説明

フロントフォーク

【課題】 収縮作動するときから最収縮状態になるときまでの二輪車における乗り心地を良くする。
【解決手段】 車体側チューブ1と車輪側チューブ2とからなるフォーク本体と、このフォーク本体内に収装されてシリンダ体3とロッド体4とからなる倒立型のダンパと、このダンパを構成するシリンダ体3のヘッド端部に保持される環状に形成のオイルロックピース5と、フォーク本体のボトム部に固定状態に設けられて開口が上方たるシリンダ体3のヘッド端部側を向く筒状に形成のオイルロックケース6とを有し、フォーク本体の収縮作動時にオイルロックピース5の外周とこのオイルロックピース5の外周が対向する車輪側チューブ2の内周との間を作動油が通過することで減衰作用が具現化されると共に、フォーク本体の最収縮作動時にオイルロックピース5がオイルロックケース6内に嵌入することで減衰作用を伴いながらオイルロックを具現化してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、フロントフォークに関し、特に、二輪車の前輪側に装備されて走行中の振動を吸収する油圧緩衝器たるフロントフォークの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
二輪車の前輪側に装備されて走行中の振動を吸収する油圧緩衝器たるフロントフォークとしては、従来から種々の提案があるが、たとえば、特許文献1には、フロントフォークの収縮作動時に所定の減衰作用をし、また、底突きを回避する提案が開示されている。
【0003】
すなわち、この特許文献1に開示されているところを示す図5によれば、フロントフォークは、車体側チューブT1と車輪側チューブT2とからなるフォーク本体を有する。
【0004】
そして、このフォーク本体は、内蔵する倒立型のダンパを構成するシリンダ体Cの外周に絞り部材Vを有すると共に、オイルロック機構を有する。
【0005】
絞り部材Vは、環状に形成されてシリンダ体Cの外周に固定状態に保持されると共に外周をスライドブッシュSbの配設下に車輪側チューブT2の内周に摺接させていわゆる上下側を画成すると共に、肉厚を貫通して上下側の連通を許容するオリフィスV1を周方向に複数有する。
【0006】
また、このフォーク本体にあっては、フォーク本体の伸縮が停止されている基準状態時にこの絞り部材Vの適宜のストロークとなる下方に油面(図示せず)が位置する。
【0007】
なお、フォーク本体を伸長方向に附勢する懸架スプリングSの上端は、絞り部材Vの下端に係止されており、その意味で、この絞り部材材Vは、バネ受としても機能する。
【0008】
一方、オイルロック機構は、ダンパを構成するシリンダ体Cの言わばヘッド端部の外周に保持される環状に形成のオイルロックピースO1と、図中で下端部となるフォーク本体のボトム部に固定状態に設けられて開口が上方たるシリンダ体Cのヘッド端部側を向く筒状に形成のオイルロックケースO2とを有する。
【0009】
ちなみに、このオイルロック機構は、上記の懸架スプリングSの内周側に位置決められている。
【0010】
それゆえ、この特許文献1に開示の提案たる図5に示すフロントフォークにあっては、フォーク本体が収縮作動するとき、ダンパにおいてシリンダ体C内にロッド体Rが入り込むようになることでダンパ内の減衰部による減衰作用がなされる。
【0011】
そして、ダンパの外において上昇してくる油面、すなわち、作動油が絞り部材VのオリフィスV1を通過することによる減衰作用がなされると共に、フォーク本体が最収縮状態になるとき、オイルロックピースO1がオイルロックケースO2に嵌入するようになり、減衰作用を伴って底突きが阻止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第3351826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、上記した特許文献1に開示の提案にあっては、フォーク本体の収縮作動時に所定の減衰作用が具現化されると共に、最収縮作動時に底突きが阻止される点で、基本的に問題がある訳ではないが、利用の実際を勘案すると、些かの不具合があると指摘される可能性がある。
【0014】
すなわち、上記したフロントフォークにあって、最収縮作動時には、オイルロック機構で減衰作用を伴いながら底突きが阻止されるが、この最収縮状態に至るまでは、絞り部材VのオリフィスV1を作動油が通過することによる減衰作用がなされる。
【0015】
それゆえ、絞り部材Vで具現化される減衰作用と、オイルロック機構で具現化される減衰作用との間には、連続性がなくなったり、折れ点が出現し易くなったりする。
【0016】
その結果、減衰作用の滑らかな連続性を得難くなり、フロントフォークが収縮作動するとき、その開始時から最収縮状態になるまでの二輪車における乗り心地、つまり、乗車フィーリングが悪化され易くなる不具合がある。
【0017】
この発明は、上記した事情を鑑みて創案されたものであって、収縮作動するとき、その開始時から最収縮状態になるまでの二輪車における乗り心地を良くするフロントフォークを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記した目的を達成するために、この発明によるフロントフォークの構成を、基本的には、車体側チューブと車輪側チューブとからなるフォーク本体と、このフォーク本体内に収装されてシリンダ体とロッド体とからなる倒立型のダンパと、上記シリンダ体のヘッド端部に保持される環状に形成のオイルロックピースと、上記フォーク本体のボトム部に固定状態に設けられて開口が上方たる上記シリンダ体のヘッド端部側を向く筒状に形成のオイルロックケースとを有してなるフロントフォークにおいて、上記フォーク本体の収縮作動時に上記オイルロックピースの外周とこのオイルロックピースの外周が対向する上記車輪側チューブの内周との間を作動油が通過することで減衰作用が具現化されると共に、上記フォーク本体の最収縮作動時に上記オイルロックピースが上記オイルロックケース内に嵌入することで減衰作用を伴いながらオイルロックを具現化してなることを特徴とするフロントフォーク。
【0019】
それゆえ、この発明にあっては、車体側チューブと車輪側チューブとからなるフォーク本体に倒立型のダンパを収装してなるから、このダンパによってフォーク本体の伸縮作動時における減衰作用がなされる。
【0020】
そして、この発明にあっては、特に、フォーク本体の収縮作動時にダンパを構成するシリンダ体のヘッド端部に保持されるオイルロックピースとこのオイルロックピースが対向する車軸側チューブとの間における作動油の流れによる減衰作用を期待できる。
【0021】
また、この発明にあっては、フォーク本体が最収縮状態になるときに、オイルロックピースをオイルロックケース内に嵌入させるからオイルロックピースとオイルロックケースの開口端との間で減衰作用が具現化されながらフォーク本体における底突きが阻止される。
【0022】
このとき、オイルロックピースがオイルロックケース内に嵌入することによる減衰作用は、それまで車輪側チューブとの間で減衰作用を具現化していたオイルロックピースが引き続きオイルロックケースとの間で具現化するから、フォーク本体が収縮作動するとき、その開始時から最収縮状態になるまでの減衰作用が不連続にならないのはもちろんのこと、減衰作用に折れ点を生じることなく、減衰作用を滑らかに連続させ易くなる。
【発明の効果】
【0023】
その結果、フロントフォークが収縮作動するとき、その開始時からから最収縮状態になるまでの減衰作用を滑らかに連続させることが可能になり、この減衰作用が途中で不連続になったり、途中で折れ点を生じたりすることになる場合に比較して、二輪車における乗り心地を良くすることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】この発明によるフロントフォークを部分的に破断しながら示す正面縦断面図である。
【図2】図1のフロントフォークにおける中間部と下端部とを拡大して示す部分縦断面図である。
【図3】シリンダ体に保持されるオイルロックピースが車輪側チューブに対向する状態を示す横断面図である。
【図4】シリンダ体の外周に保持されるガイド部材を示す横断面図である。
【図5】従来例としてのフロントフォークを図2と同様に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、図示した実施形態に基づいて、この発明を説明するが、この発明によるフロントフォークは、二輪車(図示せず)の前輪側に装備されて走行中の振動を吸収する油圧緩衝器として機能する。
【0026】
ちなみに、フロントフォークを二輪車の前輪側に装備するについては、図示しないが、左右となる二本のフロントフォークの上端側部をあらかじめブリッジ機構で一体化し、各フロントフォークにおける車輪側チューブ2(図1参照)の下端部を前輪の車軸に連結させて前輪を挟むようにして懸架する。
【0027】
そして、ブリッジ機構は、図示しないが、フロントフォークを構成する車体側チューブ1(図1参照)における上端部の上方側部に連結されるアッパーブラケットと、下方側部に連結されるアンダーブラケットとを有し、それぞれが両端部に形成の取り付け孔に車体側チューブ1における上端部を挿通させて一体的に把持する。
【0028】
また、このブリッジ機構は、同じく図示しないが、アッパーブラケットとアンダーブラケットとを一体的に連結する一本のステアリングステムを両者の中央に有し、このステアリングステムが二輪車における車体の先端部を構成するヘッドパイプ内に回動可能に導通され、これによって、ハンドル操作による二本のフロントフォークを介しての前輪における左右方向への転舵が可能になる。
【0029】
ところで、この発明によるフロントフォークは、図1に示すところにあって、上端側部材とされる車体側チューブ1内に下端側部材とされる車輪側チューブ2がテレスコピック型に入出可能に挿通されて伸縮可能とされるフォーク本体(符示せず)を有し、このフォーク本体が内部のエア圧によって車体側チューブ1内から車輪側チューブ2が突出する伸長方向に附勢される。
【0030】
そして、このフォーク本体内に封入されるエア圧は、フォーク本体が最伸長状態にあるときに、大気圧以上となるとして、フォーク本体が最伸長状態から反転して収縮作動を開始する当初から、たとえば、ダンパ内の減衰部による減衰作用がいわゆる遊びなくして設定通りに具現化されるように配慮されている。
【0031】
もっとも、フォーク本体内に封入されるエア圧については、フロントフォークが二輪車の前輪側に装備される状況では、わずかではあるが収縮状態になることでエア圧が大気圧以上になるから、その意味では、最伸長状態時に大気圧以上になっていなくても良いと言い得る。
【0032】
なお、この発明のフロントフォークにあっては、フォーク本体内に封入されるエア圧によって伸長方向に附勢されるから、たとえば、前記した図5に示す懸架スプリングSによって伸長方向に附勢されるフロントフォークに比較して、懸架スプリングSを有しない分全体重量の軽減化に寄与する利点がある。
【0033】
一方、図示するフォーク本体にあっては、車体側チューブ1と車輪側チューブ2との間に上下となって離間配置される上方の軸受21と下方の軸受11とを有し、この上方の軸受21と下方の軸受11が車体側チューブ1と車輪側チューブ2との間における同芯となる摺動性を保障する。
【0034】
そして、このフォーク本体にあっては、離間配置される上方の軸受21と下方の軸受11とで車体側チューブ1と車輪側チューブ2との間に潤滑隙間Aを出現させ、この潤滑隙間Aに車輪側チューブ2に開穿の連通孔2aを介して車輪側チューブ2の内側の作動流体たる作動油の流入を許容し、この作動油を潤滑油にして、車体側チューブ1と車輪側チューブ2との間における潤滑を保障する。
【0035】
そしてまた、車体側チューブ1の下端部となる開口端部の内周には、下方の軸受11が配設されると共に、この下方の軸受11に直列してオイルシール12とダストシール13が配設され、オイルシール12の配在でフォーク本体内を密封空間にする。
【0036】
なお、ダストシール13は、車輪側チューブ2の外周に付着する微小な砂粒などのダストを掻き落し、このダストが上記のオイルシール12側に侵入することを阻止して、オイルシール12におけるシール機能を保障する。
【0037】
さらに、車体側チューブ1内に車輪側チューブ2が大きいストロークで没入するフォーク本体の最収縮作動時には、それ以上の収縮を阻止するべく、図示しないが、車輪側チューブ2の上端が車体側チューブ1側に当接される設定としても良く、また、図示するところにあっては、後述するオイルロック機構で最収縮作動時の底突きが阻止される。
【0038】
そして、フォーク本体が最伸長するときには、図示しないが、多くの場合に、ダンパが収装する伸び切りバネが最収縮し、この伸び切りバネの最収縮でいわゆる衝撃吸収が実現される。
【0039】
ところで、このフォーク本体にあっては、上記のオイルシール12の配設で密封空間となる内方をリザーバ(符示せず)に設定し、このリザーバは、所定量の作動油を収容すると共に、作動油の油面(図示せず)を境にして画成される気室(符示せず)を有する。
【0040】
この気室は、フォーク本体の伸縮作動時に同期して膨縮して、この膨縮の際に所定のエアバネ力、すなわち、チューブ反力を発生する。
【0041】
ちなみに、この気室は、車体側チューブ1の上端開口を閉塞するキャップ部材14に配設されるエアバルブ(図示せず)類を介して封入された内圧を高低し得るとしても良い。
【0042】
一方、このフォーク本体は、作動油を収容してリザーバとされる内方にダンパ(符示せず)を有する。ダンパは、上端側部材とされる車体側チューブ1の軸芯部に垂設されるシリンダ体3内に下端側部材とされる車輪側チューブ2の軸芯部に起立するロッド体4の上端側となる先端側を入出可能に挿通させる倒立型に設定される。
【0043】
そして、このダンパにあっては、作動油を充満するシリンダ体3内にピストン体(図示せず)が摺動可能に収装され、このピストン体には上記のロッド体4の言うなれば図中で上端部となる先端部が連結される。
【0044】
ちなみに、ロッド体4は、任意の方策で車輪側チューブ2の軸芯部に立設されて良く、図示するところでは、車輪側チューブ2のボトム端を螺着させて閉塞するアクスルブラケット22の軸芯部をシール部材23の配在下に下方から貫通する締め付け部材24の軸芯部に基端部が螺着されている。
【0045】
なお、締め付け部材24は、図2に示すように、アクスルブラケット22の軸芯部を下方から貫通する際に、アクスルブラケット22の軸芯部に螺着され、鍔部24aがアクスルブラケット22の軸芯部に形成の段部22aに係止されて、アクスルブラケット22に対して締め付け部材24が位置決めされる。
【0046】
一方、シリンダ体3も、基本的には、任意の方策で車体側チューブ1の軸芯部に垂設されて良いが、図示しないが、シリンダ体3の図中での上端部となるボトム端部が車体側チューブ1の上端部の内周に連結、すなわち、螺着される。
【0047】
また、このダンパにあっては、シリンダ体3内にピストン体によって画成されてピストン体の言うなれば図中で下方となるロッド側室(図示せず)と、このピストン体の図中で上方となるピストン側室(図示せず)とを有する。
【0048】
ちなみに、このダンパにあっては、凡そこの種のダンパがそうであるように、ピストン体が減衰手段を有し、それゆえ、ロッド側室とピストン側室とが減衰手段を介して連通するときに所定の減衰作用が具現化される。
【0049】
以上説明したところは、この発明におけるフロントフォークにおける言わば基本的な構成であるが、さらに、この発明にあっては、以下の構成を有する。
【0050】
すなわち、先ず、この発明のフロントフォークにあっても、オイルロック機構を有して、このオイルロック機構の作動するところで、最収縮作動時におけるフォーク本体の底突きを阻止する。
【0051】
そのため、この発明のフロントフォークにあっても、オイルロック機構は、図1および図2に示すように、オイルロックピース5と、オイルロックケース6とを有してなるが、オイルロックピース5は、環状に形成されて、ダンパを構成するシリンダ体3のヘッド端部3aに遊嵌状態に保持されてなる。
【0052】
つまり、図2に示すように、オイルロックピース5は、シリンダ体3のヘッド端部3aにおける細径部3bの外周に隙間aを有して巻装されており、図3にも示すように、この隙間aを有する分、細径部3bの径方向に移動可能とされている。
【0053】
それゆえ、後述するオイルロックケース6がシリンダ体3に対して偏心している場合、あるいは、ロッド体4に対してシリンダ体3が傾斜している場合にも、オイルロックピース5がオイルロックケース6内に確実に嵌入し得る。
【0054】
そして、このオイルロックピース5は、図2示すように、ヘッド端部3aに細径部3bを設けるために出現する段部3cに上端が係止される一方で、細径部3bの形成の環状溝3dに嵌装のストッパリング51に下端が担持されている。
【0055】
ちなみに、このオイルロックピース5は、フォーク本体が基準状態時にあるとき、すなわち、二輪車がオフロードタイプであるときには、最伸長状態にあるとき、また、二輪車がオンロードタイプであるときには、ライダーが乗って中間伸縮状態にあるいわゆる1G状態にあるとき、フォーク本体内に収容の作動油の油面(図示せず)より上方に位置決められるとする。
【0056】
もっとも、この発明が意図するところからすると、フォーク本体が基準状態にあるときに、オイルロックピース5が作動油の油面の下方にあっても良い。
【0057】
一方、オイルロックケース6は、フォーク本体のボトム部、すなわち、車輪側チューブ2のボトム端部内に固定状態に設けられて開口が上方たるシリンダ体3のヘッド端部3a側を向くシリンダ体3と同心の筒状に形成されてなる。
【0058】
このとき、このオイルロックケース6は、オイルロックピース5をいわゆる隙間なく嵌入させる本体部6aと、オイルロックピース5を隙間(符示せず)を有して挿入させる導入部6bとを有してなる。
【0059】
それゆえ、このオイルロックケース6にあっては、フォーク本体が収縮作動して上方からのオイルロックピース5が導入部6bに挿入されると、このオイルロックケース6とオイルロックピース5との間に出現する隙間を作動油が通過することになり、所定の減衰作用がなされる。
【0060】
そして、上記の導入部6bに挿入されたオイルロックピース5がさらに前進して本体部6aに嵌入されると、オイルロックケース6内のオイルロックピース5の下方にオイルロック室(符示せず)が画成され、オイルロック現象が発現される。
【0061】
ちなみに、オイルロックケース6は、本体部6aの下方に基端部6cを有してなり、この基端部6cは、車輪側チューブ2の下端部との間にシール部材61を有すると共にアクスルブラケット23との間にシール部材62を有しながら、外周に形成の鍔部6dがアクスルブラケット22に下端部が螺着された車輪側チューブ2の下端とアクスルブラケット22との間に挟持されて、車輪側チューブ2のボトム端部の内側に固定状態に配設されている。
【0062】
それゆえ、以上のように形成されたオイルロックピース5とオイルロックケース6とを有してなるオイルロック機構にあっては、基準状態にあるフォーク本体が収縮作動するときに、オイルロックピース5と車輪側チューブ2との間に作動油の流れが生じ、このとき、所定の減衰作用がなされる。
【0063】
このフォーク本体の収縮作動時における減衰作用についてだが、前記した特許文献1に開示されている提案では、絞り部材VのオリフィスV1を作動油が通過することによるが、このとき、オイルロック機構を構成するオイルロックピースO1は、減衰作用に関与しない。
【0064】
一方、この発明にあって、フォーク本体の収縮作動が進んで最収縮状態になるときには、オイルロックピース5がオイルロックケース6に嵌入することになって、所定の減衰作用、すなわち、クッション機能を発揮すると共にフォーク本体における底突きが阻止される。
【0065】
これについては、前記した特許文献1に開示されている提案にあっても、オイルロック機構を構成するオイルロックピースO1がオイルロックケースO2に嵌入することになって、所定の減衰作用、すなわち、クッション機能を発揮すると共にフォーク本体における底突きを阻止する。
【0066】
しかしながら、フォーク本体の収縮作動時における減衰作用の発生状況を観察すると、この発明にあっては、フォーク本体が最収縮状態になるまでの減衰作用をオイルロックピース5が車輪側チューブ2との間でなし、フォーク本体が最収縮状態になるとオイルロックピース5が車輪側チューブ2に代えてオイルロックケース6との間で減衰作用をなすことになり、全体として見ると、減衰作用を滑らかに連続させることが容易になる。
【0067】
しかし、前記した特許文献1に開示されている提案にあっては、フォーク本体が最収縮状態になるまでの減衰作用を絞り部材VのオリフィスV1でなし、フォーク本体が最収縮状態になるとオイルロックピースO1がオイルロックケースO2との間で減衰作用をなし、全体としてみると、減衰作用が不連続になったり、途中に折れ点を生じたりすることになり、減衰作用を滑らかに連続させることが容易でない。
【0068】
その結果、前記した特許文献1に開示されている提案にあっては、フォーク本体が収縮作動するとき、その開始時から最収縮状態になるまでの減衰作用が不連続になったり、途中に折れ点を生じさせたりし易くなるから、このフロントフォークを前輪側に装備する二輪車にあっては、乗り心地、つまり、乗車フィーリングが悪化されることになるのは前述した通りである。
【0069】
しかし、この発明にあっては、フォーク本体が収縮状態から最収縮状態になるまでの減衰作用を滑らかに連続させることが容易になり、このフロントフォークを前輪側に装備する二輪車にあっては、乗り心地、つまり、乗車フィーリングが改善されることになる。
【0070】
ちなみに、この発明のフロントフォークにあって、基準状態時にオイルロックピース5が作動油中に位置決められている場合には、収縮作動の開始当初から設定通りの減衰作用の具現化が可能になる。
【0071】
なお、この点に関して、前記した特許文献1に開示の提案にあっては、油面が基準状態時に絞り部材Vの下方に位置決められるので、収縮作動の開始当初から減衰作用が具現化されず、油面位置が区々となる場合には、減衰作用の開始時期にバラツキを招来させる不具合が懸念される。
【0072】
それに対して、この発明のフロントフォークにあっては、オイルロックピース5と車輪側チューブ2との間における作動油の流れで減衰作用をなすから、オイルロックケース6の内径を考慮すると共にオイルロックピース5における外径を選択することで、減衰作用を調整することが可能になる。
【0073】
すなわち、前記した特許文献1に開示の提案では、図5に示すように、フォーク本体がこれを伸長方向に附勢する懸架スプリングSを倒立型のダンパを構成するシリンダCと車輪側チューブT2との間に有するから、オイルロックピースO1を車輪側チューブT2の内周に接近されることが困難になる。
【0074】
それに対して、この発明では、エア圧によってフォーク本体を伸長方向に附勢して、懸架スプリングを有しないので、オイルロックピース5を車輪側チューブ2の内周に接近させることが可能になり、オイルロックピース5を車輪側チューブ2との間における作動油の流れで減衰作用をなすことができる。
【0075】
ところで、この発明のフロントフォークにあっては、図1および図2に示すように、ダンパを構成するシリンダ体3がフォーク本体を構成する車輪側チューブ2にガイド部材7の配在下に支持されて、ダンパにおける折れ曲がりの危険を排除している。
【0076】
つまり、この種のダンパを内装するフロントフォークにあっては、その伸縮作動中にダンパが折れ曲がることを阻止すると共に、ダンパが折れ曲がって車輪側チューブ2の内周を齧ることを阻止する必要がある。
【0077】
そこで、この発明にあっては、ダンパにおけるシリンダ体3の外周に保持されて外周をフォーク本体における車輪側チューブ2の内周に摺接させるガイド部材7を有するとする。
【0078】
そして、この発明にあって、このガイド部材7は、作動油を通過させるとし、しかも、ガイド部材7における作動油の通過が前記したオイルロックピース5と車輪側チューブ2との間における作動油の通過に伴う減衰作用を阻害しないとする。
【0079】
つまり、原理的には、作動油を通過させる場合には、減衰作用がなされると言い得るので、このガイド部材7も減衰作用をすると推定されるが、この発明にあっては、前記したオイルロックピース5と車輪側チューブ2との間における減衰作用を阻害しないと言う意味から、ガイド部材7は、減衰作用をなさないとする。
【0080】
図4にこのガイド部材7を示すが、このガイド部材7は、全体としては、シリンダ体3の外周に沿う内周を有すると共に、車輪側チューブ2の内周に沿う外周を有する環状に形成される。
【0081】
その上で、このガイド部材7は、外周側部に周方向に適宜の間隔で形成されて作動油の通路とされる欠落部7aと、この欠落部7aより周方向に短尺に形成されて突出片となる残部7bとを有してなり、残部7bの外周を車輪側チューブ2の内周に隣接させる。
【0082】
そして、このガイド部材7にあっては、複数となる欠落部7aの面積が、図3に示すオイルロックピース5と車輪側チューブ2との間に出現する隙間(符示せず)の面積よりも大きくなるとしている。
【0083】
そしてまた、このガイド部材7は、図示するところでは、シリンダ体3の外周に介装されるストッパ71に上端が係止され、このストッパ71は、シリンダ体3に形成の環状溝3eに嵌装のスナップリング72で所定位置に定着される。
【0084】
なお、ガイド部材7の所定位置への定着については、前記したオイルロックピース5と車輪側チューブ2との間における作動油の通過で具現化される減衰作用を阻害しない限りにおいて、また、シリンダ体3のいわゆる横方向への移動を阻止する限りにおいて、任意の構成が選択されて良い。
【0085】
また、この発明にあっては、フォーク本体を内圧たるエア圧で伸長方向に附勢するとして懸架スプリングS(図5参照)を有しないから、ガイド部材7が懸架スプリングSの上端を係止するバネ受として機能することはない。
【0086】
以上のように形成されたこの発明のフロントフォークにあっては、車体側チューブ1と車輪側チューブ2とからなるフォーク本体に倒立型のダンパを収装してなるから、このダンパによってフォーク本体の伸縮作動時における減衰作用の具現化を期待できる。
【0087】
そして、この発明にあっては、特に、フォーク本体の収縮作動時にダンパを構成するシリンダ体3のヘッド端部3aに保持されるオイルロックピース5とこのオイルロックピース5が対向する車軸側チューブ2との間における作動油の流れによる減衰作用が成される。
【0088】
また、この発明にあっては、フォーク本体が最収縮状態になるときに、オイルロックピース5をオイルロックケース6内に嵌入させるからオイルロックピース5とオイルロックケース6の開口端との間で減衰作用が具現化されながらフォーク本体における底突きが阻止される。
【0089】
このとき、オイルロックピース5がオイルロックケース6内に嵌入することによる減衰作用は、それまでオイルロックピース5が車輪側チューブ2との間でなされていた減衰作用に連続する。
【0090】
その結果、フロントフォークが収縮作動するとき、その開始時から最収縮状態になるまでの減衰作用を滑らかに連続させることが可能になり、減衰作用が途中で不連続になったり、途中に折れ点を生じたりすることになる場合に比較して、二輪車における乗り心地、つまり、乗車フィーリングを良くすることが可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0091】
二輪車の前輪側に装備されて走行中の振動を吸収する油圧緩衝器とされるのに向く。
【符号の説明】
【0092】
1 車体側チューブ
2 車輪側チューブ
2a 連通孔
3 シリンダ体
3a ヘッド端部
3b 細径部
3c,22a 段部
3d,3e 環状溝
4 ロッド体
5 オイルロックピース
6 オイルロックケース
6a 本体部
6b 導入部
6c 基端部
6d,24a 鍔部
7 ガイド部材
7a 欠落部
7b 残部
11,21 軸受
12 オイルシール
13 ダストシール
14 キャップ部材
22 アクスルブラケット
23,61,62 シール部材
24 締め付け部材
51 ストッパリング
71 ストッパ
72 スナップリング
A 潤滑隙間
a 隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体側チューブと車輪側チューブとからなるフォーク本体と、このフォーク本体内に収装されてシリンダ体とロッド体とからなる倒立型のダンパと、上記シリンダ体のヘッド端部に保持される環状に形成のオイルロックピースと、上記フォーク本体のボトム部に固定状態に設けられて開口が上方たる上記シリンダ体のヘッド端部側を向く筒状に形成のオイルロックケースとを有してなるフロントフォークにおいて、
上記フォーク本体の収縮作動時に上記オイルロックピースの外周とこのオイルロックピースの外周が対向する上記車輪側チューブの内周との間を作動油が通過することで減衰作用が具現化されると共に、
上記フォーク本体の最収縮作動時に上記オイルロックピースが上記オイルロックケース内に嵌入することで減衰作用を伴いながらオイルロックを具現化してなることを特徴とするフロントフォーク。
【請求項2】
上記オイルロックピースが上記フォーク本体の基準状態時にこのフォーク本体内に収容の作動油における油面の上方あるいは下方のいずれかに位置決められてなる請求項1に記載のフロントフォーク。
【請求項3】
上記シリンダ体の外周にガイド部材が保持され、このガイド部材が外周を上記車輪側チューブの内周に摺接させて作動油の通過を許容してなる請求項1または請求項2に記載のフロントフォーク。
【請求項4】
上記フォーク本体が上記車体側チューブをアウターチューブにすると共に上記車輪側チューブをインナーチューブにする倒立型とされて最伸長状態時に内圧を大気圧以上としてなる請求項1,請求項2または請求項3に記載のフロントフォーク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−172701(P2012−172701A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−32824(P2011−32824)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】