説明

パッド装着機構

【課題】 外部障害物等による部品の損傷の虞れもなく、部品点数も少なく簡素な構造のパッド装着機構を提供することを目的とする。
【解決手段】 パッドホルダ4の蟻溝11に軸方向にスライドさせて装着したパッド部材19におけるアンカープレート6を、軸方向に直交する方向に付勢する付勢部材20を前記パッドホルダ4に設置したことにより、付勢部材20の付勢によって、パッド部材19におけるアンカープレート6が、スライド装着時に使用された蟻溝11の傾斜面(B面)に押し付けられて効果的にパッドホルダ4側すなわち枕木方向に移動するので、パッド部材19全体がパッドホルダ4側に押し付けられ、パッドホルダ4とパッド部材19との組付け誤差等に起因するガタが簡素な構造の機構によって効果的に吸収される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキアームの下端部に軸着したパッドホルダにパッド部材を装着するパッド装着機構に関する。
【背景技術】
【0002】
車両において使用されるディスクブレーキ装置にあって、特に鉄道車両用のディスクブレーキでは、ブレーキが取り付けられるばね上とディスクロータが取り付けられるばね下との相対移動が大きいことから、これに対応できる機構として一般的には大きな相対移動に容易に適応できるリンクの連結による梃子式のキャリパブレーキが知られている。このような梃子式のキャリパブレーキにおいては、ブレーキアームの下端部に軸着したパッドホルダにパッド部材を装着する必要があり、一般的にパッド部材をパッドホルダに装着する際には、パッド部材を支えながら固定部材であるアンカーブロックを装着し、その後、アンカーブロックが外れたりパッド部材が落下しないように、アンカーブロックを押さえながらアンカーボルトを締結していた。
【0003】
しかしながら、重量の大きい鉄道車両用のディスクブレーキでは、アンカーブロックを押さえながらのアンカーボルトの脱着や、パッド部材を支えながらのアンカーブロックの脱着は、面倒な同時作業を伴い、連結車両全体におけるパッド部材の交換作業は、より困難で所要時間も膨大となり、作業者には大変な負担となっていた。そのようなことから、パッドホルダにパッド部材をスライドさせて装着した後、押込みピンとスペーサを用いて簡便にパッド部材をパッドホルダに固定するようにしたものが提案されている。そして、そのようなパッドホルダにパッド部材をスライドさせて装着するものでは、パッドホルダに対するパッド部材の組付け誤差等に起因するガタを吸収するための機構が提案されている(例えば下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−2853号公報(段落0024〜0027等参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献1に開示されたディスクブレーキのパッド保持装置を図4を用いて簡単に説明すると、図4(A)(C)に示すように、パッドホルダ102に蟻溝102aと蟻キー130aによってスライドさせて取り付けられたパッド130の一端側(図4(A)の図面下方)が、軸113を中心にUばね125によってパッド130側に揺動付勢された落下防止部材120により規制されて脱落スライドが防止され、図4(D)に示すように、パッド130の他端側が、スリット107から蟻溝側に突出するガタ付き防止ばね109によって弾力的に抑止されてパッド130のスライド方向の脱落およびガタが吸収されるとともに、さらに、図4(A)に示すように、前記軸113を揺動中心とするアーム115a、115aの各先端に設置されたマグネット115、115が、パッドホルダ102における通孔116、116を通過してパッド130の裏面に吸着されて、パッド130の枕木方向(図4(C)の上下方向)のガタが吸収されるように構成されている。
【0006】
これらの構成により、スライド方式によるパッドのパッドホルダへの装着後のスライド方向および枕木方向のガタを効果的に吸収できるものとなった。しかしながら、前記従来のパッド保持装置では、特にパッドの枕木方向のガタの吸収のために軸113やアーム115aさらにはマグネット115等多数の外部に露出する部品を要するため、機構が複雑な上に、走行中には外部からの障害物等によりそれらの部品が損傷する危険に絶えずさらされていた。
【0007】
そこで本発明は、前記従来の鉄道等のキャリパ型の車両用ディスクブレーキ装置のパッド装着機構の諸課題を解決して、外部障害物等による部品の損傷の虞れもなく、部品点数も少なく簡素な構造のパッド装着機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このため本発明は、ブレーキアームの下端部に軸着したパッドホルダにパッド部材を装着するパッド装着機構において、前記パッドホルダの蟻溝に軸方向にスライドさせて装着したパッド部材におけるアンカープレートを、軸方向に直交する方向に付勢する付勢部材を前記パッドホルダに設置したことを特徴とする。また本発明は、前記付勢部材は、スプリングを介設したストッパボルトと位置決めピンとから構成されたことを特徴とする。また本発明は、前記位置決めピンに対応するアンカープレートの縁部には位置決め用凹部が刻設されたことを特徴とするもので、これらを課題解決のための手段とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ブレーキアームの下端部に軸着したパッドホルダにパッド部材を装着するパッド装着機構において、前記パッドホルダの蟻溝に軸方向にスライドさせて装着したパッド部材におけるアンカープレートを、軸方向に直交する方向に付勢する付勢部材を前記パッドホルダに設置したことにより、付勢部材の付勢によって、パッド部材におけるアンカープレートが、スライド装着時に使用された蟻溝の傾斜面に押し付けられて効果的にパッドホルダ側すなわち枕木方向に移動するので、パッド部材全体がパッドホルダ側に押し付けられ、パッドホルダとパッド部材との組付け誤差等に起因するガタが簡素な構造の機構によって効果的に吸収される。
【0010】
また、前記付勢部材は、スプリングを介設したストッパボルトと位置決めピンとから構成された場合は、ストッパボルトにより適正に調整されたスプリングによる所定の与圧によって安定した付勢力でパッド部材をパッドホルダに押し付けることが可能となる。さらに、前記位置決めピンに対応するアンカープレートの縁部には位置決め用凹部が刻設された場合は、パッドホルダへのパッド部材のスライド装着時にパッド部材を適正な位置に迅速にセットすることを可能にして装着作業を格段に向上させる上、スライド方向への脱落抑制機能も生じさせ、しかも、アンカーブロックの位置決め機能も有することになる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明のパッド装着機構における要部の縦断面図および横断面図である。
【図2】同、図1(B)の要部拡大図である。
【図3】同、本発明のパッド装着機構が採用されたディスクブレーキにおける全体の正面図、側面図および平面図である。
【図4】従来のディスクブレーキのパッド保持装置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係るパッド装着機構を実施するための好適な1つの形態を図面に基づいて説明する。本発明のパッド装着機構の基本的な構成は、図1に示すように、ブレーキアームの下端部に軸着したパッドホルダ4にパッド部材19を装着するパッド装着機構において、前記パッドホルダ4の蟻溝11に軸方向にスライドさせて装着したパッド部材19におけるアンカープレート6を、軸方向に直交する方向に付勢する付勢部材20を前記パッドホルダ4に設置したことを特徴とする。
【実施例1】
【0013】
本実施例のパッド装着機構は以下のように構成されている。図3(A)〜(C)に示すように、サポート1により台車の一部等に支持されるハウジングボディ2の両側下部のアームシャフト16、16にて中間部がそれぞれ軸支された一対のブレーキアーム3、3が、詳述しないアクチュエータ等の動力源によってカム機構や自動隙間調整機構およびロッド部材17、17を介して上端部が拡開押圧される。ブレーキアーム3、3の下端部にはそれぞれパッドホルダ4、4がそれぞれパッドホルダ軸18、18により首振り自在に軸着される。パッドホルダ4、4にはディスクロータ(図示省略)側に向けて対向するパッド部材19、19が装着される。
【0014】
図1は本発明のパッド装着機構における要部の縦断面図および横断面図である。図1(A)および図1(B)は図3(C)のA−A断面図で、それぞれパッド部材の装着前後の断面図である。ブレーキアーム3の下端部にパッドホルダ軸18により軸着したパッドホルダ4の蟻溝11に、パッド部材19のアンカープレート6が軸方向(図1(A)(B)の上下方向、図1(C)の紙面に直交する方向)にスライドして装着される。蟻溝11は軸方向に貫通して形成され、その断面形状はパッドホルダ4側が広くパッド部材19側が狭い台形を呈しており、パッド部材19が枕木方向に脱落不能に構成されている。パッド部材19がアンカープレート6を介して軸方向に装着されて適正位置にセットされた後、アンカーブロック15、15(図1(B))をアンカープレート6の両端部近傍に形成された係止溝に係止することで、パッド部材19の軸方向移動が規制されて装着が完了する。
【0015】
図1(C)に示すように、パッド部材19は、基板12に係着リベット14等により係着されたパッド5と、基板12に係着リベット13等により係着されたアンカープレート6とから構成される。パッドホルダ4における蟻溝11の両側の傾斜面B面と、スライド係合の際に対応して整合するアンカープレート6の両側の傾斜面A面とは過不足なくスライド面を構成する。アンカープレート6を軸方向に直交する方向に付勢する付勢部材20がパッドホルダ4の一方の縁部に、例えば、図1(B)に示すように2か所に設置される。図示の例では、付勢部材20は、スプリング8(図1(C))を介設したストッパボルト7と位置決めピン9とから構成される。スプリング8による位置決めピン9への付勢力はストッパボルト7のパッドホルダ4における螺合進退に依存する。
【0016】
図1(C)に示すように、付勢部材20における位置決めピン9により矢印のように軸方向に直交する方向に付勢されたアンカープレート6は、組付け誤差に起因してパッドホルダ4の蟻溝11内にて僅かに右方向へ移動すると、右側縁部の互いに係合する両者の傾斜面A面、B面のカム作用により、矢印F方向に移動して蟻溝11の底面に押し付けられる。それによって、パッド部材19は枕木方向の締結力を得てガタが吸収される。好適には、付勢部材20は前述したように、スプリング8を介設したストッパボルト7と位置決めピン9とから構成され、適正に調整されたスプリング8による所定の与圧によって安定した付勢力でパッド部材19をパッドホルダ4に押し付けられるが、ストッパボルト7により直接にアンカープレート6の縁部を押圧するように構成してもよい。
【0017】
前記アンカープレート6のスライド方向の適正位置における付勢部材20と対応する縁部の位置(図示の例では、図1(B)に示すように2か所)には、図2に示すように、位置決め用凹部10が刻設される。これにより、パッドホルダ4へのパッド部材19のスライド装着時にパッド部材19を適正な位置に迅速にセットすることを可能にして装着作業を格段に向上させる上、この位置での付勢部材20の付勢によりスライド方向への脱落抑制機能も生じさせ、しかも、装着後のアンカープレート6のロック作用を行うアンカーブロック15の位置決め機能も発揮することになる。
【0018】
以上、本発明の実施例について説明してきたが、本発明の趣旨の範囲内で、ブレーキアームの形状、形式およびそのハウジングボディへの揺動軸支形態(全方向に自由度を有したもの等)、ブレーキアームへのパッドホルダの軸着形態(好適には、図3の実施例のように2か所にて軸着されるが、1か所でもよい)、パッドホルダの形状、形式、パッドホルダにおける蟻溝の形状(好適には台形断面とされる、スライド方向以外に抜止め機能を有し、軸方向に直交する方向に付勢されて枕木方向にてアンカープレートがパッドホルダ方向に押し付けられるなら、例えば、両側縁が半円弧状等でもよい)、形式および該蟻溝へのパッド部材への軸方向へのスライド挿入形態、パッド部材における前記蟻溝に整合するアンカープレートの形状(断面は前記蟻溝の断面に整合する)、形式、蟻溝両側縁の傾斜部の傾斜角、付勢部材の形状、形式(実施例のもののような、スプリングを介設したストッパボルトと位置決めピンを進退させるものの他、ストッパボルト単体からなるものを排除しない)およびそのパッドホルダへの設置形態(付勢力を調整できる螺合を好適とするが、ワンタッチトグル機構等により位置決めピンを進退させるものでもよい)ならびに設置数、付勢部材におけるスプリングの形状、形式(実施例のコイルスプリングの他、皿ばね等適宜の圧縮ばねが採用され得る)、位置決めピンの形状(先端形状は好適には半球状とされるが、位置決めのためのクリック感が得られるならば、鈍角錐状、鈍角山形形状等でもよい)、形式、アンカープレートの縁部における位置決め用凹部の形状(位置決めピンの先端形状に適合される)等については適宜選定できる。実施例に記載の諸元はあらゆる点で単なる例示に過ぎず限定的に解釈してはならない。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明は、ブレーキアームの下端部に軸着したパッドホルダにパッド部材を装着するパッド装着機構に関し、特に、好適には鉄道車両のディスクブレーキに使用されるが、パッド部材がパッドホルダ等にスライドさせて装着されるものであれば、自動車等の車両や産業機械の停止機構に用いられるディスクブレーキにも適用が可能である。
【符号の説明】
【0020】
4 パッドホルダ
5 パッド
6 アンカープレート
7 ストッパボルト
8 スプリング
9 位置決めピン
10 位置決め用凹部
11 蟻溝
15 アンカーブロック
19 パッド部材
20 付勢部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキアームの下端部に軸着したパッドホルダにパッド部材を装着するパッド装着機構において、前記パッドホルダの蟻溝に軸方向にスライドさせて装着したパッド部材におけるアンカープレートを、軸方向に直交する方向に付勢する付勢部材を前記パッドホルダに設置したことを特徴とするパッド装着機構。
【請求項2】
前記付勢部材は、スプリングを介設したストッパボルトと位置決めピンとから構成されたことを特徴とする請求項1に記載のパッド装着機構。
【請求項3】
前記位置決めピンに対応するアンカープレートの縁部には位置決め用凹部が刻設されたことを特徴とする請求項1または2に記載のパッド装着機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−190251(P2010−190251A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−32484(P2009−32484)
【出願日】平成21年2月16日(2009.2.16)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】