説明

スパッタ方法及びスパッタ装置

【課題】単一のスパッタ装置によって金属材料を凹部に埋め込む際にその埋め込み性を向上させることができるスパッタ方法及び該スパッタ方法に用いられるスパッタ装置を提供する。
【解決手段】
基板Sの凹部内に金属材料を埋め込むスパッタ方法では、基板Sにバイアス電圧を印加しつつターゲット18をスパッタする第1の工程と、基板Sにバイアス電圧を印加しない状態でターゲットをスパッタする第2の工程とを有し、第1の工程と第2の工程とは真空槽11内で順に実行される。第1の工程では、ターゲット18から放出された金属粒子とプラズマ中の荷電粒子とが衝突する圧力でターゲット18をスパッタして電荷を帯びた金属粒子を生成し、電荷を帯びた金属粒子を凹部の内部に向けてバイアス電圧により引き込む。第2の工程では、基板Sに付着する金属粒子が凹部内に流動するように基板Sの温度を第1の工程よりも高くしてターゲット18をスパッタする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁膜に形成された凹部に金属材料を埋め込むスパッタ方法、及び該スパッタ方法に用いられるスパッタ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置においては、従来から、高機能化や縮小化を目的として、複数の配線をビアプラグによって接続した多層配線構造が広く採用されている。近年では、多層配線構造の微細化に応えるために、ビアプラグが微細化されている一方、この微細化によって電流密度が増大してエレクトロマイグレーションが深刻化しつつある。
【0003】
エレクトロマイグレーションを低減する提案としては、例えば特許文献1に記載のように、2つのスパッタ工程によってビアプラグを形成する2ステップのスパッタ方法が知られている。2ステップのスパッタ方法では、まず小さい粒径の結晶粒からなるライナー層がビアホールの内面の全体に形成され、次いで粒径の大きい結晶粒からなるバルク層がライナー層の内側に加熱によって埋め込まれる。こうした2ステップのスパッタ方法によれば、ビアプラグを構成する結晶粒の境界がビアプラグの延びる方向と平行な方向に揃いやすく、ビアプラグの延びる方向と垂直な方向には揃い難くなる。その結果、結晶粒の境界の方向と電流の方向とに起因したエレクトロマイグレーションが抑えられ、上記多層配線構造を有する半導体装置の信頼性を向上させることが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−260770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、2ステップスパッタ法によって形成されるライナー層及びバルク層には、ビアホールへの埋め込み性を高めるために、以下のような互いに異なる成膜条件が必要とされる。まずビアホールの内面の全体に成膜されるライナー層に対しては、ライナー層自体の高い被覆性と、バルク層よりも小さい粒径を得るための低い成膜温度とが必要とされる。次いでライナー層に積層されるバルク層に対しては、ライナー層よりも大きな粒径と、ライナー層上で結晶粒が流れるための高い成膜温度とが必要とされる。そのため、上述した2ステップのスパッタ方法においては、スパッタ方式が互いに異なる2種類のスパッタ装置によって、ライナー層とバルク層とが形成されている。
【0006】
ライナー層を形成するスパッタ装置としては、ターゲットと基板との間の距離であるTS距離を長くして、ターゲットからスパッタされた粒子を基板に対してほぼ垂直に飛行させる方式、いわゆるロングスロー方式が採用されている。加えて、ライナー層の形成時において基板を加熱しない方式が併用されている。これらの方式によれば、ビアホールの底面に対してほぼ垂直にスパッタ粒子が飛行することから、ライナー層自体が高い被覆性を有するようになる。そのうえ、例えば200℃以下の低温に基板の温度が保たれることになるため、絶縁膜に付着したスパッタ粒子が結晶粒として成長し難くなり、ライナー層を構成する結晶粒の粒径が比較的小さくなる。
【0007】
これに対して、バルク層を形成するスパッタ装置としては、バルク層の形成時において基板を加熱して結晶粒を流動させる方式、いわゆるリフロー方式が採用されている。加えて、様々な方向に飛行する粒子を基板に付着させるように、TS距離を短くした方式が採
用されている。これらの方式によれば、例えば400℃という高温に基板の温度が保たれることになるため、ライナー層を構成する結晶粒よりも大きい粒径からなる結晶粒がライナー層上に形成される。そして、上層を構成する結晶粒に流動性が発現されるようになる結果、バルク層を構成する結晶粒は、スパッタ粒子の飛行した方向にかかわらず、ビアホールの開口付近やビアホールの内周面付近からビアホールの底に向けて流れてビアホールの内部の全体を埋め込むようになる。
【0008】
しかしながら、ライナー層とバルク層とを形成するために2つの異なるスパッタ方式が採用されると、スパッタ方式に即した個別のスパッタ装置が少なくとも2台必要となる。そのうえ、バルク層を形成する前にライナー層が大気に触れることを回避するためには、2台のスパッタ装置の間を例えば真空搬送チャンバといった他の真空装置によって連結することが必要となる。その結果、半導体装置を製造する装置の大型化や煩雑化が免れ得ないことになる。
【0009】
なお、製造装置の大型化や煩雑化という問題は、上記ビアプラグの他、能動素子と配線とを接続するコンタクトプラグを形成する装置にも起こりえる問題であって、ロングスロー方式とリフロー方式とを用いて1つの配線要素を形成する装置に概ね共通する問題である。
【0010】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、単一のスパッタ装置によって金属材料を凹部に埋め込む際にその埋め込み性を向上させることができるスパッタ方法及び該スパッタ方法に用いられるスパッタ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以下、上記課題を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
請求項1に記載の発明は、真空槽内に生成されたプラズマ中のイオンで該真空槽内に設けられた金属ターゲットをスパッタすることによって該真空槽内に配置された基板が有する凹部の内部に金属材料を埋め込むスパッタ方法において、前記基板にバイアス電圧を印加しつつ前記金属ターゲットをスパッタする第1の工程と、前記基板にバイアス電圧を印加しない状態で前記金属ターゲットをスパッタする第2の工程とを前記真空槽内で順に実行し、前記第1の工程では、前記金属ターゲットから放出された金属粒子と前記プラズマ中の荷電粒子とが衝突する圧力で前記金属ターゲットをスパッタして電荷を帯びた金属粒子を生成し、該電荷を帯びた金属粒子を前記凹部の内部に向けて前記バイアス電圧により引き込み、前記第2の工程では、前記基板に付着する金属粒子が前記凹部内に流動するように前記基板の温度を前記第1の工程よりも高くして前記金属ターゲットをスパッタすることをその要旨とする。
【0012】
本発明のスパッタ方法によれば、第1の工程においては、スパッタされた金属粒子がプラズマ中の荷電粒子と衝突して電荷を帯びた金属粒子となる。金属粒子は、プラズマ中の多重散乱により指向性を失うが、基板に印加されたバイアス電圧によって、基板に設けられた凹部の内部に向けて飛行するようになる。その結果、基板に設けられた凹部の底に金属粒子が到達しやすくなり、凹部の内表面における金属粒子の被覆率が向上される。一方、第2の工程においては、バイアス電圧が基板に印加されていない状態で成膜が実施されるため、プラズマ中のイオンがバイアス電圧によって引き込まれて基板に付着した金属粒子をスパッタするいわゆる逆スパッタが抑えられる。その結果、第2の工程における成膜速度は、第1の工程における成膜速度と比較して高くなる。
【0013】
そして、第1の工程における基板の温度が第2の工程における基板の温度よりも低いため、凹部内に付着した金属粒子の粒径が第1の工程と第2の工程とで互いに異なるようになる。そのうえ、第2の工程における基板の温度が金属粒子を凹部内へ流動させる温度で
あるため、第1の工程にて凹部内に形成される金属膜中の結晶粒の粒径は、第2の工程にて形成される金属膜中の結晶粒の粒径よりも小さくなる。その結果、第1の工程にて形成される金属膜と第2の工程にて形成される金属膜との界面において、第2の工程にて付着した金属粒子の流動性が促進されて凹部内に金属材料が埋め込まれやすくなる。
【0014】
このように、本発明のスパッタ方法によれば、単一のスパッタ装置を用いて金属材料を凹部内に埋め込む際に、該金属材料の埋め込み性を高めることが可能である。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のスパッタ方法において、前記第2の工程では、前記真空槽内の圧力を前記第1の工程よりも低くして前記金属ターゲットをスパッタすることをその要旨とする。
【0015】
この発明によれば、第2の工程における真空槽内の圧力が第1の工程よりも低い圧力とされるため、スパッタされた金属粒子と他の粒子との衝突頻度が第1の工程よりも低くなる。その結果、スパッタされた金属粒子が散乱され難くなる分、単位時間当たりに基板に到達する金属粒子の数が増加して成膜速度が第1の工程よりも高くなる。第2の工程においては金属粒子に与えられる流動性によって埋め込み性が担保されるため、この第2の工程の成膜速度が高くなる分、埋め込み性を維持しつつ埋め込み処理の速度を高くすることが可能となる。
【0016】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載のスパッタ方法において、前記真空槽内に設けられて前記基板を静電的に吸着し、且つ、吸着力に応じた熱量で前記基板を加熱する静電チャックを用い、前記第1の工程では、前記静電チャックの電極に第1の直流電圧を印加する、前記第2の工程では、前記静電チャックの電極に前記第1の直流電圧よりも高い第2の直流電圧を印加することによって、前記基板の温度を前記第1の工程よりも高くすることをその要旨とする。
【0017】
一般に、真空槽内で基板を加熱する加熱機構としては、基板を静電的に吸着する静電チャックに該基板を加熱するためのヒーターを搭載して基板と静電チャックとの機械的な接触によって基板に熱を与えるものが知られている。この発明によるように、相対的に高い基板温度が必要とされる第2の工程で第1の工程よりも高い直流電圧を静電チャックの電極に印加すれば、真空槽内に生成されるプラズマの状態を変更させることなく、基板の温度のみを2段階に変更することができる。それゆえに、プラズマから基板へ供給される熱量に関わらず基板の温度のみを変更することが可能であるため、第1の工程や第2の工程における圧力等の各種の条件から基板の温度に関わる制約を取り除くことが可能である。ひいては、第1の工程や第2の工程における各種の条件の自由度を拡張させて、金属材料の埋め込み性をより向上させることが可能である。
【0018】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載のスパッタ方法において、前記金属ターゲットがアルミニウムを含んでなるターゲットであり、前記金属ターゲットと前記基板との距離が30mm以上且つ90mm以下であり、前記第1の工程では、周波数が13.56MHzの高周波電力を前記基板に供給することによって前記基板にバイアス電圧を印加し、前記真空槽内の圧力が5Pa以上且つ50Pa以下であり、前記基板の温度が20℃以上且つ200℃以下であり、前記高周波電力が7×10−4W/mm以上且つ7×10−3W/mm以下である、前記第2の工程では、前記真空槽内の圧力が0.01Pa以上且つ0.5Pa以下であり、前記基板の温度が350℃以上且つ450℃以下であることをその要旨とする。
【0019】
この発明によれば、金属粒子の飛行距離であるターゲットと基板との距離が30mm以上且つ90mm以下であって、且つ、第1の工程での圧力が5Pa以上且つ50Pa以下である。ターゲットから放出された金属粒子とプラズマ中の荷電粒子との衝突頻度とは、
ターゲットと基板との距離が長くなるほど、また真空槽内の圧力が高くなるほど、高くなる。また電荷を帯びた金属粒子とは、ターゲットと基板との距離が短くなるほど、基板に印加されるバイアス電圧によって引き込まれやすくなる。この点、上記スパッタ方法においては、第1の工程での真空槽内の圧力と、ターゲットと基板との距離と、高周波電力の供給量とが上記の範囲に設定されるため、放出された金属粒子と荷電粒子との衝突と、電荷を帯びた金属粒子の引き込みとがより確実に起こるようになる。
【0020】
また、金属粒子の飛行距離であるターゲットと基板との距離が30mm以上且つ90mm以下であって、且つ、第2の工程における真空槽内の圧力が0.01Pa以上且つ0.5Pa以下である。ターゲットから放出された金属粒子の基板の表面への到達頻度は、ターゲットから放出された金属粒子が真空槽内に滞在するガスによって散乱されないほど高くなる。この点、上記スパッタ方法においては、ターゲットをスパッタする粒子数を確保しながらも、スパッタ粒子と真空槽内の各種粒子との衝突回数を抑制でき、上記成膜レートを向上させることができる。
【0021】
加えて、第1の工程での基板の温度が20℃以上且つ200℃以下であるため、第1の工程にて形成されるアルミニウム含有膜の粒子径の拡大が抑えられる。また第2の工程での基板の温度が350℃以上且つ450℃以下であるため、第2の工程にて形成されるアルミニウム含有膜の流動性が確実に発現可能となる。
【0022】
請求項5に記載の発明は、真空槽内に設けられた金属ターゲットを前記真空槽内に生成されたプラズマ中のイオンでスパッタすることによって前記真空槽内に配置された基板が有する凹部の内部に金属材料を埋め込むスパッタ装置において、前記真空槽内の圧力を調整する圧力調整部と、前記基板にバイアス電圧を印加するバイアス電源と、前記基板の温度を調整する温調部と、これら圧力調整部、バイアス電源、及び温調部の駆動態様を制御する制御部とを備え、前記制御部は、前記金属ターゲットから放出された金属粒子と前記プラズマ中の荷電粒子とが衝突するように前記真空槽内の圧力を調整することによって電荷を帯びた金属粒子を生成するとともに、該電荷を帯びた金属粒子を前記凹部の内部に引き込むように前記基板に前記バイアス電圧を印加した後、前記バイアス電圧を印加しない状態で、前記真空槽内の圧力を低くするとともに、前記基板に付着する金属粒子が前記凹部内に流動するように前記基板の温度を高くすることをその要旨とする。
【0023】
本発明のスパッタ装置によれば、まずスパッタされた金属粒子がプラズマ中の荷電粒子と衝突して電荷を帯びた金属粒子となる。金属粒子は、プラズマ中の多重散乱により指向性を失うが、基板に印加されたバイアス電圧によって、基板に設けられた凹部の内部に向けて飛行するようになる。その結果、基板に設けられたれた凹部の底に金属粒子が到達しやすくなり、凹部の内表面における金属粒子の被覆率が成膜の初期において向上される。次いで、バイアス電圧が基板に印加されていない状態で成膜が継続されるため、プラズマ中のイオンがバイアス電圧によって引き込まれて基板に付着した金属粒子をスパッタするいわゆる逆スパッタが抑えられる。その結果、初期膜が形成された後の成膜速度は、初期膜の形成時における成膜速度と比較して高くなる。
【0024】
そして、初期膜の形成時における基板の温度が初期膜の形成後における基板の温度よりも低いことから、凹部内に付着した金属粒子の粒径が初期膜と初期膜に積層される膜とで互いに異なるようになる。そのうえ、初期膜の形成後における基板の温度が金属粒子を凹部内へ流動させる温度であるため、凹部内に形成される初期膜中の結晶粒の粒径は、初期膜に積層される膜中の結晶粒の粒径よりも小さくなる。その結果、初期膜と初期膜に積層される膜との界面において、初期膜に積層される膜中の金属粒子の流動性が促進されて凹部内に金属材料が埋め込まれやすくなる。
【0025】
このように、本発明のスパッタ装置によれば、単一のスパッタ装置を用いて金属材料を凹部内に埋め込む際に、該金属材料の埋め込み性を高めることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施の形態にかかるスパッタ装置の概略構成を示す概略構成図。
【図2】スパッタ装置に設けられたチャック電源の駆動態様とチャック電圧との関係を示す図。
【図3】(a)高圧雰囲気での成膜処理における金属粒子の挙動を概念的に示す概念図、(b)低圧雰囲気での成膜処理における金属粒子の挙動を概念的に示す概念図。
【図4】(a)〜(g)本実施の形態のスパッタ方法を用いた成膜処理における各種動作及びそれの作用のタイミングを示すタイミングチャート。
【図5】(a)高圧雰囲気下の成膜工程における膜成長を概念的に示す概念図、(b)低圧雰囲気下の成膜工程における膜成長を概念的に示す概念図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、本発明のスパッタ方法、及び該スパッタ方法を実施するためのスパッタ装置を具現化した一実施の形態について、図1〜図5を参照して説明する。図1は、スパッタ装置の概略構成を示している。
【0028】
スパッタ装置が有する真空槽11の内部には、処理対象である基板Sに成膜処理を施す成膜空間11aが形成されている。真空槽11には、例えばアルゴン(Ar)ガス等のスパッタガスの流量を調整するマスフローコントローラMFCが、供給配管12を介して連結されている。マスフローコントローラMFCからは、アルゴンガスが所定範囲の流量で成膜空間11a内に供給される。なお、スパッタガスとしては、アルゴンガスに限らず、ネオン(Ne)ガス、クリプトン(Kr)、あるいはキセノン(Xe)ガス等の希ガス元素の気体を用いることができる。
【0029】
真空槽11には、ターボ分子ポンプやドライポンプ等を有してなる排気部PUが、排気配管13を介して連結されている。マスフローコントローラMFCが成膜空間11aに供給するガスの単位時間あたりの流量と排気部PUの排気速度とによって成膜空間11aの圧力が決定される。本実施の形態では、排気部PUの排気速度が一定に維持されて、マスフローコントローラMFCの供給するガスの流量が変更されることによって、成膜空間11a内の圧力が所定の値に調整される。本実施の形態では、例えば、マスフローコントローラMFC、供給配管12、排気部PU、及び排気配管13が圧力調整部を構成する。
【0030】
真空槽11の内部である成膜空間11aには、基板Sを載置して該基板Sの位置を固定する基板ステージ14が設けられている。基板ステージ14の内部には、基板Sの載置面を構成するヒーター15が設けられている。ヒーター15には、これに供給する電流値を制御して、ヒーター15の温度を調整するヒーター制御部HCが接続されている。ヒーター15は、それに載置された基板Sを加熱して、基板Sの温度を所定範囲に調整する。本実施の形態では、温調部として例えばヒーター15が温調部を構成する。
【0031】
ヒーター15には、基板Sが載置される面に開口する複数の凹部15aと、凹部15aと温調ガス制御部TCとを連通する温調ガス流路15bが形成されている。温調ガス制御部TCからは、温調ガス流路15bを通して凹部15aに所定の流量でヘリウムガス等の温調ガスが供給される。凹部15aに供給された温調ガスは、ヒーター15の発する熱の媒体となり、ヒーター15に載置された基板Sにヒーター15の熱を効率よく伝える。なお、上述した温調ガスとしては、上述のヘリウムガスに限らず、例えばアルゴンガスや窒素ガス等の不活性ガスを用いることができる。
【0032】
基板ステージ14には、バイアス用高周波電源G1が接続されている。またヒーター15の内部に設けられたチャック電極16には、チャック電源G2が接続されている。
バイアス用高周波電源G1は、所定の高周波電力を基板ステージ14に供給する。そしてバイアス用高周波電源G1から基板ステージ14に高周波電力が供給されると、基板Sに負のバイアス電圧が印加される。チャック電源G2は、基板Sをヒーター15に吸着させるための所定の直流電圧をチャック電極16に印加する。そしてチャック電源G2からチャック電極16に直流電圧が印加されると、直流電圧に応じた静電気力が基板Sとヒーター15との間に発生して基板Sが静電的にヒーター15に吸着される。本実施の形態では、これら基板ステージ14、ヒーター15、チャック電極16、及びチャック電源G2によって、基板Sを静電的に吸着しつつ加熱する静電チャックが構成されている。
【0033】
基板ステージ14の上方には、基板Sの周方向の略全体に渡って、円筒形状の防着板17が配設されている。防着板17は、成膜空間11a内で成膜処理が実施されるとき、真空槽11の内壁に対するスパッタ粒子の付着を抑制する。
【0034】
基板ステージ14の直上、且つ防着板17の上方には、アルミニウム−銅合金(Al−Cu)を主成分として円板状に形成されたターゲット18が配設されている。ターゲット18には、ターゲット電源G3に接続されたターゲット電極19が取り付けられている。ターゲット電極19は、ターゲット18の被スパッタ面と基板Sの被成膜面とが相対向し、且つターゲット18と基板Sとの距離であるTS距離DTSが所定の距離になるように真空槽11に固定されている。
【0035】
ターゲット電極19の上方には、ターゲット18の被スパッタ面に沿ってマグネトロン磁場を形成する磁気回路21が配設されている。そしてターゲット電極19にターゲット電源G3から所定の直流電圧が印加されると、成膜空間11a内に供給されたスパッタガスがターゲット18の被スパッタ面の近傍でプラズマ化される。さらに、磁気回路21の形成するマグネトロン磁場によって、ターゲット18の被スパッタ面の近傍でプラズマ密度が高くなる。
【0036】
スパッタ装置には、バイアス用高周波電源G1、チャック電源G2、及びターゲット電源G3を含む各種電源と、ヒーター制御部HC及び温調ガス制御部TC等の各種制御部が電気的に接続された主制御部22が設けられている。主制御部22は、各種電源、及び各種制御部に、それらの駆動態様を制御するための各種の命令(コマンド)を与える。主制御部22が有する記憶部23には、各種電源、及び各種制御部の駆動態様とコマンドとを対応付けたテーブルなどが格納されている。
【0037】
スパッタ装置では、ヒーター15が所定の温度に加熱された状態で基板Sが成膜空間11aに搬入されると、所定流量のアルゴンガスが成膜空間11aに供給される。次いで、チャック電源G2からチャック電極16に所定の直流電圧が印加され、基板Sが基板ステージ14に静電吸着される。その後、ターゲット電源G3から所定の電圧がターゲット18に印加されることによってアルゴンガスからなるプラズマが生成されて、ターゲット18の被スパッタ面がプラズマ中のアルゴンイオンによってスパッタされる。
【0038】
本実施の形態において、スパッタ装置の処理対象は、絶縁膜に形成された凹部を有する基板Sであり、スパッタ装置は、成膜空間11a内での成膜処理を通じてAl−Cuからなる配線を凹部内に形成する。主制御部22が実行する成膜処理は、基板Sにバイアス電圧を印加しつつターゲット18をスパッタする第1の工程と、基板Sにバイアス電圧を印加せずにターゲット18をスパッタする第2の工程とによって構成される。主制御部22は、これら第1の工程と第2の工程とを順に実行する。第1の工程では、ターゲット18のスパッタによって放出されたスパッタ粒子と、正電荷を有したアルゴンイオンとが衝突
するように、真空槽11内の圧力が設定される。第2の工程では、スパッタ粒子とアルゴンイオンとの衝突が起こらないように、真空槽11内の圧力が第1の工程における圧力よりも低く設定される。また、第2の工程では、基板Sの温度が、第1の工程における基板Sの温度よりも高く設定される。なお、成膜処理に際しては、第1の工程及び第2の工程に渡り、ヒーター制御部HCからヒーター15に所定の電流が供給されてヒーター15の温度が400℃に維持されている。そして基板Sとヒーター15との間に作用する静電的な吸着力によって基板Sの温度が制御されている。
【0039】
上記第1の工程及び第2の工程での基板温度の調節方法を、図2を参照して説明する。図2は、スパッタ装置に設けられた主制御部22がチャック電源G2に出力する命令であるチャックコマンドとチャック電源G2がチャック電極16に印加するチャック電圧とを対応付けたテーブルを示している。
【0040】
チャックコマンドには、「OFF」、「ON1」、及び「ON2」の3種類が用意されている。主制御部22がチャックコマンド「OFF」を選択してチャック電源G2に出力すると、チャック電源G2は、チャック電極16に印加するチャック電圧を0Vとする。また、主制御部22がチャックコマンド「ON1」を選択してチャック電源G2に出力すると、チャック電源G2は、チャック電極16に印加するチャック電圧を100V(第1の直流電圧)とする。そして、主制御部22がチャックコマンド「ON2」を選択してチャック電源G2に出力すると、チャック電源G2は、チャック電極16に印加するチャック電圧を800V(第2の直流電圧)とする。
【0041】
チャック電圧が0Vに設定されると、基板Sとヒーター15との間に静電的な吸着力が発現せず、基板Sが基板ステージ14に吸着されない状態となる。チャック電圧が100V及び800Vに設定されると、基板Sとヒーター15との間に静電的な吸着力が発現し、基板Sが基板ステージ14に吸着された状態となる。チャック電圧が100Vに設定される場合、チャック電圧が800Vに設定される場合と比較して、基板Sとヒーター15との間の吸着力が弱くなり、ヒーター15から基板Sへ熱が伝わり難くなる。そのため、チャック電圧が100Vに設定される場合、チャック電圧が800Vに設定される場合よりも基板の温度が低くなる。
【0042】
本実施の形態では、成膜処理が実施されていないとき、及び成膜処理が完了したときに、主制御部22によってチャックコマンド「OFF」が選択される。また、第1の工程が実施されるときに、主制御部22によってチャックコマンド「ON1」が選択され、基板Sの温度が200℃以下に維持される。そして、第2の工程が実施されるときに、主制御部22によってチャックコマンド「ON2」が選択され、基板Sの温度が350℃以上且つ450℃以下に維持される。
【0043】
このような構成によれば、チャック電極16に印加するチャック電圧によって基板Sの温度を変更するようにしているため、真空槽11内に生成されるプラズマの状態を変更させることなく、基板Sの温度のみを段階的に変更することができる。そして、プラズマから基板Sへ供給される熱量に関わらず基板Sの温度のみを変更することが可能であるため、第1の工程や第2の工程における圧力等の各種の条件から基板Sの温度に関わる制約を取り除くことが可能である。
【0044】
ここで、成膜処理によって基板S上に形成されるAl−Cu膜の構成粒子は、成膜時の基板温度に依存することが知られている。詳しくは、成膜処理時の基板Sの温度が低い程、Al−Cu膜を構成する粒子の粒径は小さくなり、基板Sの温度が高い程、Al−Cu膜を構成する粒子の粒径は大きくなる。そのため、本実施の形態では、第1の工程で形成されたAl−Cu膜を構成する粒子の粒径よりも、第2の工程で形成されたAl−Cu膜
を構成する粒子の粒径の方が大きくなる。
【0045】
次に、成膜処理時の真空槽11内の圧力がスパッタ粒子である金属粒子の軌道や金属膜の成膜速度に与える作用を、図3を参照して説明する。図3(a)は、真空槽11内を高圧Pの雰囲気として成膜処理を実施したときの金属粒子の挙動を概念的に示しており、図3(b)は、真空槽11内を低圧Pの雰囲気として成膜処理を実施したときの金属粒子の挙動を概念的に示している。なお、図3(a)に示される高圧雰囲気の成膜処理では、基板Sにバイアス電圧が印加されてもいる。また上述のように、本実施の形態では、真空槽11内に供給配管12を介して供給されるアルゴンガスの単位時間あたりの流量を変更することによって、真空槽11内の圧力を調整している。
【0046】
図3(a)に示されるように、真空槽11内の圧力を5Pa以上且つ50Pa以下の高圧Pの条件としてターゲット18に例えば10kW以上の電圧を印加する成膜処理を実施すると、成膜空間11aにおけるターゲット18近傍の領域Aにて、アルゴンガスが励起されて正イオンとなる。そして領域A内の正イオンとなったアルゴンが、ターゲット18の被スパッタ面をスパッタし、Al、Cu、あるいはAlとCuとの合金からなる金属粒子MPが放出される。
【0047】
真空槽11内の圧力が高圧Pであるため、放出された金属粒子MPは、成膜空間11aにおける上記領域A又は領域Aの基板S側の領域B内で、正の荷電粒子IPであるアルゴンイオンと1回以上衝突する。これにより、中性の金属粒子MPと正の荷電粒子IPとの間で電荷の交換が起こる。なお、ターゲット18と基板Sとの距離であるTS距離DTSを30〜90mm、真空槽11内の圧力を5Pa以上且つ50Pa以下とするとき、金属粒子MPと荷電粒子IPとの平均衝突回数は数百回である。すなわち、本実施の形態における高圧Pとは、金属粒子MPと荷電粒子IPとの平均衝突回数が1回となる基準圧力PTH以上の圧力である。
【0048】
そして正の電荷を有する金属粒子MPが、基板S近傍の領域Cに到達すると、基板Sに印加された負のバイアス電圧により基板Sの被成膜面に引き込まれる。そのため、真空槽11内の圧力を高圧Pとして成膜処理を実施すると、ターゲット18の被スパッタ面から放出された金属粒子MPは、それの飛行方向に対して指向性、特に基板Sにおける被成膜面の法線方向に沿った指向性を付与されることになる。
【0049】
他方、図3(b)に示されるように、ターゲット18に例えば10kW以上の電圧を印加し、真空槽11内の圧力を0.01Pa以上且つ0.5Pa以下の低圧Pの条件として成膜処理を実施すると、領域Aにてアルゴンが正イオンとなる。そしてアルゴンの正イオンは、ターゲット18の被スパッタ面をスパッタし、Al、Cu、あるいはAlとCuとの合金からなる金属粒子MPが放出される。
【0050】
放出された金属粒子MPは、それのほとんどが領域Aの基板S側の領域B内で正の荷電粒子IPと衝突せず、金属粒子MPは中性に維持された状態で、基板Sの被成膜面に着弾する。この際、基板Sにはバイアス電圧が印加されていないため、ターゲット18の被スパッタ面から放出された金属粒子MPのほとんどが放出角度の分布を維持しつつ領域Bを飛行して基板Sの被成膜面に着弾する。なお、ターゲット18と基板Sとの距離であるTS距離DTSを30〜90mm、真空槽11内の圧力を0.01Pa以上且つ0.5Pa以下とするとき、金属粒子MPと荷電粒子IPとの平均衝突回数は1回である。すなわち、本実施の形態における低圧Pとは、金属粒子MPと荷電粒子IPとの平均衝突回数が1回となる基準圧力PTHよりも低い圧力である。
【0051】
ここで、ターゲット18に印加される電圧が一定であるとき、真空槽11内の圧力と基
板Sの被成膜面における成膜速度とは、真空槽11内の圧力が下記(i)〜(iii)のいずれの範囲にあるかによって異なる関係を有する。
【0052】
(i)真空槽11内のアルゴン粒子の数量がターゲット18への印加電圧に対して不足しているとき、アルゴン粒子の数量、すなわち真空槽11内の圧力が高くなるほど成膜速度が高くなる。
【0053】
(ii)真空槽11内のアルゴン粒子の数量がターゲット18への印加電圧に対して過不足ないとき、アルゴン粒子の数量、すなわち真空槽11内の圧力にかかわらず成膜速度は略一定の速度に維持される。
【0054】
(iii)真空槽11内のアルゴン粒子の数量がターゲット18への印加電圧に対して過不足ない範囲を超えるとき、アルゴン粒子の数量、すなわち真空槽11内の圧力が高くなるほど成膜速度が低くなる。
【0055】
本実施の形態においては、第1の工程における真空槽11内の圧力が(iii)の圧力範囲に含まれる高圧Pであり、第2の工程における真空槽11内の圧力が(ii)の圧力範囲に含まれる低圧Pである。そのため、第1の工程では、基板Sが有する凹部の底に金属粒子MPを到達しやすくできるものの、成膜速度が低くなる。一方、第2の工程では、第1の工程における成膜速度の低下を補うべく、第1の工程と比較して、より高い成膜速度が得られる。
【0056】
本実施の形態のスパッタ方法を用いた成膜処理を実施したときの、スパッタ装置の駆動態様とその作用とを、図4及び図5を参照して説明する。図4は、成膜処理を実施したときの(a)マスフローコントローラMFC、及び(b)(c)(d)各種電源の駆動態様と、(e)真空槽11内の圧力である成膜圧力、(f)基板Sの温度、及び(g)基板Sの裏面に供給されるアルゴンガスの圧力の変化のタイミングとを示している。図5は、各工程における金属膜の成長過程を概念的示しており、図5(a)は第1の工程における金属膜の成長過程を、図5(b)は第2の工程における金属膜の成長過程をそれぞれ示している。
【0057】
図4に示されるように、基板Sが成膜空間11a内に搬入されると、第1の工程の開始時であるタイミングt1にて、マスフローコントローラMFCから成膜空間11a内に、例えば3〜500sccmの流量F2にてアルゴンガスが供給される(図4(a))。これにより、成膜圧力は圧力P、例えば5Pa以上且つ50Pa以下となる(図4(e))。
【0058】
次いで、主制御部22においてチャックコマンド「ON1」が選択されて、チャック電源G2からチャック電極16に例えば100Vのチャック電圧V1が印加される(図4(d))。これにより、基板Sが基板ステージ14に静電吸着されて、基板Sの温度が温度T1、例えば200℃以下で維持される(図4(f))。
【0059】
続いて、ターゲット電源G3からターゲット18にターゲット電圧Vt、例えば10kW以上の電圧が印加される。これにより、アルゴンガスからなるプラズマが生成されるとともに、ターゲット18の被スパッタ面がアルゴンイオンによってスパッタされて金属粒子MPが放出される(図4(b))。
【0060】
また成膜空間11a内にプラズマが生成されると、バイアス用高周波電源G1がチャック電極16に電力量Vb、例えば7×10−4W/mm以上且つ7×10−3W/mm以下の高周波電力を供給する。これにより、基板Sに負のバイアス電圧が印加される(
図4(c))。なお、第1の工程では、基板Sの裏面にアルゴンガスが供給されないため、それの圧力PArは0とされる。
【0061】
要するに、第1の工程では、
・真空槽11内の圧力が基準電圧PTH以上の高圧P
・バイアス用高周波電源G1が「ON」
・チャックコマンドとして「ON1」
これらが選択された条件にて成膜処理が実施される。
【0062】
これによれば、図5(a)に示されるように、ターゲット18の被スパッタ面から放出された金属粒子MPは、荷電粒子であるアルゴンイオンとの衝突によって電荷を帯び、基板Sに印加されたバイアス電圧の作用で凹部Hの底に向けた指向性を有するようになる。そのため、凹部Hの側壁ばかりでなく、それの底部にもAl−Cu合金の薄膜であるライナー層Lが形成される。このとき、基板Sの温度が200℃以下とされていることから、ライナー層Lを構成するAl−Cu合金の粒子の粒径は、その成長が抑えられる。
【0063】
第1の工程の開始から所定時間が経過すると、タイミングt2にて第2の工程が開始される。第2の工程の開始に際してはまず、バイアス用高周波電源G1がチャック電極16への高周波電力の供給を停止する(図4(c))。このように、第2の工程においては、それの開始時にバイアス用高周波電源G1が「OFF」とされることから、第1の工程にて形成されたライナー層Lにアルゴンイオンが引き込まれるいわゆる逆スパッタの発生を抑制できる。そのため、ライナー層Lが逆スパッタにより削られることを抑制できる。
【0064】
次いで、マスフローコントローラMFCから成膜空間11aに流量F2よりも低い流量F1、例えば20〜100sccmにてアルゴンガスが供給される(図4(a))。アルゴンガスの流量と排気系の調整によって、成膜圧力が、基準圧力PTHよりも高い圧力Pから、基準圧力PTHよりも低い圧力P、例えば0.01Pa以上且つ0.5Pa以下に変更される(図4(e))。そして、チャック電源G2からチャック電極16に印加される電圧が、チャック電圧V1からチャック電圧V2、例えば800Vに変更される。つまり、主制御部22によってチャックコマンドとして「ON2」が選択される。これにより、基板Sとヒーター15との接触面積が大きくなり、ヒーター15から発せられる熱の伝達効率が高められて、基板Sの温度が温度T1から温度T2、例えば350℃以上且つ450℃以下に上昇する(図4(f))。このとき、基板Sへの熱の伝導をより高めるために、温調ガス制御部TCから基板Sの裏面にアルゴンガスが圧力PAr、例えば400Paの圧力で供給される(図4(g))。
【0065】
要するに、第2の工程では、
・真空槽11内の圧力が基準圧力PTH未満の低圧P
・バイアス用高周波電源G1が「OFF」
・チャックコマンドとして「ON2」
これらが選択された条件にて成膜処理が実施される。
【0066】
これによれば、図5(b)に示されるように、ターゲット18の被スパッタ面から放出された金属粒子MPは、成膜空間11a内の他の粒子との衝突し難く、放出角度の分布を維持して基板Sに着弾する。そのため、金属粒子MPは放出時に付与された飛行方向の指向性を有して基板Sにまで到達し、バルク層Lを形成する。加えて、金属粒子MPは、荷電粒子等によって散乱されることなく基板Sにまで着弾する可能性が高いため、基板Sにおける成膜速度が高く維持される。このとき、基板Sの温度が350℃以上且つ450℃以下とされるため、バルク層Lを構成するA−Cu合金の粒子は、第1の工程で形成
されたライナー層Lを構成するAl−Cu合金の粒子よりも大きい粒径にまで成長する。その結果、ライナー層Lとバルク層Lとの境界では、高温条件との協同によって、バルク層Lが流動性を有するようになる。そしてバルク層Lの流動によって凹部Hの内部にAl−Cu合金膜が流入することとなり、凹部HがAl−Cu合金膜によって埋め込まれることになる。
[実施例]
真空槽内の圧力と基板温度とが異なる第1及び第2の工程からなるスパッタ方法を用いて、基板に形成された凹部としてのビアホールにビアプラグを埋め込む成膜処理を実施した。そして第1及び第2の工程後のビアホール内の断面像と、第1の工程後のビアホール内の断面像とを走査型電子顕微鏡によって撮像し、各工程の埋め込み性を評価した。なお、スパッタ装置が有するターゲットとしては、Al−Cu合金を用いた。
【0067】
・ビアホールの形状
開口部の直径 136nm
底面の直径 136nm
開口部と底部との間の長さ(ビアホールの深さ) 286nm
アスペクト比 2.1
・TS距離 45mm
・ターゲット電圧(DC) 14kW
・真空槽内の圧力(アルゴンガス供給流量)
第1の工程 20Pa(55sccm)
第2の工程 0.12Pa(30sccm)
・バイアス電圧(規格値)
第1の工程 200W(0.003W/mm
第2の工程 0W
・膜厚
ライナー層 200nm
バルク層 500nm
上記条件によれば、Al−Cu合金によってビアホール内が完全に埋め込まれていることが分った。また第1の工程により形成されたライナー層のうちビアホール底面の膜厚をTb、ビアホール側面の膜厚Td、開口外側の膜厚Toを測定した結果、ビアホール底面の被覆率(Tb/To×100)が39.5%であり、ビアホール側面の被覆率(Ts/To×100)が19%であった。そして、本実施の形態に記載のスパッタ方法を用いた成膜処理にあっては、同実施の形態に記載の各種条件が満たされていればライナー層による凹部の内表面の被覆率が高く維持されることが分った。また同実施の形態に記載の各種条件が満たされていればライナー層とバルク層とによって凹部の埋め込み性が高く維持されることも分った。
【0068】
以上説明したように、本実施の形態によれば、以下に列挙する効果が得られるようになる。
(1)第1の工程では、ターゲット18から放出された金属粒子MPとプラズマ中の荷電粒子IPとが衝突する圧力Pでターゲット18をスパッタして電荷を帯びた金属粒子MPを生成し、該電荷を帯びた金属粒子MPを凹部の内部に向けてバイアス電圧により引き込むようにした。これにより、第1の工程においては、スパッタされた金属粒子MPがプラズマ中の荷電粒子IPと衝突して電荷を帯びた金属粒子MPとなる。そして、基板Sの近傍である領域Cに到達する金属粒子MPは、プラズマ中の多重散乱により指向性を失うが、基板Sに印加されたバイアス電圧によって、基板Sに設けられた凹部の内部に向けて飛行するようになる。その結果、基板Sに設けられたれた凹部の底に金属粒子MPが到達しやすくなり、凹部の内表面における金属粒子MPの被覆率が向上される。
【0069】
(2)第2の工程においては、基板Sへのバイアス電圧が印加されていない状態で成膜を実施するようにした。そのため、プラズマ中のアルゴンイオンがバイアス電圧によって引き込まれて基板Sに付着した金属粒子MPをスパッタするいわゆる逆スパッタが抑えられる。
【0070】
(3)第1の工程における基板Sの温度T1を第2の工程における基板Sの温度T2よりも低くした。これにより、凹部内に付着した金属粒子MPの粒径が第1の工程と第2の工程とで互いに異なるようになる。そのうえ、金属粒子が凹部内へ流動するように、第2の工程における基板の温度を第1の工程における基板の温度よりも高くした。その結果、第1の工程にて形成される金属膜と第2の工程にて形成される金属膜との界面において、第2の工程にて付着した金属粒子の流動性が促進されて凹部内に金属材料が埋め込まれやすくなる。つまり、単一のスパッタ装置を用いて金属材料を凹部内に埋め込む際に、該金属材料の埋め込み性を高めることが可能である。
【0071】
(4)第2の工程における真空槽11内の圧力が第1の工程よりも低い圧力とされるため、スパッタされた金属粒子MPと他の粒子との衝突頻度が第1の工程よりも低くなる。その結果、スパッタされた金属粒子MPが散乱され難くなる分、単位時間当たりに基板Sに到達する金属粒子MPの数が増加して成膜速度が第1の工程よりも高くなる。第2の工程においては金属粒子MPに与えられる流動性によって埋め込み性が担保されるため、この第2の工程の成膜速度が高くなる分、埋め込み性を維持しつつ処理速度を高くすることが可能となる。
【0072】
(5)チャック電極16に印加するチャック電圧によって基板Sの温度を変更するようにした。これにより、真空槽11内に生成されるプラズマの状態を変更させることなく、基板Sの温度のみを2段階に変更することができる。それゆえに、プラズマから基板Sへ供給される熱量に関わらず基板Sの温度のみを変更することが可能であるため、第1の工程や第2の工程における圧力等の各種の条件から基板Sの温度に関わる制約を取り除くことが可能である。ひいては、第1の工程や第2の工程における各種の条件の自由度を拡張させて、金属材料の埋め込み性をより向上させることが可能である。
【0073】
(4)金属粒子MPの飛行距離であるTS距離DTSが30mm以上且つ90mm以下とし、且つ、第1の工程での圧力が5Pa以上且つ50Pa以下とし、且つ、高周波電力を7×10−4W/mm以上且つ7×10−3W/mm以下とした。これにより、放出された金属粒子MPと荷電粒子IPとの衝突と、電荷を帯びた金属粒子の引き込みとをより確実に起こすことができる。
【0074】
(5)金属粒子MPの飛行距離であるTS距離が30mm以上且つ90mm以下とし、且つ、第2の工程における真空槽11内の圧力を0.01Pa以上且つ0.5Pa以下とした。これにより、ターゲット18をスパッタする粒子数を確保しながらも、スパッタ粒子と真空槽11内の各種粒子との衝突回数を抑制でき、上記成膜レートを向上させることができる。
【0075】
(6)第1の工程での基板Sの温度を20℃以上且つ200℃以下とした。これにより、第1の工程にて形成されるAl−Cu合金膜中の金属粒子の粒径の拡大が抑えられる。
(7)第2の工程での基板Sの温度を350℃以上且つ450℃以下とした。これにより、第2の工程にて形成されるAl−Cu合金膜の流動性が確実に発現可能となる。
【0076】
なお、上記実施の形態は、以下のように適宜変更して実施することもできる。
・チャックコマンドは「OFF」、「ON1」、「ON2」の3種類に限られず、4種類以上設定される構成であってもよい。またチャックコマンドによって設定されるチャッ
ク電圧の値は任意に変更することが可能である。
【0077】
・第2の工程では、基板Sの裏面にアルゴンガスを供給することとした。これに限らず、静電的な吸着力によって基板Sの温度が十分に高められるのであれば、アルゴンガスが供給されない構成でもよい。また、第2の工程で形成される金属膜中の結晶粒に流動性が与えられるのであれば、第1の工程と第2の工程との両方において、基板Sの裏面にアルゴンガスが供給される構成でもよい。
【0078】
・真空槽11に供給されるアルゴンガスの供給流量を維持しつつ排気部の排気能力を変更することによって真空槽11内の圧力を調整する構成でもよい。また真空槽11に供給されるアルゴンガスの供給流量と排気部の排気能力とを変更することによって真空槽11内の圧力を調整する構成でもよい。
【0079】
・上述したスパッタ装置は、磁気回路21を備えていない装置に具現化することも可能であり、また上述したスパッタ方法は、こうした構成からなる装置を用いて実行することも可能である。
【0080】
・基板Sにバイアス電圧を印加するための高周波電力の供給先と、基板Sを静電吸着するためのチャック電圧の印加先とが別である構成とした。これを変更して、高周波電力の供給先と、基板Sを静電吸着するためのチャック電圧の印加先を単一の電極としてもよい。高周波電力の供給先となる電極と、直流電圧の印加先となる電極とを各別に基板ステージ14に内設する構成でもよい。
【0081】
・第1の工程及び第2の工程の成膜圧力を定めるための基準圧力PTHは、金属粒子MPが荷電粒子IPと1回衝突する圧力に限られず、基板Sに形成された凹部の形状に応じて、金属粒子MPが荷電粒子IPとn回(n≧2)衝突する圧力でもよい。これは、凹部の形状によって、基板Sに印加されたバイアス電圧によって引き込まれるべき金属粒子MPの数と、凹部の内表面の被覆率とが異なるためである。
【0082】
・Al−Cu合金を主成分とするターゲット18を用いて、Al−Cu合金膜を形成することとした。これに限らず、他の金属材料を主成分とするターゲットを用いて、アルミAl−Cu合金以外の金属からなる配線を形成するようにしてもよい。
【0083】
・チャック電圧を維持しつつヒーター15の温度を直接変更することによって基板Sの温度を変更する構成でもよい。またチャック電圧とヒーター15の出力とを変更することによって基板Sの温度を変更する構成でもよい。
【0084】
・第2の工程の成膜圧力と第1の工程の成膜圧力とが同じでもよい。これによれば、第2の工程にて成膜速度は高められないものの、第1の工程と同等の成膜速度は担保されることになる。
【符号の説明】
【0085】
11…真空槽、11a…成膜空間、12…供給配管、13…排気配管、14…基板ステージ、15…ヒーター、15a…凹部、15b…温調ガス流路、16…チャック電極、17…防着板、18…ターゲット、19…ターゲット電極、21…磁気回路、22…主制御部、23…記憶部、G1…バイアス用高周波電源(バイアス電源)、G2…チャック電源、G3…ターゲット電源、H…凹部、HC…ヒーター制御部、L…バルク層、L…絶縁層、L…ライナー層、MFC…流量調量部、PU…排気部、S…基板、TC…温調ガス制御部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空槽内に生成されたプラズマ中のイオンで該真空槽内に設けられた金属ターゲットをスパッタすることによって該真空槽内に配置された基板が有する凹部の内部に金属材料を埋め込むスパッタ方法において、
前記基板にバイアス電圧を印加しつつ前記金属ターゲットをスパッタする第1の工程と、
前記基板にバイアス電圧を印加しない状態で前記金属ターゲットをスパッタする第2の工程とを前記真空槽内で順に実行し、
前記第1の工程では、前記金属ターゲットから放出された金属粒子と前記プラズマ中の荷電粒子とが衝突する圧力で前記金属ターゲットをスパッタして電荷を帯びた金属粒子を生成し、該電荷を帯びた金属粒子を前記凹部の内部に向けて前記バイアス電圧により引き込み、
前記第2の工程では、前記基板に付着する金属粒子が前記凹部内に流動するように前記基板の温度を前記第1の工程よりも高くして前記金属ターゲットをスパッタする
ことを特徴とするスパッタ方法。
【請求項2】
前記第2の工程では、前記真空槽内の圧力を前記第1の工程よりも低くして前記金属ターゲットをスパッタする
ことを特徴とする請求項1に記載のスパッタ方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のスパッタ方法において、
前記真空槽内に設けられて前記基板を静電的に吸着し、且つ、吸着力に応じた熱量で前記基板を加熱する静電チャックを用い、
前記第1の工程では、前記静電チャックの電極に第1の直流電圧を印加する、
前記第2の工程では、前記静電チャックの電極に前記第1の直流電圧よりも高い第2の直流電圧を印加することによって、前記基板の温度を前記第1の工程よりも高くする、
ことを特徴とするスパッタ方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のスパッタ方法において、
前記金属ターゲットがアルミニウムを含んでなるターゲットであり、
前記金属ターゲットと前記基板との距離が30mm以上且つ90mm以下であり、
前記第1の工程では、
周波数が13.56MHzの高周波電力を前記基板に供給することによって前記基板にバイアス電圧を印加し、
前記真空槽内の圧力が5Pa以上且つ50Pa以下であり、
前記基板の温度が20℃以上且つ200℃以下であり、
前記高周波電力が7×10−4W/mm以上且つ7×10−3W/mm以下である、
前記第2の工程では、
前記真空槽内の圧力が0.01Pa以上且つ0.5Pa以下であり、
前記基板の温度が350℃以上且つ450℃以下である
ことを特徴とするスパッタ方法。
【請求項5】
真空槽内に設けられた金属ターゲットを前記真空槽内に生成されたプラズマ中のイオンでスパッタすることによって前記真空槽内に配置された基板が有する凹部の内部に金属材料を埋め込むスパッタ装置において、
前記真空槽内の圧力を調整する圧力調整部と、
前記基板にバイアス電圧を印加するバイアス電源と、
前記基板の温度を調整する温調部と、
これら圧力調整部、バイアス電源、及び温調部の駆動態様を制御する制御部とを備え、
前記制御部は、
前記金属ターゲットから放出された金属粒子と前記プラズマ中の荷電粒子とが衝突するように前記真空槽内の圧力を調整することによって電荷を帯びた金属粒子を生成するとともに、該電荷を帯びた金属粒子を前記凹部の内部に引き込むように前記基板に前記バイアス電圧を印加した後、
前記バイアス電圧を印加しない状態で、前記真空槽内の圧力を低くするとともに、前記基板に付着する金属粒子が前記凹部内に流動するように前記基板の温度を高くする
ことを特徴とするスパッタ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−236490(P2011−236490A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−111141(P2010−111141)
【出願日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】