説明

フローティングキャリパ型ディスクブレーキ

【課題】戻しばね5a、5aのストロークの確保と、この戻しばね5a、5aを含む構成部品の組立容易性との両立を図る。更には、制動解除に伴って、アウタパッド3aのライニング8aをロータのアウタ側面から完全に離隔させる事ができる構造を実現する。
【解決手段】パッドクリップ16a、16bの中間部に、前記戻しばね5a、5aの取付基部17を組み付ける。又、これら両パッドクリップ16a、16bに、これら両戻しばね5a、5aの弾性押圧部18、18の先端部に設けた係止部19、19を突き当ててこれら各弾性押圧部18、18が、インナ、アウタ両パッド2a、3aを過度に押圧するのを阻止する、一対の変位規制部23、23を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明に係るフローティングキャリパ型ディスクブレーキは、自動車等の車両の制動を行う為に利用する。特に、本発明は、制動解除に伴って一対のパッドをロータの側面から離す為の、戻しばねの組み付け構造の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両の制動を行う為のディスクブレーキとして従来から、サポートに対しキャリパを軸方向の変位を自在に支持すると共に、このキャリパのうち、ロータに関して片側にのみシリンダ部及びピストンを設けたフローティングキャリパ型のものが、従来から広く知られ、実際に広く使用されている。又、この様なディスクブレーキには、制動解除に伴ってパッドの内側面(ロータに対向する面)をロータの両側面から離隔させる為の戻しばね(リターンスプリング)を設けている。この様なリターンスプリングを設けたフローティングキャリパ型ディスクブレーキとして、例えば、特許文献1〜2に記載された構造が知られている。
【0003】
図8〜9は、このうちの特許文献1に記載されたフローティングキャリパ型ディスクブレーキを示している。このフローティングキャリパ型ディスクブレーキは、サポート1と、一対のパッドであるインナパッド2及びアウタパッド3と、キャリパ4と、一対の戻しばね5とを備える。このうちのサポート1は、車輪と共に回転するロータ6に隣接すると共にこのロータ6を跨ぐ状態で車体に固定されるもので、このロータ6を挟んで両側部分に、上記インナパッド2及びアウタパッド3を保持する為のパッド保持部を備えている。これらインナ、アウタ両パッド2、3は、これら両パッド保持部に、前記ロータ6の軸方向の変位を可能に保持している。これら両パッド2、3は、それぞれプレッシャプレート7、7の前面(互いに対向する面)にライニング8、8を添着固定して成る。
【0004】
この様な前記両パッド2、3は、それぞれのプレッシャプレート7、7のうち、前記ロータ6の周方向に関する両端部を、上記サポート1に設けた前記両パッド保持部の同方向両端部に係合させる事により、このサポート1に対し保持している。又、図8〜9には省略したが、前記両プレッシャプレート7、7の両端部と前記両パッド保持部の両端部との係合部には、特許文献2に記載されている様なパッドクリップを設ける。このパッドクリップは、ステンレスのばね鋼板等の、耐食性及び弾性を有する金属板を曲げ形成して成るもので、前記各係合部が錆び付くのを防止すると共に、非制動時に前記両パッド2、3が前記サポート1に対しがたつくのを防止する役目を有する。
【0005】
又、前記戻しばね5は、ステンレスのばね鋼等の、耐食性及び弾性を有する線材を曲げ形成して成るもので、前記ロータ6の径方向から見た形状が「く」字形である弾性変形部9と、この弾性変形部9の両端から前記ロータ6の径方向内方に折れ曲がった係止部10とを備える。この様な戻しばね5は、これら両係止部10を、前記両パッド2、3に、前記ロータ6の径方向に形成した係止孔に挿入する事で、これら両パッド2、3同士の間に掛け渡す状態で設けている。そして、これら両パッド2、3同士が近付きあった場合に前記弾性変形部9が弾性変形し、これら両パッド2、3に、互いに離れる方向の弾力を付与する様にしている。
【0006】
又、前記キャリパ4は前記サポート1に対して、一対のガイドピン11と一対のガイド孔12との係合に基づき、前記ロータ6の軸方向に関する変位を可能に支持している。この様なキャリパ4のアウタ側端部には、前記ロータ6の径方向に関して内方に折れ曲がったキャリパ爪13を、インナ側端部にはピストン14を内嵌したシリンダ部15を、それぞれ設けている。
【0007】
制動を行う場合には、前記シリンダ部15内に油圧を導入し、前記ピストン14により前記インナパッド2のライニング8を、前記ロータ6のインナ側面に、図9の上から下に押し付ける。すると、この押し付け力の反作用として前記キャリパ4が、前記両ガイドピン11と前記両ガイド孔12との摺動に基づいて、図9の上方に変位し、前記キャリパ爪13がアウタパッド3のライニング8を、前記ロータ6の外側面に押し付ける。この結果、このロータ6がインナ、アウタ両側から強く挟持されて、制動が行われる。制動解除時には、前記シリンダ部15内の油圧を低下(喪失)させる。すると、前記戻しばね5の弾力により前記両パッド2、3同士の間隔が拡がり、これら両パッド2、3のライニング8、8と前記ロータ6の両側面とが強く擦れ合う事がなくなる。
【0008】
上述の様な従来構造の場合、次の(1)(2)の様な点で改良の余地がある。
(1) 前記戻しばね5のストロークの確保と、この戻しばね5を含むディスクブレーキの構成部品の組立容易性との両立が難しい。
(2) 制動解除に伴って、前記アウタパッド3のライニング8を前記ロータ6のアウタ側面から完全に離隔させる事が難しい。
前述した従来構造の場合に、これら(1)(2)の様な課題を生じる理由は、次の通りである。
【0009】
先ず、前記(1) の課題は、前記両パッド2、3の厚さ寸法の変化(新品時か、摩耗に伴って交換直前の状態か)に拘らず、制動解除に伴って前記両パッド2、3を適正な力で互いに離隔させるべく、前記戻しばね5のストロークを確保すると、この戻しばね5の自由状態で、前記両パッド2、3同士の間隔が大きく拡がる事で生じる。この様にこれら両パッド2、3同士の間隔が、前記戻しばね5の弾力に基づいて大きく拡がると、前記サポート1に前記キャリパ4を組み付ける以前の状態では、前記両パッド2、3同士の間隔が過度に拡がらない様に抑えていない限り、これら両パッド2、3が前記サポート1から脱落する。又、これら両パッド2、3を、前記キャリパ爪13の内側面と前記ピストン14の先端面との間に進入させる事ができず、前記サポート1に対する前記キャリパ4の組み付け作業を行えない。この為、ディスクブレーキの組立作業が面倒になって、このディスクブレーキの製造コスト低減の面から不利になる。
【0010】
又、前記(2) の課題は、前記ロータ6のアウタ側面から前記アウタパッド3のライニング8を離隔させる事に対する抵抗が、このロータ6のインナ側面から前記インナパッド2のライニング8を離隔させる事に対する抵抗よりも大きい事に起因する。即ち、このインナパッド2のライニング8を前記ロータ6のインナ側面から離隔させるべく、このインナパッド2をインナ側に変位させる事に対する抵抗は、このインナパッド2のプレッシャプレート7と前記サポート1(に装着したパッドクリップ)との係合部の摩擦抵抗の他、前記シリンダ部15内に前記ピストン14を押し込む為に要する力だけである。この為、制動解除に伴って前記インナパッド2のライニング8を前記ロータ6のインナ側面から、比較的小さな力で離隔させる事ができる。これに対して前記アウタパッド3のライニング8を離隔させる事に対する抵抗は、前記インナパッド2の場合と同様の抵抗に加えて、前記キャリパ4を前記サポート1に対して変位させる事に対する抵抗(前記両ガイドピン11と前記両ガイド孔12との係合部の摩擦抵抗)が加わる。
【0011】
この為、制動解除後に、前記ロータ6のインナ側面と前記インナパッド2のライニング8とが十分に離隔しても、このロータ6のアウタ側面と前記アウタパッド3のライニング8とは十分には離隔しない可能性がある。この結果、制動解除後の状態でも、前記ロータ6のアウタ側面と前記アウタパッド3のライニング8とが軽く擦れ合ったままの状態となり、このライニング8の摩耗が進んだり、加速性能や燃費性能を中心とする走行性能が悪化する可能性がある。特許文献2に記載された構造の場合には、戻しばねの中間部をパッドクリップに対し係止している為、この戻しばねがインナパッドを押圧する力とアウタパッドを押圧する力とを独立して調節できる。但し、前記特許文献2に記載された構造の場合も、前述した理由により組立作業が面倒になるのを防止する事はできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平5−44751号公報
【特許文献2】特開平10−54431号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、少なくとも戻しばねのストロークの確保とこの戻しばねを含むディスクブレーキの構成部品の組立容易性との両立を図り、更に好ましくは、制動解除に伴って、アウタパッドのライニングをロータのアウタ側面から完全に離隔させる事ができるフローティングキャリパ型ディスクブレーキを実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のフローティングキャリパ型ディスクブレーキは、前述した従来から知られているフローティングキャリパ型ディスクブレーキと同様に、サポートと、一対のパッドと、パッドクリップと、キャリパと、戻しばねとを備える。
このうちのサポートは、車輪と共に回転するロータに隣接すると共にこのロータを跨ぐ状態で、車体に固定される。
又、前記両パッドは、前記ロータの軸方向両側に配置されると共に、このロータの軸方向への移動を可能として、前記サポートのパッド支持部に支持されている。
又、前記パッドクリップは、金属板製で、前記サポートに設けられている。このパッドクリップは、例えば、サポートと前記両パッドとの間に設ける。
又、前記キャリパは、このロータよりもアウタ側にキャリパ爪を、同じくインナ側にピストンが嵌装されるシリンダ部を、それぞれ設けて成り、前記サポートに対し前記ロータの軸方向に変位可能に支持されている。
更に、前記戻しばねは、前記両パッドをこのロータから離す方向に付勢する。
【0015】
特に、本発明のフローティングキャリパ型ディスクブレーキに於いては、前記戻しばねは、取付基部と弾性押圧部とを備えたものである。
又、前記パッドクリップは、前記戻しばねの取付基部を組み付ける為の取付係止部を備えたものである。
更に、この戻しばねの取付基部を前記取付係止部に組み付け、前記弾性押圧部の先端部を前記両パッドのうちの少なくとも一方のパッドの一部に係止した状態でこの弾性押圧部の先端部が当該パッドを、この先端部が前記サポートに直接又は他の部材を介して設けられた変位規制部に突き当たる迄、前記ロータから離れる方向に押圧可能としている。
そして、前記弾性押圧部の先端部が当該パッドを、この先端部が前記変位規制部に突き当たる迄、前記ロータから離れる方向に変位させた状態で、当該パッドの内側面とこのロータの軸方向側面とが離隔するが、当該パッドが前記サポートのパッド支持部から抜け出ない様に、各部の寸法を規制している。
【0016】
上述の様な本発明のフローティングキャリパ型ディスクブレーキを実施する場合に好ましくは、請求項2に記載した発明の様に、前記パッドクリップを、前記取付係止部に加え、前記戻しばねの弾性押圧部の先端部を突き当てて、この弾性押圧部がそれ以上この取付基部から離れる方向に変位するのを阻止する変位規制部を備えたものとする。
この様な請求項2に記載した発明を実施する場合に好ましくは、請求項3に記載した発明の様に、前記パッドクリップとして、取付係止部と一対の変位規制部とを備えたものを使用する。
このうちの取付係止部は、前記戻しばねの取付基部を組み付ける為の部分で、前記ロータの軸方向に関して中間部に設ける。
又、前記両変位規制部は、前記戻しばねの弾性押圧部の先端部を突き当ててこの弾性押圧部がそれ以上前記取付基部から離れる方向に変位するのを阻止するもので、前記取付係止部から軸方向両側に外れた部分に設ける。
更に、前記戻しばねの取付基部を前記取付係止部に組み付け、前記両弾性押圧部を前記両パッドの一部に係止した状態でこれら両弾性押圧部がこれら両パッドを、これら両弾性押圧部が前記両変位規制部に突き当たる迄、互いに離れる方向に押圧可能とする。
そして、これら両弾性押圧部がこれら両変位規制部に突き当たる迄前記両パッド同士の間隔を拡げた状態で、これら両パッドの内側面と前記ロータの軸方向両側面とが離隔するが、これら両パッドの端部が前記パッドクリップからこのロータの軸方向に抜け出ず、この状態での、前記ロータの軸方向に関するこれら両パッドの背面同士の距離が、前記シリンダ部内に前記ピストンを引っ込ませた状態での、このピストンの先端面と前記キャリパ爪の内側面との、同方向の距離以下となる様に、各部の寸法を規制する。
【発明の効果】
【0017】
上述の様に構成する本発明のフローティングキャリパ型ディスクブレーキによれば、戻しばねのストロークの確保とこの戻しばねを含むディスクブレーキの構成部品の組立容易性との両立を図れる。即ち、本発明の構造では、弾性押圧部の先端部が変位規制部に突き当たる迄パッドをロータから離れる方向に変位させ、このパッドの内側面と前記ロータの軸方向側面とを離隔させた状態でも、このパッドがサポートのパッド支持部から抜け出ない。この為、このパッドがサポートから脱落する事がなくなり、脱落防止の為にこのパッドを抑え付けておく必要がなくなって、ディスクブレーキの組立作業の容易化を図れ、製造コスト低減の面から有利になる。尚、前記変位規制部は、前記サポートに直接設ける事もできるが、請求項2に記載した発明の様にパッドクリップに設ければ、前記戻しばねの組み付け性を良好にできる。
【0018】
更に、請求項3に記載した発明の様に、一対の弾性押圧部が一対のパッド同士の間隔を拡げた状態でのこれら両パッドの背面同士の距離を、ピストンの先端面とキャリパ爪の内側面との距離以下にすれば、これら両パッドを抑えていなくても、これら両パッドをこれらキャリパ爪の内側面とピストンの先端面との間に進入させる事ができる。この為、ディスクブレーキの組立作業の、より一層の容易化を図れ、このディスクブレーキの製造コストの更なる低減を図れる。
又、本発明の構造の場合には、前記両弾性押圧部の形状を非対称とする事により、前記戻しばねがインナパッドを押圧する力と、同じくアウタパッドを押圧する力とを独立して調節できる。即ち、請求項4に記載した発明の様に、前記戻しばねを、一対の弾性押圧部を備えたものとし、この戻しばねの取付基部を前記パッドクリップの取付係止部に組み付けると共に、前記両弾性押圧部により前記両パッドを互いに離れる方向に押圧した状態での、一方の弾性押圧部が一方のパッドを押圧する弾力の大きさと、他方の弾性押圧部が他方のパッドを押圧する弾力の大きさとが、互いに独立して設定できる。そして、制動解除後の状態で、このアウタパッドのライニングがロータのアウタ側面と擦れ合う事を確実に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態の第1例を、キャリパを省略して、インナ側且つ径方向外側から見た状態で示す斜視図。
【図2】同じく径方向外側から見た状態で示す正投影図。
【図3】同じくインナ側から見た状態で示す正投影図。
【図4】図1のA部拡大図。
【図5】同B部拡大図。
【図6】互いに組み合わせたパッドスプリング及び戻しばねを取り出して、径方向外側から見た状態で示す斜視図。
【図7】図6のC矢印方向から見た正投影図。
【図8】従来構造の1例を示す、一部を切断してアウタ側から見た正投影図。
【図9】同じく、一部を切断して径方向外側から見た正投影図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1〜7は、本発明の実施の形態の1例を示している。このフローティングキャリパ型ディスクブレーキは、前述した従来から知られているフローティングキャリパ型ディスクブレーキと同様に、サポート1aと、一対のパッドであるインナパッド2a及びアウタパッド3aと、キャリパ4(図8〜9参照、図1〜5には省略)と、一対の戻しばね5a、5aとを備える。このうちのサポート1aは、車輪と共に回転するロータ6(図8〜9参照、図1〜5には省略)に隣接すると共にこのロータ6を跨ぐ状態で車体(懸架装置を構成するナックル等)に固定される。又、前記インナ、アウタ両パッド2a、3aは、前記ロータ6の軸方向両側に配置されると共に、パッドクリップ16a、16bを介して前記サポート1aに、前記ロータ6の軸方向(図2の上下方向、図3の表裏方向)への移動可能に支持されている。又、前記キャリパ4は、前述の図8〜9に示した従来構造と同様に、前記ロータ6よりもアウタ側にキャリパ爪13を、同じくインナ側にピストン14が嵌装されるシリンダ部15を、それぞれ設けて成り、前述の図8〜9に示した従来構造と同様、ガイドピン11とガイド孔12との係合等により、前記サポート1aに対し前記ロータ6の軸方向に変位可能に支持されている。
【0021】
前記両戻しばね5a、5aは、前記インナ、アウタ両パッド2a、3aを、前記ロータ6から離す方向(互いに離れる方向)に付勢する。前記両戻しばね5a、5aは、ステンレスのばね鋼等の、弾性及び耐食性を有する線材を曲げ形成して成るもので、それぞれ取付基部17と一対の弾性押圧部18、18とを備える。このうちの取付基部17はコ字形であり、これら両弾性押圧部18、18はV字形である。更に、これら両弾性押圧部18、18の先端部は、前記ロータ6の径方向に関し内側に折り曲げて、それぞれ係止部19、19としている。これら両係止部19、19はそれぞれ、前記インナ、アウタ両パッド2a、3aを構成するプレッシャプレート7a、7aの両端部の互いに対向する内側面のうち、前記ロータ6の径方向に関して外端部に、弾性的に当接させている。これにより前記インナ、アウタ両パッド2a、3aに、互いに離れる方向の弾力を付与している。
【0022】
又、前記両パッドクリップ16a、16bは、ステンレスのばね鋼板等の、弾性及び耐食性を有する板材を曲げ形成して成るもので、基板部20と、取付係止部21と、一対のスペーサ部22、22と、一対の変位規制部23、23とを備える。このうちの基板部20は、前記ロータ6の径方向に関して外端寄り部分に設けられたもので、前記ロータ6の軸方向に関して、前記サポート1aの全幅に亙り連続している。又、前記取付係止部21は、前記戻しばね5aの取付基部17を組み付ける為のもので、前記基板部20の中央部のうちで前記ロータ6の径方向内端縁から前記サポート1aの周方向中央部に向け、折り曲げ形成されている。この様な取付係止部21の2辺及び前記基板部20の中央部との、合わせて3辺には、それぞれが欠円筒状である抱持片24、24を、それぞれの開口をこの取付係止部21の中央に向けた状態で設けている。前記戻しばね5aの取付基部17は、前記各抱持片24、24に抱持された状態で、前記取付係止部21に組み付けられている。そして、この様に前記戻しばね5aの取付基部17をこの取付係止部21に組み付けた状態で、前記両係止部19、19は、前記ロータ6の軸方向に関して、この取付係止部21の両側縁と前記両変位規制部23、23との間でのみ、変位可能になる。
【0023】
尚、前記両パッドクリップ16a、16bを前記サポート1aに組み付けるタイミングと、これら両パッドクリップ16a、16bと前記両戻しばね5a、5aとを組み合わせるタイミングとの前後は問わない。これら両パッドクリップ16a、16bを前記サポート1aに組み付けた後、これら両パッドクリップ16a、16bに前記両戻しばね5a、5aを組み合わせても良いし、図6〜7に示す様に、予め戻しばね5aを組み合わせたパッドクリップ16a(16b)を、前記サポート1aに組み付けても良い。
【0024】
又、前記両スペーサ部22、22は、前記インナ、アウタ両パッド2a、3aを構成するプレッシャプレート7aの両端周縁部と、前記サポート1aのパッド抱持部の内面との間に挟持されるもので、これら両端周縁部及び内面の形状に倣って、クランク状に屈曲している。この様な前記両スペーサ部22、22は、前記両端周縁部と前記内面との間に介在して、これら両端周縁部と内面とが錆び付くのを防止すると共に、これら両端周縁部と内面との間で弾性的に突っ張る事により、非制動時に前記インナ、アウタ両パッド2a、3aが前記サポート1aに対しがたつく事を防止する。尚、前進方向に関し、前記ロータ6の回入側(図1〜3の右側)と回出側(図1〜3の左側)とで、前記プレッシャプレート7a並びに前記各スペーサ部22、22の形状を異ならせている。この様な各部の形状を異ならせる理由は、前記がたつき防止効果をより向上させる為である。この様な構造に関しては、従来から知られており、本発明の要旨とも直接は関係しない為、詳しい説明は省略する。
【0025】
更に、前記両変位規制部23、23は、前記ロータ6の径方向に関して、前記各スペーサ部22、22の外端部を構成する外径側板部25、25の幅寸法を途中で変える事により構成している。即ち、これら各外径側板部25、25の幅寸法を、前記両パッドクリップ16a、16bの端部寄りで大きく、中央寄りで小さくし、この幅寸法が変化する部分に存在する段差部を、前記各変位規制部23、23としている。同じパッドクリップ16a(16b)に設けた一対の変位規制部23、23同士の間隔D23(図2参照)は、次の(1) 〜(3) の条件を総て満たす様に規制している。
【0026】
(1) 前記戻しばね5aの両端部に設けた一対の係止部19、19が前記両変位規制部23、23に突き当たる迄、これら両係止部19、19が前記インナ、アウタ両パッド2a、3aを互いに離隔する方向に押圧しても、これら両パッド2a、3aを構成するプレッシャプレート7a、7aが、前記両パッドクリップ16a、16bのスペーサ部22、22から抜け出る事はない。
(2) 前記両係止部19、19が前記両変位規制部23、23に突き当たる迄、前記インナ、アウタ両パッド2a、3aを互いに離隔させれば、これら両パッド2a、3aのライニング8a、8aと前記ロータ6の両側面とが擦れ合う事はない(確実に離隔する)。
(3) 前記両係止部19、19が前記両変位規制部23、23に突き当たる迄、前記インナ、アウタ両パッド2a、3aを互いに離隔させても、前記ロータ6の軸方向に関するこれら両パッド2a、3aの背面同士の距離L0 (図2参照)が、前記シリンダ部15内に前記ピストン15を最も引っ込ませた状態(間隙調節装置が未動作で、且つ、非制動時の状態)での、このピストン15の先端面と前記キャリパ爪13の内側面との、同方向の距離L1 (図9参照)以下(L0 ≦L1 、好ましくは未満)に止まる。
【0027】
本例のフローティングキャリパ型ディスクブレーキは、上述の様に、前記両戻しばね5a、5aにより前記インナ、アウタ両パッド2a、3aを互いに離隔させる方向に変位する量を規制しているので、次の様な理由により、ディスクブレーキの製造コスト低減の面から有利になる。第一に、組立作業の間中、前記両パッド2a、3aを抑えていなくても、これら両パッド2a、3aが前記両パッドクリップ16a、16bのスペーサ部22、22から抜け出る事はないので、組立作業時に前記両パッド2a、3aを抑え付けておく手間を低減できる。更に本例の場合には、これら両パッド2a、3aを抑え付けておかなくても、これら両パッド2a、3aを、前記ピストン15の先端面と前記キャリパ爪13の内側面との間に進入させつつ、前記サポート1aと前記キャリパ4とを組み合わせられる。この為、これらサポート1aとキャリパ4との組み合わせ作業を容易にして、ディスクブレーキの製造コストの低減を図れる。
【0028】
更に本例の構造の場合には、前記両戻しばね5a、5aに一対ずつ設けた、前記各弾性押圧部18、18の形状を非対称とする事により、これら両戻しばね5a、5aが前記インナパッド2aを押圧する力と、同じくアウタパッド3aを押圧する力とを独立して調節できる。例えば、前記インナパッド2aを押圧する弾性押圧部18の自由状態から組み付け状態迄の弾性変形量よりも、前記アウタパッド3aを押圧する弾性押圧部18の自由状態から組み付け状態迄の弾性変形量を多くする事により、制動解除に伴って前記アウタパッド3aを前記ロータ6から離隔させる方向の力を大きくできる。そして、制動解除後の状態で、前記アウタパッド3aのライニング8aが前記ロータ6のアウタ側面と擦れ合う事を確実に防止できる。
【符号の説明】
【0029】
1、1a サポート
2、2a インナパッド
3、3a アウタパッド
4 キャリパ
5、5a 戻しばね
6 ロータ
7、7a プレッシャプレート
8、8a ライニング
9 弾性変形部
10 係止部
11 ガイドピン
12 ガイド孔
13 キャリパ爪
14 ピストン
15 シリンダ部
16a、16b パッドクリップ
17 取付基部
18 弾性押圧部
19 係止部
20 基板部
21 取付係止部
22 スペーサ部
23 変位規制部
24 抱持片
25 外径側板部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪と共に回転するロータに隣接すると共にこのロータを跨ぐ状態で車体に固定されるサポートと、このロータの軸方向両側に配置されると共に、このロータの軸方向への移動を可能として、前記サポートのパッド支持部に支持された一対のパッドと、このサポートに設けられた金属板製のパッドクリップと、前記ロータよりもアウタ側にキャリパ爪を、同じくインナ側にピストンが嵌装されるシリンダ部を、それぞれ設けて成り、前記サポートに対し前記ロータの軸方向に変位可能に支持されたキャリパと、前記両パッドをこのロータから離す方向に付勢する戻しばねとを備えたフローティングキャリパ型ディスクブレーキに於いて、この戻しばねは、取付基部と弾性押圧部とを備えたものであり、前記パッドクリップは、この戻しばねの取付基部を組み付ける為の取付係止部を備えたものであり、この戻しばねの取付基部を前記取付係止部に組み付け、前記弾性押圧部の先端部を前記両パッドのうちの少なくとも一方のパッドの一部に係止した状態でこの弾性押圧部の先端部が当該パッドを、この先端部が前記サポートに直接又は他の部材を介して設けられた変位規制部に突き当たる迄、前記ロータから離れる方向に押圧可能としており、前記先端部が前記変位規制部に突き当たる迄、前記ロータから離れる方向に変位させた状態で、当該パッドの内側面とこのロータの軸方向側面とが離隔するが、当該パッドが前記サポートのパッド支持部から抜け出ない事を特徴とするフローティングキャリパ型ディスクブレーキ。
【請求項2】
前記両パッドは、前記パッドクリップを介して前記サポートのパッド支持部に支持されており、このサポートに対し固定の部分である、前記パッドクリップは、前記取付係止部に加え、前記戻しばねの弾性押圧部の先端部を突き当てて、この弾性押圧部がそれ以上この取付基部から離れる方向に変位するのを阻止する変位規制部を備えている、請求項1に記載したフローティングキャリパ型ディスクブレーキ。
【請求項3】
前記パッドクリップは、前記ロータの軸方向に関して中間部に、前記戻しばねの取付基部を組み付ける為の取付係止部を、この取付係止部から軸方向両側に外れた部分に、前記戻しばねの弾性押圧部の先端部を突き当ててこの弾性押圧部がそれ以上前記取付基部から離れる方向に変位するのを阻止する一対の変位規制部を、それぞれ備えており、この戻しばねの取付基部を前記取付係止部に組み付け、前記両弾性押圧部を前記両パッドの一部に係止した状態でこれら両弾性押圧部がこれら両パッドを、これら両弾性押圧部が前記両変位規制部に突き当たる迄、互いに離れる方向に押圧可能としており、これら両弾性押圧部がこれら両変位規制部に突き当たる迄前記両パッド同士の間隔を拡げた状態で、これら両パッドの内側面と前記ロータの軸方向両側面とが離隔するが、これら両パッドの端部が前記パッドクリップからこのロータの軸方向に抜け出ず、この状態での、前記ロータの軸方向に関するこれら両パッドの背面同士の距離が、前記シリンダ部内に前記ピストンを引っ込ませた状態での、このピストンの先端面と前記キャリパ爪の内側面との、同方向の距離以下である、請求項2に記載したフローティングキャリパ型ディスクブレーキ。
【請求項4】
前記戻しばねは一対の弾性押圧部を備えたものであり、この戻しばねの取付基部を前記パッドクリップの取付係止部に組み付けると共に、前記両弾性押圧部により前記両パッドを互いに離れる方向に押圧した状態での、一方の弾性押圧部が一方のパッドを押圧する弾力の大きさと、他方の弾性押圧部が他方のパッドを押圧する弾力の大きさとが、互いに独立して設定されている、請求項1〜3のうちの何れか1項に記載したフローティングキャリパ型ディスクブレーキ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2010−203559(P2010−203559A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−51438(P2009−51438)
【出願日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】