説明

振動波駆動装置及び光学機器

【課題】 部品点数を増やすことなく作動不良率の低減を可能にした振動波モータを提供すること。
【解決手段】 弾性体上に電気−機械エネルギー変換素子を配置し、該素子に第一、及び第二の電極を設けていて、該第一及び第二の電極にお互いに位相の異なる周波電圧を印加して進行性振動波を発生させ、該振動波により、該弾性体と該弾性体に加圧接触した部材とを相対運動させ、さらに第三の電極を介して振動状態を検出する手段を有し、該素子は複数のアース電極を設けていて、該複数のアース電極は該弾性体との導電手段を有し、該素子はFPCを介して電力を供給され、該第一、第二及び第三の電極は該FPCと電気的に接続されている振動波駆動装置において、該第三の電極を中心として該第一の電極が一方に、該第二の電極がもう一方に配設され、該第一の電極と該第三の電極間、及び該第二の電極と該第三の電極間において該アース電極と該FPCが電気的に接続されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動波モータを備えた振動波駆動装置及びこの振動波駆動装置を有する光学機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、環状の振動波モータとしての超音波モータを内蔵し、オートフォーカス動作とマニュアルフォーカス動作とを特別な切り替え操作を要せずにほぼ連続に行わせることができるように構成されたフォーカス用超音波モータ内蔵型のレンズ鏡筒が提案されている。
【0003】
公知のように、超音波モータは進行波の形成される円環形状の金属性弾性体(ステータに相当する)に対し、出力部材をなす円環形状のロータをバネ等の加圧部材により圧接し、該弾性体に形成される進行波によってロータを摩擦駆動するものである。
【0004】
上記差動機構では加圧部材の加圧力を光軸方向に沿って受けている出力部材が回転してもマニュアルリングが非回転状態を維持するように該加圧部材の加圧力が作用する。逆にマニュアルリングを回転してマニュアルフォーカスを行う際には、超音波モータのロータがステータに圧接状態であるために、該ロータの非回転状態が維持される。
【0005】
使用者がオートフォーカスモードにてフォーカシングスイッチを操作すると、制御回路の作動によりフレキシブルプリント基板(以下、FPCという)を介して圧電素子に電圧が印加される。その結果、円周方向に進行する振動波がステータに生じ、ステータの振動によってロータ、ゴムリング、連結部材が光軸を中心に回転される。
【0006】
この回転により出力環に軸支されるローラは回転トルクを受けるが、この時にはマニュアル連結部材は回転しない。このためローラは出力環上の軸の回りを回転しながらマニュアル連結板の端面に沿って転動し、出力環も軸を介して光軸を中心に回転する。これによりカム環が駆動され、それに伴いフォーカスレンズ群が光軸方向に移動されてオートフォーカシングがなされる。
【0007】
図5は従来のこの種の振動波モータにおける圧電素子のFPCとの接触面側を示す平面図である。圧電素子105にはA相電極部105aとB相電極部105bとが設けられ、さらにA相電極部105aとB相電極部105bとの間にはS相電極部105c、GND(アース)部105dが設けられている。
【0008】
振動波モータの起動は、そのモータの共振周波数frよりも高い周波数から周波数を下げていき、その時のS相電極部105cから出力される電圧信号とA相電極部105aまたはB相電極部105bの圧電素子群に印加される電圧信号との位相差を算出し、この位相差を見ながら周波数を制御している。このとき電力を供給するメイン基板と圧電素子105とはFPC116を通じて電気的に接続されており、FPC116の導体パターンは圧電素子105の各電極部(A相、B相、S相)及びGND部105dと接続されている。GND部105dはA相−S相間105d1、B相−S相間105d2、A相−B相間105d3にそれぞれ配設され、導電塗料を通じてステータと導電しており、GND部105dのうちの1つ(105d1)がFPC116と電気的に接続されている。
【0009】
しかしながら導電塗料部に外力が加わったり組立不良によりクラックが生じることで接地できず、適正な電気信号を得ることが出来なくなり、作動不良が生じることがある。
【0010】
上記の課題を解決する手段として、特許文献1に記載の超音波モータでは、超音波モータを固定する支持体を備え、FPCの銅箔部が外部に延長されている。FPCは支持体に固定され、該銅箔延長部の一端が支持体と圧電素子との間にある電極と接着剤により連結し、他端が支持体上と圧電素子との接合面外に排出されている。この構成により圧電素子の特性を変化させず、接地不良が起きにくい超音波モータを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平7−284282号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上述の特許文献に開示された従来技術では、部品構成及び部品形状を大幅に変更する必要がある。また外部に延長された銅箔部が薄いため外力により裂けてしまうと作動不良が生じる。
【0013】
そこで、本発明の目的は、部品点数を増やすことなく作動不良率の低減を可能にした振動波モータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明に係る振動波駆動装置は、弾性体上に電気−機械エネルギー変換素子を配置し、該素子に第一(A相)、及び第二(B相)の電極を設けていて、該第一及び第二の電極にお互いに位相の異なる周波電圧を印加して進行性振動波を発生させ、該振動波により、該弾性体と該弾性体に加圧接触した部材とを相対運動させ、さらに第三(S相)の電極を介して振動状態を検出する手段を有し、該素子は複数のアース電極(GND部)を設けていて、該複数のアース電極は該弾性体との導電手段を有し、該素子はフレキシブルプリント基板(FPC)を介して電力を供給され、該第一、第二及び第三の電極は該フレキシブルプリント基板と電気的に接続されている振動波駆動装置において、該第三の電極を中心として該第一の電極が一方に、該第二の電極がもう一方に配設され、該第一の電極と該第三の電極間、及び該第二の電極と該第三の電極間において該アース電極と該フレキシブルプリント基板が電気的に接続されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、A相−S相間及びB相−S相間の2箇所のGND部においてFPCと電気的に接続する構成とすることで、導電塗料の一つにクラックが生じても適正な電気信号を得ることができる。これにより部品点数を増やすことなく、作動不良率の低減を可能にした振動波モータを提供することができる。またS相とA相、B相が隣り合わなくなるため、S相の電流にノイズがのりにくくなり、安定的に電気信号を得ることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態にかかわるステータユニット要部平面図
【図2】図1の要部拡大図
【図3】本発明の実施形態にかかわるステータユニット要部斜視図
【図4】本発明の実施形態におけるフォーカス駆動ユニットの要部断面図
【図5】従来例におけるステータユニット要部拡大図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の好ましい実施の形態を、添付の図面に基づいて詳細に説明する。図1は本発明の実施形態にかかわるステータユニット要部平面図、図4は本発明の実施形態におけるフォーカス駆動ユニットの要部断面図である。1〜15はフォーカス駆動ユニットを構成する部品であり、1はフォーカス駆動ユニットの各構成部品を保持するためのユニット支持筒である。6は横断面形状が台形をなした環状の振動体(以下にはこれをステータと呼ぶ)である。
【0018】
5は該ステータ6の一端面に接合され振動させるための電気―機械エネルギー変換素子としての圧電素子である。4は該圧電素子5の表面に圧接されたフェルト等からなる環状の振動吸収体である。3は加圧手段としての加圧ばねであり、具体的には該振動吸収体4を介してステータ6を光軸方向前方に付勢する皿バネである。
【0019】
2はユニット支持筒1の外径に形成されたネジ部に螺合し、該皿バネ3の加圧力を調整するナットであり、駆動源である振動波モータとしての超音波モータの性能が最大限引き出せるような最適な加圧で調整する。8は該ユニット本体の外径に一体的に保持されると共に、該ステータ6の回転を規制するための回り止めである。
【0020】
7は該ステータと接触する接触体であり、ステータ6の振動波により光軸を中心に回転力を受ける回転体(以下はこれをロータと称する)である。10はゴムリング9を介して該ロータ7と一体的に回転し、ローラ12に当接される回転する部材としてのモータ連結部材である。
【0021】
11は後述のローラ12を回転可能に軸支する光軸に対し放射方向に略等分に複数個延びる軸を有し、不図示のカム環に回転を伝達する出力部材としての出力環である。
【0022】
12は出力環11に複数個配置された軸に軸支され、連結部材10と後述のマニュアル連結部材14に挟まれ転動し、光軸を中心に公転するローラである。
【0023】
14は不図示のフォーカス操作環より回転を伝えられるマニュアル連結板であり、一端面をローラ12の当接部に当接される。
【0024】
なお、マニュアル連結板14の材質はローラ12とモータ連結部材10間の摩擦係数より、ローラ12とマニュアル連結版14間の摩擦係数が小さくなるようなものが選択されている。15はマニュアル連結板に当接される保持環であり、ユニット支持筒1に対し回転を規制されるように嵌合する。
【0025】
次に、前記のごとき構造を有するフォーカス駆動ユニットが配置されたレンズ鏡筒の作動について説明する。
【0026】
使用者がオートフォーカスモードにて不図示のフォーカシングスイッチを操作すると、不図示の制御回路の作動によりプリント基板16を介して圧電素子5に電圧が印加される。その結果、円周方向に進行する振動波がステータ6に生じ、ステータ6の振動によってロータ7、ゴムリング9、連結部材10が光軸を中心に回転される。
【0027】
この回転によりローラ12は回転トルクを受けるが、この時にはマニュアル連結部材14は回転しない。このためローラ12は出力環11上の軸の回りを回転しながらマニュアル連結板14の端面に沿って転動し、出力環11も軸を介して光軸を中心に回転する。これにより不図示のカム環が駆動されそれに伴いフォーカスレンズ群が光軸方向に移動されてオートフォーカシングがなされる。
【0028】
一方、使用者がマニュアルでフォーカシングするときには、前記不図示のフォーカシングスイッチを操作せずに不図示のフォーカス操作環を回転させると、その回転はマニュアル連結部材14に伝えられる。
【0029】
そのとき、超音波モータ部は駆動されていないため、モータ連結部材10は静止しており、ローラ12は出力環11上の軸の回りを回転しながらモータ連結部材10の端面に沿って転動し、出力環11も軸を介して光軸を中心に回転する。これにより不図示のカム環が駆動され、それに伴いフォーカスレンズ群が光軸方向に駆動されマニュアルフォーカシングがなされる。
【0030】
図2は本発明の実施形態にかかわるステータユニット要部拡大図、図3は本発明の実施形態にかかわるステータユニット要部斜視図である。圧電素子5にはA相電極部5aとB相電極部5bとが設けられ、さらにA相電極部5aとB相電極部5bとの間にはS相電極部5c、GND(アース)部5dが設けられている。
【0031】
振動波モータの起動は、そのモータの共振周波数frよりも高い周波数から周波数を下げていき、その時のS相電極部5cから出力される電圧信号とA相電極部5aまたはB相電極部5bの圧電素子群に印加される電圧信号との位相差を算出し、この位相差を見ながら周波数を制御している。このとき電力を供給する不図示のメイン基板と圧電素子5とはFPC16を通じて電気的に接続されており、FPC16の導体パターンは圧電素子5の各電極部(A相5a、B相5b、S相5c)及びGND部5dと接続されている。GND部5dはA相−S相間5d1、B相−S相間5d2、A相−B相間5d3にそれぞれ配設され、導電塗料17を通じてステータ6と導電しており、GND部5d1及び5d2の2箇所においてFPC16と電気的に接続されている。
【0032】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【0033】
以上のように、この発明にかかる振動波駆動装置及び光学機器は、たとえばフィルムカメラ、デジタルカメラ、監視カメラ、ビデオカメラ、プロジェクターなどの各種の光学機器に適用することができる。
【符号の説明】
【0034】
1 ユニット支持筒
2 環状ナット
3 環状皿バネ
4 振動吸収体
5、105 圧電素子
5a A相、 5b B相、 5c S相
5d1、5d2、5d3 GND部
6 ステータ
7 ロータ
8 回り止め
9 ゴムリング
10 モータ連結部材
11 出力環
12 ローラ
13 金属ワッシャ
14 マニュアル連結部材
15 マニュアルリング
16 FPC
16a、16b、16c、16d1、16d2 FPC導電部
17 導電塗料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性体上に電気−機械エネルギー変換素子を配置し、
該素子に第一、及び第二の電極を設けていて、
該第一及び第二の電極にお互いに位相の異なる周波電圧を印加して進行性振動波を発生させ、
該振動波により、該弾性体と該弾性体に加圧接触した部材とを相対運動させ、
さらに第三の電極を介して振動状態を検出する手段を有し、
該素子は複数のアース電極を設けていて、
該複数のアース電極は該弾性体との導電手段を有し、
該素子はフレキシブルプリント基板を介して電力を供給され、
該第一、第二及び第三の電極は該フレキシブルプリント基板と電気的に接続されている振動波駆動装置において、
該第三の電極を中心として該第一の電極が一方に、該第二の電極がもう一方に配設され、該第一の電極と該第三の電極間、及び該第二の電極と該第三の電極間において該アース電極と該フレキシブルプリント基板が電気的に接続されていることを特徴とする振動波駆動装置。
【請求項2】
請求項1記載の振動波駆動装置を有する光学機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−191765(P2012−191765A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−53674(P2011−53674)
【出願日】平成23年3月11日(2011.3.11)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】