説明

コンバイン

【課題】前進走行中にクローラ走行装置が溝や穴に落ち込む前に警報を出して走行を停止することで機体の転倒を防止する。
【解決手段】第1に、左右のクローラ走行装置(4,5)の前方位置で刈取装置(1)の下部に地面に向けて距離を測定する距離測定センサ(2,3)を設け、該距離測定センサ(2,3)が検出する測定距離が設定値から外れた場合にクローラ走行装置(4,5)の駆動を停止する構成とした。第2に、左右の距離測定センサ(2,3)を刈取装置(1)の下部で左右のクローラ走行装置(4,5)のそれぞれ前方位置に設け、左右両方の距離測定センサ(2,3)が検出する測定距離の差が所定値(B)以上になるとクローラ走行装置(4,5)の駆動を停止する構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンバインに関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンバインで機体の傾きを検出して一定の傾斜角以上になるとそれ以上の傾きにならないようにする技術は、例えば、特開2001−238529号公報に記載されている。
この公報には、穀物タンクの下側空間の機体フレームに前後方向の傾きを検出する前後傾斜センサと左右方向の傾きを検出する左右傾斜センサを設けて、それぞれの傾斜センサが所定以上の傾きを検出すると穀物排出オーガの起伏や伸縮をしないようにして機体がさらに不安定になるのを防ぐようにしている。
【特許文献1】特開2001−238529号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
コンバインは、その運転席から左右のクローラ装置が見難いが、畦道などの狭いところを走行しなければならない場合がある。走行中に機体が傾いたら、前記の前後及び左右の傾きを検出する傾斜センサで警報を出すことも考えられるが、この傾斜センサは実際に傾いている機体の傾斜を検出するものである。このため、走行中に片側のクローラ走行装置が溝や穴ぼこに落ち込んで機体が傾き始めた時点で警報を出しても転倒を防ぐことが出来ない。
【0004】
そこで、本発明は、前進走行中にクローラ走行装置が溝や穴に落ち込む前に警報を出して走行を停止することで機体の転倒を防止するようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1の発明は、左右のクローラ走行装置(4,5)の前方位置で刈取装置(1)の下部に地面に向けて距離を測定する距離測定センサ(2,3)を設け、該距離測定センサ(2,3)が検出する測定距離が設定値から外れた場合にクローラ走行装置(4,5)の駆動を停止する構成としたことを特徴とするコンバインとする。
【0006】
この構成によると、機体の最前部にあって昇降させる刈取装置1の下部に設ける距離測定センサ2,3で左右のクローラ走行装置4,5が刈取装置1から地面までの距離を測定して凹凸の有無とその大きさを検出し、左右クローラ走行装置4,5が安定して走行できる深さより落ち込みが大きく或いは隆起が大きいと判断すれば、走行を停止する。
【0007】
請求項2の発明は、左右の距離測定センサ(2,3)を刈取装置(1)の下部で左右のクローラ走行装置(4,5)のそれぞれ前方位置に設け、左右両方の距離測定センサ(2,3)が検出する測定距離の差が所定値(B)以上になるとクローラ走行装置(4,5)の駆動を停止する構成としたことを特徴とするコンバインとする。
【0008】
この構成によると、左右クローラ走行装置4,5が踏み進む地面の片方が落込んだり隆起していた場合に両距離測定センサ2,3が検出する測定距離の差つまり左右の高低差が大きく機体が左右に転倒する虞がある場合に走行を停止する。
【発明の効果】
【0009】
請求項1の発明によると、左右のクローラ走行装置4,5が踏込む前に機体が大きく前後に傾く虞がある場合に走行を停止するので、機体の転倒を未然に防ぐことが出来る。
また、請求項2の発明によると、左右のクローラ走行装置4,5が踏み進む地面の左右高低差を検出して、一般的に倒れ易い左右方向の傾きを事前に予測して走行を停止するので、機体の転倒を未然に防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1は本発明を具備したコンバインの全体側面図である。
コンバインは、機体2の下部に左右一対のクローラ走行装置4,5を具備し、その機体2上に脱穀装置6を搭載している。この脱穀装置6の前側で機体2の最前部に刈取装置1を設けている。この刈取装置1は刈取り作業中は地面近くに降下させているが、路上走行時には上昇させて地面から離した状態にする。脱穀装置6の右側部前側に運転席7を設け、その後側にグレンタンク9を設け、脱穀装置6の上側に穀粒排出オーガ8を起伏及び伸縮するように設けている。
【0011】
前記刈取装置1の底部で左右のクローラ走行装置4,5の前側位置に、距離測定センサ2,3を設けている。この距離測定センサ2,3は、レーザビームセンサ、赤外線センサ、渦電流センサ、超音波センサ等で構成し、刈取装置1の底部から地面までの距離を測定している。この距離測定センサ2,3の取付位置は、左右クローラベルトの幅内で左右中心より外側にすることで、左右クローラ走行装置4,5の機体支持地面の凹凸を正確に検出できる。
【0012】
なお、後述するように刈取装置1を上昇させて移動走行するために、距離測定センサ2,3の測定機能が刈取装置1の最上昇で機能するようにしても良い。また、この距離測定センサ2,3が機能して安全であることを運転席7の前側に設けるモニタに安全制御ランプを点灯させて知らせるようにすれば良い。
【0013】
また、左右に設ける距離測定センサ2,3は、機体の転倒角以内で走行停止制御が働くようになる凹凸程度を調整可能にして、運転習熟度により走行停止になる凹凸の程度を調整できるようにしても良い。
【0014】
なお、前記実施例は、機体2の左右両側に距離測定センサ2,3を設けているが、運転席7側すなわち右側のクローラ走行装置4の前側の地面は見易いので、左側のクローラ走行装置5の前のみに距離測定センサ3を設けるようにしても良い。この場合も距離測定センサ3の位置は、左側のクローラ走行装置5のクローラベルトの幅内で左右中心より外側にすると良い。
【0015】
機体が実際に傾いている傾斜角は、機体2に傾斜センサを設けるが、左右クローラ走行装置4,5のクローラベルトへ支持力を与える転輪に歪ゲージを貼り付けて、左右の歪ゲージが検出する圧力差によって機体の傾きを検出するようにしても良い。
【0016】
米や麦などの穀物を収穫する場合は、オペレータが運転席7に乗って、刈取装置1を地面近くに位置させてクローラ走行装置4,5を駆動して前進し、穀稈を刈取装置1で刈り取って脱穀装置6へ送り穀粒を脱穀してグレンタンク8に溜める。グレンタンク8の穀粒が満杯になれば、穀稈の刈り取りを中断して道路端に止めているトラックに近づき、グレンタンク8内の穀粒を穀粒排出オーガ8でトラック上の穀粒タンクへ排出する。
【0017】
このように、穀粒の収穫作業を行うのであるが、畦道を移動したりコンバインをトラックへ乗せたりトラックから降ろしたりする場合には刈取装置1を最上部に上昇させた状態にする。
【0018】
前記距離測定センサ2,3で検出する刈取装置1の底部から地面までの距離は、左右のクローラ走行装置4,5が踏み込む直前の地面の凹凸を検出し、機体2が前後方向や左右方向に向けて不安定になるのを事前に防ぐための制御に用いられる。
【0019】
運転席7のオペレータからは左右クローラ走行装置4,5が進行する地面位置を見ることが出来ず、前記のトラックへの乗り降りや畦越え時或いは狭い農道での移動や夜間の収穫作業時にクローラ走行装置4,5の両側或いは片側が落込んで機体が前或いは左右へ傾き過ぎて危険な状態になることがある。そのために、図3の如き、走行制御を行っている。
【0020】
すなわち、ステップS1でクローラ走行装置4,5を駆動して走行を開始し、ステップS2で距離測定センサ2,3で左右の刈取装置1と地面との間隔DR,DLを測定する。そして、ステップS3で右距離DRか左距離DLのどちらか或いは両方が前傾限界値Aを越えていないか或いは後傾限界値C以下であるかを判定し、条件範囲内であればステップS4で右距離(DR)と左距離(DL)の差が横傾限界値(B)を越えていないかを判定し、超えていなければ、ステップS6で走行を続行する。
【0021】
ステップS3とステップS4でどちらかが限界値を越えていれば、ステップS5で左右クローラ走行装置4,5の駆動を停止して走行を停止する。
図4は、農作業と農地の管理を受託する農作業請負会社のシステムについて説明している。
【0022】
農地を所有している利用者10は、農作業請負会社11へ農作業を申し込み、委託料を支払い、農作業請負会社11は、請け負った農地14の作付けを行い、作物の生育管理と収穫作業を行う。さらに、農作業請負会社11は、通信手段13を使って管理作業や作況を利用者10に対して逐一報告し、収穫物は販売店に販売を委託し、その販売代金を受け取る。なお、利用者10から希望があれば、収穫物の一部は直接利用者10へ渡すことも行う。収穫物の代金は、逐一或いは一定の期間を置いて利用者10に支払われる。
【0023】
なお、利用者10は、農作業請負会社11から収穫物の全てを受け取るようにしても良い。さらに、利用者10は、農作業請負会社11の農作業に一部分参加出来るようにしても良い。このことで、利用者10は収穫の喜びを感じることが出来る。
【0024】
図5の農作業請負会社のシステムは、農地14の作付けと管理及び収穫を行う作業請負農家16を介在している。農作業請負会社11が作業請負農家16へ実際の作業を委託し、作業請負農家16が作業料金を農作業請負会社11から受け取る。
【0025】
この作業請負農家16が利用者10への報告や販売店15への販売依頼など全てを行っているが、この部分は農作業請負会社11が行うようにしても良い。
図6と図7に示す構成は、エンジン20と無段変速装置21との間のベルト伝動構成である。エンジン20の出力軸22に取り付けた出力プーリ23には溝の広い正規溝24と溝の狭い補助溝25を形成し、無段変速装置21の入力軸26に取り付けた入力プーリ27には同じく溝の広い正規溝28と溝の狭い補助溝29を形成して、それぞれの正規溝24,28と補助溝25,29に正規ベルト30と補助ベルト31を巻き掛けている。そして、正規ベルト30と補助ベルト31に対して押し付けてテンションを付与するテンションプーリ32には、大径の正規溝33と小径の補助溝34を形成している。
【0026】
テンションプーリ32はプーリ側と反対側のアーム35に取り付けるばね37で正規ベルト30と補助ベルト31に押し付け、ばね37と反対側へ引くワイヤ36で正規ベルト30と補助ベルト31への押付を緩めて動力伝動を断つようにしている。出力プーリ23の周りと入力プーリ27の周りにはそれぞれベルトストッパ40,39を三個設けてベルトの外れを防いでいる。38はアーム35の突起41の動きを感知するセンサである。
【0027】
以上の構成で、通常の動力伝動は出力プーリ23と入力プーリ27に巻き掛けた正規ベルト30にテンションプーリ32でテンションを付与して行っているが、正規ベルト30が破断するようなことがあれば、テンションプーリ32が補助ベルト31にテンションを付与して動力を伝動するようになると共にセンサ38がテンションアーム35を動きを感知してベルト破断の警報を出すのである。警報を聞いたオペレータは直ちにコンバインを安全な位置まで移動して、正規ベルト30の交換作業を行う。補助ベルト31が動力を伝動していることで、コンバインが移動可能なのである。
【0028】
前記構成は、テンションプーリ32に径の違う正規溝33と補助溝34を設けることで、正規ベルト30が破断すると補助ベルト31が働くようにしているが、テンションプーリ32に同一径の正規溝33と補助溝34を設けて出力プーリ23か入力プーリ27のどちらかに径の小さな補助溝を形成することで補助ベルト31に緩みを持たせたり、補助ベルト31を正規ベルト30より若干長めにすることで補助ベルト31に緩みを持たせるようにしても上記と同じ緊急動力伝動の構成にすることも出来る。
【0029】
なお、正規溝33と補助溝34の溝幅を同一にしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明実施例のコンバインの全体側面図
【図2】本発明実施例のコンバインの全体正面図
【図3】走行制御のフローチャート図
【図4】システムの説明図
【図5】システムの別実施例説明図
【図6】動力伝動部の平面図
【図7】動力伝動部の側面図
【符号の説明】
【0031】
1 刈取装置
2 左の距離測定センサ
3 右の距離測定センサ
4 左のクローラ走行装置
5 右のクローラ走行装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右のクローラ走行装置(4,5)の前方位置で刈取装置(1)の下部に地面に向けて距離を測定する距離測定センサ(2,3)を設け、該距離測定センサ(2,3)が検出する測定距離が設定値から外れた場合にクローラ走行装置(4,5)の駆動を停止する構成としたことを特徴とするコンバイン。
【請求項2】
左右の距離測定センサ(2,3)を刈取装置(1)の下部で左右のクローラ走行装置(4,5)のそれぞれ前方位置に設け、左右両方の距離測定センサ(2,3)が検出する測定距離の差が所定値(B)以上になるとクローラ走行装置(4,5)の駆動を停止する構成としたことを特徴とするコンバイン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−106199(P2009−106199A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−281968(P2007−281968)
【出願日】平成19年10月30日(2007.10.30)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】