説明

ディスクブレーキ装置

【課題】化粧プレートの脱落や、その周辺の部品との干渉が発生するのを防止することができるディスクブレーキ装置を提供する。
【解決手段】パッド71,72をキャリパブラケット4に支承させるリテーナ6,6に、キャリパボディ5の爪部52の外面を覆う化粧プレート8周囲で化粧プレート8の外周縁に隣接するように延設された延出部6a,6aを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車などに用いられるディスクブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車輪と共に回転するディスクロータと、浮動型のキャリパ機構とからなるディスクブレーキ装置として、例えば特許文献1に見られるものが知られている。この種のディスクブレーキ装置では、キャリパ機構は、ディスクロータの一方の側面に対向しピストンを内挿するシリンダ部と、ディスクロータの他方の側面に対向する爪部と、シリンダ部と爪部とをディスクロータを跨いで接続するブリッジ部とを有するキャリパボディと、ピストンとディスクロータとの間、及びキャリパボディの爪部とディスクロータとの間にそれぞれ配置された一対のパッドと、両パッドをディスクロータの軸方向に摺動自在に支持するキャリパブラケットとで構成される。この場合、両パッドは、キャリパブラケットとの間に介装されるリテーナを介してキャリパブラケットに摺動自在に支承される。また、キャリパボディの爪部には、シリンダ部に対向する部分に切欠き部が形成され、爪部側からこの切欠き部を介してシリンダ部の加工を行うことが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−282758号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に見られる如きディスクブレーキ装置では、キャリパ機構の意匠性の向上、あるいはキャリパ機構の部品の保護等を目的として、キャリパボディの爪部の外面を覆う化粧プレートを、キャリパボディもしくはキャリパブラケットに、リベットやネジを介して装着するようにしたものも一般に知られている。
【0005】
しかしながら、従来のこの種のディスクブレーキ装置では、化粧プレートはキャリパボディもしくはキャリパブラケットに単にリベットやネジを介して装着されているだけなので、車両の走行時の振動等によりリベットやネジの緩みが発生すると、化粧プレートのガタつきが発生し、ひいては、該化粧プレートの脱落や、その周辺の部品との干渉を招く恐れがあった。
【0006】
本発明はかかる背景に鑑みてなされてものであり、化粧プレートの脱落や、その周辺の部品との干渉が発生するのを防止することができるディスクブレーキ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のディスクブレーキ装置は、上記目的を達成するために、車輪と共に回転するディスクロータと、ディスクロータの一方の側面に対向しピストンを内挿するシリンダ部と、ディスクロータの他方の側面に対向する爪部と、該シリンダ部と爪部とをディスクロータを跨いで接続するブリッジ部とを有するキャリパボディと、前記ピストンとディスクロータとの間、及び前記キャリパボディの爪部とディスクロータとの間にそれぞれ配置された一対のパッドと、該一対のパッドとの間にリテーナが介装され、該リテーナを介して該一対のパッドをディスクロータの軸方向に摺動可能に支承するキャリパブラケットとを備え、前記一対のパッドをディスクロータの側面に押し付けて制動を行うディスクブレーキ装置において、前記キャリパボディの爪部の外面を覆うように該爪部に対向配置された化粧プレートを備え、前記リテーナに、化粧プレートの周囲で該化粧プレートの外周縁に隣接するように延設された延出部を形成したことを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、前記リテーナに、化粧プレートの周囲で該該化粧プレートの外周縁に隣接するように延設された延出部を形成したので、該化粧プレートの表面にほぼ平行な方向での該化粧プレートの動きが、該化粧プレートの外周縁と前記リテーナの延出部との接触によって制限される。
【0009】
その結果、化粧プレートをキャリパブラケットあるいはキャリパボディに固定するネジ等が緩んでも、該化粧プレートの脱落や、その周辺の部品との干渉が発生するのを防止することが可能となる。
【0010】
かかる本発明では、前記キャリパブラケットには、前記化粧プレートの周囲で該化粧プレートの外周縁の一部に隣接する化粧プレート対向部が形成されており、前記リテーナの延出部は、キャリパブラケットの化粧プレート対向部との間に前記化粧プレートを挟み込むように設けられていることが好ましい。
【0011】
これによれば、化粧プレートは、キャリパブラケットの化粧プレート対向部と、リテーナの延出部との間に挟み込まれるように配置されることとなるため、特に化粧プレートが化粧プレート対向部とリテーナの延出部との間の間隔方向で動くのをより確実に防止することができる。ひいては、化粧プレートの脱落を防止する効果をより一層高めることができる。
【0012】
さらに本発明では、前記リテーナの延出部は、前記化粧プレートの長手方向の両端部には、該長手方向での前記キャリパブラケットの両側部に形成された凹部に掛止する折り曲げ部が形成されていることが好ましい。
【0013】
これによれば、化粧プレートの長手方向の両端部の折り曲げ部をキャリパブラケットの凹部に掛止することによって、化粧プレートの長手方向での動きが制限されることとなる。
【0014】
その結果、化粧プレートの脱落を防止する効果をより一層高めることができる。特に、前記化粧プレート対向部を備える発明と組み合わせた場合には、化粧プレートのガタつきの発生を防止することの確実性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明のディスクブレーキ装置の実施形態を示す説明図。
【図2】図1のII−II線切断断面図。
【図3】図2のIII−III線切断断面図。
【図4】図1のIV−IV線切断断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1〜図4を参照して、本発明のディスクブレーキ装置の一実施形態を以下に説明する。
【0017】
図中、1は自動車に用いられるディスクブレーキ装置である。ディスクブレーキ装置1は、車輪と共に回転するディスクロータ2と、一対のパッドによりディスクロータ2を挟み込むことによりディスクロータ2の回転を制動する(ひいては車輪の回転を制動する)浮動型のキャリパ機構3とを備える。尚、図中の矢印Aは、車両の前進走行時のディスクロータ2の回転方向を示している。
【0018】
キャリパ機構3は、ナックル等を介して車体に固定されるキャリパブラケット4と、キャリパブラケット4にスライドピン5a,5a(図3参照)を介してディスクロータ2の軸方向に移動自在に取り付けられたキャリパボディ5と、ディスクロータ2を側方から挟みこむように配置されると共に、ディスクロータ2の軸方向に摺動可能にキャリパブラケット4に支承された一対のパッド71,72(図2参照)とを備える。尚、以降の説明では、図1及び図3の左右方向(ディスクロータ2の径方向に直交する方向)をキャリパ機構3の幅方向ということがある。
【0019】
キャリパブラケット4は、キャリパ機構3の幅方向の両側部を構成する基体部4a,4aと、これらの基体部4a,4aを連結する複数条の基体連結部4bとを備える。各基体連結部4bは、一方の基体部4aの下部と他方の基体部4aの下部との間でキャリパ機構3の幅方向に延在し、該基体部4a,4aと一体に構成されている。図示例のキャリパブラケット4は、図2に示す如く、ディスクプレート2の一方の側面側に配置された基体連結部4b1と、他方の側面側に配置された基体連結部4b2とを備えている。そして、キャリパボディ5及びパッド71,72は、基体連結部4b1,4b2の上側で基体部4a,4aの間に配置されている。
【0020】
パッド71は、ディスクロータ2の一方の側面に摺接するライニング71aと、このライニング71aを保持する金属製の裏板71bとから成る。同様に、パッド72は、ディスクロータ2の他方の側面に摺接するライニング72aと、このライニング72aを保持する金属製の裏板72bとからなる。
【0021】
両パッド71,72の裏板71b,72bの両側部(キャリパ機構3の幅方向での両側部)のそれぞれとキャリパブラケット4の基体部4a,4aのそれぞれとの間には、薄い板材から形成されたリテーナ6,6が介装されている。各リテーナ6は、キャリパブラケット4の各基体部4aの内方側面部に取り付けられ、裏板71b,72bの各側部に摺接している。そして、両パッド71,72は、その裏板71b,72bの両側部をリテーナ6,6に摺接させた状態で、キャリパブラケット4に対してディスクロータ2の軸方向に摺動し得るようにリテーナ6,6を介してキャリパブラケット4に支承されている。
【0022】
キャリパボディ5は、図2に示すように、ディスクロータ2の一方の側面に対向するシリンダ部51と、ディスクロータ2の他方の側面に対向する爪部52と、シリンダ部51と爪部52とをディスクロータ2を跨いで接続するブリッジ部53とで構成される。
【0023】
シリンダ部51内にはピストン51aがディスクロータ2の軸方向に摺動自在に内挿され、シリンダ部51とピストン51aとにより油圧室51bを画成する。また、ピストン51aとディスクロータ2との間、及び爪部52とディスクロータ2との間に、各々、パッド71,72が配置されている。以降、パッド71をピストン側パッド71、パッド72を爪部側パッド72ということがある。
【0024】
以上の構造を有するキャリパ機構3は、油圧室51bに作動油が供給されると、ピストン51aがピストン側パッド71をディスクロータ2に押し付ける。同時に、キャリパボディ5がピストン51aの押圧力の反力によりピストン51aの押圧方向とは逆の方向へ移動し、爪部52を介して爪部側パッド72をディスクロータ2に押し付ける。これにより、ディスクロータ2が両パッド71,72間に挟み込まれ、ディスクロータ2の回転が制動される。
【0025】
なお、ブリッジ部53の中央部には、軽量化のため肉厚が薄く形成された薄肉部53aが形成され、他の部分はシリンダ部51と爪部52との接続強度を高めるべく肉厚が厚い厚肉部53bとなっている。薄肉部53aの中央部には、パッド71,72の磨耗度合いを視認できるように窓部53cが形成されている。
【0026】
又、爪部52はその先端から基端に向かって大きく切り欠かれた切欠部52aが形成され二股状となっており、切欠部52aを介してピストン51aを挿入するシリンダ部51を加工し易くしている。
【0027】
本実施形態のディスクブレーキ装置は、さらにキャリパボディ5の爪部52側に、爪部52の外面を覆うようにして爪部52に対向配置された化粧プレート8を備える。この化粧プレート8は、キャリパ機構3の幅方向に長手な形状を有し、その長手方向の中央部が爪部52の切欠部52a及びその周辺部を覆い隠すと共に、両側部がキャリパブラケット4の基体部4a,4aにディスクプレート2の軸方向で対向するようにようにして配置される。
【0028】
そして、化粧プレート8の両側部のそれぞれには、図4に示すように、ネジ挿通穴8aが穿設されており、このネジ挿通穴8aに軸部を挿通したネジ9を、キャリパブラケット4の基体部4aに穿設されたネジ穴4cにネジ締めすることによって、化粧プレート8の各側部が基体部4aに締結されている。これにより、化粧プレート8がキャリパブラケット4に装着されている。なお、化粧プレート8を例えばリベットを介してキャリパブラケット4に締結したり、化粧プレート8及びキャリパブラケット4の一方に突設したピンを他方に形成したピン穴に嵌入することによって化粧プレート8をキャリパブラケット4に装着するようにしてもよい。
【0029】
ここで、本実施形態では、キャリパブラケット4の基体連結部4bのうち、爪部52側でキャリパ機構3の幅方向に延在する基体連結部4b2は、本発明における化粧プレート対向部として機能するものであり、化粧プレート8の周囲のうちの下方側の箇所において、化粧プレート8の外周縁のうちの下端側長辺部にその長手方向に沿って近接・対向するようにして、該下端側長辺部に隣接している。
【0030】
また、キャリパブラケット4のリテーナ6,6のそれぞれには、化粧プレート8の周囲のうちの上方側の箇所まで延設された延出部6aが該リテーナ6の一部分として形成されており、この各延出部6aが、化粧プレート8の外周縁のうちの上端側長辺部の一部に近接・対向するようにして、該上端側長辺部に隣接している。
【0031】
従って、化粧プレート8は、リテーナ6,6の延出部6a,6aと、キャリパブラケット4の基体連結部4b2(化粧プレート対向部)との間に挟まれるようにして配置されている。
【0032】
さらに、化粧プレート8の長手方向の両側部のそれぞれの、ネジ挿通穴8aよりも端部寄りの部分は、図4に示す如く、基体部4a側に向かって折り曲げられた可撓性を有する折り曲げ部8bとなっている。そして、この各折り曲げ部8bの先端部が、キャリパブラケット4の基体部4aの外方側面部に化粧プレート8寄りの箇所で上下方向に延在するように形成された溝状の凹部4dに差し込まれて掛止されている。
【0033】
以上のように化粧プレート8がキャリパ機構3に組み付けられているので、該化粧プレート8は、その上下方向(長手方向とほぼ直交する方向)の移動がリテーナ6,6の延出部6a,6aと、キャリパブラケット4の基体連結部4b2との間に制限されると共に、該化粧プレート8の長手方向の移動が折り曲げ部8b,8bとキャリパブラケット4の基体部4a,4aの凹部4d,4dとの係合によって制限される。このため、車両の振動などに起因してネジ9のネジ締め状態が緩んでも、化粧プレート8の脱落や、その周辺の他部品との干渉が発生するのを防止することができる。
【0034】
なお、本実施形態では、化粧プレート8をキャリパブラケット4に装着するようにしたが、キャリパボディ5にネジやリベット等を介して装着するようにしてもよい。
【0035】
また、リテーナ6の延出部を、化粧プレート8の上側だけでなく、下側にも形成し、それらの延出部によって化粧プレート8の上下方向の移動を制限するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0036】
1…ディスクブレーキ装置、2…ディスクロータ、3…キャリパ機構、4…キャリパブラケット、4b2…基体連結部(化粧プレート対向部)、4d…凹部、5…キャリパボディ、51…シリンダ部、51a…ピストン、52…爪部、53…ブリッジ部、6…リテーナ、6a…延出部、71,72…パッド、8…化粧プレート、8b…折り曲げ部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪と共に回転するディスクロータと、
ディスクロータの一方の側面に対向しピストンを内挿するシリンダ部と、ディスクロータの他方の側面に対向する爪部と、該シリンダ部と爪部とをディスクロータを跨いで接続するブリッジ部とを有するキャリパボディと、
前記ピストンとディスクロータとの間、及び前記キャリパボディの爪部とディスクロータとの間にそれぞれ配置された一対のパッドと、
該一対のパッドとの間にリテーナが介装され、該リテーナを介して該一対のパッドをディスクロータの軸方向に摺動可能に支承するキャリパブラケットとを備え、
前記一対のパッドをディスクロータの側面に押し付けて制動を行うディスクブレーキ装置において、
前記キャリパボディの爪部の外面を覆うように該爪部に対向配置された化粧プレートを備え、
前記リテーナに、化粧プレートの周囲で該化粧プレートの外周縁に隣接するように延設された延出部を形成したことを特徴とするディスクブレーキ装置。
【請求項2】
請求項1記載のディスクブレーキ装置において、
前記キャリパブラケットには、前記化粧プレートの周囲で該化粧プレートの外周縁の一部に隣接する化粧プレート対向部が形成されており、前記リテーナの延出部は、キャリパブラケットの化粧プレート対向部との間に前記化粧プレートを挟み込むように設けられているディスクブレーキ装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載のディスクブレーキ装置において、
前記化粧プレートの長手方向の両端部には、該長手方向での前記キャリパブラケットの両側部に形成された凹部に掛止する折り曲げ部が形成されていることを特徴とするディスクブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−242893(P2010−242893A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−93307(P2009−93307)
【出願日】平成21年4月7日(2009.4.7)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】