パワーモジュール用基板の製造方法、ヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法、パワーモジュール用基板及びヒートシンク付パワーモジュール用基板
【課題】セラミックス基板に大きな反りが生じることがなく、かつ、金属層においてブローホール等の欠陥が発生することなく、回路層が銅板で構成されるとともに金属層がアルミニウム板で構成されたパワーモジュール用基板を安定して製造することができるパワーモジュール用基板の製造方法を提供する。
【解決手段】セラミックス基板11の一方の面に、銅又は銅合金からなる銅板22を接合して回路層12を形成する銅板接合工程と、セラミックス基板11の他方の面に、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム板23を接合して金属層13を形成するアルミニウム板接合工程と、を有し、前記銅板接合工程では、銅板22とセラミックス基板11とを、液相温度が前記アルミニウム板の融点未満とされた接合材24を用いて接合する構成とされており、銅板接合工程とアルミニウム板接合工程とを同時に行うことを特徴とする。
【解決手段】セラミックス基板11の一方の面に、銅又は銅合金からなる銅板22を接合して回路層12を形成する銅板接合工程と、セラミックス基板11の他方の面に、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム板23を接合して金属層13を形成するアルミニウム板接合工程と、を有し、前記銅板接合工程では、銅板22とセラミックス基板11とを、液相温度が前記アルミニウム板の融点未満とされた接合材24を用いて接合する構成とされており、銅板接合工程とアルミニウム板接合工程とを同時に行うことを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、大電流、高電圧を制御する半導体装置に用いられるパワーモジュール用基板の製造方法、ヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法、パワーモジュール用基板及びヒートシンク付パワーモジュール用基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体素子の中でも電力供給のためのパワーモジュールは、発熱量が比較的高いため、これを搭載する基板としては、例えば、AlN(窒化アルミ)、Al2O3(アルミナ)、Si3N4(窒化ケイ素)などからなるセラミックス基板の一方の面側に回路層が形成され、セラミックス基板の他方の面側に金属層が形成されたパワーモジュール用基板が用いられる。このパワーモジュール用基板においては、金属層を介してヒートシンクが接続され、ヒートシンク付パワーモジュール用基板とされる。また、回路層の上に、はんだ層を介してパワー素子としての半導体素子が搭載され、パワーモジュールとされる。
【0003】
上述のパワーモジュール用基板として、例えば特許文献1には、セラミックス基板の一方の面にアルミニウム板をろう付けして回路層とし、セラミックス基板の他方の面にアルミニウム板をろう付けして金属層としたものが提案されている。
また、特許文献2には、セラミックス基板の一方の面に金属板を接合して回路層とし、セラミックス基板の他方の面側に、鋳造法によってアルミニウム層を形成して金属層としたパワーモジュール用基板が開示されている。
【0004】
上述のパワーモジュールにおいては、使用時に熱サイクルが負荷されることになる。すると、セラミックス基板と回路層及び金属層との接合界面には、セラミックス基板とアルミニウムとの熱膨張係数の差によって熱応力が作用し、セラミックス基板と回路層及び金属層との接合信頼性が低下するおそれがあった。ここで、純度が99.99質量%以上のアルミニウム(いわゆる4Nアルミニウム)等の比較的変形抵抗の小さな金属で回路層及び金属層を構成し、熱応力を回路層及び金属層の変形によって吸収することにより、接合信頼性の向上を図ることが可能となる。特に、ヒートシンクを接続した場合には、ヒートシンクとセラミックス基板との熱膨張係数の差によって熱応力が発生するため、金属層によって熱応力を十分に吸収する必要がある。
【0005】
ところで、回路層を、4Nアルミニウム等の比較的変形抵抗の小さな金属で構成した場合、熱サイクルを負荷した際に、回路層の表面にうねりやシワが発生してしまうといった問題があった。回路層の表面にうねりやシワが発生した場合には、はんだ層にクラックが発生し、パワーモジュールの信頼性が低下することになる。
特に、最近では、環境負荷の観点から、はんだ層として、Sn−Ag系、Sn−Cu系の鉛フリーはんだ材が使用されることが多くなっている。これらの鉛フリーはんだ材は、従来のSn−Pb系はんだ材に比べて変形しにくく、回路層のうねりやシワによって、はんだ層にクラックが生じやすい傾向にある。
また、最近は、パワーモジュールの小型化・薄肉化が進められるとともに、その使用環境も厳しくなってきており、半導体素子等の電子部品からの発熱量が大きくなっているため、熱サイクルの温度差が大きく、回路層の表面にうねりやシワが発生しやすい傾向にある。
【0006】
ここで、例えば特許文献2には、回路層として銅板を用いたものが開示されている。回路層を銅板で構成した場合には、銅板の変形抵抗がアルミニウムに比べて大きいことから、回路層におけるうねりやシワの発生を抑制することが可能となる。
また、特許文献2では、セラミックス基板の他方の面側にアルミニウムからなる金属層を形成することで、ヒートシンクとセラミックス基板との熱膨張係数の差による熱応力を吸収し、セラミックス基板と回路層及び金属層との接合信頼性の向上を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3171234号公報
【特許文献2】特開2002−076551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特許文献2においては、セラミックス基板の一方の面側に銅板を例えば800℃で接合した後に、セラミックス基板の他方の面側に、鋳造法によってアルミニウムからなる金属層を形成している。
ここで、セラミックス基板の一方の面に銅板を接合した状態で加熱した場合には、セラミックス基板に大きな反りが生じ、セラミックス基板に割れが発生したり、鋳造法によって形成される金属層の厚さが大きくばらついたりしてしまうおそれがあった。また、金属層の内部にブローホール等の鋳造欠陥が発生し、金属層が脆くなったり、熱伝導性が低下したりするおそれがあった。
【0009】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、セラミックス基板に大きな反りが生じることがなく、かつ、金属層においてブローホール等の欠陥が発生することなく、回路層が銅板で構成されるとともに金属層がアルミニウム板で構成されたパワーモジュール用基板を安定して製造することができるパワーモジュール用基板の製造方法、ヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法、及び、パワーモジュール用基板及びヒートシンク付パワーモジュール用基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような課題を解決して、上述の目的を達成するために、本発明のパワーモジュール用基板の製造方法は、セラミックス基板の一方の面に回路層が形成され、前記セラミックス基板の他方の面側に金属層が形成されたパワーモジュール用基板の製造方法であって、 前記セラミックス基板の一方の面に、銅又は銅合金からなる銅板を接合して前記回路層を形成する銅板接合工程と、前記セラミックス基板の他方の面に、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム板を接合して前記金属層を形成するアルミニウム板接合工程と、を有し、前記銅板接合工程では、前記銅板と前記セラミックス基板とを、固相温度が前記アルミニウム板の融点未満とされた接合材を用いて接合する構成とされており、前記銅板接合工程と前記アルミニウム板接合工程とを同時に行うことを特徴としている。
【0011】
この構成のパワーモジュール用基板の製造方法においては、銅又は銅合金からなる銅板を接合して前記回路層を形成する銅板接合工程と、前記セラミックス基板の他方の面に、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム板を接合して前記金属層を形成するアルミニウム板接合工程と、を同時に行う構成とされていることから、接合時においてセラミックス基板に生じる反りを抑えることができ、セラミックス基板の割れを防止することができる。また、金属層がアルミニウム板を接合することで形成されているので、金属層の内部にブローホール等の欠陥がなく、金属層が脆くなったり、熱伝導性が部分的に低下することがない。
また、銅板接合工程において、固相温度が前記アルミニウム板の融点未満とされた接合材を用いて前記銅板と前記セラミックス基板とを接合する構成としていることから、アルミニウム板の融点未満の温度条件でおいても、銅板と前記セラミックス基板とを確実に接合することができる。
【0012】
ここで、前記接合材は、Ag−Cu−Ti系合金に、In,Bi,Li,Snから選択される1種又は2種以上の低融点元素が添加された構成とされていることが好ましい。
この場合、接合材の固相温度を前記アルミニウム板の融点未満とすることができ、銅板接合工程において、アルミニウム板の融点未満の温度条件でも、前記銅板と前記セラミックス基板とを強固に接合することができる。
【0013】
前記アルミニウム板接合工程は、前記セラミックス基板の接合面及び前記アルミニウム板の接合面のうち少なくとも一方に、Si,Cu,Zn,Ge,Ag,Mg,Ca,Ga及びLiから選択される1種又は2種以上の添加元素を固着し、前記添加元素を含有する固着層を形成する固着工程と、前記固着層を介して前記セラミックス基板と前記アルミニウム板と積層する積層工程と、積層された前記セラミックス基板と前記アルミニウム板とを積層方向に加圧するとともに加熱し、前記セラミックス基板と前記アルミニウム板との界面に溶融金属領域を形成する加熱工程と、この溶融金属領域を凝固させることによって、前記セラミックス基板と前記アルミニウム板とを接合する凝固工程と、を有し、前記加熱工程において、前記固着層の元素を前記アルミニウム板側に拡散させることにより、前記セラミックス基板と前記アルミニウム板との界面に、前記溶融金属領域を形成することが好ましい。
この場合、アルミニウム板とセラミックス基板とが、いわゆる液相拡散接合法(Transient Liquid Phase Diffusion Bonding)によって接合されているので、アルミニウム板とセラミックス基板とを強固に接合でき、接合信頼性に優れたパワーモジュール用基板を製造することができる。
【0014】
前記銅板は、再結晶温度が150℃以下とされた銅又は銅合金で構成されていることが好ましい。
この場合、回路層となる銅板の再結晶温度が150℃以下とされているので、使用条件下でも銅板が再結晶することになり、回路層が必要以上に硬くならず、回路層及びセラミックス基板における亀裂の発生を抑制することができる。
なお、本明細書における再結晶温度とは、アルゴン雰囲気中で3600秒熱処理した場合に引張強度が完全焼鈍時と冷間加工(冷間加工率50%)時との差の中間値になった時の加熱温度とする。
また、再結晶温度が150℃以下とされた銅は、例えば純度が99.999質量%以上のいわゆる5NCu,6NCuを用いることができる。
【0015】
前記アルミニウム板は、純度が99.98質量%以上のアルミニウムで構成されていることが好ましい。
この場合、金属層を構成するアルミニウム板が、純度99.98質量%以上とされているので、比較的変形抵抗が小さく、熱応力を効率的に吸収することができる。
【0016】
前記銅板の厚さtcが、0.1mm≦tc≦0.6mmとされ、前記アルミニウム板の厚さtaが、0.4mm≦ta≦3.0mmとされており、さらに、tc<taとされていることが好ましい。
この場合、前記銅板の厚さtcと前記アルミニウム板の厚さtaとがtc<taとされているので、セラミックス基板の一方の面側の剛性と他方の面側の剛性とが大きく異なることがなく、セラミックス基板の反りの発生を抑制することができる。
また、銅板の厚さtcが、tc≧0.1mmとされているので、回路層における導電性を確保することができる。また、銅板の厚さtcが、tc≦0.6mmとされているので、回路層の変形抵抗が必要以上に大きくならず、セラミックス基板の割れの発生を抑制することができる。
さらに、アルミニウム板の厚さtaが、ta≧0.4mmとされているので、金属層において熱応力を確実に吸収することができる。また、アルミニウム板の厚さtaが、ta≦3.0mmとされているので、熱抵抗を抑えることができ、ヒートシンク側に熱を効率良く放散することができる。
【0017】
本発明のヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法は、上述のパワーモジュール用基板の製造方法によって製造されたパワーモジュール用基板に、このパワーモジュール用基板を冷却するヒートシンクが配設されたヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法であって、前記ヒートシンクと前記金属層とを接合するヒートシンク接合工程を有し、前記銅板接合工程と前記アルミニウム板接合工程と前記ヒートシンク接合工程とを同時に行うことを特徴としている。
この構成のヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法によれば、回路層となる銅板と、セラミックス基板と、金属層となるアルミニウム板と、ヒートシンクと、同時に接合することから、セラミックス基板の反りの発生を抑制することができる。また、ヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造コストを低減することができる。
【0018】
本発明のパワーモジュール用基板は、上述のパワーモジュール用基板の製造方法によって製造されたことを特徴としている。
この構成のパワーモジュール用基板においては、回路層が銅板で構成されているので、回路層表面におけるうねりやシワの発生を抑制することができる。また、製造時におけるセラミックス基板の反りが抑制されているので、回路層と金属層との電気的接続を確実に防止することができる。
【0019】
本発明のヒートシンク付パワーモジュール用基板は、上述のパワーモジュール用基板の製造方法によって製造されたパワーモジュール用基板と、このパワーモジュール用基板を冷却するヒートシンクと、を備えたことを特徴としている。
この構成のヒートシンク付パワーモジュール用基板においては、ヒートシンクとセラミックス基板との間にアルミニウム板からなる金属層が配設されているので、この金属層において熱応力を吸収することが可能となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、セラミックス基板に大きな反りが生じることがなく、かつ、金属層においてブローホール等の欠陥が発生することなく、回路層が銅板で構成されるとともに金属層がアルミニウム板で構成されたパワーモジュール用基板を安定して製造することができるパワーモジュール用基板の製造方法、ヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法、及び、パワーモジュール用基板及びヒートシンク付パワーモジュール用基板を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1の実施形態であるパワーモジュール用基板を用いたパワーモジュールの概略説明図である。
【図2】図1に示すパワーモジュールの製造方法のフロー図である。
【図3】本発明の第1の実施形態であるパワーモジュール用基板の製造方法を示す説明図である。
【図4】図1に示すヒートシンク付パワーモジュールの製造方法を示す説明図である。
【図5】本発明の第2の実施形態であるパワーモジュール用基板を用いたパワーモジュールの概略説明図である。
【図6】本発明の第2の実施形態であるパワーモジュール用基板(ヒートシンク付パワーモジュール用基板)の金属層のセラミックス基板との界面における添加元素の濃度分布を示す説明図である。
【図7】本発明の第2の実施形態であるパワーモジュール用基板(ヒートシンク付パワーモジュール用基板)の金属層及びヒートシンク(放熱板)における添加元素の濃度分布を示す説明図である。
【図8】本発明の第2の実施形態であるパワーモジュール用基板(ヒートシンク付パワーモジュール用基板)のフロー図である。
【図9】本発明の第2の実施形態であるパワーモジュール用基板(ヒートシンク付パワーモジュール用基板)の製造方法を示す説明図である。
【図10】図9における金属層とセラミックス基板との接合界面近傍を示す説明図である。
【図11】図9における金属層とヒートシンクとの接合界面近傍を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明の実施形態について添付した図面を参照して説明する。
図1に、本発明の第1の実施形態であるパワーモジュール用基板、ヒートシンク付パワーモジュール用基板及びパワーモジュールを示す。
このパワーモジュール1は、回路層12が配設されたパワーモジュール用基板10と、回路層12の表面にはんだ層2を介して接合された半導体素子3と、パワーモジュール用基板10の他方側(図1において下側)に配設されたヒートシンク40とを備えている。ここで、はんだ層2は、例えばSn−Ag系、Sn−In系、若しくはSn−Ag−Cu系のはんだ材とされている。なお、本実施形態では、回路層12とはんだ層2との間にNiメッキ層(図示なし)が設けられている。
【0023】
パワーモジュール用基板10は、セラミックス基板11と、このセラミックス基板11の一方の面(図1において上面)に配設された回路層12と、セラミックス基板11の他方の面(図1において下面)に配設された金属層13とを備えている。
セラミックス基板11は、回路層12と金属層13との間の電気的接続を防止するものであって、絶縁性の高いAlN(窒化アルミ)で構成されている。また、セラミックス基板11の厚さtsは、0.2mm≦ts≦1.5mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、ts=0.635mmに設定されている。
【0024】
回路層12は、図3に示すように、セラミックス基板11の一方の面に、銅又は銅合金からなる銅板22が接合されることにより形成されている。この銅板22は、再結晶温度が150℃以下とされた銅又は銅合金で構成されており、本実施形態では、純度が99.999質量%以上の5NCuで構成されている。なお、再結晶温度とは、アルゴン雰囲気中で3600秒熱処理した場合に引張強度が完全焼鈍時と冷間加工(冷間加工率50%)時との差の中間値になった時の加熱温度とする。
【0025】
金属層13は、図3に示すように、セラミックス基板11の他方の面に、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム板23が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、金属層13は、純度が99.99質量%以上のアルミニウム(いわゆる4Nアルミニウム)の圧延板からなる金属板23がセラミックス基板11に接合されることで形成されている。
【0026】
ここで、図1に示すように、回路層12の厚さtc及び金属層13の厚さtaは、回路層12の厚さtcが0.1mm≦tc≦0.6mmとされ、金属層13の厚さtaが0.4mm≦ta≦3.0mmとされ、かつ、tc<taとなるように構成されている。本実施形態では、tc=0.3mm、ta=2.0mmとされている。
【0027】
ヒートシンク40は、前述のパワーモジュール用基板10を冷却するためのものであり、パワーモジュール用基板10と接合される天板部41と、冷却媒体(例えば冷却水)を流通するための流路42と、を備えている。ヒートシンク40(天板部41)は、熱伝導性が良好な材質で構成されることが望ましく、本実施形態においては、A6063(アルミニウム合金)で構成されている。
【0028】
以下に、本実施形態であるパワーモジュール用基板10、ヒートシンク付パワーモジュール用基板及びパワーモジュール1の製造方法について、図2から図4を参照して説明する。このパワーモジュール1の製造方法は、図2に示すように、銅板22とセラミックス基板11とを接合する銅板接合工程S01と、セラミックス基板11とアルミニウム板23とを接合するアルミニウム板接合工程S02と、パワーモジュール用基板10とヒートシンク40とを接合するヒートシンク接合工程S03と、回路層12の一面に半導体素子3を接合する半導体素子接合工程S04と、を備えている。
【0029】
(銅板接合工程S01/アルミニウム板接合工程S02)
まず、図3に示すように、セラミックス基板11の一方の面側(図3において上側)に、第1ろう材24を介して銅板22を積層する。また、セラミックス基板11の他方の面側(図3において下側)に第2ろう材25を介してアルミニウム板23を積層する。
ここで、アルミニウム板23とセラミックス基板11との間に介在される第2ろう材25は、Al−Si系合金とされており、本実施形態では、Al−7.5質量%Siからなる厚さ5〜30μmのろう材箔を用いている。
【0030】
そして、銅板22とセラミックス基板11との間に介在される第1ろう材24は、その固相温度がアルミニウム板23の融点未満とされている。具体的には、第1ろう材24は、Ag−Cu−Ti系合金に、In,Bi,Li,Snから選択される1種又は2種以上の低融点元素が添加された構成とされており、本実施形態では、Ag−24質量%Cu−2質量%Ti−14質量%In合金とされている。また、第1ろう材24の厚さは10〜100μmとされている。
【0031】
次に、積層された銅板22、セラミックス基板11、アルミニウム板23を、積層方向に加圧(圧力1.5〜35kgf/cm2)した状態で真空加熱炉内に装入して加熱し、銅板22とセラミックス基板11との界面に第1溶融金属領域27を形成し、セラミックス基板11とアルミニウム板23との界面に第2溶融金属領域28を形成する。
ここで、本実施形態では、真空加熱炉内の圧力は10−6Pa以上10−3Pa以下の範囲内に、加熱温度は630℃以上655℃以下の範囲内に設定している。
【0032】
ついで、上述の第1溶融金属領域27及び第2溶融金属領域28を凝固させることによって、銅板22とセラミックス基板11、セラミックス基板11とアルミニウム板23とを接合する。すなわち、銅板接合工程S01とアルミニウム板接合工程S02とが同時に実施されているのである。
このようにして、本実施形態であるパワーモジュール用基板10が製出される。
【0033】
(ヒートシンク接合工程S03)
次に、図4に示すように、パワーモジュール用基板10の金属層13の他方側(図4において下側)に、ろう材26を介してヒートシンク40を積層する。このろう材26は、第1ろう材24、第2ろう材25よりも固相温度が低い合金で構成されており、本実施形態では、Al―10質量%Si合金とされている。また、ろう材26の厚さは50〜100μmとされている。
【0034】
積層されたパワーモジュール用基板10とヒートシンク40とを積層方向に加圧(圧力1.5〜35kgf/cm2)した状態で真空加熱炉内に装入して加熱し、金属層13とヒートシンク40との間に溶融金属領域29を形成する。
そして、この溶融金属領域29を凝固させることで、ヒートシンク40とパワーモジュール用基板10とを接合する。このようにして、本実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板が製出される。
【0035】
(半導体素子接合工程S04)
次に、回路層12の表面に形成されたNiメッキ層(図示なし)の上に、はんだ材を介して半導体素子3を載置し、還元炉内においてはんだ接合する。これにより、半導体素子3が、はんだ層2を介してパワーモジュール用基板10上に接合され、本実施形態であるパワーモジュール1が製出される。
【0036】
以上のような構成とされた本実施形態によれば、回路層12が、変形抵抗が比較的大きい銅板22によって構成されているので、回路層12表面におけるうねりやシワの発生を抑制することができる。よって、鉛フリーはんだ材を用いた場合であっても、はんだ層2におけるクラックの発生を抑制することができる。
特に、本実施形態では、銅板22が、再結晶温度が150℃以下の5NCuで構成されているので、銅板22が再結晶することにより回路層12が必要以上に硬くならず、回路層12やセラミックス基板11に亀裂が生じることを抑制することができる。
【0037】
また、ヒートシンク40とセラミックス基板11との間に介在する金属層13が、アルミニウム板23で構成され、本実施形態では、4Nアルミニウムで構成されているので、セラミックス基板11とヒートシンク40との熱膨張係数の差によって生じる熱応力を金属層13の変形によって吸収することができ、セラミックス基板11の割れの防止及びヒートシンク40とセラミックス基板11との接合信頼性の向上を図ることができる。
【0038】
そして、本実施形態では、回路層12を形成する銅板接合工程S01と、金属層13を形成するアルミニウム板接合工程S02とを、同時に実施する構成としているので、パワーモジュール用基板11を製造する際に、セラミックス基板11における反りの発生を抑えることができ、セラミックス基板11の割れを防止することができる。また、アルミニウム板23を接合することで金属層13を形成しているので、金属層13の内部にブローホール等の欠陥がない。
【0039】
また、銅板接合工程S01において、固相温度がアルミニウム板23の融点未満とされた第1ろう材24を用いているので、アルミニウム板23の融点未満の温度条件でおいても、銅板22とセラミックス基板11とを確実に接合することができる。
本実施形態では、第1ろう材24として、Ag−Cu−Ti系合金にIn,Bi,Li,Snから選択される1種又は2種以上の低融点元素を添加した合金、具体的には、Ag−24質量%Cu−2質量%Ti−14質量%In合金を用いているので、固相温度が620℃となり、アルミニウム板23の融点未満の温度条件で銅板22とセラミックス基板11とを強固に接合することができる。
【0040】
本実施形態では、銅板22からなる回路層12の厚さtcとアルミニウム板23からなる金属層13の厚さtaとがtc<taとされているので、セラミックス基板11の一方の面側の剛性と他方の面側の剛性とが大きく異なることがなく、セラミックス基板11の反りの発生を抑制することができる。
また、銅板22からなる回路層12の厚さtcが、tc≧0.1mmとされているので、回路層12における導電性を確保することができる。また、銅板22からなる回路層12の厚さtcが、tc≦0.6mmとされているので、回路層12の変形抵抗が必要以上に大きくならず、セラミックス基板11の割れの発生を抑制することができる。
さらに、アルミニウム板23からなる金属層13の厚さtaが、ta≧0.4mmとされているので、金属層13において熱応力を確実に吸収することができる。また、アルミニウム板23からなる金属層13の厚さが、ta≦3.0mmとされているので、熱抵抗を抑えることができ、ヒートシンク40側に熱を効率良く放散することができる。
【0041】
以下に、本発明の第2の実施形態について、図5から図11を参照して説明する。
本実施形態であるパワーモジュール101は、回路層112が配設されたパワーモジュール用基板110と、回路層112の表面にはんだ層102を介して接合された半導体素子103と、パワーモジュール用基板110の他方側(図5において下側)に配設されたヒートシンク140とを備えている。ここで、はんだ層102は、例えばSn−Ag系、Sn−In系、若しくはSn−Ag−Cu系のはんだ材とされている。なお、本実施形態では、回路層112とはんだ層102との間にNiメッキ層(図示なし)が設けられている。
【0042】
パワーモジュール用基板110は、セラミックス基板111と、このセラミックス基板111の一方の面(図5において上面)に配設された回路層112と、セラミックス基板111の他方の面(図5において下面)に配設された金属層113とを備えている。
セラミックス基板111は、回路層112と金属層113との間の電気的接続を防止するものであって、絶縁性の高いAl2O3(アルミナ)で構成されている。また、セラミックス基板111の厚さtsは、0.2mm≦ts≦1.5mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、ts=0.635mmに設定されている。
【0043】
回路層112は、図9に示すように、セラミックス基板111の一方の面に、銅板122が接合されることにより形成されている。この銅板122は、再結晶温度が150℃以下とされた銅又は銅合金で構成されており、本実施形態では、純度が99.9999質量%以上の6NCuで構成されている。
【0044】
金属層113は、図9に示すように、セラミックス基板111の他方の面に、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム板123が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、金属層113は、純度が99.99質量%以上のアルミニウム(いわゆる4Nアルミニウム)の圧延板からなる金属板123がセラミックス基板111に接合されることで形成されている。
【0045】
ここで、図5に示すように、回路層112の厚さtc及び金属層113の厚さtaは、回路層112の厚さtcが0.1mm≦tc≦0.6mmとされ、金属層113の厚さtaが0.4mm≦ta≦3.0mmとされ、かつ、tc<taとなるように構成されている。本実施形態では、tc=0.3mm、ta=2.0mmとされている。
【0046】
ヒートシンク140は、前述のパワーモジュール用基板110を冷却するためのものである。本実施形態では、ヒートシンク140は、アルミニウム又はアルミニウム合金で構成された放熱板とされている。
【0047】
そして、図6に示すように、セラミックス基板111と金属層113との接合界面においては、Si,Cu,Zn,Ge,Ag,Mg,Ca,Ga及びLiから選択される1種又は2種以上の添加元素が固溶しており、本実施形態では、添加元素としてCuが固溶している。
ここで、金属層113の接合界面近傍には、接合界面から積層方向に離間するにしたがい漸次添加元素の濃度(本実施形態ではCu濃度)が低下する濃度傾斜層131が形成されている。また、この濃度傾斜層131の接合界面側(金属層113の接合界面近傍)の添加元素の濃度(本実施形態ではCu濃度)が、0.01質量%以上5質量%以下の範囲内に設定されている。
なお、金属層113の接合界面近傍の添加元素の濃度は、EPMA分析(スポット径30μm)によって、接合界面から50μmの位置で5点測定した平均値である。また、図6のグラフは、金属層113の中央部分において積層方向にライン分析を行い、縦軸のCu濃度は前述の50μm位置でのCu濃度を基準として求めたものである。
【0048】
また、図7に示すように、金属層113とヒートシンク140との接合界面においては、金属層113及びヒートシンク140に、Si,Cu,Zn,Ge,Ag,Mg,Ca,Ga及びLiから選択される1種又は2種以上の添加元素が固溶しており、本実施形態では、添加元素としてCuが固溶している。
ここで、金属層113及びヒートシンク140の接合界面近傍には、接合界面から積層方向に離間するにしたがい漸次添加元素の濃度(本実施形態ではCu濃度)が低下する濃度傾斜層136、137が形成されている。また、この濃度傾斜層136、137の接合界面側(金属層113及びヒートシンク140の接合界面近傍)の添加元素の濃度(本実施形態ではCu濃度)が、0.01質量%以上5質量%以下の範囲内に設定されている。
なお、この金属層113及びヒートシンク140の接合界面近傍の添加元素の濃度は、EPMA分析(スポット径30μm)によって、接合界面から50μmの位置で5点測定した平均値である。また、図7のグラフは、金属層113及びヒートシンク140の中央部分において積層方向にライン分析を行い、前述の50μm位置での濃度を基準として求めたものである。
【0049】
以下に、本実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法について、図8から図11を参照して説明する。
このヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法は、銅板122とセラミックス基板111とを接合する銅板接合工程S101と、セラミックス基板111とアルミニウム板123とを接合するアルミニウム板接合工程S102と、パワーモジュール用基板110とヒートシンク140とを接合するヒートシンク接合工程S103と、を備えている。
【0050】
(銅板接合工程S101/アルミニウム板接合工程S102/ヒートシンク接合工程S103)
まず、図9に示すように、アルミニウム板123の一方の面にスパッタリングによって添加元素(Cu)を固着して第1固着層125を形成するとともに、アルミニウム板123の他方の面にスパッタリングによって添加元素(Cu)を固着して第2固着層126を形成する。ここで、第1固着層125及び第2固着層126における添加元素量は0.01mg/cm2以上10mg/cm2以下の範囲内とされており、本実施形態では、添加元素としてCuを用いており、第1固着層125及び第2固着層126におけるCu量が0.08mg/cm2以上2.7mg/cm2以下に設定されている。
【0051】
そして、図9に示すように、セラミックス基板111の他方の面側(図9において下側)に、アルミニウム板123を積層する。さらに、アルミニウム板123の他方の面側にヒートシンク140を積層する。
さらに、セラミックス基板111の一方の面側(図9において上側)に、第1ろう材124を介して銅板122を積層する。
【0052】
ここで、銅板122とセラミックス基板111との間に介在される第1ろう材124は、その液相温度がアルミニウム板123の融点未満とされている。具体的には、第1ろう材124は、Ag−Cu−Ti系合金に、In,Bi,Li,Snから選択される1種又は2種以上の低融点元素が添加された合金とされており、本実施形態では、Ag−24質量%Cu−2質量%Ti−14質量%In合金とされている。また、第1ろう材124の厚さは10〜100μmとされている。
【0053】
次に、銅板122、セラミックス基板111、アルミニウム板123、ヒートシンク140を、その積層方向に加圧(圧力1〜35kgf/cm2)した状態で真空加熱炉内に装入して加熱する。ここで、本実施形態では、真空加熱炉内の圧力は10−3〜10−6Paの範囲内に設定し、加熱温度は630℃以上655℃以下の範囲内に設定している。
【0054】
すると、第1ろう材124が溶融することにより、銅板122とセラミックス基板111との界面に第1溶融金属領域127が形成される。
また、セラミックス基板111とアルミニウム板123との界面に第2溶融金属領域128が形成されるとともに、アルミニウム板123とヒートシンク140との界面に溶融金属領域129が形成される。
【0055】
ここで、セラミックス基板111とアルミニウム板123との界面に形成される第2溶融金属領域128は、図10に示すように、第1固着層125の添加元素(Cu)がアルミニウム板123側に拡散することによって、アルミニウム板123の第1固着層125近傍の添加元素の濃度(Cu濃度)が上昇して融点が低くなることにより形成されるものである。
【0056】
また、アルミニウム板123とヒートシンク140との界面に形成される溶融金属領域129は、図11に示すように、第2固着層126の添加元素(Cu)がアルミニウム板123側及びヒートシンク140側に拡散することによって、アルミニウム板123及びヒートシンク140の第2固着層126近傍の添加元素の濃度(Cu濃度)が上昇して融点が低くなることにより形成されるものである。
【0057】
次に、第2溶融金属領域128、溶融金属領域129、が形成された状態で温度を一定に保持しておく。
すると、第2溶融金属領域128中のCuが、さらにアルミニウム板123側へと拡散していくことになる。これにより、第2溶融金属領域128であった部分のCu濃度が徐々に低下していき融点が上昇することになり、温度を一定に保持した状態で凝固が進行していく。これにより、セラミックス基板111とアルミニウム板123とが接合される。
同様に、溶融金属領域129中のCuが、さらにアルミニウム板123側及びヒートシンク140側へと拡散し、溶融金属領域129であった部分のCu濃度が徐々に低下していき融点が上昇することになり、温度を一定に保持した状態で凝固が進行していく。これにより、アルミニウム板123とヒートシンク140とが接合される。
【0058】
つまり、セラミックス基板111とアルミニウム板123、及び、アルミニウム板123とヒートシンク140とは、いわゆる液相拡散接合(Transient Liquid Phase Diffusion Bonding)によって接合されているのである。このようにして凝固が進行した後に、常温にまで冷却を行う。
そして、冷却する過程において、銅板122とセラミックス基板111との界面に形成された第1溶融金属領域127が凝固し、銅板122とセラミックス基板111とが接合される。
【0059】
このようにして、銅板122、セラミックス基板111、アルミニウム板123、ヒートシンク140が接合され、本実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板が製造されることになる。
【0060】
以上のような構成とされた本実施形態によれば、回路層112が銅板122によって構成され、金属層113がアルミニウム板123で構成されているので、第1の実施形態と同様の作用効果を奏することが可能となる。
また、本実施形態では、回路層112となる銅板123と、セラミックス基板111と、金属層113となるアルミニウム板123と、ヒートシンク140と、同時に接合する構成とされていることから、接合時におけるセラミックス基板111の反りの発生を抑制することができる。また、ヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造コストを低減することができる。
【0061】
さらに、本実施形態では、セラミックス基板111とアルミニウム板123とが、いわゆる液相拡散接合法によって接合されているので、セラミックス基板111とアルミニウム板123とを強固に接合でき、接合信頼性に優れたパワーモジュール用基板10を製造することができる。
さらに、本実施形態では、アルミニウム板123とヒートシンク140との接合も、液相拡散接合法によって接合されているので、アルミニウム板123とヒートシンク140とを強固に接合できる。
【0062】
また、本実施形態では、金属層113のうちセラミックス基板111との接合界面近傍及びヒートシンク140との接合界面近傍に、添加元素であるCuが固溶しているので、金属層113の接合界面近傍の強度を向上させることができる。
具体的には、金属層113のうちセラミックス基板111との接合界面近傍におけるCu濃度が0.05質量%以上とされているので、金属層113の接合界面側部分を確実に強化することができ、金属層113における亀裂の発生を防止できる。また、金属層113のうちセラミックス基板111との接合界面近傍におけるCu濃度が5質量%以下とされているので、金属層113の接合界面の強度が必要以上に高くなることを防止できる。よって、このパワーモジュール用基板110に熱サイクルが負荷された際の熱応力を金属層113で吸収することができ、セラミックス基板111の割れ等を防止できる。
【0063】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、セラミックス基板として、AlN、Al2O3で構成されたものを例示して説明したが、これに限定されることはなく、Si3N4等の他のセラミックス材料で構成されたものであってもよい。
【0064】
また、銅板を、5NCu、あるいは、無酸素銅にZrを50質量ppm添加した銅合金で構成したもので説明したが、これに限定されることはない。なお、銅板は、再結晶温度が150℃以下とされた銅又は銅合金で構成されていることが好ましい。
さらに、アルミニウム板を、4Nアルミニウムで構成したもので説明したが、この実施形態に限定されることはない。ただし、熱応力を確実に吸収するために、耐力が30MPa以下のアルミニウム又はアルミニウム合金を用いることが好ましい。
【0065】
また、第2の実施形態において、セラミックス基板とアルミニウム板、アルミニウム板とヒートシンクの間に、添加元素としてCuを固着して接合するものとして説明したが、これに限定されることはなく、Si,Cu,Ag,Zn,Mg,Ge,Ca,Ga,Liのうちのいずれか1種又は2種以上の添加元素を固着してもよい。
なお、MgやCa等の易酸化元素を用いる場合には、アルミニウムとともに添加元素を固着することが好ましい。これにより、MgやCa等の易酸化元素が酸化損耗することを抑制することができる。
【0066】
また、第2の実施形態において、アルミニウム板にCuを固着するものとして説明したが、これに限定されることはなく、セラミックス基板やヒートシンク側に添加元素を固着してもよい。
さらに、スパッタによってCuを固着するものとして説明したが、これに限定されることはなく、めっき、蒸着、CVD、コールドスプレー、又は、粉末が分散しているペースト又はインクなどの塗布等でCuを固着させてもよい。
【0067】
また、本実施形態では、ヒートシンクをA6063合金で構成したものとして説明したが、これに限定されることはなく、A1100合金、A3003合金、A5052合金、A7N01合金等の他の金属材料で構成されたものであってもよい。
さらに、ヒートシンクの構造は、本実施形態に限定されることはなく、他の構造のヒートシンクを採用してもよい。
【0068】
また、本実施形態では、ヒートシンクの上に一つのパワーモジュール用基板が接合された構成として説明したが、これに限定されることはなく、一つのヒートシンクの上に複数のパワーモジュール用基板が接合されていてもよい。
【符号の説明】
【0069】
1, 101 パワーモジュール
2, 102 はんだ層
3, 103 半導体素子
10,110 パワーモジュール用基板
11,111 セラミックス基板
12,112 回路層
13,113 金属層
22,122 銅板
23,123 アルミニウム板
24,124 第1ろう材(接合材)
40,140 ヒートシンク
【技術分野】
【0001】
この発明は、大電流、高電圧を制御する半導体装置に用いられるパワーモジュール用基板の製造方法、ヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法、パワーモジュール用基板及びヒートシンク付パワーモジュール用基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体素子の中でも電力供給のためのパワーモジュールは、発熱量が比較的高いため、これを搭載する基板としては、例えば、AlN(窒化アルミ)、Al2O3(アルミナ)、Si3N4(窒化ケイ素)などからなるセラミックス基板の一方の面側に回路層が形成され、セラミックス基板の他方の面側に金属層が形成されたパワーモジュール用基板が用いられる。このパワーモジュール用基板においては、金属層を介してヒートシンクが接続され、ヒートシンク付パワーモジュール用基板とされる。また、回路層の上に、はんだ層を介してパワー素子としての半導体素子が搭載され、パワーモジュールとされる。
【0003】
上述のパワーモジュール用基板として、例えば特許文献1には、セラミックス基板の一方の面にアルミニウム板をろう付けして回路層とし、セラミックス基板の他方の面にアルミニウム板をろう付けして金属層としたものが提案されている。
また、特許文献2には、セラミックス基板の一方の面に金属板を接合して回路層とし、セラミックス基板の他方の面側に、鋳造法によってアルミニウム層を形成して金属層としたパワーモジュール用基板が開示されている。
【0004】
上述のパワーモジュールにおいては、使用時に熱サイクルが負荷されることになる。すると、セラミックス基板と回路層及び金属層との接合界面には、セラミックス基板とアルミニウムとの熱膨張係数の差によって熱応力が作用し、セラミックス基板と回路層及び金属層との接合信頼性が低下するおそれがあった。ここで、純度が99.99質量%以上のアルミニウム(いわゆる4Nアルミニウム)等の比較的変形抵抗の小さな金属で回路層及び金属層を構成し、熱応力を回路層及び金属層の変形によって吸収することにより、接合信頼性の向上を図ることが可能となる。特に、ヒートシンクを接続した場合には、ヒートシンクとセラミックス基板との熱膨張係数の差によって熱応力が発生するため、金属層によって熱応力を十分に吸収する必要がある。
【0005】
ところで、回路層を、4Nアルミニウム等の比較的変形抵抗の小さな金属で構成した場合、熱サイクルを負荷した際に、回路層の表面にうねりやシワが発生してしまうといった問題があった。回路層の表面にうねりやシワが発生した場合には、はんだ層にクラックが発生し、パワーモジュールの信頼性が低下することになる。
特に、最近では、環境負荷の観点から、はんだ層として、Sn−Ag系、Sn−Cu系の鉛フリーはんだ材が使用されることが多くなっている。これらの鉛フリーはんだ材は、従来のSn−Pb系はんだ材に比べて変形しにくく、回路層のうねりやシワによって、はんだ層にクラックが生じやすい傾向にある。
また、最近は、パワーモジュールの小型化・薄肉化が進められるとともに、その使用環境も厳しくなってきており、半導体素子等の電子部品からの発熱量が大きくなっているため、熱サイクルの温度差が大きく、回路層の表面にうねりやシワが発生しやすい傾向にある。
【0006】
ここで、例えば特許文献2には、回路層として銅板を用いたものが開示されている。回路層を銅板で構成した場合には、銅板の変形抵抗がアルミニウムに比べて大きいことから、回路層におけるうねりやシワの発生を抑制することが可能となる。
また、特許文献2では、セラミックス基板の他方の面側にアルミニウムからなる金属層を形成することで、ヒートシンクとセラミックス基板との熱膨張係数の差による熱応力を吸収し、セラミックス基板と回路層及び金属層との接合信頼性の向上を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3171234号公報
【特許文献2】特開2002−076551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特許文献2においては、セラミックス基板の一方の面側に銅板を例えば800℃で接合した後に、セラミックス基板の他方の面側に、鋳造法によってアルミニウムからなる金属層を形成している。
ここで、セラミックス基板の一方の面に銅板を接合した状態で加熱した場合には、セラミックス基板に大きな反りが生じ、セラミックス基板に割れが発生したり、鋳造法によって形成される金属層の厚さが大きくばらついたりしてしまうおそれがあった。また、金属層の内部にブローホール等の鋳造欠陥が発生し、金属層が脆くなったり、熱伝導性が低下したりするおそれがあった。
【0009】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、セラミックス基板に大きな反りが生じることがなく、かつ、金属層においてブローホール等の欠陥が発生することなく、回路層が銅板で構成されるとともに金属層がアルミニウム板で構成されたパワーモジュール用基板を安定して製造することができるパワーモジュール用基板の製造方法、ヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法、及び、パワーモジュール用基板及びヒートシンク付パワーモジュール用基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような課題を解決して、上述の目的を達成するために、本発明のパワーモジュール用基板の製造方法は、セラミックス基板の一方の面に回路層が形成され、前記セラミックス基板の他方の面側に金属層が形成されたパワーモジュール用基板の製造方法であって、 前記セラミックス基板の一方の面に、銅又は銅合金からなる銅板を接合して前記回路層を形成する銅板接合工程と、前記セラミックス基板の他方の面に、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム板を接合して前記金属層を形成するアルミニウム板接合工程と、を有し、前記銅板接合工程では、前記銅板と前記セラミックス基板とを、固相温度が前記アルミニウム板の融点未満とされた接合材を用いて接合する構成とされており、前記銅板接合工程と前記アルミニウム板接合工程とを同時に行うことを特徴としている。
【0011】
この構成のパワーモジュール用基板の製造方法においては、銅又は銅合金からなる銅板を接合して前記回路層を形成する銅板接合工程と、前記セラミックス基板の他方の面に、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム板を接合して前記金属層を形成するアルミニウム板接合工程と、を同時に行う構成とされていることから、接合時においてセラミックス基板に生じる反りを抑えることができ、セラミックス基板の割れを防止することができる。また、金属層がアルミニウム板を接合することで形成されているので、金属層の内部にブローホール等の欠陥がなく、金属層が脆くなったり、熱伝導性が部分的に低下することがない。
また、銅板接合工程において、固相温度が前記アルミニウム板の融点未満とされた接合材を用いて前記銅板と前記セラミックス基板とを接合する構成としていることから、アルミニウム板の融点未満の温度条件でおいても、銅板と前記セラミックス基板とを確実に接合することができる。
【0012】
ここで、前記接合材は、Ag−Cu−Ti系合金に、In,Bi,Li,Snから選択される1種又は2種以上の低融点元素が添加された構成とされていることが好ましい。
この場合、接合材の固相温度を前記アルミニウム板の融点未満とすることができ、銅板接合工程において、アルミニウム板の融点未満の温度条件でも、前記銅板と前記セラミックス基板とを強固に接合することができる。
【0013】
前記アルミニウム板接合工程は、前記セラミックス基板の接合面及び前記アルミニウム板の接合面のうち少なくとも一方に、Si,Cu,Zn,Ge,Ag,Mg,Ca,Ga及びLiから選択される1種又は2種以上の添加元素を固着し、前記添加元素を含有する固着層を形成する固着工程と、前記固着層を介して前記セラミックス基板と前記アルミニウム板と積層する積層工程と、積層された前記セラミックス基板と前記アルミニウム板とを積層方向に加圧するとともに加熱し、前記セラミックス基板と前記アルミニウム板との界面に溶融金属領域を形成する加熱工程と、この溶融金属領域を凝固させることによって、前記セラミックス基板と前記アルミニウム板とを接合する凝固工程と、を有し、前記加熱工程において、前記固着層の元素を前記アルミニウム板側に拡散させることにより、前記セラミックス基板と前記アルミニウム板との界面に、前記溶融金属領域を形成することが好ましい。
この場合、アルミニウム板とセラミックス基板とが、いわゆる液相拡散接合法(Transient Liquid Phase Diffusion Bonding)によって接合されているので、アルミニウム板とセラミックス基板とを強固に接合でき、接合信頼性に優れたパワーモジュール用基板を製造することができる。
【0014】
前記銅板は、再結晶温度が150℃以下とされた銅又は銅合金で構成されていることが好ましい。
この場合、回路層となる銅板の再結晶温度が150℃以下とされているので、使用条件下でも銅板が再結晶することになり、回路層が必要以上に硬くならず、回路層及びセラミックス基板における亀裂の発生を抑制することができる。
なお、本明細書における再結晶温度とは、アルゴン雰囲気中で3600秒熱処理した場合に引張強度が完全焼鈍時と冷間加工(冷間加工率50%)時との差の中間値になった時の加熱温度とする。
また、再結晶温度が150℃以下とされた銅は、例えば純度が99.999質量%以上のいわゆる5NCu,6NCuを用いることができる。
【0015】
前記アルミニウム板は、純度が99.98質量%以上のアルミニウムで構成されていることが好ましい。
この場合、金属層を構成するアルミニウム板が、純度99.98質量%以上とされているので、比較的変形抵抗が小さく、熱応力を効率的に吸収することができる。
【0016】
前記銅板の厚さtcが、0.1mm≦tc≦0.6mmとされ、前記アルミニウム板の厚さtaが、0.4mm≦ta≦3.0mmとされており、さらに、tc<taとされていることが好ましい。
この場合、前記銅板の厚さtcと前記アルミニウム板の厚さtaとがtc<taとされているので、セラミックス基板の一方の面側の剛性と他方の面側の剛性とが大きく異なることがなく、セラミックス基板の反りの発生を抑制することができる。
また、銅板の厚さtcが、tc≧0.1mmとされているので、回路層における導電性を確保することができる。また、銅板の厚さtcが、tc≦0.6mmとされているので、回路層の変形抵抗が必要以上に大きくならず、セラミックス基板の割れの発生を抑制することができる。
さらに、アルミニウム板の厚さtaが、ta≧0.4mmとされているので、金属層において熱応力を確実に吸収することができる。また、アルミニウム板の厚さtaが、ta≦3.0mmとされているので、熱抵抗を抑えることができ、ヒートシンク側に熱を効率良く放散することができる。
【0017】
本発明のヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法は、上述のパワーモジュール用基板の製造方法によって製造されたパワーモジュール用基板に、このパワーモジュール用基板を冷却するヒートシンクが配設されたヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法であって、前記ヒートシンクと前記金属層とを接合するヒートシンク接合工程を有し、前記銅板接合工程と前記アルミニウム板接合工程と前記ヒートシンク接合工程とを同時に行うことを特徴としている。
この構成のヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法によれば、回路層となる銅板と、セラミックス基板と、金属層となるアルミニウム板と、ヒートシンクと、同時に接合することから、セラミックス基板の反りの発生を抑制することができる。また、ヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造コストを低減することができる。
【0018】
本発明のパワーモジュール用基板は、上述のパワーモジュール用基板の製造方法によって製造されたことを特徴としている。
この構成のパワーモジュール用基板においては、回路層が銅板で構成されているので、回路層表面におけるうねりやシワの発生を抑制することができる。また、製造時におけるセラミックス基板の反りが抑制されているので、回路層と金属層との電気的接続を確実に防止することができる。
【0019】
本発明のヒートシンク付パワーモジュール用基板は、上述のパワーモジュール用基板の製造方法によって製造されたパワーモジュール用基板と、このパワーモジュール用基板を冷却するヒートシンクと、を備えたことを特徴としている。
この構成のヒートシンク付パワーモジュール用基板においては、ヒートシンクとセラミックス基板との間にアルミニウム板からなる金属層が配設されているので、この金属層において熱応力を吸収することが可能となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、セラミックス基板に大きな反りが生じることがなく、かつ、金属層においてブローホール等の欠陥が発生することなく、回路層が銅板で構成されるとともに金属層がアルミニウム板で構成されたパワーモジュール用基板を安定して製造することができるパワーモジュール用基板の製造方法、ヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法、及び、パワーモジュール用基板及びヒートシンク付パワーモジュール用基板を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1の実施形態であるパワーモジュール用基板を用いたパワーモジュールの概略説明図である。
【図2】図1に示すパワーモジュールの製造方法のフロー図である。
【図3】本発明の第1の実施形態であるパワーモジュール用基板の製造方法を示す説明図である。
【図4】図1に示すヒートシンク付パワーモジュールの製造方法を示す説明図である。
【図5】本発明の第2の実施形態であるパワーモジュール用基板を用いたパワーモジュールの概略説明図である。
【図6】本発明の第2の実施形態であるパワーモジュール用基板(ヒートシンク付パワーモジュール用基板)の金属層のセラミックス基板との界面における添加元素の濃度分布を示す説明図である。
【図7】本発明の第2の実施形態であるパワーモジュール用基板(ヒートシンク付パワーモジュール用基板)の金属層及びヒートシンク(放熱板)における添加元素の濃度分布を示す説明図である。
【図8】本発明の第2の実施形態であるパワーモジュール用基板(ヒートシンク付パワーモジュール用基板)のフロー図である。
【図9】本発明の第2の実施形態であるパワーモジュール用基板(ヒートシンク付パワーモジュール用基板)の製造方法を示す説明図である。
【図10】図9における金属層とセラミックス基板との接合界面近傍を示す説明図である。
【図11】図9における金属層とヒートシンクとの接合界面近傍を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明の実施形態について添付した図面を参照して説明する。
図1に、本発明の第1の実施形態であるパワーモジュール用基板、ヒートシンク付パワーモジュール用基板及びパワーモジュールを示す。
このパワーモジュール1は、回路層12が配設されたパワーモジュール用基板10と、回路層12の表面にはんだ層2を介して接合された半導体素子3と、パワーモジュール用基板10の他方側(図1において下側)に配設されたヒートシンク40とを備えている。ここで、はんだ層2は、例えばSn−Ag系、Sn−In系、若しくはSn−Ag−Cu系のはんだ材とされている。なお、本実施形態では、回路層12とはんだ層2との間にNiメッキ層(図示なし)が設けられている。
【0023】
パワーモジュール用基板10は、セラミックス基板11と、このセラミックス基板11の一方の面(図1において上面)に配設された回路層12と、セラミックス基板11の他方の面(図1において下面)に配設された金属層13とを備えている。
セラミックス基板11は、回路層12と金属層13との間の電気的接続を防止するものであって、絶縁性の高いAlN(窒化アルミ)で構成されている。また、セラミックス基板11の厚さtsは、0.2mm≦ts≦1.5mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、ts=0.635mmに設定されている。
【0024】
回路層12は、図3に示すように、セラミックス基板11の一方の面に、銅又は銅合金からなる銅板22が接合されることにより形成されている。この銅板22は、再結晶温度が150℃以下とされた銅又は銅合金で構成されており、本実施形態では、純度が99.999質量%以上の5NCuで構成されている。なお、再結晶温度とは、アルゴン雰囲気中で3600秒熱処理した場合に引張強度が完全焼鈍時と冷間加工(冷間加工率50%)時との差の中間値になった時の加熱温度とする。
【0025】
金属層13は、図3に示すように、セラミックス基板11の他方の面に、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム板23が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、金属層13は、純度が99.99質量%以上のアルミニウム(いわゆる4Nアルミニウム)の圧延板からなる金属板23がセラミックス基板11に接合されることで形成されている。
【0026】
ここで、図1に示すように、回路層12の厚さtc及び金属層13の厚さtaは、回路層12の厚さtcが0.1mm≦tc≦0.6mmとされ、金属層13の厚さtaが0.4mm≦ta≦3.0mmとされ、かつ、tc<taとなるように構成されている。本実施形態では、tc=0.3mm、ta=2.0mmとされている。
【0027】
ヒートシンク40は、前述のパワーモジュール用基板10を冷却するためのものであり、パワーモジュール用基板10と接合される天板部41と、冷却媒体(例えば冷却水)を流通するための流路42と、を備えている。ヒートシンク40(天板部41)は、熱伝導性が良好な材質で構成されることが望ましく、本実施形態においては、A6063(アルミニウム合金)で構成されている。
【0028】
以下に、本実施形態であるパワーモジュール用基板10、ヒートシンク付パワーモジュール用基板及びパワーモジュール1の製造方法について、図2から図4を参照して説明する。このパワーモジュール1の製造方法は、図2に示すように、銅板22とセラミックス基板11とを接合する銅板接合工程S01と、セラミックス基板11とアルミニウム板23とを接合するアルミニウム板接合工程S02と、パワーモジュール用基板10とヒートシンク40とを接合するヒートシンク接合工程S03と、回路層12の一面に半導体素子3を接合する半導体素子接合工程S04と、を備えている。
【0029】
(銅板接合工程S01/アルミニウム板接合工程S02)
まず、図3に示すように、セラミックス基板11の一方の面側(図3において上側)に、第1ろう材24を介して銅板22を積層する。また、セラミックス基板11の他方の面側(図3において下側)に第2ろう材25を介してアルミニウム板23を積層する。
ここで、アルミニウム板23とセラミックス基板11との間に介在される第2ろう材25は、Al−Si系合金とされており、本実施形態では、Al−7.5質量%Siからなる厚さ5〜30μmのろう材箔を用いている。
【0030】
そして、銅板22とセラミックス基板11との間に介在される第1ろう材24は、その固相温度がアルミニウム板23の融点未満とされている。具体的には、第1ろう材24は、Ag−Cu−Ti系合金に、In,Bi,Li,Snから選択される1種又は2種以上の低融点元素が添加された構成とされており、本実施形態では、Ag−24質量%Cu−2質量%Ti−14質量%In合金とされている。また、第1ろう材24の厚さは10〜100μmとされている。
【0031】
次に、積層された銅板22、セラミックス基板11、アルミニウム板23を、積層方向に加圧(圧力1.5〜35kgf/cm2)した状態で真空加熱炉内に装入して加熱し、銅板22とセラミックス基板11との界面に第1溶融金属領域27を形成し、セラミックス基板11とアルミニウム板23との界面に第2溶融金属領域28を形成する。
ここで、本実施形態では、真空加熱炉内の圧力は10−6Pa以上10−3Pa以下の範囲内に、加熱温度は630℃以上655℃以下の範囲内に設定している。
【0032】
ついで、上述の第1溶融金属領域27及び第2溶融金属領域28を凝固させることによって、銅板22とセラミックス基板11、セラミックス基板11とアルミニウム板23とを接合する。すなわち、銅板接合工程S01とアルミニウム板接合工程S02とが同時に実施されているのである。
このようにして、本実施形態であるパワーモジュール用基板10が製出される。
【0033】
(ヒートシンク接合工程S03)
次に、図4に示すように、パワーモジュール用基板10の金属層13の他方側(図4において下側)に、ろう材26を介してヒートシンク40を積層する。このろう材26は、第1ろう材24、第2ろう材25よりも固相温度が低い合金で構成されており、本実施形態では、Al―10質量%Si合金とされている。また、ろう材26の厚さは50〜100μmとされている。
【0034】
積層されたパワーモジュール用基板10とヒートシンク40とを積層方向に加圧(圧力1.5〜35kgf/cm2)した状態で真空加熱炉内に装入して加熱し、金属層13とヒートシンク40との間に溶融金属領域29を形成する。
そして、この溶融金属領域29を凝固させることで、ヒートシンク40とパワーモジュール用基板10とを接合する。このようにして、本実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板が製出される。
【0035】
(半導体素子接合工程S04)
次に、回路層12の表面に形成されたNiメッキ層(図示なし)の上に、はんだ材を介して半導体素子3を載置し、還元炉内においてはんだ接合する。これにより、半導体素子3が、はんだ層2を介してパワーモジュール用基板10上に接合され、本実施形態であるパワーモジュール1が製出される。
【0036】
以上のような構成とされた本実施形態によれば、回路層12が、変形抵抗が比較的大きい銅板22によって構成されているので、回路層12表面におけるうねりやシワの発生を抑制することができる。よって、鉛フリーはんだ材を用いた場合であっても、はんだ層2におけるクラックの発生を抑制することができる。
特に、本実施形態では、銅板22が、再結晶温度が150℃以下の5NCuで構成されているので、銅板22が再結晶することにより回路層12が必要以上に硬くならず、回路層12やセラミックス基板11に亀裂が生じることを抑制することができる。
【0037】
また、ヒートシンク40とセラミックス基板11との間に介在する金属層13が、アルミニウム板23で構成され、本実施形態では、4Nアルミニウムで構成されているので、セラミックス基板11とヒートシンク40との熱膨張係数の差によって生じる熱応力を金属層13の変形によって吸収することができ、セラミックス基板11の割れの防止及びヒートシンク40とセラミックス基板11との接合信頼性の向上を図ることができる。
【0038】
そして、本実施形態では、回路層12を形成する銅板接合工程S01と、金属層13を形成するアルミニウム板接合工程S02とを、同時に実施する構成としているので、パワーモジュール用基板11を製造する際に、セラミックス基板11における反りの発生を抑えることができ、セラミックス基板11の割れを防止することができる。また、アルミニウム板23を接合することで金属層13を形成しているので、金属層13の内部にブローホール等の欠陥がない。
【0039】
また、銅板接合工程S01において、固相温度がアルミニウム板23の融点未満とされた第1ろう材24を用いているので、アルミニウム板23の融点未満の温度条件でおいても、銅板22とセラミックス基板11とを確実に接合することができる。
本実施形態では、第1ろう材24として、Ag−Cu−Ti系合金にIn,Bi,Li,Snから選択される1種又は2種以上の低融点元素を添加した合金、具体的には、Ag−24質量%Cu−2質量%Ti−14質量%In合金を用いているので、固相温度が620℃となり、アルミニウム板23の融点未満の温度条件で銅板22とセラミックス基板11とを強固に接合することができる。
【0040】
本実施形態では、銅板22からなる回路層12の厚さtcとアルミニウム板23からなる金属層13の厚さtaとがtc<taとされているので、セラミックス基板11の一方の面側の剛性と他方の面側の剛性とが大きく異なることがなく、セラミックス基板11の反りの発生を抑制することができる。
また、銅板22からなる回路層12の厚さtcが、tc≧0.1mmとされているので、回路層12における導電性を確保することができる。また、銅板22からなる回路層12の厚さtcが、tc≦0.6mmとされているので、回路層12の変形抵抗が必要以上に大きくならず、セラミックス基板11の割れの発生を抑制することができる。
さらに、アルミニウム板23からなる金属層13の厚さtaが、ta≧0.4mmとされているので、金属層13において熱応力を確実に吸収することができる。また、アルミニウム板23からなる金属層13の厚さが、ta≦3.0mmとされているので、熱抵抗を抑えることができ、ヒートシンク40側に熱を効率良く放散することができる。
【0041】
以下に、本発明の第2の実施形態について、図5から図11を参照して説明する。
本実施形態であるパワーモジュール101は、回路層112が配設されたパワーモジュール用基板110と、回路層112の表面にはんだ層102を介して接合された半導体素子103と、パワーモジュール用基板110の他方側(図5において下側)に配設されたヒートシンク140とを備えている。ここで、はんだ層102は、例えばSn−Ag系、Sn−In系、若しくはSn−Ag−Cu系のはんだ材とされている。なお、本実施形態では、回路層112とはんだ層102との間にNiメッキ層(図示なし)が設けられている。
【0042】
パワーモジュール用基板110は、セラミックス基板111と、このセラミックス基板111の一方の面(図5において上面)に配設された回路層112と、セラミックス基板111の他方の面(図5において下面)に配設された金属層113とを備えている。
セラミックス基板111は、回路層112と金属層113との間の電気的接続を防止するものであって、絶縁性の高いAl2O3(アルミナ)で構成されている。また、セラミックス基板111の厚さtsは、0.2mm≦ts≦1.5mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、ts=0.635mmに設定されている。
【0043】
回路層112は、図9に示すように、セラミックス基板111の一方の面に、銅板122が接合されることにより形成されている。この銅板122は、再結晶温度が150℃以下とされた銅又は銅合金で構成されており、本実施形態では、純度が99.9999質量%以上の6NCuで構成されている。
【0044】
金属層113は、図9に示すように、セラミックス基板111の他方の面に、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム板123が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、金属層113は、純度が99.99質量%以上のアルミニウム(いわゆる4Nアルミニウム)の圧延板からなる金属板123がセラミックス基板111に接合されることで形成されている。
【0045】
ここで、図5に示すように、回路層112の厚さtc及び金属層113の厚さtaは、回路層112の厚さtcが0.1mm≦tc≦0.6mmとされ、金属層113の厚さtaが0.4mm≦ta≦3.0mmとされ、かつ、tc<taとなるように構成されている。本実施形態では、tc=0.3mm、ta=2.0mmとされている。
【0046】
ヒートシンク140は、前述のパワーモジュール用基板110を冷却するためのものである。本実施形態では、ヒートシンク140は、アルミニウム又はアルミニウム合金で構成された放熱板とされている。
【0047】
そして、図6に示すように、セラミックス基板111と金属層113との接合界面においては、Si,Cu,Zn,Ge,Ag,Mg,Ca,Ga及びLiから選択される1種又は2種以上の添加元素が固溶しており、本実施形態では、添加元素としてCuが固溶している。
ここで、金属層113の接合界面近傍には、接合界面から積層方向に離間するにしたがい漸次添加元素の濃度(本実施形態ではCu濃度)が低下する濃度傾斜層131が形成されている。また、この濃度傾斜層131の接合界面側(金属層113の接合界面近傍)の添加元素の濃度(本実施形態ではCu濃度)が、0.01質量%以上5質量%以下の範囲内に設定されている。
なお、金属層113の接合界面近傍の添加元素の濃度は、EPMA分析(スポット径30μm)によって、接合界面から50μmの位置で5点測定した平均値である。また、図6のグラフは、金属層113の中央部分において積層方向にライン分析を行い、縦軸のCu濃度は前述の50μm位置でのCu濃度を基準として求めたものである。
【0048】
また、図7に示すように、金属層113とヒートシンク140との接合界面においては、金属層113及びヒートシンク140に、Si,Cu,Zn,Ge,Ag,Mg,Ca,Ga及びLiから選択される1種又は2種以上の添加元素が固溶しており、本実施形態では、添加元素としてCuが固溶している。
ここで、金属層113及びヒートシンク140の接合界面近傍には、接合界面から積層方向に離間するにしたがい漸次添加元素の濃度(本実施形態ではCu濃度)が低下する濃度傾斜層136、137が形成されている。また、この濃度傾斜層136、137の接合界面側(金属層113及びヒートシンク140の接合界面近傍)の添加元素の濃度(本実施形態ではCu濃度)が、0.01質量%以上5質量%以下の範囲内に設定されている。
なお、この金属層113及びヒートシンク140の接合界面近傍の添加元素の濃度は、EPMA分析(スポット径30μm)によって、接合界面から50μmの位置で5点測定した平均値である。また、図7のグラフは、金属層113及びヒートシンク140の中央部分において積層方向にライン分析を行い、前述の50μm位置での濃度を基準として求めたものである。
【0049】
以下に、本実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法について、図8から図11を参照して説明する。
このヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法は、銅板122とセラミックス基板111とを接合する銅板接合工程S101と、セラミックス基板111とアルミニウム板123とを接合するアルミニウム板接合工程S102と、パワーモジュール用基板110とヒートシンク140とを接合するヒートシンク接合工程S103と、を備えている。
【0050】
(銅板接合工程S101/アルミニウム板接合工程S102/ヒートシンク接合工程S103)
まず、図9に示すように、アルミニウム板123の一方の面にスパッタリングによって添加元素(Cu)を固着して第1固着層125を形成するとともに、アルミニウム板123の他方の面にスパッタリングによって添加元素(Cu)を固着して第2固着層126を形成する。ここで、第1固着層125及び第2固着層126における添加元素量は0.01mg/cm2以上10mg/cm2以下の範囲内とされており、本実施形態では、添加元素としてCuを用いており、第1固着層125及び第2固着層126におけるCu量が0.08mg/cm2以上2.7mg/cm2以下に設定されている。
【0051】
そして、図9に示すように、セラミックス基板111の他方の面側(図9において下側)に、アルミニウム板123を積層する。さらに、アルミニウム板123の他方の面側にヒートシンク140を積層する。
さらに、セラミックス基板111の一方の面側(図9において上側)に、第1ろう材124を介して銅板122を積層する。
【0052】
ここで、銅板122とセラミックス基板111との間に介在される第1ろう材124は、その液相温度がアルミニウム板123の融点未満とされている。具体的には、第1ろう材124は、Ag−Cu−Ti系合金に、In,Bi,Li,Snから選択される1種又は2種以上の低融点元素が添加された合金とされており、本実施形態では、Ag−24質量%Cu−2質量%Ti−14質量%In合金とされている。また、第1ろう材124の厚さは10〜100μmとされている。
【0053】
次に、銅板122、セラミックス基板111、アルミニウム板123、ヒートシンク140を、その積層方向に加圧(圧力1〜35kgf/cm2)した状態で真空加熱炉内に装入して加熱する。ここで、本実施形態では、真空加熱炉内の圧力は10−3〜10−6Paの範囲内に設定し、加熱温度は630℃以上655℃以下の範囲内に設定している。
【0054】
すると、第1ろう材124が溶融することにより、銅板122とセラミックス基板111との界面に第1溶融金属領域127が形成される。
また、セラミックス基板111とアルミニウム板123との界面に第2溶融金属領域128が形成されるとともに、アルミニウム板123とヒートシンク140との界面に溶融金属領域129が形成される。
【0055】
ここで、セラミックス基板111とアルミニウム板123との界面に形成される第2溶融金属領域128は、図10に示すように、第1固着層125の添加元素(Cu)がアルミニウム板123側に拡散することによって、アルミニウム板123の第1固着層125近傍の添加元素の濃度(Cu濃度)が上昇して融点が低くなることにより形成されるものである。
【0056】
また、アルミニウム板123とヒートシンク140との界面に形成される溶融金属領域129は、図11に示すように、第2固着層126の添加元素(Cu)がアルミニウム板123側及びヒートシンク140側に拡散することによって、アルミニウム板123及びヒートシンク140の第2固着層126近傍の添加元素の濃度(Cu濃度)が上昇して融点が低くなることにより形成されるものである。
【0057】
次に、第2溶融金属領域128、溶融金属領域129、が形成された状態で温度を一定に保持しておく。
すると、第2溶融金属領域128中のCuが、さらにアルミニウム板123側へと拡散していくことになる。これにより、第2溶融金属領域128であった部分のCu濃度が徐々に低下していき融点が上昇することになり、温度を一定に保持した状態で凝固が進行していく。これにより、セラミックス基板111とアルミニウム板123とが接合される。
同様に、溶融金属領域129中のCuが、さらにアルミニウム板123側及びヒートシンク140側へと拡散し、溶融金属領域129であった部分のCu濃度が徐々に低下していき融点が上昇することになり、温度を一定に保持した状態で凝固が進行していく。これにより、アルミニウム板123とヒートシンク140とが接合される。
【0058】
つまり、セラミックス基板111とアルミニウム板123、及び、アルミニウム板123とヒートシンク140とは、いわゆる液相拡散接合(Transient Liquid Phase Diffusion Bonding)によって接合されているのである。このようにして凝固が進行した後に、常温にまで冷却を行う。
そして、冷却する過程において、銅板122とセラミックス基板111との界面に形成された第1溶融金属領域127が凝固し、銅板122とセラミックス基板111とが接合される。
【0059】
このようにして、銅板122、セラミックス基板111、アルミニウム板123、ヒートシンク140が接合され、本実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板が製造されることになる。
【0060】
以上のような構成とされた本実施形態によれば、回路層112が銅板122によって構成され、金属層113がアルミニウム板123で構成されているので、第1の実施形態と同様の作用効果を奏することが可能となる。
また、本実施形態では、回路層112となる銅板123と、セラミックス基板111と、金属層113となるアルミニウム板123と、ヒートシンク140と、同時に接合する構成とされていることから、接合時におけるセラミックス基板111の反りの発生を抑制することができる。また、ヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造コストを低減することができる。
【0061】
さらに、本実施形態では、セラミックス基板111とアルミニウム板123とが、いわゆる液相拡散接合法によって接合されているので、セラミックス基板111とアルミニウム板123とを強固に接合でき、接合信頼性に優れたパワーモジュール用基板10を製造することができる。
さらに、本実施形態では、アルミニウム板123とヒートシンク140との接合も、液相拡散接合法によって接合されているので、アルミニウム板123とヒートシンク140とを強固に接合できる。
【0062】
また、本実施形態では、金属層113のうちセラミックス基板111との接合界面近傍及びヒートシンク140との接合界面近傍に、添加元素であるCuが固溶しているので、金属層113の接合界面近傍の強度を向上させることができる。
具体的には、金属層113のうちセラミックス基板111との接合界面近傍におけるCu濃度が0.05質量%以上とされているので、金属層113の接合界面側部分を確実に強化することができ、金属層113における亀裂の発生を防止できる。また、金属層113のうちセラミックス基板111との接合界面近傍におけるCu濃度が5質量%以下とされているので、金属層113の接合界面の強度が必要以上に高くなることを防止できる。よって、このパワーモジュール用基板110に熱サイクルが負荷された際の熱応力を金属層113で吸収することができ、セラミックス基板111の割れ等を防止できる。
【0063】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、セラミックス基板として、AlN、Al2O3で構成されたものを例示して説明したが、これに限定されることはなく、Si3N4等の他のセラミックス材料で構成されたものであってもよい。
【0064】
また、銅板を、5NCu、あるいは、無酸素銅にZrを50質量ppm添加した銅合金で構成したもので説明したが、これに限定されることはない。なお、銅板は、再結晶温度が150℃以下とされた銅又は銅合金で構成されていることが好ましい。
さらに、アルミニウム板を、4Nアルミニウムで構成したもので説明したが、この実施形態に限定されることはない。ただし、熱応力を確実に吸収するために、耐力が30MPa以下のアルミニウム又はアルミニウム合金を用いることが好ましい。
【0065】
また、第2の実施形態において、セラミックス基板とアルミニウム板、アルミニウム板とヒートシンクの間に、添加元素としてCuを固着して接合するものとして説明したが、これに限定されることはなく、Si,Cu,Ag,Zn,Mg,Ge,Ca,Ga,Liのうちのいずれか1種又は2種以上の添加元素を固着してもよい。
なお、MgやCa等の易酸化元素を用いる場合には、アルミニウムとともに添加元素を固着することが好ましい。これにより、MgやCa等の易酸化元素が酸化損耗することを抑制することができる。
【0066】
また、第2の実施形態において、アルミニウム板にCuを固着するものとして説明したが、これに限定されることはなく、セラミックス基板やヒートシンク側に添加元素を固着してもよい。
さらに、スパッタによってCuを固着するものとして説明したが、これに限定されることはなく、めっき、蒸着、CVD、コールドスプレー、又は、粉末が分散しているペースト又はインクなどの塗布等でCuを固着させてもよい。
【0067】
また、本実施形態では、ヒートシンクをA6063合金で構成したものとして説明したが、これに限定されることはなく、A1100合金、A3003合金、A5052合金、A7N01合金等の他の金属材料で構成されたものであってもよい。
さらに、ヒートシンクの構造は、本実施形態に限定されることはなく、他の構造のヒートシンクを採用してもよい。
【0068】
また、本実施形態では、ヒートシンクの上に一つのパワーモジュール用基板が接合された構成として説明したが、これに限定されることはなく、一つのヒートシンクの上に複数のパワーモジュール用基板が接合されていてもよい。
【符号の説明】
【0069】
1, 101 パワーモジュール
2, 102 はんだ層
3, 103 半導体素子
10,110 パワーモジュール用基板
11,111 セラミックス基板
12,112 回路層
13,113 金属層
22,122 銅板
23,123 アルミニウム板
24,124 第1ろう材(接合材)
40,140 ヒートシンク
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス基板の一方の面に回路層が形成され、前記セラミックス基板の他方の面側に金属層が形成されたパワーモジュール用基板の製造方法であって、
前記セラミックス基板の一方の面に、銅又は銅合金からなる銅板を接合して前記回路層を形成する銅板接合工程と、
前記セラミックス基板の他方の面に、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム板を接合して前記金属層を形成するアルミニウム板接合工程と、を有し、
前記銅板接合工程では、前記銅板と前記セラミックス基板とを、液相温度が前記アルミニウム板の融点未満とされた接合材を用いて接合する構成とされており、
前記銅板接合工程と前記アルミニウム板接合工程とを同時に行うことを特徴とするパワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項2】
前記接合材は、Ag−Cu−Ti系合金に、In,Bi,Li,Snから選択される1種又は2種以上の低融点元素が添加された構成とされていることを特徴とする請求項1に記載のパワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項3】
前記アルミニウム板接合工程は、前記セラミックス基板の接合面及び前記アルミニウム板の接合面のうち少なくとも一方に、Si,Cu,Zn,Ge,Ag,Mg,Ca,Ga及びLiから選択される1種又は2種以上の添加元素を固着し、前記添加元素を含有する固着層を形成する固着工程と、前記固着層を介して前記セラミックス基板と前記アルミニウム板と積層する積層工程と、積層された前記セラミックス基板と前記アルミニウム板とを積層方向に加圧するとともに加熱し、前記セラミックス基板と前記アルミニウム板との界面に溶融金属領域を形成する加熱工程と、この溶融金属領域を凝固させることによって、前記セラミックス基板と前記アルミニウム板とを接合する凝固工程と、を有し、前記加熱工程において、前記固着層の元素を前記アルミニウム板側に拡散させることにより、前記セラミックス基板と前記アルミニウム板との界面に、前記溶融金属領域を形成することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のパワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項4】
前記銅板は、再結晶温度が150℃以下とされた銅又は銅合金で構成されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のパワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項5】
前記アルミニウム板は、純度が99.98質量%以上のアルミニウムで構成されていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のパワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項6】
前記銅板の厚さtcが、0.1mm≦tc≦0.6mmとされ、前記アルミニウム板の厚さtaが、0.4mm≦ta≦3.0mmとされており、さらに、tc<taとされていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のパワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のパワーモジュール用基板の製造方法によって製造されたパワーモジュール用基板に、このパワーモジュール用基板を冷却するヒートシンクが配設されたヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法であって、
前記ヒートシンクと前記金属層とを接合するヒートシンク接合工程を有し、
前記銅板接合工程と前記アルミニウム板接合工程と前記ヒートシンク接合工程とを同時に行うことを特徴とするヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項8】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のパワーモジュール用基板の製造方法によって製造されたことを特徴とするパワーモジュール用基板。
【請求項9】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のパワーモジュール用基板の製造方法によって製造されたパワーモジュール用基板と、このパワーモジュール用基板を冷却するヒートシンクと、を備えたことを特徴とするヒートシンク付パワーモジュール用基板。
【請求項1】
セラミックス基板の一方の面に回路層が形成され、前記セラミックス基板の他方の面側に金属層が形成されたパワーモジュール用基板の製造方法であって、
前記セラミックス基板の一方の面に、銅又は銅合金からなる銅板を接合して前記回路層を形成する銅板接合工程と、
前記セラミックス基板の他方の面に、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム板を接合して前記金属層を形成するアルミニウム板接合工程と、を有し、
前記銅板接合工程では、前記銅板と前記セラミックス基板とを、液相温度が前記アルミニウム板の融点未満とされた接合材を用いて接合する構成とされており、
前記銅板接合工程と前記アルミニウム板接合工程とを同時に行うことを特徴とするパワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項2】
前記接合材は、Ag−Cu−Ti系合金に、In,Bi,Li,Snから選択される1種又は2種以上の低融点元素が添加された構成とされていることを特徴とする請求項1に記載のパワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項3】
前記アルミニウム板接合工程は、前記セラミックス基板の接合面及び前記アルミニウム板の接合面のうち少なくとも一方に、Si,Cu,Zn,Ge,Ag,Mg,Ca,Ga及びLiから選択される1種又は2種以上の添加元素を固着し、前記添加元素を含有する固着層を形成する固着工程と、前記固着層を介して前記セラミックス基板と前記アルミニウム板と積層する積層工程と、積層された前記セラミックス基板と前記アルミニウム板とを積層方向に加圧するとともに加熱し、前記セラミックス基板と前記アルミニウム板との界面に溶融金属領域を形成する加熱工程と、この溶融金属領域を凝固させることによって、前記セラミックス基板と前記アルミニウム板とを接合する凝固工程と、を有し、前記加熱工程において、前記固着層の元素を前記アルミニウム板側に拡散させることにより、前記セラミックス基板と前記アルミニウム板との界面に、前記溶融金属領域を形成することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のパワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項4】
前記銅板は、再結晶温度が150℃以下とされた銅又は銅合金で構成されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のパワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項5】
前記アルミニウム板は、純度が99.98質量%以上のアルミニウムで構成されていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のパワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項6】
前記銅板の厚さtcが、0.1mm≦tc≦0.6mmとされ、前記アルミニウム板の厚さtaが、0.4mm≦ta≦3.0mmとされており、さらに、tc<taとされていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のパワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のパワーモジュール用基板の製造方法によって製造されたパワーモジュール用基板に、このパワーモジュール用基板を冷却するヒートシンクが配設されたヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法であって、
前記ヒートシンクと前記金属層とを接合するヒートシンク接合工程を有し、
前記銅板接合工程と前記アルミニウム板接合工程と前記ヒートシンク接合工程とを同時に行うことを特徴とするヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項8】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のパワーモジュール用基板の製造方法によって製造されたことを特徴とするパワーモジュール用基板。
【請求項9】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のパワーモジュール用基板の製造方法によって製造されたパワーモジュール用基板と、このパワーモジュール用基板を冷却するヒートシンクと、を備えたことを特徴とするヒートシンク付パワーモジュール用基板。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−98387(P2013−98387A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−240478(P2011−240478)
【出願日】平成23年11月1日(2011.11.1)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月1日(2011.11.1)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】
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