説明

履物の足裏面形状形成方法及びカップインソールの足裏面形状形成方法

【課題】外力によって変形した形状を簡易に保持することができる樹脂発泡体を得ることを目的とし、たとえばインソールにおいて身体への負担を軽減させるために、各人の足裏面の形状に合ったインソールを手間と時間をかけずに成形できる材料を提供する。
【解決手段】低密度ポリエチレン(A)と、エチレン酢酸ビニル共重合体(B)と、充填剤(C)と、発泡剤(D)と、架橋材(E)とを含有する樹脂組成物を発泡させた樹脂発泡体aであって、低密度ポリエチレン(A)とエチレン酢酸ビニル共重合体(B)との質量比が(A)/(B)=95/5〜90/10である樹脂発泡体aとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外力によって変形した形状を簡易に保持することができる樹脂発泡体、該樹脂発泡体を用いた履物及びカップインソールに関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば履物においては、接地したときの衝撃を吸収して足への負担を軽減させる作用を有すると共に、長時間使用しても疲労しないことなどが要求される。従って、身体のバランスが崩れないように各人の足裏面の形状に合ったインソールが望まれ、たとえば外力が加えられることにより変形をするスポンジをインソールとして用いる履物(特許文献1参照)、インソール材料に熱可塑性樹脂を用い、使用前にこの熱可塑性樹脂を加熱して足を挿入することにより足裏面の形状に成形する履物(特許文献2参照)などがある。
【特許文献1】実用新案登録 第3097517号
【特許文献2】特開2005−74085号公報
【0003】
しかしながら、前者のものにあっては外力によって変形した形状を簡易に保持できる具体的なインソール用材料は開示されていなかった。また、後者のものにあっては使用開始前にインソールの熱可塑性樹脂を加熱して足裏面形状に合うように成形するため、手間と時間がかかるという問題点があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上述の問題点を除去するためになされたものであり、外力によって変形した形状を簡易に保持することができる樹脂発泡体、該樹脂発泡体を用いた履物及びカップインソールを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1は、低密度ポリエチレン(A)と、エチレン酢酸ビニル共重合体(B)と、充填剤(C)と、発泡剤(D)と、架橋材(E)とを含有する樹脂組成物を発泡させた樹脂発泡体であって、低密度ポリエチレン(A)とエチレン酢酸ビニル共重合体(B)との質量比が(A)/(B)=95/5〜90/10である樹脂発泡体である。
【0006】
請求項2は、請求項1に記載の樹脂発泡体であって、樹脂組成物に炭酸アンチモン(Sb2(CO33)を含有させた樹脂発泡体である。
【0007】
請求項3は、アウトソールの上にインソールを設けた履物であって、前記インソールは請求項1に記載の樹脂発泡体で構成された中芯部材と、この中芯部材の外周を囲むように形成され、前記中芯部材より硬い部材で形成された外芯部材と、この外芯部材と前記中芯部材の外表面を覆う被覆部材とを有する履物である。
【0008】
請求項4は、請求項1に記載の樹脂発泡体で構成された中芯部材と、この中芯部材の外周を囲むように形成され、前記中芯部材より硬い部材で形成された外芯部材と、この外芯部材と前記中芯部材の全体を覆うように設けられた被覆部材とを有するカップインソールである。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に記載の発明によれば、樹脂発泡体は、低密度ポリエチレン(A)と、エチレン酢酸ビニル共重合体(B)と、充填剤(C)と、発泡剤(D)と、架橋材(E)とを含有する樹脂組成物を発泡させた樹脂発泡体であって、低密度ポリエチレン(A)とエチレン酢酸ビニル共重合体(B)との質量比が(A)/(B)=95/5〜90/10であるため、外力によって変形した形状を簡易に保持することができる。
【0010】
請求項2に記載の発明によれば、樹脂組成物に炭酸アンチモン(Sb2(CO33)を含有させているため、柔軟性に優れた樹脂発泡体とすることができる。
【0011】
請求項3に記載の発明によれば、履物のインソールの中芯部材を請求項1に記載の樹脂発泡体で構成しているため、履物の短時間の使用により各人で異なる足裏面の形状をインソールの表面に成形することができ、手間と時間をかけずに各人の足裏面形状に合った履物を得ることができる。
【0012】
請求項4に記載の発明によれば、カップインソールは請求項1に記載の樹脂発泡体で構成された中芯部材を有しているため、このカップインソールを装着した履物の短時間の使用により各人で異なる足裏面の形状をカップインソールの表面に成形することができ、手間と時間をかけずに各人の足裏面形状に合った履物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の実施の形態を、図1に基づき説明する。
【0014】
図1は本発明に係る樹脂発泡体の略断面図を示したものであり、aは樹脂発泡体、1は樹脂基体、2は充填材(充填材(C))、3は気泡をそれぞれ示している。
【0015】
樹脂基体1は樹脂発泡体aの骨格を構成するものであり、低密度ポリエチレン(A)やエチレン酢酸ビニル共重合体(B)を架橋剤(E)により架橋させて形成され、低密度ポリエチレン(A)とエチレン酢酸ビニル共重合体(B)との質量比が(A)/(B)=95/5〜90/10となるようにする。後述する圧縮残留ひずみ率の特性において、低密度ポリエチレン(A)の質量比が90/10未満では圧縮残留ひずみ率の値が小さくなって外力により変形した形状の保持性が悪くなるからであり、質量比が95/5を超えると引張強度の低下が大きくなって破断し易くなるからである。
【0016】
充填材2(充填材(C))は樹脂発泡体aの硬度を調整するために添加されるものであり、用途に応じて材料の選定および添加量の調整が行われる。したがって、例えば履物のインソールとして使用する場合には、履物を履いたときに足裏面に適度な感触を得るため、樹脂発泡体aの気泡3を細かくできる炭酸カルシウムの微粉末が用いられ、好ましくは低密度ポリエチレン(A)とエチレン酢酸ビニル共重合体(B)の合計質量と充填剤(C)の質量との比が((A)+(B))/(C)=70/30〜80/20となるように添加される。
【0017】
気泡3は樹脂発泡体aの製造工程において、発泡剤(D)の発泡により独立気泡の状態で形成される。
【0018】
次に、本発明の樹脂発泡体aの製造方法について説明する。
【0019】
まず、低密度ポリエチレン(A)、エチレン酢酸ビニル共重合体(B)、充填材(C)、発泡剤(D)、架橋剤(E)を所定の割合で混合して十分混練し樹脂組成物を調合する。
【0020】
そして、たとえば射出成形や押し出し成形などの形成方法を用い、調合した樹脂組成物を140℃〜180℃の温度に保ちながら発泡させ、所定の形状となるよう成形して樹脂発泡体aが得られる。
【0021】
ここで、架橋剤(E)は加熱発泡時に低密度ポリエチレン(A)の分子やエチレン酢酸ビニル共重合体(B)の分子を架橋反応により架橋して結合させるものであり、ジクミルパーオキサイド(DCP)などの材料が使用される。また、発泡剤(D)は加熱発泡時に樹脂発泡体a中に気泡3を形成するものであり、アゾジカルボンアミド(AC)などの材料が用いられる。
【0022】
なお、樹脂組成物に炭酸アンチモン(Sb2(CO33)を含有させてもよい。この炭酸アンチモンは成形した樹脂発泡体aの柔軟性を増加させる働きを有し、特にシート状に加工した場合、容易に屈曲させることが可能となる。また、用途に応じて酸化チタン(TiO2)などの発色剤や他の添加剤を添加してもよい。
【実施例1】
【0023】
以下、本発明の実施例について比較例と共に説明する。
(1)(実施例)および(比較例)に使用した主な材料
・低密度ポリエチレン(A):上海石化有限公司社製 低密度ポリエチレン(LDPE)
・エチレン酢酸ビニル共重合体(B):北京燕化高新技術有限公司社製 エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)
・充填材(C):浙江菱化有限公司社製 炭酸カルシウム(CaCO3
・発泡剤(D):浙江海虹控股有限公司社製 アゾジカルボンアミド(AC)
・架橋剤(E):上海石化有限公司社製 ジクミルパーオキサイド(DCP)
(2)(実施例)および(比較例)の樹脂組成物の組成
表1に実施例および比較例の樹脂組成物の主な材料の組成を示した(表中の各値は質量部を表し、充填材(C)、発泡剤(D)、架橋剤(E)の値は低密度ポリエチレン(A)とエチレン酢酸ビニル共重合体(B)の合計質量を100質量部としたときの質量部を表している。)。また、表1には示していないが、実施例1〜3および比較例1、2共に炭酸アンチモン(Sb2(CO33)を低密度ポリエチレン(A)とエチレン酢酸ビニル共重合体(B)の合計質量100質量部に対し1.8質量部添加している。
【0024】
【表1】

【0025】
樹脂発泡体aの特性の指標として圧縮残留ひずみ率および引張強度を選定し、実施例および比較例について測定した特性測定結果を表2に示した。なお、各特性は下記の評価方法により測定した値である。
・圧縮残留ひずみ率:試験片50mm×50mm×15mm(d0=15mm)
試験温度15±1℃
圧縮率53%(圧縮前の厚さ15mm、圧縮時の厚さ7mm )
圧縮時間3時間
圧縮残留ひずみ率(%)=(d0−dr)/d0×100
d0:圧縮前の厚さ(mm)、dr:圧縮荷重の解除後の厚さ(mm)
・引張強度 :JIS K6251 「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−引張特性の求め方」に準拠
【表2】

【0026】
表2に示したように、圧縮残留ひずみ率の特性は実施例1〜3および比較例2では比較例1に比べ高い値(圧縮荷重を解除しても厚さが元に戻り難い傾向)であるのに対し、比較例1では20%と低い値(圧縮荷重の解除後に厚さが元に戻ろうとする傾向)であった。
【0027】
一方、エチレン酢酸ビニル共重合体を含有しない比較例2の樹脂組成物を用いた樹脂発泡体にあっては、圧縮残留ひずみ率は実施例1〜3と同様に高いものの、引張強度が0.19MPaであり、実施例1〜3に比べて低く、実用的にはインソール等に使用できない値であった(例えばインソールに使用した場合、引張強度は0.20MPa以上必要)。
【0028】
ところで、エチレン酢酸ビニル共重合体(B)に対する低密度ポリエチレン(A)の質量比を高めることにより形成した樹脂発泡体aの圧縮残留ひずみ率を高くすることができたのは、低密度ポリエチレン(A)の質量比を高めることによって、発泡倍率(体積の拡大率)を高くして樹脂基体1中に多くの気泡3を形成できるようにしたためであり、形成された多くの気泡3が外力により潰れて塑性変形し、この変形した形状を保持できるためであると考えられる。また、低密度ポリエチレン(A)とエチレン酢酸ビニル共重合体(B)との質量比の上限を(A)/(B)=95/5としたのは形成した樹脂発泡体aの引張強度の低下を抑制してインソールへの適用など実用的な引張強度を確保するためであり、下限を(A)/(B)=90/10としたのは圧縮残留ひずみ率の値が小さくなって外力により変形した形状の保持性が悪くなるからである。
【実施例2】
【0029】
次に、前述の樹脂発泡体aを用いた履物及びカップインソールの実施例について説明する。
【0030】
図2〜図4において、bは履物で、履物bはアウトソール14の上にインソール20が設けられ、インソール20は樹脂発泡体aで構成された中芯部材11と、この中芯部材11の外周を囲むように形成され(例えば、中芯部材11の外周を囲むように枠状に形成され)、中芯部材11より硬い部材で形成された外芯部材12と、この外芯部材12と中芯部材11の外表面を覆う被覆部材13とを有している。なお、15は甲被部材であり、履物bがサンダルの場合に設けられる。
【0031】
中芯部材11は、樹脂発泡体aを所定の形状に成形して用いられ、外力によって変形した形状を保持してインソールの表面を足裏面形状に合わせるものである。
【0032】
外芯部材12は、中芯部材11に加えられた外力により生ずる過度な変形を防止しインソール20の外形を保持するものであり、樹脂発泡体aで構成された中芯部材11より硬い、例えばエチレン酢酸ビニル共重合体の発泡体などが用いられる。
【0033】
被覆部材13は、履物bの外観を良くするために化粧材料などが用いられるが、更に、当接する中芯部材11の変形に追従できるように伸縮性を有する材料であるのが好ましい。
【0034】
アウトソール14は、履物bが地面等に接地したときに接地面の凹凸などによる衝撃を直接足に受けないように緩衝作用を持たせるものであり、ポリウレタン、エチレン酢酸ビニル共重合体、合成ゴムなどの材料が用いられる。
【0035】
甲被部材15は、履物bを履いたときに足の甲に当接して履物bに足を固定するものであり、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、革などの材料が使用される。
【0036】
次に、本発明に係るインソールを備えた履物の使用方法について説明する。
【0037】
履物bの使用前においては、図3、図6(a)、図7(a)に示したように、インソール20には未だに外力が加えられていないため足の当接する面が略平面形状になっている。
【0038】
そして、履物の使用開始時には図5(a)に示したように足30の裏面が初めてインソール20の被覆部材13に当接し、足裏面にかかった外力(体重)によりインソール20が変形する。このときインソール20の上面に接する足裏面の形状には凹凸があるため、各部で沈下量が異なり、足裏面の形状に沿って変形する。この変形量は、つま先部、土踏まず部、踵部といった足裏の各部で異なるだけでなく、各人の個体差(足裏形状の差)によっても大きく異なるものである。
【0039】
ここで、インソール20に内在している中芯部材11は樹脂発泡体aで構成され高い成形性を有しているため、図5(b)、図6(b)、図7(b)に示したように履物を脱いで外力を取り去った後であってもインソール20の上面は足裏面の形状が保持される。したがって、履物の短時間(例えば3時間程度)の使用により各人で異なる足裏面の形状をインソールの表面に成形することができ、手間と時間をかけずに各人の足裏面形状に合った履物を得ることができる。
【0040】
ところで、上述の実施例においては、インソール20とアウトソール14があらかじめ一体的に設けられた履物についての例を示したが、図8(a)に示したように単体のカップインソール21(履物に着脱自在なインソール)として作製しても構わない。
【0041】
このカップインソール21は、樹脂発泡体aで構成された中芯部材11と、この中芯部材11の外周を囲むように形成され、中芯部材11より硬い部材で形成された外芯部材12と、この外芯部材12と中芯部材11の全体を覆うように設けられた被覆部材16とを有している(図8(b)参照)。したがって、カップインソール21は、種々の既製の履物の中敷きの上に装着して使用することができるため、カップインソール21を装着した履物の短時間の使用により各人で異なる足裏面の形状をカップインソールの表面に成形することができ、手間と時間をかけずに各人の足裏面形状に合った履物を得ることができる。なお、被覆部材16には被覆部材13と同様な材料が用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の樹脂発泡体aの略断面図である。
【図2】図1の樹脂発泡体aを使用した履物の斜視図である。
【図3】図2のC−C線に沿って切断した縦断面図である。
【図4】図3のD−D線に沿って切断した横断面図である。
【図5】図2の履物の使用状態を示す縦断面図であって、(a)は履物を履いた状態、(b)は履物を脱いだ状態を表した図である。
【図6】図2のA−A線に沿って切断した縦断面図であって、(a)は使用前、(b)は使用時の状態を表した図である。
【図7】図2のB−B線に沿って切断した縦断面図であって、(a)は使用前、(b)は使用時の状態を表した図である。
【図8】図2の他の例を表した図であり、(a)はインソールの斜視図、(b)は(a)のE−E線に沿って切断した縦断面図である。
【符号の説明】
【0043】
a 樹脂発泡体
b 履物
1 樹脂基体
2 充填材
3 気泡
11 中芯部材
12 外芯部材
13 被覆部材
14 アウトソール
16 被覆部材
20 インソール
21 カップインソール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低密度ポリエチレン(A)と、エチレン酢酸ビニル共重合体(B)と、充填剤(C)と、発泡剤(D)と、架橋材(E)とを含有する樹脂組成物を発泡させた樹脂発泡体であって、低密度ポリエチレン(A)とエチレン酢酸ビニル共重合体(B)との質量比が(A)/(B)=95/5〜90/10であることを特徴とする樹脂発泡体。
【請求項2】
樹脂組成物に炭酸アンチモン(Sb2(CO33)を含有させたことを特徴とする請求項1に記載の樹脂発泡体。
【請求項3】
アウトソールの上にインソールを設けた履物であって、前記インソールは請求項1に記載の樹脂発泡体で構成された中芯部材と、この中芯部材の外周を囲むように形成され、前記中芯部材より硬い部材で形成された外芯部材と、この外芯部材と前記中芯部材の外表面を覆う被覆部材とを有することを特徴とする履物。
【請求項4】
請求項1に記載の樹脂発泡体で構成された中芯部材と、この中芯部材の外周を囲むように形成され、前記中芯部材より硬い部材で形成された外芯部材と、この外芯部材と前記中芯部材の全体を覆うように設けられた被覆部材とを有することを特徴とするカップインソール。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2007−238790(P2007−238790A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−63729(P2006−63729)
【出願日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【特許番号】特許第3851921号(P3851921)
【特許公報発行日】平成18年11月29日(2006.11.29)
【出願人】(502292547)久保田産業株式会社 (3)
【Fターム(参考)】