説明

半導体用フィルムおよび半導体装置の製造方法

【課題】ダイシング性およびピックアップ性の向上を図り、半導体素子における不具合の発生を防止しつつ、信頼性の高い半導体装置を製造可能な半導体用フィルム、およびかかる半導体用フィルムを用いた半導体装置の製造方法を提供すること。
【解決手段】半導体用フィルム10は、接着層3の上面に半導体ウエハー7を積層させ、半導体ウエハー7をダイシングにより個片化する際に半導体ウエハー7を支持するとともに、個片化された半導体ウエハー7(半導体素子71)をピックアップする際に、第1粘着層1と接着層3との間が選択的に剥離する機能を有するものである。そして、この半導体用フィルム10は、接着層3の表面近傍に存在するフィラー単体または凝集体を、接着層3の表面に投影した投影像について、粒径5μm以上のものが占める面積が、投影像全体の15%以下であるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体用フィルムおよび半導体装置の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の電子機器の高機能化とモバイル用途への拡大に対応して半導体装置の高密度化、高集積化の要求が強まり、ICパッケージの大容量高密度化が進んでいる。
【0003】
これらの半導体装置の製造方法においては、まず、ケイ素、ガリウム、ヒ素などからなる半導体ウエハーに接着シートを貼付し、半導体ウエハーの周囲をウエハーリングで固定しながらダイシング工程で前記半導体ウエハーを個々の半導体素子に切断分離(個片化)する。次いで、個片化した個々の半導体素子同士を引き離すエキスパンディング工程と、個片化した半導体素子をピックアップするピックアップ工程とを行う。その後、ピックアップした半導体素子を金属リードフレームまたは基板(例えばテープ基板、有機硬質基板等)に搭載するためのダイボンディング工程へ移送する。これにより、半導体装置が得られる。
【0004】
また、ダイボンディング工程では、ピックアップした半導体素子を、他の半導体素子上に積層することにより、1つのパッケージ内に複数の半導体素子を搭載したチップスタック型の半導体装置を得ることもできる。
【0005】
このような半導体装置の製造方法において用いられる接着シートとしては、基材フィルム上に第1の粘接着剤層と第2の粘接着剤層とをこの順で積層してなるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
この接着シートは、半導体ウエハーに貼り付けられた状態で前述したダイシング工程に供される。ダイシング工程では、ダイシングブレードの先端が基材フィルムに到達するように切り込みを設けることで、半導体ウエハーと2層の粘接着剤層とが複数の部分に個片化される。そして、ピックアップ工程では、基材フィルムと2層の粘接着剤層との界面で剥離が生じ、個片化された半導体素子が、個片化された2層の粘接着剤層とともにピックアップされる。ピックアップされた2層の粘接着剤層は、ダイボンディング工程において、個片化された半導体素子と金属リードフレーム(または基板)との間の接着を担うこととなる。
【0007】
しかしながら、半導体装置の製造にあたっては、優れたピックアップ性、すなわちピックアップ工程において半導体素子に割れや欠け等の不具合を発生させることなく、剥離すべき界面(特許文献1の場合、基材フィルムと2層の粘接着剤層との界面)で容易かつ確実に剥離を生じさせる特性が求められるが、従来の方法ではそれが十分ではないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−43761号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
また、粘接着剤層にはフィラーが添加される場合がある。
このフィラーとしては一般的に粒子状物が用いられるが、フィラーを添加したことにより、粘接着剤層の表面ではフィラーの一部が突出することが避けられない。このため、粘接着剤層の表面にはフィラーの形状が反映されることとなり、多数の凹凸が生じる。
【0010】
また、フィラーは、粒子状物単体が単独で存在する場合だけでなく、複数の粒子状物単体が凝集してなる凝集体の状態でも存在し得る。このため、フィラーには、粒径の大きな凝集体も含まれることとなり、凝集の程度によっては、粘接着剤層の表面にはより著しい凹凸が生じるおそれもある。
【0011】
その結果、第1の粘接着剤層と第2の粘接着剤層との間には、部分的に、前記著しい凹凸に伴う大きな隙間や密着力の著しく小さい領域が生じることとなる。
【0012】
このような状態では、ダイシング工程において、前記大きな隙間がその周囲に進展してしまい、半導体ウエハーが脱離してしまうおそれがある。
【0013】
また、ピックアップ工程においては、個片化された半導体素子を吸着して、第2の粘接着剤層とともに第1の粘接着剤層から剥離する際に、隙間がある個所とそうでない個所との間で密着力が大きく異なることとなる。すなわち、密着力に大きなバラつきが生じる。
【0014】
ここで、半導体素子と第2の粘接着剤層の個片を第1の粘接着剤層から剥離する際には、接着界面の全体が同時的に剥離するのではなく、まず一部が剥離し、その後全体に進展するようにして全体の剥離が完了する。このため、剥離の開始から終了に至るまでの一定時間、半導体素子に対しては継続的に引っ張り荷重が加わることとなる。
【0015】
ところが、前述したように、第2の粘接着剤層と第1の粘接着剤層との間に、所々、大きな隙間を含んでいる場合、隙間がある個所を剥離させる際に半導体素子に加わる引っ張り荷重と、隙間がない箇所を剥離させる際に半導体素子に加わる引っ張り荷重との間には、大きな差が生じることとなる。その結果、半導体素子には、前記大きな差に伴って周期的または不定期に著しい変形が生じ、半導体素子に割れや欠け等の不具合が生じるおそれがある。
【0016】
本発明の目的は、ダイシング性およびピックアップ性の向上を図り、半導体素子における不具合の発生を防止しつつ、信頼性の高い半導体装置を製造可能な半導体用フィルム、およびかかる半導体用フィルムを用いた半導体装置の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
このような目的は、下記(1)〜(16)の本発明により達成される。
(1) 粒子状のフィラーを含む接着層と少なくとも1層の粘着層と支持フィルムとがこの順で積層されてなり、前記接着層の前記粘着層と反対側の面に半導体ウエハーを積層させ、この状態で該半導体ウエハーおよび前記接着層を切断してそれぞれ個片化し、得られた個片を前記支持フィルムからピックアップする際に用いる半導体用フィルムであって、
前記接着層の表面近傍に存在する前記フィラー単体または複数の前記フィラーが凝集してなる凝集体の前記表面に投影した投影像について、粒径5μm以上のものが占める面積が、前記投影像全体の15%以下であることを特徴とする半導体用フィルム。
【0018】
(2) 前記粒径は、前記接着層の表面の走査型電子顕微鏡による観察像において、前記観察像の濃度を2値化することにより、前記観察像を構成する全画素を明画素と暗画素とに区別したとき、前記フィラーに対応する領域の外径に相当するものである上記(1)に記載の半導体用フィルム。
【0019】
(3) 前記フィラー単体または複数の前記フィラーが凝集してなる凝集体のうち、5μm以上のものの平均粒径は、5〜15μmである上記(1)または(2)に記載の半導体用フィルム。
【0020】
(4) 前記フィラーの構成材料は、セラミックス材料である上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の半導体用フィルム。
【0021】
(5) 前記接着層の表面の表面粗さRaは、2μm以下である上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の半導体用フィルム。
【0022】
(6) 前記個片を前記粘着層から剥離させる際に測定される密着力は、0.1〜0.5(N/cm)の範囲内にある上記(1)ないし(5)のいずれかに記載の半導体用フィルム。
【0023】
(7) 前記接着層の外周縁は、前記粘着層の外周縁よりも内側に位置している上記(1)ないし(6)のいずれかに記載の半導体用フィルム。
【0024】
(8) 前記粘着層の前記接着層側の面の前記半導体ウエハーを積層させる領域に、前記半導体ウエハーとの積層に先立ってあらかじめ紫外線が照射されている上記(1)ないし(7)のいずれかに記載の半導体用フィルム。
【0025】
(9) 前記粘着層は、複数の層で構成されている上記(1)ないし(8)のいずれかに記載の半導体用フィルム。
【0026】
(10) 前記複数の層は、前記半導体ウエハー側に位置する第1粘着層と、この第1粘着層の前記支持フィルム側に隣接し、前記第1粘着層よりも粘着性の大きい第2粘着層とを含んでいる上記(9)に記載の半導体用フィルム。
【0027】
(11) 前記接着層の外周縁および前記第1粘着層の外周縁は、それぞれ、前記第2粘着層の外周縁よりも内側に位置している上記(10)に記載の半導体用フィルム。
【0028】
(12) 前記第2粘着層の硬度は、前記第1粘着層の硬度より小さい上記(10)または(11)に記載の半導体用フィルム。
【0029】
(13) 前記第1粘着層のショアD硬度は、20〜60である上記(10)ないし(12)のいずれかに記載の半導体用フィルム。
【0030】
(14) 前記接着層と半導体ウエハーとが接するように、上記(1)ないし(13)のいずれかに記載の半導体用フィルムと半導体ウエハーとを積層し、積層体を得る第1の工程と、
前記半導体ウエハー側から前記積層体に切り込みを設けることにより、前記半導体ウエハーを個片化し、複数の半導体素子を得る第2の工程と、
前記半導体素子をピックアップする第3の工程とを有することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【0031】
(15) 前記切り込みは、その最深部が、前記粘着層内に位置するように設けられる上記(14)に記載の半導体装置の製造方法。
【0032】
(16) 前記接着層は、ビーズミルを用いて原料を撹拌・混練してなる組成物を、基材上に成膜して形成されたものであり、
前記組成物の樹脂ワニスの粘度は、100〜3000mPa・sである上記(14)または(15)に記載の半導体装置の製造方法。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、接着層と粘着層との間に著しい隙間が含まれないよう構成されているため、半導体ウエハーをダイシングする際に、半導体ウエハーが脱離してしまうのを防止し得る半導体用フィルムが得られる。また、半導体素子をピックアップする際に、引っ張り荷重のバラつきに伴って生じる半導体素子の割れや欠け等の不具合を確実に抑制し得る半導体用フィルムが得られる。このような半導体用フィルムを用いることにより、半導体装置の製造歩留まりが向上するとともに、信頼性の高い半導体装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の半導体用フィルムおよび本発明の半導体装置の製造方法の第1実施形態を説明するための図(縦断面図)である。
【図2】本発明の半導体用フィルムおよび本発明の半導体装置の製造方法の第1実施形態を説明するための図(縦断面図)である。
【図3】本発明の半導体用フィルムを製造する方法を説明するための図である。
【図4】本発明の半導体用フィルムおよび本発明の半導体装置の製造方法の第2実施形態を説明するための図(縦断面図)である。
【図5】実施例1で得られた接着層の表面に対する観察像と、比較例1で得られた接着層の表面に対する観察像である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の半導体用フィルムおよび半導体装置の製造方法について添付図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0036】
<第1実施形態>
まず、本発明の半導体用フィルムおよび本発明の半導体装置の製造方法の第1実施形態について説明する。
【0037】
図1および図2は、本発明の半導体用フィルムおよび本発明の半導体装置の製造方法の第1実施形態を説明するための図(縦断面図)、図3は、本発明の半導体用フィルムを製造する方法を説明するための図である。なお、以下の説明では、図1ないし図3中の上側を「上」、下側を「下」という。
【0038】
[半導体用フィルム]
図1に示す半導体用フィルム10は、支持フィルム4と、第1粘着層1と、第2粘着層2と、接着層3とを有している。より詳しくは、半導体用フィルム10は、支持フィルム4上に、第2粘着層2と、第1粘着層1と、接着層3とをこの順で積層してなるものである。
【0039】
このような半導体用フィルム10は、図1(a)に示すように、接着層3の上面に半導体ウエハー7を積層させ、半導体ウエハー7をダイシングにより個片化する際に半導体ウエハー7を支持するとともに、個片化された半導体ウエハー7(半導体素子71)をピックアップする際に、第1粘着層1と接着層3との間が選択的に剥離することにより、ピックアップした半導体素子71を絶縁基板5上に接着するための接着層31を提供する機能を有するものである。すなわち、半導体ウエハー7および接着層3をそれぞれ個片化し、半導体素子71と接着層31とを積層してなる個片83をピックアップするのに半導体用フィルム10が用いられる。
【0040】
また、支持フィルム4の外周部41および第2粘着層2の外周部21は、それぞれ第1粘着層1の外周縁11を越えて外側に存在している。
【0041】
このうち、外周部21には、ウエハーリング9が貼り付けられる。これにより、半導体ウエハー7が確実に支持されることとなる。
【0042】
ところで、半導体ウエハー7をダイシングにより個片化する際には、半導体用フィルム10の各層の界面が確実に密着している必要があるが、従来の半導体用フィルムには、各層の界面に大きな隙間があったため、ダイシングの過程で半導体ウエハーおよび接着層が脱離してしまうことがあった。
【0043】
また、個片化された半導体ウエハー7(半導体素子71)をピックアップする際には、第1粘着層1と接着層3との密着力を上回る荷重で半導体素子71を引っ張る必要があるが、従来の半導体用フィルムでは、第1粘着層と接着層との界面が剥離する際に、半導体素子に加わる引っ張り荷重が大きい領域と小さい領域との差が大きかった。このため、ピックアップ性が低下し、ピックアップの際に半導体素子に割れや欠け等の不具合が生じるおそれがあった。
【0044】
かかる問題点に関し、本発明者は、半導体素子に対する不具合の発生を防止しつつ、良好なダイシングおよびピックアップを可能にする条件について鋭意検討を重ねた。そして、前述した引っ張り荷重の差は、第1粘着層1と接着層3との間の所々に含まれた隙間や密着力が著しく小さい領域によるものであることを見出した。さらに、フィラーを含んだ接着層3において、その表面近傍に存在するフィラー単体または複数のフィラーが凝集してなる凝集体(以下、省略して「凝集体」と言う。)の表面に投影した投影像について、粒径5μm以上のものが占める面積が、投影像全体の15%以下になるよう制御することが、前記目的を達成する上で有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0045】
このような半導体用フィルム10によれば、接着層3の表面から突出したフィラーの粒径が比較的小さくかつ狭い粒度範囲に制御されているため、このようなフィラーの突出に伴って接着層3と第1粘着層1との間に生じる隙間の径および厚さも、比較的小さくかつ狭い粒度範囲に制御されたものとなる。したがって、仮に接着層3と第1粘着層1との間に隙間が生じたとしても、ダイシングの際に半導体ウエハー7が脱離してしまうのを防止することができる。
【0046】
また、接着層3と第1粘着層1との間に生じる隙間の径および厚さが制御された結果、ピックアップの際に半導体素子71に加わる引っ張り荷重のバラつきが小さく抑えられる。その結果、ピックアップ性が向上し、ピックアップの際に半導体素子71に割れや欠け等の不具合が生じるのを防止することができる。このような半導体用フィルム10を用いることにより、半導体装置100の製造歩留まりが向上するとともに、最終的に信頼性の高い半導体装置100を得ることができる。なお、上記の特徴については、後に詳述する。
【0047】
以下、まず、半導体用フィルム10の各部の構成について順次詳述する。
(第1粘着層)
第1粘着層1は、一般的な粘着剤で構成されている。具体的には、第1粘着層1は、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤等を含む第1樹脂組成物で構成されている。
【0048】
アクリル系粘着剤としては、例えば(メタ)アクリル酸およびそれらのエステルで構成される樹脂、(メタ)アクリル酸およびそれらのエステルと、それらと共重合可能な不飽和単量体(例えば酢酸ビニル、スチレン、アクリルニトリル等)との共重合体等が挙げられる。また、これらの樹脂を2種類以上混合してもよい。
【0049】
また、これらの中でも(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチルヘキシルおよび(メタ)アクリル酸ブチルからなる群から選ばれる1種以上と、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルおよび酢酸ビニルの中から選ばれる1種以上との共重合体が好ましい。これにより、第1粘着層1が粘着する相手(被着体)との密着性や粘着性の制御が容易になる。
【0050】
また、第1樹脂組成物には、粘着性(接着性)を制御するためにウレタンアクリレート、アクリレートモノマー、多価イソシアネート化合物(例えば、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート)等のイソシアネート化合物等のモノマーおよびオリゴマーを添加してもよい。
【0051】
さらに、第1樹脂組成物には、第1粘着層1を紫外線等により硬化させる場合、光重合開始剤としてメトキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフエノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)−フェニル]−2−モルホリノプロパン−1等のアセトフェノン系化合物、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾイン系化合物、ベンゾインイソブチルエーテル系化合物、ベンゾイン安息香酸メチル系化合物、ベンゾイン安息香酸系化合物、ベンゾインメチルエーテル系化合物、ベンジルフィニルサルファイド系化合物、ベンジル系化合物、ジベンジル系化合物、ジアセチル系化合物等を添加してもよい。
【0052】
また、接着強度およびシェア強度を高める目的で、ロジン樹脂、テルペン樹脂、クマロン樹脂、フェノール樹脂、スチレン樹脂、脂肪族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、脂肪族芳香族系石油樹脂等の粘着付与材等を添加してもよい。
【0053】
このような第1粘着層1の平均厚さは、特に限定されないが、1〜100μm程度であるのが好ましく、特に3〜50μm程度であるのがより好ましい。厚さが前記下限値未満であると十分な粘着力を確保するのが難しくなる場合があり、前記上限値を超えてもあまり特性に影響が無く、利点も得られない。厚さが前記範囲内であると、特に、ダイシング時に剥離せず、ピックアップ時には引っ張り荷重に伴って比較的容易に剥離可能になることから、ダイシング性、ピックアップ性に優れた第1粘着層1が得られる。
【0054】
(第2粘着層)
第2粘着層2は、前述した第1粘着層1よりも粘着性が高いものである。これにより、第1粘着層1と接着層3との間よりも、第2粘着層2とウエハーリング9との間が強固に粘着することとなり、第2の工程においては、半導体ウエハー7をダイシングして個片化する際に、第2粘着層2とウエハーリング9との間が確実に固定されることとなる。その結果、半導体ウエハー7の位置ずれが確実に防止され、半導体素子71の寸法精度の低下を防止することができる。
【0055】
第2粘着層2には、前述した第1粘着層1と同様のものを用いることができる。具体的には、第2粘着層2は、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤等を含む第2樹脂組成物で構成されている。
【0056】
アクリル系粘着剤としては、例えば(メタ)アクリル酸およびそれらのエステルで構成される樹脂、(メタ)アクリル酸およびそれらのエステルと、それらと共重合可能な不飽和単量体(例えば酢酸ビニル、スチレン、アクリルニトリル等)との共重合体等が用いられる。また、これらの共重合体を2種類以上混合してもよい。
【0057】
また、これらの中でも(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチルヘキシルおよび(メタ)アクリル酸ブチルからなる群から選ばれる1種以上と、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルおよび酢酸ビニルの中から選ばれる1種以上との共重合体が好ましい。これにより、第2粘着層2が粘着する相手(被着体)との密着性や粘着性の制御が容易になる。
【0058】
また、第2樹脂組成物には、粘着性(接着性)を制御するためにウレタンアクリレート、アクリレートモノマー、多価イソシアネート化合物(例えば、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート)等のイソシアネート化合物等のモノマーおよびオリゴマーを添加してもよい。
【0059】
さらに、第2樹脂組成物には、第1樹脂組成物と同様の光重合開始剤を添加してもよい。
【0060】
また、接着強度およびシェア強度を高める目的で、ロジン樹脂、テルペン樹脂、クマロン樹脂、フェノール樹脂、スチレン樹脂、脂肪族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、脂肪族芳香族系石油樹脂等の粘着付与材等を添加してもよい。
【0061】
このような第2粘着層2の平均厚さは、特に限定されないが、1〜100μm程度であるのが好ましく、特に3〜20μm程度であるのがより好ましい。厚さが前記下限値未満であると十分な粘着力を確保するのが困難となる場合があり、前記上限値を超えても特に優れた効果が得られない。また、第2粘着層2は、第1粘着層1によりも柔軟性が高いため、第2粘着層2の平均厚さが前記範囲内であれば、第2粘着層2の形状追従性が確保され、半導体用フィルム10の半導体ウエハー7に対する密着性をより高めることができる。
【0062】
(接着層)
接着層3は、例えば熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂とを含む第3樹脂組成物で構成されている。このような樹脂組成物は、フィルム形成能、接着性および硬化後の耐熱性に優れる。
【0063】
このうち、熱可塑性樹脂としては、例えばポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂等のポリイミド系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂等のポリアミド系樹脂、アクリル系樹脂、フェノキシ樹脂等が挙げられる。これらの中でもアクリル系樹脂が好ましい。アクリル系樹脂は、ガラス転移温度が低いため接着層3の初期密着性をより向上することができる。
【0064】
なお、アクリル系樹脂とは、アクリル酸およびその誘導体を意味し、具体的にはアクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル等のアクリル酸エステル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等のメタクリル酸エステル、アクリロニトリル、アクリルアミド等の重合体および他の単量体との共重合体等が挙げられる。
【0065】
また、アクリル系樹脂の中でもエポキシ基、水酸基、カルボキシル基、ニトリル基等の官能基を持つ化合物(共重合モノマー成分)を有するアクリル系樹脂(特に、アクリル酸エステル共重合体)が好ましい。これにより、半導体素子71等の被着体への密着性をより向上することができる。前記官能基を持つ化合物としては、具体的にはグリシジルエーテル基を持つグリシジルメタクリレート、水酸基を持つヒドロキシメタクリレート、カルボキシル基を持つカルボキシメタクリレート、ニトリル基を持つアクリロニトリル等が挙げられる。
【0066】
また、前記官能基を持つ化合物の含有量は、特に限定されないが、アクリル系樹脂全体の0.5〜40重量%程度であるのが好ましく、特に5〜30重量%程度であるのがより好ましい。含有量が前記下限値未満であると密着性を向上する効果が低下する場合があり、前記上限値を超えると粘着力が強すぎて作業性を向上する効果が低下する場合がある。
【0067】
また、熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tgは、特に限定されないが、−25〜120℃であることが好ましく、特に−20〜60℃であることがより好ましく、−10〜50℃であることがさらに好ましい。ガラス転移温度が前記下限値未満であると接着層3の粘着力が強くなり作業性が低下する場合があり、前記上限値を超えると低温接着性を向上する効果が低下する場合がある。
【0068】
また、熱可塑性樹脂(特にアクリル系樹脂)の重量平均分子量は、特に限定されないが、10万以上が好ましく、特に15万〜100万が好ましい。重量平均分子量が前記範囲内であると、特に接着層3の成膜性を向上することができる。
【0069】
一方、熱硬化性樹脂としては、例えばフェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビスフェノールAノボラック樹脂等のノボラック型フェノール樹脂、レゾールフェノール樹脂等のフェノール樹脂、ビスフェノールAエポキシ樹脂、ビスフェノールFエポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラックエポキシ樹脂、クレゾールノボラックエポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、アルキル変性トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、トリアジン核含有エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン変性フェノール型エポキシ樹脂等のエポキシ樹脂、ユリア(尿素)樹脂、メラミン樹脂等のトリアジン環を有する樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビスマレイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂、ベンゾオキサジン環を有する樹脂、シアネートエステル樹脂等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上の混合物を用いるようにしてもよい。また、これらの中でもエポキシ樹脂またはフェノール樹脂が好ましい。これらの樹脂によれば、接着層3の耐熱性および密着性をより向上することができる。
【0070】
また、熱硬化性樹脂の含有量は、特に限定されないが、熱可塑性樹脂100重量部に対して0.05〜100重量部程度であるのが好ましく、特に0.1〜50重量部程度であるのがより好ましい。含有量が前記上限値を上回ると、チッピングやクラックが起こる場合や、密着性を向上する効果が低下する場合があり、含有量が前記下限値を下回ると、粘着力が強すぎ、ピックアップ不良が起こる場合や、作業性を向上する効果が低下する場合がある。
【0071】
また、第3樹脂組成物は、さらに硬化剤(熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂の場合、特に、フェノール系硬化剤)を含有することが好ましい。
【0072】
硬化剤としては、例えばジエチレントリアミン(DETA)、トリエチレンテトラミン(TETA)、メタキシレリレンジアミン(MXDA)等の脂肪族ポリアミン、ジアミノジフェニルメタン(DDM)、m−フェニレンジアミン(MPDA)、ジアミノジフェニルスルホン(DDS)等の芳香族ポリアミン、ジシアンジアミド(DICY)、有機酸ジヒドララジド等を含むポリアミン化合物等のアミン系硬化剤、ヘキサヒドロ無水フタル酸(HHPA)、メチルテトラヒドロ無水フタル酸(MTHPA)等の脂環族酸無水物(液状酸無水物)、無水トリメリット酸(TMA)、無水ピロメリット酸(PMDA)、ベンゾフェノンテトラカルボン酸(BTDA)等の芳香族酸無水物等の酸無水物系硬化剤、フェノール樹脂等のフェノール系硬化剤が挙げられる。これらの中でもフェノール系硬化剤が好ましく、具体的にはビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)メタン(通称テトラメチルビスフェノールF)、4,4’−スルホニルジフェノール、4,4’−イソプロピリデンジフェノール(通称ビスフェノールA)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(2−ヒドロキシフェニル)メタン、(2−ヒドロキシフェニル)(4−ヒドロキシフェニル)メタン、およびこれらの内ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(2−ヒドロキシフェニル)メタン、(2−ヒドロキシフェニル)(4−ヒドロキシフェニル)メタンの3種の混合物(例えば、本州化学工業(株)製、ビスフェノールF−D)等のビスフェノール類、1,2−ベンゼンジオール、1,3−ベンゼンジオール、1,4−ベンゼンジオール等のジヒドロキシベンゼン類、1,2,4−ベンゼントリオール等のトリヒドロキシベンゼン類、1,6−ジヒドロキシナフタレン等のジヒドロキシナフタレン類の各種異性体、2,2’−ビフェノール、4,4’−ビフェノール等のビフェノール類の各種異性体等の化合物が挙げられる。
【0073】
また、硬化剤(特にフェノール系硬化剤)の含有量は、特に限定されないが、熱可塑性樹脂100重量部に対して1〜90重量部であるのが好ましく、特に3〜60重量部であるのがより好ましい。含有量が前記下限値を下回ると、接着層3の耐熱性を向上する効果が低下する場合があり、含有量が前記上限値を上回ると、接着層3の保存性が低下する場合がある。
【0074】
また、前述した熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂の場合は、エポキシ当量と硬化剤の当量比を計算して決めることができ、エポキシ樹脂のエポキシ当量と硬化剤の官能基の当量(例えばフェノール樹脂であれば水酸基当量)の比が0.5〜1.5であることが好ましく、特に0.7〜1.3であることが好ましい。含有量が前記下限値未満であると保存性が低下する場合があり、前記上限値を超えると耐熱性を向上する効果が低下する場合がある。
【0075】
また、第3樹脂組成物は、特に限定されないが、さらに硬化触媒を含むことが好ましい。これにより、接着層3の硬化性を向上することができる。
【0076】
硬化触媒としては、例えばイミダゾール類、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン等アミン系触媒、トリフェニルホスフィン等リン系触媒等が挙げられる。これらの中でもイミダゾール類が好ましい。これにより、特に速硬化性と保存性を両立することができる。
【0077】
イミダゾール類としては、例えば1−ベンジル−2メチルイミダゾール、1−ベンジル−2フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾリウムトリメリテイト、2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−[2’−ウンデシルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−[2’−エチル−4’メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジンイソシアヌル酸付加物、2−フェニルイミダゾールイソシアヌル酸付加物、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、2,4−ジアミノ−6−ビニル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−ビニル−s−トリアジンイソシアヌル酸付加物、2,4−ジアミノ−6−メタクリロイルオキシエチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−メタクリロイルオキシエチル−s−トリアジンイソシアヌル酸付加物等が挙げられる。これらの中でも2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾールまたは2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾールが好ましい。これにより、保存性を特に向上することができる。
【0078】
また、硬化触媒の含有量は、特に限定されないが、熱可塑性樹脂100重量部に対して0.01〜30重量部程度であるのが好ましく、特に0.5〜10重量部程度であるのがより好ましい。含有量が前記下限値未満であると硬化性が不十分である場合があり、前記上限値を超えると保存性が低下する場合がある。
【0079】
また、硬化触媒の平均粒子径は、特に限定されないが、10μm以下であることが好ましく、特に1〜5μmであることがより好ましい。平均粒子径が前記範囲内であると、特に硬化触媒の反応性に優れる。
【0080】
また、第3樹脂組成物は、特に限定されないが、さらにカップリング剤を含むことが好ましい。これにより、樹脂と被着体および樹脂界面の密着性をより向上させることができる。また、第3樹脂組成物が後述するフィラーを含んでいる場合には、カップリング剤によりフィラーの凝集が防止される。その結果、フィラーの凝集体の生成が防止され、接着層3の表面粗さが著しく大きくなるのを防止することができる。
【0081】
前記カップリング剤としてはシラン系カップリング剤、チタン系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤等が挙げられる。これらの中でもシラン系カップリング剤が好ましい。これにより、耐熱性をより向上することができる。
【0082】
このうち、シラン系カップリング剤としては、例えばビニルトリクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、β−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルファンなどが挙げられる。
【0083】
カップリング剤の含有量は、特に限定されないが、熱可塑性樹脂100重量部に対して0.01〜10重量部程度であるのが好ましく、特に0.5〜10重量部程度であるのがより好ましい。含有量が前記下限値未満であると密着性の効果が不十分である場合があり、前記上限値を超えるとアウトガスやボイドの原因になる場合がある。
【0084】
接着層3を成膜するにあたっては、このような第3樹脂組成物を、例えばメチルエチルケトン、アセトン、トルエン、ジメチルホルムアルデヒド等の溶剤に溶解して、ワニスの状態にした後、コンマコーター、ダイコーター、グラビアコーター等を用いてキャリアフィルムに塗工し、乾燥することで接着層3を得ることができる。
【0085】
接着層3の平均厚さは、特に限定されないが、3〜100μm程度であるのが好ましく、特に5〜70μm程度であるのがより好ましい。厚さが前記範囲内であると、特に厚さ精度の制御を容易にできる。
【0086】
また、第3樹脂組成物は、フィラーを含有している。フィラーを含むことにより、接着層3の機械的特性および接着力の向上を図ることができる。
【0087】
このフィラーとしては、例えば銀、酸化チタン、シリカ、マイカの粒子他、アルミナ、ジルコニア等の各種セラミックスの粒子(粒子状物)等が挙げられる。
【0088】
また、フィラー単体および凝集体のうち、5μm以上のものの平均粒径は、5〜15μm程度であることが好ましく、5〜10μm程度であるのがより好ましい。平均粒径が前記上限値を超えるとフィルムとしての接着力の低下をもたらす可能性がある。
【0089】
フィラーの含有量は、特に限定されないが、樹脂組成物全体に対して2〜60重量%程度であるのが好ましく、特に5〜50重量%程度であるのがより好ましい。これにより、接着層3の機械的特性を高めつつ、接着力をより高めることができる。
【0090】
(支持フィルム)
支持フィルム4は、以上のような第1粘着層1、第2粘着層2および接着層3を支持する支持体である。
【0091】
このような支持フィルム4の構成材料としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリブタジエン、ポリメチルペンテン、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル共重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリウレタン、エチレン酢ビ共重合体、アイオノマー、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体、ポリスチレン、ビニルポリイソプレン、ポリカーボネート等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上の混合物が挙げられる。
【0092】
支持フィルム4の平均厚さは、特に限定されないが、5〜200μm程度であるのが好ましく、30〜150μm程度であるのがより好ましい。これにより、支持フィルム4は、適度な剛性を有するものとなるため、第1粘着層1、第2粘着層2および接着層3を確実に支持して、半導体用フィルム10の取扱いを容易にするとともに、半導体用フィルム10が適度に湾曲することで、半導体ウエハー7との密着性を高めることができる。
【0093】
(半導体用フィルムの特性)
第1粘着層1、第2粘着層2および接着層3は、それぞれ異なる密着力を有しているが、それらは以下のような特性を有していることが好ましい。
【0094】
まず、第1粘着層1の接着層3に対する密着力は、第2粘着層2の支持フィルム4に対する密着力よりも小さいことが好ましい。これにより、後述する第3の工程において、個片83をピックアップした際に、第2粘着層2と支持フィルム4との間は剥離することなく、接着層3と第1粘着層1との間が選択的に剥離する。そして、ダイシングの際には、ウエハーリング9により積層体8を確実に支持し続けることができる。
【0095】
すなわち、本実施形態では、第1粘着層1および第2粘着層2の2層の粘着層を用いているため、それぞれの密着力を異ならせることで、上記のように、積層体8の確実な固定と個片83の容易なピックアップとを両立させることが可能になる。換言すれば、ダイシング性とピックアップ性の両立を図ることができる。
【0096】
なお、第1粘着層1の接着層3に対する密着力や第2粘着層2の支持フィルム4およびウエハーリング9に対する密着力は、それぞれ、前述したアクリル系樹脂等の種類(組成)、モノマー等の種類、含有量、硬度等を変化させることで調整することができる。
【0097】
また、ダイシング前における第1粘着層1の接着層3に対する密着力は、特に限定されないが、密着界面の平均で10〜80cN/25mm程度であるのが好ましく、特に30〜60cN/25mm程度であるのがより好ましい。密着力が前記範囲内であると、後述するように積層体8を引き延ばしたり(エキスパンド)、積層体8をダイシングした際に、半導体素子71が第1粘着層1から脱落する等の不具合が防止されるとともに、優れたピックアップ性が確保される。
【0098】
なお、上記密着力の単位である「cN/25mm」は、第1粘着層1の表面に接着層3を貼り付けたサンプルを25mm幅の短冊状にし、その後、23℃(室温)において、この積層フィルムにおいて接着層部分を剥離角180°でかつ引っ張り速度1000mm/minで引き剥がしたときの荷重(単位cN)を表すものである。すなわち、ここでは、第1粘着層1の接着層3に対する密着力は、180°ピール強度として説明する。
【0099】
上記のような特性を有する第1粘着層1の組成としては、例えば、アクリル系樹脂100重量部に対して、アクリレートモノマー1〜50重量部と、イソシアネート化合物0.1〜10重量部とを配合したものが挙げられる。
【0100】
一方、第2粘着層2のウエハーリング9に対する密着力は、特に限定されないが、密着界面の平均で100〜2,000cN/25mm程度であるのが好ましく、特に400〜1,200cN/25mm程度であるのがより好ましい。密着力が前記範囲内であると、後述するように積層体8を引き延ばしたり(エキスパンド)、積層体8をダイシングした際に、第1粘着層1と第2粘着層2との界面の剥離が防止され、結果として半導体素子71の脱落等が確実に防止される。また、ウエハーリング9により積層体8を確実に支持することができる。
【0101】
なお、上記密着力の単位である「cN/25mm」は、ウエハーリング9の上面に25mm幅の短冊状の粘着フィルムを23℃(室温)で貼り付け、その後、23℃(室温)において、この粘着フィルムを、剥離角180°でかつ引っ張り速度1000mm/minで引き剥がしたときの荷重(単位cN)を表すものである。すなわち、ここでは、第2粘着層2のウエハーリング9に対する密着力は、180°ピール強度として説明する。
【0102】
上記のような特性を有する第2粘着層2の組成としては、例えば、アクリル系樹脂100重量部に対して、ウレタンアクリレート1〜50重量部と、イソシアネート化合物0.5〜10重量部とを配合したものが挙げられる。
【0103】
なお、第1粘着層1の接着層3に対する密着力をAとし、第2粘着層2の第1粘着層1に対する密着力をAとしたとき、A/Aは、特に限定されないが、5〜200程度であるのが好ましく、10〜50程度であるのがより好ましい。これにより、第1粘着層1、第2粘着層2および接着層3は、ダイシング性およびピックアップ性において特に優れたものとなる。
【0104】
また、第1粘着層1の接着層3に対する密着力は、接着層3の半導体ウエハー7に対する密着力よりも小さいことが好ましい。これにより、個片83をピックアップした際に、半導体ウエハー7と接着層3との界面が不本意にも剥離してしまうのを防止することができる。すなわち、第1粘着層1と接着層3との界面で選択的に剥離を生じさせることができる。
【0105】
なお、接着層3の半導体ウエハー7に対する密着力は、特に限定されないが、50〜500cN/25mm程度であるのが好ましく、特に80〜250cN/25mm程度であるのがより好ましい。密着力が前記範囲内であると、特にダイシング時に振動や衝撃で半導体素子71が飛んで脱落する、いわゆる「チップ飛び」の発生を十分に防止することができる。
【0106】
また、第1粘着層1の接着層3に対する密着力は、第1粘着層1の第2粘着層2に対する密着力よりも小さいことが好ましい。これにより、個片83をピックアップした際に、第1粘着層1と第2粘着層2との界面が不本意にも剥離してしまうのを防止することができる。すなわち、第1粘着層1と接着層3との界面で選択的に剥離を生じさせることができる。
【0107】
なお、第1粘着層1の第2粘着層2に対する密着力は、特に限定されないが、100〜1,000cN/25mm程度であるのが好ましく、特に300〜600cN/25mm程度であるのがより好ましい。密着力が前記範囲内であると、特にダイシング性やピックアップ性に優れる。
【0108】
(半導体用フィルムの製造方法)
以上説明したような半導体用フィルム10は、例えば以下のような方法で製造される。
【0109】
まず、図3(a)に示す基材4aを用意し、この基材4aの一方の面上に第1粘着層1を成膜する。これにより、基材4aと第1粘着層1との積層体61を得る。第1粘着層1の成膜は、前述した第1樹脂組成物を含む樹脂ワニスを各種塗布法等により塗布し、その後塗布膜を乾燥させる方法や、第1樹脂組成物からなるフィルムをラミネートする方法等により行うことができる。また、紫外線等の放射線を照射することにより、塗布膜を硬化させるようにしてもよい。
【0110】
上記塗布法としては、例えば、ナイフコート法、ロールコート法、スプレーコート法、グラビアコート法、バーコート法、カーテンコート法等が挙げられる。
【0111】
また、積層体61と同様にして、図3(a)に示すように、用意した基材4bの一方の面上に接着層3を成膜し、これにより、基材4bと接着層3との積層体62を得る。
【0112】
なお、接着層3の成膜にあたっては、前述した第1粘着層1の場合と同様、第3樹脂組成物を含む樹脂ワニスを調製する。この樹脂ワニスの調製においては、まず、第3樹脂組成物を撹拌機に投入し、撹拌・混練する。この撹拌機としては、例えば、ホモミキサー、ホモジナイザー、ビーズミル、ボールミル、ロッドミル、ディスクミル、振動ミル等が挙げられるが、特にビーズミルが好ましく用いられる。ビーズミルによれば、第3樹脂組成物中においてフィラー単体同士が凝集していたとしても、その凝集体に適度な衝撃を与えて、凝集体を適度な大きさに粉砕することができる。また、フィラー単体または凝集体と樹脂材料とを均一に撹拌・混練することができる。したがって、ビーズミルを用いることにより、接着層3の表面から突出するフィラー単体または凝集体の粒径を前述した範囲内に確実に制御することができる。その結果、ダイシング性およびピックアップ性に特に優れた半導体用フィルム10が得られる。
【0113】
ここで、ビーズミルに用いるビーズには、その平均粒径が、フィラー単体の平均粒径の10〜1500倍程度であるのが好ましく、20〜800倍程度であるのがより好ましい。このような粒径のビーズを用いることにより、第3樹脂組成物中に著しく粒径の大きな凝集体を含んでいたとしても、ビーズミルにおいてこの凝集体を適度な大きさに粉砕し、粉砕後の大きさを前述した好ましい範囲に確実に制御することができる。
【0114】
また、ビーズの平均粒径は上記範囲にあるのが好ましいが、具体的には、5〜400μm程度であるのが好ましく、10〜300μm程度であるのがより好ましい。
【0115】
さらに、ビーズミルに用いるビーズの構成材料としては、例えば、ジルコニア、アルミナ、炭化ケイ素等のセラミックス材料、ポリウレタン、ポリアミド等の樹脂材料などが挙げられる。特に、フィラーの構成材料が酸化ケイ素である場合には、ビーズの構成材料としてフィラーの構成材料より硬度が小さいものを用いるのが好ましい。このようなビーズを用いることにより、フィラーの単位粒子が破壊するのを防止しつつ、凝集体を適度な大きさに粉砕することができる。
【0116】
また、第3樹脂組成物を含む樹脂ワニスは、溶剤に溶解した際の撹拌・混練時における粘度(常温)が100〜3000mPa・sであるのが好ましく、200〜2000mPa・sであるのがより好ましく、300〜1000mPa・sであるのがさらに好ましい。これにより、接着層3の表面から突出するフィラー単体または凝集体の粒径を前述した範囲内に確実に制御することができる。その結果、ダイシング性およびピックアップ性に特に優れた半導体用フィルム10が得られる。
【0117】
なお、第3樹脂組成物を撹拌・混練する際に、粉末状のフィラーと樹脂材料とを直接混合して撹拌するようにしてもよいが、フィラーを一旦分散媒中に分散させた後、得られた分散液と樹脂材料とを混合するのが好ましい。これにより、フィラー単体または凝集体と樹脂材料とをより均一に混合することができ、最終的に得られる接着層3の表面から突出するフィラー単体または凝集体の粒径を前述した範囲内に確実に制御することができる。
【0118】
さらに、各積層体61、62と同様にして、図3(a)に示すように、用意した支持フィルム4の一方の面上に第2樹脂組成物を用いて第2粘着層2を成膜し、これにより、支持フィルム4と第2粘着層2との積層体63を得る。
【0119】
次いで、図3(b)に示すように、第1粘着層1と接着層3とが接するように積層体61と積層体62とを積層し、積層体64を得る。この積層は、例えばロールラミネート法等により行うことができる。
【0120】
次いで、図3(c)に示すように、積層体64から基材4aを剥離する。そして、図3(d)に示すように、前記基材4aを剥離した積層体64に対して、基材4bを残して、前記接着層3および前記第1粘着層1の有効領域の外側部分をリング状に除去する。ここで、有効領域とは、その外周が、半導体ウエハー7の外径よりも大きく、かつ、ウエハーリング9の内径よりも小さい領域を指す。
【0121】
次いで、図3(e)に示すように、第1粘着層1の露出面に第2粘着層2が接するように、基材4aを剥離し有効領域の外側部分をリング状に除去した積層体64と積層体63を積層する。その後、基材4bを剥離することにより、図3(f)に示す半導体用フィルム10が得られる。
【0122】
[半導体装置の製造方法]
次に、上述したような半導体用フィルム10を用いて半導体装置100を製造する方法(本発明の半導体装置の製造方法の第1実施形態)について説明する。
【0123】
図1および図2に示す半導体装置の製造方法は、半導体ウエハー7と半導体用フィルム10とを積層し、積層体8を得る第1の工程と、半導体用フィルム10の外周部21をウエハーリング9に貼り付けた状態で、半導体ウエハー7側から積層体8に切り込み81を設ける(ダイシングする)ことにより、半導体ウエハー7および接着層3を個片化し、半導体素子71および接着層31からなる複数の個片83を得る第2の工程と、個片83の少なくとも1つをピックアップする第3の工程と、ピックアップされた個片83を絶縁基板5上に載置し、半導体装置100を得る第4の工程とを有する。以下、各工程について順次詳述する。
【0124】
[1]
[1−1]まず、半導体ウエハー7および半導体用フィルム10を用意する。
半導体ウエハー7は、あらかじめ、その表面に複数個分の回路が形成されたものである。かかる半導体ウエハー7としては、シリコンウエハーの他、ガリウムヒ素、窒化ガリウムのような化合物半導体ウエハー等が挙げられる。
【0125】
このような半導体ウエハー7の平均厚さは、特に限定されず、好ましくは0.005〜1mm程度、より好ましくは0.01〜0.5mm程度とされる。本発明の半導体装置の製造方法によれば、このような厚さの半導体ウエハー7に対して欠けや割れ等の不具合を生じさせることなく、簡単かつ確実に切断して個片化することができる。
【0126】
[1−2]次に、図1(a)に示すように、上述したような半導体用フィルム10の接着層3と、半導体ウエハー7とを密着させつつ、半導体用フィルム10と半導体ウエハー7とを積層する(第1の工程)。なお、図1に示す半導体用フィルム10では、接着層3の平面視における大きさおよび形状が、半導体ウエハー7の外径よりも大きく、かつ、ウエハーリング9の内径よりも小さい形状に、あらかじめ設定されている。このため、半導体ウエハー7の下面全体が接着層3の上面全体と密着し、これにより半導体ウエハー7が半導体用フィルム10で支持されることとなる。
【0127】
上記積層の結果、図1(b)に示すように、半導体用フィルム10と半導体ウエハー7とが積層されてなる積層体8が得られる。
【0128】
[2]
[2−1]次に、ウエハーリング9を用意する。続いて、第2粘着層2の外周部21の上面とウエハーリング9の下面とが密着するように、積層体8とウエハーリング9とを積層する。これにより、積層体8の外周部がウエハーリング9により支持される。
【0129】
ウエハーリング9は、一般にステンレス鋼、アルミニウム等の各種金属材料等で構成されるため、剛性が高く、積層体8の変形を確実に防止することができる。
【0130】
半導体用フィルム10が上述したように粘着性の異なる2層の粘着層(第1粘着層1および第2粘着層2)を有していることにより、これらの粘着性の違いを利用して、ダイシング性とピックアップ性の両立を図ることができる。
【0131】
[2−2]次に、図示しないダイサーテーブルを用意し、ダイサーテーブルと支持フィルム4とが接触するように、ダイサーテーブル上に積層体8を載置する。
【0132】
続いて、図1(c)に示すように、ダイシングブレード82を用いて積層体8に複数の切り込み81を形成する(ダイシング)。ダイシングブレード82は、円盤状のダイヤモンドブレード等で構成されており、これを回転させつつ積層体8の半導体ウエハー7側の面に押し当てることで切り込み81が形成される。そして、半導体ウエハー7に形成された回路パターン同士の間隙に沿って、ダイシングブレード82を相対的に移動させることにより、半導体ウエハー7が複数の半導体素子71に個片化される(第2の工程)。また、接着層3も同様に、複数の接着層31に個片化される。このようなダイシングの際には、半導体ウエハー7に振動や衝撃が加わるが、半導体ウエハー7の下面が半導体用フィルム10で支持されているため、上記の振動や衝撃が緩和されることとなる。その結果、半導体ウエハー7における割れや欠け等の不具合の発生を確実に防止することができる。
【0133】
切り込み81の深さは、半導体ウエハー7と接着層3とを貫通し得る深さであれば特に限定されない。すなわち、切り込み81の先端は、第1粘着層1、第2粘着層2および支持フィルム4のいずれかに達していればよい。これにより、半導体ウエハー7と接着層3とが確実に個片化され、それぞれ半導体素子71と接着層31とが形成されることとなる。
【0134】
なお、本実施形態では、図1(c)に示すように、切り込み81の先端を第1粘着層1内に留める場合について後に説明する。
【0135】
[3]
[3−1]次に、複数の切り込み81が形成された積層体8を、図示しないエキスパンド装置により、放射状に引き延ばす(エキスパンド)。これにより、図1(d)に示すように、積層体8に形成された切り込み81の幅が広がり、それに伴って個片化された半導体素子71同士の間隔も拡大する。その結果、半導体素子71同士が干渉し合うおそれがなくなり、個々の半導体素子71をピックアップし易くなる。なお、エキスパンド装置は、このようなエキスパンド状態を後述する工程においても維持し得るよう構成されている。
【0136】
[3−2]次に、図示しないダイボンダにより、個片化された半導体素子71のうちの1つを、ダイボンダのコレット(チップ吸着部)で吸着するとともに上方に引き上げる。その結果、図2(e)に示すように、接着層31と第1粘着層1との界面が選択的に剥離し、半導体素子71と接着層31とが積層されてなる個片83がピックアップされる(第3の工程)。
【0137】
なお、接着層31と第1粘着層1との界面が選択的に剥離する理由は、前述したように、第2粘着層2の粘着性が第1粘着層1の粘着性より高いため、支持フィルム4と第2粘着層2との界面の密着力、および、第2粘着層2の第1粘着層1との界面の粘着力は、第1粘着層1と接着層3との密着力より大きいからである。すなわち、半導体素子71を上方にピックアップした場合、これらの3箇所のうち、最も粘着力の小さい第1粘着層1と接着層3との界面が選択的に剥離することとなる。
【0138】
また、個片83をピックアップする際には、半導体用フィルム10の下方から、ピックアップすべき個片83を選択的に突き上げるようにしてもよい。これにより、積層体8から個片83が突き上げられるため、前述した個片83のピックアップをより容易に行うことができるようになる。なお、個片83の突き上げには、半導体用フィルム10を下方から突き上げる針状体(ニードル)等が用いられる。
【0139】
[4]
[4−1]次に、半導体素子71(チップ)を搭載(マウント)するための絶縁基板5を用意する。
【0140】
この絶縁基板5としては、半導体素子71を搭載し、半導体素子71と外部とを電気的に接続するための配線や端子等を備えた絶縁性を有する基板が挙げられる。
【0141】
具体的には、ポリエステル銅張フィルム基板、ポリイミド銅張フィルム基板、アラミド銅張フィルム基板等の可撓性基板や、ガラス布・エポキシ銅張積層板等のガラス基材銅張積層板、ガラス不織布・エポキシ銅張積層板等のコンポジット銅張積層板、ポリエーテルイミド樹脂基板、ポリエーテルケトン樹脂基板、ポリサルフォン系樹脂基板等の耐熱・熱可塑性基板といった硬質性基板の他、アルミナ基板、窒化アルミニウム基板、炭化ケイ素基板等のセラミックス基板などが挙げられる。
なお、絶縁基板5に代えて、リードフレーム等を用いるようにしてもよい。
【0142】
次いで、図2(f)に示すように、ピックアップされた個片83を、絶縁基板5上に載置する。
【0143】
[4−2]次に、図2(g)に示すように、絶縁基板5上に載置された個片83を加熱・圧着する。これにより、接着層31を介して半導体素子71と絶縁基板5とが接着(ダイボンディング)される(第4の工程)。
【0144】
加熱・圧着の条件としては、例えば加熱温度は100〜300℃程度であるのが好ましく、100〜200℃程度であるのがより好ましい。また、圧着時間は1〜10秒程度であるのが好ましく、1〜5秒程度であるのがより好ましい。
【0145】
また、その後に加熱処理を施してもよい。この場合の加熱条件は、加熱温度が好ましくは100〜300℃程度、より好ましくは150〜250℃程度とされ、加熱時間が好ましくは1〜240分程度、より好ましくは10〜60分程度とされる。
【0146】
その後、半導体素子71の端子(図示せず)と絶縁基板5上の端子(図示せず)とをワイヤ84により電気的に接続する。なお、この接続には、ワイヤ84に代えて、導電性ペースト、導電性フィルム等を用いるようにしてもよい。
【0147】
そして、絶縁基板5上に載置された個片83およびワイヤ84を樹脂材料で被覆し、モールド層85を形成する。このモールド層85を構成する樹脂材料としては、エポキシ系樹脂等の各種モールド樹脂が挙げられる。
【0148】
さらに、絶縁基板5の下面に設けられた端子(図示せず)にボール状電極86を接合することにより、半導体素子71をパッケージ内に収納してなる図2(h)に示すような半導体装置100が得られる。
【0149】
以上のような方法によれば、第3の工程において、半導体素子71に接着層31が付着した状態、すなわち個片83の状態でピックアップされることから、第4の工程において、この接着層31をそのまま絶縁基板5との接着に利用することができる。このため、別途接着剤等を用意する必要がなく、半導体装置100の製造効率をより高めることができる。
【0150】
ところで、半導体用フィルム10(本発明の半導体用フィルム)は、接着層3の表面近傍に存在するフィラー単体または凝集体を、接着層3の表面に投影した投影像について、粒径3μm以上のものが占める面積が、投影像全体の30%以下であるものである。
【0151】
このような半導体用フィルム10によれば、接着層3と第1粘着層1との間に生じる隙間の径および厚さが比較的小さくかつ狭い粒度範囲に制御されたものとなる。すなわち、接着層3は、その第1粘着層1側の面の平滑性が高いものとなる。その結果、仮に接着層3と第1粘着層1との間に隙間が生じたとしても、ダイシングの際に、隙間が拡張してしまうのが防止され、半導体ウエハー7が脱離してしまうのを防止することができる。
【0152】
また、接着層3と第1粘着層1との間に生じる隙間の径および厚さが制御された結果、ピックアップの際に半導体素子71に加わる引っ張り荷重のバラつきが小さく抑えられる。その結果、引っ張り荷重のバラつきに伴う半導体素子71の著しい変形が抑制され、半導体素子71に割れや欠け等の不具合が生じるのを防止することができる。
【0153】
以上のように、半導体用フィルム10によれば、ダイシング性およびピックアップ性の向上を図り、半導体素子71における不具合の発生を防止しつつ、信頼性の高い半導体装置100を効率よく製造することができる。
【0154】
ここで、前述したフィラー単体または凝集体の粒径は、接着層3の表面付近に存在するフィラー単体または凝集体のうち、一部分が接着層3の表面から突出するものである。すなわち、これらは、接着層3の表面の表面粗さに直接的な影響を及ぼしていると考えられる。なお、このようなフィラー単体または凝集体は、露出していても、樹脂材料で覆われた状態であってもよい。
【0155】
このようなフィラー単体または凝集体を接着層3の表面に投影した投影像における粒径は、接着層3の表面の観察像において、フィラー単体または凝集体が占める領域と、それ以外の領域との境界を特定し、前者の領域の外径を測定することで求めることができる。
【0156】
具体的には、接着層3の表面の観察像としては、走査型または透過型電子顕微鏡による観察像、元素マッピング分析を行って得られた観察像、光学顕微鏡による観察像、レーザー顕微鏡による観察像等が挙げられる。
【0157】
これらのうち、以下では、(A)走査型電子顕微鏡による観察像、または(B)元素マッピング分析を行って得られた観察像を用いて粒径を測定する方法について説明する。
【0158】
(A)
まず、接着層3の表面を走査型電子顕微鏡により観察し、観察像を得る。
【0159】
得られた観察像は、通常、観察対象物から放出される電子の検出数に応じて形成される。すなわち、観察像を構成する各画素の濃淡の程度は、観察対象物の各画素に対応する領域から放出される電子の検出数の情報に基づいて決定される。
【0160】
また、観察対象部から放出される電子の数は、観察面の形状や観察面の元素に応じて異なるため、その結果として、観察像には、フィラー単体または凝集体が占める領域を特定し得る濃淡が生成されることとなる。
【0161】
このようにして得られた濃淡画像からなる観察像は、コントラストが高く、フィラー単体または凝集体が占める領域とそれ以外の領域との境界が明瞭である場合には、前者の領域と後者の領域との濃淡の差に基づいて、前者の領域の外径を測定することができる。この外径が、フィラー単体または凝集体の粒径に相当する。
【0162】
また、濃淡画像からなる観察像に対して、2値化と呼ばれる画像処理を施すことにより、フィラー単体または凝集体が占める領域とそれ以外の領域との境界がより明瞭になるため、前記領域の外径をより高い精度で測定することができる。
【0163】
2値化とは、濃淡画像の濃度にしきい値を設定し、このしきい値に基づいて、各画素を明るいもの(明画素)と暗いもの(暗画素)とに区別する画像処理である。2値化の結果、濃淡画像は、明画素と暗画素とで構成された画像となる。
【0164】
また、2値化においてしきい値を決定する方法には、多数の方法が知られており特に限定されないが、例えば、濃度ヒストグラムに基づく方法が挙げられる。なお、いかなる方法を用いても、最終的に算出されるフィラー単体または凝集体の粒径には、大きな誤差は生じない。
【0165】
ここで、濃度ヒストグラムとは、濃淡画像全体で同じ濃度値を持つ画素数を求め、横軸を濃度値、縦軸を画素数としてグラフ化したものである。
【0166】
濃度ヒストグラムからしきい値を決定する方法としては、Pタイル法、モード法、判別分析法、最小誤差法等が挙げられる。このうち、Pタイル法が好ましく用いられる。接着層3では、接着層3全体におけるフィラーの含有量が測定時に既知であるため、この情報に基づけば、観察像においてフィラー単体または凝集体が占める領域の割合(以下、「既知の割合」と言う。)をあらかじめ算出することが可能である。このため、例えばフィラーの存在を示す画素が明画素である場合には、濃度ヒストグラムにおいて、しきい値より明るい側の画素数の全画素数に対する割合が、前述した「既知の割合」に一致するようにしきい値を決定すればよい。このようにして2値化におけるしきい値を決定することができる。
【0167】
(B)
まず、接着層3の表面に元素マッピング分析(面分析)を行う。元素マッピング分析では、観察領域に存在する元素を同定し、元素の種類と分布を、色の濃淡または色の違いで視覚的に示す分析手法である。したがって、元素マッピング分析によれば、観察像において、フィラー単体または凝集体が占める領域を、視覚的に特定することができる。このようにして測定されたフィラー単体または凝集体が占める領域の外径が、フィラー単体または凝集体の粒径に相当する。
【0168】
例えば、接着層3が、樹脂材料とフィラーとを主に含んでおり、このうち、フィラーがシリカ(酸化ケイ素)で構成されている場合、Si(シリコン)の分布状態をマッピングすることにより、Siが分布する領域を、フィラー単体または凝集体が占める領域とみなすことができる。この場合、Siが分布する領域の外径を測定すればよい。
【0169】
なお、この場合、接着層3の内部(表面近傍でない部分)に存在するフィラーをできるだけ検出することなく、接着層3の表面近傍に存在するフィラーのみを検出し得るように、分析条件等を適宜設定するのが好ましい。
【0170】
以上のような(A)または(B)の方法により、フィラー単体または凝集体を接着層3の表面に投影した投影像における粒径を測定することができる。
【0171】
また、本発明では、前述したように粒径5μm以上のものが占める面積が、投影像全体の15%以下であるとされるが、好ましくは12%以下とされ、より好ましくは10%以下とされる。粒径5μm以上のフィラー単体または凝集体の占める面積の割合(以下、省略して「面積の割合」と言う。)が前記範囲内であれば、接着層3の表面からフィラー単体または凝集体が突出したとしても、その突出量は十分に低くなるよう制御される。すなわち、粒径5μm以上のフィラー単体または凝集体の占める割合が前記範囲内であれば、接着層3の表面の表面粗さは十分に小さい(平滑な)ものとなり、接着層3と第1粘着層1との間に生じる隙間の径および厚さも比較的小さくかつ狭い範囲に抑制されたものとなる。
【0172】
なお、面積の割合が前記上限値を上回った場合には、接着層3の表面粗さが著しく大きくなり、接着層3と第1粘着層1との間に生じる隙間の径および厚さも著しく大きくかつ広い範囲に広がったものとなる。これにより、ダイシングが不安定になり、製造歩留まりが著しく低下する。一方、面積の割合が前記下限値は特に設定されなくてもよいが、一例として1%程度とされる。
【0173】
ここで、接着層3の表面の表面粗さRaは、2μm以下であるのが好ましく、1μm以下であるのがより好ましい。これにより、接着層3と第1粘着層1との間に生じる隙間の径および厚さも比較的小さくかつ狭い範囲に抑制されたものとなる。なお、下限値は特に限定されないが、0.1μm程度であるのが好ましい。これにより、密着力が適度に低下するため、ピックアップ性を高めることができる。
【0174】
ところで、上述したような半導体用フィルム10を用いて半導体ウエハー7をダイシングする工程を有する本発明の半導体装置の製造方法は、特に第2の工程に特徴を有する。
【0175】
まず、この特徴の説明に先立って、従来のダイシング工程について説明する。
従来のダイシング工程は、ダイシングブレードの先端が半導体ウエハー、接着層および各粘着層をそれぞれ貫通し、支持フィルムに到達するように行われていた。
【0176】
ところが、ダイシングブレードの先端が支持フィルムに到達した結果、支持フィルムが削られることとなり、その削り屑が発生する。そして、この削り屑は、支持フィルム周辺に留まることなく、各粘着層の周辺、接着層の周辺および半導体ウエハーの周辺に移動して、種々の不具合をもたらすこととなる。具体的には、半導体素子のピックアップの際に引っ掛かりを生じたり、後述する第4の工程において絶縁基板と半導体素子との間に削り屑が侵入したり、半導体ウエハーに形成された回路に削り屑が付着し、ワイヤボンディングに支障を来す等の不具合が挙げられる。
【0177】
これに対し、本発明では、第2の工程において、ダイシングブレード82の先端が粘着層内に留まるように、削り深さを設定する。換言すれば、切り込み81の先端が支持フィルム4に到達することなく、第1粘着層1内に留まるようにダイシングを行う。このようにすれば、支持フィルム4の削り屑は発生し得ないため、上述したような削り屑に伴う問題が確実に解消されることとなる。すなわち、半導体素子71をピックアップする際には、引っ掛かり等の発生が防止され、ピックアップした半導体素子71を絶縁基板5にマウントする際には、異物の侵入およびワイヤボンディング不良の発生が防止される。その結果、半導体装置100の製造歩留まりが向上するとともに、信頼性の高い半導体装置100を得ることができる。
【0178】
また、特に、切り込み81の先端が第1粘着層1内に位置するようにダイシングを行うことにより、第2粘着層2の成分が切り込み81を介して、接着層3の周辺や半導体ウエハー7の周辺に染み出すことが防止される。その結果、染み出した物質が不本意にも接着層3と第1粘着層1との間の密着力を高めてしまうのを防止して、個片83のピックアップを阻害する不具合を防止することができる。さらには、染み出した物質が半導体素子71の変質・劣化を引き起こすのを防止することができる。
【0179】
このような成分の染み出しは、第2粘着層2の粘着性が第1粘着層1の粘着性よりも強いことから、必然的に、第2粘着層2は第1粘着層1よりも柔軟性が高いと考えられ、したがって第2粘着層2に含まれる物質は流動性や流出性が第1粘着層1よりも高いということに起因する現象であると考えられる。すなわち、本実施形態のように、粘着層が複数層で構成されており、接着層3側の粘着層(図1では第1粘着層1)よりも支持フィルム4側の粘着層(図1では第2粘着層2)の粘着性が強い場合には、図1(c)に示すように切り込み81の先端を第1粘着層1内に留めることが、上記不具合を防止するにあたって特に有効である。
【0180】
なお、上記の観点から、第2粘着層2の硬度は、第1粘着層1の硬度より小さいのが好ましい。これにより、第2粘着層2は、第1粘着層1に比べて確実に粘着性が高いものとなる一方、第1粘着層1は、ピックアップ性に優れたものとなる。
【0181】
また、第1粘着層1のショアD硬度は、20〜60程度であるのが好ましく、30〜50程度であるのがより好ましい。このような硬度の第1粘着層1は、粘着性が適度に抑えられる一方、成分の流動性や流出性を比較的抑えられることから、この第1粘着層1に切り込み81が形成されたとしても、ピックアップ性の向上と、第1粘着層1からの物質の染み出しによる不具合の防止とを両立させることができる。
【0182】
また、第2粘着層2のショアA硬度は、20〜90程度であるのが好ましく、30〜80程度であるのがより好ましい。このような硬度の第2粘着層2は、十分な粘着性を有する一方、成分の流動性や流出性を比較的抑えられることから、ダイシング性(ダイシングにおける積層体8とウエハーリング9との固定性)の向上と、物質の染み出しによる不具合の防止とを両立させることができる。
【0183】
また、上記のような観点から、1本の切り込み81のうち、接着層3と第1粘着層1との界面より先端側の部分の横断面積は、ダイシングブレード82の厚さや各粘着層1、2の厚さに応じて異なるものの、5〜300(×10−5mm)程度であるのが好ましく、10〜200(×10−5mm)程度であるのがより好ましい。切り込み81のうち、接着層3と第1粘着層1との界面より先端側の部分の横断面積を前記範囲内に設定することにより、接着層3を確実に個片化するとともに、第1粘着層1に対する切り込み部分の横断面積を最小限に抑えることができる。その結果、個片83の確実なピックアップと、第1粘着層1からの成分の染み出しの抑制とを高度に両立することができる。
【0184】
また、第1粘着層1の膜厚をtとしたとき、切り込み81のうちの第1粘着層1内に位置する部分の深さは、0.2t〜0.8tであるのが好ましく、0.3t〜0.7tであるのがより好ましい。これにより、個片83の確実なピックアップと、第1粘着層1からの成分の染み出しの抑制とを、より高度に両立させることができる。
【0185】
以上のように、切り込み81の先端を第1粘着層1内に留めたり、そうでなくても切り込み81のうちの接着層3と第1粘着層1との界面より先端側の部分の横断面積を前記範囲内としたりした場合には、第1粘着層1や第2粘着層2からの成分の染み出しが最小限に抑えられることから、この成分の染み出しが第1粘着層1と接着層3との密着力に及ぼす影響も最小限に抑えられることとなる。その結果、この密着力が意図せず高まってしまい、個片83のピックアップ性が阻害されるのを防止することができる。
【0186】
また、第1粘着層1と接着層3との密着力は、個々の個片83の中央部と縁部(エッジ部)とで異なる場合が多い。これは、縁部では、個片83の端面に第1粘着層1中の成分が這い上がる等して、中央部に比べて密着力が大きくなり易いことに起因するものである。このため、個片83をピックアップする際には、中央部と縁部とで密着力が大きく異なり、それによって半導体素子71の割れや欠け等を招くおそれがある。
【0187】
これに対し、本発明によれば、切り込み81の先端が第1粘着層1内に留まるように、ダイシングの深さ制御を行うことにより、個片83における密着力のバラツキの範囲を、小さく抑えることが可能になる。このため、個片83をピックアップする際に、半導体素子71に割れや欠け等が発生するのを防止することができる。
【0188】
ここで、個片83を引き剥がす際に、個片83の縁部にかかる荷重(縁部の密着力)をaとし、個片83の中央部にかかる荷重(中央部の密着力)をbとしたとき、a/bは、1以上4以下であるのが好ましく、1〜3程度であるのがより好ましく、1〜2程度であるのがさらに好ましい。これにより、半導体素子71の部分ごとの荷重のバラつきが比較的狭い範囲に抑制されることになるため、ピックアップの際に半導体素子71の割れや欠け等の不具合が発生するのを確実に抑制することができる。そして、このような半導体用フィルム10を用いることにより、半導体装置100の製造歩留まりが向上するとともに、最終的に信頼性の高い半導体装置100を得ることができる。
なお、密着力aおよび密着力bは、それぞれ詳しくは次のようにして測定される。
【0189】
まず、半導体用フィルム10と半導体ウエハー7とを積層して積層体8を得た後、半導体ウエハー7を10mm×10mm角に個片化した後の状態で、第3の工程を行う前の積層体8の上面に、1cm幅の短冊状の粘着フィルムを23℃(室温)で貼り付ける。
【0190】
次いで、23℃(室温)において、積層体8から第1粘着層1、第2粘着層2および支持フィルム4を剥離角90°でかつ引っ張り速度50mm/minで引き剥がす。この際、第1粘着層1、第2粘着層2および支持フィルム4を引き剥がしつつ、第1粘着層1、第2粘着層2および支持フィルム4にかかる引っ張り荷重(単位N)の大きさを測定する。そして、個片83の縁部が第1粘着層1から離れる際に第1粘着層1、第2粘着層2および支持フィルム4にかかる引っ張り荷重の平均値が「密着力a」に相当し、個片83の中央部(縁部以外の部分)が第1粘着層1から離れる際に第1粘着層1、第2粘着層2および支持フィルム4にかかる引っ張り荷重の平均値が「密着力b」に相当する。
【0191】
すなわち、半導体用フィルム10によれば、個片83の縁部が第1粘着層1から離れようとするとき、および、個片83の中央部が第1粘着層1から離れようとするとき、第1粘着層1、第2粘着層2および支持フィルム4にかかる引っ張り荷重の大きさの差が比較的小さく抑えられるため、仮にピックアップの際に半導体素子71に反りが生じた場合でも、その反りの程度が最小限に抑えられることとなる。その結果、半導体素子71の割れや欠け等の不具合が最小限に抑えられることとなる。
【0192】
また、個片83の中央部(縁部以外の部分)の密着力bは、前述した第1粘着層1と接着層3との密着力の範囲にあることが好ましいが、その上で、0.05〜0.3N/cm程度であるのが好ましく、0.1〜0.25N/cm程度であるのがより好ましい。密着力bが前記範囲内にあることにより、個片83のピックアップ性が特に向上し、ピックアップの際に半導体素子71に割れや欠け、バリ等の不具合が発生するのを防止することができる。その結果、最終的に、信頼性の高い半導体装置100を高い歩留まりで製造することができる。
【0193】
なお、個片83の縁部とは、半導体素子71の外縁から、半導体素子71の幅の10%以下の領域を指すものとする。一方、個片83の中央部とは、前記縁部以外の領域を指すものとする。すなわち、半導体素子71の形状が、例えば平面視において10mm角の正方形である場合、外縁から1mm幅の領域が縁部であり、残りの領域が中央部となる。
【0194】
また、上記の密着力aおよび密着力bの範囲を考慮すると、密着力bは密着力aに比べ、総じて低い値を示し、場合によって数倍程度の差が生じることもあるものの、半導体素子71の割れや欠け等を防止する観点からは、個片83の平均の密着力は、0.1〜0.5N/cm程度であるのが好ましく、0.1〜0.4N/cm程度であるのがより好ましい。
【0195】
また、本実施形態では、切り込み81の先端を第1粘着層1内に留めることにより、半導体ウエハー7および接着層3は確実に個片化される一方、第1粘着層1および第2粘着層2は個片化されない。したがって、第3の工程において、個片83をピックアップする際に、第1粘着層1や第2粘着層2が支持フィルム4側に残すべきところ、不本意にも個片83側に貼り付いた状態でピックアップされてしまうのを防止することができる。これは、第1粘着層1および第2粘着層2を個片化しなかったことで、これらの面方向の繋がりが維持されるため、第1粘着層1と第2粘着層2との密着力、および、第2粘着層2と支持フィルム4との密着力の低下が防止されるためである。すなわち、第1粘着層1と第2粘着層2との密着力、および、第2粘着層2と支持フィルム4との密着力が、ピックアップにおける上方への引っ張り力に対して十分な抗力を有するためである。
【0196】
また、上述したように、第1粘着層1と第2粘着層2との密着力、および、第2粘着層2と支持フィルム4との密着力の低下が防止されることから、第1粘着層1と接着層3との密着力をより大きくしたとしても、ピックアップ性の低下が抑制される。すなわち、第1粘着層1と接着層3との密着力において、良好なピックアップを可能にする許容範囲をより拡大することができるため、半導体用フィルム10の製造容易性およびマウント後の半導体素子71と絶縁基板5との接着性が向上するという利点もある。
【0197】
<第2実施形態>
次に、本発明の半導体用フィルムおよび本発明の半導体装置の製造方法の第2実施形態について説明する。
【0198】
図4は、本発明の半導体用フィルムおよび本発明の半導体装置の製造方法の第2実施形態を説明するための図(縦断面図)である。なお、以下の説明では、図4中の上側を「上」、下側を「下」という。
【0199】
以下、第2実施形態について説明するが、前記第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。なお、図4において、第1実施形態と同様の構成部分については、先に説明した図1と同様の符号を付している。
【0200】
本実施形態にかかる半導体用フィルム10’は、粘着層の層構成が異なる以外は、前記第1実施形態と同様である。
【0201】
すなわち、図4に示す半導体用フィルム10’では、第1粘着層1が省略され、第2粘着層2の1層のみが設けられている。
【0202】
そして、このような半導体用フィルム10’を製造するにあたっては、第2粘着層2の上面のうち、接着層3と接する領域にあらかじめ紫外線を照射しておく。これにより、この領域の粘着性が失活し、結果として第2粘着層2と接着層3との密着力が低下する。その結果、第3の工程において個片83をピックアップする際に、大きな荷重をかけなくても個片83をピックアップすることが可能になることから、ピックアップ性の向上を図ることができる。
【0203】
一方、第2粘着層2の上面のうち、接着層3と接しない領域には紫外線が照射されないため、この領域では第2粘着層2の本来の粘着力が維持されることとなる。このため、第2粘着層2とウエハーリング9との密着力も維持され、ダイシング性の低下は防止されることとなる。
【0204】
換言すれば、第1実施形態では、粘着性の異なる2層の粘着層を用いることで、ダイシング性とピックアップ性の両立が図られているが、本実施形態では、第2粘着層2の一部領域のみ粘着性を低下させることで、1層の粘着層であっても、ダイシング性とピックアップ性を両立している。
【0205】
このような半導体用フィルム10’を、図4(a)に示すように、半導体ウエハー7と積層して、積層体8を得る。
【0206】
次いで、図4(b)に示すように、ダイシングブレード82を用いて積層体8に複数の切り込み81を形成する(ダイシング)。この際、図4(b)に示すように、切り込み81の先端が第2粘着層2内に留まるようにダイシングを行うことで、支持フィルム4の削り屑が発生し得ないことから、前記第1実施形態と同様の作用・効果が得られる。
その後、第3の工程および第4の工程を行うことにより、半導体装置が得られる。
【0207】
なお、第2粘着層2に照射する紫外線としては、好ましくは波長100〜400nm程度のもの、より好ましくは波長200〜380nm程度のものが用いられる。また、紫外線の照射時間としては、波長やパワーにもよるが、好ましくは10秒〜1時間程度、より好ましくは30秒〜30分程度とされる。このような紫外線によれば、第2粘着層2中の化学構造を変化させ、効率よく粘着性を失活させるとともに、第2粘着層2の粘着性が必要以上に低下してしまうのを防止することができる。
【0208】
また、第2粘着層2に照射するのは、紫外線に限られず、電子線、X線等の各種放射線であってもよい。
【0209】
なお、紫外線の照射は、本実施形態のように、第2粘着層2の上面のうち、接着層3と接する領域に対してあらかじめ照射する場合に限らない。例えば、第2粘着層2の構成材料が紫外線に感応して硬化するような材料である場合には、第2粘着層2と接着層3とを積層した後、第2粘着層2と接着層3と半導体ウエハー7とを積層した後、または、第2粘着層2と接着層3と半導体ウエハー7とを積層し、半導体ウエハー7をダイシングした後のいずれかにおいて紫外線を照射するようにしてもよい。このような場合、紫外線の照射に伴って第2粘着層2が硬化するため、照射領域に位置する第2粘着層2の粘着力が低下する。その結果、このような場合であっても、個片83のピックアップ性の向上を図ることができる。
【0210】
以上、本発明の半導体用フィルムおよび半導体装置の製造方法を、図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0211】
例えば、パッケージの形態は、BGA(Ball Grid Array)、LGA(Land Grid Array)等のCSP(Chip Size Package)、TCP(Tape Carrier Package)のような表面実装型のパッケージ、DIP(Dual Inline Package)、PGA(Pin Grid Array)のような挿入型のパッケージ等であってもよく、特に限定されない。
【0212】
また、前記各実施形態では、絶縁基板5上に個片83をマウントする場合について説明したが、この個片83は、別の半導体素子上にマウントするようにしてもよい。すなわち、本発明の半導体装置の製造方法は、複数の半導体素子を積層してなるチップスタック型の半導体装置を製造する場合にも適用することができる。これにより、ピックアップ不良のおそれや半導体素子間に削り屑等が侵入するおそれがなくなり、信頼性の高いチップスタック型の半導体装置を高い製造歩留まりで製造することができる。
【0213】
また、前記第1実施形態では、先端が第1粘着層1内に留まるように切り込み81を形成する場合について説明しているが、先端が第2粘着層2内に留まるように切り込み81を形成する場合でも、物質の染み出しを抑制する効果はやや薄れるものの、前記第1実施形態とほぼ同様の作用・効果が得られる。
【0214】
また、本発明の半導体装置の製造方法では、必要に応じて、任意の工程を追加することもできる。
【実施例】
【0215】
以下、本発明の具体的実施例について説明する。
1.半導体装置の製造
(実施例1)
<1>第1粘着層の形成
アクリル酸2−エチルヘキシル30重量%と酢酸ビニル70重量%とを共重合して得られた重量平均分子量300,000の共重合体100重量部と、分子量が700の5官能アクリレートモノマー45重量部と、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン5重量部と、トリレンジイソシアネート(コロネートT−100、日本ポリウレタン工業(株)製)3重量部と、を剥離処理した厚さ38μmのポリエステルフィルムに対して、乾燥後の厚さが10μmになるように塗布し、その後、80℃で5分間乾燥した。そして、得られた塗布膜に対して紫外線500mJ/cmを照射し、ポリエステルフィルム上に第1粘着層を成膜した。
なお、得られた第1粘着層のショアD硬度は、40であった。
【0216】
<2>第2粘着層の形成
アクリル酸ブチル70重量%とアクリル酸2−エチルヘキシル30重量%とを共重合して得られた重量平均分子量500,000の共重合体100重量部と、トリレンジイソシアネート(コロネートT−100、日本ポリウレタン工業(株)製)3重量部と、を剥離処理した厚さ38μmのポリエステルフィルムに対して、乾燥後の厚さが10μmになるように塗布し、その後、80℃で5分間乾燥した。そして、ポリエステルフィルム上に第2粘着層を成膜した。その後、支持フィルムとして厚さ100μmのポリエチレンシートをラミネートした。
なお、得られた第2粘着層のショアA硬度は、80であった。
【0217】
<3>接着層の形成
アクリル酸エステル共重合体(エチルアクリレート−ブチルアクリレート−アクリロニトリル−アクリル酸−ヒドロキシエチルメタクリレート共重合体のメチルエチルケトン(MEK)溶解品、ナガセケムテックス(株)製、SG−708−6、Tg:6℃、重量平均分子量:500,000)の固形成分で100重量部と、フェノキシ樹脂(JER1256、重量平均分子量:50,000、ジャパンエポキシレジン(株)製)9.8重量部と、フィラーとして添加される球状シリカ(SC1050、平均粒径:0.3μm、(株)アドマテックス製)90.8重量部と、カップリング剤として添加されるγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(KBM403E、信越化学工業(株)製)1.1重量部と、フェノール樹脂(PR−53647、水酸基当量104g/OH基、住友ベークライト(株)製)0.1重量部とを、メチルエチルケトンに溶解して、樹脂固形分20重量%の樹脂ワニスを得た。
【0218】
なお、フィラーとして添加される球状シリカは、プロピレングリコールモノメチルエーテル92重量%、メチルエチルケトン8重量%に分散させたスラリーの状態で添加された。
【0219】
また、原料の撹拌・混練は、ビーズミルを用いて行った。なお、ビーズとして、平均粒径200μmのジルコニアビーズを用いた。
なお、第3樹脂組成物の樹脂ワニスの粘度は、500mPa・sであった。
【0220】
次に、得られた樹脂ワニスを、コンマコーターによりポリエチレンテレフタレートフィルム(帝人デュポンフィルム(株)製、品番ピューレックスA43、厚さ38μm)に塗布した後、温度150℃で3分間乾燥して、ポリエチレンテレフタレートフィルム上に厚さ25μmの接着層を成膜した。
【0221】
ここで、得られた接着層の表面について、走査型電子顕微鏡(日本電子(株)製、JSM6060LV)により加速電圧5kV、倍率2000倍にて観察し、濃淡画像からなる観察像を得た。そして、得られた観察像について濃度ヒストグラムを求めるとともに、Pタイル法により濃度のしきい値を決定した。なお、しきい値は、パターン面積比率25%の設定にて決定したものである。このようにして観察像に2値化の画像処理を施した。
【0222】
次いで、明画素が集積した粒子状の領域について、その外径を測定したところ、平均して6.7μmであった。
【0223】
また、Siが集積した粒子状の領域のうち、粒径5μm以上の領域が占める面積は、観察像全体の9%であった。
【0224】
さらに、接着層の表面について平均表面粗さRaを測定したところ、0.2μmであった。
【0225】
<4>半導体用フィルムの製造
第1粘着層を成膜したフィルムと、接着層を成膜したフィルムとを、第1粘着層と接着層とが接するようにラミネート(積層)し、第1粘着層側のポリエステルフィルムを剥離して、積層体を得た。
【0226】
次にロール状の金型を用いて、第1粘着層と接着層を半導体ウエハーの外径よりも大きく、かつウエハーリングの内径よりも小さく打ち抜き、その後不要部分を除去して、第2積層体を得た。
【0227】
さらに第2粘着層の一方の面側にあるポリエステルフィルムを剥離する。そして前記第2積層体の第1粘着層と第2粘着層とが接するように、これらを積層した。これにより、ポリエチレンシート(支持フィルム)、第2粘着層、第1粘着層、接着層およびポリエステルフィルムの5層がこの順で積層してなる半導体用フィルムを得た。
【0228】
<5>半導体装置の製造
次に、厚さ100μm、8インチのシリコンウエハーを用意した。
【0229】
そして、半導体用フィルムからポリエステルフィルムを剥離し、その剥離面にシリコンウエハーを60℃で積層した。これにより、ポリエチレンシート(支持フィルム)、第2粘着層、第1粘着層、接着層およびシリコンウエハーの5層がこの順で積層してなる積層体を得た。
【0230】
次いで、この積層体をシリコンウエハー側から、ダイシングソー(DFD6360、(株)ディスコ製)を用いて以下の条件でダイシング(切断)した。これにより、シリコンウエハーが個片化され、以下のダイシングサイズの半導体素子を得た。
【0231】
<ダイシング条件>
・ダイシングサイズ :10mm×10mm角
・ダイシング速度 :50mm/sec
・スピンドル回転数 :40,000rpm
・ダイシング最大深さ :0.130mm(シリコンウエハーの表面からの切り込み量)
・ダイシングブレードの厚さ:15μm
・切り込みの横断面積 :7.5×10−5mm(接着層と第1粘着層との界面より先端側の部分の横断面積)
【0232】
なお、このダイシングにより形成された切り込みは、その先端が第1粘着層内に達していた。
【0233】
ここで、切り込みを形成した積層体について、半導体素子のピックアップ性を評価するため、半導体素子(個片)の90°ピール強度(密着力)を測定した。このピール強度は、半導体素子の上面に1cm幅の短冊状の粘着フィルムを23℃(室温)で貼り付け、その後、23℃(室温)において、この支持フィルムの側より剥離角90°でかつ引っ張り速度50mm/minで引き剥がしたときの荷重とした。
【0234】
この測定の結果、本実施例では、ピール強度が0.1〜0.4N/cmの比較的狭い範囲に収まっていた。
【0235】
次いで、半導体素子の1つを半導体用フィルムの裏面からニードルで突き上げ、突き上げた半導体素子の表面をダイボンダのコレットで吸着しつつ上方に引き上げた。これにより、半導体素子と接着層の個片をピックアップした。
【0236】
次に、ピックアップした個片を、ソルダーレジスト(太陽インキ製造(株)製、商品名:AUS308)をコーティングしたビスマレイミド−トリアジン樹脂基板(回路段差5〜10μm)に、温度130℃、荷重5Nで、1.0秒間圧着して、ダイボンディングした。
【0237】
次いで、半導体素子と樹脂基板とをワイヤボンディングにより電気的に接続した。
そして、樹脂基板上の半導体素子およびボンディングワイヤを、封止樹脂EME−G760で封止し、温度175℃で2時間の熱処理に供した。これにより、封止樹脂を硬化させて半導体装置を得た。なお、本実施例では、かかる半導体装置を100個作製した。
【0238】
(実施例2)
接着層の成膜時において、ビーズミルに投入する第3樹脂組成物の樹脂ワニスにおける樹脂固形分を22重量%として、樹脂ワニスの粘度を1000mPa・sとした以外は、前記実施例1と同様にして半導体装置を得た。
【0239】
ここで、得られた接着層の表面について、実施例1と同様にして走査型電子顕微鏡で得られた観察像に2値化の画像処理を施した。
【0240】
次いで、明画素が集積した粒子状の領域について、その外径を測定したところ、平均して8.2μmであった。
【0241】
また、Siが集積した粒子状の領域のうち、粒径5μm以上の領域が占める面積は、観察像全体の9%であった。
【0242】
さらに、接着層の表面について平均表面粗さRaを測定したところ、0.4μmであった。
【0243】
(実施例3)
接着層の成膜時において、ビーズミルに投入する第3樹脂組成物の樹脂ワニスにおける樹脂固形分を25重量%として、樹脂ワニスの粘度を1500mPa・sとした以外は、前記実施例1と同様にして半導体装置を得た。
【0244】
ここで、得られた接着層の表面について、実施例1と同様にして走査型電子顕微鏡で得られた観察像に2値化の画像処理を施した。
【0245】
次いで、明画素が集積した粒子状の領域について、その外径を測定したところ、平均して9.1μmであった。
【0246】
また、Siが集積した粒子状の領域のうち、粒径5μm以上の領域が占める面積は、観察像全体の11%であった。
【0247】
さらに、接着層の表面について平均表面粗さRaを測定したところ、0.6μmであった。
【0248】
(実施例4)
ビーズ径を400μmとした以外は、前記実施例3と同様にして半導体装置を得た。
【0249】
ここで、得られた接着層の表面について、実施例1と同様にして走査型電子顕微鏡で得られた観察像に2値化の画像処理を施した。
【0250】
次いで、明画素が集積した粒子状の領域について、その外径を測定したところ、平均して11μmであった。
【0251】
また、Siが集積した粒子状の領域のうち、粒径5μm以上の領域が占める面積は、観察像全体の14%であった。
【0252】
さらに、接着層の表面について平均表面粗さRaを測定したところ、0.6μmであった。
【0253】
(実施例5)
接着層の成膜時において、ビーズミルに投入する第3樹脂組成物の樹脂ワニスの粘度を3000mPa・sとした以外は、前記実施例1と同様にして半導体装置を得た。
【0254】
ここで、得られた接着層の表面について、実施例1と同様にして走査型電子顕微鏡で得られた観察像に2値化の画像処理を施した。
【0255】
次いで、明画素が集積した粒子状の領域について、その外径を測定したところ、平均して13μmであった。
【0256】
また、Siが集積した粒子状の領域のうち、粒径5μm以上の領域が占める面積は、観察像全体の10%であった。
【0257】
さらに、接着層の表面について平均表面粗さRaを測定したところ、1.0μmであった。
【0258】
(実施例6)
接着層の成膜時において、ビーズミルに投入する第3樹脂組成物の溶解に使用するメチルエチルケトンの代わりにプロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)を用いた以外は、前記実施例1と同様にして半導体装置を得た。
【0259】
ここで、得られた接着層の表面について、実施例1と同様にして走査型電子顕微鏡で得られた観察像に2値化の画像処理を施した。
【0260】
次いで、明画素が集積した粒子状の領域について、その外径を測定したところ、平均して7.5μmであった。
【0261】
また、Siが集積した粒子状の領域のうち、粒径5μm以上の領域が占める面積は、観察像全体の5%であった。
【0262】
さらに、接着層の表面について平均表面粗さRaを測定したところ、0.2μmであった。
【0263】
(比較例1)
接着層の成膜時において、ビーズミルに投入する第3樹脂組成物の粘度を3500mPa・sとした以外は、前記実施例1と同様にして半導体装置を得た。
【0264】
ここで、得られた接着層の表面について、実施例1と同様にして走査型電子顕微鏡で得られた観察像に2値化の画像処理を施した。
【0265】
次いで、明画素が集積した粒子状の領域について、その外径を測定したところ、平均して12μmであった。
【0266】
また、Siが集積した粒子状の領域のうち、粒径5μm以上の領域が占める面積は、観察像全体の17%であった。
【0267】
さらに、接着層の表面について平均表面粗さRaを測定したところ、2.4μmであった。
【0268】
(比較例2)
接着層の成膜時において、ボールミルを用いた以外は、前記実施例1と同様にして半導体装置を得た。なお、ボールミルのボール径は、8mmであった。
【0269】
ここで、得られた接着層の表面について、実施例1と同様にして走査型電子顕微鏡で得られた観察像に2値化の画像処理を施した。
【0270】
次いで、明画素が集積した粒子状の領域について、その外径を測定したところ、平均して15μmであった。
【0271】
また、Siが集積した粒子状の領域のうち、粒径5μm以上の領域が占める面積は、観察像全体の22%であった。
【0272】
さらに、接着層の表面について平均表面粗さRaを測定したところ、4.2μmであった。
【0273】
2.ダイシング性およびピックアップ性の評価
2.1 ダイシング性
まず、各実施例および各比較例におけるダイシング性を評価した。具体的には、各実施例および各比較例において、半導体ウエハーを個片化して100個の半導体素子を製造する際に、個片の脱離の有無を以下の評価基準に従って評価した。
【0274】
<ダイシング性の評価基準>
◎:脱離した半導体素子の個数が0個
○:脱離した半導体素子の個数が1個以上3個未満
△:脱離した半導体素子の個数が3個以上5個未満
×:脱離した半導体素子の個数が5個以上
【0275】
2.2 ピックアップ性
次いで、個片化した半導体素子のピックアップ性を評価するため、各実施例および各比較例における半導体素子の90°ピール強度を測定した。このピール強度は、半導体素子の上面に1cm幅の短冊状の粘着フィルムを23℃(室温)で貼り付け、その後、23℃(室温)において、この支持フィルムの側より剥離角90°でかつ引っ張り速度50mm/minで引き剥がしたときの端部における荷重とした。
【0276】
そして、測定した荷重を、ピール強度の基準範囲0.1〜0.4N/cmを用いた以下の評価基準に従って評価した。
【0277】
<ピックアップ性の評価基準>
◎:基準範囲から逸脱する半導体素子の個数が0個
○:基準範囲から逸脱する半導体素子の個数が1個以上5個未満
△:基準範囲から逸脱する半導体素子の個数が5個以上10個未満
×:基準範囲から逸脱する半導体素子の個数が10個以上
以上2.1、2.2の評価結果を表1に示す。
【0278】
【表1】

【0279】
表1からも明らかなように、各実施例では優れたダイシング性を示す一方、比較例の中にはダイシング性に劣るものがあった。
【0280】
また、各実施例では、いずれも、100個の半導体素子の全てにおいて、端部におけるピール強度が0.1〜0.4N/cmの比較的狭い範囲に収まっていた。すなわち、半導体素子を前記範囲の荷重で引っ張りさえすれば、安定的にピックアップを行うことができることがわかった。
【0281】
一方、各比較例では、ピール強度のバラツキが大きくなり、ピックアップが不安定になった。
【0282】
なお、図5には、実施例1で得られた接着層の表面に対する走査型電子顕微鏡による観察像(a)と、比較例1で得られた接着層の表面に対する走査型電子顕微鏡による観察像(b)とを示す。
【0283】
図5からも明らかなように、実施例1で得られた接着層は、比較例1で得られた接着層に比べて、平滑性が高いことが認められる。
【符号の説明】
【0284】
1 第1粘着層
11 外周縁
2 第2粘着層
21 外周部
3、31 接着層
4 支持フィルム
41 外周部
4a、4b 基材
5 絶縁基板
61〜64 積層体
7 半導体ウエハー
71 半導体素子
8 積層体
81 切り込み
82 ダイシングブレード
83 個片
84 ワイヤ
85 モールド層
86 ボール状電極
9 ウエハーリング
10、10’ 半導体用フィルム
100 半導体装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子状のフィラーを含む接着層と少なくとも1層の粘着層と支持フィルムとがこの順で積層されてなり、前記接着層の前記粘着層と反対側の面に半導体ウエハーを積層させ、この状態で該半導体ウエハーおよび前記接着層を切断してそれぞれ個片化し、得られた個片を前記支持フィルムからピックアップする際に用いる半導体用フィルムであって、
前記接着層の表面近傍に存在する前記フィラー単体または複数の前記フィラーが凝集してなる凝集体の前記表面に投影した投影像について、粒径5μm以上のものが占める面積が、前記投影像全体の15%以下であることを特徴とする半導体用フィルム。
【請求項2】
前記粒径は、前記接着層の表面の走査型電子顕微鏡による観察像において、前記観察像の濃度を2値化することにより、前記観察像を構成する全画素を明画素と暗画素とに区別したとき、前記フィラーに対応する領域の外径に相当するものである請求項1に記載の半導体用フィルム。
【請求項3】
前記フィラー単体または複数の前記フィラーが凝集してなる凝集体のうち、5μm以上のものの平均粒径は、5〜15μmである請求項1または2に記載の半導体用フィルム。
【請求項4】
前記フィラーの構成材料は、セラミックス材料である請求項1ないし3のいずれかに記載の半導体用フィルム。
【請求項5】
前記接着層の表面の表面粗さRaは、2μm以下である請求項1ないし4のいずれかに記載の半導体用フィルム。
【請求項6】
前記個片を前記粘着層から剥離させる際に測定される密着力は、0.1〜0.5(N/cm)の範囲内にある請求項1ないし5のいずれかに記載の半導体用フィルム。
【請求項7】
前記接着層の外周縁は、前記粘着層の外周縁よりも内側に位置している請求項1ないし6のいずれかに記載の半導体用フィルム。
【請求項8】
前記粘着層の前記接着層側の面の前記半導体ウエハーを積層させる領域に、前記半導体ウエハーとの積層に先立ってあらかじめ紫外線が照射されている請求項1ないし7のいずれかに記載の半導体用フィルム。
【請求項9】
前記粘着層は、複数の層で構成されている請求項1ないし8のいずれかに記載の半導体用フィルム。
【請求項10】
前記複数の層は、前記半導体ウエハー側に位置する第1粘着層と、この第1粘着層の前記支持フィルム側に隣接し、前記第1粘着層よりも粘着性の大きい第2粘着層とを含んでいる請求項9に記載の半導体用フィルム。
【請求項11】
前記接着層の外周縁および前記第1粘着層の外周縁は、それぞれ、前記第2粘着層の外周縁よりも内側に位置している請求項10に記載の半導体用フィルム。
【請求項12】
前記第2粘着層の硬度は、前記第1粘着層の硬度より小さい請求項10または11に記載の半導体用フィルム。
【請求項13】
前記第1粘着層のショアD硬度は、20〜60である請求項10ないし12のいずれかに記載の半導体用フィルム。
【請求項14】
前記接着層と半導体ウエハーとが接するように、請求項1ないし13のいずれかに記載の半導体用フィルムと半導体ウエハーとを積層し、積層体を得る第1の工程と、
前記半導体ウエハー側から前記積層体に切り込みを設けることにより、前記半導体ウエハーを個片化し、複数の半導体素子を得る第2の工程と、
前記半導体素子をピックアップする第3の工程とを有することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項15】
前記切り込みは、その最深部が、前記粘着層内に位置するように設けられる請求項14に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項16】
前記接着層は、ビーズミルを用いて原料を撹拌・混練してなる組成物を、基材上に成膜して形成されたものであり、
前記組成物の樹脂ワニスの粘度は、100〜3000mPa・sである請求項14または15に記載の半導体装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−35076(P2011−35076A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−178369(P2009−178369)
【出願日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】