説明

光変調器の初期動作点設定方法および多波長型光変調システム

【課題】多波長型光変調システムにおいて、高速な波長切替や複数波長同時変調に対応できるようにする。
【解決手段】電気光学効果を用いたマッハツェンダー干渉計を含み、印加されるバイアス電圧の変化に対して出射光強度が周期的に変化する変調特性を有する光変調器22に対して、初期動作点設定部31は、多波長光源21から複数の異なる波長の光を順次入射させ、光変調器22の出射光強度を監視しつつ、光変調器22に供給するバイアス電圧を可変制御して、各波長について出射光強度が所定の許容範囲内となる共通動作点を見付け、その共通動作点に対応したバイアス電圧を光変調器22の初期動作点に設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気光学効果を利用したマッハツェンダー干渉計を有する光導波路型の光変調器の初期動作点を設定する技術に関し、特に、複数の異なる波長の光に対する光変調を行う光変調器の初期動作点の設定を可能にする技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年要求されている高速データを実現する手段として光通信が普及しつつある。これまで通信速度10Gb/s程度の光通信が実用化されているが、昨今の通信データ量の急速的な増加に伴い、更なる通信容量の向上が切望されている。
【0003】
この要望に応える方法として、これまでの光の強度をデータ信号で変調する強度変調方式(NRZ、RZ通信方式)に代わり、光の位相をデータ信号で変調する位相変調方式(ODB、DPSK、DQPSK等)が注目され、実用化されようとしている。
【0004】
また、上記のような変調方式の採用とともに、1本の光ファイバで伝送する情報を多重化する方法として、異なる複数の波長の光を用いた波長多重方式(WDM、DWDM)等が実用化されている。
【0005】
したがって、今後、上記のような通信方式で用いられる光変調器として、異なる波長の光に対する変調に対応できる必要がある。
【0006】
高速変調が可能な光変調器としては、電気光学効果を利用したマッハツェンダー干渉計を有する光導波路型光変調器が知られている。
【0007】
この光導波路型光変調器は、例えば図6に示すように、印加する電界の大きさに応じて光に対する屈折率が変化する特性(電気光学効果)を有する基板10(LiNbO3基板等)に、光入射用の第1導波路11、その第1導波路11に導かれた光を2分岐する光分岐路12、分岐された光をそれぞれ等距離伝搬させる第2導波路13、第3導波路14、第2導波路13を伝搬した光と第3導波路14を伝搬した光を合波する光合波路15、合波された光を外部へ出射するための第4導波路16が形成されている。
【0008】
ここで、第2導波路13と第3導波路14の長さが等しければ、光合波路15に入射される光の位相は等しく、同相合波されて元の入射光と同等の光となって第4導波路16から出射されるが、例えば第2導波路13と第3導波路14に逆向きの一定強さの電界を印加して(電界印加用の電極は図示せず)、両導波路13、14の屈折率を逆方向に変化させ、第2導波路13と第3導波路14から光合波路15に入射される光の位相を逆相にすると、両者が互いにその光を弱め合うことになり、第4導波路16にはその光成分は殆ど出射されなくなる。
【0009】
つまり、両導波路13、14に与える電界をデータ信号のレベルに応じて変化させれば、そのデータ信号によって強度変調された光を得ることができる。
【0010】
上記例は、データ信号による強度変調の場合であるが、電界によって導波路の屈折率が変化する電気光学効果を用いた光変調技術は位相変調にも適用されている。
【0011】
位相変調方式としては、位相差を信号にした差動位相変調方式(DPSK:
Differential Phase Shift Keying)や、40Gbs以上の変調速度を実現可能な方式として期待されている差動4値位相変調方式(DQPSK:
Differential Quadrature Phase Shift Keying)が着目されているが、これらの差動型の位相変調方式においても、その入力データに対する加工技術が異なるだけで、基本的には前記電気光学効果を用いたマッハツェンダー型干渉計を構成要素とする変調技術である。
【0012】
このようなマッハツェンダー型干渉計による光変調器の良く知られた特性として、印加する電界、即ち、印加電圧の増減変化に対して合波光の強度が、図7のように、周期的(cos2 x)に変化する。
【0013】
この変調特性の半周期分に相当する電圧は半波長電圧Vπと呼ばれ、例えば、この変調特性で強度が最大の1/2となる点Aの電圧Vbを基準にして、振幅Vπのデータ信号Dを重畳すれば、データに応じて変調された最大振幅の変調光を得ることができる。
【0014】
ここで、点Aを光変調器の動作点と呼び、この動作点Aを与える基準の電圧Vbをバイアス電圧と呼ぶ。なお、この例では動作点を変調特性の強度1/2の位置に設定しているが、変調特性の強度0(ボトム)の点を動作点とする場合もある。
【0015】
上記のようなマッハツェンダー型干渉計による光変調器に関して、最も単純な強度変調方式の技術について以下の特許文献1に記載され、位相変調に関する技術としては特許文献2に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開平03−251815号公報
【特許文献2】特開2000−162563号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
上記した光変調器では変調特性が周期変化するから、同一の変調作用を与える動作点は、2Vπの間隔で存在するが、光変調器は、印加される直流電圧、温度変化および経年変化により、その入出力特性に変化(動作点ドリフト)が生じる。この動作点ドリフトは、図7の変調特性が左右方向(電圧軸方向)に移動するものであり、この動作点ドリフトによって所望の変調動作が得られなくなる。
【0018】
このため、従来では、変調特性の複数ある動作点候補のうち、消費電力が最も小さくなる、即ち、ゼロボルトに最も近い点を最適動作点に設定し、さらに、動作点ドリフトを抑制するためのフィードバック制御手段を設けていた。
【0019】
上記特許文献1、2にも、データ信号に低周波信号を重畳し、光変調器の出射光からその低周波信号成分を取り出して動作点変動を検出して、これを抑制する技術が開示されている。
【0020】
ところで、従来の光変調器において、多波長光を扱う光変調器における波長の違いによる最適動作点の変化に関する考察がなされておらず、多波長型光変調システムを実現するための重要な課題の一つとなっている。
【0021】
つまり、光変調器の一定長さの導波路を通過する光の位相変化は波長依存性があり、このことから光波長が異なると変調特性の周期(つまり半波長電圧Vπ)も異なる。また、前記した光変調器10の第2導波路13と第3導波路14の光路長に差があれば、その差分に応じて各波長についての変調特性にずれが生じる。
【0022】
このため、従来の技術でこの多波長型光変調システムに対応するためには、予め各波長についてそれぞれ最適な初期動作点を見付けておき、光変調器に入射する光の波長毎にその初期動作点を切替る方法しかなく、複数波長同時変調等に全く対応できなかった。
【0023】
本発明は、この問題を解決し、多波長型光変調システムにおいて、高速な波長切替や複数波長同時変調に対応できる初期動作点設定方法および多波長型光変調システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0024】
前記目的を達成するために、本発明の請求項1の光変調器の初期動作点設定方法は、
電気光学効果を用いたマッハツェンダー干渉計を含み、印加されるバイアス電圧の変化に対して出射光強度が周期的に変化する変調特性を有する光変調器に対して、複数の異なる波長の光を順次入射させ、該光変調器の出射光強度を監視しつつ、該光変調器に供給するバイアス電圧を可変制御して、各波長について出射光強度が所定の許容範囲内となる共通動作点を見付け、該共通動作点に対応したバイアス電圧を前記光変調器の初期動作点に設定することを特徴とする。
【0025】
また、本発明の請求項2の光変調器の初期動作点設定方法は、
電気光学効果を用いたマッハツェンダー干渉計を含み、印加されるバイアス電圧の変化に対して出射光強度が周期的に変化する変調特性を有する光変調器に対して、複数の異なる波長のうちの特定波長の光を入射させ、該光変調器の出射光強度を監視しつつ、該光変調器に供給するバイアス電圧を可変制御して、該特定波長に対して前記光変調器の動作点候補の一つを基準点として求め、その時の強度を記憶する段階(S1〜S4)と、
前記光変調器の動作点を前記基準点に保持したまま、前記特定波長以外の他波長光を順次入射させ、波長毎の強度を調べる段階(S5〜S8)と、
前記特定波長光の入射時に求めた強度を基準強度とし、特定波長以外の他波長光の入射で得られた強度の前記基準強度に対する偏差をそれぞれ調べる段階(S9)と、
前記各他波長光について得られた全ての偏差が、予め設定された許容範囲内にあるか否かを判定する段階(S10)と、
前記他波長光について得られた偏差のいずれかが前記許容範囲内に無いと判定されたときに、前記光変調器の動作点を、前記基準点を次の動作点候補に変更して、前記各他波長光を入射させ、該他波長毎の前記基準強度に対する偏差を求める段階(S12〜S18、S21〜S27)とを含み、
前記他波長光について得られた偏差が前記許容範囲内に入った時の前記光変調器の動作点を、各波長についての共通動作点と決定し、該共通動作点に対応したバイアス電圧を前記光変調器の初期動作点に設定することを特徴とする。
【0026】
また、本発明の請求項3の多波長型光変調システムは、
複数の異なる波長の光を出射する多波長光源(21)と、
電気光学効果を用いたマッハツェンダー干渉計を含み、印加されるバイアス電圧の変化に対して出射光強度が周期的に変化する変調特性を有し、前記多波長光源から出射された光、前記バイアス電圧および変調信号を受けて、該変調信号によって変調された変調光を出射する光変調器(22)と、
前記光変調器の出射光強度を検出する出射光強度検出手段(23、24)と、
前記光変調器に与えるバイアス電圧を発生するバイアス電圧発生器(25)と、
前記バイアス電圧発生器が出力するバアイス電圧を制御する制御部(30)とを有する多波長型光変調システムであって、
前記制御部には、前記光源から前記光変調器に対して前記複数の異なる波長の光を順次入射させ、前記出射光強度検出手段の出力により前記光変調器の出射光強度を監視しつつ、該光変調器に供給するバイアス電圧を可変制御して、各波長について出射光強度が所定の許容範囲内となる共通動作点を見付け、該共通動作点に対応したバイアス電圧を前記光変調器の初期動作点に設定する初期動作点設定部(31)が設けられていることを特徴とする。
【0027】
また、本発明の請求項4の多波長型光変調システムは、請求項3の多波長型光変調システムにおいて、
前記制御部には、前記初期動作点設定部により前記光変調器に初期設定された動作点のドリフトを検出して、抑制するドリフト抑制部(32)が設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
このように本発明では、光変調器に対して、複数の異なる波長の光を順次入射させ、その光変調器の出射光強度を監視しつつ、バイアス電圧を可変制御して、各波長について出射光強度が所定の許容範囲内となる共通動作点を見付け、その共通動作点に対応したバイアス電圧を光変調器の初期動作点に設定している。
【0029】
このように各波長共通の動作点を見付けているため、波長切替の際の動作点切替が不要となり、高速な波長切替が可能となり、また、多波長同時変調に対応できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施形態の構成図
【図2】本発明の実施形態の要部の処理手順を示すフローチャート
【図3】本発明の実施形態の要部の処理手順を示すフローチャート
【図4】本発明の実施形態の要部の処理手順を示すフローチャート
【図5】3波長の場合の処理を説明するための図
【図6】従来の光変調器の概略構造を示す図
【図7】光変調器の変調特性と動作点の関係を示す図
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明を適用した光変調システム20の構成を示している。
【0032】
図1において、多波長光源21は、複数nの異なる波長λ1〜λnの光を出射するものであり、複数の固定波長光源の光を選択的にあるいは合波して出射させる構造や、可変波長光源の出射波長を切り換える構造であってもよいが、後述する光変調器22の動作点設定のために、少なくとも各波長λ1〜λnの光を選択的に出射する機能を有しているものとする。
【0033】
光変調器22は、印加される電界の強さに応じて屈折率が変化する電気光学効果を有する基板(LiNbO3基板等)に、前記図6で示した導波路構造を有するマッハツェンダー干渉計を用いた導波路型の光変調器であって、多波長光源21から出射された光、バイアス電圧に変調信号が重畳された信号とを受けて、変調信号によって変調された変調光を出射する。この電気光学効果を用いたマッハツェンダー干渉計を含む光変調器22は、印加されるバイアス電圧の変化に対して出射光強度が周期的に変化する変調特性を有している。
【0034】
光変調器22の出射光は光分岐器23によって分岐されて受光器24に入射する。受光器24は、光変調器22の出射光の強度に対応した信号を制御部30に出力する。
【0035】
一方、バイアス電圧発生器25は、光変調器22に与えるバイアス電圧を発生するものであり、その出力されるバイアス電圧は制御部30によって可変制御される。
【0036】
このバイアス電圧と多波長変調システム20の変調信号(データ信号)は、重畳器26によって重畳されて光変調器22に与えられる。変調信号は図示しない変調信号生成手段により生成されるが、その信号の位相、振幅は、変調方式に依存する。なお、ここではバイアス電圧と変調信号とを重畳器26により重畳しているが、バイアス電圧と変調信号をそれぞれ別々に光変調器に入力できる、所謂AC/DC分離入力構成としてもよい。
【0037】
例えば前記したように単純な強度変調であれば、変調信号は振幅Vπのデータ信号(初期動作点設定用に単純な1、0の繰り返しデータでもよい)でよく、2値あるいは4値位相変調の場合には、前段でのエンコード処理や反転処理等を受けた複数系列の信号が入力されることになるが、前記したように、光変調器の基本的動作は同等であり、周期的な変調特性の強度中間値や変曲点(最大点や最小点)を動作点候補とする。
【0038】
制御部30は、初期動作点設定部31とドリフト抑制部32を有している。初期動作点設定部31は、多波長光源21から光変調器22に対して複数の異なる波長λ1〜λnの光を順次入射させ、受光器24の出力により光変調器22の出射光強度を監視しつつ、光変調器22に供給するバイアス電圧を可変制御して、各波長について出射光強度が所定の許容範囲内となる共通動作点を見付け、その共通動作点に対応したバイアス電圧を光変調器22の初期動作点に設定する。
【0039】
また、ドリフト抑制部32は、初期動作点設定部31により光変調器22に設定された動作点のドリフトを検出して抑制するものであり、このドリフト抑制部32の構成および処理方法は、前述した特許文献1、2等に記載されているように、変調信号に低周波信号を重畳させ、出射光からその低周波信号成分を抽出して、その重畳した低周波信号と検出した低周波信号とを比較して温度などによる動作点ドリフトを検出し、そのドリフト分バイアス電圧を変化させることで、動作点ドリフトを抑制するものである。
【0040】
初期動作点設定部31の処理は、前記したように、光変調器22に対して、複数の異なる波長λ1〜λnの光を順次入射させ、光変調器22の出射光強度を監視しつつ、バイアス電圧を可変制御して、各波長について出射光強度が所定の許容範囲内となる共通動作点を見付け、その共通動作点に対応したバイアス電圧を前記光変調器の初期動作点に設定するものであり、その具体的な処理については種々の方法が考えられる。
【0041】
その一つは、全ての波長についての変調特性で変調方式によって決まる動作点候補(中間値、最大値、最小値の区別および特性の傾きで特定される)を全て求め、出射光強度が所定の許容範囲内となり、波長毎の各動作点候補が一定の誤差範囲内に存在し、さらに消費電力低減のためにバイアス電圧の絶対値が最小となる共通動作点を見付ける方法である。ただしこの方法は、各波長について動作点候補を全て見付ける必要があるので処理時間がかかる。
【0042】
そこで、この処理時間を短縮した方法を、図2〜図4のフローチャートに基づいて説明する。図2に示しているように、始めに、複数の異なる波長λ1〜λnのうちの特定波長(λ1)の光を光変調器22に入射させ、その出射光強度を監視しつつ、バイアス電圧を可変制御して、特定波長λ1に対して光変調器22の動作点候補の一つ、即ち、消費電力低減の目的で絶対値最小のものを基準点として求め、その時の強度を記憶する(S1〜S4)。
【0043】
なお、ここでは説明を簡単にするために、動作点候補を傾き正の強度中間点とし、その時検出する出射光強度はデータ信号を与えない無変調状態で検出されるものとするが、波長λ1〜λnのうちの最短波長に対応したVπの振幅の基準データを与えて変調を掛けたときの出射光強度を用いてもよい。
【0044】
図5は、n=3の場合の各波長の変調特性を示すものであり、実線で示した特定波長λ1の変調特性M1の変調方式によって決まる動作点候補(A1、A2、…、B1、B2、…)が、傾き正の強度中間点とし、最初の基準点を+極性で0ボルトに近いA1点とし、その時の出射光強度P1を基準値として求める。
【0045】
次に、光変調器22の動作点を基準点(A1)に保持したまま、特定波長以外の他波長光λ2〜λnを順次入射させ、波長毎の出射光強度を傾きも含めて調べる(S5〜S8)。なお、傾きの検出はバイアス電圧を微増減させ、それに対する光強度の変化から判定するが、以下の説明では、出射光強度の情報にその傾き情報が正負の記号で含まれているものとする。つまり、傾きが正で強度の絶対値がPであれば+P、傾きが負で強度Pであれば−Pとする。
【0046】
図5の例では波長λ2の変調特性M2を点線で示し、波長λ3の変調特性M3を破線で示しているが、バイアス電圧は基準点A1に対応したVb1であり、このバイアス電圧Vb1における各特性M2、M3の出射強度+P2、−P3は、波長差や光路差などにより特性M1から大きく離間していて、特定波長λ1の時の強度+P1との差が大きい。しかも、特性M3の傾きは負となっていて、特定波長λ1の場合と異なっている。
【0047】
そして、特定波長λ1の光の入射時に求めた強度P1を基準強度とし、特定波長以外の他波長光λ2〜λnの入射で得られた強度P2〜Pnの基準強度P1に対する偏差(P1−P2)、(P1−P3)、…、(P1−Pn)をそれぞれ調べ(S9)、各他波長光P2〜Pnについて得られた全ての偏差が、予め設定された許容範囲内にあるか否かを判定する(S10)。この許容範囲はシステムに要求される精度によるが、例えば基準強度P1の±5パーセント等に設定される。
【0048】
前記したように検出される各強度には、特性の傾き情報も符号として含まれているので、傾きが一致しないもの同士の偏差の絶対値は、極端に大きくなる。
【0049】
つまり、図5に示したように、特性M3の傾きが負になっている場合、その強度は(−P3)であるから、偏差は(+P1)−(−P3)=P1+P3となって非常に大きな値となって当然のことながら、前記した許容範囲には入らない。
【0050】
また、例え傾きが一致していても、特性M2の強度(+P2)のように、基準の強度(+P1)から大きく離間していれば、その偏差は許容範囲には入らない。
【0051】
このように偏差が許容範囲内に無いと判定されたときに、光変調器22の動作点の基準を、+方向の隣の動作点候補A2に変更して、前記同様に各他波長光を入射させ、それら他波長毎の基準強度P1に対する強度偏差を求める(S12〜S18)。
【0052】
図5の例では、動作点候補A2におけるバイアス電圧Vb2は、変調特性M2、M3の強度中間点により近くなっていて特性の傾きも基準と一致しているが、依然としてその強度偏差が大きいので、許容偏差外と判定される(S19)。
【0053】
そして、今回のように傾きが一致したことで、今回の偏差の最大が前回の偏差の最大より小さくなるので(S20)、変更方向が正しいものとして、再び、光変調器22の動作点の基準を、+方向の隣の動作点候補A3に変更して、前記同様に各他波長光を入射させ、それら他波長毎の基準強度P1に対する強度偏差を求める(S12〜S18)。
【0054】
図5の例では、動作点候補A3におけるバイアス電圧Vb3は、変調特性M2、M3の強度中間点にほぼ一致し、波長λ2、λ3における出射光強度+P2、+P3は、基準強度P1により近づいて、その偏差は許容範囲±W/2に入る。
【0055】
このように、他波長光について得られた偏差が許容範囲内に入った場合(S19)、その時点の光変調器22の動作点を、各波長についての共通動作点と決定し、共通動作点に対応したバイアス電圧を光変調器22の初期動作点に設定する(S11)。また最初の動作点候補A1のときに他波長光について得られた偏差が許容範囲内に入った場合(S10)にも、その時点の光変調器22の動作点を、各波長についての共通動作点と決定し、共通動作点に対応したバイアス電圧を光変調器22の初期動作点に設定する。
【0056】
一方、上記S19の判定処理で、偏差が許容範囲内に入らない場合には、前記したように、前回の偏差の最大と今回の偏差の最大を比較し、今回の偏差の方が少ない場合には、動作点の変更方向が正しいものとして、動作点候補を同じ方向(この場合+側)に変更して同一処理を行う(S20)。
【0057】
また、処理S20で今回の偏差の方が大きいと判定された場合には、動作点の変更方向が誤っているものとして、図4に示すように、動作点候補を逆方向(この場合−側のB1、B2、…)に変更して、処理S13〜S19と同一処理を行う(S21〜S28)。
【0058】
以上の処理を、偏差が許容範囲内に入るまで行うことで、各波長に共通の動作点を効率よく見付けることができる。
【0059】
なお、上記実施形態では、動作点における特性の傾きを意識し、それらが各波長について一致するような共通動作点を求めていたが、傾きを意識しないでもよい変調方式であれば、上記処理における傾き情報を無視して共通動作点を求めればよい。
【0060】
また、前記実施形態では、傾きの情報を強度の符号に割り当てることで、偏差演算で傾きが一致していないものが許容範囲を大きく越えるようにしていたが、強度の偏差算出と傾きの一致不一致の判定を別々に行うようにしてもよい。
【0061】
また、前記実施形態では、最初の動作点候補における強度偏差が許容範囲に入らないと判定されたときに、その動作点候補を+側(現状より高い方)の次の動作点候補に変更していたが、逆に−側(現状より低い方)の次の動作点候補に変更してもよい。
【0062】
このようにして、初期動作点の設定が終了した後に、この多波長型光変調システム20は、予め決められたスケジュール等にしたがって、各波長の光にデータ信号による変調を施して出射させることになるが、その間、制御部30は、光変調器22の動作点のドリフトを抑制するためのフィードバック制御を行う。ここで、動作点ドリフトは各波長の変調特性に対してほぼ同等に作用する、つまり、図5のような各波長の変調特性M1〜M3が同一方向にほぼ同一量変化するので、ドリフト制御はいずれの波長についても同等に作用する。
【0063】
また、複数の波長の光を光変調器22に同時に入射して、同一データ信号で変調をかける場合には、そのうちの一つの波長の光を選択して、その選択した光から低周波信号成分を抽出してドリフト抑制制御を行えばよい。
【0064】
なお、上記実施形態では、光変調器22から出射された光の強度を検出するための光分岐器23と受光器24を光変調器22と別に示していたが、現在ではこの強度検出機能(モニタ機能)が付加された光変調器が実現されており、そのような光変調器を用いる場合には、モニタ出力を制御部30に入力する構成でよい。
【符号の説明】
【0065】
20……多波長型光変調システム、21……多波長光源、22……光変調器、23……光分岐器、24……受光器、25……バイアス電圧発生器、26……重畳器、30……制御部、31……初期動作点設定部、32……ドリフト抑制部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気光学効果を用いたマッハツェンダー干渉計を含み、印加されるバイアス電圧の変化に対して出射光強度が周期的に変化する変調特性を有する光変調器に対して、複数の異なる波長の光を順次入射させ、該光変調器の出射光強度を監視しつつ、該光変調器に供給するバイアス電圧を可変制御して、各波長について出射光強度が所定の許容範囲内となる共通動作点を見付け、該共通動作点に対応したバイアス電圧を前記光変調器の初期動作点に設定することを特徴とする光変調器の初期動作点設定方法。
【請求項2】
電気光学効果を用いたマッハツェンダー干渉計を含み、印加されるバイアス電圧の変化に対して出射光強度が周期的に変化する変調特性を有する光変調器に対して、複数の異なる波長のうちの特定波長の光を入射させ、該光変調器の出射光強度を監視しつつ、該光変調器に供給するバイアス電圧を可変制御して、該特定波長に対して前記光変調器の動作点候補の一つを基準点として求め、その時の強度を記憶する段階(S1〜S4)と、
前記光変調器の動作点を前記基準点に保持したまま、前記特定波長以外の他波長光を順次入射させ、波長毎の強度を調べる段階(S5〜S8)と、
前記特定波長光の入射時に求めた強度を基準強度とし、特定波長以外の他波長光の入射で得られた強度の前記基準強度に対する偏差をそれぞれ調べる段階(S9)と、
前記各他波長光について得られた全ての偏差が、予め設定された許容範囲内にあるか否かを判定する段階(S10)と、
前記他波長光について得られた偏差のいずれかが前記許容範囲内に無いと判定されたときに、前記光変調器の動作点を、前記基準点を次の動作点候補に変更して、前記各他波長光を入射させ、該他波長毎の前記基準強度に対する偏差を求める段階(S12〜S18、S21〜S27)とを含み、
前記他波長光について得られた偏差が前記許容範囲内に入った時の前記光変調器の動作点を、各波長についての共通動作点と決定し、該共通動作点に対応したバイアス電圧を前記光変調器の初期動作点に設定することを特徴とする光変調器の初期動作点設定方法。
【請求項3】
複数の異なる波長の光を出射する多波長光源(21)と、
電気光学効果を用いたマッハツェンダー干渉計を含み、印加されるバイアス電圧の変化に対して出射光強度が周期的に変化する変調特性を有し、前記多波長光源から出射された光、前記バイアス電圧および変調信号を受けて、該変調信号によって変調された変調光を出射する光変調器(22)と、
前記光変調器の出射光強度を検出する出射光強度検出手段(23、24)と、
前記光変調器に与えるバイアス電圧を発生するバイアス電圧発生器(25)と、
前記バイアス電圧発生器が出力するバアイス電圧を制御する制御部(30)とを有する多波長型光変調システムであって、
前記制御部には、前記光源から前記光変調器に対して前記複数の異なる波長の光を順次入射させ、前記出射光強度検出手段の出力により前記光変調器の出射光強度を監視しつつ、該光変調器に供給するバイアス電圧を可変制御して、各波長について出射光強度が所定の許容範囲内となる共通動作点を見付け、該共通動作点に対応したバイアス電圧を前記光変調器の初期動作点に設定する初期動作点設定部(31)が設けられていることを特徴とする多波長型光変調システム。
【請求項4】
前記制御部には、前記初期動作点設定部により前記光変調器に初期設定された動作点のドリフトを検出して、抑制するドリフト抑制部(32)が設けられていることを特徴とする請求項3記載の多波長型光変調システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−22233(P2012−22233A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−161453(P2010−161453)
【出願日】平成22年7月16日(2010.7.16)
【出願人】(000000572)アンリツ株式会社 (838)
【Fターム(参考)】