説明

光送信機、及び、光変調器の制御方法

【課題】3値の入力信号を光変調器に印加して光を変調する変調方式において、制御を開始したときに、初めに設定したバイアス点が最適なバイアス点から180°位相がずれていても、速やかにバイアス点を最適なバイアス点となるように制御する。
【解決手段】光送信機は、MCU30を用いてMZ型光変調器に印加するバイアス電圧Vを制御する。MCU30は、低周波信号sをバイアス電圧Vに重畳する。このとき制御入力値fは制御誤差eとなる。制御誤差eがゼロであった場合、MCU30は、低周波信号sを入力信号に重畳する。このとき制御入力値fは判別量dとなる。MCU30は、判別量dの正負符号からバイアス電圧Vが最適なバイアス点にあるかを判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光送信機、及び、光変調器の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光トランシーバ等の光送信機において用いられる光変調方式として、光源からの光を光変調器によって変調する外部変調方式がある。外部変調方式に用いられる光変調器としては、LN(LiNbO:ニオブ酸リチウム)等の強誘電体を用いたマッハツェンダ型光変調器が知られている。
【0003】
マッハツェンダ型光変調器は、駆動電圧に対する出力光電力の関係である入出力特性が周期的に変化する特性を有する。そして、マッハツェンダ型光変調器では、印加される直流電圧、温度変化、経時変化等によって、入出力特性がドリフトすることが知られている。
一方、マッハツェンダ型光変調器を変調する方式として、2値のデータ信号を3値の入力信号に変換し、3値の入力信号をマッハツェンダ型光変調器に印加して光を変調する光デュオバイナリ方式が知られている。
【0004】
従来、光デュオバイナリ方式で変調するマッハツェンダ型光変調器のドリフトを補償する先行技術として、位相差フィードバックによるバイアス制御方式がある(例えば、特許文献1参照。)。この先行技術では、低周波信号が重畳されたバイアス電圧を光変調器に印加し、出力された光信号をモニタし、モニタした光信号の低周波成分(重畳した低周波信号と同じ周波数成分)と低周波信号の位相差を検出する。そして、検出した位相差に基づいて、位相差がゼロとなるように、マッハツェンダ型光変調器に印加するバイアス電圧を制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3723358号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、先行技術が用いる制御方式には、以下のような問題がある。
光デュオバイナリ方式では、一般に、バイアス制御によってバイアス電圧を設定しようとする最適なバイアス点を、マッハツェンダ型光変調器が有する周期的な入出力特性において、出力光電力が最小となるボトム点か、又は、出力光電力が最大となる頂点に設定する。
【0007】
例えば、マッハツェンダ型光変調器の入出力特性のボトム点を、最適なバイアス点として設定していたとする。ここで、光送信機の電源を投入してバイアス制御を開始したときに、初めに設定したバイアス点(バイアス電圧)が、マッハツェンダ型光変調器の入出力特性がドリフトによって180°位相ずれていたために、入出力特性の頂点になっている場合が想定される。この場合、上記の制御方式では、位相差はゼロとして検出されてしまうため、バイアス点が入出力特性の頂点にある状態に維持される。
【0008】
この後、時間の経過に伴ってドリフトが発生して位相差が生じると、位相差に基づいてバイアス制御が行われ、バイアス点は最適なバイアス点であるボトム点に移動される。しかし、このドリフトが発生するまでの間は、バイアス点が入出力特性の頂点にある状態が続くことになる。
【0009】
そこで本発明は、3値の入力信号を光変調器に印加して光を変調する変調方式を用いる光送信機、及び、光変調器の制御方法であって、制御を開始したときに、初めに設定したバイアス電圧が最適なバイアス点から180°位相がずれていても、速やかにバイアス電圧を最適なバイアス点となるように制御することができる光送信機、及び、光変調器の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、本発明は以下の解決手段を採用する。
すなわち本発明は、駆動電圧に対する出力光電力の関係である入出力特性が周期的に変化する特性を有し、印加された3値の入力信号とバイアス電圧に応じて光を変調し光信号として出力する光変調器と、前記バイアス電圧に第1低周波信号を重畳し、前記光信号の前記第1低周波信号と同じ周波成分と前記第1低周波信号の第1位相差に基づいて、前記バイアス電圧を制御する制御手段と、を備え、前記制御手段は、前記第1位相差がゼロであった場合、前記入力信号に第2低周波信号を重畳し、前記光信号の前記第2低周波信号と同じ周波成分と前記第2低周波信号の第2位相差に基づいて、前記バイアス電圧が最適なバイアス点にあるかを判定し、前記バイアス点が最適なバイアス点にないと判定したとき、前記バイアス電圧にオフセット電圧を加える光送信機を第1の態様とする。
【0011】
また、本発明は、3値の入力信号を光変調器に印加して光を変調する変調方式を用いる光変調器の制御方法であって、前記光変調器は、駆動電圧に対する出力光電力の関係である入出力特性が周期的に変化する特性を有し、前記バイアス電圧に第1低周波信号を重畳し、前記光信号の前記第1低周波信号と同じ周波成分と前記第1低周波信号の第1位相差に基づいて、前記バイアス電圧を制御し、前記第1位相差がゼロであった場合、前記入力信号に第2低周波信号を重畳し、前記光信号の前記第2低周波信号と同じ周波成分と前記第2低周波信号との第2位相差に基づいて、前記バイアス電圧が最適なバイアス点にあるかを判定し、前記バイアス点が最適なバイアス点にないと判定したとき、前記バイアス電圧にオフセット電圧を加える光変調器の制御方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、3値の入力信号を光変調器に印加して光を変調する変調方式を用いる光送信機、及び、光変調器の制御方法であって、制御を開始したときに、初めに設定したバイアス電圧が最適なバイアス点から180°位相がずれていても、速やかにバイアス電圧を最適なバイアス点となるように制御することができる光送信機、及び、光変調器の制御方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】光送信機の基本構成を概略的に示したブロック図である。
【図2】MCUの内部構成を概略的に示したブロック図である。
【図3】判別量dを用いてバイアス電圧Vが最適点にあるかを判定できる原理を示した図である。
【図4】MCUが実行する制御のフローチャートである。
【図5】制御フローの典型的な適用事例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0015】
〔光送信機の基本構成〕
図1は、光送信機10の基本構成を概略的に示したブロック図である。
光送信機10は、光源となるレーザダイオード14と、変調器ドライバ16と、マッハツェンダ型光変調器(光変調器)(以下、「MZ型光変調器」と表記する)12と、光分岐回路22とを備えている。
【0016】
また、光送信機10は、MZ型光変調器12に印加するバイアス電圧Vを制御する制御手段として、フォトダイオード24、BPF(Band Pass Filter)28、MCU(Micro Control Unit)30を備えている。なお、MCU30には、周辺機器である入力ドライバ及び出力ドライバが付属している。このうち、入力ドライバには1つのADC(Analog to Digital Converter)32があり、出力ドライバには2つのDAC(Digital to Analog Converter)36,38が含まれている。
【0017】
レーザダイオード14は、強度が一定の光CWを発し、マッハツェンダ型光変調器12に入力する。
【0018】
変調器ドライバ16には、光デュオバイナリ方式に基づき2値のデータ信号から3値に変換された入力信号Esが入力される。変調器ドライバ16は、入力信号Esを所定の振幅電圧に増幅して出力する。入力信号Esは、コンデンサ20で直流成分を除去された後、入力信号(変調振幅電圧)VとしてMZ型光変調器12に入力される。なお、入力信号Vは、バイアス電圧Vを中央値とした3値信号となる。例えば、入力信号Vは、振幅電圧の値が「−V」,「0」,「V」の3値を有する。「V」の絶対値は、MZ型光変調器12の入出力特性の半周期の駆動電圧幅「Vπ」と同程度とする。
【0019】
MZ型光変調器12は、例えばLN(LiNbO:ニオブ酸リチウム)の結晶を用いたLN変調器である。MZ型光変調器12は、後述する図3(A)に示すように、駆動電圧に対する出力光電力の関係である入出力特性が周期的に変化する特性を有する。
【0020】
MZ型光変調器12には、レーザダイオード14から光CWが入力される。MZ型光変調器12には、バイアス電圧増幅器18からバイアス電圧Vが印加され、また、変調器ドライバ16から3値の入力信号Vが印加される。MZ型光変調器12は、印加された3値の入力信号V及びバイアス電圧Vに応じて光CWを変調(振幅変調)し、2値の光信号Osを出力する。
【0021】
MZ型光変調器12から出力された光信号Osは、光分岐回路22により2系統に分岐される。このうち一方の光信号Osは、光送信機10から出力される。他方の光信号Osは、フォトダイオード24でモニタされ、モニタ出力Pに変換される。モニタ出力Pは、BPF28で帯域調整され、さらにADC32でデジタル化されてMCU30に入力される。
【0022】
MCU30は、バイアス電圧Vに低周波信号s(図2を参照)を重畳し、光信号Osの低周波成分(低周波信号sと同じ周波数成分)と低周波信号sの位相差に基づいて、位相差がなくなるように、バイアス電圧Vを制御するという動作を行う。
【0023】
また、MCU30は、DAC38から低周波信号sを出力することもできる。DAC38から出力された低周波信号sは、定電流電源39を経由して変調器ドライバ16が出力する入力信号Vに重畳される。このように、本実施形態では、MCU30は、バイアス電圧Vの他に、入力信号Vにも低周波信号sを重畳することが可能となっている。なお、MCU30がDAC38から低周波信号を出力するときの動作については後述する。
【0024】
図2は、MCU30の内部構成を概略的に示したブロック図である。
MCU30は、低周波信号発生器40、乗算器42、LPF(Low Pass Filter)44、反転増幅器46、バイアス制御回路48、スイッチ50、逓倍器(倍率μ)52,逓倍器(倍率ν)54、及び加算器56を備える。なお、これらの構成要素は、実際にハードウェアとしてMCU30内に集積されたものでもよいし、ソフトウェア処理によりその機能が実現されたものであってもよい。
低周波信号発生器40は、変調器ドライバに入力される入力信号Esよりも低周波(例えば、1kHz程度)の低周波信号sを発生する。発生した低周波信号sは、スイッチ50と乗算器42へ出力される。
【0025】
乗算器42は、ADC32からモニタ出力Pが入力され、低周波信号発生器40から低周波信号sが入力される。乗算器42は、モニタ出力Pと低周波信号sを乗算処理し、光信号Osの低周波成分と低周波信号sの位相差を示す信号を生成し、該信号をLPF44へ出力する。
【0026】
LPF44は、乗算器42からの信号を積分して周波数成分cを生成し、該周波数成分cを反転増幅器46へ出力する。
反転増幅器46は、周波数成分cを論理反転(×−1)し、制御入力値fとしてバイアス制御回路48へ出力する。
【0027】
スイッチ50は、低周波信号発生器40から低周波信号sが入力される。スイッチ50は、出口(1)に逓倍器52が接続されており、出口(2)に逓倍器54が接続されている。スイッチ50は、バイアス制御回路48に接続しており、バイアス制御回路48の制御を受けて、低周波信号sの出力先を出口(1)又は出口(2)に切り替える。
スイッチ50の出力先が出口(1)の場合、低周波信号sは逓倍器52を経由して、加算器56に入力される。加算器56は、バイアス制御回路48と接続しており、バイアス制御回路48が出力したバイアス電圧Vに低周波信号sを重畳して、DAC36へ出力する。なお、スイッチ50から低周波信号sが出力されていない場合は、バイアス制御回路48が出力したバイアス電圧VをそのままDAC36へ出力する。バイアス電圧Vは、DAC36でアナログ化され、バイアス電圧増幅器18で増幅されたのち、MZ型光変調器12に印加される。
【0028】
スイッチ50の出力先が出口(2)の場合、低周波信号sは逓倍器54を経由してDAC38へ出力される。DAC38によってアナログ化された低周波信号sは、定電流電源39を経由して変調器ドライバ16が出力する入力信号Vに重畳される。
【0029】
バイアス制御回路48は、定常的なバイアス制御として、スイッチ50の出口先を出口(1)とし、低周波信号sをバイアス電圧Vに重畳する。低周波信号sをバイアス電圧Vに重畳している場合、反転増幅器46から入力される制御入力値fは、制御誤差eを意味している。バイアス制御回路48は、制御誤差eに基づくPID(Propotional Integral Derivative)制御により、制御誤差eがゼロとなるように、バイアス電圧Vを制御する。これにより、バイアス電圧Vは、バイアス電圧Vを設定しようとする最適なバイアス点へと収束される。
【0030】
また、バイアス制御回路48は、図示しないメモリにバイアス電圧Vの初期値を保存している。例えば、光送信機10に電源が投入されたときなどにおいて、制御を開始したとき、バイアス制御回路48は、バイアス電圧Vに該初期値を設定する。
【0031】
バイアス制御回路48は、バイアス電圧Vに初期値を設定し、低周波信号sをバイアス電圧Vに重畳して制御を開始したときに、制御誤差eがゼロであった場合、スイッチ50の出口先を出口(2)に切り替えて、低周波信号sを入力信号Vに重畳するという制御を行う。低周波信号sを入力信号Vに重畳している場合、制御入力値fは、バイアス電圧Vが最適なバイアス点にあるか、又は、最適なバイアス点から180°位相がずれた点にあるかを判別するための判別量dを意味する。
【0032】
バイアス制御回路48は、判別量dに基づき、バイアス電圧Vが最適なバイアス点にあると判定した場合、スイッチ50の出口先を出口(1)に切り替えて、定常的なバイアス制御を行う。一方、バイアス電圧Vが最適なバイアス点から180°位相がずれた点にあると判定した場合、バイアス電圧Vに電圧「Vπ」を加えたのち、スイッチ50の出口先を出口(1)に切り替えて、定常的なバイアス制御を行う。
【0033】
なお、電圧「Vπ」は、MZ型光変調器12が有する周期的な入出力特性において、半周期分の駆動電圧幅に相当する電圧である。したがって、バイアス電圧Vに電圧「Vπ」を加えることは、バイアス点を180°ずらすことを意味する。
【0034】
以下、判別量dによって、バイアス電圧Vが最適なバイアス点にあるか、又は、最適なバイアス点から180°位相がずれた点にあるかを判別することができる点について説明する。
【0035】
〔判別量dの導出〕
以下、判別量dの導出過程について説明する。
導出過程を単純化するため、周期T(=1/f0)の低周波信号s(t)を以下の式(0)で定義する。
(0)s(t)=+1:ただし0≦t<T/2のとき
s(t)= 0:ただしt=T/2のとき
s(t)=−1:ただしT/2<t≦Tのとき
【0036】
低周波信号sを入力信号Vに重畳した場合、3値信号V+1,V,V−1のうち、中央値(V)以外に低周波信号sの成分が加算された状態となる。具体的には、3値信号V+1,V,V−1の時間変化はそれぞれ以下の(1)式で表される。
(1)
±1(t)=V±(V+νs(t))
(t)=V
【0037】
このとき、モニタ出力Pの時間変化は以下の(2)式で表される。なお(2)式中、PMZは、MZ型光変調器12の一般的な入出力特性(駆動電圧Vの周期関数)を表す。
(2)
P(t)={PMZ(V+1(t))+2PMZ(V(t))+PMZ(V−1(t))}/4
={1−cos(πV)cos(π(V+νs(t))/2)}/2
【0038】
MCU30内部でモニタ出力Pに低周波信号sを混合し、LPF44で積分した結果が周波数成分cとなる。そして、この場合の周波数成分cの逆数が判別量dを表す。具体的には、上記の(2)式より、判別量dは以下の(3)式で表される。
(3)
d(V)=−c(V)=−1/T∫P(t)s(t)dt
=−1/4・cos(πV)sin(πV)sin(πν)
【0039】
〔判定原理〕
図3は、判別量dを用いてバイアス電圧Vが最適なバイアス点にあるかを判定できる原理を示した図である。このうち、図3(A)は、MZ型光変調器12の一般的な入出力特性(駆動電圧Vに対する出力光電力PMZの関係)を表している。また、図3(B)は、バイアス電圧Vに対する制御誤差eの変化を表し、図3(C)は、バイアス電圧Vに対する判別量dの変化を表している。
【0040】
〔制御誤差e〕
図3中(A),(B)の相対関係から、入出力特性上のバイアス点V(=バイアス電圧V)と制御誤差eとの相対関係が明らかとなる。
すなわち、制御誤差eがゼロとなる点は、入出力特性が最小となるボトム点(図3(A)のB点)と、入出力特性が最大となる頂点(図3(A)のT点)であることが分かる。最適なバイアス点をボトム点(B点)に設定していたとすると、先行技術の問題点として述べたように、制御誤差eがゼロである場合、バイアス電圧Vが正しい位置(B点)にあるのか、間違った位置(T点)にあるのかを判定ができない。
【0041】
〔判別量d〕
これに対し、図3中(A),(C)の相対関係に着目すると、バイアス電圧Vを正しい位置(B点)で制御している場合は判別量dが正の値となり、間違った位置(T点)で制御している場合は判別量dが負の値になる。これは、判別量dの正負符号からバイアス電圧Vが最適なバイアス点にあるか否かを判定できることを意味している。
【0042】
以上のように、バイアス制御回路48は、低周波信号sを入力信号Vに重畳しているときの制御入力値fを判別量dとして利用することができる。判別量dの正負符号(+/−)によって、バイアス電圧Vが最適なバイアス点にあるか否かを判定することができる。
【0043】
〔制御フロー〕
以下、MCUが実行する制御フローを説明する。
図4は、MCU30が実行する制御のフローチャートである。
【0044】
例えば、光送信機10の電源が投入されると、MCU30は制御を開始する。MCU30は、バイアス電圧Vに低周波信号sを重畳する(S10)。
【0045】
バイアス電圧Vに低周波信号sを重畳すると、MCU30は制御誤差eが得られる(S12)。
制御誤差eがゼロ(「≒0」)である場合(S14:Yes)、MCU30は、入力信号Vに低周波信号sを重畳する(S16)。
【0046】
次に、MCU30は、判別量dを計算する(S18)。MCU30は、判別量dの符号が正であるかを判定する(S20)。
【0047】
S20において、判別量dの符号が負である場合(S20:No)、MCU30は、バイアス電圧Vに電圧「Vπ」を加える(S22)。
【0048】
S14において制御誤差eがゼロでない場合、S20において判別量dの符号が正である場合、及びS22の後、MCU30は、S24〜S28の定常的なバイアス制御を行う。
【0049】
MCU30は、バイアス電圧Vに低周波信号sを重畳する(S24)。MCU30は、制御誤差eを取得する(S26)。MCU30は、制御誤差eに基づいて、バイアス電圧Vを制御する(ステップS28)。
【0050】
この後、S24に戻り、定常的に、制御誤差eに基づいてバイアス電圧Vの制御が行われる。
【0051】
〔適用事例〕
図5は、上述した制御フローの典型的な適用事例を示した図である。図5(A)は、制御を開始したときに、バイアス電圧Vによるバイアス点が最適なバイアス点(B点)から180°位相がずれていた事例を示し、図5(B)は、バイアス電圧Vに電圧「Vπ」が加えられて、バイアス点が最適なバイアス点に移動した事例を示している。
【0052】
なお、ここではMZ型光変調器12の入出力特性上で光出力が最小となる点(B点)を最適なバイアス点としているが、入出力特性上で光出力が最大となる点(T点)を最適点としてもよい。また図5中、入力信号Vを示す3値信号(「3値電気入力」と表記)、及び、光信号Osを示す2値信号(「2値光出力」と表記)は、いずれもアイパターンで示されている。
【0053】
図5(A)に示されているように、制御を開始したとき、バイアス電圧Vによるバイアス点は、最適なバイアス点(B点)から180°位相がずれたT点にある。このとき、制御誤差eはゼロとなるが、光信号Osの2値信号の極性(0,1)が反転してしまう。具体的には、2値信号のハイレベルが「0」、ローレベルが「1」となり、論理反転が生じてしまう。
【0054】
この場合、上記のようにMCU30によって、判別量dが計算され、その符号が負(−)になることから、直ちにバイアス電圧Vに電圧「Vπ」を加えられる。
【0055】
これにより、図5中(B)に示されるようにバイアス電圧Vが正しい位置(最小値B点)に移動され、2値信号の極性(0,1)が正しくなる。
【0056】
上述した一実施形態の光送信機10、及び、光変調器の制御方法によれば、3値の入力信号を光変調器に印加して光を変調する変調方式を用いる際に、制御を開始したときに、初めに設定したバイアス電圧が最適なバイアス点から180°位相がずれていても、速やかにバイアス電圧を最適なバイアス点となるように制御することができる。
【0057】
また、バイアス電圧Vの制御に際して、MZ型光変調器の入出力特性の半周期の駆動電圧幅に相当する電圧「Vπ」をバイアス電圧Vに加えているので、180°位相がずれた動作点(T点)から最適なバイアス点(B点)へ、直ちにバイアス電圧Vを移動させることができる。これにより、速やかに、バイアス電圧Vが最適なバイアス点に移動する。
【0058】
本発明は上述した一実施形態に制約されることなく、種々の変形を伴って実施することができる。MCU30の内部構成は、図2に示されるもの以外に変更してもよいし、MCU30による内部処理は、一部又は全部をソフトウェア処理により実現してもよい。
【0059】
一実施形態では、判別量dの符号が正のときに最適なバイアス点にあり、負のときに最適なバイアス点から180°位相がずれた点にあると判定している。変形例として、MZ型光変調器12の入出力特性上で光出力が最大となる点(T点)を最適なバイアス点として設定した場合、判別量dの正負の符号の判定は逆となる。
【0060】
バイアス電圧Vに加える所定の電圧は、MZ型光変調器の入出力特性の半周期の駆動電圧幅「Vπ」と異なっていてもよい。電圧「Vπ」と異なっていても、バイアス点は、最適なバイアス点から180°位相がずれた点(T点)からずれるので、制御誤差eがゼロでなくなる。以後、MCU30が実行する制御誤差eに基づくバイアス制御により、バイアス電圧Vは最適なバイアス点(例えば、B点)に収束する。バイアス電圧Vに加える所定の電圧は、「−Vπ」から「Vπ」の範囲に設定するのが好ましい。なお。バイアス電圧Vに加える所定の電圧として、MZ型光変調器の入出力特性の1周期の駆動電圧幅「2Vπ」(及びその整数倍)は除く。バイアス電圧Vに加える所定の電圧は、負の電圧であってもよい。
【0061】
また、入力信号Vに重畳する低周波信号は、バイアス電圧Vに重畳する低周波信号と別のものにしてもよい。
【0062】
その他、一実施形態で挙げた光送信機の構成は好ましい例示であり、各構成要素を適宜に変形又は置換して本発明を好適に実施することができることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0063】
10 光送信機
12 MZ型光変調器
14 レーザダイオード
16 変調器ドライバ
18 バイアス電圧増幅器
22 光分岐回路
24 フォトダイオード
30 MCU
40 低周波信号発生器
48 バイアス制御回路
50 スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動電圧に対する出力光電力の関係である入出力特性が周期的に変化する特性を有し、印加された3値の入力信号とバイアス電圧に応じて光を変調し光信号として出力する光変調器と、
前記バイアス電圧に第1低周波信号を重畳し、前記光信号の前記第1低周波信号と同じ周波成分と前記第1低周波信号の第1位相差に基づいて、前記バイアス電圧を制御する制御手段と、
を備え、
前記制御手段は、前記第1位相差がゼロであった場合、前記入力信号に第2低周波信号を重畳し、前記光信号の前記第2低周波信号と同じ周波成分と前記第2低周波信号の第2位相差に基づいて、前記バイアス電圧が前記バイアス電圧を設定しようとする最適なバイアス点にあるかを判定し、前記バイアス電圧が最適なバイアス点にないと判定したとき、前記バイアス電圧に所定の電圧を加える
光送信機。
【請求項2】
前記制御手段は、前記所定の電圧として前記光変調器の半周期の駆動電圧幅に相当する電圧を、前記バイアス電圧に加える
請求項1に記載の光送信機。
【請求項3】
前記制御手段は、前記第2低周波信号として前記第1低周波信号を用いる
請求項1又は2に記載の光送信機。
【請求項4】
前記制御手段は、
前記第1低周波信号の重畳先を、前記バイアス電圧又は前記入力信号の間で切り替える動作を行う、
請求項3に記載の光送信機。
【請求項5】
前記光変調器は、マッハツェンダ型光変調器である
請求項1から4いずれかに記載の光送信機。
【請求項6】
3値の入力信号を光変調器に印加して光を変調する変調方式を用いる光変調器の制御方法であって、
前記光変調器は、駆動電圧に対する出力光電力の関係である入出力特性が周期的に変化する特性を有し、
前記バイアス電圧に第1低周波信号を重畳し、前記光信号の前記第1低周波信号と同じ周波成分と前記第1低周波信号の第1位相差に基づいて、前記バイアス電圧を制御し、
前記第1位相差がゼロであった場合、前記入力信号に第2低周波信号を重畳し、前記光信号の前記第2低周波信号と同じ周波成分と前記第2低周波信号との第2位相差に基づいて、前記バイアス電圧が前記バイアス電圧を設定しようとする最適なバイアス点にあるかを判定し、前記バイアス点が最適なバイアス点にないと判定したとき、前記バイアス電圧に所定の電圧を加える
光変調器の制御方法。
【請求項7】
前記所定の電圧として前記光変調器の半周期の駆動電圧幅に相当する電圧を、前記バイアス電圧に加える
請求項6に記載の光変調器の制御方法。
【請求項8】
前記第2低周波信号として前記第1低周波信号を用いる
請求項6又は7に記載の光送信機。
【請求項9】
前記第1低周波信号の重畳先を、前記バイアス電圧又は前記入力信号の間で切り替える
請求項8に記載の光送信機。
【請求項10】
前記光変調器は、マッハツェンダ型光変調器である
請求項6から9いずれかに記載の光送信機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−54211(P2013−54211A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−192385(P2011−192385)
【出願日】平成23年9月5日(2011.9.5)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】