説明

パラレル型リンクロボットにおける関節角の誤差検知装置

【課題】パラレル型リンクロボットにおいて、その関節角を検出する検出部の検出誤差を的確に検知する。
【解決手段】n角形リンク機構(nは4以上の整数)を有するパラレル型リンクロボットにおいて、関節角の検出部における検出誤差を検知する誤差検知装置であって、n角形リンク機構を構成する関節部のうち、n−1個の関節部における関節角をそれぞれ検出する関節角検出部と、n角形リンク機構の構造的条件の下、該n角形リンク機構の各リンク部材の長さと、関節角検出部によって検出されたn−1個の関節部の関節角とに基づき、関節角における角度誤差に関するパラメータを取得する角度誤差パラメータ取得部と、角度誤差パラメータ取得部によって取得されたパラメータに基づいて、n−1個の関節部のうち何れの関節部において角度誤差が生じているかについての判断を行う誤差判定部と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、4本以上のリンク部材と対応する関節部とで構成された閉ループのリンク機構を有するパラレル型リンクロボットに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、複数のリンク部材とそれらを可動的につなぐ関節部からなるロボットマニピュレータの構造は、シリアル型とパラレル型の2つに大別することができる。シリアル型はベースからエンドエフェクタまで一自由度の関節部が直列に繋がり、各関節部がアクチュエータにより駆動される。このようにシリアル型のマニピュレータは、構造は簡単であるが、アクチュエータなどの質量が各リンク部材に加算され各関節部が曲げモーメントを受けるため、マニピュレータ全体の剛性も低下し、精度が低く、可搬重量が小さいなどの問題がある。
【0003】
一方、パラレル型はそれを構成するリンク部材が閉ループを成すため、マニピュレータ全体の剛性も高くでき、その結果、アクチュエータ誤差が小さく、高精度の位置決めが可能となる。基本的に、エンドエフェクタに対して複数のリンク部材が支持する形となるため、各関節部にかかる分担過重もシリアル型に比べて小さくなり、以てリンク部材の軽量化もはかることができる。このように、パラレル型のロボットは多くの利点を有することから、広く普及しつつあり、また国内外の多くの研究機関において精力的に研究がなされている(例えば、特許文献1、2、非特許文献1を参照。)。
【特許文献1】特開2002−295623号公報
【特許文献2】特開2003−94266号公報
【非特許文献1】舟橋 宏明,“ロボット機構としてのパラレルメカニズム”日本ロボット学会誌, Vol.10,No.6,pp699-704,1992
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようにパラレル型のリンクロボット(以下、単に「パラレルロボット」ともいう。)では、一般に、それを構成するリンク部材が閉ループを構成する。話を簡潔にするために、パラレルロボットで構成される当該閉ループが多角形構造を有するものとする。例えば、五本のリンク部材と五個の関節部とで構成されるパラレルロボットでは、五角形の閉ループが構成されることになる。このような閉ループの多角形構造を有するパラレルロボットでは、アクチュエータによって稼動される必要最少の関節部の数は、関節部の総数をn個(nは4以上の整数)とすると、n−3個となる。したがって、エンドエフェクタの位置制御などのパラレルロボットの制御を行う場合、アクチュエータによって駆動される関節部の関節角を、最低限検出し、それを当該制御にフィードバック等すればよい。
【0005】
しかし、上記ロボットの制御をより正確に行うため、例えば、駆動軸のアクチュエータの回転制御だけでなく、最終的に位置決めされるべきエンドエフェクタの位置の精度を高めるために、アクチュエータが設置されていない関節部の関節角を検出するための検出部も設け、それをロボットの制御に利用する場合がある。また、このようなパラレルロボットにおいては、各関節部の関節角を検出するためにロータリエンコーダ等の検出装置が検出部として利用される。
【0006】
しかし、当然ながら、これらの関節部の関節角の検出部が故障、もしくは故障までに至らなくともその検出誤差が大きくなりすぎると、ロボット制御への影響が無視できなくなり、場合によってロボットの駆動が困難となる場合がある。したがって、パラレルロボッ
トにおいて、その関節角検出部の検出誤差が適正なものか否か的確に判断する必要があるが、それについて十分な考察が為されていないのが現状である。
【0007】
本発明では、上記した問題に鑑み、パラレルロボットにおいて、その関節角を検出する検出部の検出誤差を的確に検知する誤差検知装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、上記の課題を解決するために、本発明では、パラレルロボットの構造的条件、すなわち幾何学的条件を利用することで、関節角の検出部の誤差検知を的確に行うことを可能とした。より詳細には、本発明に係るパラレル型リンクロボット(パラレルロボット)における関節角の誤差検知装置(以下、単に「誤差検知装置」ともいう。)は、n個以上(nは4以上の整数)のリンク部材と該リンク部材の各々を連結する関節部とで形成されるn角形リンク機構を有するパラレル型リンクロボット(パラレルロボット)において、該リンク機構の関節部の角度を検出する検出部における検出誤差を検知する誤差検知装置であって、前記n角形リンク機構を構成する関節部のうち、一つの関節部を除くn−1個の関節部における関節角をそれぞれ検出する関節角検出部と、前記n角形リンク機構の構造的条件の下、該n角形リンク機構の各リンク部材の長さと、前記関節角検出部によって検出された前記n−1個の関節部の関節角とに基づき、前記n−1個の関節部の前記関節角検出部によって検出された関節角と、該n−1個の関節部の実際の関節角との間に生じる角度誤差に関するパラメータを取得する角度誤差パラメータ取得部と、前記角度誤差パラメータ取得部によって取得されたパラメータに基づいて、前記n−1個の関節部のうち何れの関節部において角度誤差が生じているかについての判断を行う誤差判定部と、を備える。
【0009】
上記誤差検知装置では、角度誤差パラメータ取得部が、関節部について、関節角検出部によって検出された関節角(検出値)と、実際の関節角との差に相当する角度誤差に関連するパラメータを、パラレルロボットのn角形リンク機構の構造的条件の下、すなわち各リンク部材と各関節部とで決定されるn角形リンク機構の幾何学的要素を考慮した上で、各リンク部材の長さと関節角の検出値とに基づいて取得する。言い換えるならば、角度誤差パラメータ部は、パラレルロボットの構造的な拘束条件であるリンク部材と関節部に対して、必ずしもこの拘束条件に縛られるとは限らない関節角の検出値(すなわち検出部による検出誤差が大きくなると、本来的には当該拘束条件に縛られるべき関節角の値が、その拘束条件から外れた値へと移っていくことを意味する。)を重ね合わせることで、n角形リンク機構の構造上、矛盾が生じる状態となる。その矛盾を上記角度誤差に関するパラメータとして、角度誤差パラメータ取得部が取得する。
【0010】
そして、誤差判定部が、角度誤差パラメータ取得部が取得したパラメータに基づいて、パラメータを算出するために用いられた関節部の関節角の検出値のうち、何れの検出値において誤差が含まれているかを判定する。なお、角度誤差パラメータ部によるパラメータ取得には、n角形リンク機構における全ての関節部の関節角の検出値が必要ではなく、n−1個の関節角の検出値で必要十分である。これは、n角形リンク機構の構造的条件を利用することで、上記パラメータを的確に算出できるからである。その結果、関節角検出部が検出すべき関節部の数が少なくでき、以てパラレルロボットの構成を簡潔なものとしながらも、各関節角の検出、および関節角検出における誤差検知を的確に行うことができるのである。
【0011】
なお、上記の構成は、パラレルロボットのn角形リンク機構において、全ての関節部の関節角を検出部によって検出し、該パラレルロボットの制御等に利用することを妨げるものではない。あくまでも、本発明にかかる誤差検知装置では、n角形リンク機構を構成するn個の関節部のうちn−1個の関節部の検出値を利用することで、当該n−1個の関節
部における関節角の検出誤差を的確に検知できる点が重要である。
【0012】
ここで、上記誤差検知装置において、前記角度誤差パラメータ取得部は、前記角度誤差に関するパラメータを算出するための、n−2個の所定の算出式に従い、該パラメータを取得するように構成されてもよい。そして、その場合、前記n−2個の所定の算出式は、前記n角形リンク機構の構造的条件を前提として、前記n角形リンク機構の各リンク部材の長さと、前記検出されたn−1個の関節部の関節角とから設定され、更に、以下の(a)
の条件を満たす。
(a)各所定の算出式に含まれる関節角の数はn−2個であって、所定の算出式間同士に
含まれる関節角の組合せは完全一致しないこと。
更に、前記誤差判定部については、前記n−2個の所定の算出式から算出された各算出値の組合せを前記パラメータとして、該パラメータに基づいて、前記n−1個の関節部のうち何れの関節部において角度誤差が生じているかについての判断が行われる。
【0013】
上記n−2個の所定の算出式が、上記の条件(a)を満たしながら、多角形リンク機構の
構造的条件に対して、関節角検出部によって検出されたn−1個の関節角を重ね合わせることで、各算出式の算出値の組合せを誤差判定のためのパラメータとすることができる。すなわち、各算出式の算出値が、特定のn−2個の関節部の関節角とn角形リンク機構の構造的条件から導かれる拘束条件を満たしているか否かについて反映する値となるべく、上記条件(a)が設定される。
【0014】
また、上記誤差検知装置において、前記角度誤差パラメータ取得部は、それぞれが前記n角形リンク機構における構造的条件の下、前記リンク部材と二つの関節を結んで形成される仮想辺とで区分される仮想三角形での、該リンク部材の長さおよび該仮想辺の長さと前記検出された関節角との相関関係に基づいた前記n−2個の所定の算出式にしたがって、前記パラメータを取得するようにしてもよい。すなわち、n角形リンク機構の構造的条件として、該n角形リンク機構内に形成される仮想三角形成立のための条件を利用するものである。
【0015】
そして、リンク部材の長さおよび仮想辺の長さと検出関節角との相関関係において、検出関節角が実際の関節角と誤差がない場合には、n角形リンク機構の構造的条件に対して矛盾するパラメータが、算出式から導かれない。しかし、検出関節角が実際の関節角に対して誤差が生じている場合には、上記仮想三角形の成立条件に矛盾が生じ、以てn角形リンク機構の構造的条件に対して矛盾するパラメータが、算出式から導かれることになる。それにより、誤差判定部が、n−1個の関節部のうち何れの関節部において角度誤差が生じているかについての判断を行うことが可能となる。
【0016】
ここで、上述までの誤差検知装置において、前記誤差判定部により、前記n−1個の関節部のうち何れかの関節部に角度誤差が生じていると判定されたとき、該角度誤差が生じたとされた関節部の前記関節角度検出部によって検出された関節角を、該角度誤差が生じたとされた関節部を除く一部又は全部の関節部の該関節角度検出部によって検出された関節角と前記n角形リンク機構における構造的条件とに従って修正する関節角修正部を、更に備えるようにしてもよい。このようなn角形リンク機構の構造的条件に基づく関節角修正部を有することにより、角度誤差が生じている関節部の関節角を正確に補完することができ、例えば発生した角度誤差がパラレルロボットの運転制御に与える影響を可及的に抑制することができる。
【発明の効果】
【0017】
パラレルロボットにおいて、誤差検知装置により、その関節角を検出する検出部の検出誤差を的確に検知することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、本発明に係る誤差検知装置を備えるパラレルロボット1について図面に基づいて説明する。パラレルロボット1は、コの字形状をしたベースリンク部材L1が最下部に位置するリンク部材として設けられ、このベースリンク部材L1は、図示されてはいないパラレルロボット1の台座に対して、回転軸Zを介して取り付けられている。したがって、パラレルロボット1は、回転軸Zを介して台座に対してその全体の向きを旋回させることが可能となる。
【0019】
ここで、ベースリンク部材L1の右側端部には、それに対して回動可能となるように関節部P1を介して、リンク部材L5が取り付けられ、一方、ベースリンク部材L1の左側端部には、それに対して回動可能となるように関節部P2を介して、リンク部材L2が取り付けられている。更に、リンク部材L5の、ベースリンク部材L1と接続されていない側の端部には、それに対して可動可能となるように関節部P5を介して、リンク部材L4が取り付けられており、また、リンク部材L2の、ベースリンク部材L1と接続されていない側の端部には、それに対して可動可能となるように関節部P3を介して、リンク部材L3が取り付けられている。更に、リンク部材L3、L4の、それぞれ関節部P3、P5に接続されていない端部同士は、関節部P4を介して接続され、両リンク部材が回動可能状態となっている。また、この関節部P4に支持されるように取付テーブル2が設けられ、該取付テーブル2の上方には、パラレルロボット1のエンドエフェクタ3が設置される。
【0020】
このように構成されるパラレルロボット1は、ベースリンク部材L1と4本のリンク部材L2〜L5の合計五本のリンク部材によって形成される五角形のリンク機構を有することになる。そして、各リンク部材の位置や姿勢が制御されて、この五角形リンク機構が変形し、関節部P4に設けられた取付テーブル2の位置と姿勢が制御され、以てエンドエフェクタ3の動作領域が制御されることになる。ここで、五角形リンク機構を有するパラレルロボット1では、そのリンク機構の構造的条件により、五つの関節部P1〜P5の全てをアクチュエータによって駆動しなくても、エンドエフェクタ3の位置や姿勢を制御できる。具体的には、一般にn角形(nは4以上の整数)のリンク機構を有するパラレルロボットでは、最小でもn−3個の関節部をアクチュエータで駆動しさえすれば、各関節部の位置を制御することが可能である。したがって、本実施例では、図1に示すリンク機構は5角形リンク機構であるから、エンドエフェクタ3の位置・姿勢制御用として、関節部P1、P2の2箇所にアクチュエータである回転モータを設置する。図1においては、このモータをそれぞれM1、M2で表している。
【0021】
更に、パラレルロボット1においては、各関節部P1〜P5のうち、関節部P5を除く4箇所の関節部に、その関節部の関節角(該関節部に接続される二本のリンク部材によって形成される角度)を検出するための角度センサ(具体的には、ロータリエンコーダ等が使用可能であり、以下、単に「センサ」という。)が設けられている。具体的には、関節部P1、P2、P3、P4には、それぞれセンサS1、S2、S3、S4がそれぞれ対応するように設けられ、各関節角をθ1、θ2、θ3、θ4として検出される。
【0022】
上記の通り、五角形リンク機構においては、五つの関節角のうち二つが決定されると、残りの三つの関節角も決定される。しかし、上記のようにモータM1、M2に対応する関節部P1、P2以外の関節部P3、P4にも関節角検出のためのセンサを冗長的に設けているのは、これらの関節角を検出しモータの出力にフィードバックすることで、エンドエフェクタ3の位置制御等をより正確に行うためである。なお、このような冗長的な検出部を利用したロボット制御は、従来から行われているものであるから、本明細書ではその詳細は割愛する。
【0023】
このように構成されるパラレルロボット1を制御するために、制御装置10がパラレルロボット1に対してケーブルで接続されている。制御装置10は一般的なコンピュータによって構成され、これにより制御装置10は、パラレルロボット1が有する各センサからの出力値を見ながら、エンドエフェクタ3が所望の位置や姿勢に至るように、モータM1、M2に対して駆動指令を出力する。ここで、図2に、この制御装置10の機能をイメージ化して機能ブロックとして示す。以下に、図2に基づいて制御装置10の詳細について説明する。
【0024】
制御装置10では、パラレルロボット1のセンサS1〜S4からの検出値が、センサ誤差検知部20とロボット制御部30とに引き渡される。センサ誤差検知部20は、本発明に係る誤差検知装置を形成するための主な機能部である。そして、ロボット制御部30は、上述したような各センサからの検出値を基に、パラレルロボット1を制御するための種々の制御を行う機能部であるが、それらの技術は本発明に係る誤差検知装置と直接的な関係性は小さく、また従来からの技術においても実現されていることであるので、本明細書ではその説明は割愛する。
【0025】
ここで、センサ誤差検知部20は、関節角検出値取得部21と、誤差パラメータ取得部22と、誤差判定部23と、関節角修正部24を有する。以下、各機能部の説明をするが、本発明の理解を促進するために、図1に示した構造を有するパラレルロボット1をモデル化したものを図3に示す。このようにパラレルロボット1のモデル化にあたり、必要でない要素(例えば、回転軸Z等)については、図3では記載を省略した。また、各リンク部材の参照番号L1〜L4は、そのリンク部材の長さを表す記号としても用いることとする。ここで、リンク部材の長さは、当該リンク部材に接続される二つの関節部同士の間の距離と定義する(後述する仮想辺についても同様)。したがって、ベースリンク部材L1のようにコ字形状を有しているものの長さは、その形状に沿った長さではなく、そこに接続された関節部P1とP2の二点間の距離となる。また、図3においては、センサが設置されている関節部P1〜P4を黒塗りの丸印で表し、センサが設けられていない関節部P5を白塗りの丸印で表している。
【0026】
まず、関節角検出値取得部21は、パラレルロボット1に設置されたセンサS1〜S4により、対応する各関節部の関節角を取得する。具体的には、関節角検出値取得部21は、センサS1より関節角θ1を、センサS2より関節角θ2を、センサS3より関節角θ3を、センサS4より関節角θ4を、それぞれ取得する。
【0027】
次に、誤差パラメータ取得部22は、関節角検出値取得部21によって取得された各関節角θ1〜θ4と、各リンク部材L1〜L5で構成される図3に示す五角形リンク機構の構造的条件に基づいて、センサが取り付けられた関節部における関節角の検出値と実際の関節角の値との誤差に関連するパラメータを取得する。ここで、五角形リンク機構の構造的条件とは、各リンク部材の長さと、それらをつなぐ各関節部の配置条件であり、五角形リンク機構の形状を決定するための物理的、構造的拘束条件である。また、上記パラメータは、この五角形リンク機構の構造的条件をベースとして、算出される誤差検知のためのパラメータである。以下に、図4A〜図4Cに基づいてこのパラメータを算出するための三つの算出式f1、f2、f3の技術的意義について説明する。なお、図4A〜図4Cに示す五角形リンク機構の形状、すなわち各関節部の関節角はいずれも同じ状態のものであり、すなわちこれらの図においてはエンドエフェクタ3については、同じ位置、同じ姿勢とされる。
【0028】
図4Aは、算出式f1を導出するための図である。図4Aに示される五角形リンク機構では、関節部P2とP5、P2とP4とをそれぞれ仮想辺x1、x2で結ぶことで、五角
形リンク機構の内部に3つの仮想三角形を区分する。ここで、関節部P2の箇所において、3つの仮想三角形の頂角α(∠P1P2P5)、β(∠P5P2P4)、γ(∠P4P2P3)が集まることで、関節部2の関節角θ2が形成されることに着目する。そして、各仮想三角形の構造的条件を利用すると、言い換えると各仮想三角形での余弦定理を利用すると、これら頂角α、β、γが以下のように表される。
【数1】

【数2】

【0029】
ここで、上述したように関節角θ2は、頂角α、β、γの和で表されることより、算出式f1を以下のように定義する。
【数3】

【0030】
この算出式f1は、そこに含まれる三つの関節角θ1、θ2、θ3について、対応するセンサによる検出値が、実際の関節角の値と同値である場合には、「関節角θ2は、頂角α、β、γの和である。」という拘束条件に矛盾は生じないためその算出値はゼロとなる。一方で、上記三つの関節角の何れかに誤差を含む異常値があれば上記拘束条件に矛盾が生じるため算出式f1の算出値はゼロとならない。これらの算出式f1の特性により、該算出式f1の出力がゼロか否かによって、当該算出式に含まれている関節角の誤差の有無を判定することができる。これを踏まえると、算出式f1は、当該上記誤差検知のためのパラメータを導き出すための式となり得る。言い換えると、算出式f1は、五角形リンク機構において現実に存在する構造的な拘束条件を踏まえて、センサによる検出値がその拘束条件と矛盾する結果を導き出すか否かの結果に基づいて、関節角の検出値に誤差が含まれているか否かに関するパラメータを算出するものである。
【0031】
次に、図4Bに示される五角形リンク機構では、関節部P3とP5、P2とP5とをそれぞれ仮想辺x3、x1で結ぶことで、五角形リンク機構の内部に3つの仮想三角形を区分する。ここで、関節部P2の箇所において、2つの仮想三角形の頂角∠P1P2P5、∠P3P2P5が集まることで、関節部P2の関節角θ2が形成されることに着目し、算出式f1の場合と同様の技術的思想にしたがって、図4Bに示す五角形リンク機構の構造的条件に基づいた算出式f2を以下のように導出する。
【数4】

【0032】
最後に、図4Cに示される五角形リンク機構では、関節部P3とP5、P3とP1とをそれぞれ仮想辺x3、x4で結ぶことで、五角形リンク機構の内部に3つの仮想三角形を区分する。ここで、関節部P3の箇所において、3つの仮想三角形の頂角∠P2P3P1、∠P1P3P5、∠P5P3P4が集まることで、関節部P3の関節角θ3が形成されることに着目し、算出式f3の場合と同様の技術的思想にしたがって、図4Cに示す五角形リンク機構の構造的条件に基づいた算出式f3を以下のように導出する。
【数5】

【0033】
ここで、上記算出式f1、f2、f3は、以下に示す条件を満たしている。
(条件a)3個の算出式f1、f2、f3に含まれる関節角の数は3個ずつであって(すなわち、五角形リンク機構での関節数5から2を差し引いた数の関節角によって各算出が形成される)、算出式間同士に含まれる関節角の組合せは完全一致しないこと。
この結果、各算出式から算出された算出値の組合せに基づいて、何れの関節角を検出するセンサの検出値が、実際の関節角の値とずれているか否かを判定することが可能となる。
【0034】
そこで、この算出式による算出値の組合せで形成されるパラメータに基づくセンサの誤差判定は、図2に示す誤差判定部23によって行われる。この誤差判定部23による判定について、図5に基づいて説明する。図5は、各算出式の算出値の組合せである誤差パラメータと、誤差判定とを関連づけたテーブルである。したがって、誤差判定部23は、図5に示すテーブルにしたがって関節角の検出誤差の有無を判定する。
(1)算出式f1、f2、f3の全てがゼロになった場合、算出式f1よりθ1、θ2、θ3の中に誤差は無いことを意味し、また算出式f2よりθ1、θ2、θ4の中に誤差は無いことを意味し、また算出式f3よりθ2、θ3、θ4の中に誤差は無いことを意味する。そのため、誤差判定部23は、全てのセンサは正常に駆動していると判定する。
(2)算出式f1、f2が非ゼロで、算出式f3がゼロになった場合、算出式f1よりθ1、θ2、θ3の何れかに誤差があることを意味し、また算出式f2よりθ1、θ2、θ4の何れかに誤差があることを意味し、また算出式f3よりθ2、θ3、θ4の中には誤差は無いことを意味する。そのため、誤差判定部23は、センサS1において誤差が生じていることを検知する。
(3)算出式f1、f2、f3の全てが非ゼロになった場合、算出式f1よりθ1、θ2、θ3の何れかに誤差があることを意味し、また算出式f2よりθ1、θ2、θ4の何れかに誤差があることを意味し、また算出式f3よりθ2、θ3、θ4の何れかに誤差があることを意味する。そのため、誤差判定部23は、センサS2において誤差が生じていることを検知する。
(4)算出式f1、f3が非ゼロで、算出式f2がゼロになった場合、算出式f1よりθ1、θ2、θ3の何れかに誤差があることを意味し、また算出式f2よりθ1、θ2、θ4の中には誤差がないことを意味し、また算出式f3よりθ2、θ3、θ4の何れかに
誤差があることを意味する。そのため、誤差判定部23は、センサS3において誤差が生じていることを検知する。
(5)算出式f1がゼロで、算出式f2、f3が非ゼロになった場合、算出式f1よりθ1、θ2、θ3の中には誤差が無いことを意味し、また算出式f2よりθ1、θ2、θ4の何れかに誤差があることを意味し、また算出式f3よりθ2、θ3、θ4の何れかに誤差があることを意味する。そのため、誤差判定部23は、センサS4において誤差が生じていることを検知する。
【0035】
このように誤差判定部は、誤差パラメータ取得部22が上記算出式f1〜f3にしたがって、取得したパラメータ(すなわち、各算出式の算出値がゼロか非ゼロかの組合せ)に基づいて、センサS1〜S4の何れのセンサが誤差を有している状態にあるかを的確に検知することができる。本実施例では、パラレルロボット1の駆動に必要な駆動されるべき関節部の数よりも多いセンサを設けているが、全ての関節部にセンサを取り付けなくても、すなわち関節部の数より一つ少ないセンサで、各センサの誤差判定を的確に行うことができる。したがって、パラレルロボット1において、冗長に設けられるセンサの数がいたずらに多くなることを抑制することにもなる。
【0036】
ここで、誤差判定部23によっていずれかのセンサに誤差が生じていることが検知された場合、パラレルロボット1の運転上の安全を優先して、ロボット制御部30に対してパラレルロボット1の駆動を停止するように指示を出してもよい。
【0037】
一方で、パラレルロボット1においては上述の通り、冗長なセンサが2台設けられているため、一台のセンサが誤差が生じていることを理由に、そこからの検出値の利用は控えるべきであっても、他のセンサからの検出値をもって誤差が生じてしまったセンサの代替を果たすことができる。仮に、関節部P1のセンサS1において誤差が生じ、センサS1の使用を禁止しようとするとき、下記の式にしたがって、代替的な関節角θ1を算出し、パラレルロボット1の制御を継続することが可能である。
【数6】

【0038】
このように誤差が生じてしまったセンサが対応していた関節角の修正を行い、代替的な関節角を設定し、それをロボット制御部30に渡してパラレルロボットの制御を継続させる機能は、図2に示す関節角修正部24によって発揮される。なお、この関節角修正部24によって代替的な関節角がロボット制御部30に渡されているとき、センサ誤差検知部20によるセンサ誤差の検知を的確に行えない状態になっている。そのため、そのような場合は、適切なタイミングで誤差が生じたセンサを交換、修理等するのが好ましい。
【0039】
また、上記実施例では、関節部P1〜P4の4箇所にセンサを取り付け、関節部P5にはセンサを取り付けなかったが、センサを取り付けない関節部をP5以外の関節部としても、上記と同様にパラレルロボット1の制御には支障はなく、また取り付けた四台のセンサにおける誤差発生を的確に検知することは可能である。なお、パラレルロボット1の的確な制御のためには、モータM1、M2で直接駆動される関節部P1、P2にはセンサを取り付けるのが好ましい。
【0040】
さらに、上記実施例では、パラレルロボット1が有する多角形リンク機構が五角形リンク機構の場合を例示したが、それ以外の多角形リンク機構においても、上述した技術的思想に基づいてセンサにおける誤差発生の検知を的確に行うことができる。例えば、図6に
示すような四角形リンク機構においても、そこに設置される三台のセンサにおける誤差発生の検知が可能である。なお、図6に記載の参照番号は、図3、図4A等における記載に準ずる。この場合、センサS2、S3が冗長的なセンサとなり、この四角形リンク機構の構造的条件にしたがって、上記のようなパラメータ算出式を二つ設定することで、センサ誤差検知部20による誤差検知が可能となる。
【0041】
また、図示した四角形リンク機構、五角形リンク機構に限らず、それ以上の多角形リンク機構にも本発明の技術的思想は適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】パラレル型リンクロボットの概略構成を示す図である。
【図2】図1に示すパラレル型リンクロボットの制御装置の機能を、イメージ化して示したブロック図である。
【図3】図1に示すパラレル型リンクロボットの構成をモデル化して示した図である。
【図4A】図1に示すパラレル型リンクロボットにおいて、センサの誤差発生を検知するためのパラメータ算出式を導出するための、該リンクロボットの構造的条件を示す第一の図である。
【図4B】図1に示すパラレル型リンクロボットにおいて、センサの誤差発生を検知するためのパラメータ算出式を導出するための、該リンクロボットの構造的条件を示す第二の図である。
【図4C】図1に示すパラレル型リンクロボットにおいて、センサの誤差発生を検知するためのパラメータ算出式を導出するための、該リンクロボットの構造的条件を示す第三の図である。
【図5】図1に示すパラレル型リンクロボットにおけるセンサの誤差発生を判定するためのパラメータと、判定内容とを関連付けたテーブルである。
【図6】本発明に係る誤差検知装置が適用可能な別の形態のパラレル型リンクロボットの構造モデル図である。
【符号の説明】
【0043】
1・・・・パラレル型リンクロボット
2・・・・取付テーブル
3・・・・エンドエフェクタ
10・・・・制御装置
L1・・・・ベースリンク部材
L2、L3、L4、L5・・・・リンク部材
P1、P2、P3、P4、P5・・・・関節部
S1、S2、S3、S4・・・・センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
n個以上(nは4以上の整数)のリンク部材と該リンク部材の各々を連結する関節部とで形成されるn角形リンク機構を有するパラレル型リンクロボットにおいて、該リンク機構の関節部の角度を検出する検出部における検出誤差を検知する誤差検知装置であって、
前記n角形リンク機構を構成する関節部のうち、一つの関節部を除くn−1個の関節部における関節角をそれぞれ検出する関節角検出部と、
前記n角形リンク機構の構造的条件の下、該n角形リンク機構の各リンク部材の長さと、前記関節角検出部によって検出された前記n−1個の関節部の関節角とに基づき、前記n−1個の関節部の前記関節角検出部によって検出された関節角と、該n−1個の関節部の実際の関節角との間に生じる角度誤差に関するパラメータを取得する角度誤差パラメータ取得部と、
前記角度誤差パラメータ取得部によって取得されたパラメータに基づいて、前記n−1個の関節部のうち何れの関節部において角度誤差が生じているかについての判断を行う誤差判定部と、
を備える、パラレル型リンクロボットにおける関節角の誤差検知装置。
【請求項2】
前記角度誤差パラメータ取得部は、前記角度誤差に関するパラメータを算出するための、n−2個の所定の算出式に従い、該パラメータを取得し、
前記n−2個の所定の算出式は、前記n角形リンク機構の構造的条件を前提として、前記n角形リンク機構の各リンク部材の長さと、前記検出されたn−1個の関節部の関節角とから設定され、更に、以下の条件(a)を満たし、
(a)各所定の算出式に含まれる関節角の数はn−2個であって、所定の算出式間同士に
含まれる関節角の組合せは完全一致しないこと、
前記誤差判定部は、前記n−2個の所定の算出式から算出された各算出値の組合せを前記パラメータとして、該パラメータに基づいて、前記n−1個の関節部のうち何れの関節部において角度誤差が生じているかについての判断を行う、
請求項1に記載のパラレル型リンクロボットにおける関節角の誤差検知装置。
【請求項3】
前記角度誤差パラメータ取得部は、それぞれが前記n角形リンク機構における構造的条件の下、前記リンク部材と二つの関節を結んで形成される仮想辺とで区分される仮想三角形での、該リンク部材の長さおよび該仮想辺の長さと前記検出された関節角との相関関係に基づいた前記n−2個の所定の算出式にしたがって、前記パラメータを取得する、
請求項2に記載のパラレル型リンクロボットにおける関節角の誤差検知装置。
【請求項4】
前記誤差判定部により、前記n−1個の関節部のうち何れかの関節部に角度誤差が生じていると判定されたとき、該角度誤差が生じたとされた関節部の前記関節角度検出部によって検出された関節角を、該角度誤差が生じたとされた関節部を除く一部又は全部の関節部の該関節角度検出部によって検出された関節角と前記n角形リンク機構における構造的条件とに従って修正する関節角修正部を、更に備える、請求項1から請求項3の何れか一項に記載のパラレル型リンクロボットにおける関節角の誤差検知装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−23203(P2010−23203A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−189488(P2008−189488)
【出願日】平成20年7月23日(2008.7.23)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 社団法人日本機械学会 九州学生会 第39回 卒業研究発表講演会 「パラレルロボットの関節センサ故障検知法」 2008年3月18日発表
【出願人】(000125369)学校法人東海大学 (352)
【Fターム(参考)】