説明

Al基合金スパッタリングターゲットおよびその製造方法

【課題】スパッタリングターゲットを用いたときの成膜速度(スパッタレート)が高められ、好ましくはスプラッシュの発生を防止できるAl基合金スパッタリングターゲットを提供する。
【解決手段】本発明のAl基合金スパッタリングターゲットは、Taを含有するものである。好ましくは、AlおよびTaを含むAl−Ta系金属間化合物の平均粒子直径は0.005μm以上1.0μm以下で、且つ、Al−Ta系金属間化合物の平均粒子間距離は0.01μm以上10.0μm以下を満足するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Al基合金スパッタリングターゲットおよびその製造方法に関し、詳細には、スパッタリングターゲットを用いたときの成膜速度(スパッタレート)が高められ、好ましくはスプラッシュの発生防止が可能なAl基合金スパッタリングターゲットと、その製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
Al基合金は、電気抵抗率が低く、加工が容易であるなどの理由により、液晶ディスプレイ(LCD)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、エレクトロルミネッセンスディスプレイ(ELD)、フィールドエミッションディスプレイ(FED)、メムス(MEMS)ディスプレイなどのフラットパネルディスプレイ(FPD)、タッチパネル、電子ペーパーの分野で汎用されており、配線膜、電極膜、反射電極膜などの材料に利用されている。
【0003】
Al基合金薄膜の形成には、一般にスパッタリングターゲットを用いたスパッタリング法が採用されている。スパッタリング法とは、基板と、薄膜材料と同一の材料から構成されるスパッタリングターゲットとの間でプラズマ放電を形成し、プラズマ放電によってイオン化させた気体をスパッタリングターゲットに衝突させることによってスパッタリングターゲットの原子をたたき出し、基板上に積層させて薄膜を作製する方法である。
【0004】
スパッタリング法は、真空蒸着法とは異なり、スパッタリングターゲットと同じ組成の薄膜を形成できるというメリットを有している。特に、スパッタリング法で成膜されたAl基合金薄膜は、平衡状態では固溶しないNdなどの合金元素を固溶させることができ、薄膜として優れた性能を発揮することから、工業的に有効な薄膜作製方法であり、その原料となるスパッタリングターゲットの開発が進められている。
【0005】
近年、FPDの生産性向上などに対応するため、スパッタリング工程時の成膜速度(スパッタレート)は、従来よりも高速化する傾向にある。成膜速度を速くするためには、スパッタリングパワーを大きくすることが最も簡便であるが、スパッタリングパワーを増加させると、スプラッシュ(微細な溶融粒子)などのスパッタリング不良が発生し、配線膜等に欠陥が生じるため、FPDの歩留りや動作性能が低下するなどの弊害をもたらす。
【0006】
そこで、成膜速度を高める目的で、例えば特許文献1および2の方法が提案されている。このうち特許文献1には、Al合金ターゲットのスパッタ面の(111)結晶方位含有率を制御して成膜速度を向上する方法が記載されている。また特許文献2には、Al−Ni−希土類元素合金スパッタリングターゲットのスパッタリング面の<001>、<011>、<111>、<311>結晶方位面積率の比率を制御して成膜速度を向上する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−128737号公報
【特許文献2】特開2008−127623号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述したように、これまでにも成膜速度を向上する目的で種々の技術が提案されているが、一層の改善が求められている。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、スパッタリングターゲットを用いたときの成膜速度が高められ、好ましくは、スプラッシュの発生を防止できるAl基合金スパッタリングターゲットと、その製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決することのできた本発明のAl基合金スパッタリングターゲットは、Taを含有するところに要旨を有するものである。
【0011】
本発明の好ましい実施形態において、AlおよびTaを含むAl−Ta系金属間化合物の平均粒子直径は0.005μm以上1.0μm以下で、且つ、前記Al−Ta系金属間化合物の平均粒子間距離は0.01μm以上10.0μm以下を満足する。
【0012】
本発明の好ましい実施形態において、酸素含有量は0.01原子%以上0.2原子%以下である。
【0013】
本発明の好ましい実施形態において、上記Al基合金スパッタリングターゲットは、更に希土類元素を第1群元素として含有する。
【0014】
本発明の好ましい実施形態において、上記Al基合金スパッタリングターゲットは、更にFe、Co、Ni、およびGeよりなる群から選択される少なくとも一種の元素を第2群元素として含有する。
【0015】
本発明の好ましい実施形態において、上記Al基合金スパッタリングターゲットは、更にTi、Zr、Hf、V、Nb、Cr、Mo、およびWよりなる群から選択される少なくとも一種の元素を第3群元素として含有する。
【0016】
本発明の好ましい実施形態において、上記Al基合金スパッタリングターゲットは、更にSiおよび/またはMgを第4群元素として含有する。
【0017】
本発明の好ましい実施形態において、上記第1群元素はNdおよび/またはLaである。
【0018】
本発明の好ましい実施形態において、上記第1群元素はNdである。
【0019】
本発明の好ましい実施形態において、上記第2群元素は、Niおよび/またはGeである。
【0020】
本発明の好ましい実施形態において、上記第3群元素は、Ti、Zr、およびMoよりなる群から選択される少なくとも一種の元素である。
【0021】
本発明の好ましい実施形態において、上記第3群元素はZrである。
【0022】
本発明の好ましい実施形態において、上記第4群元素はSiである。
【0023】
本発明の好ましい実施形態において、ビッカース硬さ(Hv)は26以上である。
【0024】
本発明は、上記Al基合金スパッタリングターゲットの製造方法も含むものであって、該方法は、スプレイフォーミング法によって合金鋳塊を得た後、緻密化手段、鍛造、熱間圧延、焼鈍を順次行なうに際し、上記スプレイフォーミング法、熱間圧延、および焼鈍を下記の条件で行うところに特徴を有する。
スプレイフォーミング時の溶解温度:700〜1400℃
スプレイフォーミング時のガス/メタル比:10Nm/kg以下
熱間圧延の圧延開始温度:250〜500℃
熱間圧延後の焼鈍の温度:200〜450℃
【0025】
前記焼鈍後には、更に、冷間圧延および冷間圧延後の焼鈍を下記の条件で行うことが好ましい。
冷間圧延の冷延率:5〜40%
冷間圧延後の焼鈍の温度:150〜250℃
冷間圧延後の焼鈍の時間:1〜5時間
【発明の効果】
【0026】
本発明のAl基合金スパッタリングターゲットは上記のように構成されているため、上記スパッタリングターゲットを用いれば、成膜速度が高められ、好ましくはスプラッシュの発生を有効に防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明者らは、スパッタリングターゲットを用いてAl基合金膜を成膜したときの成膜速度が高められ、好ましくはスプラッシュの発生を防止できるAl基合金スパッタリングターゲットを提供するため、検討を重ねてきた。その結果、成膜速度の向上には、Taを含有するAl基合金スパッタリングターゲットの使用が有用であり、特にAlマトリックス中のTa系化合物(すなわち、AlおよびTaを少なくとも含有するAl−Ta系金属間化合物)のサイズ(平均粒子直径であり、円相当直径と同義)や分散状態(Al−Ta系金属間化合物の平均粒子間距離)を適切に制御することが極めて有用であること;更にスプラッシュの発生を防止するには、上記Ta含有スパッタリングターゲットのビッカース硬さを26以上に制御すれば良いことを見出し、本発明を完成した。
【0028】
(Al基合金スパッタリングターゲットの組成)
まず、本発明に係るAl基合金スパッタリングターゲットの組成について説明する。
上記のように本発明のAl基合金スパッタリングターゲットはTaを含有する。本発明者らの実験結果によれば、TaはAlと結合してAl−Ta系金属間化合物として分布することにより成膜中の成膜速度向上に大きく寄与することが確認された。また、Taは、本発明のスパッタリングターゲットを用いて成膜されるAl基合金膜の耐食性や耐熱性の向上にも有用な元素である。
【0029】
このような作用を有効に発揮させるためには、Taを例えば0.01原子%以上含有することが好ましい。Taの含有量が多いほど、上記作用も増加する傾向が見られる。Ta量の上限は、上記作用の観点からは特に限定されないが、Taの含有量が増加するとAl−Ta系金属間化合物も増大し、当該化合物の融点は1500℃以上と高融点のため、工業的規模での生産性や製造可能性などを考慮すると、Ta量の上限はおおむね、30.0原子%に制御することが好ましい。より好ましいTaの含有量は、0.02原子%以上25.0原子%以下であり、更に好ましくは0.04原子%以上20.0原子%以下である。
【0030】
本発明のAl基合金スパッタリングターゲットは、Taを含み、残部:Alおよび不可避的不純物であるが、上記作用を一層向上させる目的で、または上記以外の作用を有効に発揮させる目的で、下記元素を含有しても良い。
【0031】
(ア)酸素
酸素は、成膜速度の向上に有用なAl−Ta系金属間化合物(詳細は後述する。)を微細分散化させて上記作用の更なる向上に有用な元素である。後記するように本発明のAl基合金スパッタリングターゲットは、スプレイフォーミング法や粉末冶金法などにより製造することが推奨されるが、所定量の酸素が存在すると、微細分散した酸化物がAl−Ta系金属間化合物の析出サイトとなって当該化合物を一層微細分散化させ、成膜速度向上に大きく寄与することが本発明者らの実験により判明した。このような作用を有効に発揮させるためには、酸素を0.01原子%以上含有することが好ましい。但し、酸素の含有量が過剰になると、形成される酸化物が粗大化し、Al−Ta系金属間化合物の微細分散効果が低下するため、その上限を0.2原子%とすることが好ましい。より好ましい酸素の含有量は、0.01原子%以上0.1原子%以下である。
【0032】
(イ)希土類元素(第1群元素)
希土類元素(第1群元素)は、Al基合金スパッタリングターゲットを用いて形成されるAl基合金膜の耐熱性を向上させ、Al基合金膜の表面に形成されるヒロックを防止するのに有効な元素である。本発明に用いられる希土類元素は、ランタノイド元素(周期表において、原子番号57のLaから原子番号71のLuまでの15元素)に、ScとYとを加えた元素群であり、好ましい希土類元素(第1群元素)はNd、Laであり、より好ましい希土類元素(第1群元素)はNdである。これらを単独で、または2種以上を併用することができる。
【0033】
上記作用を有効に発揮させるためには、希土類元素の含有量(希土類元素を単独で含むときは単独の量であり、2種以上を含むときはそれらの合計量である)は0.05原子%以上であることが好ましい。希土類元素の含有量が多くなるほど、上記作用も向上する傾向が見られるが、過剰に添加すると、Al基合金膜の電気抵抗率が高くなってしまうため、その上限は10.0原子%とすることが好ましい。より好ましくは0.1原子%以上5.0原子%以下である。
【0034】
(ウ)Fe、Co、Ni、Ge(第2群元素)
Fe、Co、Ni、Ge(第2群元素)は、Al基合金膜と、このAl基合金膜に直接接触する画素電極との接触電気抵抗を低減するのに有効な元素であり、また、耐熱性向上にも寄与する元素である。Fe、Co、Ni、Geは、それぞれ単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。好ましい第2群元素はNiおよび/またはGeである。
【0035】
上記作用を有効に発揮させるためには、Fe、Co、Ni、Geの含有量(単独で含むときは単独の量であり、2種以上を含むときはそれらの合計量である)は0.05原子%以上であることが好ましい。上記元素の含有量が多くなるほど、上記作用も向上する傾向が見られるが、過剰に添加すると、Al基合金膜の電気抵抗率が高くなってしまうため、その上限は10.0原子%とすることが好ましい。より好ましくは0.1原子%以上5.0原子%以下である。
【0036】
(エ)Ti、Zr、Hf、V、Nb、Cr、Mo、W(第3群元素)
Ti、Zr、Hf、V、Nb、Cr、Mo、W(第3群元素)は、Al基合金膜の耐食性や耐熱性の向上に寄与する元素である。それぞれ単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。好ましい第3群元素は、Ti、Zr、およびMoよりなる群から選択される少なくとも一種の元素であり、より好ましい第3群元素はZrである。但し、過剰に添加するとAl基合金膜の電気抵抗率が高くなってしまう。Ti、Zr、Hf、V、Nb、Cr、Mo、Wの好ましい含有量(単独で含むときは単独の量であり、2種以上を含むときはそれらの合計量である)は、0.05原子%以上10.0原子%以下であり、より好ましくは0.1原子%以上5.0原子%以下である。
【0037】
(オ)Siおよび/またはMg(第4群元素)
Siおよび/またはMgは、Al基合金膜の耐候性などの耐食性の向上に寄与する元素である。それぞれ単独で用いても良いし、併用しても良い。好ましい第4群元素はSiである。但し、過剰に添加するとAl基合金膜の電気抵抗率が高くなってしまう。Siおよび/またはMgの好ましい含有量(単独で含むときは単独の量であり、両方を含むときはそれらの合計量である)は、0.05原子%以上10.0原子%以下であり、より好ましくは0.1原子%以上5.0原子%以下である。
【0038】
好ましい組成のターゲットとして、下記の(i)〜(iv)が挙げられる。
(i)後述する表1のNo.4〜6に示すようなAl(以下に示す元素を含み、残部がAlおよび不可避的不純物であるAl合金を意味する。以下同じ)−Ta−O−第1群元素(希土類元素)スパッタリングターゲットが好ましい。より好ましくはAl−Ta−O−Ndスパッタリングターゲットである。
(ii)後述する表1のNo.7、8および10に示すようなAl−Ta−O−第1群元素(希土類元素)−第2群元素スパッタリングターゲットが好ましい。より好ましくはAl−Ta−O−(Ndおよび/またはLa)−(Niおよび/またはGe)スパッタリングターゲットであり、更に好ましくはAl−Ta−O−Nd−(NiおよびGe)スパッタリングターゲットである。
(iii)後述する表2のNo.17〜30に示すようなAl−Ta−O−第1群元素(希土類元素)−第2群元素−第3群元素スパッタリングターゲットが好ましい。より好ましくはAl−Ta−O−Nd−第2群元素−第3群元素スパッタリングターゲット、更に好ましくはAl−Ta−O−Nd−(Niおよび/またはGe)−第3群元素スパッタリングターゲット、より更に好ましくはAl−Ta−O−Nd−(Niおよび/またはGe)−Zrスパッタリングターゲット、特に好ましくは後述する表2のNo.29に示すようなAl−Ta−O−Nd−(NiおよびGe)−Zrスパッタリングターゲットである。
(iv)後述する表2のNo.34〜37に示す様なAl−Ta−O−第1群元素(希土類元素)−第2群元素−第3群元素−第4群元素スパッタリングターゲットが好ましい。より好ましくはAl−Ta−O−Nd−第2群元素−第3群元素−第4群元素スパッタリングターゲット、更に好ましくはAl−Ta−O−Nd−(Niおよび/またはGe、特にはNiおよびGe)−第3群元素−第4群元素スパッタリングターゲット、より更に好ましくはAl−Ta−O−Nd−(Niおよび/またはGe、特にはNiおよびGe)−Zr−第4群元素スパッタリングターゲット、特に好ましくは、表2のNo.34に示す様なAl−Ta−O−Nd−(NiおよびGe)−Zr−Siスパッタリングターゲットである。
【0039】
(Al−Ta系金属間化合物のサイズおよび分散状態)
次に、本発明を特徴付けるAl−Ta系金属間化合物のサイズおよび分散状態について説明する。
【0040】
上記Al−Ta系金属間化合物は、少なくともAlとTaを含む化合物を意味する。上記金属間化合物には、Al基合金スパッタリングターゲットの組成や製造条件などにより上述したAlおよびTa以外の元素(例えば、上述した好ましい選択元素など)が含まれることもあるが、このような元素を更に含むものも、当該Al−Ta系金属間化合物の範囲内に包含される。
【0041】
そして本発明では、上記Al−Ta系金属間化合物の平均粒子直径が0.005μm以上1.0μm以下であり、且つ、上記Al−Ta系金属間化合物の平均粒子間距離が0.01μm以上10.0μm以下であるところに特徴があり、これらの要件を両方満足するものは、純Alに比べて高い成膜速度が得られる(後記する実施例を参照)。
【0042】
まず、上記金属間化合物の平均粒子直径は0.005μm以上1.0μm以下である。本発明では、このように上記金属間化合物の平均粒子直径を1.0μm以下のナノオーダーまで超微細化することにより、スパッタ現象を均一に生じさせ、成膜速度を向上させるものである。このような作用を有効に発揮させるためには、上記金属間化合物の平均粒子直径は小さいほど良いが、工業規模での製造可能性などを考慮すると、その下限は、おおむね、0.005μm程度である。なお、上記「平均粒子直径」は、後記する方法で測定したときの円相当直径の平均であり、詳細は後述する。
【0043】
また、上記金属間化合物の平均粒子間距離は0.01μm以上10.0μm以下である。本発明では、上記の平均粒子直径に加えて、更に平均粒子間距離を制御してAl−Ta系金属間化合物の分散状態を適切に制御することにより、スパッタ面のスパッタ状態を均一にし、成膜速度を一層向上させるものである。このような作用を有効に発揮させるためには、上記金属間化合物の平均粒子間距離は小さいほど良いが、工業規模での製造可能性などを考慮すると、その下限は、おおむね、0.01μm程度である。なお、上記「平均粒子間距離」の測定方法の詳細は後述する。
【0044】
本発明のスパッタリングターゲットは、上記組成および上記要件を満足する金属間化合物を有するものであるが、ビッカース硬さ(Hv)は26以上であることが好ましく、これによりスプラッシュの発生を防止することができる。ビッカース硬さを上記のように高くすることによりスプラッシュの発生を抑制できる理由は、詳細には不明であるが、以下のように推察される。すなわち、上記スパッタリングターゲットのビッカース硬さが低いと、当該スパッタリングターゲットの製造に用いるフライス盤や旋盤などによる機械加工の仕上げ面の微視的平滑さが悪化するため、言い換えると、素材表面が複雑に変形し、粗くなるため、機械加工に用いる切削油等の汚れがスパッタリングターゲットの表面に取り込まれ、残留する。このような汚れは、後工程で表面洗浄を行っても十分に取り除くことが困難である。このスパッタリングターゲットの表面に残留した汚れが、スパッタリング時の初期スプラッシュの発生起点になっていると考えられる。そして、このような汚れをスパッタリングターゲットの表面に残留させないようにするには、機械加工時の加工性(切れ味)を改善し、素材表面が粗くならないようにすることが必要である。そのため、本発明では、好ましくはスパッタリングターゲットのビッカース硬さを増大させることにした次第である。
【0045】
本発明に係るAl基合金スパッタリングターゲットのビッカース硬さは、スプラッシュ発生防止の観点からすれば高いほど良く、例えば、35以上であることがより好ましく、更に好ましくは40以上、更により好ましくは45以上である。なお、ビッカース硬さの上限は特に限定されないが、高すぎると、ビッカース硬さ調整のための冷延の圧延率を増大させる必要があり、圧延が行い難くなるため、好ましくは160以下、より好ましくは140以下、更に好ましくは120以下である。
【0046】
以上、本発明のAl基合金スパッタリングターゲットについて説明した。
【0047】
次に、上記Al基合金スパッタリングターゲットを製造する方法について説明する。
【0048】
本発明のAl基合金スパッタリングターゲットは、例えばスプレイフォーミング法、粉末冶金法などによって所定組成の合金鋳塊を得た後、必要に応じて、熱間で加圧する熱間静水圧加工(HIP:Hot Isostatic Pressing)などの緻密化手段を行ない、次いで、鍛造、熱間圧延、焼鈍を行なうことが推奨される。上記工程の後、冷間圧延→焼鈍(2回目の圧延→焼鈍の工程)を行っても良い。
【0049】
所定組成の合金鋳塊を得るに当たっては、上記Al−Ta系金属間化合物のサイズや分散状態を容易に制御できるなどの観点からスプレイフォーミング法の適用が好ましい。ここでスプレイフォーミング法とは、不活性ガス雰囲気中のチャンバー内でAl合金溶湯流に高圧の不活性ガスを吹き付けて噴霧化し、半溶融状態・半凝固状態・固相状態に急冷させた粒子を堆積させ、所定形状の素形材(プリフォーム)を得る方法である。スプレイフォーミング法は本願出願人によって多く開示されており、例えば、特開平9−248665号公報、特開平11−315373号公報、特開2005−82855号公報、特開2007−247006号公報に記載されており、これらを参照することができる。あるいは、前述した特許文献2も参照することができる。
【0050】
具体的には、所望とするAl−Ta系金属間化合物を得るための好ましいスプレイフォーミング条件としては、溶解温度:700〜1400℃、ガス/メタル比は10Nm/kg以下、より好ましくは5〜8Nm/kgなどが挙げられる。
【0051】
また、スプレイフォーミング法などによって合金鋳塊を得た後の工程においては、所望とするAl−Ta系金属間化合物を得るために、熱間圧延条件(例えば圧延開始温度、圧延終了温度、1パス最大圧下率、総圧下率など)、焼鈍条件(焼鈍温度、焼鈍時間など)の少なくともいずれかを、適切に制御することが好ましい。具体的には、上記工程において、圧延開始温度:250〜500℃、焼鈍温度:200〜450℃の範囲に制御することが好ましい。
【0052】
また本発明において、好ましいビッカース硬さに調整するためには、上述した2回目の圧延→焼鈍の工程に当たり、冷延率をおおむね5〜40%の範囲内に制御し、焼鈍条件を約150〜250℃で約1〜5時間の範囲内に制御することなどが推奨される。
【実施例】
【0053】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって制限されず、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらは何れも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0054】
(実施例1)
表1に示す組成からなる合金の鋳塊を、(1)スプレイフォーミング法または(2)粉末冶金法で作製した。各方法の詳細な製造条件は以下のとおりである。
【0055】
(1)スプレイフォーミング法
まず、下記のスプレイフォーミング条件にて、表1に記載のAl基合金プリフォームを得た。
(スプレイフォーミング条件)
溶解温度 :1300℃
アトマイズガス:窒素ガス
ガス/メタル比:7Nm/kg
スプレイ距離 :1050mm
ガスアトマイズ出口角度:1°
コレクター角度:35°
【0056】
次に、得られたプリフォームをカプセルに封入してから脱気し、HIP装置で緻密化した。HIP処理は、HIP温度:550℃、HIP圧力:85MPa、HIP時間:2時間で行なった。
【0057】
このようにして得られたAl基合金緻密体を、鍛造前の加熱温度:500℃、加熱時間:2時間、1回当たりの据え込み率:10%以下の条件で鍛造し、スラブを得た(サイズ:厚さ60mm、幅540mm、長さ540mm)。
【0058】
次に、圧延(条件:圧延開始温度400℃、トータル圧下率85%)および焼鈍(条件:200℃×4時間)を行なった後、機械加工を施してAl基合金板(厚さ8mm、幅150mm、長さ150mm)を製造した。
【0059】
次に、上記のAl基合金板に対し、丸抜き加工と旋盤加工を施すことによって直径4インチの円板状スパッタリングターゲットを得た(厚さ5mm)。
【0060】
(2)粉末冶金法
粉末冶金法では、100メッシュの純Al粉末と各元素の粉末をV型混合機に投入し、45分間混合した。
【0061】
次いで、上記(1)に記載のスプレイフォーミング法と同様、HIP処理、鍛造前の加熱、鍛造、圧延、焼鈍、丸抜き加工および旋盤加工を行い、直径4インチの円板状スパッタリングターゲットを得た(厚さ5mm)。
【0062】
比較のため、表1のNo.11(純度4Nの純Al)については、溶解法で製造した。詳細には、厚み100mmの鋳塊をDC鋳造法によって造塊した後、400℃で4時間均熱処理し、次いで室温にて冷延率75%で冷間加工した。その後、200℃で4時間熱処理し、室温にて冷延率40%で冷間圧延した。
【0063】
このようにして得られた各種スパッタリングターゲット材料について、Al−Ta系金属間化合物のサイズ(平均粒子直径であり、これは円相当直径の平均の意味である。)および分散状態(平均粒子間距離)を、以下に示すように顕微鏡観察および画像処理によって測定した。詳細には、視野中に観察されるAl−Ta系金属間化合物のサイズ(円相当直径)に応じて顕微鏡の種類を変え、下記(3)および(4)の方法によってAl−Ta系金属間化合物のサイズおよび分散状態を算出した後、これらの平均値を算出したものを、Al−Ta系金属間化合物の平均粒子直径および平均粒子間距離とした。
【0064】
(3)Al−Ta系金属間化合物の円相当直径が1μm超の場合における、平均粒子直径および平均粒子間距離の測定
この場合、上記化合物はFE−SEM(倍率1000倍)で観察した。
まず、測定用試料を以下のようにして作製した。はじめに上記スパッタリングターゲットの測定面(圧延面に対して垂直な断面のうち、圧延方向と平行な面であり、上記スパッタリングターゲットの厚さtに対し、表層部、1/4×t部、1/2×t部)が出るように、上記スパッタリングターゲットを切断した。次いで、測定面を平滑にするため、エメリー紙での研磨やダイヤモンドペースト等で研磨を行い、FE−SEM測定用試料を得た。
【0065】
次に上記測定用試料について、FE−SEM(倍率1000倍)を用い、スパッタリングターゲットの板厚方向に向って表層側、1/4×t部、1/2×t部の合計3箇所において、それぞれ5視野(1視野は縦約80μm×横約100μm)ずつ撮影した。その際に、EDSを用いて各金属間化合物の分析を行い、Taのピークが検出される金属間化合物を抽出した。次いで、各写真においてTaのピークが検出された化合物を、少なくともAlおよびTaを含むAl−Ta系金属間化合物と判断し、当該化合物を画像処理にて定量解析し、各写真毎に円相当直径で求め、それらの平均値を「Al−Ta系金属間化合物の平均粒子直径」とした。
【0066】
更に、Al−Ta系化合物と判断された化合物の数密度(2次元、単位面積あたりの個数)を各写真毎に求め、それらの平均値を計算し、以下の換算式により、Al−Ta系金属間化合物の平均粒子間距離を求めた。
Al−Ta系化合物の平均粒子間距離
=2×{1÷π÷[数密度(2次元)]}1/2
【0067】
(4)Al−Ta系金属間化合物の円相当直径が1μm以下の場合における、平均粒子直径および平均粒子間距離の測定
この場合、上記化合物はTEM(倍率7500倍)で観察した。
まず、測定用試料を以下のようにして作製した。はじめに上記スパッタリングターゲットの測定面(圧延面に対して垂直な断面のうち、圧延方向と平行な面であり、上記スパッタリングターゲットの厚さtに対し、表層部、1/4×t部、1/2×t部)から厚さ約0.8mm程度のサンプルをそれぞれ切り出した。さらに、その各サンプルを厚み約0.1mm程度までエメリー紙やダイヤモンドペースト等で研磨し、それを直径3mmの円盤状に打ち抜き、Struers製Tenupol−5にて、電解液として30%硝酸−メタノール溶液を使用して電解エッチングを行い、TEM観察用サンプルを得た。
【0068】
次に上記測定用試料について、TEM(倍率7500倍)を用い、スパッタリングターゲットの板厚方向に向って表層側、1/4×t部、1/2×t部の合計3箇所において、それぞれ5視野(1視野は縦約10μm×横約14μm)ずつ撮影した。その際に、EDSを用いて各金属間化合物の分析を行い、Taのピークが検出される金属間化合物を抽出した。次いで、各写真においてTaのピークが検出された化合物を、少なくともAlおよびTaを含むAl−Ta系化合物と判断し、当該化合物を画像処理にて定量解析し、各写真毎に円相当直径として求め、それらの平均値を「Al−Ta系金属間化合物の平均粒子直径」とした。
【0069】
更に、Al−Ta系化合物と判断された化合物の数密度(3次元、単位体積当たりの個数)を各写真毎に求め、それらの平均値を計算し、以下の換算式により、Al−Ta系金属間化合物の平均粒子間距離を求めた。なお、化合物の数密度(3次元)は、観察位置のTEMサンプルの膜厚をコンタミネーション・スポット法を用いてTEM内で測定し、視野面積(1視野は縦約10μm×横約14μm)を乗じた体積を用いて各写真毎に算出した。
Al−Ta系化合物の平均粒子間距離
=2×{(3/4)÷π÷[数密度(3次元)]}1/3
【0070】
そして本発明では、上記(3)および(4)の方法によってAl−Ta系金属間化合物のサイズおよび分散状態を算出した後、これらの平均値を算出したものを、Al−Ta系金属間化合物の平均粒子直径および平均粒子間距離とした。本発明では、このようにして算出されるAl−Ta系金属間化合物の平均粒子直径および平均粒子間距離がそれぞれ、0.005μm以上1.0μm以下、および0.01μm以上10.0μm以下のものを合格とした。
【0071】
(5)スパッタリングターゲットのビッカース硬さの測定
更に、上記の各スパッタリングターゲットのビッカース硬さ(Hv)を、ビッカース硬度計(株式会社明石製作所製、AVK−G2)を用いて、荷重50gにて測定した。本実施例では、ビッカース硬さが26以上のものを合格とした。
【0072】
(6)スプラッシュの発生数について
上記スパッタリングターゲットを用い、下記条件下で、膜厚が600nm程度になるようにスパッタリングを行い、その際のスプラッシュ発生の程度を観察した。
【0073】
詳細にはまず、Corning社製EAGLE XGガラス基板(サイズ:直径4インチ×厚さ0.70mm)に対し、株式会社島津製作所製「スパッタリングシステムHSR−542S」のスパッタリング装置を用い、膜厚が600nm程度になるようにDCマグネトロンスパッタリングを行った。スパッタリング条件は、以下の通りである。
到達真空度:7×10−6Torr
Arガス圧:2mTorr
放電電力:260W
Arガス流量:30sccm
極間距離:50mm
基板温度:室温
成膜時間(スパッタリング時間):240秒
【0074】
次に、パーティクルカウンター(株式会社トプコン製:ウェーハ表面検査装置WM−3)を用い、上記薄膜の表面に認められたパーティクルの位置座標、サイズ(平均粒径)、および個数を計測した。ここでは、サイズが3μm以上のものをパーティクルとみなしている。その後、この薄膜表面を光学顕微鏡観察(倍率:1000倍)し、形状が半球形のものをスプラッシュとみなし、単位面積当たりのスプラッシュの個数を計測した。
【0075】
実施例1では、このようにして得られたスプラッシュの発生数が10個/cm以下のものを○、11個/cm以上のものを×と評価した。本実施例では、○を合格(スプラッシュ軽減効果あり)と評価した。
【0076】
(7)純Alとの成膜速度比の測定
上記(6)の方法によって作製した薄膜の膜厚を、触針段差計(TENCOR INSTRUMENTS製「alpha−step 250」)によって測定した。膜厚の測定は、薄膜の中心部から半径方向に向って5mm間隔ごとに合計3点の膜厚を測定し、その平均値を「薄膜の膜厚」(nm)とした。このようにして得られた「薄膜の膜厚」を、スパッタリング時間(秒)で除して、平均成膜速度(nm/秒)を算出した。
【0077】
比較のため、4N純度の純Al(表1のNo.11)を用い、上記と同様にして成膜したときの平均成膜速度を基準とし、純Alとの成膜速度比(=上記薄膜の平均成膜速度/純Alの平均成膜速度)を算出した。このようにして得られる純Alとの成膜速度比が大きい程、成膜速度が高いことを意味する。
【0078】
実施例1では、このようにして得られた純Alとの成膜速度比が、1.1以上のものを○、1.1未満のものを×と評価した。本実施例では、○を合格(成膜速度が高い)と評価した。
【0079】
これらの結果を表1に併記する。表1中、S/Fはスプレイフォーミング法で製造した例である。また、表1の最右欄には「総合判定」の欄を設けており、「○」は本発明の要件をすべて満足する例であり、「×」は、本発明で規定する要件のうちいずれかを満足しない例である。
【0080】
【表1】

【0081】
表1より、No.1〜8およびNo.10は、Taを含み、Al−Ta系金属間化合物の平均粒子直径および平均粒子間距離が本発明の好ましい要件を満足しているため、純Alに比べて高い成膜速度を有している。しかも、これらはビッカース硬さも好ましい範囲に制御されているため、スプラッシュの発生を十分に軽減することができた。
【0082】
これに対し、Taを含まないNo.9およびNo.12は、No.11(純度4Nの純Al)とほぼ同程度の成膜速度しか得られなかった。また、No.11は、ビッカース硬さも好ましい範囲を下回るため、スプラッシュの発生が増大した。
【0083】
(実施例2)
表2に示す組成からなる合金の鋳塊を、上記実施例1と同様の条件で(1)スプレイフォーミング法または(2)粉末冶金法により作製した。上記(1)スプレイフォーミング法を採用したものについては、実施例1と同様に、得られたAl基合金プリフォームを、HIP装置で緻密化し、鍛造し、圧延および焼鈍を行い、丸抜き加工と旋盤加工を行うことによって、直径4インチの円板状スパッタリングターゲットを得た(厚さ5mm)。また、上記(2)粉末焼結法を採用したものについては、実施例1と同様に粉末を混合した後、上記スプレイフォーミング法と同様に、HIP装置で緻密化し、鍛造し、圧延および焼鈍を行い、丸抜き加工と旋盤加工を行うことによって、直径4インチの円板状スパッタリングターゲットを得た(厚さ5mm)。
【0084】
このようにして得られた各種スパッタリングターゲットについて、実施例1と同様の方法で、Al−Ta系金属間化合物の平均粒子直径と平均粒子間距離を測定した。そして本発明では、測定されたAl−Ta系金属間化合物の平均粒子直径および平均粒子間距離がそれぞれ、0.005μm以上1.0μm以下、および0.01μm以上10.0μm以下のものを合格とした。
【0085】
更に、上記の各種スパッタリングターゲットについて、実施例1と同様の方法でビッカース硬さ(Hv)を測定した。そして本発明では、ビッカース硬さ(Hv)が26以上のものを合格とした。
【0086】
更に、上記の各種スパッタリングターゲットについて、実施例1と同様の方法でスプラッシュの発生数を測定した。そして実施例2では、スプラッシュの発生数が10個/cm以下のものを○(合格、スプラッシュ軽減効果あり)、11個/cm以上のものを×(不合格、スプラッシュ軽減効果なし)と判定した。
【0087】
更に、上記の各種スパッタリングターゲットについて、実施例1と同様の方法で純Alとの成膜速度比を算出した。そして実施例2では、純Alとの成膜速度比が1.1以上のものを○(合格、成膜速度が高い)、1.1未満のものを×(不合格、成膜速度が低い)と判定した。
【0088】
これらの結果を表2に併記する。表2中、製法をS/F法と表したものはスプレイフォーミング法で製造した例である。また、表2の最右欄には「総合判定」の欄を設けており、「○」は本発明の要件をすべて満足する例であり、「×」は、本発明で規定する要件のうちのいずれかを満足しない例である。
【0089】
【表2】

【0090】
表2より、No.13〜37は、Taを含み、Al−Ta系金属間化合物の平均粒子直径および平均粒子間距離が本発明の好ましい要件を満足しているため、純Alに比べて高い成膜速度を有している。しかも、これらはビッカース硬さも好ましい範囲に制御されているため、スプラッシュの発生を十分に軽減することができた。
【0091】
(実施例3)
組成がAl−0.45原子%Ta−0.026原子%O−0.2原子%Nd−0.1原子%Ni−0.5原子%Ge−0.35原子%Zr(表2のNo.29と同じ組成)である直径4インチの円板状スパッタリングターゲット(厚さ5mm)を、表3に示す条件(スプレイフォーミングの溶解温度、スプレイフォーミングのガス/メタル比、熱間圧延の圧延開始温度、および熱間圧延後の焼鈍の温度)を採用する以外は実施例1(合金の鋳塊は上記(1)スプレイフォーミング法により作製した)と同様にして製造した。
【0092】
このようにして得られた各種スパッタリングターゲットについて、実施例1と同様の方法で、Al−Ta系金属間化合物の平均粒子直径および平均粒子間距離を算出した。そして、算出されたAl−Ta系金属間化合物の平均粒子直径および平均粒子間距離がそれぞれ、0.005μm以上1.0μm以下、および0.01μm以上10.0μm以下のものを合格とした。
【0093】
更に、上記の各種スパッタリングターゲットについて、実施例1と同様の方法で純Alとの成膜速度比を算出した。これらの結果を表3に併記する。
【0094】
【表3】

【0095】
表3より次の様に考察できる。即ち、No.29、38、40、42、43、および45は、スプレイフォーミングの溶解温度、スプレイフォーミングのガス/メタル比、熱間圧延の圧延開始温度、および熱間圧延後の焼鈍の温度が、本発明の好ましい要件を満足しているため、Al−Ta系金属間化合物の平均粒子直径および平均粒子間距離が本発明の好ましい範囲に制御され、純Alに比べて高い成膜速度を示した。
【0096】
これに対して、No.39、41、44、および46は、スプレイフォーミングの溶解温度、スプレイフォーミングのガス/メタル比、熱間圧延の圧延開始温度、熱間圧延後の焼鈍の温度のいずれかが、本発明の好ましい要件を満足していないため、Al−Ta系金属間化合物の平均粒子直径および平均粒子間距離が本発明の好ましい範囲に制御されず、純Alとほぼ同程度の成膜速度しか得られなかった。
【0097】
(実施例4)
組成がAl−0.16原子%Ta−0.029原子%O−0.28原子%Nd(表1のNo.6と同じ組成)である直径4インチの円板状スパッタリングターゲット(厚さ5mm)を、表4に示す条件(冷間圧延の冷延率、冷間圧延後の焼鈍の温度、および冷間圧延後の焼鈍の時間)で冷間圧延および冷間圧延後の焼鈍を、熱間圧延後の焼鈍の後に行った以外は、実施例1(合金の鋳塊は上記(1)スプレイフォーミング法により作製した)と同様にして製造した。
【0098】
このようにして得られた各種スパッタリングターゲットについて、実施例1と同様の方法でビッカース硬さ(Hv)を測定した。そして、測定されたビッカース硬さ(Hv)が26以上のものを合格とした。
【0099】
更に、上記の各種スパッタリングターゲットについて、実施例1と同様の方法でスプラッシュの発生数を計測した。そして実施例4では、計測されたスプラッシュの発生数が10個/cm以下のものを◎(スプラッシュ軽減効果あり)と判定した。これらの結果を表4に併記する。
【0100】
【表4】

【0101】
表4より次の様に考察できる。即ち、No.48〜51、53、および54は、冷間圧延の冷延率、冷間圧延後の焼鈍の温度、および冷間圧延後の焼鈍の時間が、本発明の好ましい要件を満足しているため、ビッカース硬さ(Hv)が本発明の好ましい範囲に制御されて、スプラッシュの発生を十分に軽減することができた。これに対して、No.47、52、および55は、冷間圧延の冷延率、冷間圧延後の焼鈍の温度、冷間圧延後の焼鈍の時間のいずれかが本発明の好ましい要件を満足していないため、ビッカース硬さ(Hv)が本発明の好ましい範囲に制御されず、スプラッシュの発生を十分に軽減することができなかった。
【0102】
(実施例5)
表5に示すグループI〜IVの組成のAl基合金からなる直径4インチの円板状スパッタリングターゲット(厚さ5mm)を、実施例1(合金の鋳塊は上記(1)スプレイフォーミング法により作製した)と同様にして製造した。そして、これら各種Al基合金スパッタリングターゲットを使用して、各種Al基合金薄膜を次のようにして成膜した。
【0103】
Corning社製EAGLE XGガラス基板(サイズ:直径4インチ×厚さ0.70mm)に対し、株式会社島津製作所製「スパッタリングシステムHSR−542S」のスパッタリング装置を用い、膜厚が300nm程度になるようにDCマグネトロンスパッタリングを行った。スパッタリング条件は、以下の通りである。
到達真空度:7×10−6Torr
Arガス圧:2mTorr
放電電力:260W
Arガス流量:30sccm
極間距離:50mm
基板温度:室温
成膜時間(スパッタリング時間):120秒
【0104】
得られた各種Al基合金薄膜に対し、不活性ガス(N)雰囲気下にて温度550℃で20分間保持する加熱処理を行ってから、各種Al基合金薄膜の電気抵抗率を直流四探針法で測定した。そして、薄膜の特性として、高耐熱性よりも低電気抵抗率を重視するグループIについては、4μΩcm以下のものを◎(とても低い)、4μΩcmを超えるが8μΩcm以下のものを〇(低い)、8μΩcmを超えるものを△(低くない)と判定した。また薄膜の特性として、低電気抵抗率よりも高耐熱性を重視するグループII〜IVについては、6μΩcm以下のものを◎(とても低い)、6μΩcmを超えるが12μΩcm以下のものを〇(低い)、12μΩcmを超えるものを△(低くない)と判定した。この結果を表5に併記する。
【0105】
【表5】

【0106】
表5より次の様に考察できる。即ち、No.6、10、29および34は、本発明のAl基合金スパッタリングターゲットの中でも特に好ましい組成のスパッタリングターゲットを用いた例である。上記No.6とNo.56の比較からは、第1群元素(希土類元素)としてLaよりもNdを含有させた方が、より低い電気抵抗率を示して優れていることがわかる。また、No.10とNo.58の比較から、第2群元素としてCoとGeの組み合わせよりも、NiとGeの組み合わせの方が、より低い電気抵抗率を示して優れていることがわかる。また、No.29と、No.59〜61との比較から、第3群元素としてTiやMo、WよりもZrを含有させた方が、より低い電気抵抗率を示して優れていることがわかる。更に、No.34とNo.35の比較から、第4群元素としてMgよりもSiを含有させた方がより低い電気抵抗率を示して優れていると言える。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Taを含有することを特徴とするAl基合金スパッタリングターゲット。
【請求項2】
AlおよびTaを含むAl−Ta系金属間化合物の平均粒子直径が0.005μm以上1.0μm以下で、且つ、前記Al−Ta系金属間化合物の平均粒子間距離が0.01μm以上10.0μm以下である請求項1に記載のAl基合金スパッタリングターゲット。
【請求項3】
酸素含有量が0.01原子%以上0.2原子%以下である請求項1または2に記載のAl基合金スパッタリングターゲット。
【請求項4】
更に希土類元素を第1群元素として含有する請求項1〜3のいずれかに記載のAl基合金スパッタリングターゲット。
【請求項5】
更にFe、Co、Ni、およびGeよりなる群から選択される少なくとも一種の元素を第2群元素として含有する請求項1〜4のいずれかに記載のAl基合金スパッタリングターゲット。
【請求項6】
更にTi、Zr、Hf、V、Nb、Cr、Mo、およびWよりなる群から選択される少なくとも一種の元素を第3群元素として含有する請求項1〜5のいずれかに記載のAl基合金スパッタリングターゲット。
【請求項7】
更にSiおよび/またはMgを第4群元素として含有する請求項1〜6のいずれかに記載のAl基合金スパッタリングターゲット。
【請求項8】
前記第1群元素はNdおよび/またはLaである請求項4〜7のいずれかに記載のAl基合金スパッタリングターゲット。
【請求項9】
前記第1群元素はNdである請求項4〜8のいずれかに記載のAl基合金スパッタリングターゲット。
【請求項10】
前記第2群元素は、Niおよび/またはGeである請求項5〜9のいずれかに記載のAl基合金スパッタリングターゲット。
【請求項11】
前記第3群元素は、Ti、Zr、およびMoよりなる群から選択される少なくとも一種の元素である請求項6〜10のいずれかに記載のAl基合金スパッタリングターゲット。
【請求項12】
前記第3群元素は、Zrである請求項6〜11のいずれかに記載のAl基合金スパッタリングターゲット。
【請求項13】
前記第4群元素は、Siである請求項7〜12のいずれかに記載のAl基合金スパッタリングターゲット。
【請求項14】
ビッカース硬さ(Hv)が26以上である請求項1〜13のいずれかに記載のAl基合金スパッタリングターゲット。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれかに記載のAl基合金スパッタリングターゲットを製造する方法であって、
スプレイフォーミング法によって合金鋳塊を得た後、緻密化手段、鍛造、熱間圧延、焼鈍を順次行なうに際し、上記スプレイフォーミング法、熱間圧延、および焼鈍を下記の条件で行うことを特徴とするAl基合金スパッタリングターゲットの製造方法。
スプレイフォーミング時の溶解温度:700〜1400℃
スプレイフォーミング時のガス/メタル比:10Nm/kg以下
熱間圧延の圧延開始温度:250〜500℃
熱間圧延後の焼鈍の温度:200〜450℃
【請求項16】
前記焼鈍後、更に、冷間圧延および冷間圧延後の焼鈍を下記の条件で行う請求項15に記載の製造方法。
冷間圧延の冷延率:5〜40%
冷間圧延後の焼鈍の温度:150〜250℃
冷間圧延後の焼鈍の時間:1〜5時間

【公開番号】特開2012−224942(P2012−224942A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−221005(P2011−221005)
【出願日】平成23年10月5日(2011.10.5)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【出願人】(000130259)株式会社コベルコ科研 (174)
【Fターム(参考)】