説明

ソレノイド電流制御回路

【課題】低損失かつ高精度の電流検出手段を有するレノイド電流制御回路を提供することにある。
【解決手段】
直流電源1に対して直列接続されたハイサイドMOSFET4とローサイドMOSFET5との接続点からソレノイド6に電流を供給する。制御回路3は、ハイサイドMOSFET及びローサイドMOSFETのオンオフを制御する。センスMOSFET7とセンス抵抗8との直列回路が、ローサイドMOSFET5と並列に接続される。誤差増幅器9は、センス抵抗8の両端の電圧を増幅する。制御回路2の電流算出部2A,2Bは、誤差増幅器の出力値を用いて、ローサイドMOSFETがオフとなる期間の電流を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソレノイド電流制御回路に係り、特に、ソレノイド電流の検出に適した電流算出手段を有するソレノイド電流制御回路に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動変速機システムにおいては、油圧制御用ソレノイドを駆動する回路として、ハーフブリッジ回路が用いられていた(例えば、特許文献1の図8参照)。ソレノイド駆動回路は、ソレノイドに電流を供給する電流を制御するハイサイドMOSFETと、ハイサイドMOSFETがオフの時、ソレノイドのコイルに蓄えられたエネルギーを放出させるためのローサイドMOSFETと、前記ハイサイドMOSFETと前記ローサイドMOSFETをオン・オフさせるドライバとからなる。
ソレノイド駆動回路では、ソレノイドに流れる電流を検出するため、ソレノイドと直列にシャント抵抗が接続されており、シャント抵抗に流れる電流による発生電圧を用いて、ソレノイド電流を検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−343426号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、従来のソレノイド駆動回路では、ハイサイドMOSFETがオンの時、電源からハイサイドMOSFET、ソレノイド、シャント抵抗の経路で電流が流れる。また、ハイサイドMOSFETがオフの時、ソレノイド、シャント抵抗、ローサイドMOSFET、またはソレノイド、シャント抵抗、ローサイドMOSFETの内蔵ダイオードの経路で電流が流れる。このように、従来のソレノイド駆動回路では、ハイサイドMOSFETがオンの時も、オフの時も常に電流が流れているので、損失が大きいという問題があった。また、シャント抵抗の電流検出値は温度依存性が大きいので、高精度の電流検出ができないという問題もあった。
本発明の目的は、低損失かつ高精度の電流検出手段を有するレノイド電流制御回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(1)上記目的を達成するために、本発明は、直流電源に対して直列接続されたハイサイドMOSFETとローサイドMOSFETとの接続点からソレノイドに電流を供給するとともに、前記ハイサイドMOSFET及びローサイドMOSFETのオンオフを制御するソレノイド電流制御回路であって、前記ローサイドMOSFETと並列に接続された、センスMOSFETとセンス抵抗との直列回路に対して、前記センス抵抗の両端の電圧を増幅する誤差増幅器と、誤差増幅器の出力値を用いて、ローサイドMOSFETがオフとなる期間の電流を算出する手段を備えるようにしたものである。
かかる構成により、低損失かつ高精度の有する電流検出手段を有するものとなる。
【0006】
(2)上記(1)において、好ましくは、前記センスMOSFETには、前記ハイサイドMOSFET及びローサイドMOSFETに比べて小電流が流れるようにしたものである。
【0007】
(3)上記(1)において、好ましくは、前記電流算出手段は、前記ローサイドMOSFETがオンとなる期間に少なくとも2点の電流値を検出し、該検出電流値のうち両端の検出点を用いて、ハイサイドMOSFETの電流値を算出するようにしたものである。
【0008】
(4)上記(1)において、好ましくは、前記電流算出手段は、前記ローサイドMOSFETがオンとなる期間に少なくとも2点の電流値を検出し、該検出電流値のうち両端の検出点を用いて、ローサイドMOSFETの内蔵ダイオード導通期間の電流値を算出し、該算出電流値を用いて、ハイサイドMOSFETの電流を算出するようにしたものである。
【0009】
(5)上記(4)において、好ましくは、前記電流算出手段は、前記ハイサイドMOSFET、前記ローサイドMOSFET、前記ローサイドMOSFETの内蔵ダイオードの電流波形を直線で近似するようにしたものである。
【0010】
(6)上記(4)において、好ましくは、前記電流算出手段は、前記ハイサイドMOSFET、前記ローサイドMOSFET、前記ローサイドMOSFETの内蔵ダイオードのうち、少なくともひとつの電流波形を指数関数で近似するようにしたものである。
【0011】
(7)また、上記目的を達成するために、本発明は、直流電源に対して直列接続されたハイサイドMOSFETとローサイドMOSFETとの接続点からソレノイドに電流を供給するとともに、前記ハイサイドMOSFET及びローサイドMOSFETのオンオフを制御するソレノイド電流制御回路であって、前記ローサイドMOSFETと並列に接続された、センスMOSFETとセンス抵抗との直列回路に対して、前記センス抵抗の両端の電圧を増幅する第1の誤差増幅器と、前記ソレノイドと並列に接続された抵抗とコンデンサとの直列回路に対して、前記コンデンサの両端の電圧を増幅する第2の誤差増幅器と、前記第1の誤差増幅器と前記第2の誤差増幅器の出力値から、ソレノイドの全導通期間の電流を算出する電流算出手段を備えるようにしたものである。
かかる構成により、低損失かつ高精度の有する電流検出手段を有するものとなる。
【0012】
(8)さらに、上記目的を達成するために、本発明は、直流電源に対して直列接続されたハイサイドMOSFETとローサイドMOSFETとの接続点からソレノイドに電流を供給するとともに、前記ハイサイドMOSFET及びローサイドMOSFETのオンオフを制御するソレノイド電流制御回路であって、前記ローサイドMOSFETと並列に接続された、センスMOSFETと第1のセンス抵抗との直列回路に対して、前記第1のセンス抵抗の両端の電圧を増幅する第1の誤差増幅器と、前記ハイサイドMOSFETと並列に接続された、第2のセンスMOSFETと第2のセンス抵抗との直列回路に対して、前記第2のセンス抵抗の両端の電圧を増幅する第2の誤差増幅器と、前記第1の誤差増幅器と前記第2の誤差増幅器の出力値から、ハイサイドMOSFETとローサイドMOSFETがともにオフとなる期間のソレノイド電流を算出する電流算出手段を備えるようにしたものである。
かかる構成により、低損失かつ高精度の有する電流検出手段を有するものとなる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ソレノイド電流制御回路に用いる電流検出手段を低損失かつ高精度のものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施形態によるソレノイド電流制御システムの構成を示す回路図である。
【図2】本発明の第1の実施形態によるソレノイド電流制御システムにおけるソレノイド電流の説明図である。
【図3】本発明の第1の実施形態によるソレノイド電流制御回路の詳細構成を示すブロック図である。
【図4】本発明の第2の実施形態によるソレノイド電流制御回路の詳細構成を示すブロック図である。
【図5】本発明の第2の実施形態によるソレノイド電流制御システムにおけるソレノイド電流の説明図である。
【図6】本発明の第3の実施形態によるソレノイド電流制御システムにおけるソレノイド電流の説明図である。
【図7】本発明の第3の実施形態によるソレノイド電流制御システムに用いるMOSFETとpn接合ダイオードの順方向特性の説明図である。
【図8】本発明の第4の実施形態によるソレノイド電流制御システムの構成を示す回路図である。
【図9】本発明の第4の実施形態によるソレノイド電流制御回路の詳細構成を示すブロック図である。
【図10】本発明の第5の実施形態によるソレノイド電流制御システムの構成を示す回路図である。
【図11】本発明の第5の実施形態によるソレノイド電流制御システムにおけるソレノイド電流の説明図である。
【図12】本発明の第5の実施形態によるソレノイド電流制御回路の詳細構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図1〜図3を用いて、本発明の第1の実施形態によるソレノイド電流制御回路の構成及び動作について説明する。
最初に、図1を用いて、本実施形態によるソレノイド電流制御システムの構成について説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態によるソレノイド電流制御システムの構成を示す回路図である。
本実施形態のソレノイド電流制御回路は、ソレノイド6と、ハイサイドMOSFET4と、ローサイドMOSFET5と、ドライバ3と、制御回路2と、センスMOSFET7と、センス抵抗8と、誤差増幅器9とからなる。
【0016】
ハイサイドMOSFET4は、ソレノイド6に流れる電流を制御する。ローサイドMOSFET5は、ハイサイドMOSFET4がオフの時、ソレノイド6に蓄積されたエネルギーを放出する経路にある。ドライバ3は、制御回路2によって制御されて、ハイサイドMOSFET4とローサイドMOSFET5をオン・オフ駆動する。センスMOSFET7は、ローサイドMOSFET5と並列に接続されるとともに、センスMOSFET7に直列に接続されている。誤差増幅器9は、センス抵抗8の両端電圧を検出し、これを増幅する。
【0017】
ここで、センスMOSFET7は、ローサイドMOSFET5と同一のゲート長Lgで、ゲート幅Wgが狭く設計されている。例えば、ゲート幅Wgは、1/1000から1/100程度に設計されている。その結果、センスMOSFET7に流れる電流はローサイドMOSFET5の1/1000から1/100程度になる。
【0018】
本実施形態では、センスMOSFET7を用いて、センス抵抗8を流れる電流を従来よりも大幅に低減することで、センス抵抗8で発生する損失は、従来のシャント抵抗方式と比べて小さくできる。また、センス抵抗8に流れる電流を小さくできることから、センス抵抗8の温度上昇を抑えることができ、センス抵抗8の電流検出値に温度依存性がある場合でも、高精度に電流検出することができる。
【0019】
次に、図2を用いて、本実施形態によるソレノイド電流制御システムにおけるソレノイド電流の時間変化について説明する。
図2は、本発明の第1の実施形態によるソレノイド電流制御システムにおけるソレノイド電流の説明図である。
図2は、ソレノイド6の電流値の時間変化を示している。ソレノイド電流は、図示のように、ハイサイドMOSFET4とローサイドMOSFET5のオン・オフに応じて、増減する。時間t2〜時間t3の間は、ハイサイドMOSFET4がオンで、ローサイドMOSFET5がオフであり、この時、電流の傾きは正となり電流は増加する。一方、時間t3〜時間t4の間は、ハイサイドMOSFET4がオフで、ローサイドMOSFET5がオンであり、この時、電流の傾きは負となり電流は減少する。
【0020】
ここで、センス抵抗8によりソレノイド6の電流を検出できる期間は、図中に実線で示す期間、すなわち、ハイサイドMOSFET4がオフし、ローサイドMOSFET5がオンしている期間に限定される。すなわち、電流を検出できる期間は、図2において、ソレノイド6の電流が減少する期間に限られる。
このような制約条件のもとで、ソレノイド6の全期間に渡る電流値を検出するため、本実施形態では、ハイサイドMOSFET4がオンする前で、ハイサイドMOSFET4がオンするタイミングにできるだけ近く、かつ、ローサイドMOSFET5がオンしている期間にソレノイド6の電流の極小値に近い電流I13を検出する。また、ハイサイドMOSFET4がオフする後で、ハイサイドMOSFET4がオフするタイミングにできるだけ近く、かつ、ローサイドMOSFET5がオンしている期間にソレノイド6の電流の極大値に近い電流I12を検出する。その上で、電流I13から電流I12の期間のソレノイド6に流れる電流を直線で内挿近似し、ハイサイドMOSFET4がオンする期間、すなわち電流が増加する期間のソレノイド6の電流を算出するようにしている。
【0021】
次に、図3を用いて、本実施形態によるソレノイド電流制御回路の詳細構成について説明する。
図3は、本発明の第1の実施形態によるソレノイド電流制御回路の詳細構成を示すブロック図である。
【0022】
センス抵抗8により検出された、ソレノイド6のローサイドMOSFET7を流れる電流は、制御回路2に取り込まれる。
【0023】
制御回路2は、ローサイドMOSFET導通期間の電流算出部2Aと、ハイサイドMOSFET導通期間の電流算出部2Cと、全期間のソレノイド電流算出部2Dと、ソレノイドの平均電流算出部2Eと、制御電流の目標値保持部2Fと、PWM信号発生部2Gとを備えている。
【0024】
電流算出部2Aは、センス抵抗8による検出値から、ローサイドMOSFET導通期間の電流を算出する。すなわち、図2の実線期間の電流値を算出する。電流算出部2Cは、電流算出部2Aの算出値をもとに、ハイサイドMOSFET導通期間の電流値を算出する。すなわち、図2の電流I13と電流I12とから、電流I13から電流I12の期間のソレノイド6に流れる電流を、図2に破線で示すように直線で内挿近似し、ハイサイドMOSFET4がオンする期間、すなわち電流が増加する期間のソレノイド6の電流を算出する。
【0025】
次に、電流算出部2Dは、電流算出部2Aの算出値と電流算出部2Cの算出値から、全期間のソレノイド電流を算出する。さらに、平均電流算出部2Eは、電流算出部2Dの算出結果から、ソレノイドの平均電流を算出する。
【0026】
そして、PWM信号発生部2Gは、目標値保持部2Fに保持された制御電流の目標値と、平均電流算出部2Eで算出された平均電流との差分から、PWM信号を生成する。PWM信号は、ドライバ3に出力され、ハイサイドMOSFET4及びローサイドMOSFET5をオン・オフ駆動する。
【0027】
以上のようにして、ソレノイド電流を低損失かつ高精度に検出できるとともに、ハイサイドMOSFET4がオンする期間の電流値も算出することで、ソレノイド電流を高精度に制御することができる。
【0028】
以上説明したように、本実施形態によれば、ソレノイド電流を低損失かつ高精度に検出できるものとなる。
【0029】
次に、図4及び図5を用いて、本発明の第2の実施形態によるソレノイド電流制御回路の構成及び動作について説明する。なお、本実施形態によるソレノイド電流制御システムの構成は、図1に示したものと同様である。
図4は、本発明の第2の実施形態によるソレノイド電流制御回路の詳細構成を示すブロック図である。図5は、本発明の第2の実施形態によるソレノイド電流制御システムにおけるソレノイド電流の説明図である。
【0030】
図4に示す本実施形態の制御回路2は、図3に示した構成に加えて、ダイオード導通期間の電流算出部2Bを備えている。
【0031】
図5(A)に示すように、一般に、ハイサイドMOSFET4とローサイドMOSFET5を直列接続して、ソレノイド電流を制御する場合、ハイサイドMOSFET4とローサイドMOSFET5の両方がオフする期間Td1,Td2,すなわち、デッドタイムを設けている。
デッドタイムの期間は、ローサイドMOSFET5の内蔵ダイオードに電流が流れる。デッドタイムを設ける理由は、ハイサイドMOSFET4とローサイドMOSFET5が同時にオンすることによる貫通電流を防ぐためである。
【0032】
図5(A)はローサイドMOSFET5のドレイン電圧、図5(B)はソレノイド6の電流を示している。
【0033】
図5(A)に示すローサイドMOSFET5のドレイン電圧には、3段階の電圧値がある。第1はローサイドMOSFET5の内蔵ダイオードに電流が流れる期間のダイオードの順方向電圧降下(Vf)の電圧V14、第2はハイサイドMOSFET4に電流が流れる期間の図1の電源1の電圧V15、第3はローサイドMOSFET5に電流が流れる期間の、ローサイドMOSFET5のドレイン、ソース間の電圧V16である。
さらに、デッドタイムは2つの期間に分けられる。デッドタイムTd1はハイサイドMOSFET4がオフしてから、ローサイドMOSFET5がオンするまでの期間、デッドタイムTd2は、ローサイドMOSFET5がオフしてから、ハイサイドMOSFET4がオンするまでの期間である。
図1〜図3に示した実施形態で、ハイサイドMOSFET4の電流値を精度良く算出するためには、ローサイドMOSFET5の電流の極大値と極小値に近い値を検出することが望ましいが、デッドタイム期間中(Td1,Td2)は電流を検出することができないので、電流検出値I12と電流検出値I13がローサイドMOSFET5の電流の極大値と極小値からずれ、電流検出値I12と電流検出値I13からハイサイドMOSFET4の電流を検出すると、電流精度は悪化することになる。
すなわち、図5(B)の電流波形において、デッドタイムTd2を避けて、極小値に近いタイミングで検出した電流値I13と、デッドタイムTd1を避けて、極大値に近いタイミングで検出した電流値I12から、ハイサイドMOSFET4に流れるソレノイド6の電流を直線で推定すると、推定波形は一点鎖線Ierとなり、実際のソレノイド電流(破線)との誤差が大きくなる。
また、デッドタイムによる電流検出精度の悪化に加えて、ハイサイドMOSFET4のスイッチング時の電圧振動によっても、電流の検出精度は悪化する。すなわち、図5(A)に破線で示すように、ハイサイドMOSFET4がオフした直後は、電圧の振動が大きく、電圧が振動している期間は、ローサイドMOSFET5をオンし、電流を検出することができない。よって、図2に示した電圧振動が無い場合と比べて、ソレノイド6の電流を検出できる期間が短くなり、電流の検出精度が悪化することになる。
以上のような問題を解決するため、本実施形態では、図4に示すように、ダイオード導通期間の電流算出部2Bを備えている。
図5(B)において、ポイントP72は、ハイサイドMOSFET4がオフし、ローサイドMOSFET5のドレイン電圧が低下するタイミングである。ポイントP73は、ローサイドMOSFET5がオンし、ローサイドMOSFET5のドレイン電圧が上昇するタイミングである。ポイントP74は、ローサイドMOSFET5がオフし、ローサイドMOSFET5のドレイン電圧が低下するタイミングである。ポイントP75は、ハイサイドMOSFET4がオンし、ローサイドMOSFET5のドレイン電圧が上昇するタイミングである。ポイントP76は、ポイントP72と同じくハイサイドMOSFET4がオフし、ローサイドMOSFET5のドレイン電圧が低下するタイミングである。ここで、ポイントP72から76までの期間が1周期に相当する。ポイントP72、P73、P74、P75、P76のタイミングは、ローサイドMOSFET5のドレイン電圧から容易に検出することができる。
図5(B)において、3つの期間(ポイントP72〜ポイントP73、ポイントP73〜ポイントP74、ポイントP74〜ポイントP75)の電流は、以下の式(1)で記述することができる。
【0034】
【数1】

【0035】
式(1)において、Rはソレノイド6とローサイドMOSFET5の経路の寄生抵抗であり、Lはソレノイド6のインダクタンスであり、t0は各期間の初期時間であり、I0は初期電流である。インダクタンスLは全ての期間において一定であるが、抵抗Rはデッドタイム(ポイントP72〜ポイントP73、ポイントP74〜ポイントP75)とローサイドMOSFET5のオン期間(ポイントP73〜ポイントP74)で異なる。
【0036】
各期間の傾きは、式(1)を微分した下記の式(2)で記述できる。
【0037】
【数2】

【0038】
デッドタイム(ポイントP72〜ポイントP73、ポイントP74〜ポイントP75)の抵抗Rは、ソレノイド6の寄生抵抗とローサイドMOSFET5の内蔵ダイオード抵抗の合計値となり、、ローサイドMOSFET5がオンしている期間(ポイントP73〜ポイントP74)の抵抗Rは、ソレノイド6の寄生抵抗とローサイドMOSFET5の抵抗の合計値となる。ポイントP72の電流値は、ポイントP73の電流絶対値と式(2)から算出されたt0の傾き(以下の式(3))から、直線近似により外挿することができる。
【0039】
【数3】

【0040】
ポイントP75の電流値はポイントP74の電流絶対値と式(2)から算出された傾きから、直線近似により外挿することができる。ポイントP76はポイントP72と同様にして算出することができ、ハイサイドMOSFET4がオンしている期間の電流はポイントP75とポイントP76から内挿することで、算出することができる。
すなわち、本実施形態では、制御回路2は、ダイオード導通期間の電流算出部2Bは、センス抵抗8により検出した検出値I12とI13から直線外挿し、ポイントP73からポイントP74の期間の電流値を算出する。ポイントP72からポイントP73のデッドタイムTd1の電流値は、算出したポイントP73の電流を初期値として直線外挿して算出し、ポイントP74からポイントP75のデッドタイムTd2の電流値は、推定したポイントP74の電流を初期値として直線外挿して算出する。すなわち、電流算出部2Bは、ローサイドMOSFET5の内蔵ダイオードの電流を算出する。
【0041】
さらに、電流算出部2Cは、電流算出部2Bによって算出されたポイントP75とポイントP76に対して、図5(B)に破線で示すように直線で内挿近似し、ハイサイドMOSFET4がオンする期間、すなわち電流が増加する期間のソレノイド6の電流を算出する。そして、電流算出部2Dにより、前述のようにして、ソレノイド6の全期間の電流を算出できる。
【0042】
このようにして、本実施形態によれば、デッドタイムの期間がローサイドMOSFET5のオンしている期間と比べて無視できない場合であっても、ソレノイド電流を低損失かつ高精度に検出できるものとなる。
【0043】
次に、図6及び図7を用いて、本発明の第3の実施形態によるソレノイド電流制御回路の構成及び動作について説明する。なお、本実施形態によるソレノイド電流制御システムの構成は、図1に示したものと同様である。また、本実施形態によるソレノイド電流制御回路の詳細構成は、図4に示したものと同様である。
【0044】
図6は、本発明の第3の実施形態によるソレノイド電流制御システムにおけるソレノイド電流の説明図である。図7は、本発明の第3の実施形態によるソレノイド電流制御システムに用いるMOSFETとpn接合ダイオードの順方向特性の説明図である。
【0045】
図6に示すように、デッドタイム(ポイントP72〜ポイントP73、ポイントP74〜ポイントP75)の電流の傾きは、ローサイドMOSFET5がオンしている期間(ポイントP73〜ポイントP74)の電流の傾きより大きく、デッドタイムは単位時間あたりの電流の減少量が大きくなっている。
【0046】
ここで、図7を用いて、デッドタイム(ポイントP72〜ポイントP73、ポイントP74〜ポイントP75)とローサイドMOSFET5がオンしている期間(ポイントP73〜ポイントP74)で電流の傾きに違いが生じる理由について説明する。
図7は、実線VI1は、MOSFETの電流−電圧特性を示し、破線VI2は、pn接合ダイオード42の順方向の電流−電圧特性を示している。
【0047】
MOSFETは、実線VI1で示すように、ゼロボルトから電流が立ち上がり、電圧が大きくなると電流が飽和する。一方、pn接合ダイオードは、破線で示すように、正の電圧から立ち上がり、電圧に対して電流は飽和しない。ここで、pn接合ダイオードは、ローサイドMOSFET5の内蔵ダイオードを想定している。
【0048】
通常使われる電流領域が、縦軸の小電流と大電流の範囲であるとすると、この範囲においてはMOSFETはpn接合ダイオードより抵抗が低い。これが同期整流方式を採用する理由で、同期整流はpn接合ダイオードと比較して、損失を低減することができる。
直線L1は、MOSFETの小電流および大電流の傾きを示し、直線L1の逆数がMOSFETの抵抗を表す。直線L2−1はpn接合ダイオードの大電流の傾きで、直線L2−2はpn接合ダイオードの小電流の傾きである。MOSFETは電流値によらず傾きが同じなのに対して、pn接合ダイオードの傾きは電流値に依存する。
【0049】
図1〜図5に示した実施形態では、デッドタイム、ローサイドMOSFET5の導通期間、ハイサイドMOSFET4の導通期間の電流をそれぞれ直線近似して算出したが、実際のソレノイド6の電流は式(1)で記述されるように指数関数となる。
【0050】
そこで、本実施形態では、図4に示した電流算出部2B,2Cは、デッドタイム、ローサイドMOSFET5の導通期間、ハイサイドMOSFET4の導通期間の電流を式(1)で記述した指数関数で近似するようにしている。これにより、図1〜図5に示した実施形態と比較して、ソレノイド電流の誤差を低減することができる。
図6(A)はローサイドMOSFET5のドレイン電圧、図6(B)はソレノイド6の電流を示し、図5の1周期分を拡大したものである。図6(B)において、実線は本実施形態において指数関数で近似したもの、破線は直線近似したものである。
本実施形態では、電流算出部2Aは、ローサイドMOSFET5の導通期間(ポイントP73〜ポイントP74)の電流を、センス抵抗8により検出した少なくとも2点以上の初期値を用いて指数関数で近似し、両端の電流値(ポイントP73、ポイントP74)を算出する。さらに、電流算出部2Bは、両端の電流値(ポイントP73、ポイントP74)を初期値とし、デッドタイム(ポイントP72〜ポイントP73、ポイントP74〜ポイントP75)の電流を指数関数で近似し、デッドタイムの両端の電流値(ポイントP72、ポイントP75)を算出する。ポイントP76の電流値については、ポイントP72と同様に算出することができる。さらに、電流算出部2Cは、ポイントP75とポイントP76の電流値を初期値として、ハイサイドMOSFET4が導通している期間(ポイントP75〜ポイントP76)の電流値を指数関数で近似する。
【0051】
このようにして、本実施形態によれば、電流波形を直線で近似する手法と比べて高精度にソレノイド電流を高精度に検出できる。
【0052】
次に、図8及び図9を用いて、本発明の第4の実施形態によるソレノイド電流制御回路の構成及び動作について説明する。
図8は、本発明の第4の実施形態によるソレノイド電流制御システムの構成を示す回路図である。図9は、本発明の第4の実施形態によるソレノイド電流制御回路の詳細構成を示すブロック図である。
【0053】
図8に示す実施形態において、図1〜図7に示した実施形態と異なる点は、ソレノイド6と並列に抵抗21とコンデンサ22が直列に接続され、コンデンサ22の両端の電圧を増幅する誤差増幅器23が追加されたことである。
【0054】
抵抗21とコンデンサ22からなる積分回路の出力は、ローサイドMOSFET5のドレイン電圧を積分した数値となり、ソレノイド6に流れる電流の相対値と一致する。
【0055】
本実施形態では、センス抵抗8により、ローサイドMOSFET5の電流の絶対値を検出し、抵抗21とコンデンサ22からなる積分回路によりソレノイド電流の相対値を検出し、ローサイドMOSFET5の電流の絶対値とソレノイド電流の相対値を用いて、全期間のソレノイド6の電流を算出する。
【0056】
本実施形態によれば、ローサイドMOSFET5の導通期間、ハイサイドMOSFET4の導通期間、デッドタイムに渡る、ソレノイド6の全期間の電流を低損失かつ精度良く検出することができる。
しかしながら、本実施形態では、誤差増幅器23の出力にソレノイド6の寄生抵抗が考慮されていないため、ソレノイド6に流れる電流と算出値に誤差を生じることになる。
【0057】
そこで、本実施形態では、図9に示すように、制御回路2の中に、ソレノイド6の寄生抵抗を考慮し、実際のソレノイド6の電流を算出する補正回路2Hを備えている。
式(1)の寄生抵抗Rをソレノイド6の寄生抵抗R1とそれ以外の寄生抵抗R2に分けると、式(1)は式(4)になる。
【0058】
【数4】

【0059】
式(4)を展開すると、式(5)となる。
【0060】
【数5】

【0061】
積分回路では、ソレノイド6の寄生抵抗R1を含まない成分である、
【0062】
【数6】

【0063】
が出力されるので、補正回路2Hでは、積分回路の出力に、ソレノイド6の寄生抵抗R1を表す項である、
【0064】
【数7】

【0065】
を乗じれば、ソレノイド電流を算出することができる。
寄生抵抗R1は電流値に依存しない定数と考えることができるが、寄生抵抗R2は電流値に依存する変数となる。R2を含む式(5)の、
【0066】
【数8】

【0067】
の項は積分回路の出力となるので、式(5)は時間tの関数となる。寄生抵抗R2が電流値に依存する変数となるのは、図7で述べた通り、ローサイドMOSFET5の内蔵ダイオードの抵抗に電流依存性があるためである。
【0068】
このようにして、本実施形態によれば、ソレノイドの全期間の電流を低損失かつ精度良く検出することができる。
【0069】
次に、図10〜図12を用いて、本発明の第5の実施形態によるソレノイド電流制御回路の構成及び動作について説明する。
図10は、本発明の第5の実施形態によるソレノイド電流制御システムの構成を示す回路図である。図11は、本発明の第5の実施形態によるソレノイド電流制御システムにおけるソレノイド電流の説明図である。図12は、本発明の第5の実施形態によるソレノイド電流制御回路の詳細構成を示すブロック図である。
【0070】
本実施形態が、図1〜図9に示した実施形態と異なる点は、センスMOSFETとセンス抵抗がローサイドMOSFETに加えて、ハイサイドMOSFETにも設けられていることである。
【0071】
図10に示すように、ハイサイドMOSFET4には並列にセンスMOSFET31とセンス抵抗32が直列に接続され、センス抵抗32の両端電圧を増幅する誤差増幅器33が備えられている。
【0072】
図11(A)はローサイドMOSFET5のドレイン端子の電圧波形、図11(B)はソレノイド6の電流波形を示している。
【0073】
本実施形態では、ハイサイドMOSFET4の電流I35,I36,IV37が検出できるので、ハイサイドMOSFET4の導通期間は電流I35と電流I36を直線近似し、デッドタイムTd1は電流I36と電流I12を直線近似し、ローサイドMOSFET5の導通期間は電流I12と電流I13を直線近似し、デッドタイムTd2は電流I13と電流I37を直線近似し、全期間のソレノイド6の電流値を算出することができる。
【0074】
図12に示すように、本実施形態は、図1〜図9に示した実施形態と異なる点は、ハイサイドMOSFETの電流を検出する電流検出手段32(センサ抵抗32)があることである。電流検出手段2Aにより、ローサイドMOSFETの電流検出手段8からローサイドMOSFET導通期間の電流を推定し、電流検出手段2Cにより、ハイサイドMOSFET4の電流検出手段63からハイサイドMOSFET導通期間の電流を推定する。電流検出手段2Bは、電流検出手段2Aと電流検出手段2Cの出力からからダイオード導通期間の電流値を推定する。
【0075】
本実施形態によれば、ソレノイドの全期間の電流を低損失かつ精度良く検出することができる。
【0076】
なお、以上の説明では、センスMOSFETがローサイドMOSFETと並列に接続された例を説明したが、センスMOSFETをローサイドMOSFETと並列に接続しても同様の効果が得られる。
また、本発明は、ソレノイド電流駆動回路の電流検出手段だけでなく、モータ制御用のインバータや電源においても、低損失かつ高精度の電流検出手段となる。
【符号の説明】
【0077】
1…電源
2…制御回路
2A、2B,2C,2D…電流算出部
2E…平均電流算出部
2F…目標値保持部
2G…PWM信号発生部
2H…補正回路
3…ドライバ
4…ハイサイドMOSFET
5…ローサイドMOSFET
6…ソレノイド
7,31…センスMOSFET
8,32…センス抵抗
9,33…誤差増幅器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電源に対して直列接続されたハイサイドMOSFETとローサイドMOSFETとの接続点からソレノイドに電流を供給するとともに、前記ハイサイドMOSFET及びローサイドMOSFETのオンオフを制御するソレノイド電流制御回路であって、
前記ローサイドMOSFETと並列に接続された、センスMOSFETとセンス抵抗との直列回路に対して、前記センス抵抗の両端の電圧を増幅する誤差増幅器と、
誤差増幅器の出力値を用いて、ローサイドMOSFETがオフとなる期間の電流を算出する電流算出手段を備えることを特徴とするソレノイド電流制御回路。
【請求項2】
請求項1記載のソレノイド電流制御回路において、
前記センスMOSFETには、前記ハイサイドMOSFET及びローサイドMOSFETに比べて小電流が流れることを特徴とするソレノイド電流制御回路。
【請求項3】
請求項1記載のソレノイド電流制御回路において、
前記電流算出手段は、前記ローサイドMOSFETがオンとなる期間に少なくとも2点の電流値を検出し、該検出電流値のうち両端の検出点を用いて、ハイサイドMOSFETの電流値を算出することを特徴とするソレノイド電流制御回路。
【請求項4】
請求項1記載のソレノイド電流制御回路において、
前記電流算出手段は、前記ローサイドMOSFETがオンとなる期間に少なくとも2点の電流値を検出し、該検出電流値のうち両端の検出点を用いて、ローサイドMOSFETの内蔵ダイオード導通期間の電流値を算出し、該算出電流値を用いて、ハイサイドMOSFETの電流を算出することを特徴とするソレノイド電流制御回路。
【請求項5】
請求項4記載のソレノイド電流制御回路において、
前記電流算出手段は、前記ハイサイドMOSFET、前記ローサイドMOSFET、前記ローサイドMOSFETの内蔵ダイオードの電流波形を直線で近似することを特徴とするソレノイド電流制御回路。
【請求項6】
請求項4記載のソレノイド電流制御回路において、
前記電流算出手段は、前記ハイサイドMOSFET、前記ローサイドMOSFET、前記ローサイドMOSFETの内蔵ダイオードのうち、少なくともひとつの電流波形を指数関数で近似することを特徴とするソレノイド電流制御回路。
【請求項7】
直流電源に対して直列接続されたハイサイドMOSFETとローサイドMOSFETとの接続点からソレノイドに電流を供給するとともに、前記ハイサイドMOSFET及びローサイドMOSFETのオンオフを制御するソレノイド電流制御回路であって、
前記ローサイドMOSFETと並列に接続された、センスMOSFETとセンス抵抗との直列回路に対して、前記センス抵抗の両端の電圧を増幅する第1の誤差増幅器と、
前記ソレノイドと並列に接続された抵抗とコンデンサとの直列回路に対して、前記コンデンサの両端の電圧を増幅する第2の誤差増幅器と、
前記第1の誤差増幅器と前記第2の誤差増幅器の出力値から、ソレノイドの全導通期間の電流を算出する電流算出手段を備えることを特徴とするソレノイド電流制御回路。
【請求項8】
直流電源に対して直列接続されたハイサイドMOSFETとローサイドMOSFETとの接続点からソレノイドに電流を供給するとともに、前記ハイサイドMOSFET及びローサイドMOSFETのオンオフを制御するソレノイド電流制御回路であって、
前記ローサイドMOSFETと並列に接続された、センスMOSFETと第1のセンス抵抗との直列回路に対して、前記第1のセンス抵抗の両端の電圧を増幅する第1の誤差増幅器と、
前記ハイサイドMOSFETと並列に接続された、第2のセンスMOSFETと第2のセンス抵抗との直列回路に対して、前記第2のセンス抵抗の両端の電圧を増幅する第2の誤差増幅器と、
前記第1の誤差増幅器と前記第2の誤差増幅器の出力値から、ハイサイドMOSFETとローサイドMOSFETがともにオフとなる期間のソレノイド電流を算出する電流算出手段を備えることを特徴とするソレノイド電流制御回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−206699(P2010−206699A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−52242(P2009−52242)
【出願日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】