ディスクブレーキ
【課題】例えば駐車ブレーキの解除時、すなわち、車両の停止状態の維持を解除するときの応答性を良好にするディスクブレーキを提供する。
【解決手段】本ディスクブレーキ1に備えたECU70は、ピストン推進機構34によってピストン12を推進させると共にその制動位置に保持した状態で、モータ38をピストン12が推進する方向とは逆方向に駆動させて遊星歯車減速機構36及び平歯多段減速機構減速機構37のガタを解消するので、例えば駐車ブレーキ等の解除時の応答性を良好にすることができる。
【解決手段】本ディスクブレーキ1に備えたECU70は、ピストン推進機構34によってピストン12を推進させると共にその制動位置に保持した状態で、モータ38をピストン12が推進する方向とは逆方向に駆動させて遊星歯車減速機構36及び平歯多段減速機構減速機構37のガタを解消するので、例えば駐車ブレーキ等の解除時の応答性を良好にすることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制動に用いられるディスクブレーキに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1には、電動モータの電流制御により駐車ブレーキの保持・解除を行う電動ブレーキ制御方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−83373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の電動ブレーキ制御方法では、駐車ブレーキを解除するリリース時に、所定の駐車ブレーキ力を発生させるためのアプライ方向と逆方向に電動モータを回転させることになるが、この時、減速機構に生じs低るガタの分だけ駐車ブレーキを解除するまでの時間が長くなる懸念がある。
【0005】
本発明は、例えば駐車ブレーキの解除時、すなわち、車両の停止状態の維持を解除するときの応答性を良好にするディスクブレーキを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための手段として、本発明は、ロータの両面に配置される一対のブレーキパッドを液圧シリンダ内に設けられたピストンにより押圧するキャリパと、該キャリパに設けられた電動モータの回転が減速機構を介して伝達され、前記ピストンを推進するピストン推進機構と、該ピストン推進機構により推進したピストンを保持するピストン保持機構と、前記電動モータの駆動を制御する制御手段と、を備えたディスクブレーキにおいて、前記制御手段は、前記ピストン推進機構によって推進したピストンを前記ピストン保持機構によって保持した状態で、前記電動モータをピストンが推進する方向とは逆方向に駆動させて前記減速機構のガタを解消することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明のディスクブレーキによれば、車両の停止状態の維持を解除するときの応答性を良好にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本実施形態に係るディスクブレーキを示す断面図である。
【図2】ECUによる第1の制御形態を示すフローチャートである。
【図3】ECUによる第1の制御形態を示すタイムチャートである。
【図4】ECUによる第2の制御形態を示すフローチャートである。
【図5】ECUによる第2の制御形態を示すタイムチャートである。
【図6】ECUによる第3の制御形態を示すフローチャートである。
【図7】ECUによる第3の制御形態を示すタイムチャートである。
【図8】ECUによる第4の制御形態を示すフローチャートである。
【図9】ECUによる第4の制御形態を示すタイムチャートである。
【図10】ECUによる第5の制御形態を示すフローチャートである。
【図11】ECUによる第5の制御形態を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施の形態を図1〜図11に基づいて詳細に説明する。
本実施形態に係るディスクブレーキ1を図1に基づいて説明する。
図1に示すように、本実施形態に係るディスクブレーキ1は、キャリパ浮動型として構成されており、車両の回転部に取り付けられたディスクロータ150を挟んで両側に配置された一対のインナブレーキパッド2及びアウタブレーキパッド3、該インナブレーキパッド2及びアウタブレーキパッド3をディスクロータ150に押圧するためのキャリパ4、車両のナックル等の非回転部に固定されたキャリア5、及び、後述するピストン12を液圧で作動させるほかにモータ38の駆動により減速機構36、37及びピストン推進機構34を介してピストン12を作動させるための駐車ブレーキ機構が設けられている。上記一対のインナ及びアウタブレーキパッド2,3とキャリパ4とは、キャリア5にディスクロータ150の軸方向へ移動可能に支持されている。
【0010】
キャリパ4の主体であるキャリパ本体6は、車両内側のブレーキパッドであるインナブレーキパッド2に対向する基端側に配置されるシリンダ部7と、車両外側のブレーキパッドであるアウタブレーキパッド3に対向する先端側に配置される爪部8とを有して、鋳鉄やアルミアルミニウム合金等で一体成形されている。シリンダ部7には、インナブレーキパッド2側を開口部7Aとなし、他端が孔部9Aを有する底壁9により閉じられた有底のシリンダ10が形成されている。
【0011】
上記シリンダ10内には、有底のカップ状に形成され、その底部12Aがインナブレーキパッド2に対向するように収められるピストン12が設けられている。ピストン12は、シリンダ10の開口側に介装されたピストンシール11を介して軸方向に移動可能にシリンダ10に内装されている。このピストン12とシリンダ10の底壁9との間には、ピストンシール11により画成される液圧室13が形成されている。この液圧室13には、シリンダ部7に設けた図示しないポートを通じて、マスタシリンダや液圧制御ユニットなどの図示しない液圧源から液圧が供給されるようになっている。ピストン12は、インナブレーキパッド2と対向する外底面の一部に凹部14が設けられている。この凹部14は、インナブレーキパッド2の背面に形成されている凸部15が係合することにより、シリンダ10、ひいてはキャリパ本体6に対して回り止めされている。また、ピストン12の底部12Aとシリンダ10との間には、シリンダ10内への異物の進入を防ぐダストブーツ16が介装されている。
【0012】
キャリパ本体6のシリンダ10の底壁9側には、後述する減速機構を内包するハウジング35が気密的に取り付けられている。該ハウジング35の一端開口には気密的にカバー39が取り付けられている。なお、ハウジング35とシリンダ10とは、シリンダ10の底壁9側に設けられるシール51によって気密性が保持されている。また、ハウジング35とカバー39とは、その間に設けられたシール40によって気密性が保持されている。キャリパ本体6のハウジング35には、電動モータの一例であるモータ38がシール50を介して密閉的に取り付けられている。なお、本実施形態では、モータ38をハウジング35の外側に配置したが、モータ38を覆うようにハウジング35を形成し、ハウジング35内にモータ38を収容してもよい。この場合、シール50が不要となり、組み付け工数の低減を図ることが可能となる。
【0013】
キャリパ本体6には、上記モータ38によりピストン12を制動位置に推進するピストン推進機構34と、モータ38による回転を増力する減速機構としての平歯多段減速機構37及び遊星歯車減速機構36とを有する駐車ブレーキ機構が備えられている。上記平歯多段減速機構37及び遊星歯車減速機構36は、ハウジング35内に収納されている。ピストン推進機構34は、遊星歯車減速機構36からの回転運動を直線方向の運動(以下、便宜上直動という。)に変換し、ピストン12に推力を付与して制動位置に推進させるボールアンドランプ機構28及びねじ機構52から構成される。ボールアンドランプ機構28及びねじ機構52は、キャリパ本体6のシリンダ10内に収納されている。ねじ機構52は、ボールアンドランプ機構28とピストン12との間に設けられている。本実施の形態では、ピストン推進機構34は、ピストン12を制動位置に推進させた後該ピストン12を制動位置に保持するピストン保持機構としても作用する。
【0014】
平歯多段減速機構37は、ピニオンギヤ42と、第1減速歯車43と、第2減速歯車44とを有している。ピニオンギヤ42は、筒状に形成され、モータ38のシャフト41に圧入固定される孔部42Aと、外周に形成される歯車42Bとを有している。第1減速歯車43は、ピニオンギヤ42の歯車42Bに噛合する大径の大歯車43Aと、大歯車43Aから軸方向に延出して形成される小径の小歯車43Bとが一体的に形成されている。この第1減速歯車43は、一端がハウジング35に支持されると共に他端がカバー39に支持されたシャフト62により回転可能に支持される。第2減速歯車44は、第1減速歯車43の小歯車43Bに噛合する大径の大歯車44Aと、大歯車44Aから軸方向に延出して形成される小径のサンギヤ44Bとが一体形成されている。サンギヤ44Bは後述する遊星歯車減速機構36の一部を構成している。この第2減速歯車44は、カバー39に支持されたシャフト63により回転可能に支持される。
【0015】
遊星歯車減速機構36は、サンギヤ44Bと、複数個(本実施の形態では3個)のプラネタリギヤ45と、インターナルギヤ46と、キャリア48とを有する。プラネタリギヤ45は、第2減速歯車44のサンギヤ44Bに噛合される歯車45Aと、キャリア48から立設されるピン47を挿通する孔部45Bとを有している。3個のプラネタリギヤ45は、キャリア48の円周上に等間隔に配置される。
【0016】
キャリア48は、円板状に形成され、その中心に多角形柱48Aがインナパッド2側に突設される。該キャリア48の多角形柱48Aは、後述するボールアンドランプ機構28の回転ランプ29の円柱部29Bに設けた多角形孔29Cと嵌合することで、キャリア48と回転ランプ29とで互いに回転トルクを伝達できるようになっている。キャリア48の外周側には複数のピン用孔48Bが形成されている。該各ピン用孔48Bに、各プラネタリギヤ45を回転可能に支持するピン47が圧入固定されている。該キャリア48及び各プラネタリギヤ45は、ハウジング35の壁面35Aと、インターナルギヤ46の第2減速歯車44側に一体的に設けた環状壁部46Bとにより軸方向の移動が規制されている。また、キャリア48には、その中心に挿通孔48Cが形成される。該挿通孔48Cには、カバー39に支持され、第2減速歯車44を回転自在に支持するシャフト63が圧入固定されている。なお、本実施形態では、キャリア48に設けた多角形柱48Aにより相対的な回転を規制しているが、スプラインやキー等回転トルクを伝達できる機械要素を採用してもよい。
【0017】
インターナルギヤ46は、各プラネタリギヤ45の歯車45Aがそれぞれ噛合する内歯46Aと、この内歯46Aから連続して第2減速歯車44側に一体的に設けられ、プラネタリギヤ45の軸方向の移動を規制する環状壁部46Bとからなる。該インターナルギヤ46は、ハウジング35の内部に圧入固定される。
【0018】
ねじ機構52は、プッシュロッド53と、該プッシュロッド53と螺合するナット55とを備えている。プッシュロッド53は、ツバ部53Aと螺合部53Cとが一体的に形成されて構成される。該ツバ部53Aは、スラストベアリング56を介して、ボールアンドランプ機構28の回転直動ランプ31に軸方向に対向配置される。ツバ部53Aと後述するリテーナ26との間には、コイルばね27が介装されている。コイルばね27は、プッシュロッド53を常時スラストベアリング56側、すなわち、シリンダ部7の底壁9側へ付勢している。また、コイルばね27は、プッシュロッド53を介して後述のボールアンドランプ機構28の回転直動ランプ31をシリンダ部7の底壁9側へ付勢している。プッシュロッド53には、そのツバ部53Aの外周面に周方向に沿って凸部53Bが複数形成されている。凸部53Bは、後述するリテーナ26の縮径部26Bに、周方向に沿って複数設けられる縦長溝部26Eにそれぞれ嵌合するようになっている。プッシュロッド53は、この凸部53Bと縦長溝部26Eとの嵌合により、縦長溝部26Eの軸方向長さの範囲で軸方向に移動可能であるが、リテーナ26に対して回転方向への移動が規制されている。
【0019】
ナット55は、貫通孔である孔部55Aを有して一端側に円筒部55Bと他端側にフランジ部54とが一体的に形成されて、軸方向断面でT字状、外観視でキノコ状に構成される。孔部55Aのうち円筒部55Bに該当する位置には、プッシュロッド53の螺合部53Cと螺合する螺合部55Cが形成されている。
【0020】
フランジ部54の外周端には、凸部54Aが周方向に間隔を置いて複数形成される。これら各凸部54Aは、ピストン12の円筒部12Bの内周面に軸方向に延び周方向に間隔を置いて複数形成された平面部12Cに係合するようになっている。この係合により、ナット55は、ピストン12に対して軸方向には移動可能であるが、回転方向への移動が規制されている。ナット55のフランジ部54の先端面には、傾斜面54Bが形成されている。該傾斜面54Bは、ピストン12の底部12Aの内側に形成された傾斜面12Dと当接可能になっている。ナット55のフランジ部54の傾斜面54Bがピストン12の傾斜面12Dに当接することで、モータ38からの回転力が、ねじ機構52であるプッシュロッド53、ナット55及びフランジ部54を介してピストン12に伝達される。これにより、ピストン12は制動位置まで前進するようになっている。なお、ナット55のフランジ部54の凸部54Aには、溝部(図示略)が複数形成され、また、傾斜面54Bにも溝部54Dが複数形成されている。これらの溝部により、ピストン12の底部12Aとフランジ部54とにより囲まれた空間が液圧室13と連通して、ブレーキ液の流通が可能になっており、前記空間のエア抜き性を確保するようにしている。
【0021】
プッシュロッド53とナット55との螺合部53C,55Cは、ピストン12からの回転直動ランプ31への軸方向荷重によってはベースナット33が回転しないように、その逆効率が0以下になるように、すなわち、不可逆性が大きなねじとして設定されている。本実施形態においては、上記螺合部53C,55Cが、ピストン12を制動位置に推進させた後、その制動位置に保持するピストン保持機構として構成されている。
【0022】
ボールアンドランプ機構28は、回転ランプ29と、回転直動ランプ31と、複数、本実施形態においては3つのボール32と、ベースナット33とを備えている。
【0023】
回転ランプ29は、円板状の回転プレート29Aと、該回転プレート29Aの略中心から一体的に延びる円柱部29Bとからなり、軸方向断面T字状に形成される。該円柱部29Bは、ベースナット33の底壁33Aに設けた挿通孔33D及びシリンダ10の底壁9に設けた孔部9Aに挿通されている。該円柱部29Bの先端には、キャリア48に設けた多角形柱48Aが嵌合する多角形孔29Cが形成されている。また、回転プレート29Aの円柱部29B側と反対側の面には、周方向に沿って所定の傾斜角を有して円弧状に延びるとともに径方向において円弧状断面を有する複数のボール溝29Dが形成されている。また、回転プレート29Aは、ベースナット33の底壁33Aに対して、スラストベアリング30を介して回転自在に支持されている。シリンダ10の底壁9の孔部9Aと回転ランプ29の円柱部29Bの外周面との間にはシール61が設けられ、液圧室13の液密性が保持されている。なお、回転ランプ29の円柱部29Bの先端部には止め輪64が装着されており、回転ランプ29のキャリパ本体6に対するインナ及びアウタブレーキパッド2、3側への移動、すなわち、ロータ軸方向への移動が規制されている。そして、上記のような回転ランプ29の規制によって、ベースナット33は、キャリパ本体6に対してロータ軸方向に移動しないようになっている。したがって、ベースナット33に形成された雌ねじ部33Cもキャリパ本体6に対してロータ軸方向に移動しないようになっている。
【0024】
回転直動ランプ31は、円板状の回転直動プレート31Aと、該回転直動プレート31Aの外周端から立設される円筒部31Bとからなる有底円筒状に形成されている。回転直動プレート31Aの、回転ランプ29の回転プレート29Aとの対向面には、周方向に沿って所定の傾斜角を有して円弧状に延びるとともに径方向において円弧状断面を有する複数、本実施形態においては3つのボール溝31Dが形成されている。また、円筒部31Bの外周面には、ベースナット33の円筒部33Bの内周面に設けた雌ねじ部33Cと螺合する雄ねじ部31Cが形成されている。
【0025】
ベースナット33は、底壁33Aと、該底壁33Aの外周端から立設される円筒部33Bとからなる有底筒状に形成されている。該円筒部33Bの内周面には、回転直動ランプ31の円筒部31Bの外周面に設けた雄ねじ部31Cと螺合する雌ねじ部33Cが形成される。ベースナット33の底壁33Aの略中心には回転ランプ29の円柱部29Bが挿通される挿通孔33Dが形成されている。
【0026】
そして、ベースナット33は、その円筒部33B内に回転直動ランプ31及び回転ランプ29の回転プレート29Aを収容するようにして、その底壁33Aの挿通孔33Dに回転ランプ29の円柱部29Bが挿通されている。また、ベースナット33は、その円筒部33Bの雌ねじ部33Cが回転直動ランプ31の円筒部31Bの雄ねじ部31Cに螺合され、その底壁33Aがシリンダ10の底壁9と回転ランプ29の回転プレート29Aとの間に配置されたスラストベアリング30と58の間に支持されている。これにより、ベースナット33は、スラストベアリング58及びスラストワッシャ57を介して、シリンダ10の底壁9に対して回転可能に支持されるようになっている。しかしながら、ベースナット33は、その外周に設けた複数の凸部33Eがリテーナ26に設けた凹部26Gと嵌合することでリテーナ26に対する相対的な回転移動が規制されている。また、リテーナ26の大径部26Aの後端部には、複数のツメ部26Fが形成されており、該リテーナ26内の所定位置にベースナット33を組み付けた後、各ツメ部26Fをリテーナ26の中心方向へ折り込むことで、ベースナット33の第2減速歯車44側への移動が規制されるようになっている。
【0027】
なお、回転直動ランプ31の円筒部31Bの雄ねじ部31C及びベースナット33の円筒部33Bに設けた雌ねじ部33Cは、回転ランプ29を一方向に回転させて、回転ランプ29及び回転直動ランプ31の対向するボール溝29D、31D間のボール32の転動作用により回転直動ランプ31が回転ランプ29から離間する場合、回転直動ランプ31が回転ランプ29と同方向に回転したときに、回転直動ランプ31がベースナット33から離間するように形成されている。
【0028】
ボール32は、転動部材としての鋼球からなり、回転ランプ29の回転プレート29Aの各ボール溝29Dと、回転直動ランプ31の回転直動プレート31Aの各ボール溝31Dとの間にそれぞれ介装されている。そして、回転ランプ29に回転トルクを加えると、ボール溝29Dと31Dの間をボール32が転動するようになっている。ここで、ボール32が転動すると、回転直動ランプ31は、ベースナット33と螺合しているため、ベースナット33がシリンダ10に対して回転していないときには、ベースナット33に対して回転しながら軸方向に推進するようになっている。このとき、回転直動ランプ31は、ボール32の転動により発生する回転直動ランプ31の回転トルクと、回転直動ランプ31とベースナット33との螺合部である雄ねじ部31C及び雌ねじ部33Cの回転抵抗トルクとが釣り合うまで、軸方向に推進されるようになっている。また、回転直動ランプ31とベースナット33との螺合部である雄ねじ部31C及び雌ねじ部33Cは、ピストン12からの回転直動ランプ31への軸方向荷重によってはベースナット33が回転しない、すなわち、雄ねじ部31C及び雌ねじ部33Cの逆効率が0以下になるように、言い換えれば、不可逆性が大きなねじに設定されている。なお、ボール溝29D、31Dは、周方向に沿った傾斜の途中に窪みを付けたり、傾斜を途中で変化させて構成するようにしても良い。
【0029】
リテーナ26は、全体が略筒形状で構成され、シリンダ10の底壁9側に位置する大径部26Aと、この大径部26Aからシリンダ10の開口部7A方向に向けて縮径する縮径部26Bと、この縮径部26Bからシリンダ10の開口部7A方向に向けて延出する小径部26Cとから構成されている。大径部26Aの先端部(図1中右側)には、中心側に部分的に折り込まれてベースナット33を係止する複数のツメ部26Fが形成されている。また、リテーナ26の縮径部26Bには、周方向に沿って複数設けた縦長溝部26Eが形成され、プッシュロッド53のツバ部53Aに設けた複数の対応する凸部53Bが嵌合されている。
【0030】
また、リテーナ26の小径部26Cの外周には、一方向クラッチ部材としてのスプリングクラッチ65のコイル部65Aが巻き付けられている。このスプリングクラッチ65は、リテーナ26が一方向へ回転するときには回転トルクを付与するが、他方向へ回転するときに回転トルクを殆ど付与しないようになっている。ここでは、ナット55がボールアンドランプ機構28の方向へ移動するときの回転方向に対して回転抵抗トルクを付与するようにしている。ここで、スプリングクラッチ65の回転抵抗トルクの大きさは、回転直動ランプ31とベースナット33とが軸方向で互いに近接する際、コイルばね27の付勢力によって発生する回転直動ランプ31とベースナット33との螺合部31C、33Cの回転抵抗トルクよりも大きいものとなっている。また、スプリングクラッチ65の先端側(図1中左側)には、リング部65Bが形成されており、ナット55の各凸部54Aと同様に、ピストン12の平面部12Cと当接している。これにより、スプリングクラッチ65は、ピストン12に対して軸方向の移動は可能であるが、回転方向への移動が規制されるようになっている。
【0031】
なお、本実施形態では、減速機構として平歯多段減速機構37及び遊星歯車減速機構36を採用したが、サイクロイド減速機や波動減速機等、他の公知な減速機構を採用してもよい。また、減速機構を平歯多段減速機構37のみで構成したり、遊星歯車減速機構36を多段に構成するようにしてもよい。
【0032】
なお、本実施形態では、プッシュロッド53とナット55との螺合部53C,55Cが、ピストン12を制動位置に推進させた後、その制動位置に保持するピストン保持機構として構成されているが、力の伝達系で減速機構よりもピストン12側であれば、どのようなピストン保持機構としてもよく、例えば、回転直動ランプ31の雄ねじ部31Cとベースナット33の雌ねじ部33Cとを不可逆ねじとして構成するようにしてもよい。
【0033】
なお、本実施形態では、ピストン推進機構34を、ボールアンドランプ機構28及びねじ機構52から構成したが、これに限らず、ねじ機構52のみでピストン推進機構34を構成したり、他の回転直動変換機構を用いて構成してもよい。
【0034】
モータ38には、該モータ38を駆動制御する制御手段である電子制御装置からなるECU70が接続されている。該ECU70には、駐車ブレーキの作動・解除を指示すべく操作されるパーキングスイッチ71が接続され、また、アクセル開度センサや車輪速センサ等の各種センサからの信号を受け取ることが可能となっている。そして、パーキングスイッチ71の操作及び各種センサからの検出信号に基づき、ECU70によりモータ38の駆動が制御される。なお、ECU70は、図示しない車両側からの信号に基づきパーキングスイッチ71の操作によらずに作動する機能、例えば、停車状態が一定時間続いたときにキャリパ4を作動させて車両の停止状態を維持する機能や液圧制御装置の故障時に断続的にモータ38を正逆回転させて間欠的な制動を行ってABSの代用とする機能を有している。
【0035】
ここで、本実施形態に示すような電動モータを有する駐車ブレーキ機構付ディスクブレーキにおいては、ディスクブレーキの小型化を図るために、なるべく小型の電動モータを使用する傾向にある。小型の電動モータでは、その回転力も小さくなってしまうため、減速機構により電動モータの回転力を大きな減速比で増力する必要がある。そして、大きな減速比の減速機構を構成するために、減速機、例えば、ギヤ等を多段で用いることになる。このように減速機を多段にした場合には、多段にした分だけ、回転ロス、いわゆる「ガタ」が増加してしまい、駐車ブレーキ機構付ディスクブレーキの作動時及び解除時の応答性が悪くなってしまう。このような課題に鑑みて、本実施形態に係るディスクブレーキ1のECU70は、ピストン推進機構34によってピストン12を推進させると共に制動位置で保持した状態で、モータ38をピストン12が推進する方向とは逆方向に駆動させて平歯多段減速機構37及び遊星歯車減速機構36のガタを解消するように制御する。また、本実施形態に係るディスクブレーキ1において、モータ38をピストン12が推進する方向とは逆方向に駆動させるときに、ガタを解消する以上に駆動させてしまうと、ピストン12が制動位置から後退してしまい、ピストン12の保持力が低下し、停車中の車両が動いてしまう可能性がある。そこで、本実施形態に係るディスクブレーキ1のECU70は、ガタを解消する分だけモータ38をピストン12が推進する方向とは逆方向に駆動するようにしている。これらECU70の制御内容については、第1〜5の制御形態として以下で説明する。
【0036】
次に、本実施形態に係るディスクブレーキ1の作用を説明する。
まず、ブレーキペダルの操作による通常の液圧ブレーキとしてのディスクブレーキ1の制動時における作用を説明する。運転者によりブレーキペダルが踏み込まれると、ブレーキペダルの踏力に応じた液圧がマスタシリンダから液圧回路(ともに図示しない)を経てキャリパ4内の液圧室13に供給される。これにより、ピストン12がピストンシール11を撓ませながら非制動時の原位置から前進(図1の左方向に移動)してインナブレーキパッド2をディスクロータ150に押し付ける。そしてキャリパ本体6は、ピストン12の押付力の反力によりキャリア5に対して図1における右方向に移動して、爪部8によりアウタブレーキパッド3をディスクロータ150に押し付ける。この結果、ディスクロータ150が一対のインナ及びアウタブレーキパッド2、3により挟みつけられて車両の制動力が発生することになる。
【0037】
そして、運転者がブレーキペダルを解放すると、マスタシリンダからの液圧の供給が途絶えて液圧室13内の液圧が低下する。これにより、ピストン12は、ピストンシール11の弾性によって原位置まで後退して制動力が解除される。ちなみに、インナ及びアウタブレーキパッド2、3の摩耗に伴いピストン12の移動量が増大してピストンシール11の弾性変形量を越えると、ピストン12とピストンシール11との間に滑りが生じた状態でピストン12が前進する。これによってキャリパ本体6に対するピストン12の原位置が移動することになり、インナ及びアウタブレーキパッド2、3が摩耗したとしても、パッドクリアランスが一定に調整されるようになっている。
【0038】
次に、車両の停止状態を維持するための作用の一例である、駐車ブレーキとしての作用を説明する。図1は、ブレーキペダルが操作されておらず、かつ、駐車ブレーキが解除されている状態を示している。この状態から駐車ブレーキを作動させるべく、パーキングスイッチ71が操作されると、ECU70によってモータ38が駆動して、平歯多段減速機構37を介して遊星歯車減速機構36のサンギヤ44Bが回転する。このサンギヤ44Bの回転により、各プラネタリギヤ45を介してキャリア48が回転する。キャリア48の回転力は、回転ランプ29に伝達される。
【0039】
ここで、ボールアンドランプ機構28の回転直動ランプ31には、プッシュロッド53を介してコイルばね27の付勢力が作用している。このため、回転直動ランプ31が、キャリパ本体6に対して前進(図2中左方向へ移動)するためには、ある一定以上の推力、ひいては回転トルクT1が必要となっている。これに対して、一対のインナ及びアウタブレーキパッド2、3とディスクロータ150とが当接しておらず、ピストン12からディスクロータ150への押付力が発生していない状態では、プッシュロッド53を回転させるための必要回転トルクT2が、回転直動ランプ31を前進させるための必要回転トルクT1よりも十分小さくなっている。また、駐車ブレーキを作動させる時には、スプリングクラッチ65による回転抵抗トルクT3も付与されない。
【0040】
このため、キャリア48から回転ランプ29への回転力の伝達初期においては、回転直動ランプ31が前進しないので、回転ランプ29と回転直動ランプ31とが共回りし始める。その回転力は、機械損失分を除いた殆どが回転直動ランプ31の雄ねじ部31Cとベースナット33の雌ねじ部33Cとの螺合部からリテーナ26及びプッシュロッド53を介してねじ機構52に伝達されて、ねじ機構52が作動することになる。すなわち、キャリア48は、その回転力により回転ランプ29、回転直動ランプ31、ベースナット33、リテーナ26及びプッシュロッド53を共に一体となって回転させる。このプッシュロッド53の回転によりナット55が前進(図1中左方向へ移動)して、ナット55のフランジ部54の傾斜面54Bがピストン12の傾斜面12Dに当接して、該傾斜面12Dを押圧することでピストン12が前進することになる。
【0041】
モータ38がさらに駆動されて、ねじ機構52の伸長作動によりピストン12によるディスクロータ150への押付力が発生し始めると、今度は、その押付力に伴う軸力によってプッシュロッド53の雄ねじ部53Cとナット55の雌ねじ部55Cとの螺合部で発生する回転抵抗が増大して、ナット55を前進させるための必要回転トルクT2が増大していく。そして、必要回転トルクT2が、ボールアンドランプ機構28を作動、すなわち回転直動ランプ31を前進させるための必要回転トルクT1よりも大きくなる。この結果、プッシュロッド53の回転が停止して、プッシュロッド53と相対的な回転が規制されるリテーナ26を介してベースナット33の回転が停止する。すると今度は、回転直動ランプ31が回転しながら軸方向に前進することで、ねじ機構52、すなわちプッシュロッド53及びナット55を介してピストン12が前進し、ピストン12のディスクロータ150への押付力が増大する。このとき、回転直動ランプ31には、回転ランプ29からの回転トルクの付与により、ボール溝31Dで発生する推力と、ベースナット33との螺合によって発生する推力の合計が付与される。本実施形態では、最初に、ねじ機構52が作動することによりナット55が前進することでピストン12を前進させてディスクロータ150への押付力を得るので、ねじ機構52の作動により一対のインナ及びアウタブレーキパッド2、3の経時的な摩耗を補償することができる。
【0042】
そして、ECU70は、一対のインナ及びアウタブレーキパッド2、3からディスクロータ150への押付力が所定値に到達するまで、例えば、モータ38の電流値が所定値以上に到達すると共に所定時間経過するまでモータ38を駆動する。その後、ECU70はモータ38への通電を停止する。すると、ボールアンドランプ機構28は、回転ランプ29の回転が停止するので、各ボール溝29D、31D間のボール32の転動作用による回転直動ランプ31への推力付与がなくなる。回転直動ランプ31には、ディスクロータ150への押付力の反力がピストン12及びねじ機構52を介して作用するが、回転直動ランプ31はベースナット33との間で逆作動しない雄ねじ部31C及び雌ねじ部33Cで螺合されているので、回転直動ランプ31は回転せずに停止状態が維持される。これにより、ピストン12の制動位置での保持、すなわち、制動力の保持がなされて駐車ブレーキの作動が完了する。
【0043】
次に、駐車ブレーキを作動させる場合のECU70による制御形態を詳細に説明する。以下においては、駐車ブレーキをかける、すなわちブレーキパッドに所定の押圧力を付与して、そのときのピストン位置を保持するための動作をアプライと称し、駐車ブレーキを解除するための動作をリリースと称する。まず、ECU70による第1の制御形態のフローチャートを図2に基づいて説明する。
ステップS1では、パーキングスイッチ71が操作されて駐車ブレーキを作動させようとしているか否か、パーキングスイッチ71によりアプライ指示があるか否かが判定される。そして、アプライ指示がある場合にはステップS2に進み、一方、アプライ指示がない場合には、再びステップS1に戻る。次に、ステップS2では、ECU70は、ピストン12が推進する方向へモータ38を駆動する。次に、ステップS3では、ピストン12が制動位置に到達したか否かを判定するため、モータ38の電流値が所定値以上に到達し、且つ所定時間が経過したか否かを判定する。そして、このステップS3の条件が成立した場合にはステップS4に進み、一方、ステップS3の条件が不成立の場合にはステップS2とステップS3との間に戻り、ステップS3の条件判断を継続して行う。次に、ステップS4ではモータ38への通電を停止する。これにより、ピストン保持機能を含むピストン推進機構34の作動が完了して、ピストン12を制動位置に保持する。次に、ステップS5では、モータ38をピストン12が推進する方向とは逆方向に駆動させる。次に、ステップS6では、タイマカウンタをカウントアップする。次に、ステップS7では、タイマカウンタによりカウントアップ開始、すなわち、ピストン12を制動位置に保持してから所定時間T1を経過したか否かを判定する。そして、所定時間T1を経過した場合にはステップS8に進み、一方、所定時間T1を経過しない場合にはステップS5とステップS6との間に戻って所定時間T1を経過したか否かの判定を継続する。ここで、所定時間T1は、駐車ブレーキ解除時における平歯多段減速機構37及び遊星歯車減速機構36のガタを吸収できる時間を予め試験等、例えば、製品出荷前等の試験により算出しておき、ECU70の記憶領域に格納しておくものとなっている。次に、ステップS8では、モータ38への通電を停止する。次に、ステップS9では、タイマカウンタをクリアする。
【0044】
また、第1の制御形態におけるタイムチャートを図3に基づいて説明する。ここではタイムチャートに示した時間軸(1)〜(6)を基にディスクブレーキ1の動作を上記図2のフローチャートの各ステップと対応付けて説明する。
【0045】
時間軸(1)では、パーキングスイッチ71によるアプライ指示はされておらず、モータ38は停止しており、モータ38の電流値及びモータ38の位置は共に0となる。時間軸(2)にてパーキングスイッチ71によるアプライ指示がなされ、ECU70内のパーキングスイッチフラグがアプライ側となる(ステップS1が成立する)と、ECU70は、モータ38をピストン12が推進する方向に始動する(ステップS2)。このとき、モータ38には、停止状態から駆動状態に移行するため一旦、大きな起動電流が発生した後、時間軸(2)〜(3)にかけて、モータ38は駆動状態となり、モータ38の電流値は次第に低下する。その後、モータ38の駆動によってピストン12の推力が増加してブレーキパッド2、3がディスクロータ150に押圧されると、時間軸(3)〜(4)の間で、モータ38の電流値が次第に上昇する。そして、この時間軸(3)〜(4)の間で、モータ38の電流値が所定値以上に到達し、且つ所定時間が経過した否かが判定され(ステップS3)、成立した場合には時間軸(4)の時点でモータ38への通電を停止してアプライ完了となる(ステップS4)。
【0046】
その後、時間軸(5)〜(6)では、リリース時の応答性を向上させるため、モータ38をピストン12が推進する方向とは逆方向に所定時間駆動させて、平歯多段減速機構37及び遊星歯車減速機構36のガタを戻す(吸収する)ようにする。すなわち、時間軸(5)では、モータ38をピストン12が推進する方向とは逆方向に駆動させる(ステップS5)ため、モータ38に起動電流が発生する。その後時間軸(6)に至るまでモータ38が駆動状態となり、その電流値は次第に低下するようになる。モータ38をピストン12が推進する方向とは逆方向に所定時間T1(時間軸(5)〜(6)に至る時間)駆動させる(ステップS6〜S8)ことで、平歯多段減速機構37及び遊星歯車減速機構36のガタ(リリース時)を予め吸収しておく。その結果、リリース時にモータ38をピストン12が推進する方向とは逆方向に駆動する際にそのリリース動作を速やかに完了することができ、応答性を向上させることができる。
【0047】
ところで、図3の破線は、従来の、平歯多段減速機構37及び遊星歯車減速機構36のガタを予め吸収していない場合の推力の推移を示しているが、これからも解るように、ガタの戻し分だけリリース時のモータ38の駆動時間が延びてしまいリリース時の応答性が劣るようになる。なお、時間軸(5)〜(6)に至る所定時間T1は、上述したように予め実験や検査結果等により設定される。上述のように、本制御形態においては、平歯多段減速機構37及び遊星歯車減速機構36のガタを吸収できる所定時間T1だけモータ38をピストン12が推進する方向とは逆方向に駆動させて平歯多段減速機構37及び遊星歯車減速機構36のガタを解消するようにしている。したがって、駐車ブレーキ解除時におけるディスクブレーキの応答性を良好なものとすることができる。
【0048】
次に、ECU70による第2の制御形態のフローチャートを図4に基づいて説明する。なお、ステップS1〜S5は第1の制御形態と同一であるためにここでの説明を省略する。図4のステップS5にてモータ38をピストン12が推進する方向とは逆方向に駆動させた後、ステップS11では、モータ38の電流値が所定値(X1)以上に到達したか否かを判定する。すなわち、ステップS5にてモータ38をピストン12が推進する方向とは逆方向に駆動させた直後、モータ38には、停止状態から駆動状態に移行するため一旦、大きな起動電流が発生する。この電流値が所定値(X1)以上に到達したか否かを判定する。そして、このステップS11の条件が成立した場合には、ステップS12に進み、一方、ステップS11の条件が不成立の場合には、ステップS5とステップS11との間に戻り、ステップS11の条件判断を継続して行う。
【0049】
次に、ステップS12では、モータ38の電流値が所定値(X2)以下となったか否かを判定する。そして、このステップS12の条件が成立した場合には、ステップS13に進んでモータ38の電流値が所定値(X2)以下となってからの経過時間を測定するため、タイマカウンタをカウントアップする。一方、ステップS12の条件が不成立の場合には、ステップS12の条件判断を継続して行う。次に、ステップS14では、モータ38の電流値が所定値(X2)以下となってから所定時間T2が経過したか否かを判定する。所定時間T2が経過していない場合には、ステップS12とステップS13との間に戻り、ステップS13でタイマカウンタをカウントアップして再度ステップS14の条件判断を継続して行う。次に、ステップS14で所定時間T2が経過した場合には、ステップ15でモータ38への通電を停止する。次に、ステップS16では、タイマカウンタをクリアする。
【0050】
ここで、ステップS11において、モータ38の電流値が所定値(X1)以上に到達したか否かを判定するのは、ステップS5でモータ38をピストン12が推進する方向と逆方向に駆動させた後すぐにステップS12のモータ38の電流値が所定値(X2)以下となったか否かを判定し始めると、上昇中の電流値を誤判定してしまう可能性があるため、この誤判定を抑制するために行う処理となっている。なお、ステップS11、S12及びS14にて使用する条件判断値は、予め実験結果や検査結果等により設定しておき、ECU70の記憶領域に格納しておく。
【0051】
また、ECU70による第2の制御形態におけるタイムチャートを図5に基づいて説明する。ここではタイムチャートに示した時間軸(1)〜(6)を基にディスクブレーキ1の動作を上記図4のフローチャートの各ステップと対応付けて説明する。なお、時間軸(1)〜(4)におけるディスクブレーキ1の動作は第1の制御形態と同じであるため、時間軸(5)〜(6)のディスクブレーキ1の動作を説明する。
【0052】
時間軸(5)〜(6)においては、第1の制御形態と同様に、モータ38をピストン12が推進する方向とは逆方向に駆動させて、平歯多段減速機構37及び遊星歯車減速機構36のガタを戻すようになる。すなわち、時間軸(5)では、モータ38をピストン12が推進する方向とは逆方向に駆動させる(ステップS5)ために、モータ38に起動電流が発生してその電流値が所定値(X1)以上に到達(ステップS11)した後電流値は次第に低下する。そして、モータ38の電流値が所定値(X2)以下となってから所定時間T2が経過した時間軸(6)の時点でモータ38への通電を停止する。(ステップS12〜S15)。
【0053】
このように、ステップS11、S12でモータ38をピストン12が推進する方向とは逆方向に駆動し始めたことをモータ電流値で検出した後に、平歯多段減速機構37及び遊星歯車減速機構36のガタを吸収できる所定時間T2だけモータ38をピストン12が推進する方向とは逆方向に駆動させて平歯多段減速機構37及び遊星歯車減速機構36のガタを解消するようにしている。したがって、駐車ブレーキ解除時におけるディスクブレーキの応答性を良好なものとすることができる。
【0054】
次に、ECU70による第3の制御形態のフローチャートを図6に基づいて説明する。なお、ステップS1〜S5及びS11、S12は第2の制御形態と同一であるためにここでの説明を省略する。ステップS12にてモータ38の電流値が所定値(X2)以下に到達した後ステップS21に進む。該ステップS21では、モータ38の電流値が所定値(X3)以上に到達したか否かを判定する。ここで、モータ38をピストン12が推進する方向と逆方向に駆動させて平歯多段減速機構37及び遊星歯車減速機構36のガタが解消されたときに、平歯多段減速機構37及び遊星歯車減速機構36を回動させようとする負荷抵抗がモータ38にかかって電流値が上昇し始めることになる。この電流値の上昇を検出することで上記ガタの解消を判定できるため、ステップS21が行われる。そして、電流値が所定値(X3)以上に到達した場合には、ステップS22に進んで、モータ38への通電を停止する。一方、電流値が所定値(X3)以上に到達していない場合には、ステップS13とステップS21との間に戻ってステップS21の条件判断を継続して行う。次に、ステップS23では、タイマカウンタをクリアする。なお、ステップS21にて使用する条件判断値である電流値の所定値X1,X2,X3は、予め実験結果や検査結果等により設定しておき、ECU70の記憶領域に格納しておく。
【0055】
また、ECU70による第3の制御形態におけるタイムチャートを図7に基づいて説明する。ここではタイムチャートに示した時間軸(1)〜(6)を基にディスクブレーキ1の動作を上記図6のフローチャートの各ステップと対応付けて説明する。なお、時間軸(1)〜(4)におけるディスクブレーキ1の動作は第1の制御形態と同じであるため、時間軸(5)〜(6)のディスクブレーキ1の動作を説明する。
【0056】
時間軸(5)〜(6)に至っては、第1及び第2の制御形態と同様に、モータ38をピストン12が推進する方向とは逆方向に駆動させて、平歯多段減速機構37及び遊星歯車減速機構36のガタを解消するようにする。すなわち、時間軸(5)では、モータ38をピストン12が推進する方向とは逆方向に駆動させる(ステップS5)ために、モータ38に起動電流が発生してその電流値が所定値(X1)以上に到達(ステップS11)した後電流値は次第に低下して所定値(X2)を経由(ステップS12)した後、平歯多段減速機構37及び遊星歯車減速機構36のガタが解消されてモータ38に負荷抵抗が加えられると、次第に上昇するように推移する。そして、モータ38の電流値が所定値(X3)以上に到達した時間軸(6)の時点にてモータ38への通電を停止する(ステップS21及びS22)。
【0057】
このように、この第3の制御形態では、駐車ブレーキ解除時における平歯多段減速機構37及び遊星歯車減速機構36のガタを吸収して平歯多段減速機構37及び遊星歯車減速機構36がピストン12の推進する方向とは逆方向に回転する瞬間にモータ38への通電を停止するので、確実に平歯多段減速機構37及び遊星歯車減速機構36のガタを解消することができ、上記ガタの解消を予想した所定時間T1,T2を用いた第1,2の制御形態よりもリリース時の応答性を向上させることができる。
【0058】
次に、ECU70による第4の制御形態のフローチャートを図8に基づいて説明する。なお、ステップS1〜S5は第1の制御形態と同一であるためにここでの説明を省略する。また、本第4の制御形態は、第2の制御形態においてモータ38の電流値の所定値(X2)によってモータ38の駆動を検出した点を、モータ38の電流微分値の絶対値における所定値(ΔX1)で検出するものとなっている。
【0059】
ステップS5にてモータ38をピストン12が推進する方向とは逆方向に駆動させた後、ステップS31では、モータ38の電流微分値(絶対値)が所定値(ΔX1)以下となっているかを判定する。モータ38の電流微分値(絶対値)が所定値(ΔX1)以下となっている場合にはステップS32でタイマカウンタをカウントアップする。次に、ステップS33で、モータ38の電流微分値(絶対値)が所定値(ΔX1)以下となっている状態が所定時間T3経過したか否かを判定する。そして、ステップS33の条件が成立した場合にはステップS34に進んで、ステップS34でモータ38への通電を停止した後、ステップS35で、タイマカウンタをクリアする。一方、ステップS31の条件が不成立の場合にはステップS5とステップS31との間に戻ってステップS31の条件判断を継続して行う。また、ステップS33の条件が不成立の場合にはステップS31とステップS32との間に戻り、ステップS32でタイマカウンタをカウントアップして再度ステップS33の条件判断を継続して行う。なお、ステップS31、S33にて使用する条件判断値は、予め実験結果や検査結果等により設定しておき、ECU70の記憶領域に格納しておく。
【0060】
また、ECU70による第4の制御形態におけるタイムチャートを図9に基づいて説明する。ここではタイムチャートに示した時間軸(1)〜(6)を基にディスクブレーキ1の動作を上記図8のフローチャートの各ステップと対応付けて説明する。なお、時間軸(1)〜(4)におけるディスクブレーキ1の動作は第1の制御形態と同じであるため、時間軸(5)〜(6)のディスクブレーキ1の動作を説明する。
【0061】
時間軸(5)〜(6)においては、第1〜第3の制御形態と同様に、モータ38をピストン12が推進する方向とは逆方向に駆動させて、平歯多段減速機構37及び遊星歯車減速機構36のガタを戻すようにする。すなわち、時間軸(5)では、モータ38をピストン12が推進する方向とは逆方向に駆動させる(ステップS5)ために、モータ38に起動電流が発生するが、その後電流値は次第に低下する。そして、モータ38の電流微分値(絶対値)が所定値(ΔX1)以下の状態が所定時間T3だけ継続した時間軸(6)の時点でモータ38への通電を停止する。(ステップS31〜S34)。ここで、所定時間T3は、時間軸(6)近傍のモータ38の電流微分値(絶対値)の状態を検出するために設定されている。すなわち、単にモータ38の電流微分値(絶対値)が所定値(ΔX1)以下となったか否かだけを判定した場合には、上述した時間軸(5)近傍での起動電流が発生後の電流値の低下のときに、モータ38の電流微分値(絶対値)が所定値(ΔX1)以下となるので、ここでの誤検出を抑制するために所定時間T3の経過を判定するステップS33が設定されている。
【0062】
このように、ステップS31、S33でモータ38をピストン12が推進する方向とは逆方向に、ある程度回転していることをモータの電流微分値で検出した後に、平歯多段減速機構37及び遊星歯車減速機構36のガタを吸収できる所定時間T3だけモータ38をピストン12が推進する方向とは逆方向に駆動させて平歯多段減速機構37及び遊星歯車減速機構36のガタを解消するようにしている。したがって、駐車ブレーキ解除時におけるディスクブレーキの応答性を良好なものとすることができる。
【0063】
次に、ECU70による第5の制御形態のフローチャートを図10に基づいて説明する。なお、ステップS1〜S5及びS11,S12は第2の制御形態と同一であるためにここでの説明を省略する。また、本第5の制御形態は、第3の制御形態においてモータ38の電流値の所定値(X3)によって、平歯多段減速機構37及び遊星歯車減速機構36のガタが解消されてモータ38に負荷抵抗が加えられたことを検出した点を、モータ38の電流微分値の絶対値における所定値(ΔX2)で検出するものとなっている。
ステップS12にてモータ38の電流値が所定値(X2)以下に到達し、且つ所定時間が経過した後ステップS41に進む。該ステップS41ではモータ38の電流微分値が所定値(ΔX2)以上に到達したか否かを判定する。そして、このステップ41の条件判断が成立した場合には、ステップS42に進み、一方、ステップS41の条件判断が不成立の場合には、ステップS13とステップS41との間に戻ってステップS41の条件判断を継続して行う。次に、ステップS42では、モータ38への通電を停止する。次に、ステップS43では、タイマカウンタをクリアする。なお、ステップS41にて使用する条件判断値は、予め実験結果や検査結果等により設定しておき、ECU70の記憶領域に格納しておく。
【0064】
また、第5の制御形態におけるタイムチャートを図11に基づいて説明する。ここではタイムチャートに示した時間軸(1)〜(6)を基にディスクブレーキ1の動作を上記図10のフローチャートの各ステップと対応付けて説明する。なお、時間軸(1)〜(4)におけるディスクブレーキ1の動作は第1の制御形態と同じであるため、時間軸(5)〜(6)のディスクブレーキ1の動作を説明する。
【0065】
時間軸(5)〜(6)においては、第1〜第4の制御形態と同様に、モータ38をピストン12が推進する方向とは逆方向に駆動させて、平歯多段減速機構37及び遊星歯車減速機構36のガタを戻すようにする。すなわち、時間軸(5)では、モータ38をピストン12が推進する方向とは逆方向に駆動させる(ステップS5)ために、モータ38に起動電流が発生してその電流値が所定値(X1)以上に到達(ステップS11)した後電流値は次第に低下して所定値(X2)を経由(ステップS12)した後、平歯多段減速機構37及び遊星歯車減速機構36のガタが解消されてモータ38に負荷抵抗が加えられると、次第に上昇するように推移する。そして、その電流微分値が所定値(ΔX2)以上に到達した時間軸(6)の時点でモータ38への通電を停止する(ステップS41及びS42)。ここで、ステップS11、S12の処理は、時間軸(6)近傍のモータ38の電流微分値(絶対値)の状態を検出するために設定されている。すなわち、単にモータ38の電流微分値(絶対値)が所定値(ΔX2)以上となったか否かだけを判定した場合には、上述した時間軸(5)近傍での起動電流が発生後の電流値の低下のときに、モータ38の電流微分値(絶対値)が所定値(ΔX2)以上となるので、ここでの誤検出を抑制するためにモータ起動時の電流微分値の変化をマスクするステップS11、12の処理が設定されている。
このように、この第5の制御形態においても、第3の制御形態と同様に、駐車ブレーキ解除時における平歯多段減速機構37及び遊星歯車減速機構36のガタを吸収して平歯多段減速機構37及び遊星歯車減速機構36がピストン12の推進する方向とは逆方向に回転する瞬間にモータ38への通電を停止するので、確実に平歯多段減速機構37及び遊星歯車減速機構36のガタを解消することができ、上記ガタの解消を予想した所定時間T1,T2,T3を用いた第1、第2、及び第4の制御形態よりもリリース時の応答性を向上させることができる。
【0066】
上記第1〜4の制御形態によるアプライ完了後、駐車ブレーキを解除する際には、パーキングスイッチ71のパーキング解除操作に基づいて、ECU70によってモータ38を駐車ブレーキの作動時と逆方向に駆動させてピストン12を戻す、すなわちピストン12をディスクロータ150から離間させることになる回転方向に駆動させる。このモータ38の駆動により、平歯多段減速機構37及び遊星歯車減速機構36がピストン12を戻す方向へ作動する。すると、ボールアンドランプ機構28が初期位置に戻り、駐車ブレーキの解除が完了する。なお、ECU70は、ピストン12からナット55が適度に離間した位置でモータ38を停止させるように制御する。
【0067】
なお、駐車ブレーキを解除する際のタイムチャートを説明すると、図3、図5、図7、図9及び図11のタイムチャートの時間軸(7)〜(9)に示すように、時間軸(7)にて、モータ38をピストン12が推進する方向とは逆方向に駆動させる。それによりモータ38には起動電流が発生する。その後、アプライ時と同様にモータ38は無負荷回転して、モータ38の電流値は次第に低下する。そして、時間軸(8)にて、モータ38の電流値が一定値となり、ピストン12の推力が解除されたと判断される。その後、時間軸(8)〜(9)にかけてパッドクリアランスを確保し、所定のパッドクリアランスを確保した後、時間軸(9)にて、モータ38への通電を停止して、リリースが完了となる。
【0068】
以上説明したように、本実施形態に係るディスクブレーキ1では、上述したECU70による第1〜第5の制御形態のいずれかを採用することにより、つまり、ECU70では、ピストン推進機構34によってピストン12を推進させその制動位置にて保持した状態で、モータ38をピストン12が推進する方向とは逆方向に駆動させて平歯多段減速機構37及び遊星歯車減速機構36のガタを解消する制御を行うので、車両の停止状態からその状態を解除する際(リリース時)の応答性を向上させることができる。
【0069】
なお、本実施形態では、車両の停止状態を維持するための作用の一例である、駐車ブレーキを例に、ECU70によるモータ38への制御形態を説明したが、駐車ブレーキ以外の場合、例えば、坂道での車両の発進を補助するためのヒルスタートアシストやヒルダウンアシスト、アクセルオフで停車状態にあるときのオートストップ時等の場合にECU70によるモータ38への制御形態を採用してもよい。
【符号の説明】
【0070】
1 ディスクブレーキ,2 インナブレーキパッド,3 アウタブレーキパッド,4 キャリパ,6 キャリパ本体,7 シリンダ部,10 シリンダ,12 ピストン,34 ピストン推進機構(ピストン保持機構も兼ねる),36 遊星歯車減速機構,37 平歯多段減速機構,38 モータ(電動モータ),150 ディスクロータ(ロータ),70 ECU(制御手段)
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制動に用いられるディスクブレーキに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1には、電動モータの電流制御により駐車ブレーキの保持・解除を行う電動ブレーキ制御方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−83373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の電動ブレーキ制御方法では、駐車ブレーキを解除するリリース時に、所定の駐車ブレーキ力を発生させるためのアプライ方向と逆方向に電動モータを回転させることになるが、この時、減速機構に生じs低るガタの分だけ駐車ブレーキを解除するまでの時間が長くなる懸念がある。
【0005】
本発明は、例えば駐車ブレーキの解除時、すなわち、車両の停止状態の維持を解除するときの応答性を良好にするディスクブレーキを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための手段として、本発明は、ロータの両面に配置される一対のブレーキパッドを液圧シリンダ内に設けられたピストンにより押圧するキャリパと、該キャリパに設けられた電動モータの回転が減速機構を介して伝達され、前記ピストンを推進するピストン推進機構と、該ピストン推進機構により推進したピストンを保持するピストン保持機構と、前記電動モータの駆動を制御する制御手段と、を備えたディスクブレーキにおいて、前記制御手段は、前記ピストン推進機構によって推進したピストンを前記ピストン保持機構によって保持した状態で、前記電動モータをピストンが推進する方向とは逆方向に駆動させて前記減速機構のガタを解消することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明のディスクブレーキによれば、車両の停止状態の維持を解除するときの応答性を良好にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本実施形態に係るディスクブレーキを示す断面図である。
【図2】ECUによる第1の制御形態を示すフローチャートである。
【図3】ECUによる第1の制御形態を示すタイムチャートである。
【図4】ECUによる第2の制御形態を示すフローチャートである。
【図5】ECUによる第2の制御形態を示すタイムチャートである。
【図6】ECUによる第3の制御形態を示すフローチャートである。
【図7】ECUによる第3の制御形態を示すタイムチャートである。
【図8】ECUによる第4の制御形態を示すフローチャートである。
【図9】ECUによる第4の制御形態を示すタイムチャートである。
【図10】ECUによる第5の制御形態を示すフローチャートである。
【図11】ECUによる第5の制御形態を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施の形態を図1〜図11に基づいて詳細に説明する。
本実施形態に係るディスクブレーキ1を図1に基づいて説明する。
図1に示すように、本実施形態に係るディスクブレーキ1は、キャリパ浮動型として構成されており、車両の回転部に取り付けられたディスクロータ150を挟んで両側に配置された一対のインナブレーキパッド2及びアウタブレーキパッド3、該インナブレーキパッド2及びアウタブレーキパッド3をディスクロータ150に押圧するためのキャリパ4、車両のナックル等の非回転部に固定されたキャリア5、及び、後述するピストン12を液圧で作動させるほかにモータ38の駆動により減速機構36、37及びピストン推進機構34を介してピストン12を作動させるための駐車ブレーキ機構が設けられている。上記一対のインナ及びアウタブレーキパッド2,3とキャリパ4とは、キャリア5にディスクロータ150の軸方向へ移動可能に支持されている。
【0010】
キャリパ4の主体であるキャリパ本体6は、車両内側のブレーキパッドであるインナブレーキパッド2に対向する基端側に配置されるシリンダ部7と、車両外側のブレーキパッドであるアウタブレーキパッド3に対向する先端側に配置される爪部8とを有して、鋳鉄やアルミアルミニウム合金等で一体成形されている。シリンダ部7には、インナブレーキパッド2側を開口部7Aとなし、他端が孔部9Aを有する底壁9により閉じられた有底のシリンダ10が形成されている。
【0011】
上記シリンダ10内には、有底のカップ状に形成され、その底部12Aがインナブレーキパッド2に対向するように収められるピストン12が設けられている。ピストン12は、シリンダ10の開口側に介装されたピストンシール11を介して軸方向に移動可能にシリンダ10に内装されている。このピストン12とシリンダ10の底壁9との間には、ピストンシール11により画成される液圧室13が形成されている。この液圧室13には、シリンダ部7に設けた図示しないポートを通じて、マスタシリンダや液圧制御ユニットなどの図示しない液圧源から液圧が供給されるようになっている。ピストン12は、インナブレーキパッド2と対向する外底面の一部に凹部14が設けられている。この凹部14は、インナブレーキパッド2の背面に形成されている凸部15が係合することにより、シリンダ10、ひいてはキャリパ本体6に対して回り止めされている。また、ピストン12の底部12Aとシリンダ10との間には、シリンダ10内への異物の進入を防ぐダストブーツ16が介装されている。
【0012】
キャリパ本体6のシリンダ10の底壁9側には、後述する減速機構を内包するハウジング35が気密的に取り付けられている。該ハウジング35の一端開口には気密的にカバー39が取り付けられている。なお、ハウジング35とシリンダ10とは、シリンダ10の底壁9側に設けられるシール51によって気密性が保持されている。また、ハウジング35とカバー39とは、その間に設けられたシール40によって気密性が保持されている。キャリパ本体6のハウジング35には、電動モータの一例であるモータ38がシール50を介して密閉的に取り付けられている。なお、本実施形態では、モータ38をハウジング35の外側に配置したが、モータ38を覆うようにハウジング35を形成し、ハウジング35内にモータ38を収容してもよい。この場合、シール50が不要となり、組み付け工数の低減を図ることが可能となる。
【0013】
キャリパ本体6には、上記モータ38によりピストン12を制動位置に推進するピストン推進機構34と、モータ38による回転を増力する減速機構としての平歯多段減速機構37及び遊星歯車減速機構36とを有する駐車ブレーキ機構が備えられている。上記平歯多段減速機構37及び遊星歯車減速機構36は、ハウジング35内に収納されている。ピストン推進機構34は、遊星歯車減速機構36からの回転運動を直線方向の運動(以下、便宜上直動という。)に変換し、ピストン12に推力を付与して制動位置に推進させるボールアンドランプ機構28及びねじ機構52から構成される。ボールアンドランプ機構28及びねじ機構52は、キャリパ本体6のシリンダ10内に収納されている。ねじ機構52は、ボールアンドランプ機構28とピストン12との間に設けられている。本実施の形態では、ピストン推進機構34は、ピストン12を制動位置に推進させた後該ピストン12を制動位置に保持するピストン保持機構としても作用する。
【0014】
平歯多段減速機構37は、ピニオンギヤ42と、第1減速歯車43と、第2減速歯車44とを有している。ピニオンギヤ42は、筒状に形成され、モータ38のシャフト41に圧入固定される孔部42Aと、外周に形成される歯車42Bとを有している。第1減速歯車43は、ピニオンギヤ42の歯車42Bに噛合する大径の大歯車43Aと、大歯車43Aから軸方向に延出して形成される小径の小歯車43Bとが一体的に形成されている。この第1減速歯車43は、一端がハウジング35に支持されると共に他端がカバー39に支持されたシャフト62により回転可能に支持される。第2減速歯車44は、第1減速歯車43の小歯車43Bに噛合する大径の大歯車44Aと、大歯車44Aから軸方向に延出して形成される小径のサンギヤ44Bとが一体形成されている。サンギヤ44Bは後述する遊星歯車減速機構36の一部を構成している。この第2減速歯車44は、カバー39に支持されたシャフト63により回転可能に支持される。
【0015】
遊星歯車減速機構36は、サンギヤ44Bと、複数個(本実施の形態では3個)のプラネタリギヤ45と、インターナルギヤ46と、キャリア48とを有する。プラネタリギヤ45は、第2減速歯車44のサンギヤ44Bに噛合される歯車45Aと、キャリア48から立設されるピン47を挿通する孔部45Bとを有している。3個のプラネタリギヤ45は、キャリア48の円周上に等間隔に配置される。
【0016】
キャリア48は、円板状に形成され、その中心に多角形柱48Aがインナパッド2側に突設される。該キャリア48の多角形柱48Aは、後述するボールアンドランプ機構28の回転ランプ29の円柱部29Bに設けた多角形孔29Cと嵌合することで、キャリア48と回転ランプ29とで互いに回転トルクを伝達できるようになっている。キャリア48の外周側には複数のピン用孔48Bが形成されている。該各ピン用孔48Bに、各プラネタリギヤ45を回転可能に支持するピン47が圧入固定されている。該キャリア48及び各プラネタリギヤ45は、ハウジング35の壁面35Aと、インターナルギヤ46の第2減速歯車44側に一体的に設けた環状壁部46Bとにより軸方向の移動が規制されている。また、キャリア48には、その中心に挿通孔48Cが形成される。該挿通孔48Cには、カバー39に支持され、第2減速歯車44を回転自在に支持するシャフト63が圧入固定されている。なお、本実施形態では、キャリア48に設けた多角形柱48Aにより相対的な回転を規制しているが、スプラインやキー等回転トルクを伝達できる機械要素を採用してもよい。
【0017】
インターナルギヤ46は、各プラネタリギヤ45の歯車45Aがそれぞれ噛合する内歯46Aと、この内歯46Aから連続して第2減速歯車44側に一体的に設けられ、プラネタリギヤ45の軸方向の移動を規制する環状壁部46Bとからなる。該インターナルギヤ46は、ハウジング35の内部に圧入固定される。
【0018】
ねじ機構52は、プッシュロッド53と、該プッシュロッド53と螺合するナット55とを備えている。プッシュロッド53は、ツバ部53Aと螺合部53Cとが一体的に形成されて構成される。該ツバ部53Aは、スラストベアリング56を介して、ボールアンドランプ機構28の回転直動ランプ31に軸方向に対向配置される。ツバ部53Aと後述するリテーナ26との間には、コイルばね27が介装されている。コイルばね27は、プッシュロッド53を常時スラストベアリング56側、すなわち、シリンダ部7の底壁9側へ付勢している。また、コイルばね27は、プッシュロッド53を介して後述のボールアンドランプ機構28の回転直動ランプ31をシリンダ部7の底壁9側へ付勢している。プッシュロッド53には、そのツバ部53Aの外周面に周方向に沿って凸部53Bが複数形成されている。凸部53Bは、後述するリテーナ26の縮径部26Bに、周方向に沿って複数設けられる縦長溝部26Eにそれぞれ嵌合するようになっている。プッシュロッド53は、この凸部53Bと縦長溝部26Eとの嵌合により、縦長溝部26Eの軸方向長さの範囲で軸方向に移動可能であるが、リテーナ26に対して回転方向への移動が規制されている。
【0019】
ナット55は、貫通孔である孔部55Aを有して一端側に円筒部55Bと他端側にフランジ部54とが一体的に形成されて、軸方向断面でT字状、外観視でキノコ状に構成される。孔部55Aのうち円筒部55Bに該当する位置には、プッシュロッド53の螺合部53Cと螺合する螺合部55Cが形成されている。
【0020】
フランジ部54の外周端には、凸部54Aが周方向に間隔を置いて複数形成される。これら各凸部54Aは、ピストン12の円筒部12Bの内周面に軸方向に延び周方向に間隔を置いて複数形成された平面部12Cに係合するようになっている。この係合により、ナット55は、ピストン12に対して軸方向には移動可能であるが、回転方向への移動が規制されている。ナット55のフランジ部54の先端面には、傾斜面54Bが形成されている。該傾斜面54Bは、ピストン12の底部12Aの内側に形成された傾斜面12Dと当接可能になっている。ナット55のフランジ部54の傾斜面54Bがピストン12の傾斜面12Dに当接することで、モータ38からの回転力が、ねじ機構52であるプッシュロッド53、ナット55及びフランジ部54を介してピストン12に伝達される。これにより、ピストン12は制動位置まで前進するようになっている。なお、ナット55のフランジ部54の凸部54Aには、溝部(図示略)が複数形成され、また、傾斜面54Bにも溝部54Dが複数形成されている。これらの溝部により、ピストン12の底部12Aとフランジ部54とにより囲まれた空間が液圧室13と連通して、ブレーキ液の流通が可能になっており、前記空間のエア抜き性を確保するようにしている。
【0021】
プッシュロッド53とナット55との螺合部53C,55Cは、ピストン12からの回転直動ランプ31への軸方向荷重によってはベースナット33が回転しないように、その逆効率が0以下になるように、すなわち、不可逆性が大きなねじとして設定されている。本実施形態においては、上記螺合部53C,55Cが、ピストン12を制動位置に推進させた後、その制動位置に保持するピストン保持機構として構成されている。
【0022】
ボールアンドランプ機構28は、回転ランプ29と、回転直動ランプ31と、複数、本実施形態においては3つのボール32と、ベースナット33とを備えている。
【0023】
回転ランプ29は、円板状の回転プレート29Aと、該回転プレート29Aの略中心から一体的に延びる円柱部29Bとからなり、軸方向断面T字状に形成される。該円柱部29Bは、ベースナット33の底壁33Aに設けた挿通孔33D及びシリンダ10の底壁9に設けた孔部9Aに挿通されている。該円柱部29Bの先端には、キャリア48に設けた多角形柱48Aが嵌合する多角形孔29Cが形成されている。また、回転プレート29Aの円柱部29B側と反対側の面には、周方向に沿って所定の傾斜角を有して円弧状に延びるとともに径方向において円弧状断面を有する複数のボール溝29Dが形成されている。また、回転プレート29Aは、ベースナット33の底壁33Aに対して、スラストベアリング30を介して回転自在に支持されている。シリンダ10の底壁9の孔部9Aと回転ランプ29の円柱部29Bの外周面との間にはシール61が設けられ、液圧室13の液密性が保持されている。なお、回転ランプ29の円柱部29Bの先端部には止め輪64が装着されており、回転ランプ29のキャリパ本体6に対するインナ及びアウタブレーキパッド2、3側への移動、すなわち、ロータ軸方向への移動が規制されている。そして、上記のような回転ランプ29の規制によって、ベースナット33は、キャリパ本体6に対してロータ軸方向に移動しないようになっている。したがって、ベースナット33に形成された雌ねじ部33Cもキャリパ本体6に対してロータ軸方向に移動しないようになっている。
【0024】
回転直動ランプ31は、円板状の回転直動プレート31Aと、該回転直動プレート31Aの外周端から立設される円筒部31Bとからなる有底円筒状に形成されている。回転直動プレート31Aの、回転ランプ29の回転プレート29Aとの対向面には、周方向に沿って所定の傾斜角を有して円弧状に延びるとともに径方向において円弧状断面を有する複数、本実施形態においては3つのボール溝31Dが形成されている。また、円筒部31Bの外周面には、ベースナット33の円筒部33Bの内周面に設けた雌ねじ部33Cと螺合する雄ねじ部31Cが形成されている。
【0025】
ベースナット33は、底壁33Aと、該底壁33Aの外周端から立設される円筒部33Bとからなる有底筒状に形成されている。該円筒部33Bの内周面には、回転直動ランプ31の円筒部31Bの外周面に設けた雄ねじ部31Cと螺合する雌ねじ部33Cが形成される。ベースナット33の底壁33Aの略中心には回転ランプ29の円柱部29Bが挿通される挿通孔33Dが形成されている。
【0026】
そして、ベースナット33は、その円筒部33B内に回転直動ランプ31及び回転ランプ29の回転プレート29Aを収容するようにして、その底壁33Aの挿通孔33Dに回転ランプ29の円柱部29Bが挿通されている。また、ベースナット33は、その円筒部33Bの雌ねじ部33Cが回転直動ランプ31の円筒部31Bの雄ねじ部31Cに螺合され、その底壁33Aがシリンダ10の底壁9と回転ランプ29の回転プレート29Aとの間に配置されたスラストベアリング30と58の間に支持されている。これにより、ベースナット33は、スラストベアリング58及びスラストワッシャ57を介して、シリンダ10の底壁9に対して回転可能に支持されるようになっている。しかしながら、ベースナット33は、その外周に設けた複数の凸部33Eがリテーナ26に設けた凹部26Gと嵌合することでリテーナ26に対する相対的な回転移動が規制されている。また、リテーナ26の大径部26Aの後端部には、複数のツメ部26Fが形成されており、該リテーナ26内の所定位置にベースナット33を組み付けた後、各ツメ部26Fをリテーナ26の中心方向へ折り込むことで、ベースナット33の第2減速歯車44側への移動が規制されるようになっている。
【0027】
なお、回転直動ランプ31の円筒部31Bの雄ねじ部31C及びベースナット33の円筒部33Bに設けた雌ねじ部33Cは、回転ランプ29を一方向に回転させて、回転ランプ29及び回転直動ランプ31の対向するボール溝29D、31D間のボール32の転動作用により回転直動ランプ31が回転ランプ29から離間する場合、回転直動ランプ31が回転ランプ29と同方向に回転したときに、回転直動ランプ31がベースナット33から離間するように形成されている。
【0028】
ボール32は、転動部材としての鋼球からなり、回転ランプ29の回転プレート29Aの各ボール溝29Dと、回転直動ランプ31の回転直動プレート31Aの各ボール溝31Dとの間にそれぞれ介装されている。そして、回転ランプ29に回転トルクを加えると、ボール溝29Dと31Dの間をボール32が転動するようになっている。ここで、ボール32が転動すると、回転直動ランプ31は、ベースナット33と螺合しているため、ベースナット33がシリンダ10に対して回転していないときには、ベースナット33に対して回転しながら軸方向に推進するようになっている。このとき、回転直動ランプ31は、ボール32の転動により発生する回転直動ランプ31の回転トルクと、回転直動ランプ31とベースナット33との螺合部である雄ねじ部31C及び雌ねじ部33Cの回転抵抗トルクとが釣り合うまで、軸方向に推進されるようになっている。また、回転直動ランプ31とベースナット33との螺合部である雄ねじ部31C及び雌ねじ部33Cは、ピストン12からの回転直動ランプ31への軸方向荷重によってはベースナット33が回転しない、すなわち、雄ねじ部31C及び雌ねじ部33Cの逆効率が0以下になるように、言い換えれば、不可逆性が大きなねじに設定されている。なお、ボール溝29D、31Dは、周方向に沿った傾斜の途中に窪みを付けたり、傾斜を途中で変化させて構成するようにしても良い。
【0029】
リテーナ26は、全体が略筒形状で構成され、シリンダ10の底壁9側に位置する大径部26Aと、この大径部26Aからシリンダ10の開口部7A方向に向けて縮径する縮径部26Bと、この縮径部26Bからシリンダ10の開口部7A方向に向けて延出する小径部26Cとから構成されている。大径部26Aの先端部(図1中右側)には、中心側に部分的に折り込まれてベースナット33を係止する複数のツメ部26Fが形成されている。また、リテーナ26の縮径部26Bには、周方向に沿って複数設けた縦長溝部26Eが形成され、プッシュロッド53のツバ部53Aに設けた複数の対応する凸部53Bが嵌合されている。
【0030】
また、リテーナ26の小径部26Cの外周には、一方向クラッチ部材としてのスプリングクラッチ65のコイル部65Aが巻き付けられている。このスプリングクラッチ65は、リテーナ26が一方向へ回転するときには回転トルクを付与するが、他方向へ回転するときに回転トルクを殆ど付与しないようになっている。ここでは、ナット55がボールアンドランプ機構28の方向へ移動するときの回転方向に対して回転抵抗トルクを付与するようにしている。ここで、スプリングクラッチ65の回転抵抗トルクの大きさは、回転直動ランプ31とベースナット33とが軸方向で互いに近接する際、コイルばね27の付勢力によって発生する回転直動ランプ31とベースナット33との螺合部31C、33Cの回転抵抗トルクよりも大きいものとなっている。また、スプリングクラッチ65の先端側(図1中左側)には、リング部65Bが形成されており、ナット55の各凸部54Aと同様に、ピストン12の平面部12Cと当接している。これにより、スプリングクラッチ65は、ピストン12に対して軸方向の移動は可能であるが、回転方向への移動が規制されるようになっている。
【0031】
なお、本実施形態では、減速機構として平歯多段減速機構37及び遊星歯車減速機構36を採用したが、サイクロイド減速機や波動減速機等、他の公知な減速機構を採用してもよい。また、減速機構を平歯多段減速機構37のみで構成したり、遊星歯車減速機構36を多段に構成するようにしてもよい。
【0032】
なお、本実施形態では、プッシュロッド53とナット55との螺合部53C,55Cが、ピストン12を制動位置に推進させた後、その制動位置に保持するピストン保持機構として構成されているが、力の伝達系で減速機構よりもピストン12側であれば、どのようなピストン保持機構としてもよく、例えば、回転直動ランプ31の雄ねじ部31Cとベースナット33の雌ねじ部33Cとを不可逆ねじとして構成するようにしてもよい。
【0033】
なお、本実施形態では、ピストン推進機構34を、ボールアンドランプ機構28及びねじ機構52から構成したが、これに限らず、ねじ機構52のみでピストン推進機構34を構成したり、他の回転直動変換機構を用いて構成してもよい。
【0034】
モータ38には、該モータ38を駆動制御する制御手段である電子制御装置からなるECU70が接続されている。該ECU70には、駐車ブレーキの作動・解除を指示すべく操作されるパーキングスイッチ71が接続され、また、アクセル開度センサや車輪速センサ等の各種センサからの信号を受け取ることが可能となっている。そして、パーキングスイッチ71の操作及び各種センサからの検出信号に基づき、ECU70によりモータ38の駆動が制御される。なお、ECU70は、図示しない車両側からの信号に基づきパーキングスイッチ71の操作によらずに作動する機能、例えば、停車状態が一定時間続いたときにキャリパ4を作動させて車両の停止状態を維持する機能や液圧制御装置の故障時に断続的にモータ38を正逆回転させて間欠的な制動を行ってABSの代用とする機能を有している。
【0035】
ここで、本実施形態に示すような電動モータを有する駐車ブレーキ機構付ディスクブレーキにおいては、ディスクブレーキの小型化を図るために、なるべく小型の電動モータを使用する傾向にある。小型の電動モータでは、その回転力も小さくなってしまうため、減速機構により電動モータの回転力を大きな減速比で増力する必要がある。そして、大きな減速比の減速機構を構成するために、減速機、例えば、ギヤ等を多段で用いることになる。このように減速機を多段にした場合には、多段にした分だけ、回転ロス、いわゆる「ガタ」が増加してしまい、駐車ブレーキ機構付ディスクブレーキの作動時及び解除時の応答性が悪くなってしまう。このような課題に鑑みて、本実施形態に係るディスクブレーキ1のECU70は、ピストン推進機構34によってピストン12を推進させると共に制動位置で保持した状態で、モータ38をピストン12が推進する方向とは逆方向に駆動させて平歯多段減速機構37及び遊星歯車減速機構36のガタを解消するように制御する。また、本実施形態に係るディスクブレーキ1において、モータ38をピストン12が推進する方向とは逆方向に駆動させるときに、ガタを解消する以上に駆動させてしまうと、ピストン12が制動位置から後退してしまい、ピストン12の保持力が低下し、停車中の車両が動いてしまう可能性がある。そこで、本実施形態に係るディスクブレーキ1のECU70は、ガタを解消する分だけモータ38をピストン12が推進する方向とは逆方向に駆動するようにしている。これらECU70の制御内容については、第1〜5の制御形態として以下で説明する。
【0036】
次に、本実施形態に係るディスクブレーキ1の作用を説明する。
まず、ブレーキペダルの操作による通常の液圧ブレーキとしてのディスクブレーキ1の制動時における作用を説明する。運転者によりブレーキペダルが踏み込まれると、ブレーキペダルの踏力に応じた液圧がマスタシリンダから液圧回路(ともに図示しない)を経てキャリパ4内の液圧室13に供給される。これにより、ピストン12がピストンシール11を撓ませながら非制動時の原位置から前進(図1の左方向に移動)してインナブレーキパッド2をディスクロータ150に押し付ける。そしてキャリパ本体6は、ピストン12の押付力の反力によりキャリア5に対して図1における右方向に移動して、爪部8によりアウタブレーキパッド3をディスクロータ150に押し付ける。この結果、ディスクロータ150が一対のインナ及びアウタブレーキパッド2、3により挟みつけられて車両の制動力が発生することになる。
【0037】
そして、運転者がブレーキペダルを解放すると、マスタシリンダからの液圧の供給が途絶えて液圧室13内の液圧が低下する。これにより、ピストン12は、ピストンシール11の弾性によって原位置まで後退して制動力が解除される。ちなみに、インナ及びアウタブレーキパッド2、3の摩耗に伴いピストン12の移動量が増大してピストンシール11の弾性変形量を越えると、ピストン12とピストンシール11との間に滑りが生じた状態でピストン12が前進する。これによってキャリパ本体6に対するピストン12の原位置が移動することになり、インナ及びアウタブレーキパッド2、3が摩耗したとしても、パッドクリアランスが一定に調整されるようになっている。
【0038】
次に、車両の停止状態を維持するための作用の一例である、駐車ブレーキとしての作用を説明する。図1は、ブレーキペダルが操作されておらず、かつ、駐車ブレーキが解除されている状態を示している。この状態から駐車ブレーキを作動させるべく、パーキングスイッチ71が操作されると、ECU70によってモータ38が駆動して、平歯多段減速機構37を介して遊星歯車減速機構36のサンギヤ44Bが回転する。このサンギヤ44Bの回転により、各プラネタリギヤ45を介してキャリア48が回転する。キャリア48の回転力は、回転ランプ29に伝達される。
【0039】
ここで、ボールアンドランプ機構28の回転直動ランプ31には、プッシュロッド53を介してコイルばね27の付勢力が作用している。このため、回転直動ランプ31が、キャリパ本体6に対して前進(図2中左方向へ移動)するためには、ある一定以上の推力、ひいては回転トルクT1が必要となっている。これに対して、一対のインナ及びアウタブレーキパッド2、3とディスクロータ150とが当接しておらず、ピストン12からディスクロータ150への押付力が発生していない状態では、プッシュロッド53を回転させるための必要回転トルクT2が、回転直動ランプ31を前進させるための必要回転トルクT1よりも十分小さくなっている。また、駐車ブレーキを作動させる時には、スプリングクラッチ65による回転抵抗トルクT3も付与されない。
【0040】
このため、キャリア48から回転ランプ29への回転力の伝達初期においては、回転直動ランプ31が前進しないので、回転ランプ29と回転直動ランプ31とが共回りし始める。その回転力は、機械損失分を除いた殆どが回転直動ランプ31の雄ねじ部31Cとベースナット33の雌ねじ部33Cとの螺合部からリテーナ26及びプッシュロッド53を介してねじ機構52に伝達されて、ねじ機構52が作動することになる。すなわち、キャリア48は、その回転力により回転ランプ29、回転直動ランプ31、ベースナット33、リテーナ26及びプッシュロッド53を共に一体となって回転させる。このプッシュロッド53の回転によりナット55が前進(図1中左方向へ移動)して、ナット55のフランジ部54の傾斜面54Bがピストン12の傾斜面12Dに当接して、該傾斜面12Dを押圧することでピストン12が前進することになる。
【0041】
モータ38がさらに駆動されて、ねじ機構52の伸長作動によりピストン12によるディスクロータ150への押付力が発生し始めると、今度は、その押付力に伴う軸力によってプッシュロッド53の雄ねじ部53Cとナット55の雌ねじ部55Cとの螺合部で発生する回転抵抗が増大して、ナット55を前進させるための必要回転トルクT2が増大していく。そして、必要回転トルクT2が、ボールアンドランプ機構28を作動、すなわち回転直動ランプ31を前進させるための必要回転トルクT1よりも大きくなる。この結果、プッシュロッド53の回転が停止して、プッシュロッド53と相対的な回転が規制されるリテーナ26を介してベースナット33の回転が停止する。すると今度は、回転直動ランプ31が回転しながら軸方向に前進することで、ねじ機構52、すなわちプッシュロッド53及びナット55を介してピストン12が前進し、ピストン12のディスクロータ150への押付力が増大する。このとき、回転直動ランプ31には、回転ランプ29からの回転トルクの付与により、ボール溝31Dで発生する推力と、ベースナット33との螺合によって発生する推力の合計が付与される。本実施形態では、最初に、ねじ機構52が作動することによりナット55が前進することでピストン12を前進させてディスクロータ150への押付力を得るので、ねじ機構52の作動により一対のインナ及びアウタブレーキパッド2、3の経時的な摩耗を補償することができる。
【0042】
そして、ECU70は、一対のインナ及びアウタブレーキパッド2、3からディスクロータ150への押付力が所定値に到達するまで、例えば、モータ38の電流値が所定値以上に到達すると共に所定時間経過するまでモータ38を駆動する。その後、ECU70はモータ38への通電を停止する。すると、ボールアンドランプ機構28は、回転ランプ29の回転が停止するので、各ボール溝29D、31D間のボール32の転動作用による回転直動ランプ31への推力付与がなくなる。回転直動ランプ31には、ディスクロータ150への押付力の反力がピストン12及びねじ機構52を介して作用するが、回転直動ランプ31はベースナット33との間で逆作動しない雄ねじ部31C及び雌ねじ部33Cで螺合されているので、回転直動ランプ31は回転せずに停止状態が維持される。これにより、ピストン12の制動位置での保持、すなわち、制動力の保持がなされて駐車ブレーキの作動が完了する。
【0043】
次に、駐車ブレーキを作動させる場合のECU70による制御形態を詳細に説明する。以下においては、駐車ブレーキをかける、すなわちブレーキパッドに所定の押圧力を付与して、そのときのピストン位置を保持するための動作をアプライと称し、駐車ブレーキを解除するための動作をリリースと称する。まず、ECU70による第1の制御形態のフローチャートを図2に基づいて説明する。
ステップS1では、パーキングスイッチ71が操作されて駐車ブレーキを作動させようとしているか否か、パーキングスイッチ71によりアプライ指示があるか否かが判定される。そして、アプライ指示がある場合にはステップS2に進み、一方、アプライ指示がない場合には、再びステップS1に戻る。次に、ステップS2では、ECU70は、ピストン12が推進する方向へモータ38を駆動する。次に、ステップS3では、ピストン12が制動位置に到達したか否かを判定するため、モータ38の電流値が所定値以上に到達し、且つ所定時間が経過したか否かを判定する。そして、このステップS3の条件が成立した場合にはステップS4に進み、一方、ステップS3の条件が不成立の場合にはステップS2とステップS3との間に戻り、ステップS3の条件判断を継続して行う。次に、ステップS4ではモータ38への通電を停止する。これにより、ピストン保持機能を含むピストン推進機構34の作動が完了して、ピストン12を制動位置に保持する。次に、ステップS5では、モータ38をピストン12が推進する方向とは逆方向に駆動させる。次に、ステップS6では、タイマカウンタをカウントアップする。次に、ステップS7では、タイマカウンタによりカウントアップ開始、すなわち、ピストン12を制動位置に保持してから所定時間T1を経過したか否かを判定する。そして、所定時間T1を経過した場合にはステップS8に進み、一方、所定時間T1を経過しない場合にはステップS5とステップS6との間に戻って所定時間T1を経過したか否かの判定を継続する。ここで、所定時間T1は、駐車ブレーキ解除時における平歯多段減速機構37及び遊星歯車減速機構36のガタを吸収できる時間を予め試験等、例えば、製品出荷前等の試験により算出しておき、ECU70の記憶領域に格納しておくものとなっている。次に、ステップS8では、モータ38への通電を停止する。次に、ステップS9では、タイマカウンタをクリアする。
【0044】
また、第1の制御形態におけるタイムチャートを図3に基づいて説明する。ここではタイムチャートに示した時間軸(1)〜(6)を基にディスクブレーキ1の動作を上記図2のフローチャートの各ステップと対応付けて説明する。
【0045】
時間軸(1)では、パーキングスイッチ71によるアプライ指示はされておらず、モータ38は停止しており、モータ38の電流値及びモータ38の位置は共に0となる。時間軸(2)にてパーキングスイッチ71によるアプライ指示がなされ、ECU70内のパーキングスイッチフラグがアプライ側となる(ステップS1が成立する)と、ECU70は、モータ38をピストン12が推進する方向に始動する(ステップS2)。このとき、モータ38には、停止状態から駆動状態に移行するため一旦、大きな起動電流が発生した後、時間軸(2)〜(3)にかけて、モータ38は駆動状態となり、モータ38の電流値は次第に低下する。その後、モータ38の駆動によってピストン12の推力が増加してブレーキパッド2、3がディスクロータ150に押圧されると、時間軸(3)〜(4)の間で、モータ38の電流値が次第に上昇する。そして、この時間軸(3)〜(4)の間で、モータ38の電流値が所定値以上に到達し、且つ所定時間が経過した否かが判定され(ステップS3)、成立した場合には時間軸(4)の時点でモータ38への通電を停止してアプライ完了となる(ステップS4)。
【0046】
その後、時間軸(5)〜(6)では、リリース時の応答性を向上させるため、モータ38をピストン12が推進する方向とは逆方向に所定時間駆動させて、平歯多段減速機構37及び遊星歯車減速機構36のガタを戻す(吸収する)ようにする。すなわち、時間軸(5)では、モータ38をピストン12が推進する方向とは逆方向に駆動させる(ステップS5)ため、モータ38に起動電流が発生する。その後時間軸(6)に至るまでモータ38が駆動状態となり、その電流値は次第に低下するようになる。モータ38をピストン12が推進する方向とは逆方向に所定時間T1(時間軸(5)〜(6)に至る時間)駆動させる(ステップS6〜S8)ことで、平歯多段減速機構37及び遊星歯車減速機構36のガタ(リリース時)を予め吸収しておく。その結果、リリース時にモータ38をピストン12が推進する方向とは逆方向に駆動する際にそのリリース動作を速やかに完了することができ、応答性を向上させることができる。
【0047】
ところで、図3の破線は、従来の、平歯多段減速機構37及び遊星歯車減速機構36のガタを予め吸収していない場合の推力の推移を示しているが、これからも解るように、ガタの戻し分だけリリース時のモータ38の駆動時間が延びてしまいリリース時の応答性が劣るようになる。なお、時間軸(5)〜(6)に至る所定時間T1は、上述したように予め実験や検査結果等により設定される。上述のように、本制御形態においては、平歯多段減速機構37及び遊星歯車減速機構36のガタを吸収できる所定時間T1だけモータ38をピストン12が推進する方向とは逆方向に駆動させて平歯多段減速機構37及び遊星歯車減速機構36のガタを解消するようにしている。したがって、駐車ブレーキ解除時におけるディスクブレーキの応答性を良好なものとすることができる。
【0048】
次に、ECU70による第2の制御形態のフローチャートを図4に基づいて説明する。なお、ステップS1〜S5は第1の制御形態と同一であるためにここでの説明を省略する。図4のステップS5にてモータ38をピストン12が推進する方向とは逆方向に駆動させた後、ステップS11では、モータ38の電流値が所定値(X1)以上に到達したか否かを判定する。すなわち、ステップS5にてモータ38をピストン12が推進する方向とは逆方向に駆動させた直後、モータ38には、停止状態から駆動状態に移行するため一旦、大きな起動電流が発生する。この電流値が所定値(X1)以上に到達したか否かを判定する。そして、このステップS11の条件が成立した場合には、ステップS12に進み、一方、ステップS11の条件が不成立の場合には、ステップS5とステップS11との間に戻り、ステップS11の条件判断を継続して行う。
【0049】
次に、ステップS12では、モータ38の電流値が所定値(X2)以下となったか否かを判定する。そして、このステップS12の条件が成立した場合には、ステップS13に進んでモータ38の電流値が所定値(X2)以下となってからの経過時間を測定するため、タイマカウンタをカウントアップする。一方、ステップS12の条件が不成立の場合には、ステップS12の条件判断を継続して行う。次に、ステップS14では、モータ38の電流値が所定値(X2)以下となってから所定時間T2が経過したか否かを判定する。所定時間T2が経過していない場合には、ステップS12とステップS13との間に戻り、ステップS13でタイマカウンタをカウントアップして再度ステップS14の条件判断を継続して行う。次に、ステップS14で所定時間T2が経過した場合には、ステップ15でモータ38への通電を停止する。次に、ステップS16では、タイマカウンタをクリアする。
【0050】
ここで、ステップS11において、モータ38の電流値が所定値(X1)以上に到達したか否かを判定するのは、ステップS5でモータ38をピストン12が推進する方向と逆方向に駆動させた後すぐにステップS12のモータ38の電流値が所定値(X2)以下となったか否かを判定し始めると、上昇中の電流値を誤判定してしまう可能性があるため、この誤判定を抑制するために行う処理となっている。なお、ステップS11、S12及びS14にて使用する条件判断値は、予め実験結果や検査結果等により設定しておき、ECU70の記憶領域に格納しておく。
【0051】
また、ECU70による第2の制御形態におけるタイムチャートを図5に基づいて説明する。ここではタイムチャートに示した時間軸(1)〜(6)を基にディスクブレーキ1の動作を上記図4のフローチャートの各ステップと対応付けて説明する。なお、時間軸(1)〜(4)におけるディスクブレーキ1の動作は第1の制御形態と同じであるため、時間軸(5)〜(6)のディスクブレーキ1の動作を説明する。
【0052】
時間軸(5)〜(6)においては、第1の制御形態と同様に、モータ38をピストン12が推進する方向とは逆方向に駆動させて、平歯多段減速機構37及び遊星歯車減速機構36のガタを戻すようになる。すなわち、時間軸(5)では、モータ38をピストン12が推進する方向とは逆方向に駆動させる(ステップS5)ために、モータ38に起動電流が発生してその電流値が所定値(X1)以上に到達(ステップS11)した後電流値は次第に低下する。そして、モータ38の電流値が所定値(X2)以下となってから所定時間T2が経過した時間軸(6)の時点でモータ38への通電を停止する。(ステップS12〜S15)。
【0053】
このように、ステップS11、S12でモータ38をピストン12が推進する方向とは逆方向に駆動し始めたことをモータ電流値で検出した後に、平歯多段減速機構37及び遊星歯車減速機構36のガタを吸収できる所定時間T2だけモータ38をピストン12が推進する方向とは逆方向に駆動させて平歯多段減速機構37及び遊星歯車減速機構36のガタを解消するようにしている。したがって、駐車ブレーキ解除時におけるディスクブレーキの応答性を良好なものとすることができる。
【0054】
次に、ECU70による第3の制御形態のフローチャートを図6に基づいて説明する。なお、ステップS1〜S5及びS11、S12は第2の制御形態と同一であるためにここでの説明を省略する。ステップS12にてモータ38の電流値が所定値(X2)以下に到達した後ステップS21に進む。該ステップS21では、モータ38の電流値が所定値(X3)以上に到達したか否かを判定する。ここで、モータ38をピストン12が推進する方向と逆方向に駆動させて平歯多段減速機構37及び遊星歯車減速機構36のガタが解消されたときに、平歯多段減速機構37及び遊星歯車減速機構36を回動させようとする負荷抵抗がモータ38にかかって電流値が上昇し始めることになる。この電流値の上昇を検出することで上記ガタの解消を判定できるため、ステップS21が行われる。そして、電流値が所定値(X3)以上に到達した場合には、ステップS22に進んで、モータ38への通電を停止する。一方、電流値が所定値(X3)以上に到達していない場合には、ステップS13とステップS21との間に戻ってステップS21の条件判断を継続して行う。次に、ステップS23では、タイマカウンタをクリアする。なお、ステップS21にて使用する条件判断値である電流値の所定値X1,X2,X3は、予め実験結果や検査結果等により設定しておき、ECU70の記憶領域に格納しておく。
【0055】
また、ECU70による第3の制御形態におけるタイムチャートを図7に基づいて説明する。ここではタイムチャートに示した時間軸(1)〜(6)を基にディスクブレーキ1の動作を上記図6のフローチャートの各ステップと対応付けて説明する。なお、時間軸(1)〜(4)におけるディスクブレーキ1の動作は第1の制御形態と同じであるため、時間軸(5)〜(6)のディスクブレーキ1の動作を説明する。
【0056】
時間軸(5)〜(6)に至っては、第1及び第2の制御形態と同様に、モータ38をピストン12が推進する方向とは逆方向に駆動させて、平歯多段減速機構37及び遊星歯車減速機構36のガタを解消するようにする。すなわち、時間軸(5)では、モータ38をピストン12が推進する方向とは逆方向に駆動させる(ステップS5)ために、モータ38に起動電流が発生してその電流値が所定値(X1)以上に到達(ステップS11)した後電流値は次第に低下して所定値(X2)を経由(ステップS12)した後、平歯多段減速機構37及び遊星歯車減速機構36のガタが解消されてモータ38に負荷抵抗が加えられると、次第に上昇するように推移する。そして、モータ38の電流値が所定値(X3)以上に到達した時間軸(6)の時点にてモータ38への通電を停止する(ステップS21及びS22)。
【0057】
このように、この第3の制御形態では、駐車ブレーキ解除時における平歯多段減速機構37及び遊星歯車減速機構36のガタを吸収して平歯多段減速機構37及び遊星歯車減速機構36がピストン12の推進する方向とは逆方向に回転する瞬間にモータ38への通電を停止するので、確実に平歯多段減速機構37及び遊星歯車減速機構36のガタを解消することができ、上記ガタの解消を予想した所定時間T1,T2を用いた第1,2の制御形態よりもリリース時の応答性を向上させることができる。
【0058】
次に、ECU70による第4の制御形態のフローチャートを図8に基づいて説明する。なお、ステップS1〜S5は第1の制御形態と同一であるためにここでの説明を省略する。また、本第4の制御形態は、第2の制御形態においてモータ38の電流値の所定値(X2)によってモータ38の駆動を検出した点を、モータ38の電流微分値の絶対値における所定値(ΔX1)で検出するものとなっている。
【0059】
ステップS5にてモータ38をピストン12が推進する方向とは逆方向に駆動させた後、ステップS31では、モータ38の電流微分値(絶対値)が所定値(ΔX1)以下となっているかを判定する。モータ38の電流微分値(絶対値)が所定値(ΔX1)以下となっている場合にはステップS32でタイマカウンタをカウントアップする。次に、ステップS33で、モータ38の電流微分値(絶対値)が所定値(ΔX1)以下となっている状態が所定時間T3経過したか否かを判定する。そして、ステップS33の条件が成立した場合にはステップS34に進んで、ステップS34でモータ38への通電を停止した後、ステップS35で、タイマカウンタをクリアする。一方、ステップS31の条件が不成立の場合にはステップS5とステップS31との間に戻ってステップS31の条件判断を継続して行う。また、ステップS33の条件が不成立の場合にはステップS31とステップS32との間に戻り、ステップS32でタイマカウンタをカウントアップして再度ステップS33の条件判断を継続して行う。なお、ステップS31、S33にて使用する条件判断値は、予め実験結果や検査結果等により設定しておき、ECU70の記憶領域に格納しておく。
【0060】
また、ECU70による第4の制御形態におけるタイムチャートを図9に基づいて説明する。ここではタイムチャートに示した時間軸(1)〜(6)を基にディスクブレーキ1の動作を上記図8のフローチャートの各ステップと対応付けて説明する。なお、時間軸(1)〜(4)におけるディスクブレーキ1の動作は第1の制御形態と同じであるため、時間軸(5)〜(6)のディスクブレーキ1の動作を説明する。
【0061】
時間軸(5)〜(6)においては、第1〜第3の制御形態と同様に、モータ38をピストン12が推進する方向とは逆方向に駆動させて、平歯多段減速機構37及び遊星歯車減速機構36のガタを戻すようにする。すなわち、時間軸(5)では、モータ38をピストン12が推進する方向とは逆方向に駆動させる(ステップS5)ために、モータ38に起動電流が発生するが、その後電流値は次第に低下する。そして、モータ38の電流微分値(絶対値)が所定値(ΔX1)以下の状態が所定時間T3だけ継続した時間軸(6)の時点でモータ38への通電を停止する。(ステップS31〜S34)。ここで、所定時間T3は、時間軸(6)近傍のモータ38の電流微分値(絶対値)の状態を検出するために設定されている。すなわち、単にモータ38の電流微分値(絶対値)が所定値(ΔX1)以下となったか否かだけを判定した場合には、上述した時間軸(5)近傍での起動電流が発生後の電流値の低下のときに、モータ38の電流微分値(絶対値)が所定値(ΔX1)以下となるので、ここでの誤検出を抑制するために所定時間T3の経過を判定するステップS33が設定されている。
【0062】
このように、ステップS31、S33でモータ38をピストン12が推進する方向とは逆方向に、ある程度回転していることをモータの電流微分値で検出した後に、平歯多段減速機構37及び遊星歯車減速機構36のガタを吸収できる所定時間T3だけモータ38をピストン12が推進する方向とは逆方向に駆動させて平歯多段減速機構37及び遊星歯車減速機構36のガタを解消するようにしている。したがって、駐車ブレーキ解除時におけるディスクブレーキの応答性を良好なものとすることができる。
【0063】
次に、ECU70による第5の制御形態のフローチャートを図10に基づいて説明する。なお、ステップS1〜S5及びS11,S12は第2の制御形態と同一であるためにここでの説明を省略する。また、本第5の制御形態は、第3の制御形態においてモータ38の電流値の所定値(X3)によって、平歯多段減速機構37及び遊星歯車減速機構36のガタが解消されてモータ38に負荷抵抗が加えられたことを検出した点を、モータ38の電流微分値の絶対値における所定値(ΔX2)で検出するものとなっている。
ステップS12にてモータ38の電流値が所定値(X2)以下に到達し、且つ所定時間が経過した後ステップS41に進む。該ステップS41ではモータ38の電流微分値が所定値(ΔX2)以上に到達したか否かを判定する。そして、このステップ41の条件判断が成立した場合には、ステップS42に進み、一方、ステップS41の条件判断が不成立の場合には、ステップS13とステップS41との間に戻ってステップS41の条件判断を継続して行う。次に、ステップS42では、モータ38への通電を停止する。次に、ステップS43では、タイマカウンタをクリアする。なお、ステップS41にて使用する条件判断値は、予め実験結果や検査結果等により設定しておき、ECU70の記憶領域に格納しておく。
【0064】
また、第5の制御形態におけるタイムチャートを図11に基づいて説明する。ここではタイムチャートに示した時間軸(1)〜(6)を基にディスクブレーキ1の動作を上記図10のフローチャートの各ステップと対応付けて説明する。なお、時間軸(1)〜(4)におけるディスクブレーキ1の動作は第1の制御形態と同じであるため、時間軸(5)〜(6)のディスクブレーキ1の動作を説明する。
【0065】
時間軸(5)〜(6)においては、第1〜第4の制御形態と同様に、モータ38をピストン12が推進する方向とは逆方向に駆動させて、平歯多段減速機構37及び遊星歯車減速機構36のガタを戻すようにする。すなわち、時間軸(5)では、モータ38をピストン12が推進する方向とは逆方向に駆動させる(ステップS5)ために、モータ38に起動電流が発生してその電流値が所定値(X1)以上に到達(ステップS11)した後電流値は次第に低下して所定値(X2)を経由(ステップS12)した後、平歯多段減速機構37及び遊星歯車減速機構36のガタが解消されてモータ38に負荷抵抗が加えられると、次第に上昇するように推移する。そして、その電流微分値が所定値(ΔX2)以上に到達した時間軸(6)の時点でモータ38への通電を停止する(ステップS41及びS42)。ここで、ステップS11、S12の処理は、時間軸(6)近傍のモータ38の電流微分値(絶対値)の状態を検出するために設定されている。すなわち、単にモータ38の電流微分値(絶対値)が所定値(ΔX2)以上となったか否かだけを判定した場合には、上述した時間軸(5)近傍での起動電流が発生後の電流値の低下のときに、モータ38の電流微分値(絶対値)が所定値(ΔX2)以上となるので、ここでの誤検出を抑制するためにモータ起動時の電流微分値の変化をマスクするステップS11、12の処理が設定されている。
このように、この第5の制御形態においても、第3の制御形態と同様に、駐車ブレーキ解除時における平歯多段減速機構37及び遊星歯車減速機構36のガタを吸収して平歯多段減速機構37及び遊星歯車減速機構36がピストン12の推進する方向とは逆方向に回転する瞬間にモータ38への通電を停止するので、確実に平歯多段減速機構37及び遊星歯車減速機構36のガタを解消することができ、上記ガタの解消を予想した所定時間T1,T2,T3を用いた第1、第2、及び第4の制御形態よりもリリース時の応答性を向上させることができる。
【0066】
上記第1〜4の制御形態によるアプライ完了後、駐車ブレーキを解除する際には、パーキングスイッチ71のパーキング解除操作に基づいて、ECU70によってモータ38を駐車ブレーキの作動時と逆方向に駆動させてピストン12を戻す、すなわちピストン12をディスクロータ150から離間させることになる回転方向に駆動させる。このモータ38の駆動により、平歯多段減速機構37及び遊星歯車減速機構36がピストン12を戻す方向へ作動する。すると、ボールアンドランプ機構28が初期位置に戻り、駐車ブレーキの解除が完了する。なお、ECU70は、ピストン12からナット55が適度に離間した位置でモータ38を停止させるように制御する。
【0067】
なお、駐車ブレーキを解除する際のタイムチャートを説明すると、図3、図5、図7、図9及び図11のタイムチャートの時間軸(7)〜(9)に示すように、時間軸(7)にて、モータ38をピストン12が推進する方向とは逆方向に駆動させる。それによりモータ38には起動電流が発生する。その後、アプライ時と同様にモータ38は無負荷回転して、モータ38の電流値は次第に低下する。そして、時間軸(8)にて、モータ38の電流値が一定値となり、ピストン12の推力が解除されたと判断される。その後、時間軸(8)〜(9)にかけてパッドクリアランスを確保し、所定のパッドクリアランスを確保した後、時間軸(9)にて、モータ38への通電を停止して、リリースが完了となる。
【0068】
以上説明したように、本実施形態に係るディスクブレーキ1では、上述したECU70による第1〜第5の制御形態のいずれかを採用することにより、つまり、ECU70では、ピストン推進機構34によってピストン12を推進させその制動位置にて保持した状態で、モータ38をピストン12が推進する方向とは逆方向に駆動させて平歯多段減速機構37及び遊星歯車減速機構36のガタを解消する制御を行うので、車両の停止状態からその状態を解除する際(リリース時)の応答性を向上させることができる。
【0069】
なお、本実施形態では、車両の停止状態を維持するための作用の一例である、駐車ブレーキを例に、ECU70によるモータ38への制御形態を説明したが、駐車ブレーキ以外の場合、例えば、坂道での車両の発進を補助するためのヒルスタートアシストやヒルダウンアシスト、アクセルオフで停車状態にあるときのオートストップ時等の場合にECU70によるモータ38への制御形態を採用してもよい。
【符号の説明】
【0070】
1 ディスクブレーキ,2 インナブレーキパッド,3 アウタブレーキパッド,4 キャリパ,6 キャリパ本体,7 シリンダ部,10 シリンダ,12 ピストン,34 ピストン推進機構(ピストン保持機構も兼ねる),36 遊星歯車減速機構,37 平歯多段減速機構,38 モータ(電動モータ),150 ディスクロータ(ロータ),70 ECU(制御手段)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータの両面に配置される一対のブレーキパッドを液圧シリンダ内に設けられたピストンにより押圧するキャリパと、
該キャリパに設けられた電動モータの回転が減速機構を介して伝達され、前記ピストンを推進するピストン推進機構と、
該ピストン推進機構により推進したピストンを保持するピストン保持機構と、
前記電動モータの駆動を制御する制御手段と、を備えたディスクブレーキにおいて、
前記制御手段は、前記ピストン推進機構によって推進したピストンを前記ピストン保持機構によって保持した状態で、前記電動モータをピストンが推進する方向とは逆方向に駆動させて前記減速機構のガタを解消することを特徴とするディスクブレーキ。
【請求項2】
前記制御手段は、前記減速機構のガタを解消する所定時間だけ前記電動モータを、前記ピストンが推進する方向とは逆方向に駆動させることを特徴とする請求項1に記載のディスクブレーキ。
【請求項3】
前記制御手段は、前記所定時間を前記電動モータの電流値に基づいて変化させることを特徴とする請求項2に記載のディスクブレーキ。
【請求項4】
前記制御手段は、所定の電流値に増加するまで前記電動モータをピストンが推進する方向とは逆方向に駆動させることを特徴とする請求項1に記載のディスクブレーキ。
【請求項1】
ロータの両面に配置される一対のブレーキパッドを液圧シリンダ内に設けられたピストンにより押圧するキャリパと、
該キャリパに設けられた電動モータの回転が減速機構を介して伝達され、前記ピストンを推進するピストン推進機構と、
該ピストン推進機構により推進したピストンを保持するピストン保持機構と、
前記電動モータの駆動を制御する制御手段と、を備えたディスクブレーキにおいて、
前記制御手段は、前記ピストン推進機構によって推進したピストンを前記ピストン保持機構によって保持した状態で、前記電動モータをピストンが推進する方向とは逆方向に駆動させて前記減速機構のガタを解消することを特徴とするディスクブレーキ。
【請求項2】
前記制御手段は、前記減速機構のガタを解消する所定時間だけ前記電動モータを、前記ピストンが推進する方向とは逆方向に駆動させることを特徴とする請求項1に記載のディスクブレーキ。
【請求項3】
前記制御手段は、前記所定時間を前記電動モータの電流値に基づいて変化させることを特徴とする請求項2に記載のディスクブレーキ。
【請求項4】
前記制御手段は、所定の電流値に増加するまで前記電動モータをピストンが推進する方向とは逆方向に駆動させることを特徴とする請求項1に記載のディスクブレーキ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−112167(P2013−112167A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−260244(P2011−260244)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】
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