説明

パワーモジュール用基板

【課題】熱サイクル時における亀裂の進展が抑制されるとともに、耐久性が向上されるパワーモジュール用基板を提供することにある。
【解決手段】セラミックス基板2は、形状の異なる複数種類のAlN粒子からなるセラミックス焼結体20で形成されており、前記AlN粒子は、板状AlN粒子2aと、繊維状AlN粒子2bと、球状AlN粒子2cとを有しており、前記板状AlN粒子2aは、外形寸法が5μm以上30μm以下とされており、前記繊維状AlN粒子2bは、短軸径が0.05μm以上3μm以下、且つアスペクト比が3以上20以下とされており、前記球状AlN粒子2cは、粒子径が1nm以上500nm以下とされており、これら各AlN粒子は夫々の前記セラミックス基板2に占める割合が、5体積%以上50体積%以下とされていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス焼結体を用いたセラミックス基板を備えるとともに、大電流・大電圧を制御する半導体装置に用いられるパワーモジュール用基板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体素子の中でも電力供給のためのパワーモジュールは発熱量が比較的高く、これを搭載する基板としては、例えば、AlN(窒化アルミニウム)のセラミックス基板上にAl(アルミニウム)の金属板が接合されたパワーモジュール用基板が用いられる。また、この金属板は回路層として形成され、その金属板のさらに上には、半導体チップ等のパワー素子(電子部品)が搭載される。なお、セラミックス基板の下面にも放熱のための熱伝導層としてAl等の金属板が接合され、この金属板を介してヒートシンク等の放熱板上にパワーモジュール用基板全体が接合されたものが知られている。
【0003】
上述のパワーモジュール用基板の前記セラミックス基板として、セラミックス材料を焼結してなるセラミックス焼結体を適用することが可能である。例えば特許文献1に記載されたセラミックス焼結体は、セラミックス粒子を母材とするマトリックスと、このマトリックスに分散されるセラミックス球状粒子及びセラミックス板状粒子とから形成されている。
【特許文献1】特開平7−82047号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このようなセラミックス焼結体からなるセラミックス基板を用いても、未だパワーモジュール用基板の熱サイクル時における耐久性は充分とは言えず、使用時にこのセラミックス焼結体を形成する粒子の粒界に沿って亀裂が進展することがあった。そのため、熱サイクル時の強度をさらに向上させ、耐久性の高いパワーモジュール用基板を製作可能なセラミックス焼結体が求められていた。
【0005】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、熱サイクル時における亀裂の進展が抑制されるとともに、耐久性が向上されるパワーモジュール用基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提案している。すなわち本発明は、セラミックス基板の表面に回路層となる金属板を接合したパワーモジュール用基板であって、前記セラミックス基板は、形状の異なる複数種類のAlN粒子からなるセラミックス焼結体で形成されており、前記AlN粒子は、板状AlN粒子と、繊維状AlN粒子と、球状AlN粒子とを有しており、前記板状AlN粒子は、外形寸法が5μm以上30μm以下とされているとともに、前記セラミックス基板に占める割合が、5体積%以上50体積%以下とされており、前記繊維状AlN粒子は、短軸径が0.05μm以上3μm以下、且つアスペクト比が3以上20以下とされているとともに、前記セラミックス基板に占める割合が、5体積%以上50体積%以下とされており、前記球状AlN粒子は、粒子径が1nm以上500nm以下とされているとともに、前記セラミックス基板に占める割合が、5体積%以上50体積%以下とされていることを特徴とする。
【0007】
この発明に係るパワーモジュール用基板によれば、セラミックス基板のセラミックス焼結体に含まれる板状AlN(窒化アルミニウム)粒子は、その外形寸法が5μm以上30μm以下とされているので、適度に緻密化されて破壊抵抗が増加されるとともに、粒子の粒界に沿って発生する亀裂先端の偏向効果が得られるようになっている。従って、このパワーモジュール用基板は、そのセラミックス基板の焼結性が高められ強度が向上されているとともに、該セラミックス基板の亀裂の進展が抑制される。ここで、板状AlN粒子の外形寸法は、5μmより小さく作製することは困難であり、また30μmより大きくすると緻密体の作製が困難となるため、上記範囲とすることが好ましい。
【0008】
また、このセラミックス基板の繊維状AlN粒子は、短軸径が0.05μm以上3μm以下、且つアスペクト比が3以上20以下とされているので、前述の板状AlN粒子同士を架橋し繋ぎ留める効果を充分に発揮することができる。従って、板状AlN粒子の粒界に沿って亀裂が発生した際には、この繊維状AlN粒子がこれら板状AlN粒子同士を架橋するようにして繋ぎ留めるとともに、ピン留め効果を奏効せしめて、亀裂が進展するのを防止する。ここで、繊維状AlN粒子の短軸径は、0.05μmより小さい場合や3μmより大きい場合には、充分なピン留め効果が得られないため、上記範囲とすることが好ましい。
【0009】
さらに、このセラミックス基板の球状AlN粒子は、粒子径が1nm以上500nm以下とされており、板状AlN粒子の粒界近傍に配置されやすくなされているので、これら板状AlN粒子同士を密着させるようにして繋ぎ留め、前述の繊維状AlN粒子の架橋効果をより促進することができる。また、これら球状AlN粒子が、板状AlN粒子の転位の移動を抑制する(ピン留め効果)ため、強度が向上される。また、ナノサイズの粒子が板状AlN粒子の粒界の隙間を埋めるようにして配置されるので、このセラミックス基板は相対密度が非常に高く形成されるとともにその焼結性が向上する。ここで、球状AlN粒子の粒子径は、1nmより小さく作製することは困難であり、また500nmより大きくすると粒子間の空隙を埋めるのに適さないため、上記範囲とすることが好ましい。
【0010】
また、これら板状AlN粒子、繊維状AlN粒子、球状AlN粒子は夫々のセラミックス基板に占める割合が、5体積%以上50体積%以下とされているので、夫々の粒子の作用効果を確実に奏功せしめるとともに、このセラミックス基板の強度及び熱サイクル時の耐久性が向上される。これら各AlN粒子のセラミックス基板に占める割合が夫々5体積%に満たない場合は、夫々の粒子の作用効果が充分に現れず、また、これら各AlN粒子のセラミックス基板に占める割合が夫々50体積%を超えると緻密体の作製が困難となり、焼結体の強度が逆に低減する虞があるので、前述の5体積%以上50体積%以下とされるのが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るパワーモジュール用基板によれば、熱サイクル時における亀裂の進展が抑制されるとともに、耐久性が向上される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照し、この発明の実施の形態について説明する。
図1は本発明の一実施形態に係るパワーモジュール用基板を示す概略斜視図、図2は図1のパワーモジュール用基板のセラミックス基板を形成するセラミックス焼結体を示す部分拡大図である。
【0013】
図1に示すように、本実施形態に係るパワーモジュール用基板1は、矩形板状のセラミックス基板2を有しており、このセラミックス基板2の表面側に回路層となる回路層用金属板3が積層されるとともに、裏面側に放熱のための熱伝導層となる熱伝導層用金属板4が積層された構成である。例えば、これら回路層用金属板3及び熱伝導層用金属板4は、純Alにより形成されている。
【0014】
また、図2において、本実施形態のパワーモジュール用基板1に用いられるセラミックス基板2は、セラミックス材料を焼結してなるセラミックス焼結体20により形成されている。詳しくは、このセラミックス焼結体20は、板状AlN(窒化アルミニウム)粒子2aと、この板状AlN粒子の粒界近傍及び粒子内に分散される繊維状AlN粒子及び球状AlN粒子とから構成されている。また、この板状AlN粒子2aは、その外形寸法が5μm以上30μm以下とされている。
【0015】
また、繊維状AlN粒子2bは、短軸径が0.05μm以上3μm以下、且つアスペクト比が3以上20以下とされ、板状AlN粒子2a同士を貫通するようにして配置されている。また、球状AlN粒子2cは、粒子径が1nm以上500nm以下とされており、板状AlN粒子2aの粒界近傍及びこれら粒子同士の間隙を埋めるようにして、或いは板状AlN粒子2a内に配置されている。これら球状AlN粒子2cにより、このセラミックス焼結体20の相対密度は一定以上の高い状態が確保されており、例えばその相対密度は98%程度まで高められている。
【0016】
また、これら板状AlN粒子2a、繊維状AlN粒子2b、球状AlN粒子2cは夫々のセラミックス焼結体20(セラミックス基板2)に占める割合が、5体積%以上50体積%以下とされている。つまり、夫々の粒子が少なくとも5体積%以上含まれているのである。
【0017】
このセラミックス焼結体20の板状AlN粒子2aは、例えば、アルミニウム粉末に、このアルミニウム粉末の平均粒径の1〜10倍の平均粒径の窒化アルミニウム粉末を混合し、この混合粉末を窒素雰囲気中で700℃以上に加熱して窒化アルミニウムを合成し原料の粉末を得ることができる。
【0018】
また、繊維状AlN粒子2bは、例えば、グラファイト等の反応容器内にアルミニウムブロックを入れ、これを真空雰囲気中で加熱しアルミニウム蒸気を発生させるとともに、この反応容器内に窒素ガスを流入し反応させて、原料の粉末を得ることができる。また、球状AlN粒子2cは、例えば、α−アルミナ微粉末とカーボンブラック微粉末とに高純度の窒化アルミニウム微粉末を添加して十分に混合し、これを加圧して圧成体とし、この圧成体を窒素雰囲気中で1550℃〜1650℃に加熱して還元窒化し、さらに600℃〜700℃で加熱してカーボンブラックを除去することにより、原料の粉末を得ることができる。そして、これら夫々の原料粉末を十分に混合した後、Arガス雰囲気中において 2000℃にて200MPaの条件で加圧焼結して、本実施形態のセラミックス焼結体20を得ることができる。
【0019】
以上説明したように、本実施形態のパワーモジュール用基板1によれば、セラミックス基板2のセラミックス焼結体20に含まれる板状AlN(窒化アルミニウム)粒子2aは、その外形寸法が5μm以上30μm以下とされているので、適度に緻密化されて破壊抵抗が増加されるとともに、粒子の粒界に沿って発生する亀裂先端の偏向効果が得られるようになっている。従って、このパワーモジュール用基板1は、そのセラミックス基板2の焼結性が高められ強度が向上されているとともに、該セラミックス基板2の亀裂の進展が抑制される。ここで、板状AlN粒子2aの外形寸法は、5μmより小さく作製することは困難であり、また30μmより大きくすると緻密体の作製が困難となるため、上記範囲とすることが好ましい。
【0020】
また、このセラミックス基板2の繊維状AlN粒子2bは、短軸径が0.05μm以上3μm以下、且つアスペクト比が3以上20以下とされているので、前述の板状AlN粒子2a同士を架橋し繋ぎ留める効果を充分に発揮することができる。従って、板状AlN粒子2aの粒界に沿って亀裂が発生した際には、この繊維状AlN粒子2bがこれら板状AlN粒子2a同士を架橋するようにして繋ぎ留めるとともに、ピン留め効果を奏効せしめて、亀裂が進展するのを防止する。ここで、繊維状AlN粒子2bの短軸径は、0.05μmより小さい場合や3μmより大きい場合には、充分なピン留め効果が得られないため、上記範囲とすることが好ましい。
【0021】
さらに、このセラミックス基板2の球状AlN粒子2cは、粒子径が1nm以上500nm以下とされており、板状AlN粒子2aの粒界近傍に配置されやすくなされているので、これら板状AlN粒子2a同士を密着させるようにして繋ぎ留め、前述の繊維状AlN粒子2bの架橋効果をより促進することができる。また、これら球状AlN粒子2cが、板状AlN粒子2aの転位の移動を抑制する(ピン留め効果)ため、強度が向上される。また、ナノサイズの粒子が板状AlN粒子2aの粒界の隙間を埋めるようにして配置されるので、このセラミックス基板2は相対密度が非常に高く形成されるとともにその焼結性が向上する。ここで、球状AlN粒子2cの粒子径は、1nmより小さく作製することは困難であり、また500nmより大きくすると粒子間の空隙を埋めるのに適さないため、上記範囲とすることが好ましい。
【0022】
また、これら板状AlN粒子2a、繊維状AlN粒子2b、球状AlN粒子2cは夫々のセラミックス基板2に占める割合が、5体積%以上50体積%以下とされているので、夫々の粒子の作用効果を確実に奏功せしめるとともに、このセラミックス基板2の強度及び熱サイクル時の耐久性が向上される。これら各AlN粒子のセラミックス基板2に占める割合が夫々5体積%に満たない場合は、夫々の粒子の作用効果が充分に現れず、また、これら各AlN粒子のセラミックス基板2に占める割合が夫々50体積%を超えると緻密体の作製が困難となり、焼結体の強度が逆に低減する虞があるので、前述の5体積%以上50体積%以下とされるのが好ましい。
【0023】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。例えば、本実施形態ではパワーモジュール用基板1について説明したが、これに限られず、このパワーモジュール用基板1の表面に半導体チップ等の電子部品(不図示)を搭載し、パワーモジュール用基板1の裏面に熱交換器であるヒートシンク(不図示)を接合することによってパワーモジュールを形成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態に係るパワーモジュール用基板を示す概略斜視図である。
【図2】図1のパワーモジュール用基板のセラミックス基板を形成するセラミックス焼結体を示す部分拡大図である。
【符号の説明】
【0025】
1 パワーモジュール用基板
2 セラミックス基板
2a 板状AlN粒子
2b 繊維状AlN粒子
2c 球状AlN粒子
20 セラミックス焼結体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス基板の表面に回路層となる金属板を接合したパワーモジュール用基板であって、
前記セラミックス基板は、形状の異なる複数種類のAlN粒子からなるセラミックス焼結体で形成されており、
前記AlN粒子は、板状AlN粒子と、繊維状AlN粒子と、球状AlN粒子とを有しており、
前記板状AlN粒子は、外形寸法が5μm以上30μm以下とされているとともに、前記セラミックス基板に占める割合が、5体積%以上50体積%以下とされており、
前記繊維状AlN粒子は、短軸径が0.05μm以上3μm以下、且つアスペクト比が3以上20以下とされているとともに、前記セラミックス基板に占める割合が、5体積%以上50体積%以下とされており、
前記球状AlN粒子は、粒子径が1nm以上500nm以下とされているとともに、前記セラミックス基板に占める割合が、5体積%以上50体積%以下とされていることを特徴とするパワーモジュール用基板。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2009−76649(P2009−76649A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−243869(P2007−243869)
【出願日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】