説明

高熱伝導性樹脂を用いたヒートシンク及びLED光源

【課題】金属ヒートシンクの代替として用いる加工性、生産性、軽量性に優れた樹脂ヒートシンクを提供する。
【解決手段】合成樹脂と熱伝導性充填材とを含有してなり、熱伝導率が0.5[W/mK]以上である高熱伝導性樹脂組成物と、金属又はセラミックスの成形体である基材3とを一体化して成形した、高熱伝導性樹脂2を用いたヒートシンク1であって、ヒートシンク1は、熱源に対向する熱源対向面6を有し、熱源対向面6の少なくとも一部は、基材3によって直接形成されるか、あるいは、基材3との間に高熱伝導性樹脂が3mm以下の厚さで介在されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高熱伝導性樹脂を用いたヒートシンクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
発光素子、電子素子、電気素子、半導体素子、これらの素子を集積化した集積回路モジュールなどを総称して「電子機器」という。電子機器の性能向上に伴い素子の集積度が増し、体積あたりの発熱量が著しく増加している。そのため電子機器の設計において、熱対策をどのように行うかが電子機器の性能や長期信頼性向上のための重要な課題になっている。
【0003】
特に、近年発光ダイオード(LED)の用途が広がり、液晶表示装置などの表示装置のバックライトや照明にも応用され、その熱対策が問題となっている。それらの放熱は多くの場合は、発熱体の熱をヒートシンクやヒートスプレッダを用いて素早く広げ、大気や水等の冷媒との接触面に到達させて熱を逃がすことによって行われる。
従来のヒートシンクは、銅又はアルミニウム材料を用いて、切削加工、ダイカスト若しくは熱間押出法などにより製造している。これらの金属は一般的に熱放射率が低いためアルマイトなどの表面加工や塗装によって熱放射率を向上させているものもある。さらに放熱性を高めるために、金属製のヒートパイプを装填した製品も見受けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-302302号公報
【特許文献2】国際公開第2010/050202号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これら金属製のヒートシンクは、今後進む部品の更なる小型化・軽量化あるいは複雑形状化の際に対応させるには、加工性、生産性が悪く、形状が制限されるという問題がある。そこで、金属に変わる材料として、成形する形状の自由度の高い合成樹脂材料が注目されている。
しかし一般に、合成樹脂成形体をパソコンやディスプレイの筐体、電子素子材料、自動車の内外装、照明器具部材、携帯電話等の携帯型電子機器等、種々の用途に適用する際、合成樹脂は金属材料等無機物と比較して熱伝導性が低いため、発生する熱を逃がし難いことが問題になることがある。
【0006】
このような課題を解決するため、樹脂中に、高熱伝導性無機化合物を大量に配合することで、高熱伝導性樹脂組成物を得ようとする試みが広くなされている。高熱伝導性無機化合物としては、グラファイト、炭素繊維、低融点金属、アルミナ、窒化アルミニウム等の高熱伝導性金属又はセラミックスが用いられ、通常は30体積%以上、更には50体積%以上もの高含有量で樹脂中に配合される。
【0007】
それにもかかわらず、多くの高熱伝導性樹脂組成物は、金属ヒートシンクに用いられるアルミニウムや銅よりも熱伝導性が大きく劣り、単純な置き換えでは放熱性が大きく劣るため、実際に高熱伝導性樹脂組成物を用いたヒートシンクの例は少ない。
なお、特許文献1には熱伝導性樹脂とアルミニウムを複合したヒートシンクが示されている。これはアルミニウムのヒートシンクを熱伝導性樹脂で覆ってヒートシンクの比熱容量を増加させ、発熱開始から5分程度の短時間において温度上昇を遅らせる発明であり、放熱性の向上を目的とする本発明とは異なる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願の発明者は、金属ヒートシンクの代替として用いるため、熱伝導率の異なる材料を用いた各種形状のヒートシンクの放熱性を確認した結果、合成樹脂と熱伝導性充填材とを含有してなる高熱伝導性樹脂組成物と、金属又はセラミックスの成形体である基材とを一体化して成形したヒートシンクの設計を見出し、本発明に至った。
本発明のヒートシンクは、合成樹脂と熱伝導性充填材とを含有してなり、熱伝導率が0.5[W/mK]以上である高熱伝導性樹脂組成物と、金属又はセラミックスの成形体である基材とを一体化して成形した、高熱伝導性樹脂を用いたヒートシンクであって、前記ヒートシンクは、熱源に対向する熱源対向面を有し、前記熱源対向面の少なくとも一部は、前記基材によって直接形成されるか、あるいは、前記基材との間に該高熱伝導性樹脂が3mm以下の厚さで介在されているものである。
【0009】
前記構成のヒートシンクによれば、金属製のヒートシンクに比べて、高熱伝導性樹脂組成物を使っているので、重量が軽いという利点がある。また成形がしやすいのでいかなる形のものも製造できる。放熱性については、熱伝導率が前記範囲の高熱伝導性樹脂組成物を使用すれば金属ヒートシンクに比べて遜色ない物が実現できる。
また熱源対向面の少なくとも一部が前記基材によって直接形成されていれば、その基材に熱源を当接させることにより、熱は基材全体に素早く広がり、基材全体から高熱伝導性樹脂組成物を通して外部へ放出することができる。
【0010】
熱源対向面と基材との間に高熱伝導性樹脂が3mm以下の厚さで介在されている場合であれば、高熱伝導性樹脂の熱伝導率が高く、厚さ、すなわち「放熱方向の長さ」が小さいので、下記(1)式で表される熱抵抗は小さい。したがって、基材に熱源を当接させる場合と同様に、熱は基材全体に素早く広がり、基材全体から高熱伝導性樹脂組成物を通して外部へ放出することができる。
【0011】
以下に、本発明のヒートシンクについて、好ましい形状、特性、数値範囲などを説明する。
<熱抵抗>
熱抵抗は、発熱体の単位時間当たりの発熱量あたりの温度上昇量を意味する。単位は[°C/W] である。ヒートシンクの放熱方向の長さ、断面積を用いると、熱抵抗と熱伝導率との関係は、以下の式(1)のとおりとなる。
【0012】
(熱抵抗)=(長さ)/(断面積)/(熱伝導率) (1)
放熱面積が大きく、熱伝導率が高いほど熱抵抗を小さくするのに有利である。したがって ヒートシンクに用いる高熱伝導性樹脂及び基材は、発熱体を効率よく冷却するために高い熱伝導率を持つことが好ましい。
<ヒートシンクの熱特性>
本発明のヒートシンクにおいては、高熱伝導性樹脂は熱伝導率が高いとは言っても、従来用いられてきたアルミニウムや銅といった金属よりも熱伝導率が低いため異なる設計が必要となる。例えば自然放熱用のヒートシンクでは、空気の対流を阻害しない程度に表面積を大きくするように設計されているが、樹脂ヒートシンクでは低い熱伝導率を補うために伝熱にも注意を払い、フィンに厚みを持たせて断面積を大きくすることが効果的である。特に、棒状のフィンが縦横方向に並ぶ剣山型ヒートシンクは断面積が小さくなりがちであるため、使用時の向きが定かな場合はフィンが一方向に整列した櫛型ヒートシンクがより好ましい。
【0013】
具体的には放熱フィンの放熱方向(図1のヒートシンクの場合“A”で示す)の熱抵抗が23K/W以上1000K/W以下であることが好ましい。より好ましくは熱抵抗が33K/W以上250K/W以下、更に好ましくは放熱フィンの放熱方向の熱抵抗が50K/W以上200K/W以下である。1000K/W以上では伝熱が不十分となり、フィンの高さが活かされない構造となる。23K/W以下ではフィンの表面積が小さく放熱しきれない恐れがある。
【0014】
<発熱体>
本発明のヒートシンクによって冷却の対象となる発熱体は限定されるものではないが、単位時間当たりの発熱量が0.5W以上20W以下が好ましく、より好ましくは1W以上10W以下を想定している。0.5W以下の発熱量ではヒートシンクを用いる必要性が低く、20W以上の発熱に対しては局所的に高温となり、本発明のヒートシンクに用いる高熱伝導性樹脂や基材の耐熱温度を越える高温になる恐れがある。その場合は発熱体の配置を工夫することや、耐熱性の高い基材を用いることで使用可能となることもある。発熱体は複数でもよく、合計の発熱量が20W以下であればまとめて放熱可能である。
【0015】
<高熱伝導性樹脂>
熱伝導率が0.5W/mK以上の高い値を備える樹脂を本発明においては高熱伝導性樹脂と言う。本発明のヒートシンクに用いる高熱伝導性樹脂の熱伝導率は高いほど良く、好ましくは0.9W/m・K以上、より好ましくは1.5W/m・K以上、更に好ましくは2W/m・K以上、最も好ましくは3W/m・K以上である。高熱伝導性樹脂の熱伝導率の上限は特に制限されず、高ければ高いほど好ましい。しかし技術的に実現可能な上限値として、60W/m・Kが挙げられる。より現実的な数値としては45W/m・Kである。
【0016】
高熱伝導性樹脂は、各種樹脂に熱伝導性充填材(熱伝導性フィラーという)を配合することで得られる。熱伝導率の高い樹脂と熱伝導性フィラーの組み合わせでは高い熱伝導率の発現が特に顕著である。
これら樹脂と熱伝導性フィラーの配合による得られる高熱伝導性樹脂は、一般的に金属やセラミックスよりも低密度であるため、金属やセラミックス単体でヒートシンクを作成する場合に比べ、高熱伝導性樹脂を一体化させたほうがより軽量なヒートシンクとなる。
【0017】
また、熱伝導性フィラーに加えて他の充填剤や添加剤を配合することで、機械強度や耐摩耗性、難燃性など、樹脂組成物を応用する上で好ましい特性を向上させることが可能である。
高熱伝導性樹脂に用いる樹脂としては耐熱性、耐衝撃性、成形加工性が求められるので、例えばポリカーボネート系樹脂やポリエステル樹脂、ポリアミド(PA)樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、液晶ポリマーなどの熱可塑性樹脂が例示される。ただしこれらに限定されるものではない。
【0018】
特に基材とのインサート成形を行うには熱可塑性樹脂であることが好ましい。熱可塑性ポリエステル系樹脂としては、非晶性脂肪族ポリエステル、非晶性半芳香族ポリエステル、非晶性全芳香族ポリエステル等の非晶性熱可塑性ポリエステル系樹脂、結晶性脂肪族ポリエステル、結晶性半芳香族ポリエステル、結晶性全芳香族ポリエステル等の結晶性熱可塑性ポリエステル系樹脂などが挙げられる。また、液晶ポリマーとしては、液晶性脂肪族ポリエステル、液晶性半芳香族ポリエステル、液晶性全芳香族ポリエステル等が挙げられる。
【0019】
これら種々の熱可塑性ポリエステル系樹脂の中でも、樹脂単体での熱伝導率が高いことから、高結晶性あるいは液晶性の樹脂を用いることが好ましい。樹脂によっては、成形条件によって結晶化度が変化する場合もあるが、そのような場合には高結晶性となるような成形条件を選択することで、得られる樹脂成形体の熱伝導性を高めることができる。
結晶性ポリエステルの中でも、入手が容易であるという点から、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリ1,4−シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、等を用いることが好ましい。また、液晶ポリマーとしては、特許文献2に記載されているメソゲン基/スペーサーの繰り返し単位を主鎖に含む特定構造を有した液晶ポリマーなどは、樹脂自体の熱伝導率が高く、本発明に用いる樹脂としても好適である。
【0020】
また、一般的に樹脂ではアルミニウムのような金属では必要となる表面処理や塗装を施さずとも放射率が高いという特徴がある。この特長を生かす上で、塗装せずとも意匠性の良いポリエチレンテレフタレートは特に好ましい。
熱伝導性フィラーとしては、市販されている一般的な良熱伝導性材を用いることが出来る。なかでも、熱伝導率、入手性、絶縁性や電磁波シールド性や電磁波吸収性などの電気特性を付与可能、充填性、毒性、等種々の観点から、グラファイト、ダイヤモンド、等の炭素化合物;酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ベリリウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛等の金属酸化物;窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の金属窒化物;炭化ホウ素、炭化アルミニウム、炭化ケイ素等の金属炭化物;水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物;炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム等の金属炭酸塩;結晶性シリカ:アクリロニトリル系ポリマー焼成物、フラン樹脂焼成物、クレゾール樹脂焼成物、ポリ塩化ビニル焼成物、砂糖の焼成物、木炭の焼成物等の有機性ポリマー焼成物;Znフェライトとの複合フェライト;Fe−Al−Si系三元合金;金属粉末、等が好ましく挙げられる。
【0021】
さらに、入手性や熱伝導性の観点から、グラファイト、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、水酸化アルミニウム、炭酸マグネシウム、結晶化シリカがより好ましく、グラファイト、α―アルミナ、六方晶窒化ホウ素、窒化アルミニウム、水酸化アルミニウム、Mn−Zn系ソフトフェライト、Ni−Zn系ソフトフェライト、Fe−Al−Si系三元合金(センダスト)、カルボニル鉄、鉄ニッケル合金(パーマロイ)がより好ましく、鱗辺状の窒化ホウ素粉末、鱗辺状のタルク粉末、球状化グラファイト、丸み状あるいは球状のα―アルミナ、球状化六方晶窒化ホウ素、窒化アルミニウム、水酸化アルミニウム、Mn−Zn系ソフトフェライト、Ni−Zn系ソフトフェライト、球状Fe−Al−Si系三元合金(センダスト)、カルボニル鉄、が特に好ましい。本発明でカルボニル鉄を用いる場合には、還元カルボニル鉄粉であることが望ましい。還元カルボニル鉄粉とは、標準グレードではなく、還元グレードに分類されるカルボニル鉄粉であり、標準グレードに比べ、カーボンと窒素の含有量が低いことが特徴である。
【0022】
これら熱伝導性フィラーは、高熱伝導性樹脂100体積部に対して、5〜60体積部配合される。さらに好ましくは、10〜50体積部配合される。熱伝導性フィラーの配合量が5体積部を下回ると、樹脂の熱伝導性は低く、本願発明におけるヒートシンクとして十分な放熱機能を果たさない。一方、熱伝導性フィラーの配合量が60体積部を超えると、成形時の流動性が低く成形し難い、成形体が脆くなるなどの問題が生じる。
【0023】
<成形方法>
高熱伝導性樹脂の成形には射出成形、押出成形、プレス成形、ブロー成形、等種々の熱可塑性樹脂成形法により成形することが可能であるが、形状の自由度や成形サイクルが短く生産性に優れることから射出成形法、又は形状は限られるが成形体を連続的に得られ生産性が高いことから押出成形により成形された成形体であることが好ましい。この際用いられる成形機や金型には特に制限は無く、所定の目的形状の成形体が得られるように設計された金型を用いることが好ましい。
【0024】
また高熱伝導性樹脂と基材との一体化において、図2に示したようなインサート成形は材料が密着するため熱が伝わり易い、はめ込みや接着等の後工程が不要であるという特徴を持ち好ましい。射出成形及び押出成形は、インサート成形に好適なため特に好ましい。
<基材>
基材は高熱伝導性樹脂と一体化させ、高熱伝導性樹脂単体では不十分な均熱効果を補助するために用いる。基材は熱伝導率が高いほど均熱効果が大きく、より放熱に適したヒートシンクとなる。基材の熱伝導率は具体的には10W/m・K以上であることが好ましく、30W/m・K以上がより好ましい。10W/m・K以下の熱伝導率であれば高熱伝導性樹脂と同程度となり一体化によるヒートシンク放熱性の向上が見込まれない。熱伝導率の上限は特に制限されず、高ければ高いほどヒートシンクの放熱性は向上するが、一般的には3000W/m・K以下、さらには2000W/m・K以下、のものが用いられる。
【0025】
基材には、アルミニウム、銅、マグネシウムをはじめとする高熱伝導性金属、グラファイト、ダイヤモンド等の高熱伝導性炭素材料、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、チタン酸バリウムなどのセラミック材料、また、前述した高熱伝導性樹脂に用いられる熱伝導性フィラーを押し固めた成形体や焼結体などを用いることができる。
【0026】
<基材の形状>
本発明のヒートシンクに用いる基材は複数用いてもよく、発熱体の数や配置に応じて用いることが望ましい。
基材は発熱量に応じて形状を変えることが好ましい。その表面積[mm2]が発熱量[W]に対して、15mm2/W以上600mm2/W以下であり、熱源対向面に沿った方向の基材の熱抵抗が2.5K/W以上100K/W以下であることが好ましい。より好ましくは、基材の表面積[mm2]が発熱量[W]に対して、20mm2/W以上320mm2/W以下であり、熱源対向面に沿った方向の熱抵抗が5K/W以上50K/W以下であり、更に好ましくは基材の表面積[mm2]が発熱量[W]に対して、50mm2/W以上150mm2/W以下であり、熱源対向面に沿った方向の熱抵抗が10K/W以上33K/W以下である。ここで「熱源対向面に沿った方向」とは、図1の構造を例にとれば、熱源対向面6に含まれる任意の方向(放熱方向Aに垂直な方向)を言う。
【0027】
基材は熱を広げて、高熱伝導性樹脂へ伝える役割をするので、熱抵抗が大きくなり過ぎない範囲で、体積よりも表面積(熱源対向面あるいは熱源対向面に平行な面の表面積;図1に“C”で示す)が重視されることが好ましい。熱抵抗が前述の範囲を上回る場合は発熱体の熱が十分に伝わらない。下回る場合には伝熱性能は十分であるが、重く、高コストなヒートシンクとなる。発熱量あたりの表面積Cが上記の範囲を下回る場合は発熱体の熱が十分に放熱できず、全体が高温になる。上回る場合には放熱性能は十分であるが、大型、複雑形状なヒートシンクとなる。
【0028】
本発明のヒートシンクでは、高熱伝導性樹脂と基材を用いるためそれぞれが得意とする形状を組み合わせることができ、高コストになりがちな基材を単純な形状で用いることが可能なため、放熱性などの物性を向上させつつ低コスト化も可能である。例えば、基材を板状や棒状、筒状にすれば、押出加工や引抜加工が可能であるので製造容易となる。切削やダイキャスト法でブロックを製造するよりも低価格であり、入手性が良く、好ましい。
【0029】
<線膨張率>
高熱伝導性樹脂と基材を一体化させるためには、両者の線膨張率が近いことが好ましい。基材として用いる金属やセラミックの線膨張率との整合性から高熱伝導性樹脂の線膨張率は1×10-6/℃以上100×10-6/℃以下が好ましく、10×10-6/℃以上50×10-6/℃以下がより好ましい。これらの範囲を超える場合には、材料間の線膨張率の差からクラックや剥離が発生する恐れがあり、形状や使用温度に注意を払う必要がある。
【発明の効果】
【0030】
本発明のヒートシンクを採用することにより、従来の金属ヒートシンクと比べて放熱性に遜色なく、加工性、生産性、軽量性に優れたヒートシンクを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】高熱伝導性樹脂と基材とを一体化して成形したヒートシンクの一例を示す部分断面斜視図である。
【図2】金型を用いて、この実施形態のヒートシンク1を製造している状態を示す断面図である。
【図3】基材3の下方主面3dが露出して、基材3が熱源対向面6を構成する例を示す部分断面斜視図である。
【図4】高熱伝導性樹脂と基材とを一体化して成形したヒートシンク1をLED電球に適用した例を示す全体斜視図である。
【図5】LED電球を中心線で切断した断面斜視図である。
【図6】LED電球を水平方向で切った断面図である。
【図7】ヒートシンク1を熱源Hの上に設置し、熱源Hと基材3との間にサーミスタThを挟んで温度を測定した実施例に用いた実験系を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施の形態を、添付図面を参照して説明する。
図1は、高熱伝導性樹脂と基材とを一体化して成形したヒートシンク1を示す部分断面斜視図である。
この実施形態のヒートシンク1は、高熱伝導性樹脂2と、金属又はセラミックスの成形体である基材3とからなる。
【0033】
基材3は、表面に突出部を含む立体形状をなしている。具体的には基材3は、直方体状の基材本体3aと、基材本体3aの両辺部から横に突出した突出部3bと、基材本体3aの上方主面から上方に突出した立設片3cとからなる。この突出部3bは、高熱伝導性樹脂2を成形する場合に、高熱伝導性樹脂2との接触面積を広げて、高熱伝導性樹脂2との結合力を増すためのものである。また立設片3cは、高熱伝導性樹脂2を成形する場合の位置決めのために用いられ、成形後はそのままヒートシンク1のフィン5の一部となるものである。
【0034】
なお、基材3は何らかの立体形状をなしていればよく、突出部3bや立設片3cの存在は、本発明の実施に必須のものではない。
この基材3に結合するように成形された高熱伝導性樹脂2は、基材3の突出部3bに結合する底板部4と、底板部4からそれぞれ立設される、平行に配列された複数の櫛型のフィン5とを含むように成形される。
【0035】
底板部4は、基材本体3aの突出部3bと下方主面3dとを覆っている。基材本体3aの下方主面3dを覆う部分は、一つの平面を形成する。その平面は、熱源に対向する「熱源対向面6」となる。熱源対向面6と基材本体3aの下方主面との間隔は、所定の厚みDを有する。
図2は、金型7を用いて、この実施形態のヒートシンク1を製造している状態を示す断面図である。金型7内には、複数のフィン5に対応する複数の溝7aが形成されている。この溝7aの一つに、前述した基材本体3aの立設片3cを差し込んで、基材3の位置を決めて、溶融した高熱伝導性樹脂2を充填し、冷却後、金型7を外せばヒートシンク1が製造される。
【0036】
この実施形態のヒートシンク1は、図1に示したように、熱源対向面6は高熱伝導性樹脂2で形成されており、熱源対向面6と基材本体3aの下方主面との間隔は、所定の厚みDを有していた。
しかし、図3に示すように、基材本体3aの下方主面3dが露出して、所定の厚みD=0となる実施例も可能である。すなわち、高熱伝導性樹脂2でなく、基材3が熱源対向面6を構成する。この構造を採用すれば、基材3に熱源を当接させることにより、熱は基材全体に素早く広がり、基材3の全体から高熱伝導性樹脂2を通して外部へ放出することができる。
【0037】
図4〜図6は、高熱伝導性樹脂と基材とを一体化して成形したヒートシンク1をLED電球に適用した例を示す。図4は全体斜視図であり、図5は中心線で切断した縦断面斜視図、図6は水平方向で切った断面図である。
図4に示すように、LED電球は筐体部10、グローブ部11及び口金部14からなる。筐体部10は従来アルミダイキャストで形成されていたが、本発明の実施形態では、高熱伝導性樹脂2と基材3とを一体化して成形したヒートシンク1を用いる。筐体部10の上面は、アルミニウムなど熱伝導性の良好な金属で形成されたLED実装基板13が装着され、LED実装基板13上にLED素子12が搭載されている。
【0038】
図5は筐体部10の内部を示す縦断面図である。筐体部10の内部には、円筒状の絶縁ケース15が設置されている。この絶縁ケース15は紙、フェノール樹脂、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド、ABSなどの熱可塑性樹脂などの絶縁樹脂で形成され、その内部には図示しない点灯回路部品が配置されている。点灯回路は、商用交流電源を、LED素子を点灯駆動するための直流電源に変換する回路である。絶縁ケース15の周側面は、本発明の実施形態のヒートシンク1に接触している。
【0039】
ヒートシンク1は、絶縁ケース15の周側面に直接接触する金属筒3と、この金属筒3の外周面に接合する高熱伝導性樹脂部2とを含む。これらの金属筒3と高熱伝導性樹脂部2とは、インサート成形により一体化して成形されたものである。
金属筒3は本発明の「基材」に相当するものであり、高熱伝導性の金属であるアルミニウム、アルミニウム合金などで形成される。
【0040】
高熱伝導性樹脂部2は金属筒3の周側面を覆う円筒部2aと、円筒部2aから放射状に延びる複数の三角フィン5と、円筒部2aの上端面に形成されたテーブル状の円板部2bとを含んでいる。これらの円筒部2a、三角フィン5、円板部2bとは、高熱伝導性樹脂によって一体的に形成されている。
円板部2bの上面には、前述したようにLED実装基板13が装着され、LED実装基板13上にLED素子12が搭載されている。
【0041】
このLED電球の発熱体は、LED素子12を搭載したLED実装基板13である。したがって、テーブル状の円板部2bの上面が、熱源に対向する「熱源対向面」となる。
この熱源対向面と、「基材」である金属筒3の上端部との間には、高熱伝導性樹脂2の円板部2bが、厚さDの距離を離して介在されている。厚さDは3mm以下に設定される。
【0042】
このようなヒートシンクの構造により、LED素子12を搭載したLED実装基板13で発生する熱は、円板部2bを厚さD方向に通過して、金属筒3の上端部に伝達される。金属筒3は高熱伝導性金属であるアルミニウム、アルミニウム合金などで形成されているので、熱は素早く金属筒3の全体に広がり、十分な均熱効果を発揮する。そして熱は、金属筒3の周側面から高熱伝導性樹脂部2に伝わり、複数の三角フィン5を介して空気中に放射される。
【0043】
このLED電球は、従来のように筐体部10がアルミニウムなどの金属でなく、主に高熱伝導性樹脂で形成されているので、重量が軽いという利点があるとともに、筐体部10が複雑な形状であっても容易に製造できる。また、高熱伝導性樹脂は、表面処理や塗装を施さずとも熱放射率が高く、放熱性に有利である。また、成形時にカラーマスターを使用するなどして、樹脂自体に着色することも極めて容易であり、視覚性、意匠性に優れたLED電球を容易に製造できるといった利点もある。
【0044】
以上で、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の実施は、前記の形態に拘束されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更を施すことが可能である。
【実施例】
【0045】
次に、本発明について実施例に基づき更に詳細に説明するが、本発明の応用範囲は広く、実施例のみに制限されるものではない。
<熱伝導性フィラー>
鱗片形状六方晶窒化ホウ素粉末(FIL−1):オルトホウ酸53重量部、メラミン43重量部、硝酸リチウム4重量部をヘンシェルミキサーで混合した後、純水200重量部を添加し80℃で8時間攪拌してからろ過し、150℃で1時間乾燥後した。得られた化合物を窒素雰囲気下900℃で1時間加熱し、更に窒素雰囲気下1800℃で焼成・結晶化させた。得られた焼成物を粉砕して鱗片形状六方晶窒化ホウ素粉末(FIL−1)を得た。得られた粉末の数平均粒径は48μm、白色度は92、黒鉛化指数は1.0、タップ密度は0.77g/cm3であった。また本粉末を単独で固化させ熱伝導率を測定した結果熱伝導率は300W/mKであり、且つ電気絶縁性であった。
【0046】
鱗片形状六方晶窒化ホウ素粉末(FIL−2):鱗片形状六方晶窒化ホウ素粉末を凝集処理させた、凝集処理六方晶窒化ホウ素粉末(National Nitride Technologies Co.,Ltd.製NW150、単体での熱伝導率60W/m・K、数平均粒径150μm、白色度78、黒鉛化指数12、タップ密度0.80g/cm3)。
ガラス繊維(FIL−3):ガラス繊維(日本電気硝子(株)製T187H/PL、単体での熱伝導率1.0W/m・K、繊維直径13μm、数平均繊維長3.0mm)
天然鱗片状黒鉛粉末(FIL−4):天然鱗片状黒鉛粉末(中越黒鉛(株)製BF−250A、単体での熱伝導率1200W/mK、体積平均粒子径250.0μm、導電性)
<液晶ポリマー>
還流冷却器、温度計、窒素導入管および攪拌棒を備え付けた密閉型反応器に、4,4'−ジヒドロキシビフェニル、セバシン酸および無水酢酸をモル比でそれぞれ1:1.05:2.2の割合で仕込み、酸化アンチモンを触媒とし、窒素ガスを緩やかに流しながら、内容物を攪拌しつつ還流温度まで昇温した。還流温度にて5時間保温したのち、還流冷却器をリービッヒ冷却器と交換し、さらに200℃まで昇温しながら酢酸を留去した。さらに1℃/分の速度で300℃まで昇温し、300℃で生じる酢酸を留去しながら1時間30分重合させた。酢酸の留出量が理論酢酸生成量の90%に到達した時点で引き続きその温度を保ったまま、約20分かけて0.5torr以下に減圧し、高分子量まで溶融重合を行った。1時間後、不活性ガスで常圧に戻し、生成したポリマーを取り出すことにより液晶ポリマーを得た。
【0047】
<高熱伝導性樹脂の製造>
原料1:ポリエチレンテレフタレート樹脂(三菱化学(株)製 ノバペックス PBKII)100重量部、フェノール系安定剤((株)ADEKA製AO−60)0.2重量部、を混合したものを準備した。
原料2:鱗片形状六方晶窒化ホウ素粉末(FIL−1)100重量部、ガラス繊維(FIL−3)50重量部、エポキシシラン系カップリング剤(信越化学工業(株)製KBM−303)1重量部、エタノール5重量部、をスーパーフローターで混合して5分間撹拌した後、80℃にて4時間乾燥したものを準備した。
【0048】
原料3:鱗片形状六方晶窒化ホウ素粉末(FIL−2)100重量部、ガラス繊維(FIL−3)50重量部、エポキシシラン系カップリング剤(信越化学工業(株)製KBM−303)1重量部、エタノール5重量部、をスーパーフローターで混合して5分間撹拌した後、80℃にて4時間乾燥したものを準備した。
配合例1:原料1、原料2、を別々の重量式フィーダーにセットし、(原料1)/(原料2)の体積比率が55/45となるよう混合した後、(株)日本製鋼所製同方向噛合型二軸押出機TEX44XCTのスクリュー根本付近に設けられたホッパーより投入した。設定温度は原料供給口近傍が250℃で、スクリュー先端部に向かって順次設定温度を上昇させ、スクリュー先端部温度を280℃に設定した。本条件にて射出成形用サンプルペレットを得た。
【0049】
配合例2:原料1、原料3、を別々の重量式フィーダーにセットし、(原料1)/(原料3)の体積比率が55/45となるよう混合した後、配合例1と同様の製造条件にて射出成形用サンプルペレットを得た。
配合例3:液晶ポリマー、天然鱗片状黒鉛粉末(FIL−4)を別々の重量式フィーダーにセットし、の体積比率が50/50となるよう混合した後、配合例1と同様の製造条件にて射出成形用サンプルペレットを得た。
【0050】
<素材の熱伝導率等の測定>
このようにして得られた各ペレットを140℃で4時間乾燥後、東芝機械(株)製75t射出成形機IS−75E−2Aにて、試験片を成形し、京都電子工業(株)製ホットディスク法熱物性率測定装置TPA−501にて、成形体の熱伝導率を測定した。また、熱機械分析装置(TMA)により、成形体の線膨張係数を測定した。それぞれの結果を配合とともに表1に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
<温度測定>
次に、表1記載の配合例1及び配合例2により得た射出成形用サンプルペレットを用いて、アルミニウム合金A5052板を加工した基材3とのインサート成形を行い、図7に示した高熱伝導性樹脂2と基材3とが一体化したヒートシンクを作製した。いずれもインサー成形時のクラックは無く、良好なヒートシンクが得られた(実施例1−1,1−2)。
【0053】
対応する比較例として高熱伝導性樹脂単体のみによる、図7と同形状のヒートシンクを作製した(比較例1−1,1−2)。また、ポリエチレン(株式会社プライムポリマー製ハイゼックス3000B)を成形したサンプルで図7と同形状のヒートシンクを作製した(比較例1−3)。また、図7と同形状のアルミヒートシンク(LSIクーラー株式会社製12F31L30)を用いた(比較例1−4)。比較例1−1,1−2では基材3は存在しない。
【0054】
次に、得られたヒートシンク1を、図7のように熱源Hの上に設置し、熱源Hと熱源対向面6(−z方向を向いた主面)との間にサーミスタThを差し込んだ。なお図7において、x方向に並んだフィンの間隔a、z方向に沿ったフィンの高さb、フィンの厚さtを記入している。基材3内に示した破線矢印Eは、熱抵抗の低い基材3の中で熱が速く伝わることを模式的に示す矢印である。
【0055】
熱源Hに通電し、室温25℃、自然対流にて2時間放置し定常状態になっていることを確認し、サーミスタThの検出温度を熱源温度として記録した。熱源温度が低いほど、ヒートシンクの放熱性に優れることになる。評価結果を表2に示す。
【0056】
【表2】

【0057】
表2記載の結果より、本発明の高熱伝導性樹脂と基材とが一体化したヒートシンク(実施例1−1,1−2)は、高熱伝導性樹脂単体でのヒートシンク(比較例1−1,1−2)やポリエチレン単体でのヒートシンク(比較例1−3)に比べて温度が下がっており、放熱性が高いことが分かる。また本発明のヒートシンク(実施例1−1,1−2)は、アルミ製ヒートシンク(比較例1−4)に近い放熱性を有することがわかる。
【0058】
<シミュレーション>
次に、シミュレーションにより、高熱伝導性樹脂と基材とが一体化したヒートシンクの放熱特性を検討した。ヒートシンクの構造は、特に断らない限り図7に示したものと同様とした。
シミュレーションソフトには、株式会社ソフトウエアクレイドル製:SCRYU/Tetraを使用し、定常解析で計算が収束した時点での温度分布を結果として用いた。解析条件としては、流れは層流、輻射・重力は考慮して計算した。シミュレーション温度は、初期温度、周囲温度ともに20℃とした。ヒートシンクおよび熱源は、自然対流の20℃の空気の中にあるものとして解析した。
【0059】
シミュレーション結果を表3〜7に示す。
【0060】
【表3】

【0061】
表3は、高熱伝導性樹脂の熱伝導率を0.5W/mKから60W/mKまで4段階に変えて計算を行った結果を示す表である(実施例2−1〜2−4)。なお放熱方向であるフィンの高さ方向(z方向)の熱抵抗をほぼ同一の値に統一するために、フィンの間隔a、フィンの高さb、フィンの厚さt、フィンの枚数を故意に変更して計算をした。また、対応する比較例として高熱伝導性樹脂単体のみによる場合、アルミヒートシンクの場合も計算した。
【0062】
表3によれば、高熱伝導性樹脂の熱伝導率が最も低い実施例2−1でも、樹脂単体の場合と比べて温度がかなり下がっており、基材の存在効果が大きいことがわかる。また、高熱伝導性樹脂の熱伝導率が最も高い実施例2−4では、高熱伝導性樹脂単体のみによる場合や、アルミヒートシンクの場合との温度差が小さく、高熱伝導性樹脂自体の放熱効果が効いていることがわかる。
【0063】
【表4】

【0064】
表4は、熱源と基材3との間に高熱伝導性樹脂を介在させない場合(図7と同様)と、熱源と基材3との間にさらに高熱伝導性樹脂を介在させ、その厚みを2段階に変えた場合との、計算結果を示す表である(実施例3−1〜3−3)。表4から、熱源Hと基材3との間に高熱伝導性樹脂が介在していない場合、すなわち熱源対向面6が基材3で形成されている場合のほうが、熱源Hと基材3との間に高熱伝導性樹脂が介在している場合、すなわち熱源対向面6が高熱伝導性樹脂で形成されている場合よりも、放熱性が優れていることが分かる。しかし、熱源対向面6が高熱伝導性樹脂で形成されている場合でも、3mm程度ならば、十分な放熱性は得られている。そして当該高熱伝導性樹脂の厚さを1mmと薄くすれば、3mmの場合よりも、放熱性がそれだけ優れたものになる。
【0065】
【表5】

【0066】
表5は、基材の熱源対向面6の印加電力あたりの面積を50mm2/Wから320mm2/W0W/mKまで4段階に変えて計算を行った結果を示す表である(実施例4−1〜4−4)。なおフィンの高さ方向(z方向)の熱抵抗をほぼ同一の値に統一するために、フィンの間隔a、フィンの高さb、フィンの厚さt、フィンの枚数を故意に変更して計算をしている。また、実施例4−1〜4−3では、印加電力あたりの面積を変えるため、ヒートシンクの底面積を30mm角に統一し印加電力の値を18Wから5Wまで調節している。実施例4−4では、印加電力の値を5Wに維持し、ヒートシンクの底面積を40mm角に広げている。
【0067】
対応する比較例として高熱伝導性樹脂単体のみによる場合、アルミヒートシンクの場合も計算した。
表5によれば、印加電力あたりの表面積が大きいほど放熱性は優れている。また印加電力あたりの表面積の大小に係わらず、本発明の高熱伝導性樹脂と基材とが一体化したヒートシンクは、高熱伝導性樹脂単体のみによる場合とアルミヒートシンクの場合との中間の放熱性を示していることがわかる。
【0068】
【表6】

【0069】
表6は、基材の熱源対向面6に沿った方向、すなわち図7のx−y平面に沿った方向の熱抵抗を2.5K/Wから50K/Wまで3段階に変えて計算を行った結果を示す表である(実施例5−1〜5−3)。なおx−y平面に沿った方向の熱抵抗は、基材のz方向の厚さを変えることにより変化させている。
対応する比較例として高熱伝導性樹脂単体のみによる場合、アルミヒートシンクの場合も計算した。
【0070】
表6によれば、本発明の高熱伝導性樹脂と基材とが一体化したヒートシンクでは、x−y平面に沿った方向の熱抵抗が小さいほど、温度の低下が大きくなり、優れた放熱性を示すことがわかる。これは、全体的に熱が放熱されるz方向と直角な、x−y平面に沿った方向であっても、基材がそのx−y平面に沿った方向に熱を伝えやすければ、z方向への放熱も速くなることを示している。すなわち図7の破線矢印Eに示すように、基材3の中で熱が速く分散できるような基材3の構造、素材を選ぶことによって、さらに放熱性に優れるヒートシンクを製作することができることが分かる。
【0071】
【表7】

【0072】
表7は、フィンの高さ方向の熱抵抗を23.8K/Wから1000K/Wまで5段階に変えて計算を行った結果を示す表である(実施例6−1〜6−5)。なおフィンの高さ方向の熱抵抗は、フィンの高さb、厚さt、枚数、間隔aを変えることにより変化させている。
対応する比較例として高熱伝導性樹脂単体のみによる場合、アルミヒートシンクの場合も計算した。
【0073】
表7によれば、フィンの高さ方向の熱抵抗の大小に係わらず、本発明の高熱伝導性樹脂と基材とが一体化したヒートシンクは、高熱伝導性樹脂単体のみによる場合とアルミヒートシンクの場合との中間の放熱性を示していることがわかる。
これらの表2−表7の結果より、下記の要件を満たす、高熱伝導性樹脂組成物と、金属又はセラミックスの成形体である基材とを一体化して成形した高熱伝導性樹脂を用いたヒートシンクが、特に放熱性に優れている事がわかる。
(1)高熱伝導性樹脂組成物の熱伝導率が、0.5[W/mK]以上、60[W/mK]以下である。
(2)基材との間に高熱伝導性樹脂が3mm以下の厚さで介在されている。
(3)熱源対向面6の表面積[mm2]が熱源の発熱量[W]に対し、50[mm/W]以上である。
(4)基材の熱源対向面に沿った方向の熱抵抗が、100[K/W]以下である。
(5)放熱フィンの放熱方向(高さ方向)の熱抵抗が、放熱フィン全体で1000[K/W]以下である。
【産業上の利用可能性】
【0074】
以上のようにして得られたヒートシンク成形体は、樹脂フィルム、樹脂シート、樹脂成形体等の様々な形態で、電子材料、磁性材料、触媒材料、構造体材料、光学材料、医療材料、自動車材料、建築材料、等の各種の用途に幅広く用いることが可能である。本発明で得られた高熱伝導性樹脂成形体は、現在広く用いられている一般的なプラスチック用射出成形機が使用可能であるため、複雑な形状を有する成形体の取得も容易である。本発明の高熱伝導性樹脂成形体に用いられる熱可塑性樹脂組成物は、特に成形加工性良好、高熱伝導性、という優れた特性を有し、発熱源を内部に有する携帯電話等の携帯型電子機器、ディスプレイ、コンピューター等の筐体成形用樹脂として、また、高耐光性、高白色度、高反射率という優れた特性を有することから、電球ソケットや発光管ホルダーといった照明器具部材成形用樹脂として、非常に有用である。
【0075】
本発明の高熱伝導性樹脂成形体は、家電、OA機器部品、AV機器部品、自動車内外装部品、電球形照明等の射出成形体等に好適に使用することができる。特に多くの熱を発する家電製品やOA機器において、外装材料として好適に用いることができる。また、発熱源を内部に有するがファン等による強制冷却が困難な電子機器において、内部で発生する熱を外部へ放熱するために、これらの機器の外装材として好適に用いられる。更に、白色、高い反射率を要求され、蛍光灯のように長尺形状を必要とする照明器具部材としても、好適に用いることができる。
【0076】
これらの中でも好ましい装置として、ノートパソコン等の携帯型コンピューター、PDA、携帯電話、携帯ゲーム機、携帯型音楽プレーヤー、携帯型TV/ビデオ機器、携帯型ビデオカメラ、等の小型あるいは携帯型電子機器類が挙げられ、それらの筐体、ハウジング、外装材用樹脂組成物として、本発明の高熱伝導性樹脂成形体に用いられる熱可塑性樹脂組成物が非常に有用である。
【0077】
また自動車や電車等におけるバッテリー周辺用、家電機器の携帯バッテリー用、ブレーカー等の配電部品用、モーター等の封止用、の各種材料としても非常に有用に用いることができる。
本発明の高熱伝導性樹脂成形体は従来良く知られている成形体に比べて、耐衝撃性、表面性が良好であり、上記の用途における部品あるいは筐体用として有用な特性を有するものである。
【0078】
即ち、このような成形体は電気・電子工業分野、自動車分野、等、様々な状況で熱対策素材として用いることが可能で、工業的に有用である。
【符号の説明】
【0079】
1 ヒートシンク
2 高熱伝導性樹脂
3 基材
5 フィン
6 熱源対向面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂と熱伝導性充填材とを含有してなり、熱伝導率が0.5[W/mK]以上である高熱伝導性樹脂組成物と、金属又はセラミックスの成形体である基材とを一体化して成形した、高熱伝導性樹脂を用いたヒートシンクであって、
前記ヒートシンクは、熱源に対向する熱源対向面を有し、
前記熱源対向面の少なくとも一部は、前記基材によって直接形成されるか、あるいは、前記基材との間に該高熱伝導性樹脂が3mm以下の厚さで介在されている、ヒートシンク。
【請求項2】
前記合成樹脂が熱可塑性樹脂である請求項1記載のヒートシンク。
【請求項3】
前記高熱伝導性樹脂は、電気を通しにくい絶縁体である請求項1又は請求項2に記載のヒートシンク。
【請求項4】
前記熱伝導性充填材を、高熱伝導性樹脂組成物100体積部に対して、5〜60体積部配合している請求項1〜請求項3の何れか1項に記載のヒートシンク。
【請求項5】
前記熱源対向面の表面積[mm2]が前記熱源の発熱量[W]に対して、50[mm2/W]以上である請求項1〜請求項4の何れか1項に記載のヒートシンク。
【請求項6】
前記基材の熱伝導率が10[W/mK]以上である請求項1〜請求項5の何れか1項に記載のヒートシンク。
【請求項7】
前記熱源対向面に沿った方向の熱抵抗が100[K/W]以下である請求項1〜請求項6の何れか1項に記載のヒートシンク。
【請求項8】
前記合成樹脂がポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリカーボネート、液晶性熱可塑性ポリエステルの中から選ばれる少なくとも一種である、請求項1〜請求項7の何れか1項に記載のヒートシンク。
【請求項9】
前記熱伝導性充填材は鱗辺状の窒化ホウ素(BN)又は鱗辺状のタルクである請求項1〜請求項8の何れか1項に記載のヒートシンク。
【請求項10】
前記高熱伝導性樹脂組成物で形成された放熱フィンをさらに含み、前記放熱フィンの放熱方向の熱抵抗が、放熱フィン全体で1000[K/W]以下である請求項1〜請求項9の何れか1項に記載のヒートシンク。
【請求項11】
前記高熱伝導性樹脂組成物の線膨張係数が10×10-6[/°C]以上100×10-6[/°C]以下である請求項1〜請求項10の何れか1項に記載のヒートシンク。
【請求項12】
請求項1〜請求項11の何れか1項に記載のヒートシンクを発光ダイオードの放熱用に用いたLED光源。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−89718(P2013−89718A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−227870(P2011−227870)
【出願日】平成23年10月17日(2011.10.17)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】