説明

ブレーキ装置

【課題】シューとドラムの接触位置を精度良く検出し、ブレーキの応答性を向上させる。
【解決手段】ブレーキ装置は、シューをドラムに押圧する電動アクチュエータを備えている。電動アクチュエータが作動するとシューがドラムとのクリアランスを詰める方向に移動する。この場合、電動アクチュエータは、クリアランスを詰めている間はシューを移動させるだけの力を付与すればよいが、シューとドラムが接触するとシューを移動させる力にシューをドラムに押圧する押圧力を加味して電動アクチュエータを駆動させる必要がある。このため、摩擦部材と回転部材が接触すると、摩擦部材の移動量に対する電動アクチュエータの供給電流の電流勾配が急激に増加する。この急激に増加した時点シューの接触位置と検出して、この接触位置に基づいて電動アクチュエータを駆動制御することでブレーキの応答性を向上することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動アクチュエータを用いて摩擦部材を回転部材に押圧して、車両に制動力を発生させるブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電動アクチュエータを用いて制動力を発生させるブレーキ装置に関しては、例えば、下記特許文献1に記載されたものがある。このブレーキ装置は、回転部材であるドラムに対して所定のクリアランスを保つように配設されたシューと、このシューの位置を検出する位置検出センサを備え、電動アクチュエータの作動中にシューがドラムとの接触位置に到達したか否かを判定する。そして、この判定結果に基づいて電動アクチュエータの駆動制御を変更することで、ブレーキ装置の制動初期の応答性を向上させるとともにシューがドラムに接触する際に生じる異音を低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−67906号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記した特許文献1に記載されているブレーキ装置では、シューとドラムのクリアランスが一定であることを前提に、電動モータの回転量からシューの位置を検出して、シューがドラムとの接触位置に到達したか否かを判定している。このため、例えば、シューの磨耗や熱膨張等により、シューとドラムのクリアランスに変更が生じた場合には、上記接触位置と判定されるシューの位置は実際の接触位置とは異なってくる。
【0005】
また、同特許文献1には、車両に生じる実際の制動力を検出する加圧力センサを用いてシューのドラムとの接触位置を検出する方法も提案されている。この方法は、車両に制動力が発生した時点(加圧力センサの出力値が”0”を超えた時点)をシューがドラムと接触した時点と判断して、この時点のシューの位置をドラムとの接触位置としている。このため、加圧力センサを用いない場合に比べて精度良くシューのドラムとの接触位置を検出することはできる。しかしながら、この場合は、別途に加圧力センサを設ける必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題に対処するためになされたものであり、車輪と共に回転する回転部材と、回転部材を押圧する摩擦部材と、摩擦部材を移動させて回転部材に押圧させる電動アクチュエータと、電流の供給により電動アクチュエータを駆動させる駆動手段と、摩擦部材の移動量を検出する移動量検出手段と、電動アクチュエータが駆動した場合に、移動量検出手段により検出された移動量に対する電動アクチュエータの供給電流の勾配変化に基づいて摩擦部材が回転部材に接触する接触位置を検出する接触位置検出手段とを有することを特徴とする。
【0007】
上記のように構成した本発明の特徴においては、電動アクチュエータが作動すると摩擦部材が回転部材とのクリアランスを詰める方向に移動する。この場合、電動アクチュエータは、摩擦部材が回転部材に接触するまで(クリアランスを詰めている間)は摩擦部材を移動させるだけの力を出力すればよいが、摩擦部材と回転部材が接触すると摩擦部材を移動させる力に摩擦部材を回転部材に押圧する押圧力を加味して電動アクチュエータを駆動させる必要がある。このため、摩擦部材が回転部材と接触する前後で摩擦部材の移動量に対する電動アクチュエータの供給電流の勾配は変化する。よって、この摩擦部材の移動量に対する電動アクチュエータの供給電流の勾配変化を検出することにより、加圧力センサを用いなくとも摩擦部材が回転部材と接触する接触位置を検出することができる。
【0008】
この場合において、例えば、接触位置検出手段は、移動量検出手段により検出された移動量に対する電動アクチュエータの供給電流の勾配が所定の勾配以上となったときを摩擦部材の移動量に対する電動アクチュエータの供給電流の勾配変化があったときとして、このときの摩擦部材の位置を回転部材との接触位置としてもよい。なお、この場合の「所定の勾配」は、摩擦部材が回転部材に接触するまでの間にはなり得ない摩擦部材の移動量に対する電動アクチュエータの供給電流の勾配とすることが好ましい。
【0009】
また、例えば、接触位置検出手段は、所定の間隔で移動量検出手段により検出された移動量に対する前記電動アクチュエータの供給電流の勾配を算出する算出手段を含み、算出手段により算出された勾配が前回算出された勾配と比べて所定量を超えて変化したときの摩擦部材の位置を回転部材との接触位置としてもよい。すなわち、上述したように、摩擦部材が回転部材と接触した後は接触前に比べて摩擦部材を回転部材に押圧する押圧力を加味して電動アクチュエータは駆動する必要がある。このため、摩擦部材が回転部材と接触したときから摩擦部材の移動量に対する電動アクチュエータの供給電流の勾配は大きく変化する。よって、算出手段により算出された勾配が前回算出された勾配と比べて所定量を超えて変化したときを電動アクチュエータの電流勾配に変化があった時点とすると、この時点の摩擦部材の位置を回転部材の接触位置として検出することができる。なお、この場合の「所定量」は摩擦部材が回転部材に接触するまでには起こりえない勾配の変化量であることが好ましい。また、電動アクチュエータの供給電流の勾配を算出する「所定の間隔」は、一定の間隔である必要はなく、任意の間隔に設定することができる。
【0010】
また、本発明におけるブレーキ装置は、接触位置検出手段により検出された接触位置に摩擦部材が移動した後の電動アクチュエータへ供給した電流に基づいて車両に生じる制動力を推定する制動力推定手段を有するとよい。
【0011】
この場合、予め電動アクチュエータの出力に関する物理量(例えば、電動アクチュエータの供給電流や電動アクチュエータのストローク量)と車両に生じる制動力との関係をモデル化した上で、電動アクチュエータの出力に関する物理量を検出することにより、車両の制動力を推定することができる。
【0012】
また、本発明におけるブレーキ装置は、回転部材がドラムであり、摩擦部材がドラムの摩擦面に押圧される一対のシューであって、さらに、一対のシューのそれぞれに連結されていて、一対のシューが互いに接近する方向に弾性力を付与するスプリングを有する所謂ドラム式のブレーキ装置であるとよい。
【0013】
この場合、電動アクチュエータがシューとドラムのクリアランスを詰めている間は、シューの移動量に対する電動アクチュエータの供給電流の勾配はスプリングのバネ定数によってほぼ一定の値に定まる。このため、スプリングを有する場合には、シューがドラムに接触するまでのシューの移動量に対する電動アクチュエータの供給電流の勾配を予め設定することができる。そして、この予め設定した勾配を超えてシューの移動量に対する電動アクチュエータの供給電流の勾配が大きくなったか否かを判定することでシューがドラムに接触した時点を検出することができるため、シューのドラムとの接触位置を精度良く検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明によるブレーキ装置の実施形態を概略的に示した全体構成図である。
【図2】ブレーキECUによって実行されるブレーキ制御プログラムのフローチャートである。
【図3】上記ブレーキ装置において、目標制動トルクと電動アクチュエータの供給電流の関係を示す図である。
【図4】上記ブレーキ装置において、シューの移動量と電動アクチュエータの供給電流の関係を示す図である。
【図5】上記ブレーキ装置において、シューがドラムと接触するまでの間のシューの位置とデューティ比の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0015】
以下に、本発明によるブレーキ装置の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は本発明によるブレーキ装置の全体構成を概略的に示している。なお、説明を簡単にするため、図1には4輪のうち左後輪RLに対応する部分のみを示している。
【0016】
このブレーキ装置は、左後輪RLに設けられたドラムブレーキ10と、このドラムブレーキ10を駆動制御するブレーキECU20と、ブレーキECU20からの信号に基づいてドラムブレーキ10を駆動させる駆動回路30とを備えている。
【0017】
ドラムブレーキ10は、車体に回転不能に取り付けられた円板状の図示しないバッキングプレートと、このバッキングプレートの面に沿って移動可能に取り付けられた円弧上の形状を成す一対のシュー11a,11bと、内周側に摩擦面を備えて車輪と共に回転する回転部材であるドラム12と、一対のシュー11a,11bを拡開する向きに各シュー11a,11bに力を付与する電動アクチュエータ13を有する。
【0018】
一対のシュー11a,11bは、それぞれ互いに対向する一端部において、バッキングプレートに取り付けられた電動アクチュエータ13に係合されている。また、一対のシュー11a,11bは、電動アクチュエータ13に係合される側と反対側の他端部において、バッキングプレートに固定されたアンカ部材14のピン15a,15bに係合されている。これにより、シュー11a,11bがドラム12と共に回転することが防止されている。
【0019】
一対のシュー11a,11bの間にはストラット17とスプリング18が設けられている。ストラット17は、図示しないブレーキライニングの磨耗に応じて、これら一対のブレーキライニングとドラム12の摩擦面との隙間を調整するアジャスタの役割を担っている。また、スプリング18の両端にはそれぞれシュー11a,11bが固定されており、一対のシュー11a,11bが近づくように配されている。
【0020】
電動アクチュエータ13は、電動モータMと図示しない減速機、ボールねじ機構を含む押圧機構を有している。電動モータMが駆動すると、その出力軸が回転するとともに減速機によりこの回転は減速させられる。そして、この回転運動はボールねじ機構により直線運動に変換され、一対のシュー11a,11bは互いに離れる方向にそれぞれ押圧される。また、電動モータMの出力軸には、シュー11a,11bの位置を検出する位置センサ19が配されている。
【0021】
ブレーキECU20は、CPU、ROM、RAMおよびI/Fなどからなるマイクロコンピュータによって構成される。ブレーキECU20は、図2のブレーキ制御プログラムを実行して、電動アクチュエータ13を作動させる。ブレーキECU20には、ブレーキペダル21の操作量Sを検出する操作量センサ22が接続されており、この操作量センサ22から供給された運転者のブレーキペダル21の操作量Sに基づいてブレーキECU20は電動アクチュエータ13の駆動制御を行う。なお、この操作量Sに基づいて決定される目標制動トルクT*と電動アクチュエータ13に供給する供給電流Iとの間には図3の関係を有しており、この関係はブレーキECU20のROMにマップとして記憶されている。
【0022】
また、ブレーキECU20には位置センサ19が接続されている。この位置センサ19は、電動モータMの回転位置を検出し、シュー11a,11bの位置を表す検出信号としてブレーキECU20に検出する。
【0023】
駆動回路30は、入力側及び出力側がブレーキECU20及び電動モータMにそれぞれ接続されるとともに図示しない車両のバッテリと接続されている。これにより、駆動回路30は、ブレーキECU20から供給される所定のデューティ比を表す指令信号に応じた電流を電動モータMに供給するようになっている。この駆動回路30と電動モータMとの電流供給ライン31には電流センサ32が接続されている。この電流センサ32は、ブレーキECU20と接続されていて、電動モータMに実際に供給された供給電流Iを検出し、検出した供給電流Iを表す検出信号をブレーキECU20に送るようになっている。
【0024】
次に、上記のように構成したブレーキ装置の実施形態の動作について説明する。ブレーキECU20は、運転者がブレーキペダル21を操作したことを検出すると図2のブレーキ制御プログラムを実行する。
【0025】
このブレーキ制御プログラムが開始されると、ブレーキECU20は、ステップS10にて、操作量センサ22の検出値である操作量Sを入力する。続いて、ステップS20にてブレーキECU20は、シュー11a,11bのドラム12との接触位置X0(以後、「シュー11a,11bの接触位置X0」という。)がRAMに記録されているか否かを判別する接触位置記録フラグFが”0”であるか否かを判定する。この接触位置記録フラグFは、後述するステップS80にてシュー11a,11bがドラム12に接触する接触位置X0が記録された後にS90にてブレーキECU20にて設定されるものであり、“0”はイグニッションがオン状態に切換えられてから未だシュー11a,11bの接触位置X0が検出されていない状態を表し、”1”はこの接触位置X0がブレーキECU20に記録されている状態を表す。なお、接触位置X0記憶フラグFは、イグニッションがオフ状態に切換えられる毎に”0”にリセットされるため、イグニッションがオン状態に切換えられた後の初めてのブレーキ制御プログラムにおけるステップS20においては、必ず「YES」と判定される。
【0026】
続いて、シュー11a,11bの接触位置X0がブレーキECU20に記録されていない場合について説明を続ける。シュー11a,11bの接触位置X0が記録されていないと判定された場合は、ステップS20にて「YES」と判定されて、ブレーキECU20はプログラムをステップS30に進める。ステップS30では、運転者によるブレーキペダル21の操作量Sに基づいて目標制動トルクT*が決定される。そして、続くステップS40において、目標制動トルクT*から電動アクチュエータ13に供給する供給電流Iが決定され、この供給電流Iに基づいて電動アクチュエータ13は駆動される。また、電動アクチュエータ13を駆動している間は、各時点t(t,t2,…,t)のシュー11a,11bの位置X(X,X2,…,X)と電動モータMに供給された供給電流I(I,I2,…,I)がそれぞれ検出されている。なお、このシュー11a,11bの位置Xと電動アクチュエータ13の供給電流Iは、所定の時間Δt毎に検出されてRAMに記録されている。
【0027】
続く、ステップS50においては、RAMに記憶されている各時点t(t,t2,…,t)におけるシュー11a,11bの位置X(X,X2,…,X)とその時の電動アクチュエータ13に供給された供給電流I(I,I2,…,I)を入力する。そして、ステップS60では、この入力されたシュー11a,11bの位置X(X,X2,…,X)と電動アクチュエータ13の供給電流I(I,I2,…,I)に基づいて各時点t(t,t3,…,t)でのシュー11a,11bの移動量X‐Xi−1(X‐X1,‐X,…,X‐Xn‐1)に対する電動アクチュエータ13の供給電流の変化量I‐Ii−1(I‐I1,‐I,…,I‐In‐1)が求められる。そして、この電動アクチュエータ13の供給電流の変化量I‐Ii−1(I‐I1,‐I,…,I‐In‐1)をシュー11a,11bの移動量X‐Xi−1(X‐X1,‐X,…,X‐Xn‐1)で除算することにより各時点t(t,t3,…,t)でのシュー11a,11bの移動量に対する電動アクチュエータ13の供給電流の変化量である電流勾配α(α3,…,α)が求められる。
【0028】
ステップS70においては、電動アクチュエータ13を駆動制御している間に上記電流勾配αが所定量β以上増加した変化点があったか否かが判定される。本実施形態のブレーキ装置では、クリアランスを詰めている間(シュー11a,11bがドラム12に接触するまでの間)は、電動アクチュエータ13の押圧力はスプリング18の弾性力に対抗する対抗力を出力できるだけの電流を供給されるが、クリアランスが詰まった後は、このスプリング18の弾性力に対抗する対抗力に加えてシュー11a,11bをドラム12へ押圧させる押圧力がさらに必要となる。すなわち、図4に示すように、クリアランスが詰まるまではシュー11a,11bの移動量に対する電動アクチュエータ13の変化量である電流勾配αはスプリング18の弾性力に応じてほぼ一定に推移するが、シュー11a,11bがドラム12に接触した時点で、シュー11a,11bの移動量に対する電動アクチュエータ13の電流勾配αは増加する。このため、シュー11a,11bの移動量に対する電動アクチュエータ13の供給電流の所定時間Δt毎に求められる電流勾配αが前回量に比べて所定量βより大きくなった時点でのシュー11a,11bの位置をシュー11a,11bのドラム12との接触位置X0と決定することができる。なお、所定量βは、クリアランスが詰めている間には起こりえない電流勾配の増加量と設定されている。
【0029】
そして、続くステップS70で電流勾配αに変化があったと判定された場合は、プログラムをステップS80に進める。ステップS80においては、シュー11a,11bの移動量に対する電動アクチュエータ13の供給電流の電流勾配αが前回量より所定量β大きくなった時点tのシュー11a,11bの位置Xを接触位置X0としてRAMに記録する。そして、続くステップS90にて、ブレーキECU20は、接触位置記録フラグFを”1”に設定して本ブレーキ制御プログラムの実行を終了する。
【0030】
他方、ステップS70にて、電流勾配αに変化がなかったと判定された場合は、接触位置記録フラグFを”1”に設定しないまま、本ブレーキ制御プログラムを終了する。このため、次回に本ブレーキ制御プログラムが実行された場合は、接触位置記録フラグFが”0”のままであるため、本ブレーキ制御プログラムが再度実行された場合の初回のステップS20では「NO」と判定される。そして、ステップS30〜ステップS60を実行して、再度ステップS70にて電流勾配αに変化があったか否かが判定される。なお、このステップS70にて「YES」と判定されない限り接触位置記録フラグFが“1”と設定されることはない。
【0031】
次に、シュー11a,11bの接触位置X0がブレーキECU20に記録されている場合について説明する。ステップS20にてシュー11a,11bの接触位置X0が記録されている場合は、「NO」と判定されて、ブレーキECU20はプログラムをステップS100に進める。ステップS100では、RAMに記憶されているシュー11a,11bの接触位置X0が入力され、ブレーキECU20はプログラムをステップS110に進める。
【0032】
ステップS110では、ブレーキペダル21の操作量Sに基づいて目標制動トルクT*が決定される。そして、続くステップS120では、ステップS40の際の電動アクチュエータ13を駆動制御する場合と異なり、シュー11a,11bの接触位置X0を考慮して電動アクチュエータ13が駆動制御される。すなわち、シュー11a,11bがドラム12との接触位置X0に到達する前であれば、シュー11a,11bの位置に基づきデューティ比を変更して電動アクチュエータ13に供給する電流を調整する。このシュー11a,11bの位置とデューティ比の関係を示した図5により説明すると、電動アクチュエータ13に電流を供給する初期は、デューティ比を大きくすることでシュー11a,11bが接触位置X0に素早く移動させる。そして、シュー11a,11bの位置が接触位置X0に近づくと徐々にデューティ比を減少させて電動アクチュエータ13を駆動制御する。これにより、シュー11a,11bとドラム12のクリアランスを素早く詰めるとともに、シュー11a,11bとドラム12が接触した時に生じる異音を抑制することができる。
【0033】
一方、シュー11a,11bが接触位置X0に到達した後は、図3に示すマップに基づいて目標制動トルクT*から電動アクチュエータ13に供給する供給電流Iが決定され、この供給電流Iに基づいて電動アクチュエータ13は駆動制御される。そして、ステップS120にて、電動アクチュエータ13の駆動制御が終了すると本ブレーキ制御プログラムの実行を終了する。
【0034】
以上説明したように、本ブレーキ装置では、ブレーキ制御プログラムが実行された場合においてシュー11a,11bの接触位置X0が記憶されていないときは、ブレーキペダル21の操作量Sに基づき電動アクチュエータ13を駆動制御しながらシュー11a,11bの接触位置X0を検出して記録する(ステップS30〜S80)。このため、シューの磨耗や熱膨張等によりシュー11a,11bとドラム12のクリアランスに変更が生じた場合でも、後述するように、最新のシュー11a,11bの接触位置X0に基づいて電動アクチュエータ13を駆動制御できる。
【0035】
一方、シュー11a,11bの接触位置X0が既に記録されている場合は、接触位置X0を加味して電動アクチュエータ13を駆動制御する(ステップS100〜S120)。このため、シュー11a,11bの接触位置X0が記憶されている場合は、シュー11a,11bを接触位置X0に素早く移動させつつ接触直前ではシュー11a,11bの移動速度を減速させることができるため、制動初期の応答性を向上させるとともにシュー11a,11bとドラム12の接触による異音の発生を抑制することができる。また、シュー11a,11bの接触位置X0の到達前後で電動アクチュエータ13の駆動制御を変更するため、シュー11a,11bがドラム12に接触することにより生じるハンチングも抑制することができる。
【0036】
以上、本発明の車両の操舵装置に係る実施形態について説明したが、本発明はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。
【0037】
例えば、本実施形態の接触位置検出手段は、電動アクチュエータ13を駆動制御している間に、シュー11a,11bの移動量に対する電動アクチュエータ13の変化量である電流勾配αが前回量に比べて所定量β以上増加した時点のシュー11a,11bの位置をドラム12との接触位置X0とした。しかしながら、これに代えて、電動アクチュエータを駆動制御している間に電動アクチュエータの変化量である電流勾配が所定の勾配以上となった時点のシューの位置をドラムとの接触位置としてもよい。
【0038】
また、上記のように車両の制動力を検出する加圧力センサを設けていないブレーキ装置であっても、シューの接触位置がわかれば車両に生じる制動力を推定することができる。すなわち、シューの接触位置がわかっている場合は、シューが接触位置に到達した後の電動アクチュエータに供給した供給電流を検出することにより車両に生じる制動力を推定することができる。この場合、電動アクチュエータの供給電流と車両の制動力の関係を示したマップをブレーキECUのROMに格納しておけばよい。
【0039】
また、例えば、本実施形態のブレーキ装置は、ドラム式のブレーキ装置としたが、ディスク式のブレーキ装置としてもよい。この場合、摩擦部材であるブレーキパッドと車輪と共に回転する回転部材であるディスクを備えればよい。
【符号の説明】
【0040】
10…ドラムブレーキ、11…シュー、12…ドラム12、13…電動アクチュエータ、14…アンカ部材、15a,b…ピン、17…ストラット、18…リターンスプリング、19…位置センサ、20…ブレーキECU、21…ブレーキペダル、22…操作量センサ、31…電流供給ライン、32…電流センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪と共に回転する回転部材と、
前記回転部材を押圧する摩擦部材と、
前記摩擦部材を移動させて前記回転部材に押圧させる電動アクチュエータと、
電流の供給により前記電動アクチュエータを駆動させる駆動手段と、
前記摩擦部材の移動量を検出する移動量検出手段と、
前記電動アクチュエータが駆動した場合に、前記移動量検出手段により検出された移動量に対する前記電動アクチュエータの供給電流の勾配変化に基づいて前記摩擦部材が前記回転部材に接触する接触位置を検出する接触位置検出手段と、
を有することを特徴とするブレーキ装置。
【請求項2】
前記接触位置検出手段は、前記移動量検出手段により検出された移動量に対する前記電動アクチュエータの供給電流の勾配が所定の勾配以上になったときの前記摩擦部材の位置を前記回転部材との接触位置とすることを特徴とする請求項1に記載のブレーキ装置。
【請求項3】
前記接触位置検出手段は、所定の間隔で前記移動量検出手段により検出された移動量に対する前記電動アクチュエータの供給電流の勾配を算出する算出手段を含み、前記算出手段により今回算出された勾配が前回算出された勾配と比べて所定量を超えて変化したときの前記摩擦部材の位置を前記回転部材との接触位置とすることを特徴とする請求項1に記載のブレーキ装置。
【請求項4】
前記接触位置検出手段により検出された接触位置に前記摩擦部材が移動した後の前記電動アクチュエータへ供給した電流に基づいて車両に生じる制動力を推定する制動力推定手段を有することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載のブレーキ装置
【請求項5】
前記回転部材がドラムであり、前記摩擦部材が前記回転部材の摩擦面に押圧される一対のシューであり、
さらに、前記一対のシューのそれぞれに連結されていて、前記一対のシューが互いに接近する方向に弾性力を付与するスプリングを有することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1つに記載のブレーキ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−265956(P2010−265956A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−116548(P2009−116548)
【出願日】平成21年5月13日(2009.5.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】