説明

パーキング用倍力操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置

【課題】キャリパの加工に多大な時間を要することなく、カムシャフトの回動摩擦抵抗を軽減し、高倍力比のブレーキ力を安定して与えることができるパーキング用倍力操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置を提供すること。
【解決手段】パーキング用倍力操作機構(PM)は、一端にカムシャフト25を有するパーキングレバー23と、このカムシャフト25の回動により駆動されるトグルリンク組立体(TA)とから成り、該組立体(TA)は、一端を調整スピンドル19aに連設したロータ側リンク27と、一端をハウジング31に連設した反ロータ側リンク29とで構成され、ハウジング31に形成した円筒穴31a内には、調整スピンドル19a及び該調整スピンドル19aに対し直交配置したカムシャフト25を摺動支持する円筒ガイド37が固設されていること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アジャスタ機構を内蔵したピストンを摺動自在に支持したキャリパの一端側にパーキング用倍力操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ディスクブレーキ作動装置のパーキング用倍力操作機構として、楔やボールランプあるいはカムを使用したものが知られていたが、いずれもブレーキレバーのストローク増加に対して高い倍力比を得ることができず、それを得るためには、例えばカムを作動するパーキングレバーを長大化する等の機構の大型化、形状や構造の複雑化が強いられていた。このため、より高い倍力比を得るためにトグルリンクを利用したものも知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図8はこのような従来のディスクブレーキ作動装置におけるトグルリンクを備えたパーキング用倍力操作機構の部分断面図であり、パーキングレバー1を矢視方向に回動駆動することにより、パーキングレバーの一端に設けたカムシャフト2が回動し、点対称に配置された一方のトグルリンク3が調整スピンドル4を左方向に押し出して図示していないブレーキピストンを作動すると同時に、他方のトグルリンク5を右方向に押し出してキャリパ6を作動して一対のブレーキパッドが高い倍力比をもってブレーキディスクを挟圧してブレーキ作動を行うようになっている。そしてカムシャフト2がキャリパ6内に形成した二面幅を有する摺動穴6a,6aにより調整スピンドル4の軸心方向と平行な方向に移動できるように支持されているため、カムシャフト2の回動摩擦抵抗を軽減することができ有効であった。
【0004】
【特許文献1】特開昭60−65920号公報(第3図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このようなトグルリンクを使用する従来のパーキング用倍力操作機構は、キャリパ6内に調整スピンドル4を摺動するための摺動穴6b,6b及びこの調整スピンドル4と直交配置した二面幅を有するカムシャフト2の摺動穴6a,6aを形成しなければならない。摺動穴6bの加工とは別に、キャリパ6の外部からカムシャフト2の二面幅を有する摺動穴6aを研削することは、加工技術上困難な部類に属し長時間要した。
【0006】
本発明は、このような問題点に着目して成されたもので、キャリパの加工に多大な時間を要することなく、カムシャフトの回動摩擦抵抗を軽減し、高倍力比のブレーキ力を安定して与えることができるパーキング用倍力操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1に記載のパーキング用倍力操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置は、アジャスタ機構を内蔵したピストンを摺動自在に支持したキャリパの一端側にパーキング用倍力操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置において、前記倍力操作機構は、一端にカムシャフトを有するパーキングレバーと、該カムシャフトの回動により駆動されるトグルリンク組立体とから成り、前記トグルリンク組立体は、一端を前記アジャスタ機構の調整スピンドルに連設したロータ側リンクと、一端を前記キャリパの後端に設けたハウジングに連設した反ロータ側リンクとで構成され、前記ハウジングの一端に形成した円筒穴内には、調整スピンドル及び該調整スピンドルに対し直交配置したカムシャフトを摺動支持する円筒ガイドが固設して構成されている。
この発明によれば、トグルリンクにより高倍力比のブレーキ力を与えることができるだけでなく、調整スピンドル及びカムシャフトは円筒ガイドにより摺動支持されるので、キャリパの後端に形成したハウジングには円筒ガイドを固設するための円形のシリンダ穴(円筒穴)をハウジングの一端から加工、形設でき、ハウジングの外部からはカムシャフトを摺動支持するための複雑な二面幅摺動穴を設ける必要はなく、カムシャフト挿入口の円筒加工のみでよい。
【0008】
本発明の請求項2に記載のパーキング用倍力操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置は、請求項1に記載のパーキング用倍力操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置であって、前記調整スピンドルは円筒ガイドの円筒内面に摺動支持され、前記カムシャフトは円筒ガイドの円筒部に形成した一対の切欠溝に摺動支持されている。
この発明によれば、カムシャフトを一対の切欠溝に摺動支持させているので、カムシャフトの回転摩擦抵抗は少なく、また、カムシャフトの軸径に合わせて円筒ガイドの切欠溝の溝幅を形成することができるので、軸径の異なる各種カムシャフトに対応できる。
また、円筒ガイドの切欠溝の位置が自由に設定できるので、調整スピンドルとカムシャフトの軸心同志が同一平面上になくてもよく、設計の自由度が大きい。
【0009】
本発明の請求項3,4に記載のパーキング用倍力操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置は、請求項1または2に記載のパーキング用倍力操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置であって、前記円筒ガイドは前記ハウジングの円筒穴の底部に回り止め部を介して回動不能に固着したプラグに取り付けられ、前記円筒ガイドは前記プラグに係合され、前記調整スピンドル、トグルリンク組立体及びカムシャフトが円筒ガイド内に一体に組み付けられている。
この発明によれば、円筒ガイドを容易にハウジングに固設することができ、また調整スピンドル、トグルリンク組立体及びカムシャフトを円筒ガイド内にコンパクトに納めることができる。そして円筒ガイドをハウジングから取り外せば、各部品の分解が楽に行える。
【0010】
本発明の請求項5に記載のパーキング用倍力操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置は、請求項3に記載のパーキング用倍力操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置であって、前記反ロータ側リンクは前記プラグを介して前記ハウジングに連設している。
この発明によれば、反ロータ側リンクからの推力を、トグルリンクとハウジング間での変形や摩耗を極力抑えてキャリパに確実に伝達することができる。又、トグルリンク組立体の形状、位置が変更されても反ロータ側リンクと接触する凹端部の形状、位置の異なるプラグのみを入れ替える事によりハウジングの形状を変更することなく使用できる。
【0011】
本発明の請求項6に記載のパーキング用倍力操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置は、請求項1ないし5のいずれかに記載のパーキング用倍力操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置であって、前記カムシャフトは軸方向穴と該軸方向穴に連通するカムシャフト外周面に形成した2つの径方向孔を有し、前記一対のトグルリンクはそれぞれの径方向孔を貫通してその他端が軸方向穴に内接している。
この発明によれば、トグルリンクの他端をカムシャフトの軸方向穴に内接させているので、カムシャフトの中央部の肉厚強度に依存することなく設計でき、また、両トグルリンクを近接配置することが可能なので、パーキングレバーを長大化する事なく所要の倍力比を確保することができる。
【0012】
本発明の請求項7に記載のパーキング用倍力操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置は、請求項6に記載のパーキング用倍力操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置であって、前記両トグルリンクの内接位置はカムシャフトの軸心を超えた点対称位置である。
この発明によれば、カムシャフトの回動力を同一条件で両トグルリンクに伝達することができ、また、両トグルリンクの他端側がオーバラップしているので、パーキング操作後のレバー比の急激な上昇を抑えることができる。
【0013】
本発明の請求項8に記載のパーキング用倍力操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置は、請求項6または7に記載のパーキング用倍力操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置であって、前記軸方向穴は2つの円穴加工によって形成されている。
この発明によれば、円穴加工の円の大きさと位置を選定することにより、トグルリンクが内接する箇所の形状と位置を設計に応じた最適なものに設定することができる。
【0014】
本発明の請求項9に記載のパーキング用倍力操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置は、請求項8に記載のパーキング用倍力操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置であって、前記2つの円穴加工によって形成され軸方向穴にはそれぞれリンクシートが配設されている。
この発明によれば、リンクシートによりトグルリンクとカムシャフトとの当接箇所の耐摩耗性の向上が図れ、かつ、リンクシートによりトグルリンクが内接する箇所の形状をより詳細に設計可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の実施例を以下に説明する。
【実施例1】
【0016】
本発明の実施例1を図面に基づいて説明する。図1は本発明の実施例1のパーキング用倍力操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置の要部全体の断面図、図2は実施例1のパーキング用倍力操作機構におけるカムシャフトとリンクシートの分解斜視図、図3は同じくパーキング用倍力操作機構における調整スピンドルと円筒ガイドの分解斜視図、図4は同じくパーキング用倍力操作機構の組付け斜視図、図5は同じくパーキング用倍力操作機構の作用及びレバー比を説明するための説明図、図6はカムシャフトの回転角に対するレバー比と調整スピンドルのストローク変化を説明するためのパーキング用倍力操作機構の作動状態図で、(a)はイニシャル状態、(b)はパーキングレバーによりカムシャフトが2.4°回動した状態、(c)は同じくカムシャフトが5.1°回動した状態、(d)は同じくカムシャフトが8.1°回動した状態をそれぞれ示す。
【0017】
図1に示すように、本発明のディスクブレーキ作動装置は、キャリパ13とピストン組立体15から成る流体作動のサービスブレーキ機構(SM)と、パーキング用倍力操作機構(PM)で構成されている。ピストン組立体15は、サービスブレーキ適用時に流体圧を受け、キャリパ13内で摺動するピストン17と、ブレーキパッドの摩耗補償とオーバアジャスト防止のためのアジャスタアッセンブリ19とを備えている。そしてこのキャリパ13は固定のサポート14に対して摺動自在に支持されている。
【0018】
アジャスタアッセンブリ19は従来公知の可逆ねじタイプのものが使用されている。この可逆ねじタイプのアジャスタは、可逆ねじを有する調整スピンドル19aと、このスピンドル19aに螺合するアジャストスリーブ19bと、アジャストスリーブ19bの回動を支持する軸受19cと、スプリング19d等で構成され、ブレーキパッド21,22の摩耗が規定以上になれば、調整スピンドル19aに対してアジャストスリーブ19bが回動前進し、ブレーキ解除時にピストン17の後退位置が前進してブレーキパッド21,22の摩耗が補償される。
【0019】
また、過剰なブレーキ流体圧がピストン17に適用されると、アジャストスリーブ19bは調整スピンドル19aに対して回動することができず、調整スピンドル19aはスプリング19dのバネ力に抗してアジャストスリーブ19bと共に前方に移動するのでオーバアジャストが防止される。
【0020】
パーキング用倍力操作機構(PM)は、パーキングレバー23とカムシャフト25から成り、パーキングレバー23がブレーキワイヤにより操作されカムシャフト25が回動すると、一対のトグルリンク(以下、単に「リンク」ということもある)27,29を有するトグルリンク組立体(TA)が駆動される。このトグルリンク組立体(TA)はカムシャフト25内に納められ、トグルリンクはその一端がカムシャフト25から突出して調整スピンドル19aの凹端部20c(図3参照)に揺動自在に係合し、ロータ側リンク27として構成され、一方トグルリンクはその一端がカムシャフト25から突出してハウジング31に設けた硬質のプラグ33の凹端部33b(図3参照)に揺動自在に係合し、反ロータ側リンク29として構成されている。
【0021】
硬質のプラグ33はハウジング31より硬度の高い材料で成形されており、反ロータ側リンク29からの推力を硬質のプラグ33で受け止めて、トグルリンクとハウジング間での変形や摩耗を極力抑えてキャリパ3に確実に伝達することができる。又、トグルリンク組立体(TA)の形状、位置が変更されても凹端部33bの形状、位置の異なるプラグ33のみを入れ替える事によりハウジング31の形状を変更することなく使用できる。
【0022】
プラグ33はハウジング31の円筒穴31a底部にピン35により回動不能に係止され、このプラグ33に対しやはり回動不能に係合された円筒ガイド37はハウジング31に対して移動不能に固設されている。すなわち、上記円筒穴31a内に挿入された円筒ガイド37はプラグ33と止めクリップ39で軸方向の移動が、そしてプラグ33により回転方向の移動が阻止されている。
【0023】
調整スピンドル19aの頭部20bは円筒ガイド37の円筒内面37aにスプリング19dにより常に右方向(図1において)に付勢された状態で、調整スピンドル19aの中心軸線X−X方向に摺動自在に支持されている。一方、カムシャフト25は中心軸線X−Xに対し直交するように配置され、円筒ガイド37に形成した一対の切欠溝37b,37b(図3参照)に嵌入して、調整スピンドル19aと同様に、中心軸線X−X方向に摺動自在に支持されている。このように円筒ガイド37が調整スピンドル19aとカムシャフト25を中心軸線X−X方向に摺動自在に支持しているので、ハウジング31は円筒ガイド37を嵌入できる円筒穴31aと、後述するカムシャフト挿入口31b(図4参照)を形成するだけでよく、複雑な加工、特に困難な二面幅加工をハウジングに施す必要がない。
【0024】
次に、パーキング用倍力操作機構の各構成部品の詳細と組み付け手順について図2ないし図4に基づき説明する。
【0025】
図2はパーキング用倍力操作機構におけるカムシャフトとリンクシートの分解斜視図であり、一対の三日月状のリンクシート41,41はそれぞれの左右端でシートガイド43,43を挟持し、一体化した状態に組み付けてカムシャフト25の軸方向穴25Aに挿入される。リンクシート41,41の内面はトグルリンク27,29の他端を揺動可能に保持できるよう、凹状部41a,41aが形成されている。これにより、トグルリンクの当接箇所の耐摩耗性の向上が図れ、かつ、リンクシートによりトグルリンクが内接する箇所の形状をより詳細に設計可能である。
【0026】
軸方向穴25Aはシートガイド43,43の外周面の形状に合わせて形設されており、本実施例の場合は、加工を容易にするために、シートガイド43,43の外周を円弧形状とし、2つの円形穴を円穴加工によって形設している。また、カムシャフト25の外周面25aには一対のトグルリンク27,29を挿通するための2つの径方向孔25Bが形設され、この径方向孔25Bは軸方向穴25Aと内部で連通している。
【0027】
図3は同じくパーキング用倍力操作機構における調整スピンドルと円筒ガイドの分解斜視図であり、調整スピンドル19aはアジャストスリーブ19bと螺合する可逆ねじ部20aと円筒ガイド37内面を摺動する頭部20bを備え、この頭部20bとハウジング31に形成した円筒穴31aの一端側に設けた止めクリップ39間にスプリング19dが配設される。
【0028】
円筒ガイド37はカムシャフト25を摺動案内するための一対の切欠溝37b(一方側のみ図示されている)が形成され、カムシャフト25の外周面25aがそれぞれの切欠溝37bに支持され、切欠溝37bの上下の切欠き縁37b−1,37b−2により、調整スピンドル19aの軸線X−X方向に摺動案内される。
【0029】
円筒ガイド37のプラグ側端部には、プラグ33に形設した一対の係止突部33a,33aと嵌合係止するための係止溝37c,37cが設けられ、円筒穴31a底部に打ち込まれたピン35により回動不能に係止されたプラグ33の係止突部33a,33aに円筒ガイド37の係止溝37c,37cが嵌合することで、円筒ガイド37は円筒穴31a内に固設される。
【0030】
図4はパーキング用倍力操作機構の組付け手順を示したもので、まずハウジング31に形成した円筒穴31aの底面にプラグ33をピン35を介して固定し、調整スピンドル19a,スプリング19d,止めクリップ39を円筒ガイド37の円筒内面37aに仮挿入した状態でカムシャフト25をハウジング31に形成した円筒穴31aと直交する方向に形成した挿入口31bを介して円筒ガイド37の一対の切欠溝37b,37bに挿入する。このカムシャフト25挿入時にはすでに、シートガイド43,43を挾持した一対のリンクシート41,41がカムシャフト25の軸方向穴25Aに納められ、ロータ側及び反ロータ側リンク27,29はリンクシート41,41に着座していると共にその先端がカムシャフト25の半径方向孔25Bから突出している。
【0031】
カムシャフト25を切欠溝37b,37bに挿入した段階で反ロータ側リンク29の先端をプラグ33の凹端部33bに、ロータ側リンク27の先端を調整スピンドル19aの凹端部20cに係合当接するために、調整スピンドル19aと一緒に円筒ガイド37を円筒穴31a内に押し込み、スプリング19dを間挿した状態で、止めクリップ39を円筒穴31aに係止してパーキング用倍力操作機構(PM)は組み付けられる。
【0032】
このようにして組み付けられたパーキング用倍力操作機構(PM)の作用及びレバー比(倍力比)について図5に基づき説明する。
【0033】
パーキングレバー23の一端溝部23aにブレーキワイヤ(図示せず)が連結され、ブレーキワイヤを点O’にてW方向にFの力で牽引すると、カムシャフト25は点Oを中心として図5において反時計方向に回動する。このときカムシャフト25は円筒ガイド37の上下の切欠き縁37b−1,37b−2により点接触状態で回動するので、カムシャフト25が受ける回転摩擦抵抗は小さい。そして、点Oから力Fの作用点O’までの有効長さをLとすると、カムシャフト25にはT=L×Fの回転トルクが生じることになる。
【0034】
ロータ側リンク27の一端は調整スピンドル19aの凹端部20cに、他端はリンクシート41の凹状部41aにそれぞれ揺動自在に係合し、反ロータ側リンク29の一端はプラグ33の凹端部33bに、他端はリンクシート41の凹状部41aにそれぞれ揺動自在に係合しているので、カムシャフト25が回動すると、ロータ側リンク27は調整スピンドル19aを介して軸推力fを一方のパッド22に伝達し、反ロータ側リンク29はプラグ33、ハウジング31を介して他方のパッド21に軸推力fを伝達する。これによりロータは2つのブレーキパッド21,22に挟持され制動がかかる。
【0035】
トグルリンク27,29のそれぞれの他端はカムシャフト25の中心点Oを越えて延在し、両者はオーバラップ状態に配置されている。制動初期のイニシアル時において、両トグルリンク27,29の軸心の離間距離をd、中心軸線X−Xに対する傾斜角度をβ、回転トルクTがカムシャフト25に作用したときにトグルリンクの傾斜方向(長手方向)に発生する力をf’とすると、T=d×f’(=L×F)となり、fはf’cosβであるから、パーキング用倍力操作機構(PM)のレバー比(倍力比)M=f/F=(L/d)×cosβとなる。
【0036】
ここで実施例1のパーキング用倍力操作機構におけるパーキングレバーの回動量に対するレバー比と調整スピンドル19aのストローク変化は机上検討上、図6に示す割合で変動する。
【0037】
図6(a)は制動開始のイニシャル状態を示したもので、トグルリンク27,29の軸心の離間距離dを4.1mm、傾斜角度をβを16.1°、パーキングレバー23の有効長さLを45mmで、レバー比は、(45/4.1)×cos16.1°でその値は計算上約10.5である。この比較的大きなレバー比は、カムシャフト25の中心部分に軸方向穴25Aを形成してトグルリンク27,29を内周側壁部で支持させて、トグルリンク27,29を近接配置したためである。
【0038】
図8で示すように従来のものはトグルリンクをカムシャフトの中央部分近傍で支持させているため、強度上の理由から軸心の離間距離dを小さな値に設定できず、イニシャル時からのレバー比の大きな値は不可能である。このような事情から、カムシャフトの外周部近傍でトグルリンクを支持させれば軸心の離間距離dを小さな値に設定したものも考えられるが、カムシャフトの回転に伴い上記離間距離dが急激に小さくなってレバー比が急激に増大してしまい制動が安定せず、しかもカムシャフトの回動角度が大きくても調整スピンドルのストロークが殆ど得られなくなってしまう。
【0039】
図6(b)はパーキングレバー23の操作により、カムシャフト25がイニシャル時より2.4°左回転した状態の机上検討を示し、トグルリンク27,29の軸心の離間距離dは3.7mm、傾斜角度βは13.7°に変化し、レバー比は11.8である。このときの調整スピンドル19aのストロークは0.81mmであった。同様にしてカムシャフト25を5.1°,8.1°に回動した状態がそれぞれ図6(c)、(d)に示されている。カムシャフトの回動角度が5.1°の時のレバー比が14.2でスピンドルストロークは1.32mmとなり、回動角度が8.1°の時はレバー比が19.4でスピンドルストロークは1.8mmとなった。
【0040】
このように本実施例において、カムシャフトの回動角度の増加に伴っても上記離間距離dが急激に減少せずレバー比が安定した状態で漸増し、しかもカムシャフトの回動後半においても有効ストロークが安定して増えるのは、トグルリンク27,29のそれぞれの他端がカムシャフト25の中心点Oを越えてオーバラップ状態に配置されているためである。
【実施例2】
【0041】
次に、本発明の実施例に係るパーキング用倍力操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置につき、図7を参照しつつ説明する。図7は実施例2に係るパーキング用倍力操作機構の部分断面図である。なお、前記実施例と同一構成で重複する部分についての説明は省略する。
【0042】
実施例1では、パーキングレバー23の回動により、カムシャフト25が中心点Oを中心として反時計回りに回動したが、実施例2に係るパーキング用倍力操作機構は、カムシャフトを時計方向に回動させるようにした点で相違している。
【0043】
図7において、カムシャフト51に配置した一対のトグルリンク53,55は左に向かって上昇するように傾斜している。そしてパーキングレバー57は右上方に傾斜して、その一端溝部57aにブレーキワイヤ(図示せず)が連結され、ブレーキワイヤを点O’にてU方向にFの力で牽引すると、カムシャフト51は点Oを中心として図7において時計方向に回動する。
【0044】
トグルリンク53,55を近接配置し端部を一部オーバラップさせる点は実施例1のものと同じである。このようにパーキングレバーの回動方向を替えたものを準備することで、車体構造や、ブレーキ操作位置が変更になっても容易に対応することができる。また別の変形例として図示しないが、一対のトグルリンクを調整スピンドルの中心軸線X−Xと平行に配置してもよい。このような配置であっても、両リンクの近接かつオーバラップ配置により、回動初期から終期に至るまで、大きなレバー比を安定的に得ることができる。
【0045】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、例えば、反ロータ側リンクはプラグを介してその推力をキャリパに伝えているが、プラグは必ずしも必要とするものではなく、反ロータ側リンクの端部を直接ハウジングの円筒穴の底に当接保持させてもよい。また、本実施例において、耐摩耗性の向上のためリングシートを使用しているが、リングシートを用いずに直接カムシャフトの内周面に支持させることもできる。
さらに、カムシャフトの軸方向穴は円穴加工だけでなく、異形成形による引き抜き加工で、任意の穴形状とする事も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の実施例1のパーキング用倍力操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置の要部全体の断面図である。
【図2】同じく実施例1のパーキング用倍力操作機構におけるカムシャフトとリンクシートの分解斜視図である。
【図3】同じくパーキング用倍力操作機構における調整スピンドルと円筒ガイドの分解斜視図である。
【図4】同じくパーキング用倍力操作機構の組付け斜視図である。
【図5】同じくパーキング用倍力操作機構の作用及びレバー比を説明するための説明図である。
【図6】本発明のカムシャフトの回転角に対するレバー比と調整スピンドルのストローク変化を説明するためのパーキング用倍力操作機構の作動状態図で、(a)はイニシャル状態、(b)はパーキングレバーによりカムシャフトが2.4°回動した状態、(c)は同じくカムシャフトが5.1°回動した状態、(d)は同じくカムシャフトが8.1°回動した状態をそれぞれ示す。
【図7】本発明の実施例2に係るパーキング用倍力操作機構の部分断面図である。
【図8】従来のパーキング用倍力操作機構の部分断面図である。
【符号の説明】
【0047】
13・・・キャリパ
14・・・サポート
15・・・ピストン組立体
17・・・ピストン
19・・・アジャスタアッセンブリ
19a・・・調整スピンドル
19b・・・アジャストスリーブ
19c・・・軸受
19d・・・スプリング
20a・・・可逆ねじ部
20b・・・頭部
20c・・・凹端部
21,22・・・パッド
23・・・パーキングレバー
23a・・・溝部
25・・・カムシャフト
25A・・・軸方向穴
25B・・・径方向孔
25a・・・外周面
27・・・ロータ側リンク
29・・・反ロータ側リンク
31・・・ハウジング
31a・・・円筒穴
31b・・・カムシャフト挿入口
33・・・プラグ
33a・・・係止突部
33b・・・凹端部
35・・・回り止め手段(ピン)
37・・・円筒ガイド
37a・・・円筒内面
37b・・・切欠溝
37c・・・係止溝
37b−1・・・切欠き縁
37b−2・・・切欠き縁
39・・・止めクリップ
41・・・リンクシート
41a・・・凹状部
43・・・シートガイド
51・・・カムシャフト
53,55・・・トグルリンク
57・・・パーキングレバー
57a・・・溝部
f・・・軸推力
F・・・力
M・・・レバー比(倍力比)
O’・・・力Fの作用点
O・・・中心点
(PM)・・・パーキング用倍力操作機構
T・・・回転トルク
(TA)・・・トグルリンク組立体
X−X・・・中心軸線
β・・・傾斜角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アジャスタ機構を内蔵したピストンを摺動自在に支持したキャリパの一端側にパーキング用倍力操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置において、前記倍力操作機構は、一端にカムシャフトを有するパーキングレバーと、該カムシャフトの回動により駆動されるトグルリンク組立体とから成り、前記トグルリンク組立体は、一端を前記アジャスタ機構の調整スピンドルに連設したロータ側リンクと、一端を前記キャリパの後端に設けたハウジングに連設した反ロータ側リンクとで構成され、前記ハウジングに形成した円筒穴内には、調整スピンドル及び該調整スピンドルに対し直交配置したカムシャフトを摺動支持する円筒ガイドが固設されているパーキング用倍力操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置。
【請求項2】
前記調整スピンドルは円筒ガイドの円筒内面に摺動支持され、前記カムシャフトは円筒ガイドの円筒部に形成した一対の切欠溝に摺動支持されている請求項1に記載のパーキング用倍力操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置。
【請求項3】
前記円筒ガイドは前記円筒穴底部に回り止め手段で回動不能に固着したプラグに取り付けられ、前記調整スピンドル、トグルリンク組立体及びカムシャフトが円筒ガイド内に一体に組み付けられている請求項1または2に記載のパーキング用倍力操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置。
【請求項4】
前記円筒ガイドは前記プラグに係合されている請求項3に記載のパーキング用倍力操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置。
【請求項5】
前記反ロータ側リンクは前記プラグを介して前記ハウジングに連設している請求項3または4に記載のパーキング用倍力操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置。
【請求項6】
前記カムシャフトはその軸方向穴及びと該軸方向穴に連通するカムシャフト外周面に形成した2つの径方向孔を有し、前記一対のトグルリンクはそれぞれの径方向孔を貫通してその他端が軸方向穴に内接している請求項1ないし5のいずれかに記載のパーキング用倍力操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置。
【請求項7】
前記両トグルリンクの内接位置はカムシャフトの軸心を超えた点対称位置である請求項6に記載のパーキング用倍力操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置。
【請求項8】
前記軸方向穴は2つの円穴加工によって形成されている請求項6または7に記載のパーキング用倍力操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置。
【請求項9】
前記2つの円穴加工によって形成され軸方向穴にはそれぞれリンクシートが配設されている請求項8に記載のパーキング用倍力操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−29467(P2006−29467A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−209907(P2004−209907)
【出願日】平成16年7月16日(2004.7.16)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】