説明

スパッタ源、スパッタ成膜装置およびスパッタ成膜方法

【課題】精度よく薄膜の膜厚を制御することができる、回転円筒ターゲットを備えたスパッタ源、該スパッタ源を備えたスパッタ成膜装置、および該スパッタ成膜装置を用いたスパッタ成膜方法を提供する。
【解決手段】スパッタ室1内に回転円筒ターゲット2を備えたスパッタ源において、前記スパッタ室1内に回転円筒ターゲット2との間に間隙5を有するようにシールド4を設け、該シールド4により前記スパッタ室1を、前記回転円筒ターゲット2のスパッタリングガスイオンの衝撃側の領域1aと、スパッタリングガスイオンの非衝撃側の領域1bとに仕切り、スパッタリングガスを領域1bから間隙5を通して領域1aに導入してスパッタリングする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転円筒ターゲットを備えたスパッタ源、該スパッタ源を備えたスパッタ成膜装置、および該スパッタ成膜装置を用いたスパッタ成膜方法に関し、特に精度よく薄膜の膜厚を制御することができるスパッタ源に関する。
【背景技術】
【0002】
光学多層膜は、一般には各種誘電体や金属材料(例えば、SiO2、TiO2、Ta25 、Al23 、Nb25 、Ag、ITO(酸化インジウム錫)など)の中から屈折率の異なる2種類以上の材料を使用し、それらを基板上に交互に所定の厚みに積層したもので、所望の光学特性を有している。光学多層膜を構成する各層の厚さは使用波長領域における波長程度の厚さであって、光学薄膜設計の理論に従って設計される。
【0003】
光学膜の成膜方法の一つに、マグネトロンスパッタリング法がある。
マグネトロンスパッタリング法は、磁気閉回路が背後に配置されたターゲットと呼ばれる電極に負の電圧を印加し、ターゲット表面付近でイオン化されたスパッタリングガス(一般にはArが使用される)のターゲットへの衝撃により、ターゲット材の原子を放出させて基板上に堆積させる方法である。
【0004】
マグネトロンスパッタリングに用いるターゲットの形状としては、円形や長方形などの平面状のものが一般的である。また、ターゲットを含むカソードの構造は、ターゲットの背後に、プラズマを増強するための電子トラップ用磁場を形成するマグネトロン磁気回路を備えており、この磁気回路の位置は、通常ターゲットに対して固定されている。
また、マグネトロンターゲットとしては、他に、ターゲットを円筒型にし、その中に磁気回路を円筒型ターゲットに対して固定しないように設け、円筒型ターゲットを連続的に磁気回路に対して相対的に回転させる構造のものもある(特許文献1参照)。この場合、エロージョン領域(ターゲット上でイオン衝撃が起きる領域)を円筒型ターゲットの表面上で連続的に移動させ、結果として、ターゲット全面にエロージョン領域を広げることができる。(本発明にかかる回転円筒ターゲットはマグネトロン式回転円筒ターゲットである。)
【0005】
スパッタリングモードとしては、金属モードスパッタリング(スパッタリング領域でスパッタリングガスの割合が反応ガスの割合より十分多い状態でのスパッタリング)、反応性モードスパッタリング(スパッタリング領域でターゲット材料を基板に積層すると同時に、反応性ガスを導入して、基板上にターゲット材料の反応化合物を積層させる)、また、いわゆるメタモードスパッタリングなどがある(特許文献2参照)。このメタモードスパッタリングは、先ずスパッタ領域において、導電性ターゲット材を金属モードでその超薄膜(通常数原子厚み程度以下)を基板に積層し、次にスパッタ領域とは物理的に離れた別の場所に設けられた反応領域に基板を搬送して、その反応領域で反応ガスにより所望の前記超薄膜を化合物に変換させる。
【0006】
金属モードスパッタリングの場合には、スパッタリングガス圧が一定の条件では、ターゲットに投入する電力を一定に保つと、スパッタリングレート(成膜レート)は、ほぼ一定になることがわかっている。しかし、メタル材料を反応ガスなどと反応させて基板上に成膜する反応性モードスパッタリングの場合には、反応性の大きな材料、例えばSiのような材料をターゲット材に使用すると、スパッタリングガスが反応ガス(例えば酸素や窒素)の量より十分多い場合にはさほど問題はないが、反応ガス量が相対的に多くなると、ターゲット表面が反応ガスと反応して、スパッタリングレートが変動することが知られている。
【0007】
【特許文献1】特開平5−65636号公報
【特許文献2】特許番号第2695514号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
平面ターゲットの場合、背後のマグネトロン磁気回路はターゲット材料に対して固定されているので、常にターゲット表面の同じ部分がスパッタリングガスイオンによって浸食(エロージョン)され続ける。そのため、ターゲット近傍に反応ガスが存在しても、反応ガスがターゲットの侵食部分へ与える影響は小さく、ほぼ一定のスパッタリングレートが確保される。
しかしながら、回転円筒ターゲットを用いてメタモードスパッタリングをおこなう場合、反応ガスが反応領域からスパッタ領域へ入り込み、その中で回転円筒ターゲットは円筒ターゲット内部に固定されたマグネトロン磁気回路の周りを回転する。その回転にともない、磁気回路の部分に回ってきたターゲット表面部分はスパッタされて、ターゲット材自体の表面が露出するが、それ以外のターゲット表面部分は回転により次に磁気回路部分に回ってくるまでの間は、周囲に多少存在する反応ガスプラズマにさらされるので、多少なりとも反応化合物で覆われるようになる。そのため、回転円筒ターゲット表面には、反応化合物で覆われた部分と反応化合物で覆われていない新鮮なターゲット材料部分が混在しており、それらの部分がマグネトロン磁気回路の部分に順次回ってくるので、スパッタリングレートは一定にならず、少なくとも、ターゲットが回転を始めて1回転する間は不安定になる。
【0009】
本発明の目的は、回転円筒ターゲットを用いたスパッタリングによる成膜において、スパッタリングレートの不安定性を取り除き、精度良く膜厚を制御する手段を提供することである。本発明は特に、メタモードスパッタリングにおいて重要な技術となる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記問題を解決すべく、鋭意実験的に検討した結果、到達したもので、請求項1記載の発明は、スパッタ室内に一つまたは複数の回転円筒ターゲットを備えたスパッタ源において、前記回転円筒ターゲットとの間に間隙を有するように前記スパッタ室内にシールドを設けて、該シールドにより前記スパッタ室を、前記回転円筒ターゲットのスパッタリングガスイオンの衝撃側の領域と、スパッタリングガスイオンの非衝撃側の領域とに仕切り、スパッタリングガスを前記回転円筒ターゲットのスパッタリングガスイオンの非衝撃側の領域から前記間隙、それとは別に設けた隙間またはその両方を通してスパッタリングガスイオンの衝撃側の領域に導入してスパッタリングすることを特徴とするものである。
【0011】
請求項1記載の発明によれば、スパッタ室内において、回転円筒ターゲットのスパッタリングガスイオンの非衝撃側はスパッタリングガスで満たされるため、回転円筒ターゲットは、スパッタリングガスイオンの非衝撃側がスパッタリングガスに覆われ、ターゲット材自体の表面が保持されるので、スパッタリングレートが安定する。
【0012】
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載のスパッタ源において、反応ガスを前記回転円筒ターゲットのスパッタリングガスイオンの衝撃側の領域からスパッタ室内に導入してスパッタリングすることを特徴とするものである。
【0013】
請求項2記載の発明によれば、反応ガスを前記回転円筒ターゲットのスパッタリングガスイオンの衝撃側の領域からスパッタ室内に導入してスパッタリングするため、回転円筒ターゲットのスパッタリングガスイオンの非衝撃側が反応ガスに触れることがなく、安定したスパッタリングレートの反応性モードスパッタリングをおこなうことができる。
【0014】
また、請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の発明において、前記シールドは金属からなることを特徴とするものである。また、請求項4記載の発明は、請求項1または2記載の発明において、前記シールドは絶縁性セラミックからなることを特徴とするものである。
前記シールドは、ガス雰囲気あるいはプラズマ雰囲気を分離するため、金属で構成することができるが、その機能上、負の高電圧が印加されるターゲットに近接して設置されるので、絶縁性セラミックで構成すると、ターゲットとの接触による電気的不具合の発生を防ぐことができる。
【0015】
また、請求項5記載の発明は、請求項1ないし4記載の発明において、前記回転円筒ターゲットは、二つの回転円筒ターゲットであって、デュアルマグネトロンターゲットを構成していることを特徴とするものである。
【0016】
また、請求項6記載の発明は、基板を保持する基板搬送装置を真空槽内に備え、スパッタリングによりターゲット材からなる超薄膜を前記基板搬送装置に保持された基板上に成膜させるスパッタ源を備えた少なくとも一つのスパッタ領域と、反応性ガスにより前記超薄膜を所望の化合物超薄膜に変換する少なくとも一つの反応領域とを設け、前記基板搬送装置に保持された基板を前記スパッタ領域から前記反応領域に搬送して処理し、この工程を繰り返して所望の化合物薄膜を基板上に成膜するスパッタ成膜装置であって、前記スパッタ源の少なくとも一つは、請求項1乃至5に記載のスパッタ源であることを特徴とするスパッタ成膜装置である。
【0017】
請求項6記載の発明によれば、回転円筒ターゲットのスパッタリングガスイオンの非衝撃側が反応ガスに触れることがなく、安定したスパッタリングレートのメタモードスパッタリングをおこなうことができる。
なお、基板を保持する基板搬送装置は、例えば請求項7に記載のように、回転可能な円筒形状体あるいは回転可能な平面円盤形状体であって、基板を円軌道上を搬送するもの、あるいは、直線移動が可能で、直線移動方向に平行な平面部を有する平面形状体であって、基板を直線軌道上を搬送するものとする。
【0018】
さらに、請求項8記載の発明は、請求項6または7記載のスパッタ成膜装置を用いて、基板を搭載した基板搬送装置を回転しながらスパッタ領域において、スパッタリングにより回転円筒ターゲットのターゲット材からなる超薄膜を前記基板上に成膜し、次いで、反応領域において、前記超薄膜を所望の化合物超薄膜に変換し、この工程を繰り返して所望の化合物薄膜を基板上に成膜することを特徴とするスパッタ成膜方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明のスパッタ源は、回転円筒ターゲットのスパッタリングガスイオンの非衝撃側がスパッタリングガスで覆われるため、ターゲット材自体の表面を保持することができるので、スパッタリングレートが安定する、という利点を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
図1は、本発明に係るスパッタ源の一実施形態の上側から見た平面断面図である。
本実施形態のスパッタ源は、図1に示すように、スパッタ室1内に回転円筒ターゲット2を備えている。回転円筒ターゲット2は、その内部に固定されたマグネット3の回りに回転可能に取り付けられている。マグネット3は、スパッタ室1の開口部に面する回転円筒ターゲット2の表面部分2a近傍に磁気回路を形成する。この磁気回路部分にスパッタリングガスの高密度のプラズマが形成され、回転円筒ターゲット2の表面部分2aがスパッタリングガスイオンの衝撃を受ける。
また、スパッタ室1内を、回転円筒ターゲット2の表面部分2aを含み、回転円筒ターゲット2がスパッタリングガスイオンの衝撃を受ける衝撃側の領域1aと、回転円筒ターゲット2がスパッタリングガスイオンの衝撃を受けない非衝撃側の領域1bとに仕切るシールド4が設けられている。このシールド4の材質はSUS304である。シールド4は、回転円筒ターゲット2との間にガス流通路となる間隙5を有するように、回転円筒ターゲット2の両側に設けられ、グランドに接続している。さらに、スパッタ室1の領域1aには反応ガス導入口6が設けられ、領域1bにはスパッタリングガス導入口7が設けられている。スパッタリングガスを導入する隙間は別にシールド4自体に隙間を置けても良い。
スパッタ膜が成膜される基板8は、スパッタ室1に面する直線軌道9上を往復搬送される。
【0021】
本実施形態が従来例と異なる特徴的なことは、スパッタ室1内にシールド4を設け、該シールド4により前記スパッタ室1を、前記回転円筒ターゲット2のスパッタリングガスイオンの衝撃側の領域1aと、スパッタリングガスイオンの非衝撃側の領域1bとに、間隙5を有するように仕切っていることである。
本実施形態では、スパッタリングガスを領域1bから間隙5あるいは別にシールド4に設けた隙間を通して領域1aに導入してスパッタリングすることにより、スパッタリングレートを安定化することができる。
【実施例1】
【0022】
上記スパッタ源を用いて、ターゲット電圧を以下の条件で測定した。
すなわち、Siからなる回転円筒ターゲット2の直径を100mm、長さを600mmとし、回転円筒ターゲット2と基板8の軌道9間の距離を100mmとする。回転円筒ターゲット2は、約8秒で一回転させる。
スパッタ室1の領域1bに、スパッタリングガスとしてArガスをスパッタリングガス導入口7から流量150sccmで導入し、領域1aに反応ガスとして酸素を反応ガス導入口6から導入する。
【0023】
酸素の流量を200sccmとし、回転円筒ターゲット2に5kWの電力を供給し、ターゲット電圧の時間変動を測定した。その結果を図2に示す。
なお、ターゲット電圧はスパッタリングレートと相関関係があり、ターゲット電圧が低いことは、スパッタリングレートが低いことを示す。
図2に示すように、ターゲット電圧は、シールド4を有する場合に、シールド4がない場合よりも高くなる。また、ターゲット電圧は、回転円筒ターゲット2が最初に一回転する約8秒の間にもっとも大きな変動をし、その後の回転による電圧変動は小さく、安定する。シールド4を有する場合には、最初の一回転における電圧変動は、その後の回転による電圧変動に比してそれほど大きくないのに対し、シールド4がない場合には、最初の一回転における電圧変動が、その後の回転による電圧変動に比して、きわめて大きくなっている。
この結果より、回転円筒ターゲット2が酸化されやすいSiからなる場合、シールド4は、スパッタリングレートの安定化にきわめて有効であることがわかる。
【0024】
また、導入酸素流量を0〜300sccmの間で変えて、回転円筒ターゲット2が最初に一回転する間のターゲット電圧変動値を測定した。その結果、図3に示すように、導入酸素流量が大きくなると、シールド4のない場合の電圧変動は急激に大きくなり、また、シールド4を有する場合との電圧変動値の差が大きくなる。したがって、導入酸素流量が大きくなるほど、スパッタリングレートの安定性に対して、シールド4が有効であることがわかる。
【実施例2】
【0025】
図4は、本発明に係るスパッタ源の他の実施例を上側から見た平面断面図である。
本実施例は、実施例1におけるSiからなる回転円筒ターゲット2を用い、スパッタ室1内にデュアルマグネトロンターゲットを構成する一対の回転円筒ターゲット2、2を50mm間隔で備え、シールド10を設けたこと以外は、実施例1と同様である。シールド10の材質はSUS304である。シールド10は、スパッタ室1壁と2個の回転円筒ターゲット2との間、および2個の回転円筒ターゲット2、2の間に、間隙5を有するように設けられて、スパッタ室1を領域1aと領域1bに仕切っている。
【0026】
本実施例について、以下の条件で、ターゲット電圧の時間変動を測定した。すなわち、スパッタ室1の領域1bに、スパッタリングガスとしてArガスをスパッタリングガス導入口7から流量150sccmで導入し、領域1aに反応ガスとして酸素を反応ガス導入口6から流量200sccmで導入した。また、一対の回転円筒ターゲット2、2に9kWの電力を供給し、前記各回転円筒ターゲット2を約8秒で一回転させる。
ターゲット電圧の時間変動を測定した結果を図5に示す。図5から分かるように、本実施例においても、実施例1の場合と同様に、ターゲット電圧は、シールド10を有する場合に、シールド10がない場合よりも高くなる。また、ターゲット電圧は、回転円筒ターゲット2が最初に一回転する約8秒の間にもっとも大きな変動をし、その後の回転による電圧変動は小さく、安定する。シールド10を有する場合には、最初の一回転における電圧変動は、その後の回転による電圧変動に比してそれほど大きくないのに対し、シールド10がない場合には、最初の一回転における電圧変動が、その後の回転による電圧変動に比して、きわめて大きくなっている。
【0027】
また、導入酸素流量を0〜300sccmの間で変えて、回転円筒ターゲット2が最初に一回転する間のターゲット電圧変動値を測定した。その結果、図6に示すように、実施例1の場合と同様に、導入酸素流量が大きくなると、シールド10のない場合の電圧変動は急激に大きくなり、また、シールド10を有する場合との電圧変動値の差が大きくなる。したがって、導入酸素流量が大きくなるほど、スパッタリングレートの安定性に対して、シールド10が有効であることがわかる。
【0028】
なお、上記実施例1、2において、基板8は直線軌道9上を往復移動したが、基板8は、図7に示すように、円周軌道11上を回転移動してもよい。
【実施例3】
【0029】
図8は、本発明にかかるスパッタ成膜装置の一実施例の平面断面図である。
図8において、20は真空槽であるスパッタリングチャンバ、21はSiスパッタ室、22a、22bはデュアルマグネトロンターゲットを構成するSi回転円筒ターゲット、23はSi用シールド、24はNbスパッタ室、25a、25bはデュアルマグネトロンターゲットを構成するNb回転円筒ターゲット、26はNb用シールド、27はガラス基板、28は円筒回転基板搬送装置、29は反応室、30は高周波アンテナである。
本実施例では、ガラス基板27を円筒回転基板搬送装置28に搭載し、スパッタリングチャンバ20内を回転搬送して、ガラス基板27上に多層膜を形成する。
また、Si用シールド23は、Si回転円筒ターゲット22a、22bとの間に間隙(図示されず)を有するように設けられ、Siスパッタ室21をSi回転円筒ターゲット22a、22bのスパッタリングガスイオンの衝撃側の領域21aと、スパッタリングガスイオンの非衝撃側の領域21bとに仕切っている。領域21aには反応ガス導入口31が設けられ、領域21bにはスパッタリングガス導入口32が設けられている。
同様に、Nb用シールド26は、Nb回転円筒ターゲット25a、25bとの間に間隙(図示されず)を有するように設けられ、Nbスパッタ室24をNb回転円筒ターゲット25a、25bのスパッタリングガスイオンの衝撃側の領域24aと、スパッタリングガスイオンの非衝撃側の領域24bとに仕切っている。領域24aには反応ガス導入口33が設けられ、領域24bにはスパッタリングガス導入口34が設けられている。
【0030】
本実施例のスパッタ成膜装置により、以下の工程で多層膜を成膜する。すなわち、
1)まず、一対のSi回転円筒ターゲット22a、22bを備えたSiスパッタ室21のあるスパッタ領域で、ガラス基板27上にメタルモード(スパッタリングガスの割合が反応性ガスの割合より十分に多い状態)で超薄膜(通常、数原子層以下の厚さ)をスパッタ成膜する。
2)次いで、酸素ガスが導入された反応室29のある反応領域にガラス基板27を回転搬送し、高周波アンテナ30により反応室29内に酸素プラズマを発生させて、前記超薄膜を酸化反応させる。この工程を繰り返して、所定の厚さのSiO2膜を成膜する。
3)次いで、一対のNb回転円筒ターゲット25a、25bを備えたNbスパッタ室24のあるスパッタ領域で、ガラス基板27にメタルモードで超薄膜をスパッタ成膜する。
4)次いで、前記反応室29のある反応領域にガラス基板27を回転搬送し、前記超薄膜を酸化反応させる。この工程を繰り返して、所定の厚さのNb25 膜を成膜する。
5)上記1)〜4)の工程を繰り返して、SiO2 /Nb25 の多層膜を成膜する。
なお、本実施例のスパッタ成膜装置には反応性モードスパッタリングができるように、Siスパッタ室21の領域21aに反応ガス導入口31が設けられ、Nbスパッタ室24の領域24aには反応ガス導入口31が設けられているが、上記工程では反応ガス導入口31、33から反応ガスが導入されることはない。
【0031】
本実施例のスパッタ成膜装置を用いて、上記工程により、表1に示す成膜設計条件の光学多層膜フィルタを作製した。
























【0032】
【表1】

【0033】
上記光学多層膜フィルタのスパッタ成膜条件は以下のとおりである。
すなわち、スパッタリングチャンバ20内のベース圧力は0.0005Pa、成膜中の圧力は0.2Paである。また、円筒回転基板搬送装置28の回転速度は120rpmである。Siスパッタ室21およびNbスパッタ室24のある2箇所のスパッタ領域において、スパッタリングガスはArであり、その供給量は150sccmである。また、Si回転円筒ターゲット22a、22bへの交流電力の供給量は10kW、Nb回転円筒ターゲット25a、25bへの交流電力の供給量は4kWである。また、反応室29のある反応領域において、反応ガスは酸素であり、その供給量は200sccmである。また、高周波アンテナ30から反応室29内への高周波電力の供給量は4kWである。得られたSiO2 の成膜レートは4A/sec、Nb25 の成膜レートは3.8A/secであった。
各層の膜厚制御は、Si回転円筒ターゲット22a、22bおよびNb回転円筒ターゲット25a、25bへの投入電力を一定にしておき、予め割り出しておいた成膜レートに基づき、成膜時間を制御することによりおこなった。
【0034】
上述のようにして成膜した光学多層膜フィルタについて、分光光度計を用いて分光透過率を測定した。その結果を図9に示す。
図9からわかるように、シールド23、26を設けた場合の分光透過率Aは、シールド23、26がない場合の分光透過率Bよりも、より理論値の分光透過率Cに近くなっている。このことは、シールド23、26を設けることにより、反応室29に導入された酸素ガスが領域21b、24bに拡散して入り込むの防ぐことができるため、成膜レートが安定し、膜厚制御性が向上して、多層膜を構成する各膜厚が設定値により近くなっていることを示している。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明に係るスパッタ源の一実施例の上側から見た平面断面図である。
【図2】図1に示したスパッタ源におけるターゲット電圧の時間変動を示す図である。
【図3】図1に示したスパッタ源における、導入酸素流量と、回転円筒ターゲットが最初に一回転する間のターゲット電圧変動値との関係を示す図である。
【図4】本発明に係るスパッタ源の他の実施例の上側から見た平面断面図である。
【図5】図4に示したスパッタ源におけるターゲット電圧の時間変動を示す図である。
【図6】図4に示したスパッタ源における、導入酸素流量と、回転円筒ターゲットが最初に一回転する間のターゲット電圧変動値との関係を示す図である。
【図7】本発明に係るスパッタ源のさらなる他の実施例の上側から見た平面断面図である。
【図8】本発明にかかるスパッタ成膜装置の一実施例の平面断面図である。
【図9】図8に示したスパッタ成膜装置を用いて成膜した光学多層膜フィルタについて、分光透過率を測定した結果を示す図である。
【符号の説明】
【0036】
1 スパッタ室
1a、1b、21a、21b,24a、24b 領域
2 回転円筒ターゲット
2a 表面部分
3 マグネット
4、10 シールド
5 間隙
6、31、33 反応ガス導入口
7、32、34 スパッタリングガス導入口
8、27 基板
9、11 軌道
20 スパッタリングチャンバ
21 Siスパッタ室
22a、22b Si回転円筒ターゲット
23 Si用シールド
24 Nbスパッタ室
25a、25b Nb回転円筒ターゲット
26 Nb用シールド
28 円筒回転基板搬送装置
29 反応室
30 高周波アンテナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スパッタ室内に一つまたは複数の回転円筒ターゲットを備えたスパッタ源において、
前記回転円筒ターゲットとの間に間隙を有するように前記スパッタ室内にシールドを設けて、該シールドにより前記スパッタ室を、前記回転円筒ターゲットのスパッタリングガスイオンの衝撃側の領域と、スパッタリングガスイオンの非衝撃側の領域とに仕切り、
スパッタリングガスを前記回転円筒ターゲットのスパッタリングガスイオンの非衝撃側の領域から前記間隙、それとは別に設けた隙間またはその両方を通してスパッタリングガスイオンの衝撃側の領域に導入してスパッタリングすることを特徴とするスパッタ源。
【請求項2】
反応ガスを前記回転円筒ターゲットのスパッタリングガスイオンの衝撃側の領域からスパッタ室内に導入してスパッタリングすることを特徴とする請求項1記載のスパッタ源。
【請求項3】
前記シールドは、金属からなることを特徴とする請求項1または2記載のスパッタ源。
【請求項4】
前記シールドは、絶縁性セラミックからなることを特徴とする請求項1または2記載のスパッタ源。
【請求項5】
前記回転円筒ターゲットは、二つの回転円筒ターゲットであって、デュアルマグネトロンターゲットを構成していることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1に記載のスパッタ源。
【請求項6】
基板を保持する基板搬送装置を真空槽内に備え、スパッタリングによりターゲット材からなる超薄膜を前記基板搬送装置に保持された基板上に成膜させるスパッタ源を備えた少なくとも一つのスパッタ領域と、反応性ガスにより前記超薄膜を所望の化合物超薄膜に変換する少なくとも一つの反応領域とを設け、前記基板搬送装置に保持された基板を前記スパッタ領域から前記反応領域に搬送して処理し、この工程を繰り返して所望の化合物薄膜を基板上に成膜するスパッタ成膜装置であって、
前記スパッタ源の少なくとも一つは、請求項1乃至5に記載のスパッタ源であることを特徴とするスパッタ成膜装置。
【請求項7】
基板を保持する基板搬送装置は、少なくとも回転可能な円筒形状体、回転可能な平面円盤形状体、あるいは直線移動が可能で、直線移動方向に平行な平面部を有する平面形状体であることを特徴とする請求項6記載のスパッタ成膜装置。
【請求項8】
請求項6または7記載のスパッタ成膜装置を用いて、基板を搭載した基板搬送装置を回転しながらスパッタ領域において、スパッタリングにより回転円筒ターゲットのターゲット材からなる超薄膜を前記基板上に成膜し、次いで、反応領域において、前記超薄膜を所望の化合物超薄膜に変換し、この工程を繰り返して所望の化合物薄膜を基板上に成膜することを特徴とするスパッタ成膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−38192(P2008−38192A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−213228(P2006−213228)
【出願日】平成18年8月4日(2006.8.4)
【出願人】(300075751)株式会社オプトラン (15)
【Fターム(参考)】