ディスクブレーキ用組み合わせシム板
【課題】内側、外側両シム板4c、5c同士の周方向の相対変位を許容し、しかも、これら両シム板4c、5cをパッドのプレッシャプレートの背面に組み付ける以前の状態でも、これら両シム板4c、5cが不用意に分離する事を防止する。
【解決手段】内側シム板4cに設けた各内側係止片6d、6eと、外側シム板5cに設けた各外側係止片10e、10fとを係合させて、これら両シム板4c、5cが厚さ方向に分離する事を阻止する。又、上記内側シム板4cの基板部7aの周方向両端縁に一対の折れ曲がり片13、13を設ける。これら両折れ曲がり片13、13同士の間隔を、上記外側シム板5cの基板部9aの周方向長さよりも大きくして、上記内側シム板4cをこの外側シム板5cに対し、周方向に変位可能とする。この変位に拘らず、上記各内側係止片6d、6eと上記各外側係止片10e、10fとの係合が外れる事はない。
【解決手段】内側シム板4cに設けた各内側係止片6d、6eと、外側シム板5cに設けた各外側係止片10e、10fとを係合させて、これら両シム板4c、5cが厚さ方向に分離する事を阻止する。又、上記内側シム板4cの基板部7aの周方向両端縁に一対の折れ曲がり片13、13を設ける。これら両折れ曲がり片13、13同士の間隔を、上記外側シム板5cの基板部9aの周方向長さよりも大きくして、上記内側シム板4cをこの外側シム板5cに対し、周方向に変位可能とする。この変位に拘らず、上記各内側係止片6d、6eと上記各外側係止片10e、10fとの係合が外れる事はない。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両の制動を行う為に利用するディスクブレーキに組み込んで、ブレーキ鳴きやパッドの偏摩耗を抑える為に利用するディスクブレーキ用組み合わせシム板の改良に関する。具体的には、互いに組み合わされた複数枚のシム板が、上記パッドを構成するプレッシャプレートの裏面に組み付ける以前に於いても不用意に分離しない様にして、部品としてのディスクブレーキ用組み合わせシム板の取り扱い性、並びに、上記プレッシャプレートへの組み付け性の向上を図るものである。
【背景技術】
【0002】
車両の制動を行う為のディスクブレーキの制動時の鳴きや、パッドの偏摩耗を抑える為の技術として、従来から、例えば、キャリパの爪部及びピストンの先端面とパッドとの間に、シム板を設ける事が行われている。又、上記機能の向上を目的として、シム板を複数枚重ね合わせた組み合わせシム板の構造に関しても、例えば特許文献1〜3に記載されている様に、従来から各種知られている。周知の様に、この様なシム板或は組み合わせシム板は、キャリパの爪部又はピストンの先端面と、上記パッドを構成するプレッシャプレートの背面との間に挟持する。そして、制動に伴うキャリパの挙動を安定させて上記パッドのライニングが偏摩耗する事を抑え、このパッドの耐久性向上や、制動時に鳴きと呼ばれる異音が発生する事を抑える様にしている。
【0003】
図11〜13は、上述の様な役目を果たす組み合わせシム板のうち、上記特許文献1に記載された構造を示している。この組み合わせシム板1は、パッド2を構成するプレッシャプレート3の背面に添設される、それぞれがステンレス鋼板等の耐食性を有する金属板製である、内側シム板4と、この内側シム板4に重ね合わせた外側シム板5とを備える。尚、これら内側、外側両シム板4、5は、直接重ね合わせる他、間に他の部材(第三のシム板又は振動減衰板)を介在させた状態で重ね合わせる場合もある。
【0004】
何れの場合でも、上記内側シム板4の周縁部のうち、車体への組み付け状態でのロータ(図示せず)の径方向両端縁部に、それぞれ内側係止片6a、6bを、それぞれ上記プレッシャプレート3に向け折り曲げた状態で設けている。図示の例では、径方向外端縁の中央部に1個の内側係止片6aを、同じく径方向内端縁の両側寄り部分に2個の内側係止片6b、6bを、それぞれ設けている。これら各内側係止片6a、6bはそれぞれ、図12に示す様に、上記内側シム板4の基板部7に近い側で、この基板部7の周縁からの上記ロータの径方向に関する突出量が大きく、この基板部7から離れるに従ってこの方向の突出量が小さくなった後、再び同方向の突出量が多くなる様に傾斜している。又、上記基板部7には、それぞれがスリット状である、複数の透孔8、8を形成し、これら各透孔8、8内に、グリース等の潤滑剤を保持可能としている。尚、本明細書及び特許請求の範囲で、径方向(内径側、外径側の語も同様)及び周方向とは、特に断らない限り、上記ロータの径方向及び周方向を言う。
【0005】
一方、上記外側シム板5は、上記内側シム板4とは異なり、無孔の基板部9の周縁部のうち、車体への組み付け状態でのロータの径方向両端縁部に、それぞれ外側係止片10a、10bを、それぞれ上記プレッシャプレート3に向け折り曲げた状態で設けている。これら各外側係止片10a、10bの形状に関しても、上記各内側係止片6a、6bと同様に、上記基板部9に近い側で突出量が大きく、この基板部9から離れるに従ってこの方向の突出量が小さくなった後、再び同方向の突出量が多くなる方向に傾斜した形状としている。又、上記各外側係止片10a、10bを形成した位置は、上記各内側係止片6a、6bを形成した位置に一致させている。
【0006】
それぞれが上述の様な形状を有する、上記内側、外側両シム板4、5は、図11〜12に示す様に、互いに重ね合わせた状態で、上記プレッシャプレート3の背面に組み付ける。即ち、上記内側シム板4の径方向両端縁部に設けた上記各内側係止片6a、6bを上記プレッシャプレート3の径方向両端縁部に係止し、更に、上記各外側係止片10a、10bを、上記各内側係止片6a、6bに、これら各内側係止片6a、6bを径方向両側から挟み付ける状態で係止する。この状態で上記内側シム板4は上記プレッシャプレート3に対して、径方向の変位を阻止された状態で、周方向に関する若干の変位を可能に係止される。又、上記外側シム板5は上記内側シム板4に対して、径方向の変位を阻止された状態で、周方向に関する若干の変位を可能に係止される。
【0007】
上述の様な従来構造の場合、キャリパの爪部又はピストンの先端面と、上記プレッシャプレート3とを、周方向に関して軽い力でずれ動く様にできる。この為、制動時に、ロータによって、上記プレッシャプレート3を含むパッド2がこのロータの周方向に移動しても、キャリパの挙動を安定させる事ができ、このパッドの偏摩耗及びブレーキ鳴きを抑える事ができる。又、上記図11〜13に示した従来構造の第1例の場合には、上記外側シム板5を上記内側シム板4に対しロータ軸方向に離れにくくでき、これら両シム板4、5と上記パッド2との組み合せである、パッド組立体の取り扱い性の向上を図れる。
【0008】
図11〜13に示した従来構造の第1例は、上述の様に、偏摩耗防止及び取り扱い性向上の面から優れた性能を有するものであるが、取り扱い性をより一層向上させる面からは、改良の余地がある。即ち、上記従来構造は、上記両シム板4、5を上記プレッシャプレート3の背面に組み付ける以前の状態では、これら両シム板4、5同士が不用意に分離する事を十分には防止できない。具体的には、これら両シム板4、5が周方向(図11の左右方向、図12の表裏方向)にずれ動いた場合、前記各内側係止片6a、6bと前各外側係止片10a、10bとの係合が外れ、上記両シム板4、5が分離してしまう。これら両シム板4、5を上記プレッシャプレート3の背面に組み付けた後の状態では、このプレッシャプレート3に形成した段差部と上記各係止片6a、6b、10a、10bとの係合に基づき、上記両シム板4、5の周方向へのずれ量を規制できるが、組み付け前の状態ではこのずれ量を規制できない為、上記不用意な分離を防止できない。
【0009】
特許文献2には、図14〜15に示す様に、内側シム板4aの周方向両端部に一対の係合爪11、11を、外側シム板5aに向け折り立てた状態で設けた構造が記載されている。これら両シム板4a、5aをパッド2aのプレッシャプレート3aの背面に組み付けた状態で、上記両係合爪11、11と、上記外側シム板5aの周方向両端部に設けた一対の切り欠き12、12とが係合する。又、この外側シム板5aが上記プレッシャプレート3aに対し、外側係止片10c、10dにより係止される。この様な特許文献2に記載された発明の構造の場合には、上記両シム板4a、5aを上記プレッシャプレート3aの背面に組み付ける以前の状態では、これら両シム板4a、5aがそれぞれの厚さ方向(図15の表裏方向)に離れる事を阻止できず、これら両シム板4a、5aが不用意に分離する可能性がある。
【0010】
更に、特許文献3には、図16に示す様な、内側シム板4bと外側シム板5bとから成るディスクブレーキ用組み合わせシム板の構造が記載されているが、この様な従来構造の第3例にしても、上記両シム板4b、5bをパッドのプレッシャプレートの背面に組み付け、更にディスクブレーキの構成各部材を組み立てる以前の状態では、上記両シム板4b、5b同士が不用意に分離する可能性がある。
以上に述べた様に、特許文献1〜3に記載された従来構造の第1〜3例は何れも、内側、外側両シム板をパッドのプレッシャプレートに組み付ける以前の状態で、これら両シム板が不用意に分離するのを防止する事は意図していない。この為、これら両シム板を組み合わせたディスクブレーキ用組み合わせシム板の取り扱い性が必ずしも良好とは言えず、ディスクブレーキの組立作業性向上の面から改良の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2006−200560号公報
【特許文献2】実公平3−46262号公報
【特許文献3】実公平6−11377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、内側、外側両シム板同士が周方向に相対変位する事を許容でき、しかも、これら両シム板をパッドのプレッシャプレートの背面に組み付ける以前の状態でも、これら両シム板が不用意に分離する事を防止できる、新規且つ有用なディスクブレーキ用組み合わせシム板の構造を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のディスクブレーキ用組み合わせシム板は、前述の特許文献1〜3に記載される等により従来から知られているディスクブレーキ用組み合わせシム板と同様に、内側シム板と外側シム板とを備える。
このうちの内側シム板は、ディスクブレーキ用のパッドを構成するプレッシャプレートの背面に添設されるもので、平板状の内側基板部と、この内側基板部の内径側、外径側両端縁から径方向及び厚さ方向に突出した内径側、外径側各内側係止片とを備える。
又、上記外側シム板は、上記内側シム板に、直接又は他の部材を介して重ねられたものであり、平板状の外側基板部と、この外側基板部の内径側、外径側両端縁から径方向及び厚さ方向に突出した内径側、外径側各外側係止片を備える。
更に、上記各内径側、外径側各外側係止片の先端寄り部分の内側面が、上記各内径側、外径側各内側係止片の先端寄り部分の外側面に当接若しくは近接対向する事により、上記内側基板部と上記外側基板部とがそれぞれの厚さ方向に離れる事を阻止している。
この為に例えば、上記各外側係止片及び上記各内側係止片はそれぞれ、基板部からの径方向に関する突出量が、この基板部に近い基部で大きく、この基部よりも先端寄り部分で小さくなる方向に傾斜したものとする。
【0014】
特に、本発明のディスクブレーキ用組み合わせシム板に於いては、上記外側シム板と上記内側シム板との間に、これら両シム板同士の周方向への相対変位を規制する為の規制手段を設けている。
この規制手段は、例えば請求項2に記載した発明の様に、上記外側シム板と上記内側シム板との少なくとも一方のシム板から他方のシム板に向け折り曲げられた折れ曲がり片により構成する。
より具体的には、請求項3に記載した発明の様に、上記内側基板部の周方向両端縁から上記外側基板部に向け折れ曲がった一対の折れ曲がり片を設ける。
又、これら両折れ曲がり片の互いに対向する側面同士の間隔を、上記外側基板部の周方向長さよりも大きくする事により、上記内側シム板を上記外側シム板に対し、上記間隔と上記周方向長さとの差に応じた長さ分だけ周方向に変位可能とする。
更に、この長さ分だけ、上記内側シム板と上記外側シム板とを周方向に相対変位させた状態でも、上記各外側係止片と上記各内側係止片との係合が外れない様に、これら各係止片の周方向に関する幅と、上記間隔と、上記周方向長さとを規制する。
【発明の効果】
【0015】
上述の様に本発明のディスクブレーキ用組み合わせシム板は、前述の図11〜13で説明した、特許文献1に記載された従来構造の第1例の場合と同様に、各外側係止片と各内側係止片とが、内側、外側両シム板同士の周方向に関する相対変位を許容する様に係合している。この為、制動時に於けるキャリパの挙動を安定させて、パッドの偏摩耗及びブレーキ鳴きを抑える事ができる。
【0016】
又、本発明のディスクブレーキ用組み合わせシム板は、やはり上記従来構造の第1例の場合と同様に、上記各外側係止片と上記各内側係止片とが、上記両シム板の基板部同士がそれぞれの厚さ方向に離れる事を阻止する状態で係合している。更に、本発明のディスクブレーキ用組み合わせシム板は、例えば一対の折れ曲がり片により、上記両シム板が、上記各外側係止片と上記各内側係止片との係合が外れる迄、周方向に変位する事を阻止する。従って、上記両シム板をパッドのプレッシャプレートの背面に組み付ける以前の状態でも、これら両シム板が不用意に分離する事を防止できる。この為、組み合わせシム板の取り扱い性を向上させて、この組み合わせシム板を組み込んだディスクブレーキの組立作業の容易化を図り、このディスクブレーキの製造コストの低廉化を図れる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態の1例を、内側、外側両シム板同士を組み合わせた状態で示す斜視図。
【図2】同じく分離した状態で示す斜視図。
【図3】内側シム板を外側面側から見た正投影図。
【図4】図3の右方から見た正投影図。
【図5】図4のイ部拡大図(A)及び同ロ部拡大図(B)。
【図6】外側シム板を内側面側から見た正投影図。
【図7】図6の左方から見た正投影図。
【図8】図7のハ部拡大図(A)及び同ニ部拡大図(B)。
【図9】内側シム板のみをプレッシャプレートの背面に装着した状態を、この内側シム板の外側面側から見た状態で示す正投影図。
【図10】図9のホ−ホ断面図。
【図11】従来構造の第1例を、組み合わせシム板をプレッシャプレートの背面に装着した状態を外側面側から見た状態で示す正投影図。
【図12】図11の拡大ヘ−ヘ断面図。
【図13】内側シム板と外側シム板とプレッシャプレートとを分離して外側面側から見た状態で示す正投影図。
【図14】従来構造の第2例を、内側シム板と外側シム板とプレッシャプレートとを分離した状態で示す斜視図。
【図15】同じく組み合わせて外側面側から見た状態で示す正投影図。
【図16】従来構造の第3例を、内側シム板と外側シム板とを分離した状態で示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1〜10は、本発明の実施の形態の1例を示している。本例の組み合わせシム板1aは、図2〜5に示した様な内側シム板4cと、図2、6〜8に示した様な外側シム板5cとを、図1に示す様に組み合わせて成る。これら両シム板4c、5cはそれぞれ、ステンレス鋼板等の弾性及び耐食性を有する金属板を曲げ形成して成る。又、このうちの内側シム板4cの両面には、ゴムの如きエラストマー等の弾性材のコーティング層を形成している。この様な弾性材のコーティング層に就いては、従来から周知である。又、上記組み合わせシム板1aの使用状態では、上記内側シム板4cの内側面が、パッド2bのプレッシャプレート3b(図9、10参照)の背面に当接する(この背面部分に添設される)。これに対して、上記外側シム5cの外側面が、ピストンの先端面又はキャリパ爪の内側面に当接する。これらの点に就いても、従来から周知である為、詳しい図示並びに説明は省略する。本発明の組み合わせシム板1aの特徴は、上記両シム板4c、5cを図1に示す様に組み合わせた状態で、これら両シム板4c、5cが周方向に関して所定長さだけ相対変位可能とすると共に、これら両シム板4c、5c同士が不用意に(特に分離しようとする為の力を加えない限り)分離しない様に組み合わせる構造にある。
【0019】
この様な構造とする為に、上記内側シム板4cを、特許請求の範囲に記載した内側基板部である基板部7aと、同じく内径側、外径側各内側係止片である内側係止片6d、6eとから構成している。このうちの基板部7aは平板状で、潤滑剤を保持する為の、それぞれがスリット状である複数の透孔8a、8aを形成している。又、上記各内側係止片6d、6eのうちで、上記基板部7aと同一平面上に位置する基部を除く部分は、この基部に対し、この基板部7aの厚さ方向に折れ曲がっている。そして、この折れ曲がった部分がそれぞれ、互いに対向する内側面の中間部が突出した(互いに反対側の外側面の中間部が凹んだ)「へ」字形である。
【0020】
この様な上記各内側係止片6d、6eは、上記基板部7aの内径側、外径側両端縁から径方向及びこの基板部7aの厚さ方向に関して片側(上記プレッシャプレート3bに近づく側)に突出する状態で形成している。即ち、上記基板部7aの内径側端縁の周方向両端寄り部分に、それぞれが内径側内側係止片である一対の内側係止片6d、6dを、同じく外径側端縁の周方向中央部に、外径側内側係止片である内側係止片6eを、それぞれ形成している。更に、上記基板部7aの周方向両端縁に一対の折れ曲がり片13、13を、この基板部7aの厚さ方向に関して、上記各内側係止片6d、6eと反対側(外側シム板5c側)に突出する状態で設けている。尚、これら各内側係止片6d、6e及び次述する外側係止片10e、10fの形状及び寸法に関しては、基本的には、前述の特許文献1に記載された従来構造と同様である。
【0021】
又、上記外側シム板5cは、特許請求の範囲に記載した外側基板部である、平板状の基板部9aと、同じく内径側、外径側各外側係止片である外側係止片10e、10fとから構成している。上記基板部9aは、上記内側シム板4cの基板部7aとは異なり、無孔である。又、上記各外側係止片10e、10fは、この内側シム板4cを構成する、上記各内側係止片6d、6eと同様の形状を有するもので、上記基板部9aの内径側、外径側両端縁から径方向及びこの基板部9aの厚さ方向に関して片側(上記プレッシャプレート3bに近づく側)に突出する状態で形成している。即ち、上記基板部9aの内径側端縁の周方向両端寄り部分に、それぞれが内径側外側係止片である一対の外側係止片10e、10eを、同じく外径側端縁の周方向中央部に、外径側外側係止片である外側係止片10fを、それぞれ形成している。又、周方向に関する上記外側シム板5cの長さ寸法(特許請求の範囲に記載した周方向長さ)L5c(図6参照)は、同方向に関する、上記両折れ曲がり片13、13同士の間隔D13(図3参照)よりも小さい(L5c<D13)。
【0022】
上記各内側係止片6d、6e及び上記各外側係止片10e、10fは、これら各内側係止片6d、6eの外側面(互いに反対側の面)側に、これら各外側係止片10e、10fを位置させられる様に、径方向に関するピッチ(図4、7の上下方向に関する間隔)及び周方向に関する位相を規制している。そして、上記各内側係止片6d、6eの外側面の中間部で凹んだ部分に、上記各外側係止片10e、10fの内側面の中間部で突出した部分を、弾性的に当接若しくは微小隙間を介して対向させている。これら各係止片6d、6e、10e、10fの内外両側面の幅方向(周方向、前記組み合わせシム板1aの長さ方向、図1〜3、6、9の左右方向)は、互いに平行である。従って、上述の様に上記各内側係止片6d、6eと上記各外側係止片10e、10fとを係合させた状態で、上記内側シム板4cと上記外側シム板5cとは、これら各係止片6d、6e、10e、10fのうちの少なくとも一部を弾性変形しない限り、互いに厚さ方向に離れる事はなくなる。これに対して、周方向には、上記外側シム板5cの長さ寸法L5cと上記両折れ曲がり片13、13同士の間隔D13の差(D13−L5c)分だけ、相対変位可能になる。
【0023】
但し、上記各係止片6d、6e、10e、10f同士の係合に基づいて上記内側シム板4cと上記外側シム板5cとを、上記差(D13−L5c)分だけ周方向に関して何れの方向に相対変位させた場合でも、上記各係止片6d、6e、10e、10f同士の係合が外れない様にしている。即ち、これら各係止片6d、6e、10e、10fの周方向に関する幅と、上記間隔D13と、上記長さ寸法L5cとを規制している。具体的には、互いに係合する上記各内側係止片6d、6eと上記各外側係止片10e、10fとのうちの少なくとも一方の係止片の周方向に関する幅を十分に確保して、上記相対変位に拘らず、上記各係止片6d、6e、10e、10f同士が、少なくとも幅方向の一部同士で互いに係合する様にしている。
【0024】
上述の様に本例の組み合わせシム板1aは、前述の図11〜13で説明した、特許文献1に記載された従来構造の第1例の場合と同様に、上記各内側係止片6d、6eと上記各外側係止片10e、10fとが、上記内側、外側両シム板4c、5c同士の周方向に関する相対変位を許容する様に係合している。この為、制動時に於けるキャリパの挙動を安定させて、パッド2bの偏摩耗及びブレーキ鳴きを抑える事ができる。
【0025】
又、本例の組み合わせシム板1aは、やはり上記従来構造の第1例の場合と同様に、上記各内側係止片6d、6eと上記各外側係止片10e、10fとが、上記両シム板4c、5cの基板部7a、9a同士がそれぞれの厚さ方向に離れる事を阻止する状態で係合している。更に、本例の組み合わせシム板1aは、上記内側シム板4cに設けた前記両折れ曲がり片13、13により、この内側シム板4cに対する上記外側シム板5cの、周方向に関する変位量を抑えている為、この周方向の相対変位に伴って、上記各内側係止片6d、6eと上記各外側係止片10e、10fとの係合が外れる事はない。従って、上記両シム板4c、5cを上記パッド2bのプレッシャプレート3bの背面に組み付ける以前の状態でも、上記両シム板4c、5cが不用意に分離する事を防止できる。この為、上記組み合わせシム板1aの取り扱い性を向上させて、この組み合わせシム板1aを組み込んだディスクブレーキの組立作業の容易化を図り、このディスクブレーキの製造コストの低廉化を図れる。
【0026】
尚、上記両シム板4c、5cが不用意に分離する事を防止して上記組み合わせシム板1aの取り扱い性を向上させる事の利点は、互いに組み合わせた状態で使用される、上記両シム板4c、5cを一体的に取り扱える事で得られる。即ち、上記組み合わせシム板1aの製造工場からディスクブレーキの組立現場迄、図1に示す様に上記両シム板4c、5cを組み合わせた状態で搬送できる事により十分に得られる。勿論、これら両シム板4c、5cを組み合わせた状態のまま、上記組み合わせシム板1aを上記プレッシャプレート3bの背面に組み付ければ、この組み合わせシム板1aの組み付け作業の単純化を図れる。この場合には、上記内側シム板4cの内面側にグリース等の潤滑剤を塗布してから、上記組み合わせシム板1aを上記プレッシャプレート3bの背面に組み付ける。但し、上記内側シム板4cの外面側(この内側シム板4cと上記外側シム板5cとの突き合わせ面側)にグリース等の潤滑剤を塗布したい等の事情があれば、図9〜10に示す様に、上記内側シム板4cを上記プレッシャプレート3bの背面に組み付けて、この内側シム板4cの外側面に潤滑剤を塗布してから、この内側シム板4cに上記外側シム板5cを組み付ける事もできる。又、上記潤滑剤は、これら両シム板4c、5cを組み合わせる以前に、このうちの内側シム板4cに塗布しておく事もできる。何れの場合でも、上記プレッシャプレート3bの背面に上記組み合わせシム板1aを組み付けた状態では、この組み合わせシム板1aと上記パッド2bとが、不用意に分離しない様に組み合わされる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明を実施する場合に、内側シム板4cと外側シム板5cとは直接当接させても良いが、前述した特許文献1の図4に示す様に、内側シム板と外側シム板との間に、係止片等を持たない、単なる平板状の、或いは平板状で潤滑剤保持用の透孔を形成した、中間シム板を挟持しても良い。この中間シム板に関しても、自身の外周縁部と、上記内側、外側両シム板に形成した各係止片及び折れ曲げ片との係合により、これら内側、外側両シム板同士の間から不用意に抜け出る事はない。
【符号の説明】
【0028】
1、1a 組み合わせシム板
2、2a、2b パッド
3、3a、3b プレッシャプレート
4、4a、4b、4c 内側シム板
5、5a、5b、5c 外側シム板
6a、6b、6c、6d、6e 内側係止片
7、7a 基板部
8、8a 透孔
9、9a 基板部
10a、10b、10c、10d、10e、10f 外側係止片
11 係合爪
12 切り欠き
13 折れ曲がり片
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両の制動を行う為に利用するディスクブレーキに組み込んで、ブレーキ鳴きやパッドの偏摩耗を抑える為に利用するディスクブレーキ用組み合わせシム板の改良に関する。具体的には、互いに組み合わされた複数枚のシム板が、上記パッドを構成するプレッシャプレートの裏面に組み付ける以前に於いても不用意に分離しない様にして、部品としてのディスクブレーキ用組み合わせシム板の取り扱い性、並びに、上記プレッシャプレートへの組み付け性の向上を図るものである。
【背景技術】
【0002】
車両の制動を行う為のディスクブレーキの制動時の鳴きや、パッドの偏摩耗を抑える為の技術として、従来から、例えば、キャリパの爪部及びピストンの先端面とパッドとの間に、シム板を設ける事が行われている。又、上記機能の向上を目的として、シム板を複数枚重ね合わせた組み合わせシム板の構造に関しても、例えば特許文献1〜3に記載されている様に、従来から各種知られている。周知の様に、この様なシム板或は組み合わせシム板は、キャリパの爪部又はピストンの先端面と、上記パッドを構成するプレッシャプレートの背面との間に挟持する。そして、制動に伴うキャリパの挙動を安定させて上記パッドのライニングが偏摩耗する事を抑え、このパッドの耐久性向上や、制動時に鳴きと呼ばれる異音が発生する事を抑える様にしている。
【0003】
図11〜13は、上述の様な役目を果たす組み合わせシム板のうち、上記特許文献1に記載された構造を示している。この組み合わせシム板1は、パッド2を構成するプレッシャプレート3の背面に添設される、それぞれがステンレス鋼板等の耐食性を有する金属板製である、内側シム板4と、この内側シム板4に重ね合わせた外側シム板5とを備える。尚、これら内側、外側両シム板4、5は、直接重ね合わせる他、間に他の部材(第三のシム板又は振動減衰板)を介在させた状態で重ね合わせる場合もある。
【0004】
何れの場合でも、上記内側シム板4の周縁部のうち、車体への組み付け状態でのロータ(図示せず)の径方向両端縁部に、それぞれ内側係止片6a、6bを、それぞれ上記プレッシャプレート3に向け折り曲げた状態で設けている。図示の例では、径方向外端縁の中央部に1個の内側係止片6aを、同じく径方向内端縁の両側寄り部分に2個の内側係止片6b、6bを、それぞれ設けている。これら各内側係止片6a、6bはそれぞれ、図12に示す様に、上記内側シム板4の基板部7に近い側で、この基板部7の周縁からの上記ロータの径方向に関する突出量が大きく、この基板部7から離れるに従ってこの方向の突出量が小さくなった後、再び同方向の突出量が多くなる様に傾斜している。又、上記基板部7には、それぞれがスリット状である、複数の透孔8、8を形成し、これら各透孔8、8内に、グリース等の潤滑剤を保持可能としている。尚、本明細書及び特許請求の範囲で、径方向(内径側、外径側の語も同様)及び周方向とは、特に断らない限り、上記ロータの径方向及び周方向を言う。
【0005】
一方、上記外側シム板5は、上記内側シム板4とは異なり、無孔の基板部9の周縁部のうち、車体への組み付け状態でのロータの径方向両端縁部に、それぞれ外側係止片10a、10bを、それぞれ上記プレッシャプレート3に向け折り曲げた状態で設けている。これら各外側係止片10a、10bの形状に関しても、上記各内側係止片6a、6bと同様に、上記基板部9に近い側で突出量が大きく、この基板部9から離れるに従ってこの方向の突出量が小さくなった後、再び同方向の突出量が多くなる方向に傾斜した形状としている。又、上記各外側係止片10a、10bを形成した位置は、上記各内側係止片6a、6bを形成した位置に一致させている。
【0006】
それぞれが上述の様な形状を有する、上記内側、外側両シム板4、5は、図11〜12に示す様に、互いに重ね合わせた状態で、上記プレッシャプレート3の背面に組み付ける。即ち、上記内側シム板4の径方向両端縁部に設けた上記各内側係止片6a、6bを上記プレッシャプレート3の径方向両端縁部に係止し、更に、上記各外側係止片10a、10bを、上記各内側係止片6a、6bに、これら各内側係止片6a、6bを径方向両側から挟み付ける状態で係止する。この状態で上記内側シム板4は上記プレッシャプレート3に対して、径方向の変位を阻止された状態で、周方向に関する若干の変位を可能に係止される。又、上記外側シム板5は上記内側シム板4に対して、径方向の変位を阻止された状態で、周方向に関する若干の変位を可能に係止される。
【0007】
上述の様な従来構造の場合、キャリパの爪部又はピストンの先端面と、上記プレッシャプレート3とを、周方向に関して軽い力でずれ動く様にできる。この為、制動時に、ロータによって、上記プレッシャプレート3を含むパッド2がこのロータの周方向に移動しても、キャリパの挙動を安定させる事ができ、このパッドの偏摩耗及びブレーキ鳴きを抑える事ができる。又、上記図11〜13に示した従来構造の第1例の場合には、上記外側シム板5を上記内側シム板4に対しロータ軸方向に離れにくくでき、これら両シム板4、5と上記パッド2との組み合せである、パッド組立体の取り扱い性の向上を図れる。
【0008】
図11〜13に示した従来構造の第1例は、上述の様に、偏摩耗防止及び取り扱い性向上の面から優れた性能を有するものであるが、取り扱い性をより一層向上させる面からは、改良の余地がある。即ち、上記従来構造は、上記両シム板4、5を上記プレッシャプレート3の背面に組み付ける以前の状態では、これら両シム板4、5同士が不用意に分離する事を十分には防止できない。具体的には、これら両シム板4、5が周方向(図11の左右方向、図12の表裏方向)にずれ動いた場合、前記各内側係止片6a、6bと前各外側係止片10a、10bとの係合が外れ、上記両シム板4、5が分離してしまう。これら両シム板4、5を上記プレッシャプレート3の背面に組み付けた後の状態では、このプレッシャプレート3に形成した段差部と上記各係止片6a、6b、10a、10bとの係合に基づき、上記両シム板4、5の周方向へのずれ量を規制できるが、組み付け前の状態ではこのずれ量を規制できない為、上記不用意な分離を防止できない。
【0009】
特許文献2には、図14〜15に示す様に、内側シム板4aの周方向両端部に一対の係合爪11、11を、外側シム板5aに向け折り立てた状態で設けた構造が記載されている。これら両シム板4a、5aをパッド2aのプレッシャプレート3aの背面に組み付けた状態で、上記両係合爪11、11と、上記外側シム板5aの周方向両端部に設けた一対の切り欠き12、12とが係合する。又、この外側シム板5aが上記プレッシャプレート3aに対し、外側係止片10c、10dにより係止される。この様な特許文献2に記載された発明の構造の場合には、上記両シム板4a、5aを上記プレッシャプレート3aの背面に組み付ける以前の状態では、これら両シム板4a、5aがそれぞれの厚さ方向(図15の表裏方向)に離れる事を阻止できず、これら両シム板4a、5aが不用意に分離する可能性がある。
【0010】
更に、特許文献3には、図16に示す様な、内側シム板4bと外側シム板5bとから成るディスクブレーキ用組み合わせシム板の構造が記載されているが、この様な従来構造の第3例にしても、上記両シム板4b、5bをパッドのプレッシャプレートの背面に組み付け、更にディスクブレーキの構成各部材を組み立てる以前の状態では、上記両シム板4b、5b同士が不用意に分離する可能性がある。
以上に述べた様に、特許文献1〜3に記載された従来構造の第1〜3例は何れも、内側、外側両シム板をパッドのプレッシャプレートに組み付ける以前の状態で、これら両シム板が不用意に分離するのを防止する事は意図していない。この為、これら両シム板を組み合わせたディスクブレーキ用組み合わせシム板の取り扱い性が必ずしも良好とは言えず、ディスクブレーキの組立作業性向上の面から改良の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2006−200560号公報
【特許文献2】実公平3−46262号公報
【特許文献3】実公平6−11377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、内側、外側両シム板同士が周方向に相対変位する事を許容でき、しかも、これら両シム板をパッドのプレッシャプレートの背面に組み付ける以前の状態でも、これら両シム板が不用意に分離する事を防止できる、新規且つ有用なディスクブレーキ用組み合わせシム板の構造を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のディスクブレーキ用組み合わせシム板は、前述の特許文献1〜3に記載される等により従来から知られているディスクブレーキ用組み合わせシム板と同様に、内側シム板と外側シム板とを備える。
このうちの内側シム板は、ディスクブレーキ用のパッドを構成するプレッシャプレートの背面に添設されるもので、平板状の内側基板部と、この内側基板部の内径側、外径側両端縁から径方向及び厚さ方向に突出した内径側、外径側各内側係止片とを備える。
又、上記外側シム板は、上記内側シム板に、直接又は他の部材を介して重ねられたものであり、平板状の外側基板部と、この外側基板部の内径側、外径側両端縁から径方向及び厚さ方向に突出した内径側、外径側各外側係止片を備える。
更に、上記各内径側、外径側各外側係止片の先端寄り部分の内側面が、上記各内径側、外径側各内側係止片の先端寄り部分の外側面に当接若しくは近接対向する事により、上記内側基板部と上記外側基板部とがそれぞれの厚さ方向に離れる事を阻止している。
この為に例えば、上記各外側係止片及び上記各内側係止片はそれぞれ、基板部からの径方向に関する突出量が、この基板部に近い基部で大きく、この基部よりも先端寄り部分で小さくなる方向に傾斜したものとする。
【0014】
特に、本発明のディスクブレーキ用組み合わせシム板に於いては、上記外側シム板と上記内側シム板との間に、これら両シム板同士の周方向への相対変位を規制する為の規制手段を設けている。
この規制手段は、例えば請求項2に記載した発明の様に、上記外側シム板と上記内側シム板との少なくとも一方のシム板から他方のシム板に向け折り曲げられた折れ曲がり片により構成する。
より具体的には、請求項3に記載した発明の様に、上記内側基板部の周方向両端縁から上記外側基板部に向け折れ曲がった一対の折れ曲がり片を設ける。
又、これら両折れ曲がり片の互いに対向する側面同士の間隔を、上記外側基板部の周方向長さよりも大きくする事により、上記内側シム板を上記外側シム板に対し、上記間隔と上記周方向長さとの差に応じた長さ分だけ周方向に変位可能とする。
更に、この長さ分だけ、上記内側シム板と上記外側シム板とを周方向に相対変位させた状態でも、上記各外側係止片と上記各内側係止片との係合が外れない様に、これら各係止片の周方向に関する幅と、上記間隔と、上記周方向長さとを規制する。
【発明の効果】
【0015】
上述の様に本発明のディスクブレーキ用組み合わせシム板は、前述の図11〜13で説明した、特許文献1に記載された従来構造の第1例の場合と同様に、各外側係止片と各内側係止片とが、内側、外側両シム板同士の周方向に関する相対変位を許容する様に係合している。この為、制動時に於けるキャリパの挙動を安定させて、パッドの偏摩耗及びブレーキ鳴きを抑える事ができる。
【0016】
又、本発明のディスクブレーキ用組み合わせシム板は、やはり上記従来構造の第1例の場合と同様に、上記各外側係止片と上記各内側係止片とが、上記両シム板の基板部同士がそれぞれの厚さ方向に離れる事を阻止する状態で係合している。更に、本発明のディスクブレーキ用組み合わせシム板は、例えば一対の折れ曲がり片により、上記両シム板が、上記各外側係止片と上記各内側係止片との係合が外れる迄、周方向に変位する事を阻止する。従って、上記両シム板をパッドのプレッシャプレートの背面に組み付ける以前の状態でも、これら両シム板が不用意に分離する事を防止できる。この為、組み合わせシム板の取り扱い性を向上させて、この組み合わせシム板を組み込んだディスクブレーキの組立作業の容易化を図り、このディスクブレーキの製造コストの低廉化を図れる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態の1例を、内側、外側両シム板同士を組み合わせた状態で示す斜視図。
【図2】同じく分離した状態で示す斜視図。
【図3】内側シム板を外側面側から見た正投影図。
【図4】図3の右方から見た正投影図。
【図5】図4のイ部拡大図(A)及び同ロ部拡大図(B)。
【図6】外側シム板を内側面側から見た正投影図。
【図7】図6の左方から見た正投影図。
【図8】図7のハ部拡大図(A)及び同ニ部拡大図(B)。
【図9】内側シム板のみをプレッシャプレートの背面に装着した状態を、この内側シム板の外側面側から見た状態で示す正投影図。
【図10】図9のホ−ホ断面図。
【図11】従来構造の第1例を、組み合わせシム板をプレッシャプレートの背面に装着した状態を外側面側から見た状態で示す正投影図。
【図12】図11の拡大ヘ−ヘ断面図。
【図13】内側シム板と外側シム板とプレッシャプレートとを分離して外側面側から見た状態で示す正投影図。
【図14】従来構造の第2例を、内側シム板と外側シム板とプレッシャプレートとを分離した状態で示す斜視図。
【図15】同じく組み合わせて外側面側から見た状態で示す正投影図。
【図16】従来構造の第3例を、内側シム板と外側シム板とを分離した状態で示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1〜10は、本発明の実施の形態の1例を示している。本例の組み合わせシム板1aは、図2〜5に示した様な内側シム板4cと、図2、6〜8に示した様な外側シム板5cとを、図1に示す様に組み合わせて成る。これら両シム板4c、5cはそれぞれ、ステンレス鋼板等の弾性及び耐食性を有する金属板を曲げ形成して成る。又、このうちの内側シム板4cの両面には、ゴムの如きエラストマー等の弾性材のコーティング層を形成している。この様な弾性材のコーティング層に就いては、従来から周知である。又、上記組み合わせシム板1aの使用状態では、上記内側シム板4cの内側面が、パッド2bのプレッシャプレート3b(図9、10参照)の背面に当接する(この背面部分に添設される)。これに対して、上記外側シム5cの外側面が、ピストンの先端面又はキャリパ爪の内側面に当接する。これらの点に就いても、従来から周知である為、詳しい図示並びに説明は省略する。本発明の組み合わせシム板1aの特徴は、上記両シム板4c、5cを図1に示す様に組み合わせた状態で、これら両シム板4c、5cが周方向に関して所定長さだけ相対変位可能とすると共に、これら両シム板4c、5c同士が不用意に(特に分離しようとする為の力を加えない限り)分離しない様に組み合わせる構造にある。
【0019】
この様な構造とする為に、上記内側シム板4cを、特許請求の範囲に記載した内側基板部である基板部7aと、同じく内径側、外径側各内側係止片である内側係止片6d、6eとから構成している。このうちの基板部7aは平板状で、潤滑剤を保持する為の、それぞれがスリット状である複数の透孔8a、8aを形成している。又、上記各内側係止片6d、6eのうちで、上記基板部7aと同一平面上に位置する基部を除く部分は、この基部に対し、この基板部7aの厚さ方向に折れ曲がっている。そして、この折れ曲がった部分がそれぞれ、互いに対向する内側面の中間部が突出した(互いに反対側の外側面の中間部が凹んだ)「へ」字形である。
【0020】
この様な上記各内側係止片6d、6eは、上記基板部7aの内径側、外径側両端縁から径方向及びこの基板部7aの厚さ方向に関して片側(上記プレッシャプレート3bに近づく側)に突出する状態で形成している。即ち、上記基板部7aの内径側端縁の周方向両端寄り部分に、それぞれが内径側内側係止片である一対の内側係止片6d、6dを、同じく外径側端縁の周方向中央部に、外径側内側係止片である内側係止片6eを、それぞれ形成している。更に、上記基板部7aの周方向両端縁に一対の折れ曲がり片13、13を、この基板部7aの厚さ方向に関して、上記各内側係止片6d、6eと反対側(外側シム板5c側)に突出する状態で設けている。尚、これら各内側係止片6d、6e及び次述する外側係止片10e、10fの形状及び寸法に関しては、基本的には、前述の特許文献1に記載された従来構造と同様である。
【0021】
又、上記外側シム板5cは、特許請求の範囲に記載した外側基板部である、平板状の基板部9aと、同じく内径側、外径側各外側係止片である外側係止片10e、10fとから構成している。上記基板部9aは、上記内側シム板4cの基板部7aとは異なり、無孔である。又、上記各外側係止片10e、10fは、この内側シム板4cを構成する、上記各内側係止片6d、6eと同様の形状を有するもので、上記基板部9aの内径側、外径側両端縁から径方向及びこの基板部9aの厚さ方向に関して片側(上記プレッシャプレート3bに近づく側)に突出する状態で形成している。即ち、上記基板部9aの内径側端縁の周方向両端寄り部分に、それぞれが内径側外側係止片である一対の外側係止片10e、10eを、同じく外径側端縁の周方向中央部に、外径側外側係止片である外側係止片10fを、それぞれ形成している。又、周方向に関する上記外側シム板5cの長さ寸法(特許請求の範囲に記載した周方向長さ)L5c(図6参照)は、同方向に関する、上記両折れ曲がり片13、13同士の間隔D13(図3参照)よりも小さい(L5c<D13)。
【0022】
上記各内側係止片6d、6e及び上記各外側係止片10e、10fは、これら各内側係止片6d、6eの外側面(互いに反対側の面)側に、これら各外側係止片10e、10fを位置させられる様に、径方向に関するピッチ(図4、7の上下方向に関する間隔)及び周方向に関する位相を規制している。そして、上記各内側係止片6d、6eの外側面の中間部で凹んだ部分に、上記各外側係止片10e、10fの内側面の中間部で突出した部分を、弾性的に当接若しくは微小隙間を介して対向させている。これら各係止片6d、6e、10e、10fの内外両側面の幅方向(周方向、前記組み合わせシム板1aの長さ方向、図1〜3、6、9の左右方向)は、互いに平行である。従って、上述の様に上記各内側係止片6d、6eと上記各外側係止片10e、10fとを係合させた状態で、上記内側シム板4cと上記外側シム板5cとは、これら各係止片6d、6e、10e、10fのうちの少なくとも一部を弾性変形しない限り、互いに厚さ方向に離れる事はなくなる。これに対して、周方向には、上記外側シム板5cの長さ寸法L5cと上記両折れ曲がり片13、13同士の間隔D13の差(D13−L5c)分だけ、相対変位可能になる。
【0023】
但し、上記各係止片6d、6e、10e、10f同士の係合に基づいて上記内側シム板4cと上記外側シム板5cとを、上記差(D13−L5c)分だけ周方向に関して何れの方向に相対変位させた場合でも、上記各係止片6d、6e、10e、10f同士の係合が外れない様にしている。即ち、これら各係止片6d、6e、10e、10fの周方向に関する幅と、上記間隔D13と、上記長さ寸法L5cとを規制している。具体的には、互いに係合する上記各内側係止片6d、6eと上記各外側係止片10e、10fとのうちの少なくとも一方の係止片の周方向に関する幅を十分に確保して、上記相対変位に拘らず、上記各係止片6d、6e、10e、10f同士が、少なくとも幅方向の一部同士で互いに係合する様にしている。
【0024】
上述の様に本例の組み合わせシム板1aは、前述の図11〜13で説明した、特許文献1に記載された従来構造の第1例の場合と同様に、上記各内側係止片6d、6eと上記各外側係止片10e、10fとが、上記内側、外側両シム板4c、5c同士の周方向に関する相対変位を許容する様に係合している。この為、制動時に於けるキャリパの挙動を安定させて、パッド2bの偏摩耗及びブレーキ鳴きを抑える事ができる。
【0025】
又、本例の組み合わせシム板1aは、やはり上記従来構造の第1例の場合と同様に、上記各内側係止片6d、6eと上記各外側係止片10e、10fとが、上記両シム板4c、5cの基板部7a、9a同士がそれぞれの厚さ方向に離れる事を阻止する状態で係合している。更に、本例の組み合わせシム板1aは、上記内側シム板4cに設けた前記両折れ曲がり片13、13により、この内側シム板4cに対する上記外側シム板5cの、周方向に関する変位量を抑えている為、この周方向の相対変位に伴って、上記各内側係止片6d、6eと上記各外側係止片10e、10fとの係合が外れる事はない。従って、上記両シム板4c、5cを上記パッド2bのプレッシャプレート3bの背面に組み付ける以前の状態でも、上記両シム板4c、5cが不用意に分離する事を防止できる。この為、上記組み合わせシム板1aの取り扱い性を向上させて、この組み合わせシム板1aを組み込んだディスクブレーキの組立作業の容易化を図り、このディスクブレーキの製造コストの低廉化を図れる。
【0026】
尚、上記両シム板4c、5cが不用意に分離する事を防止して上記組み合わせシム板1aの取り扱い性を向上させる事の利点は、互いに組み合わせた状態で使用される、上記両シム板4c、5cを一体的に取り扱える事で得られる。即ち、上記組み合わせシム板1aの製造工場からディスクブレーキの組立現場迄、図1に示す様に上記両シム板4c、5cを組み合わせた状態で搬送できる事により十分に得られる。勿論、これら両シム板4c、5cを組み合わせた状態のまま、上記組み合わせシム板1aを上記プレッシャプレート3bの背面に組み付ければ、この組み合わせシム板1aの組み付け作業の単純化を図れる。この場合には、上記内側シム板4cの内面側にグリース等の潤滑剤を塗布してから、上記組み合わせシム板1aを上記プレッシャプレート3bの背面に組み付ける。但し、上記内側シム板4cの外面側(この内側シム板4cと上記外側シム板5cとの突き合わせ面側)にグリース等の潤滑剤を塗布したい等の事情があれば、図9〜10に示す様に、上記内側シム板4cを上記プレッシャプレート3bの背面に組み付けて、この内側シム板4cの外側面に潤滑剤を塗布してから、この内側シム板4cに上記外側シム板5cを組み付ける事もできる。又、上記潤滑剤は、これら両シム板4c、5cを組み合わせる以前に、このうちの内側シム板4cに塗布しておく事もできる。何れの場合でも、上記プレッシャプレート3bの背面に上記組み合わせシム板1aを組み付けた状態では、この組み合わせシム板1aと上記パッド2bとが、不用意に分離しない様に組み合わされる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明を実施する場合に、内側シム板4cと外側シム板5cとは直接当接させても良いが、前述した特許文献1の図4に示す様に、内側シム板と外側シム板との間に、係止片等を持たない、単なる平板状の、或いは平板状で潤滑剤保持用の透孔を形成した、中間シム板を挟持しても良い。この中間シム板に関しても、自身の外周縁部と、上記内側、外側両シム板に形成した各係止片及び折れ曲げ片との係合により、これら内側、外側両シム板同士の間から不用意に抜け出る事はない。
【符号の説明】
【0028】
1、1a 組み合わせシム板
2、2a、2b パッド
3、3a、3b プレッシャプレート
4、4a、4b、4c 内側シム板
5、5a、5b、5c 外側シム板
6a、6b、6c、6d、6e 内側係止片
7、7a 基板部
8、8a 透孔
9、9a 基板部
10a、10b、10c、10d、10e、10f 外側係止片
11 係合爪
12 切り欠き
13 折れ曲がり片
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスクブレーキ用のパッドを構成するプレッシャプレートの背面に添設される内側シム板と、この内側シム板に直接又は他の部材を介して重ねられた外側シム板とを備え、
このうちの内側シム板は、平板状の内側基板部と、この内側基板部の内径側、外径側両端縁から径方向及び厚さ方向に突出した内径側、外径側各内側係止片とを備えたものであり、
上記外側シム板は、平板状の外側基板部と、この外側基板部の内径側、外径側両端縁から径方向及び厚さ方向に突出した内径側、外径側各外側係止片を備えたものであり、
これら各内径側、外径側各外側係止片の先端寄り部分の内側面が、上記各内径側、外径側各内側係止片の先端寄り部分の外側面に当接若しくは近接対向する事により、上記内側基板部と上記外側基板部とがそれぞれの厚さ方向に離れる事を阻止しているディスクブレーキ用組み合わせシム板に於いて、
上記外側シム板と上記内側シム板との間に、これら両シム板同士の周方向への相対変位を規制する為の規制手段を設けている事を特徴とするディスクブレーキ用組み合わせシム板。
【請求項2】
上記規制手段が、上記外側シム板と上記内側シム板との少なくとも一方のシム板から他方のシム板に向け折り曲げられた折れ曲がり片により構成されている、請求項1に記載したディスクブレーキ用組み合わせシム板。
【請求項3】
上記内側基板部の周方向両端縁から上記外側基板部に向け折れ曲がった一対の折れ曲がり片を設けて上記規制手段とし、これら両折れ曲がり片の互いに対向する側面同士の間隔を、上記外側基板部の周方向長さよりも大きくする事により、上記内側シム板を上記外側シム板に対し、上記間隔と上記周方向長さとの差に応じた長さ分だけ周方向に変位可能とすると共に、この長さ分だけ、上記内側シム板と上記外側シム板とを周方向に相対変位させた状態でも、上記各外側係止片と上記各内側係止片との係合が外れない様に、これら各係止片の周方向に関する幅と、上記間隔と、上記周方向長さとを規制している請求項1〜2のうちの何れか1項に記載したディスクブレーキ用組み合わせシム板。
【請求項1】
ディスクブレーキ用のパッドを構成するプレッシャプレートの背面に添設される内側シム板と、この内側シム板に直接又は他の部材を介して重ねられた外側シム板とを備え、
このうちの内側シム板は、平板状の内側基板部と、この内側基板部の内径側、外径側両端縁から径方向及び厚さ方向に突出した内径側、外径側各内側係止片とを備えたものであり、
上記外側シム板は、平板状の外側基板部と、この外側基板部の内径側、外径側両端縁から径方向及び厚さ方向に突出した内径側、外径側各外側係止片を備えたものであり、
これら各内径側、外径側各外側係止片の先端寄り部分の内側面が、上記各内径側、外径側各内側係止片の先端寄り部分の外側面に当接若しくは近接対向する事により、上記内側基板部と上記外側基板部とがそれぞれの厚さ方向に離れる事を阻止しているディスクブレーキ用組み合わせシム板に於いて、
上記外側シム板と上記内側シム板との間に、これら両シム板同士の周方向への相対変位を規制する為の規制手段を設けている事を特徴とするディスクブレーキ用組み合わせシム板。
【請求項2】
上記規制手段が、上記外側シム板と上記内側シム板との少なくとも一方のシム板から他方のシム板に向け折り曲げられた折れ曲がり片により構成されている、請求項1に記載したディスクブレーキ用組み合わせシム板。
【請求項3】
上記内側基板部の周方向両端縁から上記外側基板部に向け折れ曲がった一対の折れ曲がり片を設けて上記規制手段とし、これら両折れ曲がり片の互いに対向する側面同士の間隔を、上記外側基板部の周方向長さよりも大きくする事により、上記内側シム板を上記外側シム板に対し、上記間隔と上記周方向長さとの差に応じた長さ分だけ周方向に変位可能とすると共に、この長さ分だけ、上記内側シム板と上記外側シム板とを周方向に相対変位させた状態でも、上記各外側係止片と上記各内側係止片との係合が外れない様に、これら各係止片の周方向に関する幅と、上記間隔と、上記周方向長さとを規制している請求項1〜2のうちの何れか1項に記載したディスクブレーキ用組み合わせシム板。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
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【図10】
【図11】
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【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2010−209995(P2010−209995A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−55949(P2009−55949)
【出願日】平成21年3月10日(2009.3.10)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月10日(2009.3.10)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】
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