説明

圧電アクチュエータの位置制御駆動方法、圧電アクチュエータの位置制御駆動装置、および電子機器

【課題】位置制御性能を高くできるとともに、構成が簡略であって、磨耗を格段に低減できる圧電アクチュエータの位置制御駆動方法、圧電アクチュエータの位置制御駆動装置の提供。
【解決手段】圧電アクチュエータの位置制御駆動方法では、駆動信号をオンとするとともに、ロータの位置の検出に基いてロータが位置出し開始位置X1に達したか否かを判定し、達したと判定されるまで、オンを継続した後、駆動信号をオフとする継続送り工程P11と、位置出し開始位置X1を超えた位置から目標位置X0を含む位置までで設定された複数の制御位置にロータが順次達するように、各制御位置について、ロータが当該制御位置に達したか否かを判定し、達していないと判定された際は、駆動信号をオンとし、達したと判定された際は、駆動信号をオフとするとともに、次の制御位置についての判定に移行する微動送り工程P12とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電アクチュエータの位置制御駆動方法、圧電アクチュエータの位置制御駆動装置、および電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電素子は、電気エネルギーから機械エネルギーへの変換効率や、応答性などに優れているため、近年、圧電素子を有する振動体を備え、この振動体の振動をロータなどの被駆動体に伝達して駆動する圧電アクチュエータ(超音波モータ)が開発されている。今後は、プリンタ、電子時計、カメラ、玩具などの各種電子機器に従来組み込まれている電磁モータなどに代わり、圧電アクチュエータの利用が拡大される見通しであり、圧電アクチュエータの位置制御性能が従来以上に求められている。
ここで、電磁モータの駆動における被駆動体(カメラレンズ)の位置制御(合焦)に関しては、被駆動体が目標位置に達する前に、PWM(Pulse Width Modulation)制御によりモータ回転速度を低速にし、慣性力を小さくして被駆動体を目標位置に停止させる方法が知られている(例えば、特許文献1)。
このような速度制御(スピードコントロール)による位置制御方法では、被駆動体を目標位置に正確に停止させるために、モータ速度を緻密にフィードバックして位置制御する必要がある。
圧電アクチュエータの駆動制御の場合、メカ体である圧電素子を構成に含み、オープンループによる位置制御ができないことから、被駆動体の速度をフィードバックし、この速度制御ループと、位置制御ループとを用いて駆動制御することが考えられる。
【0003】
【特許文献1】特許第3650458号公報(明細書段落「0275」〜「0286」、図23、図58)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、圧電アクチュエータの位置制御において、検出された速度に駆動信号を追従させる速度フィードバック制御を行うと、加減速を始終繰り返すことになり、振動体および被駆動体の磨耗が大きくなるおそれがある。
また、このような加減速の過程で、圧電アクチュエータの出力が規定の出力よりも小さいときがあり、所定の駆動効率を発揮できないため、被駆動体を送る指令の出力後、目標位置に被駆動体を停止させるまでの時間(以下、目標応答時間という)が余分に掛かる。
さらに、圧電アクチュエータの駆動特性を図17に示したように、駆動周波数を掃引した際の移動量(ロータ回転量)および圧電素子における電流値の変化が線形ではないため、圧電アクチュエータの速度制御自体が非常に困難である。
そして、特許文献1のようなPWM制御による速度制御の場合、駆動信号よりも十分に高い周波数での基準パルス信号が必要となるので、回路電流の増加を招くとともに、回路構成の難易度が高い。
【0005】
一方、このような速度制御以外により、位置制御を行う簡略な方法として、駆動信号をオンオフで規定し、駆動信号オンで圧電アクチュエータを駆動するととともに、目標位置近傍で駆動信号をオフとして被駆動体を停止させるオンオフ制御が考えられる。ただし、このようなオンオフ制御では、オン時の圧電アクチュエータの出力が大きく、オン時から急にオフして圧電アクチュエータを非駆動状態とすることにより、発振が生じやすいとともに、オフとした時点から振動体の発振が収束するまでに時間を要する。これにより、被駆動体が目標位置に停止せずに位置制御性能が低下してしまう。
【0006】
このような問題に鑑みて、本発明の目的は、位置制御性能を高くできるとともに、構成が簡略であって、磨耗を格段に低減できる圧電アクチュエータの位置制御駆動方法、圧電アクチュエータの位置制御駆動装置、および電子機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の圧電アクチュエータの位置制御駆動方法は、圧電素子を有しこの圧電素子への駆動信号の供給により振動する振動体を備えて前記振動体の振動を被駆動体に伝達する圧電アクチュエータの駆動において、前記被駆動体を所定の目標位置に停止させる位置制御駆動方法であって、前記圧電素子を駆動するように前記駆動信号をオンとするとともに、前記被駆動体の位置の検出に基いて前記被駆動体が前記目標位置手前の所定位置である位置出し開始位置に達したか否かを判定し、当該判定において前記被駆動体が前記位置出し開始位置に達したと判定されるまで、前記オンを継続した後、前記圧電素子を非駆動とするように前記駆動信号をオフとする継続送り工程と、前記位置出し開始位置を超えた位置から前記目標位置を含む位置までで設定された複数の制御位置に前記被駆動体が順次達するように前記被駆動体を微動送りする工程であって、前記継続送り工程後、前記各制御位置について、前記被駆動体が当該制御位置に達したか否かを判定し、当該判定において前記制御位置に達していないと判定された際は、前記駆動信号を前記オンとし、当該判定において前記被駆動体が前記制御位置に達したと判定された際は、前記駆動信号を前記オフとするとともに、当該制御位置の次の制御位置についての判定に移行する微動送り工程とを備えることを特徴とする。
【0008】
この発明によれば、被駆動体の位置制御に際して、被駆動体の速度の制御を行わず、駆動信号のオンオフで位置制御する構成であるため、速度制御ループなどを不要にでき、構成を簡略にできる。
また、速度制御を行わずに被駆動体の加減速を抑制したので、振動体と被駆動体との間のすべり距離を小さくでき、磨耗を低減できる。
ここで、継続送り工程では、駆動信号を継続的にオンとして被駆動体を略一定の出力で駆動したので、速度制御をした場合と比べて、振動体と被駆動体との間のすべり距離を極力小さくできることになり、磨耗を格段に低減できる。これにより、磨耗による圧電アクチュエータの駆動効率の低下等を防止できる。加えて、圧電アクチュエータの出力を略一定にできるので、所定の駆動効率を発揮でき、オンの継続により被駆動体の移動速度も緩やかに増加するので、目標応答時間を短縮できる。
【0009】
さらに、駆動信号のオンを継続するのは、被駆動体が位置出し開始位置に到達するまでとし、それ以降は、目標位置に向かって、被駆動体を微動送りする構成(微動送り工程)とした。この微動送り工程は、位置出し開始位置から目標位置までを複数に区切り、複数の各制御位置に達したか否かを基準に被駆動体を送る微動送りを実施するもので、圧電アクチュエータの駆動原理による特長、すなわち、超音波振動により、微小な位置間隔で被駆動体を送ることが可能であるとともに、圧電素子自体が振動するため応答速度が速いことを生かしたものである。
このような微動送り工程でも、駆動信号のオンオフによる制御を実施するので、低速にして位置出しする場合などと比べて、磨耗の点で有利であるとともに、規定のオン出力により所定の駆動性能を発揮できるので、目標応答時間を短くできる。
また、オン時に規定の出力で圧電アクチュエータを駆動して被駆動体を送った後のオフ時、被駆動体は振動体との摩擦により速度低下して停止に向かうが、被駆動体が制御位置に達すると、到達を判定する位置が次の制御位置に移るので、再び、オン出力により被駆動体が微動送りされる。このような微動送りを制御位置の数に応じて繰り返し、被駆動体を目標位置に徐々に近付けることができるので、振動体および被駆動体の発振を防止できるとともに、たとえ発振が生じた場合であっても、発振が収束するまでの時間を短縮できる。これにより、被駆動体を目標位置に停止させることが容易となり、位置精度を高くできる。
そして、オフ時にも振動体および被駆動体は慣性により駆動するので、速度制御を始終実施する場合などと比べて、低電力化できる。
【0010】
制御位置は、少なくとも、位置出し開始位置と目標位置との間の位置と、目標位置との2箇所に設定される。この場合、目標位置である制御位置の次の制御位置はないので、当該制御位置に被駆動体が到達した時点で、位置制御を終了する。
なお、目標位置を入れずに、位置出し開始位置と目標位置との間で複数の制御位置を設定しても勿論よい。
さらに、位置出し開始位置と制御位置とは、圧電アクチュエータ駆動のオンオフを行うという点では、同様に構成できるので、回路やソフトウェアの構成を簡略にできる。
また、制御位置が設定される数は、(位置出し開始位置から目標位置までの距離/被駆動体の位置を検出するセンサの最小分解能)の値以下とすることが好ましく、各制御位置の値は、センサの最小分解能で離散的な数値で量子化することが好ましい。
【0011】
本発明の圧電アクチュエータの位置制御駆動方法では、前記微動送り工程は、前記判定において前記被駆動体が前記目標位置を越えたと判定した際に、前記被駆動体を正方向とは逆方向に移動させる目標位置停止判定工程を備えることが好ましい。
【0012】
この発明によれば、オン出力による駆動と、振動体および被駆動体の慣性とにより、被駆動体が目標位置を超えた場合であっても、目標位置停止判定工程により、被駆動体を逆方向に移動して目標位置に戻すことが可能となるため、被駆動体を目標位置により正確に停止させることができる。
【0013】
本発明の圧電アクチュエータの位置制御駆動方法では、前記微動送り工程を、前記継続送り工程における前記オフの状態で所定の待機時間が経過した後、開始することが好ましい。
【0014】
この発明によれば、オフ時でも振動体および被駆動体が慣性で駆動するが、待機時間の経過により、被駆動体の速度が極めて低下し、あるいは停止してから微動送り工程に移行するので、発振が殆んど生じない。また、発振が生じたとしても、極めて短時間で収束させることが可能となる。これにより、位置精度が一層向上する。
なお、同じ理由により、微動送り工程においても、駆動信号をオフとした状態で所定の待機時間が経過した後、制御位置の次の制御位置についての判定に移行することが好ましい。ここで、継続送り工程および微動送り工程における各待機時間については、(目標応答時間)/(位置出し開始位置および制御位置の数)の値以下で、適宜設定される。
【0015】
本発明の圧電アクチュエータの位置制御駆動方法では、前記位置出し開始位置の前記目標位置からの距離は、前記継続送り工程を行う前における前記被駆動体の位置から前記目標位置までの距離の1/3以下とすることが好ましい。
【0016】
この発明によれば、継続送り工程および微動送り工程全体で送られる被駆動体の距離全体に対して、継続送り工程で被駆動体が送られる距離が2/3を超えるほど大きいため、継続送り工程における前述した効果、すなわち、振動体と被駆動体とのすべり距離が小さくなることによる磨耗低減と、規定出力での駆動性能発揮による目標応答時間短縮とを、ともに大きくできる。
ここで、本発明の被駆動体には、回転するロータや、スライダなどを有して直線的に駆動するものが含まれるが、被駆動体がロータである場合、前記の距離は、回転数として把握できる。
【0017】
本発明の圧電アクチュエータの位置制御駆動方法において、前記微動送り工程では、前記位置出し開始位置から前記目標位置までの途中で前記制御位置間の間隔が変わり、前記位置出し開始位置側における前記間隔を、前記目標位置側における前記間隔よりも大きくすることが好ましい。
【0018】
この発明によれば、位置出し開始位置により近接する制御位置同士の間隔が大きいため、継続送り工程における継続的なオン出力によって慣性力が増大する被駆動体を、出力オフの間に、振動体との摩擦によって停止に向かわせることができる。これにより、振動体および被駆動体の発振をより良く防止できる。
このようにして位置出し開始位置側で被駆動体の慣性力を小さくした後は、目標位置側において、位置出し開始位置側よりも一層微小な送り量で微動送りすることが可能となるから、目標位置への位置精度がより一層向上する。
これにより、被駆動体を逆方向に移動して目標位置に停止させることを不要にできる。
【0019】
なお、目標位置側では、制御位置の間隔を被駆動体の慣性力、振動体および被駆動体の発振を加味して狭くすることで、目標応答速度を速くすることができる。
また、位置出し開始位置から最初の制御位置までの間隔も、大きくとることが好ましい。
なお、制御位置の間隔が変わるのは、位置出し開始位置から目標位置までで途中1回でも、複数回でもよい。複数回変わる場合は、制御位置の間隔を次第に小さくすることが好ましい。
【0020】
本発明の圧電アクチュエータの位置制御駆動方法において、前記微動送り工程では、前記位置出し開始位置から前記目標位置までの途中で前記駆動信号の前記オン時の出力が変わり、前記目標位置側における前記出力を、前記位置出し開始位置側における前記出力よりも小さくすることが好ましい。
【0021】
この発明によれば、目標位置側におけるオン出力が小さいことにより、目標位置側において、位置出し開始位置側よりも一層微小な送り量で微動送りすることが可能となるから、目標位置への位置精度がより一層向上する。
なお、オン出力が変わるのは、位置出し開始位置から目標位置までで途中1回でも、複数回でもよい。複数回変わる場合は、オン出力を次第に小さくすることが好ましい。
【0022】
本発明の圧電アクチュエータの位置制御駆動装置は、圧電素子を有しこの圧電素子への駆動信号の供給により振動する振動体を備えて前記振動体の振動を被駆動体に伝達する圧電アクチュエータの駆動において、前記被駆動体を所定の目標位置に停止させる位置制御駆動装置であって、前記駆動信号の供給を制御する制御手段と、前記被駆動体の位置を検出する位置検出手段と、前記制御手段の出力をオンオフで操作する操作信号を前記制御手段に入力する位置制御手段とを備え、前記位置制御手段は、前記位置検出手段による検出に基いて前記被駆動体が前記目標位置手前の所定位置である位置出し開始位置に達したか否かを判定し、当該判定において前記被駆動体が前記位置出し開始位置に達したと判定されるまで、前記操作信号を継続的にオンとした後、前記操作信号をオフとし、前記位置出し開始位置から前記目標位置までの間で設定された複数の制御位置それぞれについて、前記被駆動体が当該制御位置に達したか否かを判定し、当該判定において前記制御位置に達していないと判定された際は、前記操作信号をオンとし、当該判定において前記被駆動体が前記制御位置に達したと判定された際は、前記操作信号をオフとするとともに、当該制御位置の次の制御位置についての判定に移行する微動送りを実施することを特徴とする。
【0023】
この発明によれば、継続送り工程に続いて微動送り工程を実施することにより、前述と同様の作用効果を享受できる。
【0024】
本発明の圧電アクチュエータの位置制御駆動装置では、前記位置制御手段は、前記各制御位置にそれぞれ対応した複数の制御器により、構成されていることが好ましい。
【0025】
この発明によれば、制御位置に応じて複数の制御器に位置制御手段の構成を分けることにより、制御位置のパラメータを各制御器に与えるだけで、これらの制御器の構成を略同様に構成できる。部品としての制御器の共通化を図ることができ、回路やソフトウェアの設計などを簡略化できる。
【0026】
本発明の圧電アクチュエータの位置制御駆動装置では、前記振動体は、複数の振動モードで振動し、前記駆動信号は、単相であることが好ましい。
この発明によれば、単相の駆動信号の供給により圧電素子を複数の振動モードで駆動するので、多相の駆動信号を用いる場合と比べて、構成を簡略にできる。
例えば、矩形板状とした振動体が縦一次振動と屈曲二次振動とを励振する場合、これら縦振動と屈曲振動との位相差により、振動体の一部における楕円運動を実現し得る単相の駆動信号の印加により、簡略な構成で、ロータなどの被駆動体を高効率で駆動できる。
【0027】
本発明の電子機器は、圧電アクチュエータと、この圧電アクチュエータで駆動される被駆動体と、前述の圧電アクチュエータの位置制御駆動装置とを備えることを特徴とする。
【0028】
この発明によれば、前述の圧電アクチュエータの位置制御駆動装置を備えたことにより、前述と同様の作用および効果を享受できる。
すなわち、磨耗を格段に低減できるから、長寿命な製品を提供できる。また、圧電アクチュエータの交換などの回数を減らし、メンテナンス性を向上させることができる。
さらに、位置精度が高く、また、速度制御する構成を不要にできる簡略な構成であるから、低コスト化できる。そして、駆動効率の高さにより、目標応答時間の高速化を実現できる。
なお、電子機器としては、プリンタ、カメラ、携帯電話、携帯情報端末、可動玩具、顕微鏡、望遠鏡などを例示できる。
【0029】
本発明の電子機器は、計時部と、前記計時部で計時された計時情報を表示する計時情報表示部とを備えた時計であることが好ましい。
【0030】
この発明によれば、前述の圧電アクチュエータにより、計時部を構成する歯車や、計時情報表示部を構成する指示部材等を正確に位置出しして駆動することが可能となり、信頼性を向上させることができる。
加えて、圧電アクチュエータにおける利点、すなわち、磁気の影響を受けない、小型薄型化に有利、高トルクなどを実現できる。
【0031】
本発明の電子機器は、紙送り手段を備えたプリンタであり、前記被駆動体は、前記紙送り手段が有するローラであることが好ましい。
【0032】
位置決め精度が要求されるプリンタの紙送り手段におけるローラを駆動するために本発明を用いることにより、本発明による効果をより大きいものにできる。
【0033】
なお、前述した圧電アクチュエータの位置制御駆動装置は、ハードウェアで実現することもできるが、制御プログラムを用いて実現することもできる。
この制御プログラムでは、前述の位置制御駆動装置に組み込まれたコンピュータを、制御手段、位置制御手段、位置検出手段などとして機能させればよい。
このように構成すれば、前述の位置制御駆動装置と同様の作用効果を奏することができる。
ここで、この制御プログラムは、ネットワークなどを介してコンピュータに組み込んでもよいし、当該プログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記憶媒体を介して組み込んでもよい。
このような記録媒体やインターネット等の通信手段で提供される制御プログラム等を時計や携帯機器、プリンタ等に組み込めば、プログラムの変更のみで前述の作用効果を実現でき、工場出荷時あるいは利用者が希望する制御プログラムを選択して組み込むこともできる。この場合、プログラムの変更のみで制御方式の異なる各種の電子機器を製造できるため、部品の共通化等が図れ、モデル展開時の製造コストを大幅に低減できる。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、位置制御性能を高くできるとともに、構成を簡略にでき、さらに、磨耗を格段に低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
〔第1実施形態〕
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
[1.全体概略構成]
図1は、本実施形態に係るプリンタ1の概略図である。プリンタ1は、印刷用紙を収容する引き出し式の用紙トレイ2と、印刷された紙PPを受け取る出力トレイ3と、筐体4内部に設置され、紙送り手段を構成するローラ5とを備える。
ローラ5は、用紙トレイ2内の紙を図示しない印刷駆動部に送るものである。
【0036】
[2.紙送りローラの駆動機構]
ローラ5を駆動する駆動機構は、圧電アクチュエータ(超音波モータ)20と、この圧電アクチュエータ20によって回転駆動される被駆動体としてのロータ30と、ロータ30の回転を減速しつつ伝達する減速輪列40とを備えて構成されている。
減速輪列40は、ロータ30と同軸に配置されてロータ30と一体的に回転する歯車41と、この歯車41に噛合し、かつ、ローラ5の回転軸に固定された歯車42とで構成されている。
なお、圧電アクチュエータ20と、ロータ30および歯車41は、図2,3に示すように、圧電アクチュエータユニット10としてユニット化されている。
【0037】
[3.圧電アクチュエータユニットの構成]
圧電アクチュエータユニット10は、筐体4のフレーム等に固定される支持プレート11と、支持プレート11に固定された圧電アクチュエータ20と、支持プレート11に回転自在に取り付けられたロータ30および歯車41とを備えて構成されている。
なお、歯車41の回転数は、歯車41の上方に配置された位置センサ(ロータリエンコーダ)15によって検出可能に構成されている。位置センサ15の最小分解能は、本実施形態では、0.25Countである(1Count=720dpi(dot per inch・インチ当りドット数)である場合)。
【0038】
支持プレート11は、軽量化のために孔12が形成されており、かつ、ネジ等の固定部材13によって地板などに固定されている。また、支持プレート11には圧電アクチュエータ20が取り付けられるスペーサ14が固定されている。
【0039】
[4.圧電アクチュエータの構成]
圧電アクチュエータ20は、図2、図3に示すように、略矩形板状の補強板21と、補強板21の両面に接着された圧電素子22とからなる振動体20Aを備えている。
補強板21の長手方向略中央には、両側に突出する腕部23が形成されており、これらの各腕部23がビス24によって前記スペーサ14に固定されている。なお、腕部23を備える補強板21は、導電性金属で構成されており、腕部23は圧電素子22に駆動信号を印加するための電極としても利用されている。
補強板21の長手方向一方の端部、具体的にはロータ30に対向する端部には、補強板21の長手方向に沿って突出する突起25が形成され、突起25は、ロータ30の側面に当接されている。この突起25は、ロータ30の外周面に対して所定の力で当接するように、ロータ30との相対位置が設定された状態で、ばねなどの任意の付勢手段によって付勢されており、突起25とロータ30側面との間に適切な摩擦力が働くことで、振動体20Aの振動が効率良くロータ30に伝達されるようになっている。
なお、振動体20Aの突起25の側面および、ロータ30の側面は、摩擦力を一定とするため鏡面仕上げが施されている。
【0040】
なお、本実施形態では、ロータ30の外周面には溝31(図2)が形成され、この溝31部分に突起25が配置されている。この溝31によって、圧電アクチュエータ20に衝撃が加わった際に、突起25がロータ30の当接面から外れないようにガイドすることができる。
【0041】
圧電素子22は、略矩形板状に形成され、補強板21両面の略矩形状部分に接着されている。圧電素子22の両面には、めっき、スパッタ、蒸着等によって電極が形成されている。
なお、圧電素子22の補強板21側の面には、その全面に1つの電極が形成され、この電極に接触する補強板21および腕部23を介して位置制御駆動装置50(図4)に電気的に接続されている(図4中、N参照)。
また、圧電素子22の表面側の面には、図3に示すように、5つに分割された電極が形成されている。すなわち、圧電素子22の表面側の電極は、圧電素子22の幅方向にほぼ三等分され、その中央の電極によって駆動電極221が形成されている。また、駆動電極221の両側の電極は、圧電素子22の長手方向にほぼ二等分され、圧電素子の対角上でそれぞれ対となる駆動電極222および駆動電極223が形成されている。
これらの駆動電極221,222,223はそれぞれリード線などによって位置制御駆動装置50に接続され(図4中、P1〜P3参照)、補強板21(図4中、N参照)との間で電圧が印加される。なお、位置制御駆動装置50における電源は、駆動電極221と補強板21との間の電圧印加用と、駆動電極222と補強板21との間の電圧印加用と、駆動電極223と補強板21との間の電圧印加用との3つ、設けられている。
【0042】
このようなプリンタ1では、位置制御駆動装置50(図4)が圧電アクチュエータ20への単相の駆動信号を制御することにより、この駆動信号に基いて圧電素子22が伸縮し、これに伴う振動体20Aの縦振動および屈曲振動により、ロータ30は回転駆動される。
ここで、必要に応じて圧電素子22に設けられた駆動電極222,223を使い分けることにより、ロータ30を両方向に回転駆動することができる。
すなわち、駆動電極221と駆動電極222とを電圧印加の対象として圧電素子22に所定の周波数で駆動信号を供給すると、圧電素子22の伸縮により振動体20Aは縦振動および屈曲振動を励振し、これら縦振動と屈曲振動との位相差により、振動体20Aの突起25が圧電素子22の長手方向の中心線に対して傾斜した略楕円軌跡E(図3)を描く。この軌跡Eの一部で突起25がロータ30を押圧することによりロータ30が順方向(図3中、矢印方向)に回転する。一方、駆動電極222の代わりに駆動電極223を電圧印加の対象として圧電素子22に駆動信号を供給した場合には、駆動電極222と駆動電極223とは、圧電素子22の長手方向の中心線を軸として線対称の位置関係にあるから、縦振動に対する交差方向が駆動電極222に電圧印加した場合とは線対称となる屈曲振動が誘発される。したがって、振動体20Aの突起25の軌跡は、駆動電極222に電圧印加した場合とは線対称に傾斜する略楕円軌跡となり、ロータ30は反対方向に回転駆動される。
このようなロータ30の回転により、ロータ30と一体の歯車41も回転し、歯車41の回転に伴い歯車42が回転し、ローラ5が駆動する。そして、ローラ5の回転によって紙が送られる。
なお、振動体22Aの振動状態を示す検出信号は、ロータ30の正転時には、駆動信号が印加されない駆動電極223を介して検出され、ロータ30の逆転時には、駆動信号が印加されない駆動電極222を介して検出される。
また、位置センサ15による歯車41の回転数の検出を通じて、ロータ30の回転数が検出される。
【0043】
[5.圧電アクチュエータの位置制御駆動装置の構成]
次に、圧電アクチュエータ20の位置制御駆動装置50の構成を図4に基いて説明する。
図4において、位置制御駆動装置50は、電圧制御発振器(VCO)51、パルスコントロール回路52、ゲートドライバ53、電源54、スイッチ回路55、バンドパスフィルタ(BPF)56、信号増幅器(AMP)57、位相差検出手段60、制御手段としてのコントローラ65、位置センサ15、位置検出回路66、位置指令値源67、および位置制御手段である位置制御器68とを備える。
【0044】
電圧制御発振器51は、印加される電圧によって出力する信号の周波数を可変できる発振器であり、圧電アクチュエータ20の駆動信号を生成している。
ところで、駆動信号の周波数(駆動周波数)については、振動体20Aにおける縦振動の共振点と屈曲振動の共振点などを考慮して決められる。
図5(A)に、振動体20Aにおける駆動周波数とインピーダンスとの関係を示し、図5(B)には、振動体20Aにおける駆動周波数と縦振動の振幅および屈曲振動の振幅との関係を示した。
図5(A)に示すように、駆動周波数に対してインピーダンスが極小であって振幅が最大となる共振点が二点現れ、これらのうち周波数の低い方が縦振動の共振点、高い方が屈曲振動の共振点となる。
すなわち、縦振動の縦共振周波数fr1と屈曲振動の屈曲共振周波数fr2との間で振動体20Aを駆動すると、縦振動および屈曲振動双方の振幅が確保され、圧電アクチュエータ20は高効率で駆動する。なお、縦共振周波数fr1と屈曲共振周波数fr2とを互いに近接させることで、縦振動および屈曲振動の振幅がより大きくなる駆動周波数を設定することができる。
【0045】
図4に戻り、パルスコントロール回路52は、電圧制御発振器51で生成された駆動信号を制御するものであり、後述するスイッチ回路55の切替タイミングを制御して貫通電流を抑制するためのデットタイムを生成するデットタイム生成回路521と、ロータ30の回転方向を切り替えるとともに、その指令値を出力する正逆回転回路522および電流制御回路523と、駆動信号の周期にデットタイムを挿入して駆動信号のデューティを規定する電流制限回路524とを有して構成されている。
【0046】
ゲートドライバ53は、パルスコントロール回路52から出力された駆動信号に基いてスイッチ回路55のオンオフを制御するドライブ回路であり、本実施形態では2つの第1ゲートドライバ53A、第2ゲートドライバ53Bを備えている。
そして、パルスコントロール回路52から第2ゲートドライバ53Bに入力される駆動信号はインバータ(NOT回路)IVを経由し、第1ゲートドライバ53Aに入力される駆動信号とは反転した信号となっている。
電源54は、本実施形態では、ロータ30の正逆回転時に使用される第1電源541と、ロータ30の正回転時のみ使用される第2電源542と、ロータ30の逆回転時のみ使用される第3電源543とからなり、これらの第1、第2、第3電源541,542,543により、圧電アクチュエータ20に対して電源VDDおよびVSS間の電位差の電圧、または電源VDDおよびGND間の電位差の電源電圧が印加される。
【0047】
スイッチ回路55は、PチャネルMOS−FETで構成されるスイッチ551,552,555,557と、NチャネルMOS−FETで構成されるスイッチ553,554,556,558とで構成されている。これらの各スイッチ551〜556は、第1ゲートドライバ53A、第2ゲートドライバ53Bによってゲートに加えられる電圧が制御されることで、オンオフ制御されている。
なお、第2ゲートドライバ53Bは、正逆回転回路522に接続されており、ロータ30の正回転時には、スイッチ552,553(図4中、P1)およびスイッチ555,556(P2)のみを駆動する。
すなわち、ロータ30の正回転時には、スイッチ551,554を駆動する第1ゲートドライバ53Aと、スイッチ552,553(P1)およびスイッチ555,556(P2)を駆動する第2ゲートドライバ53Bとは、互いに反転した駆動信号で動作するため、同じPチャネルMOS−FETのスイッチ551,552は、一方のスイッチ551がオンされている場合には他方のスイッチ552はオフされる。なお、同じPチャネルMOS−FETのスイッチ551,555についても同様である。
また、同様に、NチャネルMOS−FETのスイッチ553,554は、一方のスイッチ553がオンされている場合には他方のスイッチ554はオフされる(NチャネルMOS−FETのスイッチ556,554についても同様)。
また、直列に接続されたスイッチ551,554は、一方がオンの場合、他方がオフされる。同様に、直列に接続されたスイッチ552,553、あるいは、スイッチ555,556も、一方がオンの場合、他方がオフされる。
これらのスイッチ551〜554(あるいはスイッチ551,555,556,554)は、第1ゲートドライバ53A、第2ゲートドライバ53Bにより、圧電素子22に対してブリッジ接続され、ブリッジの対角に位置する一対のスイッチ551,553(またはスイッチ551,556)で構成されるスイッチ回路と、他の一対のスイッチ552,554(またはスイッチ555,554)で構成されるスイッチ回路とは、交互にオンオフ制御される。これにより、電源54によって印加される所定の電源電圧が交番する矩形波電圧に変換され、圧電アクチュエータ20に印加される。すなわち、第1電源541および第2電源542により、駆動電極221,222と補強板21(図2)との間で圧電素子22に交流電圧が印加され、ロータ30は順方向に回転する。
【0048】
一方、ロータ30の逆回転時には、第2ゲートドライバ53Bは、スイッチ555,556(P2)の代わりにスイッチ557,558(P3)を駆動し、スイッチ551,552,553,554(またはスイッチ551,557,558,554)が、圧電素子22に対してブリッジ接続され、スイッチ551,553(およびスイッチ551,558)で構成されるスイッチ回路と、スイッチ554,552(またはスイッチ554,557)で構成されるスイッチ回路とが、交互にオンオフ制御される。すなわち、第1電源541および第3電源543により、駆動電極221,223と補強板21(図2)との間で圧電素子22に交流電圧が印加され、ロータ30が逆方向に回転する。
【0049】
なお、各スイッチ551〜558のオンオフを切り替える際に、直列に接続されたスイッチ551,554や、スイッチ552,553(あるいはスイッチ555,556やスイッチ557,558)が同時にオンとなってしまうと、貫通電流が流れてしまう。この貫通電流は、圧電アクチュエータ20の駆動動作に利用されないために消費電力の浪費になり、かつ、スイッチ素子の焼き付け等の原因となってしまう。このため、パルスコントロール回路52において、一方のスイッチがオフされてから、所定時間(デットタイム)経過後に他方のスイッチをオンすることで、貫通電流を防止している。
【0050】
バンドパスフィルタ(単峰フィルタ)56は、圧電アクチュエータ20の振動状態に基いて、検出される検出信号を、所定の周波数範囲に含まれる周波数の検出信号だけ通過させ、それ以外の周波数の信号を減衰させるフィルタである。
なお、検出信号は、ロータ30の正転逆転に応じて、駆動信号が供給されない駆動電極222、駆動電極223のいずれかを通じて(図4のP2,P3参照)検出される。ここで、検出信号は、腕部23(図4中、N)における電位を基準信号として、この基準信号に対する駆動電極222の電位の差、あるいは基準信号に対する駆動電極223の電位の差、つまりは、腕部23に対する駆動電極222,223の差動信号により検出される。
バンドパスフィルタ56を通過した検出信号は、信号増幅器57で増幅される。
【0051】
位相差検出手段60は、位相制御器61、位相シフト器62、位相比較器63、およびローパスフィルタ(LPF)64を備えて構成されている。
位相制御器61は、検出信号の2周期ごとに、位相シフト器62に制御信号を出力し、これに応じて位相シフト器62は、予め設定された最適位相差分、検出信号の位相をシフトする。
【0052】
位相比較器63は、位相シフト器62から出力された検出信号の位相と、電圧制御発振器51から出力された駆動信号の位相とを比較し、その位相差を出力する。ここで、前述の通り、位相シフト器62は、検出信号の位相を、最適位相差分だけシフトしており、位相比較器63の出力が零に近づくほど最適位相差に近づいていることになる。
【0053】
ローパスフィルタ64は、所定の周波数以下の周波数の信号だけ通過させ、所定の周波数以上の周波数の信号は減衰させるフィルタであり、積分回路として機能する。
以上の位相差検出手段60によれば、位相シフト器62でシフトされた検出信号の位相と駆動信号の位相との差分、すなわち最適位相差との偏差(大小)がローパスフィルタ64を介してコントローラ65に出力される。
コントローラ65は、入力された最適位相差との偏差を解消するように、電圧制御発振器51に電圧信号を出力する。
【0054】
位置検出回路66は、位置センサ15により検出される回転数を通じてロータ30の位置を検出する。
位置指令値源67には、プリンタ1外部から入力された印刷指示情報における紙送り量が、図示しない印刷駆動制御部を介して与えられ、位置指令値源67は、その紙送り量を指令値として位置制御器68に出力する。なお、図示しない印刷駆動制御部において、印刷指示情報における紙送り量は位置センサ15の出力値(Count)に変換される。
【0055】
そして、図6は、位置制御器68の回路構成図である。
位置制御器68は、位置検出回路66で検出された位置Cと、位置指令値源67から出力された位置指令値Rとに基いて、コントローラ65に対してオンオフの操作信号(操作量U)を出力するものである。この位置制御器68は、位置センサ15および位置検出回路66を通じて入力されるロータ30の位置Cを指令値Rから差し引く第1減算器68Aと、位置制御時に順次使用される9つの制御器680〜688と、制御器680〜688の出力を積算する加算器68Bと、上限1、下限−1で出力を制限するリミッタ68Cと、操作量増幅器68Dとを有する。
【0056】
制御器680は、第1減算器68Aの出力からNkを差し引く第2減算器680Aと、「1」、「0」、「−1」のいずれかを出力するコンパレータ680Bと、上限1、下限0で出力を制限するリミッタ680Cと、反転回路680Dと、待機時間である遅延時間Zkを計時するタイマーとして機能する遅延回路680Eと、論理積回路(アンド回路)680Fと、乗算器680Gと、制御量増幅器680Hとを有し、制御量増幅器680Hの出力Gkを加算器68Bに出力する。
なお、制御器681〜688もこの制御器680と略同様に構成され、それぞれ、制御量ゲインG1〜G8に応じた制御量増幅器681H・・・688Hの出力Op1〜Op8を加算器68Bに出力する。
【0057】
[6.圧電アクチュエータの駆動における位置制御]
次に、圧電アクチュエータ20の位置制御駆動装置50による作用について、前掲の図6と、図7および図8のフローチャートと、図9および図10に示すタイミングチャートとを参照して説明する。位置制御駆動装置50は、圧電アクチュエータ20の駆動によりロータ30を位置出しする位置制御器68に特徴を有するから、以下では、この位置制御器68を中心に説明する。
【0058】
図7は、圧電アクチュエータ20の起動時、位置制御器68における各種パラメータを初期化する初期設定工程P0を示す。初期設定工程P0は、モードを設定する工程(ステップS01)と、各種の設定値を初期化する工程(ステップS02)とを備える。
モード設定工程S01では、ロータ30の正回転によりローラ5を紙送り方向(正方向)だけでなく戻し方向(逆方向)にも回転させる正逆転モードか、紙送り方向(正方向)にだけ回転させる正回転モードかを図示しないメモリにセットする。本実施形態では、正逆転モードをセットする。
そして、設定値初期化工程S02では、制御器数K、微動送り量Nk、操作量ゲインGu、制御量ゲインGk、遅延時間Zk、制御周期Tをそれぞれ設定する。
【0059】
制御器数Kは、制御器680〜688のインデックスであり、本実施形態では「8」に設定する。これにより、インデックスKは「0」から「8」までとなる。
微動送り量Nkは、図6にN0〜N8として図示したように、制御器680〜688が制御の際に参照する制御位置を決めるためのCount値である。位置制御器68は、これらのN0〜N8を基準に、ロータ30の位置出し制御を行う。
本実施形態では、N0は「9.0」、N1は「7.5」、N2は「6.0」、N3は「4.5」、N4は「3.0」、N5は「2.25」、N6は「1.5」、N7は「0.75」、N8は「0.0」に設定する。すなわち、N0〜N4までは1.5Count刻みで、N4〜N7までは0.75Count刻みで設定する(N8は「0.0」とする)。ここで、これらのN0〜N8は、指令値源67の指令値で示される目標位置に対する離れ量(距離)であり、指令値からN0〜N8をそれぞれマイナスして得られた各Count値が、位置制御器68において位置制御の基準とする各制御位置となる。
そして、指令値から、N0を差し引いた位置が、位置制御器68の位置制御における位置出し開始位置となるが、これについては後述する。
なお、制御器数Kは、(位置出し開始位置から指令値源67の指令値で示される目標位置までの距離)割ることの(位置センサ15の最小分解能)の値以下、とされており、また、N0〜N8の値は、位置センサ15の最小分解能で離散的な数値で量子化されている。
【0060】
操作量ゲインGuは、本実施形態では「1.0」に設定する。
そして、制御量ゲインGkは、図6にG0〜G8として図示したように、増幅器680H・・・688Hにおける個別の制御量であるが、本実施形態では、いずれも「1.0」に設定する。
また、遅延時間Zkは、図6にZ0〜Z8として図示したように、制御器680〜688に個別に設定する処理待機時間(ミリ秒(ms)単位)であり、Z0〜Z8の順に、「2」、「2」、「2」、「2」、「1」、「1」、「1」、「1」、「0」をそれぞれ設定する。つまり、Z0〜Z4までは「2」を、Z5〜Z7までは「1」を、そして最後のZ8には「0」を設定する。
制御周期Tは、位置制御器68における位置制御を実施するためのものであり、本実施形態では、位置センサ15の検出周期よりも短い「0.1」msを設定する。
なお、これらの各種パラメータの値は、一例であり、駆動条件等に応じて任意の値を設定できる。
以上で初期設定工程P0を終了し、図8に示す位置制御工程P1に移行する。
【0061】
位置制御工程P1は、制御器680により制御を実施する継続送り工程P11(図10)と、制御器681〜688により制御を実施する微動送り工程P12(図10)とを有して構成されている。なお、最後の制御器688によって制御を実施する目標位置停止判定工程P13は、微動送り工程P12に含まれる。
位置制御工程P1では、始めに、制御器680〜688に順次処理を移していくためにインデックス変数であるKを「0」に初期化する(ステップS11)。
そして、次のステップS12では、クロック信号に基き、現在が制御周期Tで規定された制御タイミングであるか否かを判定し、制御周期Tが到来するまで(YES)、ループする。これにより、以下の処理は、制御周期Tごとに行われる。
【0062】
制御周期Tが到来したら、第1減算器68Aにより、指令値源67から入力される指令値R(ここでは「60」とするが、指令値Rの入力ごとに、その値は変動し得る)から 、位置センサ15および位置検出回路66を通じて入力されるロータ30の回転位置(図6のC参照)を差し引き、この値を差分変数Aに保持する(ステップS13)。この差分変数Aの値は、ロータ30の位置から指令値Rで示される目標位置までの距離(回転数)を示している。
次いで、インデックスKの値が最後の制御器688のインデックスである「8」ではないか否かを判定し(ステップS14)、この判定でYESの場合(最後のインデックスではない場合)、ステップS15に移行する。NOの場合は、目標位置停止判定工程P13に移行する(後述)。
【0063】
ステップS15以降は、インデックスKに応じて、処理する制御器680〜688が選択される。当初は、インデックスKは「0」であり、このときを例にとって説明するが、インデックスKのカウントアップにより(ステップS19)、以下のN0、Op0などは適宜、読み替えが必要となる。
ステップS15では、第2減算器680Aにより、N0の値から差分変数Aの値を差し引いた際の差分が「0」以下であるか否かを判定する。
ここで、当該差分が正の数であれば(NO)、ロータ30の位置がN0で決まる制御位置に未達であるため、位置制御器68の出力をオンにし(操作量Uは「1」)、ロータ30を駆動する(ステップS16)。この位置制御器68の出力オンを受けて、コントローラ65は、当該オンに応じた電圧信号を電圧制御発振器51に出力する。これにより、駆動信号はオン時の高周波数に設定され、圧電アクチュエータ20は高駆動効率で駆動する。
ここで、インデックスKが「0」の場合、すなわち、位置制御のはじめの段階では、指令値R入力前におけるロータ30の位置(図10、制御開始位置X0)から、目標位置までの距離がN0(「9.0」)となる位置出し開始位置X1までの間、図9のOp0に示すように、出力が継続的にオンとなる。このように、継続的にロータ30が駆動する間は、図9、図10に示したように、継続送り工程P11となっており、ロータ30が制御開始位置X0から位置出し開始位置X1に達するまでは、この継続送り工程P11を続行する。
なお、図9では、各制御器680〜688の各出力Op0〜Op8を示し、図10では、位置制御器68からコントローラ65に出力する操作信号の出力(0または1である操作量U)を示した。
【0064】
一方、ステップS15における差分が「0」以下であり、YESとなったら、ロータ30がN0で決まる位置出し開始位置X1に達したことになり、操作量Uを「0」として位置制御器68の出力を一旦オフとする(ステップS17)。これにより、コントローラ65は、当該オフに応じた電圧信号を電圧制御発振器51に出力し、駆動信号がオフとなって圧電アクチュエータ20は非駆動状態となる。
駆動信号はオフの状態であり、このオフ時にも、制御周期Tが到来してステップS12でYESと判定されるごとに、ステップS14、S15を通るが、遅延回路680Eにより、遅延時間Z0が経過するまで処理待機の状態とする(ステップS18)。この待機中、慣性力は小さいものの、ロータ30が回転し、突起25との摩擦によって、直に、停止に向かう(図10におけるR0参照)。
そして、遅延時間Z0の経過により、ステップS18を終了し、インデックスKを1つカウントアップする(ステップS19)。
以上で継続送り工程P11(図10)を終了し、次の微動送り工程P12(図10)に移行する。
【0065】
微動送り工程P12では、インデックスKが「1」〜「7」である間、制御器681〜687により、前述したステップS12〜S19を繰り返す。すなわち、ステップS15では、N1〜N7に基いて判定が行われ、前述と同様に、ロータ30位置がN1〜N7で決まる制御位置に未達である場合は(NO)、操作量Uを本実施形態では「1」として位置制御器68の出力をオンにし、ロータ30を駆動する(ステップS16)。
一方、ステップS15において、ロータ30がN1〜N7で決まる制御位置に達したら、操作量Uを「0」として位置制御器68の出力をオフとする(ステップS17)。
このような位置制御により、制御器681〜687から、図9に示すように、Op1〜Op7が順次出力され、これを受けて、図10に示すように、ロータ30の位置(Count)は微小な間隔で移動し、次第に目標位置X2に近づく。このような微動送りは、圧電アクチュエータ20の応答性の良さと、振動でロータ30を駆動する駆動原理によって、可能となる。
【0066】
こうして、制御器681〜687による微動送りの最後で、インデックスKはカウントアップされ(ステップS19)、インデックスKは「8」となるので、ステップS14でNO、すなわち最終インデックスと判定されて、次のステップS21以降、微動送り工程P1の最終工程である目標位置停止判定工程P13を実施する。
目標位置停止判定工程P13では、制御器688による制御を実施する。この制御器688において、遅延時間Z8は「0.0」であるため、本実施形態ではステップS21を通過し、モードを判定する(ステップS22)。なお、Z8の値は「0.0」に限らず、ロータ30の慣性が大きい場合にはZ8に設定する値を大きくすることにより、発振をより効果的に防止できる。
ここで、前述の初期設定工程P0において、正逆転モードが設定されているため、ステップS22からステップS23に進み、ステップS13で得られた差分変数AからN8(「0.0」)を差し引いた際の差分に基き、ロータ30を収束させて目標位置X2に位置付けるための微調整を行う。なお、モードが正転モードであり、ステップS22でNOと判定される場合については、後述する。
【0067】
ステップS23において、当該差分が正、すなわちロータ30の位置が目標位置X2に未達であれば(YES)、操作量Uを「1」として位置制御器68の出力をオンとする(ステップS24)。一方、次のステップS25において、当該差分が負、すなわちロータ30の位置が目標位置X2を超えたと判定された場合は(YES)、操作量Uを「−1」として位置制御器68の出力を逆回転時のオンとする(ステップS26)。この位置制御器68のマイナス出力を受けて、正逆回転回路522が第2ゲートドライバ53Bに指令値を出力し、ロータ30は逆方向に回転する。
そして、これらステップS23,S25でロータ30の位置が目標位置X2に未達とも、超えたとも判定されなければ、操作量Uを「0」とし(ステップS27)、最終的に、目標位置X2にロータ30が停止したかを確認して(ステップS28)、位置制御を終了する。
【0068】
一方、目標位置X2に未達であると判定されてステップS24が行われた後、あるいは、目標位置X2を越えたと判定されてステップS26が行われた後、あるいは、ステップS28で目標位置X2のロータ30が停止したと判定されない場合は、ステップS12まで戻り、次の制御周期Tで、ステップS13、S14を経て、目標位置停止判定工程P13に進み、再度、ステップS23〜S28で目標位置X2に停止しているか否かの確認を行う。こうして、最終的に、ロータ30を目標位置X2に停止させる。
図9および図10に示した例では、ステップS23でロータ30の位置が未達と判定されており、制御器688は図9に示すOp8を出力して、位置制御器68の出力はオンとなり、ロータ30は微動送りされる(図10のR8参照)。この後、目標位置停止判定工程P13において、ロータ30は目標位置X2に収束する。
【0069】
ここで、図9、図10のタイミングチャートは一例であって、位置制御駆動装置50により図8のフローに沿って同様に制御した別の場合のタイミングチャートを図11、図12に示す。
この例では、図12に示すように、継続送り工程P11におけるロータ30速度が大きく、位置出し開始位置X1への到達により、一旦、駆動がオフされた後に収束する位置(図12のR0参照)が図10に示したR0の位置よりも目標位置X2に近くなっている。そして、インデックスKが「5」までの制御器680〜685による処理により、ロータ30の位置が、N6で決まる制御位置(指令値「60」引くことのN6「1.5」により、58.5Count)に既に達する。そのため、制御器686では、ステップS15でYESと判定されることなく、常にNOとなり、遅延時間Z6を待つことになる(ステップS18)。
【0070】
この後、制御器687に制御が移ると、ロータ30の位置がN7で決まる制御位置(59.25Count)に未達であるため、図11のOp7のように、オン出力がなされ、これによってロータ30は目標位置X2に停止した。そのため、インデックスKが「8」である目標位置停止判定工程P13では、非駆動状態でステップS23,S25を通過することとなった。
すなわち、図11からわかるように、制御器686,688からは、オン出力(Op6,Op8)がされていない。
しかしながら、この図11、図12に示した例でも、図9、図10に示した例と同様に、継続送り工程P11と微動送り工程P12との組み合わせにより、ロータ30を目標位置X2に正確に停止させることができる。
【0071】
[7.本実施形態による効果]
本実施形態によれば、次のような効果を得ることができる。
(1)圧電アクチュエータ20の駆動により、ロータ30を指令値Rに応じて目標位置X2に移動、停止させるにあたり、位置制御器68によって、継続送り工程P11および微動送り工程P12を実施し、駆動信号のオンオフで位置制御する構成とした。このため、ロータ30の速度制御が不要となり、ロータ30の加減速を抑制できるので、振動体20Aの突起25とロータ30との間のすべり距離を小さくでき、磨耗を低減できる。また、速度制御ループなどが不要であるから、構成を簡略にできる。
特に、継続送り工程P11では、位置制御器68の出力、ひいては駆動信号を継続的にオンとしてロータ30を略一定の出力で駆動したので、速度制御をした場合と比べて、振動体20Aとロータ30との間のすべり距離を極力小さくできることになり、磨耗を格段に低減できる。これにより、磨耗による圧電アクチュエータ20の駆動効率の低下等を防止できる。加えて、圧電アクチュエータ20の出力を略一定にできるので、所定の駆動効率を発揮でき、オンの継続によりロータ30の移動速度も緩やかに増加するので、ロータ30を駆動して制御開始位置X0から目標位置X2まで紙送りするまでの目標応答時間を短縮できる。
【0072】
ここで、磨耗に関する補足として、ロータ30側面と突起25の側面とには、前述のように鏡面仕上げが施されているが、これら表面に形成された山谷の間隔にはバラツキがあり、このような表面粗さのバラツキが大きいほど、磨耗係数が大きくなる。
そして、このように表面粗さがばらつくと、まるで紙の上を消しゴムでこするのと同様に、突起25およびロータ30が磨耗しやすい。
磨耗については下記式(1)で表される。この式において、磨耗量(mm)はV、磨耗係数はk、突起25とロータ30との互いの押圧による荷重(N)はW、突起25とロータ30との間のすべり距離(mm)はL、突起25(あるいはロータ30の側面)の材料硬さはHである。
【0073】
【数1】

【0074】
この式(1)により、加減速を繰り返した場合は、すべり距離Lが大きくなるので、磨耗が一層進行することがわかる。
すなわち、位置制御器68では、オンオフのみを実施し、速度制御を実施しないので、加減速をできるだけ少なくでき、磨耗を防止するうえで非常に有利な構成を実現できる。
【0075】
(2)さらに、駆動信号のオンを継続するのは、ロータ30が位置出し開始位置X1に到達するまでとし、それ以降は、目標位置X2に向かって、ロータ30を微動送りする構成(微動送り工程P12)とした。このような微動送り工程P12でも、駆動信号のオンオフによる制御を実施するので、低速にして位置出しする場合などと比べて、磨耗の点で有利であるとともに、規定のオン出力により所定の駆動性能を発揮できるので、目標応答時間を短くできる。
また、オンオフの出力切り替えによる微動送りをN1〜N7で繰り返し、ロータ30を目標位置X2に徐々に近付けることができるので、振動体20Aおよびロータ30の発振を防止できるとともに、たとえ発振が生じた場合であっても、発振が収束するまでの時間を短縮できる。これにより、ロータ30を目標位置X2に停止させることが容易となり、位置精度を高くできる。
なお、オフ時にも振動体20Aおよびロータ30は慣性により駆動するので、速度制御を始終実施する場合などと比べて、低電力化できる。
【0076】
(3)また、位置制御器68は、微動送り工程P12の最終段階で、目標位置停止判定工程P13を実施するので、ロータ30が目標位置X2を超えた場合であっても、ロータ30を逆方向に移動して目標位置X2に戻すことが可能となる。これにより、ロータ30を目標位置X2により正確に停止させることができる。
【0077】
(4)さらに、継続送り工程P11において位置制御器68の出力をオフとした後、このオフの状態で待機時間Z0が経過するのを待ち、被駆動体の速度が極めて低下し、あるいは停止してから微動送り工程P12に移行するので、発振が殆んど生じない。また、発振が生じたとしても、極めて短時間で収束させることが可能となる。これにより、位置精度が一層向上する。
【0078】
(5)また、継続送り工程P11でロータ30が送られる距離は、指令値「60」からN0(「9.0」)を差し引いて得られる「51」であり、この値は、指令値「60」に対して85%を占めるほど大きいため、継続送り工程P11における磨耗低減および、目標応答時間短縮の効果を、ともに大きくできる。
【0079】
(6)さらに、制御器680〜688で参照されるN0〜N8の間隔について、N0〜N4では1.5Count刻みとして大きくしたので、継続送り工程P11で慣性力が増大するロータ30を、出力オフの間に、振動体20Aとの摩擦によって停止に向かわせることができる。これにより、振動体20Aおよびロータ30の発振をより良く防止できる。
そして、このようにしてロータ30の慣性力を小さくした後は、N5〜N7において位置間隔を狭め、0.75刻みとしたので、一層微小な送り量で微動送りすることが可能となり、発振を抑制して位置精度をより一層向上させることができる。
【0080】
(7)また、位置制御器68が複数の制御器680〜688によって構成されているため、パラメータN0〜N8を各制御器680〜688に与えるだけで、これらの制御器680〜688の構成を共通化できる。
【0081】
(8)圧電アクチュエータ20の圧電素子22に供給される駆動信号の周波数が縦振動の共振周波数fr1と屈曲振動の共振周波数fr2との間にあるため、縦振動および屈曲振動の双方の振幅を大きくして、圧電アクチュエータ20の駆動効率を向上させることができるとともに、1つの駆動信号により圧電アクチュエータ20を駆動するため、構成を簡略にできる。
そのうえ、このように共振を利用する場合には駆動周波数の範囲が狭く、駆動周波数の
制御が困難であって、経時変化や個体差により共振点がばらつくことで駆動状態が不安定となりやすいため、位置制御駆動装置50によって位置出し性能が確保されることの効果は大きい。
【0082】
(9)プリンタ1は、圧電アクチュエータ20の位置制御駆動装置50を備えるので、磨耗を格段に低減でき、長寿命化する。また、メンテナンス性も向上させることができる。
さらに、位置制御駆動装置50は、簡略な構成でありながら、位置精度が高く、また、駆動効率の高さにより、目標応答時間の高速化を実現できる。
なお、プリンタ1における駆動機構の中でも、特に位置決め精度が要求される紙送りローラを駆動するために位置制御駆動装置50を用いた点は大きい。
【0083】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
なお、以下の説明では、既に説明した実施形態と同様の構成については、同一符号を付して、説明を省略もしくは簡略する。
前述の第1実施形態では、位置制御駆動装置50を構成する位置制御器68の動作モードは正逆転モードであったが、本実施形態では、位置制御器68の動作モードは正回転モードである。これに伴い、図6に示すコンパレータ680Bは、「1」または「0」を出力し、リミッタ680Cは、上限1、下限0で出力を制限する。
また、位置制御器68を構成する複数の制御器の出力が第1実施形態におけるものとは相違する。
その他の構成は、第1実施形態と同様である。
【0084】
図13は、本実施形態における位置制御器の制御を示すフローチャートである。また、図14は、本実施形態における制御器の出力を示すタイミングチャートであり、図15は、位置制御器68の出力を示すタイミングチャートである。
本実施形態では、図7で示した初期設定工程P0において、正転モードをメモリにセットする。また、制御量ゲインGkについて、G0〜G4は「1.0」に、G5は「0.75」、G6は「0.5」、G7およびG8は「0.25」に設定する。すなわち、ゲイン出力を途中から0.25ピッチで小さくしている。
【0085】
本実施形態では、図13に示すフローで制御した際に、微動送り工程P32の途中で、ステップS16における操作量Uが変わる。すなわち、制御量増幅器(685H・・・688H)(図6)の出力は、図14にOp5〜Op8で示したように、ゲインG5〜G8に応じて順次小さくなる。これを受け、圧電アクチュエータ20の駆動周波数も順次低くなり、ロータ30を駆動する駆動力が小さくなる。
【0086】
また、本実施形態における目標位置停止判定工程P33では、第1実施形態とのモードの相違により、ロータ30を逆回転させない。
すなわち、目標位置停止判定工程P33においても、ロータ30を収束させて目標位置X2に位置付けるための微調整を行うが、モードが正転モードであるため、前記第1実施形態のようにマイナス出力によりロータ30を逆転させることなく、ロータ30を正方向にのみ、微動送りする。
具体的に、ステップS22で行うモード判定において、正転モードであるためNOと判定され、次のステップS23において、ステップS13で得られた差分変数AからN8(「0.0」)を差し引いた際の差分が正、すなわちロータ30の位置が目標位置X2に未達であるとき(YES)、位置制御器68の出力をオンとする(ステップS24)。このステップS23でNOのときは、操作量Uを「0」とし(ステップS27)、目標位置X2にロータ30が達したか否かを判定する(ステップS38)。この判定をクリアすれば(YES)、位置制御を終了する。
【0087】
一方、ステップS23またはステップS38で、ロータ30の位置が目標位置X2に未達であると判定された場合は、再度、目標位置停止判定工程P33を実施し、最終的に、ロータ30を目標位置X2に到達させる。
ここで、前述のように、微動送り工程P12の途中から、制御器685〜688の出力が順次小さくなるので、より小さい位置間隔でロータ30を駆動でき、発振を極力小さくできる。このため、ロータ30を逆転させなくても、ロータ30を目標位置X2にほぼ正確に停止させることが可能となる。
【0088】
本実施形態によれば、前述の効果に加え、次のような効果も奏する。
(10)制御器680〜688のゲイン調整により、目標位置X2に近づくにつれて、ロータ30を一層微小な送り量で微動送りすることが可能となるから、目標位置X2への位置精度がより一層向上する。
このため、ロータ30を逆回転させることを不要にでき、構成を簡略化できる。
なお、本実施形態におけるG5〜G8のゲイン設定を第1実施形態でも採用することにより、第1実施形態における位置精度を更に向上できる。
【0089】
(11)位置制御駆動装置50は、初期設定により、モードやゲインを変えることが可能であるため、位置精度が求められるときには正逆転モードとするなど、目的、用途、負荷などの駆動条件に応じて使い分けできる。
【0090】
〔第3実施形態〕
前記各実施形態では、電子機器としてプリンタ1を例示したが、本実施形態では、本発明を電子時計70に適用した例を示す。
図16は、本実施形態に係る電子時計70を示す平面図である。電子時計70は、計時部としてのムーブメント71と、通常時刻を表示するための計時情報表示部としての文字板72、時針73、分針74、秒針75のほか、クロノグラフ時間を示すクロノグラフ秒針76A、クロノグラフ分針76Bを備えた腕時計(ウォッチ)である。電子時計70のケースには、りゅうず77と、りゅうず77を挟んでクロノグラフの操作ボタン78A,78Bとが設けられている。
【0091】
時針73、分針74、秒針75は、通常のアナログクォーツと同様のものであって、水晶振動子が組み込まれた回路基板と、コイル、ステータ、ロータを有するステッピングモータと、駆動輪列と、電池とによって駆動される。
【0092】
クロノグラフ秒針76Aを駆動する駆動機構は、圧電アクチュエータ20と、ロータ30と、減速輪列40とを備えて構成されている。
減速輪列40の歯車42は、クロノグラフ秒針76Aの回転軸に固定されている。
また、圧電アクチュエータユニット10の支持プレート11は、電子時計70の地板に固定されている。
【0093】
本実施形態も、図4に示した位置制御駆動装置50を備え、操作ボタン78Aの操作により、圧電アクチュエータ20および位置制御駆動装置50が起動されると、図8のフローに沿って、ロータ30が前述と同様に位置決めされる。
ここで、ロータ30の回転に伴い、歯車41、歯車42が順次回転し、クロノグラフ秒針76Aを駆動できるので、クロノグラフ秒針76Aの運針を正確なものにできる。
【0094】
本実施形態によれば、前述の効果に加え、次のような効果も奏する。
(12)位置制御駆動装置50による圧電アクチュエータ20の駆動により、クロノグラフ秒針76Aを正確に位置出しして駆動することが可能となり、信頼性を向上させることができる。
【0095】
(13)通常、電子時計70における駆動手段はステッピングモータであるが、位置制御駆動装置50による運針の正確さから、このステッピングモータを圧電アクチュエータ20に置き換えることが可能となる。これにより、電子時計70の一層の薄型化が実現できるとともに、圧電アクチュエータ20はステッピングモータよりも磁性の影響を受けにくいことから、電子時計70の高耐磁化をも図ることができる。
【0096】
〔本発明の変形例〕
本発明は、前述の各実施形態に限定されるものではなく、各種の変形や改良が許容される。
前記各実施形態における位置制御駆動装置50は、位相差検出手段60を備えていたが、これを備えず、位相差フィードバック制御を実施しなくてもよい。
また、前記各実施形態では、共振周波数を基に駆動信号の周波数を設定していたが、これに限らず、共振を利用せずに駆動信号を決めてもよく、また、駆動周波数の制御によって圧電アクチュエータを駆動するほか、PWM制御や、電圧可変制御によって圧電アクチュエータを駆動することも検討できる。
【0097】
なお、前記各実施形態では、操作量ゲインGuは「1.0」に設定されていたが、これに限らず、任意の値を設定可能である。さらに、制御量ゲインG0〜G8についても、適宜設定でき、これらゲインGu、G0〜G8の設定値に応じて、操作量Uのオン時の値が変わる。
そして、前記各実施形態では、9つの制御器680〜688により位置制御手段が構成されていたが、位置制御手段の構成はこれに限られない。ここで、制御位置の数も、前記各実施形態のように、N1〜N8の8つに限らず(位置出し開始位置X1を含めると9つ)、好ましくは、(位置出し開始位置から目標位置までの距離/被駆動体の位置を検出するセンサの最小分解能)の値以下で設定する。
【0098】
本発明は、前記各実施形態の電子時計やプリンタに適用されるものに限らず、各種の電子機器に適用可能であり、特に小型化が要求される携帯用の電子機器にも、好適である。
ここで、各種の電子機器としては、時計機能を備えた電話、携帯電話、非接触ICカード、パソコン、携帯情報端末(PDA)、カメラ等が例示できる。
また、時計機能を備えないカメラ、デジタルカメラ、ビデオカメラ、カメラ機能付き携帯電話等の電子機器にも適用可能である。これらカメラ機能を備えた電子機器に適用する場合には、レンズの合焦機構や、ズーム機構、絞り調整機構等の駆動に本発明の駆動手段を用いることができる。
さらに、計測機器のメータ指針の駆動機構や、自動車等のインパネ(instrumental panel)のメータ指針の駆動機構、圧電ブザー、プリンタのインクジェットヘッド、乗り物並びに人形などの可動玩具類の駆動機構および姿勢補正機構、超音波モータ等に本発明の位置制御駆動装置を用いてもよい。
【0099】
また、前記実施形態では、圧電アクチュエータ20を電子時計70の時刻を示す指針の駆動に用いていたが、これに限らず、日付や曜を表示する機構の駆動に本発明の圧電アクチュエータを用いてもよい。本発明により、位置精度が向上するので、文字板の目盛などに対する指針の位置ズレなどを防止できる。
なお、前記各実施形態では、圧電アクチュエータの適用例として腕時計を例示したが、これに限定されず、本発明は、懐中時計、置時計、掛け時計などにも適用できる。これらの各種時計において、例えばからくり人形などを駆動する機構としても利用できる。
なお、被駆動体としては、回転駆動されるロータ、直線駆動されるリニア駆動体などを採用でき、被駆動体の駆動方向は限定されない。
【0100】
本発明を実施するための最良の構成、方法などは、以上の記載で開示されているが、本発明は、これに限定されるものではない。すなわち、本発明は、主に特定の実施形態に関して特に図示され、かつ、説明されているが、本発明の技術的思想および目的の範囲から逸脱することなく、以上述べた実施形態に対し、形状、材質、数量、その他の詳細な構成において、当業者が様々な変形を加えることができるものである。
したがって、上記に開示した形状、材質などを限定した記載は、本発明の理解を容易にするために例示的に記載したものであり、本発明を限定するものではないから、それらの形状、材質などの限定の一部もしくは全部の限定を外した部材の名称での記載は、本発明に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】本発明の第1実施形態におけるプリンタの概略構成図。
【図2】前記実施形態における圧電アクチュエータユニットの斜視図。
【図3】前記実施形態における圧電アクチュエータユニットの平面図。
【図4】前記実施形態における圧電アクチュエータの位置制御駆動装置の構成を示すブロック図。
【図5】前記実施形態における振動体について、(A)は、駆動周波数とインピーダンスとの関係を示すグラフ、(B)は、駆動周波数と縦振動および屈曲振動の振幅との関係を示すグラフ。
【図6】前記実施形態の圧電アクチュエータの位置制御駆動装置が備える位置制御器の構成を示す図。
【図7】前記実施形態の圧電アクチュエータの位置制御駆動装置における初期設定工程を示すフローチャート。
【図8】前記実施形態の圧電アクチュエータの位置制御駆動装置における継続送り工程および微動送り工程を示すフローチャート。
【図9】前記実施形態における位置制御器に含まれる各制御器の出力を示すタイミングチャート。
【図10】前記実施形態における位置制御器の出力と、ロータの位置とを示すタイミングチャート。
【図11】前記実施形態における位置制御器に含まれる各制御器の出力を示すタイミングチャートで、図9とは別の例を示す。
【図12】前記実施形態における位置制御器の出力と、ロータの位置とを示すタイミングチャートで、図10とは別の例を示す。
【図13】本発明の第2実施形態における圧電アクチュエータの位置制御駆動装置における継続送り工程および微動送り工程を示すフローチャート。
【図14】前記実施形態における位置制御器に含まれる各制御器の出力を示すタイミングチャート。
【図15】前記実施形態における位置制御器の出力と、ロータの位置とを示すタイミングチャート。
【図16】本発明の第3実施形態における時計の外観図。
【図17】駆動信号の周波数掃引時の位相差、ロータの回転数(駆動量)、電流値の変化を示すグラフ。
【符号の説明】
【0102】
1・・・プリンタ(電子機器)、5・・・ローラ、15・・・位置センサ(位置検出手段)、20・・・圧電アクチュエータ、20A・・・振動体、22・・・圧電素子、30・・・ロータ(被駆動体)、50・・・位置制御駆動装置、65・・・コントローラ(制御手段)、66・・・位置検出回路(位置検出手段)、68・・・位置制御器(位置制御手段)、70・・・電子時計(電子機器)、71・・・ムーブメント(計時部)、72・・・文字板(計時情報表示部)、73・・・時針(計時情報表示部)、74・・・分針(計時情報表示部)、75・・・秒針(計時情報表示部)、76A・・・クロノグラフ秒針(計時情報表示部)、76B・・・クロノグラフ分針(計時情報表示部)、680〜688・・・制御器、N0〜N8・・・パラメータ(制御位置を決めるもの)、Op0〜Op8・・・出力、P11・・・継続送り工程、P12・・・微動送り工程、P13・・・目標位置停止判定工程、P32・・・微動送り工程、P33・・・目標位置停止判定工程、X1・・・位置出し開始位置、X2・・・目標位置、Z0〜Z8・・・待機時間。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電素子を有しこの圧電素子への駆動信号の供給により振動する振動体を備えて前記振動体の振動を被駆動体に伝達する圧電アクチュエータの駆動において、前記被駆動体を所定の目標位置に停止させる位置制御駆動方法であって、
前記圧電素子を駆動するように前記駆動信号をオンとするとともに、前記被駆動体の位置の検出に基いて前記被駆動体が前記目標位置手前の所定位置である位置出し開始位置に達したか否かを判定し、当該判定において前記被駆動体が前記位置出し開始位置に達したと判定されるまで、前記オンを継続した後、前記圧電素子を非駆動とするように前記駆動信号をオフとする継続送り工程と、
前記位置出し開始位置を超えた位置から前記目標位置を含む位置までで設定された複数の制御位置に前記被駆動体が順次達するように前記被駆動体を微動送りする工程であって、前記継続送り工程後、前記各制御位置について、前記被駆動体が当該制御位置に達したか否かを判定し、当該判定において前記制御位置に達していないと判定された際は、前記駆動信号を前記オンとし、当該判定において前記被駆動体が前記制御位置に達したと判定された際は、前記駆動信号を前記オフとするとともに、当該制御位置の次の制御位置についての判定に移行する微動送り工程とを備える
ことを特徴とする圧電アクチュエータの位置制御駆動方法。
【請求項2】
請求項1に記載の圧電アクチュエータの位置制御駆動方法において、
前記微動送り工程は、前記判定において前記被駆動体が前記目標位置を越えたと判定した際に、前記被駆動体を正方向とは逆方向に移動させる目標位置停止判定工程を備える
ことを特徴とする圧電アクチュエータの位置制御駆動方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の圧電アクチュエータの位置制御駆動方法において、
前記微動送り工程を、前記継続送り工程における前記オフの状態で所定の待機時間が経過した後、開始する
ことを特徴とする圧電アクチュエータの位置制御駆動方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の圧電アクチュエータの位置制御駆動方法において、
前記位置出し開始位置の前記目標位置からの距離は、前記継続送り工程を行う前における前記被駆動体の位置から前記目標位置までの距離の1/3以下とする
ことを特徴とする圧電アクチュエータの位置制御駆動方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の圧電アクチュエータの位置制御駆動方法において、
前記微動送り工程では、前記位置出し開始位置から前記目標位置までの途中で前記制御位置間の間隔が変わり、前記位置出し開始位置側における前記間隔を、前記目標位置側における前記間隔よりも大きくする
ことを特徴とする圧電アクチュエータの位置制御駆動方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の圧電アクチュエータの位置制御駆動方法において、
前記微動送り工程では、前記位置出し開始位置から前記目標位置までの途中で前記駆動信号の前記オン時の出力が変わり、前記目標位置側における前記出力を、前記位置出し開始位置側における前記出力よりも小さくする
ことを特徴とする圧電アクチュエータの位置制御駆動方法。
【請求項7】
圧電素子を有しこの圧電素子への駆動信号の供給により振動する振動体を備えて前記振動体の振動を被駆動体に伝達する圧電アクチュエータの駆動において、前記被駆動体を所定の目標位置に停止させる位置制御駆動装置であって、
前記駆動信号の供給を制御する制御手段と、
前記被駆動体の位置を検出する位置検出手段と、
前記制御手段の出力をオンオフで操作する操作信号を前記制御手段に入力する位置制御手段とを備え、
前記位置制御手段は、前記位置検出手段による検出に基いて前記被駆動体が前記目標位置手前の所定位置である位置出し開始位置に達したか否かを判定し、当該判定において前記被駆動体が前記位置出し開始位置に達したと判定されるまで、前記操作信号を継続的にオンとした後、前記操作信号をオフとし、
前記位置出し開始位置から前記目標位置までの間で設定された複数の制御位置それぞれについて、前記被駆動体が当該制御位置に達したか否かを判定し、当該判定において前記制御位置に達していないと判定された際は、前記操作信号をオンとし、当該判定において前記被駆動体が前記制御位置に達したと判定された際は、前記操作信号をオフとするとともに、当該制御位置の次の制御位置についての判定に移行する微動送りを実施する
ことを特徴とする圧電アクチュエータの位置制御駆動装置。
【請求項8】
請求項7に記載の圧電アクチュエータの位置制御駆動装置において、
前記位置制御手段は、前記各制御位置にそれぞれ対応した複数の制御器により、構成されている
ことを特徴とする圧電アクチュエータの位置制御駆動装置。
【請求項9】
請求項7または8に記載の圧電アクチュエータの位置制御駆動装置において、
前記振動体は、複数の振動モードで振動し、
前記駆動信号は、単相である
ことを特徴とする圧電アクチュエータの位置制御駆動装置。
【請求項10】
圧電アクチュエータと、この圧電アクチュエータで駆動される被駆動体と、請求項7から9のいずれかに記載の圧電アクチュエータの位置制御駆動装置とを備える
ことを特徴とする電子機器。
【請求項11】
請求項10の電子機器は、計時部と、前記計時部で計時された計時情報を表示する計時情報表示部とを備えた時計である
ことを特徴とする電子機器。
【請求項12】
請求項10の電子機器は、紙送り手段を備えたプリンタであり、
前記被駆動体は、前記紙送り手段が有するローラである
ことを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2007−129804(P2007−129804A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−318670(P2005−318670)
【出願日】平成17年11月1日(2005.11.1)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】