説明

作業車の走行伝動構造

【課題】 作業車の走行伝動構造において、右及び左の伝動部材を伝動位置側に付勢するバネを必要以上に強いものに設定しなくても、右及び左の伝動部材を伝動位置に保持することができるようにように構成する。
【解決手段】 シフト軸47が中立位置(直進位置)にスライド操作されると、右及び左の操作部材51,52により右及び左の伝動部材28,29が伝動位置に操作され、バネ55により右及び左の操作部材51,52が右及び左の伝動部材28,29の伝動位置に保持される。シフト軸47が右旋回位置(左旋回位置)にスライド操作されると、右の操作部材51(左の操作部材52)により、右の伝動部材28(左の伝動部材29)が遮断位置に操作され、右の操作部材51(左の操作部材52)を介してバネ55が左の操作部材52(右の操作部材51)に押圧されて、左の操作部材52(右の操作部材51)が左の伝動部材29(右の伝動部材28)の伝動位置に保持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、右及び左の走行装置(例えばクローラ走行装置等)を備えた作業車の走行伝動構造に関する。
【背景技術】
【0002】
右及び左の走行装置を備えた作業車としては、例えば特許文献1に開示されているような走行伝動構造を備えたものがある。特許文献1では、走行用の動力が伝達されてくる伝動ギヤ(特許文献1の図1,2,3の9)、右の走行装置に動力を伝達する右の走行伝動ギヤ(特許文献1の図1の30b)、左の走行装置に動力を伝達する左の走行伝動ギヤ(特許文献1の図1の30a)を備えており、伝動ギヤを間に挟んで一方側及び他方側に右及び左の走行伝動ギヤを配置している。伝動ギヤと右の走行伝動ギヤとの間に右の伝動部材(特許文献1の図1,2,3の右の21)が備えられ、伝動ギヤと左の走行伝動ギヤとの間に左の伝動部材(特許文献1の図1,2,3の左の21)が備えられている。
【0003】
これにより、右及び左の伝動部材を、伝動ギヤと右(左)の走行伝動ギヤとに咬合する伝動位置(特許文献1の図3の右の21参照)に操作すると、伝動ギヤの動力が右及び左の伝動部材を介して右及び左の走行伝動ギヤに伝達されて、機体は直進する。
例えば特許文献1の図3に示すように、左の伝動部材(特許文献1の図3の左の21参照)を伝動ギヤから離れた遮断位置に操作すると、伝動ギヤの動力が右の伝動部材を介して右の走行伝動ギヤに伝達されるが、伝動ギヤの動力が左の走行伝動ギヤに伝達されなくなって、機体は左に旋回する。
【0004】
この場合、特許文献1では、右及び左の伝動部材を伝動ギヤの咬合側(伝動位置側)に付勢するバネ(特許文献1の図1,2,3の25)が備えられており、バネの付勢力により右及び左の伝動部材が伝動位置に保持される。右及び左の伝動部材を操作するアクチュエータ(特許文献1の図2の51)が備えられており、バネの付勢力に抗してアクチュエータにより右(左)の伝動部材が伝動ギヤから離し操作されて遮断位置に操作される。
【0005】
【特許文献1】特開2002−54718号公報(図1,2,3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1において、直進時の右及び左の走行装置からの負荷により、右及び左の伝動部材が伝動ギヤから離れないようにする為には(右及び左の伝動部材を伝動位置に保持する為には)、右及び左の伝動部材を伝動ギヤの咬合側(伝動位置側)に付勢するバネ(特許文献1の図1,2,3の25)を、強いものに構成する必要がある。このように、右及び左の伝動部材を伝動ギヤの咬合側(伝動位置側)に付勢するバネを強いものに構成すると、右(左)の伝動部材を操作するアクチュエータを強い駆動力を備えたものに構成する必要がある。
【0007】
前述の直進時に対して、旋回時では右及び左の走行装置が地面を旋回方向に横滑りしながら前進するような状態となるので、旋回時の右及び左の走行装置からの負荷は大きなものとなる。さらに旋回時では特許文献1の図3に示すように、右又は左の伝動部材の一方しか伝動ギヤに咬合していないので、旋回時の右及び左の走行装置からの負荷が右又は左の伝動部材の一方に掛かる状態となる。
これにより、旋回時に伝動ギヤに咬合する右(左)の伝動部材が伝動ギヤから離れないようにする為に、右及び左の伝動部材を伝動ギヤの咬合側(伝動位置側)に付勢するバネを、充分に強いものに構成する必要が生じるのであり、これに伴って右及び左の伝動部材を操作するアクチュエータを、充分に強い駆動力を備えたものに構成する必要が生じてくる。
【0008】
本発明は作業車の走行伝動構造において、走行用の動力が伝達されてくる伝動ギヤ、右及び左の走行装置に動力を伝達する右及び左の走行伝動ギヤ、右及び左の伝動部材を備えた場合、右及び左の伝動部材を伝動ギヤの咬合側(伝動位置側)に付勢するバネを必要以上に強いものに設定しなくても、旋回時に伝動ギヤに咬合する右(左)の伝動部材が伝動ギヤから離れないように(右(左)の伝動部材を伝動位置に保持するように)構成することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(構成)
本発明の第1特徴は作業車の走行伝動構造において次のように構成することにある。
走行用の動力が伝達されてくる上手側伝動部材と、右の走行装置に動力を伝達する右の走行伝動ギヤと、左の走行装置に動力を伝達する左の走行伝動ギヤとを備えて、上手側伝動部材を間に挟んで一方側及び他方側に右及び左の走行伝動ギヤを配置する。
上手側伝動部材と右の走行伝動ギヤとに咬合する伝動位置及び右の走行伝動ギヤから離れて上手側伝動部材に咬合する遮断位置に亘って移動自在な右の伝動部材と、上手側伝動部材と左の走行伝動ギヤとに咬合する伝動位置及び左の走行伝動ギヤから離れて上手側伝動部材に咬合する遮断位置に亘って移動自在な左の伝動部材とを備える。
アクチュエータにより軸芯方向にスライド操作されるシフト軸に、右の伝動部材に係合する右の操作部材と、左の伝動部材に係合する左の操作部材とを支持させ、右及び左の操作部材の間にバネを備える。
シフト軸が中立位置にスライド操作されると、右及び左の操作部材により右及び左の伝動部材が伝動位置に操作され、バネにより右及び左の操作部材が右及び左の伝動部材の伝動位置に保持されるように構成する。
シフト軸が右旋回位置にスライド操作されると、右の操作部材により右の伝動部材が遮断位置に操作され、右の操作部材を介してバネが左の操作部材に押圧されて、左の操作部材が左の伝動部材の伝動位置に保持されるように構成する。
シフト軸が左旋回位置にスライド操作されると、左の操作部材により左の伝動部材が遮断位置に操作され、左の操作部材を介してバネが右の操作部材に押圧されて、右の操作部材が右の伝動部材の伝動位置に保持されるように構成する。
【0010】
(作用)
本発明の第1特徴によると、例えば図3に示すように、シフト軸47の中立位置において、右の伝動部材28が上手側伝動部材25と右の走行伝動ギヤ26とに咬合する伝動位置に操作され、左の伝動部材29が上手側伝動部材25と左の走行伝動ギヤ27とに咬合する伝動位置に操作されており、上手側伝動部材25の動力が右及び左の伝動部材28,29、右及び左の走行伝動ギヤ26,27を介して右及び左の走行装置に伝達されて、機体は直進する。
この場合、例えば図3に示すように、バネ55の付勢力を適切なものに設定しておくことにより、バネ55の付勢力により右の操作部材51(右の伝動部材28)が伝動位置に押圧されて保持され、バネ55の付勢力により左の操作部材52(左の伝動部材29)が伝動位置に押圧されて保持される。
【0011】
本発明の第1特徴によると、例えば図3から図4に示すように、アクチュエータによってシフト軸47が右旋回位置にスライド操作されると、左の伝動部材29(左の操作部材52)が伝動位置に残された状態で、右の操作部材51がシフト軸47と一緒にスライド操作されて、右の伝動部材28が遮断位置(右の走行伝動ギヤ26から離れて上手側伝動部材25に咬合する遮断位置)にスライド操作される。これにより、上手側伝動部材25の動力が左の伝動部材29及び左の走行伝動ギヤ27を介して左の走行装置に伝達されるのであるが、上手側伝動部材25の動力が右の走行装置に伝達されなくなって、機体は右に旋回する。
この場合、例えば図4に示すように、シフト軸47が右旋回位置にスライド操作された状態において、遮断位置にスライド操作された右の操作部材51(右の伝動部材28)により、バネ55が左の操作部材52に押圧されて、左の操作部材52(左の伝動部材29)が伝動位置に保持される。
【0012】
本発明の第1特徴によると、例えば図3から図5に示すように、アクチュエータによってシフト軸47が左旋回位置にスライド操作されると、右の伝動部材28(右の操作部材51)が伝動位置に残された状態で、左の操作部材52がシフト軸47と一緒にスライド操作されて、左の伝動部材29が遮断位置(左の走行伝動ギヤ27から離れて上手側伝動部材25に咬合する遮断位置)にスライド操作される。これにより、上手側伝動部材25の動力が右の伝動部材28及び右の走行伝動ギヤ26を介して右の走行装置に伝達されるのであるが、上手側伝動部材25の動力が左の走行装置に伝達されなくなって、機体は左に旋回する。
この場合、例えば図4に示すように、シフト軸47が左旋回位置にスライド操作された状態において、遮断位置にスライド操作された左の操作部材52(左の伝動部材29)により、バネ55が右の操作部材51に押圧されて、右の操作部材51(右の伝動部材28)が伝動位置に保持される。
【0013】
以上のように特許文献1では、直進時及び旋回時の両方において右及び左の伝動部材をバネのみによって伝動位置に付勢及び保持しており、アクチュエータは旋回時において右及び左の伝動部材を遮断位置にスライド操作する機能のみを備えているだけであるので、バネを充分に強いものに構成する必要が生じる。
これに対して、本発明の第1特徴によると、直進時において右及び左の伝動部材をバネにより伝動位置に付勢及び保持し、旋回時においてアクチュエータにより右及び左の伝動部材の一方を遮断位置にスライド操作し、右及び左の伝動部材の他方を伝動位置に保持するように構成している。
【0014】
このように本発明の第1特徴では、アクチュエータの駆動力を右及び左の伝動部材の一方を遮断位置にスライド操作する機能だけではなく、右及び左の伝動部材の他方を伝動位置に保持する機能にも利用しているので、直進時において右及び左の伝動部材を伝動位置に付勢及び保持する程度に、バネの付勢力を設定すればよく、直進時及び旋回時の両方において右及び左の伝動部材を伝動位置に付勢及び保持する付勢力に設定する必要がない。これに伴ってアクチュエータを不必要に強い駆動力を備えたものに構成する必要がなくなる。
【0015】
(発明の効果)
本発明の第1特徴によると、作業車の走行伝動構造において、アクチュエータの駆動力を右及び左の伝動部材の一方を遮断位置にスライド操作する機能だけではなく、右及び左の伝動部材の他方を伝動位置に保持する機能にも利用することにより、右及び左の伝動部材を伝動位置に付勢及び保持するバネを必要以上に強いものに設定しなくてもよくなり、これに伴ってアクチュエータを不必要に強い駆動力を備えたものに構成する必要がなくなって、構造の簡素化及びコンパクト化の面で有利なものとなった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
[1]
図1に示すように、クローラ型式の右及び左の走行装置1によって支持された機体の前部に、刈取部2が昇降駆動自在に支持され、刈取部2の後側に運転部3が備えられて、機体の後部左側に脱穀装置4が備えられ、機体の後部右側にグレンタンク5が備えられて、作業車の一例であるコンバインが構成されている。
【0017】
図2はミッションケース6の伝動系の概要を示しており、エンジン7の動力が、テンションクラッチ機能を備えたベルト伝動機構8を介して、ミッションケース6の入力軸9に伝達されている。入力軸9の動力が伝動軸10、高低2段のギヤ変速装置11及びテンションクラッチ機能を備えたベルト伝動機構12を介して、刈取部2に伝達されている。
【0018】
[2]
次に、ミッションケース6の右及び左の走行装置1への伝動系(直進系)について説明する。
図2及び図3に示すように、ミッションケース6に静油圧式無段変速装置13が備えられて、入力軸9の動力が静油圧式無段変速装置13に伝達されており、静油圧式無段変速装置13は、中立停止位置を備えて、前進側及び後進側に無段階に変速自在に構成されている。静油圧式無段変速装置13の出力軸14に対して伝動軸15が備えられており、出力軸14に固定された伝動ギヤ16と、伝動軸15に固定された伝動ギヤ17とが咬合している。
【0019】
図2及び図3に示すように、低速ギヤ18がスライド自在に外嵌され、低速ギヤ18を伝動ギヤ17の咬合側に付勢するバネ19が備えられている。伝動軸15に高速ギヤ20が相対回転自在に外嵌されて、伝動軸15と高速ギヤ20との間に摩擦多板式の油圧クラッチ21が備えられている。伝動軸22が備えられており、低速ギヤ23及び高速ギヤ24が伝動軸22に相対回転自在に外嵌されている。外周面にスプライン部を備えた上手側伝動部材25が低速ギヤ23及び高速ギヤ24に亘って咬合し、上手側伝動部材25により低速ギヤ23及び高速ギヤ24が連結されて、一体で伝動軸22に相対回転自在に外嵌されており、低速ギヤ18及び高速ギヤ20が低速ギヤ23及び高速ギヤ24に咬合している。
【0020】
図2及び図3に示すように、油圧クラッチ21を遮断状態に操作し、バネ19の付勢力により低速ギヤ18を伝動ギヤ17と低速ギヤ23とに亘って咬合させると、出力軸14の動力が伝動ギヤ16,17及び低速ギヤ18,23を介して、低速状態で上手側伝動部材25に伝達される。作動油によりバネ19の付勢力に抗して低速ギヤ18を伝動ギヤ17から離し操作し、油圧クラッチ21を伝動状態に操作すると、出力軸14の動力が伝動ギヤ16,17、伝動軸15、油圧クラッチ21及び高速ギヤ20,24を介して、高速状態で上手側伝動部材25に伝達される。
【0021】
図2及び図3に示すように、上手側伝動部材25と低速ギヤ23との間に、右の走行伝動ギヤ26が相対回転自在に低速ギヤ23に外嵌され、上手側伝動部材25と高速ギヤ24との間に、左の走行伝動ギヤ27が相対回転自在に高速ギヤ24に外嵌されている(上手側伝動部材25を間に挟んで一方側及び他方側に右及び左の走行伝動ギヤ26,27を配置した状態)。内周面にスプライン部を備えた右の伝動部材28が、上手側伝動部材25と右の走行伝動ギヤ26の咬合部26aとに亘ってスライド自在に外嵌されており、内周面にスプライン部を備えた左の伝動部材29が、上手側伝動部材25と左の走行伝動ギヤ27の咬合部27aとに亘ってスライド自在に外嵌されている。
【0022】
図2及び図3に示すように、伝動軸30が備えられており、伝動軸30に固定された伝動ギヤ31が左の走行伝動ギヤ27に咬合し、左の走行装置1を駆動する車軸32に固定された伝動ギヤ33が、伝動軸30に固定された伝動ギヤ34に咬合している。伝動軸30に相対回転自在に外嵌された伝動ギヤ35が右の走行伝動ギヤ26に咬合しており、伝動軸30に相対回転自在に外嵌された伝動ギヤ36が伝動ギヤ35に連結されて、伝動ギヤ35,36が一体で相対回転自在に伝動軸30に外嵌されている。右の走行装置1を駆動する車軸32に固定された伝動ギヤ37が、伝動ギヤ36に咬合している。
【0023】
図2及び図3に示す状態は、右の伝動部材28が上手側伝動部材25と右の走行伝動ギヤ26の咬合部26aとに咬合する伝動位置に操作された状態であり、左の伝動部材29が上手側伝動部材25と左の走行伝動ギヤ27の咬合部27aとに咬合する伝動位置に操作された状態である。
この状態において、上手側伝動部材25に伝達された動力が、右の伝動部材28、右の走行伝動ギヤ26及び伝動ギヤ35,36,37を介して、右の走行装置1に伝達されるのであり、上手側伝動部材25に伝達された動力が、左の伝動部材29、左の走行伝動ギヤ27、伝動ギヤ31、伝動軸30及び伝動ギヤ34,33を介して、左の走行装置1に伝達されて、機体は直進する。
【0024】
[3]
次に、ミッションケース6の右及び左の走行装置1への伝動系(旋回系)について説明する。
図2及び図3に示すように、伝動軸22と高速ギヤ24との間に摩擦多板油圧式の緩旋回クラッチ38が備えられ、伝動軸22を制動可能な摩擦多板油圧式のサイドブレーキ39が備えられている。外周面にスプライン部を備えた旋回伝動部材40が伝動軸22に固定され、内周面にスプライン部を備えた伝動部材43が旋回伝動部材40にスライド自在に外嵌されており、右の旋回伝動ギヤ41が旋回伝動部材40(伝動軸22)の一方側に相対回転自在に外嵌され、左の旋回伝動ギヤ42が旋回伝動部材40(伝動軸22)の他方側に相対回転自在に外嵌されている。
【0025】
図2及び図3に示すように、伝動軸30に固定された伝動ギヤ44が左の旋回伝動ギヤ42に咬合しており、伝動ギヤ36に固定された伝動ギヤ45が右の旋回伝動ギヤ41に咬合している。伝動軸30と伝動ギヤ35との間に、摩擦多板式の油圧クラッチ46が備えられている。
【0026】
図2及び図3に示す状態は、伝動部材43が旋回伝動部材40、右及び左の旋回伝動ギヤ41,42に咬合する中立位置に操作された状態であり、緩旋回クラッチ38が遮断状態に操作され、サイドブレーキ39が解除状態に操作されている。
後述する[6]に記載のように、伝動部材43を左の旋回伝動ギヤ42から離し、旋回伝動部材40と右の旋回伝動ギヤ41に咬合する右旋回位置にスライド操作した状態(図4参照)で、緩旋回クラッチ38が伝動状態に操作されると、高速ギヤ24(低速ギヤ23及び上手側伝動部材25)の動力が緩旋回クラッチ38、伝動軸22、旋回伝動部材40、伝動部材43、右の旋回伝動ギヤ41及び伝動ギヤ45,36,37を介して、減速され(左の走行装置1に伝達される動力と同方向で低速の動力)、右の走行装置1に伝達されて、機体は右に緩旋回する。同じ状態で、サイドブレーキ39が制動状態に操作されると、右の走行装置1に制動が掛けられて、機体は右に信地旋回する。
【0027】
後述する[6]に記載のように、伝動部材43を右の旋回伝動ギヤ41から離し、旋回伝動部材40と左の旋回伝動ギヤ42に咬合する左旋回位置にスライド操作した状態(図5参照)で、緩旋回クラッチ38が伝動状態に操作されると、高速ギヤ24(低速ギヤ23及び上手側伝動部材25)の動力が緩旋回クラッチ38、伝動軸22、旋回伝動部材40、伝動部材43、左の旋回伝動ギヤ42及び伝動ギヤ44,34,33を介して、減速され(右の走行装置1に伝達される動力と同方向で低速の動力)、左の走行装置1に伝達されて、機体は左に緩旋回する。同じ状態で、サイドブレーキ39が制動状態に操作されると、左の走行装置1に制動が掛けられて、機体は左に信地旋回する。
【0028】
[4]
次に、右及び左の伝動部材28,29、伝動部材43、緩旋回クラッチ38、サイドブレーキ39、油圧クラッチ21,46の操作系の構造について説明する。
図3及び図6に示すように、ミッションケース6のボス部6a,6bにシフト軸47が軸芯方向(図3の紙面左右方向)にスライド自在に支持されており、シフト軸47の端部にピストン48(アクチュエータに相当)が固定され、ピストン48の一方及び他方側に油室49,50(アクチュエータに相当)が備えられて、ピストン48及び油室49,50により複動型の油圧シリンダが構成されている。
【0029】
図3及び図6に示すように、右の操作部材51がスライド自在にシフト軸47に外嵌されて、右の操作部材51の紙面右側(左の操作部材52とは反対側)に、シフト軸47の大径部47aが形成されており、右の操作部材51が右の伝動部材28に係合している。左の操作部材52がスライド自在にシフト軸47に外嵌されて、左の操作部材51の紙面左側(右の操作部材51とは反対側)に、シフト軸47に固定されたスリーブ53が配置されており、左の操作部材52が左の伝動部材29に係合している。シフト軸47に操作部材54が固定されており、操作部材54が伝動部材43に係合している。
【0030】
図3及び図6に示すように、右及び左の操作部材51,52の間にバネ55が備えられている。図3及び図6に示す状態は、シフト軸47が中立位置(直進位置)にスライド操作された状態であり、シフト軸47の中立位置(直進位置)において、右の伝動部材28が上手側伝動部材25と右の走行伝動ギヤ26の咬合部26aとに咬合する伝動位置に操作され、左の伝動部材29が上手側伝動部材25と左の走行伝動ギヤ27の咬合部27aとに咬合する伝動位置に操作されており、伝動部材43が旋回伝動部材40、右及び左の旋回伝動ギヤ41,42に咬合する中立位置に操作されている。
【0031】
図3及び図6に示すように、シフト軸47の中立位置(直進位置)においてバネ55が初期圧縮を掛けられた状態となっており、バネ55の付勢力により右の操作部材51がミッションケース6に固定された受け部56に押圧されて伝動位置に保持され、バネ55の付勢力により左の操作部材52がミッションケース6のボス部6aに押圧されて伝動位置に保持されている。このように、バネ55の付勢力により右及び左の操作部材51,52が伝動位置に保持されることによって、シフト軸47が中立位置(直進位置)に保持されるのであり、伝動部材43が中立位置に保持される。
【0032】
図6に示すように、油室49,50に作動油を給排操作する電磁操作式の制御弁57,58、緩旋回クラッチ38及びサイドブレーキ39に作動油を給排操作及び圧力制御する電磁比例制御弁59、電磁比例制御弁59の作動油を緩旋回クラッチ38及びサイドブレーキ39に切換供給するパイロット操作式の切換弁60、切換弁60を緩旋回クラッチ38に作動油を供給する緩旋回位置及びサイドブレーキ39に作動油を供給するブレーキ位置に操作する電磁操作式の制御弁61、低速ギヤ18及び油圧クラッチ21に作動油を給排操作する電磁操作式の制御弁62、油圧クラッチ46に作動油を給排操作する電磁操作式の制御弁63が備えられている。
【0033】
図6に示すように、制御弁57,58,61,62,63及び電磁比例制御弁59を操作する制御装置64が備えられている。運転部3に操向レバー65、旋回モードレバー66及び副変速レバー67が備えられており、操向レバー65、旋回モードレバー66及び副変速レバー67の操作位置が制御装置64に入力されている。
【0034】
図3及び図6に示すように、副変速レバー67を低速位置に操作すると、制御弁62により低速ギヤ18及び油圧クラッチ21から作動油が排出されて、油圧クラッチ21が遮断状態に操作され、バネ19の付勢力により低速ギヤ18が伝動ギヤ17と低速ギヤ23とに亘って咬合する。これにより、出力軸14の動力が伝動ギヤ16,17及び低速ギヤ18,23を介して、低速状態で上手側伝動部材25に伝達される(前項[2]参照)。副変速レバー67を高速位置に操作すると、制御弁62により低速ギヤ18及び油圧クラッチ21に作動油が供給されて、バネ19の付勢力に抗して低速ギヤ18が伝動ギヤ17から離し操作され、油圧クラッチ21が伝動状態に操作される。これにより、出力軸14の動力が伝動ギヤ16,17、伝動軸15、油圧クラッチ21及び高速ギヤ20,24を介して、高速状態で上手側伝動部材25に伝達される(前項[2]参照)。
【0035】
[5]
次に、操向レバー65を中立位置N、右及び左第1旋回位置R1,L1に操作した場合について説明する。
図3及び図6に示すように、操向レバー65を中立位置Nに操作していると、制御弁57,58により油室49,50から作動油が排出されて、バネ55の付勢力によりシフト軸47が中立位置(直進位置)にスライド操作されて保持されている。
【0036】
この状態において図3及び図6に示すように、バネ55の付勢力により右の操作部材51がミッションケース6に固定された受け部56に押圧されて伝動位置に保持され、バネ55の付勢力により左の操作部材52がミッションケース6のボス部6aに押圧されて伝動位置に保持されている。上手側伝動部材25に伝達された動力が、右の伝動部材28、右の走行伝動ギヤ26及び伝動ギヤ35,36,37を介して、右の走行装置1に伝達されるのであり、上手側伝動部材25に伝達された動力が、左の伝動部材29、左の走行伝動ギヤ27、伝動ギヤ31、伝動軸30及び伝動ギヤ34,33を介して、左の走行装置1に伝達されて、機体は直進する。
【0037】
この場合、図3及び図6に示すように、伝動部材43が中立位置に保持されているが、電磁比例制御弁59により緩旋回クラッチ38が遮断状態に操作され、サイドブレーキ39が解除状態に操作されているので、旋回伝動部材40及び伝動部材43に動力は伝達されない(制動は掛けられない)。制御弁63により油圧クラッチ46が伝動状態に操作され、伝動軸30と伝動ギヤ35とが連結されており、右及び左の走行装置1が連結された状態で同じ方向に回転駆動される状態となっている。
【0038】
次に操向レバー65を中立位置Nから右第1旋回位置R1に操作し始めると、図4及び図6に示すように、制御弁58により油室50に作動油が供給され、シフト軸47が図4の紙面左方の右旋回位置にスライド操作される。これにより、左の伝動部材29(左の操作部材52)が伝動位置に残された状態で、左の操作部材52に対してシフト軸47が相対的にスライド操作され、シフト軸47の大径部47aにより右の操作部材51が図4の紙面左方に、シフト軸47と一緒にスライド操作されて、右の伝動部材28が遮断位置(右の走行伝動ギヤ26の咬合部26aから離れて上手側伝動部材25に咬合する遮断位置)にスライド操作される。
【0039】
これと同時に操作部材54により、伝動部材43が左の旋回伝動ギヤ42から離れ、旋回伝動部材40と右の旋回伝動ギヤ41とに咬合する右旋回位置にスライド操作される。これにより、上手側伝動部材25と右の走行装置1とが遮断された状態となり、緩旋回クラッチ38(サイドブレーキ39)と右の走行装置1とが接続された状態となる。
この場合、図4に示すように、シフト軸47が右旋回位置にスライド操作された状態において、右の伝動部材28の遮断位置にスライド操作された右の操作部材51(シフト軸47と一緒に図4の紙面左方にスライド操作された右の操作部材51)により、バネ55が左の操作部材52に押圧されて、左の操作部材52が左の伝動部材29の伝動位置に保持される。
【0040】
同様に操向レバー65を中立位置Nから左第1旋回位置L1に操作し始めると、図5及び図6に示すように、制御弁57により油室49に作動油が供給され、シフト軸47が図5の紙面右方の左旋回位置にスライド操作される。これにより、右の伝動部材28(右の操作部材51)が伝動位置に残された状態で、右の操作部材51に対してシフト軸47が相対的にスライド操作され、シフト軸47のスリーブ53により左の操作部材52が図5の紙面右方に、シフト軸47と一緒にスライド操作されて、左の伝動部材29が遮断位置(左の走行伝動ギヤ27の咬合部27aから離れて上手側伝動部材25に咬合する遮断位置)にスライド操作される。
【0041】
これと同時に操作部材54により、伝動部材43が右の旋回伝動ギヤ41から離れ、旋回伝動部材40と左の旋回伝動ギヤ42とに咬合する左旋回位置にスライド操作される。これにより、上手側伝動部材25と左の走行装置1とが遮断された状態となり、緩旋回クラッチ38(サイドブレーキ39)と左の走行装置1とが接続された状態となる。
この場合、図5に示すように、シフト軸47が左旋回位置にスライド操作された状態において、左の伝動部材29の遮断位置にスライド操作された左の操作部材52(シフト軸47と一緒に図5の紙面右方にスライド操作された左の操作部材52)により、バネ55が右の操作部材51に押圧されて、右の操作部材51が右の伝動部材28の伝動位置に保持される。
【0042】
図3及び図6に示す状態において、前述のように操向レバー65を中立位置Nから右第1旋回位置R1(左第1旋回位置L1)に操作していくと、緩旋回クラッチ38が遮断状態に操作されて、サイドブレーキ39が解除状態に操作された状態で、操向レバー65の操作位置に対応して、制御弁63により油圧クラッチ46が伝動状態から徐々に遮断状態に操作されるのであり、操向レバー65の右第1旋回位置R1(左第1旋回位置L1)において、制御弁63により油圧クラッチ46が遮断状態に操作されて、右の走行装置1(左の走行装置1)が自由回転状態となる。
【0043】
このように、操向レバー65を中立位置Nと右第1旋回位置R1(左第1旋回位置L1)との間に操作することにより、左の走行装置1の動力が半伝動状態の油圧クラッチ46を介して右の走行装置1に伝達されるのであり(右の走行装置1の動力が半伝動状態の油圧クラッチ46を介して左の走行装置1に伝達されるのであり)、操向レバー65を中立位置Nから右第1旋回位置R1(左第1旋回位置L1)に操作していくことに伴って、機体が直進状態から徐々に右(左)に向きを変えていく。
【0044】
[6]
次に、操向レバー65を右及び左第1旋回位置R1,L1、右及び左第2旋回位置R2,L2に操作した場合について説明する。
図3及び図6に示すように、旋回モードレバー66を緩旋回位置に操作すると、制御弁61により切換弁60が緩旋回位置(作動油を緩旋回クラッチ38に供給し、サイドブレーキ39から作動油を排出する位置)に操作され、旋回モードレバー66を信地位置に操作すると、制御弁61により切換弁60が信地位置(作動油をサイドブレーキ39に供給し、緩旋回クラッチ38から作動油を排出する位置)に操作される。
【0045】
図4,5,6に示すように、旋回モードレバー66を緩旋回位置に操作した状態で、操向レバー65を右第1旋回位置R1から右第2旋回位置R2(左第1旋回位置L1から左第2旋回位置L2)に操作していくと、操向レバー65の操作位置に対応して、電磁比例制御弁59によって緩旋回クラッチ38が遮断状態から徐々に伝動状態に操作されるのであり、操向レバー65の右第2旋回位置R2(左第2旋回位置L2)において、電磁比例制御弁59により緩旋回クラッチ38が伝動状態に操作される。
【0046】
このように、旋回モードレバー66を緩旋回位置に操作した状態で、操向レバー65を右第1旋回位置R1(左第1旋回位置L1)と右第2旋回位置R2(左第2旋回位置L2)との間に操作することにより、前項[3]に記載のように、左の走行装置1に伝達される動力と同方向で低速の動力が徐々に右の走行装置1に伝達されるのであり(右の走行装置1に伝達される動力と同方向で低速の動力が徐々に左の走行装置1に伝達されるのであり)、操向レバー65を右第1旋回位置R1(左第1旋回位置L1)から右第2旋回位置R2(左第2旋回位置L2)に操作していくことに伴って、機体がさらに右(左)に向きを変えて緩旋回していく。
【0047】
図4,5,6に示すように、旋回モードレバー66を信地位置に操作した状態で、操向レバー65を右第1旋回位置R1から右第2旋回位置R2(左第1旋回位置L1から左第2旋回位置L2)に操作していくと、操向レバー65の操作位置に対応して、電磁比例制御弁59によってサイドブレーキ39が解除状態から徐々に制動状態に操作されるのであり、操向レバー65の右第2旋回位置R2(左第2旋回位置L2)において、電磁比例制御弁59によりサイドブレーキ39が制動状態に操作される。
【0048】
このように、旋回モードレバー66を信地位置に操作した状態で、操向レバー65を右第1旋回位置R1(左第1旋回位置L1)と右第2旋回位置R2(左第2旋回位置L2)との間に操作することにより、前項[3]に記載のように、右の走行装置1に徐々に制動が掛かるのであり(左の走行装置1に徐々に制動が掛かるのであり)、操向レバー65を右第1旋回位置R1(左第1旋回位置L1)から右第2旋回位置R2(左第2旋回位置L2)に操作していくことに伴って、機体がさらに右(左)に向きを変えて信地旋回していく。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】コンバインの全体側面図
【図2】ミッションケースの伝動系の概要を示す図
【図3】シフト軸を中立位置(直進位置)にスライド操作した状態での右及び左の伝動部材、右及び左の操作部材、バネ、旋回伝動部材及び伝動部材の付近の正面図
【図4】シフト軸を右旋回位置にスライド操作した状態での右及び左の伝動部材、右及び左の操作部材、バネ、旋回伝動部材及び伝動部材の付近の正面図
【図5】シフト軸を左旋回位置にスライド操作した状態での右及び左の伝動部材、右及び左の操作部材、バネ、旋回伝動部材及び伝動部材の付近の正面図
【図6】操向レバー、旋回モードレバー、副変速レバー及びシフト軸等との連係状態を示す図
【符号の説明】
【0050】
1 走行装置
25 上手側伝動部材
26 右の走行伝動ギヤ
27 左の走行伝動ギヤ
28 右の伝動部材
29 左の伝動部材
47 シフト軸
48,49,50 アクチュエータ
51 右の操作部材
52 左の操作部材
55 バネ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行用の動力が伝達されてくる上手側伝動部材と、右の走行装置に動力を伝達する右の走行伝動ギヤと、左の走行装置に動力を伝達する左の走行伝動ギヤとを備えて、前記上手側伝動部材を間に挟んで一方側及び他方側に右及び左の走行伝動ギヤを配置し、
前記上手側伝動部材と右の走行伝動ギヤとに咬合する伝動位置及び右の走行伝動ギヤから離れて上手側伝動部材に咬合する遮断位置に亘って移動自在な右の伝動部材と、
前記上手側伝動部材と左の走行伝動ギヤとに咬合する伝動位置及び左の走行伝動ギヤから離れて上手側伝動部材に咬合する遮断位置に亘って移動自在な左の伝動部材とを備え、 アクチュエータにより軸芯方向にスライド操作されるシフト軸に、前記右の伝動部材に係合する右の操作部材と、前記左の伝動部材に係合する左の操作部材とを支持させ、前記右及び左の操作部材の間にバネを備えて、
前記シフト軸が中立位置にスライド操作されると、前記右及び左の操作部材により右及び左の伝動部材が伝動位置に操作され、前記バネにより右及び左の操作部材が右及び左の伝動部材の伝動位置に保持され、
前記シフト軸が右旋回位置にスライド操作されると、前記右の操作部材により右の伝動部材が遮断位置に操作され、前記右の操作部材を介してバネが左の操作部材に押圧されて、前記左の操作部材が左の伝動部材の伝動位置に保持され、
前記シフト軸が左旋回位置にスライド操作されると、前記左の操作部材により左の伝動部材が遮断位置に操作され、前記左の操作部材を介してバネが右の操作部材に押圧されて、前記右の操作部材が右の伝動部材の伝動位置に保持されるように構成してある作業車の走行伝動構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−68659(P2008−68659A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−246871(P2006−246871)
【出願日】平成18年9月12日(2006.9.12)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】