説明

光導波路素子

【課題】
電気光学効果を有し、厚みが10μm以下の薄板を用いる光導波路素子に対し、当該素子の端面で反射するスラブ伝搬光を除去し、動作特性の劣化を抑制した光導波路素子を提供すること。
【解決手段】
電気光学効果を有し、厚みが10μm以下の薄板と、該薄板には光導波路が形成されており、該薄板に接着層を介して接着された補強基板とを有する光導波路素子において、該光導波路素子の側面の一部に、反射防止膜が形成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光導波路素子に関し、特に、電気光学効果を有し、厚みが10μm以下の薄板を用いる光導波路素子に関する。
【背景技術】
【0002】
光計測技術分野や光通信技術分野において、電気光学効果を有する基板を用いた光変調器などの光導波路素子が多用されている。また、周波数応答特性を広帯域化や駆動電圧の低減するため、基板の厚みを10μm程度まで薄く構成し、変調信号であるマイクロ波の実効屈折率を下げ、マイクロ波と光波との速度整合を図り、さらには電界効率の向上を図ることが行われている。特許文献1に示すように、このような薄板は、機械的強度の確保を目的として、他の補強基板に接着して使用される。
【0003】
薄い主基板(「薄板」とも言う)においては、基板内を伝搬する信号光の振る舞いが問題になっている。特に、薄板内の光導波路、例えば、S字部、分岐・結合部から漏れた迷光は、主基板が100μm以上の厚みを有していた場合と異なり、薄板をスラブ導波路として伝搬する。そして、光導波路素子の端面で反射するスラブ伝搬光が、光導波路と浅い角度で交差すると、光結合が生じ、結合状態によって光導波路素子の波長依存性が発生する。しかも、伝搬損失や、消光比をモニタするモニタ用受光素子の位相差に波長依存性が発生するため、光導波路素子の動作特性が劣化することとなる。
【0004】
損失や消光比などの仕様は、使用波長域で規定されているため、当該特性を使用波長域で全て測定する必要がある。その結果、測定が長時間になり、一波長でも、特性未達であれば、歩留まりに多大の影響がでる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−85789号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、上述したような問題を解決し、電気光学効果を有し、厚みが10μm以下の薄板を用いる光導波路素子に対し、当該素子の端面で反射するスラブ伝搬光を除去し、動作特性の劣化を抑制した光導波路素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、電気光学効果を有し、厚みが10μm以下の薄板と、該薄板には光導波路が形成されており、該薄板に接着層を介して接着された補強基板とを有する光導波路素子において、該光導波路素子の側面の一部に、反射防止膜が形成されていることを特徴とする。
【0008】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の光導波路素子において、該反射防止膜が形成されている面は、該光導波路の出射側端部が配置されている面であることを特徴とする。
【0009】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に記載の光導波路素子において、該反射防止膜は、該薄板と該補強基板との両方に跨って形成されていることを特徴とする。
【0010】
請求項4に係る発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載の光導波路素子において、該反射防止膜は、対接着剤で設計されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明により、電気光学効果を有し、厚みが10μm以下の薄板と、該薄板には光導波路が形成されており、該薄板に接着層を介して接着された補強基板とを有する光導波路素子において、該光導波路素子の側面の一部に、反射防止膜が形成されているため、薄板の端面等で反射するスラブ伝搬光を除去でき、動作特性の劣化を抑制した光導波路素子を提供することが可能となる。
【0012】
請求項2に係る発明により、反射防止膜が形成されている面は、光導波路の出射側端部が配置されている面であるため、光導波路が延在する方向に伝搬するスラブ伝搬光を効果的に除去することが可能となり、動作特性をより一層改善することができる。
【0013】
請求項3に係る発明により、反射防止膜は、薄板と補強基板との両方に跨って形成されているため、反射防止膜の接着面積が増加し、膜体の剥離や欠けの発生を抑制することも可能となる。
【0014】
請求項4に係る発明により、反射防止膜は、対接着剤で設計されているため、光ファイバを光導波路素子に接着剤でバッドジョイントする際に、光導波路と接着剤との間での反射が抑制され、結合損失を低減させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の光導波路素子の概略を説明する断面図である。
【図2】本発明の光導波路素子における、反射率の波長依存性を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の光導波路素子について、好適例を用いて詳細に説明する。
本発明の光導波路素子は、図1に示すように、電気光学効果を有し、厚みが10μm以下の薄板と、該薄板には光導波路が形成されており、該薄板に接着層を介して接着された補強基板とを有する光導波路素子において、該光導波路素子の側面の一部に、反射防止膜が形成されていることを特徴とする。
【0017】
電気光学効果を有する基板(薄板)としては、特に、LiNbO,LiTaO又はPLZT(ジルコン酸チタン酸鉛ランタン)のいずれかの単結晶が好適に利用可能である。特に、光変調器で多用されているLiNbO,LiTaOが、好ましい。また、基板に形成する光導波路は、例えば、LiNbO基板(LN基板)上にチタン(Ti)などの高屈折率物質を熱拡散することにより形成される。
【0018】
光導波路素子には、光導波路を伝搬する光波を変調するための変調電極を設けることができる。変調電極は、信号電極や接地電極から構成され、基板表面に、Ti・Auの電極パターンを形成し、金メッキ方法などにより形成することが可能である。さらに、必要に応じて光導波路形成後の基板表面に誘電体SiO等のバッファ層を設けることも可能である。
【0019】
薄板と補強基板とを接合する接着剤は、紫外線硬化性接着剤などが利用可能である。ただし、接着層の厚みは、10μm〜1000μmが好ましい。10μmより薄いと、変調信号であるマイクロ波と光導波路を伝搬する光波との速度整合が達成し難くなる。また、接着層の厚みが1000μmより大きくなると、接着層自体の膨張・収縮による内部応力が大きくなり、また、補強基板による補強効果が薄れ、薄板が破損し易くなる。
【0020】
補強基板の材料としては、薄板と同様の材料が、熱膨張率を薄板と整合させる上でも好ましい。例えば、LN基板を利用する場合には、厚さは400μm〜600μmが好ましい。厚過ぎると光導波路素子が大型化し、補強基板の熱膨張や焦電効果が薄板にも影響を及ぼすこととなる。また薄過ぎると、補強作用が余り期待できなくなる。
【0021】
反射防止膜としては、膜種は、SiO,TiO,Ta,Al,Nb,MgFなどが利用可能である。また、膜厚は、0.05μm〜3μmが好ましい。
【0022】
反射防止膜は、スパッタ法・蒸着法・CVD法等の真空成膜によるドライ法、若しくは、スピンコートによるウェット法により形成することが可能である。
【0023】
特に、反射防止膜(SiO,TiO等)は、図1に示すように、生産性を考えると単層の方が良いが、反射率で考えると、広い波長領域で反射率を高く低減可能な多層膜の方が好ましいため、少なくとも2層以上の積層構造(膜体1、膜体2)とすることが好ましい。
【0024】
図1のような反射防止膜(SiO:0.087μm,Ta:0.062μmの積層構造)を形成することで、図2の反射率の波長依存性のグラフに示すように、光導波路素子の端面でのスラブ伝搬光(迷光)の反射が抑えられ、迷光が光導波路へ結合することを防ぐことにより、On/Off消光比、波長依存性等の光学的特性が劣化する要因の排除が期待できる。
【0025】
しかも、副次効果として損失(Loss)の低減も得ることができる。例えば、光導波路素子に光ファイバをバットジョイントする時に、塗布する接着材は、チップ端面の幅、厚さ方向の断面全体に、塗布されてしまう。そのため、反射防止膜を対接着材で設計することにより、光導波路と接着材間での反射が抑えられ、結合ロスが4%程度低減する。
【0026】
さらに、図1に示すように、反射防止膜が形成されている面は、光導波路の出射側端部が配置されている面とすることで、光導波路が延在する方向に伝搬するスラブ伝搬光を効果的に除去することが可能となり、光導波路素子の特性をより一層改善することができる。
【0027】
また、反射防止膜は、図1に示すように、薄板と補強基板との両方に跨って形成することにより、光導波路素子の側面において、反射防止膜の接着面積が増加し、膜体の剥離や欠けの発生を抑制することも可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
以上説明したように、本発明によれば、電気光学効果を有し、厚みが10μm以下の薄板を用いる光導波路素子に対し、当該素子の端面で反射するスラブ伝搬光を除去し、動作特性の劣化を抑制した光導波路素子を提供することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気光学効果を有し、厚みが10μm以下の薄板と、該薄板には光導波路が形成されており、該薄板に接着層を介して接着された補強基板とを有する光導波路素子において、
該光導波路素子の側面の一部に、反射防止膜が形成されていることを特徴とする光導波路素子。
【請求項2】
請求項1に記載の光導波路素子において、該反射防止膜が形成されている面は、該光導波路の出射側端部が配置されている面であることを特徴とする光導波路素子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の光導波路素子において、該反射防止膜は、該薄板と該補強基板との両方に跨って形成されていることを特徴とする光導波路素子。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の光導波路素子において、該反射防止膜は、対接着剤で設計されていることを特徴とする光導波路素子。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−80007(P2013−80007A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−218558(P2011−218558)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】