説明

全方位空間ダイバーシチ受信装置

【課題】 到来電波方位が360度のいずれであっても有効な空間ダイバーシチを得る。
【解決手段】 水平面内無指向性のアンテナ素子1nを3〜5個同一円上に等間隔で配し、これら素子1nの1つを切替器20で受信器41に接続し、素子1nを切替器30で予め決めた順で繰り返し受信器42で切替え接続し、受信器41の受信レベルが受信器42の受信レベル以下になると、その時受信器42に接続されているアンテナ素子を切替器20で受信器41に接続する。受信器41の出力を目的の受信信号として利用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は例えば移動体から放射される電波の放射位置を検出する電波源測位システムにおける1つの受信装置として用いられ、全ての方位に対して空間ダイバーシチ効果が得られる受信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
前記電波源測位システムは、同一の放射電波を複数の場所の受信局で受信し、その受信電波より放射電波源から受信するまでの到達時間を検出し、2つの受信局での到達時間差を、異なる2つの組の受信局について求め、これらから放射電波源の位置を測位することが例えば特許文献1に示されている。なおこれは双曲線航法原理を応用したものである。
この電波源測位システムにおいて各受信局は1個の水平面内無指向性アンテナを用いていた。しかし電波が直接波として伝搬すると共に各所で反射されながら伝搬するマルチパス環境においては、受信装置に直接波と反射波とが逆位相になり受信レベルが著しく低下する場合がある。この現象はフェージングと云われている。
【0003】
一方、このようなマルチパス環境においても、2個のアンテナ素子をそのアンテナ素子の受信信号の相関が使用周波数帯で十分小さくなるように水平面内で、電波到来方向と直角方向に離して配置しこれらアンテナ素子に受信器を接続し、これら2個の受信器中の受信レベルが最も大きい受信器の出力を切り替え利用することによりフェージングの影響を受けることなく、常に良好な受信信号を得る空間ダイバーシチ受信装置が用いられている。この場合2個のアンテナ素子の間隔dは次式(1)により与えられることも知られている(例えば非特許文献1参照)。
【0004】
≧10.9λ/φ[deg]=10.9λ/(31/2・S[deg])
=1888/(S[deg]・f[MHz]) (1)
λは受信電波の波長であり、φは電波放射源からの電波拡がり角度を表わしφ=S・31/2で与えられ、Sは拡がり角φの標準偏差であり、fは受信電波の周波数であり、つまりf=1/λである。
また空間ダイバーシチアンテナの垂直面内での高さH(m)が高くなる程、電波の水平方向拡がり角の標準偏差S[deg]は小さくなり、例えばf=800MHz,H=3mでS≒5°,H=5mでS≒3°であることが知られている。
【特許文献1】特開2002−40120号公報
【非特許文献1】Y.Yamada他著“Diversity Antennas for Base and Mobile stations in Land Mobile Communication Systems”,IEICE Trans.,vol.E74,no.10,pp.3203-3209, Oct.,1991
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記電波源測位システムのように到来電波がいずれの方位であっても受信局は受信できることが要求され、かつその受信環境がフェージングを受ける状態にある場合がある。この場合もフェージングの影響を避けるため、空間ダイバーシチ受信装置を用いることが考えられるが、到来電波がアンテナ素子の配列方向と直角方向からずれると、その到来電波に対する実効的なアンテナ素子間隔が小さくなり、ダイバーシチ効果が得られなくなる。しかし、これまで、全ての到来方向に対し有効な空間ダイバーシチアンテナ受信装置の具体的構成は提案されていなかった。
【0006】
この発明の目的はいずれの方位からの到来電波もフェージングの影響を受け難い全方位空間ダイバーシチ受信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明によれば3個以上のアンテナ素子が水平面内で2次元に配置され、各アンテナ素子は、第1切替器により第1受信器に切替え接続され、また第2切替器により第2受信器に切替え接続され、アンテナ素子を順次第2受信器に接続することを繰り返し、その受信レベルが第1受信器より第2受信器の方が大きければ、その時の第2受信器に接続されているアンテナ素子を第1受信器に接続する制御が切替制御器により行われる。
【発明の効果】
【0008】
この構成によれば電波の到来がいずれの方位であっても、いずれかのアンテナ素子がフェージングの影響を受けにくくなり、良好な受信が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
この発明の実施形態を図1を参照して説明する。アンテナ10はN個(N≧3)のアンテナ素子1(n=1,…,N)が水平面内で2次元に配置されて構成され、これらN個のアンテナ素子1は切替器20により受信器41に切替え接続され、またN個のアンテナ素子1は切替器30により、受信器41と同一特性の受信器42にも切替え接続される。受信器41及び42の各出力はA/D変換器61及び62でディジタル信号に変換されて、レベル検出器51及び52に入力され、受信レベルがそれぞれ検出され、これら受信レベルは比較部53で比較される。切替制御器54により切替器30を制御して各アンテナ素子1を順次接続することを繰り返し、比較部53より受信器42の受信レベルの方が大きい比較結果が出力されると、切替制御器54は切替器20を制御してその時、受信器42に接続されているアンテナ素子を受信器41に接続する。受信器41の出力が信号利用部55に入力されて、受信信号の利用、例えば前記測位システムの場合は到達時間の検出、あるいは通信システムでは通信信号の復調などが行われる。
【0010】
アンテナ
まずアンテナ10について具体的に説明する。例えば図2Aに示すように5個(N=5)のアンテナ素子11,12,…,15が水平面内で円61上に等間隔に配される。各アンテナ素子1は同一特性であり、水平面内で無指向性でかつ利用形態によっては広い周波数帯域のものが好ましく、例えばディスコーンアンテナなどが用いられる。
【0011】
これらアンテナ素子の2つの間で最も大きな間隔が前記式(1)を満すようにする。アンテナ素子1が5個のこの例では1つ置いた2つのアンテナ素子、例えばアンテナ素子13と15の間隔がdになるようにする。例えば円61の中心を頂点とし、この中心とアンテナ素子13と15とを結んで構成される2等辺3角形の頂角144°と底辺dが決まり、円61の半径Rを求めることができる。
つまり円61の半径R=1としてアンテナ素子11〜15の座標を図2Bに示す値とすると、電波到来方向αをパラメータとしてアンテナ素子1と1の間隔dijを求めると式(2)となる。
ij=(Y−Y)cosα−(X−X)cosα (2)
【0012】
このアンテナ素子間隔dijを図3に示す。例えばアンテナ素子13と15の間隔d35は図3中の破線となり到来方向αに対し、36度ごとに最大間隔と最小間隔が繰り返され、到来方向αがX軸より36度または216度の場合は、アンテナ素子13と15との間隔が最大長となり、α=72°または252°ではアンテナ素子11と13の間隔が最大長になる。このように到来方向αに対してなるべくアンテナ素子間隔が大きくなるものを2つのアンテナ素子を選択し、その場合の最も短かくなるアンテナ素子間隔においてその両アンテナ素子の各受信信号の相関が所定値以上、つまり式(1)を満たすようにすればよい。なお常に2つの隣接するアンテナ素子を選択すると、その時のαに対するアンテナ素子間隔は図3中の最大値が小さいほうの曲線群となる。
【0013】
図3から理解されるように、半径R=1の場合、1つ置きのアンテナ素子を選ぶと、いずれの到来方向αに対してもアンテナ素子間隔dijは1.809となる。従って式(1)より求まるdに対し、次式(3)を満す円61の半径Rを求めて、その円61上に等間隔で5つのアンテナ素子11〜15を配置すればよい。
R≧d/1.809=1044/(S[deg]・f[MHz]) (3)
例えば水平方向の電波の拡がり角の標準偏差Sが5°、電波の周波数fが30MHzとするとこれらを式(3)に代入すると半径Rは約7mになる。また拡がり角φが3度、f=800MHzの場合要求されるアンテナ素子間隔dは式(1)から1.36mとなり、この長さが半径R=1とした時の長さ1.809に相当すればよいから、円61の半径Rは約0.75m(=d/1.809)となる。
【0014】
アンテナ10を3個のアンテナ素子で構成する場合も同様に求めることができ、この場合は図3に相当する到来方向αをパラメータとするアンテナ素子間隔を求めると、最小となる素子間隔dijは1.500となる。従ってφ=3°、f=800MHzとすると、円61の半径Rは0.91m(=d/1.500)となる。アンテナ素子数を多くする程、到来方向αに対し、アンテナ素子間隔が最大となる2つのアンテナ素子を選択すれば、その状態でのアンテナ素子間隔dijの最小値が大きくなるため、アンテナ素子配置円61の半径Rを小さくすることができる。しかし、R=1とした場合、dij=2に近づくが、N=5でもdij=1.809と、かなり2に近い値であり、アンテナ素子数Nを大きくしてもdijはそれ程大きくならず、却って素子数の増加、切替器51,52が複雑になり、価格も高くなる。この点からアンテナ素子数Nの最大値は6程度でよい。
【0015】
例えば市街地にこの全方位空間ダイバーシチ受信装置を設ける場合は、アンテナ10は高層建築物の屋上に設置されるなど、設置場所によってはアンテナ素子を同一円上に配置できない場合があり、あるいは同一円上でも等間隔に配置できない場合がある。従って、360度のいずれの方向に対しても、いずれか2個1組のアンテナ素子を選択すれば式(1)を満すものがあるようにアンテナ素子を配置すればよい。
前述したようにアンテナ10を高所に設けざるを得ない場合がある。このような場合、到来電波は垂直方向に半角度拡がりが生じ、地表の反射波と直接波との干渉が生じる。この場合、アンテナ素子を垂直方向にも配置して空間ダイバーシチ効果が得られるようにする。つまり例えば図4に示すように、N個のアンテナ素子を水平面内で円形配置した素子群を垂直面内で複数配列、つまり多段配置することにより、垂直面内でのフェージングの影響を抑圧して、空間ダイバーシチ効果を高めるようにするとよい。フェージング影響を受け難くする垂直面内の素子間隔dも式(1)に基づき求めることができる。
【0016】
アンテナ素子切替制御
図4に示したように水平面内でN個のアンテナ素子1(n=1,…,N)が円形配列された素子群がM段(M≧2)垂直面内に設けられているとする。m段(m=1,2,…,M)の素子群の各アンテナ素子を1mnと表記する。図5に各アンテナ素子と切替器20及び30との接続例を示す。この例では各アンテナ素子1mnの受信信号は前段高周波増幅器56によりそれぞれ増幅され、その各増幅器56の出力受信信号は分岐部57によりそれぞれ分岐されて切替器20の固定接点20mnと切替器30の固定接点30mnへそれぞれ入力される。固定接点20mn及び30mnの各添字「mn」はアンテナ素子1mnに対する表記と同様である。つまり添字「mn」のmは1,…,Mのいずれか、nは1,…,Nのいずれかである。従って、全てのアンテナ素子の受信信号は切替器20及び30の対応する固定接点へ供給されることになる。
【0017】
切替器20及び30の可動接点21及び31よりの出力は受信器41及び42へそれぞれ供給される。受信器41及び42の各受信レベルL1及びL2が前述したように比較部53で比較され、その比較結果に基づき切替制御器54は切替器20及び30を制御する。
切替制御器54の制御手順の例を図6を参照して説明する。受信器41に接続されるアンテナ素子と受信器42に接続されるアンテナ素子を区別するために、受信器41に接続されたm段目のn番目のアンテナ素子の添字番号を「mn」とし、受信器42に接続されるアンテナ素子の添字番号を「m′n′」とする。まずステップS1でm,n,m′をそれぞれ1に、n′をn+1つまり2に初期化し、ステップS2で切替器20に対し添字番号「mn」の固定接点20mnに可動接点21を、切替器30に対し、添字番号「m′n′」の固定接点30m′n′に可動接点31をそれぞれ接続する。
【0018】
ステップS3で受信器41及び42の各受信レベルL1及びL2をそれぞれ検出し、ステップS4で受信レベルを比較し、L1>L2であるかを判断し、L1>L2でなければステップS5でその時受信器42に接続されているm′段目のn′番を、受信器41が接続されるべき添字番号とし、L1>L2であればそのままとする。
ステップS6でn′がN以下であるかを判断し、N以下であればステップS7でn′を+1してステップS2に戻り、N以下でなければステップS8でn′を1とする。
【0019】
次にステップS9でm′がM以下であるかを判断し、M以下であればステップS10でm′を+1し、M以下でなければステップS11でm′を1にする。その後ステップS2に戻る。つまり受信器42にはアンテナ素子1mnを順次接続することを繰り返すように切替器30を制御し、その各1つのアンテナ素子が受信器42に切替接続されるごとに受信器41の受信レベルL1と受信器42の受信レベルL2を比較し、L1>L2でなければ、その時、受信器42が接続されているアンテナ素子、つまり受信器42に接続されている添字番号「m′n′」の固定接点と接続されているアンテナ素子を受信器41に接続するように切替器20を制御する。
【0020】
このようにして到来電波がいずれの方向であっても、必ず空間ダイバーシチ効果が得られ、フェージングの影響が最も抑圧されたアンテナ素子1mnの受信信号を受信器41へ入力することができる。切替器30における切替の順は上記例に限らず、任意でよいが、必ず予め決めた順に繰り返せばよい。またアンテナ素子群は1段のみでもよい。
受信器41及び42からベースバンド信号に変換された出力信号は図1に示すようにこの例ではA/D変換器61及び62によりそれぞれディジタル信号に変換され、これらディジタル信号からレベル検出部51及び52でそれぞれ受信レベルが検出される。このレベル検出は例えば入力された信号をFFT(フーリエ高速変換)してパワースペクトラムを求め、これらのうち変調信号成分についての各パワーをそれぞれ受信レベルとする。あるいは図1中の破線で示すように、受信器41及び42の高周波段又は中間周波段のいずれの箇所にレベル検出部51及び52を接続して受信レベルを検出してもよい。図5に示したように前段高周波増幅器56が用いられる場合は、図1中の受信器41及び42の入力側にレベル検出部51及び52を接続してもよい。アンテナ10に受信される雑音成分の影響をなるべく少なくする場合は、ベースバンド信号成分のパワーを受信レベルとする方がよい。
広い周波数帯中における各種の電波のいずれも受信する場合には、その広い周波数帯を適宜いくつか周波数帯に分割し、各分割された周波数帯に適するアンテナ素子群を用意し、これらを多段に設け切替え使用すればよい。
【0021】
実験例
5個のアンテナ素子を半径R=7mの円上に配したアンテナ10をこの発明を適用した全方位空間ダイバーシチ受信装置に用いて、東京タワー(北緯35°39′19.41″、東経139°44′55.09″)から送信されているNHKFM放送(82.5MHz)を2個所A及びB(北緯35°37′25.07″、東経139°45′02.71″と北緯35°39′46.86″、東経139°47′43.85″)で受信し、両受信装置の電波の到達時間の差を、両受信装置間のアンテナ素子の組み合わせの全て(25通り)について測定した。アンテナ10は高さ15m及び20.5mの建物の屋上に高さ2.7mに設置した。なお送信局と両受信局間の各距離は3.52km及び4.33kmである。アンテナ素子により平均受信レベルの変動が場所Aでは約11dB、場所Bでは約5dBあり、マルチパスの影響が顕著に現れることが確認された。場所Aと場所Bの平均受信レベルが小さいアンテナ素子の組み合わせによる電波到達時間差は誤差が大きく、最大値は4.5μs(場所AB間の理論到達時間差270μs)、場所Aと場所Bでの平均受信レベルが大きいアンテナ素子の組み合わせによる電波到達時間差は小さく、最小値は0.5μsであった。これよりこの発明装置が優れていることを確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】この発明の実施形態の機能構成例を示すブロック図。
【図2】Aは図1中のアンテナ10のアンテナ素子配置例を示す図、Bは各アンテナ素子の座標を示す図である。
【図3】アンテナ素子が5個の場合における多重到来方向に対するアンテナ間隔dH を示す図。
【図4】図1中のアンテナ10としてアンテナ素子群を多段配置した例を示す図。
【図5】図1中の切替器20及び30の具体例を示す図。
【図6】図1中の切替制御器54の処理手順の例を示す流れ図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3個以上のアンテナ素子が少なくとも水平面内で2次元に配置されたアンテナと、
第1及び第2受信器と、
第1及び第2受信器の各受信レベルを検出する第1及び第2レベル検出部と、
第1及び第2レベル検出部の各検出した受信レベルのいずれが大きいか否かを判定する比較部と、
上記各アンテナ素子と上記第1受信器とを切替え接続することができる第1切替器と、
上記各アンテナ素子と上記第2受信器とを切替え接続することができる第2切替器と、
上記第2切替器を順次切替え接続することを繰り返し、上記比較部が第2受信器の受信レベルが第2受信器の受信レベル以上と判定した出力によりその時第2受信器に接続されているアンテナ素子を第1受信器に接続する切替制御器と、
を具備する全方位空間ダイバーシチ受信装置。
【請求項2】
上記アンテナは、いずれか2個のアンテナ素子の組の相互相関がいずれの方位からの到来電波に対しても所定値以下になるようにアンテナ素子が配置されていることを特徴とする請求項1記載の全方位空間ダイバーシチ受信装置。
【請求項3】
上記アンテナは水平面内で2次元に配された3個以上のアンテナ素子が垂直面内で多段に配されていることを特徴とする請求項1又は2記載の全方位空間ダイバーシチ受信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−121525(P2006−121525A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−308677(P2004−308677)
【出願日】平成16年10月22日(2004.10.22)
【出願人】(000001177)株式会社光電製作所 (32)
【Fターム(参考)】