説明

加工装置のアイドリング方法

【課題】 加工水を節約可能な加工装置のアイドリング方法を提供することである。
【解決手段】 被加工物を保持するチャックテーブルと、該チャックテーブルに保持された被加工物に加工水を供給しながら加工を施す加工手段とを備えた加工装置のアイドリング方法であって、加工水を間欠的に供給しながらアイドリングを遂行する。好ましくは、間欠的に供給される加工水は10秒の間に1〜2秒供給される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、稼動開始時にアイドリング運転を実施する切削装置、研削装置等の加工装置のアイドリング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
IC、LSI等のデバイスが格子状に形成された分割予定ラインによって区画されて表面に多数形成された半導体ウエーハは、切削装置によって分割予定ラインが切削されて個々のデバイスに分割され、分割されたデバイスは携帯電話、パソコン等の電気機器に利用される。
【0003】
切削装置は、半導体ウエーハ等の被加工物を保持するチャックテーブルと、該チャックテーブルに保持された被加工物を切削する切削ブレードを回転可能に支持するとともに切削水を供給する切削手段とを少なくとも備えていて、幅50μm程の極めて狭い分割予定ラインを高精度に切削することができる。
【0004】
しかし、長時間(例えば十数時間)稼動を停止した後に切削装置を再稼動すると、切削手段を構成するスピンドル及びモータ等の発熱によりスピンドルが割り出し方向に伸びるとともに、供給される切削水の冷却効果と相まってスピンドルの伸びが止まることから、切削水を供給しながらアイドリング運転をしなければならず、純水からなる切削水が不経済に使用されるという問題がある。
【0005】
特開平11−114949号公報は、複数の切削水供給ノズル及び洗浄水噴射ノズルを有する切削装置において、一部のノズルから切削水又は洗浄水を供給しながら所定時間アイドリング運転をする切削装置のアイドリング方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−114949号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示された切削装置のアイドリング方法では、複数のノズルのうち一部のノズルから切削水や洗浄水を供給するか、又は各ノズルから供給される切削水の量を少なくしてアイドリング運転をしているため、節水効果は十分あると考えられるが、制御が複雑になるという問題がある。
【0008】
再稼動時にアイドリング運転を行うのは切削装置に限られるものではなく、ウエーハの裏面を研削する研削装置においても研削水を供給しながら所定時間アイドリング運転を行わなければならず、純水からなる研削水が不経済に使用されるという問題がある。
【0009】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、切削水、研削水等の加工水の使用を節約可能な加工装置のアイドリング方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1記載の発明によると、被加工物を保持するチャックテーブルと、該チャックテーブルに保持された被加工物に加工水を供給しながら加工を施す加工手段とを備えた加工装置のアイドリング方法であって、加工水を間欠的に供給しながらアイドリングを遂行することを特徴とする加工装置のアイドリング方法が提供される。
【0011】
請求項3記載の発明によると、被加工物を保持するチャックテーブルと、該チャックテーブルに保持された被加工物に加工水を供給しながら加工を施す加工手段とを備えた加工装置であって、加工水を間欠的に供給する加工水間欠供給手段を具備し、加工装置をアイドリング運転する際に該加工水間欠供給手段が作動することを特徴とする加工装置が提供される。
【0012】
好ましくは、間欠的に供給される加工水は、10秒の間に1〜2秒供給される。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、切削水、研削水等の加工水の冷却効果は加工水自体の温度に依存する部分と、気化熱に依存する部分とがあり、実質的に気化熱に依存する部分が大半であることに着目してなされたものであり、本発明に係るアイドリング方法及び加工装置において、加工水間欠供給手段によって間欠的に加工水を供給してアイドリングを遂行することで、アイドリング中に使用される加工水を1/5〜1/10に節約できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明が適用可能な切削装置の外観斜視図である。
【図2】切削手段(切削ユニット)の斜視図である。
【図3】アイドリング運転のフローチャートである。
【図4】本発明が適用可能な研削装置の外観斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して詳細に説明する。図1は本発明のアイドリング方法を適用可能な、半導体ウエーハをダイシングして個々のチップ(デバイス)に分割することのできる切削装置2の外観を示している。
【0016】
切削装置2の前面側には、オペレータが加工条件等の装置に対する指示を入力するための操作手段4が設けられている。装置上部には、オペレータに対する案内画面や後述する撮像手段によって撮像された画像が表示されるCRT等の表示手段6が設けられている。
【0017】
ウエーハWは粘着テープであるダイシングテープTに貼着され、ダイシングテープTの外周縁部は環状フレームFに貼着されている。これにより、ウエーハWはダイシングテープTを介してフレームFに支持された状態となり、図1に示したウエーハカセット8中にウエーハが複数枚(例えば25枚)収容される。ウエーハカセット8は上下動可能なカセットエレベータ9上に載置される。
【0018】
ウエーハカセット8の後方には、ウエーハカセット8から切削前のウエーハWを搬出するとともに、切削後のウエーハをウエーハカセット8に搬入する搬出入手段10が配設されている。ウエーハカセット8と搬出入手段10との間には、搬出入対象のウエーハが一時的に載置される領域である仮置き領域12が設けられており、仮置き領域12には、ウエーハWを一定の位置に位置合わせする位置合わせ手段14が配設されている。
【0019】
仮置き領域12の近傍には、ウエーハWと一体となったフレームFを吸着して搬送する旋回アームを有する搬送手段16が配設されており、仮置き領域12に搬出されたウエーハWは、搬送手段16により吸着されてチャックテーブル18上に搬送され、このチャックテーブル18に吸引されるとともに、複数の固定手段19によりフレームFが固定されることでチャックテーブル18上に保持される。
【0020】
チャックテーブル18は、回転可能且つX軸方向に往復動可能に構成されており、チャックテーブル18のX軸方向の移動経路の上方には、ウエーハWの切削すべきストリートを検出するアライメント手段20が配設されている。
【0021】
アライメント手段20は、ウエーハWの表面を撮像する撮像手段22を備えており、撮像により取得した画像に基づき、パターンマッチング等の処理によって切削すべきストリートを検出することができる。撮像手段22によって取得された画像は、表示手段6に表示される。
【0022】
アライメント手段20の左側には、チャックテーブル18に保持されたウエーハWに対して切削加工を施す切削手段(切削ユニット)24が配設されている。切削手段24はアライメント手段20と一体的に構成されており、両者が連動してY軸方向及びZ軸方向に移動する。
【0023】
切削手段24は、回転可能なスピンドル26の先端に切削ブレード28が装着されて構成され、Y軸方向及びZ軸方向に移動可能となっている。切削ブレード28は撮像手段22のX軸方向の延長線上に位置している。
【0024】
図2を参照すると、切削手段24はスピンドルユニット30を備えており、スピンドルユニット30のスピンドルハウジング32中には、図示しないサーボモータにより回転駆動されるスピンドル26が回転可能に収容されている。スピンドル26の先端部には図示しないフランジマウントが固定されており、このフランジマウントに切削ブレード28が装着されている。
【0025】
34は切削ブレード28をカバーするブレードカバーであり、このブレードカバー34には切削ブレード28の側面にそって伸長する図示しない切削水供給ノズルが取り付けられている。
【0026】
ブレードカバー34に取り付けられたパイプ46は、管路52及び開閉バルブ54を介して加工水を供給する切削水源56に接続されており、開閉バルブ54を開くことにより、加工水即ち切削水がパイプ52を介して図示しない切削水供給ノズルに供給される。53は加工水間欠供給手段であり、開閉バルブ54と、切削水源56と、開閉バルブ54を間欠的に開く間欠制御部55とを含んでいる。
【0027】
36は着脱カバーであり、ねじ38によりブレードカバー34に取り付けられる。着脱カバー36は、ブレードカバー34に取り付けられた際、切削ブレード28の側面に沿って伸長する切削水供給ノズル44を有している。
【0028】
着脱カバー36に取り付けられたパイプ48は、管路52及び開閉バルブ54を介して切削水源56に接続されている。開閉バルブ54は例えば電磁バルブから構成され、電気信号によりその開閉タイミングを自由に制御できるようになっている。
【0029】
40はブレード検出ブロックであり、ねじ42によりブレードカバー34に取り付けられている。ブレード検出ブロック40には発光部及び受光部からなる図示しないブレードセンサが取り付けられており、このブレードセンサにより切削ブレード28の切刃の状態を検出する。
【0030】
ブレードセンサにより切刃の欠け又は所定以上の磨耗を検出した場合には、切削ブレード28を新たな切削ブレードに交換する。50はブレードセンサの位置を調整するための調整ねじである。
【0031】
以下、本発明実施形態に係る切削装置2のアイドリング方法について説明する。切削装置2の稼動を停止した後、長時間経過してから再稼動するような場合、例えば工場に設置されている切削装置2を夜間に停止した後、翌朝に再稼動するような場合には、実際の切削に先立って、例えば30分〜1時間程度負荷を掛けずにスピンドルを回転させるアイドリング運転が行われるが、熱ひずみの影響を完全に除去するためには、このアイドリング運転は実際の切削時と同様の環境で行う必要がある。
【0032】
よって、本実施形態では、切削ブレード28を実際の切削時と同様に高速で回転させながら、間欠制御部55により開閉バルブ54を間欠的に開いて、例えば10秒の間に1〜2秒開いて切削水供給ノズル44から切削ブレード28に間欠的に切削水を供給する。間欠的に供給された切削水は気化熱により切削ブレード28を冷却するので、連続的に切削ブレード28に切削水を供給する場合と比較して、冷却効果の点では大差がない。
【0033】
切削水の冷却効果は切削水の温度に依存する部分と、切削水の気化熱に依存する部分とがあるが、実質的には気化熱に依存する部分が大きな比重を占めるので、このように間欠的に切削水を供給してアイドリング運転をしても、実際の切削時と同様な環境を維持することができる。
【0034】
図3のフローチャートを参照して、本実施形態のアイドリング運転方法を更に説明する。ステップS10でアイドリング運転が開始されると、ステップS11へ進んで開閉バルブ54の間欠作動を開始する。開閉バルブ54の間欠作動は、上述したように10秒の間に1〜2秒開閉バルブ54を開く作動である。
【0035】
ステップS12で予め定めたアイドリング終了時間に達したか否かを判断し、達していない場合にはステップS11の開閉バルブ54の間欠作動を繰り返す。予め定めたアイドリング終了時間は、例えば30分〜1時間の間の最適な時間に設定する。ステップS12でアイドリング終了時間に達したと判断されたならば、ステップS13に進んでアイドリング運転を終了する。
【0036】
このように本実施形態では、例えば10秒の間に1〜2秒間だけ切削水を間欠的に供給しながらアイドリング運転を行うので、純水から構成される切削水を従来の1/5〜1/10に節約することができる。
【0037】
本発明のアイドリング方法は、図1に示した切削装置2のアイドリング運転ばかりでなく、図4に示すような研削装置のアイドリング運転にも同様に適用可能である。以下、図4を参照して、研削装置62の構成について説明する。
【0038】
64は研削装置62のハウジングであり、ハウジング64の後方にはコラム66が立設されている。コラム66には、上下方向に伸びる一対のガイドレール68が固定されている。
【0039】
この一対のガイドレール68に沿って研削ユニット(研削手段)70が上下方向に移動可能に装着されている。研削ユニット70は、ハウジング72と、ハウジング72を保持する支持部74を有しており、支持部74が一対のガイドレール68に沿って上下方向に移動する移動基台76に取り付けられている。
【0040】
研削ユニット70はハウジング72中に回転可能に収容されたスピンドル78と、スピンドル78の先端に固定されたマウンタ80と、マウンタ80にねじ締結され環状に配設された複数の研削砥石を有する研削ホイール82と、スピンドル78を回転駆動するサーボモータ86とを含んでいる。
【0041】
研削装置62は、研削ユニット70を一対の案内レール68に沿って上下方向に移動するボール螺子88とパルスモータ90とから構成される研削ユニット移動機構92を備えている。パルスモータ90をパルス駆動すると、ボール螺子88が回転し、移動基台76が上下方向に移動される。
【0042】
ハウジング64の上面には凹部64aが形成されており、この凹部64aにチャックテーブル機構94が配設されている。チャックテーブル機構94はチャックテーブル96を有し、図示しない移動機構により図3に示されたウエーハ着脱位置Aと、研削ユニット70に対向する研削位置Bとの間でY軸方向に移動される。98,100は蛇腹である。ハウジング64の前方側には、研削装置62のオペレータが研削条件等を入力する操作パネル102が配設されている。
【0043】
研削ユニット70は、管路104及び開閉バルブ106を介して加工水を供給する研削水源108に接続されている。加工水供給手段105は、開閉バルブ106と、研削水源108と、開閉バルブ106を間欠的に作動する間欠制御部107を含んでいる。
【0044】
ウエーハの裏面研削時には、開閉バルブ106を開いて研削ホイール82に加工水即ち研削水を供給しながら研削を遂行する。開閉バルブ106は例えば電磁バルブから構成されており、電気信号によりその開閉タイミングを自由に制御することができる。
【0045】
研削装置62の稼動を長時間停止した後に研削装置62を再稼動する場合には、切削装置と同様にアイドリング運転をする必要がある。本実施形態では、スピンドル78を高速(例えば6000rpm)で回転させながら、間欠制御部107の制御の下に開閉バルブ106を間欠的に開き、例えば10秒の間に1〜2秒開くようにして研削ホイール82に間欠的に研削水を供給してアイドリング運転を実施する。
【0046】
冷却効果は研削水の気化熱に依存する部分が大きな比重を占めるため、このように研削水を間欠的に供給しながらアイドリング運転しても、実際の研削時と同様の環境を維持してアイドリング運転を遂行することができる。このように研削水を間欠的に供給しながらアイドリング運転を行うため、本実施形態では純水からなる研削水を1/5〜1/10に節約することができる。
【符号の説明】
【0047】
2 切削装置
18 チャックテーブル
24 切削手段(切削ユニット)
26 スピンドル
28 切削ブレード
44 切削水供給ノズル
53 加工水間欠供給手段
54 開閉バルブ
55 間欠制御部
56 切削水源
62 研削装置
82 研削ホイール
105 加工水間欠供給手段
106 開閉バルブ
107 間欠制御部
108 研削水源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物を保持するチャックテーブルと、該チャックテーブルに保持された被加工物に加工水を供給しながら加工を施す加工手段とを備えた加工装置のアイドリング方法であって、
加工水を間欠的に供給しながらアイドリングを遂行することを特徴とする加工装置のアイドリング方法。
【請求項2】
間欠的に供給される加工水は、10秒の間に1〜2秒供給される請求項1記載の加工装置のアイドリング方法。
【請求項3】
被加工物を保持するチャックテーブルと、該チャックテーブルに保持された被加工物に加工水を供給しながら加工を施す加工手段とを備えた加工装置であって、
加工水を間欠的に供給する加工水間欠供給手段を具備し、
加工装置をアイドリング運転する際に該加工水間欠供給手段が作動することを特徴とする加工装置。
【請求項4】
加工水は、10秒の間に1〜2秒の割合で間欠的に供給される請求項3記載の加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−158760(P2010−158760A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−235500(P2009−235500)
【出願日】平成21年10月9日(2009.10.9)
【出願人】(000134051)株式会社ディスコ (2,397)
【Fターム(参考)】