ステッピングモータ駆動装置
【課題】モータの誤動作を防止する。
【解決手段】コイルに流れる電流を制御する駆動回路30は、コイルの電流を検出する電流検出手段182と、電流指令値と検出電流値との差を出力するエラーアンプ140と、ON/OFFのスイッチング信号を生成するスイッチング信号生成手段とを備え、スイッチング信号に基づいて第一及び四と第二及び三のスイッチング素子とを反転させて切り替えを行う第一の制御と、スイッチング信号に基づいて第一及び二と反転し、第三をOFF、第四のスイッチング素子をONに固定する第二の制御とを実行するステッピングモータの駆動装置において、二つの制御の切り替えの際に、第一及び第三をOFF、第二及び第四のスイッチング素子をONに固定すると共に切り替えによりエラーアンプに生じる出力の増加又は減少に合わせて電流指令値を一時的に増加又は減少させてエラーアンプに入力する第三の制御を行う。
【解決手段】コイルに流れる電流を制御する駆動回路30は、コイルの電流を検出する電流検出手段182と、電流指令値と検出電流値との差を出力するエラーアンプ140と、ON/OFFのスイッチング信号を生成するスイッチング信号生成手段とを備え、スイッチング信号に基づいて第一及び四と第二及び三のスイッチング素子とを反転させて切り替えを行う第一の制御と、スイッチング信号に基づいて第一及び二と反転し、第三をOFF、第四のスイッチング素子をONに固定する第二の制御とを実行するステッピングモータの駆動装置において、二つの制御の切り替えの際に、第一及び第三をOFF、第二及び第四のスイッチング素子をONに固定すると共に切り替えによりエラーアンプに生じる出力の増加又は減少に合わせて電流指令値を一時的に増加又は減少させてエラーアンプに入力する第三の制御を行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1−2相励磁を行うステッピングモータ駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
2相ステッピングモータにはA相とB相と呼ばれる2つの巻線がある。そして、1−2相励磁方式の場合、各相に流す電流の組み合わせは8個あって、当該8個のステップ(ステップ0〜7とする)を図7に示す順番でモータ電流を切り替える制御が従来から行われている。
位相を半分ずらしてA相とB相のコイルに対してステップ0から7までを順番に切り替えることでモータは回転するが、停止時は各々がステップ0から7のいずれかの状態で停止している。モータを回転させる場合には負荷に応じたトルクを発生させるための電流を流す必要があるが、停止中も同じ電流を流すとモータの発熱の原因となる。このため停止中は図7の点線に示すように、駆動中の電流(実線)より低い電流を流してモータの発熱を抑える様に切り替える制御が行われている。
【0003】
上記制御を行うための励磁回路100を図8に示す。なお、この励磁回路100はステッピングモータのA相コイルに対するものであり、B相コイルについても駆動装置が別に用意されているが同一構成のため、一方についてのみ説明する。
モータ駆動の指令は、電流切り換えステップを進めるタイミングを決めるパルス信号と、回転方向を決める方向信号、動作、停止の電流を切り替えるCH/CD信号があり、これらは図示しない制御回路(制御プログラムを実行するCPU等)から出力される。
上記パルス信号と方向信号とは3ビットのカウンタ110に入力され、方向信号はこのカウンタ110のアップ、ダウンを切り替える。カウンタ110は、推移させようとしているステップ0〜7に対応する電流値を示す3ビットの信号をデコーダ120のA〜Cのポートに入力する。また、駆動中の電流値とそれより低い停止中の電流値(実線)のいずれを通電するかを示す1ビットの信号をデコーダ120のDポートに入力する。
【0004】
デコーダ120は、入力された合計4ビットの信号を電流の指令値として8ビットの信号に変換する。図9はデコーダ120のA〜Dポートの各種の入力コードに対応する出力を示す対応表の図である。このデコーダ120の中身を変更することによりステッピングモータの駆動パターンを変更することができる。
デコーダ120の出力はD/Aコンバータ130に入力され、D/Aコンバータ130はアナログ値に変更し、次段のエラーアンプ140でA相コイル4に直列に接続された電流検出手段182から検出される実際に流れている電流(図8に示す符号FB)と比較される。そして、エラーアンプ140からこれら比較される二つの電流値の差に応じた信号がPWM発生装置150に入力される。
PWM発生装置150には、三角波発生装置160から均一周期で上りと下りの傾きの絶対値が等しい変化を繰り返す電圧信号である三角波の入力も行われ、エラーアンプ140からの信号と比較を行い、エラーアンプ140からの信号が大きければON信号、小さければOFF信号が出力される。このON/OFF信号が最終段の駆動回路としてのコイル4のHブリッジ回路180の各FETa〜FETdを駆動させる信号となる。
【0005】
Hブリッジ回路180は、A相コイル4の一端部と電源Vとの間で並列に設けられたFETa及びダイオード183と、A相コイル4の一端部とアースとの間で並列に設けられたFETb及びダイオード184と、A相コイル4の他端部と電源Vとの間で並列に設けられたFETc及びダイオード185と、A相コイル4の他端部と電源Vとの間で並列に設けられたFETd及びダイオード186と、A相コイル4の端部側に直列に設けられた電流検出手段182とを備えている。また、ダイオード183はA相コイルの一端部から電源側への通電を許容する向きで接続され、ダイオード184はアースからA相コイルの一端部側への通電を許容する向きで接続され、ダイオード185はA相コイルの他端部から電源側への通電を許容する向きで接続され、ダイオード186はアースからA相コイルの他端部側への通電を許容する向きで接続されている。
FETa及びFETdに対してはPWM発生装置150からのON/OFF信号は直接入力され、FETb及びFETcに対してはPWM発生装置150からのON/OFF信号はNOT回路171,172を介して入力されるようになっている。
【0006】
そして、図7のステップ0,1,2ではコイル電流は図8のF方向に流れるが、このときFETa,FETdがON/OFFを繰り返して電流値をコントロールする。そして、FETa,FETdに対するON/OFFの繰り返しにおけるOFFのときはFETb、FETcのダイオード184,185を通って電流が電源に戻る方向で流れる。従って、このときにはダイオード発熱を抑えるためにFETb、FETcをONにする。
ステップ3,7では、図7に示すように、電流の指令値は80Hとなり、これは電流値0[A]を意味する。このとき電流はF方向とその逆方向を交互に流れるようにFETa〜FETdは制御され平均電流は0[A]となる。
ステップ4,5,6では電流方向がFとは逆方向となる。即ち、FETb,FETcがON/OFFを繰り返し、FETb,FETcのOFFのときはFETa、FETdをONにして電流値をコントロールする。
【0007】
電流方向とFETのON、OFFの関係を図10に示す。図10(A)はステップ0,1,2、図10(B)はステップ3,7、図10(C)はステップ4,5,6における電流の変化を示しているが、各ステップにおいて、コイル4の電流の傾きが正方向に変化するときはFETa,FETdがONし、負方向に変化するときはFETc、FETbがONする。この傾きは、コイル4に加わっている電圧に左右されるが、この電圧は電源電圧となるためほぼ同じ傾きとなる。この傾きによる電流変化分は、前述した駆動電流と停止電流の切り替えにより指令電流が大きくても、小さくても同じとなり、鉄損の原因となる。すなわち、モータ発熱を抑えるために停止中の電流値を下げても、電流値による銅損は減少できるが、鉄損を抑えることができないので、発熱が発生するという問題を有していた。
【0008】
そこで、鉄損の問題解決のために図11に示す、新たに改良を加えた他の励磁回路200が案出されている(例えば、特許文献1参照)。
この励磁回路200は、励磁回路100のデコーダ120に新たな出力P1、P2を加えたデコーダ220を備えると共に、PWM発生装置150からの出力とデコーダ出力P1とが入力されてFETaに出力を行うAND回路271と、当該AND回路271の出力を反転してFETbに入力するNOT回路272と、PWM発生装置150からの出力を反転するNOT回路273と、NOT回路273からの出力とデコーダ出力P2とが入力されてFETcに出力を行うAND回路274と、当該AND回路274の出力を反転してFETdに入力するNOT回路275とを備える点が励磁回路100と異なっている。
【0009】
図12はデコーダ220のA〜Dポートの各種の入力コードに対応する出力を示す対応表の図である。
モータ駆動中のripple信号(Dへの入力コード)は「0」になっており、この入力に対してデコーダ220は、P1,P2出力を「1」とする。これにより、上述の論理回路構成の場合、最終段のAND回路271、274はPWM信号をそのまま通すため、全てのFETa〜FETdはON/OFFを繰り返すことになる。
図13(A)に示すようにFETa、FETdがON、FETb、FETcがOFFの時電流が矢印F1方向に流れているとすれば、図13(B)のようにFETa、FETdがOFF、FETb、FETcがONとなったとき電流は矢印B1の様にアース(GND)から電源(Vcc)に向かって流れる(以下、図13(A)(B)の状態を交互に取ることを通常制御又は第一の制御と称する)。
【0010】
また、モータ停止中はripple信号が「1」となり、これに対してデコーダ220は、電流が+方向(OUT出力がC0H、E0H)のとき、P1=「1」、P2=「0」、また、電流が0(OUT出力が80H)のときP1=「0」、P2=「0」、電流方向が−方向(OUT出力が40H、20H)の時はP1=「0」、P2=「1」の出力を行う。
電流が+方向のときすなわち図14(A)ではP1=「1」であり、FETaとFETbはON/OFFを繰り返しているが、P2=「0」のためFETcはOFF、FETdはONに固定される。
図14(A)のようにFETaがON,FETbがOFFの時には電流はF1の向きに流れるが、FETaがOFF、FETbがONとなったときには図14(B)のように電流は電源には帰らず、FETb,FETdを通り、矢印B2のように還流する。このとき、図13(B)のように電流の流れを妨げるような逆向きの電圧は加わらないため、電流の減少は図15のように非常に穏やかになる。
電流の変化分(電流リップル)は図10と比べ非常に小さいものとなる(以下、これを「リップルオフ制御」又は第二の制御と称する)。これによりモータの鉄損による発熱は小さなものとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2009−095148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、このリップルオフ制御について、リップルオフ制御と通常制御との相互の切り替え時に、ステッピングモータが動いてしまうという問題があった。
このステッピングモータが動いてしまう原因は、切り替え時にモータ電流が一時的に変動するためで、これは、リップルオン制御と通常制御との切り替え時に、D/Aコンバータ130からエラーアンプ140に入力される電流指令値が一定のままの場合でも、エラーアンプ140の出力値が異なることに原因がある。
例えば、ステッピングモータが停止する場合、通常制御では、その停止位置のステップでの電流の指令値が維持され、モータ電流一定状態の時、エラーアンプ出力はほぼ0となる。つまり、PWM信号のONとOFFの割合が同じになるようになっている。モータ電流はPWMオン時の電流上昇度とオフ時の電流減少度の傾きが同じである事からこのようになっている(図16参照)。
一方、リップルオフ制御の場合、PWMオフ時の電流減少度の傾きがオン時に比べて穏やかな為、各FETのON/OFFの時間割合が同じだと電流は増加してしまう。この為、電流を一定に保とうと働いて、ONの割合を減らすようにエラーアンプはマイナス(−)の値になる(図17)。
通常制御からリップルオフ制御へ切り替えた際に、各FETのON−OFF状態は即座に切り替わり、エラーアンプ出力も0からマイナス(−)の値に切り替えを開始するが、応答時間による遅れが存在する為、すぐに切り替わらない。この0からマイナスになるまでの変化期間において、リップルオフ状態にもかかわらず、PWM信号のON幅が大きすぎる為、電流が急増してしまう。その後、エラーアンプがマイナスに切り替わると電流も元に戻るが、この急増時の電流変化時にモータが動いてしまう(図18のS)。
なお、通常制御からリップルオフ制御の切り替えは、モータが既に停止した状態で行われることが多い。つまり、いずれかのステップに維持した状態で制御の切り替えが行われるが、そのようにステップが推移していない場合でも、上記のように電流の急激な変化が発生すると、もう一方のB相コイルとの間で励磁状態のバランスが崩れ、モータに微小な動作が発生してしまう。
また、同様の事が、リップルオフ制御から通常制御への切り替えにおいても発生するといった問題があった(図18のD)。
【0013】
本発明は、制御切替時のステッピングモータの誤動作を抑止することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1記載の発明は、ステッピングモータのコイルの一端部を電源側とアース側とにそれぞれ接続する第一と第二のスイッチング素子と前記コイルの他端部を前記電源側とアース側とにそれぞれ接続する第三と第四のスイッチング素子とを備えるHブリッジ回路と、
前記スイッチング素子のON/OFFを制御することで当該コイルに流れる電流を一定の電流に制御する駆動回路と、を前記ステッピングモータのコイルごとに備え、前記各駆動回路は、前記コイルの電流を検出する電流検出手段と、前記コイルに流れる電流値を定めるための電流指令値と前記電流検出手段による検出電流値との差に応じた信号出力を行うエラーアンプと、前記エラーアンプの信号出力に基づいてONとOFFの比率を定めたスイッチング信号を生成するスイッチング信号生成手段とを備え、 前記スイッチング信号に基づいて、前記第一及び第四のスイッチング素子のON/OFFの切り替えを行うと共にこれらと反転したタイミングで前記第二及び第三のスイッチング素子のON/OFFの切り替えを行う第一の制御と、前記スイッチング信号に基づいて、前記第一と第二のスイッチング素子とを互いに反転したタイミングでON/OFFの切り替えを行うと共に前記第三のスイッチング素子をOFF、前記第四のスイッチング素子をONに固定する第二の制御とを択一的に実行して前記各コイルの1−2相励磁を行うステッピングモータの駆動装置において、前記二つの制御の切り替えの際に、前記第一及び第三のスイッチング素子をOFF、前記第二及び第四のスイッチング素子をONに固定すると共に切り替えにより前記エラーアンプに生じる出力の増加又は減少に合わせて電流指令値を一時的に増加又は減少させて前記エラーアンプに入力する第三の制御を介在させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1記載の発明では、通常制御とリップル制御の切り替えの際に、第一及び第三のスイッチング素子をOFF、第二及び第四のスイッチング素子をONに固定すると共に切り替えによりエラーアンプに生じる出力の増加又は減少に合わせて電流指令値を一時的に増加又は減少させてエラーアンプに入力する第三の制御を介在させているので、エラーアンプにおけるフィードバックでの応答遅れの影響を回避することができ、スイッチング素子が制御の切り替えに伴うデューティー比の切り替えの遅れを排除できるので、モータの誤動作を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態たるステッピングモータの駆動装置が接続されたステッピングモータの構成を示す説明図である。
【図2】ステッピングモータのコイルと電源装置とを接続する励磁回路の構成を示す構成図である。
【図3】デコーダへの入力コードと、デコーダから出力される電流指令値並びに信号P1、P2との対応関係を示すテーブルである。
【図4】駆動装置の行う制御を示すフローチャートである。
【図5】通常制御からリップルオフ制御への切り替えにおけるエラーアンプ出力、モータ電流、電流指令値の変化を示す線図である。
【図6】リップルオフ制御から通常制御への切り替えにおけるエラーアンプ出力、モータ電流、電流指令値の変化を示す線図である。
【図7】2相ステッピングモータの1−2相励磁方式での各ステップにおける電流値を示す説明図である。
【図8】従来の励磁回路の構成図である。
【図9】デコーダのA〜Dポートの各種の入力コードに対応する出力を示す対応表の図である。
【図10】電流方向とFETのON、OFFとの関係を示す線図であり、図10(A)はステップ0,1,2、図10(B)はステップ3,7、図10(C)はステップ4,5,6に対応している。
【図11】他の従来の励磁回路の構成図である。
【図12】デコーダのA〜Dポートの各種の入力コードに対応する出力を示す対応表の図である。
【図13】図13(A)はHブリッジ回路の各FETに対する通常制御において交互に行われる一方の接続状態を示し、図13(B)は他方の接続状態を示す。
【図14】図14(A)はHブリッジ回路の各FETに対するリップルオフ制御において交互に行われる一方の接続状態を示し、図14(B)は他方の接続状態を示す。
【図15】リップルオフ制御における電流変化を示す線図である。
【図16】通常制御における三角波とPWM信号から形成されるモータ電流波形を示す線図である。
【図17】リップルオフ制御における三角波とPWM信号から形成されるモータ電流波形を示す線図である。
【図18】通常制御からリップルオフ制御の切り替え時におけるモータ電流の上昇を示す説明図である。
【図19】リップルオフ制御から通常制御の切り替え時におけるモータ電流の上昇を示す説明図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
(本発明によるミシンのステッピングモータの駆動装置の全体構成)
図1は本発明の実施形態たる駆動装置7が接続されたステッピングモータ1の構成を示す説明図である。以下、図1から図6に基づいて本発明の実施の形態を詳細に説明する。
本発明の実施形態たるステッピングモータ1の駆動装置7は、ステッピングモータ1のA相及びB相の各コイル4,5ごとに設けられた励磁回路10と、各励磁回路10を通じてステッピングモータ1の1−2相励磁による駆動制御を行う制御回路40とを備えている。
【0018】
(ステッピングモータ)
ステッピングモータ1は、当該ステッピングモータ1の回転軸と連結されて回転可能に設けられた円柱状の回転子2と、回転子2の周囲に設けられた円筒状の固定子3と、固定子3の内周部において回転子2に近接する方向に突出して設けられた芯部3a、3bに巻きつけられて、後述する励磁回路10による電流制御によって励磁されて回転子2の回転角度を変更/維持するコイル4,5とを備えている。なお、各コイル4,5は簡略化して図示しているが、実際には、それぞれ複数のコイルからなり、それらは回転子2の周囲に直列且つ均一間隔で交互に配置されている。
【0019】
回転子2は、永久磁石等の磁性体であり、図示しないステッピングモータ1の回転軸に連結されて回転可能に支持されている。固定子3は、回転子2の周囲に設けられた円筒状の磁性材料(例えば鉄)であり、その内周部に回転子2に近接する方向に突出して設けられた芯部3a〜3dが設けられている。
コイル4,5は、芯部3a、3bに巻きつけられた巻線であり、後述する励磁回路10によって電流が流されることによって励磁されて電磁石として機能する。このときコイル4,5は各励磁回路10を通じて制御回路40により電流制御が行われ、当該制御によりそれぞれが半位相ずらして8つのステップ(ステップ0〜7とする:図7参照)で推移させることにより、ステッピングモータ1の回転駆動が行われるようになっている。
【0020】
(ステッピングモータの駆動装置)
次に、ステッピングモータの駆動装置7について詳細に説明する。
ステッピングモータの駆動装置7は、ステッピングモータ1の駆動/停止及び回転角度を制御する。ステッピングモータの駆動装置7は、図1に示すように、ステッピングモータ1のコイル4,5のそれぞれに設けられてコイル4,5に流れる電流の制御を行う二つの励磁回路10,10と、ステッピングモータ1の駆動/停止制御及び回転角度制御を行う制御回路40と、を備えている。なお、各コイル4,5の励磁回路10はいずれも同一の構成からなるのでコイル4の励磁回路10のみについて説明を行うこととする。
【0021】
図2はステッピングモータのコイル4と電源装置6とを接続する励磁回路10の構成を示す回路図である。
かかる励磁回路10において、前述した励磁回路200と同一の構成については同符号を付して重複する説明は省略するものとする。
励磁回路10は、コイル4の一端部を電源側とアース側とにそれぞれ接続する第一と第二のスイッチング素子としてのFETa及びFETbと、コイル4の他端部を電源側とアース側とにそれぞれ接続する第三と第四のスイッチング素子としてのFETc及びFETdとを備えるHブリッジ回路180と、各FETa〜FETdのONとOFFとを制御することで当該コイル4に流れる電流を一定の電流に制御する駆動回路30とを備えている。
【0022】
FETa〜FETdは所謂3端子の電界効果トランジスタであり、FETa、FETbの一方の電極がコイル4の一端と、FETc、FETdの一方の電極がコイル4の他端と接続されている。また、FETa、FETcの他方の電極が電源側と、FETb、FETdの他方の電極がアースと接続されている。つまり、コイル4とFETa〜FETdとによってHブリッジ回路が構成されている。
また、FETa〜FETdが各種の論理回路271〜275を介して駆動回路30のPWM発生装置150と接続されていること、FETa〜FETdにはそれぞれダイオード183〜186が並列接続されていることは前述した通りである。なお、FETa〜FETdは双方向の通電が可能である。
【0023】
(駆動回路)
駆動回路30は、制御回路40によって出力されたパルス信号と方向信号とを受信して3ビットのコードを出力するカウンタ110と、カウンタ110からの出力コードと制御回路40によって出力されたripple信号とから8ビットの電流指令値とFETa〜FETdのONとOFFの制御を行うための信号P1、P2とを出力するデコーダ20と、デコーダ20による電流指令値をアナログ値に変換するD/Aコンバータ130と、コイル4に直接で接続された電流検出手段182と、電流指令値に対する電流検出手段182による検出電流値の偏差を所定のゲインで出力するエラーアンプ140と、所定の周波数で三角波を出力する三角波発生回路160と、エラーアンプ140の出力が三角波を上回る比率をONの比率としてスイッチング信号としてのPWM信号を出力するPWM出力回路150とを備えている。上記PWM出力回路150と三角波発生回路160とは、エラーアンプ140の信号出力に基づいてONとOFFの比率を定めたスイッチング信号であるPWM信号を生成するスイッチング信号生成手段として機能するものである。
また、PWM出力回路150から各FETa〜FETdまで間に設けられた各論理回路271〜275の接続配置は前述した励磁回路200と同じである。
【0024】
まず、制御回路40について詳細に説明する。
制御回路40は、ステッピングモータ1の駆動/停止制御及び回転角度の制御するための各種の処理を行う。制御回路40は、カウンタ110に対してパルス信号と方向信号を出力すると共に、デコーダ20に対してripple信号とPOFF信号とを出力する。
パルス信号は、パルスモータ1のステップの遷移タイミングを示す信号であり、方向信号はステッピングモータ1の回転方向を示す信号である。
ripple信号は、第一の制御としての通常制御と第二の制御としてのリップルオフ制御のいずれを実行するかを指令する信号である。
なお、通常制御は、PWM信号に基づいて、FETa及びFETdのON/OFF切り替えを同時に行うと共に、これらと反転したタイミングでFETb及びFETcのON/OFF切り替えを同時に行う制御であり、具体的には前述した図13に示す制御である。
また、リップル制御は、PWM信号に基づいて、FETa及びFETbとを互いに反転したタイミングでON/OFFの切り替えを行うと共にFETcをOFF、FETdをONに固定する制御であり、具体的には前述した図14に示す制御である。
【0025】
POFF信号は、通常制御からリップルオフ制御への切り替え時又はリップルオフ制御から通常制御への切り替え時に介在する制御であって、FETa及びFETcをOFF、FETb及びFETdをONに固定すると共に切り替え直前の電流指令値に応じて+方向又は−方向最大の電流指令値をエラーアンプ140に入力する中間制御(第三の制御)を実行させる信号である。
かかる中間制御は、例えば、通常制御からリップルオフ制御に切り替える際に、FETa及びFETcをOFF、FETb及びFETdをONに固定することにより、それまで通電されていたコイル4を流れる電流がアース側で還流した状態となり、損失がないので徐々に電流が0に向かって減衰する状態となる(以下、フリー状態という)。そして、フリー状態への切り替えと同時に、通常制御からリップルオフ制御への切り替え又はリップルオフ制御から通常制御への切り替えの際にエラーアンプ140に生じる出力の増加又は減少の変化に合わせて、電流指令値を一時的に増加又は減少させるように制御される。
即ち、通常制御からリップルオフ制御への切り替えを行う場合であって、切り替え時におけるコイル4への電流が正極の場合には、エラーアンプ140はその出力値を低減してPWM信号のデューティー比を低減させる必要があるので、中間制御での電流指令値は減少される。なお、この実施例では、指令範囲内における最小の値(−方向最大指令値)が出力される。また、切り替え時におけるコイル4への電流が負極の場合には、指令範囲内における最大の値(+方向最大指令値)が出力される。
さらに、リップルオフ制御から通常制御への切り替えを行う場合であって、切り替え時におけるコイル4への電流が正極の場合には、エラーアンプ140はその出力値を増加してPWM信号のデューティー比を増加させる必要があるので、中間制御での電流指令値は増加される。なお、この実施例では、指令範囲内における最大の値(+方向最大指令値)が出力される。また、切り替え時におけるコイル4への電流が負極の場合には、指令範囲内における最小の値(−方向最大指令値)が出力される。
なお、一般には、通常制御からリップルオフ制御への切り替え(その逆の切り替えも同様)は、ステッピングモータ1が停止した状態で行われる。このため、停止位置が、ステッピングモータ1を駆動させるステップ0〜7のいずれであるかに応じて、切り替え時におけるコイル4への電流の極性が決定される。
【0026】
デコーダ20は、カウンタ110によるコードと制御回路40によって出力されたripple信号及びPOFF信号とにより、8ビットの電流指令値と各FETのON/OFFパターンを制御する信号P1、P2とを出力する。ripple信号はリップルオフ制御の実行の有無を示す信号であり、POFF信号は中間制御の実行の有無を示す信号である。いずれも1ビットの信号で「0」が実行せず、「1」が実行を示す。
【0027】
図3はデコーダ20への入力コードと、デコーダ20から出力される電流指令値並びに信号P1、P2との対応関係を示すテーブルである。図3の[i]は通常制御の入力内容を示し、[ii]はリップルオフ制御の入力内容を示す。
図3に示す入力コードのうち、A,B,Cはカウンタ110から出力される3ビットのコードであり、Dはripple信号を示す値である。
デコーダ20における出力は、POFF=0の場合とPOFF=1の場合とで大別されており、POFF=0の場合には、前述した駆動装置200のデコーダ220と同じ出力を行うので、説明は省略する。
一方、POFF=1の場合には、中間処理を実行させる出力が行われる。具体的には、デコーダ20のD/Aコンバータ130を通じたエラーアンプ140への出力であるOUTでは、通常制御でステップ0〜3においてリップルオフ制御に切り替える場合には一律に00H(−方向最大指令値)を出力し、通常制御でステップ4〜7においてリップルオフ制御に切り替える場合には一律にFFH(+方向最大指令値)を出力し、リップルオフ制御でステップ0〜3において通常制御に切り替える場合には一律にFFH(+方向最大指令値)を出力し、リップルオフ制御でステップ4〜7において通常制御に切り替える場合には一律に00H(−方向最大指令値)を出力するようになっている。
【0028】
POFF=1の場合には、一律に信号P1=0、P2=0に出力が固定されている。これによりPWM出力回路150の出力にかかわらず、FETa=OFF、FETb=ON、FETc=ON、FETd=OFFに固定されるようになっている。
【0029】
(駆動装置の制御)
以上の構成において、図4に示す制御フローチャートに基づいて説明する。
まず、(1)通常制御→リップルオフ制御への切り替えの場合で電流方向が+方向(図3の[i]のステップの場合)について説明する。
まず、制御回路40からデコーダ20の入力POFFに1が入力されると(ステップS1)、図3の真理値表に示すようにデコーダ20への入力コードA,B,C,Dとは無関係に出力P1、P2から「0」が出力される(ステップS2)。これによりFETa、FETcがOFFとなり、電源から遮断される。この電源から遮断されている期間を「フリー状態」と称す(図5参照)。このフリー状態では、電源から電流は供給されず、ステッピングモータ1のコイル4に流れる電流はHブリッジ回路180内を還流し、そのままの値を維持し続けようとする。
【0030】
次に、デコーダ20は、現在の制御が「通常制御」か「リップルオフ制御」か判定する。即ち、入力コードDは「0」であれば通常制御、「1」であればリップル制御を示すので、入力コードDの入力が行われると(ステップS3)、デコーダ20は入力コードDの値から現在の制御を判定する(ステップS4)。
その結果、「通常制御」と判定されると、デコーダ20は、電流方向が+方向か−方向か判定する。即ち、入力コードAが「0」であれば+方向、「1」であれば−方向を示すので、入力コードAの入力が行われると(ステップS5)、デコーダ20は入力コードAの値から電流方向を判定する(ステップS6)。
【0031】
電流方向が+方向と判定されると、デコーダ20は指令出力OUTから「00H」(−方向最大指令値)を出力する(ステップS7:図5参照)。この時、指令出力に対して、電流は増えないのでエラーアンプ140の出力は−方向に増大し、リップルオフ制御時のエラーアンプ140の出力値と同じになるまで、デコーダ20は指令出力OUTから「00H」の出力を継続する。なお、この継続時間は、−方向最大指令値の出力により、エラーアンプ140がリップルオフ制御時の出力値と同じ値になるまでに必要な時間を試験的に求めるなどして適宜設定することが望ましい。
【0032】
その後、制御回路40は入力コードDへのripple信号を「1」に切り替えると共に(ステップS8)、POFF信号を「0」に切り替え、フリー状態からリップルオフ制御への切り替えが行われる(ステップS9)。
このとき、エラーアンプ140の出力値は変化しないので、PWM信号も変化しない。このためリップルオフに切り替えた時のモータ電流は変化しない為、モータの誤動作を防止することが可能となる。
【0033】
なお、電流方向が−方向の状態で、通常制御→リップルオフ制御への切り替えが行われる場合には、ステップS6の電流方向の判定において、電流方向が−方向と判定され、デコーダ20は指令出力OUTから「FFH」(+方向最大指令値)を出力する(ステップS10)。
【0034】
次に、(2)リップルオフ制御→通常制御への切り替えの場合で電流方向が+方向(図3の[ii]のステップの場合)について説明する。
ステップS1〜S4までは(1)通常制御→リップルオフ制御の場合と同様である。
デコーダ20により入力コードDの値から現在の制御の判定が行われると(ステップS4)、D=1なので、「リップルオフ制御」と判定される、デコーダ20は、電流方向が+方向か−方向か判定する。入力コードAの入力が行われると(ステップS10)、さらに、入力コードAの値から電流方向が判定される(ステップS12)。
この場合、電流方向が+方向と判定され、デコーダ20は指令出力OUTから「FFH」(+方向最大指令値)を出力する(ステップS13:図6参照)。この時、指令出力に対して、電流は減らないのでエラーアンプ140の出力は+方向に増大し、リップルオフ制御時のエラーアンプ140の出力値と同じになるまで、デコーダ20は指令出力OUTから「FFH」の出力を継続する。なお、この継続時間も、試験などにより適宜設定することが望ましい。
【0035】
その後、制御回路40は入力コードDへのripple信号を「0」に切り替えると共に(ステップS14)、POFF信号を「0」に切り替え、フリー状態から通常制御への切り替えが行われる(ステップS9)。
このとき、エラーアンプ140の出力値は変化しないので、PWM信号も変化しない。このため通常制御に切り替えた時のモータ電流は変化しない為、モータの誤動作を防止することが可能となる。
【0036】
なお、電流方向が−方向の状態で、リップルオフ制御→通常制御への切り替えが行われる場合には、ステップS12の電流方向の判定において、電流方向が−方向と判定され、デコーダ20は指令出力OUTから「00H」(−方向最大指令値)を出力する(ステップS15)。
【符号の説明】
【0037】
1 ステッピングモータ
4 A相コイル
5 B相コイル
30 駆動回路
140 エラーアンプ
150 PWM発生装置(スイッチング信号生成手段)
160 三角波発生回路(スイッチング信号生成手段)
180 Hブリッジ回路
182 電流検出手段
FETa〜FETd(第一〜第四のスイッチング素子)
【技術分野】
【0001】
本発明は、1−2相励磁を行うステッピングモータ駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
2相ステッピングモータにはA相とB相と呼ばれる2つの巻線がある。そして、1−2相励磁方式の場合、各相に流す電流の組み合わせは8個あって、当該8個のステップ(ステップ0〜7とする)を図7に示す順番でモータ電流を切り替える制御が従来から行われている。
位相を半分ずらしてA相とB相のコイルに対してステップ0から7までを順番に切り替えることでモータは回転するが、停止時は各々がステップ0から7のいずれかの状態で停止している。モータを回転させる場合には負荷に応じたトルクを発生させるための電流を流す必要があるが、停止中も同じ電流を流すとモータの発熱の原因となる。このため停止中は図7の点線に示すように、駆動中の電流(実線)より低い電流を流してモータの発熱を抑える様に切り替える制御が行われている。
【0003】
上記制御を行うための励磁回路100を図8に示す。なお、この励磁回路100はステッピングモータのA相コイルに対するものであり、B相コイルについても駆動装置が別に用意されているが同一構成のため、一方についてのみ説明する。
モータ駆動の指令は、電流切り換えステップを進めるタイミングを決めるパルス信号と、回転方向を決める方向信号、動作、停止の電流を切り替えるCH/CD信号があり、これらは図示しない制御回路(制御プログラムを実行するCPU等)から出力される。
上記パルス信号と方向信号とは3ビットのカウンタ110に入力され、方向信号はこのカウンタ110のアップ、ダウンを切り替える。カウンタ110は、推移させようとしているステップ0〜7に対応する電流値を示す3ビットの信号をデコーダ120のA〜Cのポートに入力する。また、駆動中の電流値とそれより低い停止中の電流値(実線)のいずれを通電するかを示す1ビットの信号をデコーダ120のDポートに入力する。
【0004】
デコーダ120は、入力された合計4ビットの信号を電流の指令値として8ビットの信号に変換する。図9はデコーダ120のA〜Dポートの各種の入力コードに対応する出力を示す対応表の図である。このデコーダ120の中身を変更することによりステッピングモータの駆動パターンを変更することができる。
デコーダ120の出力はD/Aコンバータ130に入力され、D/Aコンバータ130はアナログ値に変更し、次段のエラーアンプ140でA相コイル4に直列に接続された電流検出手段182から検出される実際に流れている電流(図8に示す符号FB)と比較される。そして、エラーアンプ140からこれら比較される二つの電流値の差に応じた信号がPWM発生装置150に入力される。
PWM発生装置150には、三角波発生装置160から均一周期で上りと下りの傾きの絶対値が等しい変化を繰り返す電圧信号である三角波の入力も行われ、エラーアンプ140からの信号と比較を行い、エラーアンプ140からの信号が大きければON信号、小さければOFF信号が出力される。このON/OFF信号が最終段の駆動回路としてのコイル4のHブリッジ回路180の各FETa〜FETdを駆動させる信号となる。
【0005】
Hブリッジ回路180は、A相コイル4の一端部と電源Vとの間で並列に設けられたFETa及びダイオード183と、A相コイル4の一端部とアースとの間で並列に設けられたFETb及びダイオード184と、A相コイル4の他端部と電源Vとの間で並列に設けられたFETc及びダイオード185と、A相コイル4の他端部と電源Vとの間で並列に設けられたFETd及びダイオード186と、A相コイル4の端部側に直列に設けられた電流検出手段182とを備えている。また、ダイオード183はA相コイルの一端部から電源側への通電を許容する向きで接続され、ダイオード184はアースからA相コイルの一端部側への通電を許容する向きで接続され、ダイオード185はA相コイルの他端部から電源側への通電を許容する向きで接続され、ダイオード186はアースからA相コイルの他端部側への通電を許容する向きで接続されている。
FETa及びFETdに対してはPWM発生装置150からのON/OFF信号は直接入力され、FETb及びFETcに対してはPWM発生装置150からのON/OFF信号はNOT回路171,172を介して入力されるようになっている。
【0006】
そして、図7のステップ0,1,2ではコイル電流は図8のF方向に流れるが、このときFETa,FETdがON/OFFを繰り返して電流値をコントロールする。そして、FETa,FETdに対するON/OFFの繰り返しにおけるOFFのときはFETb、FETcのダイオード184,185を通って電流が電源に戻る方向で流れる。従って、このときにはダイオード発熱を抑えるためにFETb、FETcをONにする。
ステップ3,7では、図7に示すように、電流の指令値は80Hとなり、これは電流値0[A]を意味する。このとき電流はF方向とその逆方向を交互に流れるようにFETa〜FETdは制御され平均電流は0[A]となる。
ステップ4,5,6では電流方向がFとは逆方向となる。即ち、FETb,FETcがON/OFFを繰り返し、FETb,FETcのOFFのときはFETa、FETdをONにして電流値をコントロールする。
【0007】
電流方向とFETのON、OFFの関係を図10に示す。図10(A)はステップ0,1,2、図10(B)はステップ3,7、図10(C)はステップ4,5,6における電流の変化を示しているが、各ステップにおいて、コイル4の電流の傾きが正方向に変化するときはFETa,FETdがONし、負方向に変化するときはFETc、FETbがONする。この傾きは、コイル4に加わっている電圧に左右されるが、この電圧は電源電圧となるためほぼ同じ傾きとなる。この傾きによる電流変化分は、前述した駆動電流と停止電流の切り替えにより指令電流が大きくても、小さくても同じとなり、鉄損の原因となる。すなわち、モータ発熱を抑えるために停止中の電流値を下げても、電流値による銅損は減少できるが、鉄損を抑えることができないので、発熱が発生するという問題を有していた。
【0008】
そこで、鉄損の問題解決のために図11に示す、新たに改良を加えた他の励磁回路200が案出されている(例えば、特許文献1参照)。
この励磁回路200は、励磁回路100のデコーダ120に新たな出力P1、P2を加えたデコーダ220を備えると共に、PWM発生装置150からの出力とデコーダ出力P1とが入力されてFETaに出力を行うAND回路271と、当該AND回路271の出力を反転してFETbに入力するNOT回路272と、PWM発生装置150からの出力を反転するNOT回路273と、NOT回路273からの出力とデコーダ出力P2とが入力されてFETcに出力を行うAND回路274と、当該AND回路274の出力を反転してFETdに入力するNOT回路275とを備える点が励磁回路100と異なっている。
【0009】
図12はデコーダ220のA〜Dポートの各種の入力コードに対応する出力を示す対応表の図である。
モータ駆動中のripple信号(Dへの入力コード)は「0」になっており、この入力に対してデコーダ220は、P1,P2出力を「1」とする。これにより、上述の論理回路構成の場合、最終段のAND回路271、274はPWM信号をそのまま通すため、全てのFETa〜FETdはON/OFFを繰り返すことになる。
図13(A)に示すようにFETa、FETdがON、FETb、FETcがOFFの時電流が矢印F1方向に流れているとすれば、図13(B)のようにFETa、FETdがOFF、FETb、FETcがONとなったとき電流は矢印B1の様にアース(GND)から電源(Vcc)に向かって流れる(以下、図13(A)(B)の状態を交互に取ることを通常制御又は第一の制御と称する)。
【0010】
また、モータ停止中はripple信号が「1」となり、これに対してデコーダ220は、電流が+方向(OUT出力がC0H、E0H)のとき、P1=「1」、P2=「0」、また、電流が0(OUT出力が80H)のときP1=「0」、P2=「0」、電流方向が−方向(OUT出力が40H、20H)の時はP1=「0」、P2=「1」の出力を行う。
電流が+方向のときすなわち図14(A)ではP1=「1」であり、FETaとFETbはON/OFFを繰り返しているが、P2=「0」のためFETcはOFF、FETdはONに固定される。
図14(A)のようにFETaがON,FETbがOFFの時には電流はF1の向きに流れるが、FETaがOFF、FETbがONとなったときには図14(B)のように電流は電源には帰らず、FETb,FETdを通り、矢印B2のように還流する。このとき、図13(B)のように電流の流れを妨げるような逆向きの電圧は加わらないため、電流の減少は図15のように非常に穏やかになる。
電流の変化分(電流リップル)は図10と比べ非常に小さいものとなる(以下、これを「リップルオフ制御」又は第二の制御と称する)。これによりモータの鉄損による発熱は小さなものとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2009−095148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、このリップルオフ制御について、リップルオフ制御と通常制御との相互の切り替え時に、ステッピングモータが動いてしまうという問題があった。
このステッピングモータが動いてしまう原因は、切り替え時にモータ電流が一時的に変動するためで、これは、リップルオン制御と通常制御との切り替え時に、D/Aコンバータ130からエラーアンプ140に入力される電流指令値が一定のままの場合でも、エラーアンプ140の出力値が異なることに原因がある。
例えば、ステッピングモータが停止する場合、通常制御では、その停止位置のステップでの電流の指令値が維持され、モータ電流一定状態の時、エラーアンプ出力はほぼ0となる。つまり、PWM信号のONとOFFの割合が同じになるようになっている。モータ電流はPWMオン時の電流上昇度とオフ時の電流減少度の傾きが同じである事からこのようになっている(図16参照)。
一方、リップルオフ制御の場合、PWMオフ時の電流減少度の傾きがオン時に比べて穏やかな為、各FETのON/OFFの時間割合が同じだと電流は増加してしまう。この為、電流を一定に保とうと働いて、ONの割合を減らすようにエラーアンプはマイナス(−)の値になる(図17)。
通常制御からリップルオフ制御へ切り替えた際に、各FETのON−OFF状態は即座に切り替わり、エラーアンプ出力も0からマイナス(−)の値に切り替えを開始するが、応答時間による遅れが存在する為、すぐに切り替わらない。この0からマイナスになるまでの変化期間において、リップルオフ状態にもかかわらず、PWM信号のON幅が大きすぎる為、電流が急増してしまう。その後、エラーアンプがマイナスに切り替わると電流も元に戻るが、この急増時の電流変化時にモータが動いてしまう(図18のS)。
なお、通常制御からリップルオフ制御の切り替えは、モータが既に停止した状態で行われることが多い。つまり、いずれかのステップに維持した状態で制御の切り替えが行われるが、そのようにステップが推移していない場合でも、上記のように電流の急激な変化が発生すると、もう一方のB相コイルとの間で励磁状態のバランスが崩れ、モータに微小な動作が発生してしまう。
また、同様の事が、リップルオフ制御から通常制御への切り替えにおいても発生するといった問題があった(図18のD)。
【0013】
本発明は、制御切替時のステッピングモータの誤動作を抑止することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1記載の発明は、ステッピングモータのコイルの一端部を電源側とアース側とにそれぞれ接続する第一と第二のスイッチング素子と前記コイルの他端部を前記電源側とアース側とにそれぞれ接続する第三と第四のスイッチング素子とを備えるHブリッジ回路と、
前記スイッチング素子のON/OFFを制御することで当該コイルに流れる電流を一定の電流に制御する駆動回路と、を前記ステッピングモータのコイルごとに備え、前記各駆動回路は、前記コイルの電流を検出する電流検出手段と、前記コイルに流れる電流値を定めるための電流指令値と前記電流検出手段による検出電流値との差に応じた信号出力を行うエラーアンプと、前記エラーアンプの信号出力に基づいてONとOFFの比率を定めたスイッチング信号を生成するスイッチング信号生成手段とを備え、 前記スイッチング信号に基づいて、前記第一及び第四のスイッチング素子のON/OFFの切り替えを行うと共にこれらと反転したタイミングで前記第二及び第三のスイッチング素子のON/OFFの切り替えを行う第一の制御と、前記スイッチング信号に基づいて、前記第一と第二のスイッチング素子とを互いに反転したタイミングでON/OFFの切り替えを行うと共に前記第三のスイッチング素子をOFF、前記第四のスイッチング素子をONに固定する第二の制御とを択一的に実行して前記各コイルの1−2相励磁を行うステッピングモータの駆動装置において、前記二つの制御の切り替えの際に、前記第一及び第三のスイッチング素子をOFF、前記第二及び第四のスイッチング素子をONに固定すると共に切り替えにより前記エラーアンプに生じる出力の増加又は減少に合わせて電流指令値を一時的に増加又は減少させて前記エラーアンプに入力する第三の制御を介在させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1記載の発明では、通常制御とリップル制御の切り替えの際に、第一及び第三のスイッチング素子をOFF、第二及び第四のスイッチング素子をONに固定すると共に切り替えによりエラーアンプに生じる出力の増加又は減少に合わせて電流指令値を一時的に増加又は減少させてエラーアンプに入力する第三の制御を介在させているので、エラーアンプにおけるフィードバックでの応答遅れの影響を回避することができ、スイッチング素子が制御の切り替えに伴うデューティー比の切り替えの遅れを排除できるので、モータの誤動作を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態たるステッピングモータの駆動装置が接続されたステッピングモータの構成を示す説明図である。
【図2】ステッピングモータのコイルと電源装置とを接続する励磁回路の構成を示す構成図である。
【図3】デコーダへの入力コードと、デコーダから出力される電流指令値並びに信号P1、P2との対応関係を示すテーブルである。
【図4】駆動装置の行う制御を示すフローチャートである。
【図5】通常制御からリップルオフ制御への切り替えにおけるエラーアンプ出力、モータ電流、電流指令値の変化を示す線図である。
【図6】リップルオフ制御から通常制御への切り替えにおけるエラーアンプ出力、モータ電流、電流指令値の変化を示す線図である。
【図7】2相ステッピングモータの1−2相励磁方式での各ステップにおける電流値を示す説明図である。
【図8】従来の励磁回路の構成図である。
【図9】デコーダのA〜Dポートの各種の入力コードに対応する出力を示す対応表の図である。
【図10】電流方向とFETのON、OFFとの関係を示す線図であり、図10(A)はステップ0,1,2、図10(B)はステップ3,7、図10(C)はステップ4,5,6に対応している。
【図11】他の従来の励磁回路の構成図である。
【図12】デコーダのA〜Dポートの各種の入力コードに対応する出力を示す対応表の図である。
【図13】図13(A)はHブリッジ回路の各FETに対する通常制御において交互に行われる一方の接続状態を示し、図13(B)は他方の接続状態を示す。
【図14】図14(A)はHブリッジ回路の各FETに対するリップルオフ制御において交互に行われる一方の接続状態を示し、図14(B)は他方の接続状態を示す。
【図15】リップルオフ制御における電流変化を示す線図である。
【図16】通常制御における三角波とPWM信号から形成されるモータ電流波形を示す線図である。
【図17】リップルオフ制御における三角波とPWM信号から形成されるモータ電流波形を示す線図である。
【図18】通常制御からリップルオフ制御の切り替え時におけるモータ電流の上昇を示す説明図である。
【図19】リップルオフ制御から通常制御の切り替え時におけるモータ電流の上昇を示す説明図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
(本発明によるミシンのステッピングモータの駆動装置の全体構成)
図1は本発明の実施形態たる駆動装置7が接続されたステッピングモータ1の構成を示す説明図である。以下、図1から図6に基づいて本発明の実施の形態を詳細に説明する。
本発明の実施形態たるステッピングモータ1の駆動装置7は、ステッピングモータ1のA相及びB相の各コイル4,5ごとに設けられた励磁回路10と、各励磁回路10を通じてステッピングモータ1の1−2相励磁による駆動制御を行う制御回路40とを備えている。
【0018】
(ステッピングモータ)
ステッピングモータ1は、当該ステッピングモータ1の回転軸と連結されて回転可能に設けられた円柱状の回転子2と、回転子2の周囲に設けられた円筒状の固定子3と、固定子3の内周部において回転子2に近接する方向に突出して設けられた芯部3a、3bに巻きつけられて、後述する励磁回路10による電流制御によって励磁されて回転子2の回転角度を変更/維持するコイル4,5とを備えている。なお、各コイル4,5は簡略化して図示しているが、実際には、それぞれ複数のコイルからなり、それらは回転子2の周囲に直列且つ均一間隔で交互に配置されている。
【0019】
回転子2は、永久磁石等の磁性体であり、図示しないステッピングモータ1の回転軸に連結されて回転可能に支持されている。固定子3は、回転子2の周囲に設けられた円筒状の磁性材料(例えば鉄)であり、その内周部に回転子2に近接する方向に突出して設けられた芯部3a〜3dが設けられている。
コイル4,5は、芯部3a、3bに巻きつけられた巻線であり、後述する励磁回路10によって電流が流されることによって励磁されて電磁石として機能する。このときコイル4,5は各励磁回路10を通じて制御回路40により電流制御が行われ、当該制御によりそれぞれが半位相ずらして8つのステップ(ステップ0〜7とする:図7参照)で推移させることにより、ステッピングモータ1の回転駆動が行われるようになっている。
【0020】
(ステッピングモータの駆動装置)
次に、ステッピングモータの駆動装置7について詳細に説明する。
ステッピングモータの駆動装置7は、ステッピングモータ1の駆動/停止及び回転角度を制御する。ステッピングモータの駆動装置7は、図1に示すように、ステッピングモータ1のコイル4,5のそれぞれに設けられてコイル4,5に流れる電流の制御を行う二つの励磁回路10,10と、ステッピングモータ1の駆動/停止制御及び回転角度制御を行う制御回路40と、を備えている。なお、各コイル4,5の励磁回路10はいずれも同一の構成からなるのでコイル4の励磁回路10のみについて説明を行うこととする。
【0021】
図2はステッピングモータのコイル4と電源装置6とを接続する励磁回路10の構成を示す回路図である。
かかる励磁回路10において、前述した励磁回路200と同一の構成については同符号を付して重複する説明は省略するものとする。
励磁回路10は、コイル4の一端部を電源側とアース側とにそれぞれ接続する第一と第二のスイッチング素子としてのFETa及びFETbと、コイル4の他端部を電源側とアース側とにそれぞれ接続する第三と第四のスイッチング素子としてのFETc及びFETdとを備えるHブリッジ回路180と、各FETa〜FETdのONとOFFとを制御することで当該コイル4に流れる電流を一定の電流に制御する駆動回路30とを備えている。
【0022】
FETa〜FETdは所謂3端子の電界効果トランジスタであり、FETa、FETbの一方の電極がコイル4の一端と、FETc、FETdの一方の電極がコイル4の他端と接続されている。また、FETa、FETcの他方の電極が電源側と、FETb、FETdの他方の電極がアースと接続されている。つまり、コイル4とFETa〜FETdとによってHブリッジ回路が構成されている。
また、FETa〜FETdが各種の論理回路271〜275を介して駆動回路30のPWM発生装置150と接続されていること、FETa〜FETdにはそれぞれダイオード183〜186が並列接続されていることは前述した通りである。なお、FETa〜FETdは双方向の通電が可能である。
【0023】
(駆動回路)
駆動回路30は、制御回路40によって出力されたパルス信号と方向信号とを受信して3ビットのコードを出力するカウンタ110と、カウンタ110からの出力コードと制御回路40によって出力されたripple信号とから8ビットの電流指令値とFETa〜FETdのONとOFFの制御を行うための信号P1、P2とを出力するデコーダ20と、デコーダ20による電流指令値をアナログ値に変換するD/Aコンバータ130と、コイル4に直接で接続された電流検出手段182と、電流指令値に対する電流検出手段182による検出電流値の偏差を所定のゲインで出力するエラーアンプ140と、所定の周波数で三角波を出力する三角波発生回路160と、エラーアンプ140の出力が三角波を上回る比率をONの比率としてスイッチング信号としてのPWM信号を出力するPWM出力回路150とを備えている。上記PWM出力回路150と三角波発生回路160とは、エラーアンプ140の信号出力に基づいてONとOFFの比率を定めたスイッチング信号であるPWM信号を生成するスイッチング信号生成手段として機能するものである。
また、PWM出力回路150から各FETa〜FETdまで間に設けられた各論理回路271〜275の接続配置は前述した励磁回路200と同じである。
【0024】
まず、制御回路40について詳細に説明する。
制御回路40は、ステッピングモータ1の駆動/停止制御及び回転角度の制御するための各種の処理を行う。制御回路40は、カウンタ110に対してパルス信号と方向信号を出力すると共に、デコーダ20に対してripple信号とPOFF信号とを出力する。
パルス信号は、パルスモータ1のステップの遷移タイミングを示す信号であり、方向信号はステッピングモータ1の回転方向を示す信号である。
ripple信号は、第一の制御としての通常制御と第二の制御としてのリップルオフ制御のいずれを実行するかを指令する信号である。
なお、通常制御は、PWM信号に基づいて、FETa及びFETdのON/OFF切り替えを同時に行うと共に、これらと反転したタイミングでFETb及びFETcのON/OFF切り替えを同時に行う制御であり、具体的には前述した図13に示す制御である。
また、リップル制御は、PWM信号に基づいて、FETa及びFETbとを互いに反転したタイミングでON/OFFの切り替えを行うと共にFETcをOFF、FETdをONに固定する制御であり、具体的には前述した図14に示す制御である。
【0025】
POFF信号は、通常制御からリップルオフ制御への切り替え時又はリップルオフ制御から通常制御への切り替え時に介在する制御であって、FETa及びFETcをOFF、FETb及びFETdをONに固定すると共に切り替え直前の電流指令値に応じて+方向又は−方向最大の電流指令値をエラーアンプ140に入力する中間制御(第三の制御)を実行させる信号である。
かかる中間制御は、例えば、通常制御からリップルオフ制御に切り替える際に、FETa及びFETcをOFF、FETb及びFETdをONに固定することにより、それまで通電されていたコイル4を流れる電流がアース側で還流した状態となり、損失がないので徐々に電流が0に向かって減衰する状態となる(以下、フリー状態という)。そして、フリー状態への切り替えと同時に、通常制御からリップルオフ制御への切り替え又はリップルオフ制御から通常制御への切り替えの際にエラーアンプ140に生じる出力の増加又は減少の変化に合わせて、電流指令値を一時的に増加又は減少させるように制御される。
即ち、通常制御からリップルオフ制御への切り替えを行う場合であって、切り替え時におけるコイル4への電流が正極の場合には、エラーアンプ140はその出力値を低減してPWM信号のデューティー比を低減させる必要があるので、中間制御での電流指令値は減少される。なお、この実施例では、指令範囲内における最小の値(−方向最大指令値)が出力される。また、切り替え時におけるコイル4への電流が負極の場合には、指令範囲内における最大の値(+方向最大指令値)が出力される。
さらに、リップルオフ制御から通常制御への切り替えを行う場合であって、切り替え時におけるコイル4への電流が正極の場合には、エラーアンプ140はその出力値を増加してPWM信号のデューティー比を増加させる必要があるので、中間制御での電流指令値は増加される。なお、この実施例では、指令範囲内における最大の値(+方向最大指令値)が出力される。また、切り替え時におけるコイル4への電流が負極の場合には、指令範囲内における最小の値(−方向最大指令値)が出力される。
なお、一般には、通常制御からリップルオフ制御への切り替え(その逆の切り替えも同様)は、ステッピングモータ1が停止した状態で行われる。このため、停止位置が、ステッピングモータ1を駆動させるステップ0〜7のいずれであるかに応じて、切り替え時におけるコイル4への電流の極性が決定される。
【0026】
デコーダ20は、カウンタ110によるコードと制御回路40によって出力されたripple信号及びPOFF信号とにより、8ビットの電流指令値と各FETのON/OFFパターンを制御する信号P1、P2とを出力する。ripple信号はリップルオフ制御の実行の有無を示す信号であり、POFF信号は中間制御の実行の有無を示す信号である。いずれも1ビットの信号で「0」が実行せず、「1」が実行を示す。
【0027】
図3はデコーダ20への入力コードと、デコーダ20から出力される電流指令値並びに信号P1、P2との対応関係を示すテーブルである。図3の[i]は通常制御の入力内容を示し、[ii]はリップルオフ制御の入力内容を示す。
図3に示す入力コードのうち、A,B,Cはカウンタ110から出力される3ビットのコードであり、Dはripple信号を示す値である。
デコーダ20における出力は、POFF=0の場合とPOFF=1の場合とで大別されており、POFF=0の場合には、前述した駆動装置200のデコーダ220と同じ出力を行うので、説明は省略する。
一方、POFF=1の場合には、中間処理を実行させる出力が行われる。具体的には、デコーダ20のD/Aコンバータ130を通じたエラーアンプ140への出力であるOUTでは、通常制御でステップ0〜3においてリップルオフ制御に切り替える場合には一律に00H(−方向最大指令値)を出力し、通常制御でステップ4〜7においてリップルオフ制御に切り替える場合には一律にFFH(+方向最大指令値)を出力し、リップルオフ制御でステップ0〜3において通常制御に切り替える場合には一律にFFH(+方向最大指令値)を出力し、リップルオフ制御でステップ4〜7において通常制御に切り替える場合には一律に00H(−方向最大指令値)を出力するようになっている。
【0028】
POFF=1の場合には、一律に信号P1=0、P2=0に出力が固定されている。これによりPWM出力回路150の出力にかかわらず、FETa=OFF、FETb=ON、FETc=ON、FETd=OFFに固定されるようになっている。
【0029】
(駆動装置の制御)
以上の構成において、図4に示す制御フローチャートに基づいて説明する。
まず、(1)通常制御→リップルオフ制御への切り替えの場合で電流方向が+方向(図3の[i]のステップの場合)について説明する。
まず、制御回路40からデコーダ20の入力POFFに1が入力されると(ステップS1)、図3の真理値表に示すようにデコーダ20への入力コードA,B,C,Dとは無関係に出力P1、P2から「0」が出力される(ステップS2)。これによりFETa、FETcがOFFとなり、電源から遮断される。この電源から遮断されている期間を「フリー状態」と称す(図5参照)。このフリー状態では、電源から電流は供給されず、ステッピングモータ1のコイル4に流れる電流はHブリッジ回路180内を還流し、そのままの値を維持し続けようとする。
【0030】
次に、デコーダ20は、現在の制御が「通常制御」か「リップルオフ制御」か判定する。即ち、入力コードDは「0」であれば通常制御、「1」であればリップル制御を示すので、入力コードDの入力が行われると(ステップS3)、デコーダ20は入力コードDの値から現在の制御を判定する(ステップS4)。
その結果、「通常制御」と判定されると、デコーダ20は、電流方向が+方向か−方向か判定する。即ち、入力コードAが「0」であれば+方向、「1」であれば−方向を示すので、入力コードAの入力が行われると(ステップS5)、デコーダ20は入力コードAの値から電流方向を判定する(ステップS6)。
【0031】
電流方向が+方向と判定されると、デコーダ20は指令出力OUTから「00H」(−方向最大指令値)を出力する(ステップS7:図5参照)。この時、指令出力に対して、電流は増えないのでエラーアンプ140の出力は−方向に増大し、リップルオフ制御時のエラーアンプ140の出力値と同じになるまで、デコーダ20は指令出力OUTから「00H」の出力を継続する。なお、この継続時間は、−方向最大指令値の出力により、エラーアンプ140がリップルオフ制御時の出力値と同じ値になるまでに必要な時間を試験的に求めるなどして適宜設定することが望ましい。
【0032】
その後、制御回路40は入力コードDへのripple信号を「1」に切り替えると共に(ステップS8)、POFF信号を「0」に切り替え、フリー状態からリップルオフ制御への切り替えが行われる(ステップS9)。
このとき、エラーアンプ140の出力値は変化しないので、PWM信号も変化しない。このためリップルオフに切り替えた時のモータ電流は変化しない為、モータの誤動作を防止することが可能となる。
【0033】
なお、電流方向が−方向の状態で、通常制御→リップルオフ制御への切り替えが行われる場合には、ステップS6の電流方向の判定において、電流方向が−方向と判定され、デコーダ20は指令出力OUTから「FFH」(+方向最大指令値)を出力する(ステップS10)。
【0034】
次に、(2)リップルオフ制御→通常制御への切り替えの場合で電流方向が+方向(図3の[ii]のステップの場合)について説明する。
ステップS1〜S4までは(1)通常制御→リップルオフ制御の場合と同様である。
デコーダ20により入力コードDの値から現在の制御の判定が行われると(ステップS4)、D=1なので、「リップルオフ制御」と判定される、デコーダ20は、電流方向が+方向か−方向か判定する。入力コードAの入力が行われると(ステップS10)、さらに、入力コードAの値から電流方向が判定される(ステップS12)。
この場合、電流方向が+方向と判定され、デコーダ20は指令出力OUTから「FFH」(+方向最大指令値)を出力する(ステップS13:図6参照)。この時、指令出力に対して、電流は減らないのでエラーアンプ140の出力は+方向に増大し、リップルオフ制御時のエラーアンプ140の出力値と同じになるまで、デコーダ20は指令出力OUTから「FFH」の出力を継続する。なお、この継続時間も、試験などにより適宜設定することが望ましい。
【0035】
その後、制御回路40は入力コードDへのripple信号を「0」に切り替えると共に(ステップS14)、POFF信号を「0」に切り替え、フリー状態から通常制御への切り替えが行われる(ステップS9)。
このとき、エラーアンプ140の出力値は変化しないので、PWM信号も変化しない。このため通常制御に切り替えた時のモータ電流は変化しない為、モータの誤動作を防止することが可能となる。
【0036】
なお、電流方向が−方向の状態で、リップルオフ制御→通常制御への切り替えが行われる場合には、ステップS12の電流方向の判定において、電流方向が−方向と判定され、デコーダ20は指令出力OUTから「00H」(−方向最大指令値)を出力する(ステップS15)。
【符号の説明】
【0037】
1 ステッピングモータ
4 A相コイル
5 B相コイル
30 駆動回路
140 エラーアンプ
150 PWM発生装置(スイッチング信号生成手段)
160 三角波発生回路(スイッチング信号生成手段)
180 Hブリッジ回路
182 電流検出手段
FETa〜FETd(第一〜第四のスイッチング素子)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステッピングモータのコイルの一端部を電源側とアース側とにそれぞれ接続する第一と第二のスイッチング素子と前記コイルの他端部を前記電源側とアース側とにそれぞれ接続する第三と第四のスイッチング素子とを備えるHブリッジ回路と、
前記スイッチング素子のON/OFFを制御することで当該コイルに流れる電流を一定の電流に制御する駆動回路と、を前記ステッピングモータのコイルごとに備え、
前記各駆動回路は、
前記コイルの電流を検出する電流検出手段と、
前記コイルに流れる電流値を定めるための電流指令値と前記電流検出手段による検出電流値との差に応じた信号出力を行うエラーアンプと、
前記エラーアンプの信号出力に基づいてONとOFFの比率を定めたスイッチング信号を生成するスイッチング信号生成手段とを備え、
前記スイッチング信号に基づいて、前記第一及び第四のスイッチング素子のON/OFFの切り替えを行うと共にこれらと反転したタイミングで前記第二及び第三のスイッチング素子のON/OFFの切り替えを行う第一の制御と、
前記スイッチング信号に基づいて、前記第一と第二のスイッチング素子とを互いに反転したタイミングでON/OFFの切り替えを行うと共に前記第三のスイッチング素子をOFF、前記第四のスイッチング素子をONに固定する第二の制御とを択一的に実行して前記各コイルの1−2相励磁を行うステッピングモータの駆動装置において、
前記二つの制御の切り替えの際に、前記第一及び第三のスイッチング素子をOFF、前記第二及び第四のスイッチング素子をONに固定すると共に切り替えにより前記エラーアンプに生じる出力の増加又は減少に合わせて電流指令値を一時的に増加又は減少させて前記エラーアンプに入力する第三の制御を介在させることを特徴とするステッピングモータの駆動装置。
【請求項1】
ステッピングモータのコイルの一端部を電源側とアース側とにそれぞれ接続する第一と第二のスイッチング素子と前記コイルの他端部を前記電源側とアース側とにそれぞれ接続する第三と第四のスイッチング素子とを備えるHブリッジ回路と、
前記スイッチング素子のON/OFFを制御することで当該コイルに流れる電流を一定の電流に制御する駆動回路と、を前記ステッピングモータのコイルごとに備え、
前記各駆動回路は、
前記コイルの電流を検出する電流検出手段と、
前記コイルに流れる電流値を定めるための電流指令値と前記電流検出手段による検出電流値との差に応じた信号出力を行うエラーアンプと、
前記エラーアンプの信号出力に基づいてONとOFFの比率を定めたスイッチング信号を生成するスイッチング信号生成手段とを備え、
前記スイッチング信号に基づいて、前記第一及び第四のスイッチング素子のON/OFFの切り替えを行うと共にこれらと反転したタイミングで前記第二及び第三のスイッチング素子のON/OFFの切り替えを行う第一の制御と、
前記スイッチング信号に基づいて、前記第一と第二のスイッチング素子とを互いに反転したタイミングでON/OFFの切り替えを行うと共に前記第三のスイッチング素子をOFF、前記第四のスイッチング素子をONに固定する第二の制御とを択一的に実行して前記各コイルの1−2相励磁を行うステッピングモータの駆動装置において、
前記二つの制御の切り替えの際に、前記第一及び第三のスイッチング素子をOFF、前記第二及び第四のスイッチング素子をONに固定すると共に切り替えにより前記エラーアンプに生じる出力の増加又は減少に合わせて電流指令値を一時的に増加又は減少させて前記エラーアンプに入力する第三の制御を介在させることを特徴とするステッピングモータの駆動装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2011−120372(P2011−120372A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−275309(P2009−275309)
【出願日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【出願人】(000003399)JUKI株式会社 (1,557)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【出願人】(000003399)JUKI株式会社 (1,557)
【Fターム(参考)】
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