説明

光送信機

【課題】制御を開始したときに、初めに設定したバイアス点が最適なバイアス点から180°位相がずれていても、速やかにバイアス点を最適なバイアス点となるように制御することができる光変調器を提供する。
【解決手段】光送信機10のマッハツェンダ型光変調器12は、低周波信号Psが重畳された入力信号Msと印加されたバイアス電圧Vbsに応じて光CWを変調し、光信号Osとして出力する。MCU40は、光信号Osの低周波成分と低周波信号Psの位相差に基づき、バイアス電圧Vbtを設定する。MCU40は、制御を開始したときに、光信号Osの低周波成分と低周波信号Psの位相差がゼロであった場合、バイアス電圧Vbtにオフセット電圧Vtを重畳して、バイアス電圧をオフセットする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光送信機に関する。
【背景技術】
【0002】
光トランシーバ等の光送信機において用いられる光変調方式として、光源からの光を光変調器によって変調する外部変調方式がある。外部変調方式に用いられる光変調器としては、LN(LiNbO:ニオブ酸リチウム)等の強誘電体を用いたマッハツェンダ型光変調器が知られている。
【0003】
マッハツェンダ型光変調器は、駆動電圧に対する出力光電力の関係である入出力特性が周期的に変化する特性を有する。そして、マッハツェンダ型光変調器では、印加される直流電圧、温度変化、経時変化等によって、入出力特性がドリフトすることが知られている。
【0004】
従来、マッハツェンダ型光変調器のドリフトを補償する先行技術として、位相差フィードバックによるバイアス制御方式がある(例えば、特許文献1参照。)。この先行技術では、低周波信号が重畳された入力信号を光変調器に入力し、出力された光信号をモニタし、モニタした光信号の低周波成分(重畳した低周波信号と同じ周波数成分)と低周波信号の位相差を検出する。そして、検出した位相差に基づいて、位相差がゼロとなるように、マッハツェンダ型光変調器に印加するバイアス電圧を制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平3−251815号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、先行技術が用いる制御方式には、以下のような問題がある。
例えば、光送信機の電源を投入してバイアス制御を開始したときに、初めに設定したバイアス点(バイアス電圧)が、マッハツェンダ型光変調器の周期的な入出力特性において、最適なバイアス点から180°位相がずれている場合が想定される。この場合、上記の制御方式では、位相差はゼロとして検出されてしまうため、バイアス点が最適なバイアス点から180°位相がずれている状態に維持される。
【0007】
この後、時間の経過に伴ってドリフトが発生して位相差が生じると、位相差に基づいてバイアス制御が行われ、バイアス点は最適なバイアス点に設定される。しかし、このドリフトが発生するまでの間は、バイアス点が最適なバイアス点から180°位相がずれた状態が続くことになる。
【0008】
そこで本発明は、制御を開始したときに、初めに設定したバイアス点が最適なバイアス点から180°位相がずれていても、速やかにバイアス点を最適なバイアス点となるように制御することができる光送信機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明は以下の解決手段を採用する。
すなわち本発明は、駆動電圧に対する出力光電力の関係である入出力特性が周期的に変化する特性を有し、印加された入力信号とバイアス電圧に応じて光を変調し、光信号として出力する光変調器と、前記入力信号に低周波信号を重畳し、前記光信号の低周波成分と前記低周波信号との位相差に基づいて、前記バイアス電圧を制御する制御手段と、を備え、前記制御手段は、制御を開始したときに前記位相差がゼロであった場合、前記バイアス電圧を所定の電圧分オフセットする光送信機を一態様とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の光送信機によれば、制御を開始したときに、初めに設定したバイアス点が最適なバイアス点から180°位相がずれていても、速やかにバイアス点を最適なバイアス点となるように制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】光送信機の構成を概略的に示したブロック図である。
【図2】マッハツェンダ型光変調器の入出力特性とバイアス点を示す図であり、(A)はMCUが制御を開始したとき、(B)はMCUがバイアス電圧をオフセットしたときの図である。
【図3】MCUによるソフトウェア制御の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0013】
〔光送信機の構成〕
図1は、光送信機10の構成を概略的に示したブロック図である。
光送信機10は、光源となるレーザダイオード14と、変調器ドライバ16と、マッハツェンダ型光変調器(光変調器)12と、光分岐回路22とを備えている。また、光送信機10は、マッハツェンダ型光変調器12に印加するバイアス電圧Vbsを制御する制御手段として、フォトダイオード24及びMCU(Micro Control Unit)40を備えている。
【0014】
レーザダイオード14は、強度が一定の光CWを発し、マッハツェンダ型光変調器12に入力する。
変調器ドライバ16は、送信するデータを担う入力信号IsにMCU40が出力した低周波信号Psを重畳し、低周波信号Psが重畳された入力信号Msをマッハツェンダ型光変調器12に印加する。なお変調器ドライバ16では、図示しないコンデンサにより入力信号Msのバイアス成分が除去されている。
【0015】
マッハツェンダ型光変調器12は、例えばLN(LiNbO:ニオブ酸リチウム)の結晶を用いたLN変調器である。マッハツェンダ型光変調器12は、後述する図2に示すように、駆動電圧に対する出力光電力の関係である入出力特性が周期的に変化する特性を有する。
【0016】
マッハツェンダ型光変調器12には、レーザダイオード14から光CWが入力される。マッハツェンダ型光変調器12には、MCU40からバイアス電圧Vbsが印加され、また、変調器ドライバ16から入力信号Msが印加される。マッハツェンダ型光変調器12は、印加された入力信号Ms及びバイアス電圧Vbsに応じて光CWを変調(振幅変調)し、光信号Osを出力する。
【0017】
マッハツェンダ型光変調器12から出力された光信号Osは、光分岐回路22により2系統に分岐される。このうち一方の光信号Osは、光送信機10から出力される。他方の光信号Osは、フォトダイオード24でモニタされる。
フォトダイオード24は、モニタした光信号Osをモニタ信号Mosに変換する。モニタ信号Mosは、増幅器26で増幅されてMCU40に入力される。
【0018】
MCU40は、入力信号Isに低周波信号Psを重畳し、光信号Osの低周波成分(低周波信号Psと同じ周波数成分)と低周波信号Psとの位相差に基づいて、位相差がなくなるように、バイアス電圧Vbsを制御するという動作を行う。
【0019】
MCU40は、図示しないプロセッサコアやメモリを有する他、ADC(Analog to Digital Converter)42、DAC(Digital to Analog Converter)44,45等を集積したチップである。また、MCU40は、低周波発振器20、乗算器28、LPF(Low Pass Filter)30、オフセット電圧発生器32、加算器34、比較器46、PID(Propotional Integral Derivative)48としての機能を備える。MCU40は、これらの機能をソフトウェア制御により実行する。
【0020】
MCU40の低周波発振器20は、入力信号Isよりも低周波(例えば、1kHz程度)の低周波信号Psを生成する。生成された低周波信号Psは、DAC45でアナログ変換されて変調器ドライバ16へ出力される。
【0021】
MCU40のADC42は、入力されたモニタ信号Mosをデジタルデータ化する。MCU40は、低周波発振器20で生成した低周波信号PsとADC42からのモニタ信号Mosを、乗算器28で乗算処理し、光信号Osの低周波成分と低周波信号Psの位相差を示す位相差信号Fdを生成する。
次に、MCU40は、位相差信号FdをLPF30で積分処理した後、比較器46にて目標値V0(0とする)と比較し、誤差eを演算する。
【0022】
MCU40のPID48は、誤差eから演算処理(PID制御)を行い、誤差eをゼロとするようにバイアス電圧Vbtの値を算出し、バイアス電圧VbtをDAC44へ出力する。DAC44は、バイアス電圧Vbtをアナログ変換してバイアス電圧Vbsとし、バイアス電圧Vbsをマッハツェンダ型光変調器12に印加する。
【0023】
また、MCU40は、図示しないメモリにバイアス電圧Vbtの初期値を保存している。MCU40は、光送信機の電源が投入されて制御を開始するとき、メモリに保存されている初期値をバイアス電圧Vbtの値として設定する。
【0024】
ここで、先行技術の問題点として挙げたように、MCU40が制御を開始したときに、初めに設定したバイアス電圧Vbtによるバイアス点が、最適なバイアス点から180°位相がずれていた場合、位相差がゼロとなり、バイアス点が最適なバイアス点から180°位相がずれている状態に維持される。
【0025】
そこで、本実施形態では、MCU40は、制御を開始したときに位相差がゼロであった場合、前記バイアス電圧を所定の電圧分オフセットするという動作を行う。このような動作を実現するために、MCU40は、オフセット電圧発生器32及び加算器34の機能を備える。MCU40は、オフセット電圧発生器32及び加算器34の機能をソフトウェア制御により実行する。
【0026】
MCU40のオフセット電圧発生器32は、所定の値のオフセット電圧Vtを発生する。加算器34は、バイアス電圧Vbtにオフセット電圧Vtを重畳する。オフセット電圧Vtが重畳されたバイアス電圧VbtはDAC44でアナログ変換され、バイアス電圧Vbsとしてマッハツェンダ型光変調器12に印加される。
【0027】
MCU40は、制御を開始したときに、初めに設定したバイアス電圧Vbtによる位相差がゼロであった場合、すなわち誤差eがゼロであった場合、オフセット電圧発生器32によりオフセット電圧Vtを発生させる。一方、MCU40は、位相差がゼロでない場合、オフセット電圧Vtを発生させない。
【0028】
〔動作例〕
図2は、マッハツェンダ型光変調器の入出力特性とバイアス点を示す図であり、(A)はMCUが制御を開始したとき、(B)はMCUがバイアス電圧をオフセットしたときの図である。マッハツェンダ型光変調器12は、図2(A),(B)に示すように、駆動電圧に対する出力光電力の関係である入出力特性が周期的に変化する特性を有する。
【0029】
なお、図2(A),(B)中、実線で示される曲線は制御を開始したときの入出力特性であり、二点鎖線で示される入出力特性は、ドリフトして実線で示される入出力特性になる前の入出力特性である。すなわち、図2は、マッハツェンダ型光変調器は初め二点鎖線で示される入出力特性を有しており、この二点鎖線で示される入出力特性に対してバイアス点PBを最適なバイアス点として設定していたが、ドリフトが発生し、制御を開始したときには実線で示される入出力特性になっていたという例を図2は、示すものである。
【0030】
図2中(A):光送信機10の電源を投入したとき、MCU40は、バイアス電圧を初期値Vbt0に設定し、マッハツェンダ型光変調器12に印加する。なお、バイアス電圧の初期値Vbt0は、二点鎖線で示されるドリフト前の入出力特性において最適なバイアス点であるバイアス点PBを基準として設定されている。
【0031】
図2の例において、電源を投入したときは、マッハツェンダ型光変調器12の入出力特性は、ドリフト(例えば、正方向180°)が発生して、実線で示される入出力特性となっている。実線で示される入出力特性において、最適なバイアス点はバイアス点PGであり、これはドリフト前の最適なバイアス点PBから180°位相がずれてしまっている。この場合、初期値Vbt0でバイアス電圧を印加すると、光信号の低周波成分と低周波信号の位相差が検出されないため、そのままでは初期値Vbt0からバイアス電圧が動かない。
【0032】
図2中(B):本実施形態では、初期値Vbt0でバイアス電圧を印加した結果、位相差がゼロであった場合、初期値Vbt0にオフセット電圧Vtを重畳してバイアス電圧をオフセットする。
【0033】
オフセット後のバイアス電圧Vbt_offがマッハツェンダ型光変調器12に印加されると、バイアス点が点PBから点PVに移動するので、位相差が生じる。この後、MCU40は、位相差に基づいて、バイアス電圧の制御を行い、図中に曲線状の矢印で示されているようにバイアス点を移動させ、最適なバイアス点PGとなるバイアス電圧を設定する。
【0034】
〔制御フロー〕
図3は、MCU40によるソフトウェア制御の流れを示すフローチャートである。
例えば光送信機10に電源が投入されることにより、MCU40は、制御を開始し、マッハツェンダ型光変調器12のバイアス電圧の制御を行う(ステップS10)。MCU40は、初期値を設定したバイアス電圧Vbsをマッハツェンダ型光変調器12に印加する。また、MCU40は、低周波発振器20で低周波信号Psを生成し、入力信号Isに重畳する。
【0035】
次に、MCU40は、光信号Osの低周波成分と低周波信号Psの位相差から誤差eの値を演算し、誤差eがゼロ(「0」)であるかを判定する。
誤差eがゼロでない場合(ステップS12:No)、MCU40は、そのまま、位相差に基づいてバイアス電圧の制御を実行する(ステップS16)。これにより、バイアス電圧Vbsがドリフト後の最適なバイアス点に収束する。
【0036】
一方、誤差eがゼロであった場合(ステップS12:Yes)、MCU40は、バイアス電圧Vbtにオフセット電圧Vtを重畳する(ステップS14)。これにより、位相差が発生し、誤差eはゼロでなくなる。次に、MCU40は、位相差に基づいてバイアス電圧の制御を行い(ステップS16)、バイアス電圧Vbsはドリフト後の最適なバイアス点に収束する。
【0037】
なお、この後、バイアス制御を実行するループ(ステップS16)を継続する。ドリフト後の最適なバイアス点でバイアス電圧が印加される状態に移行して、再度、誤差eがゼロとなっても、オフセットは行わない。
【0038】
本実施形態において、オフセットに用いるオフセット電圧Vtは、入出力特性の半周期の駆動電圧幅(Vπ)より小さい値(例えばVπ/10以下)の電圧とする。これにより、初期値Vbt0がドリフト後の最適なバイアス点PGに一致していた場合の制御が不安定化するのを防止することができる。すなわち、初期値Vbt0がドリフト後の最適なバイアス点PGに一致していた場合もオフセットが行われるが、オフセット電圧Vtが入出力特性の1周期の駆動電圧幅に対して小さいため、オフセット後のバイアス点から速やかに最適なバイアス点PGに復帰することができる。
【0039】
以上のように、本実施形態の光送信機10によれば、初めに設定したバイアス電圧(バイアス点)が最適なバイアス点から180°位相がずれていても、速やかにバイアス点を最適なバイアス点となるように制御することができる。制御を開始したときに、バイアス電圧が最適なバイアス点に設定されない不安定な状態が続くことを防止し、光送信機10の信頼性を向上することができる。
【0040】
上述した一実施形態では、初期のバイアス電圧が、最適なバイアス点から180°位相がずれたバイアス点PBに一致する例として、正方向180°のドリフトを挙げているが、負方向のドリフトが発生した場合についても一実施形態の制御手法は有効である。
【0041】
また一実施形態で挙げた光送信機10の構成(図1)は好ましい形態であり、個々の要素を適宜に変形や置換しても、本発明の光送信機を構成することができる。例えば、MCU40の構成(低周波発振器20、乗算器28、LPF30、オフセット電圧発生器32、加算機34、比較器46及びPID48)をアナログ回路で実現してもよい。
【符号の説明】
【0042】
10 光送信機
12 マッハツェンダ型光変調器
14 レーザダイオード
16 変調器ドライバ
20 低周波発振器
22 光分岐回路
24 フォトダイオード
26 増幅器
28 乗算器
32 オフセット電圧発生器
34 加算器
40 MCU
46 比較器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動電圧に対する出力光電力の関係である入出力特性が周期的に変化する特性を有し、印加された入力信号とバイアス電圧に応じて光を変調し、光信号として出力する光変調器と、
前記入力信号に低周波信号を重畳し、前記光信号の低周波成分と前記低周波信号との位相差に基づいて、前記バイアス電圧を制御する制御手段と、
を備え、
前記制御手段は、制御を開始したときに前記位相差がゼロであった場合、前記バイアス電圧を所定の電圧分オフセットする
光送信機。
【請求項2】
前記制御手段は、前記所定の電圧として前記光変調器の前記入出力特性の半周期の駆動電圧幅よりも小さい値の電圧を用いてオフセットする
請求項1に記載の光送信機。
【請求項3】
前記光変調器は、マッハツェンダ型光変調器である
請求項1又は2に記載の光送信機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−54212(P2013−54212A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−192386(P2011−192386)
【出願日】平成23年9月5日(2011.9.5)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】