説明

多層配線基板

【課題】 共振周波数での電源インピーダンスを低く保ったまま反共振周波数での電源インピーダンスを下げることが可能な多層配線基板を提供する。
【解決手段】 多層配線基板1には、IC50、及び該IC50の電源−グランド間に互いに並列に接続された2個の積層セラミックコンデンサ(デカップリングコンデンサ)60,67が実装されている。当該2個の積層セラミックコンデンサ60,67は、所定の抵抗値を有する抵抗パターン16を含む配線パターン15によって接続された積層セラミックコンデンサ67と、抵抗パターン16を含まない配線パターン14によって接続された積層セラミックコンデンサ60とを含む。積層セラミックコンデンサ60のESRは100mΩ以下に設定され、積層セラミックコンデンサ67のESRと抵抗パターン16との合成抵抗は1.5Ω以上20Ω以下に設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層配線基板に関し、特に、複数のデカップリングコンデンサが実装される多層配線基板に関する。
【背景技術】
【0002】
ディジタル回路では、ICやLSIの動作中の負荷変動を吸収したり、ノイズを除去するため、電源−グランド間にデカップリングコンデンサが挿入される。その際、電圧変動を抑制する観点から、電源インピーダンスは可能な限り低いことが望ましい。
【0003】
ところで、現実のコンデンサには、容量成分(ESC(Equivalent Series Capacitance))の他、等価直列インダクタンス(ESL(Equivalent Series Inductance)や等価直列抵抗(ESR(Equivalent Series Resistance))が存在する。そのため、デカップリングコンデンサが実装された多層配線基板(多層プリント基板)では、デカップリングコンデンサの容量(ESC)と、多層配線基板の配線等のインダクタンス(L成分)及びデカップリングコンデンサのESLとによる共振(直列共振)、及び、多層配線基板の電源プレーン−グランドプレーン間の容量と、多層配線基板の配線等のインダクタンス(L成分)及びデカップリングコンデンサのESLとによる反共振(並列共振)が起きる。
【0004】
よって、電源インピーダンスは、共振周波数を境にして、低周波側では、周波数が高くなるに従って低くなるが、高周波側では、周波数が高くなるほど高くなる傾向を示す。すなわち、電源インピーダンスは、共振周波数付近で谷型の特性を示す。一方、電源インピーダンスは、反共振周波数を境にして、低周波側では周波数が高くなるに従って高くなるが、高周波側では周波数が高くなるほど低くなる。すなわち、反共振周波数付近で山型の特性を示す。ここで、共振周波数では、インピーダンスが極小となり低く保たれるため、電圧変動は小さくなるが、反共振周波数では、インピーダンスが極大となり高くなるため、電圧変動が大きくなる。このような反共振を抑制する方法としては、デカップリングコンデンサの等価直列抵抗を大きくする(Q値を低くする)ことが考えられる。
【0005】
ここで、下記非特許文献1には、抵抗を付与したコンデンサ(すなわち等価直列抵抗を高くしたコンデンサ)を用いて、インピーダンスの反共振を抑制する手法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Takeshi Hakoda,Takashi Sakusabe,Takehiro Takahashi and Noboru Schibuya,”Study on Noise Reduction Effect Using the Decoupling Capacitor with Resistor on Power Distribution Line”,Electromagnetic Compatibility and 19th International Zurich Symposium on Electromagnetic Compatibility,2008.APEMC 2008. Asia−Pacific Symposium on,19−23 May 2008,p.863−866
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1において提案されている手法によれば、高抵抗を付与したコンデンサを用いることにより、反共振が抑制される。しかしながら、この手法では、反共振周波数でのインピーダンスは比較的低く抑えられるが、反共振周波数よりも低周波数側の領域、特に共振周波数周辺でインピーダンスが増大するという問題がある。
【0008】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、共振周波数での電源インピーダンスを低く保ったまま反共振周波数での電源インピーダンスを下げることが可能な多層配線基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る多層配線基板は、集積回路、及び該集積回路の電源−グランド間に互いに並列に接続される複数のデカップリングコンデンサが実装される多層配線基板であって、複数のデカップリングコンデンサが、所定の抵抗値を有する抵抗パターンを含む配線パターンによって集積回路の電源−グランド間に接続される1以上の積層セラミックコンデンサと、抵抗パターンを含まない配線パターンによって集積回路の電源−グランド間に接続される1以上の積層セラミックコンデンサとを有することを特徴とする。
【0010】
本発明に係る多層配線基板によれば、ICやLSI等の集積回路の電源−グランド間に互いに並列に実装される複数のデカップリングコンデンサが、所定の抵抗値を有する抵抗パターンを含む配線パターンによって接続される1以上の積層セラミックコンデンサと、抵抗パターンを含まない配線パターンによって接続される1以上の積層セラミックコンデンサとを有している。ここで、抵抗パターンを含む配線パターンによって接続される積層セラミックコンデンサでは、該積層セラミックコンデンサの容量に対して抵抗成分が直列に付加されることとなるため、実質的に等価直列抵抗(ESR)が高くなる。すなわち、抵抗パターンを含む配線パターンによって接続される積層セラミックコンデンサは、抵抗パターンを含まない配線パターンによって接続される積層セラミックコンデンサよりも実質的に等価直列抵抗(ESR)が高くなる。以下、抵抗パターン及び該抵抗パターンを含む配線パターンによって接続される積層セラミックコンデンサを「高ESRコンデンサ」ともいい、抵抗パターンを含まない配線パターンによって接続される積層セラミックコンデンサを「低ESRコンデンサ」ともいう。
【0011】
このように、本発明に係る多層配線基板では、集積回路の電源−グランド間に互いに並列に実装される複数のデカップリングコンデンサが、高ESRコンデンサと、低ESRコンデンサとを有しているため、電源からグランドに流れる電流は、反共振周波数の付近以外の周波数(共振周波数を含む)では低ESRコンデンサを通り、反共振周波数の付近の周波数では高ESRコンデンサを通る。そのため、共振周波数でのインピーダンスを低く保ったまま、反共振周波数でのインピーダンスを下げることができる。なお、ここで、多層配線基板には、プリント基板の他、インターポーザなどを含むものとする。
【0012】
本発明に係る多層配線基板では、積層セラミックコンデンサの等価直列抵抗が100mΩ以下であり、積層セラミックコンデンサの等価直列抵抗と抵抗パターンとの合成抵抗が1.5Ω以上20Ω以下であることが好ましい。
【0013】
この場合、高ESRコンデンサのESR(積層セラミックコンデンサの等価直列抵抗と抵抗パターンとの合成抵抗)が1.5Ω以上20Ω以下に設定され、低ESRコンデンサのESRが100mΩ以下に設定されているため、共振周波数での電源インピーダンスを低く保ったまま、反共振周波数における電源インピーダンスを、低ESRコンデンサのみの場合と比較して、半分以下に低減(−6dBのノイズ低減に相当)することが可能となる。
【0014】
また、本発明に係る多層配線基板では、抵抗パターンを含む配線パターンによって集積回路の電源−グランド間に接続される積層セラミックコンデンサの数が、抵抗パターンを含まない配線パターンによって集積回路の電源−グランド間に接続される積層セラミックコンデンサの数以上であることが好ましい。
【0015】
このようにすれば、並列に接続される高ESRコンデンサの数が多くなるため、より多くの高ESRコンデンサのESLが並列に接続されることとなり、高ESRコンデンサ全体のESL(実効インダクタンス)がより低減される。その結果、反共振周波数での電源インピーダンスのピークを効果的に低減することができる。
【0016】
また、本発明に係る多層配線基板では、積層セラミックコンデンサの等価直列インダクタンスが、1nH以下であることが好ましい。
【0017】
このようにすれば、1以上の高ESRコンデンサ及び1以上の低ESRコンデンサを含むバイパスコンデンサ全体のESL(実効インダクタンス)がより低減される。その結果、反共振周波数での電源インピーダンスのピークをより低減することができる。
【0018】
本発明に係る多層配線基板では、抵抗パターンを含む配線パターンによって集積回路の電源−グランド間に接続される積層セラミックコンデンサ全体の実効抵抗が、0.16Ω以上3.98Ω以下であることが好ましい。
【0019】
このようにすれば、あらゆる条件で、反共振周波数における電源インピーダンスを、低ESRコンデンサのみの場合と比較して、半分以下に低減(−6dBのノイズ低減に相当)することが可能となる。なお、この場合、並列に接続される高ESRコンデンサの数は、該高ESRコンデンサのESRに応じて、実効抵抗(合成抵抗)が、0.16Ω以上3.98Ω以下となるように設定される。
【0020】
また、本発明に係る多層配線基板では、抵抗パターンを含む配線パターンのインダクタンス値と、抵抗パターンを含まない配線パターンのインダクタンス値とが略等しいことが好ましい。
【0021】
このようにすれば、集積回路の電源端子からのインダクタンス値が略等しい位置に高ESRコンデンサと低ESRコンデンサとを配置することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、共振周波数での電源インピーダンスを低く保ったまま反共振周波数での電源インピーダンスを下げることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施形態に係る多層配線基板の構成を示す断面図である。
【図2】図1の矢印方向から見た、実施形態に係る多層基板の要部拡大図(底面図)である。
【図3】実施形態に係る多層配線基板に実装される積層セラミックコンデンサの断面図である。
【図4】実施形態に係る多層配線基板の等価回路を示す図である。
【図5】抵抗パターンの抵抗値の設定方法を説明するための図である。
【図6】実施形態に係る多層配線基板の電源インピーダンスを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、各図において、同一要素には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0025】
まず、図1〜図3を併せて用いて、実施形態に係る多層配線基板1の構成について説明する。図1は、多層配線基板1の構成を示す断面図であり、図2は、図1の矢印方向から見た多層配線基板1の要部拡大図(底面図)である。また、図3は、多層配線基板1に実装される積層セラミックコンデンサ60(67)の断面図である。
【0026】
多層配線基板1は、図1において上側から、絶縁層30、電源プレーン(電源層)10、絶縁層31、グランドプレーン(グランド層)20、及び、絶縁層32、が順番に積層されて構成されている。すなわち、多層配線基板1は、電源プレーン10、及び、該電源プレーン10と絶縁層31を介して対向して配置されるグランドプレーン20を内層として有している。
【0027】
絶縁層30,31,32それぞれは、例えば、絶縁性の樹脂やセラミックスなどから形成された矩形の薄板である。電源プレーン10は、銅箔などからなる電源パターンが略一面に形成された所謂ベタ電源層である。また、グランドプレーン20は、銅箔などからなるグランドパターンが略一面に形成された所謂ベタグランド層である。
【0028】
多層配線基板1の上面1aには、例えば銅箔などからなる配線パターン(プリント配線)が形成されており、IC(特許請求の範囲に記載の集積回路に相当)50等の電子部品が実装されている。なお、IC50は、例えば、BGA(Ball Grid Array)パッケージのICであり、ボール状電極(バンプ)を用いたフェースダウン実装によって、多層配線基板1の上面1aに実装される。
【0029】
IC50の電源端子51は、絶縁層30を厚み方向に貫通するように形成された第1層間貫通ビア(以下単に「第1ビア」という)11を介して電源プレーン10と接続されている。また、IC50のグランド端子52は、絶縁層30及び絶縁層31を厚み方向に貫通するように形成された第2層間貫通ビア(以下単に「第2ビア」という)21を介してグランドプレーン20と接続されている。
【0030】
一方、多層配線基板1の裏面1bには、図2に示されるように、複数(図2の例では2個)の積層セラミックコンデンサ(デカップリングコンデンサ)60,67がはんだ付けなどによって実装されている。
【0031】
ここで、積層セラミックコンデンサ60,67には、公知の積層セラミックコンデンサを用いることができる。すなわち、図3に断面図で示されるように、積層セラミックコンデンサ60(67)は、矩形に形成された複数の誘電体層62と、複数の内部電極63,64とが交互に積層されることにより構成された直方体形状の積層体61と、該積層体61の対向する側面に形成された一対の外部電極65(68),66(69)を備えて構成されている。なお、積層セラミックコンデンサ60,67としては、等価直列インダクタンス(ESL)が1nH以下のものを用いた。
【0032】
図2に戻って説明を続けると、多層配線基板1の裏面1bには、例えば銅箔などから形成され、IC50の電源−グランド間に2個の積層セラミックコンデンサ60,67を並列に接続するための配線パターン(プリント配線)14,15(16),24,25が形成されている。なお、多層配線基板1では、IC50の電源端子51から積層セラミックコンデンサ60までのインダクタンス値と、積層セラミックコンデンサ67までのインダクタンス値とが略等しくなるように、すなわち、配線パターン14と配線パターン15(16)との配線長が略等しくなるように形成されている。
【0033】
配線パターン14の一端には、はんだ付けによって積層セラミックコンデンサ60の一方の外部電極65が接続されている。この配線パターン14の他端は、第3層間貫通ビア(以下単に「第3ビア」という)12と接続されている。第3ビア12は、配線パターン14の他端と多層配線基板1の電源プレーン10とを接続するものである。これにより、積層セラミックコンデンサ60の一方の外部電極65は、電源プレーン10に接続される。また、配線パターン24の一端には、はんだ付けによって積層セラミックコンデンサ60の他方の外部電極66が接続されている。この配線パターン24の他端は、第4層間貫通ビア(以下単に「第4ビア」という)22と接続されている。第4ビア22は、配線パターン24の他端と多層配線基板1のグランドプレーン20とを接続するものである。これにより、積層セラミックコンデンサ60の他方の外部電極66は、グランドプレーン20に接続される。
【0034】
配線パターン15の一端には、所定の抵抗値(詳細は後述する)を有する抵抗パターン16が形成されており、該抵抗パターン16に、はんだ付けなどによって積層セラミックコンデンサ67の一方の外部電極68が接続されている。この配線パターン15の他端は、第3ビア13と接続されている。第3ビア13は、配線パターン15の他端と多層配線基板1の電源プレーン10とを接続するものである。これにより、積層セラミックコンデンサ67の一方の外部電極68は、抵抗パターン16を介して電源プレーン10に接続される。ここで、積層セラミックコンデンサ67は、抵抗パターン16を介して配線パターン15に接続されるため、該積層セラミックコンデンサ67の容量に対して抵抗成分が直列に付加されることとなり、実質的に等価直列抵抗(ESR)が高くなる。
【0035】
一方、配線パターン25の一端には、はんだ付けによって積層セラミックコンデンサ67の他方の外部電極69が接続されている。この配線パターン25の他端は、第4ビア23と接続されている。第4ビア23は、配線パターン25の他端と多層配線基板1のグランドプレーン20とを接続するものである。これにより、積層セラミックコンデンサ67の他方の外部電極69は、グランドプレーン20に接続される。
【0036】
以上のようにして、2個の積層セラミックコンデンサ60,67は、IC50の電源−グランド間に互いに並列に接続されて実装される。また、その際に、積層セラミックコンデンサ67は、抵抗パターン16を介して、IC50の電源−グランド間に接続され、積層セラミックコンデンサ60は、抵抗パターン16を介することなくIC50の電源−グランド間に接続される。以下、区別を容易にするために、抵抗パターン16及び該抵抗パターン16を含む配線パターン15によって接続される積層セラミックコンデンサ67を「高ESRコンデンサ70」ともいい、抵抗パターン16を含まない配線パターン14によって接続される積層セラミックコンデンサ60を「低ESRコンデンサ60」ともいう。
【0037】
図2では、高ESRコンデンサ70と低ESRコンデンサ60とが1個づつ実装されている場合を例に示したが、高ESRコンデンサ70及び低ESRコンデンサ60それぞれの数は複数であってもよい。ただし、高ESRコンデンサ70及び低ESRコンデンサ60それぞれの数は、10以下に設定される。また、高ESRコンデンサ70の数は、低ESRコンデンサ60の数以上に設定される。その際、抵抗パターン16の抵抗値、高ESRコンデンサ70の数は、要求されるインピーダンス特性、実装面積や、後述する実効抵抗などを考慮して設定される。
【0038】
ここで、抵抗パターン16は、例えば、抵抗成分を含有する抵抗ペースト(抵抗材)を塗布して焼き付けることによって形成される。なお、抵抗成分としては、例えば、In−Sn複合酸化物(ITO)、La−Cu複合酸化物、Sr−Fe複合酸化物、Ca−Sr−Ru複合酸化物などの複合酸化物が用いられる。また、抵抗パターン16には、例えばB−Si系ガラス、B−Si−Zn系ガラスなどのガラスが添加される。さらに、抵抗パターン16に、Ni,Cu、Mo、Cr、Nbなどの金属や、Al2O3、TiO2、ZrO2、ZnO2などの金属酸化物を添加することにより、比抵抗等を調整することができる。このようにして抵抗パターン16の抵抗値を調節することにより、高ESRコンデンサ70のESR(すなわち、積層セラミックコンデンサ67のESRと抵抗パターン16との合成抵抗)は、1.5Ω〜20Ωの範囲内に調節される。
【0039】
ここで、図4を参照しつつ、高ESRコンデンサ70のESRの設定方法について説明する。ここで、図4は、多層配線基板1の等価回路を示す図である。図4において、60Aは、全て(本実施形態では1個)の低ESRコンデンサ60の実効回路を示し、70Aは、全て(本実施形態では1個)の高ESRコンデンサ70の実効回路を示す。なお、第1ビア11のインダクタンス及び第2ビア21のインダクタンスは、反共振には影響しないため、図4に示した等価回路では省略した。
【0040】
まず、図4に示した多層配線基板1の等価回路において、低ESRコンデンサ60の実効回路60Aの実効抵抗R1を10mΩ、実効静電容量C1を1μFとするとともに、高ESRコンデンサ70の実効回路70Aの実効静電容量C2を1μFとした。
【0041】
そして、多層配線基板1のプレーン間容量(平板容量)Cpを100pF〜2nF(10水準)、低ESRコンデンサ60の実効インダクタンスL1を100pH〜1nH(8水準)、高ESRコンデンサ70の実効インダクタンスL2を100pH〜1nH(8水準)(ただしL1≦L2)の間でそれぞれ変化させた、計640ケースに対して、高ESRコンデンサ70の実効抵抗R2を10mΩとした場合(すなわち低ESRコンデンサ60と同じにした場合)と比較して、反共振のインピーダンスのピーク値が1/2以下になる最小と最大の実効抵抗R2を10m〜100Ω(101水準)の範囲で探索した。
【0042】
その結果、図5に示されるように、反共振のインピーダンスのピーク値が1/2以下になる実効抵抗R2は、最小が0.16Ω、最大が3.98Ωとなった。求められた実効抵抗R2に対して、並列に接続され得る高ESRコンデンサ70の数を考慮し、各高ESRコンデンサ70のESR(すなわち積層セラミックコンデンサ67のESRと抵抗パターン16との合成抵抗)を、1.5Ω以上20Ω以下の範囲に設定すれば、反共振のインピーダンスのピークを、低ESRコンデンサ60のみを使用した場合(実効抵抗R2が10mΩの場合)と比較して、50%以上低減できるという結果が得られた。すなわち、並列に接続される高ESRコンデンサ70の数は、ESR(積層セラミックコンデンサ67のESRと抵抗パターン16との合成抵抗)に応じて、実行抵抗R2が上述した範囲内に収まるように設定される。
【0043】
上述したように実装されることにより、高ESRコンデンサ70と低ESRコンデンサ60とが、並列に、IC50の電源−グランド間に挿入される。そのため、電源からグランドに流れる電流は、反共振周波数の付近以外の周波数(共振周波数を含む)では低ESRコンデンサ60側を通り、反共振周波数の付近の周波数では高ESRコンデンサ70側を通る。よって、共振周波数でのインピーダンスが低く保たれたまま、反共振周波数でのインピーダンスが低減される。特に、本実施形態に係る多層配線基板1では、高ESRコンデンサ70のESR(積層セラミックコンデンサ67のESRと抵抗パターン16との合成抵抗)が1.5Ω以上20Ω以下に設定され、低ESRコンデンサ60のESRが100mΩ以下に設定されているため、共振周波数での電源インピーダンスが低く保たれたまま、反共振周波数における電源インピーダンスが、低ESRコンデンサ60のみの場合と比較して、半分以下に低減(−6dBのノイズ低減に相当)される。
【0044】
ここで、本実施形態に係る多層配線基板1による電源インピーダンスの低減効果を確認するために、多層配線基板1の電源インピーダンスを測定した。また、比較例として、低ESRコンデンサ60のみを実装した場合(すなわち、全ての積層セラミックコンデンサ60を抵抗パターン16を含まない配線パターン14で接続した場合)の電源インピーダンス、及び、高ESRコンデンサ70のみを実装したとき(すなわち、全ての積層セラミックコンデンサ67を抵抗パターン16を含む配線パターン15で接続したとき)の電源インピーダンスを併せて測定した。なお、多層配線基板1として、ESRが10mΩの低ESRコンデンサ60が1個と、ESRが1.5Ωの高ESRコンデンサ70が1個、実装されているものを用いた。一方、比較例として、低ESRコンデンサ60のみが2個実装された多層配線基板、及び高ESRコンデンサ70のみが2個実装された多層配線基板を用いた。
【0045】
低ESRコンデンサ60と高ESRコンデンサ70が1個づつ実装された多層配線基板1、低ESRコンデンサ60のみが2個実装された多層配線基板、及び、高ESRコンデンサ70のみが2個実装された多層配線基板それぞれの電源インピーダンスの周波数特性(測定結果)を図6に示す。図6に示されたグラフの横軸は周波数(Hz)であり、縦軸はインピーダンス(Ω)である。また、図6のグラフでは、実施形態に係る多層配線基板1の測定結果を実線で、低ESRコンデンサ60のみが実装された多層配線基板の測定結果を破線で、高ESRコンデンサ70のみが実装された多層配線基板の測定結果を一点鎖線でそれぞれ示した。
【0046】
図6に破線で示されるように、低ESRコンデンサ60のみが実装された多層配線基板の場合、共振周波数(約12MHz)でのインピーダンスは低く(約13mΩ)抑えられているが、反共振周波数(約500MHz)ではピークが生じ、インピーダンスが急激に増大(約100Ω)した。
【0047】
一方、図6に一点鎖線で示されるように、高ESRコンデンサ70のみが実装された多層配線基板では、反共振周波数(約500MHz)でのインピーダンスは比較的低く(約3Ω)抑えられている。しかしながら、反共振周波数よりも低周波数側、特に60MHzよりも低い周波数領域で、インピーダンスが増大(約250〜400mΩ)している。
【0048】
図6に実線で示されるように、本実施形態に係る多層配線基板1の場合、共振周波数(約16MHz)でのインピーダンスは比較的低く(約22mΩ)抑えられている。また、反共振周波数(約500MHz)でのインピーダンスも比較的低く(約5.5Ω)抑えられている。このように、本実施形態に係る多層配線基板1によれば、共振周波数での電源インピーダンスが低く保たれたまま、反共振周波数での電源インピーダンスが、低ESRコンデンサ60のみが実装された多層配線基板と比較して、1/2以下に低減される。
【0049】
以上、詳細に説明したように、本実施形態によれば、IC50の電源−グランド間に高ESRコンデンサ70と低ESRコンデンサ60とが並列に接続されている。そのため、電源からグランドに流れる電流は、反共振周波数の付近以外の周波数(共振周波数を含む)では低ESRコンデンサ60を通り、反共振周波数の付近の周波数では高ESRコンデンサ70を通る。そのため、共振周波数でのインピーダンスを低く保ったまま、反共振周波数でのインピーダンスを下げることが可能となる。
【0050】
特に、本実施形態では、高ESRコンデンサ70のESR(積層セラミックコンデンサ67のESRと抵抗パターン16との合成抵抗)が1.5Ω以上20Ω以下に設定され、低ESRコンデンサ60のESRが100mΩ以下に設定されているため、共振周波数での電源インピーダンスを低く保ったまま、反共振周波数における電源インピーダンスを、低ESRコンデンサ60のみの場合と比較して、半分以下に低減(−6dBのノイズ低減に相当)することが可能となる。
【0051】
さらに、本実施形態によれば、並列に接続された高ESRコンデンサ70の実効抵抗R2が、0.16Ω以上3.98Ω以下に設定されているため、あらゆる条件で、反共振周波数における電源インピーダンスを、低ESRコンデンサ60のみの場合と比較して、半分以下に低減することが可能となる。
【0052】
また、本実施形態によれば、高ESRコンデンサ70(積層セラミックコンデンサ67)のESL、及び低ESRコンデンサ60(積層セラミックコンデンサ60)のESLが共に1nH以下に設定されているため、高ESRコンデンサ70及び低ESRコンデンサ60を含むバイパスコンデンサ全体のESL(実効インダクタンス)がより低減される。その結果、反共振周波数での電源インピーダンスのピークをより低減することができる。
【0053】
ところで、積層セラミックコンデンサ67にチップ抵抗を直列に接続することによって、ESRを高めようとした場合、チップ抵抗のESLが高ESRコンデンサ70側に付加されてしまう。しかしながら、本実施形態では、抵抗パターン16により抵抗を付与しているため、ESLが増大することなく、高ESRコンデンサ70側のESLと低ESRコンデンサ60側のESLとを揃えることができる。
【0054】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態では、低ESRコンデンサ60及び高ESRコンデンサ70を多層配線基板1の裏面1bに実装したが、IC50と同じ側の実装面1aに実装する構成としてもよい。
【0055】
また、上記実施形態では、抵抗パターン16を、積層セラミックコンデンサ67の一方の外部電極68側に設けたが、他方の外部電極69側、又は、双方の外部電極68,69に設けてもよい
【0056】
また、上記実施形態では、配線パターン15の一部に抵抗パターン16を形成する構成としたが、多層配線基板1の第3ビア13(又は第4ビア23)が裏面1bの配線パターン15(又は配線パターン25)と接している箇所に抵抗ペーストを塗布することにより、抵抗を付与する構成としてもよい。
【0057】
上記実施形態では、多層配線基板1として3層の基板を用いたが、多層配線基板1としては、4層以上のものを用いてもよい。
【0058】
上記本実施形態では、高ESRコンデンサ70及び低ESRコンデンサ60それぞれの数を1個にしたが、高ESRコンデンサ70及び低ESRコンデンサ60それぞれの数は2以上であってもよい。この場合、高ESRコンデンサ70の数は、低ESRコンデンサ60の数以上であることが好ましい。このようにすれば、並列に接続される高ESRコンデンサ70の数が多くなるため、より多くの高ESRコンデンサ70のESLが並列に接続されることとなり、高ESRコンデンサ70全体のESL(実効インダクタンス)がより低減される。その結果、反共振周波数での電源インピーダンスのピークを効果的に低減することができる。
【符号の説明】
【0059】
1 多層配線基板
10 電源プレーン
11 第1ビア
12,13 第3ビア
14,15 配線パターン
16 抵抗パターン
20 グランドプレーン
21 第2ビア
22,23 第4ビア
24,25 配線パターン
30,31,32 絶縁層
50 IC
60,67 積層セラミックコンデンサ
70 高ESRコンデンサ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
集積回路、及び該集積回路の電源−グランド間に互いに並列に接続される複数のデカップリングコンデンサが実装される多層配線基板であって、
前記複数のデカップリングコンデンサは、所定の抵抗値を有する抵抗パターンを含む配線パターンによって前記集積回路の電源−グランド間に接続される1以上の積層セラミックコンデンサと、前記抵抗パターンを含まない配線パターンによって前記集積回路の電源−グランド間に接続される1以上の積層セラミックコンデンサとを有することを特徴とする多層配線基板。
【請求項2】
前記積層セラミックコンデンサの等価直列抵抗は、100mΩ以下であり、
前記積層セラミックコンデンサの等価直列抵抗と前記抵抗パターンとの合成抵抗は、1.5Ω以上20Ω以下であることを特徴とする請求項1に記載の多層配線基板。
【請求項3】
前記抵抗パターンを含む配線パターンによって前記集積回路の電源−グランド間に接続される積層セラミックコンデンサの数は、前記抵抗パターンを含まない配線パターンによって前記集積回路の電源−グランド間に接続される積層セラミックコンデンサの数以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の多層配線基板。
【請求項4】
前記積層セラミックコンデンサの等価直列インダクタンスは、1nH以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の多層配線基板。
【請求項5】
前記抵抗パターンを含む配線パターンによって前記集積回路の電源−グランド間に接続される積層セラミックコンデンサ全体の実効抵抗は、0.16Ω以上3.98Ω以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の多層配線基板。
【請求項6】
前記抵抗パターンを含む配線パターンのインダクタンス値と、前記抵抗パターンを含まない配線パターンのインダクタンス値とは略等しいことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の多層配線基板。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−164816(P2012−164816A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−24169(P2011−24169)
【出願日】平成23年2月7日(2011.2.7)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【出願人】(302062931)ルネサスエレクトロニクス株式会社 (8,021)
【Fターム(参考)】