説明

高強度モルタル組成物

【課題】施工性に優れ、かつ、常温養生のみで早期に高い圧縮強度を発現できる高強度モルタル組成物を提供すること。
【解決手段】本発明は、セメントと、シリカフュームと、水と、減水剤と、消泡剤と、細骨材と、無機質微粉末とを含み、セメントは、CSを40.0〜75.0質量%及びCAを2.7質量%未満含有し、かつ、45μmふるい残分が25.0質量%未満であり、細骨材と無機質微粉末との混合物は、粒径0.15mm以下の粒群を40〜80質量%、かつ、粒径0.075mm以下の粒群を30〜80質量%含有し、無機質微粉末が、石灰石粉、珪石粉及び砕石粉からなる群より選ばれる1種以上の微粉末である高強度モルタル組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高強度モルタル組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、構造部材の軽量化、鉄筋使用量の削減などの要求に伴い、200N/mm程度の圧縮強度が得られるような超高強度材料が提案されている。これらの材料では、セメント、ポゾラン質微粉末、骨材及び高性能減水剤が使用されており、熱養生によって超高強度化が図られている。また、これらに金属繊維や有機繊維を添加することによって、高いじん性やひび割れ抑制機能を付与することが提案されている(特許文献1〜3参照)。そして、特許文献2及び3に記載の材料を標準の条件で養生した場合、材齢28日目の圧縮強度が150N/mm程度に留まることがわかっている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−181004号公報
【特許文献2】特開2006−298679号公報
【特許文献3】特開2007−126317号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】超高強度繊維補強コンクリートの強度発現性状に関する実験的検討、コンクリート工学年次論文集、Vol.30、No.1、pp.243−248、2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、既存の技術では、コンクリートの超高強度化を実現するためには、熱養生を必要とする場合が多いため、コンクリートの製造箇所が限定され、製造品の運搬が必要である。また、コンクリート製品の形状や大きさは、材料の流動性、型枠や養生装置の形状等により制約を受けるため、超高強度材料は施工や設計の自由度が制限される。一方、ひび割れ抑制効果を備えた高じん性セメント系材料は、現場施工が可能であるが、強度は通常のコンクリートと同程度しか得られていない。このため、熱養生が不要であり、現場施工が可能な高強度材料が求められている。
【0006】
そこで、本発明は、施工性に優れ、かつ、常温養生のみで早期に高い圧縮強度を発現できる高強度モルタル組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の鉱物組成及び粒度分布を有するセメントと、特定の粒度を有する細骨材及び無機質微粉末とを、シリカフューム、減水剤及び消泡剤と組み合わせることで、モルタル組成物の流動性を向上でき、かつ、熱養生しなくともモルタル組成物の強度を向上できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、セメントと、シリカフュームと、水と、減水剤と、消泡剤と、細骨材と、無機質微粉末とを含む高強度モルタル組成物であって、セメントは、CSを40.0〜75.0質量%及びCAを2.7質量%未満含有し、かつ、45μmふるい残分が25.0質量%未満であり、細骨材と無機質微粉末との混合物は、粒径0.15mm以下の粒群を40〜80質量%、かつ、粒径0.075mm以下の粒群を30〜80質量%含有し、無機質微粉末が、石灰石粉、珪石粉及び砕石粉からなる群より選ばれる1種以上の微粉末である、高強度モルタル組成物を提供する。このようなモルタル組成物は、施工性に優れ、かつ、常温養生のみで早期に高い圧縮強度を発現することができる。
【0009】
無機質微粉末のブレーン比表面積が3000〜5000cm/gであると、高強度モルタル組成物の流動性をより一層向上できる。
【0010】
上記シリカフュームの平均粒子径が0.05〜2.0μmであると、モルタル組成物の強度を更に向上することができる。そして、本発明の高強度モルタル組成物は、セメントを基準として、シリカフュームを3〜30質量%含むことが好ましい。
【0011】
本発明の高強度モルタル組成物は、セメント及びシリカフュームの合計量100質量部に対して、水を10〜25質量部、減水剤を0.5〜6.0質量部含むことが好ましい。これにより、モルタル組成物の強度がより一層向上する。
【0012】
また、本発明の高強度モルタル組成物は、セメント及びシリカフュームの合計量100質量部に対して、細骨材を10〜60質量部、無機質微粉末を10〜60質量部含むことにより、流動性が更に向上し、施工性に一層優れるものとなる。
【0013】
本発明の高強度モルタル組成物には、高張力繊維を更に含むことができる。また、高張力繊維は、引張強度が100〜10000N/mm、アスペクト比が40〜250であり、モルタル組成物に対する含有量が外割りで0.3〜5.0体積%であることによって、高いじん性と高い圧縮強度及び引張強度を得ることができる。さらに、上記高張力繊維は、金属繊維、炭素繊維及びアラミド繊維からなる群より選ばれる1種以上の繊維であると、モルタル組成物の強度をより一層向上することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、施工性に優れ、かつ、常温養生のみで早期に高い圧縮強度を発現できるモルタル組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例で用いた消泡剤のH−NMRスペクトルである。
【図2】実施例3のモルタル組成物のスランプフロー試験後の状態を撮影した写真である。
【図3】比較例7のモルタル組成物のスランプフロー試験後の状態を撮影した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の高強度モルタル組成物は、セメントと、シリカフュームと、水と、減水剤と、消泡剤と、細骨材と、無機質微粉末とを含むものである。以下、本発明に係るモルタル組成物の好適な実施形態について説明する。
【0017】
セメントの鉱物組成は、CS量が40.0〜75.0質量%であり、CA量が2.7質量%未満である。セメントのCS量は、好ましくは45.0〜73.0質量%、より好ましくは48.0〜70.0質量%であり、更に好ましくは50.0〜68.0質量%である。CA量は好ましくは2.3質量%未満であり、より好ましくは2.1質量%未満であり、更に好ましくは1.9質量%未満である。CS量が40.0質量%未満では圧縮強度が低くなる傾向があり、75.0質量%を超えるとセメントの焼成自体が困難となる傾向がある。また、CA量が2.7質量%以上では流動性が悪くなる。なお、CA量の下限値は特に限定されないが、0.1質量%程度である。
【0018】
また、セメントのCS量は好ましくは9.5〜40.0質量%、より好ましくは10.0〜35.0質量%であり、更に好ましくは12.0〜30.0質量%である。CAF量は好ましくは9.0〜18.0質量%、より好ましくは10.0〜15.0質量%であり、更に好ましくは11.0〜15.0質量%である。このようなセメントの鉱物組成の範囲であれば、モルタル組成物の高い圧縮強度及び高い流動性を確保できる。
【0019】
また、セメントの粒度は、45μmふるい残分が、上限で25.0質量%未満であり、好ましくは20.0質量%であり、より好ましくは18.0質量%であり、更に好ましくは16.0質量%である。45μmふるい残分の下限は0.0質量%であり、好ましくは1.0質量%であり、より好ましくは2.0質量%である。セメントの粒度がこの範囲であれば、高い圧縮強度を確保でき、また、このセメントを使用して調製したモルタルスラリーは適度な粘性があるため、繊維を添加した場合には、十分な分散性が確保できる。
【0020】
セメントのブレーン比表面積は、好ましくは2500〜4800cm/g、より好ましくは2800〜4000cm/g、更に好ましくは3000〜3600cm/gであり、特に好ましくは3100〜3500cm/gである。セメントのブレーン比表面積が2500cm/g未満ではモルタル組成物の強度が低くなる傾向があり、4800cm/gを超えると低水セメント比での流動性が低下する傾向がある。
【0021】
本実施形態に係るセメントの製造にあたっては、通常のセメントと特に異なる操作を行う必要は無い。上記セメントは、石灰石、珪石、スラグ、石炭灰、建設発生土、高炉ダスト等の原料の調合を目標とする鉱物組成に応じて変え、実機キルンで焼成した後、得られたクリンカーに石膏を加えて所定の粒度に粉砕することによって製造することができる。焼成するキルンには、一般的なNSPキルンやSPキルン等を使用することができ、粉砕には一般的なボールミル等の粉砕機が使用可能である。また、必要に応じて、2種以上のセメントを混合することもできる。
【0022】
シリカフュームは、金属シリコン、フェロシリコン、電融ジルコニア等を製造する際に、発生する排ガス中のダストを集塵して得られる副産物であり、主成分は、アルカリ溶液中で溶解する非晶質のSiOである。シリカフュームの平均粒子径は、好ましくは0.05〜2.0μm、より好ましくは0.10〜1.5μm、更に好ましくは0.18〜0.28μmである。このようなシリカフュームを用いることで、モルタル組成物の高い圧縮強度及び高い流動性を確保できる。
【0023】
本発明の高強度モルタル組成物において、セメントを基準としたシリカフューム含有量は、好ましくは3〜30質量%、より好ましくは5〜20質量%、更に好ましくは10〜18質量%である。また、モルタル1m当たりのシリカフュームの単位量は、好ましくは35〜380kg/m、より好ましくは58〜253kg/m、更に好ましくは116〜228kg/mである。
【0024】
減水剤としては、リグニン系、ナフタレンスルホン酸系、アミノスルホン酸系、ポリカルボン酸系の減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤等を使用することができる。低水セメント比での流動性確保の観点から、減水剤として、ポリカルボン酸系の減水剤、高性能減水剤又は高性能AE減水剤を用いることが好ましく、ポリカルボン酸系の高性能減水剤を用いることがより好ましい。本実施形態に係るモルタル組成物は、セメントとシリカフュームの合計量100質量部に対して、減水剤を好ましくは0.5〜6.0質量部、より好ましくは1.0〜4.0質量部、更に好ましくは1.8〜3.0質量部である。また、モルタル1m当たりの減水剤の単位量は、好ましくは7〜86kg/m、より好ましくは13〜58kg/m、更に好ましくは18〜43kg/mである。
【0025】
消泡剤としては、特殊非イオン配合型界面活性剤、ポリアルキレン誘導体、疎水性シリカ、ポリエーテル系等が挙げられる。この場合、セメントとシリカフュームの合計量100質量部に対して、消泡剤を好ましくは0.01〜2.0質量部、より好ましくは0.02〜1.5質量部、更に好ましくは0.03〜1.0質量部である。また、モルタル1m当たりの消泡剤の単位量は、好ましくは0.13〜29kg/m、より好ましくは0.26〜22kg/m、更に好ましくは0.39〜15kg/mである。
【0026】
細骨材としては、川砂、陸砂、海砂、砕砂、珪砂、石灰石骨材、高炉スラグ細骨材、フェロニッケルスラグ細骨材、銅スラグ細骨材、電気炉酸化スラグ細骨材等を使用することができる。なお、細骨材の粒度は、10mmふるいを全部通り、5mmふるいを85質量%以上通過する。
【0027】
また、無機質微粉末としては、石灰石粉、珪石粉、砕石粉等を使用することができる。無機質微粉末は、石灰石粉、珪石粉、砕石粉等をブレーン比表面積が2500cm/g以上となるまで粉砕又は分級した微粉末であり、細骨材の微粒分を補う目的で配合され、モルタル組成物の流動性を改善することができる。無機質微粉末のブレーン比表面積は3000〜5000cm/gであることが好ましく、3200〜4500cm/gであることがより好ましく、3400〜4300cm/gであることが更に好ましい。
【0028】
本実施形態に係る細骨材と無機質微粉末との混合物は、粒径0.15mm以下の粒群を40〜80質量%、好ましくは45〜80質量%含み、より好ましくは50〜75質量%含む。また、上記混合物は、粒径0.075mm以下の粒群を30〜80質量%、好ましくは35〜70質量%含み、より好ましくは40〜65質量%含む。無機質微粉末の含有量が30質量%以下では、モルタルスラリーの粘性が低すぎるため高張力繊維が十分に分散しない恐れがある。無機質微粉末の含有量が90質量%を超えると、微粉量が多すぎて粘性が高くなり、所定のフローを出すためには水セメント比を増やす必要があるため強度低下に繋がる恐れがある。
【0029】
セメント及びシリカフュームの合計量100質量部に対して、細骨材を10〜60質量部、無機質微粉末を10〜60質量部含むことが好ましく、細骨材を15〜50質量部、無機質微粉末を15〜50質量部含むことがより好ましく、細骨材を15〜30質量部、無機質微粉末を15〜30質量部含むことが更に好ましい。また、モルタル1m当たりの細骨材及び無機質微粉末の単位量は、好ましくは140〜980kg/m、より好ましくは300〜900kg/m、更に好ましくは600〜900kg/mである。
【0030】
本実施形態に係るモルタル組成物は、高張力繊維を更に含むことができる。高張力繊維としては、金属繊維、炭素繊維、アラミド繊維等が挙げられる。金属繊維として、鋼繊維、ステンレス繊維、アモルファス合金繊維等を使用することができる。高張力繊維の繊維径は0.05〜1.20mmが好ましく、0.08〜0.70mmがより好ましく、0.10〜0.35mmが更に好ましく、0.12〜0.20mmが特に好ましい。高張力繊維の繊維長は3〜60mmが好ましく、5〜35mmがより好ましく、7〜20mmが更に好ましく、9〜15mmが特に好ましい。高張力繊維のアスペクト比(繊維長/繊維径)は40〜250が好ましく、50〜200がより好ましく、60〜170が更に好ましく、70〜140が特に好ましい。高張力繊維の引張強度は100〜10000N/mmが好ましく、500〜5000N/mmより好ましく、2000〜3000N/mmが更に好ましく、1500〜2500N/mmが特に好ましい。高張力繊維の密度は、1〜20g/cmが好ましく、3〜15g/cmがより好ましく、5〜10g/cmが更に好ましい。このような高張力繊維を用いることで、モルタル組成物に高いじん性、高い圧縮強度、高い引張強度及び高い流動性を付与することができる。
【0031】
また、本実施形態に係るモルタル組成物は、モルタル組成物に対して外割りで(すなわち、モルタル組成物における、高張力繊維を除いた組成物100体積%に対して)高張力繊維を好ましくは0.3〜5.0体積%、より好ましくは0.5〜3.0体積%、更に好ましくは1.0〜2.5体積%含むことによって、高いじん性が得られる。なお、5.0体積%を超えるとモルタルの練混ぜが困難になる場合がある。また、モルタル1mに対する高張力繊維の配合量は、好ましくは23〜393kg、より好ましくは39〜236kg、更に好ましくは79〜196kgである。
【0032】
また、本実施形態に係るモルタル組成物は、セメントとシリカフュームの合計量100質量部に対して、水を好ましくは10〜25質量部、より好ましくは12〜20質量部、更に好ましくは13〜18質量部含む。モルタル1m当たりの単位水量は、好ましくは180〜280kg/m、より好ましくは190〜270kg/m、更に好ましくは200〜250kg/mである。
【0033】
本実施形態に係るモルタル組成物には、必要に応じて、膨張材、収縮低減剤、凝結促進剤、凝結遅延剤、増粘剤、ガラス繊維、有機繊維、合成樹脂粉末、ポリマーエマルジョン、ポリマーディスパージョン等を1種以上添加してもよい。
【0034】
さらに、上記本実施形態に係るモルタル組成物に、粗骨材を適量組み合わせることにより、コンクリートを調製してもよい。粗骨材の量や、水の量は、目標圧縮強度、じん性、目標スランプに応じて適時変えればよい。粗骨材としては、砂利、砕石、石灰石骨材、高炉スラグ粗骨材、電気炉酸化スラグ粗骨材等を使用することができる。また、5mmの篩いに85質量%以上とどまる粗骨材がより好ましい。
【0035】
本実施形態に係るモルタル組成物の製造方法は、特に限定されないが、水及び減水剤以外の材料の一部又は全部を予め混合しておき、次に、水、減水剤を添加してミキサに入れて練り混ぜる。また、繊維を配合する場合は、モルタルを製造した後にミキサに添加し、更に練り混ぜる。モルタルの練混ぜに使用するミキサは特に限定されず、モルタル用ミキサ、二軸強制練りミキサ、パン型ミキサ、グラウトミキサ等を使用することができる。
【0036】
本発明の高強度モルタル組成物は、高強度が求められるPC梁、高耐久性パネル、ブロック耐震壁などに有効である。高張力繊維を添加することによって、橋梁等の鉄筋量を減らすことが可能となる。また、橋梁の補修・補強等にも有効である。
【0037】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【実施例】
【0038】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明の内容をより具体的に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0039】
[使用材料の準備]
実施例及び比較例のモルタル組成物を作製するために、以下に示す材料を準備した。
【0040】
(1)セメント(C)
石灰石、珪石、スラグ、石炭灰、建設発生土、銅ガラミ等の原料を調合し、キルンで焼成した後、石膏を加えて粉砕することにより、ポルトランドセメントを調製した。得られたセメントの化学成分を、JIS R 5202−2010「セメントの化学分析方法」にしたがい測定し、鉱物組成を下記のボーグ式により算出した。得られたセメントの鉱物組成を表1に示す。
【0041】
S量=(4.07×CaO)−(7.60×SiO)−(6.72×Al)−(1.43×Fe)−(2.85×SO
S量=(2.87×SiO)−(0.754×CS)
A量=(2.65×Al)−(1.69×Fe
AF量=3.04×Fe
【0042】
また、得られたセメントの45μmふるい残分をセメント協会標準試験方法 JCAS K−02「45μm網ふるいによるセメントの粉末度試験方法」に準じて、ブレーン比表面積をJIS R 5201−1997「セメントの物理試験方法」に準じて測定した。結果を表1に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
(2)シリカフューム(SF):平均粒子径0.24μm
シリカフュームの平均粒子径は、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(堀場製作所製、商品名「LA−950V2」)を用いて測定した粒子径分布より、粒子径−通過分積算%曲線を算出し、粒子径−通過分積算%曲線より通過分積算が50体積%となる粒子径を求めた。試料分散媒は0.2%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を用い、測定前に出力600Wのホモジナイザーにて10分間分散処理した。粒度分布の演算はMie散乱理論に従った。粒子屈折率は1.45−0.00i、溶媒屈折率は1.333とした。各粒度の通過分積算(体積%)を表2に示す。
【0045】
【表2】

【0046】
(3)細骨材
砕砂:安山岩砕砂、表乾密度2.62g/cm、粗粒率2.80
(4)無機質微粉末
石灰石微粉末、密度2.71g/cm、ブレーン比表面積4280cm/g
珪石粉、密度2.63g/cm、ブレーン比表面積3820cm/g
【0047】
上記砕砂及び無機質微粉末の粒度を、JIS A 1102−2006「骨材のふるい分け試験方法」を参考として測定した。次いで、細骨材及び無機質微粉末を混合して所定の粒度になるように調整した。結果を表3に示す。
【0048】
【表3】

【0049】
(5)減水剤:ポリカルボン酸系高性能減水剤(固形分濃度25質量%)
(6)消泡剤:特殊非イオン配合型界面活性剤
図1は、上記消泡剤を重メタノールに溶解し、NMR測定装置(BRUKER製、商品名「AVANCE」)を用いて測定したH−NMRスペクトルである。上記消泡剤の構造単位である、ポリオキシプロピレン(以下、「POP」と略記する)の構造単位、ポリオキシエチレン(以下、「POE」と略記する)の構造単位及びアルキル鎖の構造単位のモル比を、POP中のメチル基に由来するシグナルの積分値を基準に算出した。この内、POPに対するPOEのモル比を、3.5ppm付近に現れるPOPのメチル基以外の炭化水素基に由来するシグナル及びPOEの炭化水素基に由来するシグナルの積分値からPOPのメチル基以外の炭化水素基に由来するシグナルの積分値を差し引くことにより算出した。消泡剤中のPOP、POE及びアルキル鎖の構造単位のモル比を表4に示す。
【0050】
【表4】

【0051】
(7)高張力繊維:鋼繊維、東京製綱株式会社製、商品名「CW9416」、密度:7.87g/cm、繊維径0.16mm、繊維長13mm、アスペクト比81.25、引張強度2200N/mm
(8)練混ぜ水(W):上水道水
【0052】
[モルタル組成物の作製]
モルタル組成物の作製を、表5の配合組成に基づき、以下の通りに行った。
【0053】
セメント、シリカフューム、細骨材、無機質微粉末及び消泡剤を二軸強制練りミキサに加え、減水剤を含む練混ぜ水をミキサ内に投入して10分間撹拌し、モルタル組成物を作製した。なお、実施例3〜10及び比較例5〜7では、鋼繊維を更に投入して、モルタル組成物を作製した。
【0054】
【表5】


*1:セメント及びシリカフュームの合計量100質量%に対する水の量
*2:セメント100質量%に対するシリカフュームの量
*3:セメント及びシリカフュームに対して外割りで添加した値。なお、減水剤中の水分は単位水量に含める。
*4:モルタル組成物に対して外割りで添加した値。
【0055】
[モルタル組成物の評価]
(1)フレッシュ性状
(試験方法)
実施例1〜10及び比較例1〜6で作製したモルタル組成物を用いて、モルタル0打フロー又はスランプフローを測定した。モルタル0打フローは、JIS R 5201−1997「セメントの物理試験方法」に準じ、落下無しの条件で測定し、鋼繊維を含まないモルタルについて試験を行った。また、スランプフローはJIS A 1150−2007「コンクリートのスランプフロー試験方法」に準じ、試験後の鋼繊維の分散状態を目視により観察した。
【0056】
(2)強度試験
JIS A 1132−2006「コンクリートの強度試験用供試体の作り方」に準じて5cm×10cmの円柱供試体を作製し、JIS A 1108−2006「コンクリートの圧縮強度試験方法」に準じて圧縮強度試験、JIS A 1113−2006「コンクリートの割裂引張強度試験方法」に準じて割裂引張強度試験を行った。供試体は試験材齢まで標準養生した。
【0057】
(評価結果)
表6に、モルタル0打フロー試験、スランプフロー試験、繊維の分散状態、圧縮強度試験及び割裂引張強度試験の結果を示す。また、図2に実施例3のモルタル組成物、図3に比較例7のモルタル組成物のスランプフロー試験後の状態をそれぞれ撮影した写真を示す。なお、図2及び3における写真(b)は、写真(a)の一部を拡大した部分である。
【0058】
モルタル0打フローの値から流動性を、以下の基準で評価した。モルタル0打フローが小さい場合、作業性や狭部へのモルタル組成物の充填性等が不十分となることから、施工性に乏しいと判断される。
○:モルタル0打フローの値が200mm以上であり、流動性が高い。
×:モルタル0打フローの値が200mm未満であり、流動性が悪い。
【0059】
スランプフローの値から流動性を、以下の基準で評価した。スランプフローが小さい場合、作業性や狭部へのモルタル組成物の充填性等が不十分となることから、施工性に乏しいと判断される。
◎:スランプフローの値が750mmを超え、流動性が極めて高い。
○:スランプフローの値が700mm以上750mm未満であり流動性が高い。
△:スランプフローの値が650mm以上700mm未満であり、流動性に問題ない。
×:スランプフローの値が650mm未満であり、流動性が悪い。
【0060】
繊維分散性を、以下の基準で評価した。
◎:ファイバーボール(繊維の塊)が認められない。
○:僅かにファイバーボールが認められる。
×:多数のファイバーボールが認められる。
【0061】
【表6】

【0062】
(セメントの鉱物組成及び粒度)
セメントの種類を変更して、モルタル組成物の流動性及び強度発現を評価した。実施例1及び2では、流動性に優れ、かつ、材齢7日において十分に高い圧縮強度が得られることが確認された。これに対し、比較例1、3及び4では、流動性が劣り、比較例2では、流動性に優れるものの、圧縮強度が十分ではなかった。
【0063】
(細骨材及び無機質微粉末の粒径)
本発明に係る細骨材及び無機質微粉末の混合物を配合した実施例3〜10では、流動性に優れ、かつ、試験後試料を観察したところ、ファイバーボールはほとんど認めらず、繊維分散性に優れていることが確認された(図2参照)。
【0064】
これに対して、無機質微粉末のみを配合した比較例5及び6では、粒径0.15mm以下の粒群が多いため、組成物の粘性が高く、十分な流動性が得られなかった。また、比較例7は、流動性に優れるものの、試験後試料に多量のファイバーボールが認められ、硬化後の鋼繊維の偏在が懸念された(図3参照)。
【0065】
また、実施例3〜10では圧縮強度が十分に高いことが確認された。これに対して、比較例5の圧縮強度はやや低く、圧縮試験前に比較例5の試験体を研磨したところ、試料中に気泡の残存が認められた。比較例5では、流動性に乏しいため内在気泡が抜けにくく、これによって強度低下が生じたものと考えられる。
【0066】
さらに、実施例3、4及び10では、割裂引張強度が優れていた。一方、比較例7では、モルタル組成物の硬化体中に繊維が偏在したため、割裂引張強度が低かった。
【0067】
以上のことから、本発明のモルタル組成物によれば、流動性が十分に高く施工性に優れ、かつ、常温養生のみで早期に高い圧縮強度を発現できることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントと、シリカフュームと、水と、減水剤と、消泡剤と、細骨材と、無機質微粉末とを含む高強度モルタル組成物であって、
前記セメントは、CSを40.0〜75.0質量%及びCAを2.7質量%未満含有し、かつ、45μmふるい残分が25.0質量%未満であり、
前記細骨材と無機質微粉末との混合物は、粒径0.15mm以下の粒群を40〜80質量%、かつ、粒径0.075mm以下の粒群を30〜80質量%含有し、
前記無機質微粉末が、石灰石粉、珪石粉及び砕石粉からなる群より選ばれる1種以上の微粉末である、高強度モルタル組成物。
【請求項2】
前記無機質微粉末のブレーン比表面積が3000〜5000cm/gである、請求項1に記載の高強度モルタル組成物。
【請求項3】
前記シリカフュームの平均粒子径が0.05〜2.0μmである、請求項1又は2に記載の高強度モルタル組成物。
【請求項4】
前記セメントを基準として、前記シリカフュームを3〜30質量%含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の高強度モルタル組成物。
【請求項5】
前記セメント及び前記シリカフュームの合計量100質量部に対して、水を10〜25質量部、減水剤を0.5〜6.0質量部含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の高強度モルタル組成物。
【請求項6】
前記セメント及び前記シリカフュームの合計量100質量部に対して、細骨材を10〜60質量部、無機質微粉末を10〜60質量部含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の高強度モルタル組成物。
【請求項7】
高張力繊維を更に含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の高強度モルタル組成物。
【請求項8】
前記高張力繊維は、引張強度が100〜10000N/mm、アスペクト比が40〜250であり、前記モルタル組成物に対する含有量が0.3〜5.0体積%である、請求項7に記載の高強度モルタル組成物。
【請求項9】
前記高張力繊維は、金属繊維、炭素繊維及びアラミド繊維からなる群より選ばれる1種以上の繊維である、請求項7又は8に記載の高強度モルタル組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−144406(P2012−144406A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−5887(P2011−5887)
【出願日】平成23年1月14日(2011.1.14)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】