説明

キャリパブレーキ装置

【課題】制輪子の偏摩耗を抑えられるキャリパブレーキ装置を提供する。
【解決手段】車輪5と共に回転するディスク6を挟んで摩擦力を付与する車両用キャリパブレーキ装置であって、制輪子7を支持するガイドプレート8と、ガイドプレート8を介して制輪子7をディスク6に押付けるアクチュエータ60と、キャリパ本体10にガイドプレート8をディスク6に対して進退可能に支持するアンカピン43と、ガイドプレート8をアンカピン43に対して回動可能に支持する回動支持機構50と、を備え、ガイドプレート8が回動することにより、制輪子7の摩擦面9aがディスク6の回転面6aに対して平行に摺接し、制輪子7の偏摩耗を抑えられる構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪と共に回転するディスクを挟んで摩擦力を付与するキャリパブレーキ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の車体(台車)と車軸との間には、通常、振動吸収用の硬質ゴムが介装され、例えばコーナリングなどで車両に外力が働いたときには、この硬質ゴムが縮むことにより、車体が車輪のディスクに対してわずかに傾くことがある。
【0003】
また、従来のキャリパブレーキ装置にあっては、制動時に制輪子をディスクに押し付ける制動反力によりキャリパ本体が車輪のディスクから離れるように撓むことがある。また、制動時にディスクが熱変形して傾くことがある。
【0004】
特許文献1には、制輪子をディスクに押し付ける油圧シリンダとして、作動油圧によってキャリパ本体から突出する基端側ピストンと、この基端側ピストンに球面軸受を介して回動可能に支持される先端側ピストンとを備え、制動時に先端側ピストンが回動して制輪子をディスクの回転面に対して平行に保つことにより、制輪子の偏摩耗を防止するものが開示されている。
【特許文献1】特開平10−267058号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような従来のキャリパブレーキ装置にあっては、制輪子を支持するガイドプレートと、こキャリパ本体にガイドプレートをディスクに対して進退可能に支持するアンカピンとを備え、制輪子の姿勢がガイドプレート及びアンカピンを介して拘束される構成となっていたため、車輪のディスクに傾きが生じたり、キャリパ本体に撓みが生じた場合に、制輪子の摩擦面がディスクの回転面に追従することができず、制輪子の偏摩耗を来す可能性がある。
【0006】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、制動時に制輪子の摩擦面がディスクの回転面に追従し、制輪子の偏摩耗を抑えられるキャリパブレーキ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、車輪と共に回転するディスクを挟んで摩擦力を付与する車両用キャリパブレーキ装置であって、ディスクに摺接して摩擦力を付与する制輪子と、この制輪子を支持するガイドプレートと、ガイドプレートを介して制輪子をディスクに押付けるアクチュエータと、車体に支持されるキャリパ本体と、このキャリパ本体にガイドプレートをディスクに対して進退可能に支持するアンカピンと、ガイドプレートをアンカピンに対して回動可能に支持する回動支持機構と、を備えるものとした。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、旋回走行時に生じるディスクの傾斜や、制動時に生じるキャリパ本体の撓みに追従して、ガイドプレートが回動支持機構を介してアンカピンに対して回動することにより、制輪子の摩擦面がディスクの回転面に対して平行に摺接し、制輪子のディスクに対する面圧が均一に保たれ、制動力を高めるとともに、制輪子の偏摩耗を抑えられる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施形態を示すキャリパブレーキ装置の平面図である。
【図2】同じくキャリパブレーキ装置の縦断面図である。
【図3】同じくキャリパブレーキ装置の側面図である。
【図4】同じくアンカピン及びガイドプレート等の縦断面図である。
【図5】同じくアンカピン及びガイドプレート等の横断面図である。
【図6】同じく(a)はアンカピンの断面図であり、(b)はガイドプレートの上端部を示す断面図であり、(c)はガイドプレートにアンカピンが係合した様子を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0011】
図1〜3は、本発明の実施の形態を示すキャリパブレーキ装置1の三面図でありる。図3はキャリパブレーキ装置1を車両の右側から見た側面図である。図1は図3の矢印B方向から見た平面図である。図2は図3のA−A線に沿う縦断面図である。互いに直交するX、Y、Zの3軸が設定され、X軸が水平横方向、Y軸が鉛直方向、Z軸が水平前後方向に延びるものとする。
【0012】
図1に示すように、鉄道車両に搭載されるキャリパブレーキ装置1は、左右の制輪子7の間に車輪5のディスク6を挟持し、車輪5の回転を制動する。
【0013】
図2において、Oは車輪5の回転中心軸であり、Hは回転中心軸Oに直交する車輪5の中心線であり、20は鉄道車両の図示しない台車(車体)上に固定される支持枠であり、10はこの支持枠20に支持されるキャリパ本体である。
【0014】
キャリパ本体10は、支持枠20に上下スライドピン31、32によってX軸方向に摺動可能にフローティング支持される。
【0015】
キャリパ本体10は、車輪5のディスク6に跨るようにして延びる左右のキャリパアーム12と、左右のキャリパアーム12を結ぶヨーク部13とを有する。
【0016】
左のキャリパアーム12の上下端部にアンカブロック48がボルト42を介してそれぞれ締結される(図1参照)。左のキャリパアーム12には、支持レール(図示せず)が一体形成される。この支持レールにはアリ溝が形成され、このアリ溝に左の制輪子7のライニング背板(図示せず)が差し込まれる。制輪子7は、支持レールに差し込まれるとともに、その上下端がアンカブロック48のアンカピン43に係合することによって抜け止めされ、左のキャリパアーム12に固定される。
【0017】
右のキャリパアーム12の上下端部にアジャスタ41がボルト42を介してそれぞれ締結される。上下のアジャスタ41はX軸方向に突出するアンカピン43を備える。上下のアンカピン43を介して制輪子7及びそのガイドプレート(支持板)8の両端部がそれぞれ支持される。
【0018】
アンカピン43は、円柱状に形成され、キャリパアーム12に形成された貫通穴にガイドスリーブ39を介して摺動可能に嵌合される。これにより、アンカピン43は、キャリパアーム12に対してディスク6の回転中心軸Oと平行方向に移動に支持される。
【0019】
制輪子7は、ディスク6に摺接する摩擦材としてライニング9を備えるとともに、このライニング9の背部が取付けられる金属製のライニング背板19を備える。
【0020】
ライニング9は、リベットを介してライニング背板19に結合される。ライニング9は、ディスク6に摺接する摩擦面9aを有する。
【0021】
ガイドプレート8にはY軸方向に延びるアリ溝8cが形成され、このアリ溝8cに制輪子7のライニング背板19のエッジ部19aが差し込まれる。これにより、キャリパアーム12にガイドプレート8を介して制輪子7のライニング背板19が支持される。
【0022】
上下のアンカピン43には環状溝43bがそれぞれ形成される。ガイドプレート8の上端部には環状溝43bに係合する係合穴8aが形成される。ガイドプレート8の下端部には環状溝43bに係合する係合凹部(半月溝)8bが形成される(図2参照)。
【0023】
制輪子7は、ガイドプレート8の上下端部が各アンカピン43の環状溝43bに係合することにより、ディスク6に対して進退可能に支持され、ライニング背板19の上下端部が各アンカピン43に係合することにより、その制動反力が支持される。
【0024】
アジャスタ41にはアンカピン43の露出部を覆うゴム製のブーツ46が介装され、このブーツ46によってダストから保護される(図2参照)。
【0025】
図4に示すように、アンカピン43の環状溝43bは、環状段部43dと、環状底面43eと、リング52との間に画成される。リング52は、アンカピン43に形成された環状溝43fに嵌合される。リング52とブーツ46の間に円盤状のプレート53が介装され、ブーツ46がガイドプレート8に干渉しないようにしている。
【0026】
制輪子7の交換時には、まず、下側のアジャスタ41がキャリパアーム12から取り外され、制輪子7のライニング背板19に対するアンカピン43の係合が解除される。次に、ガイドプレート8のアリ溝8cに沿って制輪子7が下方に抜き取られる。次に、新しい制輪子7がガイドプレート8のアリ溝8cに差し込まれる(図5参照)。次に、下側のアジャスタ41がキャリパアーム12に取付けられ、ガイドプレート8がアンカピン43が係合して支持されるとともに、ライニング背板19がアンカピン43に係合して制輪子7の抜け止めが行われる。こうして、制輪子7を着脱する作業がガイドプレート8を介して行われる。
【0027】
図2に示すように、アジャスタ41はアンカピン43を介して制輪子7をディスク6から離す方向に付勢する戻しバネ44と、制動解除時に制輪子7とディスク6の隙間を略一定に調整する隙間調整機構45を備える。制動解除時に制輪子7は戻しバネ44の付勢力によってディスク6から離され、隙間調整機構45によってディスク6との隙間Wが略一定に調整される。なお、この隙間調整機構45が廃止される構成としてもよい。
【0028】
図4、図5は、アンカピン43及びガイドプレート8等の縦断面図、横断面図である。図4、図5に示すアンカピン43は、上記の隙間調整機構45が廃止された中実構造をしている。
【0029】
台車(車体)と車輪5の軸との間には、振動吸収用の硬質ゴムが介装されている。例えばコーナリングなどで車両に外力が働いたときには、この硬質ゴムが縮むことにより、図4に示す縦断面図上において、アンカピン43の中心軸Oaがディスク6の回転軸Odに対して1度程度傾く。
【0030】
また、後述する制動時にキャリパ本体10のキャリパアーム12が車輪5のディスク6から離れるように撓むことにより、図5に示す横断面図上において、アンカピン43の中心軸Oaがディスク6の回転軸Odに対して1度程度傾く。
【0031】
これに対処して、ガイドプレート8をアンカピン43に回動可能に支持する回動支持機構50が設けられる。制動時に台車に対するディスク6の傾斜やキャリパアーム12の撓みに追従して、ガイドプレート8が回動支持機構50を介してアンカピン43に対して回動することにより、制輪子7の摩擦面9aがディスク6の回転面6aに対して平行に摺接し、摩擦面9aのディスク6に対する面圧が均一に保たれ、制動力を高めるとともに、制輪子7の偏摩耗を抑えられる構成とする。
【0032】
上記の回動支持機構50として、図2、図4に示すように、上部のアンカピン43には環状溝43bを画成する環状段部43dが球面状に形成されるとともに、環状溝43bを画成する環状底面43e及びリング52とガイドプレート8の係合穴8a、係合凹部8bとの間に間隙51が形成される。
43a
同様に、図2に示すように、、下部のアンカピン43には環状溝43bを画成する環状段部43dが球面状に形成されるとともに、環状溝43bとガイドプレート8の係合凹部8bとの間に間隙51が形成される。
【0033】
図6の(a)は、アンカピン43の断面図である。アンカピン43の環状段部43dは、摩擦中心点Gを中心とし、曲率半径をRとする球面状に形成される。
【0034】
図6の(a)において、9aは、ライニング9の未使用時(新品時)における摩擦面の位置である。摩擦面9aは、ライニング9が磨耗が進むのに伴って後退する。9a′は、ライニング9の磨耗がライニング9に設定された有効磨耗代Hの1/2の厚さ分だけ進んだ状態における摩擦面の位置である。
【0035】
摩擦中心点Gは、ライニング9の磨耗が有効磨耗代Hの1/2の厚さ分だけ進んだ状態における摩擦面9a′が、アンカピン43の中心軸Oaと交差する点として設定される。
【0036】
図6の(b)は、ガイドプレート8の上端部を示す断面図である。前述したように、ガイドプレート8の上端部にはアンカピン43の環状溝43bに係合する係合穴8aが形成される。係合穴8aは、アンカピン43の環状段部43dに当接する当接部8dによって画成される。当接部8dは、アンカピン43の環状段部43dと同様に、摩擦中心点Gを中心とし、曲率半径をRとする球面状に形成される。
【0037】
図2に示すように、ガイドプレート8の下端部には環状溝43bに係合する係合凹部8bが形成される。係合凹部8bは、アンカピン43の環状段部43dに当接する当接部8eによって画成される。当接部8eは、上記の当接部8dと同様に、摩擦中心点Gを中心とし、曲率半径をRとする球面状に形成される。
【0038】
これにより、ガイドプレート8の当接部8d、8eがアンカピン43の環状段部43dに対して面状に摺接し、ガイドプレート8が摩擦中心点Gまわりに回動する。
【0039】
なお、これに限らず、ガイドプレート8の当接部8d、8eと、アンカピン43の環状段部43dとのいずれか一方を球面状に形成し、他方をテーパ状(円錐面状)に形成してもよい。
【0040】
図6の(c)において、寸法Dは、ガイドプレート8の係合穴8aの開口径である。この開口径Dは、アンカピン43の環状底面43eの直径Pに対して所定の比率で大きく形成される。これにより、ガイドプレート8の係合穴8aとアンカピン43の環状底面43eとの間に所定の寸法の間隙51が画成される。
【0041】
これにより、アンカピン43がガイドプレート8に対して回動するときに、ガイドプレート8の係合穴8aとアンカピン43の環状底面43eが干渉しない。
【0042】
右のキャリパアーム12にガイドプレート8を介して制輪子7をディスク6に押圧するアクチュエータ60が設けられる。アクチュエータ60は、各アジャスタ41の間に配置される。
【0043】
アクチュエータ60は、鉄道車両に搭載される空気圧源からこの駆動圧力室63に供給される加圧空気(気体)によって弾性膜75がピストン65を介して制輪子7を押圧作動する。
【0044】
アクチュエータ60は、キャリパアーム12に形成される収容壁12bと、この収容壁12bに取付けられる弾性膜75と、収容壁12bに締結されるカバー61と、収容壁12bとこの弾性膜75とこのカバー61の間に画成される駆動圧力室63と、弾性膜75と制輪子7の間に介装されるピストン65とを備える。
【0045】
キャリパアーム12は、収容壁12bの開口縁部のまわりに延びる環状の取付座12aを有する。取付座12aには複数のネジ穴が所定の間隔を持って形成され、各ネジ穴に螺合するボルト62を介してカバー61が締結される。取付座12aとカバー61との間に弾性膜75の周縁部76が挟持される。
【0046】
図2に示すように、カバー61は、駆動圧力室63を画成する部位が凹状に窪む皿状に形成される。
【0047】
弾性膜75は、樹脂製弾性材によって形成される。なお、弾性膜75は、樹脂製弾性材に例えばカーボン繊維、ケブラー繊維等の強化材を複合したものを用いてベローズを形成しても良い。また、弾性膜を金属薄板からなるベローズやゴム製チューブやダイヤフラムを用いて形成しても良い。
【0048】
弾性膜75は、取付座12aとカバー61との間に挟持される周縁部76と、収容壁12bに沿って伸縮するベローズ部77と、制輪子7に対峙する押圧膜部79とを有する。
【0049】
弾性膜75の押圧膜部79と制輪子7の間にピストン65が介装される。弾性膜75は、駆動圧力室63に導かれる空気圧力によりピストン65を介して制輪子7をX軸方向に押圧し、制輪子7をディスク6に押付ける。
【0050】
図3に示すように、ピストン65及び駆動圧力室63の断面形状は、略長円形に形成される。収容壁12bは、キャリパアーム12を貫通する長円筒面状に形成される。取付座12a(図2参照)は、同じく略長円形の内形及び外形を有する。カバー61は、取付座12aと同じく略長円形の外形を有する。
【0051】
弾性膜75は、略長円形のピストン65及び収容壁12bに沿って張設されることにより、屈曲部を持たないため、十分な耐久性が確保される。
【0052】
なお、これに限らず、ピストン65及び収容壁12bの断面形状は、楕円または他の形状に形成される構成としてもよい。
【0053】
図2に示すように、ピストン65は、ガイドプレート8に連結され、上下のアンカピン43を介して案内されるガイドプレート8とともにX軸方向に変位し、弾性膜75の動きを制輪子7に伝達する。
【0054】
ピストン65をガイドプレート8に結合する結合手段として、ピストン65は、図示しない複数のボルトを介してガイドプレート8に締結される。
【0055】
なお、この結合手段は、これに限らず、ピストン65が例えばキー等の結合部材または他の手段を介してガイドプレート8に結合される構成としてもよい。
【0056】
図3に示すように、キャリパアーム12にはインレット部18が設けられ、このインレット部18には図示しない空気圧源に連通する空気圧配管が接続される。空気圧源と駆動圧力室63の間には、図示しないコントローラによって作動する切換弁が設けられる。切換弁は、制動解除時に大気圧を駆動圧力室63に導くポジションに保持される一方、制動時に空気圧源からの加圧空気を駆動圧力室63に導くポジションに保持される。
【0057】
次に、キャリパブレーキ装置1の作動について説明する。
【0058】
制動解除時にインレット部18から駆動圧力室63に導かれる圧力が下げられることにより、駆動圧力室63の空気がインレット部18から排出され、ベローズ部77が収縮し、制輪子7が戻しバネ44の付勢力によってディスク6から離される。このとき、ディスク6との隙間Wが隙間調整機構45によって略一定に調整される。
【0059】
制動時に駆動圧力室63に導かれる空気圧力が高められることにより、弾性膜75が膨らみ、弾性膜75がピストン65を介して制輪子7をディスク6に押圧する。これによって、制輪子7がディスク6に摩擦力を付与し、車輪の回転を制動する。
【0060】
このようにアクチュエータ60が空気圧力によって作動するため、鉄道車両に搭載される空油変換器(油圧源)や油圧配管が不要になり、鉄道車両の軽量化がはかれる。
【0061】
なお、これに限らず、弾性膜型キャリパブレーキ装置のアクチュエータとして、駆動圧力室に油圧が導かれる油圧ピストンを設けてもよい。この場合、従来の油圧ピストン型キャリパブレーキ装置に比べてアクチュエータの受圧面積が拡大するため、低い油圧力で必要な押圧力を確保でき、空油変換器による増圧が不要になり、空油変換器の小型化がはかれる。
【0062】
制輪子7は、ガイドプレート8の上下端部が各アジャスタ41から突出するアンカピン43に係合することにより、ディスク6に対して進退可能に支持されるとともに、制輪子7の制動反力が支持される。
【0063】
ピストン65は、複数のボルト(図示せず)によってガイドプレート8に締結され、ガイドプレート8によってディスク6に対して進退可能に支持されるため、キャリパ本体10にピストン65のピストン側面65cを摺接させて支持するガイドを設ける必要がない。これにより、ピストン65は、ガイド(キャリパ本体10)に対する摺動抵抗が生じることがなく、駆動圧力室63に導かれる空気圧力を効率良くガイドプレート8に伝えられる。そして、ライニング9の磨耗が進むのに伴って、ピストン65がキャリパアーム12に押出される量が変わっても、十分な機械効率が維持される。
【0064】
図4に示すように、X軸、Y軸を含む縦断面図において、車両に働く外力によってアンカピン43の中心軸Oaがディスク6の回転軸Odに対して1度程度傾く。この場合に、ガイドプレート8の上下に設けられる当接部8d、8eが上下のアンカピン43の環状段部43dに対して摺動することによって、ガイドプレート8がピストン65と共にアンカピン43に対してZ軸まわりに回動する。これにより、制輪子7の摩擦面9aがディスク6の回転面6aに対して平行に摺接し、摩擦面9aのディスク6に対する面圧が均一に保たれ、制動力を高めるとともに、制輪子7の偏摩耗を抑えられる。
【0065】
図5に示すように、X軸、Z軸を含む横断面図において、キャリパアーム12が制動反力によって撓むことによりアンカピン43の中心軸Oaがディスク6の回転軸Odに対して1度程度傾く場合に、ガイドプレート8の上下に設けられる当接部8d、8eが上下のアンカピン43の環状段部43dに対して摺動することによって、ガイドプレート8がピストン65と共にアンカピン43に対してY軸まわりに回動する。これにより、制輪子7の摩擦面9aがディスク6の回転面6aに対して平行に摺接し、摩擦面9aのディスク6に対する面圧が均一に保たれ、制動力を高めるとともに、制輪子7の偏摩耗を抑えられる。
【0066】
ガイドプレート8がアンカピン43に対して回動するときに、ピストン65もガイドプレート8と共に回動することにより、駆動圧力室63に導かれる空気圧力を効率良くガイドプレート8に伝えられ、十分な機械効率が維持され、制動力が弱まることがない。
【0067】
以上のように、本実施の形態では、車輪5と共に回転するディスク6を挟んで摩擦力を付与する車両用キャリパブレーキ装置であって、ディスク6に摺接して摩擦力を付与する制輪子7と、この制輪子7を支持するガイドプレート8と、ガイドプレート8を介して制輪子7をディスク6に押付けるアクチュエータ60と、車体(台車)に支持されるキャリパ本体10と、このキャリパ本体10にガイドプレート8をディスク6に対して進退可能に支持するアンカピン43と、ガイドプレート8をアンカピン43に対して回動可能に支持する回動支持機構50と、を備える構成とした。
【0068】
上記構成に基づき、制動時に生じるディスク6の傾斜や、キャリパ本体10の撓みに追従して、ガイドプレート8が回動支持機構50を介してアンカピン43に対して回動することにより、制輪子7の摩擦面9aがディスク6の回転面6aに対して平行に摺接し、摩擦面9aのディスク6に対する面圧が均一に保たれ、制動力を高めるとともに、制輪子7の偏摩耗を抑えられる。
【0069】
本実施形態では、アンカピン43はガイドプレート8に係合する環状段部43dを有し、回動支持機構50は環状段部43dが球面状に形成される構成とした。
【0070】
上記構成に基づき、ガイドプレート8が環状段部43dに摺接しながらアンカピン43に対して回動することにより、制輪子7の摩擦面9aがディスク6の回転面6aに対して平行に摺接し、制輪子7の偏摩耗を抑えられる。
【0071】
本実施形態では、アンカピン43はガイドプレート8に係合する環状段部43dを有し、ガイドプレート8は環状段部43dに当接する当接部8d、8eを有し、回動支持機構50は当接部8d、8eが球面状に形成される構成とした。
【0072】
上記構成に基づき、ガイドプレート8は当接部8d、8eが環状段部43dに摺接しながらアンカピン43に対して回動することにより、制輪子7の摩擦面9aがディスク6の回転面6aに対して平行に摺接し、制輪子7の偏摩耗を抑えられる。
【0073】
本実施形態では、アクチュエータ60は、キャリパ本体10に取付けられる弾性膜75と、この弾性膜75によって画成され制動時に流体圧力(気体圧力)が供給される駆動圧力室63と、弾性膜75と制輪子7の間に介装されるピストン65と、ピストン65をガイドプレート8に結合する結合手段と、を備え、制動時に駆動圧力室63に導かれる流体圧力(気体圧力)により弾性膜75が膨らんでピストン65が制輪子7をディスク6に押付ける構成とした。
【0074】
上記構成に基づき、ピストン65は、これが締結されるガイドプレート8によってディスク6に対して進退可能に支持されるため、キャリパ本体10に摺動可能に支持される部位(ガイド)を持つ必要がない。このため、ピストン65とキャリパ本体10との間に摺動抵抗が生じることなく、ガイドプレート8がアンカピン43に対して回動しても、駆動圧力室63に導かれる流体圧力を効率良くガイドプレート8に伝えられる。
【0075】
本実施の形態では、弾性膜75はキャリパ本体10とピストン65の間で拡縮するベローズ部77を有し、キャリパ本体10はこのベローズ部77を囲んで筒面状に延びる収容壁12bを有したため、制動時に駆動圧力室63に導かれる空気圧により弾性膜75のベローズ部77がディスク6と平行方向(Y軸とZ軸を含む方向)に膨らむことが収容壁12bによって規制され、弾性膜75が制輪子7を押圧するのに必要な空気流量を低減し、弾性膜75が制輪子7を押圧して車輪5を制動する応答性を高められる。
【0076】
本実施の形態では、キャリパ本体10が上下スライドピン30、32を介して摺動可能にフローティング支持される構造のため、ディスク6に跨るようにして延びる対のキャリパアーム12のうち、一方(右側)のキャリパアーム12のみにアクチュエータ60を設けることが可能となり、キャリパブレーキ装置1の大型化が避けられる。
【0077】
なお、これに限らず、ディスク6に跨るようにして延びる対のキャリパアームの両方にアクチュエータ60を設けてもよい。この場合、キャリパ本体10をX軸方向に摺動可能にフローティング支持する必要がなく、キャリパ本体10は台車(車体)に対して固定される。
【0078】
また、制輪子を作動油圧によってディスクに押し付ける油圧シリンダとを備えるキャリパブレーキ装置に、本発明のアンカピンによってガイドプレートを回動可能に支持する構成を適用してもよい。
【0079】
本発明は上記の実施形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。
【符号の説明】
【0080】
1 キャリパブレーキ装置
5 車輪
6 ディスク
7 制輪子
8 ガイドプレート
8b 係合凹部
8d 当接部
8e 当接部
9 ライニング
10 キャリパ本体
12 キャリパアーム
43 アンカピン
43b 環状溝
43d 環状段部
50 回動支持機構
51 間隙
63 駆動圧力室
65 ピストン
75 弾性膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪と共に回転するディスクを挟んで摩擦力を付与する車両用キャリパブレーキ装置であって、
前記ディスクに摺接して摩擦力を付与する制輪子と、
この制輪子を支持するガイドプレートと、
前記ガイドプレートを介して前記制輪子を前記ディスクに押付けるアクチュエータと、
車体に支持されるキャリパ本体と、
このキャリパ本体に前記ガイドプレートを前記ディスクに対して進退可能に支持するアンカピンと、
前記ガイドプレートを前記アンカピンに対して回動可能に支持する回動支持機構と、を備えることを特徴とするキャリパブレーキ装置。
【請求項2】
前記アンカピンは前記ガイドプレートに係合する環状段部を有し、
回動支持機構は前記環状段部が球面状に形成されることを特徴とする請求項1に記載のキャリパブレーキ装置。
【請求項3】
前記アンカピンは前記ガイドプレートに係合する環状段部を有し、
前記ガイドプレートは前記環状段部に当接する当接部を有し、
回動支持機構は前記当接部が球面状に形成されることを特徴とする請求項1または2に記載のキャリパブレーキ装置。
【請求項4】
前記アクチュエータは、
キャリパ本体に取付けられる弾性膜と、
この弾性膜によって画成され制動時に流体圧力が供給される駆動圧力室と、
前記弾性膜と前記制輪子の間に介装されるピストンと、
このピストンを前記ガイドプレートに結合する結合手段と、を備え、
制動時に前記駆動圧力室に導かれる流体圧力により前記弾性膜が膨らんで前記ピストンが前記制輪子を前記ディスクに押付ける構成としたことを特徴とする請求項1から3のいずれか一つに記載のキャリパブレーキ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−202669(P2011−202669A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−67517(P2010−67517)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】