説明

圧電アクチュエータの製造方法

【課題】屈曲状の複数の駆動部とこれら複数の駆動部にそれぞれ配置された圧電層とを有する圧電アクチュエータを、より簡単に製造することが可能な製造方法を提供すること。
【解決手段】まず、板状部材24に、複数の貫通状のスリット28を形成して複数の駆動部20を分割形成する。次に、板状部材24に圧電材料の粒子を堆積させることにより、複数の駆動部20に複数の圧電層26をそれぞれ形成する。そして、各圧電層26にその厚み方向の電界を印加するための個別電極27を形成してから、複数の駆動部20を、板状部材24の面方向と直交する方向に突出するように折り曲げる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送装置などに用いられる圧電アクチュエータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、記録装置に記録される用紙等を搬送する搬送装置としては、搬送ローラとこの搬送ローラを回転駆動する駆動モータとを備えたものが一般的であった。しかし、近年、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等のセラミックス材料からなる圧電素子を有する圧電アクチュエータを様々な用途に応用する技術が検討されており、その中でも、圧電素子に電圧を印加したときに生じる変形を利用して物体(被搬送体)を搬送する技術が提案されている。例えば、特許文献1(特開2003−111456号公報)には、板状の基体と、この基体の両面に設けられた圧電素子と、圧電素子の表面に形成された複数の電極とを有する圧電アクチュエータ素子を複数備えた圧電アクチュエータが記載されている。そして、この圧電アクチュエータは、圧電素子の撓み変形により基体の先端部を変形させ、棒状や筒状の物体の周方向に配置された複数の基体の繊毛運動により、物体をその長さ方向に微少な送り量で搬送することができる。しかし、この搬送装置は、主に棒状又は筒状の物体を搬送するように構成されており、搬送できる物体の形状に制約があるため、用紙等の、棒状や筒状以外の物体を搬送する場合にこの圧電アクチュエータを適用することは難しい。
【0003】
そこで、本願発明者は、種々の形状を有する物体を所定の搬送面に沿って微小な送り量で搬送することが可能な圧電アクチュエータを発明した(特願2004−278911号)。この圧電アクチュエータの各アクチュエータ素子は、搬送面と直交する方向に突出した駆動部(屈曲薄板部)と、駆動部に配置された圧電層とを有する。駆動部は、物体に当接する当接部と、この当接部から傾斜して延びる2つの傾斜部とを含み、チタン酸ジルコン酸鉛などの強誘電体からなる圧電層は、2つの傾斜部に設けられている。そして、この圧電アクチュエータの圧電層に、その厚み方向に電界が作用したときには、圧電層が変形して傾斜部に撓み変形が生じる。この変形によって2つの傾斜部の間の当接部を変位させることにより、物体を微少な送り量で搬送することが可能となる。
【0004】
【特許文献1】特開2003−111456号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前述の微小送り可能な圧電アクチュエータを製造する場合には、複数のアクチュエータ素子の複数の駆動部をそれぞれ突出状に屈曲形成するとともに、これら複数の駆動部の2つの傾斜部にそれぞれ圧電層を形成する必要があるが、板状部材に圧電層を全面的に形成してから分割するような従来の方法では、屈曲状のアクチュエータ素子の製造は難しくコスト面でも不利である。そこで、このような構造の圧電アクチュエータを、より簡単に製造する方法が求められている。
【0006】
本発明の目的は、屈曲状の駆動部とこの駆動部に配置された圧電層とを有する圧電アクチュエータを、より簡単に製造することが可能な圧電アクチュエータの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0007】
本発明の第1の態様に従えば、アクチュエータ素子を有する圧電アクチュエータの製造方法であって、板状部材を設ける工程と、前記板状部材に、スリットを形成することによって駆動部を画成する駆動部形成工程と、前記板状部材の一方の面側に圧電材料の粒子を堆積させることにより、前記駆動部に圧電層を形成する圧電層形成工程と、前記圧電層にその厚み方向の電界を印加するための電極を形成する電極形成工程と、前記駆動部を折り曲げる折り曲げ工程とを備える圧電アクチュエータの製造方法が提供される。
【0008】
本発明の第1の態様によれば、まず、板状部材を用意して、当該板状部材にスリットを形成して駆動部を画成する。次に、板状部材の一方の面側に圧電材料の粒子を堆積させて駆動部に圧電層を形成してから、駆動部を折り曲げて、板状部材の面方向と異なる方向に突出させる(又は、駆動部を折り曲げてから、板状部材に圧電材料の粒子を堆積させて圧電層を形成する)。ここで、板状部材に圧電材料の粒子を堆積させたときに、板状部材のスリットが形成された部分には圧電材料の粒子は堆積しないため、駆動部の表面にのみ圧電層を形成することが容易になる。従って、屈曲状の駆動部と駆動部に配置された圧電層とを有する圧電アクチュエータを、比較的簡単に製造することができ、また、製造コストを低減できる。
【0009】
本発明の圧電アクチュエータの製造方法において、前記圧電層形成工程の後に、前記折り曲げ工程を行なってもよい。この場合には、折り曲げられる前の平坦な駆動部の表面に圧電材料の粒子を堆積させて圧電層を形成するため、駆動部の表面に均一な厚さの圧電層を容易に形成することができる。
【0010】
本発明の圧電アクチュエータの製造方法において、前記板状部材が金属材料によって形成されていてもよい。この場合には、例えば複数のスリットを形成する場合であっても、エッチング等により容易に形成することができる。また、駆動部の折り曲げ加工も容易になる。
【0011】
本発明の圧電アクチュエータの製造方法において、前記圧電層形成工程の前に、前記板状部材の前記一方の面に絶縁層を形成する絶縁層形成工程を備え、前記電極形成工程において、前記絶縁層の表面に前記電極とこの電極に接続される配線部とを形成してもよい。圧電層に形成された電極は、駆動電圧を供給する駆動回路と電気的に接続される必要があるが、屈曲状の駆動部に配置された圧電層の表面の電極と駆動回路とを接続することは難しく、また、フレキシブルプリント配線板(Flexible Printed Circuit:FPC)等の配線部材が必要になるなど、その電気的接続構造が複雑になりやすい。しかし、本発明によれば、板状部材の表面に、絶縁層を介して電極を配置し、さらに、この絶縁層の表面において電極に接続される配線部を自由に配線ことができるため、電極と駆動回路との電気的接続構造を簡略化することが可能になる。さらに、絶縁層の表面に駆動回路を配置すれば、駆動回路と電極とを絶縁層表面の配線部により直接接続することが可能になり、FPC等の配線部材を省略できる。
【0012】
本発明の圧電アクチュエータの製造方法では、前記圧電層形成工程において、エアロゾルデポジション法、化学蒸着法、あるいは、スパッタ法により、前記圧電層を形成してもよい。このように、エアロゾルデポジション法、化学蒸着法、あるいは、スパッタ法を用いることにより、所望の厚さの圧電層を容易に形成できる。
【0013】
本発明の圧電アクチュエータの製造方法において、前記折り曲げ工程の前に、前記板状部材の、前記折り曲げ工程において折り曲げられる部分に溝を形成する溝形成工程を備えてもよい。この場合には、折り曲げ工程において駆動部を折り曲げることがさらに容易になる。
【0014】
本発明の圧電アクチュエータの製造方法では、前記駆動部形成工程において、前記スリットは、第1の方向に延在し、且つ、第1の方向と異なる第2の方向に沿って並んだ細長い複数の個別スリットとして形成され、前記駆動部は、前記個別スリットにより、第2の方向に沿って配列された複数の個別駆動部として画成されてもよい。この場合には、複数の個別駆動部を有する圧電アクチュエータを容易に製造することができる。
【0015】
本発明の圧電アクチュエータの製造方法では、前記駆動部形成工程において、前記個別駆動部の第1の方向の両端が、前記板状部材と連結するように前記複数の個別スリットを形成し、前記折り曲げ工程において、各個別駆動部を、第1の方向の両端部及び前記両端部の間に位置する中間部において折り曲げてもよい。この場合には、中間部において、板状部材の面方向と異なる方向に突出した複数の駆動部を有する圧電アクチュエータを容易に製造することができる。
【0016】
本発明の圧電アクチュエータの製造方法では、前記駆動部形成工程において、前記個別駆動部が、前記第1の方向における一端においてのみ前記板状部材と連結するように、前記個別スリットを形成し、前記折り曲げ工程において、前記各個別駆動部が前記板状部材の面方向と異なる方向に平行となるように、前記第1の方向における一端部において折り曲げてもよい。この場合には、一端部において折り曲げられて、板状部材の面方向と異なる方向に延びる複数の駆動部を有する圧電アクチュエータを、容易に製造することができる。
【0017】
本発明の圧電アクチュエータの製造方法において、前記第1の方向と前記第2の方向とが直交していてもよい。この場合には、複数の駆動部に対する折り曲げ工程を容易に行うことができる。
【0018】
本発明の圧電アクチュエータの製造方法において、前記板状部材が共通電極を兼ねていてもよい。圧電層にその厚さ方向に電界を作用させて変形させるためには、圧電層の両面にそれぞれ電極を配置する必要があるが、金属材料からなる駆動部に一方の電極を兼ねさせることにより、この一方の電極を形成する工程を省略することが可能になる。
【0019】
本発明の圧電アクチュエータの製造方法において、前記圧電アクチュエータが、物体を所定の搬送方向に搬送する搬送装置に設けられるものであってもよい。この場合には、種々の形状の物体を微少な送り量で搬送することが可能な搬送装置に適用される圧電アクチュエータを容易に製造することができる。
【0020】
本発明の圧電アクチュエータの製造方法において、前記圧電アクチュエータが、物体に対して移動する移動装置に設けられるものであってもよい。この場合には、微少な移動量で移動可能な移動装置に適用される圧電アクチュエータを容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の第1実施形態について説明する。この第1実施形態は、インクジェットプリンタの用紙搬送用の圧電アクチュエータに本発明を適用した一例である。まず、インクジェットプリンタについて簡単に説明する。図1に示すように、インクジェットプリンタ100は、図1の走査方向(左右方向)に移動可能なキャリッジ1と、このキャリッジ1に設けられて記録用紙Pに対してインクを噴射するシリアル式のインクジェットヘッド2と、記録用紙Pを図1の前方(搬送方向の手前向き)へ搬送する用紙搬送装置3等を備えている。インクジェットヘッド2は、キャリッジ1と一体的に走査方向へ移動して、その下面のインク吐出面に形成されたノズルの出射口から、用紙搬送装置3により前方へ搬送される用紙Pに対してインクを噴射する。
【0022】
次に、用紙搬送装置3について説明する。図1、図2に示すように、用紙搬送装置3は、水平な底面を形成する基材25と、基材25に設けられた2つの圧電アクチュエータ5と、圧電アクチュエータ5の上方において圧電アクチュエータ5に対向して水平に配置されたガイド部材11とを有する。圧電アクチュエータ5は、インクジェットヘッド2よりも搬送方向上流側(図1の前方)と下流側(図1の後方)にそれぞれ1つづつ配置されている。さらに、各圧電アクチュエータ5は、水平面に沿って走査方向(図1の左右方向)に2列に配列された複数のアクチュエータ素子10を有する。
【0023】
図2(b)、図3(a)に示すように、アクチュエータ素子10は、鉄系合金、チタン系合金、アルミニウム系合金、あるいは、ニッケル系合金などの金属材料からなる板状部材24において、上方(板状部材24の面方向と直交する方向)に突出するように形成された駆動部20と、走査方向に互いに隣接する駆動部20を連結する基部23とを有している。図2(a)に示すように、駆動部20は、板状部材24において、搬送方向(第1の方向)に延び、且つ、走査方向(第2の方向)に沿って2列に並んで形成された複数のスリット28により、画成されている。駆動部20は、用紙Pに下方から当接可能な上端側の当接部21と、平面視で各当接部21から搬送方向(図2(a)の左右方向)に平行にそれぞれ延びる2つの傾斜部22を有する。これら2つの傾斜部22には走査方向(図2(a)の上下方向)に延びる基部23が連なっており、各駆動部20は、その両端において、走査方向に隣接する他の駆動部20と基部23を介して繋がっている。また、図2(b)に示すように、基部23は水平な基材25に固定されている。尚、駆動部20と基部23は、1枚の金属製の板状部材24により一体的に形成されており、その分、圧電アクチュエータ5の部品点数が少なくなっている。
【0024】
図3に示すように、当接部21は、やや丸みを帯びた形状に形成されており、当接部21の上面にはサンドブラストやマイクロブラスト等により粗面加工が施されている。傾斜部22の上面には、チタン酸鉛とジルコン酸鉛との固溶体であり強誘電体であるチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を主成分とする圧電層26が形成されている。
【0025】
各アクチュエータ素子10の2つの圧電層26の上面(傾斜部22と反対側の面)には、個別電極27が全面的に形成されている。これら2つの個別電極27は、可撓性を有するフレキシブルプリント配線板(Flexible Printed Circuit:FPC)等の配線部材(図示省略)を介して、駆動回路(図示省略)と電気的に接続されており、駆動回路から駆動電圧が印加される。一方、圧電層26の下側に位置する金属製の傾斜部22は基部23を介して常にグランド電位に保持されている。つまり、傾斜部22は、駆動回路から個別電極27に駆動電圧が印加されたときに個別電極27との間に挟まれた圧電層26にその厚み方向の電界を生じさせる共通電極を兼ねている。そのため、傾斜部22とは別に共通電極を形成する必要はない。
【0026】
そして、駆動回路から個別電極27に駆動電圧が印加されたときには、個別電極27とグランド電位に保持されている共通電極としての傾斜部22との間の電位が異なる状態となり、個別電極27と傾斜部22の間に挟まれた圧電層26にその厚み方向の電界が生じる。ここで、圧電層26の分極方向と電界の方向とが同じ場合には、圧電層26は厚み方向に伸びて、圧電層26の面方向と直交する方向に収縮することになる。この圧電層26の収縮に伴って傾斜部22が内側に凸となるように変形する。
【0027】
つまり、図4〜図6に示すように、駆動回路から、1つの圧電アクチュエータ素子10の2つの個別電極27のうち、両方あるいは何れか一方に駆動電圧を印加して傾斜部22を変形させることにより、傾斜部22に撓み変形を生じさせて、当接部21を微少量(例えば、数十μm程度)、搬送方向(図4〜図6の右方)へ移動させることができる。尚、図4〜図6において、"+"は駆動電圧が印加されている状態を示し、"GND"はグランド電位に保持されている状態(駆動電圧が印加されていない状態)を示している。
【0028】
まず、2つの個別電極27の何れにも駆動電圧が印加されていない状態では、2つの傾斜部22が変形しておらず、これら2つの傾斜部22の間の当接部21は用紙Pの下面の位置よりも上方へ突出した位置にあるが(図3(a)参照)、用紙Pを搬送する際には、この状態には切り換えられないようになっている(つまり、用紙Pの搬送時には、各アクチュエータ素子10の2つの個別電極27の少なくとも一方に電圧が印加される)。この状態から、図4に示すように、2つの個別電極27の両方に駆動電圧が印加されると、2つの傾斜部22の両方が内側へ凸となるように変形し、当接部21が用紙Pに接触しない位置(待機位置)に移動する。尚、図4〜図6における2本の一点鎖線の交点Aは、待機位置にあるときの当接部21の先端の位置を示している。
【0029】
また、図5に示すように、搬送方向上流側(図5の左側)の個別電極27にのみ駆動電圧が印加されたときには、搬送方向上流側の傾斜部22だけが内側へ凸となるように変形するため、当接部21が、用紙Pに接触可能で、且つ、待機位置よりも搬送方向上流側(左側)の位置(搬送準備位置)に移動する。さらに、図6に示すように、搬送方向下流側(図6の右側)の個別電極27にのみ駆動電圧が印加されたときには、搬送方向下流側の傾斜部22だけが内側へ凸となるように変形するため、当接部21が、用紙Pに接触可能で、且つ、待機位置よりも搬送方向下流側(右側)の位置(搬送完了位置)に移動する。
【0030】
そして、アクチュエータ素子10は、当接部21を待機位置(図4)、搬送準備位置(図5)、搬送完了位置(図6)及び待機位置(図4)の順に移動させることにより、当接部21に接触する用紙Pを微少な送り量で搬送方向に搬送することができる。また、当接部21を搬送完了位置から搬送準備位置へ移動させる際に、搬送完了位置から、用紙Pに接触しない待機位置へ一旦戻してから搬送準備位置へ移動させるため、用紙Pと当接部21が接触せず、用紙Pの搬送動作をスムーズに行うことができる。
【0031】
尚、図3に示すように、傾斜部22の当接部21側の端部の下面側と基部23側の端部の上面側には、それぞれ溝22a,22bが形成され、これら溝22a,22bにおいて駆動部20の剛性が部分的に低下している。従って、傾斜部22と当接部21及び傾斜部22と基部23との間で駆動部20に曲げ変形が生じやすくなり、より低い駆動電圧で当接部21を変位させることが可能になるため、アクチュエータ素子10の駆動効率が向上する。また、後述するように、駆動部20を折り曲げて当接部21及び2つの傾斜部22を形成する際には、駆動部20を折り曲げやすくなる。
【0032】
また、前述したように、当接部21の上面には粗面加工が施されており、用紙Pに当接部21が当接した状態で、当接部21が搬送方向に移動するときに用紙Pと当接部21との間に作用する摩擦力が大きくなるため、用紙Pが当接部21に対してすべりにくくなり、用紙Pが当接部21により確実に搬送される。
【0033】
図2〜図6に示すように、ガイド部材11は、複数のアクチュエータ素子10に対向してそれらの上方に水平に配設されている。このガイド部材11はガイド部11aを有する。ガイド部11aは、複数のアクチュエータ素子10の当接部21にそれぞれ対向し且つ当接部21側に突出して形成されており、当接部21により搬送方向に搬送される用紙Pをガイドする。従って、当接部21とこの当接部21側に突出するガイド部11aで、用紙Pを上下両側から挟んでガイドしつつ搬送できるため、用紙Pを搬送方向へ安定的に搬送することができる。
【0034】
次に、圧電アクチュエータ5の製造方法について、図7〜図12を参照して説明する。まず、図7に示すように、金属製の板状部材24に、エッチング加工などにより、搬送方向(図7(a)の左右方向(第1の方向))に延びる複数のスリット28を形成することにより、走査方向(図7(a)の上下方向(第2の方向))に沿って配列された複数の駆動部20を分割形成する(駆動部形成工程)。この際、複数のスリット28は、板状部材24の図7(a)における左右方向端部まで延びないように形成される。即ち、スリット28が上下に延びる基部23で分断され、各駆動部20が、左右方向両端において基部23を介して上下に隣接する他の駆動部20と繋がった状態となるように形成する。また、各駆動部20の左右方向の中央部近傍の下面(図7(b)における下側の面)、及び、各駆動部20の左右両端部の上面(図7(b)における上側の面)に、ハーフエッチング及び/又はプレス加工などにより、それぞれ溝22a,22bを形成する(溝形成工程)。これにより、各駆動部20の2つの傾斜部22となる部分(溝22aと溝22bの間の部分)は、図7(a)の左右方向(第1の方向)において同じ長さに形成される。
【0035】
次に、図8(a),(b)に示すように、板状部材24の上面に、複数の駆動部20及び複数のスリット28が形成された領域よりも外側であって、且つ、基部23を含む領域と、複数の駆動部20の中央部(当接部21となる部分)とを覆うマスク30を設置する。尚、このとき、図8(b)に示すように、板状部材24の溝22bが形成された部分もマスク30で覆う。そして、図9に示すように、板状部材24の上面にPZT等の圧電材料の粒子を堆積させることにより、駆動部20の、中央部及び溝22bが形成された部分を除く部分(傾斜部22となる部分)に圧電層26を形成する(圧電層形成工程)。
【0036】
ここで、圧電材料の粒子を板状部材24に堆積させる方法としては、例えば、非常に小さな圧電材料の粒子を基材(板状部材24)に吹き付けて高速で衝突させ、基材に堆積させるエアロゾルデポジション法(AD法)を用いて圧電層26を形成することができる。あるいは、スパッタ法、化学蒸着法(CVD法)を用いて圧電層26を形成することもできる。このように、AD法、スパッタ法、あるいは、CVD法により圧電材料の粒子を板状部材24の上面に堆積させたときには、板状部材24の、スリット28を画成する内面に粒子が付着しない。つまり、駆動部20の間のスリットの部分に圧電層26が形成されないように、複数のスリット28をそれぞれ覆うような複雑な形状のマスクを用いる必要がない。従って、図8、図9に示すような、比較的簡単な形状のマスク30を用いるだけで、複数の駆動部20の左右両側部分(傾斜部22となる部分)の上面にのみ圧電層26を形成することが可能になり、複数の駆動部20に圧電層26を形成することが容易になる。その後、図10に示すように、板状部材24からマスク30を除去してから、複数の圧電層26の上面に、スクリーン印刷法などにより複数の個別電極27をそれぞれ形成する(個別電極形成工程)。あるいは、スパッタ法などにより個別電極27を形成することもできる。この場合には、マスク30はスパッタ用のマスクとしても機能するため、マスク30を取り付けた状態で個別電極27を形成し、その後、マスク30を取り除いてもよい。
【0037】
そして、図11に示すように、駆動部20の左右方向の中央部及び両端部をプレス加工等により折り曲げて、圧電層26が形成されていない板状部材24の中央部を上方(面方向と直交する方向)に突出させることにより、当接部21及び傾斜部22を形成する(折り曲げ工程)。ここで、板状部材24は金属製の板であるため、プレス加工等により容易に折り曲げ加工を行うことができる。さらに、前述した溝形成工程において、駆動部20の中央部の下面及び両端部の上面に、それぞれ溝22a,22bが形成されており、上面の溝22bには圧電層26が形成されていないため、これら中央部及び両端部において駆動部20を折り曲げることがさらに容易になる。加えて、複数の駆動部20が、それらの延在方向(第1の方向)と直交する方向(第2の方向)に配列されているので、複数の駆動部20に形成された溝22a,22bは、第1の方向に関する位置が同じ位置となる、即ち、第2の方向に沿って一列に並ぶことから、複数の駆動部20を順次もしくはまとめて折り曲げることが容易になる。
【0038】
以上説明した第1実施形態の圧電アクチュエータ5及びその製造方法によれば、次のような効果が得られる。この第1実施形態の圧電アクチュエータ5のアクチュエータ素子10は、板状部材24の面方向と直交する方向に突出するように屈曲した複数の駆動部20と、これら複数の駆動部20の傾斜部22にそれぞれ配置された圧電層26とを有する。そのため、圧電層26にその厚み方向の電界を作用させて撓み変形させることにより、駆動部20の当接部21に接触する用紙Pを微少な送り量で搬送方向に送することができる。
【0039】
また、この圧電アクチュエータ5を製造する際には、板状部材24に複数のスリット28を形成して複数の駆動部20を画成した後、板状部材24の上面に圧電材料の粒子を堆積させて駆動部20に圧電層26を形成してから、駆動部20を折り曲げて当接部21及び傾斜部22を形成する。ここで、板状部材24の上面に圧電材料の粒子を堆積させたときに、この板状部材24のスリット28が形成された部分には圧電材料の粒子は堆積しないため、板状部材24のうちの、複数の駆動部20(傾斜部22となる部分)の上面にのみ圧電層26を形成することが容易になる。従って、屈曲状の駆動部20と駆動部20の傾斜部22に配置された圧電層26とを有し、駆動部20の撓みを利用した微小送りが可能な圧電アクチュエータ5を、比較的簡単に製造することができ、製造コストを低減できる。
【0040】
また、駆動部20を折り曲げる折り曲げ工程を行う前に圧電層26を形成するため、駆動部20の水平な上面に圧電材料の粒子を堆積させることができ、均一な厚さの圧電層26を容易に形成することができる。
【0041】
次に、前記第1実施形態に種々の変更を加えた変更形態について説明する。但し、前記第1実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
【0042】
〈第1変更形態〉
前記第1実施形態では、その中央部(当接部21となる部分)が板状部材24の面方向と直交する方向に突出するように駆動部20を折り曲げているが、中央部の突出方向は、面方向とは異なる方向であれば、面方向に直交する方向に対して少し傾いていてもよい。即ち、第1実施形態においては、各駆動部20の2つの傾斜部22となる部分がスリット28の延在方向(第1の方向)において同じ長さであるために、各駆動部20の中央部(各当接部21)が板状部材24の面方向と直交する方向に突出するように形成されている。しかしながら、各駆動部20を、第1の方向の中央から何れか一方にずれた位置で折り曲げて、第1の方向に関する長さが互いに異なる2つの傾斜部22を形成することにより、中間部分の突出方向を板状部材24の面方向と直交する方向から幾分傾けてもよい。
【0043】
〈第2変更形態〉
前記第1実施形態では、駆動部20の上面に圧電層26を形成してから駆動部20を折り曲げているが(図11参照)、駆動部20を折り曲げた後に、板状部材24の表面に圧電材料の粒子を堆積させて、屈曲状の駆動部20の傾斜部22に圧電層26を形成してもよい。
【0044】
〈第3変更形態〉
前記第1実施形態では、金属製の傾斜部22が共通電極を兼ねており、傾斜部22と個別電極27との間に電圧を印加することによって、傾斜部22と個別電極27とに挟まれた圧電層26に電界を印加しているが、共通電極が傾斜部22とは別に設けられていてもよい。例えば、板状部材24が金属材料からなる場合には、図12に示すように、板状部材24の駆動部20及び基部23の上面に絶縁材料からなる絶縁層40を形成し、この絶縁層40の上面(圧電層26の下面)に共通電極41が形成してもよい。また、板状部材24は絶縁材料で形成することもできる。この場合には、絶縁層40は不要であり、板状部材24の上面に直接共通電極41が形成される。
【0045】
〈第4変更形態〉
駆動電圧が印加される個別電極27が、圧電層の下面に配置され、一方、グランド電位に保持される共通電極41が、圧電層の上面に配置されていてもよい。例えば、図13に示すように、金属製の板状部材24Aの上面に絶縁材料からなる絶縁層40が形成されており、この絶縁層40の上面(圧電層26Aの下面)に個別電極27及び個別電極27に接続された配線部42が形成され、圧電層26Aの上面に共通電極41が形成されていてもよい。尚、圧電層26Aは、駆動部20Aの両端からさらに基部23Aの上面まで延びており、この基部23Aまで延びた部分(以下、圧電層基部26aという)の表面に形成された導電層43を介して、図13の紙面に直交する方向に配列された、複数の共通電極41が互いに接続されている。
【0046】
この図13のアクチュエータ素子10Aを有する圧電アクチュエータ5Aの製造方法について図14(a)〜図20(b)を参照して説明する。まず、図14(a),(b)に示すように、金属製の板状部材24Aに、エッチング加工などにより、搬送方向(図14(a)の左右方向)に延びる複数のスリット28Aを形成することにより、走査方向(図14(a)の上下方向)に沿って配列された複数の駆動部20Aを画成する(駆動部形成工程)。また、駆動部20Aの左右方向の中央部近傍の下面に、ハーフエッチングやプレス加工などにより、後述の折り曲げ工程において駆動部20Aを折り曲げやすくするための溝22aを形成する(溝形成工程)。尚、この変更形態では、駆動部20Aから基部23Aに亙って圧電層26A(圧電層基部26a)が形成されることから、前記第1実施形態とは異なり、駆動部20Aの両端部の上面には溝を形成しない。
【0047】
次に、図15(a),(b)に示すように、板状部材24Aの上面に、AD法、スパッタ法、あるいは、CVD法などにより、アルミナやジルコニアなどの絶縁性セラミックス材料からなる絶縁層40を形成する(絶縁層形成工程)。そして、図16(a),(b)に示すように、各駆動部20Aの中央部(当接部21Aとなる部分)を除く左右両側の部分(傾斜部22Aとなる部分)に形成された絶縁層40の表面に、2つの個別電極27を形成する(個別電極形成工程)。このとき、基部23Aに形成された絶縁層40の表面に、複数の個別電極27にそれぞれ接続された複数の配線部42も形成する。さらに、後述の共通電極41をグランド電位に保持するための配線部44,45も絶縁層40の表面に形成する。尚、複数の駆動部20Aにそれぞれ対応する複数の個別電極27及び複数の配線部42と、共通電極41に対応する配線部44,45とからなる導電パターンは、例えば、スクリーン印刷により板状部材24Aの上面に一度に形成することができる。
【0048】
次に、図17(a),(b)に示すように、板状部材24Aの上面に、複数の駆動部20A及び複数のスリット28Aが形成された領域の外側の領域と、複数の駆動部20Aの中央部(当接部21Aとなる部分)とを覆うマスク50を設置する。ここで、図17(a)に示すように、基部23Aの、複数の駆動部20Aに連なる部分はマスク50で覆われないようにしておく。
【0049】
そして、図18(a),(b)に示すように、AD法、スパッタ法、あるいは、CVD法などにより、板状部材24Aの上面にPZT等の圧電材料の粒子を堆積させて、駆動部20Aの、マスク50で覆われた中央部を除く部分(傾斜部22Aとなる部分)に圧電層26Aを形成する(圧電層形成工程)。ここで、基部23Aの、複数の駆動部20Aに連なる部分はマスク50で覆われていないため、この部分にも圧電層26A(圧電層基部26a)が形成される。
【0050】
さらに、図19に示すように、マスク50を除去してから、各駆動部20Aに配置された2つの圧電層26Aの上面に、スクリーン印刷法などにより、2つの個別電極27にそれぞれ対向する共通電極41を形成する(共通電極形成工程)。あるいは、マスク50はスパッタ法におけるマスクとしても機能するので、スパッタ法などで共通電極41を形成した後にマスク50を取り除いてもよい。このとき、圧電層基部26aの上面にも導電層43を形成することにより、この導電層43により、走査方向(図19(a)の上下方向)に配列された複数の個別電極27にそれぞれ対応する複数の共通電極41を互いに接続させる。さらに、これら複数の共通電極41と、絶縁層40の上面に形成された配線部44,45とを導電性材料で接続することにより、これら配線部44,45を介して、配列された複数の共通電極41の全てがグランド電位に保持する。そして、図20に示すように、駆動部20Aの中央部及び両端部をプレス加工等により折り曲げて、中央部を上方に突出させて、当接部21A及び傾斜部22Aを形成し(折り曲げ工程)、圧電アクチュエータ5Aの製造工程を完了する。
【0051】
図20に示すように、この圧電アクチュエータ5Aでは、各個別電極27に接続される配線部42を、絶縁層40を介して板状部材24Aの上面において自由に引き回すことができる。従って、複数の配線部42を板状部材24Aの両端部(図20における上下両端部)まで引き出して、これら両端部において複数の配線部42とFPC等の配線部材を一度に接続することができるため、各個別電極27にFPC等の端子を直接接続する場合に比べてその電気的接続構造が簡単になり、電気的接続の信頼性も高くなる。さらに、絶縁層40の上面に駆動回路を配置すれば、この駆動回路と複数の個別電極27とを絶縁層40上面の複数の配線部42により直接接続することが可能になり、FPC等の配線部材を省略できるため、部品コストを低減できる。
【0052】
〈第5変更形態〉
前記第1実施形態では、搬送方向に対応する第1の方向に延びる複数の駆動部20が、走査方向に対応する第2の方向に沿って配列されているが、このように第2の方向が第1の方向に対して必ずしも直交している必要はなく、第2の方向が第1の方向と異なっていればよい。
【0053】
次に、本発明の第2実施形態について説明する。図21(a),(b)に示すように、第2実施形態の圧電アクチュエータ65は、水平に設けられた基材75の面に沿って走査方向(図21(a)の上下方向)に2列に配列された複数のアクチュエータ素子70を有する。
【0054】
複数のアクチュエータ素子70は、金属材料からなる板状部材74に形成された複数の駆動部80と、走査方向に互いに隣接する駆動部80を連結する基部83とを有する。駆動部80は、基材75の面に対して上方へ90度の角度で折り曲げられて形成されている。即ち、板状部材74の面方向と直交する方向に平行に折り曲げられている。駆動部80は、一端(図21(a)の左端)において、走査方向(図21(a)の上下方向)に隣接する他の駆動部80と、基部83を介して繋がっている。また、基部83は水平な基材75に固定されている。
【0055】
直立状に形成された駆動部80の、図21(b)における左側面には、チタン酸鉛とジルコン酸鉛との固溶体であり強誘電体であるチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を主成分とする圧電層81が形成されている。さらに、この圧電層81の左側面には個別電極82が形成されており、複数の個別電極82はそれぞれ駆動回路(図示省略)に接続されている。尚、金属製の駆動部80は共通電極を兼ねており、常にグランド電位に保持されている。
【0056】
そして、駆動回路から個別電極82に駆動電圧が印加されたときには、この個別電極82とグランド電位に保持されている共通電極としての駆動部80の電位が異なる状態となり、個別電極82と駆動部80の間に挟まれた圧電層81にその厚み方向の電界が生じる。ここで、圧電層81の分極方向と電界の方向が同じ場合には、圧電層81は厚み方向に伸びて、圧電層の面と直交する方向に収縮する。従って、この圧電層81の収縮に伴って駆動部80が左方へ撓んで、自由端である駆動部80の先端が左方に微少量変位する。
【0057】
つまり、圧電アクチュエータ65は、個別電極82に駆動電圧が印加されたときに、この個別電極82に対応する駆動部80の先端を左方に変位させて、ガイド部材71によりガイドされた用紙Pを、駆動部80の先端で下方から支持しながら微小な送り量で左方へ搬送することができる。
【0058】
次に、この圧電アクチュエータ65の製造方法について、図22(a)〜図26(b)を参照して説明する。まず、図22(a),(b)に示すように、金属材料からなる板状部材74に、エッチング加工などにより搬送方向(図22(a)の左右方向)に延びる複数のスリット88を形成して、走査方向(図22(a)の上下方向)に沿って配列された複数の駆動部80を画成する(駆動部形成工程)。ここで、図22(a)の上下方向に延びて複数のスリット88を互いに連結するスリット89も形成することによって、図22(a)の左端においてのみ基部83を介して隣接する他の駆動部80と繋がり、右端においては他の駆動部80と分断されている駆動部80を画成する。
【0059】
次に、図23に示すように、板状部材74の上面に、複数の駆動部80及び複数のスリット88が形成された領域の外側の、基部83を含む領域を覆うようにマスク90を設置する。そして、図24に示すように、AD法、スパッタ法、あるいは、CVD法などにより、板状部材74の上面にPZT等の圧電材料の粒子を堆積させて、各駆動部80に圧電層81を形成する(圧電層形成工程)。
【0060】
さらに、図25に示すように、マスク90を除去してから、各駆動部80に配置された圧電層81の上面に、スクリーン印刷法などにより個別電極82を形成する(個別電極形成工程)。あるいは、マスク90を取り除く前にスパッタ法などにより個別電極82を形成し、その後マスク90を取り除くこともできる。そして、図26に示すように、基部83に繋がった駆動部80の左端部を、プレス加工等により板状部材74の上方へ直立するように折り曲げて(折り曲げ工程)、圧電アクチュエータ65の製造工程を完了する。
【0061】
この第2実施形態においては、前記第1実施形態と同様に、板状部材74に複数のスリット88を形成して複数の駆動部80を画成した後、板状部材74の上面に圧電材料の粒子を堆積させて駆動部80に圧電層81を形成してから、駆動部80を折り曲げる。ここで、板状部材74の上面に圧電材料の粒子を堆積させたときに、この板状部材74のスリット88が形成された部分には圧電材料の粒子は堆積しないため、板状部材74のうちの、複数の駆動部80の上面にのみ圧電層81を形成することが容易になる。また、この製造方法によれば、屈曲状の駆動部80と駆動部80に配置された圧電層81とを有し、駆動部80の撓みを利用した微小送りが可能な圧電アクチュエータ65を、比較的簡単に製造することができ、製造コストを低減できる。
【0062】
尚、この第2実施形態においては、駆動部80を板状部材74の面方向と直交する方向に突出するように直立状に折り曲げているが、駆動部80の突出方向は、板状部材74の面方向と異なる方向であれば、その直交方向に対してやや傾いていてもよい。
【0063】
また、この第2実施形態においても、前記第1実施形態と同様の変更を加えることができる。即ち、先に駆動部80を折り曲げてから、駆動部80に圧電層81を形成するようにしてもよい。また、駆動部80とは別に共通電極を形成してもよく、さらに、圧電層81の駆動部80側の面(図21(b)における右側の面)に個別電極82を配置するとともに、圧電層81の駆動部80と反対側の面(図21(b)における左側の面)に共通電極を配置してもよい。また、複数の駆動部80の配列方向がそれらの延在方向に対して直交している必要は必ずしもなく、少なくともこれら2つの方向が異なっていればよい。
【0064】
〈第6変更形態〉
第1実施形態及び第2実施形態では、複数の圧電アクチュエータ素子を有する圧電アクチュエータの製造方法について説明してきたが、本発明は、単一の圧電アクチュエータ素子を有する圧電アクチュエータにも適用できる。この場合、図7(a),22(a)の点線X1,X2で囲まれた領域に相当する板状部材を用意して、第1実施形態及び第2実施形態で説明した工程に従ってスリット、駆動部、圧電層等を形成することにより、単一の圧電アクチュエータ素子を有する圧電アクチュエータを製造することができる。
【0065】
以上説明した第1実施形態及び第2実施形態は、プリンタの用紙搬送装置に本発明を適用した一例であるが、FAX、コピー機、あるいは、スキャナ等、プリンタ以外の機器の用紙搬送装置に本発明を適用することもできる。また、本発明の適用可能な形態は、用紙等のシート状の被搬送体を搬送する搬送装置に限られるものではなく、棒状、板状、箱状、あるいは、筒状等の、種々の形状を有する被搬送体を搬送する搬送装置にも本発明を適用することができる。
【0066】
さらに、本発明は搬送装置以外の用途にも適用可能である。例えば、画素に対応する数のアクチュエータにそれぞれ複数のミラーが設置されて、これらのミラーはアクチュエータにより投射可能位置と非投射位置との間で変位可能に構成されており、投射可能位置に位置付けられたミラーにより反射した光をスクリーンに投射して画像を形成するビデオプロジェクターに適用できる。また、複数のアクチュエータのそれぞれに対応して設置された複数のミラーを備え、アクチュエータでミラーを変位させることにより、複数本の光ファイバーの端子から放射された光を選択的に反射して他の複数本の光ファイバーの端子に導く、光スイッチなどにも適用することができる。
【0067】
また、本発明の製造方法によって製造された圧電アクチュエータを、物体に対して移動する移動装置に適用することもできる。図27(a),(b)に示す移動装置200は、アクチュエータ素子10を基材125の裏面に複数個備える。アクチュエータ素子10は、基材125の裏面に、移動装置の進行方向Mにおける前側と後側にそれぞれ3個づつ列状に設けられている。アクチュエータ素子10の当接部(頂部)21は下向きに配置されて床面に接触している。すなわち、第1実施形態のアクチュエータ素子10は用紙Pに作用して用紙Pを搬送していたが、移動装置200のアクチュエータ素子10は、設置面(床面)または物体面に作用して、設置面または物体面上をアクチュエータ素子10(及びそれが設けられた基材125)自体が移動する。基材125上には、電荷結合素子(CCD)を内蔵した素子91が搭載されている。
【0068】
この移動装置200は、極めて狭い隙間や孔や、低温または高温の厳しい環境や宇宙空間などでの撮像の用途に好適である。この例では、基材125上に電荷結合素子(CCD)を内蔵した素子91を搭載したが、用途に応じて任意の物体、例えば、ミラー、温度センサ、マイクロツール、マイクロロボットアームを搭載することができる。特に本発明の製造方法では、2つの傾斜面により頂部(当接部)が支持された圧電アクチュエータ素子10を容易に形成できる。従って、本発明の製造方法で製造された圧電アクチュエータ素子を、比較的重いものを基材125上に搭載して運搬できる移動装置に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の第1実施形態に係るインクジェットプリンタの概略斜視図である。
【図2】図2(a),(b)は圧電アクチュエータを示す図であり、図2(a)は圧電アクチュエータの平面図、図2(b)は図2(a)のIIB−IIB線断面図である。
【図3】図3(a),(b)は1つのアクチュエータ素子を示す図であり、図3(a)はアクチュエータ素子の断面図、図3(b)は図3(a)のIIIB−IIIB線矢視図である。
【図4】図4は当接部が待機位置にある状態のアクチュエータ素子の断面図である。
【図5】図5は当接部が搬送準備位置にある状態のアクチュエータ素子の断面図である。
【図6】図6は当接部が搬送完了位置にある状態のアクチュエータ素子の断面図である。
【図7】図7(a),(b)は第1実施形態の圧電アクチュエータの製造方法における、駆動部形成工程及び溝形成工程を示す図であり、図7(a)は圧電アクチュエータの平面図、図7(b)は図7(a)のVIIB−VIIB線断面図である。
【図8】図8(a),(b)はマスクを設置する工程を示す図であり、図8(a)は圧電アクチュエータの平面図、図8(b)は図8(a)のVIIIB−VIIIB線断面図である。
【図9】図9(a),(b)は圧電層形成工程を示す図であり、図9(a)は圧電アクチュエータの平面図、図9(b)は図9(a)のIXB−IXB線断面図である。
【図10】図10(a),(b)は個別電極形成工程を示す図であり、図10(a)は圧電アクチュエータの平面図、図10(b)は図10(a)のXB−XB線断面図である。
【図11】図11(a),(b)は折り曲げ工程を示す図であり、図11(a)は圧電アクチュエータの平面図、図11(b)は図11(a)のXIB−XIB線断面図である。
【図12】図12は第1実施形態の変更形態に係る図3(a)相当の断面図である。
【図13】図13は第1実施形態の別の変更形態に係る図3(a)相当の断面図である。
【図14】図14(a),(b)は図13の圧電アクチュエータの製造方法における、駆動部形成工程及び溝形成工程を示す図であり、図14(a)は圧電アクチュエータの平面図、図14(b)は図14(a)のXIVB−XIVB線断面図である。
【図15】図15(a),(b)は絶縁層形成工程を示す図であり、図15(a)は圧電アクチュエータの平面図、図15(b)は図15(a)のXVB−XVB線断面図である。
【図16】図16(a),(b)は個別電極形成工程を示す図であり、図16(a)は圧電アクチュエータの平面図、図16(b)は図16(a)のXVIB−XVIB線断面図である。
【図17】図17(a),(b)はマスクを設置する工程を示す図であり、図17(a)は圧電アクチュエータの平面図、図17(b)は図17(a)のXVIIB−XVIIB線断面図である。
【図18】図18(a),(b)は圧電層形成工程を示す図であり、図18(a)は圧電アクチュエータの平面図、図18(b)は図18(a)のXVIIIB−XVIIIB線断面図である。
【図19】図19(a),(b)は共通電極形成工程を示す図であり、図19(a)は圧電アクチュエータの平面図、図19(b)は図19(a)のXIXB−XIXB線断面図である。
【図20】図20(a),(b)は折り曲げ工程を示す図であり、図20(a)は圧電アクチュエータの平面図、図20(b)は図20(a)のXXB−XXB線断面図である。
【図21】図21(a),(b)は第2実施形態の圧電アクチュエータを示す図であり、図21(a)は圧電アクチュエータの平面図、図21(b)は図21(a)のXXIB−XXIB線断面図である。
【図22】図22(a),(b)は第2実施形態の圧電アクチュエータの製造方法における、駆動部形成工程を示す図であり、図22(a)は圧電アクチュエータの平面図、図22(b)は図22(a)のXXIIB−XXIIB線断面図である。
【図23】図23(a),(b)はマスクを設置する工程を示す図であり、図23(a)は圧電アクチュエータの平面図、図23(b)は図23(a)のXXIIIB−XXIIIB線断面図である。
【図24】図24(a),(b)は圧電層形成工程を示す図であり、図24(a)は圧電アクチュエータの平面図、図24(b)は図24(a)のXXIVB−XXIVB線断面図である。
【図25】図25(a),(b)は個別電極形成工程を示す図であり、図25(a)は圧電アクチュエータの平面図、図25(b)は図25(a)のXXVB−XXVB線断面図である。
【図26】図26(a),(b)は折り曲げ工程を示す図であり、図26(a)は圧電アクチュエータの平面図、図26(b)は図26(a)のXXVIA−XXVIA線断面図である。
【図27】図27(a)は圧電アクチュエータを備えた移動装置の斜視図であり、図27(b)は圧電アクチュエータを備えた移動装置の側面図である。
【符号の説明】
【0070】
3 用紙搬送装置
5,5A 圧電アクチュエータ
10,10A アクチュエータ素子
20,20A 駆動部
22a,22b 溝
24,24A 板状部材
26,26A 圧電層
27 個別電極
28,28A スリット
40 絶縁層
41 共通電極
42 配線部
65 圧電アクチュエータ
70 アクチュエータ素子
74 板状部材
80 駆動部
81 圧電層
82 個別電極
88 スリット


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクチュエータ素子を有する圧電アクチュエータの製造方法であって、
板状部材を設ける工程と、
前記板状部材に、スリットを形成することによって駆動部を画成する駆動部形成工程と、
前記板状部材の一方の面側に圧電材料の粒子を堆積させることにより、前記駆動部に圧電層を形成する圧電層形成工程と、
前記圧電層にその厚み方向の電界を印加するための電極を形成する電極形成工程と、
前記駆動部を折り曲げる折り曲げ工程と、
を備えることを特徴とする圧電アクチュエータの製造方法。
【請求項2】
前記圧電層形成工程の後に、前記折り曲げ工程を行うことを特徴とする請求項1に記載の圧電アクチュエータの製造方法。
【請求項3】
前記板状部材が金属材料によって形成されることを特徴とする請求項1又は2に記載の圧電アクチュエータの製造方法。
【請求項4】
前記圧電層形成工程の前に、前記板状部材の前記一方の面に絶縁層を形成する絶縁層形成工程を備え、
前記電極形成工程において、前記絶縁層の表面に前記電極とこの電極に接続される配線部とを形成することを特徴とする請求項3に記載の圧電アクチュエータの製造方法。
【請求項5】
前記圧電層形成工程において、エアロゾルデポジション法、化学蒸着法、あるいは、スパッタ法により、前記圧電層を形成することを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の圧電アクチュエータの製造方法。
【請求項6】
前記折り曲げ工程の前に、前記板状部材の、前記折り曲げ工程において折り曲げられる部分に溝を形成する溝形成工程を備えることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の圧電アクチュエータの製造方法。
【請求項7】
前記駆動部形成工程において、前記スリットは、第1の方向に延在し、且つ、第1の方向と異なる第2の方向に沿って並んだ細長い複数の個別スリットとして形成され、
前記駆動部は、前記個別スリットにより、第2の方向に沿って配列された複数の個別駆動部として画成されたことを特徴とする請求項1に記載の圧電アクチュエータの製造方法。
【請求項8】
前記駆動部形成工程において、前記個別駆動部の第1の方向の両端が、前記板状部材と連結するように前記複数の個別スリットを形成し、
前記折り曲げ工程において、各個別駆動部を、第1の方向の両端部及び前記両端部の間に位置する中間部において折り曲げることを特徴とする請求項7に記載の圧電アクチュエータの製造方法。
【請求項9】
前記駆動部形成工程において、前記個別駆動部が、前記第1の方向における一端においてのみ前記板状部材と連結するように、前記個別スリットを形成し、
前記折り曲げ工程において、前記各個別駆動部が前記板状部材の面方向と異なる方向に平行となるように、前記第1の方向における一端部において折り曲げることを特徴とする請求項7又は8に記載の圧電アクチュエータの製造方法。
【請求項10】
前記第1の方向と前記第2の方向とが直交していることを特徴とする請求項7〜9の何れかに記載の圧電アクチュエータの製造方法。
【請求項11】
前記板状部材が共通電極を兼ねていることを特徴とする請求項3に記載の圧電アクチュエータの製造方法。
【請求項12】
前記圧電アクチュエータが、物体を所定の搬送方向に搬送する搬送装置に設けられるものであることを特徴とする請求項1〜11の何れかに記載の圧電アクチュエータの製造方法。
【請求項13】
前記圧電アクチュエータが、物体に対して移動する移動装置に設けられるものであることを特徴とする請求項1〜11の何れかに記載の圧電アクチュエータの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【公開番号】特開2006−332616(P2006−332616A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−117550(P2006−117550)
【出願日】平成18年4月21日(2006.4.21)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】