、量産工程では、前述のように蓋50によってケース40内に蓄電素子B及び非水電解液を封入した後、所定の保管場所で数時間から数日間保管が行われる。
【0041】
尚、プレドープやその後の充放電によりリチウム金属シート60が完全に非水電解液に溶解する場合もあり、全て溶解せずに残留する場合もある。また、リチウム金属シート60が完全に非水電解液に溶解した場合でも、負極20の第1の層21や第2の層22の表面にリチウム金属シート60が接触していたことによる第1の層21や第2の層22の変質又は変色が認められる場合がある。即ち、前記成分の残留、変質、変色及び残骸は、リチウム金属シート60が存在していた痕跡である。
【0042】
このように構成されたリチウムイオンキャパシタは、負極20が第1の層21と第2の層22を有し、第1の層21と第2の層22とが積層され、第1の層21と第2の層22との間にリチウム金属シート60が配置されているので、リチウム金属シート60の厚さ方向一方の面が第1の層21に接触し、厚さ方向他方の面が第2の層22に接触することになる。リチウム金属シート60のリチウムは接触部の近傍において活物質にドープされ易いので、リチウム金属シート60の厚さ方向の両面が活物質に背触していることにより、プレドープが効率的に行われ、生産性の向上を図ることが可能となる。
【0043】
また、第1の層21が活物質として難黒鉛化炭素材料を含有し、第2の層22が活物質として黒鉛又は易黒鉛化炭素材料を含有し、第2の層22がその全活物質に対して90重量%以上の黒鉛又は易黒鉛化炭素材料を含有しているので、リチウムイオンが第2の層22に吸蔵されることにより第2の層22の厚さ寸法が大きくなる。前述のように、蓄電素子Bはケース40の底面40cと蓋50との間で圧縮されており、蓄電素子Bの積層方向一方の面と蓋50との間や、蓄電素子Bの積層方向他方の面とケース40の底面40cとの間には、所定の接触圧が生じている状態ではあるが、第2の層22の厚さ寸法が大きくなる分だけ、この接触圧がより高くなる。また、蓄電素子Bの積層方向一方の面が負極20であり、蓄電素子の積層方向他方の面が正極10であり、蓋50がリチウムイオンキャパシタの一方電極を構成し、ケース40がリチウムイオンキャパシタの他方電極を構成しているので、前記接触圧が高くなることにより、リチウムイオンキャパシタの内部抵抗が低下する。
【0044】
また、第1の層21が活物質として難黒鉛化炭素材料を含有しており、第2の層22が全活物質に対して90重量%以上の黒鉛又は易黒鉛化炭素材料を含有している。難黒鉛化炭素材料は黒鉛又は易黒鉛化炭素材料に比べてリチウムイオンの吸蔵及び放出が高効率で行われるので、充電及び放電の際は第2の層22よりも第1の層21においてリチウムイオンの吸蔵及び放出が行われる。このため、高出力化にも対応可能であり、また、第2の層22の黒鉛又は易黒鉛化炭素材料がリチウムイオンの吸蔵及び放出を繰返すことによる劣化が抑制され、サイクル特性の向上を図ることも可能となる。
【0045】
尚、本実施形態では、正極10及び負極20に集電極層を設けていないものを示したが、正極10のケース40の底面40c側の面や第2の層22の蓋50側の面に金属箔から成る集電極層を設けることも可能である。
【0046】
また、本実施形態において、リチウム金属シート60とは別のリチウム金属シートをリチウム金属シート60とは別の場所にさらに設けることも可能である。
【0047】
尚、本実施形態では、蓋50に第2の層22を導電性接着剤によって固定したものを示したが、蓋50と第2の層22とを非接着とすることも可能である。
【0048】
また、本実施形態では、負極20における蓋50側に第2の層22が配置されているものを示したが、負極20における蓋50側に第1の層21を配置し、正極10側に第2の層22を配置することも可能である。尚、黒鉛や易黒鉛化炭素材料の方が難黒鉛化炭素材料よりも面間隔が小さくデンドライトが発生し易いので、負極20における蓋50側に第2の層22が配置される方が正極10と負極20との短絡を防止する上で有利である。
【0049】
また、本実施形態では、蓋50側に負極20が配置されたものを示したが、蓋50側に正極10を配置し、ケース40の凹部40aの底面40c側に負極20を配置することも可能である。
【0050】
また、本実施形態では、負極20内に1枚の第1の層21と1枚の第2の層22を設けたものを示したが、各層21,22を2枚以上とすることも可能である。
【0051】
また、本実施形態では、正極10とセパレータ30と負極20とを1層ずつ有するものを示したが、各層10,20,30が2層以上設けられる場合でも、前述と同様の負極の構成を適用することが可能である。
【0052】
尚、本実施形態では、凹部40aを有するケース40と蓋50とを用いるボタン型又はコイン型のリチウムイオンキャパシタを示した。これに対し、図4に示すように、凹部70aを有する角型のセラミックケース70と蓋80とを用いて前記実施形態と同様のリチウムイオンキャパシタを形成することも可能である。この場合、蓋80はコバール合金等から成り、例えばセラミックケース70の凹部70aの底面70bには電極シート70cが形成され、電極シート70cはセラミックケース70の底面の外部電極70dに導通している。また、蓋80がセラミックケース70に溶接によって固定されることにより、蓋80によってセラミックケース70の凹部70a内に蓄電素子B及び非水電解液が封止される。
【0053】
尚、本実施形態では、リチウムイオンキャパシタの負極20に第1の層21及び第2の層22を設け、各層21,22の間にリチウム金属シート60を配置するものを示したが、リチウムイオン二次電池において負極にリチウムイオンをプレドープするものについては、本実施形態と同様に負極に第1の層及び第2の層を設け、各層の間にリチウム金属シートを配置することが可能であり、これにより本実施形態と同様の作用効果を奏する。また、リチウムイオンキャパシタやリチウムイオン二次電池以外でも、負極にリチウムイオンをプレドープするものについては、負極に第1の層と第2の層を設け、各層の間にリチウム金属シートを配置することにより、本実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0054】
尚、前記実施形態において、蓄電素子Bの厚さ方向他方の面とケース40の底面40cとの間に導電性のスペーサを設けることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、正極とセパレータと負極とを積層して成る蓄電素子と、電解液と、蓄電素子を収容する凹部を備えるケースと、ケースの凹部を閉鎖してケース内に蓄電素子と電解液とを封入する蓋とを備え、負極にリチウムイオンがプレドープされる電気化学デバイスに広く適用でき、本発明の適用によって前記同様の作用、効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0056】
10…正極、20…負極、21…第1の層、22…第2の層、30…セパレータ、40…ケース、40a…凹部、40b…側壁、40c…ガスケット、40d…底面、50…蓋、60…リチウム金属シート、70…セラミックケース、70a…凹部、70b…底面、70c…電極シート、70d…外部電極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極とセパレータと負極とを所定方向に積層して成る蓄電素子と、蓄電素子を収容する凹部を有するケースと、ケースの凹部を閉鎖してケース内に蓄電素子と電解液とを封入する蓋とを備え、蓄電素子の積層方向一方の面が蓋の厚さ方向一方の面に接触している電気化学デバイスであって、
前記負極が、活物質として難黒鉛化炭素材料を含有する第1の層と、活物質として黒鉛及び/又は易黒鉛化炭素材料を含有する第2の層とを有し、
第2の層がその全活物質に対して黒鉛又は易黒鉛化炭素材料を90重量%以上含有しており、
第1の層と第2の層とがその間にリチウム金属シートが配置されるように前記所定方向に積層されている
電気化学デバイス。
【請求項2】
正極とセパレータと負極とを所定方向に積層して成る蓄電素子と、蓄電素子を収容する凹部を有するケースと、ケースの凹部を閉鎖してケース内に蓄電素子と電解液とを封入する蓋とを備え、蓄電素子の積層方向一方の面が蓋の厚さ方向一方の面に接触し、蓄電素子の積層方向他方の面がケースの凹部底面に接触している電気化学デバイスであって、
前記負極が、活物質として難黒鉛化炭素材料を含有する第1の層と、活物質として黒鉛及び/又は易黒鉛化炭素材料を含有する第2の層とを有し、
第2の層がその全活物質に対して黒鉛又は易黒鉛化炭素材料を90重量%以上含有しており、
第1の層と第2の層とが前記所定方向に積層され、
第1の層と第2の層との間にリチウム金属シートが存在していた痕跡を有する
電気化学デバイス。
【請求項3】
請求項1又は2の何れかに記載の電気化学デバイスであって、
前記第2の層の前記積層方向における厚さが前記第1の層の前記積層方向における厚さに対して1/4倍以上1倍以下である、電気化学デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−114374(P2012−114374A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−264216(P2010−264216)
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【出願人】(000204284)太陽誘電株式会社 (964)
【Fターム(参考)】