説明

モータ制御装置および車両システム

【課題】放電抵抗や放電用の追加の回路を設けることなく、コンデンサに蓄えられた電荷を放電することのできるモータ制御装置および車両システムの提供。
【解決手段】モータ制御装置は、電源V1とグランドV2の間に上側トランジスタと下側トランジスタを直列接続したアームを複数並列に接続し、複数のアームの中点をモータコイルの各相の端子にそれぞれ接続したインバータ20と接続され、上側トランジスタと下側トランジスタのスイッチングを制御してモータ40を駆動する。このモータ制御装置は、さらに、バッテリ10との接続が断たれた状態で起動され、すべてのアームに配置された上側トランジスタと下側トランジスタとを交互にオンオフ制御することによって、電源V1とグランドV2の間に配置されたコンデンサ21に蓄積された電荷を、モータコイルで消費させる放電機能を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ制御装置および車両システムに関し、特に、インバータを介してモータを駆動するモータ制御装置および車両システムに関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車やハイブリッド車等の交流モータで走行する車両では、バッテリからインバータに供給する電圧の変動を抑えるために、電源・アース間にコンデンサが配置されている。また、点検や修理を行う場合には、このコンデンサに残留する電荷を放電する必要があり、このコンデンサの両極間に抵抗(放電抵抗)が設けられている。
【0003】
特許文献1に、この放電抵抗を省略可能とする構成が開示されている。具体的には、主電源からの直流電圧を平滑コンデンサにより平滑してインバータに供給し、インバータにおけるスイッチングトランジスタのスイッチングを制御して所定の交流電流を出力する電源回路において、インバータにおける少なくとも1つのスイッチングトランジスタの制御端子に印加される制御電圧の大きさを調整するドライブ手段と、このドライブ手段を制御して、対応するスイッチングトランジスタを活性領域で動作させ、ここに流れる電流を所定値に制限する電流制限手段と、を有し、主電源からの直流電圧の出力オフ時に、上記電流制限手段により、上記スイッチングトランジスタの制御電圧を制御して、ここに所定の放電電流を流し、平滑コンデンサの蓄積電荷を消費させることを特徴とする電源回路が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−201065号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の電源回路は、電流制限手段という追加の回路を設ける必要があり、コストや回路規模を大きく低減できるものとはなりえない。また、特許文献1の電源回路は、放電抵抗インバータ内の上下アーム対をオンにして、電流を流すものであり、トランジスタが発熱してしまうという問題点もある。放電電流を制限すれば、トランジスタの発熱量を抑えることができるが、放電完了までに相応の時間が掛かってしまう。
【0006】
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、上記した放電抵抗や放電用の追加の回路を設けることなく、コンデンサに蓄えられた電荷を放電することのできるモータ制御装置および車両システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の視点によれば、電源とグランドの間に上側トランジスタと下側トランジスタを直列接続したアーム(分岐線路)を複数並列に接続し、前記複数のアームの中点をモータコイルの各相の端子にそれぞれ接続したインバータと接続され、前記上側トランジスタと下側トランジスタのスイッチングを制御してモータを駆動するモータ制御装置であって、バッテリとの接続が断たれた状態で起動され、すべてのアームに配置された前記上側トランジスタと下側トランジスタとを交互にオンオフ制御することによって、前記電源とグランドの間に配置されたコンデンサに蓄積された電荷を、前記モータコイルで消費させる放電機能を備えたモータ制御装置および該モータ制御装置を搭載した車両システムが提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、放電抵抗や放電用の追加の回路を省略し、コストダウンと省スペース化を実現することができる。その理由は、モータコイルを用いて、コンデンサに蓄えられた電荷を消費するよう構成したことにある。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るモータ制御装置の構成を表した図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係るモータ制御装置の動作を表したフローチャートである。
【図3】本発明の第1の実施形態に係るモータ制御装置の作用を説明するための図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係るモータ制御装置の作用を説明するための別の図である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係るモータ制御装置の動作を表したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
続いて、本発明の第1の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。図1は、本発明の第1の実施形態に係るモータ制御装置の構成を表した図である。図1を参照すると、バッテリ10と、インバータ20と、インバータ20に必要な信号を供給する制御部30と、モータ40と、が示されている。モータ40から出力されるトルクを車輪に伝達する構成を採ることで、バッテリに蓄えた電力で走行する車両システムを構成することができる。
【0011】
バッテリ10は、イグニッションOFF操作時等の非動作時に開放されるリレーRY1、RY2を介してインバータ20に接続された直流電源である。
【0012】
インバータ20は、上側トランジスタ(例えばTr1)と下側トランジスタ(例えばTr2)を直列接続したU相、V相、W相の3本のアームを有し、各アームの中点(上下のトランジスタの接続点)をモータ40の3つのモータコイルの各相の端子に接続した構成となっている。インバータ20の電源とグランドの間には、バッテリ10から供給される直流電圧の変動を吸収するコンデンサ(キャパシタ)21が配置されている。
【0013】
なお、各トランジスタTr1〜Tr6は、IGBT(Insulated Gated Bipolar Transistor)で構成されており、それぞれのコレクタ・エミッタ間には、エミッタ側からの電流をコレクタ側に還流させるダイオードが配設されている。
【0014】
制御部30は、モータ40のロータの位置に応じて、トランジスタTr1〜Tr6をスイッチングして、モータ40へ供給する電流の位相を制御して、モータ40を駆動するECU(電子制御ユニット)等によって構成される。また、本発明における制御部30は、後記するコンデンサ21に蓄積された電荷の放電処理を実行する機能を有している。具体的な動作については、後に詳述する。
【0015】
モータ40は、モータコイル(ステータコイル)の内側に永久磁石を用いたロータを有する3相交流の永久磁石モータである。このようなモータとしては、例えば、永久磁石をロータ内部の埋め込んだIPM(Interior Permanent Magnet)構造のモータが知られている。
【0016】
続いて、本実施形態の動作について図面を参照して詳細に説明する。図2は、本発明の第1の実施形態に係るモータ制御装置の動作の流れを表したフローチャートである。
【0017】
図2を参照すると、まず、制御部30が、イグニッションスイッチ(IGスイッチ)がオフにされたことを検知すると(ステップS001の「Yes」)、制御部30は、リレーRY1、RY2を開放し、バッテリ10からインバータ20への電力供給を遮断する(ステップS002)。
【0018】
続いて、制御部30は、各アームに配置された上側トランジスタTr1、Tr3、Tr5と、下側トランジスタTr2、Tr4、Tr6と、を交互にオンオフ制御するスイッチング制御を開始する(ステップS003)。
【0019】
ここで、コンデンサ21に蓄積された電荷の放電を実現するスイッチング制御について詳細に説明する。上側トランジスタTr1、Tr3、Tr5を同時にオンにすると、図3に示すように、モータ40のU相、V相、W相の各端子にそれぞれ電圧が印加される。
【0020】
次のタイミングで、上側トランジスタTr1、Tr3、Tr5を同時にオフにすると、モータ40内に残電圧が発生する。その状態で、下側トランジスタTr2、Tr4、Tr6を同時にオンにすると、図4に示すとおり、モータ40内の残電圧がインバータ20のグランド側に接地される。
【0021】
上記のように、上側トランジスタTr1、Tr3、Tr5と、下側トランジスタTr2、Tr4、Tr6とのオンオフ制御を繰り返すことで、モータ40を動かさずに、コンデンサ21に蓄積された電荷の放電が完了する。
【0022】
その後、制御部30は、所定の時間間隔で、インバータ20の電源・グランド間(V1−V2)電圧を確認し(ステップS004)、インバータ20の電源・グランド間(V1−V2)が、一定の電圧値に降下した時点で(ステップS004の「Yes」)、上記トランジスタのスイッチング制御を終了する(ステップS005)。
【0023】
その後、制御部30は、電源オフ動作を行う(ステップS006)。
【0024】
以上のように、本実施形態によれば、インバータ20に放電抵抗を設けずとも、コンデンサ21に蓄積された電荷をモータコイルにて消費させることが可能になる。
【0025】
[第2の実施形態]
続いて、本発明の第2の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。本実施形態は、図1に表した第1の実施形態とほぼ同様の構成であり、放電完了の検出方法が異なるのみであるので、以下のその相違点を中心に説明する。
【0026】
図5は、本発明の第2の実施形態のモータ制御装置の動作を表したフローチャートである。第1の実施形態の動作を表した図2のフローチャートとの相違点は、スイッチング制御の終了判定を、インバータ20の電源・グランド間(V1−V2)電圧でなく、スイッチング制御開始からの経過時間で行うようにした点である。
【0027】
コンデンサ21の容量やバッテリ10の電圧は既知であるので、これらを用いて、放電完了時間を見積もっておき、図5のステップS104にて一定時間経過したことを判定してから、自動的にスイッチング制御を終了させる。
【0028】
以上、本発明の好適な実施形態を説明したが、本発明は、上記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の基本的技術的思想を逸脱しない範囲で、更なる変形・置換・調整を加えることができる。
【符号の説明】
【0029】
10 バッテリ
20 インバータ
21 コンデンサ(キャパシタ)
30 制御部
40 モータ
RY1、RY2 リレー
Tr1〜Tr6 トランジスタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源とグランドの間に上側トランジスタと下側トランジスタを直列接続したアームを複数並列に接続し、前記複数のアームの中点をモータコイルの各相の端子にそれぞれ接続したインバータと接続され、前記上側トランジスタと下側トランジスタのスイッチングを制御してモータを駆動するモータ制御装置であって、
バッテリとの接続が断たれた状態で起動され、すべてのアームに配置された前記上側トランジスタと下側トランジスタとを交互にオンオフ制御することによって、前記電源とグランドの間に配置されたコンデンサに蓄積された電荷を、前記モータコイルで消費させる放電機能を備えたモータ制御装置。
【請求項2】
請求項1のモータ制御装置および該モータ制御装置によって駆動されるモータを搭載した車両システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−220287(P2010−220287A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−60877(P2009−60877)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】