振動体の製造方法、振動体および振動型駆動装置
【課題】接着層を介さずに弾性体と電気機械エネルギ変換素子とを直接接合することができ、電気機械エネルギ変換素子の厚さを極めて薄くすることができる振動体の製造方法を提供する。
【解決手段】圧電素子の製造にAD法を用いる。100μm以下の大きさの粉体とした圧電材料を不活性ガス(Heガス)を充填した攪拌槽でエアロゾル化し、高速で金属弾性体の成膜したい個所に吹き付ける。このとき、圧電材料の粉体を吹き付けるノズルに対し、金属弾性体が搭載されたステージを移動させる。10μm程度にまで粉砕されたナノ粒子の粉体104は、金属弾性体102の表面に堆積される。圧電材料の吹き付け温度を500℃から圧電材料の焼成温度700℃まで徐々に上げていき、1時間以上焼成を行う。金属弾性体102の表面には、圧電素子からなる薄膜圧電層101が直接形成される。
【解決手段】圧電素子の製造にAD法を用いる。100μm以下の大きさの粉体とした圧電材料を不活性ガス(Heガス)を充填した攪拌槽でエアロゾル化し、高速で金属弾性体の成膜したい個所に吹き付ける。このとき、圧電材料の粉体を吹き付けるノズルに対し、金属弾性体が搭載されたステージを移動させる。10μm程度にまで粉砕されたナノ粒子の粉体104は、金属弾性体102の表面に堆積される。圧電材料の吹き付け温度を500℃から圧電材料の焼成温度700℃まで徐々に上げていき、1時間以上焼成を行う。金属弾性体102の表面には、圧電素子からなる薄膜圧電層101が直接形成される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動体の製造に用いられる振動体の製造方法、この製造方法により製造された振動体および振動型駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、圧電材料からなる電気機械エネルギ変換素子は、種々の用途、例えば、物体の回転速度を検出するジャイロや、超音波モータや圧電アクチュエータ等の振動型駆動装置に用いられている。
【0003】
例えば、超音波モータは、上ケースおよび下ケースを有し、それぞれのケースに設けられたベアリングによって出力軸を回転自在に支持する。出力軸の周りには、振動子を構成する金属弾性体が設けられている。金属弾性体の下面には、振動子の構成要素として、電気機械エネルギ変換素子である圧電素子の上面が接着している。また、圧電素子の下面には、フレキシブルプリント基板が接着している。フレキシブルプリント基板は、電源から供給された交番電圧を、圧電素子の表面に形成された電極に供給する。一方、金属弾性体の上面には、移動体が接触し、金属弾性体の表面に生じた進行波によって回転する。出力軸は皿バネに加圧されて移動体に固定されており、移動体とともに回転する。
【0004】
図11は従来の振動子の構造を示す断面図である。圧電素子301は、前述したように、金属弾性体302とフレキシブルプリント基板306の間に介在しており、その上面、下面にはそれぞれ電極303、305が形成されている。圧電素子301の上面は、接着剤320によって金属弾性体302の下面に接着して固定される。また、圧電素子301の下面は、前述したように、フレキシブルプリント基板306に固定されている。
【0005】
また、従来の電気機械エネルギ変換素子である圧電素子の製造方法は、非特許文献1に記載されている。即ち、圧電素子を製造する場合、一般的な工程順序は次のとおりである。例えば、3〜5μmの微粉体を有機溶剤等のバインダと混ぜ、圧延やプレス等で成形する。その後、1300℃〜1400℃近傍で2日以上焼成を行う。この結果、バインダの蒸発した箇所には、50〜100μmの空洞が生じる。この後、銀電極焼付け、蒸着、スパッタ成膜等により電極パターンを形成し、2kv〜4kv/mmの電圧を印加して分極処理を施す。
【0006】
圧電素子が製造されると、金属弾性体にエポキシ系接着剤を塗布した後、その位置を合わせて圧電素子を加圧する。そして、その状態で加温接着することで、圧電素子は金属弾性体に接合される。こうして振動子は製造される。
【非特許文献1】見城尚志、指田年正著 「超音波モータ入門」 総合電子出版社、1991年2月20日発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来の振動体の製造方法では、以下に掲げる問題があった。即ち、圧電素子301と金属弾性体302の間には、接着剤320が介在しているので、圧電素子301で発生した振動は、接着剤320で減衰した状態で金属弾性体302に伝達される。その結果、振動エネルギの効率が低下してしまっていた。
【0008】
この問題に対し、接着剤320による振動の減衰を低下させるために、加温してから加圧接着を行うことで接着剤320の層を薄くすることも検討されている。ここで、超音波モータでは、圧電素子の厚さを薄くすることで、圧電素子に印加する駆動電圧を下げることができる。
【0009】
図12は圧電素子の構造を拡大して示す図である。従来の製造方法では、圧電素子の粒子304のサイズが大きく、圧電素子301の内部には、50〜100μmの空洞が生じてしまう。100μm以下の膜を作成する場合、焼成前の材料の圧延時や振動体との接着時、この空洞から亀裂が発生するおそれがあった。
【0010】
さらに、電極を成膜する場合、厚さ方向に空洞が繋がっていると、表面の電圧が印加される電極とゼロ電位(GND)用の電極とが繋がってしまい、電界がかからなくなった。このため、リークを起こして圧電性能が上がらなくなる。従って、従来の製造方法では、圧電素子の厚さを100μm以上にする必要があった。
【0011】
また、焼成後の圧電素子は非常に割れ易いので、接着により金属弾性体に接合するためには、金属弾性体の接合面と圧電素子の接合面を略同等の平面度で高精度に造らなければならなかった。
【0012】
また、圧電素子では、従来から電界強度と力が比例する関係にあることが知られている。圧電素子が厚くなると、電界強度を上げるために駆動電圧を上げる必要があった。この結果、低電圧化が阻害されていた。
【0013】
また、圧電素子の絶縁耐電圧は、隣接する電極間の距離で決まる。一方、圧電素子にかかる電界は、厚さ方向における、設置電位ゼロと印加電圧とで決まるので、設置電位ゼロと交番電流の電圧差とで決定されることになる。振動波モータの場合、ゼロ電位を中心に、交番電流がプラス側、マイナス側と交互に位相を異にして隣り合う電極間に供給される。印加電圧が絶縁耐電圧を越えないためには、隣圧電極間の距離を圧電素子の厚さの1.5倍程度に確保する必要があった。
【0014】
駆動電圧が高いほど、放電しないように隣り合う電極間の距離を長く設ける必要があるので、電極が形成されない領域、即ち、超音波モータを駆動するための振動の発生に寄与しない領域が増加してしまっていた。
【0015】
そこで、本発明は、接着層を介さずに弾性体と電気機械エネルギ変換素子とを直接接合することができ、電気機械エネルギ変換素子の厚さを極めて薄くすることができる振動体の製造方法、振動体および振動型駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために、本発明の振動体の製造方法は、弾性体および電気機械エネルギ変換素子から構成され、前記電気機械エネルギ変換素子の表面に形成された電極に交番電圧を供給することによって前記弾性体の表面に進行波を生じさせる振動体の製造に用いられる振動体の製造方法であって、前記弾性体の表面に薄膜として前記電気機械エネルギ変換素子を形成する工程を有することを特徴とする。
【0017】
本発明の振動体は、弾性体および電気機械エネルギ変換素子から構成され、前記電気機械エネルギ変換素子の表面に形成された電極に交番電圧を供給することによって前記弾性体の表面に進行波を生じさせる振動体であって、前記弾性体の表面に薄膜として前記電気機械エネルギ変換素子が形成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
請求項1に係る振動体の製造方法によれば、弾性体の表面に薄膜として電気機械エネルギ変換素子を形成するので、接着層を介さずに弾性体と電気機械エネルギ変換素子とを直接接合することができ、電気機械エネルギ変換素子の厚さを極めて薄くすることができる。従って、電気機械エネルギ変換素子を駆動する電圧の低電圧化を図ることができる。また、弾性体および電気機械エネルギ変換素子間の接合面の平面度を高精度にしないで済む。さらに、電気機械エネルギ変換素子の表面において、電極が形成されていない領域を減らすことができる。
【0019】
請求項2、3に係る振動体の製造方法によれば、弾性体に堆積する粉体の密度が高くなり、電気機械エネルギ変換素子の内部の空間が少なくなる。この結果、リークが発生しにくい構造とすることができる。
【0020】
請求項4に係る振動体の製造方法によれば、耐絶縁電圧を上げることが可能になり、高い駆動電圧を印加できるようになる。
【0021】
請求項5に係る振動体の製造方法によれば、電気機械エネルギ変換素子を平面状に形成することができる。請求項6に係る振動体の製造方法によれば、電気機械エネルギ変換素子を円筒状に形成することができる。
【0022】
請求項7に係る振動体の製造方法によれば、複数層積み上げることで、振動型モータの所望するトルクに適した厚さに形成することができる。
【0023】
請求項8に係る振動体の製造方法によれば、弾性体および電気機械エネルギ変換素子間の導電性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の振動体の製造方法、振動体および振動型駆動装置における実施の形態について図面を参照しながら説明する。本実施形態の振動体の製造方法は、超音波モータに搭載される振動体の製造に用いられる。
【0025】
[第1の実施形態]
図1は第1の実施形態における超音波モータの構造を示す断面図である。超音波モータは、上ケース112および下ケース113を有し、それぞれのケースに設けられたベアリング110、120を介して回転自在に支持された出力軸109を有する。出力軸109の周りには、振動子を構成する金属弾性体102が設けられている。金属弾性体102の下面には、振動子の構成要素として、電気機械エネルギ変換素子である圧電素子101の上面が接着している。また、圧電素子101の下面には、フレキシブルプリント基板106が接着している。フレキシブルプリント基板106は、電源(図示せず)から供給された交番電圧を、圧電素子101の表面に形成された電極に供給する。一方、金属弾性体102の上面には、移動体107が接触し、金属弾性体102の表面に生じた進行波によって回転する。出力軸109は、皿バネ111に加圧されて移動体107に固定されており、移動体107とともに回転する。
【0026】
図2は振動子の構造を示す断面図である。振動子は、金属弾性体102、圧電素子101および電極103からなる構造を有する。図3は圧電素子101の構造を拡大して示す図である。金属弾性体102の表面には、薄膜圧電層からなる圧電素子101が直接形成されており、この圧電素子(薄膜圧電層)101は、後述する製造方法によって粉砕された圧電材料の粉体104から構成される。
【0027】
上記構造を有する振動子の製造方法を示す。本実施形態では、エアロゾルデポジッション法(以下、AD法ともいう)が用いられる。圧電材料としては、PZT等の周知の圧電性セラミック材料などが用いられる。AD法では、金属弾性体の表面に直接的に圧電素子からなる層を形成することで、金属弾性体と圧電素子との間に接着層が介在しなくなる。
【0028】
本実施形態のAD法は、100μm以下の大きさの微粒子を高速で基板に衝突させて薄膜を形成する方法である。また、本実施形態では、100μm以下の大きさの粉体とした圧電材料を不活性ガス(Heガス)を充填した攪拌槽でエアロゾル化し、高速で金属弾性体の成膜したい個所に吹き付ける。このとき、圧電材料の粉体を吹き付けるノズルに対し、金属弾性体が搭載されたステージを移動させることで、成膜したい個所に高速で均一に圧電材料からなる粉体を吹き付けることができる。
【0029】
また、圧電材料の吹き付け温度を500℃から圧電材料の焼成温度700℃まで徐々に上げていき、1時間以上焼成を行う。
【0030】
このように、AD法により圧電材料を高速で吹き付けることによって、10μm程度にまで粉砕されたナノ粒子の粉体104は、金属弾性体102の表面に堆積される。圧電材料からなるナノ粒子の粉体104が金属弾性体102に堆積することで、その密度が高くなり、薄膜圧電層101の内部の空間が少なくなる。この結果、リークが発生しにくい構造とすることができる。
【0031】
こうして接着剤を用いることなく、金属弾性体102の表面には、圧電素子である薄膜圧電層101が直接形成される。つまり、AD法によって製造された振動体(図2参照)では、金属弾性体102の表面に100μm以下となる薄膜圧電層101が直接形成されている。
【0032】
また、電極103は、薄膜圧電層101の表面に形成された導電性の薄膜からなる。この導電性の薄膜の形成は、蒸着、スパッタ、スクリーン印刷、電子ビームコ−ティング等の方法で行われる。また、導電材料として、白金、金、銀、銀パラ、銅、ニッケル等が用いられる。電極が形成されると、通常の分極処理が行われる。
【0033】
電極103には、給電基板であるフレキシブルプリント基板106が取り付けられており、超音波モータの外部から電極103に電流が供給される。なお、フレキシブルプリント基板106の取り付けには、圧接、半田、ワイヤーボンディング等の手段が用いられる。
【0034】
第1の実施形態における振動体の製造方法によれば、接着層を介さずに、金属弾性体102と圧電材料からなる薄膜圧電層101とを直接接合することができ、圧電素子の厚さを極めて薄くすることができる。従って、圧電素子を駆動する電圧の低電圧化を図ることができる。
【0035】
ここで、従来の方法で製造した振動体および本実施形態の方法で製造した振動体に対し、供給電圧を同等にした場合の出力を比較した。具体的に、従来の方法で厚さ200μmの圧電層が形成された振動体と、AD法で厚さ15μmの圧電層が形成された振動体に対し、略同一の交番電圧をそれぞれの振動子の電極に印加した状態で、その出力を測定した。この結果、AD法で圧電層が形成された振動体は、従来の方法によるものと比べ、2.8倍の出力が得られることを確認することができた。
【0036】
また、前述したように、印加電圧が絶縁耐電圧を越えないようにするためには、隣接する電極間の距離を圧電素子の厚さの1.5倍程度に確保する必要がある。つまり、薄膜圧電層の厚さが薄くなるほど、隣接する電極間の距離を短くできるので、電極が形成されない領域を減らすことができる。
【0037】
なお、上記実施形態に限らず、種々の態様の振動子を製造することが可能である。図4は他の薄膜圧電層151の構造を拡大して示す図である。薄膜圧電層151は、粉砕された圧電材料の粉体104間に生じる空孔が絶縁体105によって充填された構造を有する。ナノサイズの空孔を絶縁体105で充填する構造とすることで、さらに耐絶縁電圧を上げることが可能になり、高い電圧を印加できるようになる。また、電界強度と有効面積を増すことができ、圧電材料の力を増すことが可能となる。従って、出力の高い超音波モータを提供することが可能となる。
【0038】
図5は他の振動子の構造を示す断面図である。この振動子は、金属弾性体102、複数層の薄膜圧電層101a〜101dおよび電極103からなる構造を有する。AD法によって形成された薄膜圧電層を複数層積み上げることによって、所望する超音波モータのトルクに合わせて任意の厚さの薄膜圧電層101を形成することができる。
【0039】
図6は他の振動子の構造を示す断面図である。この振動子は、金属弾性体102の底面の一部に予め電極113を形成しておき、その上から薄膜圧電層101e〜101hが積層された構造を有する。金属弾性体102の底面に電極113を形成しておくことによって、金属弾性体102および薄膜圧電層101間の導電性を高めることができる。
【0040】
また、AD法では、金属弾性体に直に成膜するので、自由な曲面等に対しても、成膜が可能である。従って、振動波モータの小型化が可能である。
【0041】
[第2の実施形態]
前記第1の実施形態では、弾性体の平坦な表面に形成された圧電素子を示したが、第2の実施形態では、円筒形状を有する弾性体の曲面に形成された圧電素子を示す。
【0042】
図7は第2の実施形態における超音波モータの構造を示す断面図である。この超音波モータは、ケース212を挿通し、金属弾性体202の内側に設けられたベアリング210を介して回転自在に支持された出力軸209を有する。金属弾性体202は、ケース212に固定されており、中央部が小径である筒状に形成されている。出力軸209には、圧入、接着、溶接、ローレット接合等により移動体207が固定されている。移動体207は、進行波を生じさせる金属弾性体202の端面に、接触バネ208を介して接触している。金属弾性体202に生じた進行波による回転力を移動体207に伝達することで、移動体207は出力軸209とともに回転する。ここで、移動体207の金属弾性体202に対する加圧力を上げると、移動体207のトルクは大きくなり、一方、弱くすると、トルクは小さくなる。従って、任意のトルクが得られるように、加圧力を発生させるためのバネ(図示せず)を設けることで、種々の用途に適したトルクを発生する超音波モータを得ることが可能となる。
【0043】
また、金属弾性体202が固定されたケース212は、移動体207および金属弾性体202を含む振動体全体を覆っており、樹脂や金属等で成形される。ケース212の出力軸209が挿通される箇所(隙間部分)は、回転に支障の出ない範囲(30μm以下の隙間)で出力軸209と密接した構造になっている。このような構造は、外部からのゴミ、埃、水分、湿気、油等の侵入を防ぐとともに、内部の摺動部で発生する摩耗粉等を外部環境に放出することも防ぐ。なお、この隙間部分に、PPS(ポリフェニレンサルファイト)やPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)を主成分とする、摩耗に対して強い材料を用いることで、更に隙間を少なくする、あるいは接触(ゼロ隙間)させることも可能である。
【0044】
図8は振動子の構成を示す断面図である。振動子は、金属弾性体202、圧電素子201および電極203から構成される。金属弾性体202は、前述したように、中央部202aの径が両端部202b、202cの径よりも小さい円筒形状に形成されている。圧電素子201は、前記第1の実施形態と同様、AD法によって、金属弾性体202の中央部202aの外周面に、薄膜圧電層として円筒形状に形成されている。
【0045】
電極203は、後述するように、4つの領域に分割されており、薄膜圧電層201を伸縮させるために、薄膜圧電層201に電界を与えるものである。電極203は、前記第1の実施形態と同様、導電性の薄膜から構成され、蒸着、スパッタ、スクリーン印刷、電子ビームコ−ティング等の方法で形成される。導電材料としては、白金、金、銀、銀パラ、銅、ニッケル等が用いられる。電極203には、給電基板であるフレキシブルプリント基板206が取り付けられており、超音波モータの外部から電極203に電流が供給される。フレキシブルプリント基板206の取り付けは、圧接、半田、ワイヤーボンディング等で行われる。
【0046】
図9は圧電素子の構成を示す図である。同図(A)は円筒形状を有する圧電素子201の上面を示す。同図(B)は圧電素子201の外観を示す。圧電素子201の外周面には、前述したように、4つに分割された電極203が形成されており、A相の交番電圧が印加されるA(+)電極、A(−)電極、およびB相の交番電圧が印加されるB(+)電極、B(−)電極からなる。
【0047】
A(+)電極が形成された圧電素子の領域とA(−)電極が形成された圧電素子の領域とでは、互いに径方向逆向きの分極処理が施されている。また、B(+)電極が形成された圧電素子の領域とB(−)電極が形成された圧電素子の領域とでは、互いに径方向逆向きの分極処理が施されている。
【0048】
A相の交番電圧とB相の交番電圧の周波数を一致させ、かつ互いの位相を約90度ずらして、それぞれに対応する電極に交番電圧を印加する。これにより、振動体は、時間的に位相をずらした状態で同時に2つの1次の曲げ振動を発生させる。この結果、金属弾性体202の端面には、1次の進行波が生じる。
【0049】
図10は電極203に交番電圧を印加するためのフレキシブルプリント基板206の構成を示す図である。フレキシブルプリント基板206には、A(+)電極およびA(−)電極に同一の交番電圧を印加するためのA相用電極パターン221、222が形成されている。また、B(+)電極およびB(−)電極に同一の交番電圧を印加するためのB相用電極パターン226、228が形成されている。また、フレキシブルプリント基板206には、グランド用電極パターン223が形成されており、金属弾性体202に接合される。
【0050】
従って、薄膜圧電層201は、A相用電極パターン221、222とグランド用電極パターン223の間、B相用電極パターン226、228とグランド用電極パターンの間に配置されることになる。
【0051】
第2の実施形態では、円筒形状の振動子を製造する場合にも、AD法を用いることで、前記第1の実施形態と同様、金属弾性体202と圧電材料からなる薄膜圧電層201とを直接接合することができ、圧電素子の厚さを極めて薄くすることができる。
【0052】
なお、各電極が形成された薄膜圧電層の分極方向、および各電極に印加される交番電圧の位相の組み合わせは、本実施形態に限定されるものでないことは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】第1の実施形態における超音波モータの構造を示す断面図である。
【図2】振動子の構造を示す断面図である。
【図3】圧電素子101の構造を拡大して示す図である。
【図4】他の薄膜圧電層151の構造を拡大して示す図である。
【図5】他の振動子の構造を示す断面図である。
【図6】他の振動子の構造を示す断面図である。
【図7】第2の実施形態における超音波モータの構造を示す断面図である。
【図8】振動子の構成を示す断面図である。
【図9】圧電素子の構成を示す図である。
【図10】電極203に交番電圧を印加するためのフレキシブルプリント基板206の構成を示す図である。
【図11】従来の振動子の構造を示す断面図である。
【図12】圧電素子の構造を拡大して示す図である。
【符号の説明】
【0054】
101、151、201 圧電素子(薄膜圧電層)
102、202 金属弾性体
103、203 電極
104 粉体
105 絶縁体
107 移動体
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動体の製造に用いられる振動体の製造方法、この製造方法により製造された振動体および振動型駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、圧電材料からなる電気機械エネルギ変換素子は、種々の用途、例えば、物体の回転速度を検出するジャイロや、超音波モータや圧電アクチュエータ等の振動型駆動装置に用いられている。
【0003】
例えば、超音波モータは、上ケースおよび下ケースを有し、それぞれのケースに設けられたベアリングによって出力軸を回転自在に支持する。出力軸の周りには、振動子を構成する金属弾性体が設けられている。金属弾性体の下面には、振動子の構成要素として、電気機械エネルギ変換素子である圧電素子の上面が接着している。また、圧電素子の下面には、フレキシブルプリント基板が接着している。フレキシブルプリント基板は、電源から供給された交番電圧を、圧電素子の表面に形成された電極に供給する。一方、金属弾性体の上面には、移動体が接触し、金属弾性体の表面に生じた進行波によって回転する。出力軸は皿バネに加圧されて移動体に固定されており、移動体とともに回転する。
【0004】
図11は従来の振動子の構造を示す断面図である。圧電素子301は、前述したように、金属弾性体302とフレキシブルプリント基板306の間に介在しており、その上面、下面にはそれぞれ電極303、305が形成されている。圧電素子301の上面は、接着剤320によって金属弾性体302の下面に接着して固定される。また、圧電素子301の下面は、前述したように、フレキシブルプリント基板306に固定されている。
【0005】
また、従来の電気機械エネルギ変換素子である圧電素子の製造方法は、非特許文献1に記載されている。即ち、圧電素子を製造する場合、一般的な工程順序は次のとおりである。例えば、3〜5μmの微粉体を有機溶剤等のバインダと混ぜ、圧延やプレス等で成形する。その後、1300℃〜1400℃近傍で2日以上焼成を行う。この結果、バインダの蒸発した箇所には、50〜100μmの空洞が生じる。この後、銀電極焼付け、蒸着、スパッタ成膜等により電極パターンを形成し、2kv〜4kv/mmの電圧を印加して分極処理を施す。
【0006】
圧電素子が製造されると、金属弾性体にエポキシ系接着剤を塗布した後、その位置を合わせて圧電素子を加圧する。そして、その状態で加温接着することで、圧電素子は金属弾性体に接合される。こうして振動子は製造される。
【非特許文献1】見城尚志、指田年正著 「超音波モータ入門」 総合電子出版社、1991年2月20日発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来の振動体の製造方法では、以下に掲げる問題があった。即ち、圧電素子301と金属弾性体302の間には、接着剤320が介在しているので、圧電素子301で発生した振動は、接着剤320で減衰した状態で金属弾性体302に伝達される。その結果、振動エネルギの効率が低下してしまっていた。
【0008】
この問題に対し、接着剤320による振動の減衰を低下させるために、加温してから加圧接着を行うことで接着剤320の層を薄くすることも検討されている。ここで、超音波モータでは、圧電素子の厚さを薄くすることで、圧電素子に印加する駆動電圧を下げることができる。
【0009】
図12は圧電素子の構造を拡大して示す図である。従来の製造方法では、圧電素子の粒子304のサイズが大きく、圧電素子301の内部には、50〜100μmの空洞が生じてしまう。100μm以下の膜を作成する場合、焼成前の材料の圧延時や振動体との接着時、この空洞から亀裂が発生するおそれがあった。
【0010】
さらに、電極を成膜する場合、厚さ方向に空洞が繋がっていると、表面の電圧が印加される電極とゼロ電位(GND)用の電極とが繋がってしまい、電界がかからなくなった。このため、リークを起こして圧電性能が上がらなくなる。従って、従来の製造方法では、圧電素子の厚さを100μm以上にする必要があった。
【0011】
また、焼成後の圧電素子は非常に割れ易いので、接着により金属弾性体に接合するためには、金属弾性体の接合面と圧電素子の接合面を略同等の平面度で高精度に造らなければならなかった。
【0012】
また、圧電素子では、従来から電界強度と力が比例する関係にあることが知られている。圧電素子が厚くなると、電界強度を上げるために駆動電圧を上げる必要があった。この結果、低電圧化が阻害されていた。
【0013】
また、圧電素子の絶縁耐電圧は、隣接する電極間の距離で決まる。一方、圧電素子にかかる電界は、厚さ方向における、設置電位ゼロと印加電圧とで決まるので、設置電位ゼロと交番電流の電圧差とで決定されることになる。振動波モータの場合、ゼロ電位を中心に、交番電流がプラス側、マイナス側と交互に位相を異にして隣り合う電極間に供給される。印加電圧が絶縁耐電圧を越えないためには、隣圧電極間の距離を圧電素子の厚さの1.5倍程度に確保する必要があった。
【0014】
駆動電圧が高いほど、放電しないように隣り合う電極間の距離を長く設ける必要があるので、電極が形成されない領域、即ち、超音波モータを駆動するための振動の発生に寄与しない領域が増加してしまっていた。
【0015】
そこで、本発明は、接着層を介さずに弾性体と電気機械エネルギ変換素子とを直接接合することができ、電気機械エネルギ変換素子の厚さを極めて薄くすることができる振動体の製造方法、振動体および振動型駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために、本発明の振動体の製造方法は、弾性体および電気機械エネルギ変換素子から構成され、前記電気機械エネルギ変換素子の表面に形成された電極に交番電圧を供給することによって前記弾性体の表面に進行波を生じさせる振動体の製造に用いられる振動体の製造方法であって、前記弾性体の表面に薄膜として前記電気機械エネルギ変換素子を形成する工程を有することを特徴とする。
【0017】
本発明の振動体は、弾性体および電気機械エネルギ変換素子から構成され、前記電気機械エネルギ変換素子の表面に形成された電極に交番電圧を供給することによって前記弾性体の表面に進行波を生じさせる振動体であって、前記弾性体の表面に薄膜として前記電気機械エネルギ変換素子が形成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
請求項1に係る振動体の製造方法によれば、弾性体の表面に薄膜として電気機械エネルギ変換素子を形成するので、接着層を介さずに弾性体と電気機械エネルギ変換素子とを直接接合することができ、電気機械エネルギ変換素子の厚さを極めて薄くすることができる。従って、電気機械エネルギ変換素子を駆動する電圧の低電圧化を図ることができる。また、弾性体および電気機械エネルギ変換素子間の接合面の平面度を高精度にしないで済む。さらに、電気機械エネルギ変換素子の表面において、電極が形成されていない領域を減らすことができる。
【0019】
請求項2、3に係る振動体の製造方法によれば、弾性体に堆積する粉体の密度が高くなり、電気機械エネルギ変換素子の内部の空間が少なくなる。この結果、リークが発生しにくい構造とすることができる。
【0020】
請求項4に係る振動体の製造方法によれば、耐絶縁電圧を上げることが可能になり、高い駆動電圧を印加できるようになる。
【0021】
請求項5に係る振動体の製造方法によれば、電気機械エネルギ変換素子を平面状に形成することができる。請求項6に係る振動体の製造方法によれば、電気機械エネルギ変換素子を円筒状に形成することができる。
【0022】
請求項7に係る振動体の製造方法によれば、複数層積み上げることで、振動型モータの所望するトルクに適した厚さに形成することができる。
【0023】
請求項8に係る振動体の製造方法によれば、弾性体および電気機械エネルギ変換素子間の導電性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の振動体の製造方法、振動体および振動型駆動装置における実施の形態について図面を参照しながら説明する。本実施形態の振動体の製造方法は、超音波モータに搭載される振動体の製造に用いられる。
【0025】
[第1の実施形態]
図1は第1の実施形態における超音波モータの構造を示す断面図である。超音波モータは、上ケース112および下ケース113を有し、それぞれのケースに設けられたベアリング110、120を介して回転自在に支持された出力軸109を有する。出力軸109の周りには、振動子を構成する金属弾性体102が設けられている。金属弾性体102の下面には、振動子の構成要素として、電気機械エネルギ変換素子である圧電素子101の上面が接着している。また、圧電素子101の下面には、フレキシブルプリント基板106が接着している。フレキシブルプリント基板106は、電源(図示せず)から供給された交番電圧を、圧電素子101の表面に形成された電極に供給する。一方、金属弾性体102の上面には、移動体107が接触し、金属弾性体102の表面に生じた進行波によって回転する。出力軸109は、皿バネ111に加圧されて移動体107に固定されており、移動体107とともに回転する。
【0026】
図2は振動子の構造を示す断面図である。振動子は、金属弾性体102、圧電素子101および電極103からなる構造を有する。図3は圧電素子101の構造を拡大して示す図である。金属弾性体102の表面には、薄膜圧電層からなる圧電素子101が直接形成されており、この圧電素子(薄膜圧電層)101は、後述する製造方法によって粉砕された圧電材料の粉体104から構成される。
【0027】
上記構造を有する振動子の製造方法を示す。本実施形態では、エアロゾルデポジッション法(以下、AD法ともいう)が用いられる。圧電材料としては、PZT等の周知の圧電性セラミック材料などが用いられる。AD法では、金属弾性体の表面に直接的に圧電素子からなる層を形成することで、金属弾性体と圧電素子との間に接着層が介在しなくなる。
【0028】
本実施形態のAD法は、100μm以下の大きさの微粒子を高速で基板に衝突させて薄膜を形成する方法である。また、本実施形態では、100μm以下の大きさの粉体とした圧電材料を不活性ガス(Heガス)を充填した攪拌槽でエアロゾル化し、高速で金属弾性体の成膜したい個所に吹き付ける。このとき、圧電材料の粉体を吹き付けるノズルに対し、金属弾性体が搭載されたステージを移動させることで、成膜したい個所に高速で均一に圧電材料からなる粉体を吹き付けることができる。
【0029】
また、圧電材料の吹き付け温度を500℃から圧電材料の焼成温度700℃まで徐々に上げていき、1時間以上焼成を行う。
【0030】
このように、AD法により圧電材料を高速で吹き付けることによって、10μm程度にまで粉砕されたナノ粒子の粉体104は、金属弾性体102の表面に堆積される。圧電材料からなるナノ粒子の粉体104が金属弾性体102に堆積することで、その密度が高くなり、薄膜圧電層101の内部の空間が少なくなる。この結果、リークが発生しにくい構造とすることができる。
【0031】
こうして接着剤を用いることなく、金属弾性体102の表面には、圧電素子である薄膜圧電層101が直接形成される。つまり、AD法によって製造された振動体(図2参照)では、金属弾性体102の表面に100μm以下となる薄膜圧電層101が直接形成されている。
【0032】
また、電極103は、薄膜圧電層101の表面に形成された導電性の薄膜からなる。この導電性の薄膜の形成は、蒸着、スパッタ、スクリーン印刷、電子ビームコ−ティング等の方法で行われる。また、導電材料として、白金、金、銀、銀パラ、銅、ニッケル等が用いられる。電極が形成されると、通常の分極処理が行われる。
【0033】
電極103には、給電基板であるフレキシブルプリント基板106が取り付けられており、超音波モータの外部から電極103に電流が供給される。なお、フレキシブルプリント基板106の取り付けには、圧接、半田、ワイヤーボンディング等の手段が用いられる。
【0034】
第1の実施形態における振動体の製造方法によれば、接着層を介さずに、金属弾性体102と圧電材料からなる薄膜圧電層101とを直接接合することができ、圧電素子の厚さを極めて薄くすることができる。従って、圧電素子を駆動する電圧の低電圧化を図ることができる。
【0035】
ここで、従来の方法で製造した振動体および本実施形態の方法で製造した振動体に対し、供給電圧を同等にした場合の出力を比較した。具体的に、従来の方法で厚さ200μmの圧電層が形成された振動体と、AD法で厚さ15μmの圧電層が形成された振動体に対し、略同一の交番電圧をそれぞれの振動子の電極に印加した状態で、その出力を測定した。この結果、AD法で圧電層が形成された振動体は、従来の方法によるものと比べ、2.8倍の出力が得られることを確認することができた。
【0036】
また、前述したように、印加電圧が絶縁耐電圧を越えないようにするためには、隣接する電極間の距離を圧電素子の厚さの1.5倍程度に確保する必要がある。つまり、薄膜圧電層の厚さが薄くなるほど、隣接する電極間の距離を短くできるので、電極が形成されない領域を減らすことができる。
【0037】
なお、上記実施形態に限らず、種々の態様の振動子を製造することが可能である。図4は他の薄膜圧電層151の構造を拡大して示す図である。薄膜圧電層151は、粉砕された圧電材料の粉体104間に生じる空孔が絶縁体105によって充填された構造を有する。ナノサイズの空孔を絶縁体105で充填する構造とすることで、さらに耐絶縁電圧を上げることが可能になり、高い電圧を印加できるようになる。また、電界強度と有効面積を増すことができ、圧電材料の力を増すことが可能となる。従って、出力の高い超音波モータを提供することが可能となる。
【0038】
図5は他の振動子の構造を示す断面図である。この振動子は、金属弾性体102、複数層の薄膜圧電層101a〜101dおよび電極103からなる構造を有する。AD法によって形成された薄膜圧電層を複数層積み上げることによって、所望する超音波モータのトルクに合わせて任意の厚さの薄膜圧電層101を形成することができる。
【0039】
図6は他の振動子の構造を示す断面図である。この振動子は、金属弾性体102の底面の一部に予め電極113を形成しておき、その上から薄膜圧電層101e〜101hが積層された構造を有する。金属弾性体102の底面に電極113を形成しておくことによって、金属弾性体102および薄膜圧電層101間の導電性を高めることができる。
【0040】
また、AD法では、金属弾性体に直に成膜するので、自由な曲面等に対しても、成膜が可能である。従って、振動波モータの小型化が可能である。
【0041】
[第2の実施形態]
前記第1の実施形態では、弾性体の平坦な表面に形成された圧電素子を示したが、第2の実施形態では、円筒形状を有する弾性体の曲面に形成された圧電素子を示す。
【0042】
図7は第2の実施形態における超音波モータの構造を示す断面図である。この超音波モータは、ケース212を挿通し、金属弾性体202の内側に設けられたベアリング210を介して回転自在に支持された出力軸209を有する。金属弾性体202は、ケース212に固定されており、中央部が小径である筒状に形成されている。出力軸209には、圧入、接着、溶接、ローレット接合等により移動体207が固定されている。移動体207は、進行波を生じさせる金属弾性体202の端面に、接触バネ208を介して接触している。金属弾性体202に生じた進行波による回転力を移動体207に伝達することで、移動体207は出力軸209とともに回転する。ここで、移動体207の金属弾性体202に対する加圧力を上げると、移動体207のトルクは大きくなり、一方、弱くすると、トルクは小さくなる。従って、任意のトルクが得られるように、加圧力を発生させるためのバネ(図示せず)を設けることで、種々の用途に適したトルクを発生する超音波モータを得ることが可能となる。
【0043】
また、金属弾性体202が固定されたケース212は、移動体207および金属弾性体202を含む振動体全体を覆っており、樹脂や金属等で成形される。ケース212の出力軸209が挿通される箇所(隙間部分)は、回転に支障の出ない範囲(30μm以下の隙間)で出力軸209と密接した構造になっている。このような構造は、外部からのゴミ、埃、水分、湿気、油等の侵入を防ぐとともに、内部の摺動部で発生する摩耗粉等を外部環境に放出することも防ぐ。なお、この隙間部分に、PPS(ポリフェニレンサルファイト)やPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)を主成分とする、摩耗に対して強い材料を用いることで、更に隙間を少なくする、あるいは接触(ゼロ隙間)させることも可能である。
【0044】
図8は振動子の構成を示す断面図である。振動子は、金属弾性体202、圧電素子201および電極203から構成される。金属弾性体202は、前述したように、中央部202aの径が両端部202b、202cの径よりも小さい円筒形状に形成されている。圧電素子201は、前記第1の実施形態と同様、AD法によって、金属弾性体202の中央部202aの外周面に、薄膜圧電層として円筒形状に形成されている。
【0045】
電極203は、後述するように、4つの領域に分割されており、薄膜圧電層201を伸縮させるために、薄膜圧電層201に電界を与えるものである。電極203は、前記第1の実施形態と同様、導電性の薄膜から構成され、蒸着、スパッタ、スクリーン印刷、電子ビームコ−ティング等の方法で形成される。導電材料としては、白金、金、銀、銀パラ、銅、ニッケル等が用いられる。電極203には、給電基板であるフレキシブルプリント基板206が取り付けられており、超音波モータの外部から電極203に電流が供給される。フレキシブルプリント基板206の取り付けは、圧接、半田、ワイヤーボンディング等で行われる。
【0046】
図9は圧電素子の構成を示す図である。同図(A)は円筒形状を有する圧電素子201の上面を示す。同図(B)は圧電素子201の外観を示す。圧電素子201の外周面には、前述したように、4つに分割された電極203が形成されており、A相の交番電圧が印加されるA(+)電極、A(−)電極、およびB相の交番電圧が印加されるB(+)電極、B(−)電極からなる。
【0047】
A(+)電極が形成された圧電素子の領域とA(−)電極が形成された圧電素子の領域とでは、互いに径方向逆向きの分極処理が施されている。また、B(+)電極が形成された圧電素子の領域とB(−)電極が形成された圧電素子の領域とでは、互いに径方向逆向きの分極処理が施されている。
【0048】
A相の交番電圧とB相の交番電圧の周波数を一致させ、かつ互いの位相を約90度ずらして、それぞれに対応する電極に交番電圧を印加する。これにより、振動体は、時間的に位相をずらした状態で同時に2つの1次の曲げ振動を発生させる。この結果、金属弾性体202の端面には、1次の進行波が生じる。
【0049】
図10は電極203に交番電圧を印加するためのフレキシブルプリント基板206の構成を示す図である。フレキシブルプリント基板206には、A(+)電極およびA(−)電極に同一の交番電圧を印加するためのA相用電極パターン221、222が形成されている。また、B(+)電極およびB(−)電極に同一の交番電圧を印加するためのB相用電極パターン226、228が形成されている。また、フレキシブルプリント基板206には、グランド用電極パターン223が形成されており、金属弾性体202に接合される。
【0050】
従って、薄膜圧電層201は、A相用電極パターン221、222とグランド用電極パターン223の間、B相用電極パターン226、228とグランド用電極パターンの間に配置されることになる。
【0051】
第2の実施形態では、円筒形状の振動子を製造する場合にも、AD法を用いることで、前記第1の実施形態と同様、金属弾性体202と圧電材料からなる薄膜圧電層201とを直接接合することができ、圧電素子の厚さを極めて薄くすることができる。
【0052】
なお、各電極が形成された薄膜圧電層の分極方向、および各電極に印加される交番電圧の位相の組み合わせは、本実施形態に限定されるものでないことは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】第1の実施形態における超音波モータの構造を示す断面図である。
【図2】振動子の構造を示す断面図である。
【図3】圧電素子101の構造を拡大して示す図である。
【図4】他の薄膜圧電層151の構造を拡大して示す図である。
【図5】他の振動子の構造を示す断面図である。
【図6】他の振動子の構造を示す断面図である。
【図7】第2の実施形態における超音波モータの構造を示す断面図である。
【図8】振動子の構成を示す断面図である。
【図9】圧電素子の構成を示す図である。
【図10】電極203に交番電圧を印加するためのフレキシブルプリント基板206の構成を示す図である。
【図11】従来の振動子の構造を示す断面図である。
【図12】圧電素子の構造を拡大して示す図である。
【符号の説明】
【0054】
101、151、201 圧電素子(薄膜圧電層)
102、202 金属弾性体
103、203 電極
104 粉体
105 絶縁体
107 移動体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性体および電気機械エネルギ変換素子から構成され、前記電気機械エネルギ変換素子の表面に形成された電極に交番電圧を供給することによって前記弾性体の表面に進行波を生じさせる振動体の製造に用いられる振動体の製造方法であって、
前記弾性体の表面に薄膜として前記電気機械エネルギ変換素子を形成する工程を有することを特徴とする振動体の製造方法。
【請求項2】
前記工程では、エアロゾルデポジッション法によって、前記弾性体の表面に前記電気機械エネルギ変換素子を直接形成することを特徴とする請求項1記載の振動体の製造方法。
【請求項3】
前記工程では、100μm以下の粉体とした圧電材料をエアロゾル化し、前記弾性体に吹き付けることで、10μm程度にまで粉砕された粉体を前記弾性体の表面に堆積させることを特徴とする請求項2記載の振動体の製造方法。
【請求項4】
前記工程では、前記堆積する粉体間に生じる空孔を絶縁体で充填したことを特徴とする請求項3記載の振動体の製造方法。
【請求項5】
前記工程では、前記弾性体の平面に前記電気機械エネルギ変換素子を形成することを特徴とする請求項2記載の振動体の製造方法。
【請求項6】
前記工程では、前記弾性体の曲面に前記電気機械エネルギ変換素子を形成することを特徴とする請求項2記載の振動体の製造方法。
【請求項7】
前記工程では、前記堆積する粉体からなる前記電気機械エネルギ変換素子を複数層形成することを特徴とする請求項3記載の振動体の製造方法。
【請求項8】
前記工程では、一部に電極層が形成された前記弾性体の表面に前記粉体を堆積させることを特徴とする請求項3記載の振動体の製造方法。
【請求項9】
弾性体および電気機械エネルギ変換素子から構成され、前記電気機械エネルギ変換素子の表面に形成された電極に交番電圧を供給することによって前記弾性体の表面に進行波を生じさせる振動体であって、
前記弾性体の表面に薄膜として前記電気機械エネルギ変換素子が形成されたことを特徴とする振動体。
【請求項10】
請求項9に記載の振動体と、前記弾性体に接触し、当該弾性体の表面に生じた進行波によって駆動される移動体とを備えた振動型駆動装置。
【請求項1】
弾性体および電気機械エネルギ変換素子から構成され、前記電気機械エネルギ変換素子の表面に形成された電極に交番電圧を供給することによって前記弾性体の表面に進行波を生じさせる振動体の製造に用いられる振動体の製造方法であって、
前記弾性体の表面に薄膜として前記電気機械エネルギ変換素子を形成する工程を有することを特徴とする振動体の製造方法。
【請求項2】
前記工程では、エアロゾルデポジッション法によって、前記弾性体の表面に前記電気機械エネルギ変換素子を直接形成することを特徴とする請求項1記載の振動体の製造方法。
【請求項3】
前記工程では、100μm以下の粉体とした圧電材料をエアロゾル化し、前記弾性体に吹き付けることで、10μm程度にまで粉砕された粉体を前記弾性体の表面に堆積させることを特徴とする請求項2記載の振動体の製造方法。
【請求項4】
前記工程では、前記堆積する粉体間に生じる空孔を絶縁体で充填したことを特徴とする請求項3記載の振動体の製造方法。
【請求項5】
前記工程では、前記弾性体の平面に前記電気機械エネルギ変換素子を形成することを特徴とする請求項2記載の振動体の製造方法。
【請求項6】
前記工程では、前記弾性体の曲面に前記電気機械エネルギ変換素子を形成することを特徴とする請求項2記載の振動体の製造方法。
【請求項7】
前記工程では、前記堆積する粉体からなる前記電気機械エネルギ変換素子を複数層形成することを特徴とする請求項3記載の振動体の製造方法。
【請求項8】
前記工程では、一部に電極層が形成された前記弾性体の表面に前記粉体を堆積させることを特徴とする請求項3記載の振動体の製造方法。
【請求項9】
弾性体および電気機械エネルギ変換素子から構成され、前記電気機械エネルギ変換素子の表面に形成された電極に交番電圧を供給することによって前記弾性体の表面に進行波を生じさせる振動体であって、
前記弾性体の表面に薄膜として前記電気機械エネルギ変換素子が形成されたことを特徴とする振動体。
【請求項10】
請求項9に記載の振動体と、前記弾性体に接触し、当該弾性体の表面に生じた進行波によって駆動される移動体とを備えた振動型駆動装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2008−130767(P2008−130767A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−313367(P2006−313367)
【出願日】平成18年11月20日(2006.11.20)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【出願人】(000104630)キヤノンプレシジョン株式会社 (79)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年11月20日(2006.11.20)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【出願人】(000104630)キヤノンプレシジョン株式会社 (79)
【Fターム(参考)】
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