説明

平版印刷版の製造方法

【課題】加熱処理(バーニング処理)により耐刷性が向上すると共に、版上又は処理装置内における汚れの発生を抑制しうる平版印刷版の製造方法を提供する。
【解決手段】支持体上に、ノボラック樹脂、下記一般式(1)で表される疎水性アミノアルキル基を側鎖に有するアルカリ可溶性樹脂、及び赤外線吸収剤を含有する記録層を備えた平版印刷版原版を、露光・現像後、150℃以上350℃以下の温度条件下で加熱処理することを特徴とする平版印刷版の製造方法。一般式(1)中、Z1、Z2及びZ3は、各々独立に、水素原子又は非金属原子からなる1価の置換基を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平版印刷版の製造方法に関するものであり、特に赤外線レ−ザを用いた印刷版の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンピュ−タのデジタルデ−タから直接製版するシステムとして、レーザによる入力方式が主流になってきている。特に、近赤外から赤外に発光領域を持つ固体レ−ザ・半導体レ−ザは高出力かつ小型の物が容易に入手できるので、このような露光光源に対し適応性があり、且つ印刷適性に優れた平版印刷版材料への要望が高まっている。
【0003】
近年、このような露光光源に対し適応性があり、且つ、耐刷性に優れた平版印刷版材料への要望が高まっている。上記のような露光光源が適用される直接製版に用いられる版材の一つとして、赤外線レーザ用ポジ型平版印刷版材料が挙げられる。
【0004】
赤外線レーザ用ポジ型平版印刷版原版は、アルカリ水溶液可溶性のバインダー樹脂と、光を吸収し熱を発生するIR染料等とを必須成分とし、IR染料等が、非露光部(画像部)では、バインダー樹脂との相互作用によりバインダー樹脂の溶解性を実質的に低下させる溶解阻止剤として働き、露光部(非画像部)では、発生した熱によりIR染料等とバインダー樹脂との相互作用が弱まりアルカリ現像液に溶解して平版印刷版を形成する。
【0005】
ポジ型平版印刷版原版に要求される性能としては、例えば、露光部の現像性の他、得られた平版印刷版の耐刷性、印刷中に使用されるプレートクリーナ等に対する耐薬品性などがある。このような要求に対して、感光層(記録層)に含有されるアルカリ可溶性樹脂を改良した感光性組成物、及び、該組成物を記録層に用いた平版印刷版などが提案されており(例えば、特許文献1参照)、耐クリーナー性のレベルは向上された。しかしながら、このような平版印刷版においても、耐刷性は不充分である。
【0006】
また、ポジ型平版印刷版における耐刷性向上に関しては、露光・現像後に高温加熱処理(所謂バーニング処理)を行うことで、高い耐刷性が得られるものがあるが、バーニング処理時に非画像部ににじみや汚れが発生するため、バーニング処理の前か後で整面処理と称する版面清浄化処理が必要である。また、多数回のバーニング処理を行うと、処理装置(バーニングプロセッサー)内の汚染も散見される。
【特許文献1】欧州特許出願公開第1506858号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記従来技術の欠点を克服すべくなされたものであり、以下の目的を達成することを課題とする。
即ち、本発明の目的は、加熱処理(バーニング処理)により耐刷性が向上すると共に、版上又は処理装置内における汚れの発生を抑制しうる平版印刷版の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意研究の結果、上記目的が達成される条件を見出した。
即ち、本発明は、支持体上に、ノボラック樹脂、下記一般式(1)で表される疎水性アミノアルキル基を側鎖に有するアルカリ可溶性樹脂(以下、適宜「特定アルカリ可溶性樹脂」と称する。)、及び赤外線吸収剤を含有する記録層を備えた平版印刷版原版を、露光・現像後、150℃以上350℃以下の温度条件下で加熱処理することを特徴とする平版印刷版の製造方法である。
【0009】
【化1】

【0010】
一般式(1)中、Z1、Z2及びZ3は、各々独立に、水素原子又は非金属原子からなる1価の置換基を表す。
【0011】
本発明の作用は明確ではないが、以下のように推測される。
本発明に係る平版印刷版原版において、その記録層に含有される特定アルカリ可溶性樹脂は、特定の構造の疎水性アミノアルキル基を側鎖に有している。この疎水性アミノアルキル基は、その部分構造である「−CH−N<」同士、及び/又は、当該部分構造「−CH−N<」とノボラック樹脂が有する−OH基との間に強固な相互作用を形成でき、更に、この相互作用はバーニング処理を行うことで強固なものになると考えられる。従って、本発明により得られる平版印刷版は、この加熱により形成される強固な相互作用に起因して、記録層の膜性がより強固なものになり、耐刷性が著しく向上するものと推測される。
また、特定アルカリ可溶性樹脂の使用は、上述した相互作用による記録層の膜性向上と共に、記録層中に含まれる低分子成分、他のアルカリ水溶液可溶性樹脂、及びその他のバインダー、等の成分の沸点を上昇させることができ、このような記録層成分が層中から揮発することを抑制する作用をも有すると推測される。このため、バーニング処理が行われる場合であっても、記録層成分の層中からの揮発が効果的に抑制され、揮発した記録層成分に起因する版上又は処理装置内へ付着を抑制できるものと推測される。
さらに、結果として、網点画像の再現性、ハイライト部の耐刷性等に優れた印刷版を得ることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、加熱処理(バーニング処理)により耐刷性が向上すると共に、版上又は処理装置内における汚れの発生を抑制しうる平版印刷版の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明について詳細に説明する。
本発明の平版印刷版の製造方法は、支持体上に、ノボラック樹脂、一般式(1)で表される疎水性アミノアルキル基を側鎖に有するアルカリ可溶性樹脂、及び赤外線吸収剤を含有する記録層を備えた平版印刷版原版を、露光・現像後、150℃以上350以下の温度条件下で加熱処理することを特徴とする。
【0014】
〔一般式(1)で表される疎水性アミノアルキル基を側鎖に有するアルカリ可溶性樹脂(特定アルカリ可溶性樹脂)〕
先ず、一般式(1)で表される疎水性アミノアルキル基について説明する。
【0015】
【化2】

【0016】
一般式(1)において、Z1、Z2、及びZ3は、各々独立に、水素原子、又は非金属原子からなる1価の置換基を表す。
1、Z2、又はZ3で表される非金属原子からなる1価の置換基は、連結部位と末端部位とからなる置換基であることが好ましい。なお、連結部位は必要に応じて用いられるものであり、非金属原子からなる1価の置換基は末端部位のみから形成されていてもよい。
また、非金属原子からなる1価の置換基は、更に、アルキル基、アリール基により置換されていてもよい。
【0017】
連結部位としては、アルキレン基、アルケニレン基、フェニレン、ナフタレン等のアリーレン基、ピリジル、ピラジル、ピリミジル、チアゾイル等のヘテロ原子を含む複素環基、−(C24O)n−基(n=1〜12)、−(C24S)n−基(n=1〜12)、−Ph−NHSO2−基等、又は、これらを組み合わせたものが挙げられる。
【0018】
また、末端部位としては、水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、シクロアルキル基、不飽和環状炭化水素基、アリール基、複素環基、アラルキル基、−OR1、−SR1、−COOR1、−O−COR1、−CO−R2、−SO3−R1、−SO2−R1、−CN、−NO2、ハロゲン原子、ホスフェート基、ホスホネート基、t−アミン基、アミド基、イミド基、スルホンアミド基等が挙げられる。ここで、R1、R2は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、シクロアルキル基、不飽和環状炭化水素基、アリール基、複素環基、アラルキル基、アミン基から選択される。
【0019】
上記に示すような疎水性アミノアルキル基は、アルカリ可溶性樹脂の側鎖に結合していればよく、そのアルカリ可溶性樹脂としては、従来公知のアルカリ可溶性樹脂を用いることができるが、繰り返し単位内にフェノール構造を有するアルカリ可溶性樹脂の側鎖に結合していることが好ましく、具体的には、フェノール樹脂のフェニル環に共有結合していることが好ましい。
【0020】
以下、本発明に係る特定アルカリ可溶性樹脂の好ましい構造を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0021】
下記に示す一般式(2)で表されるモノマー単位は、一般式(1)で表される疎水性ア
ミノアルキル基を側鎖に有するモノマー単位の好ましい構造を示したものである。
一般式(2)中、Z1、Z2、及びZ3は、一般式(1)におけるZ1、Z2、及びZ3はと同義であり、好ましい範囲も同様である。一般式(2)中、Rは、水素原子、炭素数1〜20の直鎖又は枝状アルキル基を表し、炭素数5以下のアルキル基であることが好ましい。一般式(2)中の各置換基R、Z1、Z2、及びZ3の例を下記表1〜表3に示す。なお、記表1〜表3に示すR、Z1、Z2、及びZ3は、それぞれ任意に組み合わせることができる。
【0022】
【化3】

【0023】
【表1】

【0024】
【表2】

【0025】
【表3】

【0026】
以下の表4に、特定アルカリ可溶性樹脂が、一般式(2)で表されるモノマー単位から構成される場合の具体例(化合物番号1〜4)を挙げるが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0027】
【表4】

【0028】
本発明に係る特定アルカリ可溶性樹脂の合成法としては、特に限定されるものではないが、例えば、フェノキシド置換基を有するフェノール樹脂の一部の置換基を特定置換基に置換するため、溶媒中で、Sn金属を触媒として、イソシアネート基と共に反応(求核付加反応)させて製造することができる。ノボラック型フェノール樹脂のフェノキシドと、イソシアネート基含有化合物との求核付加反応は、以下のように行うことができる。即ち、水酸基の一部を特定官能基に置換するためのノボラック型フェノール樹脂の総重量を、濃度20〜80質量%(好ましくは30〜70質量%)になるよう溶媒に溶解し、これに当該ノボラック型フェノール樹脂が有する水酸基の総モル数に対して、イソシアネート基含有化合物をそのモル比率が特定官能基に置換したいモル比率になるように加え、更にSn金属を触媒としてイソシアネート基含有化合物のモル数に対するモル比率が0.5〜5.0%(好ましくは1.0〜2.5)になるように10℃〜200℃の範囲の温度条件下で加え、その温度範囲に維持しながら数時間撹拌することにより行うことができる。なお、反応温度は、20℃〜150℃の範囲であることが好ましく、20℃〜100℃の範囲であることがより好ましい。このとき、上記反応に用いられる溶媒としては、例えば、クロロホルム、ジクロロメタン、ジメトルスルホキシド(DMSO)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルエーテル(DME)、テトラヒドロフラン(THF)等が挙げられ、中でも、テトラヒドロフラン(THF)を用いることが好ましい。また、上記Sn金属としては、ジブチルスズジラウレート(dibutyltin dilaurate)を用いることが好ましい。
【0029】
特定アルカリ可溶性樹脂中、一般式(1)で表される疎水性アミノアルキル基の含有量としては、強固な記録層形成性及び本発明の効果を発現させる観点から、1〜99mol%が好ましく、5〜95mol%がより好ましく、20〜95mol%が更に好ましい。
【0030】
特定アルカリ可溶性樹脂の分子量としては、重量平均分子量では、2000以上が好ましく、3000〜50万の範囲内がより好ましい。また、数平均分子量では、1000以上が好ましく、2000〜40万の範囲内がより好ましい。
【0031】
本発明に用いられる平版印刷版原版の記録層を構成する組成物中における特定アルカリ可溶性樹脂の含有量は、固形分換算で、好ましくは30〜98質量%、更に好ましくは
25〜90質量%の範囲である。
【0032】
〔ノボラック樹脂〕
本発明において、特定アルカリ可溶性樹脂と共に、構造単位としてフェノール、或いは置換フェノール類を含むノボラック型フェノール樹脂(ノボラック樹脂)を含有することを要する。ノボラック樹脂は、未露光部において強い水素結合性を生起し、露光部において一部の水素結合が容易に解除されるといった点から、本発明における記録層に必須のアルカリ可溶性樹脂である。
このノボラック樹脂は、分子内に構造単位としてフェノール類を含むものであれば特に制限はない。
【0033】
本発明におけるノボラック樹脂は、フェノール、以下に示される置換フェノール類と、アルデヒド類との縮合反応により得られる樹脂であり、フェノール類としては、具体的には、フェノール、イソプロピルフェノール、t−ブチルフェノール、t−アミルフェノール、ヘキシルフェノール、シクロヘキシルフェノール、3−メチル−4−クロロ−6−t−ブチルフェノール、イソプロピルクレゾール、t−ブチルクレゾール、t−アミルクレゾールが挙げられる。好ましくは、t−ブチルフェノール、t−ブチルクレゾールである。また、アルデヒド類の例としては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、アクロレイン、クロトンアルデヒド等の脂肪族及び芳香族アルデヒドが挙げられる。好ましくは、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒドである。
【0034】
より具体的には、本発明におけるノボラック樹脂しては、例えば、フェノールとホルムアルデヒドとの縮重合体(フェノールホルムアルデヒド樹脂)、m−クレゾールとホルムアルデヒドとの縮重合体(m−クレゾールホルムアルデヒド樹脂)、p−クレゾールとホルムアルデヒドとの縮重合体(p−クレゾールホルムアルデヒド樹脂)、m−/p−混合クレゾールとホルムアルデヒドとの縮重合体(m−/p−混合クレゾールホルムアルデヒド樹脂)、フェノールとクレゾール(m−,p−,又はm−/p−混合のいずれでもよい)とホルムアルデヒドとの縮重合体(フェノール/クレゾール(m−,p−,又はm−/p−混合のいずれでもよい)混合ホルムアルデヒド樹脂)等が挙げられる。
【0035】
また、ノボラック樹脂としては、更に、米国特許第4,123,279号明細書に記載されているように、t−ブチルフェノールホルムアルデヒド樹脂、オクチルフェノールホルムアルデヒド樹脂のような、炭素数3〜8のアルキル基を置換基として有するフェノールとホルムアルデヒドとの縮重合体が挙げられる。
これらノボラック樹脂の中でも、特に好ましいものとして、フェノールホルムアルデヒド樹脂、フェノール/クレゾール混合ホルムアルデヒド樹脂が挙げられる。
【0036】
ノボラック樹脂の重量平均分子量は、好ましくは500〜50000であり、更に700〜20000であることが好ましく、特に1000〜10000であることが好ましい。また、分散度(重量平均分子量/数平均分子量)は、1.1〜10であることが好ましい。
【0037】
このようなノボラック樹脂は1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
本発明における記録層中のノボラック樹脂の添加量は、耐久性、感度、及び画像形成性の観点から、記録層固形分中に1〜80質量%の範囲が好ましく、5〜70質量%の範囲がより好ましく、10〜60質量%の範囲が特に好ましい。
【0038】
また、特定アルカリ可溶性樹脂と、ノボラック樹脂と、の含有比(質量比)としては、1〜90質量%/99〜10質量%が好ましく、5〜80質量%/95〜20質量%であることがより好ましく、10〜70質量%/90〜30質量%であることが特に好ましい。
【0039】
また、本発明においては、特定アルカリ可溶性樹脂及びノボラック樹脂以外の、他のアルカリ可溶性樹脂を併用することもできる。特定アルカリ可溶性樹脂及びノボラック樹脂以外の他のアルカリ可溶性樹脂は、全アルカリ可溶性樹脂中に1〜90質量%程度、好ましくは5〜50質量%程度用いることができる。
【0040】
なお、併用可能な他のアルカリ可溶性樹脂としては、アルカリ性現像液に接触すると溶解する特性を有するものであれば特に制限はないが、高分子中の主鎖及び/又は側鎖に酸性基を含有する単独重合体、これらの共重合体、又はこれらの混合物であることが好ましい。
中でも、併用可能な他のアルカリ可溶性樹脂としては、下記(1)に挙げる酸性基を高分子の主鎖及び/又は側鎖中に有する樹脂のうちノボラック樹脂を除くもの、下記(2)〜(6)に挙げる酸性基を高分子の主鎖及び/又は側鎖中に有するものが、アルカリ性現像液に対する溶解性の点、溶解抑制能発現の点で好ましい。
【0041】
(1)フェノール基(−Ar−OH)
(2)スルホンアミド基(−SO2NH−R)
(3)置換スルホンアミド系酸基(以下、「活性イミド基」という。)
〔−SO2NHCOR、−SO2NHSO2R、−CONHSO2R〕
(4)カルボン酸基(−CO2H)
(5)スルホン酸基(−SO3H)
(6)リン酸基(−OPO32
【0042】
上記(1)〜(6)中、Arは置換基を有していてもよい2価のアリール連結基を表し、Rは、水素原子又は置換基を有していてもよい炭化水素基を表す。
【0043】
上記(1)〜(6)より選ばれる酸性基を有するアルカリ可溶性樹脂の中でも、(1)フェノール基、(2)スルホンアミド基及び(3)活性イミド基を有するアルカリ可溶性樹脂が好ましく、特に、(1)フェノール基又は(2)スルホンアミド基を有するアルカリ可溶性樹脂が、アルカリ性現像液に対する溶解性、現像ラチチュード、膜強度を充分に確保する点から最も好ましい。
【0044】
上記(1)〜(6)より選ばれる酸性基を有するアルカリ可溶性樹脂としては、例えば以下のものを挙げることができる。
(1)フェノール基を有するアルカリ可溶性樹脂としては、上記のノボラック樹脂を除くものが挙げられ、例えば、ピロガロールアセトン樹脂や、側鎖にフェノール性水酸基を有する高分子化合物を用いることができる。側鎖にフェノール性水酸基を有する高分子化合物としては、フェノール基と重合可能な不飽和結合とをそれぞれ1つ以上有する低分子化合物からなる重合性モノマーを単独重合、或いは該モノマーに他の重合性モノマーを共重合させて得られる高分子化合物が挙げられる。
上記重合性モノマーとしては、フェノール基を有するアクリルアミド、メタクリルアミド、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、又はヒドロキシスチレン等が挙げられる。
【0045】
(2)スルホンアミド基を有するアルカリ可溶性樹脂としては、例えば、スルホンアミド基を有する化合物に由来する最小構成単位を主要構成成分として構成される重合体を挙げることができる。上記のような化合物としては、窒素原子に少なくとも一つの水素原子が結合したスルホンアミド基と、重合可能な不飽和基と、を分子内にそれぞれ1以上有する化合物が挙げられる。中でも、アクリロイル基、アリル基、又はビニロキシ基と、置換或いはモノ置換アミノスルホニル基又は置換スルホニルイミノ基と、を分子内に有する低分子化合物が好ましく、例えば、下記一般式(i)〜(v)で表される化合物が挙げられる。
【0046】
【化4】

【0047】
一般式(i)〜(v)中、X1及びX2は、それぞれ独立に−O−又は−NR7を表す。R1及びR4は、それぞれ独立に水素原子又は−CH3を表す。R2、R5、R9、R12及びR16は、それぞれ独立に置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基又はアラルキレン基を表す。R3、R7及びR13は、それぞれ独立に水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す。また、R6及びR17は、それぞれ独立に置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基を表す。R8、R10及びR14は、それぞれ独立に水素原子又は−CH3を表す。R11及びR15は、それぞれ独立に単結合又は置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基又はアラルキレン基を表す。Y1及びY2は、それぞれ独立に単結合又はCOを表す。
【0048】
一般式(i)〜(v)で表される化合物のうち、特に、m−アミノスルホニルフェニルメタクリレート、N−(p−アミノスルホニルフェニル)メタクリルアミド、N−(p−アミノスルホニルフェニル)アクリルアミド等を好適に使用することができる。
【0049】
(3)活性イミド基を有するアルカリ可溶性樹脂としては、例えば、活性イミド基を有する化合物に由来する最小構成単位を主要構成成分として構成される重合体を挙げることができる。上記のような化合物としては、下記構造式で表される活性イミド基と、重合可能な不飽和基と、を分子内にそれぞれ1以上有する化合物を挙げることができる。
【0050】
【化5】

【0051】
具体的には、N−(p−トルエンスルホニル)メタクリルアミド、N−(p−トルエンスルホニル)アクリルアミド等を好適に使用することができる。
【0052】
(4)カルボン酸基を有するアルカリ可溶性樹脂としては、例えば、カルボン酸基と、重合可能な不飽和基と、を分子内にそれぞれ1以上有する化合物に由来する最小構成単位を主要構成成分とする重合体を挙げることができる。
(5)スルホン酸基を有するアルカリ可溶性樹脂としては、例えば、スルホン酸基と、重合可能な不飽和基と、を分子内にそれぞれ1以上有する化合物に由来する最小構成単位を主要構成単位とする重合体を挙げることができる。
(6)リン酸基を有するアルカリ可溶性樹脂としては、例えば、リン酸基と、重合可能な不飽和基と、を分子内にそれぞれ1以上有する化合物に由来する最小構成単位を主要構成成分とする重合体を挙げることができる。
【0053】
併用可能な他のアルカリ可溶性樹脂を構成する、前記(1)〜(6)より選ばれる酸性基を有する最小構成単位は、特に1種類のみである必要はなく、同一の酸性基を有する最小構成単位を2種以上、又は異なる酸性基を有する最小構成単位を2種以上共重合させたものを用いることもできる。
【0054】
併用可能な他のアルカリ可溶性樹脂が共重合体である場合は、共重合成分となる(1)〜(6)より選ばれる酸性基を有する化合物が、共重合体中に10モル%以上含まれているものが好ましく、20モル%以上含まれているものがより好ましい。10モル%未満であると、現像ラチチュードを充分に向上させることができない傾向がある。
【0055】
また、併用可能なアルカリ可溶性樹脂が共重合体である場合、共重合成分として、前記(1)〜(6)の酸性基を含まない他の化合物を用いることもできる。(1)〜(6)の酸性基を含まない他の化合物の例としては、下記(m1)〜(m12)に挙げる化合物を例示することができるが、これらに限定されるものではない。
【0056】
(m1)2−ヒドロキシエチルアクリレート又は2−ヒドロキシエチルメタクリレート等の脂肪族水酸基を有するアクリル酸エステル類、及びメタクリル酸エステル類。
(m2)アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸アミル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸オクチル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸−2−クロロエチル、グリシジルアクリレート、等のアルキルアクリレート。
(m3)メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸アミル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸−2−クロロエチル、グリシジルメタクリレート、等のアルキルメタクリレート。
(m4)アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N−ヘキシルメタクリルアミド、N−シクロヘキシルアクリルアミド、N−ヒドロキシエチルアクリルアミド、N−フェニルアクリルアミド、N−ニトロフェニルアクリルアミド、N−エチル−N−フェニルアクリルアミド等のアクリルアミド若しくはメタクリルアミド。
【0057】
(m5)エチルビニルエーテル、2−クロロエチルビニルエーテル、ヒドロキシエチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、オクチルビニルエーテル、フェニルビニルエーテル等のビニルエーテル類。
(m6)ビニルアセテート、ビニルクロロアセテート、ビニルブチレート、安息香酸ビニル等のビニルエステル類。
(m7)スチレン、α−メチルスチレン、メチルスチレン、クロロメチルスチレン等のスチレン類。
(m8)メチルビニルケトン、エチルビニルケトン、プロピルビニルケトン、フェニルビニルケトン等のビニルケトン類。
(m9)エチレン、プロピレン、イソブチレン、ブタジエン、イソプレン等のオレフィン類。
(m10)N−ビニルピロリドン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等。
(m11)マレイミド、N−アクリロイルアクリルアミド、N−アセチルメタクリルアミド、N−プロピオニルメタクリルアミド、N−(p−クロロベンゾイル)メタクリルアミド等の不飽和イミド。
(m12)アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、イタコン酸等の不飽和カルボン酸。
【0058】
これらの併用可能な他のアルカリ可溶性樹脂は、その重量平均分子量が500以上であることが画像形成性の点で好ましく、1,000〜700,000であることがより好ましい。また、その数平均分子量が500以上であることが好ましく、750〜650,000であることがより好ましい。分散度(重量平均分子量/数平均分子量)は1.1〜10であることが好ましい。
【0059】
また、これらの併用可能なアルカリ可溶性樹脂は単独で用いるのみならず、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0060】
〔赤外線吸収剤〕
本発明に係る平版印刷版原版の記録層は、赤外線吸収剤を含有する。ここで用いうる赤外線吸収剤としては、光エネルギー照射線を吸収し、熱を発生する物質であれば特に吸収波長域の制限はなく用いることができるが、入手容易な高出力レーザへの適合性の観点から、波長700nm〜1200nmに吸収極大を有する赤外線吸収性染料又は顔料として知られる種々の染料又は顔料が好ましく挙げられる。
【0061】
このような赤外線吸収剤としては、公知の種々の顔料や染料等が好適に挙げられる。前記顔料としては、市販の顔料及びカラーインデックス(C.I.)便覧、「最新顔料便覧」(日本顔料技術協会編、1977年刊)、「最新顔料応用技術」(CMC出版、1986年刊)、「印刷インキ技術」CMC出版、1984年刊)に記載されている顔料が挙げられる。
【0062】
顔料の種類としては、黒色顔料、黄色顔料、オレンジ色顔料、褐色顔料、赤色顔料、紫色顔料、青色顔料、緑色顔料、蛍光顔料、金属粉顔料、及びポリマー結合色素が挙げられる。具体的には、不溶性アゾ顔料、アゾレーキ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料、フタロシアニン系顔料、アントラキノン系顔料、ペリレン及びペリノン系顔料、チオインジゴ系顔料、キナクリドン系顔料、ジオキサジン系顔料、イソインドリノン系顔料、キノフタロン系顔料、染付けレーキ顔料、アジン顔料、ニトロソ顔料、ニトロ顔料、天然顔料、蛍光顔料、無機顔料、及びカーボンブラック等が挙げられる。
【0063】
顔料は、表面処理をせずに用いてもよく、表面処理をほどこして用いてもよい。該表面処理の方法には樹脂やワックスを表面コートする方法、界面活性剤を付着させる方法、反応性物質(例えば、シランカップリング剤やエポキシ化合物、ポリイソシアネート等)を顔料表面に結合させる方法等が考えられる。前記表面処理方法は、「金属石鹸の性質と応用」(幸書房)、「印刷インキ技術」(CMC出版、1984年刊)及び「最新顔料応用技術」(CMC出版、1986年刊)に記載されている。
【0064】
顔料の粒径は、0.01μm〜10μmの範囲であることが好ましく、0.05μm〜1μmの範囲であることがより好ましく、0.1μm〜1μmの範囲であることが特に好ましい。前記顔料の粒径が、0.01μm未満の場合には、分散物の記録層塗布液中での安定性の点で好ましくないことがあり、一方、10μmを超える場合には、記録層の均一性の点で好ましくない。
【0065】
顔料を分散する方法としては、インク製造やトナー製造等に用いられる公知の分散技術が使用できる。前記分散には、超音波分散器、サンドミル、アトライター、パールミル、スーパーミル、ボールミル、インペラー、デスパーザー、KDミル、コロイドミル、ダイナトロン、3本ロールミル、及び加圧ニーダー等の分散機が用いられる。分散方法の詳細は、「最新顔料応用技術」(CMC出版、1986年刊)に記載されている。
【0066】
前記染料としては、市販の染料及び文献(例えば「染料便覧」有機合成化学協会編集、昭和45年刊)に記載されている公知のものが挙げられ、例えば、アゾ染料、金属錯塩アゾ染料、ピラゾロンアゾ染料、アントラキノン染料、フタロシアニン染料、カルボニウム染料、キノンイミン染料、メチン染料、及びシアニン染料などの染料が挙げられる。前記顔料、又は染料のうち赤外光、又は近赤外光を吸収する顔料・染料が、赤外光又は近赤外光を発光するレーザでの利用に適する点で特に好ましい。
【0067】
赤外光又は近赤外光を吸収する顔料としては、カーボンブラックが好適に用いられる。また、前記赤外光、又は近赤外光を吸収する染料としては、例えば特開昭58−125246号、特開昭59−84356号、特開昭59−202829号、特開昭60−78787号等に記載されているシアニン染料、特開昭58−173696号、特開昭58−181690号、特開昭58−194595号等に記載されているメチン染料、特開昭58−112793号、特開昭58−224793号、特開昭59−48187号、特開昭59−73996号、特開昭60−52940号、特開昭60−63744号等に記載されているナフトキノン染料、及び特開昭58−112792号等に記載されているスクワリリウム色素、英国特許434,875号記載のシアニン染料等を挙げることができる。
【0068】
また、染料としては、米国特許第5,156,938号記載の近赤外吸収増感剤も好適に用いられ、また、米国特許第3,881,924号記載の置換されたアリールベンゾ(チオ)ピリリウム塩、特開昭57−142645号(米国特許第4,327,169号)記載のトリメチンチアピリリウム塩、特開昭58−181051号、特開昭58−220143号、特開昭59−41363号、特開昭59−84248号、特開昭59−84249号、特開昭59−146063号、及び特開昭59−146061号に記載されているピリリウム系化合物、特開昭59−216146号記載のシアニン色素、米国特許第4,283,475号に記載のペンタメチンチオピリリウム塩等や特公平5−13514号、特開昭5−19702号公報に開示されているピリリウム化合物、Epolight III−178、EpolightIII−130、Epolight III−125、EpolightV−176A等は特に好ましく用いられる。
【0069】
また、前記染料として、特に好ましい別の例として米国特許第4,756,993号明細書中に式(I)、(II)として記載されている近赤外吸収染料が挙げられる。
【0070】
これらの染料のうち特に好ましいものとしては、シアニン色素、スクワリリウム色素、ピリリウム塩、ニッケルチオレート錯体、インドレニンシアニン色素が挙げられる。さらに、シアニン色素やインドレニンシアニン色素が好ましく、特に好ましい一つの例として下記一般式(3)で示されるシアニン色素が挙げられる。
【0071】
【化6】

一般式(3)
【0072】
一般式(3)中、X1は、水素原子、ハロゲン原子、−NPh2、X2−L1又は以下に示す基を表す。ここで、X2は酸素原子、窒素原子、又は硫黄原子を示し、L1は、炭素原子数1〜12の炭化水素基、ヘテロ原子を有する芳香族環、ヘテロ原子を含む炭素原子数1〜12の炭化水素基を示す。なお、ここでヘテロ原子とは、N、S、O、ハロゲン原子、Seを示す。W1-は後述するXa-と同様に定義され、Raは、水素原子、アルキル基、アリール基、置換又は無置換のアミノ基、ハロゲン原子より選択される置換基を表す。
【0073】
【化7】

【0074】
1及びR2は、それぞれ独立に、炭素原子数1〜12の炭化水素基を示す。記録層塗布液の保存安定性から、R1及びR2は、炭素原子数2個以上の炭化水素基であることが好ましく、更に、R1とR2とは互いに結合し、5員環又は6員環を形成していることが特に好ましい。
【0075】
Ar1、Ar2は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を示す。好ましい芳香族炭化水素基としては、ベンゼン環及びナフタレン環が挙げられる。また、好ましい置換基としては、炭素原子数12個以下の炭化水素基、ハロゲン原子、炭素原子数12個以下のアルコキシ基が挙げられる。Y1、Y2は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、硫黄原子又は炭素原子数12個以下のジアルキルメチレン基を示す。R3、R4は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、置換基を有していてもよい炭素原子数20個以下の炭化水素基を示す。好ましい置換基としては、炭素原子数12個以下のアルコキシ基、カルボキシル基、スルホ基が挙げられる。R5、R6、R7及びR8は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、水素原子又は炭素原子数12個以下の炭化水素基を示す。原料の入手性から、好ましくは水素原子である。また、Xa-は、対アニオンを示す。ただし、一般式(3)で示されるシアニン色素が、その構造内にアニオン性の置換基を有し、電荷の中和が必要ない場合にはW1-は必要ない。好ましいXa-は、記録層塗布液の保存安定性から、ハロゲンイオン、過塩素酸イオン、テトラフルオロボレートイオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン、及びスルホン酸イオンであり、特に好ましくは、過塩素酸イオン、ヘキサフルオロフォスフェートイオン、及びアリールスルホン酸イオンである。
【0076】
赤外線吸収剤として用いられる前記顔料又は染料の添加量としては、記録層を構成する組成物全固形分に対し0.01〜50質量%が好ましく、0.1〜10質量%がより好ましい。前記染料の場合には、0.5〜10質量%が特に好ましく、顔料の場合には、3.1〜10質量%が特に好ましい。前記顔料又は染料の添加量が、上記範囲であると、ポジ型記録層として用いた場合の好ましい記録感度と共に、記録層の優れた均一性、耐久性を得ることができる。
【0077】
〔その他の添加成分〕
本発明の平版印刷版原版の記録層には、更に必要に応じて上記の各成分の他、目的に応じて種々の公知の添加成分を併用することができる。
【0078】
例えば、記録層の溶解性を調節するためには、オニウム塩、芳香族スルホン化合物、芳香族スルホン酸エステル化合物、多官能アミン化合物等、添加するとアルカリ水可溶性高分子(アルカリ可溶性樹脂)の現像液への溶解阻止機能を向上させるいわゆる溶解抑止剤を添加することが好ましく、中でも、オニウム塩、o−キノンジアジド化合物、スルホン酸アルキルエステル等の熱分解性であり、分解しない状態ではアルカリ可溶性樹脂の溶解性を実質的に低下させる物質を併用することが、画像部の現像液への溶解阻止性の向上を図る点で好ましい。
【0079】
本発明において用いられるオニウム塩として、好適なものとしては、例えばS.I.Schlesinger,Photogr.Sci.Eng.,18,387(1974)、T.S.Bal et al,Polymer,21,423(1980)、特開平5−158230号公報に記載のジアゾニウム塩、米国特許第4,069,055号、同4,069,056号、特開平3−140140号の明細書に記載のアンモニウム塩、D.C.Necker et al,Macromolecules,17,2468(1984)、C.S.Wen et al,Teh,Proc.Conf.Rad.Curing ASIA,p478 Tokyo,Oct(1988)、米国特許第4,069,055号、同4,069,056号に記載のホスホニウム塩、J.V.Crivello et al,Macromorecules,10(6),1307(1977)、Chem.&Eng.News,Nov.28,p31(1988)、欧州特許第104,143号、米国特許第5,041,358号、同第4,491,628号、特開平2−150848号、特開平2−296514号に記載のヨードニウム塩、J.V.Crivello et al,Polymer J.17,73(1985)、J.V.Crivello et al.J.Org.Chem.,43,3055(1978)、W.R.Watt et al,J.Polymer Sci.,Polymer Chem.Ed.,22,1789(1984)、J.V.Crivello et al,Polymer Bull.,14,279(1985)、J.V.Crivello et al,Macromorecules,14(5),1141(1981)、J.V.Crivello et al,J.Polymer Sci.,Polymer Chem.Ed.,17,2877(1979)、欧州特許第370,693号、同233,567号、同297,443号、同297,442号、米国特許第4,933,377号、同3,902,114号、同5,041,358号、同4,491,628号、同4,760,013号、同4,734,444号、同2,833,827号、独国特許第2,904,626号、同3,604,580号、同3,604,581号に記載のスルホニウム塩、J.V.Crivello et al,Macromorecules,10(6),1307(1977)、J.V.Crivello et al,J.Polymer Sci.,Polymer Chem.Ed.,17,1047(1979)に記載のセレノニウム塩、C.S.Wen et al,Teh,Proc.Conf.Rad.Curing ASIA,p478 Tokyo,Oct(1988)に記載のアルソニウム塩等があげられる。
【0080】
これらのオニウム塩の中でも、溶解阻止能や熱分解性の観点から、ジアゾニウム塩及び4級アンモニウム塩が特に好ましい。特に、ジアゾニウム塩としては、特開平5−158230号公報に記載の一般式(I)で示されるジアゾニウム塩や特開平11−143064号公報に記載の一般式(1)で示されるジアゾニウム塩が好ましく、可視光領域の吸収波長が小さい特開平11−143064号公報に記載の一般式(1)で示されるジアゾニウム塩が最も好ましい。また4級アンモニウム塩としては、特開2002−229186号公報に記載[化8][化9]中の(1)〜(10)に示される4級アンモニウム塩が好ましい。
【0081】
オニウム塩の対イオンとしては、四フッ化ホウ酸、六フッ化リン酸、トリイソプロピルナフタレンスルホン酸、5−ニトロ−o−トルエンスルホン酸、5−スルホサリチル酸、2,5−ジメチルベンゼンスルホン酸、2,4,6−トリメチルベンゼンスルホン酸、2−ニトロベンゼンスルホン酸、3−クロロベンゼンスルホン酸、3−ブロモベンゼンスルホン酸、2−フルオロカプリルナフタレンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、1−ナフトール−5−スルホン酸、2−メトキシ−4−ヒドロキシ−5−ベンゾイル−ベンゼンスルホン酸、及びパラトルエンスルホン酸等を挙げることができる。これらの中でも特に六フッ化リン酸、トリイソプロピルナフタレンスルホン酸や2,5−ジメチルベンゼンスルホン酸のごときアルキル芳香族スルホン酸が好適である。
【0082】
好適なキノンジアジド類としてはo−キノンジアジド化合物を挙げることができる。本発明に用いられるo−キノンジアジド化合物は、少なくとも1個のo−キノンジアジド基を有する化合物で、熱分解によりアルカリ可溶性を増すものであり、種々の構造の化合物を用いることができる。つまり、o−キノンジアジドは熱分解により結着剤の溶解抑制能を失うことと、o−キノンジアジド自身がアルカリ可溶性の物質に変化することの両方の効果により感材系の溶解性を助ける。本発明に用いられるo−キノンジアジド化合物としては、例えば、J.コーサー著「ライト−センシティブ・システムズ」(John Wiley&Sons.Inc.)第339〜352頁に記載の化合物が使用できるが、特に種々の芳香族ポリヒドロキシ化合物あるいは芳香族アミノ化合物と反応させたo−キノンジアジドのスルホン酸エステル又はスルホン酸アミドが好適である。また、特公昭43−28403号公報に記載されているようなベンゾキノン(1,2)−ジアジドスルホン酸クロライド又はナフトキノン−(1,2)−ジアジド−5−スルホン酸クロライドとピロガロール−アセトン樹脂とのエステル、米国特許第3,046,120号及び同第3,188,210号に記載されているベンゾキノン−(1,2)−ジアジドスルホン酸クロライド又はナフトキノン−(1,2)−ジアジド−5−スルホン酸クロライドとフェノール−ホルムアルデヒド樹脂とのエステルも好適に使用される。
【0083】
さらにナフトキノン−(1,2)−ジアジド−4−スルホン酸クロライドとフェノールホルムアルデヒド樹脂あるいはクレゾール−ホルムアルデヒド樹脂とのエステル、ナフトキノン−(1,2)−ジアジド−4−スルホン酸クロライドとピロガロール−アセトン樹脂とのエステルも同様に好適に使用される。その他の有用なo−キノンジアジド化合物としては、数多くの特許に報告され知られている。例えば特開昭47−5303号、特開昭48−63802号、特開昭48−63803号、特開昭48−96575号、特開昭49−38701号、特開昭48−13354号、特公昭41−11222号、特公昭45−9610号、特公昭49−17481号、米国特許第2,797,213号、同第3,454,400号、同第3,544,323号、同第3,573,917号、同第3,674,495号、同第3,785,825号、英国特許第1,227,602号、同第1,251,345号、同第1,267,005号、同第1,329,888号、同第1,330,932号、ドイツ特許第854,890号などの各明細書中に記載されているものをあげることができる。
【0084】
分解性溶解抑止剤であるオニウム塩、及び/又は、o−キノンジアジド化合物の添加量は好ましくは記録層の全固形分に対し、1〜10質量%、更に好ましくは1〜5質量%、特に好ましくは1〜2質量%の範囲である。これらの化合物は単一で使用できるが、数種の混合物として使用してもよい。
【0085】
o−キノンジアジド化合物以外の添加剤の添加量は、好ましくは0.1質量%〜5質量%、更に好ましくは0.1質量%〜2質量%、特に好ましくは0.1質量%〜1.5質量%の範囲内である。記録層を重層構造とする場合には、本発明に係る添加剤と結着剤は、同一層へ含有させることが好ましい。
【0086】
また、分解性を有さない溶解抑止剤を併用してもよく、好ましい溶解抑止剤としては、特開平10−268512号公報に詳細に記載されているスルホン酸エステル、燐酸エステル、芳香族カルボン酸エステル、芳香族ジスルホン、カルボン酸無水物、芳香族ケトン、芳香族アルデヒド、芳香族アミン、芳香族エーテル等、同じく特開平11−190903号公報に詳細に記載されているラクトン骨格、N,N−ジアリールアミド骨格、ジアリールメチルイミノ骨格を有し着色剤を兼ねた酸発色性色素、同じく特開2000−105454号公報に詳細に記載されている非イオン性界面活性剤等を挙げることができる。
【0087】
また、本発明に係る記録層には、感度を向上させる目的で、環状酸無水物類、フェノール類、有機酸類を併用することができる。また、後述する界面活性剤、画像着色剤、及び可塑剤も、記録層に使用することができる。
環状酸無水物としては、米国特許第4,115,128号明細書に記載されている無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、3,6−エンドオキシ−4−テトラヒドロ無水フタル酸、テトラクロル無水フタル酸、無水マレイン酸、クロル無水マレイン酸、α−フェニル無水マレイン酸、無水コハク酸、無水ピロメリット酸などが使用できる。フェノール類としては、ビスフェノールA、p−ニトロフェノール、p−エトキシフェノール、2,4,4'−トリヒドロキシベンゾフェノン、2,3,4−トリヒドロキシベンゾフェノン、4−ヒドロキシベンゾフェノン、4,4',4"−トリヒドロキシトリフェニルメタン、4,4',3",4"−テトラヒドロキシ−3,5,3',5'−テトラメチルトリフェニルメタンなどが挙げられる。更に、有機酸類としては、特開昭60−88942号、特開平2−96755号公報などに記載されている、スルホン酸類、スルフィン酸類、アルキル
上記の環状酸無水物、フェノール類、及び有機酸類の記録層中に占める割合は、0.05質量%〜20質量%が好ましく、より好ましくは0.1質量%〜15質量%、特に好ましくは0.1質量%〜10質量%である。
【0088】
また、これら以外にも、エポキシ化合物、ビニルエーテル類、更には特開平8−276558号公報に記載のヒドロキシメチル基を有するフェノール化合物、アルコキシメチル基を有するフェノール化合物、及び本発明者らが先に提案した特開平11−160860号公報に記載のアルカリ溶解抑制作用を有する架橋性化合物等を目的に応じて適宜添加することができる。
【0089】
また、露光による加熱後直ちに可視像を得るための焼き出し剤や、画像着色剤としての染料や顔料を加えることができる。
焼き出し剤としては、露光による加熱によって酸を放出する化合物(光酸放出剤)と塩を形成し得る有機染料の組合せを代表として挙げることができる。具体的には、特開昭50−36209号、特開昭53−8128号の各公報に記載されているo−ナフトキノンジアジド−4−スルホン酸ハロゲニドと塩形成性有機染料の組合せや、特開昭53−36223号、特開昭54−74728号、特開昭60−3626号、特開昭61−143748号、特開昭61−151644号、及び特開昭63−58440号の各公報に記載されているトリハロメチル化合物と塩形成性有機染料の組合せを挙げることができる。かかるトリハロメチル化合物としては、オキサゾール系化合物とトリアジン系化合物とがあり、どちらも経時安定性に優れ、明瞭な焼き出し画像を与える。
【0090】
画像の着色剤としては、前述の塩形成性有機染料以外に他の染料を用いることができる。塩形成性有機染料を含めて、好適な染料として油溶性染料と塩基性染料を挙げることができる。具体的にはオイルイエロー#101、オイルイエロー#103、オイルピンク#312、オイルグリーンBG、オイルブルーBOS、オイルブルー#603、オイルブラックBY、オイルブラックBS、オイルブラックT−505(以上オリエント化学工業(株)製)、ビクトリアピュアブルー、クリスタルバイオレット(CI42555)、メチルバイオレット(CI42535)、エチルバイオレット、ローダミンB(CI145170B)、マラカイトグリーン(CI42000)、メチレンブルー(CI52015)などを挙げることができる。また、特開昭62−293247号公報に記載されている染料は特に好ましい。これらの染料は、記録層全固形分に対し、0.01質量%〜10質量%、好ましくは0.1質量%〜3質量%の割合で記録層中に添加することができる。
【0091】
更に、本発明に係る記録層には、必要に応じ、塗膜の柔軟性等を付与するために可塑剤が加えられる。例えば、ブチルフタリル、ポリエチレングリコール、クエン酸トリブチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジヘキシル、フタル酸ジオクチル、リン酸トリクレジル、リン酸トリブチル、リン酸トリオクチル、オレイン酸テトラヒドロフルフリル、アクリル酸、又はメタクリル酸のオリゴマー及びポリマー等が用いられる。
【0092】
[平版印刷版原版の作製]
以下、本発明に係る平版印刷版原版の作製について説明する。
【0093】
(塗布溶剤及び塗布方法)
本発明に係る平版印刷版原版は、記録層を構成する組成物を溶媒に溶かして適当な支持体上に塗布することにより製造することができる。また、目的に応じて、後述する保護層、樹脂中間層、バックコート層などを同様にして形成することができる。
【0094】
記録層の溶解・塗布に用いられる溶媒としては、エチレンジクロライド、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、1−メトキシ−2−プロパノール、2−メトキシエチルアセテート、1−メトキシ−2−プロピルアセテート、ジメトキシエタン、乳酸メチル、乳酸エチル、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、テトラメチルウレア、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、γ−ブチロラクトン、トルエン等を挙げることができるがこれに限定されるものではない。これらの溶媒は単独あるいは混合して使用される。
溶媒中の上記成分(添加剤を含む全固形分)の濃度は、1質量%〜50質量%の範囲内であることが好ましい。
塗布、乾燥後に得られる支持体上の塗布量(固形分)は、用途によって異なるが、一般に、乾燥後の塗膜量が0.5mg/m2〜5.0mg/m2となる量が好ましく、0.6mg/m2〜2.0mg/m2となる量がより好ましい。
【0095】
記録層塗布液を塗布する方法としては、種々の方法を用いることができるが、例えば、バーコーター塗布、回転塗布、スプレー塗布、カーテン塗布、ディップ塗布、エアーナイフ塗布、ブレード塗布、ロール塗布等を挙げることができる。塗布量が少なくなるにつれて、見かけの感度は大になるが、感光膜の皮膜特性は低下する。
【0096】
(記録層の層構成)
記録層は、単層構造、相分離構造、及び重層構造のいずれであってもよい。
単層型記録層としては、例えば、特開平7−285275号公報、国際公開97/39894号パンフレット記載の感光層、相分離型記録層としては、例えば、特開平11−44956号公報記載の感光層、重層型記録層としては、例えば、特開平11−218914号公報、米国特許第6352812B1号、米国特許第6352811B1号、米国特許第6358669B1号、米国特許第6534238B1号、欧州特許第864420B1号明細書記載の感光層を用いることができるが、これらに限定されない。
【0097】
(支持体)
平版印刷版原版に使用される支持体としては、寸度的に安定な板状物であり、必要な強度、可撓性などの物性を満たすものであれば特に制限はなく、例えば、紙、プラスチック(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等)がラミネートされた紙、金属板(例えば、アルミニウム、亜鉛、銅等)、プラスチックフイルム(例えば、二酢酸セルロース、三酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酪酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、硝酸セルロース、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリビニルアセタール等)、上記のごとき金属がラミネート、もしくは蒸着された紙、もしくはプラスチックフイルム等が挙げられる。
平版印刷版原版に適用し得る支持体としては、ポリエステルフイルム又はアルミニウム板が好ましく、その中でも寸法安定性がよく、比較的安価であるアルミニウム板は特に好ましい。好適なアルミニウム板は、純アルミニウム板及びアルミニウムを主成分とし、微量の異元素を含む合金板であり、更にアルミニウムがラミネートもしくは蒸着されたプラスチックフイルムでもよい。アルミニウム合金に含まれる異元素には、ケイ素、鉄、マンガン、銅、マグネシウム、クロム、亜鉛、ビスマス、ニッケル、チタンなどがある。合金中の異元素の含有量は高々10質量%以下である。本発明において特に好適なアルミニウムは、純アルミニウムであるが、完全に純粋なアルミニウムは精錬技術上製造が困難であるので、僅かに異元素を含有するものでもよい。
このように本発明に適用されるアルミニウム板は、その組成が特定されるものではなく、従来より公知公用の素材のアルミニウム板を適宜に利用することができる。本発明で用いられるアルミニウム板の厚みはおよそ0.1mm〜0.6mm程度、好ましくは0.15mm〜0.4mm、特に好ましくは0.2mm〜0.3mmである。
【0098】
アルミニウム板を粗面化するに先立ち、所望により、表面の圧延油を除去するための例えば界面活性剤、有機溶剤又はアルカリ性水溶液などによる脱脂処理が行われる。アルミニウム板の表面の粗面化処理は、種々の方法により行われるが、例えば、機械的に粗面化する方法、電気化学的に表面を溶解粗面化する方法及び化学的に表面を選択溶解させる方法により行われる。機械的方法としては、ボール研磨法、ブラシ研磨法、ブラスト研磨法、バフ研磨法などの公知の方法を用いることができる。また、電気化学的な粗面化法としては塩酸又は硝酸電解液中で交流又は直流により行う方法がある。また、特開昭54−63902号公報に開示されているように両者を組合せた方法も利用することができる。この様に粗面化されたアルミニウム板は、必要に応じてアルカリエッチング処理及び中和処理された後、所望により表面の保水性や耐摩耗性を高めるために陽極酸化処理が施される。アルミニウム板の陽極酸化処理に用いられる電解質としては、多孔質酸化皮膜を形成する種々の電解質の使用が可能で、一般的には硫酸、リン酸、蓚酸、クロム酸あるいはそれらの混酸が用いられる。それらの電解質の濃度は電解質の種類によって適宜決められる。
【0099】
陽極酸化の処理条件は用いる電解質により種々変わるので一概に特定し得ないが一般的には電解質の濃度が1質量%〜80質量%溶液、液温は5℃〜70℃、電流密度5A/dm2〜60A/dm2、電圧1V〜100V、電解時間10秒〜5分の範囲であれば適当である。陽極酸化皮膜の量は1.0g/m2より少ないと耐刷性が不充分であったり、平版印刷版の非画像部に傷が付き易くなって、印刷時に傷の部分にインキが付着するいわゆる「傷汚れ」が生じ易くなる。陽極酸化処理を施された後、アルミニウム表面は必要により親水化処理が施される。本発明に使用される親水化処理としては、米国特許第2,714,066号、同第3,181,461号、第3,280,734号及び第3,902,734号に開示されているようなアルカリ金属シリケート(例えばケイ酸ナトリウム水溶液)法がある。この方法においては、支持体がケイ酸ナトリウム水溶液で浸漬処理されるか又は電解処理される。他に特公昭36−22063号公報に開示されているフッ化ジルコン酸カリウム及び米国特許第3,276,868号、同第4,153,461号、同第4,689,272号に開示されているようなポリビニルホスホン酸で処理する方法などが用いられる。
【0100】
(下塗層)
本発明に係る平版印刷版原版は、必要に応じて支持体と記録層との間に下塗層を設けることができる。この下塗層を設けることで、支持体と記録層との間の下塗層が断熱層として機能し、赤外線レーザの露光により発生した熱が支持体に拡散せず、効率よく使用されることから、高感度化が図れるという利点を有する。また、記録層は、この下塗層を設ける際にも、露光面或いはその近傍に位置するため、赤外線レーザに対する感度は良好に維持される。
なお、未露光部においては、アルカリ現像液に対して非浸透性である記録層自体が下塗層の保護層として機能するために、現像安定性が良好になるとともにディスクリミネーションに優れた画像が形成され、且つ、経時的な安定性も確保されるものと考えられ、露光部においては、溶解抑制能が解除された記録層の成分が速やかに現像液に溶解、分散し、さらには、支持体に隣接して存在するこの下塗層自体がアルカリ可溶性高分子からなるものであるため、現像液に対する溶解性が良好で、例えば、活性の低下した現像液などを用いた場合でも、残膜などが発生することなく速やかに溶解し、現像性の向上にも寄与し、この下塗層は有用であると考えられる。
【0101】
下塗層成分としては種々の有機化合物が用いられ、例えば、カルボキシメチルセルロース、デキストリン、アラビアガム、2−アミノエチルホスホン酸などのアミノ基を有するホスホン酸類、置換基を有してもよいフェニルホスホン酸、ナフチルホスホン酸、アルキルホスホン酸、グリセロホスホン酸、メチレンジホスホン酸及びエチレンジホスホン酸などの有機ホスホン酸、置換基を有してもよいフェニルリン酸、ナフチルリン酸、アルキルリン酸及びグリセロリン酸などの有機リン酸、置換基を有してもよいフェニルホスフィン酸、ナフチルホスフィン酸、アルキルホスフィン酸及びグリセロホスフィン酸などの有機ホスフィン酸、グリシンやβ−アラニンなどのアミノ酸類、及びトリエタノールアミンの塩酸塩などのヒドロキシ基を有するアミンの塩酸塩等から選ばれるが、2種以上混合して用いてもよい。
【0102】
さらに下記式で示される構造単位を有する有機高分子化合物群から選ばれる少なくとも1種の化合物を含む下塗層も好ましい。
【0103】
【化8】

【0104】
11は水素原子、ハロゲン原子又はアルキル基を表し、R12及びR13はそれぞれ独立して、水素原子、水酸基、ハロゲン原子、アルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基、−OR14、−COOR15、−CONHR16、−COR17若しくは−CNを表すか、又はR12及びR13が結合して環を形成してもよく、R14〜R17はそれぞれ独立してアルキル基又はアリール基を表し、Xは水素原子、金属原子、NR18192021を表し、R18〜R21はそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基、置換アルキル基、アリール基若しくは置換アリール基を表すか、又はR18及びR19が結合して環を形成してもよく、mは1〜3の整数を表す。
【0105】
また、本発明における好適な下塗層成分として、特開2000−241962号公報に記載の酸基を有する構成成分とオニウム基を有する構成成分とを有する高分子化合物を挙げることができる。具体的には、酸基を有するモノマーとオニウム基を有するモノマーの共重合体が挙げられる。酸基として好ましいのは酸解離指数(pKa)が7以上の酸基であり、より好ましくは−COOH、−SO3H、−OSO3H、−PO32、―OPO32、―CONHSO2―、またはーSO2NHSO2−であり、特に好ましくは−COOHである。酸基を有するモノマーの具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、上記酸基を有するスチレンなどが挙げられる。オニウム塩として好ましいのは、周期表V族あるいは第VI族の原子からなるオニウム基であり、より好ましくは窒素原子、リン原子あるいは硫黄原子から成るオニウム塩であり、特に好ましくは窒素原子から成るオニウム塩である。オニウム塩を有するモノマーの具体例としては、側鎖にアンモニウム基を有するメタクリレート、メタクリルアミド、第4級アンモニウム基などのオニウム基を含む置換基などのオニウム基を含む置換基を有するスチレン等が挙げられる。
さらに、特開2000−108538号公報、特願2002−257484号公報、特願2003−78699号公報、等に記載されているような化合物についても、必要に応じて用いることができる。
【0106】
これらの下塗層は次のような方法で設けることができる。即ち、水又はメタノール、エタノール、メチルエチルケトンなどの有機溶剤もしくはそれらの混合溶剤に上記の有機化合物を溶解させた溶液をアルミニウム板上に塗布、乾燥して設ける方法と、水又はメタノール、エタノール、メチルエチルケトンなどの有機溶剤もしくはそれらの混合溶剤に上記の有機化合物を溶解させた溶液に、アルミニウム板を浸漬して上記化合物を吸着させ、その後水などによって洗浄、乾燥して下塗層を設ける方法である。前者の方法では、上記の有機化合物の0.005質量%〜10質量%の範囲内の濃度の溶液を種々の方法で塗布できる。また後者の方法では、溶液の濃度は0.01質量%〜20質量%、好ましくは0.05質量%〜5質量%の範囲内であり、浸漬温度は20℃〜90℃、好ましくは25℃〜50℃の範囲内であり、浸漬時間は0.1秒〜20分、好ましくは2秒〜1分の範囲内である。これに用いる溶液は、アンモニア、トリエチルアミン、水酸化カリウムなどの塩基性物質や、塩酸、リン酸などの酸性物質によりpH1〜12の範囲に調整することもできる。また、画像記録材料の調子再現性改良のために黄色染料を添加することもできる。下塗層の被覆量は、2mg/m2〜200mg/m2が適当であり、好ましくは5mg/m2〜100mg/m2である。上記の被覆量が2mg/m2よりも少ないと充分な耐刷性能が得られない。また、200mg/m2より大きくても同様である。
【0107】
本発明に係る平版印刷版原版は、熱により画像形成される。具体的には、熱記録ヘッド等による直接画像様記録、赤外線レーザによる走査露光、キセノン放電灯などの高照度フラッシュ露光や赤外線ランプ露光などが用いられるが、波長700nm〜1200nmの赤外線を放射する半導体レーザ、YAGレーザ等の固体高出力赤外線レーザによる露光が好適である。
【0108】
レーザの出力は100mW以上が好ましく、露光時間を短縮するため、マルチビームレーザデバイスを用いることが好ましい。また、1画素あたりの露光時間は20μ秒以内であることが好ましく、記録材料に照射されるエネルギーは10mJ/cm2〜500mJ/cm2であることが好ましい。
【0109】
本発明に係る平版印刷版原版に適用することのできる現像液は、pHが9.0〜14.0の範囲、好ましくは12.0〜13.5の範囲にある現像液である。現像液(以下、補充液も含めて現像液と呼ぶ)には、従来から知られているアルカリ水溶液が使用できる。例えば、ケイ酸ナトリウム、同カリウム、第3リン酸ナトリウム、同カリウム、同アンモニウム、第2リン酸ナトリウム、同カリウム、同アンモニウム、炭酸ナトリウム、同カリウム、同アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、同カリウム、同アンモニウム、ほう酸ナトリウム、同カリウム、同アンモニウム、水酸化ナトリウム、同アンモニウム、同カリウムおよび同リチウムなどの無機アルカリ塩が挙げられる。また、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノイソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、トリイソプロピルアミン、n−ブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、エチレンイミン、エチレンジアミン、ピリジンなどの有機アルカリ剤が挙げられる。これらのアルカリ水溶液は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0110】
上記のアルカリ水溶液の内、本発明による効果が発揮される現像液は、一つは塩基としてケイ酸アルカリを含有した、又は塩基にケイ素化合物を混ぜてケイ酸アルカリとしたものを含有した、所謂「シリケート現像液」と呼ばれるpH12以上の水溶液で、もう一つのより好ましい現像液は、ケイ酸アルカリを含有せず、非還元糖(緩衝作用を有する有機化合物)と塩基とを含有したいわゆる「ノンシリケート現像液」である。
【0111】
前者においては、アルカリ金属ケイ酸塩の水溶液はケイ酸塩の成分である酸化ケイ素SiO2とアルカリ金属酸化物M2Oの比率(一般に〔SiO2〕/〔M2O〕のモル比で表す)と濃度によって現像性の調節が可能であり、例えば、特開昭54−62004号公報に開示されているような、SiO2/Na2Oのモル比が1.0〜1.5(即ち〔SiO2〕/〔Na2O〕が1.0〜1.5)であって、SiO2の含有量が1質量%〜4質量%のケイ酸ナトリウムの水溶液や、特公昭57−7427号公報に記載されているような、〔SiO2〕/〔M〕が0.5〜0.75(即ち〔SiO2〕/〔M2O〕が1.0〜1.5)であって、SiO2の濃度が1質量%〜4質量%であり、かつ該現像液がその中に存在する全アルカリ金属のグラム原子を基準にして少なくとも20%のカリウムを含有している、アルカリ金属ケイ酸塩の水溶液が好適に用いられる。
【0112】
また、ケイ酸アルカリを含有せず、非還元糖と塩基とを含有したいわゆる「ノンシリケート現像液」が、本発明の平版印刷版材料の現像に適用するのには一層好ましい。この現像液を用いて、平版印刷版材料の現像処理を行うと、記録層の表面を劣化させることがなく、かつ記録層の着肉性を良好な状態に維持することができる。また、本発明の製造方法により得られた平版印刷版原版は、一般のものに比較して現像ラチチュードは広いが、ノンシリケート現像液にはpHの変動を抑える緩衝性を有する非還元糖が含まれているため、シリケートを含む現像処理液を用いた場合に比べて有利である。このため、本発明に係る平版印刷版原版の現像に非シリケート現像液を用いることで、微細面積画像の再現性が一層向上する。更に、非還元糖は、シリケートに比べて液活性度を制御するための電導度センサーやpHセンサー等を汚染し難いため、この点でも、ノンシリケート現像液は有利である。また、ディスクリミネーション向上効果が顕著である。これは、本発明において重要な現像液との接触(浸透)がマイルドとなり、露光部及び未露光部の差がさらに出やすくなっているためと推定される。
【0113】
前記非還元糖とは、遊離のアルデヒド基やケトン基を持たず、還元性を示さない糖類であり、還元基同士の結合したトレハロース型少糖類、糖類の還元基と非糖類が結合した配糖体、及び糖類に水素添加して還元した糖アルコールに分類され、何れも本発明において好適に用いることができる。なお、本発明においては、特開平8−305039号公報に記載された非還元糖を好適に使用することができる。
【0114】
前記トレハロース型少糖類としては、例えば、サッカロース、トレハロース等が挙げられる。前記配糖体としては、例えば、アルキル配糖体、フェノール配糖体、カラシ油配糖体等が挙げられる。前記糖アルコールとしては、例えば、D,L−アラビット、リビット、キシリット、D,L−ソルビット、D,L−マンニット、D,L−イジット、D,L−タリット、ズリシット、アロズルシット等が挙げられる。更に、二糖類のマルトースに水素添加したマルチトール、オリゴ糖の水素添加で得られる還元体(還元水あめ)等が好適に挙げられる。これらの非還元糖の中でも、トレハロース型少糖類、糖アルコールが好ましく、その中でも、D−ソルビット、サッカロース、還元水あめ、等が適度なpH領域に緩衝作用があり、低価格である点で好ましい。
【0115】
これらの非還元糖は、一種単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。前記非還元糖の前記ノンシリケート現像液中における含有量としては、0.1質量%〜30質量%が好ましく、1質量%〜20質量%がより好ましい。前記含有量が、0.1質量%未満であると充分な緩衝作用が得られなくなる傾向があり、30質量%を越えると高濃縮化し難く、また原価も高くなる傾向がある。
【0116】
また、前記非還元糖と組合せて用いられる塩基としては、従来から公知のアルカリ剤、例えば、無機アルカリ剤、有機アルカリ剤等が挙げられる。無機アルカリ剤としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム、リン酸三アンモニウム、リン酸二ナトリウム、リン酸二カリウム、リン酸二アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素アンモニウム、硼酸ナトリウム、硼酸カリウム、硼酸アンモニウム等が挙げられる。
【0117】
有機アルカリ剤としては、例えば、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノイソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、トリイソプロピルアミン、n−ブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、エチレンイミン、エチレンジアミン、ピリジン等が挙げられる。
【0118】
前記塩基は、一種単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。これらの塩基の中でも、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましい。また、本発明においては、前記ノンシリケート現像液として、非還元糖と塩基との併用に代えて、非還元糖のアルカリ金属塩を主成分としたものを用いることもできる。
【0119】
また、前記ノンシリケート現像液に、前記非還元糖以外の弱酸と強塩基とからなるアルカリ性緩衝液を併用することができる。前記弱酸としては、解離定数(pKa)が10.0〜13.2のものが好ましく、例えば、Pergmon Press 社発行のIonization Constants of Organic Acidsin Aqueous Solution 等に記載されているものから選択できる。
【0120】
具体的には、2,2,3,3−テトラフルオロプロパノ−ル−1、トリフルオロエタノール、トリクロロエタノール等のアルコール類、ピリジン−2−アルデヒド(、ピリジン−4−アルデヒド(等のアルデヒド類、サリチル酸、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、カテコール、没食子酸、スルホサリチル酸、3,4−ジヒドロキシスルホン酸、3,4−ジヒドロキシ安息香酸、ハイドロキノン(同11.56)、ピロガロール、o−、m−,p−クレゾール、レゾルソノール等のフェノール性水酸基を有する化合物、アセトキシム、2−ヒドロキシベンズアルデヒドオキシム、ジメチルグリオキシム、エタンジアミドジオキシム、アセトフェノンオキシム等のオキシム類、アデノシン、イノシン、グアニン、シトシン、ヒポキサンチン、キサンチン等の核酸関連物質、その他に、ジエチルアミノメチルホスホン酸、ベンズイミダゾール、バルビツル酸等が好適に挙げられる。
【0121】
前記現像液及び補充液には、現像性の促進や抑制、現像カスの分散または、印刷版画像部の親インキ性を高める目的で、必要に応じて、種々の界面活性剤や有機溶剤を添加できる。前記界面活性剤としては、アニオン系、カチオン系、ノニオン系および両性界面活性剤が好ましい。更に、前記現像液及び補充液には、必要に応じて、ハイドロキノン、レゾルシン、亜硫酸、亜硫酸水素酸などの無機酸のナトリウム塩、カリウム塩等の還元剤、更に有機カルボン酸、消泡剤、硬水軟化剤等を加えることができる。
【0122】
前記現像液及び補充液を用いて現像処理された画像形成材料は、水洗水、界面活性剤等を含有するリンス液、アラビアガムや澱粉誘導体を含む不感脂化液で後処理される。前記画像形成材料を印刷版として使用する場合の後処理としては、これらの処理を種々組合せて用いることができる。
【0123】
更に自動現像機を用いて現像する場合には、現像液よりもアルカリ強度の高い水溶液(補充液)を現像液に加えることによって、長時間現像タンク中の現像液を交換する事なく、多量のPS版を処理できることが知られている。本発明においてもこの補充方式が好ましく適用される。現像液及び補充液には現像性の促進や抑制、現像カスの分散及び印刷版画像部の親インキ性を高める目的で必要に応じて種々の界面活性剤や有機溶剤を添加できる。
好ましい界面活性剤としては、アニオン系、カチオン系、ノニオン系及び両性界面活性剤があげられる。更に現像液及び補充液には必要に応じて、ハイドロキノン、レゾルシン、亜硫酸、亜硫酸水素酸などの無機酸のナトリウム塩、カリウム塩等の還元剤、更に有機カルボン酸、消泡剤、硬水軟化剤を加えることもできる。
上記現像液及び補充液を用いて現像処理された印刷版は水洗水、界面活性剤等を含有するリンス液、アラビアガムや澱粉誘導体を含む不感脂化液で後処理される。本発明の平版印刷版原版の後処理としては、これらの処理を種々組合せて用いることができる。
【0124】
近年、製版・印刷業界では製版作業の合理化及び標準化のため、印刷版用の自動現像機が広く用いられている。この自動現像機は、一般に現像部と後処理部からなり、印刷版を搬送する装置と各処理液槽及びスプレー装置からなり、露光済みの印刷版を水平に搬送しながら、ポンプで汲み上げた各処理液をスプレーノズルから吹き付けて現像処理するものである。また、最近は処理液が満たされた処理液槽中に液中ガイドロールなどによって印刷版を浸漬搬送させて処理する方法も知られている。このような自動処理においては、各処理液に処理量や稼働時間等に応じて補充液を補充しながら処理することができる。また、実質的に未使用の処理液で処理するいわゆる使い捨て処理方式も適用できる。
【0125】
本発明に係る平版印刷版原版においては、画像露光し、現像し、水洗及び/又はリンス及び/又はガム引きして得られた平版印刷版に不必要な画像部(例えば原画フイルムのフイルムエッジ跡など)がある場合には、その不必要な画像部の消去が行なわれる。このような消去は、例えば特公平2−13293号公報に記載されているような消去液を不必要画像部に塗布し、そのまま所定の時間放置したのちに水洗することにより行う方法が好ましいが、特開平59−174842号公報に記載されているようなオプティカルファイバーで導かれた活性光線を不必要画像部に照射したのち現像する方法も利用できる。
【0126】
〔加熱処理(バーニング処理)〕
本発明においては、以上のようにして得られた平版印刷版に、必要により不感脂化ガムを塗布したのち、加熱処理(バーニング処理)が施される。
【0127】
バーニング処理は、バーニングプロセッサー(例えば、富士写真フイルム(株)より販売されているバーニングプロセッサー:「BP−1300」)などで、150℃以上350℃以下の範囲に加熱することにより行われる。
加熱温度は、150℃以上350℃以下の範囲であり、160℃以上300℃以下がより好ましく、180℃以上270℃以下が更に好ましい。また、加熱時間は、1分以上20分以下の範囲が好ましく、1分以上15分以下がより好ましく、1分以上10分以下が更に好ましい。
加熱温度及び加熱時間については、画像を形成している成分の種類を考慮して、最適な条件が選択される。
【0128】
バーニング処理に際しては、バーニング処理前に、特公昭61−2518号、同55−28062号、特開昭62−31859号、同61−159655号の各公報に記載されているような整面液で処理することが好ましい。その方法としては、整面液を浸み込ませたスポンジや脱脂綿にて、整面液を平版印刷版上に塗布する方法、整面液を満たしたバット中に印刷版を浸漬して塗布する方法、自動コーターにより塗布する方法などが適用される。また、塗布した後でスキージ、あるいは、スキージローラーで、その塗布量を均一にすることは、より好ましい結果を与える。
整面液の塗布量は一般に0.03〜0.8g/m2(乾燥質量)が適当である。
【0129】
バーニング処理された平版印刷版は、必要に応じて適宜、水洗、ガム引きなどの従来より行なわれている処理を施こすことができるが、水溶性高分子化合物等を含有する整面液が使用された場合には、ガム引きなどのいわゆる不感脂化処理を省略することができる。
この様な処理によって得られた平版印刷版はオフセット印刷機等にかけられ、多数枚の印刷に用いられる。
【実施例】
【0130】
以下、本発明を実施例に従って説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0131】
(実施例1〜3、比較例1に用いる平版印刷版原版の作製)
〔支持体の作製〕
厚さ0.3mmのJIS−A−1050アルミニウム板を用いて、下記に示す工程を経て処理することで支持体を作製した。
【0132】
(a)機械的粗面化処理
比重1.12の研磨剤(ケイ砂)と水との懸濁液を研磨スラリー液としてアルミニウム板の表面に供給しながら、回転するローラ状ナイロンブラシにより機械的な粗面化を行った。研磨剤の平均粒径は8μm、最大粒径は50μmであった。ナイロンブラシの材質は6・10ナイロン、毛長50mm、毛の直径は0.3mmであった。ナイロンブラシはφ300mmのステンレス製の筒に穴をあけて密になるように植毛した。回転ブラシは3本使用した。ブラシ下部の2本の支持ローラ(φ200mm)の距離は300mmであった。ブラシローラはブラシを回転させる駆動モータの負荷が、ブラシローラをアルミニウム板に押さえつける前の負荷に対して7kWプラスになるまで押さえつけた。ブラシの回転方向はアルミニウム板の移動方向と同じであった。ブラシの回転数は200rpmであった。
【0133】
(b)アルカリエッチング処理
上記で得られたアルミニウム板に温度70℃のNaOH水溶液(濃度26質量%、アルミニウムイオン濃度6.5質量%)をスプレーしてエッチング処理を行い、アルミニウム板を6g/m2溶解した。その後、井水を用いてスプレーによる水洗を行った。
【0134】
(c)デスマット処理
温度30℃の硝酸濃度1質量%水溶液(アルミニウムイオンを0.5質量%含む)で、スプレーによるデスマット処理を行い、その後、スプレーで水洗した。前記デスマットに用いた硝酸水溶液は、硝酸水溶液中で交流を用いて電気化学的な粗面化を行う工程の廃液を用いた。
【0135】
(d)電気化学的粗面化処理
60Hzの交流電圧を用いて連続的に電気化学的な粗面化処理を行った。このときの電解液は、硝酸10.5g/リットル水溶液(アルミニウムイオンを5g/リットル)、温度50℃であった。交流電源波形は電流値がゼロからピークに達するまでの時間TPが0.8msec、DUTY比1:1、台形の矩形波交流を用いて、カーボン電極を対極として電気化学的な粗面化処理を行った。補助陽極にはフェライトを用いた。使用した電解槽はラジアルセルタイプのものを使用した。
電流密度は電流のピーク値で30A/dm2、電気量はアルミニウム板が陽極時の電気量の総和で220C/dm2であった。補助陽極には電源から流れる電流の5%を分流させた。その後、井水を用いてスプレーによる水洗を行った。
【0136】
(e)アルカリエッチング処理
アルミニウム板をカセイソーダ濃度26質量%、アルミニウムイオン濃度6.5質量%でスプレーによるエッチング処理を32℃で行い、アルミニウム板を0.20g/m2溶解し、前段の交流を用いて電気化学的な粗面化を行ったときに生成した水酸化アルミニウムを主体とするスマット成分を除去し、また、生成したピットのエッジ部分を溶解してエッジ部分を滑らかにした。その後、井水を用いてスプレーによる水洗を行った。
【0137】
(f)デスマット処理
温度30℃の硫酸濃度15質量%水溶液(アルミニウムイオンを4.5質量%含む)で、スプレーによるデスマット処理を行い、その後、井水を用いてスプレーで水洗した。前記デスマットに用いた硝酸水溶液は、硝酸水溶液中で交流を用いて電気化学的な粗面化を行う工程の廃液を用いた。
【0138】
(g)電気化学的粗面化処理
60Hzの交流電圧を用いて連続的に電気化学的な粗面化処理を行った。このときの電解液は、塩酸7.5g/リットル水溶液(アルミニウムイオンを5g/リットル含む)、温度35℃であった。交流電源波形は矩形波であり、カーボン電極を対極として電気化学的な粗面化処理を行った。補助アノードにはフェライトを用いた。電解槽はラジアルセルタイプのものを使用した。
電流密度は電流のピーク値で25A/dm2、電気量はアルミニウム板が陽極時の電気量の総和で50C/dm2であった。その後、井水を用いてスプレーによる水洗を行った。
【0139】
(h)アルカリエッチング処理
アルミニウム板をカセイソーダ濃度26質量%、アルミニウムイオン濃度6.5質量%でスプレーによるエッチング処理を32℃で行い、アルミニウム板を0.10g/m2溶解し、前段の交流を用いて電気化学的な粗面化処理を行ったときに生成した水酸化アルミニウムを主体とするスマット成分を除去し、また、生成したピットのエッジ部分を溶解してエッジ部分を滑らかにした。その後、井水を用いてスプレーによる水洗を行った。
【0140】
(i)デスマット処理
温度60℃の硫酸濃度25質量%水溶液(アルミニウムイオンを0.5質量%含む。)で、スプレーによるデスマット処理を行い、その後、井水を用いてスプレーによる水洗を行った。
【0141】
(j)陽極酸化処理
電解液としては、硫酸を用いた。電解液は、いずれも硫酸濃度170g/リットル(アルミニウムイオンを0.5質量%含む。)、温度は43℃であった。その後、井水を用いてスプレーによる水洗を行った。
電流密度はともに約30A/dm2であった。最終的な酸化皮膜量は2.7g/m2であった。
【0142】
<支持体A>
上記(a)〜(j)の各工程を順に行い(e)工程におけるエッチング量は3.4g/m2となるようにして支持体Aを作製した。
<支持体B>
上記工程のうち(g)、(h)、(i)の工程を省略した以外は各工程を順に行い支持体Bを作製した。
【0143】
<支持体C>
上記工程のうち(a)、(g)、(h)、及び(i)の工程を省略した以外は各工程を順に行い支持体Cを作製した。
<支持体D>
上記工程のうち(a)、(d)、(e)、及び(f)の工程を省略した以外は各工程を順に行い、(g)工程における電気量の総和が450C/dm2となるようにして支持体Dを作製した。
上記によって得られた支持体A、支持体B、支持体C、及び支持体Dには、引き続き下記の親水処理、下塗り処理を行った。
〔下塗り処理〕
上記のようにして得られたアルカリ金属ケイ酸塩処理後のアルミニウム支持体上に、下記組成の下塗り液を塗布し、80℃で15秒間乾燥することによって下塗層付き支持体を得た。乾燥後の被覆量は15mg/m2であった。
<下塗り液>
・下記高分子化合物(IあるいはII) 0.3g
・メタノール 100g
・水 1g
【0144】
【化9】

【0145】
〔記録層の形成〕
次に、上記で得られた下塗層付き支持体に、下記組成の下層用塗布液Aを、ワイヤーバーで塗布した後、140℃の乾燥オーブンで50秒間乾燥して塗布量を0.80g/m2とした。
得られた下層付き支持体に、下記組成の最上層用塗布液Bをワイヤーバーで塗布した。塗布後140℃60秒間の乾燥を行い、総塗布量を1.00g/m2とした。
以上のようにして、実施例1〜3、及び比較例1、2に用いるポジ型平版印刷版原版を得た。
【0146】
<下層用塗布液A>
・表5に記載の特定アルカリ可溶性樹脂又は比較用樹脂 0.800g
・m−クレゾール/p−クレゾールノボラック樹脂
(モル比60:40、重量平均分子量5,000) 0.25g
・3,4,5−トリメトキシ安息香酸 0.200g
【0147】
<最上層用塗布液B>
・シアニン染料P(下記構造) 0.030g
・エチルバイオレット 0.0175g
・TEGO WET265 0.002g
(テゴケミーサービス社(Tego Chemie Service GmbH)製)
・TEGO GLIDE410 5.00g
(テゴケミーサービス社(Tego Chemie Service GmbH)製)
【0148】
【化10】

【0149】
(実施例4〜6、比較例2に用いる平版印刷版原版の作製)
実施例1〜3に用いる平版印刷版原版と同様の方法で得られた下塗り層付き支持体に、下記組成の塗布液Cをワイヤーバーで塗布し後に、140℃60秒間の乾燥を行い、総塗布量を1.00g/m2とした。
以上のようにして、実施例4〜6、及び比較例2に用いるポジ型平版印刷版原版を得た。
【0150】
<塗布液C>
・表5に記載の特定アルカリ可溶性樹脂又は比較用樹脂 0.75g
・m−クレゾール/p−クレゾールノボラック樹脂
(モル比60:40、重量平均分子量5,000) 0.25g
・p−トルエンスルホン酸 0.003g
・テトラヒドロ無水フタル酸 0.03g
・シアニン染料P(前記構造) 0.017g
・ビクトリアピュアブルー(BOHの対アニオンを
1−ナフタレンスルホン酸アニオンにした染料) 0.015g
・γ−ブチルラクトン 10g
・メチルエチルケトン 10g
・1−メトキシ−2−プロパノール 1g
【0151】
(実施例7〜9、比較例3に用いる平版印刷版原版の作製)
実施例1〜3に用いる平版印刷版原版と同様の方法で得られた下塗り層付き支持体に、下記組成の塗布液Dをワイヤーバーで塗布した後に、140℃60秒間の乾燥を行い、総塗布量を1.40g/m2とした。
以上のようにして、実施例7〜9、及び比較例3に用いるポジ型平版印刷版原版を得た。
【0152】
<塗布液D>
・表5に記載の特定アルカリ可溶性樹脂又は比較用樹脂 2.072g
・m−クレゾール/p−クレゾールノボラック樹脂
(モル比60:40、重量平均分子量5,000) 0.21g
・シアニン染料P(前記構造) 0.052g
・エチルバイオレット6−ナフタレンスルホン酸 0.078g
・メチルエチルケトン 25.30g
【0153】
(実施例1〜9、比較例1〜3の平版印刷版の作製)
〔露光・現像〕
上記のようにして得られた各ポジ型平版印刷版原版を、Creo社製Trendsetter800にて、ビーム強度10.0W、ドラム回転速度250rpmの条件でテスト画像を露光した。
露光後の各ポジ型平版印刷版原版を、Agfa社製現像液「EP26」を仕込んだAutolithPN85CE(Agfa社製)を用い25℃、0.96m/min.条件で現像した。
【0154】
〔加熱処理(バーニング処理)〕
実施例1〜9、及び比較例1〜3について、現像後の平版印刷版に対して、以下のベーキングガム溶液を用いて、加熱処理を235℃で5分間行った。
<ベーキングガム溶液>
ベーキングガム溶液としては、富士写真フイルム株式会社製バ−ニング整面液BC−7を使用した。
以上のようにして、実施例1〜9、及び比較例1〜3の平版印刷版を得た。
【0155】
〔評価〕
(版上の汚れの評価)
後加熱処理を行った平版印刷版(実施例1〜9、比較例1〜3)について、非画像部への記録層成分の付着による汚れの有無を、50倍のルーペにより目視評価した。評価基準は、汚れがみられなかったものを○、汚れがみられたものを×とした。結果を表5に併記する。
【0156】
(耐刷性の評価)
得られた各平版印刷版を用いて、ハイデルKOR−D機で印刷を行い、正常な印刷物が刷られているかどうかを1万枚ごとに観察し、その枚数を評価した。結果を表5に併記する。
【0157】
【表5】

【0158】
表5中の特定アルカリ可溶性樹脂の種類を示す数字は、表4に前掲した具体例の化合物番号に対応する。
また、比較例1、3に用いた「樹脂A」、及び比較例2に用いた「樹脂B」の詳細は以下の通りである。
樹脂A: ALNOVOL SPN452(ノボラック樹脂、クラリアント社製)
樹脂B: N−(4−アミノスルホニルフェニル)メタクリルアミド
/アクリロニトリル/メタクリル酸メチル
(モル比36:34:30、重量平均分子量50,000)
【0159】
表5に示されるように、本発明の方法により得られた実施例1〜9の平版印刷版は、耐刷性に優れ、版上の汚れも発生もなかった。
一方、特定アルカリ可溶性樹脂に代えて、従来公知のアルカリ可溶性樹脂である樹脂A又は樹脂Bを用いた比較例1〜3平版印刷版は、耐刷性は得られるものの、版上に汚れが発生した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上に、ノボラック樹脂、下記一般式(1)で表される疎水性アミノアルキル基を側鎖に有するアルカリ可溶性樹脂、及び赤外線吸収剤を含有する記録層を備えた平版印刷版原版を、露光・現像後、150℃以上350℃以下の温度条件下で加熱処理することを特徴とする平版印刷版の製造方法。
【化1】

[一般式(1)中、Z1、Z2及びZ3は、各々独立に、水素原子又は非金属原子からなる1価の置換基を表す。]

【公開番号】特開2007−52066(P2007−52066A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−235384(P2005−235384)
【出願日】平成17年8月15日(2005.8.15)
【出願人】(000005201)富士フイルムホールディングス株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】